特許第5967108号(P5967108)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5967108X線装置、方法、構造物の製造方法、プログラム及びプログラムを記録した記録媒体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967108
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】X線装置、方法、構造物の製造方法、プログラム及びプログラムを記録した記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/04 20060101AFI20160728BHJP
【FI】
   G01N23/04 320
【請求項の数】19
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2013-554361(P2013-554361)
(86)(22)【出願日】2013年1月18日
(86)【国際出願番号】JP2013050959
(87)【国際公開番号】WO2013108886
(87)【国際公開日】20130725
【審査請求日】2014年7月15日
(31)【優先権主張番号】特願2012-10370(P2012-10370)
(32)【優先日】2012年1月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 正広
(72)【発明者】
【氏名】青木 貴史
【審査官】 蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−098242(JP,A)
【文献】 特開2011−024773(JP,A)
【文献】 特開2005−24444(JP,A)
【文献】 特開平8−327525(JP,A)
【文献】 特開昭61−14550(JP,A)
【文献】 米国特許第5892808(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/227
G01B 15/00−15/08
A61B 6/00−6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定物にX線を照射し、前記測定物に対して複数方向で透過した透過X線を検出するX線装置であって、
前記透過X線を検出した結果から再構成した画像を用いて、前記測定物の少なくとも一部を含む所定空間を複数に分割した分割区画に吸収係数に応じた値が割り当てられた第1情報を生成する第1情報生成部と、
前記第1情報の割り当てられた値の大きさに応じた分割区画の数を示す、前記割り当てられた値の頻度情報を生成する頻度生成部と、
前記測定物を構成する第1、第2物質の比率を示す、比率情報を取得する比率取得部と、
前記比率情報の第1、第2物質の比率と、前記頻度情報での前記第1情報の割り当てられた値の大きさに応じた分割区画の数とを用いて、前記第1情報の分割区画に割り当てられた値の大きさを変えて、前記第1情報の前記分割区画に割り当てられる値の種類が少なくされた第2情報を生成する第2情報生成部とを備えるX線装置。
【請求項2】
前記第2情報生成部は、
前記第1情報で隣接した分割区画の値が異なる部分に対して、前記異なる部分の一方の値を他方の値にし、前記隣接する分割区画の値が等しくされた第2情報を生成する、請求項1に記載のX線装置。
【請求項3】
前記第2情報生成部は、
前記第1情報の前記分割区画の数の分布は最頻値を有し、前記第1情報の前記最頻値に対する半値幅が小さくされた第2情報を生成する、請求項1又は2に記載のX線装置。
【請求項4】
前記第2情報生成部は、
前記第1情報の前記最頻値の分割区画に割り当てられる値を中心とした所定範囲には、前記第1物質の吸収係数に応じた値が含まれており、前記所定範囲に含まれる値が前記第1物質の吸収係数に応じた値に変更された第2情報を生成する、請求項3に記載のX線装置。
【請求項5】
前記第2情報生成部は、
前記第1情報で前記第1物質の吸収係数に応じた値が割り当てられた分割区画の周囲に配置される分割区画を抽出し、前記抽出された分割区画の値が、前記第1物質の吸収係数に応じた値に変更された第2情報を生成する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のX線装置。
【請求項6】
前記第1情報の前記分割区画の数の分布は複数の所定範囲を有し、前記複数の所定範囲のそれぞれで最頻値を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のX線装置。
【請求項7】
前記測定物を透過したX線強度をX線の波長に応じて検出する検出部をさらに備え、
前記比率取得部は、前記検出部の信号を用いて、前記測定物の比率情報を生成する請求項1〜6のいずれか一項に記載のX線装置。
【請求項8】
前記検出部は、前記測定物に照射されるX線強度と前記測定物を透過したX線強度との比をX線の波長に応じて検出する請求項7に記載のX線装置。
【請求項9】
前記第1、第2物質のそれぞれを前記検出部で検出した場合の、前記検出部の信号を示す、参照データを記憶する記憶部と、
前記参照データと、前記測定物を前記検出部で検出した場合の、前記検出部の信号とを用いて、前記測定物の比率情報を生成する請求項7又は8に記載のX線装置。
【請求項10】
前記比率取得部は、前記比率情報を前記測定物の設計情報から取得する請求項1〜9のいずれか一項に記載のX線装置。
【請求項11】
前記比率取得部は、前記測定物での前記第1、第2物質の体積比率を示す比率情報を取得する、請求項1〜10のいずれか一項に記載のX線装置。
【請求項12】
前記第2情報を初期値として逐次近似法により第3情報を生成する第3情報生成部を更に備える、請求項1〜11のいずれか一項に記載のX線装置。
【請求項13】
前記第2情報を初期値として逆投影により第3情報を生成する第3情報生成部を更に備える、請求項1〜11のいずれか一項に記載のX線装置。
【請求項14】
測定物にX線を照射し、前記測定物の構造物に関する情報を取得する方法であって、
測定物にX線を照射し、前記測定物に対して複数方向で透過した透過X線を検出することと、
前記透過X線を検出した結果から再構成した画像を用いて、前記測定物の少なくとも一部を含む所定空間を複数に分割した分割区画に吸収係数に応じた値が割り当てられた第1情報を生成することと、
前記第1情報の割り当てられた値の大きさに応じた分割区画の数を示す、前記割り当てられた値の頻度情報を生成することと、
前記測定物を構成する第1、第2物質の比率を示す、比率情報を取得することと、
前記比率情報の第1.第2物質の比率と、前記頻度情報での前記第1情報の割り当てらえた値の大きさに応じた分割区画の数とを用いて、前記第1情報の分割区画に割り当てられた値の大きさを変えて、前記第1情報の前記分割区画に割り当てられる値の種類が少なくされた第2情報を生成することとを含む、方法。
【請求項15】
構造物の形状に関する設計情報を作製する設計工程と、
前記設計情報に基づいて前記構造物を作成する成形工程と、
作製された前記構造物の形状を請求項1から13の何れか一項に記載のX線装置または請求項14に記載の方法の何れかを用いて計測する工程と、
前記測定工程で得られた形状情報と、前記設計情報とを比較する検査工程と、
を有する、構造物の製造方法。
【請求項16】
前記検査工程の比較結果に基づいて実行され、前記構造物の再加工を実施するリペア工程を有する、請求項15に記載の構造物の製造方法。
【請求項17】
前記リペア工程は、前記成形工程を再実行する工程である、請求項16に記載の構造物の製造方法。
【請求項18】
X線装置に接続されたコンピュータに、前記X線装置の制御を実行させるプログラムであって、前記X線装置を制御して、
測定物にX線を照射し、前記測定物に対して複数方向で透過した透過X線を検出することと、
前記透過X線を検出した結果から再構成した画像を用いて、前記測定物の少なくとも一部を含む所定空間を複数に分割した分割区画に吸収係数に応じた値が割り当てられた第1情報を生成することと、
前記第1情報の割り当てられた値の大きさに応じた分割区画の数を示す、前記割り当てられた値の頻度情報を生成することと、
前記測定物を構成する第1、第2物質の比率を示す、比率情報を取得することと、
前記比率情報の第1.第2物質の比率と、前記頻度情報での前記第1情報の割り当てらえた値の大きさに応じた分割区画の数とを用いて、前記第1情報の分割区画に割り当てられた値の大きさを変えて、前記第1情報の前記分割区画に割り当てられる値の種類が少なくされた第2情報を生成することとを実行させるプログラム。
【請求項19】
請求項18に記載のプログラムを記録した、コンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線装置、方法、構造物の製造方法、プログラム及びプログラムを記録した記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
物体の形状および、その物体の内部の形状を検出する装置として、例えば下記特許文献に開示されているような、物体にX線を照射して、その物体を透過した透過X線を検出する装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0268869号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数種類の物質が含まれる物体にX線を照射し、その物体を透過したX線を検出する従来技術によれば、物体の形状および、その物体の内部の形状の検出結果に不良が生じ、検出不良を起こす場合があった。
本発明は、物体の形状およびその物体の内部の形状の検出不良を抑制するX線装置、方法、及び構造物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様に従えば、測定物にX線を照射し、前記測定物に対して複数方向で透過した透過X線を検出するX線装置であって、
前記透過X線を検出した結果から再構成した画像を用いて、前記測定物の少なくとも一部を含む所定空間を複数に分割した分割区画に吸収係数に応じた値が割り当てられた第1情報を生成する第1情報生成部と、
前記第1情報の割り当てられた値の大きさに応じた分割区画の数を示す、前記割り当てられた値の頻度情報を生成する頻度生成部と、
前記測定物を構成する第1、第2物質の比率を示す、比率情報を取得する比率取得部と、
前記比率情報の第1.第2物質の比率と、前記頻度情報での前記第1情報の割り当てられた値の大きさに応じた分割区画の数とを用いて、前記第1情報の分割区画に割り当てられた値の大きさを変えて、前記第1情報の前記分割区画に割り当てられる値の種類が少なくされた第2情報を生成する第2情報生成部とを備えるX線装置が提供される。
【0006】
本発明の第2の態様に従えば、測定物にX線を照射し、前記測定物の構造物に関する情報を取得する方法であって、
測定物にX線を照射し、前記測定物に対して複数方向で透過した透過X線を検出することと、
前記透過X線を検出した結果から再構成した画像を用いて、前記測定物の少なくとも一部を含む所定空間を複数に分割した分割区画に吸収係数に応じた値が割り当てられた第1情報を生成することと、
前記第1情報の割り当てられた値の大きさに応じた分割区画の数を示す、前記割り当てられた値の頻度情報を生成することと、
前記測定物を構成する第1、第2物質の比率を示す、比率情報を取得することと、
前記比率情報の第1.第2物質の比率と、前記頻度情報での前記第1情報の割り当てらえた値の大きさに応じた分割区画の数とを用いて、前記第1情報の分割区画に割り当てられた値の大きさを変えて、前記第1情報の前記分割区画に割り当てられる値の種類が少なくされた第2情報を生成することとを含む、方法が提供される。
【0007】
本発明の第3の態様に従えば、構造物の形状に関する設計情報を作製する設計工程と、前記設計情報に基づいて前記構造物を作成する成形工程と、作製された前記構造物の形状を第1の態様のX線装置または第2の態様の方法の何れかを用いて計測する工程と、前記測定工程で得られた形状情報と、前記設計情報とを比較する検査工程と、を有する構造物の製造方法が提供される。
【0008】
本発明の第4の態様に従えば、X線装置に接続されたコンピュータに、前記X線装置の制御を実行させるプログラムであって、前記X線装置を制御して、
測定物にX線を照射し、前記測定物に対して複数方向で透過した透過X線を検出することと、
前記透過X線を検出した結果から再構成した画像を用いて、前記測定物の少なくとも一部を含む所定空間を複数に分割した分割区画に吸収係数に応じた値が割り当てられた第1情報を生成することと、
