特許第5967203号(P5967203)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5967203希土類系焼結磁石の製造方法および成形装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967203
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】希土類系焼結磁石の製造方法および成形装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20160728BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20160728BHJP
   H01F 1/08 20060101ALI20160728BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20160728BHJP
   B22F 3/04 20060101ALI20160728BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20160728BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20160728BHJP
【FI】
   H01F41/02 G
   H01F1/04 H
   H01F1/08 B
   B22F3/02 R
   B22F3/04 A
   B22F3/00 F
   !C22C38/00 303D
【請求項の数】10
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-530549(P2014-530549)
(86)(22)【出願日】2013年8月12日
(86)【国際出願番号】JP2013071797
(87)【国際公開番号】WO2014027638
(87)【国際公開日】20140220
【審査請求日】2015年5月13日
(31)【優先権主張番号】特願2012-179163(P2012-179163)
(32)【優先日】2012年8月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】塚田 高志
(72)【発明者】
【氏名】南坂 拓也
(72)【発明者】
【氏名】菊地 覚
【審査官】 五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/096331(WO,A1)
【文献】 特開2006−253526(JP,A)
【文献】 特開2007−203577(JP,A)
【文献】 特開平8−69908(JP,A)
【文献】 特開2003−136563(JP,A)
【文献】 特開2010−214765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
B22F 3/00
B22F 3/02
B22F 3/04
H01F 1/057
H01F 1/08
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)希土類元素を含む合金粉末と、分散媒と、を含むスラリーを準備する工程と、
2)少なくとも一方が移動して互いに接近および離間可能でかつ、少なくとも一方が前記スラリーの前記分散媒を排出するための排出孔を有する上パンチと下パンチとを、金型内に設けた複数の貫通孔のそれぞれに配置して、前記金型と前記上パンチと前記下パンチとに取り囲まれたキャビティを複数準備する工程と、
3)前記複数のキャビティのそれぞれの内部に、前記上パンチと前記下パンチの少なくとも一方が移動可能な方向と略平行な方向に電磁石により磁界を印加した後、前記金型の外周側面から前記複数のキャビティのそれぞれまで分岐せずに延在する複数のスラリー供給路を介して、前記複数のキャビティのそれぞれの内部に前記スラリーを供給する工程と、
4)前記磁界を印加したままで、前記上パンチと前記下パンチとを接近させる磁界中プレス成形により、前記複数のキャビティのそれぞれの内部に前記合金粉末の成形体を得る工程と、
5)前記成形体を焼結する工程と、
を含むことを特徴とする希土類系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記電磁石が、第1の電磁石と、
前記第1の電磁石から離間して対向配置された第2の電磁石と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1の電磁石と前記第2の電磁石との間に配置されたスラリー流路により、前記複数のスラリー供給路にスラリーを供給することを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記複数のキャビティのそれぞれのスラリー供給路が、前記金型の外周側面から前記キャビティに向かって直線状に延在していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記工程3)において、前記複数のキャビティのそれぞれの内部に前記スラリーを20〜600cm/秒の流量で供給することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記磁界の強さが1.5T以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
少なくとも一方が移動して互いに接近離間可能な上パンチ及び下パンチと、
複数の貫通孔を有し、該複数の貫通孔のそれぞれに配置された前記上パンチと前記下パンチと前記貫通孔とに取り囲まれた複数のキャビティを形成する金型と、
前記複数のキャビティのそれぞれの内部に、前記上パンチと前記下パンチの少なくとも一方が移動可能な方向と略平行な方向に磁界を印加する電磁石と、
前記金型の外周面側から前記複数のキャビティのそれぞれまで分岐せずに延在し、前記複数のキャビティに合金粉末と分散媒から成るスラリーを供給可能な複数のスラリー供給路と、
を含む希土類系焼結磁石の成形装置。
【請求項8】
前記電磁石が、第1の電磁石と、
前記第1の電磁石から離間して対向配置された第2の電磁石と、を含むことを特徴とする請求項7に記載の成形装置。
【請求項9】
前記第1の電磁石と前記第2の電磁石との間に配置されたスラリー流路により、前記複数のスラリー供給路に前記スラリーを供給できることを特徴とする請求項8に記載の成形装置。
【請求項10】
前記複数のキャビティのそれぞれのスラリー供給路が、前記金型の外周側面から前記キャビティに向かって直線状に延在していることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、希土類系焼結磁石の製造方法、とりわけ湿式成形法を用いた希土類系焼結磁石の製造方法および成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
R−T−B系焼結磁石(Rは希土類元素(イットリウム(Y)を含む概念)の少なくとも1種、Tは鉄(Fe)または鉄とコバルト(Co)、Bは硼素を意味する)およびSm−Co系焼結磁石(Sm(サマリウム)の一部は他の希土類元素により置換してよい)等の希土類系焼結磁石は、例えば残留磁束密度B(以下、単に「B」という場合がある)、保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」という場合がある)などの磁気特性に優れることから広く用いられている。
【0003】
特に、R−T―B系焼結磁石は、これまでに知られている各種磁石の中でも最も高い磁気エネルギー積を示し、かつ比較的安価であることから、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ、ハイブリッド自動車用モータ、電気自動車用モータ等の各種モータならびに家電製品等など多種多様な用途に用いられている。そして、近年、各種用途における小型化・軽量化あるいは高能率化のため、R−T−B系焼結磁石等の希土類系焼結磁石のより一層の磁気特性の向上が要望されている。
