(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱対流用流路内に液体を供給するための液体供給路を設け、前記液体供給路は、前記熱対流用流路に対して前記軸線の側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の熱対流生成用チップ。
前記熱源による前記熱対流用流路の加熱温度又は冷却温度、前記駆動手段による前記熱対流生成用チップの回転駆動速度及び回転駆動時間を制御する制御手段を備えることを特徴とする請求項7に記載の熱対流生成装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に開示の装置では、液体の流路が回転軸方向に対して傾斜した面に沿って形成されているため、液体が流路を流れる間に液体に作用する回転軸方向の合力が変化する。すなわち、液体が流路内を上向きに流れる場合と下向きに流れる場合とでは液体に作用する回転軸方向の合力が異なるので、液体がスムーズに流れにくく、熱対流が安定しないという問題がある。
【0007】
なお、PCR以外の分野においても、コンパクトで、かつ安定した熱対流を生じさせることができる熱対流生成装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の熱対流生成用チップは、液体を加熱又は冷却すると同時に液体に遠心力を付与することにより液体の熱対流を生じさせる熱対流生成装置に用いられる熱対流生成用チップであって、
ディスク状基板と、
ディスク状基板における軸線と直交する面内に形成された少なくとも一つの熱対流用流路と、
を含み、
ディスク状基板の軸線周りに回転させることにより熱対流用流路内の液体に遠心力を付与するようにしたことを特徴とする。
【0009】
また、熱対流用流路内に液体を供給するための液体供給路を設け、この液体供給路を、熱対流用流路に対してディスク状基板の軸線の側に配置すると、液体供給路内の液体が遠心力により熱対流用流路の方向に移動するので、液体供給路内の液体を確実に熱対流用流路内に進入させることができる。
【0010】
また、熱対流用流路内の液体中に含まれるガスを受け入れるガス排出路を設けると、液体中に含まれるガスを除去できるので、熱対流をスムーズに行うことができる。
【0011】
また、熱対流用流路の一部を加熱又は冷却する熱源を設けることができる。
【0012】
この場合、熱源は、例えば、熱対流用流路の流れ方向に沿って二箇所に配置される一対のヒータを含み、一方のヒータの温度は2本の1本鎖DNAを結合させるのに適した温度であり、他方のヒータの温度は2本鎖DNAを分離させるのに適した温度のものとすることができる。
【0013】
また、一方のヒータを冷却する放熱手段を設けるようにすると、安価な製造コストで熱対流PCRの精度が向上するので、好ましい。
【0014】
なお、熱対流用流路を真円状にすると、流路長を最短にできるので、液体の処理効率が向上する。
【0015】
また、ディスク状基板の軸線に対して対称的に配置された複数の熱対流用流路を備えるようにすると、複数の液体を同時に処理できるので、処理効率が向上する。
【0016】
本発明の熱対流生成用チップの適用分野は特に限定されないが、例えば熱対流PCRに用いることができる。
【0017】
また、本発明の熱対流生成装置は、液体を加熱又は冷却すると同時に液体に遠心力を付与することにより液体の熱対流を生じさせる熱対流生成装置であって、
ディスク状基板と、ディスク状基板における軸線と直交する面内に形成された少なくとも一つの熱対流用流路とを含み、ディスク状基板の軸線周りに回転させることにより熱対流用流路内の液体に遠心力を付与するようにした熱対流生成用チップを装脱可能なチップ装着部と、
熱対流生成用チップの熱対流用流路の一部を加熱又は冷却する熱源と、
熱対流生成用チップを軸線周りに回転駆動する駆動手段とを含むことを特徴とする。
【0018】
なお、この熱対流生成装置は、熱源による熱対流用流路の加熱温度又は冷却温度、駆動手段による熱対流生成用チップの回転駆動速度及び回転駆動時間を制御する制御手段を備えるものとすることができる。
【0019】
また、熱源は、例えば、熱対流用流路の流れ方向に沿って二箇所に配置される一対のヒータを含み、一方のヒータの温度は2本の1本鎖DNAを結合させるのに適した温度であり、他方のヒータの温度は2本鎖DNAを分離させるのに適した温度のものとすることができる。
