(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリカーボネート樹脂層(A層)の片面又は両面に紫外線吸収性性能を有する熱可塑性樹脂層(B層)を成形積層した積層基材に、スズ及びマンガンを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子を核とし、該核の外側に酸化ケイ素もしくは酸化アルミニウムの殻を有するコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体を、水、アルコール、エーテル、エステル、ケトンからなる群の1以上の分散媒中に分散したコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液であって、レーザー光を用いた動的光散乱法で測定した上記核微粒子の体積基準の50%累積分布径(D50)が50nm以下で、上記コアシェル固溶体の体積基準の50%累積分布径(D50)が100nm以下であり、前記スズ及びマンガンの全固溶量(M)が、チタンとのモル比(Ti/M)で10〜1,000の固溶体分散液を含むシリコーンハードコート組成物を塗布硬化してなるシリコーンハードコート層(C層)を形成したポリカーボネート樹脂積層体。
紫外線吸収性性能を有する熱可塑性樹脂層(B層)は、紫外線吸収剤としてベンゾトリアゾール類又はトリアジン類を含む熱可塑性樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂積層体。
紫外線吸収性性能を有する熱可塑性樹脂層(B層)は、(メタ)アクリル系樹脂組成物を用いて形成されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂積層体。
紫外線吸収性性能を有する熱可塑性樹脂層(B層)は、(メタ)アクリル系ゴム成分を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂積層体。
ハードコート層(C層)は、下記成分(c−1)〜(c−5)を含むシリコーンハードコート組成物の硬化被膜であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂積層体。
(c−1)スズ及びマンガンを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子を核とし、該核の外側に酸化ケイ素もしくは酸化アルミニウムの殻を有するコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体を、水、アルコール、エーテル、エステル、ケトンからなる群の1以上の分散媒中に分散したコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液であって、レーザー光を用いた動的光散乱法で測定した上記核微粒子の体積基準の50%累積分布径(D50)が50nm以下で、上記コアシェル固溶体の体積基準の50%累積分布径(D50)が100nm以下であり、前記スズ及びマンガンの全固溶量(M)が、チタンとのモル比(Ti/M)で10〜1,000の固溶体分散液、
(c−2)下記一般式(1):
(R1)m(R2)nSi(OR3)4-m-n (1)
(式中、R1及びR2は、各々独立に、水素原子、又は置換若しくは非置換の一価炭化水素基であり、置換基同士が相互に結合していてもよく、R3は、炭素数1〜3のアルキル基であり、m,nは、各々独立に、0又は1であり、且つm+nは、0,1又は2である。)
で表されるアルコキシシラン及びその部分加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種を(共)加水分解・縮合することにより得られたシリコーンレジン、
(c−3)硬化触媒、
(c−4)溶剤、
(c−5)必要によりコロイダルシリカ
を含み、且つ(c−1)成分のコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液の固形分が、(c−2)成分のシリコーンレジンの固形分に対して、1〜30質量%である。
(c−5)成分のコロイダルシリカの配合量が、(c−2)成分のシリコーンレジン固形分100質量部に対し5〜100質量部であることを特徴とする請求項5に記載のポリカーボネート樹脂積層体。
JIS K7171に準拠して3点曲げ試験を実施した際に、クラックが入る曲率半径Rが100mm以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂積層体。
請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂積層体の熱可塑性樹脂層(B層)又はハードコート層(C層)上に接着用プライマー層及び弾性接着剤層を順次介して構造部材が接着取り付けられてなる接着構成体。
ポリカーボネート樹脂層(A層)の片面又は両面に紫外線吸収性性能を有する熱可塑性樹脂層(B層)を、共押出法、熱圧着法、又はインサートモールド成形法のいずれかの方法により成形積層して積層基材を作製し、
この基材に、スズ及びマンガンを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子を核とし、該核の外側に酸化ケイ素もしくは酸化アルミニウムの殻を有するコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体を、水、アルコール、エーテル、エステル、ケトンからなる群の1以上の分散媒中に分散したコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液であって、レーザー光を用いた動的光散乱法で測定した上記核微粒子の体積基準の50%累積分布径(D50)が50nm以下で、上記コアシェル固溶体の体積基準の50%累積分布径(D50)が100nm以下であり、前記スズ及びマンガンの全固溶量(M)が、チタンとのモル比(Ti/M)で10〜1,000の固溶体分散液を含むシリコーンハードコート組成物を塗布硬化してシリコーンハードコート層(C層)を形成するポリカーボネート樹脂積層体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
(i)ポリカーボネート樹脂層(A層)
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールA型ポリカーボネートが好適に用いられ、またそれ以外にも、他の二価フェノールを用いて重合された高耐熱性又は低吸水率の各種のポリカーボネート樹脂や、脂肪族ジオールを用いて重合された高耐熱性の各種のポリカーボネート樹脂であってもよい。ポリカーボネート樹脂はいかなる製造方法によって製造されたものでもよく、界面重縮合の場合は通常一価フェノール類の末端停止剤が使用される。ポリカーボネート樹脂は3官能フェノール類を重合させた分岐ポリカーボネート樹脂であってもよく、更に脂肪族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸、又は二価の脂肪族又は脂環族アルコールを共重合させた共重合ポリカーボネートであってもよい。ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は13,000〜40,000の範囲であると、幅広い分野に適用可能となる。粘度平均分子量が20,000未満であると流動性に優れ、車両用樹脂窓の中でも、複雑な形状や大型の樹脂成型品(例えばバックドアウィンドウ)に好適となり、粘度平均分子量が20,000以上であると強度に優れ、車両用樹脂窓全般に好適となる。本発明の好適な用途である車両用樹脂窓においては、目的とする成型品に合わせて分子量の選択が必要である。本発明の樹脂板は厚肉であるため、比較的高い分子量においても成形時の歪みは許容限度内となる。粘度平均分子量の上限は、汎用性の点からより好ましくは35,000、更に好ましくは30,000である。
【0016】
なお、かかる粘度平均分子量はポリカーボネート樹脂全体として満足すればよく、分子量の異なる2種以上の混合物によりかかる範囲を満足するものを含む。特に粘度平均分子量が50,000を超える(より好ましくは80,000以上、更に好ましくは100,000以上の)ポリカーボネートの混合は、溶融時のエントロピー弾性を高くする点で有利な場合がある。例えば、本発明においてはジェッティングの抑制に効果がある。エントロピー弾性の向上による効果は、ポリカーボネートの分子量が高いほど顕著となるが、実用上該分子量の上限は200万、好ましくは30万、より好ましくは20万である。かかるポリカーボネート樹脂を0.5〜20質量%、好ましくは1〜10質量%配合すると、成形性を特に損なうことなく所定の効果が得られる。
【0017】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した溶液から20℃で求めた比粘度(η
sp)を次式に挿入して求めたものである。ポリカーボネート樹脂の詳細については、例えば、特開2002−129003号公報に記載されている。
η
SP/c=[η]+0.45×[η]
2c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10
-4M
0.83
c=0.7
【0018】
他の二価フェノールを用いて重合された、高耐熱性又は低吸水率の各種のポリカーボネート樹脂の具体例としては、下記のものが好適に例示される。
【0019】
(1)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール(以下“BPM”と略称)成分が20〜80モル%(より好適には40〜75モル%、更に好適には45〜65モル%)であり、かつ9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(以下“BCF”と略称)成分が20〜80モル%(より好適には25〜60モル%、更に好適には35〜55モル%)である共重合ポリカーボネート。
【0020】
(2)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、ビスフェノールA成分が10〜95モル%(より好適には50〜90モル%、更に好適には60〜85モル%)であり、かつBCF成分が5〜90モル%(より好適には10〜50モル%、更に好適には15〜40モル%)である共重合ポリカーボネート。
【0021】
(3)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、BPM成分が20〜80モル%(より好適には40〜75モル%、更に好適には45〜65モル%)であり、かつ1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン成分が20〜80モル%(より好適には25〜60モル%、更に好適には35〜55モル%)である共重合ポリカーボネート。
【0022】
(4)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(以下“ビスフェノールC”と略称)成分が40〜90モル%(より好適には50〜80モル%)であり、かつビスフェノールA成分が10〜60モル%(より好適には20〜50モル%)である共重合ポリカーボネート。
【0023】
一方、脂肪族ジオールを用いて重合された、高耐熱性の各種のポリカーボネート樹脂の具体例としては、該ポリカーボネートを構成する脂肪族ジオールがイソソルビド、イソマンニド、イソイディッドであるポリカーボネートが挙げられる。これらのなかでも特に、イソソルビド(1,4;3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトール)は、製造の容易さ、耐熱性に優れることから好ましい。
【0024】
これらの特殊なポリカーボネートは、単独で用いてもよく、2種以上を適宜混合して使用してもよい。また、これらを汎用されているビスフェノールA型のポリカーボネートと混合して使用することもできる。
【0025】
これらの特殊なポリカーボネートの製法及び特性については、例えば、特開平6−172508号公報、特開平8−27370号公報、特開2001−55435号公報及び特開2002−117580号公報等に詳しく記載されている。
【0026】
上記のポリカーボネート樹脂は、上記の透明性を損なわない範囲において、従来公知の各種の添加剤を含有することができる。かかる添加剤としては、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤、離型剤、摺動剤、赤外線吸収剤、光拡散剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、強化充填材、衝撃改質剤、光触媒系防汚剤、及びフォトクロミック剤等が例示される。なお、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤、及び離型剤などは、従来のポリカーボネート樹脂における公知の適正量を配合できる。
