(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属イオンを吸蔵・放出可能な活物質本体粒子と、前記金属イオンを吸蔵・放出可能なガラスで形成され、前記活物質本体粒子に担持される酸化物相と、を備える電極活物質の製造方法であって、
V、Fe、Mn、Ni、及びCoのそれぞれの酸化物のうちの少なくとも1種の酸化物と、P、B、Te、Ba、及びGeのそれぞれの酸化物のうちの少なくとも1種の酸化物との混合物を加熱攪拌して前記酸化物相の形成用のガラスを予め調製する工程と、
前記ガラスとは別に調製した前記活物質本体粒子と、前記ガラスとを混合した混合物を焼成した後、粉砕して前記ガラスが前記酸化物相として前記活物質本体粒子に担持された電極活物質粉末を調製する工程と、
を有することを特徴とする電極活物質の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態での電極活物質は、活物質本体粒子に、金属イオンを吸蔵・放出可能な、後記する酸化物相を担持してい
る。この電極活物質は、本来、活物質本体粒子が吸蔵・放出すべき金属イオンの一部を、活物質本体粒子に代わってこれに担持させた酸化物相に吸蔵・放出させることで、二次電池の充放電時における活物質本体粒子の膨張及び収縮を抑制するように構成したものである。
この実施形態では、前記の金属イオンとしてリチウムイオンを例にとり、まず電極活物質を正極に使用したリチウム二次電池、当該正極、及び当該電極活物質(正極活物質)の順番で以下に説明する。
【0015】
(リチウム二次電池)
リチウム二次電池は、電解質中におけるリチウムイオンが電気伝導を担い、電極に対するリチウムイオンの吸蔵・放出により、電気エネルギーの貯蔵及び利用を可能とする電気化学デバイスである。次に参照する
図1は、本実施形態に係るリチウム二次電池の構成説明図である。
【0016】
図1に示すように、本実施形態に係るリチウム二次電池201は、正極207と、負極208と、正極207及び負極208の両電極間に挿入されるセパレータ209と、これらを密閉状態で収納する電池容器202と、を備えて構成されている。
【0017】
前記の正極207、負極208及びセパレータ209からなる電極群は、
図1に示すように、シート状の正極207と負極208とが交互に複数配置されると共に(
図1の2組の正極207、負極208に限定されずに、3組以上であってもよい)、正極207と負極208との間にセパレータ209が介在するように積層されたもの、円筒状、扁平状の任意の形状に巻回されたもの等、種々の形状にすることができる。セパレータ209は、電極群の最外側に配置されている電極(正極207又は負極208)と電池容器202の間にも挿入し、正極207又は負極208が電池容器202を通じて短絡しないようにしている。
【0018】
本実施形態での正極207は、請求の範囲にいう「電極」に相当する。この正極207は、電極活物質(正極活物質)、導電剤、及び結着剤を含む正極合剤を、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム等の薄膜又はメッシュからなる集電体の両面に付与して形成することができる。
なお、この正極207については後に更に詳しく説明する。
【0019】
負極208は、負極活物質及び結着剤を含む負極合剤を、銅箔又はメッシュからなる集電体の両面に付与し、これを乾燥、プレスして形成することができる。
負極活物質としては、例えば、黒鉛、非晶質炭素等の炭素材料を含むものが挙げられる。
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴム等が挙げられる。
なお、負極合剤は、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を含むこともできる。
【0020】
セパレータ209としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを原料とする微多孔膜や不織布等を用いることができる。
【0021】
電池容器202には、前記した正極207、負極208及びセパレータ209からなる電極群の形状に合わせて、円筒型、扁平長円形状、角型等の形状のものを適宜に選択することができる。
【0022】
電池容器202の上部に蓋203があり、その蓋203に正極外部端子204、負極外部端子205、注液口206を有する。本実施形態では、電池容器202に電極群を収納した後に、蓋203を電池容器202に被せ、蓋203の外周を溶接して電池容器202と一体にする構成とした。電池容器202への蓋203の取り付けには、溶接の他に、かしめ、接着等の他の方法を採ることができる。
【0023】
正極207は、正極リード線210を介して正極外部端子204に接続されている。負極208は、負極リード線211を介して負極外部端子205に接続されている。
