【文献】
ITOH Masahiro 他2名,Novel rare earth recovery process on Nd-Fe-B magnet scrap by selective chlorination using NH4Cl,Journal of Alloys and Compounds,NL,Elsevier B.V.,2009年 5月27日,Vol.477 No.1-2,Page.484-487
【文献】
ITOH Masahiro 他2名,Extraction of Rare Earth Elements from Nd-Fe-B Magnet Scraps by NH4Cl,Chemistry Letters,日本,日本化学会,2008年,Vol.37 No.3,Page.372-373
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、地球環境保護や持続可能資源利用の意識の高まりにより、希土類磁石は今後も需要の拡大が予想されている。しかしながら、希土類元素には、産出地の地理的な偏在に伴って、供給量や価格の変動が大きいという問題(資源リスク)がある。そのため、資源リスクヘッジの観点からも、希土類元素を分離回収・リサイクルする技術が以前よりも増して重要になってきている。
【0009】
一方、希土類元素は化学的性質が類似しているため、従来は分離回収コストが高いという問題があった。すなわち、複数種の希土類元素が混在している希土類磁石から、特定の希土類元素を低コストで分離する技術が強く望まれていた。
【0010】
したがって、本発明の目的は、希土類磁石から、高い分離率でかつ簡便に(すなわち低コストで)希土類元素の分離が可能な方法および該方法を実行するための分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(I)本発明の一態様は、複数種の希土類元素を含む磁石材料から希土類元素を分離する方法であって、
前記磁石材料の粉末からなる出発粉末を用意する出発粉末準備工程と、
前記出発粉末から前記磁石材料成分の酸化物粉末を生成させる処理工程であり、300℃以上1000℃以下の温度の加熱処理または燃焼処理を酸化性雰囲気中で施す酸化処理工程と、
前記磁石材料成分の酸化物粉末から複数種の希土類酸化物粉末を分離する希土類酸化物分離工程と、
分離された前記複数種の希土類酸化物粉末を所定の粒度範囲に整える整粒工程と、
整粒された前記複数種の希土類酸化物粉末と塩化剤粉末とを混合して酸化物/塩化剤混合物を用意する塩化剤混合工程と、
前記酸化物/塩化剤混合物から第1群の希土類元素の塩化物と第2群の希土類元素の酸塩化物とを含む塩化物/酸塩化物混合物を生成させる塩化/酸塩化熱処理工程と、
前記塩化物/酸塩化物混合物を溶媒に投入することにより、前記希土類塩化物を選択的に前記溶媒に溶解させて液相中に抽出しかつ前記希土類酸塩化物を固相として残存させる選択的抽出工程と、
前記希土類塩化物が抽出された液相と残存した前記希土類酸塩化物の固相とを固液分離することにより、前記第1群の希土類元素と前記第2群の希土類元素とを分離する分離工程とを有することを特徴とする希土類元素の分離方法を提供する。
【0012】
本発明は、上記の希土類元素の分離方法(I)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記塩化/酸塩化熱処理工程は、前記酸化物/塩化剤混合物から複数種の希土類塩化物を生成させる塩化熱処理工程と、前記複数種の希土類塩化物から前記塩化物/酸塩化物混合物を生成させる選択的酸塩化熱処理工程とからなり、前記塩化熱処理工程は、前記希土類酸化物が前記希土類塩化物を生成する温度以上かつ前記希土類塩化物の気化温度未満の温度の熱処理を非酸化性雰囲気中で施す熱処理工程であり、前記選択的酸塩化熱処理工程は、所定の温度の熱処理を酸化性雰囲気中で施す熱処理工程である。
(ii)前記塩化剤粉末は塩化アンモニウム粉末であり、前記選択的酸塩化熱処理工程での前記所定の温度は、前記第2群の希土類元素の塩化物から希土類酸塩化物を生成する温度以上で前記第1群の希土類元素の塩化物から希土類酸塩化物を生成する温度未満であり、かつ、前記第1群の希土類元素の塩化物に対して熱重量分析を行ったときに、その昇温過程における重量減少率が「1×10
-3%/℃」以内を示す温度領域内の温度である。
(iii)前記塩化熱処理工程は、常圧下の熱処理により前記複数種の希土類酸化物粉末と前記塩化アンモニウム粉末とから複数種の希土類塩化アンモニウム塩粉末を生成させる素工程と、それに引き続いて、減圧下の熱処理により前記複数種の希土類塩化アンモニウム塩粉末から複数種の希土類塩化物粉末を生成させる素工程を含む。
(iv)前記塩化/酸塩化熱処理工程は、所定の温度の熱処理を非酸化性雰囲気中で施す選択的塩化/酸塩化熱処理工程である。
(v)前記塩化剤粉末は塩化アンモニウム粉末であり、前記選択的塩化/酸塩化熱処理工程での前記所定の温度は、前記第1群の希土類元素の酸化物が塩化物となる温度領域内の温度であり、かつ前記第2群の希土類元素の酸化物が酸塩化物となる温度領域内の温度である。
(vi)前記選択的塩化/酸塩化熱処理工程は、第1段の熱処理とそれに引き続いて行われる第2段の熱処理とからなり、前記第1段の熱処理は、前記第1群の希土類元素の酸化物粉末と前記塩化アンモニウム粉末とから前記第1群の希土類元素の希土類塩化アンモニウム塩粉末を生成させる常圧下熱処理であり、前記第2段の熱処理は、前記希土類塩化アンモニウム塩粉末から前記第1群の希土類元素の希土類塩化物粉末を生成させる減圧下熱処理である。
(vii)前記酸化物/塩化剤混合物は、前記希土類酸化物の1 molに対して、6 mol超20 mol未満の塩化アンモニウムが混合されている。
(viii)前記磁石材料はホウ素成分を更に含み、前記希土類酸化物分離工程と前記整粒工程との間に、分離された前記複数種の希土類酸化物粉末に残留する前記ホウ素成分を低減するホウ素低減処理工程を更に有する。
(ix)前記整粒工程と前記塩化剤混合工程との間に、整粒された前記複数種の希土類酸化物粉末の酸化を更に促進させる処理工程であり、前記酸化処理工程よりも高い温度の加熱処理を酸化性雰囲気中で施す追酸化熱処理工程を更に有する。
(x)前記整粒工程での前記所定の粒度範囲は、体積基準による50%径が0.5μm以上であり90%径が10μm以下である。なお、本発明における粒度は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定されるものと定義する。
(xi)前記整粒工程での前記所定の粒度範囲は、体積基準による50%径が0.04μm以上であり90%径が1.5μm以下である。
(xii)前記整粒工程は、第1粉砕工程とそれに引き続いて行われる第2粉砕工程とを含み、前記第1粉砕工程での粒度範囲は、体積基準による50%径が0.5μm以上であり90%径が10μm以下であり、前記第2粉砕工程での粒度範囲は、体積基準による50%径が0.05μm以上であり90%径が1.5μm以下である。なお、第1粉砕工程の段階で粒度範囲が0.5μm以上(50%径)で1.5μm以下(90%径)となっている場合、第2粉砕工程を行わなくてもよい(言い換えると、第2粉砕工程を行ったと見なしてもよい)。
(xiii)前記希土類酸化物分離工程は、炭素熱還元法または選択酸溶解法により行われる。
(xiv)前記磁石材料がネオジム−鉄−ホウ素系希土類磁石であり、前記第1群の希土類元素がネオジムおよび/またはプラセオジムであり、前記第2群の希土類元素がジスプロシウムである。
【0013】
(II)本発明の他の一態様は、複数種の希土類元素を含む磁石材料から希土類元素を分離する分離装置であって、
前記分離装置は、被分離組成物準備セクションと希土類元素分離セクションとを有し、
前記被分離組成物準備セクションは、磁石材料酸化熱処理装置、希土類酸化物分離機構、および整粒機構を具備し、
前記磁石材料酸化処理装置は、前記磁石材料の粉末から前記磁石材料の各成分の酸化物粉末を生成させる酸化処理を行う装置であり、
前記希土類酸化物分離機構は、前記磁石材料酸化熱処理装置と接続されており、前記磁石材料各成分の酸化物粉末から複数種の希土類酸化物粉末を分離する機構であり、
前記整粒機構は、前記希土類酸化物分離機構と接続されており、分離された前記複数種の希土類酸化物粉末に対して所定の粒度範囲となるように整粒する機構であり、
前記希土類元素分離セクションは、塩化剤混合供給装置、塩化/酸塩化熱処理装置、雰囲気制御装置、ガス処理装置、および分離機構を具備し、
前記塩化剤混合供給装置は、前記整粒機構と前記塩化/酸塩化熱処理装置とに接続されており、整粒された前記複数種の希土類酸化物粉末に塩化剤粉末を混合して酸化物/塩化剤混合物を用意し、該酸化物/塩化剤混合物を前記塩化/酸塩化熱処理装置に供給する装置であり、
前記塩化/酸塩化熱処理装置は、前記塩化剤混合供給装置の他に前記雰囲気制御装置と前記ガス処理装置と前記分離機構とに接続されており、前記酸化物/塩化剤混合物から複数種の希土類塩化物を生成させる塩化熱処理と、得られた前記複数種の希土類塩化物から第1群の希土類元素の塩化物と第2群の希土類元素の酸塩化物とを含む塩化物/酸塩化物混合物を生成させる選択的酸塩化熱処理とを行う装置、または前記酸化物/塩化剤混合物から第1群の希土類元素の塩化物と第2群の希土類元素の酸塩化物とを含む塩化物/酸塩化物混合物を生成させる選択的塩化/酸塩化熱処理を行う装置であり、
前記塩化熱処理は、前記雰囲気制御装置によって制御された非酸化性雰囲気中で、前記希土類酸化物が前記希土類塩化物を生成する温度以上かつ前記希土類塩化物の気化温度未満の温度で行われる熱処理であり、当該塩化熱処理により発生するアンモニアガスと塩化水素ガスとは、前記ガス処理装置において処理され、
前記選択的酸塩化熱処理は、前記雰囲気制御装置によって制御された酸化性雰囲気中で所定の温度で行われる熱処理であり、当該選択的酸塩化熱処理により発生する塩素ガスは、前記ガス処理装置において処理され、
前記選択的塩化/酸塩化熱処理は、前記雰囲気制御装置によって制御された非酸化性雰囲気中で、前記第1群の希土類元素の酸化物が塩化物となる温度領域内の温度かつ前記第2群の希土類元素の酸化物が酸塩化物となる温度領域内の温度で行われる熱処理であり、当該選択的塩化/酸塩化熱処理により発生するアンモニアガスは、前記ガス処理装置において処理され、
前記分離機構は、前記塩化物/酸塩化物混合物を溶媒に投入して前記希土類塩化物を選択的に溶解させて液相中に抽出し、前記希土類塩化物が抽出された液相と残存した前記希土類酸塩化物の固相とを固液分離することにより、前記第1群の希土類元素と前記第2群の希土類元素とを分離する機構であることを特徴とする希土類元素の分離装置を提供する。
【0014】
(III)本発明の更に他の一態様は、複数種の希土類元素を含む磁石材料から希土類元素を分離する分離装置であって、
前記磁石材料はホウ素成分を更に含み、
前記分離装置は、被分離組成物準備セクションと希土類元素分離セクションとを有し、
前記被分離組成物準備セクションは、磁石材料酸化熱処理装置、希土類酸化物分離機構、ホウ素低減処理機構、整粒機構、および希土類酸化物追酸化熱処理装置を具備し、
前記磁石材料酸化処理装置は、前記磁石材料の粉末から前記磁石材料の各成分の酸化物粉末を生成させる酸化処理を行う装置であり、
前記希土類酸化物分離機構は、前記磁石材料酸化処理装置と接続されており、前記磁石材料各成分の酸化物粉末から複数種の希土類酸化物粉末を分離する機構であり、
前記ホウ素低減処理機構は、前記希土類酸化物分離機構と接続されており、分離された前記複数種の希土類酸化物粉末に残留する前記ホウ素成分を低減する機構であり、
前記整粒機構は、前記ホウ素低減処理機構と接続されており、ホウ素低減処理された前記複数種の希土類酸化物粉末に対して所定の粒度範囲となるように整粒する機構であり、