【0020】
この場合、一方のヒータを冷却する放熱手段を設けるようにすると、安価な製造コストで熱対流PCRの精度が向上するので、好ましい。
【0021】
本発明の熱対流生成装置の適用分野は特に限定されないが、例えば熱対流PCRに用いることができる。
【0022】
この場合、熱対流用流路内の液体に含まれる蛍光色素を励起する励起光を熱対流用流路内の液体に照射する励起光光源と、蛍光色素に励起光を照射することにより蛍光色素によって放出される蛍光を検出する蛍光検出器と、蛍光検出器によって検出された蛍光に基づいてDNAの増幅量を算出する演算制御部とを含むようにすると、リアルタイムPCRを実行できるようになるので、鋳型DNAの定量を迅速に行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、外部ポンプを必要としないためコンパクトで、かつ安定した熱対流を生じさせる熱対流生成装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0026】
本発明の第1実施形態の熱対流生成装置1は熱対流PCRを行うための装置であって、
図1、2に示すように、熱対流生成用チップ10を装脱可能なチップ装着部としてのステージ20と、熱源30と、モータ40と、制御手段50とを備えている。
【0027】
図3に示すように、熱対流生成用チップ10は、例えばシクロオレフィンポリマーやポリカーボネート等の合成樹脂から成る透明な円盤状のディスク状基板11を備えており、このディスク状基板11は、基板本体12と、その下面に積層された蓋体13とから成っている。
【0028】
基板本体12の下面周縁部には複数の熱対流用流路14が設けられている。これらの熱対流用流路14は、ディスク状基板11の軸線AX周りに等角度間隔をおいて設けられ、軸線AXに対して対称的に配置されている。
【0029】
熱対流用流路14の数、加工方法、形状及び寸法等は特に限定されないが、本実施形態では、直径40mmの基板本体12に微細加工技術により4つの同形同大の熱対流用流路14が形成され、各熱対流用流路14は直径5mmの真円状の溝から成り、溝の幅は500μm、深さは300μmとなっている。
【0030】
なお、熱対流用流路14は真円状であるため、流路長を最短にでき、熱対流PCRを短時間で効率良く行うことができる。また、熱対流生成用チップ10は複数の熱対流用流路14を備えているため、複数の液体を同時に処理できるので、処理効率が向上する。
【0031】
熱対流用流路14における軸線AXに最も近い部位には、二股状に分岐した液体供給路15とガス排出路16とが連通接続されている。
【0032】
液体供給路15とガス排出路16との加工方法、形状及び寸法等は特に限定されないが、本実施形態では、微細加工技術により形成された溝から成る左右対称状の流路である。
【0033】
図4に示すように、液体供給路15は、熱対流用流路14から最も離れた部位から順に、ディスク状基板11の径方向に延びる細長い伸延部15aと、その一端に連通接続された涙滴状の液溜り部15bと、その先端部と熱対流用流路14とを連通接続する幅狭の連通部15cとを有している。なお、液溜り部15bの容量は熱対流用流路14の容量よりも大きくされている。
【0034】
ガス排出路16は、熱対流用流路14から最も離れた部位から順に、ディスク状基板11の径方向に延びる細長い伸延部16aと、その一端に連通接続された涙滴状のガス溜り部16bと、その先端部と熱対流用流路14とを連通接続する幅狭の連通部16cとを有している。
【0035】
ガス排出路16を設けたことで、熱対流用流路14内の液体が熱対流する際に生じるガスや液体供給路15に液体を注入する際に生じるガスが遠心力によりガス排出路16内に進入し、液体からガスを除去できるので、液体の熱対流をスムーズに行うことができる。
【0036】
蓋体13(
図3参照)は、基板本体12とほぼ同径で、かつ基板本体12よりも薄い円盤により形成され、基板本体12の下面に積層された状態で、適宜の固定手段により基板本体12と着脱可能に固定される。
【0037】
ステージ20(
図2参照)は、熱源30を支持するとともにモータ40の回転力を熱対流生成用チップ10に伝達するためのものであって、合成樹脂や金属等から成る円盤により形成される。