なお、リード線210,211は、ワイヤ状、板状等の任意の形状を採ることができる。リード線210、211の形状及び材質については、通電時にオーム損失を小さくすることのできる構造であり、かつ電解液と反応しない材質であれば任意である。
【0024】
また、正極外部端子204又は負極外部端子205と、電池容器202との間には、絶縁性シール材212が挿入され、両端子204,205同士が短絡しないようになっている。
【0025】
絶縁性シール材212としては、例えば、フッ素樹脂、熱硬化性樹脂、ガラスハーメチックシール等が挙げられるが、電解液と反応せず、かつ気密性に優れた任意の材質のものであれば特に制限はない。
【0026】
また、正極リード線210、若しくは負極リード線211の途中、正極リード線210と正極外部端子204との接続部、又は負極リード線211と負極外部端子205との接続部に、正温度係数(PTC;Positive temperature coefficient)抵抗素子を利用した電流遮断機構を設ける構成とすることができる。このような構成によれば、リチウム二次電池201の内部温度が高くなったときに、その充放電を停止させて、リチウム二次電池201を保護することが可能となる。
【0027】
また、電池容器202内には、電解液が封入されており、この電解液は、セパレータ209、及び各電極207、208の表面、並びに細孔内部に保持されている。
電解液としては、例えば、リチウム塩の非水溶媒溶液を使用することができる。
リチウム塩としては、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4等が挙げられる。
非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、テトラヒドロフラン、1,2−ジエトキシエタン等が挙げられる。
【0028】
(正極)
本実施形態での正極207は、前記したように、正極活物質(電極活物質)、導電剤、及び結着剤を含む正極合剤を、集電体の両面に付与して形成することができる。
図2は、本発明の実施形態に係る正極の構成説明図であり、正極の集電体の表面近傍の様子を模式的に示す部分拡大図である。
【0029】
図2に示すように、正極207(請求の範囲にいう「電極」)は、後に詳しく説明する正極活物質100と、導電剤103と、結着剤104とを含む正極合剤層207bが、前記の集電体207aの表面に付与されて形成されたものである。なお、正極合剤層207bは、請求の範囲にいう「電極合剤層」に相当する。
【0030】
なお、
図2に示す本実施形態での正極合剤層207bは、前記の正極合剤を集電体の両面に塗布し、乾燥し、その後プレスを行って形成したものである。
この正極合剤層207bの厚さは、15〜60μm程度と所望の電極容量に併せて設定することができる。
【0031】
前記の導電剤103としては、例えば、黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、炭素繊維等の炭素系導電剤等が挙げられる。
前記の結着剤104としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴム等が挙げられる。また、結着剤104は、溶媒と共に用いることもでき、この溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドンが挙げられる。
【0032】
(正極活物質)
本実施形態に係る正極活物質100は、請求の範囲にいう「電極活物質」に相当する。次に参照する
図3は、本発明の実施形態に係る正極活物質の構成説明図である。
図3に示すように、正極活物質100は、活物質本体粒子101と、この活物質本体粒子101に担持される酸化物相102と、を備えて構成されている。
【0033】
<活物質本体粒子>
本実施形態での活物質本体粒子101としては、リチウムイオン(請求の範囲にいう金属イオンに相当)を吸蔵・放出可能なものであり、リチウム二次電池の正極活物質100として既知のものを使用することもできる。したがって、基本的には、例えばLiMO
2(Mは少なくとも1種の遷移金属)で表されるものを用いることができる。遷移金属Mとしては、例えばNi、Co、Mn、Fe、Ti、Zr、Al、Mg、Cr、V等が挙げられる。そして、LiMO
2で表される、例えばマンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等のうち、マンガン、ニッケル、コバルト等の一部を、1種又は2種以上の遷移金属で置換して用いることができる。また遷移金属の一部を、例えばマグネシウム、アルミニウム等の金属元素で置換して用いることもできる。
【0034】