【0027】
(ii)熱可塑性樹脂層(B層)
本発明に用いる熱可塑性樹脂は、特に制限はなく、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリジシクロペンタジエン等のアモルファスポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(エチレン−2,6−ナフタレート)等のポリエステル樹脂、ポリスチレン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、フェノール樹脂、尿素樹脂などが挙げられる。中でも優れた透明性を有するポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(エチレン−2,6−ナフタレート)等のポリエステル樹脂、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホンが好ましい。具体的には 三菱レイヨン(株)製「VH001」、「IRG304」、ダイセル・エボニック(株)製「hw55」、アルケマ(株)製「HT121」、クラレ製「パラペットHR−L」、「パラペットGR01240」、「パラペットGR01270」、旭化成ケミカルズ(株)製「PM120N」等の市販品を用いることができる。
【0028】
熱可塑性樹脂層の厚みは、50μm以上200μm以下であることが好ましく、60μm以上180μm以下であることがより好ましい。下限以上では、十分な耐候性と耐擦傷性が得られるため好ましく、上限以下では、熱可塑性樹脂層の吸湿率によって耐環境性が低下し、更には耐衝撃性が低下することもなく、曲げた際に基材にクラックも入りにくくなるため好ましい。
【0029】
本発明に用いる熱可塑性樹脂層は、紫外線吸収性能を有する熱可塑性樹脂組成物を用いて形成される。紫外線吸収性能を持たせるためには、熱可塑性樹脂に有機系紫外線吸収剤又は無機系紫外線吸収剤を添加すること、又は紫外線吸収基を固定化することにより達成できる。有機系紫外線吸収剤は、耐候性向上のため好ましく、なかでも光分解速度が遅く、耐久性に優れているベンゾトリアゾール系又はトリアジン系紫外線吸収剤が好ましい。
中でもトリアジン系紫外線吸収剤がより好ましい。熱可塑性樹脂中に含有する有機系紫外線吸収剤の量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.3〜35.0質量部であることが好ましく、1.0〜25.0質量部であることがより好ましく、2.0〜15.0質量部であることが更に好ましい。
【0030】
無機系紫外線吸収剤は、金属酸化物微粒子が好ましく、なかでも酸化チタン微粒子、酸化セリウム微粒子、及び酸化亜鉛微粒子から選択される少なくとも1種の金属酸化物微粒子が、バンドギャップが比較的小さく、吸収した光エネルギーを、有機樹脂を劣化させないエネルギーに変換するため好ましく、なかでも酸化亜鉛微粒子は塗膜の透明性が高く、更には極性溶剤への分散性に優れているため特に好ましい。
金属酸化物微粒子は、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.1〜16.0質量部含有することが好ましく、1.0〜8.0質量部含有することがより好ましく、更に好ましくは2.0〜6.0質量部含有することが好ましい。下限以上であると、良好な耐候性が得られるため好ましく、上限以下であると、熱可塑性樹脂層とオルガノシロキサン樹脂層の密着性が良好であるためより好ましい。
【0031】
紫外線吸収基を固定化する場合は、紫外線吸収基が熱可塑性樹脂骨格の一部と結合しているものが好ましい。具体的には、紫外線吸収基を有する(メタ)アクリル単量体及び共重合可能な他の(メタ)アクリル単量体を共重合した重合体を挙げることができる。上記紫外線吸収基を有する(メタ)アクリル単量体としては、ベンゾフェノン型、ベンゾトリアゾール型、及びベンゾトリアジン型の単量体が好ましく、なかでもベンゾトリアゾール型単量体がより好ましい。
【0032】
紫外線吸収基を有する(メタ)アクリル単量体の使用量は、共重合組成で1〜40質量%、特に3〜25質量%が好ましい。1質量%未満では、良好な紫外線吸収能が得られず、また40質量%を超えると(メタ)アクリル共重合体のガラス転移温度が低くなり、該表面上のシリコーンハードコート層(C層)でのクラックが発生しやすくなったり、耐湿時での白化を引き起こしたりする場合がある。
【0033】
本発明に用いる熱可塑性樹脂層は、耐衝撃性、曲げ加工性を付与する目的で、(メタ)アクリル系ゴム成分を添加することができる。(メタ)アクリルとはメタクリル又はアクリルを指す。(メタ)アクリル系ゴム成分は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位と多官能性単量体単位を必須成分とした重合体である。
【0034】
該(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、炭素数1〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−t−ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル等が使用でき、特にアルキル基の炭素数が1〜8のものが好ましい。これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
(メタ)アクリル系ゴム成分100質量%中のアクリル酸エステル系単量体単位の含有量としては、75質量%以上が好ましく、85質量%以上が更に好ましく、95質量%以上が特に好ましい。(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位の含有量が上記下限未満であると、得られる(メタ)アクリルゴム系ゴム成分及び熱可塑性樹脂層(B層)の耐候性、耐衝撃性、剛性、外観のいずれかが低下する場合がある。
【0036】
(メタ)アクリル系ゴム成分において、多官能性単量体単位の合計の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位100質量部に対して0.3〜3質量部であり、2質量部以下が好ましく、1.5質量部以下が特に好ましく、一方、0.4質量部以上が好ましく、0.5質量部以上が特に好ましい。多官能性単量体単位含有量が上記上限を超えると、得られる(メタ)アクリル系ゴム成分及び熱可塑性樹脂層(B層)の耐衝撃性が低下する場合があり、上記下限より少ないと、外観が低下する場合がある。
【0037】
該多官能性単量体単位は、複数の不飽和結合を有していればよいが、2個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位と3個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位とを含むことが好ましい。4個以上の不飽和結合を有する多官能性単量体が存在すると、得られる(メタ)アクリル系ゴム成分の外観低下やゲル化が生じる場合がある。
【0038】
多官能性単量体としては、(メタ)アクリル酸アリル、エチレングリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリル酸エステル、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリル酸エステル等のジオールのジ(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸2−プロペニル、ジビニルベンゼン等が挙げられ、中でもアリル基を有する(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸2−プロペニル等が好ましく、得られる樹脂組成物の物性改良効率の点から(メタ)アクリル酸アリルが特に好ましい。
【0039】
また、3個以上の不飽和結合を有する多官能性単量体としては、芳香族環を有するイソシアヌル酸トリアリル、シアヌル酸トリアリル、トリメット酸トリアリル等が挙げられ、中でもトリアジン環を有するイソシアヌル酸トリアリル、シアヌル酸トリアリルが好ましく、重合安定性の点からイソシアヌル酸トリアリルが特に好ましい。
【0040】
これら2個の不飽和結合を有する多官能性単量体、3個の不飽和結合を有する多官能性単量体は、それぞれ、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
また、(メタ)アクリル系ゴム成分には、アクリル酸エステル系単量体と多官能性単量体以外に、必要によりアクリル酸エステル系単量体と共重合可能な他の単量体を用いることができる。
【0042】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体と共重合可能な他の単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル系単量体等が挙げられる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
(メタ)アクリル系ゴム成分は、上記のような単量体混合物を乳化重合することにより製造されることが好ましい。
【0043】
乳化重合で用いる乳化剤としては、制限はないが、乳化重合時のラテックスの安定性に優れ、重合率を高めることができる点から、アニオン系乳化剤が好ましい。乳化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0044】
(メタ)アクリル系ゴム成分の体積平均粒子径は100nm以上が好ましく、200nm以上がより好ましい。体積平均粒子径が上記下限未満では、得られる(メタ)アクリルゴム系微粒子及び熱可塑性樹脂層(B層)の耐衝撃性が低下する場合がある。また、体積平均粒子径の上限は900nm以下が好ましく、600nm以下がより好ましい。体積平均粒子径が上記上限を超えると、得られる(メタ)アクリル系ゴム成分及び熱可塑性樹脂層(B層)の外観が低下する場合がある。
【0045】
更に(メタ)アクリル系ゴム成分は、ビニル系単量体をグラフト重合してもよい。このグラフト重合に用いるビニル系単量体は、不飽和ニトリル系単量体及び芳香族ビニル系単量体、及び必要に応じて他の単量体を含むことが好ましい。
【0046】
不飽和ニトリル系単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
他の単量体は、不飽和ニトリル系単量体及び芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体であり、かつ不飽和ニトリル系単量体及び芳香族ビニル系単量体を除く単量体である。他の単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリルアミド、無水マレイン酸、N−置換マレイミド等が挙げられる。他の単量体についても、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
(メタ)アクリル系ゴム成分にグラフト重合させるビニル系単量体としては、得られる成形品の耐衝撃性が優れる点から、スチレン等の芳香族ビニル系単量体とアクリロニトリル等の不飽和ニトリル系単量体との単量体混合物が好ましく、特にスチレンとアクリロニトリルの混合物が好ましい。
【0050】
(メタ)アクリル系ゴム成分の添加量としては、熱可塑性樹脂の樹脂成分100質量部に対して0〜30質量部であることが好ましく、0.1〜20質量部であることがより好ましい。熱可塑性樹脂中の(メタ)アクリル系ゴム成分の添加量が上限以下であれば、得られる熱可塑性樹脂層(B層)の良好な外観と流動性を保つことができる。
【0051】
なお、熱可塑性樹脂には、必要に応じて他の成分、例えば、有機系染料、無機系染料、顔料、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤などを配合してもよい。
【0052】
(iii)ハードコート層(C層)
本発明に用いるハードコート層は、特定のシリコーンハードコート組成物を塗布硬化してなる。具体的には、シリコーンハードコート組成物は、(c−1)コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液、(c−2)特定のアルコキシシラン及びその部分加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種を(共)加水分解・縮合することにより得られるシリコーンレジン、(c−3)硬化触媒、(c−4)溶剤、及び必要により(c−5)コロイダルシリカを含有し、且つ(c−1)成分のコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液の固形分が、(c−2)成分のシリコーンレジンの固形分に対して、1〜30質量%であるものを用いることが好ましい。
