特許第5967467号(P5967467)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5967467磁性シート、伝送コイル部品及び非接触充電装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967467
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】磁性シート、伝送コイル部品及び非接触充電装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 38/14 20060101AFI20160728BHJP
   H02J 50/10 20160101ALI20160728BHJP
【FI】
   H01F38/14
   H02J50/10
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-287080(P2011-287080)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-138045(P2013-138045A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森山 義幸
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−256555(JP,A)
【文献】 特許第4835787(JP,B2)
【文献】 特開2002−198490(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/096569(WO,A1)
【文献】 特開2011−120432(JP,A)
【文献】 特開昭59−090996(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/080820(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 38/14
H02J 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非接触充電装置の伝送コイル部品に用いられ、前記伝送コイル部品の平面コイルを覆う第1の磁性シート部と、
前記第1の磁性シート部に形成された開口部内に、一部を除き前記開口部の縁から離間して配置された磁気吸着部材として機能する第2の磁性シート部と、
前記第1の磁性シート部及び第2の磁性シート部と一体で構成され、前記第2の磁性シート部の前記一部と前記第1の磁性シート部の一部とを連結する連結部とを有する磁性シート。
【請求項2】
前記開口部と前記第1の磁性シート部の外縁側とを連通させる連通部を有することを特徴とする請求項1に記載の磁性シート。
【請求項3】
前記連通部は前記第2の磁性シート部を挟んで前記連結部の反対側に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の磁性シート。
【請求項4】
前記開口部の縁と該縁と対向する前記第2の磁性シート部の外縁との間隔が、前記第2の磁性シート部の外縁に沿って一定であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁性シート。
【請求項5】
一体で構成された、前記第1の磁性シート部、前記第2の磁性シート部および前記連結部が微結晶軟磁性合金薄帯であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の磁性シート。
【請求項6】
平面状コイルと、前記平面状コイルの後面側に配置されたコイルヨークを有し、
前記コイルヨークが請求項1〜5のいずれか一項に記載の磁性シートであることを特徴とする伝送コイル部品。
【請求項7】
二つの伝送コイル部品を対向させて前記伝送コイル部品間で電力伝送を行う非接触充電装置であって、
前記伝送コイル部品の一方が請求項6に記載のコイル部品であり、
前記伝送コイル部品の他方は、平面状コイルと、前記平面状コイルの内側に配置された永久磁石を磁気吸着部材とし