【0004】
R−T−B系焼結磁石を含む多くの希土類系焼結磁石の製造は以下の工程含む。
金属等の原料を溶解(溶融)し、溶湯を鋳型に鋳造することにより得たインゴット、またはストリップキャスト法により得たストリップ等の所望の組成を有する原料合金鋳造材を粉砕して所定の粒径を有する合金粉末を得ること。
当該合金粉末をプレス成形(磁界中プレス成形)して成形体(圧粉体)を得た後、さらに当該成形体を焼結すること。
【0005】
鋳造材から合金粉末を得る際、多くの場合、粒径の大きい粗粉末(粗粉砕粉)に粉砕する粗粉砕工程と、粗粉末を更に所望の粒径の合金粉末に粉砕する微粉砕工程の2つの粉砕工程を用いる。
また、プレス成形(磁界中プレス成形)の方法は2つに大別される。1つは、得られた合金粉末を乾燥した状態のままプレス成形する乾式成形法である。もう1つは、例えば、特許文献1に記載される湿式成形法である。湿式成形法では、合金粉末を油等の分散媒に分散させてスラリーとし、合金粉末をこのスラリーの状態で金型のキャビティ内に供給しプレス成形を行う。
【0006】
さらに、乾式成形法および湿式成形法は、それぞれ、磁界中プレス時のプレス方向と磁界の方向との関係により2つに大別できる。一方は、プレスにより圧縮する方向(プレス方向)と合金粉末に印加される磁界の向きが略直交する直角磁界成形法(「横磁界成形法」ともいう)である。他方は、プレス方向と合金粉末に印加される磁界の向きが略平行である平行磁界成形法(「縦磁界成形法」ともいう。)である。
【0007】
湿式成形法は、スラリーの供給や分散媒の除去を行う必要があるため、成形装置の構造が比較的複雑となるものの、分散媒によって合金粉末および成形体の酸化が抑制され、成形体の酸素量を低減することができる。また、磁界中プレス成形時に合金粉末の間に分散媒が介在することから、摩擦力などによる拘束が弱いため、合金粉末が磁界印加方向により容易に回転できる。このため、より高い配向度を得ることができる。従って、乾式成形法と比べて容易に高い磁気特性を有する磁石を得ることができる。
そして、湿式成形法を用いることによる、この高い配向度と優れた酸化抑制効果は、R−T―B系焼結磁石のみならず、他の希土類系焼結磁石においても同じように得ることができる。
【0008】
以下に示す理由により湿式成形法のなかでも平行磁界成形法を用いるとより優れた磁気特性を得ることが可能となる。
湿式成形法ではキャビティ内にスラリーを入れて磁界中プレス成形を行う際に、スラリー中の分散媒(油等)の多くをキャビティ外に排出する必要があり、通常、上パンチまたは下パンチの少なくとも一方に分散媒排出孔を設け、上パンチおよび/または下パンチの移動によりキャビティの体積が減少し、スラリーが加圧されると分散媒排出孔から分散媒が排出される。この際、分散媒排出孔に近い部分からスラリー中の分散媒が濾過排出(濾過および排出)されるため、プレス成形の初期段階では分散媒排出孔に近い部分に合金粉末の濃度が高くなった(密度が高い)「ケーキ層」と呼ばれる層を形成する。
【0009】
そして、上パンチおよび/または下パンチが移動し、プレス成形が進行するとともに、より多くの分散媒が濾過排出され、キャビティ内のケーキ層の領域が広がり、最終的には、キャビティ内の全域が、合金粉末の密度が高い(分散媒濃度の低い)ケーキ層となり、さらに合金粉末同士が結合し(比較的弱く結合し)成形体が得られる。
【0010】
プレス成形の初期段階において、分散媒排出孔に近い部分(キャビティ内の上部および/または下部)にケーキ層が形成されると、直角磁界成形法では、磁界の方向が曲がる傾向がある。
ケーキ層は合金粉末の密度が高い(単位体積当たりの合金粉末量が多い)ため、スラリーのケーキ層以外の部分(単位体積当たりの合金粉末量が少ない部分)と比較して透磁率が高くなっている。このため、磁界は、ケーキ層に集束することとなる。これは、喩え、キャビティの外側では磁界がキャビティ側面に概ね垂直に印加されても、キャビティ内部ではケーキ層の方に曲げられたことを意味する。従って、この曲がった磁界に沿って合金粉末が配向するため、プレス成形後の成形体において、配向が曲がった部分が存在することとなり、成形体単体における配向度が低下し、焼結磁石において十分な磁気特性が得られない場合がある。
【0011】
一方、平行磁界成形法では、磁界はプレス方向に平行な方向、すなわち、上パンチから下パンチ方向に平行な方向に印加されるため、喩え、上パンチおよび/または下パンチの分散媒排出口に近い部分にケーキ層が形成されても、磁界は曲げられることなく、ケーキ層の無い部分からケーキ層内へと真っ直ぐ進む。このため、直角磁界成形法のような配向が曲がった部分を生じることがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−69908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
生産性を向上させるために、磁界中プレスに用いる金型に複数の貫通孔を形成して、そのそれぞれの貫通孔に上パンチと下パンチを配置することにより、磁界中に複数のキャビティを配置して、それぞれのキャビティにスラリーを供給し、それぞれのキャビティでプレス成形を行うことにより、複数の成形体を得ることは従来から行われていた。
しかし、従来は印加する磁界の強さが例えば1.0T程度までであり、前記複数のキャビティで得られたそれぞれの成形体の間で重量に明らかなばらつきが認められることはほとんどなかった。
【0014】
近年、より優れた磁気特性を得るために、これまでより大きな磁界を印加して磁界中プレス成形を行う必要がある場合が増えている。しかし、印加する磁界強度が、例えば1.0Tを超えるように、大きくなるに伴って、得られた成形体の間で重量のばらつきが認められる場合がある。とりわけ、印加する磁界の強さが、例えば、1.5T程度以上と大きくなると、明らかな重量ばらつき(以下、「単重ばらつき」という場合がある。なお、「単重」は、成形体1個の重量を意味する)が認められる場合が増加するという問題があった。
この単重ばらつきは、得られる成形体の寸法ばらつきにつながる。そして、寸法ばらつきが大きい場合、寸法の小さい成形体ができても不良とならないように寸法の目標値を大きくする必要がある。この結果、必要寸法よりも大きい成形体が数多く作製され、場合によっては出来上がった大きめの成形体を切削および/または研磨等により小さくする必要があるなど、材料や加工にかかるコストの増大を招来する。また、単重ばらつきが大きいと磁気特性のばらつきを惹起する場合がある。
よって成形体の単重ばらつきを低減することが求められていた。
【0015】
そこで、本願発明は、磁界中に複数のキャビティを配置して、例えば1.0Tを超える(例えば1.1T以上、さらには1.5T以上)のような大きな磁界を印加しても単重ばらつきが少ない成形体を安定して成形できる希土類系焼結磁石の製造方法および成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願発明の態様1は、1)希土類元素を含む合金粉末と、分散媒と、を含むスラリーを準備する工程と、2)少なくとも一方が移動して互いに接近離間可能でかつ、少なくとも一方が前記スラリーの前記分散媒を排出するための排出孔を有する上パンチと下パンチとを、金型内に設けた複数の貫通孔のそれぞれに配置して、前記金型と前記上パンチと前記下パンチとに取り囲まれたキャビティを複数準備する工程と、3)前記複数のキャビティのそれぞれの内部に、前記上パンチと前記下パンチの少なくとも一方が移動可能な方向と略平行な方向に電磁石により磁界を印加した後、前記金型の外周側面から前記複数のキャビティのそれぞれまで分岐せずに延在する複数のスラリー供給路を介して、前記複数のキャビティのそれぞれの内部に前記スラリーを供給する工程と、4)前記磁界を印加したままで、前記上パンチと前記下パンチとを接近させる磁界中プレス成形により、前記複数のキャビティのそれぞれの内部に前記合金粉末の成形体を得る工程と、5)前記成形体を焼結する工程と、を含むことを特徴とする希土類系焼結磁石の製造方法である。