【0053】
(c−1)成分
(c−1)成分は、コバルト、スズ、及びマンガンからなる群の1以上の原子を固溶した正方晶系酸化チタン微粒子を核とし、該核の外側に酸化ケイ素の殻を有するコアシェル型正方晶系酸化チタン微粒子を、水、アルコール、エーテル、エステル、ケトンからなる群の1以上の分散媒中に分散したコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液であって、レーザー光を用いた動的光散乱法で測定した該核微粒子の体積基準の50%累積分布径(D
50)が50nm以下で、該コアシェル型微粒子の体積基準の50%累積分布径(D
50)が100nm以下であり、前記コバルト、スズ、及びマンガン各成分の合計固溶量(M)が、チタンとのモル比(Ti/M)で10〜1,000であるコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液である。
【0054】
なかでも固溶原子としては、スズ及びマンガンが好ましく、その固溶量としては、それぞれチタンとのモル比で、スズ(Ti/Sn)10〜1,000、マンガン(Ti/Mn)10〜1,000が好ましい。より好ましくは、スズ(Ti/Sn)20〜200、マンガン(Ti/Mn)20〜200である。スズ及びマンガンの固溶量が、チタンとのモル比(Ti/Sn)、(Ti/Mn)で10よりも少ないとき、スズ及びマンガンに由来する可視領域の光吸収が顕著となり、一方、1,000を超えると、光触媒活性が充分に失活せず、結晶系も可視吸収能の小さいアナターゼ型となるため好ましくない。
【0055】
コバルト、スズ、及びマンガンの固溶様式は、置換型であっても侵入型であってもよい。ここでいう、置換型とは、酸化チタンのチタン(IV)イオンのサイトに固溶原子が置換されて形成される固溶様式のことであり、侵入型とは、酸化チタンの結晶格子間に固溶原子が存在することにより形成される固溶様式のことである。侵入型では、着色の原因となるF中心が形成されやすく、また金属イオン周囲の対称性が悪いため金属イオンにおける振電遷移のフランク−コンドン因子も増大し、可視光を吸収し易くなる。そのため、置換型であることが好ましい。
【0056】
コバルト、スズ、及びマンガンを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子の核の外側に形成される酸化ケイ素の殻は、酸化ケイ素を主成分とし、ジルコニウム、スズ、アルミニウム等その他の成分を含有していてもよく、どのような手法で形成させたものであってもよい。例えば、該酸化ケイ素の殻は、テトラアルコキシシランの加水分解縮合によって形成することができる。テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトラ(i−プロポキシ)シラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン等の通常入手可能なものを用いればよいが、反応性と安全性の観点からテトラエトキシシランを用いることが好ましい。このようなものとして、例えば、市販の「KBE−04」(信越化学工業(株)製)を用いることができる。また、テトラアルコキシシランの加水分解縮合は、水中で行えばよく、アンモニア、アルミニウム塩、有機アルミニウム、スズ塩、有機スズ等の縮合触媒を適宜用いればよいが、アンモニアは該核微粒子の分散剤としての作用も兼ね備えているため、特に好ましい。
【0057】
コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体において、レーザー光を用いた動的光散乱法で測定したコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体の体積基準の50%累積分布径(D
50)は100nm以下であり、より好ましくは50nm以下である。上記核微粒子及びコアシェル型固溶体のD
50値が上記上限値を超えるとき、分散液が不透明であるため好ましくない。なお、このような体積基準の50%累積分布径(D
50、以下、「平均粒子径」ということがある。)を測定する装置としては、例えば、ナノトラックUPA−EX150(日機装(株)製)、LA−910(堀場製作所(株)製)等を挙げることができる。
【0058】
コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体を分散する分散媒としては、水、アルコール、エーテル、エステル、ケトンからなる群の1以上の分散媒が挙げられる。中でも水、アルコール、及びそれらの混合溶媒が好ましい。水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、蒸留水、純水等が好ましい。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコールが好ましい。中でも、生産性、コスト等の点から脱イオン水、純水が最も好ましい。
【0059】
コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体と分散媒とから形成されるコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液において、上記コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体の濃度は、0.1〜30質量%、より好ましくは5〜15質量%である。なお、この分散媒中には、コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体の製造過程において使用された塩基性物質(分散剤)等を含んでいることを許容する。特に、塩基性物質は、pH調整剤、分散剤としての性質を兼ね備えているので、上記分散媒と共に適当な濃度の水溶液にして用いてもよい。但し、コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液には、塩基性物質以外の分散剤、例えば、高分子分散剤を含有していないことが好ましい。これは、上記塩基性物質を含有させておくことによって、従来、酸化チタン微粒子の分散剤として使用せざるを得なかった高分子分散剤を敢えて使用する必要がなくなり、従って、該高分子分散剤を含む酸化チタン微粒子分散剤をハードコート組成物に適用した際生じていた塗膜(硬化膜)の耐擦傷性及び基材との密着性に係る阻害を回避できるためである。
【0060】
このようなコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液における塩基性物質(分散剤)としては、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物、リン酸化合物、リン酸水素化合物、炭酸化合物及び炭酸水素化合物などである。
【0061】
このような構成のコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液は高い透明性を有し、例えば、1質量%濃度のコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液が満たされた光路長1mmの石英セルを通過する550nmの波長の光の透過率が通常80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上である。なお、このような透過率は、紫外可視透過スペクトルを測定することによって、容易に求めることができる。
【0062】
このようなコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液(c−1)成分は、メチレンブルーを添加してブラックライト照射後も褪色が認められず、光触媒活性が封鎖されているものである。
【0063】
メチレンブルーの褪色試験は、0.5質量%のコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液にメチレンブルーが0.01mmol/Lとなるように添加したものを、硼珪酸ガラス瓶に入れて、ブラックライト(紫外線照射強度:0.5mW/cm
2)を24時間照射した後の比色によって行うことができ、653nmにおける吸光度の減少率によって確認することができる。この褪色試験後の吸光度の減少率は10%以内が好ましい。10%を超えると、耐候性試験において、シリコーンハードコート組成物から形成される硬化膜(C層)表面が光触媒活性により一部分解、硬化収縮を引き起こし、その結果クラックが早期に発生しやすくなる。
【0064】
(c−1)成分のコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液の固形分が、後述する(c−2)成分のシリコーンレジンの固形分に対して、1〜30質量%、好ましくは3〜20質量%、より好ましくは5〜15質量%であるように配合される。これは、1質量%未満では、組成物に紫外線遮蔽能を付与するには不十分であり、30質量%超過では、組成物から形成された塗膜が硬化収縮を起こしやすくなり、クラックの原因となるため、好ましくないからである。
【0065】
上述した構成を有するコバルト、スズ、及びマンガンからなる群の1以上の原子を固溶したコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液の製造方法は、次の工程(A)〜(D)からなる。
【0066】
・工程(A)
この工程では、先ず、コバルト、スズ、及びマンガンからなる群の1以上の原子が正方晶系酸化チタンに固溶している正方晶系酸化チタン固溶体微粒子の水分散体を用意する。この水分散体を得る方法は、特に限定されないが、原料となるチタン化合物、コバルト化合物、スズ化合物、マンガン化合物、塩基性物質及び過酸化水素を水性分散媒中で反応させて、一旦、コバルト、スズ、及びマンガンからなる群の1以上の原子を含有したペルオキソチタン酸溶液を得た後、これを水熱処理してコバルト、スズ、及びマンガンからなる群の1以上の原子を含有した正方晶系酸化チタン微粒子分散液を得る方法が好ましい。
【0067】
前段のコバルト、スズ、及びマンガンからなる群の1以上の原子を含有したペルオキソチタン酸溶液を得るまでの反応は、水性分散媒中の原料チタン化合物に塩基性物質を添加して水酸化チタンとし、含有する不純物イオンを除去し、過酸化水素を添加してペルオキソチタン酸とした後にコバルト化合物、スズ化合物、及び/又はマンガン化合物を添加して、コバルト、スズ、及びマンガンからなる群の1以上の原子を含有したペルオキソチタン酸溶液とする方法でも、水性分散媒中の原料チタン化合物にコバルト化合物、スズ化合物及びマンガン化合物を添加した後に塩基性物質を添加してコバルト、スズ、及びマンガンからなる群の1以上の原子を含有した水酸化チタンとし、含有する不純物イオンを除去し、過酸化水素を添加してコバルト、スズ、及びマンガンからなる群の1以上の原子を含有したペルオキソチタン酸溶液とする方法でもよい。
【0068】
ここで、原料のチタン化合物としては、例えば、チタンの塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の無機酸塩、蟻酸、クエン酸、蓚酸、乳酸、グリコール酸等の有機酸塩、これらの水溶液にアルカリを添加して加水分解することにより析出させた水酸化チタン等が挙げられ、これらの1種又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0069】
過酸化水素は、上記原料チタン化合物又は水酸化チタンをペルオキソチタン、つまりTi−O−O−Ti結合を含む酸化チタン系化合物に変換させるためのものであり、通常、過酸化水素水の形態で使用される。過酸化水素の添加量は、Ti、Co、Sn、及びMnの合計モル数の1.5〜5倍モルとすることが好ましい。また、この過酸化水素を添加して原料チタン化合物又は水酸化チタンをペルオキソチタン酸にする反応における反応温度は、5〜60℃とすることが好ましく、反応時間は、30分〜24時間とすることが好ましい。
【0070】
こうして得られるペルオキソチタン酸溶液は、pH調整等のため、塩基性物質又は酸性物質を含んでいてもよい。ここでいう、塩基性物質としては、例えば、前述のアンモニア等が挙げられ、酸性物質としては、例えば、前述の硫酸、硝酸、塩酸、炭酸、リン酸、過酸化水素等の無機酸及び蟻酸、クエン酸、蓚酸、乳酸、グリコール酸等の有機酸が挙げられる。この場合、得られたペルオキソチタン酸溶液のpHは1〜7、特に4〜7であることが取り扱いの安全性の点で好ましい。
【0071】
次いで、後段のコバルト、スズ、及びマンガンからなる群の1以上の原子を固溶した正方晶系酸化チタン微粒子分散液を得るまでの反応は、上記ペルオキソチタン酸溶液を、圧力0.01〜4.5MPa、好ましくは0.15〜4.5MPa、温度80〜250℃、好ましくは120〜250℃、反応時間1分〜24時間の条件下での水熱反応に供される。その結果、ペルオキソチタン酸は、コバルト、スズ、及びマンガンからなる群の1以上の原子を固溶した正方晶系酸化チタン微粒子に変換されていく。