さらに他の活物質本体粒子101としては、下記式(1)で示される金属酸化物、及び式(2)で示される金属酸化物が挙げられる。
【0035】
xLi
2M
1O
3−(1−x)LiM
2O
2・・・式(1)
(但し、前記式(1)中、xは0<x<1を満足する数であり、M
1は、Mn、Ti、及びZrから選ばれる1種以上の元素であり、M
2は、Ni、Co、Mn、Fe、Ti、Zr、Al、Mg、Cr、及びVから選ばれる1種以上の元素である)
【0036】
LiM
3PO
4・・・式(2)
(但し、前記式(2)中、M
3は、Mn、及びFeから選ばれる1種以上の元素である)
【0037】
活物質本体粒子101の粒径(平均粒径)としては、用いる活物質本体粒子101の特性に併せて各種選択することができる。通常、取り扱いの観点から0.1〜10μm程度のものを好適に使用することができる。但し、前記の平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する(以下の説明における平均粒径は、特に規定する場合を除き、この平均粒径と同義である)。
【0038】
<酸化物相>
本実施形態での酸化物相102は、前記したように、本来、活物質本体粒子101が吸蔵・放出すべきリチウムイオン(金属イオン)の一部を、活物質本体粒子101に代わって吸蔵・放出するものである。
【0039】
本実施形態での酸化物相102は、リチウムイオン(請求の範囲にいう金属イオンに相当)を吸蔵・放出可能なガラスで形成されている。
ちなみに、前記した活物質本体粒子101が初期状態で電池として動作させるためのリチウムイオン根を含んでいるのに対して、この酸化物相102は、初期状態で、リチウムイオン根を含んでいなくてもよい。つまり、酸化物相102は、リチウムイオン(金属イオン)を吸蔵・放出できる能力があり、かつ初期状態では充放電に寄与するリチウムイオン(金属イオン)が含まれていなくても良い。ここで、初期状態とは、電池における満放電状態であることを指す。
なお、ここでのガラスには、非晶質の通常のガラスを意味するものの他、これに加えて非晶質のマトリックス中に結晶が析出したいわゆる結晶化ガラスをも包含している。
また、酸化物相102がガラスであることが望ましい理由は、ガラスは結晶と比較して構造中に隙間が沢山存在するため、リチウム吸蔵時の膨張量が小さく、活物質本体粒子101から膨張差による剥離を抑制できるためである。
【0040】
そして、本実施形態での酸化物相102は、V、Fe、Mn、Ni、及びCoのそれぞれの酸化物のうちの少なくとも1種の酸化物と、P、B、Te、Ba、及びGeのそれぞれの酸化物のうちの少なくとも1種の酸化物とを含んで構成されている。
【0041】
これらV、Fe、Mn、Ni、及びCoの酸化物は、充電時に酸化物相102がリチウムイオン(金属イオン)を取り込む際に、電荷を補償する酸化物群であり、具体的には、V
2O
5、Fe
2O
3、MnO
2、NiO、CoO等が挙げられる。中でも、V
2O
5は、Vが比較的大きい価数をとることができる点で望ましい。
【0042】
また、P、B、Te、Ba、及びGeの酸化物は、前記の「電荷を補償する酸化物」の非晶質化を促がすためのものであり、具体的には、P
2O
5、B
2O
3、TeO
2、BaO、GeO等が挙げられる。中でも、P
2O
5は、前記の「電荷を補償する酸化物」の間隙(層間)を広げやすく、リチウムイオン(金属イオン)の移動を良好にする点で望ましい。
【0043】
つまり、酸化物相102は、Vの酸化物とPの酸化物とを構成成分として含有する際には、リチウムイオン(金属イオン)の吸蔵能力が特に大きいために望ましい。そして、Vの酸化物及びPの酸化物に、Feの酸化物及びTeの酸化物の少なくともいずれかを更に含む酸化物相102は、酸化物相102の電気抵抗を10
1〜10
7Ωcm程度とすることができ、正極活物質100に良好な導電性を付与できるので望ましい。
【0044】
また、酸化物相102は、低融点のガラスからなるものが望ましい。特にガラス転移点が300℃以下のものは、後記する酸化物相102の形成用のガラスの調製時に、その原料の焼成を低温で行うことができると共に、活物質本体粒子101にこのガラスを担持させて酸化物相102を形成する際の焼成を低温で行うことができるので、より望ましい。
なお、前記のガラス転移点は、示差熱分析法(DTA(Differential thermal analysis)法)により測定したデータの第1吸熱ピークに基づいて求められたものである。
【0045】
また、正極活物質100(電極活物質)における酸化物相102の担持量(含有率)は、正極活物質100を100%とした体積換算で、1体積%以上、20体積%以下が望ましい。これは、1体積%未満の場合にはその効果が乏しく、20体積%を超えると動作するリチウムイオン(金属イオン)の絶対量が少なくなってしまうために、電池としての容量の低下を招き、好ましくない。
