(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロニクス素子は、有機物を用いて電気的な動作を行う素子であり、省エネルギー、低価格、柔軟性といった特長を発揮できると期待され、従来のシリコンを主体とした無機半導体に替わる技術として注目されている。
【0003】
有機エレクトロニクス素子の一例としては、有機EL素子、有機光電変換素子、有機トランジスタなどが挙げられる。
【0004】
有機エレクトロニクス素子の中でも有機EL素子は、例えば、白熱ランプ、ガス充填ランプの代替えとして、大面積ソリッドステート光源用途として注目されている。また、フラットパネルディスプレイ(FPD)分野における液晶ディスプレイ(LCD)に置き換わる最有力の自発光ディスプレイとしても注目されており、製品化が進んでいる。
【0005】
有機EL素子の発光効率・寿命を改善する目的で、電荷輸送性の化合物に電子受容性化合物を混合して用いる試みがなされている。
例えば、特許文献1には、電荷輸送膜用組成物として、イオン化合物と電荷輸送性化合物からなる組成物が開示されている。
【0006】
このように、電荷輸送性化合物と電子受容性化合物とを混合したときに生成する、電荷輸送性化合物のラジカルカチオンと対アニオンからなる化合物を生成させることが重要であると考えられる。
【0007】
一方、有機EL素子は、用いる材料及び製膜方法から低分子型有機EL素子、高分子型有機EL素子の2つに大別される。高分子型有機EL素子は、有機材料が高分子材料により構成されており、真空系での成膜が必要な低分子型有機EL素子と比較して、印刷やインクジェットなどの簡易成膜が可能なため、今後の大画面有機ELディスプレイには不可欠な素子である。
【0008】
低分子型有機EL素子、高分子型有機EL素子とも、これまで精力的に研究が行われてきたが、未だに発光効率の低さ、素子寿命の短さが大きな問題となっている。この問題を解決する一つの手段として、低分子型有機EL素子では多層化が行われている。
【0009】
図1に多層化された有機EL素子の一例を示す。
図1において、発光を担う層を発光層1、それ以外の層を有する場合、陽極2に接する層を正孔注入層3、陰極4に接する層を電子注入層5と記述する。さらに、発光層1と正孔注入層3の間に異なる層が存在する場合、正孔輸送層6と記述、さらに発光層1と電子注入層5の間に異なる層が存在する場合、電子輸送層7と記述する。なお、
図1において、符号8は基板を示す。
【0010】
低分子型有機EL素子は蒸着法で製膜を行うため、用いる化合物を順次変更しながら蒸着を行うことで容易に多層化が達成できる。一方、高分子型有機EL素子は印刷やインクジェットといった湿式プロセスを用いて製膜を行うため、上層を塗布する際に下層が溶解してしまうという課題が生じる。そのため、高分子型有機EL素子の多層化は低分子型有機EL素子に比べ困難であり、発光効率の向上、寿命の改善効果を得ることができなかった。
【0011】
この問題に対処するために、これまでにいくつかの方法が提案されている。一つは、溶解度の差を用いる方法である。例えば、水溶性であるポリチオフェン:ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)からなる正孔注入層、トルエン等の芳香族系有機溶媒を用いて製膜された発光層の2層構造からなる素子である。この場合、PEDOT:PSS層はトルエン等芳香族溶媒に溶解しないため、2層構造を作製することが可能となっている。
【0012】
特許文献2にはこのような課題を克服するために、シロキサン化合物やオキセタン基、ビニル基などの重合反応を利用して化合物の溶解度を変化させ、薄膜を溶剤に対して不溶化する方法が開示されている。
【0013】
これらの多層化を図る方法は重要であるが、水溶性のPEDOT:PSSを使用すると薄膜中に残存する水分を除去する必要があることや、溶解度差を利用するには使用できる材料が限られてしまう、シロキサン化合物が空気中の水分に不安定といった問題点や素子特性が十分ではない問題点があった。
【0014】
有機EL素子の高効率化、長寿命化のためには、有機層を多層化し、各々層の機能を分離することが望ましいが、大面積でも製膜が容易な湿式プロセスを用いて有機層を多層化するためには、上述のように、下層が上層製膜時に溶解しないようにする必要があり、重合反応を利用して溶剤への溶解度を変化させる手法が採用されてきた。
【0015】
また、有機EL素子の低駆動電圧化のため、電荷輸送性化合物に電子受容性化合物を添加することで、電荷輸送性化合物の電荷輸送性を向上させる試みがなされているが、特性はいまだ十分なものではなかった。
【0016】
一方、上記材料を用いたインク組成物は、硬化のために高い温度での処理が必要であり樹脂基板の適用が困難であること、あるいは長時間の加熱が必要なため生産性が低いなどの問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0035】
<有機エレクトロニクス材料>
本発明の有機エレクトロニクス材料は、下記一般式(1)で表されるイオン化合物と電荷輸送性ユニットを有する化合物(以下、電荷輸送性化合物と呼ぶ)とを少なくとも含有することを特徴としている。
【0036】
【化3】
[一般式(1)中、Arはアリール基又はヘテロアリール基を示し、R
a〜R
bはそれぞれ独立に水素原子(H)、アルキル基、ベンジル基、アリール基、又はヘテロアリール基を示し、Ar、R
a、及びR
bは互いに連結して環を形成してもよい。ただし、R
a〜R
bの少なくとも1つは水素原子(H)、アルキル基、及びベンジル基のうちのいずれかである。Aはアニオンを示す。]
【0037】
本発明において、上記一般式(1)で表されるイオン化合物は、Nの4つの置換基のうちの少なくとも1つが水素原子で、かつ少なくとも1つがアリール基であることを特徴とする。該イオン化合物を用いることで重合開始剤として使用したとき、低温での硬化性が向上する。また重合性置換基を有する化合物と組合せることにより、塗布法を用いた積層素子を作製することができる。さらに、該イオン化合物を含むインク組成物から形成した膜は、電荷輸送能が高く有機エレクトロニクス用途に有用である。
【0038】
ここで、インク組成物としたとき溶媒への溶解性を高める為に、R
a〜R
bの少なくとも1つがアルキル基、ベンジル基、アリール基、又はヘテロアリール基であることが好ましく(ただし、R
