特許第5967342号(P5967342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5967342
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】高飽和ニトリルゴムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08C 19/02 20060101AFI20160728BHJP
【FI】
   C08C19/02
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-522078(P2016-522078)
(86)(22)【出願日】2015年12月25日
(86)【国際出願番号】JP2015086268
【審査請求日】2016年4月11日
(31)【優先権主張番号】特願2015-12900(P2015-12900)
(32)【優先日】2015年1月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中井 章人
(72)【発明者】
【氏名】菅原 慎介
【審査官】 井津 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−221407(JP,A)
【文献】 特開平06−287219(JP,A)
【文献】 特開平08−100085(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/022660(WO,A1)
【文献】 特開2009−203272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C19/00−19/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中で、少なくともα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体およびジエン単量体を含む単量体混合物を重合することで、ニトリルゴムの分散液または溶液を得る重合工程と、
前記ニトリルゴムの分散液または溶液を、10〜60℃で凝固させることで、固形状のニトリルゴムを得る凝固工程と、
前記凝固工程により得られた固形状のニトリルゴムを、溶媒に分散または溶解させ、得られたニトリルゴムの分散液または溶液について水素添加反応を行うことで、高飽和ニトリルゴムの分散液または溶液を得る水素添加反応工程と、を備え、
前記水素添加反応を行う際における、前記ニトリルゴムの分散液または溶液中における、前記ニトリルゴムの含有量100重量%に対する、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物の含有量を50重量ppm以下、炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物の含有量を1〜120重量ppmとすることを特徴とする高飽和ニトリルゴムの製造方法。
【請求項2】
前記重合工程において、分子量調整剤として、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物および/または炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物を使用するとともに、
前記凝固工程により得られた固形状のニトリルゴムを、溶媒に分散または溶解させる際に、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物および/または炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物を添加することで、
水素添加反応に用いるニトリルゴムの分散液または溶液中の、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物および/または炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物の含有量を調整することを特徴とする請求項1に記載の高飽和ニトリルゴムの製造方法。
【請求項3】
前記重合工程の後、前記凝固工程の前に、前記重合工程により得られたニトリルゴムの分散液または溶液を、塩基性化合物の存在下で加熱する加熱工程をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の高飽和ニトリルゴムの製造方法。
【請求項4】
前記塩基性化合物が、アルカリ金属化合物である請求項3に記載の高飽和ニトリルゴムの製造方法。
【請求項5】
前記加熱工程の加熱温度が、30〜80℃である請求項3または4に記載の高飽和ニトリルゴムの製造方法。
【請求項6】
前記水素添加反応工程における、 水素化触媒の使用量を、水素化前のニトリルゴム100重量%に対して、10〜1000重量ppmの範囲とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高飽和ニトリルゴムの製造方法。
【請求項7】
少なくともα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位およびジエン単量体単位を有するニトリルゴムの溶液または分散液であって、
前記ニトリルゴムの含有量100重量%に対する、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物の含有量が50重量ppm以下であり、炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物の含有量を1〜120重量ppmであり、残存有機酸量が15重量%以下である水素添加用のニトリルゴムの溶液または分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高飽和ニトリルゴムの製造方法に関し、さらに詳しくは、水素添加反応の反応率の向上が可能な高飽和ニトリルゴムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ニトリルゴム(アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム)は、耐油性、機械的特性、耐薬品性等を活かして、ホースやベルト、チューブなどの自動車用ゴム部品の材料として使用されており、また、ニトリルゴムのポリマー主鎖中の炭素−炭素二重結合を水素化などにより飽和化して得られる高飽和ニトリルゴムはさらに耐熱性に優れるため、シール、ベルト、ホース、ガスケット等のゴム部品に使用されている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、メルカプト基を有する分子量調整剤の存在下に、共役ジエン単量体とα,β−不飽和ニトリル単量体とを共重合させて得られる重合体であって、該分子量調整剤の残留量が40ppm以下である重合体を、水素化触媒の存在下に水素化することを特徴とする高飽和ニトリルゴムの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3932916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、分子量調整剤としてのメルカプト基を有する化合物が、水素添加反応を行う際における、水素化触媒の触媒毒として作用してしまい、水素添加反応の反応率が低下してしまうとの知見の下、分子量調整剤としてのメルカプト基を有する化合物を40ppm以下に制御するものである。
【0006】
その一方で、このような水素化触媒としては、一般的には、パラジウムなどの貴金属を含有するものが用いられているため、環境資源保護の観点や製造コストの削減の観点などから、水素化触媒の量を低減することが検討されており、このように水素化触媒の量を低減した場合でも、高い反応率にて水素添加反応を行えることが求められている。しかしながら、上記特許文献1の技術では、水素化触媒の量を低減した場合に、水素添加反応の反応率が必ずしも十分でなく、そのため、水素化触媒の量を低減した場合でも、十分な反応率を実現することが求められていた。