このような範囲で酸化物相102を含む正極活物質100は、二次電池の容量が向上すると共に、活物質本体粒子101の膨張及び収縮を、より効果的に抑制するので望ましい。
【0046】
(正極活物質の調製方法)
正極活物質100は、前記したように、活物質本体粒子101に酸化物相102を担持させて調製することができる。
活物質本体粒子101は、既知の電極活物質の製造方法で調製することができる。例えば、前記式(1)で示されるxLi
2M
1O
3−(1−x)LiM
2O
2の活物質本体粒子101は、M
1及びM
2の金属元素の塩で水溶性の高いもの(例えば硫酸塩や硝酸塩)を原料に使用できる。
【0047】
そして、活物質本体粒子101は、例えばこれらの金属元素の塩の水溶液を用いてこれらの金属の複合炭酸塩を得、次いで、この複合炭酸塩とリチウム源(例えば水酸化リチウム、炭酸リチウム等)との混合物を焼成した後に粉砕して調製することができる。
【0048】
酸化物相102の形成用のガラスは、V、Fe、Mn、Ni、及びCoのそれぞれの酸化物のうちの少なくとも1種と、P、B、Te、Ba、及びGeのそれぞれの酸化物のうちの少なくとも1種との混合物を攪拌しながら焼成して調製することができる。
【0049】
(正極の製造方法)
正極207(
図2参照)は、集電体207aの表面に、正極合剤層207bを形成して製造することができる。
正極合剤層207bは、正極活物質100(
図2参照)、導電剤103(
図2参照)、結着剤104(
図2参照)、及び必要に応じて溶媒(図示省略)を含む前記の正極合剤を、集電体207aの表面に塗布した後、これを乾燥し、更にプレスして形成することができる。
【0050】
導電剤103としては、例えば、黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、炭素繊維等の炭素系導電剤が挙げられる。
【0051】
結着剤104及び溶媒としては、前記の負極合剤に使用することができる前記の結着剤及び溶媒を使用することができる。
また、集電体207a及び正極合剤層207bは、後記するように、所定の温度で焼成して正極207として使用することもできる。
【0052】
次に、本発明の実施形態に係る正極活物質100、正極207、及びリチウム二次電池201の奏する作用効果について説明する。
以上のような本実施形態によれば、酸化物相102にもリチウムイオン(金属イオン)を吸蔵・放出できる能力があるため、活物質本体粒子101が吸蔵・放出すべきリチウムイオンの一部を、活物質本体粒子101に代わってこれに担持させた酸化物相102に吸蔵・放出させることで、リチウム二次電池201の充放電時における活物質本体粒子101の膨張及び収縮を抑制することができる。
【0053】
したがって、従来の二次電池(例えば、特許文献1参照)では、この膨張及び収縮の繰り返しにより、電極活物質自体の割れや、電極からの電極活物質の脱離が生じてサイクル劣化が生じ易いところ、本実施形態によれば、充放電時における活物質本体粒子101の膨張及び収縮を抑制することができるので、サイクル特性(容量維持率)が向上することとなる。
【0054】
また、本実施形態によれば、酸化物相102が、V、Fe、Mn、Ni、及びCoのそれぞれの酸化物のうちの少なくとも1種の酸化物を含んでいるので、これらの金属の取り得る価数が大きいことにより、リチウム二次電池201の容量を大きくすることができる。そして、酸化物相102が、P、B、Te、Ba、及びGeのそれぞれの酸化物のうちの少なくとも1種の酸化物を含んで構成されているので、V、Fe、Mn、Ni、及びCoの酸化物の非晶質化、つまり、これら酸化物同士の間隙(層間)の拡張を促がすことができ、酸化物相102におけるリチウムイオンの移動を良好にすることができる。
【0055】
また、本実施形態によれば、酸化物相102が活物質本体粒子101に担持されているので、例えば、酸化物相102と活物質本体粒子101とが分離しているものと比較して、酸化物相102と活物質本体粒子101との間におけるリチウムイオンの移動が良好となる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。
【0057】
前記実施形態では、リチウム二次電池について説明したが、本発明はこれに限定されず、金属イオンが、マグネシウムイオン、アルミニウムイオンであるものにも適用することができる。また、リチウムに代えてマグネシウム、アルミニウムを含む電極活物質に適用することもできる。
【0058】
また、前記実施形態では、正極207、及び正極活物質100について説明したが、本発明は、負極208、及び負極活物質に適用するものであってもよい。つまり、例えば、前記の負極活物質は、その表面に酸化物相102を担持する構成とすることもできる。
【0059】