前記第1情報の割り当てられた値の大きさに応じた分割区画の数を示す、前記割り当てられた値の頻度情報を生成することと、
前記測定物を構成する第1、第2物質の比率を示す、比率情報を取得することと、
前記比率情報の第1.第2物質の比率と、前記頻度情報での前記第1情報の割り当てらえた値の大きさに応じた分割区画の数とを用いて、前記第1情報の分割区画に割り当てられた値の大きさを変えて、前記第1情報の前記分割区画に割り当てられる値の種類が少なくされた第2情報を生成することとを実行させるプログラムが提供される。
【0009】
本発明の第5の態様に従えば、本発明の第4の態様に従うプログラムを記録した、コンピュータ読み取り可能な記録媒体が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の態様によれば、物体の形状およびその物体の内部の形状の検出不良を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係るX線装置の一例を示す図である。
図2A】第1実施形態によるX線装置の検出部の配置の一例を示す図である。
図2B】第1実施形態によるX線装置の検出部の配置の一例を示す図である。
図3A】第1実施形態によるX線装置の検出部の配置の他の例を示す図である。
図3B】第1実施形態によるX線装置の検出部の配置の他の例を示す図である。
図4】第1実施形態に係るX線装置が備える情報処理部の一例を示す図である。
図5A】第1実施形態に係る情報処理部が備える比率取得部の一例を示す図である。
図5B】第1実施形態に係る比率取得部が備える参照データの一例を示す図である。
図6】第1実施形態に係る情報処理部が備える第2の情報生成部の一例を示す図である。
図7】第1実施形態に係るX線装置の動作の流れを示すフローチャートである。
図8】第1実施形態に係るX線装置の動作の一例を説明するための図である。
図9A】第1実施形態に係るX線装置の動作(透過X線の検出)一例を説明するための図である。
図9B】第1実施形態に係るX線装置の動作(透過X線の検出)一例を説明するための図である。
図10A】第1実施形態に係るX線装置の動作(物質の数の判定)の一例を説明するための図である。
図10B】第1実施形態に係るX線装置の動作(物質の数の判定)の一例を説明するための図である。
図10C】第1実施形態に係るX線装置の動作(物質の数の判定)の一例を説明するための図である。
図11】第1実施形態に係る情報処理部が備える比率取得部の動作の一例(比率の取得)を説明するための図である。
図12A】第1実施形態に係る情報処理部が備える第2の情報生成部の動作の一例(変更前の頻度分布)を説明するための図である。
図12B】第1実施形態に係る情報処理部が備える第2の情報生成部の動作の一例(変更後の頻度分布)を説明するための図である。
図13A】第1実施形態に係る情報処理部が備える第2の情報生成部の動作の一例(変更前の頻度分布に対応する画像)を説明するための図である。
図13B】第1実施形態に係る情報処理部が備える第2の情報生成部の動作の一例(変更後の頻度分布に対応する画像)を説明するための図である。
図14A】第1実施形態に係る情報処理部が備える第2の情報生成部の動作の一例(頻度分布の変更の手法)を説明するための図である。
図14B】第1実施形態に係る情報処理部が備える第2の情報生成部の動作の一例(頻度分布の変更の手法)を説明するための図である。
図14C】第1実施形態に係る情報処理部が備える第2の情報生成部の動作の一例(頻度分布の変更の手法)を説明するための図である。
図15】第2実施形態に係るX線装置が備える情報処理部の一例を示す図である。
図16】第2実施形態に係る情報処理部の動作(比率の取得)の一例を説明するための図である。
図17】第3実施形態に係るX線装置が備える情報処理部の一例を示す図である。
図18】第3実施形態に係るX線装置の動作の流れを示すフローチャートである。
図19】第4実施形態に係るX線装置の動作の一例を説明するための図である。
図20】X線装置を備えた構造物製造システムの一例を示す図である。
図21】構造物製造システムによる処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されない。以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部の位置関係について説明する。水平面内の所定方向をZ軸方向、水平面内においてZ軸方向と直交する方向をX軸方向、Z軸方向及びX軸方向のそれぞれと直交する方向(すなわち鉛直方向)をY軸方向とする。また、X軸、Y軸、及びZ軸まわりの回転(傾斜)方向をそれぞれ、θX、θY、及びθZ方向とする。
【0013】
<第1実施形態>
第1実施形態について説明する。
図1は、第1実施形態に係るX線装置1の一例を示す図である。
【0014】
X線装置1は、測定物SにX線XLを照射して、その測定物Sを透過した透過X線を検出する。X線は、例えば波長1pm〜30nm程度の電磁波である。X線は、約50eVの超軟X線、約0.1〜2keVの軟X線、約2〜20keVのX線、及び約20〜100keVの硬X線の少なくとも一つを含む。
【0015】
本実施形態において、測定物Sは複数種類の物質を含む。本実施形態において、説明の便宜上、測定物Sは、第1の物質と第2の物質の2種類の物質を含み、第1の物質は例えば鉛であり、第2の物質は例えば鉄である。ただし、この例に限定されず、第1の物質及び第2の物質は異なる種類の物質であれば、どのような物質であってもよく、物質の種類の数は任意である。また、異なる種類の物質を例えばX線の吸収係数が異なる物質として定義してもよいが、この例に限定されない。
【0016】
本実施形態において、X線装置1は、測定物SにX線を照射して、その測定物Sを透過した透過X線を検出して、その測定物Sの内部の情報(例えば、内部構造)を非破壊で取得するX線CT検査装置を含む。本実施形態において、測定物Sは、例えば機械部品、電子部品等の産業用部品を含む。X線CT検査装置は、産業用部品にX線を照射して、その産業用部品を検査する産業用X線CT検査装置を含む。
【0017】
図1において、X線装置1は、X線XLを射出するX線源2と、測定物Sを保持して移動可能なステージ装置3と、X線源2から射出され、ステージ装置3に保持された測定物Sを透過した透過X線を検出する検出器41と、測定物Sに照射されるX線の強度Iと測定物Sを透過した透過X線の強度Iとの割合(I/I)をX線のエネルギー毎に検出する検出部42と、X線装置1全体の動作を制御する制御装置5とを備える。本実施形態において、検出部42は例えばスペクトル計である。以下では、検出部42がスペクトル計であるものとするが、検出部42はスペクトル計に限定されない。
【0018】
また、本実施形態において、X線装置1は、X線源2から射出されるX線XLが進行する内部空間SPを形成するチャンバ部材6を備えている。本実施形態において、X線源2、ステージ装置3、及び検出器4は、内部空間SPに配置される。
【0019】
本実施形態において、チャンバ部材6は、支持面FR上に配置される。支持面FRは、工場等の床面を含む。チャンバ部材6は、複数の支持部材6Sに支持される。チャンバ部材6は、支持部材6Sを介して、支持面FR上に配置される。本実施形態においては、支持部材6Sにより、チャンバ部材6の下面と、支持面FRとは離れる。すなわち、チャンバ部材6の下面と支持面FRとの間に空間が形成される。なお、チャンバ部材6の下面の少なくとも一部と支持面FRとが接触してもよい。
【0020】
本実施形態において、チャンバ部材6は、鉛を含む。チャンバ部材6は、内部空間SPのX線XLが、チャンバ部材6の外部空間RPに漏出することを抑制する。
【0021】
本実施形態おいて、X線装置1は、チャンバ部材6に取り付けられ、チャンバ部材6よりも熱伝導率が小さい部材6Dを有する。本実施形態において、部材6Dは、チャンバ部材6の外面に配置される。部材6Dは、内部空間SPの温度が外部空間RPの温度(温度変化)の影響を受けることを抑制する。すなわち、部材6Dは、外部空間RPの熱が内部空間SPに伝わることを抑制する断熱部材として機能する。部材6Dは、例えばプラスチックを含む。本実施形態において、部材6Dは、例えば発泡スチロールを含む。
【0022】
X線源2は、測定物SにX線XLを照射する。X線源2は、X線XLを射出する射出部8を有する。X線源2は、点X線源を形成する。本実施形態において、射出部8は、点X線源を含む。X線源2は、測定物Sに円錐状のX線(所謂、コーンビーム)を照射する。なお、X線源2は、射出するX線XLの強度を調整可能でもよい。X線源2から射出されるX線XLの強度を調整する場合、測定物SのX線吸収特性等に基づいてもよい。また、X線源2から射出されるX線の拡がる形状は円錐状に限られず、例えば、扇状のX線(所謂、ファンビーム)でもよい。また、例えば、線状のX線(所謂、ペンシルビーム)でもよい。
【0023】
射出部8は、+Z方向を向いている。本実施形態において、射出部8から射出されたX線XLの少なくとも一部は、内部空間SPにおいて、+Z方向に進行する。
【0024】
ステージ装置3は、測定物Sを保持して移動可能なステージ9と、ステージ9を移動する駆動システム10とを備えている。
【0025】
本実施形態において、ステージ9は、測定物Sを保持する保持部11を有するテーブル12と、テーブル12を移動可能に支持する第1可動部材13と、第1可動部材13を移動可能に支持する第2可動部材14と、第2可動部材14を移動可能に支持する第3可動部材15とを有する。
【0026】
テーブル12は、保持部11に測定物Sを保持した状態で回転可能である。テーブル12は、θY方向に移動(回転)可能である。第1可動部材13は、X軸方向に移動可能である。第1可動部材13がX軸方向に移動すると、第1可動部材13とともに、テーブル12がX軸方向に移動する。第2可動部材14は、Y軸方向に移動可能である。第2可動部材14がY軸方向に移動すると、第2可動部材14とともに、第1可動部材13及びテーブル12がY軸方向に移動する。第3可動部材15は、Z軸方向に移動可能である。第3可動部材15がZ軸方向に移動すると、第3可動部材15とともに、第2可動部材14、第1可動部材13、及びテーブル12がZ軸方向に移動する。
【0027】
本実施形態において、駆動システム10は、第1可動部材13上においてテーブル12を回転させる回転駆動装置16と、第2可動部材14上において第1可動部材13をX軸方向に移動する第1駆動装置17と、第2可動部材14をY軸方向に移動する第2駆動装置18と、第3可動部材15をZ軸方向に移動する第3駆動装置19とを含む。
【0028】
第2駆動装置18は、第2可動部材14が有するナットに配置されるねじ軸20Bと、ねじ軸20Bを回転させるアクチュエータ20とを備える。ねじ軸20Bは、ベアリング21A、21Bによって回転可能に支持される。本実施形態において、ねじ軸20Bは、そのねじ軸20Bの軸線とY軸とが実質的に平行となるように、ベアリング21A、21Bに支持される。本実施形態において、第2可動部材14が有するナットとねじ軸20Bとの間にボールが配置される。すなわち、第2駆動装置18は、所謂、ボールねじ駆動機構を含む。
【0029】
第3駆動装置19は、第3可動部材15が有するナットに配置されるねじ軸23Bと、ねじ軸23Bを回転させるアクチュエータ23とを備える。ねじ軸23Bは、ベアリング24A、24Bによって回転可能に支持される。本実施形態において、ねじ軸23Bは、そのねじ軸23Bの軸線とZ軸とが実質的に平行となるように、ベアリング24A、24Bに支持される。本実施形態において、第3可動部材15が有するナットとねじ軸23Bとの間にボールが配置される。すなわち、第3駆動装置19は、所謂、ボールねじ駆動機構を含む。
【0030】
第3可動部材15は、第2可動部材14をY軸方向にガイドするガイド機構25を有する。ガイド機構25は、Y軸方向に長いガイド部材25A、25Bを含む。アクチュエータ20、及びねじ軸20Bを支持するベアリング21A、21Bを含む第2駆動装置18の少なくとも一部は、第3可動部材15に支持される。アクチュエータ20がねじ軸20Bを回転することによって、第2可動部材14は、ガイド機構25にガイドされながら、Y軸方向に移動する。
【0031】
本実施形態において、X線装置1は、ベース部材26を有する。ベース部材26は、チャンバ部材6に支持される。本実施形態において、ベース部材26は、支持機構を介して、チャンバ部材6の内壁(内面)に支持される。ベース部材26の位置は、所定の位置で固定される。