【0038】
ステージ20は、その上方に配置される熱対流生成用チップ10をステージ20に対して同心状に位置決めするとともに熱対流生成用チップ10を相対回転不能に連結する連結手段を備えている。そのような連結手段の構造は特に限定されないが、例えば、熱対流生成用チップ10における中心軸に対して偏心した位置に形成された凹部又は凸部を、ステージ20における中心軸に対して偏心した位置に形成された凸部又は凹部と嵌合させる構造とすることができる。
【0039】
ステージ20には、熱源30を挿入装着するための4つの円弧状のヒータ装着孔21が設けられている。これらのヒータ装着孔21は軸線AX周りに90°の角度間隔をおいて設けられ、軸線AXに対して対称的に配置されている。
【0040】
また、ステージ20には、後述する第1ヒータ31を固定するためのねじの軸部を挿通する一対の第1ねじ挿通孔22と、後述する第2ヒータ32を固定するためのねじの軸部を挿通する一対の第2ねじ挿通孔23とが設けられている。
【0041】
熱源30は、リング状の第1ヒータ31と、その内側に同心状に配置されるリング状の第2ヒータ32とから成っている。
【0042】
第1ヒータ31は、リング状の連結部31aと、その周方向に等間隔をおいて設けられた4つの横断面L字形の柱状の加熱部31bとを備えている。
【0043】
連結部31aには一対のねじ孔31cが軸線AX周りに180°の角度間隔をおいて設けられている。これらのねじ孔31cには、ステージ20の第1ねじ挿通孔22を貫通したねじの軸部が螺合する。
【0044】
第1ヒータ31をステージ20に装着した状態で、第1ヒータ32の各加熱部31bの上端部がステージ20の上方に突出した状態となる(
図1参照)。
【0045】
第2ヒータ32は、リング状の連結部32aと、その周方向に等間隔をおいて設けられた4つの縦断面L字形の柱状の加熱部32bとを備えている。
【0046】
連結部32aには一対のねじ孔32cが軸線AX周りに180°の角度間隔をおいて設けられている。これらの貫通孔32cには、ステージ20の第2ねじ挿通孔23を貫通したねじの軸部が螺合する。
【0047】
第2ヒータ32をステージ20に装着した状態で、第2ヒータ32の各加熱部32bの上端部がステージ20の上方に突出した状態となる(
図1参照)。
【0048】
図4に示すように、第1ヒータ31の加熱部31bは、その上面が熱対流用流路14の半周程度に対向するように形成されている。加熱部31bの加熱温度は約60℃である。
【0049】
一方、第2ヒータ32の加熱部32bは、その上面が熱対流用流路14の1/4周程度に対向するように形成されている。加熱部32bの加熱温度は約95℃である。
【0050】
図2に示す熱対流生成用チップ10、ステージ20、第1ヒータ31及び第2ヒータ32が積層された状態で、モータ40のシャフト41がステージ20の中心孔24及び熱対流生成用チップ10の中心孔17に挿通される。モータ40のシャフト41とステージ20は適宜の手段により固定される。
【0051】
熱対流生成装置1を制御する制御手段50は、
図5に示すように、演算制御部51、表示部52及び入力部53を備えている。
【0052】
演算制御部51は、CPU、ROM及びRAM等を含むマイクロコンピュータにより構成され、CPUは、入力部53から入力される情報とROMに格納されたプログラムとに従って第1ヒータ31、第2ヒータ32及びモータ40を制御する。表示部52は液晶表示装置を備え、入力部53は、キーボード、マウスを備える。
【0053】
なお、
図2の左側に仮想線で示すように、第1ヒータ31で発生する熱を放熱して第1ヒータ31を冷却するヒートシンク60を設けるようにしてもよい。この場合、安価な製造コストで余分な熱を除去でき、熱対流PCRの精度を向上することができる。
【0054】
次に、熱対流生成装置1を用いて熱対流PCRを行う手順を説明する。
【0055】
基板本体12における蓋体13と反対側の面に形成された注入口(図示せず)に反応試薬溶液を注入すると、この反応試薬溶液は、毛細管現象により液体供給路15の伸延部15aを通過して液溜り部15bに流入する。
【0056】
次に、前記注入口に唾液や血液等の検体液を注入すると、この検体液は毛細管現象により液体供給路15の伸延部15aを通過して液溜り部15bに流入する。
【0057】