前記希土類酸化物追酸化熱処理装置は、前記整粒機構と接続されており、整粒された前記複数種の希土類酸化物粉末の酸化を更に促進させる機構であり、
前記希土類元素分離セクションは、塩化剤混合供給装置、塩化/酸塩化熱処理装置、雰囲気制御装置、ガス処理装置、および分離機構を具備し、
前記塩化剤混合供給装置は、前記希土類酸化物追酸化熱処理装置と前記塩化/酸塩化熱処理装置とに接続されており、追酸化された前記複数種の希土類酸化物粉末に塩化剤粉末を混合して酸化物/塩化剤混合物を用意し、該酸化物/塩化剤混合物を前記塩化/酸塩化熱処理装置に供給する装置であり、
前記塩化/酸塩化熱処理装置は、前記塩化剤混合供給装置の他に前記雰囲気制御装置と前記ガス処理装置と前記分離機構とに接続されており、前記酸化物/塩化剤混合物から複数種の希土類塩化物を生成させる塩化熱処理と、得られた前記複数種の希土類塩化物から第1群の希土類元素の塩化物と第2群の希土類元素の酸塩化物とを含む塩化物/酸塩化物混合物を生成させる選択的酸塩化熱処理とを行う装置、または前記酸化物/塩化剤混合物から第1群の希土類元素の塩化物と第2群の希土類元素の酸塩化物とを含む塩化物/酸塩化物混合物を生成させる選択的塩化/酸塩化熱処理を行う装置であり、
前記塩化熱処理は、前記雰囲気制御装置によって制御された非酸化性雰囲気中で、前記希土類酸化物が前記希土類塩化物を生成する温度以上かつ前記希土類塩化物の気化温度未満の温度で行われる熱処理であり、当該塩化熱処理により発生するアンモニアガスと塩化水素ガスとは、前記ガス処理装置において処理され、
前記選択的酸塩化熱処理は、前記雰囲気制御装置によって制御された酸化性雰囲気中で所定の温度で行われる熱処理であり、当該選択的酸塩化熱処理により発生する塩素ガスは、前記ガス処理装置において処理され、
前記選択的塩化/酸塩化熱処理は、前記雰囲気制御装置によって制御された非酸化性雰囲気中で、前記第1群の希土類元素の酸化物が塩化物となる温度領域内の温度かつ前記第2群の希土類元素の酸化物が酸塩化物となる温度領域内の温度で行われる熱処理であり、当該選択的塩化/酸塩化熱処理により発生するアンモニアガスは、前記ガス処理装置において処理され、
前記分離機構は、前記塩化物/酸塩化物混合物を溶媒に投入して前記希土類塩化物を選択的に溶解させて液相中に抽出し、前記希土類塩化物が抽出された液相と残存した前記希土類酸塩化物の固相とを固液分離することにより、前記第1群の希土類元素と前記第2群の希土類元素とを分離する機構であることを特徴とする希土類元素の分離装置を提供する。
【0015】
また、本発明は、上述した希土類元素の分離装置(II),(III)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(xv)前記塩化剤粉末は塩化アンモニウム粉末であり、前記塩化熱処理は、常圧下の熱処理により前記複数種の希土類酸化物と前記塩化アンモニウムとから複数種の希土類塩化アンモニウム塩を生成させる素工程と、それに引き続いて、減圧下の熱処理により前記複数種の希土類塩化アンモニウム塩から複数種の希土類塩化物を生成させる素工程を含み、前記両素工程中の圧力制御が前記雰囲気制御装置によって行われ、前記雰囲気制御装置によって制御される前記選択的酸塩化熱処理での前記酸化性雰囲気が、大気、乾燥空気、または不活性ガスと酸素ガスとの混合ガス雰囲気である。
(xvi)前記選択的酸塩化熱処理での前記所定の温度は、前記第2群の希土類元素の塩化物から希土類酸塩化物を生成する温度以上で前記第1群の希土類元素の塩化物から希土類酸塩化物を生成する温度未満であり、かつ、前記第1群の希土類元素の希土類酸化物に対して熱重量分析を行ったときに、その昇温過程における重量減少率が「1×10
-3%/℃」以内を示す温度領域内の温度である。
(xvii)前記塩化剤粉末は塩化アンモニウム粉末であり、前記選択的塩化/酸塩化熱処理は、第1段の熱処理とそれに引き続いて行われる第2段の熱処理とからなり、前記第1段の熱処理は、前記第1群の希土類元素の酸化物と前記塩化アンモニウムとから第1群の希土類元素の希土類塩化アンモニウム塩を生成させる常圧下熱処理であり、前記第2段の熱処理は、前記希土類塩化アンモニウム塩から前記第1群の希土類元素の希土類塩化物を生成させる減圧下熱処理であり、前記選択的塩化/酸塩化熱処理中の圧力制御が前記雰囲気制御装置によって行われる。
(xviii)前記希土類元素分離セクションは、化学反応モニタ機構を更に具備し、前記化学反応モニタ機構は、前記塩化/酸塩化熱処理装置と前記ガス処理装置との間に接続され、アンモニアガスセンサを含む。
(xix)前記希土類元素分離セクションは、化学反応モニタ機構を更に具備し、前記化学反応モニタ機構は、前記塩化/酸塩化熱処理装置と前記ガス処理装置との間に接続され、前記塩化熱処理による化学反応をモニタするためのアンモニアガスセンサ、および前記選択的酸塩化熱処理による化学反応をモニタするための塩素ガスセンサを含む。
(xx)前記整粒機構は、粉砕装置および造粒装置の少なくとも一方と粒度分布測定装置とを有し、前記粉砕装置は、第1粉砕装置と第2粉砕装置とを含み、前記第1粉砕装置で整粒する前記所定の粒度範囲は、体積基準による50%径が0.5μm以上であり90%径が10μm以下であり、前記第2粉砕装置で整粒する前記所定の粒度範囲は、体積基準による50%径が0.04μm以上であり、90%径が1.5μm以下である。
(xxi)前記希土類酸化物分離機構は、炭素熱還元処理を行うための装置群または選択酸溶解処理を行うための装置群である。
(xxii)前記磁石材料がネオジム−鉄−ホウ素系希土類磁石であり、前記第1群の希土類元素がネオジムおよび/またはプラセオジムであり、前記第2群の希土類元素がジスプロシウムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、希土類磁石から、高い分離率でかつ簡便に(すなわち低コストで)希土類元素の分離が可能な方法および該方法を実行するための分離装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者等は、複数種の希土類元素が混在している磁石材料から、特定の希土類元素を高い分離率でかつ簡便に分離することを目指して、分離プロセスの各工程を詳細に検討した。そのなかで、特に、希土類元素同士を分離するための化学反応(塩化反応、酸塩化反応)に着目して、当該化学反応を詳細に調査した。その結果、本発明者等は、希土類元素の種類によってそれらの化学反応の挙動が異なることを見出した。そして、その化学反応の挙動の差異によって、特定の希土類元素を高い分離率で分離できることを見出した。さらに、それらの化学反応の効率を高めるためには、該化学反応に供する粉末を所定の粒度範囲に整えることが重要であることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、ここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能ある。
【0020】
[希土類元素の分離方法]
本発明に係る希土類元素の分離方法は、複数種の希土類元素を含む磁石材料から所定の粒度範囲の希土類酸化物粉末を用意する前処理プロセスと、複数種の希土類元素を相互に分離する分離プロセスとに大別される。なお、分離プロセスの後、分離した希土類元素をそれぞれ希土類金属として回収する回収プロセスが行われる。はじめに、
図1〜3を参照しながら、前処理プロセスおよび分離プロセスの概略を説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る希土類元素の分離方法における前処理プロセスの工程例を示すフロー図である。
図1に示したように、まず、希土類磁石の廃材(廃棄希土類磁石、希土類磁石の不良品、スラッジなど)の粉末からなる出発粉末を用意する。次に、用意した出発粉末から、希土類磁石の各成分の酸化物粉末を生成させる酸化熱処理を行う。次に、得られた希土類磁石各成分の酸化物粉末から、炭素熱還元法または選択酸溶解法により複数種の希土類酸化物粉末を分離する。
【0022】
ここで、希土類磁石には、しばしばホウ素成分が含まれており、各成分の酸化物粉末から希土類酸化物粉末を分離する工程においてホウ素酸化物が混入してしまうことがある(分離した希土類酸化物粉末にホウ素酸化物が残留してしまうことがある)。その場合、ホウ素成分を低減/除去する処理を行うことが好ましい。なお、混入/残留したホウ素成分量が十分少ない場合はホウ素低減処理工程を行わなくてもよい。
【0023】
次に、分離された複数種の希土類酸化物粉末に対して、所定の粒度範囲となるように整粒(粉砕または造粒)を行う。分離された希土類酸化物粉末の粒子が非常に粗い場合には、第1粉砕工程と第2粉砕工程とを設けることが好ましい。一方、分離された希土類酸化物粉末の粒子が微細過ぎる場合には、造粒を行うことが好ましい。次に、整粒された複数種の希土類酸化物粉末の酸化を更に促進するために(より完全に酸化するために)、追酸化熱処理を行う。追酸化熱処理は必須の工程ではないが、行うことが好ましい。ここまでの工程により、分離プロセスへ供給する複数種の希土類酸化物粉末が得られる。
【0024】
図2は、本発明に係る希土類元素の分離方法における分離プロセスの工程例を示すフロー図である。
図2に示したように、まず、前処理プロセスで用意した整粒された複数種の希土類酸化物粉末または追酸化された複数種の希土類酸化物粉末に対して、塩化剤粉末を混合して酸化物/塩化剤混合物を用意する。
【0025】
次に、用意した酸化物/塩化剤混合物から、第1群の希土類元素の塩化物と第2群の希土類元素の酸塩化物とを含む塩化物/酸塩化物混合物を生成させる塩化/酸塩化熱処理を行う。本発明は、この塩化/酸塩化熱処理工程に最大の特徴がある。
【0026】
図2の分離プロセスにおける塩化/酸塩化熱処理工程は、酸化物/塩化剤混合物から複数種の希土類塩化物を生成させる塩化熱処理工程と、得られた複数種の希土類塩化物から塩化物/酸塩化物混合物を生成させる選択的酸塩化熱処理工程とからなる。言い換えると、この塩化/酸塩化熱処理工程は、全ての希土類酸化物を一旦希土類塩化物に転化した後に、第2群の希土類元素の塩化物を選択的に酸塩化物に転化するプロセスである。
【0027】
次に、得られた塩化物/酸塩化物混合物を溶媒に投入して希土類塩化物を選択的に溶解させて液相中に抽出し、希土類酸塩化物を固相として残存させる。次に、希土類塩化物が抽出された液相と残存した希土類酸塩化物の固相とを固液分離する。以上の工程により、複数種の希土類元素が相互に分離される。
【0028】
図3は、本発明に係る希土類元素の分離方法における分離プロセスの他の工程例を示すフロー図である。
図3に示した分離プロセスは、
図2のそれに比して、酸化物/塩化剤混合物から塩化物/酸塩化物混合物を生成させる塩化/酸塩化熱処理工程に差異があり、他の工程は同じである。そこで、その塩化/酸塩化熱処理工程についてのみ説明する。
【0029】
図3の分離プロセスにおける塩化/酸塩化熱処理工程は、用意した酸化物/塩化剤混合物から、第1群の希土類元素の塩化物と第2群の希土類元素の酸塩化物とを含む塩化物/酸塩化物混合物を生成させる選択的塩化/酸塩化熱処理からなる。言い換えると、この選択的塩化/酸塩化熱処理は、希土類酸化物(第1群の希土類元素の酸化物)から希土類塩化物への転化と、希土類酸化物(第2群の希土類元素の酸化物)から希土類酸塩化物への転化とを同時に行う熱処理である。そして、先の
図2の分離プロセスと同様に、本発明は、塩化/酸塩化熱処理工程に最大の特徴がある。
【0031】
(出発粉末準備工程)
本工程は、希土類磁石の廃材(例えば、廃棄希土類磁石、スラッジなど)から希土類磁石材料の粉末(出発粉末)を用意する工程である。廃材の種類・形状によって処理方法が異なり、(a)粉砕処理と(b)脱水処理とに大別される。