【0032】
ベース部材26は、第3可動部材15をZ軸方向にガイドするガイド機構27を有する。ガイド機構27は、Z軸方向に長いガイド部材27A、27Bを含む。アクチュエータ23、及びねじ軸23Bを支持するベアリング24A、24Bを含む第3駆動装置19の少なくとも一部は、ベース部材26に支持される。アクチュエータ23がねじ軸23Bを回転することによって、第3可動部材15は、ガイド機構27にガイドされながら、Z軸方向に移動する。
【0033】
なお、図示は省略するが、本実施形態において、第2可動部材14は、第1可動部材13をX軸方向にガイドするガイド機構を有する。第1駆動装置17は、第1可動部材13をX軸方向に移動可能なボールねじ機構を含む。回転駆動装置16は、テーブル12をθY方向に移動(回転)可能なモータを含む。
【0034】
本実施形態において、テーブル12に保持された測定物Sは、駆動システム10によって、X軸、Y軸、Z軸、及びθY方向の4つの方向に移動可能である。なお、駆動システム10は、テーブル12に保持された測定物Sを、X軸、Y軸、Z軸、θX、θY、及びθZ方向の6つの方向に移動させてもよい。また、本実施形態においては、駆動システム10は、ボールねじ駆動機構を含むこととしたが、例えば、ボイスコイルモータを含んでもよい。例えば、駆動システム10は、リニアモータを含んでもよいし、平面モータを含んでもよい。
【0035】
本実施形態において、ステージ9は、内部空間SPにおいて移動可能である。ステージ9は、射出部8の+Z側に配置される。ステージ9は、内部空間SPのうち、射出部8よりも+Z側の空間で移動可能である。ステージ9の少なくとも一部は、射出部8と対向可能である。ステージ9は、保持した測定物Sを、射出部8と対向する位置に配置可能である。ステージ9は、射出部8から射出されたX線XLが通過する経路上に、測定物Sを配置可能である。ステージ9は、射出部8から射出されたX線XLの照射範囲内に、配置可能である。
【0036】
本実施形態において、X線装置1は、ステージ9の位置を計測する計測システム28を備えている。本実施形態において、計測システム28は、エンコーダシステムを含む。
【0037】
計測システム28は、テーブル12の回転量(θY方向に関する位置)を計測するロータリーエンコーダ29と、X軸方向に関する第1可動部材13の位置を計測するリニアエンコーダ30と、Y軸方向に関する第2可動部材14の位置を計測するリニアエンコーダ31と、Z軸方向に関する第3可動部材15の位置を計測するリニアエンコーダ32とを有する。
【0038】
本実施形態において、ロータリーエンコーダ29は、第1可動部材13に対するテーブル12の回転量を計測する。リニアエンコーダ30は、第2可動部材14に対する第1可動部材13の位置(X軸方向に関する位置)を計測する。リニアエンコーダ31は、第3可動部材15に対する第2可動部材14の位置(Y軸方向に関する位置)を計測する。リニアエンコーダ32は、ベース部材26に対する第3可動部材15の位置(Z軸方向に関する位置)を計測する。
【0039】
ロータリーエンコーダ29は、例えば第1可動部材13に配置されたスケール部材29Aと、テーブル12に配置され、スケール部材29Aの目盛を検出するエンコーダヘッド29Bとを含む。スケール部材29Aは、第1可動部材13に固定されている。エンコーダヘッド29Bは、テーブル12に固定されている。エンコーダヘッド29Bは、スケール部材29A(第1可動部材13)に対するテーブル12の回転量を計測可能である。
【0040】
リニアエンコーダ30は、例えば第2可動部材14に配置されたスケール部材30Aと、第1可動部材13に配置され、スケール部材30Aの目盛を検出するエンコーダヘッド30Bとを含む。スケール部材30Aは、第2可動部材14に固定されている。エンコーダヘッド30Bは、第1可動部材13に固定されている。エンコーダヘッド30Bは、スケール部材30A(第2可動部材14)に対する第1可動部材13の位置を計測可能である。
【0041】
リニアエンコーダ31は、第3可動部材15に配置されたスケール部材31Aと、第2可動部材14に配置され、スケール部材31Aの目盛を検出するエンコーダヘッド31Bとを含む。スケール部材31Aは、第3可動部材15に固定されている。エンコーダヘッド31Bは、第2可動部材14に固定されている。エンコーダヘッド31Bは、スケール部材31A(第3可動部材15)に対する第2可動部材14の位置を計測可能である。
【0042】
リニアエンコーダ32は、ベース部材26に配置されたスケール部材32Aと、第3可動部材15に配置され、スケール部材32Aの目盛を検出するエンコーダヘッド32Bとを含む。スケール部材32Aは、ベース部材26に固定されている。エンコーダヘッド32Bは、第3可動部材15に固定されている。エンコーダヘッド32Bは、スケール部材32A(ベース部材26)に対する第3可動部材15の位置を計測可能である。
【0043】
検出器41及び検出部42は、内部空間SPにおいて、X線源2及びステージ9よりも+Z側に配置される。検出器41の位置は、所定の位置で固定される。なお、検出器41が移動可能でもよい。検出部42は、検出器41よりも−Z側に配置される。本実施形態において、検出部42は、X軸方向に移動可能に配置される。ステージ9は、内部空間SPのうち、X線源2と検出器41(又は検出部42)との間の空間を移動可能である。
【0044】
本実施形態において、検出器41は、測定物Sを透過した透過X線を含むX線源2からのX線XLが入射する入射面33を有するシンチレータ部34と、シンチレータ部34において発生した光を受光する受光部35とを有する。検出器41の入射面33は、ステージ9に保持された測定物Sと対向可能である。
【0045】
シンチレータ部34は、X線が当たることによって、そのX線とは異なる波長の光を発生させるシンチレーション物質を含む。受光部35は、光電子倍増管を含む。光電子倍増管は、光電効果により光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電管を含む。受光部35は、シンチレータ部34において発生した光を増幅し、電気信号に変換して出力する。
【0046】
検出器41は、シンチレータ部34を複数有する。シンチレータ部34は、XY平面内において複数配置される。シンチレータ部34は、アレイ状に配置される。検出器41は、複数のシンチレータ部34のそれぞれに接続するように、受光部35を複数有する。なお、検出器41は、入射するX線を、光に変換することなく直接電気信号に変換してもよい。
【0047】
本実施形態において、検出部42は、検出器41と共にチャンバ6の内部空間SPに配置される。
図2A及び図2Bは、検出器41及び検出部42の配置の一例を示す図であり、図1に示すX線装置1をY軸方向から見た図である。このうち、図2Aは、検出部42が測定物Sを透過した透過X線のスペクトルを検出する場合のX線源2と検出器41と検出部42の配置例を示す。図2Bは、検出器41が測定物Sを透過した透過X線を検出する場合のX線源2と検出器41と検出部42の配置例を示す。また、図3A及び図3Bは、検出器41及び検出部42の他の配置例を示す図であり、X軸方向からX線を照射して透過X線のスペクトルを検出する場合の配置例を示す。このうち、図3Aは、X軸方向にX線を照射するために、Z軸上のX線源2とは別にX軸上にX線源21を配置した例を示す。図3Bは、X軸方向にX線を照射するために、Z軸上のX線源2をX軸上に移動させる例を示す。
【0048】
図2Aに示すように、検出部42は、内部空間SPにおいて、検出器41よりも−Z側に配置される。また、図2Bに示すように、検出部42は、X軸方向に移動可能である。測定物Sを透過した透過X線のスペクトルを検出部42が検出する場合、図2Aに示すように、検出部42は、X線XLの通過経路上に配置され、且つ、検出器41よりも−Z側の所定位置に配置される。また、測定物Sを透過した透過X線の強度を検出器41が検出する場合、図2Bに示すように、検出部42は、上述の図2Aに示す所定位置から+X側に移動され、X線XLの通過経路から退去される。制御装置5は、検出部42の移動を制御する。
【0049】
検出器41及び検出部42の配置は図2A及び図2Bに示す例に限定されない。例えば、図2A及び図2Bに示す例において、検出器41の位置と検出部42の位置とが入れ替えられ、検出器41がX軸方向に移動可能であってもよい。また、例えば、検出器41の位置と検出部42の位置とが入れ替えられ、検出部42がX軸方向に移動可能であってもよい。
【0050】
また、図3Aに示すように、X線源2とは異なるX線源21が測定物Sの+X側に配置され、このX線源21と対向するように、検出部42が測定物Sの−X側に配置されてもよい。換言すれば、X軸に沿って、X線源2とは異なるX線源21と検出部42が測定物Sを挟んで配置されてもよい。図3Aに示す例において、X線源21と測定物Sと検出部42の相対的位置は、前述の図2Aに示すX線源2と測定物Sと検出部42の相対的位置と同じである。
【0051】
また、例えば、図3Bに示すように、検出部42が測定物Sの−X側に配置され、X線源2が測定物Sの−Z側から+X側に移動可能であってもよい。図3Bに示す例においても、X線源2と測定物Sと検出部42の相対的位置は、前述の図2Aに示すX線源2と測定物Sと検出部42の相対的位置と同じである。
なお、本実施形態において、X線装置1は、内部空間SPの温度を調節するための機構を備えてもよい。
【0052】
制御装置5は、情報処理部100と記憶部101を備える。記憶部101は、検出器41により検出されたデータと、検出部42により検出されたデータを格納する。本実施形態において、検出器41により検出されたデータは、測定物Sに多方向からX線XLを照射したときに得られるデータであり、X線の吸収係数μを表すデータ(以下、「X線吸収データDX」と称す。)である。
【0053】
ここで、X線の吸収係数μは、以下の数式により表される。
【0054】
【数1】
【0055】
上記数式において、Iは、X線源2から測定物Sに照射されるX線XLの強度を表し、Iは、測定物Sを透過した透過X線の強度を表し、μは測定物SにおけるX線の吸収係数を表し、xは測定物SにおけるX線XLの通過経路の長さを表す。
【0056】
本実施形態では、3次元空間を所定体積の単位で区切る。所定体積の単位を、X方向、Y方向、Z軸方向に、配置することで、所定体積の単位で3次元空間を表現する。以下、本実施形態においては、所定体積の単位を、区画と呼ぶ。複数3次元空間を所定体積の単位を、ボクセルと呼んでも構わない。所定体積の単位のそれぞれに、X線の吸収係数μを当てはめる。3次元に配置される、所定体積の単位にX線吸収係数μを当てはめることで、3次元形状の測定物Sを吸収係数で表現することが可能である。3次元空間内の、所定体積の単位もしくは、所定体積の大きさを一定にすることで、吸収係数μだけでなく、I/Iで表現しても構わない。本実施形態において、X線吸収データDXは、後述の情報処理部100において逆投影法により画像を再構築するために使用される。本実施形態において、X線吸収データSXは吸収係数μを表すデータであるものとするが、この例に限定されず、画像の再構築に利用可能であれば、どのような形式のデータであってもよい。なお、本実施形態において、X線装置1が情報処理部100を有しているが、これに限られない。例えば、複数のX線装置1に接続された情報処理部100であっても構わない。
この場合には、複数のX線装置1のそれぞれに情報処理部100はなく、複数のX線装置1からの情報が情報処理部100に送られる。
【0057】
一方、検出部42により検出されたデータは、測定物Sに一方向からX線XLを照射したときに検出部42により得られるデータであり、X線の強度をX線のエネルギー毎に表すデータ(以下、「X線スペクトルデータDS」と称す。)である。検出部42により検出されたX線のスペクトルデータDSは、測定物Sを透過するX線の強度をX線の波長毎に表すデータである。また、測定物Sに照射するX線の強度を用いることで、測定物Sの波長毎の照射されるX線の強度と、測定物Sを透過する透過X線の強度との割合を、X線の波長毎にデータとして表すことが可能である。
【0058】
情報処理部100は、測定物Sに含まれた第1の物質と第2の物質との比率に応じて、上記透過X線の検出により得られる第1の検出情報から、この第1の検出情報とは異なる第2の検出情報を生成するように構成される。また、本実施形態において、情報処理部100は、上述の第1の物質と第2の物質との比率に応じて、第1の検出情報から第2の検出情報を生成する。その詳細については後述する。
【0059】