本発明は、このような実状の下になされたものであり、その目的は、水素添加反応の反応率の向上が可能な高飽和ニトリルゴムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成すべく、メルカプト基を有する化合物と、水素添加反応の反応率について、鋭意検討を行ったところ、ニトリルゴムの重合後における凝固を行う際における凝固温度を特定の範囲とするとともに、水素添加反応時における、反応液中における、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物の含有量と、炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物の含有量とを所定の範囲とすることにより、水素添加反応の反応率のさらなる向上が可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、溶媒中で、少なくともα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体およびジエン単量体を含む単量体混合物を重合することで、ニトリルゴムの分散液または溶液を得る重合工程と、前記ニトリルゴムの分散液または溶液を、10〜60℃で凝固させることで、固形状のニトリルゴムを得る凝固工程と、前記凝固工程により得られた固形状のニトリルゴムを、溶媒に分散または溶解させ、得られたニトリルゴムの分散液または溶液について水素添加反応を行うことで、高飽和ニトリルゴムの分散液または溶液を得る水素添加反応工程と、を備え、前記水素添加反応を行う際における、前記ニトリルゴムの分散液または溶液中における、前記ニトリルゴムの含有量100重量%に対する、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物の含有量を50重量ppm以下、炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物の含有量を1〜120重量ppmとすることを特徴とする高飽和ニトリルゴムの製造方法が提供される。
【0009】
本発明の製造方法において、前記重合工程において、分子量調整剤として、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物および/または炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物を使用するとともに、前記凝固工程により得られた固形状のニトリルゴムを、溶媒に分散または溶解させる際に、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物および/または炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物を添加することで、水素添加反応に用いるニトリルゴムの分散液または溶液中の、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物および/または炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物の含有量を調整することが好ましい。
本発明の製造方法において、前記重合工程の後、前記凝固工程の前に、前記重合工程により得られたニトリルゴムの分散液または溶液を、塩基性化合物の存在下で加熱する加熱工程をさらに備えることが好ましい。
本発明の製造方法において、前記塩基性化合物が、アルカリ金属化合物であることが好ましい。
本発明の製造方法において、前記加熱工程の加熱温度が、30〜80℃であることが好ましい。
本発明の製造方法において、前記水素添加反応工程における、水素化触媒の使用量を、水素化前のニトリルゴム100重量%に対して、10〜1000重量ppmの範囲とすることが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、少なくともα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位およびジエン単量体単位を有するニトリルゴムの溶液または分散液であって、前記ニトリルゴムの含有量100重量%に対する、炭素数9以上炭素数12以下のメルカプト基を有する化合物の含有量が50重量ppm以下であり、炭素数13以上炭素数16以下のメルカプト基を有する化合物の含有量を1〜120重量ppmであり、残存有機酸量が15重量%以下である水素添加用のニトリルゴムの溶液または分散液が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水素添加反応の反応率の向上が可能な高飽和ニトリルゴムの製造方法を提供することができ、該製造方法によれば、水素転化率が高められた高飽和ニトリルゴムを適切に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の高飽和ニトリルゴムの製造方法は、
溶媒中で、少なくともα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体およびジエン単量体を含む単量体混合物を重合することで、ニトリルゴムの分散液または溶液を得る重合工程と、
前記ニトリルゴムの分散液または溶液を、10〜60℃で凝固させることで、固形状のニトリルゴムを得る凝固工程と、
前記凝固工程により得られた固形状のニトリルゴムを、溶媒に分散または溶解させ、得られたニトリルゴムの分散液または溶液について水素添加反応を行うことで、高飽和ニトリルゴムの分散液または溶液を得る水素添加反応工程と、を備え、
前記水素添加反応を行う際における、前記ニトリルゴムの分散液または溶液中における、前記ニトリルゴムの含有量100重量%に対する、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物の含有量を50重量ppm以下、炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物の含有量を1〜120重量ppmとすることを特徴とする。
【0013】
<重合工程>
本発明の製造方法における重合工程は、溶媒中で、少なくともα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体およびジエン単量体を含む単量体混合物を重合することで、ニトリルゴムの分散液または溶液を得る工程である。
【0014】
本発明の製造方法で用いる単量体混合物としては、所望の組成に対応した単量体を含有するものとすればよく、特に限定されないが、少なくとも、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体と、ジエン単量体とを含有するものが用いられる。
【0015】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、特に限定されないが、炭素数3〜18のものが好ましく、炭素数3〜9のものが特に好ましい。その具体例としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等が挙げられ、なかでもアクリロニトリルが好ましい。これらのα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体は一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0016】
本発明の製造方法で用いる単量体混合物中における、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体の使用量は、最終的に得られる高飽和ニトリルゴムの組成に応じて適宜決定すればよいが、好ましくは8〜60重量%、より好ましくは12〜58重量%、さらに好ましくは16〜50重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体の使用量を上記範囲とすることにより、得られる高飽和ニトリルゴムを、耐油性および耐寒性に優れたものとすることができる。
【0017】
ジエン単量体としては、特に限定されないが、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン等の炭素数が4以上の共役ジエン;1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン等の炭素数が5〜12の非共役ジエンが挙げられる。これらの中では共役ジエンが好ましく、1,3−ブタジエンがより好ましい。
【0018】
本発明の製造方法で用いる単量体混合物中における、ジエン単量体の使用量は、最終的に得られる高飽和ニトリルゴムの組成に応じて適宜決定すればよいが、好ましくは40〜90重量%、より好ましくは41〜85重量%、さらに好ましくは43〜80重量%である。ジエン単量体の使用量を上記範囲とすることにより、得られる高飽和ニトリルゴムを、耐熱性や耐化学的安定性を良好に保ちながら、ゴム弾性に優れたものとすることができる。
【0019】
また、本発明の製造方法で用いる単量体混合物としては、上述したα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体およびジエン単量体に加えて、カルボキシル基含有単量体を含有するものであってもよい。
【0020】