【0072】
本発明においては、こうして得られるコバルト、スズ、及びマンガンからなる群の1以上の原子を固溶した正方晶系酸化チタン微粒子分散液に、一価アルコール、アンモニア、及びテトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシランを配合する。
【0073】
一価アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、及びこれらの任意の混合物が使用され、特に好ましくはエタノールが使用される。このような一価アルコールの配合量は、上記酸化チタン微粒子分散液100質量部に対して、100質量部以下、好ましくは50質量部以下で使用される。特に、一価アルコールの配合量を変えることによって、次工程において、固溶化した正方晶系酸化チタン微粒子からなる核の外側に形成する酸化ケイ素の殻の厚さを制御することが可能になる。一般に、一価アルコールの配合量を増やせば、テトラアルコキシシラン等のケイ素反応剤の反応系への溶解度が増大する一方で酸化チタンの分散状態には悪影響を与えないので、該殻の厚さは厚くなる。即ち、次工程において得られるコバルト、スズ、及びマンガンからなる群の1以上の原子を固溶したコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液は、製造工程中で粉砕や分級等の機械的単位操作を経ていないにもかかわらず、上記特定の累積粒度分布径の範囲にすることができ、可視部における透明性を付与し得る。
【0074】
アンモニアは、アンモニア水であり、固溶化した正方晶系酸化チタン微粒子分散液中にアンモニアガスを吹き込むことによってアンモニア水の添加に代えてもよく、更に該分散液中でアンモニアを発生し得る反応剤を加えることによってアンモニア水の添加に代えてもよい。アンモニア水の濃度は、特に限定されるものではなく、市販のどのようなアンモニア水を用いてもよい。本発明の工程においては、例えば、28質量%の濃アンモニア水を用いて、固溶化した正方晶系酸化チタン微粒子分散液のpHを9〜12、より好ましくは9.5〜11.5となる量までアンモニア水を添加することが好ましい。
【0075】
テトラアルコキシシランとしては、上述したものを用いることができるが、テトラエトキシシランが好ましい。テトラエトキシシランには、それ自体の他、テトラエトキシシランの(部分)加水分解物も用いることができる。このようなテトラエトキシシラン又はテトラエトキシシランの(部分)加水分解物としては、市販のどのようなものでもよく、例えば、商品名「KBE−04」(テトラエトキシシラン:信越化学工業(株)製)、商品名「シリケート35」,「シリケート45」(テトラエトキシシランの部分加水分解縮合物:多摩化学工業(株)製)、商品名「ESI40」,「ESI48」(テトラエトキシシランの部分加水分解縮合物:コルコート(株)製)等を使用してもよい。これらのテトラエトキシシラン等は、1種を用いても、複数種を用いてもよい。
【0076】
テトラアルコキシシランの配合量は、加水分解後の酸化ケイ素を含有する酸化チタンに対して20〜50質量%、好ましくは25〜45質量%、より好ましくは30〜40質量%となるように用いる。20質量%よりも少ないとき、殻の形成が不十分となり、50質量%よりも多いとき、該粒子の凝集を促進し、分散液が不透明となることがあるため好ましくない。
【0077】
固溶化した正方晶系酸化チタン微粒子分散液に、一価アルコール、アンモニア、及びテトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシランを加えて混合する方法は、どのような方法で実施してもよく、例えば、磁気撹拌、機械撹拌、震盪撹拌等を用いることができる。
【0078】
・工程(B)
ここでは、上記(A)の工程で得られた混合物を急速加熱することにより、固溶化した正方晶系酸化チタン微粒子を核とし、該核の外側に酸化ケイ素の殻を有するコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体の微粒子を形成させる。
【0079】
工程(A)で得られた混合物を急速加熱する方法は、既存のどのようなものであってもよく、マイクロ波による加熱、高い熱交換効率を達成できるマイクロリアクター、及び大きな熱容量を持った外部熱源との熱交換等を用いることができる。特に、マイクロ波を用いた加熱方法は、均一且つ急速に加熱することができるため好ましい。なお、マイクロ波を照射して加熱する工程は、回分工程であっても連続工程であってもよい。
【0080】
急速加熱法は、室温から分散媒の沸点直下(通常、10〜80℃程度)に達するまでの時間が10分以内であることが好ましい。これは、10分を超える加熱方法のとき、該粒子が凝集することとなり、好ましくないからである。
【0081】
このような急速加熱法にマイクロ波加熱を用いるときは、例えば、その周波数が300MHz〜3THzの電磁波の中から適宜選択することができる。日本国内においては、電波法によって、通常使用可能なマイクロ波周波数帯域が、2.45GHz、5.8GHz、24GHz等に決められているが、なかでも2.45GHzは、民生用にも多く使用されており、この周波数の発振用マグネトロンは設備価格上有利である。しかしながら、この基準は特定の国や地域の法律や経済状況に依存したものであり、技術的には周波数を限定するものではない。マイクロ波の出力は100W〜24kW、好ましくは100W〜20kWの定格を有する限り、市販のどのような装置を用いてもよい。例えば、μReactorEx(四国計測工業(株)製)、Advancer(バイオタージ(株)製)等を用いることができる。
【0082】
マイクロ波加熱のとき、加熱に要する時間を10分以内とするためには、マイクロ波の出力を調節するか、回分反応の場合は反応液量を、連続反応の場合は反応流量を適宜調節して行うことができる。
【0083】
・工程(C)
ここでは、上記(B)の工程で得られたコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液から水を除去して濃縮する。
濃縮方法は、既存のどのような方法でもよく、例えば、常圧濃縮、減圧濃縮、共沸脱水、限外ろ過、逆浸透、凍結乾燥等が用いられるが、濃縮時に高温であれば分散液が乾固しやすく、また低温であれば分散液が凍結するおそれがある。無機微粒子分散液では、状態変化が必ずしも可逆的ではなく、状態変化や溶媒との接触は、分散液の変質につながることがある。この点から、常圧濃縮、減圧濃縮、及び限外ろ過から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、特には、温和な条件である点から、50mmHg以下の圧力下での減圧濃縮が好ましい。
【0084】
この工程では、コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液中のコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体(固形分)の濃度を、5〜20質量%、好ましくは8〜17質量%、より好ましくは10〜15質量%となるように濃縮する。5質量%よりも少ないとき、水の量が多くなりすぎ、組成物としてのバランスが取れないため不適であり、20質量%よりも多いとき、分散液の安定性が悪化し経時とともにゲル化する可能性があるため好ましくない。
【0085】
・工程(D)
ここでは、上記(C)工程で得られたコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液から、更にアンモニアを除去する。
アンモニアを除去する方法は、既存のどのような方法でもよく、例えば、イオン交換、吸着等が用いられ、特に、陽イオン交換樹脂によるアンモニアの除去が好ましい。
【0086】
陽イオン交換樹脂は、市販のどのようなものを用いてもよく、例えば、アンバーライトIR120B(オルガノ(株)製)、アンバーライト200CT(オルガノ(株)製)、アンバーライトIR124(オルガノ(株)製)、アンバーライトFPC3500(オルガノ(株)製)、アンバーライトIRC76(オルガノ(株)製)、ダイヤイオンSK104(三菱化学(株)製)、ダイヤイオンPK208(三菱化学(株)製)等を用いることができる。
【0087】
アンモニアを除去する工程において用いられた陽イオン交換樹脂は、ろ過によって除去される。ろ過は、イオン交換樹脂とコアシェル分散液を分離する目的を達成すれば充分である。ろ過は、通常、機械的単位操作の中では分級操作として扱われるが、この場合のろ過は、コアシェル粒子の分級には関与しない。従って、各種メッシュや定性ろ紙等、目が粗く効率的にコアシェル分散液を通過させるものであれば、どのようなものを用いてもよい。
【0088】
この工程では、コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液中のアンモニアの濃度を、0.1質量%以下、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下となるように除去する。0.1質量%よりも多いとき、組成物中においてシリコーンの縮合触媒としての作用が顕著となり、結果としてシリコーンハードコート塗膜にクラックを引き起こすため好ましくない。
【0089】
(c−2)成分
(c−2)成分は、下記一般式(1):
(R
1)
m(R
2)
nSi(OR
3)
4-m-n (1)
(式中、R
1及びR
2は、各々独立に、水素原子、又は置換もしくは非置換の一価炭化水素基であり、R
3は、炭素数1〜3のアルキル基であり、m,nは、各々独立に、0又は1であり、且つm+nは、0,1又は2である。)で表されるアルコキシシラン及びその部分加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種を(共)加水分解・縮合することにより得られるシリコーンレジンである。
【0090】
上記式(1)中、R
1及びR
2は、水素原子又は置換もしくは非置換の好ましくは炭素数1〜12、特に1〜8の一価炭化水素基であり、例えば、水素原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基等のアリール基;クロロメチル基、γ−クロロプロピル基、3,3’,3’’−トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換炭化水素基;γ−メタクリロキシプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基、γ−メルカプトプロピル基、γ−アミノプロピル基等の(メタ)アクリロキシ、エポキシ、メルカプト、アミノ基置換炭化水素基などを例示することができる。これらの中でも、特に耐擦傷性や耐候性が要求される用途に使用する場合にはアルキル基が好ましく、靭性や染色性が要求される場合にはエポキシ、(メタ)アクリロキシ置換炭化水素基が好ましい。
【0091】
また、R
3は、炭素数1〜3のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基を例示することができる。これらの中でも、加水分解縮合の反応性が高いこと、及び生成するアルコールR
3OHの蒸気圧が高く、留去のし易さなどを考慮すると、メチル基、エチル基が好ましい。
【0092】
(c−2)成分のシリコーンレジンを製造するに際しては、一般式(1)のアルコキシシラン及びその部分加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種を公知の方法で(共)加水分解・縮合させればよい。例えば、アルコキシシランもしくはその部分加水分解縮合物の単独又は混合物を、pHが1〜7.5、好ましくは2〜7の水で(共)加水分解させる。この際、水中にシリカゾル等の金属酸化物微粒子が分散されたものを使用してもよい。このpH領域に調整するため及び加水分解を促進するために、フッ化水素、塩酸、硝酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、クエン酸、マレイン酸、安息香酸、マロン酸、グルタール酸、グリコール酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸等の有機酸及び無機酸、もしくは表面にカルボン酸基やスルホン酸基を有する陽イオン交換樹脂等の固体酸触媒、あるいは酸性の水分散シリカゾル等の水分散金属酸化物微粒子を触媒に用いてもよい。また、加水分解時にシリカゾル等の金属酸化物微粒子を水もしくは有機溶剤中に分散させたものを共存させてもよい。更に、前述した(c−1)成分共存下にて、水、酸性の加水分解触媒、及びアルコキシシランを混合することによって、加水分解・縮合反応をさせてもよい。この場合、(c−1)成分と(c−2)及び/又は(c−2)の加水分解縮合物が一部反応する可能性があるが、それにより(c−1)成分の分散性が向上するためより好ましい。即ち、反応工程中で(c−1)を添加することによって、結果的に(c−1)がバインダー成分自身によって表面処理される形となり、分散性がより向上する。従来の技術で用いられてきた無機粒子に対するシリコーン被覆では、無機粒子の一時的な分散安定性は確保できても、保存安定性が不十分な場合がある。これは、被覆に用いられたシリコーンとバインダーに用いられるシリコーンは、組成(一次構造)が違うこともあり、また組成が同一であっても縮合度や分子量分布など、厳密な意味(二次構造)において同一のシリコーンではないことが普通であるからである。それに対し、バインダー樹脂自身によって表面処理されれば、二次構造においても同一であるため、相溶性が向上するため、分散性も向上する。