前記永久磁石と前記第2の磁性シート部とが対向して配置されることを特徴とする非接触充電装置。
【請求項8】
前記永久磁石と前記第2の磁性シート部の対向方向から見て、前記永久磁石の対向面よりも前記第2の磁性シート部の対向面の方が大きいことを特徴とする請求項7に記載の非接触充電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気シールド、磁気ヨーク等として機能する磁性シートに関する。さらにそれを用いた伝送コイル部品や非接触充電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型情報通信機器の高性能化、高機能化が進められており、特に、携帯電話、Web端末、ミュージックプレイヤー等は携帯機器としての利便性のため、長時間の連続使用が可能であることが求められている。これら小型情報通信機器では電源としてリチウムイオン電池などの二次電池が使用されている。この二次電池の充電方法には受電側の電極と給電側の電極とを直接接触させて充電を行う接触充電方式と、給電側と受電側の両方に伝送コイルを設け、電磁誘導を利用した電力伝送によって充電する非接触充電方式とがある。非接触充電方式は給電装置と受電装置を直接接触させるための電極が必要ないため、同じ給電装置を用いて異なる受電装置に充電することも可能である。
【0003】
非接触充電方式において、一次伝送コイルに発生した磁束は給電装置と受電装置の筐体を介して二次伝送コイルに起電力を発生させることで給電が行われる。したがって非接触充電方式において高い電力伝送効率を得るためには、一次コイル及び二次コイルの中心軸を一致させる必要がある。
【0004】
一方、高い電力伝送効率を得るためには、伝送コイルに対して、給電装置と受電装置の接触面とは反対側に磁性シートなどのコイルヨークが設置される。かかるコイルヨークには以下のような役割がある。第一の役割は、磁気シールド材としての役割である。非接触充電装置の充電作業中に発生した漏れ磁束が二次電池を構成する金属部材などの他の部品に流れると、これらの部品が渦電流によって発熱する。コイルヨークは、磁気シールド材としてこの発熱を抑制できる。コイルヨークの第二の役割は、充電中にコイルで発生した磁束を還流させるヨーク部材として作用することである。
【0005】
電力伝送効率の低下を抑制しつつ、簡単な構造の非接触充電装置の提供を目的とし、磁気吸着手段を伝送コイルの内側に配置して一次コイル及び二次コイルの中心軸を一致させる構成が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2011/096569公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非接触充電装置は主に小型情報通信機器の電源の充電用として用いられるため、小型・低背であることが必要とされる。これに対して、特許文献1に記載された構成によって非接触充電装置の小型化が図れるものの、情報通信機器の小型・低背化やコスト低減の要請に応えるためには、非接触充電装置のいっそうの小型化、簡略化が必要とされていた。また、位置決め・固定手段として永久磁石が用いられると、コイルヨークには伝送コイルから発生する磁束と永久磁石から発生する磁束が流れるため、コイルヨークが部分的に磁気飽和しやすくなる。小型化のために単純に永久磁石をコイルヨークに近づけてしまうとかかる傾向が顕著になる。伝送コイルと近接する部分のコイルヨークが磁気飽和してしまうと、磁気飽和した部分は透磁率が低下するのでコイルヨークとしての機能が十分得られず、充電装置の電力伝送効率が低下してしまう。したがって、非接触充電装置の小型化の際には、コイルヨークの磁気飽和の問題も考慮する必要があった。
【0008】