【0032】
(a)粉砕処理
廃棄磁石(例えば、使用済磁石や不良品磁石)のようなバルク体から希土類元素を分離・回収するためには、バルク体を粉末状に破砕する必要がある。破砕する方法に特段の限定はなく、公知の方法を利用できる。ただし、使用済磁石の場合、磁石表面に酸化防止用コーティング(例えば、ニッケルやアルミニウムなどの金属膜)が形成されている場合がある。これら酸化防止コーティングされているバルク体磁石を効率的に粉砕するためには、水素破砕法が好適である。もちろん、酸化防止コーティングされていないバルク体磁石に対して水素破砕法を適用してもよい。
【0033】
水素破砕法において、例えば、バルク体磁石に対して、0.12 MPa程度の加圧水素中、室温から300℃で1時間程度保持する熱処理を施すと、バルク体磁石が水素を吸蔵して体積膨張し、破砕した小塊状態となる。このとき、コーティングの金属膜は膜状のまま残存するので、ふるい等により容易に機械分別できる。その後、分別した小塊を、粉砕機(例えば、ボールミル、アトライター)を用いて更に粉砕することにより、希土類磁石材料の粉末(出発粉末)を得ることができる。
【0034】
(b)脱水処理
スラッジ(希土類磁石の生産工程中で発生する削り粉など)から希土類元素を分離・回収する場合、元々粉末状態であることから粉砕処理を行わなくてもよい。一方、スラッジは、通常、研磨加工や切削加工時の研削水と共に保管されているため、過剰な水分を除去する(脱水する)必要がある。
【0035】
含水率が60%未満となるように脱水できれば脱水する方法に特段の限定はなく、公知の方法を利用できる。例えば、スラッジが保管されている容器中の上澄み液を取り除いたり、乾燥器を用いて所望の含水率となるように脱水したりすることにより、希土類磁石材料の粉末(出発粉末)を得ることができる。
【0036】
(酸化処理工程)
本工程は、用意した出発粉末から、希土類磁石の各成分の酸化物粉末を生成させる酸化処理を行う工程である。処理方法としては、加熱処理または燃焼処理が好ましい。加熱処理または燃焼処理の雰囲気としては、酸化性雰囲気(酸素成分が存在する雰囲気、例えば、空気気流中、不活性ガスと酸素ガスとの混合ガス気流中)が好ましい。加熱処理または燃焼処理の温度としては350℃以上1000℃以下が好ましく、時間としては1時間以上5時間以下の保持が好ましい。一般的に、処理温度を高めるほど、処理時間を短くできる。
【0037】
(希土類酸化物分離工程)
本工程は、得られた希土類磁石各成分の酸化物粉末から、複数種の希土類酸化物粉末を分離する工程である。希土類磁石として、例えば、ネオジム−鉄−ホウ素(Nd-Fe-B)系磁石が挙げられるが(鉄を主成分とし、ネオジム、プラセオジム、ジスプロシウム、ホウ素を含む)、本工程はその成分中から希土類元素を分離する重要な工程である。分離方法としては特に限定されないが、(c)炭素熱還元法または(d)選択酸溶解法を好ましく利用できる。
【0038】
(c)炭素熱還元処理
本発明で行う炭素熱還元処理は、例えば、前工程で得られた希土類磁石各成分の酸化物粉末と炭素粉末とを混合し、不活性ガス雰囲気中1300℃以上1700℃以下の温度で10分間以上3時間以下保持する熱処理を施す。この熱処理により、主成分の鉄が選択的に還元されて酸化鉄から金属鉄になり、金属鉄の小塊と希土類酸化物の小塊とを主とする混合物が得られる。金属鉄の小塊と希土類酸化物の小塊とは、機械的な振動等によって容易に分離が可能であり、希土類酸化物の小塊を得ることができる。
【0039】
(d)選択酸溶解処理
本発明で行う選択酸溶解処理は、例えば次のような手順で行う。前工程で得られた希土類磁石各成分の酸化物粉末を無機酸(例えば、塩酸)に浸漬して、希土類酸化物を選択的に無機酸中に溶出させる。これは、無機酸に対する希土類酸化物の溶解性とその他成分の酸化物の溶解性との差異を利用したものである。希土類酸化物を溶出させた溶液を濾別した後、濾液のpHを調整する。次に、pH調整した濾液に沈殿剤(例えば、炭酸ナトリウムまたはシュウ酸)を添加して、希土類炭酸塩または希土類シュウ酸塩を沈殿させる。次に、この沈殿物を濾別して、固相の希土類化合物(炭酸塩またはシュウ酸塩)を取り出す。次に、この希土類化合物に対して酸化性雰囲気中800℃程度の熱処理を施すことにより、希土類酸化物粉末が得られる。
【0040】
(ホウ素低減処理工程)
前述したように、希土類磁石にはしばしばホウ素成分が含まれている。本工程は、分離した複数種の希土類酸化物粉末に混入/残留してしまったホウ素成分を低減/除去する工程である。ホウ素低減処理方法の例としては、(e)アルカリ炭酸塩添加・熱処理、(f)還元・合金化処理が挙げられる。本工程は行われることが好ましいが、分離した希土類酸化物粉末に混入/残留したホウ素成分量が十分少ない場合は本工程を行わなくてもよい。
【0041】
(e)アルカリ炭酸塩添加・熱処理
本発明で行うアルカリ炭酸塩添加・熱処理は、前工程で得られた複数種の希土類酸化物粉末にアルカリ炭酸塩(例えば、炭酸カリウム)を混合し、非酸化性雰囲気中(酸素成分が実質的に混在しない雰囲気中、例えば、不活性ガス(アルゴン、窒素など)気流中や真空中)で熱処理する方法である。これにより、ホウ素成分とアルカリ炭酸塩とが化学反応して蒸気圧の高い化合物が生成し、該化合物が昇華することでホウ素成分を低減/除去することができる。
【0042】
(f)還元・合金化処理
本発明で行う還元・合金化処理は、希土類酸化物分離工程で炭素熱還元処理を用いた場合に特に有効であり、炭素熱還元処理と一体で行うことが好ましい。具体的には、炭素熱還元処理を行う際に、鉄成分を還元した後に1600℃以上の温度で保持する。これにより、酸化ホウ素が金属ホウ素に還元され、先に還元された金属鉄中にホウ素が合金として取り込まれることで鉄成分と共にホウ素成分を低減/除去することができる。
【0043】
(整粒工程)
本工程は、分離された複数種の希土類酸化物粉末に対して、所定の粒度範囲となるように整粒(粉砕または造粒)を行う工程である。炭素熱還元処理により分離した希土類酸化物は、小塊状態で得られることが多いので、粉砕機を用いて粉砕することにより整粒することが好ましい。一方、選択酸溶解処理により分離した希土類酸化物は、微粉末状態で得られることが多いので、造粒機を用いて造粒することにより整粒することが好ましい。本発明においては、希土類酸化物分離工程により分離された希土類酸化物粉末の粒度を測定することによっても、整粒工程がなされたものと見なす。
【0044】
粉砕によって均等な微細粒子を得るためには、粉砕工程は、(g)第1粉砕工程と、それに引き続いて行われる(h)第2粉砕工程とが実施されることが好ましい。なお、使用する装置等の都合により、第2粉砕工程を行うことによる材料ロスや時間ロスが大きい場合には、第2粉砕工程を省略してもよい。
【0045】
(g)第1粉砕工程
第1粉砕工程での粒度範囲としては、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定した場合に、体積基準による50%径が0.5μm以上で90%径が10μm以下であることが好ましい。90%径が10μmを超えると、次の第2粉砕工程での粉砕が不均等になり易く、粒度を整えるのに長時間を要するため好ましくない。また、第2粉砕工程を行わずに、第1粉砕工程での90%径が10μmを超えた状態で分離プロセスに供給された場合、塩化/酸塩化熱処理工程における化学反応が十分に進行しない粒子が多くなり、希土類元素の分離率が低下する。一方、第1粉砕工程に引き続いて第2粉砕工程が行われる場合、第1粉砕工程での50%径が0.5μmを下回ると、第2粉砕工程に移行する際に微細な粒子が系外に排出され易くなり、材料ロスが生じて希土類元素の収率が低下する。
【0046】
(h)第2粉砕工程
第2粉砕工程での粒度範囲は、同じくレーザ回折式粒度分布測定装置により測定した場合に、体積基準による50%径が0.04μm以上で90%径が1.5μm以下であることが好ましい。90%径を1.5μm以下にすることで、分離プロセスの塩化/酸塩化熱処理工程における化学反応がよりスムーズに進行するため、希土類元素の分離率の向上および/または処理時間の短縮という更なる効果が得られる。一方、50%径が0.04μmを下回ると、粉末粒子が小さ過ぎて第2粉砕工程自体で材料ロスが生じ易くなり(第2粉砕工程での粉末回収量が低下し)、全体としての希土類元素の収率も低下する。
【0047】
(追酸化熱処理工程)
本工程は、整粒された複数種の希土類酸化物粉末に対して、各粉末粒子の酸化を更に促進させる(各粉末粒子をより完全な酸化物にする)工程である。本工程は必須の工程ではないが、本工程を行うことにより希土類元素の分離率をより向上させることができる。処理方法としては、前述の酸化処理工程よりも高い温度の加熱処理を酸化性雰囲気中(酸素成分が存在する雰囲気中、例えば、空気気流中、不活性ガスと酸素ガスとの混合ガス気流中)で施すことが好ましい。熱処理温度としては、例えば1000℃超1400℃以下が好ましく、時間としては2時間以上50時間以下の保持が好ましい。
【0048】
(混合工程)
本工程は、前処理プロセスで用意した複数種の希土類酸化物が混在した粉末に対して、塩化剤粉末を混合して酸化物/塩化剤混合物を用意する工程である。用いる塩化剤としては、次工程の塩化/酸塩化熱処理工程において生成する希土類化合物中に余分な元素(カチオン)を残存させないことが好ましく、例えば、塩化アンモニウム(NH
4Cl)が好ましい。また、希土類酸化物と塩化剤とが均等に混合されるならば混合方法に特段の限定はない。
【0049】
なお、次工程の塩化/酸塩化熱処理工程において、希土類酸化物の塩化反応や酸塩化反応を促進させかつ確実に完了させるため、塩化剤は希土類酸化物との化学量論比の1倍〜3倍程度の量を混合させることが好ましい。具体的には、希土類酸化物の1 molに対して、6 mol超20 mol未満の塩化アンモニウムを混合させることが好ましい。
【0050】
希土類酸化物の1 molに対して塩化アンモニウムの混合量が6 mol以下になると、塩化/酸塩化熱処理工程において、希土類塩化物の生成が不十分になる。特に、
図3に示した選択的塩化/酸塩化熱処理工程において、第1群の希土類元素の塩化物の生成が不十分になることから好ましくない。
【0051】
一方、希土類酸化物の1 molに対して塩化アンモニウムの混合量が20 mol以上になると、
図3の選択的塩化/酸塩化熱処理工程において、第2群の希土類元素もほぼ全量が塩化物になってしまい、望ましい塩化物/酸塩化物混合物を得られなくなる。また、
図2に示した塩化熱処理工程においても、過剰の塩化剤が無駄になるだけである。
【0052】
希土類酸化物の塩化反応や酸塩化反応の安定性・再現性および製造コストの観点から、希土類酸化物の1 molに対して、9 mol以上15 mol以下の塩化アンモニウムを混合させることがより好ましく、12 mol以上13.5 mol以下が更に好ましい。
【0053】
(塩化/酸塩化熱処理工程)
前述したように、本発明は、この塩化/酸塩化熱処理工程に最大の特徴がある。本工程は、用意した酸化物/塩化剤混合物から、第1群の希土類元素の塩化物と第2群の希土類元素の酸塩化物とを含む塩化物/酸塩化物混合物を生成させる塩化/酸塩化熱処理を行う工程である。以下、
図2および
図3の分離プロセスにおける塩化/酸塩化熱処理工程について、順次説明する。
【0054】
(i)塩化熱処理工程
図2の分離プロセスの本工程は、用意した酸化物/塩化剤混合物から、複数種の希土類塩化物を生成させる塩化熱処理を行う工程である。希土類酸化物(RE
2O
3)から希土類塩化物(RECl
3)を生成する塩化反応は、下記の化学反応式(1)のような化学反応になると考えられる(REは希土類元素を表す。以下、同様)。
RE
2O
3 + 6NH