【0093】
この加水分解において、水の使用量はアルコキシシラン及び/又はその部分加水分解縮合物の合計100質量部に対して水20質量部〜3,000質量部の範囲であればよいが、過剰の水の使用は、装置効率の低下ばかりでなく、最終的な組成物とした場合、残存する水の影響による塗工性、乾燥性の低下をも引き起こすおそれがある。
【0094】
加水分解は、アルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物中に、水を滴下又は投入したり、逆に水中にアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物を、滴下又は投入したりしてもよい。この場合、有機溶剤を含有してもよい。
【0095】
(c−2)成分のシリコーンレジンを得るには、前記の加水分解に続いて、縮合させることが必要である。縮合は、加水分解に続いて連続的に行えばよく、通常、液温が常温又は100℃以下の加熱下で行われる。100℃より高い温度ではゲル化する場合がある。更に80℃以上、常圧又は減圧下にて、加水分解で生成したアルコールを留去することにより、縮合を促進させることができる。更に、縮合を促進させる目的で、塩基性化合物、酸性化合物、金属キレート化合物等の縮合触媒を添加してもよい。縮合工程の前又は最中に、縮合の進行度及び濃度を調整する目的で有機溶剤を添加してもよく、またシリカゾル等の金属酸化物微粒子を水もしくは有機溶剤中に分散させたものや、(c−1)成分を添加してもよい。一般的にシリコーンレジンは縮合が進行すると共に、高分子量化し、水や生成アルコールへの溶解性が低下していくため、添加する有機溶剤としては、シリコーンレジンをよく溶解し、沸点が80℃以上の比較的極性の高い有機溶剤が好ましい。このような有機溶剤の具体例としてはイソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン類;ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル類;酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸シクロヘキシル等のエステル類などを挙げることができる。この場合、有機溶剤の配合量は、シリコーンレジンを溶解するのに十分な量であればよいが、シリコーンレジンの固形分に対して100〜1,000質量%の範囲となることが多い。この際に、有機溶剤の配合量が100質量%未満であると、低温保存時に相分離する可能性があるので品質上好ましくなく、また1,000質量%超過であると、塗料組成物中における有効成分であるレジン濃度が薄くなり、良好な被膜が形成しにくくなるため好ましくない。
【0096】
なお、上記式(1)のアルコキシシラン及び/又はその部分加水分解縮合物を(共)加水分解縮合して(c−2)成分のシリコーンレジンを得る際に、上記(c−1)成分のコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液をアルコキシシラン及び/又はその部分加水分解縮合物に加えて(共)加水分解縮合してもよく、また、後述する(c−5)成分のコロイダルシリカを用いる場合、このコロイダルシリカを(共)加水分解縮合系に添加してもよい。
【0097】
(c−3)成分
(c−3)成分は、(c−2)成分のシリコーンレジン中に含まれる、シラノール基、アルコキシ基等の縮合可能な基が縮合する反応を促進する硬化触媒であり、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、テトラメチルアンモニウムアセテート、n−ヘキシルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジシアンジアミド等の塩基性化合物類;テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、チタンアセチルアセトナート、アルミニウムトリイソブトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジイソプロポキシ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、塩化アルミニウム、コバルトオクチレート、コバルトアセチルアセトナート、鉄アセチルアセトナート、スズアセチルアセトナート、ジブチルスズオクチレート、ジブチルスズラウレート等の含金属化合物類;p−トルエンスルホン酸、トリクロル酢酸等の酸性化合物類などが挙げられる。この中で特にプロピオン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジイソプロポキシ(エチルアセトアセテート)アルミニウムが好ましい。
【0098】
(c−3)成分の配合量は、(c−2)成分のシリコーンレジンを硬化させるのに有効な量であればよく、特に限定されるものではないが、具体的には、シリコーンレジンの固形分に対し、0.0001〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは0.001〜10質量%である。0.0001質量%未満であると硬化が不十分となり、硬度が低下する場合があり、30質量%より多いと塗膜にクラックが発生しやすくなる場合や、耐水性が低下する場合がある。
【0099】
(c−4)成分
(c−4)成分は、溶剤であり、上記(c−1)〜(c−3)成分を溶解する又は分散するものであれば特に限定されるものではないが、極性の高い有機溶剤が主溶剤であることが好ましい。有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン類;ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸シクロヘキシル等のエステル類などを挙げることができ、これらからなる群より選ばれた1種もしくは2種以上の混合物を使用することができる。
【0100】
(c−4)成分の添加量としては、シリコーンハードコート組成物の固形分濃度を1〜30質量%、特に5〜25質量%とする量を用いることが好ましい。この範囲外では該組成物を塗布、硬化した塗膜に不具合が生じることがある。例えば、上記範囲未満の濃度では、塗膜にタレ、ヨリ、マダラが発生し易くなり、所望の硬度、耐擦傷性が得られない場合があり、一方、上記範囲を超える濃度では、塗膜のブラッシング、白化、クラックが生じ易くなるおそれがある。
【0101】
(c−5)成分
(c−5)成分は、コロイダルシリカであり、塗膜の硬度、耐擦傷性を特に高めたい場合、適量添加することができる。粒子径5〜50nm程度のナノサイズのシリカが水や有機溶剤の媒体にコロイド分散している形態であり、市販されている水分散、有機分散タイプが使用可能である。具体的には、日産化学工業(株)製スノーテックス−O、OS、OL、メタノールシリカゾル等が挙げられる。コロイダルシリカの添加量は、(
c−2)成分のシリコーンレジン固形分100質量部に対し、0〜100質量部、好ましくは5〜100質量部、特に5〜50質量部がよい。
【0102】
その他の成分
シリコーンハードコート組成物には、必要に応じて、pH調整剤、レベリング剤、増粘剤、顔料、染料、金属酸化物微粒子、金属粉、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、熱線反射・吸収性付与剤、可撓性付与剤、帯電防止剤、防汚性付与剤、撥水性付与剤等を本発明の目的や効果に悪影響を与えない範囲内で添加することができる。
【0103】
シリコーンハードコート組成物は、上記各成分(c−1)〜(c−5)及び必要により他の成分を常法に準じて混合することにより得ることができる。
【0104】
シリコーンハードコート組成物の塗布方法としては、通常の塗布方法を用いることができ、例えば、刷毛塗り、スプレー、浸漬、フローコート、ロールコート、カーテンコート、スピンコート、ナイフコート等の各種塗布方法を選択することができる。
【0105】
シリコーンハードコート組成物を塗布した後の硬化は、空気中に放置して風乾させてもよいし、加熱してもよい。硬化温度、硬化時間は限定されるものではないが、基材の耐熱温度以下で10分〜2時間加熱するのが好ましい。具体的には80〜135℃で30分〜2時間加熱するのがより好ましい。
【0106】
なお、ハードコート層(C層)の厚さは、0.5〜30μm、好ましくは1〜25μm、特に1.5〜20μmがよい。0.5μm未満であると良好な耐擦傷性が得られず、また、30μmを超えるとクラックの発生や耐曲げ性の低下が生じる場合がある。
【0107】
(iv)A層及びB層の積層方法
ポリカーボネート樹脂層(A層)表面に熱可塑性樹脂層(B層)を積層するにはコーティングではなく、成形による方法を用いればよく、特に熱圧着法、インサートモールド成形法又は共押出法で行うことが好ましく、共押出法がより好ましい。積層体製造工程の具体例を以下に記す。
【0108】
熱圧着法としては任意の方法が採用されるが、例えばアクリル樹脂フィルムとポリカーボネート樹脂層をラミネート機やプレス機で熱圧着する方法、押出し直後のポリカーボネート樹脂層にアクリル樹脂フィルムを熱圧着する方法が好ましく、特に押出し直後のポリカーボネート樹脂層に連続して熱圧着する方法が工業的に有利である。この場合の熱圧着条件は、ポリカーボネート樹脂層やアクリル樹脂フィルムの厚さ、圧着面の状態等により異なり、一概に特定できないが、アクリル樹脂フィルムのガラス転移点近傍又はそれ以上の温度、通常アクリル樹脂フィルムのガラス転移点−10℃〜ガラス転移点+150℃、好ましくはガラス転移点−5℃〜ガラス転移点+100℃で0.05kg/cm以上、好ましくは1〜10kg/cm程度の線圧を加えることにより熱圧着できる。
【0109】
インサートモールド成形法としては任意の方法が採用されるが、例えば、熱可塑性樹脂フィルムを、射出成形の雌雄金型間に挿入し、その金型の一方の側から溶融樹脂を射出して、射出成形体を形成すると同時にその成形体に上記のフィルムを貼合する方法や、熱可塑性樹脂フィルムを、真空成形や圧空成形等により予備賦形してから射出成形金型内に挿入し、そこに溶融樹脂を射出して、熱可塑性樹脂フィルムと一体成型する方法がある。例えば、特開昭59−31130号公報、特開昭62−196113号公報、特開平7−9484号公報等にて提案されている。
【0110】
共押出法は、積層板の製造に用いられる押出装置としては、一般に基板層を構成するポリカーボネート樹脂を押し出す一つのメイン押出機と、被覆層を構成する熱可塑性樹脂を押し出す1又2以上のサブ押出機により構成され、通常サブ押出機はメイン押出機より小型のものが採用される。熱可塑性樹脂の種類により、サブ押出機の温度は適宜設定する。熱可塑性樹脂がアクリル樹脂の場合、メイン押出機の温度条件は、通常230〜290℃、好ましくは240〜280℃であり、またサブ押出機の温度条件は通常220〜270℃、好ましくは230〜260℃である。2種以上の溶融樹脂を被覆する方法としては、フィードブロック方式、マルチマニホールド方式などの公知の方法を用いることができる。この場合、フィードブロックで積層された溶融樹脂はTダイなどのシート成形ダイに導かれ、シート状に成形された後、表面を鏡面処理された成形ロール(ポリッシングロール)に流入して、バンクを形成する。このシート状成型物は、成形ロール通過中に鏡面仕上げと冷却が行われ、積層板が形成される。また、マルチマニホールドダイの場合は、該ダイ内で積層された溶融樹脂は同様にダイ内部でシート状に成形された後、成形ロールにて表面仕上げ及び冷却が行われ、積層板が形成される。ダイの温度としては、通常220〜280℃、好ましくは230〜270℃であり、成形ロール温度としては、通常100〜190℃、好ましくは110〜180℃である。ロールは縦型ロール又は、横型ロールを適宜使用することができる。
【0111】