カルボキシル基含有単量体としては、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体やジエン単量体と共重合可能であり、かつ、エステル化等されていない無置換の(フリーの)カルボキシル基を1個以上有する単量体であれば特に限定されない。
【0021】
カルボキシル基含有単量体としては、たとえば、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステル単量体およびα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体などが挙げられる。また、カルボキシル基含有単量体には、これらの単量体のカルボキシル基がカルボン酸塩を形成している単量体も含まれる。さらに、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸の無水物も、共重合後に酸無水物基を開裂させてカルボキシル基を形成するので、カルボキシル基含有単量体として用いることができる。
【0022】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、エチルアクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などが挙げられる。
【0023】
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体としては、フマル酸やマレイン酸などのブテンジオン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アリルマロン酸、テラコン酸などが挙げられる。また、α,β−不飽和多価カルボン酸の無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などが挙げられる。
【0024】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステル単量体としては、マレイン酸ジエチルなどのマレイン酸ジエステル;フマル酸ジメチルなどのフマル酸ジエステル;シトラコン酸ジメチルなどのシトラコン酸ジエステル;イタコン酸ジブチルなどのイタコン酸ジエステル;などが挙げられる。α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体としては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノn−ブチルなどのマレイン酸モノアルキルエステル;マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘプチルなどのマレイン酸モノシクロアルキルエステル;マレイン酸モノメチルシクロペンチル、マレイン酸モノエチルシクロヘキシルなどのマレイン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノn−ブチルなどのフマル酸モノアルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘプチルなどのフマル酸モノシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチルシクロペンチル、フマル酸モノエチルシクロヘキシルなどのフマル酸モノアルキルシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、シトラコン酸モノn−ブチルなどのシトラコン酸モノアルキルエステル;シトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、シトラコン酸モノシクロヘプチルなどのシトラコン酸モノシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチルシクロペンチル、シトラコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのシトラコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノn−ブチルなどのイタコン酸モノアルキルエステル;イタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、イタコン酸モノシクロヘプチルなどのイタコン酸モノシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチルシクロペンチル、イタコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのイタコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;などが挙げられる。
【0025】
カルボキシル基含有単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。これらの中でも、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体が好ましく、マレイン酸モノアルキルエステルがより好ましく、マレイン酸モノn−ブチルが特に好ましい。なお、上記アルキルエステルのアルキル基の炭素数は、2〜8が好ましい。
【0026】
本発明の製造方法で用いる単量体混合物中における、カルボキシル基含有単量体の使用量は、最終的に得られる高飽和ニトリルゴムの組成に応じて適宜決定すればよいが、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは2〜25重量%、さらに好ましくは2〜20重量%である。カルボキシル基含有単量体の含有量を上記範囲とすることにより、得られる高飽和ニトリルゴムを、耐疲労性を良好なものとしながら、低発熱性のより高められたものとすることができる。
【0027】
さらに、本発明の製造方法で用いる単量体混合物としては、上述したα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体およびジエン単量体、ならびに必要に応じて用いられる、カルボキシル基含有単量体に加えて、これらと共重合可能な他の単量体を含有するものであってもよい。このような他の単量体としては、特に限定されないが、たとえば、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体、非共役ジエン単量体、芳香族ビニル単量体、架橋性単量体、共重合性老化防止剤などが挙げられる。
【0028】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体としては、たとえば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(「メタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステル」の略記。以下同様。);アクリル酸メトキシメチル、アクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸3−メトキシプロピル、メタクリル酸4−エトキシブチル、アクリル酸6−メトキシヘキシル、メタクリル酸4−エトキシヘプチル、アクリル酸8−メトキシオクチルなどの炭素数2〜12のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸α−シアノエチル、メタクリル酸α−シアノエチル、メタクリル酸シアノブチルなどの炭素数2〜12のシアノアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの炭素数1〜12のヒドロキシアルキル基を有する(メタ) アクリル酸エステル;アクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸テトラフルオロプロピルなどの炭素数1〜12のフルオロアルキル基を有する(メタ) アクリル酸エステル;などが挙げられる。
【0029】
非共役ジエン単量体としては、炭素数が5〜12のものが好ましく、たとえば、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエンなどが挙げられる。
芳香族ビニル単量体としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。
【0030】
架橋性単量体としては、たとえば、ジビニルベンゼンなどのジビニル化合物;エチレンジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリル酸エステル類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどのトリメタクリル酸エステル類;などの多官能エチレン性不飽和単量体のほか、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N’−ジメチロール(メタ)アクリルアミドなどの自己架橋性単量体などが挙げられる。