4Cl → 2RECl
3 + 6NH
3 + 3H
2O …化学反応式(1)。
【0055】
熱処理雰囲気としては、非酸化性雰囲気(酸素成分が実質的に混在しない雰囲気、例えば、不活性ガス(アルゴン、窒素など)気流中や真空中)が好ましい。熱処理温度に関しては、次のように考えられる。
【0056】
酸化物/塩化剤混合物から希土類塩化物を生成する化学反応に関しては、希土類酸化物の塩化反応における標準ギブスエネルギー変化と温度との関係が参考になる。
図4は、希土類酸化物の塩化反応(化学反応式(1))における標準ギブスエネルギー変化と温度との関係を示すグラフである。
図4に示したように、温度の上昇と共に標準ギブスエネルギー変化が減少する。標準ギブスエネルギー変化が負の値を示す温度になると塩化反応が継続的に進行可能になる。なお、標準ギブスエネルギー変化は、負/正によって熱力学的な安定/不安定を議論することができるが、化学反応が開始するための活性化エネルギーを議論したり、化学反応速度を議論したりするものではない。
【0057】
図4を具体的に見ると、酸化ネオジム(Nd
2O
3)は約200℃以上で標準ギブスエネルギー変化が負の値を示し、酸化ジスプロシウム(Dy
2O
3)は約350℃以上で標準ギブスエネルギー変化が負の値を示す。
図4の結果から、本工程の熱処理温度は、化学反応式(1)に示す塩化反応の標準ギブスエネルギー変化が負を示す温度領域内の温度が好ましい。また、生成する希土類塩化物の気化温度未満の温度が好ましい。生成する希土類塩化物が気化すると、希土類元素の収率が低下してしまうためである。具体的には、200℃以上450℃以下が好ましく、250℃以上400℃以下がより好ましい。
【0058】
なお、化学反応式(1)において、反応生成物として希土類塩化物の他にアンモニアガス(NH
3)と水蒸気(H
2O)とが生成するが、アルゴンや窒素の気流中または真空中(減圧雰囲気中)で熱処理を行うことにより、生成ガス成分を速やかに系外に排出することができる。その結果、反応生成ガスによって塩化反応が阻害されることなく、該反応を進行させることができる。
【0059】
ここで、化学反応式(1)の塩化反応について更に考察する。化学反応式(1)の塩化反応は、次の2つの素反応に分けて考えることができる。1段目の素反応では、常圧の不活性ガス気流中での熱処理により、希土類塩化アンモニウム塩が生成する。この反応の一例として化学反応式(2)がある(例えば、Meyer, et. al., Mat. Res. Bull. 17 (1982) 1447-1455参照)。
RE
2O
3 + 12NH
4Cl → 2(NH
4)
2RECl
5 + 6NH
3 + 3H
2O …化学反応式(2)。
【0060】
2段目の素反応では、上記の希土類塩化アンモニウム塩中に存在する塩化アンモニウムおよび出発混合物中の未反応の塩化アンモニウムが除去されて希土類塩化物(RECl
3)が生成すると考えられる。この反応の一例として化学反応式(3)がある(例えば、Meyer, et. al., Mat. Res. Bull. 17 (1982) 1447-1455参照)。2段目の素反応は、減圧雰囲気中(例えば、ロータリーポンプ等による減圧雰囲気)で行われることが好ましい。これは、減圧雰囲気中の方が塩化アンモニウムの気化・分解が進行しやすいためである。また、350℃以上に加熱することにより、塩化アンモニウムの気化・分解を促進することができる。
(NH
4)
2RECl
5 → RECl
3 + 2NH
3 + 2HCl …化学反応式(3)。
【0061】
(j)選択的酸塩化熱処理工程
図2の分離プロセスの本工程は、得られた複数種の希土類塩化物から、塩化物/酸塩化物混合物を生成させる熱処理を行う工程である。熱処理雰囲気としては、酸化性雰囲気(酸素成分が存在する雰囲気、例えば、大気、乾燥空気気流中、不活性ガスと酸素ガスとの混合ガス気流中)が好ましい。この工程により、第1群の希土類塩化物は酸塩化反応がほとんど進行せず塩化物の状態で残存し、第2群の希土類塩化物では酸塩化反応が進行する。
【0062】
本発明において、「第1群の希土類元素」はある温度領域で酸塩化反応が進行しないネオジムやプラセオジム等の希土類元素と定義し、「第2群の希土類元素」は当該温度領域で酸塩化反応が進行するジスプロシウム等の希土類元素と定義する。
【0063】
希土類塩化物(RECl
3)から希土類酸塩化物(REOCl)を生成する酸塩化反応(部分酸化反応)は、下記の化学反応式(4)のような化学反応になると考えられる。この化学反応においては、RECl
3からREOClを生成する際に重量減少を伴う。
2RECl
3 + O
2 → 2REOCl + 2Cl
2 …化学反応式(4)。
【0064】
酸塩化反応の様子を調査するため、種々の希土類塩化物に対して、大気中で熱重量分析を行った。希土類塩化物としては、希土類磁石で広く用いられる希土類元素の塩化物である塩化ネオジム(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製、品番:449946)と、塩化ジスプロシウム(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製、品番:325546)を用いた。熱重量測定には、熱量計測測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製、型式:TGA-Q500)を用いた。測定試料(希土類塩化物粉末30 mg)を昇温速度5℃/minで500℃まで加熱して重量変化率を測定した。
【0065】
図5は、希土類塩化物に対して大気中で熱重量分析を行ったときの重量変化率と温度との関係を示すチャートである。
図5に示したように、いずれの希土類塩化物も温度の上昇と共に重量が減少しており、化学反応式(4)の酸塩化反応が進行していることが解る。しかしながら、重量変化の挙動は、希土類元素の種類によって違いがあることが判った。なお、無機粉末の熱重量分析においては、130℃程度以下の温度領域での重量変化は粉末試料に吸着している水分などの影響を考慮する必要がある。
【0066】
図5を具体的に見ると、塩化ネオジム(NdCl
3)では、約180℃〜約300℃の温度域で重量減少がほとんど見られない平坦な領域(以下「平坦領域」と称す)が観察された。これに対し、塩化ジスプロシウム(DyCl
3)では、この温度域で大きな重量減少が観察された。このように、希土類元素の種類によって、希土類塩化物の酸塩化挙動(部分酸化挙動)に差異が見られることが判った。また、当該平坦領域での単位温度あたりの塩化ネオジムの重量減少率は、1×10
-3%/℃であった。
【0067】
ここで、平坦領域に関して考察する。平坦領域の開始温度は、
図4に示した希土類酸化物の塩化反応における標準ギブスエネルギー変化が負の値を示す温度とほぼ一致いることが判る。このことから、平坦領域は、塩化ネオジム(NdCl
3)にとって熱力学的に安定な領域であると考えられる。一方、大きな重量減少を示した塩化ジスプロシウム(DyCl
3)は、
図3の標準ギブスエネルギー変化が負の値を示す温度が約350℃以上であり、平坦領域の温度域では、熱力学的に不安定であると考えられる。
【0068】
そこで、希土類塩化物の酸塩化反応(化学反応式(4))における標準ギブスエネルギー変化と温度との関係を計算した。その結果、平坦領域を示す希土類塩化物は、酸塩化反応における標準ギブスエネルギー変化が負の値を示す温度が、塩化反応における標準ギブスエネルギー変化が負の値を示す温度よりも高いことが判った。言い換えると、平坦領域を示す希土類塩化物は、平坦領域の開始温度よりも高い温度になってから希土類酸塩化物が熱力学的に安定となる。
【0069】
一方、大きな重量減少を示す希土類塩化物は、塩化反応における標準ギブスエネルギー変化が負の値を示す温度よりも低い温度で、酸塩化反応における標準ギブスエネルギー変化が負の値を示すことが判った。言い換えると、大きな重量減少を示す希土類塩化物は、平坦領域の温度域で希土類酸塩化物の方が熱力学的に安定となる。
【0070】
以上のような考察から、平坦領域の温度域は、第1群の希土類元素にとって塩化物が安定な温度域であり、かつ、第2群の希土類元素にとって酸塩化物が安定な温度域であると考えられる。
【0071】
上記考察を検証するために、平坦領域の温度域で温度保持した場合の熱重量分析を行った。熱重量測定には、前述と同じ熱量計測測定装置と同じ粉末試料とを用いた。測定試料(希土類塩化物粉末30 mg)を昇温速度5℃/minで所定の温度まで加熱し、該所定温度で保持しながら重量変化率を測定した。
【0072】
図6は、塩化ネオジムおよび塩化ジスプロシウムに対して大気中250℃保持で熱重量分析を行ったときの重量変化率と保持時間との関係を示すチャートである。
図6に示したように、塩化ネオジム(NdCl
3)は重量減少がほとんど見られないのに対して、塩化ジスプロシウム(DyCl
3)では保持時間の増加に伴って重量減少している(重量減少率が拡大している)ことが確認された。
【0073】
10時間保持後で、塩化ネオジム(NdCl
3)の重量減少が3%であるのに対し、塩化ジスプロシウム(DyCl
3)の重量減少は17%であった。それぞれの重量減少が、化学反応式(4)の反応によるものであるとすると、塩化ネオジム(NdCl
3)はその14%が酸塩化ネオジム(NdOCl)になり、塩化ジスプロシウム(DyCl
3)はその83%が酸塩化ジスプロシウム(DyOCl)になったと計算される。
【0074】
上記の熱重量分析から、複数種の希土類塩化物混合物に対して、平坦領域の温度域の熱処理を施すことにより、第2群の希土類元素の塩化物を選択的に酸塩化物に化学変化させられることが確認された。
【0075】
(k)選択的塩化/酸塩化熱処理工程
図3の分離プロセスの本工程は、用意した酸化物/塩化剤混合物から、第1群の希土類元素の塩化物と第2群の希土類元素の酸塩化物とを含む塩化物/酸塩化物混合物を生成させる選択的塩化/酸塩化熱処理を行う工程である。熱処理雰囲気としては、非酸化性雰囲気(酸素成分が実質的に混在しない雰囲気、例えば、不活性ガス(アルゴン、窒素など)気流中や真空中)が好ましい。熱処理温度としては、第1群の希土類元素の酸化物が塩化物となる温度領域内の温度であり、かつ前記第2群の希土類元素の酸化物が酸塩化物となる温度領域内の温度が好ましい。
【0076】
前述したように、希土類酸化物(RE
2O
3)から希土類塩化物(RECl
3)を生成する塩化反応は、化学反応式(1)のような化学反応になると考えられる。
RE
2O
3 + 6NH
4Cl → 2RECl
3 + 6NH
3 + 3H
2O …化学反応式(1)。
【0077】
希土類酸化物(RE
2O
3)から希土類酸塩化物(REOCl)を生成する酸塩化反応は、下記の化学反応式(5)のような化学反応になると考えられる。
RE
2O
3 + 2NH
4Cl → 2REOCl + 2NH
3 + H
2O …化学反応式(5)。
【0078】
また、希土類酸塩化物(REOCl)から希土類塩化物(RECl
3)を生成する塩化反応は、下記の化学反応式(6)のような化学反応になると考えられる。
REOCl + 2NH
4Cl → RECl
3 + 2NH
3 + H
2O …化学反応式(6)。
【0079】
先と同様に、化学反応における標準ギブスエネルギー変化と温度との関係を参考にして、選択的塩化/酸塩化熱処理工程の熱処理温度について考察する。
図7は、希土類元素がネオジムまたはジスプロシウムの場合において、希土類酸化物の塩化反応(化学反応式(1))と、希土類酸化物の酸塩化反応(化学反応式(5))と、希土類酸塩化物の塩化反応(化学反応式(6))とにおける標準ギブスエネルギー変化と温度との関係を示すグラフである。