本実施形態において、測定物Sに含まれた第1の物質と第2の物質との比率は、例えば、測定物Sに含まれる第1の物質と第2の物質との体積比であるが、これに限定されない。例えば、測定物Sに含まれる第1の物質と第2の物質との重量比でも構わない。第1の検出情報及び第2の検出情報は、測定物の形状および測定物の内部の形状に関する情報であり、第2の検出情報は第1の検出情報と異なる情報である。第1の検出情報は、例えば、X線吸収データDXから算出される測定物Sの形状および内部の形状に関する画像である。例えば、第1の検出情報は、X線吸収データDXから算出される測定物Sの形状および内部の形状に関する画像の少なくとも一部でも構わない。例えば、第1の検出情報は、図1のテーブル12に置かれた測定物Sにおける、Y方向のある位置における測定物のSの形状および内部の形状に関する画像でも構わない。また、例えば、第1の検出情報は、図1のテーブル12に置かれた測定物Sにおける、Y方向のある位置におけるXY平面での、測定物Sの内部の形状の一部分だけでも構わない。即ち、本実施形態において、第1の検出情報は、測定物Sを含む所定の空間に対応する画像上の複数の区画に吸収係数を当てはめることにより生成された情報であり、測定物Sの形状および測定物Sの内部の形状を表示するための情報を含む。第2の検出情報は、例えば測定物Sに含まれた第1の物質と第2の物質との比率に基づき第1の検出情報を画像処理することにより生成される、測定物Sの形状および測定物Sの内部の形状に関する情報である。第2の検出情報は、測定物Sの形状および測定物Sの内部の形状を表す画像でもかまないし、その画像を表すために用いられる数値情報でも構わない。
【0060】
図4は、情報処理部100の構成の一例を示す図である。
情報処理部100は、第1の情報生成部110、比率取得部120、第2の情報生成部130を備える。第1の情報生成部110は、測定物Sに対してX線の照射方向が異なる複数の透過X線の検出結果に基づいて、上記第1の物質を第1の吸収係数として表し、上記第2の物質を第1の吸収係数とは異なる第2の吸収係数として表した情報を、第1の検出情報D1として生成するように構成される。換言すると、第1の情報生成部110は、検出器41の検出結果であるX線吸収データDXに基づいて、各物質に関するX線の吸収係数μの分布を第1の検出情報D1として生成するように構成される。このX線の吸収係数μの分布は、吸収係数μの値に応じた信号強度の分布として表される測定物Sの断層画像に対応する。本実施形態において、第1の情報生成部110は、逆投影法を用いてX線吸収データDXからX線吸収係数μの分布によって表される断層画像を第1の検出情報D1として生成するが、この例に限定されない。
なお、上述の「測定物Sに対してX線の照射方向が異なる複数の透過X線」とは、測定物Sを回転させながら測定物Sに異なる複数の方向からX線を照射した場合に得られる、上記複数の方向に対応した複数の透過X線を意味する。
【0061】
比率取得部120は、検出部42の検出結果であるX線スペクトルデータDSから、測定物Sに含まれた第1の物質と第2の物質との比率RTを算出するように構成される。即ち、比率取得部120は、X線スペクトルデータDSとして得られる第1の物質及び第2の物質に関する情報(例えば、物質の種類を特定する情報)に基づいて、第1の物質と第2の物質との比率RTを算出する。第2の情報生成部130は、測定物Sに含まれた第1の物質と第2の物質との比率RTに基づいて、第1の検出情報D1から第2の検出情報D2を生成するように構成される。X線スペクトルデータDSは、第1の物質と第2の物質とで、それぞれの物質の種類は特定されなくても構わない。例えば、第1の物質と第2の物質との、吸収係数μの値が算出されれば構わない。
【0062】
図5Aは、比率取得部120の一例を示す図である。
本実施形態において、比率取得部120は、上記第1の物質および第2の物質の、X線エネルギーに応じて照射されるX線が透過する割合の参照データRMを有する。比率取得部120は、検出部42での測定物Sの検出結果と、上記参照データRMとを比較することにより、第1の物質と第2物質との比率RTを算出する。本実施形態では、第1の物質と第2の物質に基づくX線スペクトルデータDSと、参照データRMとを対応づけることが可能である。また、X線スペクトルデータDSに含まれる、第1の物質および第2の物質の割合(比率)RTを、参照データRMを用いて算出することが可能である。比率取得部120は、後述するように、検出部42から得られるX線スペクトルデータDSのスペクトルと、参照データDSが備える第1の物質のスペクトルおよび第2の物質のスペクトルを加算することにより合成されるスペクトルとを比較することで、第1の物質と第2の物質との比率RTを特定するように構成される。もちろん、上記加算とは異なる手法で、第1の物質のスペクトルと第2の物質のスペクトルとから合成されるスペクトルを生成しても構わない。
詳細には、比率取得部120は、参照データ記憶部121と比率特定部122を備える。参照データ記憶部121は、X線スペクトルデータDSに対応する参照データRMを記憶する。比率取得部122は、参照データ記憶部121に記憶された参照データRMのうち、第1の物質及び第2の物質に関する情報と一致又は近似する参照データRMから、第1の物質と第2の物質との比率RTを特定するように構成される。
【0063】
図5Bは、参照データ記憶部121に記憶された参照データRMの一例を示す。参照データRMは、複数種類の物質の組み合わせに関する情報と、その複数種類の物質の比率(体積比)に関する情報と、その複数種類の物質を透過した透過X線から得られることが推定されるX線スペクトルデータDSに対応する波形データを含む。参照データRMは、例えば、物質Aと物質Bとの組み合わせについて、物質Aと物質Bとの体積比が4:1の場合において得られるX線スペクトルデータDSの波形データRM1を含む。この場合では、X線スペクトルデータDSの波形データRM1から、物質Aと物質Bとの体積比を4:1と算出することができる。参照データRMは、物質Aと物質B以外に複数種類の物質を任意の割合で組み合わせにより波形データを含む。また、任意の割合には、2種類の物質だけではなく、3種類以上の組み合わせも含む。また、参照データRMには、異なる物質の組み合わせだけではなく、単1種類の波形データも含まれる。参照データRMは、物質Aと物質Bとの体積比が4:1の物質を透過した透過X線に基づいて、波形データRM1を作成しても構わない。なお、参照データRMは波形データRM1のように波形の形状のデータである必要はなく、エネルギーeVとX線強度の割合(I/I)とで対応する値のみでも構わない。
【0064】
図6は、第2の情報生成部130の一例を示す図である。本実施形態において、第2の情報生成部130は、分布生成部131と分布変更部132を備える。分布生成部131は、第1の検出情報D1から、測定物Sを含む所定の空間に対応する画像上の複数の区画に当てはめられた吸収係数μを表す信号強度の値の分布を生成するように構成される。信号強度の値の分布とは、縦軸に区画の数、横軸に信号強度の値をとった統計グラフである。この統計グラフを用いることで、所定の空間に対応する複数の区画の中での、吸収係数の頻度(割合)を算出することができる。これにより、測定物Sを含む所定の空間における、複数の区画に当てはめられた吸収係数μの分布を評価することができる。この分布の例は、図12Bに示されるが、その詳細については後述する。
【0065】
分布変更部132は、第1の検出情報D1として得られたX線の吸収係数の分布をなす吸収係数μを表示する信号強度を変化させることができる。これにより測定物Sを含む所定の空間に対応する画像上の複数の区画に当てはまる吸収係数μを変えることができる。上述のX線スペクトルデータDSとして得られる第1の物質および第2の物質に関する情報と、第1の物質と第2の物質との比率RTに基づいて、吸収係数μを表示する信号強度は変化させられる。本実施形態において、上記のX線の吸収係数の分布をなす吸収係数は、第1の物質に対応する第1の吸収係数と、第2の物質に対応する第2の吸収係数を含む。分布変更部132は、上述の比率RTに基づいて、第1の吸収係数及び第2の吸収係数の少なくとも一方を表示する信号強度を変化させる。
【0066】
次に、本実施形態に係るX線装置1の動作の一例について説明する。
図7は、本実施形態に係るX線装置1の動作の流れを示すフローチャートである。図7に示すように、X線装置1は、キャリブレーション(ステップS10)と、検出器41による透過X線の検出(ステップS11)と、検出部42による透過X線のスペクトルの検出(ステップS12)と、検出器41及び検出部42の各検出結果から測定物Sの内部に関する情報を取得する処理(ステップS13〜17,S20)を実行する。
【0067】
キャリブレーション(ステップS10)について説明する。本実施形態には、既知の大きさの物体にX線を照射する。既知の大きさの物体を所定の位置に配置した場合に得られる像の寸法(理想の寸法)と、透過X線に基づいて得られる像の寸法(実測の寸法)を比較する。比較した結果に基づいて、X線源2の射出部8の位置変動を補正する値を算出し、測定物Sの測定に反映させる。なお、透過X線に基づいて得られる像の寸法とは、検出器41が取得する像の寸法(大きさ)であり、例えば、入射面33に形成される像の寸法を含む。
【0068】
内部空間SPの温度が変化すると、熱変形等に起因してX線源2と測定物Sと検出部4との間の相対位置が変化し、その結果、透過X線に基づいて得られる像の寸法が変動する可能性がある。そのような像の寸法の変動を補正する補正値を得るためにキャリブレーションが実行される。本実施形態において、キャリブレーションは必須ではなく、省略してもよい。
【0069】
キャリブレーションにおいて、制御装置5は、前述の図2Bに示すように、検出部42を+X方向に移動させる。これにより、検出器41は、X線源2から射出されるX線XLを検出することが可能になる。
【0070】
キャリブレーションにおいて、テーブル12に測定物Sとは異なる基準部材(図示省略)が保持される。本実施形態において、基準部材は、例えば球体である。基準部材の外形(寸法)は、既知である。基準部材は、熱変形が抑制された物体である。基準部材は、少なくとも測定物Sよりも熱変形が抑制された物体である。内部空間SPにおいて温度が変化しても、基準部材の外形(寸法)は、実質的に変化しない。なお、本実施形態では、基準部材の形状は球体に限られない。
【0071】
制御装置5は、計測システム28でステージ9の位置を計測しつつ、駆動システム10を制御して、基準部材を保持したステージ9の位置を調整する。制御装置5は、基準位置Prに基準部材が配置されるように、ステージ9の位置を調整する。
【0072】
制御装置5は、X線源2からX線を射出させる。X線源2から発生したX線XLは、基準部材に照射される。所定温度Taにおいて、基準部材にX線源2からのX線XLが照射されると、その基準部材に照射されたX線XLは、基準部材を透過する。基準部材を透過した透過X線は、検出器41の入射面33に入射する。検出器41は、基準部材を透過した透過X線を検出する。所定温度Taにおいて、検出器41は、基準部材を透過した透過X線に基づいて得られた基準部材の像を検出する。本実施形態において、所定温度Taにおいて得られる基準部材の像の寸法(大きさ)は、寸法Waである。
【0073】
また、内部空間SPが基準温度(理想温度、目標温度)Trである場合、基準位置Prに配置されている基準部材Rに照射されたX線XLに基づいて検出器41が取得する像の寸法は、基準寸法Wrとなることが事前に把握されている。温度Taにおいて得られた寸法Waと基準温度Trにおける基準寸法Wrとの関係に基づいて、像の寸法の温度による変動分を補正することができる。本実施形態において、例えば、透過X線に基づいて得られる像の寸法の温度による変動分を補正する補正値は、Wr/Waである。
【0074】
制御装置5は、後述の測定物Sの内部に関する情報を取得するための処理において、例えば、所定温度Taにおいて得られた測定物Sの像の寸法がWsである場合、その寸法Wsに、補正値であるWr/Waを乗ずる。すなわち、制御装置5は、演算Ws×(Wr/Wa)を実行する。これにより、内部空間SPの実際の温度が所定温度Taの場合でも、基準温度Trにおける測定物Sの像(像の寸法)を算出することができる。
【0075】
上述のキャリブレーションに続いて、制御装置5は、測定物Sを透過した透過X線の検出を実行する(ステップS11)。図8は、透過X線の検出の一例を説明するための模式図である。図8に示すように、透過X線の検出において、テーブル12には、上述の基準部材に代えて、測定物Sが保持される。制御装置5は、ステージ装置3を制御して、測定物SをX線源2と検出器41との間に配置する。