【0031】
共重合性老化防止剤としては、たとえば、N−(4−アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)シンナムアミド、N−(4−アニリノフェニル)クロトンアミド、 N−フェニル−4−(3−ビニルベンジルオキシ)アニリン、N−フェニル−4−(4−ビニルベンジルオキシ)アニリンなどが挙げられる。
【0032】
これらの共重合可能なその他の単量体は、複数種類を併用してもよい。本発明の製造方法で用いる単量体混合物中における、共重合可能なその他の単量体の使用量は、最終的に得られる高飽和ニトリルゴムの組成に応じて適宜決定すればよいが、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0033】
本発明の製造方法における重合工程においては、上述した単量体混合物を、溶媒中で重合することで、ニトリルゴムの分散液または溶液を得る。単量体混合物の重合は、たとえば、乳化重合法や溶液重合法により行うことができるが、乳化重合法による場合には、ニトリルゴムの水分散液を、また、溶液重合法による場合には、ニトリルゴムの溶液を得ることができる。これらのうちでも、工業的生産性の観点から乳化重合法が好ましい。乳化重合に際しては、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤に加えて、通常用いられる重合副資材を使用することができる。
【0034】
乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性乳化剤;ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸及びリノレン酸等の脂肪酸の塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性乳化剤;α,β−不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β−不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性乳化剤;などが挙げられる。乳化剤の添加量は、重合に用いる単量体混合物100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部である。
【0035】
重合開始剤としては、ラジカル開始剤であれば特に限定されないが、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤としては、無機または有機の過酸化物が好ましい。重合開始剤として過酸化物を用いる場合には、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄等の還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。重合開始剤の添加量は、重合に用いる単量体混合物100重量部に対して、好ましくは0.01〜2重量部である。
【0036】
分子量調整剤としては、特に限定されないが、メルカプト基を有する化合物を好ましく用いることができ、たとえば、2,2,4,6,6−ペンタメチル−4−ヘプタンチオール、2,4,4,6,6−ペンタメチル−2−ヘプタンチオール、2,3,4,6,6−ペンタメチル−2−ヘプタンチオール、2,3,4,6,6−ペンタメチル−3−ヘプタンチオールなどの炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物;2,2,4,6,6−ペンタメチル−4−オクタンチオール、2,2,4,6,6,8,8−ヘプタメチル−4−ノナンチオールなどの炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物;の他、t−ドデシルメルカプタン(炭素数9〜16であるメルカプト基を有する化合物の混合物)などが挙げられる。また、これらメルカプト基を有する化合物とともに、あるいは、これらに代えて、四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素;α−メチルスチレンダイマー;テトラエチルチウラムダイサルファイド、ジペンタメチレンチウラムダイサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンダイサルファイド等の含硫黄化合物;等を使用してもよい。これらは単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。分子量調整剤の添加量は、重合に用いる単量体混合物100重量部に対して、好ましくは0.01〜2重量部、より好ましくは0.05〜1重量部である。
【0037】
乳化重合の媒体には、通常、水が使用される。水の量は、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは80〜500重量部、より好ましくは80〜300重量部である。
【0038】
乳化重合に際しては、さらに、必要に応じて安定剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等の重合副資材を用いることができる。これらを用いる場合においては、その種類、使用量とも特に限定されない。
【0039】
また、本発明の製造方法においては、単量体混合物を重合させた後、単量体混合物を重合させることにより得られたニトリルゴムの分散液または溶液を、塩基性化合物の存在下に加熱することで、未反応の単量体(たとえば、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体)と、重合反応に用いたメルカプト基を有する化合物などの分子量調整剤とを反応させることで、メルカプト基を有する化合物などの分子量調整剤の残存量を低減させる工程をさらに経るような構成を採用してもよい。
【0040】
この際に用いる塩基性化合物としては、特に限定されないが、公知の無機および/または有機の塩基性化合物が挙げられ、なかでも、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物などの無機塩基性化合物が好適である。
【0041】
塩基性化合物の使用量は特に限定されないが、重合により得られたニトリルゴム100重量部に対して、0.1〜2重量部の範囲とすることが好ましい。塩基性化合物の使用量を上記範囲とすることにより、メルカプト基を有する化合物などの分子量調整剤の残存量を効果的に低減させることができる。
【0042】
アルカリ金属化合物としては、たとえば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの炭酸塩化合物;炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどの炭酸水素塩化合物;酸化リチウム、酸化カリウム、酸化ナトリウムなどの酸化物;酢酸カリウム、酢酸ナトリウムなどの脂肪酸塩化合物;リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシドなどのアルコキシド類;ナトリウムフェノキシド、カリウムフェノキシドなどのフェノキシド類;などが挙げられる。好ましくはアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩化合物、炭酸水素塩化合物であり、より好ましくは水酸化物である。
【0043】
アルカリ土類金属化合物としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩化合物、炭酸水素塩化合物、酸化物、脂肪酸塩化合物、アルコキシド類、フェノキシド類などが挙げられる。好ましくはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩化合物、炭酸水素塩化合物であり、より好ましくは水酸化物である。
【0044】
このような塩基性化合物は、そのまま用いても、水または有機溶媒で希釈したり、溶解したりして使用することもできる。塩基性化合物は、単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0045】
塩基性化合物の存在下に、ニトリルゴムの分散液または溶液を加熱する際における加熱温度は、好ましくは30〜80℃、より好ましくは40〜70℃である。また、この際における加熱方法は、特に限定されないが、通常、反応器の壁面または内部に装備されたジャケットや熱媒体コイルなどの加熱手段を用いて行うことができるが、重合時の重合熱を利用してもよい。
