(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ニッケルよりも貴な金属の塩と保護コロイド剤と還元作用を有する硫化物とを混合して複合コロイド粒子が分散したコロイド水溶液を作製する工程(A)と、該コロイド水溶液に、錯化剤、アルカリ性物質、還元剤およびニッケル塩水溶液を混合することによって、硫黄を含有するニッケル粉末を析出させる工程(B)からなることを特徴とする硫黄含有ニッケル粉末の製造方法。
前記還元作用を有する硫化物は、硫化水素ナトリウム、硫化水素アンモニウム、硫化ナトリウムまたは硫化アンモニウムのいずれか一つ以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の硫黄含有ニッケル粉末の製造方法。
前記アルカリ性物質は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはアンモニアのいずれか一つ以上を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の硫黄含有ニッケル粉末の製造方法。
【背景技術】
【0002】
ニッケル粉末は、厚膜導電体を作製するための導電ペーストの材料として、使用されている。厚膜導電体は、電気回路の形成や、積層セラミックコンデンサおよび多層セラミック基板等の積層セラミック部品の電極などに用いられている。
特に、積層セラミックコンデンサは、内部電極層と誘電体層とが交互に積み重なり、両端に外部電極が設けられた構造となっており、次のように製造されている。
先ず、ニッケル粉末とエチルセルロース等の樹脂とターピネオール等の有機溶剤等とを混練した導電ペーストをスクリーン印刷した誘電体グリーンシートを作製する。印刷された導電ペーストが交互に重なるように誘電体グリーンシートを積層し、圧着する。
その後、積層体を所定の大きさにカットし、有機バインダとして使用したエチルセルロース等の樹脂の燃焼、除去を行う脱バインダ処理を行って、1300℃まで高温焼成する。そして、このセラミック体に外部電極を取り付けて、積層セラミックコンデンサとする。
内部電極となる上記導電ペースト中の金属粉末は、貴金属よりもニッケルなどの卑金属が主流となっていることから、積層体の脱バインダ処理は、ニッケル粉末などが酸化しないように、極めて微量の酸素を含んだ雰囲気にて行われる。
【0003】
近年、小型化、大容量化が求められている積層セラミックコンデンサは、内部電極、誘電体ともに薄層化が進められている。特に内部電極に使用されるニッケル粉末の粒径は、0.5μm以下が主流となっている。
しかし、微細なニッケル粉末は、触媒活性を有しており、脱バインダ工程時に樹脂が低温で分解ガス化し、層間剥離を起こしてしまうため、触媒活性を制御しておく必要がある。また、微細なニッケル粉末は、積層体の高温焼成時に、誘電体よりも低温で焼結を開始してしまい、内部電極の不連続性を引き起こしたり、誘電体よりも熱収縮が大きいため、誘電体層と内部電極層の剥離を引き起こしたりする問題がある。
【0004】
この問題を解決するため、硫化物を含む水溶液を用いて、ニッケル粉末の表面に硫黄を含有させ、触媒活性を制御し、かつ熱挙動を改善したニッケル粉末を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
この方法によれば、触媒活性を制御しつつ熱挙動を改善できるものの、硫黄を硫化物の状態で保持するために、酸素との接触を避ける設備上の対策が必要であるといった問題点、ニッケル粉末を得た工程の後に硫化物処理する工程があり、工程が長くなるといった問題点がある。また、水溶性の硫化物は、反応性が高いために、ニッケルスラリーに水溶性の硫化物を添加しても、ニッケル粉末の表面全体に、均一に表面に付着させることが困難であった。
【0005】
触媒活性や熱挙動の問題点、ニッケル粉末表面に均一に硫黄を含有させにくいといった問題点、処理工程が長くなることによるコストアップといった問題を解決する方法として、湿式還元系内に硫黄粉末を添加してニッケルを還元析出させ、ニッケル粉末の表面に硫黄を含有させる方法、湿式還元系内にめっき用の光沢剤を添加してニッケル粉末を還元析出させ、ニッケル粉末の表面に硫黄を含有させる方法が挙げられている(例えば、特許文献2など参照。)。