図7に示したように、温度の上昇と共に標準ギブスエネルギー変化が減少するが、標準ギブスエネルギー変化が負の値を示す温度になると当該化学反応が継続的に進行可能になる。
【0080】
また、各化学反応において、反応生成物として希土類化合物の他にアンモニアガス(NH
3)と水蒸気(H
2O)とが生成するが、アルゴンや窒素の気流中または真空中(減圧雰囲気中)で熱処理を行うことにより、生成ガス成分を速やかに系外に排出することができる。その結果、反応生成ガスによって塩化/酸塩化反応が阻害されることなく、該反応を進行させることができる。
【0081】
図7をより具体的に見ると、希土類酸化物の酸塩化反応(化学反応式(5))においては、酸化ネオジム(Nd
2O
3)は計算した全温度領域(0〜600℃)で標準ギブスエネルギー変化が負の値を示し、酸化ジスプロシウム(Dy
2O
3)は約180℃以上で標準ギブスエネルギー変化が負の値を示す。言い換えると、化学反応の活性化エネルギーを超えられれば、酸化ネオジム(Nd
2O
3)は0℃以上で、酸化ジスプロシウム(Dy
2O
3)は約180℃以上で、化学反応式(5)の酸塩化反応が進行可能になる。
【0082】
希土類酸塩化物の塩化反応(化学反応式(6))においては、酸塩化ネオジム(NdOCl)は約330℃で標準ギブスエネルギー変化が負の値を示し、酸塩化ジスプロシウム(DyOCl)は約420℃以上で標準ギブスエネルギー変化が負の値を示す。言い換えると、化学反応の活性化エネルギーを超えられれば、酸塩化ネオジム(NdOCl)は約330℃で、酸塩化ジスプロシウム(DyOCl)は約420℃以上で、化学反応式(6)の塩化反応が進行可能になる。
【0083】
なお、希土類酸化物の塩化反応(化学反応式(1))は、
図4と同じである。すなわち、酸化ネオジム(Nd
2O
3)は約200℃以上で標準ギブスエネルギー変化が負の値を示し、酸化ジスプロシウム(Dy
2O
3)は約350℃以上で標準ギブスエネルギー変化が負の値を示す。言い換えると、化学反応が開始するための活性化エネルギーを超えられれば、酸化ネオジム(Nd
2O
3)は約200℃以上で、酸化ジスプロシウム(Dy
2O
3)は約350℃以上で、化学反応式(1)の塩化反応が進行可能になる。
【0084】
図7の結果から、希土類元素の種類や化学反応の種類によって、熱力学的に安定となる温度が大きく異なっていることが解る。このことから、熱力学的に安定となる温度の差異を利用することによって、塩化反応と酸塩化反応とを共存させることが可能となる。
【0085】
例えば、酸化ネオジム(Nd
2O
3)と酸化ジスプロシウム(Dy
2O
3)との混合物から塩化物/酸塩化物混合物を生成させようとした場合、塩化ネオジム(NdCl
3)を生成させるためには、少なくとも200℃以上の熱処理温度が必要と考えられる。一方、塩化ジスプロシウム(DyCl
3)の生成を抑制し酸塩化ジスプロシウム(DyOCl)を安定に保つためには、420℃未満の熱処理温度が好ましいと考えられる。
【0086】
また、選択的塩化/酸塩化熱処理においても第1群の希土類元素の酸化物の塩化反応(化学反応式(1))に関しては、前述した化学反応式(2),(3)のプロセス(2段階の素反応プロセス)を考慮した熱処理温度が有効であると考えられる。
【0087】
(選択的抽出工程)
本工程は、得られた塩化物/酸塩化物混合物を溶媒に投入して、希土類塩化物を選択的に液相中に抽出し、かつ希土類酸塩化物を固相として残存させる工程である。この工程は、希土類塩化物の高い溶解性と希土類酸塩化物の低い溶解性(難溶性)との差異を利用したものである。
【0088】
溶媒としては、例えば、純水、低級アルコール、またはそれらの混合液を好ましく用いることができる。低級アルコールとしては、特にメタノールやエタノールを用いることが好ましい。これらの溶媒は、環境および人体に与える影響が小さいことから、作業性の向上および作業設備の簡素化(すなわち、低コスト化)に貢献する。
【0089】
塩化物/酸塩化物混合物の投入量や溶媒量に応じて、撹拌子や撹拌羽根、超音波振動などを用いて撹拌することは好ましい。また、撹拌に際して、加熱することで溶媒への抽出を促進することができる。ただし、加熱温度が溶媒の沸点より高くなると溶媒量が減少するため、加熱温度は溶媒の沸点以下であることが好ましい。なお、溶媒を加熱する場合は、溶媒の揮発を抑制するため、溶解槽を密閉することが好ましい。
【0090】
(分離工程)
本工程は、上記で得られた溶液に対して固液分離処理を行うことで、第1群の希土類元素と第2群の希土類元素とを分離する工程である。固液分離処理の方法に特段の限定はないが、例えば、濾過を利用することができる。
【0091】
(回収工程)
本工程は、固液分離した液相と固相とから、第1群の希土類元素と第2群の希土類元素とを回収する工程である。希土類塩化物を含む液相に対しては、例えば、スプレードライヤを用いて加熱雰囲気中に噴霧することで、希土類塩化物粉末として回収することができる。また、希土類塩化物溶液に対してpH調整を行った後、沈殿剤(例えば、炭酸アンモニウム((NH
4)
2CO
3)、炭酸水素アンモニウム(NH
4HCO
3)、炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)、シュウ酸((COOH)
2)、シュウ酸ナトリウム((COONa)
2)、水酸化ナトリウム(NaOH)等)を添加することにより、難溶性の希土類沈殿物を生成させることができる。該沈殿物を濾過、乾燥した後、大気中900℃程度で焙焼することにより、第1群の希土類元素を酸化物として回収することができる。
【0092】
希土類酸塩化物からなる固相に対しては、これを乾燥することで、希土類酸塩化物粉末として回収することができる。また、無機酸(希塩酸、希硝酸等)で溶解して水和物を生成させ、該水和物に対してpH調整を行った後、沈殿剤(例えば、(NH
4)
2CO
3、NH
4HCO
3、Na
2CO
3、NaHCO
3、(COOH)
2、(COONa)
2、NaOH等)を添加することにより、難溶性の希土類沈殿物を生成させることができる。該沈殿物を濾過、乾燥した後、大気中900℃程度で焙焼することにより、第2群の希土類元素を酸化物として回収することができる。
【0093】
本発明は、上述した塩化剤混合工程から回収工程までを繰り返して実行してもよい(回収工程で得られた希土類酸化物を塩化剤混合工程に戻して、回収工程までの工程を再度実行する)。それにより、第1群の希土類元素と第2群の希土類元素との分離率を更に向上させることができる。また、上述の選択的抽出工程で生成した液相に対して、その他の既知の湿式分離法を適用してもよい。
【0094】
上記で回収された希土類酸化物(例えば、酸化ネオジム、酸化ジスプロシウム)のそれぞれに対して、フッ化物浴などを用いた溶融塩電解を行うことにより希土類金属に還元することができる。これら希土類金属は、希土類磁石の原料として再利用することができる。
【0095】
以上説明したように、希土類磁石の廃材に対して、本発明に係る分離方法を適用することにより、高い分離率でかつ簡便に第1群の希土類元素と第2群の希土類元素とを分離し回収することができる。
【0096】
なお、希土類酸化物分離工程で分離した粉末には、分離しきれなかった鉄成分、ホウ素成分、アルミニウム成分が含まれ、さらには、希土類磁石材料以外の不純物元素(例えば、ケイ素)が含まれる場合がある。混入した鉄成分は、例えば、塩化/酸塩化熱処理工程において塩化鉄になり、塩化アンモニウムを除去する過程の真空排気時に一緒に系外に排出することができる。
【0097】
一方、ホウ素成分、ケイ素成分、およびアルミニウム成分は、一部は塩化/酸塩化熱処理工程において塩化され、塩化アンモニウムを除去する過程の真空排気時に一緒に系外に排出される。残部は酸化物のままで残存し、分離工程において希土類酸塩化物の固相に随伴して分離される。その後、回収工程において、希土類酸塩化物に対して酸溶解・沈殿物生成する際に、溶解性や化学反応性の差異を利用して、それら余剰成分と第2群の希土類元素とを分離することが可能である。
【0098】
[希土類元素の分離装置]
図8、
図9は、本発明に係る希土類元素の分離装置の構成例を示す系統模式図である。
図8、
図9では、希土類酸化物分離工程として炭素熱還元法を用いる場合の装置の構成例を示している。以下、同義の装置・機構に対しては同じ符号を付して、説明の重複を省略する場合がある。
【0099】
図8,9に示したように、本発明に係る希土類元素の分離装置100,200は、大きく分けて、被分離組成物準備セクション10,10’と希土類元素分離セクション30とから構成されている。さらに、希土類元素分離セクション30の後段に、分離した希土類元素を回収するための希土類元素回収セクション50が接続されていてもよい。
【0100】
図8の分離装置100において、被分離組成物準備セクション10は、磁石材料保管庫11、出発粉末準備機構12、磁石材料酸化処理装置13、希土類酸化物分離機構14、および整粒機構15を具備する。出発粉末準備機構12は、磁石材料保管庫11と磁石材料酸化処理装置13とに接続されており、前述した出発粉末準備工程を行う部分(例えば、水素破砕処理装置、粉砕機、乾燥器)である。磁石材料酸化処理装置13は、出発粉末準備機構12と希土類酸化物分離機構14とに接続されており、前述した酸化処理工程を行う部分である。
【0101】
希土類酸化物分離機構14は、磁石材料酸化処理装置13と整粒機構15とに接続されており、前述した炭素熱還元処理による希土類酸化物分離工程を行う部分である。例えば、炭素熱還元炉141と、黒鉛粉末を保管する黒鉛保管庫142と、金属鉄を回収する銑鉄回収庫143とを有する。整粒機構15は、希土類酸化物分離機構14と接続されており、分離された希土類酸化物粉末に対して前述した整粒工程を行う部分である。一例としては、整粒装置151(例えば、粉砕機、造粒機)と粒度分布測定装置152とを有する。
【0102】
一方、
図9の分離装置200では、被分離組成物準備セクション10’は、整粒機構15’とホウ素低減処理機構16と希土類酸化物追酸化熱処理装置17とにおいて分離装置100の被分離組成物準備セクション10と異なり、他の部分で同じ構成を有している。ホウ素低減処理機構16は、希土類酸化物分離機構14と整粒機構15’とに接続されており、前述したホウ素低減処理工程を行う部分である。整粒機構15’は、ホウ素低減処理機構16と希土類酸化物追酸化熱処理装置17とに接続されており、分離された希土類酸化物粉末に対して前述した整粒工程を行う部分である。整粒機構15’は、整粒装置151’(ここでは、粉砕機)が第1粉砕機1511と第2粉砕機1512とから構成される点で、整粒機構15と異なっている。希土類酸化物追酸化熱処理装置17は、整粒装置151’と接続されており、前述した追酸化熱処理工程を行う部分である。
【0103】
分離装置100(
図8)、分離装置200(
図9)において、希土類元素分離セクション30は、塩化剤混合供給装置31、塩化/酸塩化熱処理装置32、雰囲気制御装置33、ガス処理装置34、化学反応モニタ機構35および分離機構40を具備している。塩化剤混合供給装置31は、整粒機構15と塩化/酸塩化熱処理装置32とに接続されており、前述した混合工程を行う部分である。一例としては、塩化剤を保管する塩化剤保管庫311とホッパー312とを有する。
【0104】
塩化/酸塩化熱処理装置32は、塩化剤混合供給装置31の他に、雰囲気制御装置33とガス処理装置34と化学反応モニタ機構35と分離機構40とにそれぞれ接続されており、前述した塩化/酸塩化熱処理工程を行う部分である。塩化/酸塩化熱処理工程における化学反応がスムーズに進行するように、被熱処理物を攪拌するための機構(例えば、炉心管回転機構(図示せず))を具備していることが好ましい。
【0105】