共押出しにより得られたポリカーボネート樹脂層(A層)と熱可塑性樹脂層(B層)との積層体の厚みは、0.5mm〜20.0mmであり、1.0mm〜15.0mmがより好ましく、1.5mm〜10.0mmが特に好ましい。下限以上では、外部からの負荷に対する撓みが小さくなり屋外用途として好ましく、上限以下では、薄肉化や軽量化を阻害せず、外部を歪みなく見ることができるため好ましい。
【0112】
(v)その他の工程
本発明のポリカーボネート樹脂積層体は上記の工程以外に印刷層を有していてもよい。かかる印刷層はグレージングにおいては周縁部に形成され、周縁部に形成される接着剤や構造部材の目隠し機能を有する。また建材用途などにおいては意匠、デザインの機能を有する。印刷層は、A層又はB層において、いずれか1面又は両面に形成されても構わない。印刷層をインキ塗工で形成する場合、かかる形成方法としては、各種の印刷方法、スプレー塗装、及び刷毛塗りなどの各種の方法が適用できる。印刷方法は特に限定されず、従来公知の方法で、平板のもしくは湾曲したシート表面に印刷できる。例えば、スプレー印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、及びインクジェット印刷などの方法が例示され、これらの中でもスクリーン印刷が最も好ましく適用できる。
【0113】
また、本発明のポリカーボネート樹脂積層体は以上の工程以外にトリム、穿孔、及び周辺部材の取り付けなどを行い、樹脂グレージングとしての最終部品又は最終製品とすることができる。かかる周辺部材としては、枠、ピン、ネジ、ファスナー、緩衝材、シール材、ヒンジ、及びロック機構などが例示される。かかる周辺部材は、接着、粘着、ネジ止め、溶着、嵌め合い、超音波溶着、及びレーザー溶接などの固定化手段を用いて取り付けられる。
【0114】
(vi)構造部材への取り付け
本発明のポリカーボネート樹脂積層体は、上述の周辺部材の取り付けと同様に、各種の固定化手段を用いて車体の如き最終製品に取り付けることができる。グレージングの場合かかる取り付けにおいては、接着が最も好適な手段として適用される。かかる接着方法には、硬質接着剤、半硬質接着剤、及び弾性接着剤のいずれも利用できるが、本発明では構造接着剤として優れている弾性接着剤が好ましく、特にウレタン系弾性接着剤が、そのシーリング性能、強度及びコストなどの点から好ましい。かかる接着層の形成は、ポリカーボネート樹脂層上、紫外線吸収性能を有する熱可塑性樹脂層上、印刷層上、及びハードコート層上のいずれに形成されてもよい。更に、一旦積層された層を各種化学処理、ブラスト、研磨、及び切削などの方法により除去し、接着層を形成してもよい。印刷層の形成においては版を埋めて印刷しないことにより、またハードコート層の形成では主としてマスキングを施すことにより、接着層を設ける部位の表面層を所定の層にすることができる。
【0115】
好適な固定化手段であるウレタン系弾性接着剤を適用するに当たり、その接着性を向上させるため、予め接着用プライマーを塗工して、ウレタン接着剤の塗工を行うことが好ましい。かかるウレタン接着剤用プライマーは、基材層及び印刷層上においては、ポリイソシアネート化合物を主成分とするものが好ましく、通常、市販品においてボディ用プライマー又は塗膜用プライマーと称されるものが好適に利用できる。一方、ハードコート層上においては、ポリイソシアネート化合物とシラン化合物とを主成分とするものが好ましく、通常、ガラス用プライマーと称されるものが好適に利用できる。
【0116】
ウレタン接着剤用プライマーは、かかる反応活性を有する主成分の他に、概して溶剤、充填剤、触媒、乾燥剤、樹脂成分、及び任意に他の化合物が配合されてなる。
【0117】
樹脂基材層及び印刷インキ層上に適用するプライマーにおいては、かかるポリイソシアネート化合物は、芳香環を含有するポリイソシアネートを主成分とすることが好ましい。かかるポリイソシアネート化合物は反応性に優れる。より好適には、MDI、TDI、トリフェニルメタン−4,4,4−トリイソシアネート、及びトリス(p−イソシアネートフェニル)チオホスフェートからなる群から選択される少なくとも1種のポリイソシアネート化合物を、接着用プライマー中のポリイソシアネート化合物100モル%中、好ましくは50モル%以上、より好ましくは55〜90モル%とする。他のポリイソシアネート化合物には、脂肪族ポリイソシアネート化合物、及び脂環式ポリイソシアネート化合物などが利用できる。かかる化合物としては、TDIとHDIとのイソシアヌレート変性体、HDIとトリメチルロールプロパンとのアダクト変性体、HDIのイソシアヌレート変性体、及びIPDIのイソシアヌレート変性体が例示され、中でもTDIとHDIとのイソシアヌレート変性体が反応性の調整が容易なため好適である。樹脂基材層及び印刷インキ層上に適用するプライマーは、好適には、MDI、トリス(p−イソシアネートフェニル)チオホスフェート、及びTDIとHDIとのイソシアヌレート変性体からなる組合せが挙げられ、特にトリス(p−イソシアネートフェニル)チオホスフェートをかかる3者の合計100モル%中、50〜70モル%の範囲とすることが好ましい。
【0118】
ハードコート層上に適用するプライマーにおいては、好適には、シランカップリング剤、並びにシラン化合物とポリイソシアネート化合物との反応生成物が主成分として利用される。シランカップリング剤としては、従来公知の各種の剤が利用できるが、殊にγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの如きエポキシ基含有シランカップリング剤、及びN−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランの如きアミノ基含有シランカップリング剤が併用されることが好ましい。更に必要に応じてビニルトリメトキシシランの如きビニル基含有シランカップリング剤が使用されることも好ましい。シラン化合物とポリイソシアネート化合物との反応生成物としては、上記各種のポリイソシアネート化合物と、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランの如きメルカプト基含有アルコキシシラン化合物との反応生成物が利用できる。かかるポリイソシアネート化合物には、HDIに代表される脂肪族ポリイソシアネート化合物、IPDIに代表される脂環式ポリイソシアネート化合物、並びにこれらのアダクト変性体、イソシアヌレート変性体、及びビウレット変性体が含まれる。
【0119】
接着用プライマー層は、各種のアプリケータを用いてプライマー組成物を塗工し、通常常温にて乾燥させて形成される。塗工方法としては、例えば、ハケ塗り法、スプレーコーティング法、ワイヤバー法、ブレード法、及びロールコーティング法などを用いて塗工できる。接着用プライマー層の厚みは、好ましくは2〜40μmの範囲、より好ましくは3〜30μm、より好ましくは5〜20μmの範囲である。
【0120】
本発明におけるウレタン接着剤は、湿気硬化型一液性ウレタン接着剤、及び二液性ウレタン接着剤のいずれも使用可能であるが、特に湿気硬化型一液性ウレタン接着剤が生産効率に優れているので好ましい。湿気硬化型1液性ウレタン接着剤は、通常イソシアネート基含有化合物、とりわけイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(以下、NCO末端プレポリマーと称す)を主成分とし、これに対して可塑剤、充填剤、触媒、及び任意にその他の化合物が配合されてなる。その他の化合物は、該組成物に所望の特性を付与することなどを目的とするものであって、例えばポリイソシアネート化合物及びγ−メルカプトプロピルトリメトキシシランの如きシランカップリング剤などの密着剤、耐熱接着性を付与するための(メタ)アクリレート系共重合体、並びに軽量性・制振性・防音性を付与するための発泡剤やマイクロバルーンなどを包含する。ここで、プレポリマーの含有量は、通常、ウレタン接着剤組成物全量中好ましくは15〜50質量%であり、より好ましくは20〜45質量%、更に好ましくは30〜45質量%の範囲で選択される。ウレタン接着剤組成物の好適な態様の代表例としては、横浜ゴム(株)製のWS−222、及びサンスター技研(株)製の#560等ダイレクトグレージング用の各種の接着剤が好適に例示される。
【0121】
本発明におけるウレタン接着剤層の厚みは、Adhesives and Sealants : General Knowledge, Application Techniques, New Curing Techniques (Elsevier Science Ltd,2006)の385頁Figure27のPlastic/Steelの領域で決定するのが好ましい。但し、かかる図は比較的安全サイドでの領域設定となっていることから、各種の形状や使用条件を鑑みて、かかる領域を区分する線よりも2mm未満、好ましくは1.5mm未満の範囲でウレタン接着剤の厚みを薄くすることも可能である。特に成形品の長尺が1m未満の場合は、Δα=12×10
-6Kのラインを外挿するライン上で厚みの設計をすることが可能である。
【0122】
建材用途の場合、かかる取り付けにおいては、曲げ加工が最も有効な手段として適用される。その中でも、最終製品枠部の形状とポリカーボネート樹脂積層体の形状が異なる場合は取り付けのために常温での曲面施工が最も好適な手段として適用される。ポリカーボネート積層体の曲げに対する許容度が大きいほど複雑な形状の最終製品に対応できるため好ましい。積層体の曲げに対する許容度は、JIS K7171に準拠し3点曲げ試験を実施した際に、クラックが入る曲率半径Rが100以下であることが好ましく、より好ましくはR90以下、更に好ましくは80以下であることが好ましい。なお、その下限は小さければ小さいほどよく、特に限定されるものではないが、通常50以上である。
また、限界応力性試験を実施した際は、80℃で114時間保持した後の限界応力が18MPa以上であることが好ましく、より好ましくは20MPa以上、更に好ましくは22MPa以上であることが好ましい。110℃で21時間保持した後の限界応力が9MPa以上であることが好ましく、より好ましくは10MPa以上、更に好ましくは11MPa以上であることが好ましい。なお、その上限は大きければ大きいほどよく、特に限定されるものではないが、通常54MPa以下である。
【0123】
上述のように、ポリカーボネート樹脂積層体は最終製品枠部の形状に合わせて常温で強制的に曲げ施工が可能であれば、屋根を含めて屋外構造物やその屋根のデザインの自由度を可及的高度に確保することができるため、屋外構造物に好適にして且つ汎用的に使用することが可能となる。
【実施例】
【0124】
以下、実施例及び比較例を挙げて詳細に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、何らこれに限定されるものではない。なお実施例、比較例の物性評価は下記の方法に従った。
【0125】
(I)評価項目
<透明性>
実施例で得られた樹脂積層体を、JIS K7361−1、JIS K7136に準拠して、全光線透過率値(Tt)、ヘイズ値(Haze)を評価した。
<耐擦傷性>
ASTM1044に準拠し、テーバー磨耗試験機にて摩耗輪CS−10Fを装着、荷重500g下での500回転後のヘイズ値(Haze)を濁度計(NDH2000、日本電色工業製)を用いて測定し、試験後と試験前のヘイズ値差(ΔHz)を測定した。
【0126】
<ハードコート層の密着性>
ハードコート層にカッターで1mm間隔に縦横に各11本の切れ目を入れて100個のマス目を作り、この目にセロテープ(登録商標)(ニチバン(株)製粘着テープ)を貼り付けた後、90°の方向に一気に剥した。ハードコート層が剥離せず、残ったマス目の数を数えた。
<沸水試験後の密着性>
試験片を沸騰水中に3時間浸漬した後に、目視にて外観観察、及び前記初期密着性と同様にして密着性試験を行った。
【0127】
<耐候性試験>
試験片をスーパーキセノンテスト(UV照射強度180W/m
2、ブラックパネル温度63℃)にて1000時間、6000時間暴露し、試験片を取り出して黄色度(YI)、クラック性、密着性、外観を評価した。
<黄変度>
JIS Z8722に準拠し、積分球分光光度計CE−7000A(X−Rite社製)にて測定し、耐候性試験後と試験前の黄変度差(ΔYI)を測定した。
<耐候クラック性>
耐候性試験後の外観(クラックの有無)を下記の基準で評価した。
○:異常なし
△:僅かにクラックあり
×:塗膜全体にクラックあり
<耐候密着性>
耐候性試験後に、前記初期密着性と同様にして密着性試験を行った。
<耐候剥離>
耐候性試験後の外観(剥離の有無)を下記の基準で評価した。
○:異常なし
△:一部剥離あり
×:全面剥離
<曲げ加工性評価>
JIS K7171に準拠し、3点曲げ試験を実施し、クラックが発生した曲率半径(R)を求めた。曲率半径は次式より求める。
R=(a
2+50
2)/(2a) (2)
a:3点曲げ治具がサンプルを押した距離(mm)
【0128】
<限界応力性評価>
ベル・テレフォン社が開発した1/4楕円法に従って、