【0017】
本願発明の態様2は、前記電磁石が、第1の電磁石と、前記第1の電磁石から離間して対向配置された第2の電磁石と、を含むことを特徴とする態様1に記載の製造方法である。
【0018】
本願発明の態様3は、前記第1の電磁石と前記第2の電磁石との間に配置されたスラリー流路により、前記複数のスラリー供給路にスラリーを供給することを特徴とする態様2に記載の製造方法である。
【0019】
本願発明の態様4は、前記複数のキャビティのそれぞれのスラリー供給路が、前記金型の外周側面から前記キャビティに向かって直線状に延在していることを特徴とする態様1〜3のいずれかに記載の製造方法である。
【0020】
本願発明の態様5は、前記工程3)において、前記複数のキャビティのそれぞれの内部に前記スラリーを20〜600cm/秒の流量で供給することを特徴とする態様1〜4のいずれかに記載の製造方法である。
【0021】
本願発明の態様6は、前記磁界の強さが1.5T以上であることを特徴とする態様1〜5のいずれかに記載の製造方法である。
【0022】
本願発明の態様7は、少なくとも一方が移動して互いに接近離間可能な上パンチ及び下パンチと、複数の貫通孔を有し、該複数の貫通孔のそれぞれに配置された前記上パンチと前記下パンチと前記貫通孔とに取り囲まれた複数のキャビティを形成する金型と、前記複数のキャビティのそれぞれの内部に、前記上パンチと前記下パンチの少なくとも一方が移動可能な方向と略平行な方向に磁界を印加する電磁石と、前記金型の外周面側から前記複数のキャビティのそれぞれまで分岐せずに延在し、前記複数のキャビティに合金粉末と分散媒から成るスラリーを供給可能な複数のスラリー供給路と、を含む希土類系焼結磁石の成形装置である。
【0023】
本願発明の態様8は、前記電磁石が、第1の電磁石と、前記第1の電磁石から離間して対向配置された第2の電磁石と、を含むより成ることを特徴とする態様7に記載の成形装置である。
【0024】
本願発明の態様9は、前記第1の電磁石と前記第2の電磁石との間に配置されたスラリー流路により、前記複数のスラリー供給路に前記スラリーを供給できることを特徴とする態様7または8に記載の成形装置である。
【0025】
本願発明の態様10は、前記複数のキャビティのそれぞれのスラリー供給路が、前記金型の外周側面から前記キャビティに向かって直線状に延在していることを特徴とする態様7〜9のいずれかに記載の成形装置である。
【発明の効果】
【0026】
本願発明に係る製造方法または成形装置を用いることにより、磁界中に複数のキャビティを配置して、当該複数のキャビティに例えば1.0Tを超えるような大きな磁界を印加して複数の成形体を形成しても、単重ばらつきの少ない成形体を安定して成形することができる。その結果、材料や加工にかかるコストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本願発明に係る希土類系焼結磁石の製造装置、より詳細には磁界中プレス成形装置100の断面図である。図1(a)は、横断面を示し、図1(b)は図1(a)のIb−Ib線断面を示す。
図2図2は、キャビティ9a〜9d(キャビティ9c、9dは不図示)内が、スラリー25により満たされた状態を示す断面図である。
図3図3は、キャビティ9a〜9d(キャビティ9c、9dは不図示)の成形方向の長さがL1となるまで圧縮した状態を示す。
図4図4は、キャビティ9a〜9d(キャビティ9c、9dは不図示)の成形方向の長さが得ようとする成形体の長さLFに略等しいL2となるまで圧縮した状態である。
図5図5は、従来の磁界中プレス成形装置300の断面図である。図5(a)は、横断面を示し、図5(b)は図5(a)のVb−Vb線断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面に基づいて本願発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、「右」、「左」及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本願発明の技術的範囲が制限されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一の部分又は部材を示す。
【0029】
本願発明者らは、従来の方法を用いて、1つの金型に複数の貫通孔を設けることにより複数のキャビティを配置して、例えば1.0Tを超えるような(例えば、1.1T以上、さらには1.5T以上)、高い磁界中でプレス成形を行って成形体を形成すると、複数の成形体間で単重ばらつきが生じる理由を鋭意検討した。
その結果、詳細を後述するように、従来のスラリー供給方法では金型の外周側面から金型内部にスラリーを導くスラリー供給路を分岐させてそれぞれのキャビティ内にスラリーを供給していたが、このような分岐部の存在が、キャビティ間で得られる成形体の重量を異ならせ、単重ばらつき発生の原因になっていることを見いだした。
【0030】
そして、複数のキャビティのそれぞれに、その内部にスラリーを注入するためのスラリー供給路を、分岐部を有することなく、キャビティと金型の外周側面とを繋ぐように形成し、このスラリー供給路を介して、それぞれのキャビティにスラリーを供給することにより、1.0Tを超える強い磁界、例えば1.5T以上の磁界を印加しても、単重ばらつきの少ない成形体を得ることができる本願発明に至った。
以下に、本願発明に係る製造方法および装置の詳細を説明する。
【0031】
1.磁界中プレス成形工程
(1)磁界中プレス成形装置
図1は、本願発明に係る希土類系焼結磁石の製造装置、より詳細には磁界中プレス成形装置100の断面図である。図1(a)は、横断面を示し、図1(b)は図1(a)のIb−Ib線断面を示す。なお、図1(a)に示す横断面上には実際は、第1の電磁石7aは存在しないが(図1(b)から理解できるように、第1の電磁石7aは、図1(a)の断面より下に配置されている。)、第1の電磁石7aと図1(a)に示した他の構成要素との相対的な位置関係の理解を容易にするために、図1(a)内に第1の電磁石7aを記載した。
【0032】
磁界中プレス成形装置100は、上下(図1(b)の上下方向)に貫通する空間(空洞)8aを内部に有する第1の電磁石7aと、第1の電磁石7aの上部に第1の電磁石7aから離間して配置され、上下(図1(b)の上下方向)に貫通する空間(空洞)8bを内部に有する第2の電磁石7bと、第1の電磁石7aの空間から第2の電磁石7bの空間まで延在する(すなわち、一部分が第1の電磁石7aの空間8a内に収容され、第1の電磁石7aの空間8aと第2の電磁石7bの空間8bとの間を延在し、別の一部分が第2の電磁石7bの空間8bに収容されている)金型5を有する。
【0033】
図1(a)および図1(b)(以下、この両者を合わせて単に「図1」と呼ぶ場合がある)に示す実施形態では、第1の電磁石7aの空間8aおよび第2の電磁石7bの空間8bの内部に、より均一な磁界を発生させるために、空間8aと空間8bは、同じ形状(円柱)で同軸上に整列して配置されている。しかし、金型5を配置でき、かつその内部に比較的均一な磁界を発生できる限りは、空間8aと空間8bは任意の形状および任意の配置であってよい。
好ましい実施形態の1つでは、その内部により均一な磁界を発生できるように、空間8aは、第1の電磁石7aのコイルの空芯部(芯部)であり、空間8bは、第2の電磁石7bのコイルの空芯部(芯部)である。
【0034】
また、図1は、2つの電磁石7a、7bを用いる実施形態を示している。しかし、これに代えて、1つの電磁石を用いて、当該電磁石の上下に貫通する空間(例えば空芯部)の内部に金型5の少なくとも一部を配置する実施形態も本願発明に含まれる。