一般に、湿式還元反応で得られるニッケル粉末は、一次粒子として30nm以下の微結晶粒子が析出し、この微結晶粒子が凝集して0.05〜0.30μmの概球形の二次粒子を形成している。また、特許文献2の電子顕微鏡の写真も、30nm以下の一次粒子の微結晶が凝集して、0.1μm程度の二次粒子を形成していることを示す表面凹凸を有している。
【0006】
このような湿式還元反応で得られるニッケル粉末のうち積層セラミックコンデンサに適しているニッケル粉末としては、触媒活性の制御のために、二次粒子であるニッケル粉末表面に硫化ニッケルが存在していること、かつ、1300℃まで高温焼成された際に、連続的な膜状態の内部電極を得るために熱挙動の制御が重要であることが分かっている。
本発明者らの詳細な検討では、好適な連続膜となるためには、粉末の熱収縮挙動において、600℃以上で最大収縮率に到達した後は、ほぼ一定の状態が保持されていることが重要であり、その所望の焼結挙動が得られる湿式還元反応によるニッケル粉末としては0.05〜0.30μmの二次粒子内に硫黄が含まれていることが重要であることが分かっている。
さらに調査すると、湿式還元反応で得られた0.05〜0.30μmの二次粒子内に硫黄が含まれていない場合、600℃での焼結状態が適度な再配列過程となっておらず、その結果、1300℃まで焼成した際に、過焼結となり空孔ができる状態になったり、焼結が進行せず、緻密な膜になっていない状態となったりし、理想とする緻密化した膜を得ることができないことになる。
このため、湿式還元系内に硫黄粉末または硫黄化合物を添加して、ニッケルを還元析出させ、ニッケル粉末の表面に硫黄を含有させる方法では、不十分となる。
【0007】
その他、本出願人も、湿式還元系内に硫黄化合物を添加し、硫黄含有のニッケル粉末を得る手法として、硫酸ニッケル原料を用いて硫黄含有のニッケル粉末を得る方法を提案している(特許文献3参照。)。
この提案した手法においても、硫黄をニッケル粉末に含有させることは可能であるものの、添加されている硫黄量に対して、ニッケル粉末に残留している硫黄分が少なく非効率である。また、0.05〜0.30μmの二次粒子のニッケル粉末の硫黄含有量を増やし、600℃での焼結膜の状態を制御したくても、ニッケル粉末の表面のみしか硫黄量を増やすことができず、硫黄が偏析した状態で焼結膜を得ることになり、理想とする状態で焼成膜を得ることができない。また、原料に硫酸ニッケルを使用しているため、表面に硫化物の形態で存在させることができず、触媒活性を制御できない。
こうした背景から、低コストでニッケル粉末を得られる湿式還元反応を用いて、表面には硫化物形態の硫黄を形成し、粒子内部にも硫黄が含有されているニッケル粉末を得られる手法は、求められていて、その工業的な価値が極めて高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、積層セラミックコンデンサの内部電極として好適な硫黄含有ニッケル粉末の製造方法を提供することにあり、具体的には、積層セラミックコンデンサを製造する際の脱バインダ工程において制御しておく必要があるニッケル粉末の触媒活性を好適に制御すること、すなわち、ニッケル粉末表面に硫化物形態の硫黄が存在し、かつ、1300℃まで高温焼成しセラミック体を得る際に好適な内部電極層を形成できる熱挙動を示すこと、つまり最大収縮率に達した後、その状態が維持される硫黄含有ニッケル粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために、鋭意研究した結果、低コストでニッケル粉末を得られる湿式還元反応を用いるニッケル粉末の製造工程において、ニッケル粉末成長の核となるニッケルより貴な金属粒子形成時に、還元作用を有する硫化物を添加することにより、ニッケル粉末の表面と粒子内の両方に硫黄を含有させることができることを見出し、すなわち、積層セラミックコンデンサの内部電極に好適な硫黄含有ニッケル粉末を得ることができることを見出した。そして、これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ニッケルよりも貴な金属の塩と保護コロイド剤と還元作用を有する硫化物とを混合して複合コロイド粒子が分散したコロイド水溶液を作製する工程(A)と、該コロイド水溶液に、錯化剤、アルカリ性物質、還元剤およびニッケル塩水溶液を混合することによって、硫黄を含有するニッケル粉末を析出させる工程(B)からなることを特徴とする硫黄含有ニッケル粉末の製造方法が提供される。