なお、本実施形態では、反応試薬溶液や検体液は毛細管現象により伸延部15aを通過して液溜り部15bに流入するが、ピペッター等を使用して反応試薬溶液や検体液を液溜り部15b内に押し込むようにしてもよい。
【0058】
液溜り部15bに流入した反応試薬溶液や検体液は、熱対流生成用チップ10が停止している間は液溜り部15b内に滞留しているが、熱対流生成用チップ10が回転すると、遠心力により連通部15cを通過して熱対流用流路14内に進入する。
【0059】
なお、基板本体12と蓋体13との間に気密性及び液密性を有する薄い樹脂製シートを挟み込んで、熱対流用流路14、液体供給路15及びガス排出路16を封閉するようにしてもよい。
【0060】
また、液体供給路15にPCRを阻害しないオイルを注入してもよい。この場合、熱対流生成用チップ10が回転すると、比重が軽いオイルは液溜り部15bに滞留し、熱対流用流路14内の液体が連通部15cから液溜り部15bに流入するのを防ぐ蓋として機能するとともに、熱対流用流路14内の液体が蒸発するのを防止する。
【0061】
次に、熱対流生成用チップ10、第1ヒータ31及び第2ヒータ32をステージ20に装着固定し、モータ40のシャフト41をステージ20の中心孔24及び熱対流生成用チップ10の中心孔17に挿入してステージ20をシャフト41に固定する。
【0062】
ユーザが制御手段50の入力部53を操作してモータ40を起動すると、ステージ20及び熱対流生成用チップ10が回転する。また、第1ヒータ31及び第2ヒータ32に通電されて各熱対流用流路14内の液体が加熱される。
【0063】
液体供給路15は熱対流用流路14に対してディスク状基板11の軸線AXの側に配置されているため、熱対流生成用チップ10が回転すると、液体供給路15内の反応試薬溶液と検体液は遠心力により熱対流用流路14の方向に移動するので、熱対流用流路14内に進入する。
【0064】
各熱対流用流路14内の反応試薬溶液と検体液とは、加熱されるとともに遠心力が付与されることにより、熱対流して両液が混合する。
【0065】
なお、反応試薬溶液と検体液とを液体供給路15に注入する前に、あらかじめ反応試薬溶液と検体液との混合液を作製し、この混合液を液体供給路15に注入し、熱対流用流路14で熱対流させるようにしてもよい。
【0066】
なお、熱対流用流路14内の混合液中にガスが含まれている場合には、そのガスは遠心力により軸線AXの方向に移動してガス排出路16内に流入するので、混合液中のガスを除去できる。これによって、混合液がスムーズに熱対流することができる。
【0067】
混合液は第2ヒータ32の加熱部32bを通過する際に加熱部32b(約95℃)と熱交換して加熱される。これにより、混合液中の2本鎖DNAが分離して2本の1本鎖DNAとなる。なお、本実施形態では、熱対流する混合液の加熱部32bの通過時間は約15秒に設定されている。
【0068】
また、混合液は第1ヒータ31の加熱部31bを通過する際に加熱部31b(約60℃)と熱交換して冷却される。これにより、混合液中の2本の1本鎖DNAが結合して2本鎖DNAとなる。なお、本実施形態では、熱対流する混合液の加熱部31bの通過時間は約45秒に設定されている。
【0069】
なお、熱対流する混合液が第1ヒータ31の加熱部31bを通過する時間と第2ヒータ32の加熱部32bを通過する時間とは、熱対流生成用チップ10の回転数や混合液の熱対流速度等を制御することで、短縮可能である。
【0070】
モータ40の駆動時間は、第2ヒータ32による加熱と第1ヒータ31による冷却とがそれぞれ所定回数ずつ行われるように設定されている。
【0071】
なお、第1ヒータ31及び第2ヒータ32の温度及びモータ40による熱対流生成用チップ10の回転駆動速度は、制御手段50の入力部53を介して調整可能となっている。
【0072】
本発明の熱対流生成装置1は、液体を熱対流させるようにしているため、外部ポンプを必要とせず、装置がコンパクトである。また、液体を加熱すると同時に遠心力を付与するようにしているため、液体を確実に熱対流させることができる。
【0073】
さらに、熱対流用流路14がディスク状基板11における軸線と直交する面内に形成されているので、液体が熱対流用流路14内を循環する間に液体に作用する回転軸方向の合力が変化しないので、液体の流れが安定する。したがって、安定した熱対流を確実に生成することができるので、信頼性が高い。
【0074】