【0046】
また、本発明の製造方法において、単量体混合物を重合させた後、あるいは、必要に応じて、塩基性化合物の存在下に、ニトリルゴムの分散液または溶液を加熱する工程を経た後に、必要に応じて未反応の単量体を除去する操作を行ってもよい。
【0047】
<凝固工程>
本発明の製造方法における凝固工程は、上述した重合工程により得られたニトリルゴムの分散液または溶液を、10〜60℃で凝固させることで、固形状のニトリルゴムを得る工程である。
【0048】
たとえば、上述した重合工程による重合を乳化重合法により行い、ニトリルゴムの水分散液を得た場合には、本発明の製造方法における凝固工程における凝固方法としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸アルミニウムなど公知の凝固剤を使用する塩析による凝固などが挙げられる。あるいは、塩析による凝固に代えて、メタノールなどのアルコールを用いて凝固を行ってもよい。また、上述した重合工程による重合を溶液重合法により行い、ニトリルゴムの溶液を得た場合には、水などを用いて凝固することができる。
【0049】
また、本発明の製造方法における凝固工程においては、凝固時の温度を10〜60℃、好ましくは20〜50℃、より好ましくは25〜50℃とする。重合工程により得られたニトリルゴムの分散液または溶液を、上記温度範囲にて凝固させることにより、凝固により得られるニトリルゴム中における残存有機酸量を、低減することができ、これにより、後述する水素添加反応工程における水素添加反応の反応率を適切に高めることができる。一方、凝固時の温度が低すぎる場合や、これとは逆に高すぎる場合には、凝固により得られるニトリルゴム中における残存有機酸量が多くなり過ぎてしまい、後述する水素添加反応工程における水素添加反応の反応率が低くなってしまう。なお、凝固により得られるニトリルゴム中における残存有機酸量は特に限定されないが、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以である。残存有機酸量は、たとえば、ニトリル基含有共重合体ゴムの有機溶剤抽出分をアルカリ溶液で滴定する方法により測定することができる。なお、残存有機酸量を上記範囲とする方法としては、凝固工程における凝固温度を上記範囲とする他、洗浄工程における洗浄を強化する方法なども挙げられる。
【0050】
<水素添加反応工程>
本発明の製造方法における水素添加反応工程は、上述した凝固工程で得られた固形状のニトリルゴムを、溶媒に分散または溶解させ、得られたニトリルゴムの分散液または溶液について水素添加反応を行うことで、高飽和ニトリルゴムの分散液または溶液を得る工程であり、本発明の製造方法においては、以下の条件において、水素添加反応を行うものである。
すなわち、ニトリルゴムの分散液または溶液中における、ニトリルゴムの含有量100重量%に対する、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物の含有量を50重量ppm以下、炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物の含有量を1〜120重量ppmに調整し、これらの含有量がこのような範囲にある状態にて、水素添加反応を行うものである。なお、本発明において、水素添加反応とは、ニトリルゴム中に含まれる炭素−炭素二重結合の少なくとも一部を水素添加して、炭素−炭素飽和結合に変換する反応を言うが、その水素添加率は特に限定されない。
【0051】
本発明の製造方法においては、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物の含有量および炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物の含有量を上記範囲とした状態にて、水素添加反応を行うことで、水素添加反応における反応率を向上させることができ、これにより、水素転化率が高められた高飽和ニトリルゴムを適切に得ることができるものである。特に、本発明の製造方法においては、水素化触媒の量を、水素化前のニトリルゴム100重量%に対して、好ましくは10〜1000重量ppm、より好ましくは10〜800重量ppmと比較的少ない使用量とした場合でも、水素添加反応における反応率を高いものとすることができ、これにより、水素転化率が高められた高飽和ニトリルゴムを適切に得ることができるものである。
【0052】
本発明の製造方法において、水素添加反応を行う際における、ニトリルゴムの分散液または溶液中の、ニトリルゴムの含有量100重量%に対する、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物の含有量は50重量ppm以下であり、好ましくは40重量ppm以下、より好ましくは30重量ppm以下である。また、下限は特に限定されないが、通常、0.1重量ppm以上である。炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物の含有量が多すぎると、水素添加反応における反応率の向上効果が得られなくなってしまう。
【0053】
また、本発明の製造方法において、水素添加反応を行う際における、ニトリルゴムの分散液または溶液中の、ニトリルゴムの含有量100重量%に対する、炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物の含有量は1〜120重量ppmであり、好ましくは1〜100重量ppm、より好ましくは1〜90重量ppmである。炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物の含有量が少なすぎても、あるいは、多すぎても、水素添加反応における反応率の向上効果が得られなくなってしまう。
【0054】
本発明の製造方法において、水素添加反応を行う際における、ニトリルゴムの分散液または溶液中の、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物の含有量および炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物の含有量を上記範囲とする方法としては、特に限定されないが、上述した凝固工程で得られた固形状のニトリルゴムを、溶媒に分散または溶解させた後に、これらの化合物の含有量が上記範囲となるように、添加する方法が挙げられる。なお、この際において、上述した重合工程において、分子量調整剤として、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物や炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物を使用した場合には、凝固後のニトリルゴムに含有されるこれらの化合物の含有量を考慮した上で、これらの化合物を添加すればよい。
【0055】
また、本発明の製造方法において、ニトリルゴムの水素添加反応を行う際には、上述した凝固工程で得られた固形状のニトリルゴムを、水に分散させて、水層で水素添加する水層水素添加法を採用してもよいし、あるいは、上述した凝固工程で得られた固形状のニトリルゴムを、溶剤に溶解させて、油層で水素添加する油層水素添加法を採用してもよい。
【0056】
油層水素添加法の溶媒としては、ニトリルゴムを溶解する液状有機化合物であれば特に限定されないが、ベンゼン、クロロベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、シクロヘキサノンおよびアセトンなどが好ましく使用される。
【0057】
水層水素添加法は、水素化触媒存在下の反応系に水素を供給して水素化する水層直接水素添加法と、酸化剤、還元剤及び活性剤の存在下で還元して水素化する水層間接水素添加法とが挙げられるが、これらの中でも、水層直接水素添加法が好ましい。
【0058】
水素添加反応に用いる水素化触媒は特に限定されないが、通常、周期律表第VIII族に属する金属またはその金属化合物が用いられる。周期律表第VIII族に属する元素の中でも、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金などの白金族元素が好ましい。これらの中でもパラジウム、ロジウムがより好ましく、パラジウムが特に好ましい。水素化触媒は周期律表第VIII族に属する金属および金属化合物から選ばれた2種以上を併用してもよい。その場合もパラジウムを主たる活性成分とすることが好ましい。
【0059】
また、水素化触媒は周期律表第VIII族に属する金属以外の金属成分を含むことができる。そのような成分としては、銀、銅、金、テルル、亜鉛、クロム、モリブデン、錫、ビスマス、鉛などが挙げられる。一般的に合金触媒においては、合金組成に応じてその成分元素の特性が出現すると言われており、添加金属成分の量は周期律表第VIII族金属100重量部に対して0.01〜100重量部、より好ましくは0.1〜10重量部である。