a〜R
bのいずれか一方はアルキル基、ベンジル基である)、R
a〜R
bのいずれもアルキル基又はベンジル基であることがより好ましい。なお、R
a〜R
bがともにアリール基又はヘテロアリール基となることはない。
【0039】
前記アルキル基は、直鎖、分岐または環状のいずれでもよく、置換基を有していてもよく、炭素数が通常1〜20程度であり、その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、3,7−ジメチルオクチル基、ラウリル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロオクチル基などが例示される。
【0040】
前記アリール基は、芳香族炭化水素から、水素原子1個を除いた原子団である。ここに芳香族炭化水素としては、縮合環をもつもの、独立したベンゼン環または縮合環2個以上が直接またはビニレンなどの基を介して結合したものが含まれる。また、アリール基は置換基を有していてもよく、炭素数は通常6〜60程度であり、具体的には、フェニル基、C1〜C12アルコキシフェニル基(C1〜C12は、置換基の炭素数1〜12であることを示す。以下も同様である。)、C1〜C12アルキルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントラセニル基、2−アントラセニル基、9−アントラセニル基、フェナントレン−イル基、ピレン−イル基、ペリレン−イル基、ペンタフルオロフェニル基などが例示され、C1〜C12アルコキシフェニル基、C1〜C12アルキルフェニル基が好ましい。C1〜C12アルコキシとして具体的には、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、i−プロピルオキシ、ブトキシ、i−ブトキシ、t−ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、2−エチルヘキシルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、3,7−ジメチルオクチルオキシ、ラウリルオキシなどが例示される。C1〜C12アルキルとして具体的には、メチル、エチル、プロピル、i−プロピル、ブチル、i−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、3,7−ジメチルオクチル、ラウリルなどが例示される。
【0041】
前記ヘテロアリール基は、複素環化合物から水素原子1個を除いた残りの原子団をいい、該基は、置換基を有していてもよい。無置換の1価の複素環基の炭素数は通常4〜60程度であり、好ましくは4〜20である。1価の複素環基としては、チエニル基、C1〜C12アルキルチエニル基、ピロリル基、フリル基、ピリジル基、C1〜C12アルキルピリジル基などが例示され、チエニル基、ピリジル基が好ましい。C1〜C12アルキルチエニル基、ピリジル基、C1〜C12アルキルピリジル基が好ましい。
【0042】
Aは、従来公知のアニオンであれば特に限定されないが、下記一般式(1b)〜(5b)で表されるアニオンが、駆動電圧低減や安定した長時間駆動が可能な有機エレクトロニクス素子、特に有機EL素子を製造する上で好ましい。
【0043】
【化4】
[一般式(1b)〜(5b)中、Y
1〜Y
6は、それぞれ独立に二価の連結基、R
1〜R
16は、それぞれ独立に電子求引性の有機置換基(これらの構造中にさらに置換基、ヘテロ原子をもっていてもよく、また、R
2及びR
3、R
4〜R
6、R
7〜R
10又はR
11〜R
16それぞれが結合して環状あるいはポリマー状になってもよい。)を表す。E
1は酸素原子、E
2は窒素原子、E
3は炭素原子、E
4はホウ素原子又はガリウム原子、E
5はリン原子又はアンチモン原子を表す。]
【0044】
電子求引性の有機置換基(上記式中のR
1〜R
16)の例示としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、シアノ基、チオシアノ基、ニトロ基、メシル基等のアルキルスルホニル基、トシル基等のアリールスルホニル基、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等の炭素数が通常1以上12以下、好ましくは6以下のアシル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数が通常2以上10以下、好ましくは7以下のアルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基等の炭素数が通常3以上好ましくは4以上25以下好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有するアリールオキシカルボニル基、アセトキシ基等の炭素数が通常2以上20以下のアシルオキシ基、アルキルオキシスルホニル基、アリールオキシスルホニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等の炭素数が通常1以上10以下、好ましくは6以下の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル、アルケニル、アルキニル基にフッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子が置換したハロアルキル、ハロアルケニル、ハロアルキニル基、ペンタフルオロフェニル基などの炭素数が通常6以上20以下のハロアリール基などが挙げられる。これらの中でも、負電荷を効率よく非局在化できる観点から、より好ましくは、上記有機基のうち水素原子を有する基の水素原子の一部または全てをフッ素等のハロゲン原子で置換した基、例えば、炭素数1〜20のヘテロ原子を含んでもよい直鎖状、分岐状もしくは環状のパーフルオロアルキル基、パーフルオロアルキルスルホニル基、パーフルオロアリール基、パーフルオロアルキルオキシスルホニル基、パーフルオロアリールスルホニル基、パーフルオロアリールオキシスルホニル基、パーフルオロアシル基、パーフルオロアルコキシカルボニル基、パーフルオロアシルオキシ基、パーフルオロアリールオキシカルボニル基、パーフルオロアルケニル基、パーフルオロアルキニル基であり、下記構造式群(1)で表されるが、これに限定されるものではない。また、これらの中でも、炭素数1〜8の直鎖状、分岐鎖状のパーフルオロアルキル基、炭素数3〜6の環状パーフルオロアルキル基、炭素数6〜18のパーフルオロアリール基が好ましい。