雰囲気制御装置33は、塩化/酸塩化熱処理工程における熱処理中の雰囲気制御を行う部分である。具体的には、ガス供給装置331と真空排気装置332とを有し、熱処理工程における常圧下の非酸化性雰囲気、減圧下の非酸化性雰囲気、常圧下の酸化性雰囲気を制御する。真空排気装置332に特段の限定はなく、例えば、ロータリーポンプを好適に用いることができる。
【0106】
ガス処理装置34は、塩化/酸塩化熱処理工程により発生するアンモニアガスや塩化水素ガスや塩素ガスを処理する部分である。例えば、アンモニア処理装置341と塩化水素処理装置342と塩素ガス処理装置343とを有する。処理の方法に特段の限定はなく、従前の方法(例えば、スクラバ―方式、燃焼方式、吸着方式など)を利用できる。なお、
図3に示した分離プロセスを採用する場合、塩素ガス処理装置343は無くてもよい。
【0107】
ガス処理装置34と塩化/酸塩化熱処理装置32との間に、化学反応モニタ機構35(例えば、アンモニアガスセンサ351、塩素ガスセンサ352)を接続することにより、化学反応の精度を高めることができる。アンモニアガスセンサ351および塩素ガスセンサ352により化学反応で発生するガスの濃度を検知し、単位時間当たりの平均ガス濃度(ガス濃度の変化率)をモニタすることによって、熱処理工程における化学反応の進行度合を観察することができる。例えば、対象とする化学反応がほぼ完了すると、発生するガスの濃度が急激に低下することから検知できる。これにより、運転バッチ毎の化学反応の進行度合を安定化させられると共に、熱処理時間の最適化が可能となり、効率的な分離・回収が可能となる。なお、化学反応モニタ機構35は、ガスセンサに限定されるものではなく、例えば、被熱処理物の重量変化を検知する機構でもよい。
【0108】
分離機構40は、塩化/酸塩化熱処理装置32に接続されており、前述した選択的抽出工程および分離工程を行う部分である。一例としては、選択的抽出工程で用いる溶媒を収容する溶媒容器41と、選択的抽出処理を行う溶解槽42と、固液分離処理を行うフィルタ43と、塩化物を抽出した液相成分を収容する抽出液容器44と、固液分離した固相分を収容する酸塩化物容器45とを有する。抽出液容器44に収容された抽出液および酸塩化物容器45に収容された固相分は、それぞれ希土類元素回収セクション50に進む。
【0109】
希土類元素回収セクション50の一例としては、沈殿剤保管庫51、無機酸容器52、不純物回収容器53、第1群の希土類元素用の焼成炉54、第1群の希土類元素用の電解炉55、第1群の希土類金属の回収庫56、第2群の希土類元素用の焼成炉57、第2群の希土類元素用の電解炉58、および第2群の希土類金属の回収庫59を具備している。
【0110】
抽出液容器44と酸塩化物容器45とにはそれぞれ沈殿剤保管庫51が接続されており、酸塩化物容器45には更に無機酸容器52と不純物回収容器53とが接続されている。抽出液容器44内の希土類塩化物溶液は、pH調整が行われた後に沈殿剤が投入され、難溶性の希土類沈殿物を生成させる。生成した第1群の希土類元素の希土類沈殿物は、濾別して取り出される。
【0111】
一方、酸塩化物容器45内の固相分に対しては、無機酸容器52から無機酸が投入されて希土類酸塩化物が一旦溶解される。このとき残存した固相分が、不純物として不純物回収容器53に回収される。その後、pH調整が行われた後に沈殿剤が投入され、難溶性の希土類沈殿物を生成させる。生成した第2群の希土類元素の希土類沈殿物は、濾別して取り出される。
【0112】
第1群の希土類元素用の焼成炉54は、抽出液容器44から取り出された希土類沈殿物を乾燥させた後、焙焼することによって第1群の希土類元素の酸化物を得る部分である。第1群の希土類元素用の電解炉55は、焙焼して得られた第1群の希土類元素の酸化物を溶融塩電解する部分である。該溶融塩電解によって、希土類酸化物は希土類金属となって第1群の希土類金属の回収庫56に回収される。回収された第1群の希土類金属は、希土類磁石の原料として再利用することができる。
【0113】
第2群の希土類元素用の焼成炉57は、抽出液容器45から取り出された希土類沈殿物を乾燥させた後、焙焼することによって第2群の希土類元素の酸化物を得る部分である。第2群の希土類元素用の電解炉58は、焙焼して得られた第2群の希土類元素の酸化物を溶融塩電解する部分である。該溶融塩電解によって、希土類酸化物は希土類金属となって第2群の希土類金属の回収庫59に回収される。回収された第2群の希土類金属は、希土類磁石の原料として再利用することができる。
【0114】
図10は、本発明に係る希土類元素の分離装置の構成の更に他の例を示す系統模式図である。
図10では、希土類酸化物分離工程として選択酸溶解処理を用いる場合の装置の構成例を示している。
図10の分離装置300は、被分離組成物準備セクション20以外は
図8に示した分離装置100と同じ構成を有している。
【0115】
被分離組成物準備セクション20は、磁石材料保管庫11、出発粉末準備機構12、磁石材料酸化熱処理装置13、希土類酸化物分離機構21、および整粒機構15を具備する。希土類酸化物分離機構21は、例えば、選択酸溶解槽211、無機酸容器212、不純物回収容器213、pH調整槽214、pH調整液容器215、固液分離槽216、沈殿剤保管庫217、および酸化熱処理装置218を有する。希土類酸化物分離機構21における分離の手順は、前述した選択酸溶解処理に従う。また、酸溶解しなかった不純物は不純物回収容器213に回収される。
【実施例】
【0116】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0117】
(希土類元素の分離実験、実施例1)
本実施例では、
図8に示した分離装置100を用い、
図2に示した分離プロセスを利用して、ネオジム−鉄−ホウ素(Nd-Fe-B)系希土類磁石のスラッジから希土類元素を分離する実験を行った。用いたスラッジの組成を蛍光X線分析法(XRF)により定量分析したところ(XRFの測定条件は後述する)、平均質量組成は68% Fe−22.2% Nd−4.3% Pr−3.6% Dy−0.9% B−0.5% Si−0.5% Alであった。
【0118】
このスラッジは、希土類磁石を切削・研磨加工した際に、ケイ素成分が磁石材料粉末に混入したものと考えられた。本実験による組成の変遷は後述する表1に示す。なお、ネオジムとプラセオジムとは物理的・化学的挙動が非常に似ているため、本発明では、プラセオジムはネオジムに随伴して分離・回収されるものと考える。
【0119】
前述したように、スラッジは、通常、研削水と共に保管されているため過剰な水分を含んでいる。そこで、出発粉末準備工程として、この含水スラッジに脱水処理を行った。含水スラッジを出発粉末準備機構12(ここでは、乾燥器)に入れ、150℃で1時間保持の加熱を行うことにより、脱水スラッジ約0.6 kgを得た。次に、酸化熱処理工程として、この脱水スラッジを磁石材料酸化処理装置13(例えば、円筒型焙焼キルン)に入れ、大気中860℃で2時間保持する熱処理を行うことにより、スラッジの各成分の酸化物粉末(約0.81 kg)を得た。
【0120】
次に、希土類酸化物分離工程を行った。得られたスラッジ各成分の酸化物粉末に黒鉛粉末(約0.3 kg)を添加・混合し、該混合粉末を炭素熱還元炉141に入れ、アルゴン気流中1400℃で2時間保持する熱処理を行った(炭素熱還元処理)。この処理により、スラッジ各成分の酸化物粉末から、金属鉄の小塊と酸化物の小塊との混合物が得られた。この混合物から金属鉄を取り除き、酸化物の小塊(約0.3 kg)を得た。
【0121】
得られた酸化物の小塊の一部に対してX線回折測定(XRD)を行った結果、希土類酸化物(複合酸化物を含む)を主相とすることが確認された。また、得られた酸化物の小塊の一部から平均組成を蛍光X線分析法(XRF)により定量分析したところ(XRFの測定条件は後述する)、鉄成分がほとんど除去されていることが確認された。組成分析結果は表1に併記する。
【0122】
炭素熱還元処理により分離された希土類酸化物は小塊状態であったことから、次に、整粒工程を行った。上記で得られた希土類酸化物の小塊に対し、整粒装置151(ここでは、乾式ボールミル)を用いて粉砕し、粒度調整を行った。なお、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて整粒工程前(粉砕前)の希土類酸化物の粒子を観察したところ、粒径300μm以上の粗大粒子が多数存在することが確認された。
【0123】
図11は、実施例1における整粒工程前後での粒径分布を示すグラフである。測定には、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製、型式:LA-950V2)を用いた。
図11に示したように、整粒工程前では体積基準による50%径が7.5μmで90%径が22μmであったのに対し、整粒工程後では体積基準による50%径が1.2μmで90%径が8.2μmとなった。なお、SEMで観察された粗大粒子(粒径300μm以上)は、本測定方法(レーザ回折式粒度分布計による測定)では大き過ぎることによる沈降により計測されなかったものと推定される。
【0124】
次に、塩化剤混合供給装置31を利用して、整粒した希土類酸化物粉末と塩化剤(塩化アンモニウム、NH
4Cl)とを混合し(塩化剤混合工程)、塩化/酸塩化熱処理装置32に供給した。塩化剤混合工程において、塩化アンモニウムの混合量は、化学反応式(1)における比率の2倍量(1 molのRE
2O
3に対して、12 molのNH
4Cl)とした。
【0125】
次に、塩化/酸塩化熱処理装置32と雰囲気制御装置33とを利用して、
図2の分離プロセスの塩化/酸塩化熱処理工程を行った。塩化熱処理工程としては、はじめに化学反応式(2)に示した化学反応を意図して、アルゴン気流中350℃で4時間保持の熱処理を行った後、引き続いて化学反応式(3)に示した化学反応を意図して、真空中400℃で2時間保持の熱処理を行った。また、化学反応に伴って生成するガス(アンモニアガス、塩化水素ガス)は、ガス処理装置34を利用して処理した。
【0126】
次に、同じく塩化/酸塩化熱処理装置32と雰囲気制御装置33とを利用して選択的酸塩化熱処理工程を行った。塩化ジスプロシウム(DyCl
3)に対して化学反応式(4)に示した化学反応を意図して、乾燥空気気流中250℃で10時間保持の熱処理を行った。この熱処理温度は、希土類塩化物に対して熱重量分析を行ったときに塩化ネオジム(NdCl
3)が平坦領域を示す温度域で、かつ塩化ジスプロシウム(DyCl
3)が大きな重量減少を示す温度域である(
図5参照)。
【0127】
次に、分離装置40を利用して選択的抽出工程と分離工程とを行った。まず、選択的酸塩化熱処理工程で得られた塩化物/酸塩化物混合物を純水(溶媒)に投入して、スターラーで24時間撹拌した。溶液は、濁りを生じ固相を含んでいた。この溶液を濾過したところ、濾液は透明となり、フィルタ上に固相分が残った。フィルタ上の残渣を取り出し乾燥させて、分離した希土類化合物を得た。
【0128】
分離した希土類化合物に対して、蛍光X線分析法(XRF)により定量分析を行った。成形用バインダー(ホウ酸粉末)を用いて測定用試料をプレス成形して測定に供した。測定装置には、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、型式:ZSX Primus II)を用いた。測定条件は、X線としてRh-Kα線を用い、X線出力を3 kWとし、分析径を20 mmとした。本分析で得られる定量値は、ファンダメンタルパラメータ法(FP法)により算出した。結果を表1に併記する。
【0129】
また、蛍光X線分析で得られたDy質量濃度([Dy]と表記する)、Nd質量濃度([Nd]と表記する)、Pr質量濃度([Pr]と表記する)を下記式(1)に代入してDyの分離割合(Dy分離率)を算出した。結果を表1に併記する。