また、熱対流用流路14が真円状であるため、流路長を最短にすることができるのに加えて、熱対流用流路14が複数設けられているため、液体の処理を短時間で効率良く行うことができる。
【0075】
本発明の効果を確認するために、以下の実験を実施した。
【0076】
熱対流生成用チップ10の液体供給路15内に着色していない水と食紅等で着色した水とを注入し、最初に熱源30に通電していない状態で熱対流用流路14内の様子をハイスピードカメラによって観察した。その結果、熱対流生成用チップ10の回転前と回転後の熱対流用流路14内の液体の濃淡の変化は見られず、熱対流生成用チップ10の回転のみでは着色していない水と着色した水との混合が生じないことが確認された。なお、モータ40の駆動時間は20秒、駆動速度は1000rpm、電流値は1.4Aである。
【0077】
次に、熱源30の温度を50℃とし、熱対流生成用チップ10の回転前と回転後の熱対流用流路14内の様子をハイスピードカメラによって観察した。その結果、熱対流用流路14内に熱対流が生じ、着色していない水と着色した水とが混合してゆく様子が確認された。
【0078】
また、熱対流用流路14の温度を測定するために、熱対流生成用チップ10の下面と第1ヒータ31の加熱部31bの上面との間、及び熱対流生成用チップ10の下面と第2ヒータ32の加熱部32bの上面との間に、
図6に示すように、3種類のサーモシール71(60℃)、サーモシール72(95℃)及びサーモシール73(100℃)を貼り付けた。サーモシール71〜73は、温度が上昇するにしたがって、黒、茶、緑、青、紫と順に温度が変化してゆく。
【0079】
第2ヒータ32に接続されている電源の温度設定を115℃とし、モータ40のDC電源の電圧を0.5Vに設定し、熱対流生成用チップ10を10分間回転駆動した。なお、第1ヒータ31には通電していない。熱対流生成用チップ10の回転前と回転後のサーモシール72の色を比較すると、サーモシール72の色に変化は見られないため、熱対流生成用チップ10の回転による空冷の影響はないと考えられる。なお、サーモシール72の色から、熱対流用流路14におけるサーモシール72に対向する部位の温度は95℃〜97℃であることが判明した。
【0080】
一方、サーモシール71の色は紫であり、熱対流用流路14におけるサーモシール71に対向する部位の温度は60℃を遥かに越えていることを示している。そこで、第1ヒータ31を冷却するべく、水の循環による水冷とヒートシンク60による放熱との比較検討を行った。
【0081】
水冷による冷却方法では、ステージ20のヒータ装着孔21にシリコンチューブを通し、ぺリスタポンプを使用することで水(常温)を循環させて冷却した。第2ヒータ32に接続されている電源の温度設定を125℃としたところ、熱対流用流路14における第2ヒータ32の加熱部32bに対向する部位の温度は95〜97℃となったが、熱対流用流路14における第1ヒータ31の加熱部31bに対向する部位の温度は57.25℃以下となった。
【0082】
一方、ヒートシンク60による冷却方法では、第2ヒータ32に接続されている電源の温度設定を125℃とし、12個の放熱体からなるヒートシンク60を第1ヒータ31に取り付けたところ、熱対流用流路14における第2ヒータ32の加熱部32bに対向する部位の温度は95〜97℃となり、また、熱対流用流路14における第1ヒータ31の加熱部31bに対向する部位の温度は約60℃となり、理想の温度分布が得られた。そして、モータ40のDC電源の電圧を0.5Vに設定して熱対流生成用チップ10を10分間回転させたが、温度分布に変化は見られなかった。
【0083】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
図7は本発明の第2実施形態の熱対流用流路及び液体供給路の拡大図である。なお、先に説明した第1実施形態と対応する部位には同一の符号を付してあり、重複する説明は省略する。
【0084】
本実施形態では、熱対流用流路14と液体供給路15を有する基板本体12(
図3参照)が、ポリジメチルシロキサン(以下「PDMS」と称する。)とガラスとの複合体を材料としてフォトリソグラフィー技術により作製されている。
【0085】
本実施形態の熱対流用流路14は、外側の直径が6mmの真円状の溝から成り、溝の幅は500μm、深さは400μmである。
【0086】