【0046】
また、前記一般式におけるY
1〜Y
6は2価の連結基を示すが、具体的には、下記一般式(1c)〜(11c)のいずれか1種であることが好ましい。
【0047】
【化6】
(式中、Rは任意の有機基(これらの構造中にさらに置換基、ヘテロ原子をもっていてもよい)を表す。)
【0048】
一般式(7c)〜(11c)におけるRは、電子受容性の向上、溶媒への溶解性の観点から、各々独立に、置換されていてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基であることが好ましく、より好ましくは前記置換基のうち、電子求引性の置換基を有する有機基であり、例えば、前記構造式群(1)の基が挙げられる。
【0049】
また、本発明におけるアニオンは負電荷が主として酸素原子、窒素原子、炭素原子、ホウ素原子またはガリウム原子上にあるものが好ましく、特に限定されないが、より好ましくは酸素原子、窒素原子、炭素原子、ホウ素原子上にあるものであり、最も好ましくは下記一般式(12c)、(13c)、(14c)、(15c)で表されるものである。
【0050】
【化7】
(式中、R
F1〜R
F10はそれぞれ独立に電子求引性の有機置換基(これらの構造中にさらに置換基、ヘテロ原子をもっていてもよく、またR
F1〜R
F9はそれぞれが結合して環状あるいはポリマー状になってもよい。)を表し、特に限定されないが、例えば、前記構造式群(1)で示される基が挙げられる。)
【0051】
[電荷輸送性化合物]
本発明における「電荷輸送性化合物」について詳細に述べる。本発明において電荷輸送性化合物とは、電荷輸送性ユニットを有する化合物を言う。本発明において「電荷輸送性ユニット」とは、正孔または電子を輸送する能力を有した原子団であり、以下、その詳細について述べる。
【0052】
上記電荷輸送性ユニットは、正孔または電子を輸送する能力を有してさえいればよく、特に限定されないが、芳香環を有するアミンやカルバゾール、チオフェンであることが好ましい。これらの具体例としては、国際公開第2011/132702号公報に記載されているものが挙げられる。この中でも特に、下記(1)〜(14)のアミン構造が好ましい。下記(1)〜(14)のアミン構造中のE、Ar、Xの意味は上記公報に詳細に記載されているが、簡単には以下に示す通りである。
Eはそれぞれ独立に−R
1、−OR
2、−SR
3、−OCOR
4、−COOR
5、−SiR
6R
7R
8(ただし、R
1〜R
8は、水素原子、炭素数1〜22個の直鎖、環状もしくは分岐アルキル基、または炭素数2〜30個のアリール基もしくはヘテロアリール基を表す。)等を表し、Arは、それぞれ独立に炭素数2〜30個のアリーレン基、もしくはヘテロアリーレン基を表す。アリーレン基及びヘテロアリール基は置換基を有していてもよい。XおよびZはそれぞれ独立に二価の連結基で、特に制限はないが、前記Rのうち水素原子を1つ以上有する基から、さらに1つの水素原子を除去した基等が好ましい。xは0〜2の整数を表す。Yは前記三価の連結基であり、前記Rのうち、水素原子を2つ以上有する基から2つの水素原子を除去した基を表す。
【0054】
また、本発明における電荷輸送性化合物は、市販のものでもよく、当業者公知の方法で合成したものであってもよく、特に制限はない。
【0055】
また、本発明における電荷輸送性化合物は、低分子の化合物であっても、ポリマー又はオリゴマーのような高分子の化合物であってもよい。有機溶媒への溶解性の観点からは、ポリマー又はオリゴマーのような高分子化合物が好ましく、昇華や再結晶などでの精製が容易な観点からは低分子化合物であることが好ましい。
【0056】
本発明における電荷輸送性化合物がポリマー又はオリゴマーである場合、十分な重合反応を進行させるための温度を下げる観点から、3方向以上に分岐する構造を有するポリマー又はオリゴマーが好ましい。また、この分岐した構造はポリマー又はオリゴマーのガラス転移温度を高くすることができ、ポリマー又はオリゴマーの耐熱性向上にも寄与する。
【0057】
この分岐した構造とは、ポリマー又はオリゴマー1分子中の種々の鎖の中で、最も重合度の大きくなる鎖を主鎖とした時に、主鎖に対して重合度が同じか、それよりは重合度の小さい側鎖が連結していることを指す。本発明において重合度とは、ポリマー又はオリゴマーを合成する際に用いられるモノマー単位が、ポリマー又はオリゴマー1分子当たりにいくつ含まれるかを表す。本発明において側鎖は、ポリマー又はオリゴマーの主鎖とは異なる鎖であり、少なくとも1つ以上の重合単位を有しているものをいい、それ以外は側鎖ではなく置換基とみなす。
【0058】
分岐した構造を形成する方法としては、1分子中に重合可能な部位を3ヶ所以上有するモノマーを用いてポリマー又はオリゴマーを形成してもよいし、直線状のポリマー又はオリゴマーを形成した後に、それら同士を重合させることで形成してもよく、特に限定されない。
【0059】
具体的には、前記ポリマー又はオリゴマー中の分岐構造を形成する起点となる単位として、下記一般式(1)〜(10)の構造のうちいずれか1種を含むことが好ましい。
【0061】
(式中、Arは、それぞれ独立に2価の連結基を表し、炭素数2〜30個のアリーレン基、もしくはヘテロアリーレン基を表す。アリーレン基とは芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団であり置換基を有していてもよく、例えば、フェニレン、ビフェニル−ジイル、ターフェニル−ジイル、ナフタレン−ジイル、アントラセン−ジイル、テトラセン−ジイル、フルオレン−ジイル、フェナントレン−ジイル等が挙げられる。ヘテロアリーレン基とは、ヘテロ原子を有する芳香族化合物から水素原子2個を除いた原子団であり置換基を有していてもよく、例えば、ピリジン−ジイル、ピラジン−ジイル、キノリン−ジイル、イソキノリン−ジイル、アクリジン−ジイル、フェナントロリン−ジイル、フラン−ジイル、ピロール−ジイル、チオフェン−ジイル、オキサゾール−ジイル、オキサジアゾール−ジイル、チアジアゾール−ジイル、トリアゾール−ジイル、ベンゾオキサゾール−ジイル、ベンゾオキサジアゾール−ジイル、ベンゾチアジアゾール−ジイル、ベンゾトリアゾール−ジイル、ベンゾチオフェン−ジイル等が挙げられる。Wは、3価の連結基を表し、前記アリーレン基またはヘテロアリーレン基からさらに水素原子1個を除いた原子団であり置換基を有していてもよい。Yは、それぞれ独立に2価の連結基を表す。Zは、炭素原子、ケイ素原子、リン原子のいずれかを表す。)