【0076】
制御装置5は、計測システム28でステージ9の位置を計測しつつ、駆動システム10を制御して、測定物Sを保持したステージ9の位置を調整する。
【0077】
制御装置5は、X線源2からX線XLを発生させる。X線源2から発生したX線XLの少なくとも一部は、測定物Sに照射される。測定物SにX線源2からのX線XLが照射されると、その測定物Sに照射されたX線XLの少なくとも一部は、測定物Sを透過する。測定物Sを透過した透過X線は、検出器41の入射面33に入射する。検出器41は、測定物Sを透過した透過X線を検出する。検出器41の検出結果は制御装置5に出力される。本実施形態において、検出器41の検出結果は、前述のX線吸収データDXである。
【0078】
本実施形態において、制御装置5は、測定物SにおけるX線源2からのX線XLの照射領域を変えるために、測定物Sの位置を変えながら、その測定物SにX線源2からのX線XLを照射する。すなわち、制御装置5は、複数の測定物Sの位置ごとで、測定物SにX線源2からのX線XLを照射し、その測定物Sを透過した透過X線を、検出器41で検出する。
【0079】
本実施形態において、制御装置5は、測定物Sを保持したテーブル12を回転して、X線源2に対する測定物Sの位置を変えることによって、測定物SにおけるX線源2からのX線XLの照射領域を変える。
【0080】
すなわち、本実施形態において、制御装置5は、測定物Sを保持したテーブル12を回転させながら、その測定物SにX線XLを照射する。テーブル12の各位置(各回転角度)において測定物Sを通過した透過X線は、検出器41に検出される。
【0081】
図9A及び図9Bは、回転するテーブル12上の測定物Sを透過した透過X線から得られるX線吸収データDXを説明するための図である。図9Aは、X線吸収データDSを得るときの測定物SとX線源2と検出器41との相対的位置関係を示す図である。図9Bは、図9Aに示す検出器41により得られるX線吸収データDXの意味を説明するための図である。
【0082】
前述したように、透過X線の検出において、テーブル12上の測定物Sが回転される。換言すれば、図9Aに示すように、測定物Sを基準として相対的にX線源2及び検出器41が測定物Sの周囲を移動する。図9Aにおいて、X線源2A,2B,2C及び検出器41A,41B,41Cは、テーブル12上の測定物Sが反時計方向に回転することによりX線源2及び検出部41が相対的に測定物Sの周囲を時計方向に移動する様子を表している。
【0083】
図9Aに示すように、テーブル12上の測定物Sが回転することにより、測定物Sに多方向からX線が照射され、各照射方向から透過X線が検出器41に検出される。そして、X線の各照射方向に対応したX線吸収データDXが得られる。
【0084】
図9Bに示すパターンPDXAは、図9Aにおいて、X線源2及び検出器41がX線源2A及び検出器41Aの位置にいるときに検出されたX線吸収データDXから得られる。このパターンPDXAは、X線源2及び検出器41がX線源2A及び検出器41Aの位置にいるときのX線XLの通過経路上の吸収係数μを表している。図9Bに示すパターンPTB,PTCも同様である。従って、本実施形態において、X線吸収データDXは、測定物Sの内部におけるX線の通過経路上の吸収係数μを表す。図9A及び図9Bは、説明の便宜上、3方向から測定物SにX線を照射した例を示すが、この例に限定されない。
【0085】
制御装置5は、検出器41の検出結果として得られたX線吸収データDXを記憶部101に格納する。本実施形態において、X線吸収データDXは、測定物Sの内部の情報である第1の検出情報D1を生成するためのデータとして用いられる。例えば、X線吸収データDXは、後述の情報処理部100において、逆投影法を用いて測定物Sの断層画像を再構築するためのデータとして用いられる。
【0086】
上述の透過X線の検出に続いて、制御装置5は、透過X線のスペクトルの検出を実行する(ステップS12)。本実施形態において、制御装置5は、図2Aに示すように、検出部42を、−X方向に移動させる。即ち、制御装置5は、検出部42を、X線XLの通過経路上の位置であって、検出器41よりも−Z側の所定位置に移動させる。これにより、検出部42は、測定物Sを透過した透過X線のスペクトルを検出することが可能になる。
【0087】
本実施形態において、検出部42により透過X線のスペクトルを検出する場合、制御装置5は、測定物Sを保持したテーブル12の回転を停止させる。即ち、制御装置5は、測定物Sに対するX線XLの照射方向を固定する。ただし、この例に限定されず、制御装置5は、測定物Sを保持したテーブル12を回転させてもよい。この場合、多方向からX線が測定物Sに照射され、X線の照射方向に応じた複数のスペクトルを積算してもよい。この積算された複数のスペクトルを平均化することにより、安定的にX線のスペクトルを検出することができる。
【0088】
本実施形態において、制御装置5は、テーブル12の回転を停止させた状態で、X線源2からX線XLを発生させる。X線源2から発生したX線XLの少なくとも一部は、測定物Sに照射される。測定物SにX線源2からX線XLが照射されると、その測定物Sに照射されたX線XLの少なくとも一部は、測定物Sを透過する。測定物Sを透過した透過X線は、検出部42の入射面33Sに入射する。検出部42は、測定物Sを透過した透過X線をX線のエネルギー毎に分解して得られるスペクトルを検出する。検出部42の検出結果は、制御装置5に出力される。制御装置5は、検出部42の検出結果をX線スペクトルデータDSとして記憶部101に格納する。検出部42により検出されたX線スペクトルデータDSの例は、例えば、後述の図10Cに示される。
【0089】
上述のX線スペクトルの検出に続いて、制御装置5は、測定物Sに含まれる物質が単一であるか否かを判定する(ステップS13)。本実施形態において、制御装置5は、記憶部101に格納されたX線スペクトルデータDSから、測定物Sに含まれる物質の種類が単一であるか否を判定する。なお、測定物Sに含まれる物質の種類が単一であるか否かを事前に判定済みである場合は、省略しても構わない。
【0090】
図10Aから図10Cは、測定物Sに含まれる物質の種類が単一であるか否を判定するための原理を説明するための説明図であり、X線スペクトルデータDSを波形により表現したものである。図10Aから図10Cにおいて、横軸は、X線のエネルギー(eV)を表し、縦軸は、X線の照射方向と直交する平面の単位面積あたり測定物Sに照射されるX線の強度Iと、測定物Sを透過した透過X線の強度Iとの割合(I/I)を表す。
【0091】
図10Aは、参照データRDとして事前に準備された物質AのX線スペクトルデータRDAと、物質Aとは異なる種類の物質BのX線スペクトルデータRDBを模式的に示す。図10Aは、2種類の物質A及び物質BのX線スペクトルデータRDA,RDBのみを示しているが、測定物Sに含まれる可能性のある全ての物質のX線スペクトルデータが参照データRDとして事前に準備される。
【0092】
図10Bは、検出部42によって検出された測定物SのX線スペクトルデータRDX(実線)を模式的に示す。X線スペクトルデータRDXの値は、測定物Sの寸法などの影響を受けるが、その波形の特徴は物質毎に固有である。従って、図10Bに示すX線スペクトルデータRDXの波形の特徴が、図9Aに示す参照データRDの波形の特徴と一致又は近似するかどうかを検証することにより、測定物Sに含まれる物質の種類が単一か否かを判定することができる。この場合、測定物Sの寸法などの影響を排除するために、X線スペクトルデータRDXの波形の特徴が阻害されない限度においてX線スペクトルデータRDXの波形の高さを調整する。
【0093】
図10Bに示す例では、X線スペクトルデータRDXA(波線)は、X線スペクトルデータRDXの高さを調整することにより得られたものである。本実施形態では、X線スペクトルデータRDXの高さの調整は、測定物Sの寸法などの影響を考慮した適切な重みをX線スペクトルデータRDXに乗算することにより行われる。図10Bに示すX線スペクトルデータRDXAの波形の特徴は、図10Aに示す参照データRDをなすX線スペクトルデータRDBの波形の特徴と近似する。従って、図10Bに示すX線スペクトルデータRDXが得られた測定物Sには、図10Aに示すX線スペクトルデータRDBを与える物質Bと同じ1種類の物質が含まれていると推定することができる。
【0094】
これに対し、図10Cに示されるX線スペクトルデータRDYに任意の重みを乗算しても、このX線スペクトルデータRDYから、図10Aに示される吸収量スペクトルRDA,RDBと一致又は近似する波形を得ることはできない。従って、X線スペクトルデータRDYが得られた測定物に含まれる物質は、少なくとも、物質A及び物質Bの何れか1種類のみではないと推定することができる。また、図10Cに示されるスペクトルデータRDYに任意の重みを乗算しても、図10Aに示される吸収量スペクトルRDA,RDBを含む全ての参照データRDの波形と一致又は近似しなければ、図10Cに示されたX線スペクトルデータRDYが得られた測定物Sは、単一の物質ではなく、複数種類の物質を含むと推定することができる。以上により、測定物Sに含まれる物質の種類が単一であるか否を判定することができる。なお、事前に測定物Sに含まれる、種類が特定されている場合には、検出部42によって検出された測定物SのX線スペクトルデータRDXより、特定されている種類のそれぞの比率を算出しても構わない。
【0095】
本実施形態において、制御装置5は、前述のステップS12により得られたX線スペクトルデータDSを記憶部101から読み出し、上述の原理に従って、測定物Sに含まれる物質の種類が単一か否かを判定する(ステップS13)。制御装置5は、測定物Sに含まれる物質の種類が単一であると判定した場合(ステップS13:YES)、例えば一般的な手法を用いて、記憶部101に格納されたX線吸収データDXから測定物Sの内部の情報を生成する(ステップS20)。測定物Sに含まれる物質の種類が単一である場合、測定物Sの内部の形状を吸収係数μで表現する場合に、吸収係数μの値は一種類である。したがって、測定物Sの内部において、物質の所定空間におけるX線の吸収は一定であることから、X線の線質の変化に伴う偽像の発生を抑制される。これにより、測定物Sの形状および測定物Sの内部の形状を吸収係数μで表現することができる。本実施形態においては、制御装置5は、逆投影法を用いてX線吸収データDXから測定物Sの断層画像を再構築する。
【0096】
これに対し、制御装置5が、測定物Sに含まれる物質の種類が単一ではないと判定した場合(ステップS13:NO)、即ち、測定物Sに含まれる物質の種類が複数であると判定した場合、制御装置5に備えられた情報処理部100が、以下に説明するように、測定物Sの内部に関する情報の品質の低下を抑制するための処理(ステップS14〜S17)を実施する。
【0097】
情報処理部100は、制御装置5の記憶部101から前述のステップS11により得られたX線吸収データDXを読み出す。本実施形態において、情報処理部100を構成する第1の情報生成部110は、逆投影法を用いて、上述のX線吸収データDXから第1の検出情報D1として測定物Sの断層画像を再構築する(ステップS14)。本実施形態において、第1の情報生成部110は、X線吸収データDXから、測定物Sの内部における吸収係数μの分布を断層画像として生成する。これにより、概略的に測定物Sの内部構造が算出される。以下では、説明の便宜上、断層画像に対応する吸収係数μの分布と、この吸収係数の分布に対応する画像上の信号強度の分布を「空間分布」と称す。
【0098】
本実施形態では、第1の情報生成部110は、逆投影法により第1の検出情報D1を生成するが、この例に限定されない。測定物Sの断層画像の再構成方法としては、逆投影法の他に、例えば、フィルタ補正逆投影法、及び逐次近似法が挙げられる。逆投影法及びフィルタ補正逆投影法に関しては、例えば、米国特許出願公開第2002/0154728号明細書に記載されている。また、逐次近似法に関しては、例えば、米国特許出願公開第2010/0220908号明細書に記載されている。
【0099】
続いて、比率取得部120は、上述のX線スペクトルデータDSから、測定物Sに含まれる複数種類の物質(第1の物質と第2の物質)の比率RTを取得する(ステップS15)。
【0100】