【0012】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記還元作用を有する硫化物は、硫化水素ナトリウム、硫化水素アンモニウム、硫化ナトリウムまたは硫化アンモニウムのいずれか一つ以上を含むことを特徴とする硫黄含有ニッケル粉末の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、前記ニッケルよりも貴な金属の塩は、パラジウム塩または銀塩のいずれか一つ以上を含むことを特徴とする硫黄含有ニッケル粉末の製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、前記ニッケル塩水溶液は、塩化ニッケル水溶液であることを特徴とする硫黄含有ニッケル粉末の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、前記還元剤は、ヒドラジンまたはその誘導体であることを特徴とする硫黄含有ニッケル粉末の製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、前記保護コロイド剤は、ゼラチンであることを特徴とする硫黄含有ニッケル粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において、前記錯化剤は、酢酸、酒石酸またはクエン酸のいずれか一つ以上を含むことを特徴とする硫黄含有ニッケル粉末の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第8の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明において、前記アルカリ性物質は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはアンモニアのいずれか一つ以上を含むことを特徴とする硫黄含有ニッケル粉末の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の硫黄含有ニッケル粉末の製造方法によれば、晶析方法を用いたものであって、容易で、工業的規模の生産にも適したものであり、また、焼成時に、600℃まで焼成した焼結膜が適度な再配列過程の状態となり、1300℃まで焼成した際に、過焼結となり空孔ができる状態になることもなく、逆に焼結が進行せず緻密な膜になっていない状態となることもない、理想とする緻密化した焼成膜の実現が可能な硫黄含有ニッケル粉末を得ることができ、その工業的価値は、極めて大きい。
また、本発明の硫黄含有ニッケル粉末の製造方法から得られた硫黄含有ニッケル粉末は、0.05〜0.30μmの二次粒子であるニッケル粉末の表面に、硫化物形態の硫黄を含むことができたものであり、ニッケル粉末の触媒活性を制御することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の硫黄含有ニッケル粉末の製造方法を詳細に説明する。
I.硫黄含有ニッケル粉末の製造方法
本発明の硫黄含有ニッケル粉末の製造方法は、ニッケルよりも貴な金属の塩と保護コロイド剤と還元作用を有する硫化物とを混合して複合コロイド粒子が分散したコロイド水溶液を作製する工程(A)と、該コロイド水溶液に、錯化剤、アルカリ性物質、還元剤およびニッケル塩水溶液を混合することによって、硫黄を含有するニッケル粉末を析出させる工程(B)からなることを特徴とする。
【0019】
すなわち、本発明の硫黄を含有するニッケル粉末の製造工程は、ニッケルよりも貴な金属塩と保護コロイド剤と硫化物を用いた複合コロイド粒子が分散したコロイド水溶液を作製する工程(A)と、コロイド水溶液に、錯化剤とアルカリ性物質と還元剤とニッケル塩水溶液を混合して、ニッケル粉末を析出させる工程(B)からなる。
【0020】
1.工程(A)