さらに、例えば第1の電磁石7aを上下方向に近接して配置した2つの電磁石から構成し、第2の電磁石7bも上下方向に近接して配置した2つの電磁石から構成し、合計4つの電磁石を用いる実施形態のように、3つ以上の電磁石を用いる実施形態も本願発明に含まれる。
図1に示す実施形態では、金型5の一部分が第1の電磁石7aの空間8aから第2の電磁石7bの空間8bまで延在する、すなわち、金型5の一部分が第1の電磁石7aの空間8a内に収容され、第1の電磁石7aの空間8aと第2の電磁石7bの空間8bとの間を延在し、別の一部分が第2の電磁石7bの空間8bに収容されている実施形態を示している。しかし、これに代えて、金型5を、空間8cと空間8dの少なくとも一方に配置する実施形態も本願発明に含まれる。ここで空間8cは、第1の電磁石7aの空間8aと第2の電磁石7bの空間8bとを繋ぐ空間(空間8aと空間8bとの間に位置する空間)であり、空間8dは、第1の電磁石7aと第2の電磁石7bとの間の空間(対向空間)である。
【0035】
金型5はその内部に複数のキャビティを有している。以下に図1に基づいて金型5の内部に4個のキャビティ9a〜9dが形成されている場合について説明するが、キャビティの数は2以上の任意の数であってよい。なお、好ましくは、金型5は4個以上、より好ましくは8個以上のキャビティを有する。より高い生産性を得ることができるからである。
また、図1の実施形態では、1つの金型5に複数の貫通孔を設けることにより、複数のキャビティを形成している。しかし、これに代えて、複数の金型を用いて、これら複数の金型のそれぞれに設けた1または複数の貫通孔を用いて、複数のキャビティを形成する実施形態も本願発明に含まれる。
【0036】
キャビティ9a〜9dは、金型5を上下(図1(b)の上下方向)に貫通する4つの貫通孔と、当該4つの貫通孔を覆うように配置されている上パンチ1と、4つの貫通孔それぞれの下部に挿入された4つの下パンチ3a〜3dとにより形成されている。すなわち、キャビティ9a〜9dは、それぞれ、金型5の貫通孔の内面と上パンチ1の下面と下パンチ3a〜3dのいずれか1つの上面(すなわち、キャビティを示す符号のアルファベットと同じアルファベットをその符号に有する下パンチの上面)とにより取り囲まれて形成されている。
【0037】
キャビティ9a〜9dのそれぞれは、成形方向に沿った長さL0を有している。ここで、成形方向とは、上パンチと下パンチの少なくとも一方が他方に接近するために移動する方向(すなわちプレス方向)を意味する。
図1に示す実施形態では、後述するように下パンチ3a〜3dが固定され、上パンチ1と金型5とが、一体的に移動する。従って、図1(b)において上から下に向かう方向(図3および図4の矢印Pの方向)が成形方向である。
【0038】
図1(b)中の破線Mは、第1の電磁石7aと第2の電磁石7bにより形成される磁界を模式的に示している。キャビティ9a〜9d(ただし、図1(b)にキャビティ9c、9dは図示していない)のそれぞれの内部には、破線M上の矢印が示すように、図1の下から上方向、すなわち成形方向に略平行な方向に磁界が印加されている。成形方向に略平行とは図1(b)に示すように、磁界の向きが下パンチ3a〜3d(下パンチ3c、3dは不図示)から上パンチ1の方向(図1(b)の下から上方向)である場合だけでなく、逆方向、すなわち、磁界の向きが上パンチ1から下パンチ3a〜3dの方向(図1(b)の上から下方向)である場合も含む。
なお、ここで「略平行」と「略」を用いるのは、例えば、コイルの空芯部内の磁界のように、電磁石の内部に設けた空間(空洞)に形成される磁界は、完全な直線とはならず、緩やかな曲線となるため、直線である成形方向とは完全には平行にならないためである。ただし、当業者は、このような事実を理解した上で、この緩やかな曲線上の磁界とコイルの長手方向(図1(b)の上下方向、すなわち成形方向に同じ)とを「平行」と表現することがある。従って、当業者の技術常識としては「平行」と記載しても問題ない。
【0039】
キャビティ9a〜9dの内部の磁界の強さは、好ましくは、1.0Tを超えており(例えば、1.1T以上)、より好ましくは1.5T以上である。キャビティ9a〜9dの内部にスラリーを供給した際にスラリー中の合金粉末の磁化方向がより確実に磁界の方向に配向し、高い配向度が得られるからである。1.0T以下では合金粉末の配向度が低下する、またはプレス成形時に合金粉末の配向が乱れ易くなる傾向がある。キャビティ9の内部の磁界の強さは、ガウスメータで測定または磁界解析により求めることができる。
なお、本願発明は、後述するように、キャビティ9a〜9dの内部に1.0Tを超える磁界を印加した場合、顕著な効果を示すが、1.0T以下の磁界を印加する場合においても単重ばらつきの少ない成形体を安定して成形することができることは言うまでもない。
【0040】
キャビティ9a〜9d内に、成形方向に略平行な磁界を形成するために、好ましくは、金型5は非磁性材料により形成される。このような非磁性材料として、非磁性超硬合金を例示できる。
また上パンチ1及び下パンチ3a〜3dは磁性材料(強磁性材料)から成ることが好ましい。キャビティ9a〜9d内部における均一な平行磁場を形成するために上パンチの下端面又は下パンチの上端面に非磁性材料を配置してもよい。
【0041】
キャビティ9a〜9dは、それぞれ、スラリー供給路15a〜15dを有する(すなわち、キャビティを示す符号のアルファベットと同じアルファベットをその符号に有するスラリー供給路を有する。)。その内部をスラリーが通過するように形成されたスラリー供給路15a〜15dは、金型の外周側面(外周)から、それぞれ、キャビティ9a〜9dまで分岐部を有することなく延在している。
そして、スラリー供給路15a〜15dは、詳細を後述するように、スラリーを外部から金型5に供給するためのスラリー流路17aまたはスラリー流路17bに接続されている。
【0042】
このような構成を有することにより、キャビティ9a〜9d内で形成された成形体の単重ばらつきを抑制できる理由を説明するために、従来の磁界中プレス成形装置の構成と比較して説明する。
図5は、従来の磁界中プレス成形装置300の断面図である。図5(a)は、横断面を示し、図5(b)は図5(a)のVb−Vb線断面を示す。なお、図5(a)に示す横断面上には実際は、第1の電磁石7aは存在しないが(図5(b)から理解できるように、第1の電磁石7aは、図5(a)の断面より下に配置されている)、第1の電磁石7aと図5(a)に示した他の構成要素との相対的な位置関係の理解を容易にするために、図5(a)内に第1の電磁石7aを記載したのは、図1(a)と同様である。
また、スラリー供給路115a、115bおよび115eは、Vb−Vb線断面上には存在しない(図5(a)から判るようにスラリー供給路115a、115bおよび115eは、図5(b)の紙面より奥に存在する)が、キャビティ9a、9bとの位置関係を容易に理解するために点線で示した。
また、図5(a)および図5(b)(以下、この両者を合わせて単に「図5」と呼ぶ場合がある)において、図1と同じ符号を有する要素は、特に断らない限り、図1に示した要素と同じ構成を有することを示す。
【0043】
磁界中プレス成形装置300の金型105では、金型105の複数のキャビティ9a〜9dへのスラリーの供給は、金型105の外周側面からキャビティ9a〜9dまで延在するスラリー供給路115a〜115eによって行われる。スラリー供給路は、スラリーを金型105の外周側面から金型105の内部に導入するスラリー供給路115eと、スラリー供給路115eから分岐して、キャビティ9a〜9dのそれぞれに繋がるスラリー供給路115a〜115dからなる。
より詳細には、スラリー供給路115eは、金型105の外周側面から中心部に向かって延在した後、T字型分岐部により、2つの方向に分岐し、更に、この2つの分岐部分の一方からはスラリー供給路115aとスラリー供給路115dとがT字型に分岐し、他方からはスラリー供給路115bとスラリー供給路115cとがT字型に分岐している。