【0062】
前記一般式(4)、(7)におけるYとしては、以下の式で表される2価の連結基であることが好ましい。
【0063】
【化10】
(式中、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜22個の直鎖、環状もしくは分岐アルキル基、または炭素数2〜30個のアリール基もしくはヘテロアリール基を表す。ここで、アリール基とは、芳香族炭化水素から水素原子一個を除いた原子団であり、置換基を有していてもよく、ヘテロアリール基とは、ヘテロ原子を有する芳香族化合物から水素原子1個を除いた原子団であり、置換基を有していてもよい。)
【0064】
また、本発明における電荷輸送性化合物は溶解度を変化させて有機薄膜の積層構造を作製するため、一つ以上の「重合可能な置換基」を有することが好ましい。ここで、上記「重合可能な置換基」とは、重合反応を起こすことにより2分子以上の分子間で結合を形成可能な置換基のことであり、以下、その詳細について述べる。
【0065】
上記重合可能な置換基としては、炭素−炭素多重結合を有する基(例えば、ビニル基、アセチレン基、ブテニル基、アクリル基、アクリレート基、アクリルアミド基、メタクリル基、メタクリレート基、メタクリルアミド基、アレーン基、アリル基、ビニルエーテル基、ビニルアミノ基、フリル基、ピロール基、チオフェン基、シロール基等を挙げることができる)、小員環を有する基(たとえばシクロプロピル基、シクロブチル基、エポキシ基、オキセタン基、ジケテン基、エピスルフィド基等)、ラクトン基、ラクタム基、またはシロキサン誘導体を含有する基等が挙げられる。また、上記基の他に、エステル結合やアミド結合を形成可能な基の組み合わせなども利用できる。例えば、エステル基とアミノ基、エステル基とヒドロキシル基などの組み合わせである。重合可能な置換基としては、特に、オキセタン基、エポキシ基、ビニル基、ビニルエーテル基、アクリレート基、メタクリレート基が反応性の観点から好ましく、オキセタン基が最も好ましい。重合性置換基の自由度を上げ、硬化反応を生じさせやすくする観点からは、ポリマー又はオリゴマーの主鎖と重合性置換基が、炭素数1〜8のアルキル鎖で連結されていることがより好ましい。
【0066】
また、本発明におけるポリマー又はオリゴマーは、溶解度や耐熱性、電気的特性の調整のため、既述の国際公開第2011/132702号公報に記載の一般式(1a)〜(84a)で表される繰り返し単位の他に、上記アリーレン基、ヘテロアリーレン基として下記構造式群(X)で表される構造を共重合繰り返し単位として有する共重合体であってもよい。この場合、共重合体では、ランダム、ブロックまたはグラフト共重合体であってもよいし、それらの中間的な構造を有する高分子、例えばブロック性を帯びたランダム共重合体であってもよい。また、本発明で用いるポリマー又はオリゴマーは、主鎖中に枝分かれを有し、末端が3つ以上あってもよい。なお、構造式群(X)中のRはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜22個の直鎖、環状もしくは分岐アルキル基、または炭素数2〜30個のアリール基もしくはヘテロアリール基を表す。
【0068】
また、前記電荷輸送性化合物がポリマー又はオリゴマーである場合、溶剤への溶解性、成膜性の観点から数平均分子量が、1,000以上1,000,000以下であることが好ましい。より好ましくは2,000以上900,000以下、さらに好ましくは3,000以上800,000以下である。1,000より小さいと化合物が結晶化しやすくなり、成膜性に劣ってしまう。また、1,000,000より大きいと溶剤への溶解度が低下し、塗布溶液や塗布インクを作製するのが困難になる。
【0069】
また、本発明の有機エレクトロニクス材料は、重合反応による溶解度の差を利用するために、重合開始剤を含むことが好ましい。
【0070】
この重合開始剤としては、熱、光、マイクロ波、放射線、電子線等の印加によって、重合可能な置換基を重合させる能力を発現するものであればよく、特に限定されないが、光照射および/または加熱によって重合を開始させるものであることが好ましい。
また、本発明に係るイオン化合物は単独で重合開始剤として用いることができる。
【0071】
本発明の有機エレクトロニクス用材料を用いて有機エレクトロニクス素子などに用いられる各種の層を形成するためには、例えば、本発明の有機エレクトロニクス用材料を含む溶液(インク組成物)を、例えば、インクジェット法、キャスト法、浸漬法、凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平板印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷法、スピンコーティング法等の公知の方法で所望の基体上に塗布した後、光照射や加熱処理などによりポリマー又はオリゴマーの重合反応を進行させ、塗布層の溶解度を変化(硬化)させることによって行うことができる。このような作業を繰り返すことで高分子型の有機エレクトロニクス素子や有機EL素子の多層化を図ることが可能となる。
【0072】
上記のような塗布方法は、通常、−20〜+300℃の温度範囲、好ましくは10〜100℃、特に好ましくは15〜50℃で実施することができ、また上記溶液に用いる溶媒としては、特に制限はないが、例えば、後述するインク組成物の調製に用いる溶媒が挙げられる。
【0073】
また、上記光照射には、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、蛍光灯、発光ダイオード、太陽光等の光源を用いることができる。
【0074】
また、上記加熱処理は、ホットプレート上やオーブン内で行うことができ、特に、本発明においては上述のイオン化合物を用いることで硬化性に優れることから、(1)低温での硬化や、(2)短時間での硬化が可能である。低温での硬化は、耐熱温度が低い樹脂基板等の使用に寄与し、短時間での硬化は、生産性の向上に寄与する。