硫化物を還元剤としたニッケルよりも貴な金属の複合コロイド水溶液の作製方法は、保護コロイド剤を添加した水溶液に、ニッケルよりも貴な金属の塩の混合液と還元剤となる硫化物とを添加することによって作製する。ニッケルよりも貴な金属の塩の混合液、還元剤となる硫化物との添加順序は問わずとも、本発明に係るコロイド水溶液は、得ることができる。
しかし、保護コロイド剤を添加した水溶液に、ニッケルよりも貴な金属の塩の混合液を添加した後に、還元剤として働く硫化物を添加する方が望ましい。その理由としては、詳細は不明であるが、ニッケルよりも貴な金属種が微細な状態で分散した系を得ることができ、その結果、少量の貴な金属種でニッケル粉末を微細化することができるためであり、さらに、還元剤として硫化物を使用したことにより、ニッケル粉末の表面に硫化物を形成させるとともに、ニッケル粉末の二次粒子内に硫黄を含有させることもできる。
【0021】
(1)保護コロイド剤
本発明に用いる保護コロイド剤は、コロイド粒子の凝集を抑制するために、添加する。保護コロイド剤としては、次に記載するニッケルよりも貴な金属の塩からなる複合コロイド粒子(例えば、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子)を取り囲み、保護コロイドの形成に寄与するものであればよく、特にゼラチンが好ましいが、その他、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリビニルアルコールなどを用いることも、できる。
【0022】
(2)ニッケルよりも貴な金属塩
ニッケルよりも貴な金属の塩としては、水溶性の金塩、銀塩、プラチナ塩、パラジウム塩、ロジウム塩、イリジウム塩、銅塩が挙げられるが、特に水溶性のパラジウム塩、水溶性の銀塩のいずれか、若しくは、それらの混合物が適している。その中でも、パラジウム塩と銀塩の水溶液の混合液が最適である。
その理由としては、核として働く貴な金属種の凝集が抑制され、その結果、ニッケル粉末の粗大粒子や連結粒子の形成が抑制されるためである。
【0023】
パラジウム塩水溶液は、特に限定されるものではない。例えば、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム等から選ばれる少なくとも1種類を含む水溶液を、パラジウム塩水溶液として用いることができる。これらの中では、液調整が容易な塩化パラジウムが最も好ましい。
また、銀塩水溶液としては、例えば、硝酸銀水溶液を用いることができる。
【0024】
(3)還元作用を有する硫化物
還元作用を有する硫化物としては、硫化水素ナトリウム、硫化水素アンモニウム、硫化ナトリウム、硫化アンモニウムが好ましい。特に、硫化水素ナトリウムが好ましい。
【0025】
(4)工程(A)における配合比率
特に適しているコロイド水溶液の原材料である、保護コロイド剤としてのゼラチン、還元作用を有する硫化物としての硫化水素ナトリウム、ニッケルよりも貴な金属塩としての塩化パラジウムと硝酸銀の配合比率は、ニッケル塩水溶液中のニッケル質量100%に対して、ゼラチンが0.1〜5質量%、硫化水素ナトリウムの硫黄量で0.05〜0.5質量%、塩化パラジウムのパラジウム量で0.05〜0.7質量%、硝酸銀の銀量で0.0005〜0.007質量%であることが望ましい。
ゼラチンは、0.1質量%未満であると、保護コロイド剤量として不足し、5質量%よりも多いと、ニッケルの還元析出を妨害してしまい、未還元のニッケルが発生してしまう。
また、硫化水素ナトリウムの硫黄分は、全てニッケル粉末に含有されるが、0.05質量%未満であると、触媒活性の制御と好適な熱挙動を得るに不十分な量である。一方、0.5質量%よりも多くなると、触媒活性の制御と好適な熱挙動が得られるものの、コンデンサ焼成時に硫黄ガスが多量に発生し、炉内が損傷される結果、炉の寿命が短くなる。
また、パラジウムは、ニッケルに対して硫化水素ナトリウムと同じ含有率かそれ以上含有させなければ、所望の粒子径のニッケル粉末を得ることができなくなる。一方、0.7質量%以上のパラジウム量を添加しても、微細なニッケル粉末を得る効果が向上することはなく、これ以上添加する必要性はない。さらに、銀は、パラジウムの凝集を防止する役目であり、銀量が0.0005質量%未満であると、その効果が得られず、0.007質量%より多くても、その効果は得られない。