これらの点に鑑み、本発明は、非接触充電装置やそれに用いる伝送コイル部品等の小型化、簡略化に寄与しうる磁性シートを提供することを目的とする。また、かかる磁性シートを用いて、伝送コイル部品および非接触充電装置の小型化、簡略化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の磁性シートは、非接触充電装置の伝送コイル部品に用いられ、前記伝送コイル部品の平面コイルを覆う第1の磁性シート部と、前記第1の磁性シート部に形成された開口部内に、一部を除き前記開口部の縁から離間して配置された磁気吸着部材として機能する第2の磁性シート部と、 前記第1の磁性シート部及び第2の磁性シート部と一体で構成され、前記第2の磁性シート部の前記一部と前記第1の磁性シート部の一部とを連結する連結部とを有することを特徴とする。かかる構成によれば、例えば非接触充電装置やそれに用いる伝送コイル部品において、永久磁石に対向配置される磁気吸着部材として第2の磁性シート部を用いることができる。この場合、第1の磁性シート部と第2の磁性シート部との間に磁気ギャップが形成されているため、第1の磁性シート部の磁気飽和が抑制される。しかも、永久磁石に対向配置される磁気吸着部材を、第1の磁性シート部と一体で形成されている第2の磁性シート部で構成できるため、非接触充電装置やそれに用いる伝送コイル部品の小型化、簡略化が可能である。
【0010】
また、前記磁性シートにおいて、前記開口部と前記第1の磁性シート部の外縁側とを連通させる連通部を有することが好ましい。かかる構成によれば、母材から磁性シートを取り出す場合に、第1の磁性シートの外側の部分と開口部とを一体で除去できるため、開口部の形成工程を簡略化できる利点がある。
【0011】
さらに、前記磁性シートにおいて、前記連通部は前記第2の磁性シート部を挟んで前記連結部の反対側に配置されていることが好ましい。かかる構成によれば、開口部の形成工程をさらに簡略化できる。
【0012】
さらに、前記磁性シートにおいて、前記開口部の縁と該縁と対向する前記第2の磁性シート部の外縁との間隔が、前記第2の磁性シート部の外縁に沿って一定であることが好ましい。かかる構成を採用することで、特定の場所に磁束が集中し、磁気飽和しやすくなることを防ぐことができる。
【0013】
さらに、前記磁性シートにおいて、一体で構成された、前記第1の磁性シート部、前記第2の磁性シート部および前記連結部が微結晶軟磁性合金薄帯であることが好ましい。微結晶軟磁性合金薄帯は高透磁率を有し、コイルヨーク・磁気シールド用の材料として優れる一方、飽和しやすい。そのため、上記構成を備えた本願発明に適用する材料として特に好適である。
【0014】
本発明の伝送コイル部品は、平面状コイルと、前記平面状コイルの後面側に配置されたコイルヨークを有し、前記コイルヨークが前記のいずれかの磁性シートであることを特徴とする。磁気吸着部材の一部として使用可能な第2の磁性シート部と、コイルヨーク等として機能する第1の磁性シート部が一体で構成されているため、伝送コイル部品の小型化、簡略化を図ることができる。
【0015】
本発明の非接触充電装置は、二つの伝送コイル部品を対向させて前記伝送コイル部品間で電力伝送を行う非接触充電装置であって、前記伝送コイル部品の一方が請求項6に記載のコイル部品であり、前記伝送コイル部品の他方は、平面状コイルと、前記平面状コイルの内側に配置された永久磁石を磁気吸着部材とし、前記永久磁石と前記第2の磁性シート部とが対向して配置されることを特徴とする。かかる構成によれば、第1の磁性シート部と一体で構成された第2の磁性シート部が磁気吸着部材の一部として機能するため、磁気吸着部材に係る構成が簡略化され、非接触充電装置全体の小型化が可能である。
【0016】
さらに、前記非接触充電装置において、前記永久磁石と前記第2の磁性シート部の対向方向から見て、前記永久磁石の対向面よりも前記第2の磁性シート部の対向面の方が大きいことが好ましい。かかる構成によれば、永久磁石からの磁束が第1の磁性シート部に流れることを、より効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、非接触充電装置やそれに用いる伝送コイル部品の小型化、簡略化に寄与しうる磁性シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】非接触充電装置を構成する給電装置と受電装置を示す図である。
図2】本発明に係る磁性シートの実施形態を示す図である。
図3】本発明に係る磁性シートの他の実施形態を示す図である。