【0060】
水素化触媒は、担体に担持することなく非担持型(均一系)触媒として使用することができる。あるいは、活性炭、活性白土、アルミナゲル、シリカゲル、けいそう土など公知の触媒用担体に担持して担持型(不均一系)触媒としても使用できる。この場合、金属成分の担持量は担体に対して、通常0.5〜80重量%、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは2〜30重量%である。
【0061】
触媒金属成分の担体への担持は公知の方法に従って行えばよく、例えば、含浸法、コーティング法、噴霧法、吸着法、沈殿法などが挙げられる。金属成分を担体に担持したのち、該担体を使用する反応器の種類や反応形式などに応じて、適当な形状、例えば、球状、円柱状、多角柱状、ハニカム状などに成形することもできる。
【0062】
水素化触媒としてパラジウム系触媒(パラジウムおよび/またはパラジウム化合物)を用いる場合、パラジウム化合物としては通常II価またはIV価のパラジウム化合物が用いられる。その形態は塩、錯塩および錯体のいずれであってもよく、例えば、酢酸パラジウム、シアン化パラジムなどの有機酸塩;フッ化パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウムなどのハロゲン化物;硝酸パラジウム、硫酸パラジウムなどの酸素酸塩;酸化パラジウム;水酸化パラジウム;ジクロロシクロオクタジエンパラジウム、ジクロロノルボルナジエンパラジウム、テトラキスアセトニトリルパラジウムテトラフロロボレート、テトラキスベンゾニトリルパラジウムジテトラフロロボレート、ジクロロビスアセトニトリルパラジウム、ジクロロビスエチレンジアミンパラジウム、ビスアセチルアセトナトパラジウム、トリストリフェニルフォスフィンアセトニトリルパラジウムテトラフロロボレート、ジクロロビストリエチルフォスフィンパラジウム、ジクロロビス(ジメチルスルフィド)パラジウム、ジベンゾイルスルフィドパラジウム、ビス(2,2′−ビピリジン)パラジウムパークロレート、テトラキス(ピリジン)パラジウムジクロライドなどの錯塩または錯体;などが挙げられる。
【0063】
これらのパラジウム化合物は、市販品を入手して使用することができる。また「新実験化学講座」第8,12巻(丸善1976年刊)や「貴金属の化学と応用」(講談社サイエンティフィック1984年刊)などに記載される方法に従って調製したものを使用することもできる。
【0064】
水素添加反応の反応温度は、通常0℃〜200℃、好ましくは5℃〜150℃、より好ましくは10〜100℃である。反応温度を過度に高くすると、ニトリル基の水素化のような副反応が起こったり、反応溶媒が水素化されたりするので望ましくない。また、反応温度を過度に低くすると、反応速度が低下して実用的ではない。
【0065】
水素添加反応の水素の圧力は、通常、大気圧〜20MPaであり、好ましくは大気圧〜15MPa、より好ましくは大気圧〜10MPaである。反応時間は特に限定されないが、通常30分〜50時間である。
【0066】
水素添加反応終了後、得られた高飽和ニトリルゴムの分散液または溶液から、高飽和ニトリルゴムを回収(単離)する方法は特に限定されず、工業的に通常用いられる方法を適宜採用すればよい。たとえば、高飽和ニトリルゴムの分散液または溶液を水蒸気と直接接触させる水蒸気凝固法、加熱した回転ドラム上に、高飽和ニトリルゴムの分散液または溶液を滴下させて溶媒を蒸発させる方法、高飽和ニトリルゴムの分散液または溶液中の溶媒を減圧下で蒸発させる直接乾燥法などが挙げられる。分離された高飽和ニトリルゴムは、熱風乾燥、減圧乾燥あるいは押し出し乾燥などの乾燥工程を経て、固形の高飽和ニトリルゴムとして回収される。
【0067】
本発明の製造方法によれば、水素化触媒の量を、水素化前のニトリルゴム100重量%に対して、好ましくは10〜1000重量ppm、より好ましくは10〜800重量ppmと比較的少ない使用量とした場合でも、水素添加反応における反応率を高いものとすることができ、結果として、水素添加反応に用いる水素化触媒の量を低減しながら、水素転化率が高められた高飽和ニトリルゴム(好ましくは、水素転化率が50%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上と高められた高飽和ニトリルゴム)を適切に得ることができるものである。そして、このような本発明の製造方法により得られる高飽和ニトリルゴムのヨウ素価は、好ましくは80以下、より好ましくは50以下であり、耐候性、耐オゾン性、耐熱性、耐寒性などの諸特性に優れたものであるため、広範囲の工業的用途に使用することができるものである。ここでいうヨウ素価はJIS K 6235に準じて測定される値である。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り重量基準である。また、試験および評価は下記によった。
【0069】
ニトリルゴム中に含まれる、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物および炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物の含有量
JIS K6229に従い、ニトリルゴムについてメタノール抽出を行った。そして、得られた抽出物をクロロホルムに溶解し、JIS K0114およびJIS K6231に準拠して、ガスクロマトグラフィーによりピーク面積の測定を行い、炭素数9〜12のメルカプタンを用いた検量線法によって、ニトリルゴム中の炭素数12以下のメルカプト基を有する化合物の含有量および炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物の含有量を測定した。
なお、ガスクロマトグラフィーによる測定の測定条件は以下の通りである。
分離カラム:DB1(長さ30m、内径0.25mm、膜厚1.0μm)
カラムオーブンの昇温温度:50℃で2分間保持した後、10℃/minで280℃まで昇温
インジェクション温度:280℃
検出器温度:280℃
【0070】
ニトリルゴムに含まれる残存有機酸量の測定
JIS K6237「原料ゴム−SBRの石けん分及び有機酸分の求め方」に準拠して、ニトリルゴム組成物についてETA抽出を行い、得られた抽出物について0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液によって滴定を行い、ニトリルゴム中の残存有機酸量を測定した。
【0071】
合成例1(ニトリルゴムのラテックス(A1)の製造)
反応器内でイオン交換水200部に、炭酸ナトリウム0.2部を溶解し、次いで、脂肪酸カリウム石鹸(脂肪酸のカリウム塩)2.25部を添加して石鹸水溶液を調製した。そして、得られた石鹸水溶液に、アクリロニトリル38部、分子量調整剤としての2,2,4,6,6−ペンタメチル−4−ヘプタンチオール(炭素数12のメルカプト基を有する化合物)0.5部をこの順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン62部を仕込んだ。次いで、反応器内を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部、還元剤、およびキレート剤適量を仕込み、重合反応を開始した。そして、重合転化率が90%になった時点で、濃度10重量%のハイドロキノン(重合停止剤)水溶液0.1部を加えて重合反応を停止させた。次いで、得られた重合反応液を30℃で3時間撹拌し、未反応ブタジエンを除去した後、重合反応液を50℃に加温し、水酸化カリウム2.5重量%水溶液を、重合反応液中に含まれる共重合体100部に対して、水酸化カリウムの添加量が0.5部となるように加えて3時間撹拌した後、水温60℃のロータリーエバポレ−タで減圧濃縮して、ニトリルゴムのラテックス(A1)を得た。ニトリルゴムのラテックス(A1)を構成するニトリルゴム100重量%に対する、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物の含有量は20.0重量ppm、炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物の含有量は0重量ppmであった。
【0072】
合成例2(ニトリルゴムのラテックス(A2)の製造)