また、スラリー供給路115eの金型外周側の端部は、第1の電磁石7aと第2の電磁石7bの間に配置されたスラリー流路117に接続されている。
【0044】
このように金型105内にスラリー供給路115a〜115eを設けることにより、スラリー流路117と金型105(スラリー供給路115eの金型外周側の端部)を1箇所接続するだけで、複数のキャビティ9a〜9dにスラリーを供給できるという利点を有している。
【0045】
しかし、高い磁気特性を得るために例えば1.0Tを超えるような(例えば1.1T以上、さらには1.5T以上)強い磁界を印加する場合は、このような構成では、得られる成形体間に顕著な単重ばらつきが発生することを本願発明者らが初めて見出したものである。
本願発明者らが考えるキャビティが異なることにより、得られる成形体の単重が異なる、単重ばらつきが生ずる理由を次に示す。ただし、これは本願発明の技術的範囲を制限することを意図したものではないことに留意されたい。
【0046】
キャビティ9a〜9dの内部に供給されたスラリー中の合金粉末は印加されている磁界により、磁界の方向に平行に配向する。しかし磁界の方向に配向するのは、キャビティ内だけではない。スラリー供給路115a〜115eの内部に存在する合金粉末も磁界方向に配向する。
【0047】
すなわち、スラリー供給路115a〜115eの内部にスラリーの進行方向に垂直な方向に磁界によって拘束された塊状の合金粉末が形成される場合がある。このような塊状の合金粉末は、スラリーがその進行方向に進む際の抵抗となる。そして、金型105内において、スラリーが移動する距離が長くなるほど、また分岐部が存在するとより多くの抵抗を受けることとなる。しかし、磁界が1.0T以下のように比較的弱い場合、このような抵抗は大きなものではなく、スラリーが移動する距離が長くなること、および分岐部が存在することによる抵抗の増加は、大きな問題となるものではないと考えられる。
【0048】
しかしながら、キャビティに印加する磁界の強さが1.0Tを超えると、スラリー供給路の合金粉末の配向度も相当に高くなり、抵抗も大きくなる。そして、分岐部の存在が単重ばらつきの原因となる。金型内のスラリー供給路に分岐点が存在すると、喩え幾何学的には同様に(例えば、同じ断面形状、同じ角度で)2つのスラリー供給路が分岐しても(例えば、スラリー供給路115aとスラリー供給路115d)、分岐部近傍において磁界によって拘束された塊状の合金粉末の量や形状の差等により、2つのスラリー供給路の間でスラリーに対する抵抗が異なり、キャビティ内に供給されるスラリー量(とりわけ、合金粉末量)がキャビティ間で異なることになる。その結果、キャビティ間で得られた成形体の単重ばらつきが大きくなる。そして、この単重ばらつきは、得られる希土類系焼結磁石の磁気特性のばらつきを助長する場合もあると考えられる。
【0049】
これに対して、図1に示す本願発明に係る磁界中プレス成形装置100では、このような問題を回避するために、金型5内で分岐部を有しないようにスラリー供給路15a〜15dが設けられている。
【0050】
スラリー供給路15a〜15dは、金型5の外周側面から、それぞれ、キャビティ9a〜9dまで延在している(即ち、スラリー供給路15aは金型5の外周側面からキャビティ9aまで延在し、スラリー供給路15bは金型5の外周側面からキャビティ9bまで延在し、スラリー供給路15cは金型5の外周側面からキャビティ9cまで延在し、スラリー供給路15dは金型5の外周側面からキャビティ9dまで延在している。)。このような構成を有するスラリー供給路15a〜15dは分岐部を有していないため、スラリーを分岐部を通過させることなく、金型5の外周表面からキャビティに供給できる。すなわち、スラリー供給路15a〜15dは、分岐部の存在に起因する、各キャビティ間におけるスラリー供給時の抵抗の大きさの違いを大幅に低減でき、単重ばらつきを確実に低減できる。
【0051】
スラリー供給路15a〜15dは、好ましくは、同じ長さ(金型5内での長さ)を有している。スラリー供給路の長さの違いに起因する、抵抗の大きさの違いをより確実に抑制できるからである。
【0052】
また、スラリー供給路15a〜15dは、好ましくは、直線状に延在している(すなわち、湾曲部および屈曲部を有しない)。1.0Tを超える磁界の印加された状態で、スラリー供給路に湾曲部または屈曲部があり、この部分に磁界方向に配向した合金粉末の塊が形成されると、直線部に合金粉末の塊が形成された場合と比べ、スラリーの流動にとって明らかに大きな抵抗となるからである。
【0053】
図1においては、スラリー供給路15a〜15cは、それぞれ、キャビティ9a〜9dと金型5の外周側面との距離が比較的短い部分に設けられている。これによりスラリー供給路15a〜15dの長さを短くすることができることから、スラリーの流動に対する抵抗を確実に小さくすることができ、キャビティ9a〜9dにより均一にスラリーを供給できる。
キャビティ9a〜9dのいずれかと金型5の外周側面との距離が短い部分が複数存在する場合は、そのうちの1箇所にスラリー供給路15a〜15dのいずれかを設ければよい。
但し、得ようとする成形体の形状、キャビティの深さ寸法などにより、キャビティ9a〜9dのそれぞれについて、スラリー供給路15a〜15dのキャビティ側端部(スラリー供給口)を設ける位置に最適な箇所がある場合には、必ずしもキャビティ9a〜9dと金型5の外周側面との距離が短い部分にスラリー供給路15a〜15dを設ける必要はなく、スラリー供給路15a〜15dの長さが多少長くなっても、当該最適な箇所からスラリー供給路15a〜15dを延在させることが好ましい。
【0054】
スラリー供給路9a〜9dのそれぞれは、図示しないスラリー供給装置(例えば、油圧シリンダを有する油圧装置)と繋がった、スラリー流路17aまたはスラリー流路17bと接続されており、これにより、スラリー供給装置からスラリーがキャビティ9a〜9dに供給される。
【0055】
スラリー流路17aおよびスラリー流路17bは、好ましくは、図1に示されるように、第1の電磁石7a(より詳細には第1の電磁石7aのコイル部(空芯部ではない部分))と第2の電磁石7b(より詳細には第2の電磁石7bのコイル部(空芯部ではない部分))との間に配置される。この第1の電磁石7aと第2の電磁石7bとの間の部分は、空芯部と比べ磁界が例えば半分以下程度と相当弱いため、スラリー流路17a、17bを流れるスラリーが磁界による抵抗をあまり受けないためである。
このため、図1(a)に示すように、スラリー流路17a、17bは分岐部を有していても問題ない。
【0056】
また、図1に示すように、スラリー流路は、スラリー供給路の配置に応じて、複数設けてもよく、また単数であってもよい。
スラリー流路はその内部を通過するスラリーの圧力に耐える耐圧性を有し、かつスラリーの分散媒による腐食や溶解に耐える材料であれば、任意の材料を用いて形成してよい。好ましい、材料として銅(例えば銅管)およびステンレス鋼を例示できる。また、耐圧ゴム等を用いでもよい。
スラリー流路の形状はスラリーが通過する際の抵抗が少なく、滞留が起こりにくい形状であればよく、管状またはブロック形状の部材内を貫通する孔を例示できる。
【0057】
なお、上述の好ましい実施形態においては、スラリー流路17a、17bは、第1の電磁石7aと第2の電磁石7bとの間に配置されているが、これに限定されるものではなく任意の配置を有してよい。例えば、第1の電磁石7aと第2の電磁石7bに代えて、単一の電磁石を用いる場合、当該電磁石のコイルの外側からコイルを貫通して空芯部に至るようにスラリー流路を配置してよい。
【0058】
上パンチ1は、好ましくは、スラリー中の分散媒をキャビティ9aの外側に濾過排出するための分散媒排出孔11aを有している。より好ましい実施形態では、分散媒排出孔11aは複数の排出孔を有している。