図4】本発明に係る磁性シートの他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る磁性シート、伝送コイル部品および非接触充電装置の実施形態を図を用いて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、各実施形態において説明する構成は、他の実施形態の趣旨を損なわない限りにおいて他の実施形態においても適用することが可能であり、その場合、重複する説明は適宜省略する。
【0020】
図1は二つの伝送コイル部品を対向させて前記伝送コイル部品間で電力伝送を行う非接触充電装置を示す断面図である。伝送コイル部品の一方が受電装置であり、他方が給電装置である。非接触充電装置の具体例は、例えば携帯通信端末とその充電器である。給電装置および/または受電装置に本発明に係る伝送コイル部品を適用する。受電装置には携帯端末など、受電機能を備えた電子機器本体の他、バッテリーユニット単体も含まれる。
【0021】
交流電源12に接続される給電装置14は回路部13を有する。回路部13は、交流電流を整流する整流回路、整流された直流電流を所定の周波数の高周波電流に変換するスイッチング回路を備える。給電装置14は、平面状コイル9と、平面状コイル9の内側に配置された磁気吸着部材10とを有する。回路部13から出力された高周波電流は一次伝送コイルである平面状コイル9に流れる。平面状コイル9は共振用コンデンサ(図示せず)に接続され、スイッチング回路によって変換される所定周波数と同じ周波数で共振する。給電装置14にはスイッチング回路の動作を制御するための制御回路を設けても良い。
【0022】
受電装置7は、二次伝送コイルである平面状コイル4と、前記平面状コイル4の後面側に配置されたコイルヨークとして磁性シート18とを備える。なお、一次伝送コイルと対向する側を前面側、逆側を後面側と称することとする。二次伝送コイルである平面状コイル4に加えて共振用コンデンサを配置することで共振回路を構成できる。平面状コイル4には、整流回路(図示せず)を介して二次電池6が接続されており、電磁誘導によって平面状コイル4に誘起された誘導電流は整流回路で整流され、二次電池6が充電される。
【0023】
給電装置14および受電装置7は、例えば樹脂等の非磁性の筐体に収容される。かかる筐体はそれぞれ平坦面を有し、該平坦面同士を対向させて充電を行う。給電装置と受電装置とは、上述の磁気吸着部材10を用いて互いに位置決め、固定される。例えば磁気吸着部材10は、磁石または該磁石からの磁束を誘導する磁気ヨークである。受電装置側にも磁石を設けて位置決め、固定することができるが、図1に示す構成の受電装置側では、第2の磁性シート部3に磁気吸着部材としての機能を持たせている。すなわち、給電装置側の磁気吸着部材10と受電側装置側の第2の磁性シート部3とが対向して配置されており、これらの間の磁気的な吸着力によって給電装置14と受電装置7とが位置決め、固定される。
【0024】
上記平面状コイル4、9は、その巻回軸が前記平坦面に垂直になるように(平面状のコイルの面が前記平坦面に平行になるように)筐体の内側に配置される。平面状コイル4、9の、前記平坦面の反対側(後面側)には、それぞれ磁性シート18、8が隣接して配置される。筐体内部には、例えば樹脂基板などの基板5、11が配置される。なお、磁性シートと磁気吸着部材の構成は、受電装置と給電装置とで互いに入れ替えて構成することも可能である。ただし、受電装置の小型化の要請が強いため、本願発明に係る磁性シートの構成は受電装置側で用いることが好ましい。給電装置側の磁性シート8は受電側の磁性シート1と同じ材質の磁性体を用いてもよいが、別の材質のものを用いてもよい。また、受電側の基板5を省略して、磁性シート18を二次電池6に直接貼付してもよい。磁性シート18、8は、二次電池6等を設置した基板5、11と平面状コイル4、9との間において、その主面が平面状コイル4、9と重なるように、または覆うように配置される。したがって、渦巻き状に巻回された平面状コイル4、9によって発生した磁束が磁性シート18、8に収束して通るようになり、磁性シートが磁気ヨークまたは磁気シールドとして機能する。平面状コイル4、9の巻回軸方向に対置された磁性シート18、8の部分について、以下具体的に説明する。