具体的には、上記(1)の場合、加熱時間を60分とした場合、加熱温度は、0〜300℃の温度範囲、好ましくは50〜250℃、特に好ましくは50〜200℃で実施することができる。上記(2)の場合、加熱温度を180℃とした場合、1〜60分とすることが好ましく、1〜20分とすることが好ましい。
【0075】
<インク組成物>
本発明のインク組成物は、既述の本発明の有機エレクトロニクス材料と溶媒とを含むことを特徴としており、その他の添加剤、例えば重合禁止剤、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、難燃剤、酸化防止剤、還元防止剤、酸化剤、還元剤、表面改質剤、乳化剤、消泡剤、分散剤、界面活性剤などを含んでいてもよい。前記溶媒としては、水やメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、ペンタン、ヘキサン、オクタン等のアルカン、シクロヘキサン等の環状アルカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン等の芳香族溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート等の脂肪族エーテル、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、その他、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレンなどが挙げられるが、好ましくは芳香族溶媒、脂肪族エステル、芳香族エステル、脂肪族エーテル、芳香族エーテルを使用することができる。
本発明のインク組成物において、溶媒に対する有機エレクトロニクス材料の含有量は、種々の塗布プロセスに適用できる観点から0.1〜30質量%とすることが好ましい。
【0076】
<有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子>
本発明の有機エレクトロニクス素子は、上記有機エレクトロニクス材料又は上記インク組成物を用いて塗布法で成膜された層、さらには当該成膜した層を重合させて不溶化した層を含む。
同様に、本発明の有機エレクトロルミネセンス素子(有機EL素子)は、上記有機エレクトロニクス材料又は上記インク組成物を用いて成膜された層、さらには当該成膜した層を重合させて不溶化した層を含む。
いずれの素子も、本発明の有機エレクトロニクス材料を用いて形成された優れた層を含み、従来よりも駆動電圧が低く、長い発光寿命を有する。
以下に、本発明のEL素子について詳述する。
【0077】
[有機EL素子]
本発明の有機EL素子は、発光層、重合層、陽極、陰極、基板を備えていれば特に限定されず、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、電子輸送層などの他の層を有していてもよい。また、正孔注入層、正孔輸送層、又は発光層を、本発明の有機エレクトロニクス材料又はインク組成物を用いて形成された層とすることが好ましい。
以下、各層について詳細に説明する。
【0078】
(発光層)
発光層に用いる材料としては、低分子化合物であっても、ポリマーまたはオリゴマーであってもよく、デンドリマー等も使用可能である。蛍光発光を利用する低分子化合物としては、ペリレン、クマリン、ルブレン、キナクドリン、色素レーザー用色素(例えば、ローダミン、DCM1等)、アルミニウム錯体(例えば、Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum(III)(Alq
3))、スチルベン、これらの誘導体があげられる。蛍光発光を利用するポリマーまたはオリゴマーとしては、ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン(PPV)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、フルオレンーベンゾチアジアゾール共重合体、フルオレン−トリフェニルアミン共重合体、及びこれらの誘導体や混合物が好適に利用できる。
【0079】
一方、近年有機EL素子の高効率化のため、燐光有機EL素子の開発も活発に行われている。燐光有機EL素子では、一重項状態のエネルギーのみならず三重項状態のエネルギーも利用することが可能であり、内部量子収率を原理的には100%まで上げることが可能となる。燐光有機EL素子では、燐光を発するドーパントとして、白金やイリジウムなどの重金属を含む金属錯体系燐光材料を、ホスト材料にドーピングすることで燐光発光を取り出す(M.A.Baldo et al.,Nature,vol.395,p.151(1998)、M.A.Baldo et al.,Apllied Physics Letters,vol.75,p.4(1999)、M.A.Baldo et al.,Nature,vol.403,p.750(2000)参照。)。
【0080】
本発明の有機EL素子においても、高効率化の観点から、発光層に燐光材料を用いることが好ましい。燐光材料としては、IrやPtなどの中心金属を含む金属錯体などが好適に使用できる。具体的には、Ir錯体としては、例えば、青色発光を行うFIr(pic)〔イリジウム(III)ビス[(4,6-ジフルオロフェニル)-ピリジネート-N,C
2]ピコリネート〕、緑色発光を行うIr(ppy)
3〔ファク トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム〕(前記M.A.Baldo et al.,Nature,vol.403,p.750(2000)参照)又はAdachi etal.,Appl.Phys.Lett.,78no.11,2001,1622に示される赤色発光を行う(btp)
2Ir(acac){bis〔2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジナート−N,C3〕イリジウム(アセチル−アセトネート)}、Ir(piq)
3〔トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム〕等が挙げられる。
【0081】
Pt錯体としては、例えば、赤色発光を行う2、3、7、8、12、13、17、18−オクタエチル−21H、23H−フォルフィンプラチナ(PtOEP)等が挙げられる。
燐光材料は、低分子又はデンドライド種、例えば、イリジウム核デンドリマーが使用され得る。またこれらの誘導体も好適に使用できる。