液体供給路15の液溜り部15bの熱対流用流路14と反対側の端部は半円形状に形成され、液溜り部15bの熱対流用流路14の側の端部は逆三角形状に形成され、液溜り部15bの中間部は直方体状に形成されている。また、液溜り部15bに液体を導入する伸延部15aがL字形に形成されるとともに、その一端が液溜り部15bの逆三角形状の端部に連通接続されている。
【0087】
本実施形態のその他の構成は先に説明した実施形態と同じである。
【0088】
先に説明した実験方法と同じ方法で第1ヒータ31の加熱部31b、第2ヒータ32の加熱部32b上にそれぞれサーモシールを配置して温度測定を行い、各機器の設定を行った。
【0089】
第2ヒータ32の電源の温度を140℃に設定し、冷却水の温度を50℃に設定したところ、熱対流用流路14における第2ヒータ32の加熱部32bに対向する部位の温度と、熱対流用流路14における第1ヒータ31の加熱部31bに対向する部位の温度は目標とする温度となった。なお、ヒートシンクは用いなかった。
【0090】
熱対流用流路14中に食紅液を充填して気泡発生の有無の確認を行った。PDMSはガス透過性が高いため、高温時に気泡が発生することがある。この気泡は液体の対流を妨げるため、PCRの熱交換ができなくなってしまう。
【0091】
そこで、あらかじめミネラルオイルを熱対流用流路14に満たし、PDMSが十分にミネラルオイルを吸収した状態で食紅液を熱対流用流路14に充填した。そして、熱対流用流路14を30分間加熱したが、気泡は発生しなかった。これは、ミネラルオイルがPDMSのガス透過性を低下させ、気泡の発生を防いだと考えられる。また、ミネラルオイルは、連通部15cを塞ぐ蓋としての役割を果たし、液体の蒸発を防ぐこともできる。
【0092】
図8はモータ40(
図2参照)の電源の電圧とモータ40の回転数との関係を示すグラフ、
図9は相対重力加速度とモータ40の電源の電圧との関係を示すグラフである。
【0093】
図9は速度と遠心力との関係式(F=mv
2/r、g=(2πN)
2r)より相対重力加速度とモータ40の回転数との関係を求め、さらに電圧と相対重力加速度との関係を求めることにより作成したものである。
【0094】
熱対流用流路14に食紅液と水を充填し、第1ヒータ31と第2ヒータ32とに通電した状態で1G相当の電圧(
図9より2.12V)でモータ40を回転させたところ、熱対流用流路14内の液体が30秒間でおおよそ半周した。この結果をPCRの熱サイクルに置き換えると、1分間で1サイクルすることになる。
【0095】
本実施形態では、熱対流用流路14内の液体の第2ヒータ32の加熱部32bの通過時間は約15秒、第1ヒータ31の加熱部31bの通過時間は約45秒である。なお、熱対流生成用チップ10の回転数を制御して熱対流速度を制御することで、液体の加熱部32b及び加熱部31bの通過時間をより短くすることも可能である。
【0096】
β−Action遺伝子を指標に蛍光PCRを試みた。アンプリコンをテンプレートDNAとして使用し、PCR液を熱対流用流路14に充填後、モータ40を2.12Vで30分間回転させた。これは、熱対流用流路14が1Gで回転すると、熱対流用流路14内の熱対流が1分で1周することから、PCRを30サイクル行ったことに相当する。
【0097】
30分の回転終了後に熱対流生成用チップ10の蛍光観察を行ったところ、熱対流用流路14中にDNA増幅に伴う蛍光を観察することができた。また、熱対流用流路14から反応溶液を取り出して電気泳動により増幅産物(DNA長:289bp)の確認を行ったところ、目的の長さのDNAが確認された。
【0098】
以上、本発明の熱対流生成装置1及び熱対流生成用チップ10を用いて熱対流PCRを行う場合について説明したが、本発明の熱対流生成装置1及び熱対流生成用チップ10を用いて逆転写PCRを行うこともできる。
【0099】
生物は、ゲノムDNAから、その遺伝配列情報をRNAに転写し、RNAからその遺伝情報をもとにタンパク質を合成する。PCRは、DNA分子からDNA分子を増幅させる技術であるが、逆転写PCRは、逆転写酵素の働きによりRNAからDNAを合成し、そのDNAを鋳型にしてPCRを行う技術である。例えば、インフルエンザウイルスなどの一部のウイルスはDNAをもたず、RNAしかもっていない。このようなウイルスの感染を証明する場合、逆転写PCRを用いることになる。
【0100】