【0025】
(磁性シートの第1の実施形態)
図2に、本願発明に係る磁性シートの一例として、上述の非接触充電装置の受電装置7に用いる磁性シートを示す。(a)は平面状の磁性シートを主面の法線方向から見た平面図、(b)該磁性シートの中心を前記法線方向に切断した場合の断面図である。図2に示す磁性シートは外形が矩形の第1の磁性シート部1を有し、該磁性シート部1はその中央に円形の開口部2を有する。第1の磁性シート部の構成はかかる構成に限定されるものではない。例えば、第1の磁性シートの外形は矩形以外に、円形、楕円形、異形、さらにはそれらに凹凸をつけた形状など種々の構成を取ることができる。また、開口部2の形状も円形の他、楕円形、正方形・長方形などの矩形等にすることができる。但し、開口部の形状は、対置される磁気吸着部材の端面形状や該磁気吸着部材の周囲に配置される平面状コイルの内形の相似形状とすることが好ましい。なお、この場合の相似とは、矩形の場合の角部分のアールや微小な凹凸などの相違にかかわらず、全体形状が相似形状であればよいという趣旨である。
【0026】
図2に示す実施形態は、開口部2内に、一部を除き開口部2の縁から離間して配置された第2の磁性シート部3を有する。ここでいう「一部」とは、後述する連結部が構成される部分のことである。第2の磁性シート部3は前記一部を除き、全体として円形であり、開口部2の内形と相似となっている。磁性シートを平面状コイルの後面側に配置して非接触充電装置用受電装置などの伝送コイル部品を構成する際、コイルヨークや磁気シールドとしての機能は主に第1の磁性シート部1が発揮する。そのため、非接触充電装置を構成する際には、第1の磁性シート部1が給電側の平面コイルを覆うように、すなわち、第1の磁性シート部1の外縁が、給電側の平面コイルの外縁よりも外側になるような形状・配置にすることが好ましい。
【0027】
一方、第2の磁性シート部3は、図1に示すように非接触充電装置やそれに用いる伝送コイル部品において、永久磁石に対向配置される磁気吸着部材として機能させることができる。そのような場合でも、第2の磁性シート部3は開口部2の縁から離間して配置されているため、第2の磁性シート部3から第1の磁性シート部への磁束の流れやそれによる第1の磁性シート部1の磁気飽和を抑制することができる。開口部2の内形と第2の磁性シート部の外形を異なる形状にすることも可能であるが、図2に示す実施形態では、磁束が特定の部分に集中しないよう、開口部2の内形と第2の磁性シート部の外形をともに円形とし、開口部2の縁と該縁と対向する第2の磁性シート部3の外縁との間隔が、第2の磁性シート部3の外縁に沿って一定になるようにしてある。また、第2の磁性シート部3が開口部2の縁から離間して配置されることで、前述の効果は発揮されるが、開口部2の縁と該縁と対向する第2の磁性シート部3の外縁との間隔は第2の磁性シート部を構成する磁性層の総厚の5倍以上にすることがより好ましい。磁性層の総厚とは、磁性シートを複数の磁性層で構成した場合であれば、各磁性層の厚さの和である。微結晶軟磁性合金薄帯などの薄帯を用いて磁性シートを構成する場合、該間隔の絶対値は例えば1mm以上にするとよい。該間隔は、より好ましくは1.5mm以上である。一方、間隔が大きくなりすぎると、後面側への漏れ磁束が多くなる。漏れ磁束を低減するためには4mm以下にするとよい。該間隔は、より好ましくは3mm以下である。
【0028】
図2に示す磁性シートは、第1の磁性シート部1及び第2の磁性シート部3と一体で構成され、第2の磁性シート部3の前記一部と第1の磁性シート部1の一部とを連結する連結部15を備えている。第1の磁性シート部1及び第2の磁性シート部3と一体で構成されているので、第1の磁性シート部1及び第2の磁性シート部3は同材質であり、形状以外は実質的に同じ性状を有する。この場合、第1の磁性シート部材と第2のシート部材の厚さは実質的に同じになる。かかる構成の典型例は急冷薄帯である。該連結部15があることで上述のように異なる機能を備える複数の磁性シート部を一体で構成することが可能である。例えば、永久磁石に対向配置される磁気吸着部材を、第1の磁性シート部と一体で形成されている第2の磁性シート部で構成できるため、部品点数の低減、磁気吸着部材の低背化を通じて、非接触充電装置やそれに用いる伝送コイル部品の小型化、簡略化が可能である。