反応器内でイオン交換水200部に、炭酸ナトリウム0.2部を溶解し、次いで、脂肪酸カリウム石鹸(脂肪酸のカリウム塩)2.25部を添加して石鹸水溶液を調製した。そして、得られた石鹸水溶液に、アクリロニトリル38部、分子量調整剤としてのt−ドデシルメルカプタン(炭素数9〜16であるメルカプト基を有する化合物の混合物)0.5部をこの順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン62部を仕込んだ。次いで、反応器内を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部、還元剤、およびキレート剤適量を仕込み、重合反応を開始した。そして、重合転化率が90%になった時点で、濃度10重量%のハイドロキノン(重合停止剤)水溶液0.1部を加えて重合反応を停止させた。次いで、得られた重合反応液を30℃で3時間撹拌し、未反応ブタジエンを除去した後、重合反応液を50℃に加温し、水酸化カリウム2.5重量%水溶液を、重合反応液中に含まれる共重合体100部に対して、水酸化カリウムの添加量が0.5部となるように加えて3時間撹拌した後、水温60℃のロータリーエバポレ−タで減圧濃縮して、ニトリルゴムのラテックス(A2)を得た。ニトリルゴムのラテックス(A2)を構成するニトリルゴム100重量%に対する、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物の含有量は13.5重量ppm、炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物の含有量は0.5重量ppmであった。
【0073】
合成例3(ニトリルゴムのラテックス(A3)の製造)
反応器内でイオン交換水200部に、炭酸ナトリウム0.2部を溶解し、次いで、脂肪酸カリウム石鹸(脂肪酸のカリウム塩)2.25部を添加して石鹸水溶液を調製した。そして、得られた石鹸水溶液に、アクリロニトリル38部、分子量調整剤としての2,2,4,6,6−ペンタメチル−4−ヘプタンチオール(炭素数12のメルカプト基を有する化合物)0.1部および2,2,4,6,6−ペンタメチル−4−オクタンチオール(炭素数13のメルカプト基を有する化合物)0.3部をこの順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン62部を仕込んだ。次いで、反応器内を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部、還元剤、およびキレート剤適量を仕込み、重合反応を開始した。そして、重合転化率が90%になった時点で、濃度10重量%のハイドロキノン(重合停止剤)水溶液0.1部を加えて重合反応を停止させた。次いで、得られた重合反応液を30℃で3時間撹拌し、未反応ブタジエンを除去した後、水温60℃のロータリーエバポレ−タで減圧濃縮して、ニトリルゴムのラテックス(A3)を得た。ニトリルゴムのラテックス(A3)を構成するニトリルゴム100重量%に対する、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物の含有量は15.0重量ppm、炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物の含有量は45.0重量ppmであった。
【0074】
合成例4(ニトリルゴムのラテックス(A4)の製造)
反応器内でイオン交換水200部に、炭酸ナトリウム0.2部を溶解し、次いで、脂肪酸カリウム石鹸(脂肪酸のカリウム塩)2.25部を添加して石鹸水溶液を調製した。そして、得られた石鹸水溶液に、アクリロニトリル38部、分子量調整剤としてのt−ドデシルメルカプタン(炭素数9〜16であるメルカプト基を有する化合物の混合物)0.5部をこの順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン62部を仕込んだ。次いで、反応器内を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部、還元剤、およびキレート剤適量を仕込み、重合反応を開始した。そして、重合転化率が90%になった時点で、濃度10重量%のハイドロキノン(重合停止剤)水溶液0.1部を加えて重合反応を停止させた。次いで、得られた重合反応液を30℃で3時間撹拌し、未反応ブタジエンを除去した後、水温60℃のロータリーエバポレ−タで減圧濃縮して、ニトリルゴムのラテックス(A4)を得た。ニトリルゴムのラテックス(A4)を構成するニトリルゴム100重量%に対する、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物の含有量は77.0重量ppm、炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物の含有量は3.0重量ppmであった。
【0075】
実施例1
合成例1で得られたニトリルゴムのラテックス(A1)中に含まれるニトリルゴム分に対して3重量%となる量の硫酸アルミニウムの水溶液を準備し、これを30℃に加温した後、合成例1で得られたニトリルゴムのラテックス(A1)を、硫酸アルミニウムの水溶液に添加して、温度30℃にて撹拌することで凝固させ、水で洗浄しつつ濾別した後、60℃で12時間真空乾燥することで、固形状のニトリルゴム(A1−1)を得た。ニトリルゴム(A1−1)の残存有機酸量は7重量%であった。
【0076】
そして、得られたニトリルゴム(A1−1)を、濃度12重量%となるようにアセトンに溶解することで、ニトリルゴム(A1−1)のアセトン溶液を得て、これをオートクレーブに入れ、ニトリルゴム(A1−1)100重量%に対して、パラジウム・シリカ触媒200重量ppm、2,2,4,6,6−ペンタメチル−4−オクタンチオール(炭素数13のメルカプト基を有する化合物)20重量ppmを加えた後、水素圧3.0MPaで6時間水素添加反応を行なった。水素添加反応終了後、大量の水中に注いで凝固させ、濾別および乾燥を行なうことで、高飽和ニトリルゴムを得た。得られた高飽和ニトリルゴムについて、H−NMRにより水素化率を測定したところ、水素化率は95%であった。
【0077】
実施例2
実施例1と同様にしてニトリルゴム(A1−1)のアセトン溶液を得た後、ニトリルゴム(A1−1)のアセトン溶液に添加する2,2,4,6,6−ペンタメチル−4−オクタンチオール(炭素数13のメルカプト基を有する化合物)の量を、20重量ppmから80重量ppmに変更した以外は、実施例1と同様にして水素添加反応を行うことで、高飽和ニトリルゴムを得た。得られた高飽和ニトリルゴムについて、H−NMRにより水素化率を測定したところ、水素化率は90%であった。
【0078】
実施例3
実施例1と同様にしてニトリルゴム(A1−1)のアセトン溶液を得た後、ニトリルゴム(A1−1)のアセトン溶液に対して、2,2,4,6,6−ペンタメチル−4−オクタンチオール(炭素数13のメルカプト基を有する化合物)20重量ppmの代わりに、2,2,4,6,6,8,8−ヘプタメチル−4−ノナンチオール(炭素数16のメルカプト基を有する化合物)20重量ppmを添加した以外は、実施例1と同様にして水素添加反応を行うことで、高飽和ニトリルゴムを得た。得られた高飽和ニトリルゴムについて、H−NMRにより水素化率を測定したところ、水素化率は96%であった。
【0079】
実施例4
合成例2で得られたニトリルゴムのラテックス(A2)中に含まれるニトリルゴム分に対して3重量%となる量の硫酸アルミニウムの水溶液を準備し、これを30℃に加温した後、合成例2で得られたニトリルゴムのラテックス(A2)を、硫酸アルミニウムの水溶液に添加して、温度30℃にて撹拌することで凝固させ、水で洗浄しつつ濾別した後、60℃で12時間真空乾燥することで、固形状のニトリルゴム(A2−1)を得た。ニトリルゴム(A2−1)の残存有機酸量は7重量%であった。
【0080】
そして、得られたニトリルゴム(A2−1)を、濃度12重量%となるようにアセトンに溶解することで、ニトリルゴム(A2−1)のアセトン溶液を得て、これをオートクレーブに入れ、ニトリルゴム(A2−1)100重量%に対して、パラジウム・シリカ触媒200重量ppm、2,2,4,6,6−ペンタメチル−4−オクタンチオール(炭素数13のメルカプト基を有する化合物)5重量ppmを加えた後、水素圧3.0MPaで6時間水素添加反応を行なった。水素添加反応終了後、大量の水中に注いで凝固させ、濾別および乾燥を行なうことで、高飽和ニトリルゴムを得た。得られた高飽和ニトリルゴムについて、H−NMRにより水素化率を測定したところ、水素化率は90%であった。
【0081】
実施例5
実施例4と同様にしてニトリルゴム(A2−1)のアセトン溶液を得た後、ニトリルゴム(A2−1)のアセトン溶液に添加する2,2,4,6,6−ペンタメチル−4−オクタンチオール(炭素数13のメルカプト基を有する化合物)の量を、5重量ppmから50重量ppmに変更した以外は、実施例4と同様にして水素添加反応を行うことで、高飽和ニトリルゴムを得た。得られた高飽和ニトリルゴムについて、H−NMRにより水素化率を測定したところ、水素化率は95%であった。
【0082】
実施例6