【0026】
(5)工程(A)における作製条件
コロイド水溶液を作製する際の温度は、50℃〜95℃が望ましく、塩化パラジウムと硝酸銀の混合液、硫化物を添加する前の水溶液は、極力、撹拌されていることが望ましい。加温する理由としては、保護コロイド剤のゼラチンの絡み合った高分子鎖が解され、所望の保護コロイド効果を発揮させやすいからである。極力撹拌する理由としては、十分に撹拌されていない場合、微細な核が得られず、ニッケル粉末の粒径が所望レベルで制御できないためである。
【0027】
2.工程(B)
次に工程(B)として、上記のコロイド水溶液に、錯化剤とアルカリ性物質と還元剤とニッケル塩水溶液を混合して、硫黄含有ニッケル粉末を析出させる。
【0028】
(1)錯化剤
錯化剤は、錯体を形成する効果を有するものであればよく、アンモニウム、又はカルボキシル基を有する蟻酸、酢酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸等を用いることができる。その中でも、酢酸、酒石酸、クエン酸が望ましく、更には、酒石酸が最も望ましい。その理由としては、詳細は不明であるが、連結粒子が少なく、最も球状度が高く理想とするニッケル粉末が得られたためである。
【0029】
(2)還元剤
還元剤は、特に限定されるものではないが、ヒドラジン(H
2NNH
2)、ヒドラジン化合物、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)等から選ばれる少なくとも1種類を含み、水溶性ヒドラジン化合物を用いて作製したヒドラジン水溶液等を用いることが好ましい。これらの水溶性ヒドラジン化合物の中では、特に不純物が少ない点で、ヒドラジン(N
2H
4)が最も好ましい。
【0030】
(3)アルカリ性物質
アルカリ性物質は、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の水溶性のアルカリ性物質が望ましい。また、本発明においては、これらの水溶性のアルカリ性物質と、上記の還元剤としてのヒドラジン、ヒドラジン水和物等の水溶性ヒドラジン化合物を純水中で混合して、アルカリ性のヒドラジン水溶液を作製して用いることができる。
【0031】
(4)ニッケル塩水溶液
ニッケル塩水溶液は、特に限定されるものではなく、例えば、塩化ニッケル、硝酸ニッケルおよび硫酸ニッケル等から選ばれる少なくとも1種類を含む水溶液を用いることができる。これらの水溶液の中では、特に廃液処理が簡易である塩化ニッケル水溶液が好ましい。
【0032】
(5)工程(B)における作製手順、条件
コロイド水溶液、錯化剤、還元剤、アルカリ性物質の混合順序としては、コロイド水溶液、錯化剤、還元剤、アルカリ性物質が混合された水溶液が得られるのであれば、良い。例えば、コロイド水溶液に、錯化剤、還元剤、アルカリ性物質を順次混合しても良いし、前もって、錯化剤、アルカリ性物質、還元剤を混合した水溶液とコロイド水溶液を、混合しても良い。
また、ニッケル塩水溶液は、コロイド水溶液と錯化剤と還元剤とアルカリ性物質の混合液を調製した後に、添加することが望ましい。その理由は、該混合液を調製した後に、添加しないと、所望とされるニッケル粉末は、単分散で極力球状であるにも関わらず、異形状であったり、連結粒子が増加したりするためである。
なお、コロイド水溶液と錯化剤と還元剤とアルカリ性物質の混合液のpHは、10以上であることが好ましい。仮に、pHが10未満では、反応速度が遅くなるため、ニッケルの還元析出が起こりにくくなるので、好ましくない。
【0033】
コロイド水溶液と錯化剤と還元剤とアルカリ性物質の混合液のニッケル塩水溶液添加前の温度は、60℃〜95℃が望ましい。また、混合液添加前のニッケル塩水溶液も、60℃〜95℃が望ましい。更には、コロイド水溶液と錯化剤と還元剤とアルカリ性物質の混合液とニッケル塩水溶液を混合した後も、その混合液を加熱し、70℃以上にすることが望ましい。これら熱を加える理由としては、反応をスムーズに進め、均一な粒子を得ることができるためである。
【0034】