本発明の熱対流生成装置1及び熱対流生成用チップ10を用いて逆転写PCRを行う手順を以下に説明する。
【0101】
逆転写PCRには、逆転写反応とPCRとを別々に行う方法(2ステップRT−PCR)と、逆転写反応とPCRとを1液で連続的に行う方法(1ステップRT−PCR)とがあり、本実施形態では、1ステップRT−PCRにより逆転写PCRを行う手順について説明する。
【0102】
反応試薬溶液としては、例えば、ライフテクノロジーズジャパン株式会社製のSuperScriptIII OneStep RT-PCR SystemやGeneAmp EZ rTth RNA PCR Kit(いずれも商品名)、タカラバイオ株式会社製のPrimeScriptII High Fidelity One Step RT-PCR KitやPrimescript High Fidelity RT-PCR Kit(いずれも商品名)等を用いることができる。
【0103】
検体としては、例えば、インフルエンザウィルスやノロウィルス、その他感染症ウィルス全般、細胞等からの発現RNAの抽出液等が用いられる。インフルエンザウィルスなら、例えば鼻汁等を緩衝液や水等の適当な溶液に懸濁したものが用いられる。また、ノロウィルスなら、例えば嘔吐物等を緩衝液や水等の適当な溶液に懸濁したものが用いられる。
【0104】
なお、本発明の熱対流生成装置1及び熱対流生成用チップ10を用いて逆転写PCRを行う場合、以下の(a)、(b)の2つの方法が考えられる。以下、
図1〜
図4を参照して(a)、(b)の2つの方法を説明する。
【0105】
(a)あらかじめ反応試薬溶液と検体液とを混合し、混合溶液を生成する。次に、熱対流生成用チップ10の液体供給路15内に混合溶液を注入し、熱対流生成用チップ10を回転させて混合溶液を熱対流用流路14内に進入させる。その後、熱対流生成用チップ10の回転を停止させ、第1ヒータ31と第2ヒータ32とを同じ温度(例えば、40〜60℃)にして、熱対流用流路14内の混合溶液を一定時間(例えば、60秒)加熱して逆転写反応させる。
【0106】
(b)先ず、熱対流生成用チップ10の熱対流用流路14内に反応試薬溶液を充填しておき、その後に液体供給路15に検体液を注入し、熱対流生成用チップ10を回転させて液体供給路15内の検体液を熱対流用流路14に進入させる。そして、第1ヒータ31の温度と第2ヒータ32の温度とを異なる温度にして熱対流用流路14内の液体を熱対流させて反応試薬溶液と検体液とを混合し、混合溶液を生成する。その後、熱対流生成用チップ10の回転を停止させ、第1ヒータ31と第2ヒータ32とを同じ温度(例えば、40〜60℃)にして、熱対流用流路14内の混合溶液を一定時間(例えば、60秒)加熱して逆転写反応させる。
【0107】
上記の(a)および(b)のいずれかの方法により、RNAから逆転写反応により鋳型DNA(cDNA)を合成する。そして、第1ヒータ31と第2ヒータ32とをPCRに適した温度(例えば、第1ヒータ31の温度を60℃、第2ヒータ32の温度を95℃)に設定して熱対流PCR反応を生じさせる。
【0108】
次に、本発明の第3実施形態を説明する。
図10は熱対流生成装置81の側面図、
図11は第3実施形態の熱対流用流路14及び液体供給路15の拡大図、
図12は第3実施形態の制御系のブロック図である。なお、先に説明した第1実施形態と対応する部位には同一の符号を付してあり、重複する説明は省略する。
【0109】
熱対流生成装置81は、リアルタイムPCRを実施できるように構成されている。リアルタイムPCRは、鋳型となるDNAの定量を迅速に行うことができる手法である。リアルタイムPCRは、PCRや逆転写PCRによるDNAの増幅分をPCRサイクル中にリアルタイムで測定する。
【0110】
リアルタイムPCRでは、PCR増幅産物を蛍光により検出する。蛍光の検出方法には、インターカレーター法とハイブリダイゼーション法とがある。インターカレーター法では、二本鎖DNAに特異的に挿入して蛍光を発する蛍光色素 (SYBR green I) を用いる。一方、ハイブリダイゼーション法はTagManプローブ法が最も一般的であり、DNA配列に特異的なオリゴヌクレオチドに蛍光色素を結合させたプローブを用いる。TagManプローブ法に用いる蛍光色素としては、例えば、FAM(Carboxyfluorescein)を挙げることができる。
【0111】