【0082】
また、発光層に燐光材料が含まれる場合、燐光材料の他に、ホスト材料を含むことが好ましい。
ホスト材料としては、低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよく、デンドリマーなども使用できる。
【0083】
低分子化合物としては、例えば、CBP(4,4'-Bis(Carbazol-9-yl)-biphenyl)、mCP(1,3-bis(9-carbazolyl)benzene)、CDBP(4,4'-Bis(Carbazol-9-yl)-2,2’-dimethylbiphenyl)などが、高分子化合物としては、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレン、ポリフルオレンなどが使用でき、これらの誘導体も使用できる。
【0084】
発光層は、蒸着法により形成してもよく、塗布法により形成してもよい。
塗布法により形成する場合、有機EL素子を安価に製造することができ、より好ましい。発光層を塗布法によって形成するには、燐光材料と、必要に応じてホスト材料を含む溶液を、例えば、インクジェット法、キャスト法、浸漬法、凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平板印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷法、スピンコーティング法などの公知の方法で所望の基体上に塗布することで行うことができる。
【0085】
(陰極)
陰極材料としては、例えば、Li、Ca、Mg、Al、In、Cs、Ba、Mg/Ag、LiF、CsF等の金属又は金属合金であることが好ましい。
【0086】
(陽極)
陽極としては、金属(例えば、Au)又は金属導電率を有する他の材料、例えば、酸化物(例えば、ITO:酸化インジウム/酸化錫)、導電性高分子(例えば、ポリチオフェン−ポリスチレンスルホン酸混合物(PEDOT:PSS))を使用することもできる。
【0087】
(電子輸送層、電子注入層)
電子輸送層、電子注入層としては、例えば、フェナントロリン誘導体(例えば、2,9-dimethyl-4,7-diphenyl-1,10-phenanthroline(BCP))、ビピリジン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレンなどの複素環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体(2-(4-Biphenylyl)-5-(4-tert-butylphenyl-1,3,4-oxadiazole) (PBD))、アルミニウム錯体(例えば、Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum(III)(Alq
3))などが挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も用いることができる。
【0088】
(基板)
本発明の有機EL素子に用いることができる基板として、ガラス、プラスチック等の種類は特に限定されることはなく、また、透明のものであれば特に制限は無いが、ガラス、石英、光透過性樹脂フィルム等が好ましく用いられる。樹脂フィルム(フレキシブル基板)を用いた場合には、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能であり、特に好ましい。
【0089】
樹脂フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等からなるフィルム等が挙げられる。
【0090】
また、樹脂フィルムを用いる場合、水蒸気や酸素等の透過を抑制するために、樹脂フィルムへ酸化珪素や窒化珪素等の無機物をコーティングして用いてもよい。
【0091】
(発光色)
本発明の有機EL素子における発光色は特に限定されるものではないが、白色発光素子は家庭用照明、車内照明、時計や液晶のバックライト等の各種照明器具に用いることができるため好ましい。
【0092】
白色発光素子を形成する方法としては、現在のところ単一の材料で白色発光を示すことが困難であることから、複数の発光材料を用いて複数の発光色を同時に発光させて混色させることで白色発光を得ている。複数の発光色の組み合わせとしては、特に限定されるものではないが、青色、緑色、赤色の3つの発光極大波長を含有するもの、青色と黄色、黄緑色と橙色等の補色の関係を利用した2つの発光極大波長を含有するものが挙げられる。また発光色の制御は、燐光材料の種類と量を調整することによって行うことができる。
【0093】
<表示素子、照明装置、表示装置>
本発明の表示素子は、既述の本発明の有機EL素子を備えたことを特徴としている。
例えば、赤・緑・青(RGB)の各画素に対応する素子として、本発明の有機EL素子を用いることで、カラーの表示素子が得られる。
画像の形成には、マトリックス状に配置した電極でパネルに配列された個々の有機EL素子を直接駆動する単純マトリックス型と、各素子に薄膜トランジスタを配置して駆動するアクティブマトリックス型とがある。前者は、構造は単純ではあるが垂直画素数に限界があるため文字などの表示に用いる。後者は、駆動電圧は低く電流が少なくてすみ、明るい高精細画像が得られるので、高品位のディスプレイ用として用いられる。
【0094】
また、本発明の照明装置は、既述の本発明の有機EL素子を備えたことを特徴としている。さらに、本発明の表示装置は、照明装置と、表示手段として液晶素子と、を備えたことを特徴としている。バックライト(白色発光光源)として上述の本発明の照明装置を用い、表示手段として液晶素子を用いた表示装置、すなわち液晶表示装置としてもよい。この構成は、公知の液晶表示装置において、バックライトのみを本発明の照明装置に置き換えた構成であり、液晶素子部分は公知技術を転用することができる。
【実施例】
【0095】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0096】
[イオン化合物1の合成]