また、前記実施形態では、正極207の製造方法として、正極合剤を集電体207aに塗布し、これを乾燥後にプレスして形成する方法について説明したが、本発明はこれを更に焼成して正極207とすることができる。次に参照する
図4は、本発明の他の実施形態に係る電極の構成説明図であり、電極の集電体の表面近傍の様子を模式的に示す部分拡大図である。
図4に示すように、この正極207は、酸化物相102が集電体207aの表面及び活物質本体粒子101に熱融着した構成となっている。これは、前記した焼成の温度を酸化物相102のガラス転移点以上に設定したことによるものである。そして、この正極207では、酸化物相102が集電体207aの表面及び活物質本体粒子101に熱融着するために、酸化物相102が正極207中のバインダと同様の効果を発現する。したがって、この正極207は、バインダレスで(電極合剤にバインダを含まない構成で)作製可能となる。
このような正極207によれば、電気抵抗が低減すると共に、集電体207aに対する正極合剤層207b(
図4参照)の接着性を向上させることができる。
【実施例】
【0060】
次に、実施例及び比較例を示しながら本発明を更に具体的に説明する。
(実施例1から実施例9)
実施例1から実施例9では、酸化物相102(
図3参照)の形成用ガラス(以下、単に「ガラス」という)及び活物質本体粒子101(
図3参照)を調製すると共に、これらを使用して本発明の電極活物質としての正極活物質100(
図3参照)を調製した。そして、この正極活物質100を使用して二次電池用電極(正極207(
図2参照))を作製すると共に、この二次電池用電極を使用して組み立てたリチウム二次電池201(
図1参照)の性能を評価した。
【0061】
<ガラスの調製>
実施例1から実施例9では、表1に示すような酸化物換算の組成[質量%]となるように、下記のバナジウム(V)源、リン(P)源、鉄(Fe)源、テルル(Te)源、ホウ素(B)源、ニッケル(Ni)源、コバルト(Co)源、マンガン(Mn)源、リチウム(Li)源、バリウム(Ba)源、及びゲルマニウム(Ge)源としての原料粉末を選択秤取して混合した。そして、この混合物300gを白金ルツボに入れ、これを電気炉内で加熱した。この際、昇温速度5〜10℃/分で表1に示す加熱温度までに加熱すると共に、当該加熱温度で2時間保持した。なお、加熱温度の保持中は、白金ルツボの内容物が均一となるように攪拌した。
【0062】
≪原料粉末≫
バナジウム(V)源 五酸化バナジウム(V
2O
5)
リン(P)源 五酸化リン(P
2O
5)
鉄(Fe)源 酸化第二鉄(Fe
2O
3)
テルル(Te)源 酸化テルル(TeO
2)
ホウ素(B)源 酸化ホウ素(B
2O
3)
ニッケル(Ni)源 酸化ニッケル(NiO)
コバルト(Co)源 酸化コバルト(CoO)
マンガン(Mn)源 二酸化マンガン(MnO
2)
リチウム(Li)源 炭酸リチウム(Li
2CO
3)
バリウム(Ba)源 炭酸バリウム(BaCO
3)
ゲルマニウム(Ge)源 酸化ゲルマニウム(GeO
2)
【0063】
【表1】
【0064】
次に、電気炉から白金ルツボを取り出して、予め200〜300℃に予熱しておいたステンレス板上に、白金ルツボの内容物を流し出し、これを室温まで自然冷却することでガラスを得た。
得られたガラスのガラス転移点Tg(℃)を表1に示す。ちなみに、ガラス転移点Tg(℃)は、示差熱分析法(DTA(Differential thermal analysis)法)によって測定した第1吸熱ピークに基づいて求めた。
【0065】
<活物質本体粒子101の調製>
実施例1から実施例9では、硫酸ニッケル六水和物(NiSO
4・6H
2O)、硫酸コバルト七水和物(CoSO
4・7H
2O)、及び硫酸マンガン五水和物(MnSO
4・5H
2O)を、Ni:Co:Mn=1:1:4(原子比)となるように秤取し、これらを純水に溶解させて混合溶液を調整した。
【0066】
この混合溶液の一部を分取して50℃に加熱し、撹拌しながら錯化剤としてのアンモニア水をpH=7.0となるまで滴下した。さらに、これに前記混合溶液の残部及びNa
2CO
3水溶液を滴下してNi,Co,Mnの複合炭酸塩を共沈させた。この際pH=7.0が維持されるようにアンモニア水を滴下した。沈殿した複合炭酸塩を吸引濾過し、その後これを水洗して120℃で乾燥させた。得られた複合炭酸塩をアルミナ容器に入れ、500℃で焼成して複合酸化物を得た。
【0067】
次に、得られた複合酸化物にリチウム源としてのLiOH・H
2Oを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.5(原子比)となるように秤取して加え、ボールミルで粉砕しながら混合した。その後、この混合物をアルミナ容器に入れて500℃で仮焼成した後、再びボールミルにて粉砕混合した。そして、この混合物を900℃で本焼成することで活物質本体粒子からなる粉末を調製した。このLi