同様に、上パンチ1は、好ましくは、分散媒をキャビティ9b〜9dの外側に濾過排出するために、分散媒排出孔11b〜11dを有している。分散媒排出孔11c(キャビティ9c内の分散媒を排出する)および分散媒排出孔11d(キャビティ9d内の分散媒を排出する)は図示せず)。
【0059】
上パンチ1が分散媒排出孔11a〜11dを有する場合、上パンチ1は、分散媒排出孔11a〜11dを覆うように、例えば濾布、濾紙、多孔質フィルターまたは金属フィルターのようなフィルター13を有している。これにより、合金粉末が分散媒排出孔11a〜11d内に侵入するのをより確実に防止(すなわち、分散媒のみを濾過)しながら、スラリー中の分散媒をキャビティ9a〜9dの外側に濾過排出できるからである。
【0060】
分散媒排出孔11a〜11dを、上パンチ1に設けるのに代えて、または上パンチ1に設けるのと併せて、下パンチ3aに分散媒排出孔11aを設け、下パンチ3bに分散媒排出孔11bを設け、下パンチ3cに分散媒排出孔11cを設け、下パンチ3dに分散媒排出孔11dを設けてもよい。
このように、下パンチ3a〜3dに分散媒排出孔11a〜11dを設ける場合も分散媒排出孔11a〜11dのそれぞれを覆うように、下パンチ3a〜3dのそれぞれにフィルター13を配置することが好ましい。
【0061】
(2)プレス成形方法
・スラリー供給
次に、磁界中プレス成形装置100を用いてプレス成形を行う工程の詳細を説明する。
図1(b)に示すように、上パンチ1および金型5を所定の位置に固定することにより、キャビティ9a〜9dのそれぞれの高さを初期高さL0とする。
【0062】
そして、キャビティ9a〜9d内部にスラリーを注入する。
スラリーは上述のように、スラリー供給装置(不図示)と、スラリー流路17a、17bと、スラリー供給路9a〜9dとを介して行う。
【0063】
図2は、キャビティ9a〜9d(キャビティ9c、9dは不図示)内が、スラリー25により満たされた状態を示す断面図である。スラリー25は、希土類元素を含有する合金粉末21と、例えば油等である分散媒23とを含む。図2に示す状態では、上パンチ1と下パンチ3a〜3dは、静止した状態であり、従って、キャビティ9a〜9dの成形方向における長さ(すなわち、上パンチ1と下パンチ3(3a〜3d)との距離)はL0で一定のままである。
【0064】
スラリー25は、キャビティ9a〜9dのそれぞれの内部に20〜600cm/秒の流量(スラリー供給量)で供給されることが好ましい。流量が20cm/秒未満では、1.0Tを超える強い磁界が印加されていることから、流量を調整することが困難な場合があり、また、磁界による抵抗によってキャビティ内にスラリーを供給できない場合があるからである。一方、流量が600cm/秒を超えると、得られた成形体内で密度にばらつきが発生し、プレス成形後の成形体取出し時に成形体に割れが生じる場合または焼結時の収縮により割れが生じる場合があるからである。また、スラリー供給口近傍に配向の乱れが生じ得るからである。特に、磁界印加方向のキャビティの寸法(キャビティの高さ寸法)が10mmを超える場合には、スラリー流量を20〜600cm/秒とすることが好ましい。
スラリーの流量は、より好ましくは20〜400cm/秒であり、最も好ましくは20〜200cm/秒である。より好ましい範囲さらには最も好ましい範囲にすることにより、成形体の各部分における密度ばらつきを、より一層低減することができる。
スラリーの流量は、スラリー供給装置となる油圧シリンダを有する油圧装置の流量調整弁を調整することによって、油圧シリンダへ送り込む油の流量を変化させ、油圧シリンダの速度を変化させることによって制御することができる。
【0065】
キャビティ内に1.0Tを超える磁界を印加した状態で、キャビティ内にスラリーを流量20cm/秒〜600cm/秒の範囲で供給して成形体を製造すると、成形体の各部分における密度ばらつきをより一層低減でき、この結果、当該成形体より得た希土類系焼結磁石の各部分における磁気特性が均一でかつ高い磁気特性を有し、キャビティ間の磁気特性のばらつきをより一層低減できる。
【0066】
スラリーの供給圧力は1.96MPa〜14.71MPa(20kgf/cm〜150kgf/cm)が好ましい。
【0067】
スラリー供給路15a〜15dは、その断面(スラリーの進行方向に垂直な断面)形状は任意である。好ましい形状の1つは略円形であり、その直径が2mm〜30mmであることが好ましい。
【0068】
キャビティ9a〜9d内に供給されたスラリー25の合金粉末21は、キャビティ内に印加された1.0Tを超える磁界により、その磁化方向が、磁界の方向に平行、すなわち成形方向に略平行となる。図2図4において、合金粉末21内に示した矢印は、合金粉末21の磁化方向を模式的に示したものである。
【0069】
・プレス成形
このように、キャビティ9a〜9dが供給されたスラリー25により満たされた後、プレス成形を行う。
図3および図4は、プレス成形を模式的に示す概略断面図である。
図3は、キャビティ9a〜9d(キャビティ9c、9dは不図示)の成形方向の長さがL1(L0>L1)となるまで圧縮した状態を示し、図4は、キャビティ9a〜9d(キャビティ9c、9dは不図示)の成形方向の長さが得ようとする成形体の長さLFに略等しいL2(L1>L2)となるまで圧縮した状態である。
【0070】
プレス成形は、上パンチ1と下パンチ3(下パンチ3a〜3d)の少なくとも一方を移動させ、上パンチ1と下パンチ3(下パンチ3a〜3d)とを接近させることにより、キャビティ9a〜9dのそれぞれの体積を減少させて行う。図1図4に示す実施形態では、下パンチ3a〜3dが固定されており、上パンチ1と第2の電磁石7b、金型5と第1の電磁石7aがそれぞれ一体となっている。すなわち、上パンチ1、第2の電磁石7b、金型5および第1の電磁石7aが一体となって図3および図4における図中の矢印Pの方向(図の上方向から下方向)に移動することによって、プレス成形を行う。
【0071】
図3に示すように、磁界中プレス成形を行い、キャビティ9a〜9dの体積が小さくなると、分散媒排出孔11a〜11dのそれぞれに近い部分からスラリー25中の分散媒23が分散媒排出孔11a〜11dを通って濾過排出される。一方、合金粉末21は、キャビティ9a〜9dに残存するため、分散媒排出孔11a〜11dに近い部分からケーキ層27を形成する。そして、図4に示すように、遂には、ケーキ層27がキャビティ9a〜9dの全体に拡がり、合金粉末21同士が結合し、成形方向の長さ(圧縮方向の長さ)がLFの成形体が得られる。なお、本願明細書において、「ケーキ層」とは、スラリー中の分散媒をキャビティ9a〜9dの外側に濾過排出することにより、合金粉末の濃度が高くなった層のことを言う(多くの場合、所謂、ケーキ状の状態にある)。
【0072】
本願発明に係る磁界中プレス成形において、プレス成形を行う前のキャビティ9a〜9dの成形方向の長さ(L0)の得られる成形体の成形方向の長さ(LF)に対する比(L0/LF)は1.1〜1.4であることが好ましい。L0/LF比を1.1〜1.4にすることにより、磁化方法が磁界の方向に配向している合金粉末21がプレス成形時に付与される応力により回転し、その磁化方向が磁界に平行な方向から逸れるリスクを軽減することができ、磁気特性をさらに向上させることができる。L0/LF比を1.1〜1.4にするには、スラリーを高濃度(例えば84%以上(質量比))にするなどの方法を例示できる。
【0073】
なお、図1図4に示す実施形態では、下パンチ3a〜3dを固定し、上パンチ1と金型5とを一体的に移動させて磁界プレス成形を行うが、上述のようにこれに限定されるものではない。
上パンチ金型5の貫通孔に挿入可能な(すなわち、下パンチ3a〜3dと同様の)可動式上パンチを用いて、金型5は固定し、可動式上パンチを下方向に、下パンチ3a〜3dを上方向に移動させてもよい。
また、この図1の実施形態の変形例として、金型5と上パンチ1とを固定し、下パンチ3a〜3dを図1(b)の上方向に移動させて磁界中プレスを実施してもよい。
【0074】