N-Benzyl-N-ethylaniline(I) 2.1g(0.01mol)に臭化水素酸(48%) 1.7gを混合、少し加温して振り混ぜ1時間放置後減圧で水分を除去したところ粘稠な油状物となった。プロトンNMRでチェックしたところ、N-Benzyl-N-ethylaniline(I)は消滅しており、N-Benzyl-N-ethylanilinium bomide(II)が生成していることが確認された。ついで、上記(II)1.46g(0.005mol)とSodium tetrakis(pentaphenyl)borate(10% aq.) 35.1g(0.005mol)とを混合し、撹拌した。終夜放置したところ、全体が白濁しゼリー状になる中に帯青白色の沈殿物が認められた。水を適宜加え、これを減圧濾過、水洗、乾燥し青白色の固体物を得た(収量1.7g/反応収率39%)。
以上の反応の反応式を以下に示す。
【0097】
【化12】
【0098】
[イオン化合物2の合成]
N-Benzyl-N-ethylanilinium bomide(II)0.7g(0.0024mol)とPFBSNA 0.66g(0.0024mol)のそれぞれのアセトン溶液を混合したところ白色沈殿が生じた。これを濾別(0.39g)し、アセトン溶液部から溶剤を溜去したところ油状物と結晶の混合物が得られた。ここにトルエンを加え不溶部を分離した。トルエン溶液部から溶剤を溜去して淡褐色油状物を得た(1.1g/定量的)。この油状物のNMR測定を行った結果、下記イオン化合物が生成しているものと判断した。
以上の反応の反応式を以下に示す。
【0099】
【化13】
【0100】
[イオン化合物3の合成]
N-Benzyl-N-ethylanilinium bomide(II)0.7g(0.0024mol)と、Cesium tris(trifuloromethanesulfonyl)methide 1.3g(0.0024mol)のそれぞれのアセトン溶液を混合し、撹拌したところ、白色沈殿が生じた。これを濾別(0.35g)し、アセトン溶液部から溶剤を溜去したところ粘稠な油状物が得られた(終夜放置により油状物と結晶の混合物となった)。これにアセトン少量を加え不溶部を分離した(この操作を2回繰り返した)。次いで、アセトン溶液部から溶剤を溜去して褐色油状物を得た(15g/定量的)。この油状物のNMR測定を行った結果、下記イオン化合物が生成しているものと判断した。
以上の反応の反応式を以下に示す。
【0101】
【化14】
【0102】
[イオン化合物4の合成]
N,N-Dibutylaniline(I) 2.1g(0.01mol)に臭化水素酸(48%)1.7gを混合して、少し加温し、振り混ぜて1時間放置後減圧で水分を除去したところ結晶化した。プロトンNMRでチェックしたところ、N,N-Dibutylaniline(I)は消滅しており、N,N-Dibutylanilinium bomide(II)が生成していることが確認された。ついで、上記(II)1.43g(0.005mol)と、Sodium tetrakis(pentaphenyl)borate(10% aq.) 35.1g(0.005mol)とを混合し、撹拌した。終夜放置したところ、全体が白濁しゲル様になる中に白色の沈殿物が認められた。水を適宜加え、これを減圧濾過、水洗、乾燥し白色の固体物を得た(収量3.4g/反応収率77%)。
以上の反応の反応式を以下に示す。
【0103】
【化15】
【0104】
[イオン化合物5の合成]
N,N-Dibenzylaniline(I)1.85g(6.7mmol)をアセトン5mLに溶解し、ここに臭化水素酸(48%)0.85gを加え、振り混ぜたところ白色結晶が沈殿してきた。終夜放置後濾取し、アセトンで洗浄、乾燥して白色結晶1.32g(反応収率56%)が得られた。プロトンNMRでチェックしたところ、N,N-Dibenzylaniline(I)は消滅しており、N,N-Dibenzylanilinium bomide(II)が生成していることが確認された。ついで、上記(II)1.0g(2.8mmol)と、Sodium tetrakis(pentaphenyl)borate(10% aq.) 19.9g(2.8mmol)とを混合し、撹拌した。上記(II)は水に溶解し難いが加温して撹拌したところ白色沈殿物が分離した。さらに超音波による撹拌を行い、終夜放置後、濾取し、水洗、乾燥して白色の固体物を得た(収量2.0g/反応収率76%)。
以上の反応の反応式を以下に示す。
【0105】
【化16】
【0106】
[イオン化合物6の合成]
4-Octylaniline(I)2.0g(0.01mol)に臭化水素酸(48%)1.7gを混合して、少量のアセトンを加え均一溶液とした。終夜放置後減圧で溶剤及び水分を除去したところ、赤褐色の粘稠な油状物となった。プロトンNMRでチェックしたところ、4-Octylaniline(I)は消滅しており、4-Octylanilinium bomide(II)が生成していることが確認された。ついで、上記(II)0.95g(3.3mol)と、Sodium tetrakis(pentaphenyl)borate(10% aq.) 23.5g(3.3mol)とを混合し、撹拌した。終夜放置したところ油状物が分離していた。これにトルエンを加え、油状分を抽出、水洗、乾燥して溶剤を溜去して褐色の油状物を得た(収量2.5g/反応収率84%)。この油状物のNMR測定を行った結果、下記イオン化合物が生成しているものと判断した。
以上の反応の反応式を以下に示す。
【0107】
【化17】
【0108】
<電荷輸送性化合物の合成>
[Pd触媒の調製]
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、室温下、サンプル管にトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(73.2mg、80μmol)を秤取り、アニソール(15ml)を加え、30分間攪拌した。同様に、サンプル管にトリス(t−ブチル)ホスフィン(129.6mg、640μmol)を秤取り、アニソール(5ml)を加え、5分間攪拌した。これらの溶液を混合し室温で30分間攪拌し触媒とした。
【0109】
<架橋基を有する電荷輸送性ポリマの合成>
三口丸底フラスコに、下記モノマー1(4.0mmol)、下記モノマー2(5.0mmol)、下記モノマー3(2.0mmol)、アニソール(20ml)を加え、さらに調製したPd触媒溶液(7.5ml)を加えた。30分撹拌した後、10%テトラエチルアンモニウム水酸化物水溶液(20ml)を加えた。すべての溶媒は30分以上窒素バブルにより脱気した後、使用した。この混合物を2時間加熱・還流した。ここまでの全ての操作は窒素気流下で行った。