仮に、パラジウム塩と銀塩と保護コロイド剤とヒドラジンといった還元剤を用いて作製した複合コロイド粒子が分散したコロイド水溶液に、硫化物、アルカリ性物質、還元剤、錯化剤、ニッケル塩水溶液を添加しても、球状の単分散のニッケル粉末を得ることはできない。これについて、理由は不明であるが、硫化物の還元力が強いため、概球形のニッケル粉末が得られる反応経路を経ずに、ニッケルまで還元されてしまうためであると、推察される。
【0035】
3.乾燥工程および熱処理工程
本発明の方法により還元析出したニッケル粉末を固液分離し、その後乾燥する。固液分離は、公知の方法で行えばよく、また、不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。また、乾燥も公知の方法で行えばよく、真空下または不活性ガス雰囲気下にて、行うことが望ましい。
【0036】
次に、得られた乾燥後のニッケル粉末を、必要に応じて還元雰囲気での熱処理を行うことが望ましい。
還元雰囲気は、水素濃度が1〜50vol%の水素ガスと不活性ガスからなる混合ガスが望ましい。水素ガス濃度が1vol%未満であると、還元ガスの効果が得られない。水素ガス濃度が50vol%より多くても、その効果に変わりはない。また、不活性ガスは、特に限定されず、窒素ガス、アルゴンガスなどが使用できる。
また、熱処理の加熱温度は、100〜350℃であることが望ましい。加熱温度が100℃未満である場合、熱処理による水分などの不純物の除去が不十分であり、加熱温度が350℃より高い場合、ニッケル粉末同士のネッキングが起こり、分散処理をしてもニッケル粉末を単分散することができない。加熱に用いる炉は、還元雰囲気で使用できるものであれば特に限定されず、バッチ炉、ローラーハース炉またはプッシャー炉などを用いることができる。
【0037】
II.硫黄含有ニッケル粉末
本発明の上記の製造方法から得られる硫黄含有ニッケル粉末は、硫黄含有量が0.05〜0.50質量%であり、該硫黄含有ニッケル粉末の表面に硫化物が存在し、かつ硫黄含有ニッケル粉末の二次粒子内にも硫黄が含まれていることを特徴とする。
【0038】
熱処理後のニッケル粉末は、凝集していることが多く、分散性が求められる積層セラミックコンデンサ用のニッケル粉末として、不十分である可能性が高い。そのため、熱処理後は、ジェットミル等で解砕処理を施す必要がある。ジェットミルのタイプとしては、スパイラル式、カウンター式などを用いることができる。
このようなニッケル粉末の中で、導電ペーストに用いるのに適した形状、及び平均粒径を有する粉末は、形状が球形で、平均粒径が0.05〜0.30μmの粉末である。
なお、平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察から計測したものである。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例及び比較例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例で得られたニッケル粉末の平均粒径、球形度、硫黄含有量、ニッケル粉末表面の硫黄の存在形態、ニッケル粉末内の硫黄存在の有無、ニッケル粉末の熱収縮挙動の評価方法は、以下の通りである。
【0040】
(1)ニッケル粉末の平均粒径、球形度:
ニッケル粉末の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(日本電子社製、JSM−5510)を用いて、倍率20,000倍の写真(縦19.2μm×横25.6μm)を撮影し、写真中の粒子形状の全様が見える粒子の面積を測定し、面積から各粒子の半径を求め、その平均値により定めた。また、その像より、球形度の判定をした。
【0041】
(2)ニッケル粉末の硫黄含有量:
硫黄含有量は、炭素、硫黄同時分析装置(LECO社製、型番GS−600)にて、測定した。
【0042】
(3)ニッケル粉末表面の硫黄の存在形態:
二次粒子の表面の硫黄の存在形態は、XPS (VG Scientific社製、ESCA、LAB220i−XL220)で粉末表面のS2pスペクトルを測定し、そのスペクトルから存在形態、特に硫化ニッケル(NiS)の存在有無を特定した。
【0043】
(4)ニッケル粉末内の硫黄存在の有無:
ニッケル粉末5gを1vol%の塩酸溶液5Lにて、30分撹拌洗浄する。その後、固液分離し、純水5Lで再度洗浄し固液分離し、固体を真空乾燥機にて100℃、24時間で乾燥した。
その乾燥粉末の硫黄量を、炭素、硫黄同時分析装置にて測定し、含有硫黄量が塩酸溶液処理前のニッケル粉末の硫黄量と変化なかった場合は、硫黄がニッケル粉末表面だけでなく、ニッケル粉末の二次粒子内にも存在していると判定した。また、塩酸溶液での処理前後で硫黄量に変化があった場合は、ニッケル粉末表面にのみ存在していると判定した。
【0044】
(5)ニッケル粉末の熱収縮挙動:
ニッケル粉末を直径5mmの円柱ペレットに成形し、熱機械的分析装置(TMA装置)(マックサイエンス社製、TMA4000S)を用いて、2vol%水素−窒素ガス中、5℃/minの昇温速度で、1300℃まで昇温し、前記ペレットの収縮曲線を測定し、この曲線より熱収縮挙動を評価した。
【0045】
[実施例1]
75℃の純水に、ゼラチンを添加し溶解した後に、硫化水素ナトリウムの固体を添加し、更に塩化パラジウムと硝酸銀を溶解した水溶液を添加し複合コロイド水溶液を得る。
その後、酒石酸、水酸化ナトリウム水溶液、ヒドラジン溶液を添加した後に、塩化ニッケル水溶液を添加する手順で進めた。
各分量は、純水が6.5L、ゼラチン、硫化水素ナトリウム、塩化パラジウム、硝酸銀は、後に添加されるニッケル塩水溶液中のニッケルの全質量に対して、パラジウム0.08質量%、銀0.0008質量%、ゼラチン0.16質量%、硫黄0.08質量%となるよう添加した。錯化剤である酒石酸は8g、水酸化ナトリウム水溶液はpHが10以上になるようにし、60vol%水加ヒドラジンは200ml添加した。そして、ニッケル濃度が100g/Lの塩化ニッケル水溶液を500ml滴下してニッケルの還元を行った後に、不活性ガス雰囲気下にて固液分離した。
その後、真空乾燥機にて乾燥し、水素濃度2.0vol%の水素窒素混合ガス雰囲気で、加熱温度180℃、加熱時間60minの処理を行った。
その後、得られたニッケル粉末をスパイラル式ジェットミル(株式会社パウレック製)で処理した。処理条件は、粉砕圧0.50MPa、供給圧0.55MPa、給粉量50g/minとした。ガス媒体は空気とした。
このニッケル粉末の平均粒径、球形度、ニッケル粉末の含有硫黄量、ニッケル粉末表面の硫黄の存在形態、ニッケル粉末内の硫黄存在の有無、ニッケル粉末の熱収縮挙動を表1及び
図1に示す。
【0046】
[実施例2]
75℃の純水にゼラチンを添加し溶解した後に、硫化水素ナトリウムの固体を添加し、更に塩化パラジウムと硝酸銀を溶解した水溶液を添加し複合コロイド水溶液を得る。
その後、酒石酸、水酸化ナトリウム水溶液、ヒドラジン溶液を添加した後に、塩化ニッケル水溶液を添加する手順で進めた。
各分量は、純水が6.5L、ゼラチン、硫化水素ナトリウム、塩化パラジウム、硝酸銀は、後に添加されるニッケル塩水溶液中のニッケルの全質量に対して、パラジウム0.5質量%、銀0.005質量%、ゼラチン5質量%、硫黄0.5質量%となるよう添加した。錯化剤である酒石酸は8g、水酸化ナトリウム水溶液はpHが10以上になるようにし、60vol%水加ヒドラジンは200ml添加した。そして、ニッケル濃度が100g/Lの塩化ニッケル水溶液を500ml滴下してニッケルの還元を行った後に、不活性ガス雰囲気下にて固液分離した。
その後、真空乾燥機にて乾燥し、水素濃度2.0vol%の水素窒素混合ガス雰囲気で、加熱温度180℃、加熱時間60minの処理を行った。
その後、得られたニッケル粉末をスパイラル式ジェットミル(株式会社パウレック製)で処理した。処理条件は、粉砕圧0.50MPa、供給圧0.55MPa、給粉量50g/minとした。ガス媒体は空気とした。
このニッケル粉末の平均粒径、球形度、ニッケル粉末の含有硫黄量、ニッケル粉末表面の硫黄の存在形態、ニッケル粉末内の硫黄存在の有無、ニッケル粉末の熱収縮挙動を表1及び
図1に示す。
【0047】
[比較例1]
実施例1において、原料ニッケル粉末として、複合コロイド水溶液の作製に硫化水素ナトリウムを添加する代わりに60vol%水加ヒドラジン0.1mlを添加した以外は、実施例1と同様に、塩化ニッケルをヒドラジンで還元する湿式法で製造し、硫黄を含有しない球状ニッケル粉末を得た。