【0029】
ここで、連結部15は第2の磁性シート部3の一部と第1の磁性シート部1の一部とを連結するものであり、第2の磁性シート部3が片持ち梁のような形態で磁性シート部1に接続されている。少なくとも連結部15の幅は第2の磁性シート部の幅よりも小さく、第2の磁性シート部の外形が円形、矩形等と認識できる程度であることが必要である。これらの構成を満たせば、連結部を分割して形成することも可能であるが、開口部の機能の確保、工程の簡略化の観点からは、連結部は一か所で構成することが好ましい。第2の磁性シート部3から第1の磁性シート部1への磁束の流れを抑制する観点からは、連結部15の幅は第2の磁性シート部3の外周全体に対する比で0.2以下が好ましく、0.1以下がより好ましい。一方、連結部の幅が小さすぎると強度が落ちるため、前記比は0.01以上を確保することが好ましい。非接触充電装置用の場合であれば、連結部15の幅の絶対値の上限は、例えば6mm以下、より好ましくは5mmにするとよい。また、その下限は1mm以上にするとよい。
【0030】
図2に示した磁性シートは図1に示すような非接触充電装置に好適に用いられる。この場合、図1に示すように、磁気吸着部材10と第2の磁性シート部3の対向方向から見て、磁気吸着部材10の対向面よりも第2の磁性シート部3の対向面の方を大きくして、かかる対向方向から見て第2の磁性シート部3 が磁気吸着部材10全体内側に包含する構成にすることがより好ましい。かかる構成によれば磁気吸着部材10からの磁束が第1の磁性シート部1に流れることを、より効果的に抑制することができる.また、磁気吸着部材10の対向面よりも第2の磁性シート部3の対向面の方を大きくすることで、受電装置と給電装置との位置ずれの許容量も増える。前記対向方向から見て第2の磁性シート部の外縁が磁気吸着部材の外縁よりも1mm以上外側になるような大小関係、配置にすることがより好ましい。但し、第2の磁性シート部材の外縁が磁気吸着部材の外縁より大きくなりすぎると、対置するコイルと重なってしまうようになるので、実用上は第2の磁性シート部材の外縁が磁気吸着部材の外縁から5mm以内の範囲になるように配置することが好ましい。
【0031】
(磁性シートの第2の実施形態)
次に、図3に、本願発明に係る磁性シートの他の実施形態を示す。図3は平面状の磁性シートを主面の法線方向から見た平面図である。図2に示す実施形態と重複する構成の説明は省略する。図3に示す磁性シートは、開口部2と第1の磁性シート部1の外縁側とを連通させる連通部16を有する点で、図2に示す実施形態と異なる。図3に示す構成では連通部16は、その長手方向が開口部2の中心に向かう向きに配置されている。連通部16が形成されていることで、開口部2は第1の磁性シート部1の外縁まで続く、オープンな開口部となる。例えば磁性金属薄帯から磁性シートを取り出す場合、開口部2を形成するにあたって、開口部2に対応する部分の薄帯は除去する必要がある。開口部2がクローズした開口であると、かかる部分の薄帯の除去がしにくい。これに対して、磁性シート部1の外縁に対してオープンな開口であれば、磁性シート部1の外側の部分を除去する際に、かかる外側の部分とつながっている開口部2に対応する部分の薄帯も同時に除去でき、工程の簡略化が可能である。また、平面状コイルの後面側に、コイルヨークとして磁性シートを配置する場合、連通部16にコイルの末端の導線を這わせて、コイル内側からコイル外側へと導線を導出することもできる。
【0032】
連通部16の位置は連結部15と干渉しない位置であればよいが、連通部16は第2の磁性シート部3を挟んで連結部15の反対側に配置されていることがより好ましい。例えば、磁性シートを母材から取り出すために、母材を一方向に引きはがす場合、連通部と連結部が近すぎると開口部に対応する母材をスムーズに除去できない。これに対して、連通部16を第2の磁性シート部3を挟んで連結部15の反対側に配置することで、前記除去がしやすくなる。図3に示す構成では、連通部16の連通方向と連結部15の連結方向が同じ直線状に乗るような配置、すなわち第2の磁性シート部の中心からこれらを見た角度が180度になるような配置になっている。