2.その他の工程
以下に、成形工程以外の工程について説明する。
(1)スラリーの作製
・合金粉末の組成
合金粉末の組成は、R−T−B系焼結磁石(Rは希土類元素(イットリウム(Y)を含む概念)の少なくとも1種、Tは鉄(Fe)または鉄とコバルト(Co)、Bは硼素を意味する)およびSm−Co系焼結磁石(Sm(サマリウム)の一部は他の希土類元素により置換してよい)を含む既知の希土類系焼結磁石の組成を有してよい。
好ましいのは、R−T―B系焼結磁石である。各種磁石の中でも最も高い磁気エネルギー積を示し、かつ比較的安価であるからである。
【0075】
以下に好ましいR−T−B系焼結磁石の組成を示す。
Rは、Nd、Pr、Dy、Tbのうち少なくとも一種から選択される。ただし、Rは、NdおよびPrのいずれか一方を含むことが好ましい。更に好ましくは、Nd−Dy、Nd−Tb、Nd−Pr−DyまたはNd−Pr−Tbで示される希土類元素の組合せを用いる。
【0076】
Rのうち、DyおよびTbは、特にHcJの向上に効果を発揮する。上記元素以外に少量のCeまたはLaなど他の希土類元素を含有してもよい。また、Rは純元素でなくてもよく、ミッシュメタルやジジムを用いることもでき、工業上入手可能な範囲で、製造上不可避な不純物を含有するものでもよい。含有量は、従来から知られる含有量を採用することができ、例えば、25質量%以上35質量%以下が好ましい範囲である。25質量%未満では高磁気特性、特に高HcJが得られない場合があり、35質量%を超えるとBが低下する場合があるためである。
【0077】
Tは、鉄を含み(Tが実質的に鉄から成る場合も含む)、質量比でその50%以下をコバルト(Co)で置換してもよい(Tが実質的に鉄とコバルトとから成る場合を含む)。Coは温度特性の向上、耐食性の向上に有効であり、合金粉末は10質量%以下のCoを含んでよい。Tの含有量は、RとBあるいはRとBと後述するMとの残部を占めてよい。
【0078】
Bの含有量についても公知の含有量で差し支えなく、例えば、0.9質量%〜1.2質量%が好ましい範囲である。0.9質量%未満では高HcJが得られない場合があり、1.2質量%を超えるとBが低下する場合がある。なお、Bの一部はC(炭素)で置換することができる。Cによる置換は磁石の耐食性を向上させることができる場合がある。B+Cとした場合(BとCの両方含む場合)の合計含有量は、Cの置換原子数をBの原子数で換算し、上記のB濃度の範囲内に設定されることが好ましい。
【0079】
上記元素に加え、HcJ向上のためにM元素を添加することができる。M元素は、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Hf、TaおよびWからなる群から選択される一種以上である。M元素の添加量は2.0質量%以下が好ましい。5.0質量%を超えるとBが低下する場合があるためである。また、不可避的不純物も許容することができる。
【0080】
・合金粉末の製造方法
合金粉末は例えば、溶解法により、所望の組成を有する希土類系磁石用原料合金のインゴットまたはフレークを作製し、この合金インゴットおよびフレークに水素を吸収(吸蔵)させて水素粉砕を行い、粗粉砕粉を得る。
そして、粗粉砕粉をジェットミル等により更に粉砕して微細粉(合金粉末)を得ることができる。
【0081】
希土類系磁石用原料合金の製造方法を例示する。
最終的に必要な組成となるように事前に調整した金属を溶解し、鋳型にいれるインゴット鋳造法により合金インゴットを得ることができる。
また、溶湯を単ロール、双ロール、回転ディスクまたは回転円筒鋳型等に接触させて急冷し、インゴット法で作られた合金よりも薄い凝固合金を作製するストリップキャスト法または遠心鋳造法に代表される急冷法により合金フレークを製造することができる。
【0082】
本願発明においては、インゴット法と急冷法のどちらの方法により製造された材料も使用可能であるが、急冷法により製造されるものが好ましい。
急冷法によって作製した希土類系磁石用原料合金(急冷合金)の厚さは、通常0.03mm〜10mmの範囲にあり、フレーク形状である。合金溶湯は冷却ロールの接触した面(ロール接触面)から凝固し始め、ロール接触面から厚さ方向に結晶が柱状に成長してゆく。急冷合金は、従来のインゴット鋳造法(金型鋳造法)によって作製された合金(インゴット合金)に比較して、短時間で冷却されているため、組織が微細化され、結晶粒径が小さい。また粒界の面積が広い。Rリッチ相は粒界内に大きく広がるため、急冷法はRリッチ相の分散性に優れる。
このため水素粉砕法により粒界で破断し易い。急冷合金を水素粉砕することで、水素粉砕粉(粗粉砕粉)のサイズを例えば1.0mm以下とすることができる。
【0083】
このようにして得た粗粉砕粉をジェットミル等により粉砕することで例えば、気流分散式レーザー解析法によるD50粒径で3〜7μmの合金粉末を得ることができる。
ジェットミルは、(a)酸素含有量が実質的に0質量%の窒素ガスおよび/またはアルゴンガス(Arガス)からなる雰囲気中、または(b)酸素含有量が0.005〜0.5質量%の窒素ガスおよび/またはArガスからなる雰囲気中で行うのが好ましい。
得られる焼結体中の窒素量を制御するために、ジェットミル内の雰囲気をArガスとし、その中に窒素ガスを微量導入して、Arガス中の窒素ガスの濃度を調整するのがより好ましい。
【0084】
・分散媒
分散媒は、その内部に合金粉末を分散させることによりスラリーを得ることができる液体である。
本願発明に用いる好ましい分散媒として鉱物油または合成油を挙げることができる。
鉱物油または合成油はその種類が特定されるものではないが、常温での動粘度が10cStを超えると粘性の増大によって合金粉末相互の結合力が強まり磁界中湿式成形時の合金粉末の配向性に悪影響を与える場合がある。
このため鉱物油または合成油の常温での動粘度は10cSt以下が好ましい。また鉱物油または合成油の分留点が400℃を超えると成形体を得た後の脱油が困難となり、焼結体内の残留炭素量が多くなって磁気特性が低下する場合がある。
したがって、分散媒として用いる鉱物油または合成油の分留点は400℃以下であることが好ましい。
【0085】
また、分散媒として植物油を用いてもよい。植物油は植物より抽出される油を指し、植物の種類も特定の植物に限定されるものではない。例えば、大豆油、なたね油、コーン油、べにばな油またはひまわり油などがあげられる。
【0086】
・スラリーの作製
得られた合金粉末と分散媒とを混合することでスラリーを得ることができる。
合金粉末と分散媒との混合率は特に限定されないが、スラリー中の合金粉末の濃度は、質量比で、好ましくは70%以上(すなわち、70質量%以上)である。20〜600cm/秒の好ましい流量において、キャビティ内部に効率的に合金粉末を供給できると共に、優れた磁気特性が得られるからである。
また、スラリー中の合金粉末の濃度は、質量比で、好ましくは90%以下である。スラリーの流動性を確実に確保するためである。
より好ましくは、スラリー中の合金粉末の濃度は、質量比で、75%〜88%である。より効率的に合金粉末を供給でき、かつより確実にスラリーの流動性を確保できるからである。
更により好ましくは、スラリー中の合金粉末の濃度は、質量比で、84%以上である。上述のように、キャビティ9の成形方向の長さ(L0)の得られる成形体の成形方向の長さ(LF)に対する比(L0/LF)を1.1〜1.4と低い値にでき、その結果、磁気特性をより一層向上できるからである。
【0087】
合金粉末と分散媒との混合方法は特に限定されるものではない。
合金粉末と分散媒とを別々に用意し、両者を所定量秤量して混ぜ合わせることによって製造してよい。
あるいは粗粉砕粉をジェットミル等で乾式粉砕して合金粉末を得る際にジェットミル等の粉砕装置の合金粉末排出口に分散媒を入れた容器を配置し、粉砕して得られた合金粉末を容器内の分散媒中に直接回収しスラリーを得てもよい。この場合、容器内も窒素ガスおよび/またはアルゴンガスからなる雰囲気とし、得られた合金粉末を大気に触れさせることなく直接分散媒中に回収して、スラリーとすることが好ましい。