Dy分離率(%)= 100×{ [Dy] / ( [Dy]+[Nd]+[Pr] ) } …式(1)。
【0130】
(希土類元素の分離実験、比較例1)
本比較例では、整粒機構151による整粒工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして希土類元素の分離実験を行った。分離工程後の組成およびDy分離率を表1に併記する。
【0131】
【表1】
【0132】
表1に示したように、炭素熱還元処理を行うことにより、磁石材料から鉄成分を劇的に減少させられることが確認された。また、本発明に係る希土類元素の分離方法を行った実施例1では、Dy分離率が40%となり、出発粉末におけるDyの比率から3.5倍に濃縮していることが確認された。さらに、B成分も分離工程によって除去できることが確認された。一方、整粒工程を実施しなかった比較例1は、炭素熱還元処理後の組成とほとんど変わらず、Dy成分の濃縮およびB成分の除去は見られなかった。この結果から整粒工程の重要性が確認された。
【0133】
また、上記で分離した希土類化合物を酸化して希土類酸化物とし、前述した塩化剤混合工程から回収工程までを繰り返して実行すれば、Dy成分の精製度を向上できる。
【0134】
なお、実施例1において、Dy収率は97%であった。ここで、Dy収率は、炭素熱還元処理後の粉末全体質量(w
0と表記する)と、この炭素熱還元処理後の粉末のDy質量濃度([Dy]
0と表記する)と、分離工程後の粉末全体質量(wと表記する)と、この分離工程後の粉末のDy質量濃度([Dy]と表記する)とを下記式(2)に代入して算出したものである。
Dy収率(%)= 100×( w[Dy]/w
0[Dy]
0 ) …式(2)。
【0135】
(希土類元素の分離実験、実施例2〜5)
本実施例では、
図10に示した分離装置300を用い、
図2に示した分離プロセスを利用して、ネオジム−鉄−ホウ素(Nd-Fe-B)系希土類磁石のスラッジから希土類元素を分離する実験を行った。スラッジは、実施例1と同じものを用いた。
【0136】
実施例1と同様にして、含水スラッジ約6.4 kgに対して出発粉末準備工程と酸化処理工程とを行い、スラッジの各成分の酸化物粉末(約2.6 kg)を得た。
【0137】
次に、希土類酸化物分離工程として選択酸溶解処理を行った。用意したスラッジ各成分の酸化物粉末を10%塩酸溶液に浸漬して、90℃で16時間保持することにより、希土類成分を選択的に抽出した。その後、酸化鉄等の固相分を濾別し、希土類元素の塩酸溶液を得た。次に、希土類元素の塩酸溶液のpH調整を行った後、沈殿剤として炭酸水素ナトリウムを投入して、希土類炭酸塩の沈殿物を生成させた。これを濾別し、希土類炭酸塩を回収した(選択酸溶解処理)。次に、得られた希土類炭酸塩に対して大気中800℃で2時間保持する熱処理を施し、希土類酸化物粉末を得た(酸化熱処理)。
【0138】
次に、整粒工程として、得られた希土類酸化物粉末の粒度分布を測定した。測定には、実施例1と同じレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いた。測定の結果、所望の粒度範囲に含まれていることを確認した。
【0139】
上記で得られた希土類酸化物粉末を4つに分けた後、実施例1と同様に塩化剤混合供給装置31を利用して、希土類酸化物粉末と塩化剤(塩化アンモニウム、NH
4Cl)とを混合し(塩化剤混合工程)、塩化/酸塩化熱処理装置32に供給した。塩化剤混合工程において、塩化アンモニウムの混合量は、化学反応式(1)における比率の2倍量(1 molのRE
2O
3に対して、12 molのNH
4Cl)とした。
【0140】
次に、塩化/酸塩化熱処理装置32と雰囲気制御装置33とを利用して、
図2の分離プロセスの塩化/酸塩化熱処理工程を行った。ここで、塩化熱処理の前段(化学反応式(2)に示した化学反応を意図した熱処理)として、温度条件T
C1を250〜400℃で変えて、アルゴン気流中4時間保持の熱処理を行った。塩化熱処理の後段(化学反応式(3)に示した化学反応を意図した熱処理)としては、真空中400℃で2時間保持の熱処理を行った。化学反応に伴って生成するガス(アンモニアガス、塩化水素ガス)は、ガス処理装置34を利用して処理した。
【0141】
その後、実施例1と同様の手順により、選択的酸塩化熱処理工程、選択的抽出工程および分離工程を行った。分離した希土類化合物に対して、蛍光X線分析法(XRF)により定量分析を行った。組成分析結果とDy分離率とを表2に示す。
【0142】
【表2】
【0143】
実施例2は、塩化熱処理の前段の温度を「T
C1=250℃」とした例である。分離工程後のDy分離率は20.7%となり、出発粉末よりもDy成分が約2倍に濃縮されていることが確認された。なお、塩化熱処理工程後の粉末に対してX線回折測定(XRD)を行ったところ、塩化ネオジム(NdCl
3)、酸塩化ネオジム(NdOCl)、塩化ジスプロシウム(DyCl
3)、および酸化ジスプロシウム(Dy
2O
3)が検出された。
【0144】
実施例3は、塩化熱処理の前段の温度を「T
C1=300℃」とした例である。分離工程後のDy分離率は31.2%となり、出発粉末よりもDy成分が約3倍に濃縮されていることが確認された。なお、塩化熱処理工程後の粉末に対してX線回折測定(XRD)を行ったところ、塩化ネオジム(NdCl
3)、塩化ジスプロシウム(DyCl
3)、および酸塩化ジスプロシウム(DyOCl)が検出された。
【0145】
実施例4は、塩化熱処理の前段の温度を「T
C1=350℃」とした例である。分離工程後のDy分離率は27.6%となり、出発粉末よりもDy成分が約2.5倍に濃縮されていることが確認された。なお、塩化熱処理工程後の粉末に対してX線回折測定(XRD)を行ったところ、塩化ネオジム(NdCl
3)、塩化ジスプロシウム(DyCl
3)、および酸塩化ジスプロシウム(DyOCl)が検出された。
【0146】
実施例5は、塩化熱処理の前段の温度を「T
C1=400℃」とした例である。分離工程後のDy分離率は23.0%となり、出発粉末よりもDy成分が約2倍に濃縮されていることが確認された。なお、塩化熱処理工程後の粉末に対してX線回折測定(XRD)を行ったところ、塩化ネオジム(NdCl
3)、塩化ジスプロシウム(DyCl
3)、および酸塩化ジスプロシウム(DyOCl)が検出された。
【0147】
上記結果から判るように、実施例2〜実施例5のいずれのDy分離率とも、出発粉末におけるDyの比率よりも大きい。また、このときのDyの収率は70%〜97%であった。
【0148】
以上説明したように、
図2に示した分離プロセスを利用した希土類元素の分離方法は、希土類磁石から、1サイクルの工程で約21%〜40%のDy分離率が得られた。これら実験結果から、本発明に係る希土類元素の分離方法は、磁石材料に対してDy成分を濃縮可能であり、高い分離率での分離が可能であることが実証された。
【0149】
(希土類元素の分離実験、実施例6)
本実施例では、
図8に示した分離装置100を用い、
図3に示した分離プロセスを利用して、ネオジム−鉄−ホウ素(Nd-Fe-B)系希土類磁石のスラッジから希土類元素を分離する実験を行った。スラッジは、実施例1と同じものを用いた。
【0150】
実施例1と同様にして、含水スラッジ約2.0 kgに対して出発粉末準備工程と酸化処理工程と希土類酸化物分離工程(炭素熱還元処理)とを行い、酸化物の小塊(約0.3 kg)を得た。
【0151】
炭素熱還元処理により分離された希土類酸化物は小塊状態であったことから、次に、整粒工程を行った。上記で得られた希土類酸化物の小塊に対し、整粒装置151(ここでは、乾式ボールミル)を用いて粉砕し、粒度調整を行った。粒度調整した希土類酸化物粉末の粒度分布を測定した。測定には、実施例1と同じレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いた。測定の結果、所望の粒度範囲に含まれていることを確認した。
【0152】
次に、実施例1と同様に塩化剤混合供給装置31を利用して、整粒した希土類酸化物粉末と塩化剤(塩化アンモニウム、NH
4Cl)とを混合し(塩化剤混合工程)、塩化/酸塩化熱処理装置32に供給した。塩化剤混合工程において、塩化アンモニウムの混合量は、化学反応式(1)における比率の2倍量(1 molのRE
2O
3に対して、12 molのNH
4Cl)とした。
【0153】
次に、塩化/酸塩化熱処理装置32と雰囲気制御装置33とを利用して、
図3の分離プロセスの塩化/酸塩化熱処理工程(選択的塩化/酸塩化熱処理工程)を行った。はじめに化学反応式(2)に示した化学反応を意図して、アルゴン気流中350℃で4時間保持の熱処理を行った後、引き続いて化学反応式(3)に示した化学反応を意図して、真空中400℃で2時間保持の熱処理を行った。また、化学反応に伴って生成するガス(アンモニアガス、塩化水素ガス)は、ガス処理装置34を利用して処理した。
【0154】
その後、実施例1と同様の手順により、選択的抽出工程と分離工程とを行った。分離した希土類化合物に対して、蛍光X線分析法(XRF)により定量分析を行った。組成分析結果とDy分離率とを表3に示す。なお、表3には、先の比較例1の結果も併記した。
【0155】
【表3】
【0156】
表3に示したように、実施例1の結果と同様に、炭素熱還元処理を行うことにより、磁石材料から鉄成分を劇的に減少させられることが確認された。また、本発明に係る希土類元素の分離方法を行った実施例6では、Dy分離率が35%となり、出発粉末におけるDyの比率から約3倍に濃縮していることが確認された。
【0157】
上記結果から、本発明の分離方法(
図3に示した分離プロセス)の効果が実証されたと言える。Si成分、Al成分に関しては、前述した回収工程(例えば、炭酸塩沈殿処理やシュウ酸塩沈殿処理)を行うことにより、除去することができる。また、上記で分離した希土類化合物を酸化して希土類酸化物とし、前述した塩化剤混合工程から回収工程までを繰り返して実行すれば、Dy成分の精製度を向上できる。
【0158】
(希土類元素の分離実験、実施例7〜8)
本実施例では、
図10に示した分離装置300を用い、
図3に示した分離プロセスを利用して、ネオジム−鉄−ホウ素(Nd-Fe-B)系希土類磁石のスラッジから希土類元素を分離する実験を行った。スラッジは、実施例1と同じものを用いた。
【0159】
実施例1と同様にして、含水スラッジ約6.4 kgに対して出発粉末準備工程と酸化処理工程とを行い、スラッジの各成分の酸化物粉末(約2.6 kg)を得た。
【0160】
次に、実施例2と同様にして選択酸溶解処理と酸化熱処理とを行い、希土類酸化物粉末を得た。
【0161】
次に、整粒工程として、得られた希土類酸化物粉末の粒度分布を測定した。測定には、実施例1と同じレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いた。測定の結果、所望の粒度範囲(体積基準による50%径が0.5μm以上で90%径が10μm以下)に含まれていることを確認した。
【0162】
上記で得られた希土類酸化物粉末を2つに分けた後、実施例1と同様に塩化剤混合供給装置31を利用して、希土類酸化物粉末と塩化剤(塩化アンモニウム、NH
4Cl)とを混合し(塩化剤混合工程)、塩化/酸塩化熱処理装置32に供給した。塩化剤混合工程において、塩化アンモニウムの混合量は、化学反応式(1)における比率の2倍量(1 molのRE
2O
3に対して、12 molのNH
4Cl)とした。
【0163】
次に、塩化/酸塩化熱処理装置32と雰囲気制御装置33とを利用して、
図3の分離プロセスの塩化/酸塩化熱処理工程(選択的塩化/酸塩化熱処理工程)を行った。ここで、選択的塩化/酸塩化熱処理の前段(化学反応式(2)に示した化学反応を意図した熱処理)として、温度条件T