反応終了後、有機層を水洗し、有機層をメタノール−水(9:1)に注いだ。生じた沈殿を吸引ろ過し、メタノール−水(9:1)で洗浄した。得られた沈殿をトルエンに溶解し、メタノールから再沈殿した。得られた沈殿を吸引ろ過し、トルエンに溶解し、triphenylphosphine,polymer−bound on styrene−divinylbenzene copolymer(strem chemicals社 、ポリマー100mgに対して200mg)を加えて、一晩撹拌した。撹拌終了後、triphenylphosphine,polymer−bound on styrene−divinylbenzene copolymerと不溶物をろ過して取り除き、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮した。残さをトルエンに溶解した後、メタノール−アセトン(8:3)から再沈殿した。生じた沈殿を吸引ろ過し、メタノール−アセトン(8:3)で洗浄した。得られた沈殿を真空乾燥し、ポリマー1を得た。分子量は、溶離液にTHFを用いたGPC(ポリスチレン換算)により測定した。得られたポリマー1の数平均分子量は7,800、重量平均分子量は31,000であった。
【0110】
【化18】
【0111】
[実施例1]
(硬化性の評価)
ポリマー1(5.0mg)とイオン化合物1(0.15mg)とをクロロベンゼン溶液(1000μl)に溶解し、インク組成物を調製した。このインク組成物を3000rpmで石英板上にスピンコートした。ついで、ホットプレート上で、120℃で10分間加熱して重合反応を行った。加熱後にトルエンに石英板を1分間浸漬し、洗浄をおこなった。洗浄前後のUV−visスペクトルにおける吸収極大(λmax)の吸光度(Abs)の比から、残膜率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0112】
(電荷輸送性の評価)
電荷輸送性を評価するに当たり、以下のように評価素子を作製した。
<電荷輸送性評価素子の作製>
ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、ポリマー1(100mg)、前記イオン化合物1〜6(3.0mg)、アニソール(1.91mL)の混合溶液を3000min
−1でスピン塗布し、ホットプレート上で120℃、10分間加熱して電荷輸送膜(150nm)を作製した。次に得られたガラス基板を真空蒸着機中に移し、アルミニウム(膜厚100nm)を蒸着した。
【0113】
アルミニウムを蒸着後、大気開放することなく、乾燥窒素環境中に基板を移動し、0.7mmの無アルカリガラスに0.4mmのザグリを入れた封止ガラスとITO基板を、光硬化性エポキシ樹脂を用いて貼り合わせることにより封止を行い、電荷輸送性評価素子を作製した。
【0114】
これら電荷輸送性評価素子のITOを正極、アルミニウムを陰極として電圧を印加した。50mA/cm
2通電時の印加電圧を表1に示す。
【0115】
[実施例2〜6]
実施例1において、イオン化合物1をイオン化合物2〜6に変更したこと以外は実施例1と同様にしてインク組成物を調製し、硬化性及び電荷輸送性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0116】
[比較例1]
実施例1において、イオン化合物1を以下のイオン化合物に変更したこと以外は実施例1と同様にしてインク組成物を調製し、硬化性及び電荷輸送性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0117】
【化19】
【0118】
【表1】
【0119】
表1より、実施例1〜6においては、比較例1と比較して、硬化性及び電荷輸送性のいずれも同時に良好な結果が得られたことが分かる。
つまり、実施例1〜6においては、120℃という低温での硬化にもかかわらず、成膜した層に対して十分な耐溶剤性を発現することができた。
また、本発明の有機エレクトロニクス材料は正孔電流が流れやすくなっており、有機エレクトロニクス素子の低電圧化に寄与すると考えられる。
【0120】
[実施例7]
(有機EL素子の作製)
ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、上記で得たポリマー1(10mg)、前記イオン化合物1(0.3mg)、クロロベンゼン(1000μl)を混合した塗布溶液を、3000min
−1でスピンコートした後、ホットプレート上で120℃、10分間加熱して硬化させ、正孔注入層(30nm)を形成した。
次に、得られたガラス基板を真空蒸着機中に移しαNPD(40nm)、(αNPD+Ir(piq)
3(5:1、20nm)、BAlq(10nm)、Alq
3(40nm)、LiF(膜厚0.5nm)、Al(膜厚100nm)の順に蒸着した。
電極形成後、大気開放することなく、乾燥窒素環境中に基板を移動し、0.7mmの無アルカリガラスに0.4mmのザグリを入れた封止ガラスとITO基板を、光硬化性エポキシ樹脂を用いて貼り合わせることにより封止を行い、多層構造の高分子型有機EL素子を作製した。以後の実験は大気中、室温(25℃)で行った。この有機EL素子のITOを正極、Alを陰極として電圧を印加したところ、3.8Vで赤色発光が観測され、輝度1000cd/m
2における電流効率は1.8cd/Aであった。なお、電流電圧特性はヒューレットパッカード社製の微小電流計4140Bで測定し、発光輝度はフォトリサーチ社製の輝度計プリチャード1980Bを用いて測定した。
また、寿命特性として、定電流を印加しながらトプコン社製BM−7で輝度を測定し、輝度が初期輝度(3000cd/m
2)から半減する時間を測定したところ、500時間であった。
【0121】
[比較例2]
イオン化合物1を比較例1で用いたイオン化合物に変更した以外は実施例7と同様にして有機EL素子を作製した。6.0Vで赤色発光が観測され、輝度1000cd/m
2における電流効率は1.2cd/Aであった。また、寿命特性として、定電流を印加しながらトプコン社製BM−7で輝度を測定し、輝度が初期輝度(3000cd/m
2)から半減する時間を測定したところ、10時間であった。
【0122】
以上の実施例7及び比較例2との比較から、本発明の有機エレクトロニクス材料は寿命特性にも優れていることが分かる。