【0088】
さらには、粗粉砕粉を分散媒中に保持した状態で振動ミル、ボールミルまたはアトライター等を用いて湿式粉砕し、合金粉末と分散媒とから成るスラリーを得ることも可能である。
【0089】
(2)脱油処理
上述した湿式成形法(縦磁界成形法)により得た成形体には鉱物油または合成油等の分散媒が残留している。
この状態の成形体を常温から例えば950〜1150℃の焼結温度まで急激に昇温すると成形体の内部温度が急激に上昇し、成形体内に残留した分散媒と成形体の希土類元素とが反応して希土類炭化物を生成する場合がある。このように希土類炭化物が形成されると、焼結に充分な量の液相の発生が妨げられ、充分な密度の焼結体が得られず磁気特性が低下する場合がある。
【0090】
このため、焼結の前に成形体に脱油処理を施すことが好ましい。脱油処理は、好ましくは、50〜500℃、より好ましくは50〜250℃でかつ圧力13.3Pa(10−1Torr)以下の条件で30分以上保持して行う。成形体に残留する分散媒を充分に除去することができるからである。
脱油処理の加熱保持温度は50〜500℃の温度範囲であれば1つの温度である必要はなく、2つ以上の温度であってもよい。また、13.3Pa(10−1Torr)以下の圧力条件で室温から500℃までの昇温速度を10℃/分以下、好ましくは5℃/分以下とする脱油処理を施すことによっても、前記の好ましい脱油処理と同様の効果を得ることができる。
【0091】
(3)焼結
成形体の焼結は、好ましくは、0.13Pa(10−3Torr)以下、より好ましくは0.07Pa(5.0×10−4Torr)以下の圧力下で、温度1000℃〜1150℃の範囲で行なうのが好ましい。なお、焼結による酸化を防止するために、雰囲気の残留ガスは、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスにより置換しておくことが好ましい。
【0092】
(4)熱処理
得られた、焼結体は、熱処理を行うのが好ましい。熱処理により、磁気特性を向上させることができる。熱処理温度、熱処理時間などの熱処理条件は、公知の条件を採用することができる。
【実施例】
【0093】
実施例1
図1に示す磁界中プレス成形装置100(実施例1)のキャビティ9a〜9d内に1.50Tの磁界(図1(b)の破線Mの矢印の向き)を発生させた場合の、図中A、B、CおよびDの位置における磁界強度を磁界解析により求めた。また、比較例として、金型105内に分岐部を有する図5に示す従来の磁界中プレス成形装置300(比較例1)のキャビティ9a〜9d(図1のキャビティ9a〜9dと同じ寸法)内に1.50Tの磁界(図5(b)の破線Mの矢印の向き)を発生させた場合の、図中E、F、GおよびHの位置における磁界強度も同様に磁界解析により求めた。
なお、磁界解析は市販の解析ツールであるANSYS(サイバネットシステム株式会社製)を用いて、図1および図5に示す磁界中プレス成形装置の諸条件を入力し、スラリーが供給されていない状態を想定して解析を行った。得られた結果を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
表1に示す通り、実施例1および比較例1ともに、金型内では何れの場所(実施例1の位置A、比較例1の位置E〜H)も磁界強度は1.50Tとなっている。
これに対して、実施例1のスラリー流路17bの金型5近傍部である位置Bは1.30Tと少し小さい磁界強度となっており、電磁石7aと電磁石7bとの間に位置する、スラリー流路17bの分岐部近傍の位置Cおよび屈曲部近傍の位置Dは、それぞれ0.61Tおよび0.37Tと小さい磁界強度となっている。
【0096】
従って、1.50T以上の大きな磁界強度を印加された金型5の内部において分岐部を有しないスラリー供給路によりスラリーをキャビティに供給する本願発明に係る磁界中プレス成形方法では、スラリーの流動(すなわち、キャビティへのスラリーの供給)に対する大きな磁界の影響が少ないことは明らかである。
一方、大きな磁界が存在する金型105内部において分岐部を有する従来の磁界中プレス成形方法では、大きな磁界によりスラリーの流動に大きな影響を与えることは明らかである。
【0097】
実施例2
組成がNd20.7Pr5.5Dy5.51.0Co2.0Al0.1Cu0.1残部Fe(質量%)となるように高周波溶解炉によって溶解して得た合金溶湯をストリップキャスト法によって急冷し、厚み0.5mmのフレーク状の合金を得た。前記合金を、水素粉砕法によって粗粉砕し、さらに、ジェットミルにより酸素含有量が10ppm(0.001質量%、すなわち実質的には0質量%)の窒素ガスで微粉砕した。得られた合金粉末の粒径D50は4.7μmであった。前記合金粉末を窒素雰囲気中で分留点が250℃、室温での動粘度が2cStの鉱物油(出光興産製、商品名:MC OIL P−02)に浸漬して濃度85%(質量%)のスラリーを準備した。
【0098】
プレス成形には図1に示す本願発明に係る磁界中プレス成形装置100(実施例2)および金型105内に分岐部を有する図5に示す従来の磁界中プレス成形装置300(比較例2)を使用した。金型には断面形状が矩形のものを使用した。キャビティ9a〜9dのそれぞれの内部に磁界強度1.5Tの静磁界をキャビティ9a〜9dの深さ方向(図1および図5の破線Mの矢印の方向)に印加した後、図示しないスラリー供給装置より、スラリー供給圧力5.88MPaでキャビティ9a〜9dのそれぞれにスラリー流量200cm/秒でスラリーを供給した。キャビティ9a〜9dがスラリーにより満たされた後、キャビティの長さ(L0)の成形後の成形体の長さ(LF)に対する比(L0/LF)が1.25となるように、成形圧力98MPa(0.4ton/cm)でプレス成形した。
実施例2および比較例2ともに、上記工程1回を1ショットとし、40ショット成形し、合計160個の成形体を得た。なお、成形体は、焼結後の狙い重量が100gとなるようにキャビティの長さ(深さの寸法)L0を設定した。
【0099】
得られた成形体を真空中で室温から150℃まで1.5℃/分で昇温し、その温度で1時間保持後、500℃まで1.5℃/分で昇温し、成形体中の鉱物油を除去し、さらに500℃から1100℃まで20℃/分で昇温し、その温度で2時間保持して焼結した。得られた焼結体を900℃で1時間熱処理後、さらに600℃で1時間熱処理した。
得られた実施例2および比較例2の焼結体各160個の各ショット毎の重量(単重)ばらつきを調べた。1ショットの4つのサンプルの重量の最も大きな値と最も小さな値との差を4つのサンプルの重量の平均値で除して、これをパーセントで表記したものをそのショットの単重ばらつきとした。40ショットの単重ばらつきの最小値と最大値を表2に示す。
【0100】
【表2】
【0101】
表2に示す通り、図5に示す磁界中プレス成形装置を用いた場合(比較例2)に比べ、本願発明による磁界中プレス成形装置を用いた場合(実施例2)は焼結体の単重ばらつきが著しく低減されていることがわかる。この結果より、本願発明に係る磁界中プレス成形装置を用いることにより、磁界中プレス成形時に、1.5T以上の大きな磁界を印加しても、単重ばらつきの少ない成形体を安定して成形することができることが分かる。
【0102】
本出願は、日本国特許出願、特願第2012−179163号を基礎出願とする優先権主張を伴う。特願第2012−179163号は参照することにより本明細書に取り込まれる。
【符号の説明】
【0103】
1 上パンチ
3a、3b、3c、3d 下パンチ
5 金型
7a 第1の電磁石
7b 第2の電磁石
8a、8b 空間(空洞)
9a、9b、9c、9d キャビティ
11a、11b、11c、11d 分散媒排出孔
13 フィルター
15a、15b、15c、15d スラリー供給路
17a、17b スラリー流路
21 合金粉末
23 分散媒
25 スラリー
27 ケーキ層
図1
図2
図3
図4
図5