C1を300〜350℃で変えて、アルゴン気流中4時間保持の熱処理を行った。選択的塩化/酸塩化熱処理の後段(化学反応式(3)に示した化学反応を意図した熱処理)としては、真空中400℃で2時間保持の熱処理を行った。化学反応に伴って生成するガス(アンモニアガス、塩化水素ガス)は、ガス処理装置34を利用して処理した。
【0164】
その後、実施例1と同様の手順により、選択的抽出工程と分離工程とを行った。分離した希土類化合物に対して、蛍光X線分析法(XRF)により定量分析を行った。組成分析結果とDy分離率とを表4に示す。
【0165】
【表4】
【0166】
実施例7は、選択的塩化/酸塩化熱処理の前段の温度を「T
C1=350℃」とした例である。分離工程後のDy分離率は27.1%となり、出発粉末よりもDy成分が2倍強に濃縮されていることが確認された。なお、選択的塩化/酸塩化熱処理工程後の粉末に対してX線回折測定(XRD)を行ったところ、塩化ネオジム(NdCl
3)、酸塩化ジスプロシウム(DyOCl)、および塩化ジスプロシウム(DyCl
3)が検出された。
【0167】
実施例8は、選択的塩化/酸塩化熱処理の前段の温度を「T
C1=300℃」とした例である。分離工程後のDy分離率は34.7%となり、出発粉末よりもDy成分が約3倍に濃縮されていることが確認された。なお、選択的塩化/酸塩化熱処理工程後の粉末に対してX線回折測定(XRD)を行ったところ、実施例2と同様に、塩化ネオジム(NdCl
3)、酸塩化ジスプロシウム(DyOCl)、および塩化ジスプロシウム(DyCl
3)が検出された。
【0168】
上記結果から判るように、実施例7〜8のいずれのDy分離率とも、出発粉末におけるDy分離率よりも大きい。すなわち、本発明に係る希土類元素の分離方法は、磁石材料に対してDy成分を濃縮可能であることが確認された。また、選択的塩化/酸塩化熱処理により、ネオジム塩化物(NdCl
3)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)とを一度に生成できることが確認された。
【0169】
(希土類元素の分離実験、実施例9〜12)
本実施例では、
図9に示した分離装置200を用い、
図3に示した分離プロセスを利用して、ネオジム−鉄−ホウ素(Nd-Fe-B)系希土類磁石のスラッジから希土類元素を分離する実験を行った。ここで、分離装置200としては、実施例1で用いた分離装置100よりも1バッチあたりの処理量の増大を目的とした大型の分離装置を用いた。
【0170】
スラッジは、実施例1と同じものを用いた。含水スラッジ約32 kgに対して、実施例1と同様の手順で出発粉末準備工程と酸化処理工程とを行い、スラッジの各成分の酸化物粉末(約13 kg)を得た。
【0171】
次に、実施例1と同様の手順で希土類酸化物分離工程を行った。得られたスラッジ各成分の酸化物粉末に黒鉛粉末(約4.8 kg)を添加・混合し、該混合粉末を炭素熱還元炉141に入れ、アルゴン気流中1400℃で2時間保持する熱処理を行った(炭素熱還元処理)。この処理により、スラッジ各成分の酸化物粉末から、金属鉄の小塊と酸化物の小塊との混合物が得られた。この混合物から金属鉄を取り除き、酸化物の小塊(約4.8 kg)を得た。
【0172】
得られた酸化物の小塊の一部から平均組成を蛍光X線分析法(XRF)により定量分析したところ、実施例1と同様に鉄成分の大部分が除去されていることが確認された。本実験による組成の変遷は後述する表5に示す。
【0173】
次に、上記で分離された酸化物の小塊をほぼ4等分した。4分割した内の1つには、実施例6と同様の整粒工程のみを行って前処理プロセスを終了させた(実施例9)。実施例9と実施例6とは1バッチあたりの処理量に差異があり、1バッチあたりの処理量の影響を見ることができる。
【0174】
4分割した内の他の1つには、整粒工程の前にホウ素低減処理工程としてアルカリ炭酸塩添加・熱処理を行い、他を実施例9と同じにして前処理プロセスを終了させた(実施例10)。アルカリ炭酸塩添加・熱処理は、分離装置200のホウ素低減処理機構16を用いて、酸化物の小塊(約1.2 kg)を解砕しながら炭酸カリウム(K
2CO
3、約0.2 kg)を混合し、窒素気流中1450℃で6時間保持する熱処理を行った。実施例10と実施例9とはホウ素低減処理工程の有無に差異があり、ホウ素低減処理工程の影響を見ることができる。
【0175】
4分割した内の他の1つには、実施例10と同じホウ素低減処理工程後に、整粒工程として第1粉砕工程と第2粉砕工程とを行って前処理プロセスを終了させた(実施例11)。第1粉砕工程は整粒機構15’の第1粉砕機1511を用いて行い、第2粉砕工程は整粒機構15’の第2粉砕機1512を用いて行った。第1粉砕機1511としては分離装置100の整粒装置151と同じ乾式ボールミルを用い、第2粉砕機1512としては湿式ビーズミルを用いた。実施例11と実施例10とは第2粉砕工程の有無に差異があり、第2粉砕工程の影響を見ることができる。なお、実施例9,10は、整粒工程として第1粉砕機1511を用いた第1粉砕工程のみを行ったものである。
【0176】
4分割した内の残りの1つには、実施例11と同じ整粒工程後に、追酸化熱処理工程を更に行って前処理プロセスを終了させた(実施例12)。追酸化熱処理工程は、希土類酸化物追酸化熱処理装置17を用いて大気中1200℃で30時間保持する熱処理を行った。実施例12と実施例11とは追酸化熱処理工程の有無に差異があり、追酸化熱処理工程の影響を見ることができる。
【0177】
整粒工程において、実施例9〜12の第1粉砕工程後の粉末および実施例11〜12の第2粉砕工程後の粉末に対して、実施例1と同様にレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製、型式:LA-950V2)を用いて、それぞれの粒径分布を測定した。その結果、第1粉砕工程後の粉末は、体積基準による50%径が1.1〜1.5μmで、90%径が8〜9μmであった。また、第2粉砕工程後の粉末は、体積基準による50%径が0.052〜0.43μmで、90%径が0.083〜1.2μmであった。
【0178】
なお、第2粉砕工程後の粒径が非常に細かい粉末(体積基準の50%径が0.035μm)を別途用意したところ、整粒工程での収率が70%を下回った(整粒工程後の粉末量が整粒工程前の粉末量の70%を下回った)。この結果から、整粒工程での50%径(体積基準)は、少なくとも0.04μm以上が好ましいと確認された。
【0179】
前処理プロセスを施した実施例9〜12の各粉末に対して、実施例6と同様の
図3に示した分離プロセスを施し、分離した実施例9〜12の希土類化合物に対して、実施例1と同様の蛍光X線分析法(XRF)による定量分析を行った。結果を表5に併記する。
【0180】
【表5】
【0181】
表5に示したように、実施例1の結果と同様に、実施例9〜12においても炭素熱還元処理を行うことにより、磁石材料から鉄成分を劇的に減少させられることが確認された。Dy分離を個別に見ていくと、実施例9では、Dy分離率が23%となり、出発粉末におけるDyの比率から約2倍に濃縮していることが確認されたが、実施例6のDy分離率には届かなかった。前述したように、実施例9と実施例6とには、1バッチあたりの処理量に差異がある。実施例9は、1バッチあたりの処理量が多くなったために前処理プロセスにおける希土類酸化物の分離に不完全さが生じ、その結果、分離プロセスの選択的塩化/酸塩化熱処理工程における化学反応の進行が実施例6よりも不完全になったものと考えられた。言い換えると、1バッチあたりの処理量を多くする場合、前処理プロセスにおける希土類酸化物の分離の完全性がより重要になることが判った。
【0182】
実施例10は、実施例9にホウ素低減処理工程を追加した例である。ホウ素低減処理工程としてアルカリ炭酸塩添加・熱処理を行うことにより、実施例9よりも残留ホウ素濃度が低減されることが確認された。また、実施例9よりもDy分離率が向上することが確認された。
【0183】
実施例11は、実施例10に第2粉砕工程を追加した例である。整粒工程として第1粉砕工程と第2粉砕工程とを行って、希土類酸化物粉末の粒径を実施例10のそれよりも小さくすることにより、実施例10よりもDy分離率が向上することが確認された。これは、分離プロセスの選択的塩化/酸塩化熱処理工程における化学反応が進行し易くなったためと考えられた。
【0184】
実施例12は、実施例11に追酸化熱処理工程を追加した例である。その結果、実施例11よりもDy分離率が更に向上することが確認された。これは、分離プロセスの選択的塩化/酸塩化熱処理工程における化学反応の完全性がより向上したためと考えられた。
【0185】
(希土類元素の分離実験、実施例13)
実施例13は、実施例9〜12と同様に大型の分離装置200を用い、
図3に示した分離プロセスを利用して、ネオジム−鉄−ホウ素(Nd-Fe-B)系希土類磁石のスラッジから希土類元素を分離する実験を行った。スラッジは、実施例1と同じものを用いた。含水スラッジ約32 kgに対して、実施例1と同様の手順で出発粉末準備工程と酸化処理工程とを行い、スラッジの各成分の酸化物粉末(約13 kg)を得た。
【0186】
実施例13では、ホウ素低減処理工程として還元・合金化処理を行い、他を実施例12と同様にして前処理プロセスを終了させた。還元・合金化処理は、炭素熱還元炉141を用い、炭素熱還元処理(アルゴン気流中1400℃で2時間保持)に引き続いて、アルゴン気流中1600℃で10時間保持する熱処理として行った。ホウ素低減処理工程後の粉末に対して、実施例1と同様のXRFによる定量分析を行った。結果を後述する表6に示す。
【0187】
前処理プロセスを施した実施例13の粉末に対して、実施例6と同様の
図3に示した分離プロセスを施し、分離した実施例13の希土類化合物に対して、実施例1と同様のXRFによる定量分析を行った。結果を表6に併記する。
【0188】
【表6】
【0189】
表6に示したように、1バッチあたりの処理量が多くなったとしても、ホウ素低減処理工程として還元・合金化処理を行うことにより、磁石材料から鉄成分と共にホウ素成分を減少させられることが確認された。また、実施例13のDy分離率は、実施例12のそれよりも更に向上して41%となり、出発粉末におけるDyの比率から約3.5倍に濃縮していることが確認された。
【0190】
以上説明したように、
図3に示した分離プロセスを利用した希土類元素の分離方法は、希土類磁石から、1サイクルの工程で約23〜41%の分離率が得られた。また、このときのDyの収率は70%〜97%であった。これら実験結果から、本発明に係る希土類元素の分離方法は、磁石材料に対してDy成分を濃縮可能であり、高い分離率での分離が可能であることが実証された。
【0191】
さらに、本発明の分離方法は、分離プロセス(混合工程から分離工程まで)が簡便な工程であることから、付帯的な作業や設備が少なくて済み、低コストのプロセスであると言える。
【0192】
本発明により、希土類磁石の廃棄物(例えば、不用品、不良品、スラッジ等)から希土類元素(例えば、ネオジム/プラセオジム、ジスプロシウム等)を高精度に分離することができ、分離した希土類元素を原料として再生することができる。その結果、資源の有効活用および希土類原料の安定的確保に貢献できる。
【0193】
なお、上述した実施形態および実施例は、本発明の理解を助けるために具体的に説明したものであり、本発明は、説明した全ての構成を備えることに限定されるものではない。例えば、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。さらに、各実施例の構成の一部について、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。