【0033】
(磁性シートの第3の実施形態)
次に、図4に、本願発明に係る磁性シートの他の実施形態を示す。図4は平面状の磁性シートを主面の法線方向から見た平面図である。図3に示す実施形態と重複する構成の説明は省略する。図4に示す磁性シートは、第1の磁性シート部に開口部の中心から放射状に形成されたスリット17を有する点で、図3に示す実施形態と異なる。図1に示すような非接触充電装置の場合、平面状コイル9によって発生する磁束は、第1の磁性シート部1の径方向に流れる。そのため、図4に示すようなスリットを設けることで、前記磁束とスリット17の長手方向とが、略平行になっているため、スリット17によってかかる磁束による渦電流を抑制することができる。スリットは切れ目の形態で形成され、磁路を不連続にするものであればよい。但し、スリットの長手方向に垂直な方向の幅は、磁性体同士が離間するに十分な大きさとすることがより好ましい。この場合は例えば0.1mm以上とすればよい。スリットの幅を必要以上に大きくしても損失低減の効果がそれに伴って大きくなるわけではないので、例えば1mm以下とすることが好ましい。また、スリットはその両端が第1の磁性シート部内に位置してもよいが、一端が第1の磁性シート部の外縁まで到達している構成の方がその形成が容易である。スリットの数はこれを特に限定するものではない。図4に例示したスリットは7個であるが、それ以下でもよいし、それ以上設けてもよい。スリットを多く設けることで渦電流抑制の効果が高まる。磁性シートに形成するスリットは、軟磁性体に金属薄帯を用いる場合であれば、打ち抜き加工や切り込み加工によって形成すればよい。後述するように樹脂シートでラミネート加工する場合、ラミネート加工前にスリット形成してもよいし、ラミネート加工後にスリット形成してもよい。なお、スリット17は、連通部16を有する構成に限らず、連通部のない図2に示す構成等にも適用できる。
【0034】
磁性シートに用いる軟磁性体は、フェライト、ケイ素鋼板、ロール急冷により製造された磁性薄帯(以下、単に薄帯ともいう)およびこれらと樹脂の複合材などを用いることができる。渦電流損を低減し、充電の伝送効率を向上させるためには、軟磁性体を薄くすることが好ましい。この点、ロール急冷等により製造される磁性合金の薄帯が好適である。具体的には高飽和磁束密度を有するFe系アモルファス薄帯、Co系アモルファス薄帯、Fe系ナノ結晶軟磁性合金薄帯、Co系ナノ結晶軟磁性合金薄帯などからなる厚さ50μm以下の薄帯を用いるとよい。このうち、Fe系ナノ結晶軟磁性合金薄帯などの微結晶軟磁性合金薄帯は高透磁率を有するため、一体で構成された、前記第1の磁性シート部、前記第2の磁性シート部および前記連結部をかかる微結晶軟磁性合金薄帯で構成することが特に好ましい。一方、一般に高透磁率材料は磁気的に飽和しやすい。本願発明に係る磁性シートは、第1の磁性シート部と第2の磁性シート部とが離間しており、コイルヨークとして磁気飽和しにくい構成を採用しているため、微結晶軟磁性合金薄帯を用いて構成すると特に有効である。薄帯の一枚の厚さは、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは25μm以下である。ロール急冷等により製造される磁性薄帯を用いる場合、薄帯単層で磁性シートを構成してもよいし、複数の薄帯が樹脂等を介して積層された積層体で磁性シートを構成してもよい。磁性シートを積層体で構成することで磁気飽和もしにくくなる。
【0035】
積層等によって構成された磁性シートは、破損を防ぐために補強部材に固着されていることが好ましい。具体的には、具体的には、樹脂シートなどで金属薄帯をラミネート加工した磁性シートを用いることが好ましい。表裏二つの主面の一方に樹脂シートを設けても良いし、両方に設けても良い。但し、強度の確保、破損時の破片の飛散防止等の観点からは、表裏二つの主面の両方に樹脂シートを設けることがより好ましい。樹脂シートを用いることで磁性シートに優れた可撓性を付与することができる。磁性シートを軟磁性合金の薄帯で構成する場合、例えば2〜30層程度で構成すればよい。但し、コスト低減の観点からは薄帯の積層数は10層以下にすることがより好ましい。磁性シートに用いる全ての軟磁性体の厚さを足した厚さは500μm以下とすることができる。低背化のためには該厚さは300μm以下にするとよい。