合成例3で得られたニトリルゴムのラテックス(A3)中に含まれるニトリルゴム分に対して3重量%となる量の硫酸アルミニウムの水溶液を準備し、これを30℃に加温した後、合成例3で得られたニトリルゴムのラテックス(A3)を、硫酸アルミニウムの水溶液に添加して、温度30℃にて撹拌することで凝固させ、水で洗浄しつつ濾別した後、60℃で12時間真空乾燥することで、固形状のニトリルゴム(A3−1)を得た。ニトリルゴム(A3−1)の残存有機酸量は7重量%であった。
【0083】
そして、得られたニトリルゴム(A3−1)を、濃度12重量%となるようにアセトンに溶解することで、ニトリルゴム(A3−1)のアセトン溶液を得て、これをオートクレーブに入れ、ニトリルゴム(A3−1)100重量%に対して、パラジウム・シリカ触媒200重量ppmを加えた後、水素圧3.0MPaで6時間水素添加反応を行なった。水素添加反応終了後、大量の水中に注いで凝固させ、濾別および乾燥を行なうことで、高飽和ニトリルゴムを得た。得られた高飽和ニトリルゴムについて、H−NMRにより水素化率を測定したところ、水素化率は95%であった。
【0084】
比較例1
実施例1と同様にしてニトリルゴム(A1−1)のアセトン溶液を得た後、ニトリルゴム(A1−1)のアセトン溶液に、2,2,4,6,6−ペンタメチル−4−オクタンチオール(炭素数13のメルカプト基を有する化合物)を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして水素添加反応を行うことで、高飽和ニトリルゴムを得た。得られた高飽和ニトリルゴムについて、H−NMRにより水素化率を測定したところ、水素化率は70%であった。
【0085】
比較例2
実施例1と同様にしてニトリルゴム(A1−1)のアセトン溶液を得た後、ニトリルゴム(A1−1)のアセトン溶液に添加する2,2,4,6,6−ペンタメチル−4−オクタンチオール(炭素数13のメルカプト基を有する化合物)の量を、20重量ppmから140重量ppmに変更した以外は、実施例1と同様にして水素添加反応を行うことで、高飽和ニトリルゴムを得た。得られた高飽和ニトリルゴムについて、H−NMRにより水素化率を測定したところ、水素化率は65%であった。
【0086】
比較例3
実施例4と同様にしてニトリルゴム(A2−1)のアセトン溶液を得た後、ニトリルゴム(A2−1)のアセトン溶液に、2,2,4,6,6−ペンタメチル−4−オクタンチオール(炭素数13のメルカプト基を有する化合物)を添加しなかった以外は、実施例4と同様にして水素添加反応を行うことで、高飽和ニトリルゴムを得た。得られた高飽和ニトリルゴムについて、H−NMRにより水素化率を測定したところ、水素化率は75%であった。
【0087】
比較例4
合成例4で得られたニトリルゴムのラテックス(A4)中に含まれるニトリルゴム分に対して3重量%となる量の硫酸アルミニウムの水溶液を準備し、これを30℃に加温した後、合成例4で得られたニトリルゴムのラテックス(A4)を、硫酸アルミニウムの水溶液に添加して、温度30℃にて撹拌することで凝固させ、水で洗浄しつつ濾別した後、60℃で12時間真空乾燥することで、固形状のニトリルゴム(A4−1)を得た。ニトリルゴム(A4−1)の残存有機酸量は7重量%であった。
【0088】
そして、得られたニトリルゴム(A4−1)を、濃度12重量%となるようにアセトンに溶解することで、ニトリルゴム(A4−1)のアセトン溶液を得て、これをオートクレーブに入れ、ニトリルゴム(A4−1)100重量%に対して、パラジウム・シリカ触媒200重量ppmを加えた後、水素圧3.0MPaで6時間水素添加反応を行なった。水素添加反応終了後、大量の水中に注いで凝固させ、濾別および乾燥を行なうことで、高飽和ニトリルゴムを得た。得られた高飽和ニトリルゴムについて、H−NMRにより水素化率を測定したところ、水素化率は60%であった。
【0089】
比較例5
硫酸アルミニウムの水溶液を用いて凝固を行う際の凝固温度を5℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、ニトリルゴムのラテックス(A1)について凝固を行うことで、固形状のニトリルゴム(A1−2)を得た。ニトリルゴム(A1−2)の残存有機酸量は25重量%であった。
【0090】
そして、得られたニトリルゴム(A1−2)を、濃度12重量%となるようにアセトンに溶解することで、ニトリルゴム(A1−2)のアセトン溶液を得て、これをオートクレーブに入れ、ニトリルゴム(A1−2)100重量%に対して、パラジウム・シリカ触媒200重量ppm、2,2,4,6,6−ペンタメチル−4−オクタンチオール(炭素数13のメルカプト基を有する化合物)20重量ppmを加えた後、水素圧3.0MPaで6時間水素添加反応を行なった。水素添加反応終了後、大量の水中に注いで凝固させ、濾別および乾燥を行なうことで、高飽和ニトリルゴムを得た。得られた高飽和ニトリルゴムについて、H−NMRにより水素化率を測定したところ、水素化率は80%であった。
【0091】
比較例6
硫酸アルミニウムの水溶液を用いて凝固を行う際の凝固温度を70℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、ニトリルゴムのラテックス(A1)について凝固を行うことで、固形状のニトリルゴム(A1−3)を得た。ニトリルゴム(A1−3)の残存有機酸量は30重量%であった。
【0092】
そして、得られたニトリルゴム(A1−3)を、濃度12重量%となるようにアセトンに溶解することで、ニトリルゴム(A1−3)のアセトン溶液を得て、これをオートクレーブに入れ、ニトリルゴム(A1−3)100重量%に対して、パラジウム・シリカ触媒200重量ppm、2,2,4,6,6−ペンタメチル−4−オクタンチオール(炭素数13のメルカプト基を有する化合物)20重量ppmを加えた後、水素圧3.0MPaで6時間水素添加反応を行なった。水素添加反応終了後、大量の水中に注いで凝固させ、濾別および乾燥を行なうことで、高飽和ニトリルゴムを得た。得られた高飽和ニトリルゴムについて、H−NMRにより水素化率を測定したところ、水素化率は75%であった。
【0093】
【表1】
なお、表1中における、水素添加反応に用いた溶液中のメルカプト基を有する化合物の含有量は、ニトリルゴムのラテックス中に残存していたメルカプト基を有する化合物の残存量と、水素添加反応前に追加添加したメルカプト基を有する化合物の使用量とから求めた。
【0094】
表1より、ニトリルゴムのラテックスを凝固する際の凝固温度を10〜60℃の範囲とし、かつ、水素添加反応を行う際における、ニトリルゴムの溶液中における、ニトリルゴムの含有量100重量%に対する、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物の含有量を50重量ppm以下、炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物の含有量を1〜120重量ppmとした場合には、水素化触媒の使用量を200重量ppmと比較的少ないものとした場合でも、水素添加反応における水素化反応率が、いずれも90%以上となり、高い水素化反応率を実現することが可能であった(実施例1〜6)。
【0095】
一方、水素添加反応を行う際における、ニトリルゴムの溶液中における、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物の含有量、または、炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物の含有量が本発明所定の範囲からはずれている場合には、水素添加反応における水素化反応率が、低くなる結果となった(比較例1〜4)。
また、ニトリルゴムのラテックスを凝固する際の凝固温度が本発明所定の範囲からはずれている場合にも、同様に、水素添加反応における水素化反応率が、低くなる結果となった(比較例5,6)。
【要約】
溶媒中で、少なくともα、β-エチレン性不飽和ニトリル単量体およびジエン単量体を含む単量体混合物を重合することで、ニトリルゴムの分散液または溶液を得る重合工程と、前記ニトリルゴムの分散液または溶液を、10〜60℃で凝固させることで、固形状のニトリルゴムを得る凝固工程と、前記凝固工程により得られた固形状のニトリルゴムを、溶媒に分散または溶解させ、得られたニトリルゴムの分散液または溶液について水素添加反応を行うことで、高飽和ニトリルゴムの分散液または溶液を得る水素添加反応工程と、を備え、前記水素添加反応を行う際における、前記ニトリルゴムの分散液または溶液中における、前記ニトリルゴムの含有量100重量%に対する、炭素数9〜12のメルカプト基を有する化合物の含有量を50重量ppm以下、炭素数13〜16のメルカプト基を有する化合物の含有量を1〜120重量ppmとすることを特徴とする高飽和ニトリルゴムの製造方法を提供する。