図1に示すように、厚み1.0mm、幅40.0mm、長さ120.0mmのサンプルを1/4楕円法治具にセットし、23℃で24時間後のクラック発生点までの長さと試料厚さより限界歪みと限界応力を求めた。クラック発生点の歪みは次式より求める。なお、
図1中、1は楕円中心、2は楕円の長軸半径(10cm)、3は楕円の短軸半径(4cm)、4はジグの幅(4cm)、5は押え金具(それぞれ幅1cm)、6は楕円中心から最も少ない歪みでクラックが生じている部分までの水平距離(cm)、7は試料(ポリカーボネート樹脂積層体)、8は最も少ない歪みでクラックが生じている部分を示す。
ε=〔0.02(1−0.0084X
2)
-3/2〕t (3)
ε:歪み(%)
t:試料厚さ(cm)
X:楕円の中心からX座標軸方向でクラック発生限界点までの距離(cm)
【0129】
<限界応力性評価後の耐熱試験>
ベル・テレフォン社が開発した1/4楕円法に従って、厚み1.0mm、幅40.0mm、長さ120.0mmのサンプルを1/4楕円法治具にセットし、80℃の耐熱乾燥機にて114時間経過した後と110℃の耐熱乾燥機にて21時間経過した後の限界歪みを求める。クラック発生点の歪みと限界応力は次式より求める(クラック発生点の歪みは上式3と同様)。
限界応力=εE(MPa) (4)
E:PC曲げ弾性率(2000)
<紫外線遮蔽性>
石英板((株)藤原製作所製、長さ40mm×幅10mm×厚み1mm)の長さ40mm×幅10mmの片面に、シリコーンハードコート組成物を硬化膜厚が4μmとなるようフローコート、静置した。15分間の静置後、120℃で1時間加熱し、塗膜を硬化させた。得られた石英板付き硬化膜は紫外可視分光光度計(島津製作所(株)製)で透過率を測定した。
【0130】
(II)ポリカーボネート樹脂層(A層)に用いるポリカーボネート樹脂−A1の製造
常法によりビスフェノールAとホスゲンを界面重合法で重合して得た粘度平均分子量23,900のポリカーボネート樹脂粉粒体(帝人化成(株)製:パンライトL−1250WP)を使用した。
【0131】
(III)熱可塑性樹脂層(B層)に用いる熱可塑性樹脂の製造
(III−1)アクリル樹脂−B1、B3、B5の製造
市販のアクリル樹脂(三菱レイヨン(株)製ポリメチルメタクリレート樹脂(VH001))を使用した。
また、設定温度230℃のT型ダイスを介して押出することで、厚み100μmのアクリル樹脂フィルム(B5)を得た。
【0132】
(III−2)アクリル樹脂−B2の製造
市販のアクリル樹脂(三菱レイヨン(株)製ポリメチルメタクリレート樹脂(VH001))と市販(メタ)アクリル系ゴム成分(三菱レイヨン(株)製ポリメチルメタクリレート樹脂(IRG304))をVH001/IRG304(100/18)の割合で混合した樹脂を使用した。
【0133】
(III−3)アクリル樹脂−B4の製造
還流冷却器及び撹拌装置を備え、窒素置換したフラスコ中にエチルメタクリレート(以下EMAと省略する)74.2質量部、シクロヘキシルメタクリレート(以下CHMAと省略する)33.6質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下HEMAと省略する)13.0質量部、LA−82(ADEKA(株)製ヒンダードアミン系光安定性基含有メタクリレート;1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレート12.0質量部、メチルイソブチルケトン(以下MIBKと省略する)132.8質量部及び2−ブタノール(以下2−BuOHと省略する)66.4質量部を添加混合した。混合物に窒素ガスを15分間通気して脱酸素した後、窒素ガス気流下にて70℃に昇温し、アゾビスイソブチロニトリル(以下AIBNと省略する)0.33質量部を加え、窒素ガス気流中、70℃で5時間撹拌下に反応させた。更にAIBN:0.08質量部を加えて80℃に昇温し、3時間反応させ、不揮発分濃度が39.7質量%のアクリル共重合体溶液を得た。アクリル共重合体の重量平均分子量はGPCの測定(カラム;Shodex GPCA−804、溶離液;THF)からポリスチレン換算で115,000であった。アクリル共重合体溶液100質量部に、MIBK:68.6質量部、2−BuOH:34.2質量部、1−メトキシ−2−プロパノール(以下PMAと省略する):133質量部を加えて混合し、チヌビン400(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製トリアジン系紫外線吸収剤)4.24質量部、及びチヌビン479(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製トリアジン系紫外線吸収剤)1.06質量部、アクリル共重合体溶液中のアクリル共重合体のヒドロキシ基1当量に対してイソシアネート基が1.0当量になるようにVESTANAT B1358/100(デグサ・ジャパン(株)製ブロック化されたポリイソシアネート化合物)10.1質量部を添加し、更にジメチルチンジネオデカノエート:0.015質量部を加えて25℃で1時間撹拌し、アクリル樹脂塗料(B4:アクリル樹脂塗料)を得た。
【0134】
(IV)シート成形品の製造
(IV−1)単層シートの製造
ポリカーボネート樹脂−A1を用いて、粘度平均分子量23,900のポリカーボネート樹脂シート[帝人化成(株)パンライトシートPC−1151]を得た。なお、限界応力性評価は厚み1.0mm、その他の評価は厚み3.5mmにて実施した。
(IV−2)共押出シートの製造
上記ポリカーボネート樹脂層を構成するポリカーボネート樹脂−A1はスクリュー径40mmの単軸押出機で、また、上記熱可塑性樹脂層を形成するアクリル樹脂−Bはスクリュー径30mmの単軸押出機でそれぞれ溶融させ、フィードブロック法にて2層に積層させ、設定温度280℃のT型ダイスを介して押出し、得られるシートを鏡面仕上げされたロールにて冷却し、ポリカーボネート樹脂(帝人化成(株)製、商品名:パンライトL−1250WP、粘度平均分子量23,900)シートの片面に、表1記載の市販のアクリル樹脂層100質量部に対しベンゾトリアゾール型紫外線吸収剤としてアデカスタブLA−31(ADEKA(株)社製)を2.0質量部添加し、それぞれ積層した樹脂積層体を得た。なお、限界応力性評価は厚み1.0mm、その他の評価は厚み3.5mmにて実施し、アクリル樹脂層の種類と厚みは表1に示した通りである。
【0135】
【表1】
【0136】
(V)ハードコート層に用いる塗料の調製
(V−1)スズ及びマンガン原子を固溶したコアシェル型酸化チタン固溶体(チタン100モル%に対し、スズ6モル%、マンガン2モル%)を含有するシリコーン樹脂系ハードコート組成物(S1)の調製
36質量%の塩化チタン(IV)水溶液(石原産業(株)製、製品名:TC−36)66質量部に塩化スズ(IV)五水和物(和光純薬工業(株)製)2.6質量部、塩化マンガン(II)四水和物(和光純薬工業(株)製)0.5質量部を添加し、よく混合した後、これをイオン交換水1,000質量部で希釈した。この金属塩水溶液混合物に5質量%のアンモニア水(和光純薬工業(株)製)300質量部を徐々に添加して中和、加水分解することによりスズ、マンガンを含有する水酸化チタンの沈殿物を得た。このときの水酸化チタンスラリーのpHは8であった。得られた水酸化チタンの沈殿物を、イオン交換水の添加とデカンテーションを繰り返して脱イオン処理した。この脱イオン処理後のスズ、マンガンを含有する水酸化チタン沈殿物に30質量%過酸化水素水(和光純薬工業(株)製)100質量部を徐々に添加し、その後60℃で3時間撹拌して十分に反応させた。その後、純水を添加して濃度調整を行うことにより、褐色透明のスズ、マンガン含有ペルオキソチタン酸溶液(固形分濃度1質量%)を得た。容積500mLのオートクレーブ(耐圧硝子工業(株)製、製品名:TEM−D500)に、上記のように合成したペルオキソチタン酸溶液350mLを仕込み、これを200℃、1.5MPaの条件下、240分間水熱処理した。その後、オートクレーブ内の反応混合物を、サンプリング管を経由して、25℃の水浴中に保持した容器に排出し、急速に冷却することで反応を停止させ、酸化チタン分散液(i)を得た。この酸化チタン分散液(i)の平均粒子径は、レーザー光を用いた動的光散乱法(日機装(株)製、装置名「ナノトラックUPA−EX150」)によって測定した体積基準の50%累積粒度分布径(D
50)で14nmであった。
【0137】
次に、磁気回転子と温度計を備えたセパラブルフラスコに、酸化チタン分散液(i)100質量部、エタノール10質量部、アンモニア0.2質量部を室温で加えて磁気撹拌した。このセパラブルフラスコを氷浴に浸漬し内容物温度が5℃になるまで冷却した。ここに、テトラエトキシシラン1.8質量部を加えた後に、セパラブルフラスコをμReactorEx(四国計測工業(株)製)内に設置して、周波数2.45GHz・出力1,000Wのマイクロ波を1分間にわたって照射しながら磁気撹拌した。その間、温度計を観測して内容物温度が85℃に達するのを確認した。加熱後の反応容器は、水浴によって室温まで冷却した。内容物液を丸底フラスコに取り出し、減圧回分蒸留により濃縮した。濃縮後、アンバーライト200CT(オルガノ(株)製)10質量部と3時間接触させた。この混合物をろ紙(Advantec2B)でろ過してイオン交換樹脂を分別し、ろ液としてコアシェル型酸化チタン固溶体水分散液(CS−i)を得た。分散液(CS−i)の一定量を精密秤量(島津製作所(株)製AUX−220使用)し、105℃のオーブン(エスペック社製パーフェクトオーブン使用)で3時間処理して分散媒を揮発させたところ、固形分が15質量%であることが明らかとなった。この分散液(CS−i)の固形分が1質量%になるように希釈した後、酸化チタン分散液(i)と同様の方法で平均粒子径(D
50)を測定したところ、22.3nmであることが分かった。また、分散液(CS−i)の固形分が1質量%になるように希釈した後、紫外可視透過率スペクトルを測定すると550nmにおける透過率は90%と良好な透明性を維持していた。更に、0.5質量%のコアシェル型酸化チタン固溶体水分散液に、メチレンブルー(Wako特級)を0.01mmol/Lとなるように添加し、硼珪酸ガラス瓶に入れてブラックライト(紫外線照射強度:0.5mW/cm
2、岩崎電気(株)製・アイ紫外線照度計UVP365−1を用いて測定)を24時間照射した後の653nmにおける比色では、吸光度の減少率は5%であった。
【0138】
次に、2Lのフラスコに、メチルトリメトキシシラン136質量部を仕込み、液温が約10℃になるよう冷却後、スノーテックスO(日産化学工業(株)製:水分散シリカゾル、平均粒子径15〜20nm、SiO
2 20質量%含有品)100質量部、コアシェル型酸化チタン固溶体分散液(CS−i)44.2質量部の混合液を加えた。混合液を加えると加水分解に伴う自己発熱が見られ内部温度が50℃に上昇した。添加終了後、60℃にて3時間撹拌し、加水分解を完結させた。その後、シクロヘキサノン142質量部を投入し、加水分解で生成したメタノールを、常圧にて液温が92℃になるまで加熱留去すると共に、縮合させた後、希釈剤としてイソブタノール189.3質量部、レベリング剤としてKP−341(信越化学工業(株)製)0.1質量部、pH調整剤として酢酸1.6質量部、及び硬化触媒として水酸化テトラブチルアンモニム(濃度10質量%水溶液、和光純薬工業(株)、特級)2.5質量部を加え、室温にて撹拌した後、濾紙濾過を行い、不揮発分濃度20.9質量%のシリコーン樹脂系ハードコート組成物(S1)を得た。
【0139】
(V−2)コバルト原子を固溶したコアシェル型酸化チタン固溶体(チタン100モル%に対し、コバルト4モル%)を含有するシリコーン樹脂系ハードコート組成物(S2)の調製
2Lのフラスコに、メチルトリメトキシシラン136質量部を仕込み、液温が約10℃になるよう冷却後、スノーテックスO(日産化学工業(株)製:水分散シリカゾル、平均粒子径15〜20nm、SiO
2 20質量%含有品)100質量部、0.25Nの酢酸水溶液44.2質量部を滴下し、内温が40℃を超えないように冷却しながら加水分解を行った。滴下終了後、40℃以下で1時間、次いで、60℃にて3時間撹拌し、加水分解を完結させた。その後、シクロヘキサノン142質量部を投入し、加水分解で生成したメタノールを、常圧にて液温が92℃になるまで加熱留去すると共に、縮合させた後、希釈剤としてイソブタノール189.3質量部、レベリング剤としてKP−341(信越化学工業(株)製)0.1質量部、pH調整剤として酢酸6.5質量部、及び硬化触媒として水酸化テトラメチルアンモニウム(濃度20質量%水溶液、和光純薬工業(株)、特級)1.8質量部を加え、室温にて撹拌した。更に、RTTDNB15WT%−E88(CIKナノテック(株)製:直流アークプラズマ法で製造したコバルト原子を固溶化した酸化チタン微粒子(チタン100モル%に対し、コバルト4モル%)をアルミナ及びジルコニアを含む被膜で被覆した後、メチルトリメトキシシランで表面処理してから、高分子分散剤を用いて、混合アルコールに分散したコバルト原子固溶化コアシェル型酸化チタン固溶体分散液、固形分濃度15質量%)65.4質量部を添加した後、撹拌、濾紙濾過を行い、不揮発分濃度19.2質量%のシリコーン樹脂系ハードコート組成物(S2)を得た。