2MnO
3−Li(Ni,Co,Mn)O
2で示される金属酸化物からなる活物質本体粒子101は、直径100nm程度の一次粒子が凝集結合し、直径5μmの球形の二次粒子を形成していた。
【0068】
<正極活物質100の調製>
次に、前記のLi
2MnO
3−Li(Ni,Co,Mn)O
2で示される金属酸化物からなる活物質本体粒子101の粉末95体積%及び前記のガラス5体積%の混合物を電気炉にて700℃で30分間、大気中で焼成した後、乾式ボールミルを用いて粉砕し、本発明の電極活物質としての正極活物質100(
図2参照)の粉末を調製した。
【0069】
<正極207(電極)の作製>
調製した本発明の正極活物質100の粉末85質量部、導電剤としてのケッチェンブラック(ライオン社製のEC600JD、粒径34nm以下)10質量部、及びバインダ(結着剤)としてのポリフッ化ビニリデン(クレハ社製の#7305)5質量部を混合した混合物に、N−メチル−2−ピロリドンを添加して粘度を15Pa・sに調整した正極合剤を得た。
【0070】
次に、この正極合剤を厚さ20μmのアルミニウム箔からなる
図2に示す集電体207a(三菱アルミニウム社製のN5−8X−073)の両面に塗工した後、これに加圧成形を施して、乾燥厚さが50μmの
図2に示す正極合剤層207bを、集電体207aの両面にそれぞれ有するシートを形成した。そして、このシートの正極合剤層207bを有する部分(正極合剤の塗工部分)の面積が50mm×100mm、引き出し電極として未塗工部分の面積が15mm×15mmとなるようにこのシートを裁断して、本発明に係る二次電池用の
図2に示す正極207(電極)を作製した。
【0071】
<リチウム二次電池201の組み立て>
実施例1から実施例9では、作製した前記の正極207を使用してラミネートセル型のリチウム二次電池201(
図1参照)を組み立てた。このリチウム二次電池201の負極208(
図1参照)としては、引き出し電極部分(15mm×15mm)を残し、60mm×110mmとなるように裁断した金属リチウムシートを使用した。また、正極207と負極208との間に挿入する
図1に示すセパレータ209としては、厚さ30μmのPP(ポリプロピレン)製の多孔質膜を用いた。
【0072】
そして、このラミネートセル型のリチウム二次電池201は、セパレータ209を介して負極208と正極207とが交互に積層されて作製された。但し、11枚の負極208と10枚の正極207と、20枚のセパレータ209とを有している点で
図1のものとは異なって構成されている。そして、このラミネートセル型のリチウム二次電池201では、係る積層体がラミネートセル内に電解液と共に封入されると共に、前記の正極207及び負極208の引き出し電極部分がラミネートセルの外部に臨むことで、これらの引き出し電極部分に対する電気的な接続が可能となっている。
【0073】
なお、前記の電解液としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)の非水性有機溶媒溶液(1モル/L)を使用した。非水性有機溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、及びジメチルカーボネート(DMC)を、体積比で、EC:EMC:DMC=1:2:2となるように混合したものを使用した。
【0074】
<リチウム二次電池201の容量維持率>
実施例1から実施例9のそれぞれで組み立てたラミネートセル型のリチウム二次電池201のサイクル特性を評価した。このサイクル特性の評価は、次の容量維持率[%]を測定して行った。
ラミネートセル型のリチウム二次電池201の容量維持率の測定は、充放電試験機(東洋システム社製のTOSCAT3100U)を用いて行った。
【0075】
この測定では、まずラミネートセル型のリチウム二次電池201に対して充電終止電圧4.6Vまで電流密度0.3mA/cm
2の定電流で充電を行い、次いで放電終止電圧2.5Vまで0.5Cの定電流で放電を行う充放電サイクルを複数回繰り返した。そして、この充放電サイクルを100サイクル繰り返した後の容量維持率を下記式により求めた。その結果を表1に示す。
容量維持率[%]=(100サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
【0076】
なお、前記の「1Cの定電流」とは、リチウム二次電池201に対して、放電し切った状態から定電流充電する場合において、1時間で100%の充電を完了する電流値、又は充電し切った状態から定電流放電する場合において、1時間で100%の放電を完了する電流値をいう。言い換えれば、1Cとは、充電又は放電の速さが1時間当たり100%であることをいう。よって、0.5Cとは、充電又は放電の速さが1時間当たり50%であることをいう。