図11は、測定物Sに含まれる複数種類の物質の比率RTを取得する原理を説明するための説明図である。概略的には、本実施形態において、測定物Sに含まれる複数種類の物質の比率RTは、既知の複数種類の物質のX線スペクトルデータの組み合わせからなる参照データRMと、測定物Sから得られるX線スペクトルデータDSとの間の一致又は近似度を評価することにより特定される。本実施形態において、参照データRMは、後述するように、重み付けされた既知の複数種類の物質の各X線スペクトルデータを合成することにより得られる。本実施形態において、複数種類の物質の比率RTは、後述するように、測定物Sから得られるX線スペクトルデータDSと一致又は近似する参照データRMを与える複数種類の物質のX線スペクトルデータの重みにより特定される。
【0101】
複数種類の物質の比率RTを取得する原理を説明する。図11に示す参照データRDは、既知の物質AのX線スペクトルデータRDAと、既知の物質BのX線スペクトルデータRDBを含む。既知の物質AのX線スペクトルデータRDAは、物質Aのみからなる規定の寸法(規定の体積)の測定物を透過した透過X線を検出部42により検出することにより事前に準備される。同様に、既知の物質BのスペクトルデータRDBは、物質Bのみからなる規定の寸法(規定の体積)の測定物を透過した透過X線を検出部42により検出することにより事前に準備される。X線スペクトルデータRDAを得るために用いる物質Aからなる測定物と、スペクトルデータRDBを得るために用いる物質Bからなる測定物は、同じ寸法の形状を有する。
【0102】
図11の例では、説明の便宜上、参照データRDは、物質AのX線スペクトルデータRDAと、物質BのX線スペクトルデータRDBのみを含むが、参照データRDは、X線装置1の測定対象である測定物Sに含まれる可能性がある全種類の物質のX線スペクトルデータを含んでもよい。
【0103】
図11に示す参照データRKは、上述の参照データRDに任意の重みを乗算することにより得られる。図11に示す例では、参照データRKをなすX線スペクトルデータRKAは、参照データRDをなすX線スペクトルデータRDAに重み「4」を乗算することにより得られる。このX線スペクトルデータRKAは、参照データRDをなすX線スペクトルデータRDAが得られた物質Aのみからなる測定物の体積を3倍にした場合に得られるX線スペクトルデータに相当する。また、参照データRKをなすスペクトルデータRKBは、参照データRDをなすX線スペクトルデータRDBに重み「1」を乗算することにより得られる。このX線スペクトルデータRKBは、参照データRDをなすX線スペクトルデータRDBが得られた物質Bのみからなる測定物の体積を変えない場合に得られるX線スペクトルデータに相当する。
【0104】
図11に示す参照データRMをなすX線スペクトルデータRMCは、上述の参照データRKをなすX線スペクトルデータRKAとX線スペクトルデータRKBとを加算することにより得られる。このことは、このX線スペクトルデータRKCは、上述の重み「4」と重み「1」との比率に相当する体積比で物質Aと物質Bが含まれた測定物のX線スペクトルデータに相当することを意味する。従って、測定物Sの透過X線から得られるX線スペクトルデータDSが、参照データRMをなすX線スペクトルデータRKCと一致又は近似すれば、測定物Sには物質Aと物質Bが4対1の体積比で含まれていると推定することができる。
【0105】
参照データRDをなすX線スペクトルデータRDA,RDBに対する重みを変え、任意の重みの組み合わせに応じた複数のX線スペクトルデータを参照データRMとして準備すれば、物質Aと物質Bの任意の比率(体積比)RTを特定することができる。また、物質Aと質Bとの組み合わせに限らず、任意の複数種類の物質を組み合わせに応じた複数のX線スペクトルデータを参照データRMとして準備すれば、任意の複数種類の物質の比率RTを特定することができる。本実施形態において、参照データ記憶部121には、前述の図5Bに示したように、参照データRMとして、事前に準備されたX線スペクトルデータの波形データ(例えばRM1)とともに、各物質の上述の重みが比率(例えば4:1)として格納されている。
【0106】
比率特定部122は、上述の原理に従って、測定物Sから得られたX線スペクトルデータDSと、参照データ記憶部121に参照データRMとして格納されたX線スペクトルデータとを比較する。そして、比率取得部122は、参照データRMとして準備されたスペクトルデータのうち、測定物Sから取得されたZ線スペクトルデータDSと一致又は最も近似するX線スペクトルデータ(以下、「近似X線スペクトルデータ」と称す。)を特定する。そして、比率特定部122は、近似X線スペクトルデータが示す物質の比率RTを、参照データ記憶部121に格納された参照データRMから取得する。これにより、比率取得部122は、測定物Sに含まれる複数種類の物質の比率RTを取得する(ステップS15)。
【0107】
続いて、第2の情報生成部130を構成する分布生成部131は、第1の検出情報D1により示される吸収係数の分布から、画像上の各信号強度の頻度を表す頻度分布を生成する(ステップS16)。本実施形態において、この頻度分布は例えばヒストグラムであり、その横軸(変数)は、第1の検出情報D1として得られる吸収係数の分布における各吸収係数が取り得る値であり、その縦軸は、第1の検出情報D1により示される吸収係数の分布に対応する画像上の信号強度の分布における各信号強度の頻度である。本実施形態において、上記の頻度分布はヒストグラムであるものとするが、これに限定されない。
【0108】
図12A及び図12Bは、分布生成部131による頻度分布の生成方法の一例を示す図である。図12Aは、第1の検出情報D1により示される吸収係数μの分布(断層画像)に対応する画像上の信号強度の空間分布の例を模式的に示す。図12Aに示す例において、物質Aは、信号強度が異なる3つの領域RA1〜RA3により表示され、また物質Bは、信号強度が異なる3つの領域RB1〜RB3により表示されている。図12Bは、図12Aに示す信号強度の空間分布から分布生成部131が生成した頻度分布の一例を示す。図12Aに示すように、領域RA2は、領域RA1と領域RA3とが接触している。すなわち、それぞれの境界、例えば領域RA1と領域RA2との境界では、領域RA1に当てはめられる信号強度を持つ分割区画と領域RA2に当てはめられる信号強度を持つ分割区画とが接触している。すなわち、信号強度の異なる分割区画同士が接触している。
また、領域RA2に割り当てられる信号強度の大きさは、領域RA1に対応する信号強度の大きさと領域RA3に対応する信号強度の大きさとの間にある。したがって、物質Aの中心から物質の外延部に沿って、分割区画に割り当てられる信号強度が境界部を介して、RA1、RA2、RA3となるに伴い、変化している。
【0109】
分布生成部131は、図12Aに示す領域RA1,RA2,RA3,RB1,RB2,RB3の各領域に属する信号強度の頻度を計数することにより、図12Bに示す頻度分布を生成する。例えば、分布生成部131は、図12Aの領域RA1に属する信号強度の頻度を計数し、その計数結果を図11Bに示す頻度分布における頻度PA4とする。また、分布生成部131は、図12Aの領域RA2,RA3の各領域に属する信号強度の頻度を計数し、その計数結果を図12Bに示す頻度分布における頻度PA1,PA2とする。同様に、分布生成部131は、図12Aの領域RB1,RB2,RB3の各領域に属する信号強度の頻度を計数し、その計数結果を図12Bに示す頻度分布における頻度PB4,PB1,PB2とする。なお、説明の簡略化のため、図12Aに示す領域の数と図12Bに示す頻度分布における頻度の数は一致していない。
【0110】
第2の情報生成部130を構成する分布変更部132は、X線スペクトルデータDSから得られる測定物Sに含まれる物質に関する情報(吸収係数)と、上述の比率取得部120により取得された物質の比率RTに応じて、分布生成部131により生成された上記の信号強度の頻度分布を変更することにより、第1の検出情報D1から第2の検出情報D2を生成する(ステップS17)。
【0111】
図13A及び図13Bは、分布変更部132による頻度分布の変更を説明するための図である。図13Aは、図12Bに示す信号強度の頻度分布を変更することにより得られる、変更後の信号強度の頻度分布の一例を模式的に示す。図13の分布において、縦軸および横軸は図12Bと同様である。図13Bは、図13Aに示す信号強度の頻度分布を有する空間分布の一例を模式的に示す。以下に説明するように、分布変更部132は、前述の図12Bに示すなだらかなピークPA,PBを有する頻度分布を、図13Aに示す急峻なピークQA,QBを有する頻度分布に変更する。なお、本実施形態においては、信号強度の異なる3つの領域の信号強度を等しくしたが、等しくする領域は2つの領域でも、4つの領域でも構わない。なお、互いに接触するように配置された互いに異なる信号強度で表示した領域を等しくすることが望ましい。したがって、互いに異なる信号強度で表示された領域の少なくとも一部が接触する領域において、互いの信号強度を等しくするように第2の検出情報D2を作成した。なお、信号強度の異なる3つの領域の信号強度を等しくする場合には、3つの信号強度のいずれか一つの信号強度にしても構わないし、信号強度の異なる3つの信号強度とは異なる信号強度に変えても構わない。
【0112】
説明の便宜上、第1の検出情報D1または第2の検出情報D2から得られる画像の空間を格子状に区分する複数の区画を定義する。本実施形態において、一つの区画は、例えば画像上の一つの画素に対応するが、これに限定されない。本実施形態において、分布変更部132は、図13Aに示すように、第2の検出情報D2として得られる画像上の複数の区画に当てはめられる吸収係数の値の種類が少なくなるように、物質A及び物質Bにそれぞれ対応する第1の検出情報として得られる第1の吸収係数及び第2の吸収係数の少なくとも一方の値を変える。本実施形態において、分布変更部132は、第2の検出情報D2として得られる画像上の複数の区画に当てはめられる吸収係数の値の種類を、第1の検出情報D1として得られる画像上の複数の区画に当てはめられる吸収係数の値の種類よりも少なくする。
【0113】
ここで、吸収係数の値の種類とは、図12B又は図13Aに示す頻度分布において、頻度が存在する横軸上の吸収係数の値の違いを意味する。例えば、図12Bにおいて、頻度PA2,PA3により表される横軸の吸収係数の値の種類は、これら頻度PA2,PA3に対応した2種類であり、全部で、頻度の個数に応じた20種類の吸収計数の値が存在する。一方、図13Aに示す頻度分布おいては、横軸の吸収係数の値の種類は12種類に減少している。このように、分布変更部132は、図13Aに示す変更後の頻度分布において画像上の複数の区画に当てはめられる吸収係数の値の種類が減少するように、図12Bに示す頻度分布を変更する。分布変更部132は、後述するように、頻度分布を変更する過程で、頻度分布における複数の頻度を、この複数の頻度の個数よりも少ない個数の頻度に統合する。
【0114】
また、本実施形態において、分布変更部132は、透過X線からX線スペクトルデータDSとして得られる第1の物質及び第2の物質に関する情報(吸収係数)と、第1の物質と第2の物質との比率に基づいて、第1の検出情報D1から得られる物質A及び物質Bに対応した第1の吸収係数及び前記第2の吸収係数の少なくとも一方を第3の吸収係数に変える。換言すれば、分布変更部132は、前述のX線スペクトルデータDSから得られる第1の物質と第2の物質との比率RTに基づいて、第1の検出情報D1から得られる物質A及び物質Bにそれぞれ対応した第1の吸収係数及び第2の吸収係数の少なくとも一方を変更する。
【0115】
次に、図14Aから図14Cを参照して、上述の図12Bに示す頻度分布を図13Aに示す頻度分布に変更する手法を説明する。
本実施形態では、X線スペクトルデータDSから得られる測定物Sに含まれる物質の種類に関する情報(即ち吸収係数)に基づいて変更後の頻度分布の中心(頻度分布の横軸上の位置)を特定する。また、測定物Sに含まれる物質の比率RTに応じて上記中心を起点とした頻度分布の範囲を特定する。さらに、前記変更前の分布において前記範囲に含まれる頻度を、前記中心に位置する頻度に統合することにより、頻度分布を変更する。
【0116】
本実施形態において、変更後の頻度分布の中心を特定するための情報と比率RTに関する情報は、前述の比率取得部120が比率RTを取得する過程で参照する図5Bに示す参照データRMから得られる。即ち、図5Bに示す参照データRMによれば、比率RTを与える物質A及び物質Bの種類が特定される。各物質の種類が特定されれば、その物質の吸収係数が特定される。従って、この物質A及び物質Bの比率RTを取得することで測定物Sに含まれる各物質の吸収係数が特定され、この吸収係数から、図13Aに示す変更後の頻度分布における物質A及び物質Bに対応する各分布の中心が特定される。
【0117】