【0140】
表面を酸化ケイ素被覆する前の段階の酸化チタン分散液(RTTDNB15WT%−E88)及びそのコアシェル型酸化チタン分散液について、(V−1)と同様な方法で平均粒子径(D
50)を測定したところ、それぞれ40.0nm、82.0nmであった。また、この際用いたRTTDNB15WT%−E88を固形分が1質量%になるようにメタノール希釈した後、紫外可視透過率スペクトルを測定すると550nmにおける透過率は90%と良好な透明性を維持していた。更に、固形分が0.5質量%になるようメタノール希釈した後の分散体にメチレンブルー(Wako特級)を0.01mmol/Lとなるように添加し、硼珪酸ガラス瓶に入れてブラックライト(紫外線照射強度:0.5mW/cm
2、岩崎電気(株)製・アイ紫外線照度計UVP365−1を用いて測定)を24時間照射した後の653nmにおける比色では、吸光度の減少率は8%であった。
【0141】
(V−3)他原子を固溶していないコアシェル型酸化チタ
ン(チタン100モル%)を含有するシリコーン樹脂系ハードコート組成物(T1)の調製
塩化スズ(IV)五水和物及び塩化マンガン(II)四水和物を使用せずに、上記(V−1)と同様な操作を行い、他原子を固溶していないコアシェル型酸化チタン水分散液(CS−ii)を得た。分散液(CS−ii)の一定量を精密秤量(島津製作所(株)製AUX−220使用)し、105℃のオーブン(エスペック社製パーフェクトオーブン使用)で3時間処理して分散媒を揮発させたところ、固形分が15質量%であることが明らかとなった。
【0142】
表面を酸化ケイ素被覆する前の段階の酸化チタン分散液(ii)及びコアシェル型酸化チタン分散液(CS−ii)について、(V−1)と同様な方法で平均粒子径(D
50)を測定したところ、それぞれ20nm、34.6nmであった。また、分散液(CS−ii)の固形分が1質量%になるように希釈した後、紫外可視透過率スペクトルを測定すると550nmにおける透過率は90%と良好な透明性を維持していた。更に、0.5質量%のコアシェル型酸化チタン水分散液に、メチレンブルー(Wako特級)を0.01mmol/Lとなるように添加し、硼珪酸ガラス瓶に入れてブラックライト(紫外線照射強度:0.5mW/cm
2、岩崎電気(株)製・アイ紫外線照度計UVP365−1を用いて測定)を24時間照射した後の653nmにおける比色では、吸光度の減少率は44%であった。
【0143】
更に、2Lのフラスコに、メチルトリメトキシシラン136質量部を仕込み、液温が約10℃になるよう冷却後、スノーテックスO(日産化学工業(株)製:水分散シリカゾル、平均粒子径15〜20nm、SiO
2 20質量%含有品)100質量部、コアシェル型酸化チタン分散液(CS−ii)44.2質量部の混合液を加えた。混合液を加えると加水分解に伴う自己発熱が見られ内部温度が50℃に上昇した。添加終了後、60℃にて3時間撹拌し、加水分解を完結させた。その後、シクロヘキサノン142質量部を投入し、加水分解で生成したメタノールを、常圧にて液温が92℃になるまで加熱留去すると共に、縮合させた後、希釈剤としてイソブタノール189.3質量部、レベリング剤としてKP−341(信越化学工業(株)製)0.1質量部、pH調整剤として酢酸1.6質量部、及び硬化触媒として水酸化テトラブチルアンモニム(濃度10質量%水溶液、和光純薬工業(株)、特級)2.5質量部を加え、室温にて撹拌した後、濾紙濾過を行い、不揮発分濃度20.2質量%のシリコーン樹脂系ハードコート組成物(T1)を得た。
【0144】
(V−4)コアシェル型酸化亜鉛分散体(亜鉛100モル%)を含有するシリコーン樹脂系ハードコート組成物(T2)の調製
(V−2)で使用したRTTDNB15WT%−E
88の代わりに、ZNTAB15WT%−E16(2)(CIKナノテック(株)製:直流アークプラズマ法で製造した酸化亜鉛微粒子をシリカ被覆した後、メチルトリメトキシシランで表面処理してから、高分子分散剤を用いて、混合アルコールに分散した分散体、固形分濃度15%)を用いて、(V−2)と同様な方法で、不揮発分濃度19.8質量%のシリコーン樹脂系ハードコート組成物(T2)を得た。
なお(V−1)と同様な方法で測定したZNTAB15WT%−E16(2)における平均粒子径(D
50)はそれぞれ、45.0nm、105.0nm、メチレンブルー比色吸光度の減少率は24%であった。
【0145】
(V−5)シリコーン樹脂系ハードコート組成物(T3)の調製
2Lのフラスコに、メチルトリメトキシシラン136質量部を仕込み、液温が約10℃になるよう冷却後、スノーテックスO(日産化学工業(株)製:水分散シリカゾル、平均粒子径15〜20nm、SiO
2 20質量%含有品)100質量部、0.25N酢酸水溶液44.2質量部の混合液を加えた。混合液を加えると加水分解に伴う自己発熱が見られ内部温度が50℃に上昇した。添加終了後、60℃にて3時間撹拌し、加水分解を完結させた。その後、シクロヘキサノン142質量部を投入し、加水分解で生成したメタノールを、常圧にて液温が92℃になるまで加熱留去すると共に、縮合させた後、希釈剤としてイソブタノール189.3質量部、レベリング剤としてKP−341(信越化学工業(株)製)0.1質量部、pH調整剤として酢酸1.6質量部、及び硬化触媒として水酸化テトラメチルアンモニム(濃度20質量%水溶液、和光純薬工業(株)、特級)1.8質量部を加え、室温にて撹拌した後、濾紙濾過を行い、不揮発分濃度19.4質量%のシリコーン樹脂系ハードコート組成物(T3)を得た。
【0146】
(V−6)紫外線硬化型アクリレートハードコート剤(T4)の調製
多官能アクリレートオリゴマー(新中村化学(株)製U−15HA)100質量部、フェニル−1−ヒドロキシシクロヘキシルケトン(BASF(株)製Irgacure184)5質量部、1−メトキシ−2−プロパノール250質量部、2−プロパノール100質量部、有機溶剤分散コロイダルシリカ(日産化学工業(株)製スノーテックスO−40 固形分濃度40質量%)29.2質量部を混合して紫外線硬化型アクリレートハードコート剤(T4)を得た。
コロイダルシリカ及び/又はアルコキシシラン加水分解縮合物の割合は30質量%であった。
【0147】
(V−7)メラミン樹脂ハードコート剤(T5)の調製
メチル化メチロールメラミン[日本サイテックインダストリーズ(株)製サイメル301]100質量部、1.6−ヘキサンジオール70質量部、マレイン酸5質量部、イソプロピルアルコール150質量部、イソブチルアルコール320質量部、エチレングリコールモノブチルエーテル25質量部混合してメラミン樹脂ハードコート剤(T5)を得た。
コロイダルシリカ及び/又はアルコキシシラン加水分解縮合物の割合は0質量%であった。
【0148】
[実施例1]
上記(II)、(III)に記載の(A1)、(B1)を用いて作成した共押出基材のB層上に、(V)で作成したハードコート剤(S1)を熱硬化後の膜厚が4.0μmとなるようにフローコート法で塗布し、25℃で15分間静置後、120℃で1時間熱硬化させPC樹脂積層体を得た。結果を表2に示した。
【0149】
[実施例2]
上記(II)、(III)に記載の(A1)、(B1)を用いて作成した共押出基材のB層上に、(V)で作成したハードコート剤(S2)を熱硬化後の膜厚が4.0μmとなるようにフローコート法で塗布し、25℃で15分間静置後、120℃で1時間熱硬化させPC樹脂積層体を得た。結果を表2に示した。
【0150】
[実施例3]
上記(II)、(III)に記載の(A1)、(B2)を用いて作成した共押出基材のB層上に、(V)で作成したハードコート剤(S1)を熱硬化後の膜厚が4.0μmになるようにフローコート法で塗布し、25℃で15分間静置後、120℃で1時間熱硬化させPC樹脂積層体を得た。結果を表2に示した。
【0151】
[実施例4]
上記(II)、(III)に記載の(A1)、(B3)を用いて作成した共押出基材のB層上に、(V)で作成したハードコート剤(S1)を熱硬化後の膜厚が4.0μmになるようにフローコート法で塗布し、25℃で15分間静置後、120℃で1時間熱硬化させPC樹脂積層体を得た。結果を表2に示した。
【0152】
[実施例5]
上記(IV−1)で作成した基材層を真空熱プレス成形機(名機製作所製MP−22S)の下チャンバーにセットし、上記(III)で作成したアクリル樹脂フィルム(B5)を上チャンバーにセットした。下チャンバーと上チャンバーの温度をそれぞれ180℃と120℃に設定し、基材層とアクリル樹脂フィルムが十分に加熱されたところで、4MPaで90秒間加圧して積層基材を得た。この積層基材のB層上に(V)で作成したハードコート剤(S1)を熱硬化後の膜厚が4.0μmになるようにフローコート法で塗布し、25℃で15分間静置後、120℃で1時間熱硬化させPC樹脂積層体を得た。結果を表2に示した。
【0153】
[比較例1]
上記(II)、(III)に記載の(A1)、(B1)を用いて作成した共押出基材に、(V)で作成したハードコート剤(T1)を熱硬化後の膜厚が4.0μmとなるように、B層上にフローコート法で塗布し、25℃で15分間静置後、120℃で1時間熱硬化させPC樹脂積層体を得た。結果を表3に示した。
【0154】
[比較例2]
上記(II)、(III)に記載の(A1)、(B1)を用いて作成した共押出基材に、(V)で作成したハードコート剤(T2)を熱硬化後の膜厚が4.0μmとなるように、B層上にフローコート法で塗布し、25℃で15分間静置後、120℃で1時間熱硬化させPC樹脂積層体を得た。結果を表3に示した。
【0155】
[比較例3]
上記(IV−1)で作成した基材層に、上記(III)で得られたアクリル樹脂塗料(B4)を用いて、熱硬化後の膜厚が8.0μmになるようにフローコート法によって片面塗布し、25℃で20分間静置後、130℃で1時間熱硬化させた。
次いで(V)で作成したハードコート剤(S1)を熱硬化後の膜厚が4.0μmになるようにフローコート法で塗布し、25℃で20分間静置後、120℃で1時間熱硬化させた。結果を表3に示した。
【0156】
[比較例4]
上記(IV−1)で作成した基材層に、上記(III)で得られたアクリル樹脂塗料(B4)を用いて、熱硬化後の膜厚が8.0μmになるようにフローコート法によって片面塗布し、25℃で20分間静置後、130℃で1時間熱硬化させた。
次いで(V)で作成したハードコート剤(T3)を熱硬化後の膜厚が4.0μmになるようにフローコート法で塗布し、25℃で20分間静置後、120℃で1時間熱硬化させた。結果を表3に示した。
【0157】
[比較例5]
上記(IV−1)で作成した基材層に、上記(V)で作成したハードコート剤(T4)を紫外線硬化後の膜厚が4.0μmになるようにフローコート法で片面塗布し、25℃で1分間、80℃で1分間静置後、積算照度が600mJ/cm
2になるように高圧水銀ランプで紫外線を照射して硬化させた。結果を表2に示した。
【0158】
[比較例6]
上記(IV−1)で作成した基材層に、上記(V)で作成したハードコート剤(T5)を熱硬化後の膜厚が4.0μmになるようにフローコート法で片面塗布し、25℃で15分間静置後、130℃で1時間熱硬化させPC樹脂積層体を得た。結果を表3に示した。
【0159】
[比較例7]
上記(II)、(III)に記載の(A1)、(B1)を用いて作成した共押出基材に、(V)で作成したハードコート剤(T3)を熱硬化後の膜厚が4.0μmとなるようB層上にフローコート法で塗布し、25℃で15分間静置後、120℃で1時間熱硬化させPC樹脂積層体を得た。結果を表3に示した。
【0160】
[参考例]
上記(V)で作成したシリコーンハードコート組成物(S1、S2、T1、T2、及びT3)の硬化膜について、紫外可視分光光度計(島津製作所(株)製)にて透過率を測定した。結果を
図2に示した。
図2から、S1、S2、及びT1の硬化膜は、可視領域(400〜700nm)における透明性と紫外領域(200〜400nm)における遮蔽性に優れている。一方、T2の硬化膜では、紫外領域における遮蔽能は半減し、T3ではほとんどないことが明らかである。この結果から、(c−1)成分のコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液による紫外線遮蔽効果は顕著であることが判った。また紫外線遮蔽性のよいS1、S2、T1のうち、S1及びS2では、表2,3の通り、耐候性試験6,000時間でも問題みられないが、T1では(c−1)成分として固溶化していないコアシェル型正方晶系酸化チタン分散液を用いているため、6,000時間ではクラック、剥離が発生している。このことから、(c−1)成分としてコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体分散液による耐候性向上効果は顕著であることが判った。
【0161】
【表2】
【0162】
【表3】