図10に示すように、熱対流生成装置81は、励起光光源91と、蛍光検出器92と、検知光光源93と、検知光検出器94とを備える。そして、
図11に示すように、本実施形態の熱対流用流路14の近傍には、検知光光源93が射出する検知光を反射または散乱させる被検知部95が設けられている。
【0112】
図10に示すように、励起光光源91は、回転する熱対流生成用チップ10の熱対流用流路14に向けて光L1を照射する。光L1は熱対流生成用チップ10の熱対流用流路14(
図11参照)内の液体に含まれる蛍光色素を励起する光である。励起光光源91としては、例えば、レーザー光源を用いることができるが、青色発光ダイオード(LED)や白色光源等を用いると、装置コストが安価になるので、好ましい。
【0113】
蛍光検出器92は蛍光を検出する。蛍光は熱対流用流路14内の液体に含まれる蛍光色素に励起光光源91の光を照射することにより蛍光色素によって放出される。蛍光検出器92は、例えば、フォトマル検出器、集光レンズ及び蛍光フィルタ等を含んで構成される。
【0114】
検知光光源93は、熱対流生成用チップ10上の検知ポイントP1に向けて検知光L2(例えば、レーザー光)を照射する。検知ポイントP1は、熱対流生成用チップ10が回転することにより被検知部95(
図11参照)によって形成される回転軌跡上に設定された固定点である。被検知部95は、検知光光源93から検知光が照射されると、その検知光を反射または散乱させるように構成されている。検知光検出器94は、被検知部95から反射または散乱された光を検出する。検知光検出器94は、例えば、フォトマル検出器、集光レンズ及びバンドパスフィルタ等を含んで構成される。
【0115】
図12は熱対流生成装置81を制御する制御手段100のブロック図である。この制御手段100の演算制御部96は、第1実施形態の制御手段50の演算制御部51が実行する処理に加えて、後で詳述するように、入力部53、蛍光検出器92及び検知光検出器94から入力される情報に基づいて、励起光光源91及び検知光光源93を制御する。
【0116】
次に、熱対流生成装置81を用いてリアルタイムPCRを行う手順を
図10を参照して説明する。
【0117】
制御手段100(
図12参照)の入力部53を介してリアルタイムPCRの開始を指示する情報を演算制御部96に入力すると、モータ40が駆動されるとともに、第1ヒータ31と第2ヒータ32とに通電される。これによって、熱対流生成用チップ10が回転するとともに熱対流用流路14(
図11参照)内の液体が加熱され、熱対流用流路14内の液体が熱対流し始めてPCRが開始する。
【0118】
熱対流生成用チップ10の回転が開始すると同時に、検知光光源93から検知光が検知ポイントP1に照射される。熱対流生成用チップ10の熱対流用流路14に設けた被検知部95(
図11参照)が検知ポイントP1を通過する際に被検知部95が検知光光源93の検知光を反射または散乱させる。
【0119】
被検知部95によって反射または散乱された検知光が検知光検出器94によって検出されると、励起光光源91から励起光が検知ポイントP1近傍の熱対流用流路14に照射される。当該励起光は熱対流用流路14内の混合溶液に照射され、当該混合溶液中の蛍光分子から発せられる蛍光が蛍光検出器92によって検出される。
【0120】
演算制御部96は、蛍光検出器92が検出した蛍光に基づいてDNAの増幅量を算出する。そして、この増幅量に基づいて鋳型となるDNAの定量が行われる。このようなリアルタイムPCRが熱対流生成用チップ10の全ての熱対流用流路14に対して行われる。
【0121】
以上、本発明の具体的な実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に改変を施すことができる。
【0122】
例えば、上記実施形態では、熱対流生成用チップ10とは別に熱源30を設けるようにしているが、熱対流生成用チップ10に熱源30を設けるようにしてもよい。その場合、熱源としては、例えば、占有スペースが小さくて軽量の線状発熱体等を用いることができる。
【0123】
また、本発明は、熱対流PCRや逆転写PCR以外の処理を行う装置にも適用可能である。
【0124】
その他にも、本発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に種々の改変を施すことができる。