【0077】
(比較例1及び比較例2)
比較例1では、実施例1から実施例9で調製した活物質本体粒子101(
図3参照)と同じものを使用し、実施例1から実施例9と異なって、この活物質本体粒子101に酸化物相102(
図3参照)を担持させずに、当該活物質本体粒子自体101を電極活物質(正極活物質)として使用した以外は、実施例1から実施例9と同様に、ラミネートセル型のリチウム二次電池201を作製した。
また、比較例2では、実施例1で調整したガラスを使用し、実施例1から実施例9と異なって、この活物質本体粒子101に酸化物相102(
図3参照)を担持させずに、当該活物質本体粒子101と当該酸化物相102の形成用ガラスとを個別に導電材、バインダと混合した電極活物質(正極活物質)として使用した以外は、実施例1から実施例9と同様に、ラミネートセル型のリチウム二次電池201を作製した。
そして、このリチウム二次電池201の容量維持率[%]を実施例1から実施例9と同様にして求めた。その結果を表1に示す。
【0078】
(リチウム二次電池201のサイクル特性の評価)
表1に示すように、比較例1で作製したリチウム二次電池201は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質(実施例1から実施例9での活物質本体粒子101自体)を含む正極207を有し、その容量維持率[%]は70.5%となっている。
【0079】
これに対して、実施例1から実施例9で作製したリチウム二次電池201は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質本体粒子101に、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な酸化物相102が担持された正極活物質100を含む正極207を有しているので、その容量維持率[%]が、72.3%(実施例7)から75.4%(実施例3)という高い値を示している。
したがって、本発明の正極活物質100(電極活物質)、並びにこれを使用した正極207(電極)及びリチウム二次電池201は、優れたサイクル特性を有することが確認された。
また、実施例1で作製したリチウム二次電池201は、容量維持率[%]が73.9%となっているところ、この実施例1と同じ割合で活物質本体粒子101及び酸化物相102の形成用ガラスを含む比較例2では、実施例1と異なって、酸化物相102の形成用ガラスが活物質本体粒子101に担持されていないことから、その容量維持率[%]が69.8に止まっていた。
【0080】
以上のことは、活物質本体粒子101に担時される酸化物相102に対してもリチウムイオンが取り込まれるために、リチウム二次電池201の充電時及び放電時における活物質本体粒子101の膨張・収縮が抑制され、活物質本体粒子101の割れや正極207からの脱離等が防止されることによるものと考えられる。
【0081】
(実施例10から実施例15)
実施例10から実施例15では、正極活物質100(
図3参照)における、前記のLi
2MnO
3−Li(Ni,Co,Mn)O
2で示される活物質本体粒子成分の含有率[質量%]と、ガラス成分の含有率[質量%]とが表2に示す値となるように、当該活物質本体粒子101の粉末と、ガラス(酸化物相102)とを、表2に示す配合量[体積%]で混合した。
【0082】
【表2】
【0083】
なお、ガラスとしては、実施例3で使用したガラスと同様のものを使用した。
【0084】
次いで、これらの実施例10から実施例15では、表2に示す配合量の活物質本体粒子(Li
2MnO
3−Li(Ni,Co,Mn)O
2)とガラスとの混合物を使用した以外は、実施例1から実施例9と同様にして正極活物質100を調製すると共に、得られた正極活物質100を使用して正極207及びラミネートセル型のリチウム二次電池201を作製した。
そして、このリチウム二次電池201の容量維持率[%]を実施例1から実施例9と同様にして求めた。その結果を表2に示す。
【0085】
また、表2には、前記の比較例における活物質本体粒子101とガラス(酸化物相102)との配合量、及び得られた正極活物質100における活物質本体粒子101成分とガラス成分(酸化物相102成分)との含有率[質量%]、並びにリチウム二次電池201の容量維持率[%]を併記した。
【0086】
表2に示すように、実施例10から実施例15での容量維持率[%]と、比較例の容量維持率[%]とを比較すると、正極活物質100におけるガラス成分(酸化物相102成分)の配合量を1体積%以上とすることで、容量維持率[%]が1%以上向上することが確認できた。つまり、本発明においては、正極活物質100における酸化物相102の配合量を1体積%以上とすることが望ましいことが判明した。
【0087】