分布変更部132は、図14Aに示すように、X線スペクトルデータDSから得られる物質の種類に関する情報(即ち吸収係数)に基づいて、変更後の頻度分布における各物質に対応した分布の中心CA,CBを特定する。即ち、分布変更部132は、上述のように、比率取得部120が比率RTを取得する際に特定される各物質の種類に対応した吸収係数の値を頻度分布の中心CA,CBとして設定する。
【0118】
続いて、分布変更部132は、比率取得部120によって取得された測定物Sに含まれる物質の比率RTに応じて、中心CA,CBを起点とした変更前の分布の範囲を特定する。詳細には、分布変更部132は、図14Aに示すように、最初に、中心CA,CBに位置する頻度のみを含む範囲H1を設定し、この範囲に属する各物質に対応した頻度の比率を算出する。この例では、中心CAに対して設定された範囲H1に含まれる1つの頻度(斜線)と、中心CBに対して設定された範囲H1に含まれる1つの頻度(斜線)との比が算出される。そして、分布変更部132は、この頻度の比が、比率取得部120が取得した比率RTと一致または近似するかどうかを判定する。
【0119】
上述の頻度の比が比率RTと一致又は近似しない場合、分布変更部132は、図14Bに示すように、範囲H1を一定値だけ増やして範囲H2に拡大し、この範囲H2に属する頻度の比率を算出する。この例では、中心CAに対して設定された範囲H2に含まれる3つの頻度(斜線)と、中心CBに対して設定された範囲H2に含まれる3つの頻度(斜線)との比が算出される。そして、分布変更部132は、この頻度の比が比率RTと一致又は近似するかどうかを判定する。
【0120】
このように、分布変更部132は、頻度の比が比率RTと一致又は近似するまで、中心CA,CBを起点として範囲を徐々に拡大する。そして、図14Cに示すように、範囲H2を範囲H3に拡大したときに、この範囲H3に属する頻度の比率が比率RTと一致又は近似すれば、この範囲H3を、測定物Sに含まれる物質の比率RTに応じた範囲として特定する。
【0121】
続いて、分布変更部132は、上述の特定された範囲H3に属する複数の頻度を、これら複数の頻度の個数よりも少ない個数の頻度に統合する。本実施形態では、変更前の頻度分布において範囲H3に含まれる頻度PA2,PA3,PA4,PA5を、変更後の分布の中心CAに位置する頻度PA1に統合する。同様に、変更前の頻度分布において範囲H3に含まれる頻度PB2,PB3,PB4,PB5を、変更後の分布の中心CBに位置する頻度PB1に統合する。この結果、前述の図13Aに示すように、急峻なピークQA,QBを有する頻度分布が得られる。言い換えると、分布変更部132は、前述の図12Bに示される比較的半値幅の大きいピークPA,PBを有する頻度分布を、図13Aに示されるピークPA、PBと比べて半値幅の小さいピークQA,QBを有する頻度分布に変更する。また、図12Bに示されるように、ピークPAには吸収係数μの値において所定範囲内で、最も頻度の高いPA1がある。PA1よりも頻度の低いPA2、PA4がある。そのため、図12Bにおいては、頻度の分布がピークを有している。なお、図13Aにおいては、半値幅の小さい頻度分布に変更したが、例えば、最頻値に対して、吸収係数μの値の大小で分割区画の数が30%となるところの幅を小さくし、結果として、最頻値に対して分割区画の数が50%のところの値が小さくなっても構わない。もちろん、最頻値に対して分割区画の数が90%、80%、70%、60%、40%、30%、20%、10%でも構わない。もちろん、それ以外の数の%の部分でも構わない。なお、図12Bに示されるように、2つの範囲Hに対して、それぞれ最頻値を有している。また、図12Bに示されるように、2つの範囲Hに対して、それぞれの最頻値の値は異なっている。なお、複数の範囲Hが有する、最頻値の値は等しくても構わない。また、図12Bにおいては、最頻値を2つ有し、それぞれの最頻値に対して範囲Hを有しているが、最頻値の数は2つに限られない。例えば、最頻値の数は、3、4、5、それ以上でも構わない。
【0122】
ここで、本実施形態において、分布変更部132は、図13Aに示す頻度分布が得られるように第1の検出情報D1を修正することにより第2の検出情報D2を生成する。即ち、分布変更部132は、図13Aの頻度分布を生成する過程で、中心CA,CBの頻度に統合された各頻度に対応する画素の信号強度を、中心CA,CBの頻度に対応する画素の信号強度に変更する。言い換えると、分布変更部132は、頻度分布の所定の範囲における異なる値を1つの値にするように、頻度分布を変更している。つまり、隣接する分割区分の一方の値を、他方の値と同じになるように頻度分布を変更している。これにより、第1の検出情報D1から第2の検出情報D2を生成する。
【0123】
図13Aに示す急峻なピークQA,QBを有する頻度分布に対応して、第2の検出情報D2により得られる画像G4が明瞭になっている。2種類の物質A及び物質Bの各階調が均一化され、これにより各物質を容易に識別することができる。
【0124】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1の検出情報D1を、急峻な頻度分布を有する画像を示す第2の検出情報D2に変更するので、この第2の検出情報D2から、測定物Sの内部の物質を明瞭に識別することができる。従って、測定物Sに複数種類の物質が含まれる場合であっても、偽像の影響に伴う、測定不良を抑制することができる。また、本実施形態によれば、測定物Sの内部の物質を明瞭に識別することができるので、本実施形態に係るX線装置1を測定物Sの内部の形状の測定に利用することができる。
【0125】
なお、上述の実施形態では、検出部42により、測定物Sに含まれる複数の物質の種類を特定したが、特定する手法はこれに限られない。例えば、X線源2より、線質の異なる2種類のX線を測定物Sに照射する。線質を異ならせるために、X線源2と測定物Sとの間に、配置するフィルタのX線の透過率を異ならせる。これにより、X線源2から照射されるX線のうち、フィルタにより分離される、波長が異なる。この場合に、線質の異なる2種類のX線での、透過するX線の強度を比較することで、波長毎のX線の透過強度を用いることなく、測定物Sに含まる複数の物質の種類を特定することができる。すなわち、X線源2から発生するX線の波長は、連続的に変えなくても構わない。もちろん、例えば、X線源2から発生するX線の波長を連続的に変えてもよい。例えば、X線源2から所定範囲の波長のX線を測定物Sに照射する。所定範囲の波長を順次異ならせるようにし、測定物Sに含まれる複数の物質の種類を特定しても構わない。
【0126】
また、上述の実施形態では、検出部42と検出器41とが異なる、部材であったが、同一の部材であっても構わない。例えば、検出器41において、X線スペクトルデータDSを生成するようにしても構わない。例えば、検出器41のシンチレータ部34において、入射するX線の波長に応じて、異なる波長の光に変換可能とする。X線から変換された光のスペクトルを算出することで、入射するX線の波長を推定し、X線スペクトルデータDSを生成する。
【0127】
更に、測定物Sの一部のみの透過X線を検出部42で検出する場合には、例えば、図1のY軸方向に沿って、測定物Sに対して照射する位置を変えて、複数回、測定物Sを透過するX線を検出部42で検出しても構わない。この場合には、複数回のそれぞれの、測定物Sの透過X線により、検出部42での結果より、測定物Sの透過X線の結果として、測定物Sに含まれる複数の物質の種類を特定しても構わない。
なお、本実施形態においては、測定物SのX線スペクトルデータRDXと、X線吸収データDXとを同一の装置内にて算出したが、別々の装置でそれぞれを求めても構わない。
【0128】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。
図15は、第2実施形態に係る情報処理装置100Aの一例を示す。本実施形態に係るX線装置は、上述の第1実施形態に係るX線装置1の構成において、情報処理部100に代えて、図15に示す情報処理部100Aを備える。情報処理部100Aは、上述の第1実施形態に係る情報処理装置100が備える比率取得部120に代えて、物質の比率を第1の検出情報D1から取得する比率取得部120Aを備える。本実施形態において、比率取得部120Aは、測定物Sに含まれた物質の比率を、第1の検出情報D1により示される信号強度の分布から取得する。その他の構成は、上述の第1実施形態と同様である。
【0129】
比率取得部120Aによる比率の取得方法について、図16を参照して説明する。図16は、前述の第1実施形態に係る図12Bに対応する頻度分布を示す。比率取得部120Aは、図16に示す頻度分布の谷の位置を2つの物質A及び物質Bのそれぞれに属する頻度の境界値Vとして特定する。そして、比率取得部120Aは、この境界値Vにより区分される範囲HA及び範囲HBに属する頻度の比率を算出し、この比率を測定物Sに含まれる物質の比率RTとして使用する。図16の例では、範囲HAには、頻度PA1〜PA9が属し、範囲HBには、頻度PB1〜PB11が属する。本実施形態では、比率取得部120Aは、頻度PA1〜PA9の合算値と頻度PB1〜PB11の合算値との比を、物質Aと物質Bとの比率RTとして取得する。
【0130】
図16に示す頻度分布は、前述の第1実施形態における図12Bに示す頻度分布と同じである。このため、第2実施形態に係る比率取得部120Aは、図16に示すヒストグラムを生成するために、第1実施形態に係る第2の情報生成部130が図12Bに示す頻度分布を生成する機能を利用してもよい。逆に、第1実施形態に係る第2の情報生成部130が、図12Bに示す頻度分布を生成するために、第2実施形態に係る比率取得部120Aが図16に示す頻度分布を生成する機能を利用してもよい。その他については、上述の第1実施形態と同様である。
【0131】
第2実施形態によれば、第1実施形態に比較して、比較的簡易に複数種類の物質の比率RTを取得することができる。従って、第1の検出情報から第2の検出情報を生成するための処理を軽減することができる。
【0132】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態について説明する。
第3実施形態では、上述の第1及び第2実施形態により得られた第2の検出情報D2を、測定物Sの内部状態を反映した画像に修正する。
【0133】
図17は、第3実施形態に係る情報処理装置100Bの一例を示す。本実施形態に係るX線装置は、上述の第1実施形態に係るX線装置1の構成において、情報処理部100に代えて、図17に示す情報処理部100Bを備える。情報処理部100Bは、上述の第1実施形態に係る情報処理装置100の構成において、更に第3の情報生成部140を備える。その他の構成は、上述の第1実施形態と同様である。なお、第3実施形態の構成は、第2実施形態に適用することの可能である。
【0134】
図18は、第3実施形態に係る情報処理部100Bを備えたX線装置の動作の流れを示すフローチャートである。図18において、ステップS10〜S17,S20は、前述の図7に示した第1実施形態に係るX線装置1の動作と同一である。第3実施形態では、第3の情報生成部140により実施されるステップS18が追加されている。
【0135】
第3実施形態に係る第3の情報生成部140は、逐次近似法による演算結果が実際の検出結果に合うように、第2の検出情報を初期値として第3の検出情報D3を生成する。これにより、第3の検出情報には、測定物Sの実際の内部状態が反映される。従って、第1実施形態に比較して、測定物Sの内部の状態をより詳細に把握することができる。
【0136】
<第4実施形態>
次に、第4実施形態について、上述の第3実施形態の図17及び図18を援用して説明する。4実施形態では、図17に示す第3の情報生成部140が、逐次近似法に代えて、逆投影法を用いて第2の検出情報D2から第3の検出情報D3を生成する。その他の構成は、第3実施形態と同様である。
【0137】
第4実施形態に係る第3の情報生成部140は、比率取得部120により取得された複数種類の物質の比率RTに基づいて、測定物Sに含まれる物質の配置を特定する。そして、第3の情報生成部140は、特定された物質の配置に関する情報を第2の検出情報D2に反映させる。そして、第3の情報生成部140は、物質の配置が反映された第2の検出情報D2に対して逆投影法を適用することにより第3の検出情報D3を生成する。本実施形態において、物質の配置を第2の検出情報D2に反映させることは、X線スペクトルデータDSから得られる測定物Sに含まれる物質の吸収係数を第2の検出情報D2に反映させることを意味する。
【0138】