その後、純水3Lを攪拌しながら、この中に前記ニッケル粉末を添加し、ニッケル粉末含有量が25g/Lのニッケル粉末スラリーを作製した。
次に、前記ニッケル粉末スラリー中のニッケル粉末に対し硫黄換算で1500質量ppmになるように秤量した硫化水素ナトリウムを純水5mlに溶解して、硫化水素ナトリウム水溶液を作製した。続いて、前記ニッケル粉末スラリー中に、前記硫化水素ナトリウム水溶液を添加し、室温で30分間攪拌した。
次いで、前記スラリーを固液分離して得られた粉末を、実施例1と同様に処理した。
このニッケル粉末の平均粒径、球形度、ニッケル粉末の含有硫黄量、ニッケル粉末表面の硫黄の存在形態、ニッケル粉末内の硫黄存在の有無、ニッケル粉末の熱収縮挙動を表1及び
図1に示す。
【0048】
[比較例2]
75℃の純水に、ゼラチンを添加し溶解した後に、60vol%水加ヒドラジン溶液を添加し、塩化パジウムと硝酸銀を溶解した水溶液を添加し、複合コロイド水溶液を得る。
その後、硫化水素ナトリウムの固体を添加した後に、酒石酸、水酸化ナトリウム水溶液、ヒドラジン溶液を添加する。その後、更に塩化ニッケル水溶液を添加する手順で進めた。
各分量は、純水が6.5L、ゼラチン、硫化水素ナトリウム、塩化パラジウム、硝酸銀は、後に添加されるニッケル塩水溶液中のニッケルの全質量に対して、パラジウム0.5質量%、銀0.005質量%、ゼラチン1質量%、硫黄0.1質量%となるようにした。錯化剤である酒石酸は8g、水酸化ナトリウム水溶液はpHが10以上になるようにし、60vol%水加ヒドラジンは複合コロイド水溶液を作製する時に0.1ml、塩化ニッケル水溶液を添加する前に200ml添加した。そして、ニッケル濃度が100g/Lの塩化ニッケル水溶液を500ml滴下して、ニッケルの還元を行った後に、不活性ガス雰囲気下にて固液分離した。
その後、真空乾燥機にて乾燥し、硫黄を含有したニッケル粉末を得た。
このニッケル粉末の球形度、ニッケル粉末の含有硫黄量を表1に示す。球形度を評価した結果、粒子の形状を不良と判断したので、平均粒径、ニッケル粉末表面の硫黄の存在状態、ニッケル粉末内の硫黄存在の有無、ニッケル粉末の熱収縮挙動の評価は、行わなかった。
【0049】
[比較例3]
75℃の純水に、ゼラチンを添加し溶解した後に、60vol%水加ヒドラジン溶液を添加し塩化パラジウムと硝酸銀を溶解した水溶液を添加し複合コロイド水溶液を得る。
その後、酒石酸、水酸化ナトリウム水溶液、ヒドラジン溶液を添加した後に硫化水素ナトリウムの固体を添加した。その後、更に塩化ニッケル水溶液を添加する手順で進めた。
各分量は、純水が6.5L、ゼラチン、硫化水素ナトリウム、塩化パラジウム、硝酸銀は、後に添加されるニッケル塩水溶液中のニッケルの全質量に対して、パラジウム0.5質量%、銀0.005質量%、ゼラチン1質量%、硫黄0.1質量%となるようにした。錯化剤である酒石酸は8g、水酸化ナトリウム水溶液はpHが10以上になるようにし、60vol%水加ヒドラジンは複合コロイド水溶液を作製する時に0.1ml、塩化ニッケル水溶液を添加する前に200ml添加した。そして、ニッケル濃度が100g/Lの塩化ニッケル水溶液を500ml滴下して、ニッケルの還元を行った後に、不活性ガス雰囲気下にて固液分離した。
その後、真空乾燥機にて乾燥し、硫黄を含有したニッケル粉末を得た。
このニッケル粉末の球形度、ニッケル粉末の含有硫黄量を表1に示す。球形度を評価した結果、粒子の形状を不良と判断したので、平均粒径、ニッケル粉末表面の硫黄の存在状態、ニッケル粉末内の硫黄存在の有無、ニッケル粉末の熱収縮挙動の評価は、行わなかった。
【0050】
【表1】
【0051】
表1から、複合コロイド水溶液作製時の還元剤として、硫化物である硫化水素ナトリウムを添加した実施例1と実施例2は、ニッケル粉末表面にNiSが存在し、ニッケル粉末内にも硫黄が存在するため、熱収縮挙動において、収縮後の膨張は、観察されていないことがわかる。
一方、比較例1では、ニッケル粉末表面にはNiSが存在するものの、ニッケル粉末内に、硫黄はほとんど存在しないため、熱収縮挙動において収縮後の膨張が観察されている。
また、実施例1と、比較例2及び比較例3との対比から、パラジウムと銀の複合コロイド水溶液を作製する際の還元剤として、硫化物を用いないと、球状のニッケル粉末は得られないことも、わかる。