また、本発明においては、ガラス成分(酸化物相102成分)の配合量を1体積%以上、20体積%以下とすることが望ましい。このような範囲でガラス成分(酸化物相102成分)を含有する正極201を備えるリチウム二次電池201は、全体の容量が低下することなく、容量維持率[%]を向上させることができる。
【0088】
また、本発明においては、ガラス成分(酸化物相102成分)の含有率を5体積%以上、20体積%以下とすることが、より望ましい。このような範囲でガラス成分(酸化物相102成分)を含有する正極201を備えるリチウム二次電池201は、容量維持率[%]を5%程度向上させることができる。
【0089】
(実施例16)
本実施例では、正極活物質100を調製する際に、まず、シュウ酸鉄二水和物(FeC
2O
4・2H
2O)と、リン酸二水素リチウム(LiH
2PO
4)とを等モル秤取し、これにさらにスクロースを加えて原料混合粉を調製した。なお、原料混合粉中のスクロースの含有率は、15質量%であった。
【0090】
次に、この原料混合粉を、湿式ボールミルを用いて混合した後、乾燥して電気炉にて仮焼成を行った。仮焼成の雰囲気はアルゴン雰囲気とし、仮焼成の温度は440℃とし、仮焼成の時間は10時間とした。
【0091】
そして、仮焼成した原料混合粉を、湿式ボールミルにて2時間粉砕した後、これを雰囲気制御可能な管状炉にて本焼成を行った。本焼成の雰囲気はアルゴン雰囲気とし、本焼成の温度は700℃とし、本焼成の時間は10時間とした。以上の工程により、LiFePO
4で示される金属酸化物からなる活物質本体粒子101の粉末を得た。
【0092】
次に、本実施例では、正極活物質100における、LiFePO
4で示される活物質本体粒子101成分の含有率が95.7質量%、ガラス成分の含有率が4.3質量%となるように、当該活物質本体粒子101の粉末(95体積%)と、ガラス(5体積%)とを混合した。なお、ガラスとしては、実施例3で使用したガラスと同様のものを使用した。
【0093】
そして、この混合物を、管状炉のアルゴン雰囲気中にて700℃で30分焼成した後、乾式ボールミルにて粉砕し、本発明の正極活物質100を調製した。
【0094】
次に、本実施例では、本実施例で調製した前記の正極活物質100を使用した以外は、実施例1から実施例9と同様にして正極201を作製すると共に、ラミネートセル型のリチウム二次電池201を組み立てた。そして、このリチウム二次電池201の容量維持率[%]を測定した。
容量維持率の測定は、充放電試験機(東洋システム社製のTOSCAT3100U)を用い、充電終止電圧4.0Vまで1Cの定電流で充電を行い、次いで、放電終止電圧2.0Vまで1Cの定電流で放電を行う充放電サイクルを繰り返した。そして、100サイクル後の容量維持率を測定した。
【0095】
その結果、LiFePO
4はサイクル劣化の起きにくい材料であるため、容量維持率はあまり変化が見られなかったが、電極エネルギー密度が、酸化物相102を担持しない活物質本体粒子101を正極活物質(比較例)として使用するものと比較して、24%向上することが確認された。
【0096】
(実施例17)
本実施例では、実施例1から実施例9と同様に調製したLi
2MnO
3−Li(Ni,Co,Mn)O
2からなる活物質本体粒子101の粉末90質量部と、実施例1から実施例9と同様に調製したガラス10質量部との混合物に、5質量%のエチルセルロースを含むブチルカルビトールアセテート溶液を添加して粘度を15Pa・sに調整した正極合剤を得た。また、本実施例では、実施例1から実施例16と異なり正極合剤中にバインダや導電材を含まない。
【0097】
次に、この正極合剤を、厚さ20μmのアルミニウム箔の集電体207a(三菱アルミニウム社製のN5−8X−073)の両面に塗工した後、これを電気炉にて450℃で30分焼成し、
図4に示すような正極207を得た。そして、このシートの正極合剤の塗工部分の面積が50mm×100mm、引き出し電極として未塗工部分の面積が15mm×15mmとなるようにこのシートを裁断して正極207を作製すると共に、この正極207を使用して実施例1から実施例9と同様にラミネートセル型のリチウム二次電池201を作製した。
【0098】
そして、このリチウム二次電池201の容量維持率[%]を実施例1から実施例9と同様にして求めた。その結果、本実施例では、実施例1から実施例9と異なって、N−メチル−2−ピロリドン(溶剤)やバインダ(結着剤)を使用せずに正極207を作製したが、実施例1から実施例9と同程度に容量維持率[%]に向上することを確認できた。
【0099】
このことは、活物質本体粒子101に酸化物相102担持する方法は、正極207の形成と同時に行うことができることを意味している。また、本実施例での正極207は、正極207中における正極活物質100の割合が大きく、リチウム二次電池201の容量向上において有利となる。