図19は、物質の配置を第2の検出情報D2に反映させる方法を説明するための説明図である。図19に示すパターンJ1は、第2の検出情報D2を順投影して得られるパターンであり、物質の配置が第2の検出情報D2に反映される前のパターンである。このパターンJ1は、第3の情報生成部140による逆投影前のパターンである点において、第1の情報生成部110による逆投影前のパターンである図9Bに示すパターンPDXCと対応する。
【0139】
図19に示すパターンJ2は、上述のパターンJ1に物質の配置が反映されたパターンである。パターンJ2において、一部の領域Fに、物質の配置に応じた吸収係数が反映されている。第3の情報生成部140は、パターンJ2を用いて逆投影することにより、物質の配置が反映された第2の検出情報D2を生成する。
【0140】
第4実施形態において、第3の情報生成部140は、物質の配置に関する情報として、物質の配置に応じた吸収係数をパターンJ1に反映させる。パターンJ1に反映させる物質の吸収係数は、前述の比率取得部120が比率RTを特定する過程で参照する図5Bに示す参照データRMから特定される。即ち、図5Bに示す参照データRMによれば、比率RTを特定する過程で、比率RTを与える物質A及び物質Bの種類が特定される。各物質の種類が特定されれば、その物質の吸収係数が特定される。
【0141】
物質の吸収係数をパターンJ1に反映させる場合、パターンJ1上の位置を特定する必要がある。この位置は、前述の第1の検出情報D1が示す断層画像と、比率取得部120により得られる比率RTとから特定することができる。即ち、第1の検出情報D1が示す断層画像に示される各物質の画像の大きさと物質の比率RTと対比することにより、比率RTを与える各物質の吸収係数と、断層画像に表示された物質の位置との間の関係を把握することができる。第3の情報生成部140は、上記の関係に基づいて、物質の吸収係数を反映させる図19に示すパターンJ1上の位置を特定する。これにより、図19に示すパターンJ2が得られる。図19に示す例では、画素Fの情報に吸収係数が反映され、その他の画素の情報は元のままである。
【0142】
本実施形態によれば、X線スペクトルデータDSから得られた各物質の吸収係数を第2の検出情報D2に反映させるので、第3の検出情報D3には、測定物Sの内部状態がより良く反映される。従って、第1実施形態に比較して、測定物Sの内部の状態を詳細に把握することができる。また、第4実施形態では、逆投影法により第3の検出情報D3を生成するので、逐次近似法を用いる第3実施形態に比較して、第3の検出情報D3を生成するための画像処理の負荷を軽減することができる。
【0143】
<第5実施形態>
次に、第5実施形態について説明する。
以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
【0144】
第5実施形態においては、上述したX線装置1を備えた構造物製造システムについて説明する。
【0145】
図20は、構造物製造システム200のブロック構成図である。構造物製造システム200は、上述のX線装置1からなる形状測定装置270と、設計装置210と、成形装置220と、制御装置(検査装置)230と、リペア装置240とを備える。本実施形態においては、構造物製造システム200は、自動車のドア部分、エンジン部品、ギア部品、及び回路基板を備える電子部品等の成形品を作成する。
【0146】
設計装置210は、構造物の形状に関する設計情報を作成し、作成した設計情報を成形装置220に送信する。また、設計装置210は、作成した設計情報を制御装置230の後述する座標記憶部231に記憶させる。ここで、設計情報とは、構造物の各位置の座標を示す情報である。成形装置220は、設計装置210から入力された設計情報に基づいて上記構造物を作製する。成形装置220の成形工程は、鋳造、鍛造、及び切削の少なくとも一つを含む。
【0147】
X線装置1は、測定した座標を示す情報を制御装置230へ送信する。制御装置230は、座標記憶部231と、検査部232とを備える。座標記憶部231には、設計装置210により設計情報が記憶される。検査部232は、座標記憶部231から設計情報を読み出す。検査部232は、X線装置1から受信した座標を示す情報から、作成された構造物を示す情報(形状情報)を作成する。検査部232は、形状測定装置270から受信した座標を示す情報(形状情報)と座標記憶部231から読み出した設計情報とを比較する。検査部232は、比較結果に基づいて、構造物が設計情報通りに成形されたか否かを判定する。換言すれば、検査部232は、作成された構造物が良品であるか否かを判定する。検査部232は、構造物が設計情報通りに成形されていない場合、修復可能であるか否か判定する。修復できる場合、検査部232は、比較結果に基づいて、不良部位と修復量を算出し、リペア装置240に不良部位を示す情報と修復量を示す情報とを送信する。
【0148】
リペア装置240は、制御装置230から受信した不良部位を示す情報と修復量を示す情報とに基づいて、構造物の不良部位を加工する。
【0149】
図20は、構造物製造システム200による処理の流れを示したフローチャートである。まず、設計装置210が、構造物の形状に関する設計情報を作製する(ステップS101)。次に、成形装置220は、設計情報に基づいて上記構造物を作製する(ステップS102)。次に、X線装置1は構造物の形状に関する座標を測定する(ステップS103))。次に制御装置230の検査部232は、X線装置1から作成された構造物の形状情報と、上記設計情報とを比較することにより、構造物が設計情報通りに作成された否かを検査する(ステップS104)。
【0150】
次に、制御装置230の検査部232は、作成された構造物が良品であるか否かを判定する(ステップS105)。作成された構造物が良品である場合(ステップS106:YES)、構造物製造システム200はその処理を終了する。一方、作成された構造物が良品でない場合(ステップS106:NO)、制御装置230の検査部232は、作成された構造物が修復できるか否か判定する(ステップS107)。
【0151】
作成された構造物が修復できる場合(ステップS107:YES)、リペア装置240は、構造物の再加工を実施し(ステップS108)、ステップS103の処理に戻る。一方、作成された構造物が修復できない場合(ステップS107:YES)、構造物製造システム200はその処理を終了する。以上で、本フローチャートの処理を終了する。
【0152】
以上により、上記の実施形態におけるX線装置1が構造物の座標を正確に測定することができるので、構造物製造システム200は、作成された構造物が良品であるか否か判定することができる。また、構造物製造システム200は、構造物が良品でない場合、構造物の再加工を実施し、修復することができる。
【0153】
以上、本発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。なお、上述の各実施形態の要件は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。また、法令で許容される限りにおいて、上述の各実施形態で引用した全ての公開公報及び米国特許の開示を援用して本文の記載の一部とする。
【0154】
本発明におけるX線装置の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによりX線装置の処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0155】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0156】
上述の実施形態において、検出部40は、X線の照射方向と直交する平面の単位面積あたり測定物Sに照射されるX線の強度Iと、測定物Sを透過した透過X線の強度Iとを検出していたが、本発明は必ずしもこのような構成には限られない。例えば、検出部40が測定物Sを透過した透過X線の強度Iのみを検出するように構成されていてもよい。例えば、予め測定物Sに照射されるX線強度が一定であると仮定できる場合には、測定物Sを透過した透過X線の強度Iのみを検出することによって、上述の説明のX線スペクトルデータと実質的に同等のデータを得ることができる。
【0157】
上述の実施形態において、測定物Sに含まれた第1の物質と第2の物質との比率RTが予め分かっている場合には、比率取得部120は、検出部42から得られるX線スペクトルデータDSに基づいて比率RTを算出することを省略してもよい。この場合には、比率取得部120は、CADデータのような設計情報を取得し、そこから比率RTを算出してもよい。あるいは、測定者が入力した比率情報を受け取り、それに基づいて比率RTを算出してもよい。つまり、比率取得部120は、検出部42から得られるX線スペクトルデータDS、CADデータのような設計情報、測定者が入力した比率情報の少なくとも1つ、あるいは、これらの任意の組み合わせに基づいて比率RTを算出してもよい。複数の情報を組み合わせる場合において、それぞれの情報に差異がある場合には、それらの平均値を用いてもよい。このとき、各情報の確からしさ(誤差)によって重みを付けた平均値を採用してもよい。また、複数の情報を個別に用いて、それぞれに対応した比率RTを算出し、第2情報を作成してもよい。
【0158】
なお、必ずしも測定物全体に関する比率情報を取得しなければならないわけではなく、必要に応じて、測定物の一部に対応する比率情報のみを抽出し、それを比率情報として用いてもよい。例えば、比率取得部120がCADデータのような設計情報に基づいて比率情報を取得する場合、第1情報として得られた断層画面中での、物質の比率情報を取得しても構わない。この場合には、まず、第1情報として得られた断層画面が、測定物Sのどの位置における断層画面であるかを特定し、断層画面に対応する位置(あるいは断層画面に対応する位置を含む近傍領域)における物質の比率情報を取得してもよい。検出部42から得られるX線スペクトルデータDSに基づいて比率RTを算出する場合においても、同様に、必要に応じて測定物の一部に対応する比率情報のみを抽出し、それを比率情報として用いてもよい。
【0159】
なお、上記実施形態において、3次元画像ではなく2次元画像に対して、比率情報に基づいて第1の検出情報D1を第2の検出情報D2に変更してもよい。この場合においても、比率取得部120は、上述のようにCADデータのような設計情報を用いて比率情報を取得してもよい。この場合において、2次元画像上に投影された測定物の、射影像に対応する部分に関する比率情報を抽出して、それを比率情報として用いてもよい。
【0160】
なお、上記実施形態において、第1情報を取得する場所、第2情報を生成する場所、比率情報を取得する場所、頻度分布を生成する場所は、必ずしも同じ場所でなくてもよく、これらのうち少なくとも一つが別の場所であっても構わない。例えば、第2情報を生成する場所は、事前に第1情報を取得したX線装置に接続された情報処理装置ではなく、当該X線装置とは独立に設けられた情報処理装置であってもよい。例えば、比率情報を取得する検出部42に接続された情報処理装置であってもよい。また、それぞれ別の場所で取得された情報を、例えばインターネット、イントラネットなどの回線を経由してX線装置とは独立に設けられた外部の情報処理装置に集め、その情報に基づいて外部の情報処理装置で第2情報を生成してもよい。
【0161】
検出部42のようなスペクトル計において、連続的に波長を異ならせたX線を測定物Sに照射し、測定物Sを透過するX線の強度を計測してもよい。あるいは、離散的に波長を異ならせたX線を測定物Sに照射し、測定物Sを透過するX線の強度を計測してもよい。ここで、単一の波長のX線の強度のみを取得してもよく、あるいは、所定範囲の波長域のX線の強度を一括して取得してもよい。
【符号の説明】
【0162】
1…X線装置、2…X線源、3…ステージ装置、41…検出器、42…検出部、100,100A,100B…情報処理部、110…第1の情報生成部、120,120A…比率取得部、121…参照データ記憶部、122…比率特定部、130…第2の情報生成部、131…分布生成部、132…分布変更部、140…第3の情報生成部、200…構造物製造システム、S10〜S18,S20,S101〜S107…処理ステップ。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図11
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図14C
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21