【実施例】
【0036】
図3に示すスリット形状を有する磁性シートを用いて伝送コイル部品を構成した。磁性シートの軟磁性体には微結晶軟磁性合金薄帯を用いた。微結晶軟磁性合金薄帯として日立金属株式会社製のファインメット(登録商標)(FT3M材、厚さ18μm)を使用した。この薄帯に両面接着シート(厚さ10μm)を貼り付けたものを6枚積層し、最上面に露出する薄帯には厚さ31μmのPET樹脂を貼り付けた。この積層磁性シート全体の厚さは199μm、そのうち磁性体部分の総厚は108μmであった。第1の磁性シート部の外形は正方形であり、縦、横が45mmである。円形の開口部の直径は25mm、円形の第2の磁性シート部の直径は20mmであり、第2の磁性シート部を開口部の縁から2.5mm離間して配置した。すなわち、開口部の縁と第2の磁性シート部の外縁との間隔が第2の磁性シート部を構成する磁性層の総厚の23倍であった。連結部の幅及び連通部の幅は4mmである。積層した母材からの該形状の磁性シートの取り出しは、該形状の切込みを母材に入れた後に、不要な部分を引き剥がして除去することで行った。この場合、連通部があることで、磁性シートの外側の不要部分と開口部の不要部分とを一度に引き剥がし、除去することができた。連通部がない場合は、開口部の不要部分の除去に別工程を必要としていたが、連通部があることで該工程が不要となった。前記磁性シート(No.1)と平面状コイルを組み合わせて受電側(二次側)の伝送コイル部品を構成した。平面状コイルは線径0.32mmの2パラ線を15ターン巻回して構成し、コイルの外形は40×20mmの矩形、内形は20mm×10mmの矩形とした。一方、給電側(一次側)の平面状コイルは、線径1mmのリッツ線を20ターン(10ターン、2段)巻回して構成し、コイルの外形は直径40mmの円形、内形は直径20mmの円形とした。なお、一次側の磁性シートにはフェライトを使用した。磁性シートと平面状コイルの中心を合わせて伝送コイル部品を構成し、給電側の伝送コイル部品と受電側の伝送コイル部品を図1と同様に配置して、120kHzでインダクタンスLsとQ値を測定した。また、かかる構成に加えて、さらに図4と同様な放射状のスリットを16個形成した磁性シート(No.2)も作成して同様に評価した。各スリットの長手方向に垂直な方向の幅は、0.3〜0.5mmであった。なお、比較のために、開口部を備えない構成(No.3)と、上記と同様の開口部は備えるが第2の磁性シート部を持たない構成(No.4)を別途作成し、これらの構成に対しても同様に評価した。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
本発明の実施例であるNo.1の構成は、開口部を全く設けないNo.3の構成に比べてインダクタンス、Q値とも向上していることがわかる。すなわち、開口部を設け、該開口部内に第2の磁性シートを配置することで、第1の磁性シートがコイルヨークとして有効に機能していることがうかがえる。また、伝送コイル部品同士の位置決め・固定も良好であった。一方、第2の磁性シート部を設けていないNo.4の構成では二次電池側の漏洩する磁束が多いため、発熱が大きすぎて実用に耐えなかった。また、伝送コイル部品同士の位置決め・固定も不安定であった。また、スリットを設けたNo.2に構成では、スリットを形成していないNo.1の構成に比べてさらにインダクタンスおよびQ値が向上していることがわかる。
【符号の説明】
【0039】
1:第1の磁性シート部
2:開口部
3:第2の磁性シート部
4、9:平面状コイル
5、11:基板
6:二次電池
7:受電装置
8、18:磁性シート
10:吸着部材
12:交流電源
13:回路部
14:給電装置
15:連結部
16:連通部
17:スリット
図1
図2
図3
図4