(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
医療分野などにおける細胞や微生物を用いた試験、医薬品の開発には、多くの場合、外気から遮断された無菌チャンバを備えるアイソレータが用いられる。アイソレータは、通常前面がガラス張りとされ、壁面には外部からガラス越しにチャンバ内の操作を行えるように、チャンバ内に向けて手袋(グローブ)を装着するためのグローブポートが設けられる。
【0003】
手袋は使用されていない時、無菌チャンバ内にそのまま放置されるか、裏返しにしてチャンバの外へ出されているが、何れにしても使用されていない時には邪魔になる。例えば、手袋がチャンバ内にあると、チャンバ内を殺菌する際に、手袋の陰になる壁面や手袋の指の間などが殺菌されないことがないようにする必要があり、作業が煩雑となる。また無菌チャンバ内を除染ガスで繰り返し除染する場合には、手袋の変質も問題となる。このような問題に対し、手袋の外套の一方の端を突き破ることが可能な取替可能な薄膜で封止し、他方の端をチャンバ外側のグローブ挿入口へ着脱自在に取付ける構成が提案されている(特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の構成では、その取り付けにおいて、その都度、薄膜を外套となる円筒と接手鍔で挟んで接手でクランプするとともに、グローブを円筒と外側円筒で挟んで接手でクランプする必要があり、組み立て作業が繁雑である。さらに、この組み立て作業を無菌室内で無菌的に行うか、無菌的に行えない場合は、組み立て後にグローブユニット内に滅菌剤を供給して滅菌するようにしているため準備作業は更に繁雑となる。また、薄膜やグローブは交換可能であるが、外套として構成される円筒に関しては、次回の使用に備えて洗浄や滅菌が必要になり、ハザード物質を封じ込めることも想定されていない。また、特許文献1の構成では、グローブユニットを取り付けるための接手鍔は、グローブボックスや無菌充填機の外装面に設けられ、グローブユニットはグローブボックスや無菌充填機の外部に取り付けられる。そのため手元から体が遠ざかり操作性が低下すると言う問題もある。また、グローブは円筒と外側円筒で挟んで接手でクランプして固定しているため、グローブの挿入基端部の大きさや形状は、これらの円筒と外側円筒で挟める構成にする必要があり、専用のグローブを用意する必要がある等の問題もある。
【0006】
本発明の第1の目的は、使い捨て可能な手袋を無菌状態に維持した状態で、グローブポートに取り付け可能とする
とともに、使い捨て無菌手袋を無菌チャンバのグローブポートに気密的に容易に取り付け可能とすることであ
る。また、本発明の第
2の目的は
、使い捨て可能な手袋を無菌チャンバの内部側に取り付けることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の使い捨て無菌手袋は、無菌状態に維持される無菌チャンバのグローブポートに取り付けるための使い捨て無菌手袋であって、グローブポートが備える環状の取り付け部材と気密的に結合可能な筒状体
と、前記筒状体
と一体化された手袋であって、その腕部の外表面を
前記筒状体の内周面に隙間なく密着させ
た手袋
と、
前記手袋の腕部から先の部分を
前記筒状体の内側に収納し
た状態で、
前記筒状体の開口端部を開封可能に密封する
密閉部材と、
前記筒状体の密封される開口端部とは逆の他端側の内面もしくは外面に、前記グローブポートの環状の取り付け部材との結合手段とを備え、手袋の外表面の無菌性を維持するようにしたことを特徴とするものである。
【0010】
また、第
2の発明は、前記筒状体が結合可能な環状の取り付け部材が、前記無菌チャンバの内部側に位置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、無菌チャンバのグローブポートに結合可能な筒状体と手袋をユニット化し、手袋を筒状体内に無菌状態を維持して密封したので、グローブポートへの取り付けが簡単で、使用後はユニットごと破棄できるため取り扱いが容易である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態の使い捨て無菌手袋の断面図であり、
図1には使用(開封)前の状態が示される。
【0014】
無菌グローブユニット(使い捨て無菌手袋)10は、手袋11、収納筒体12、固定部材13、密閉部材14から主に構成され、これらが一体化されてユニット化されている。手袋11は、例えばニトリルゴムやラテックス(天然ゴム)等の素材から形成され、手袋11の基端部側の外表面は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂から形成される円筒形の収納筒体12の内側に密着して取り付けられる。
【0015】
本実施形態において、固定部材13は収納筒体12の内径よりもその外径が一回り小さい円筒状の部材であり、手袋11は、収納筒体12の内周面と固定部材13の外周面の間に挟まれることで収納筒体12に密着して固定される。すなわち本実施形態では、手袋11を被せた固定部材13を収納筒体12内に嵌め込み一体的な筒状体とすることで、手袋11の基端側の外表面を収納筒体12の内周面に気密的に密着させる。なお、本実施形態において手袋11の基端縁11Aは、他の部分よりも厚く形成され、基端縁11Aは手袋11の収納筒体12からの抜け止めの役割も果たす。また、手袋11の収納筒体12への固定方式は、手袋11により気密的に収納筒体12の内部空間を内側と外側に分離できればよく、本実施形態に限定されるものではない。例えば手袋11の基端部側の外表面を収納筒体12の内周面に接着する構成であってもよい。この場合、収納筒体12のみで上記筒状体が構成される。
【0016】
固定部材13の軸方向長さは、収納筒体12の軸方向長さよりも短く(例えば半分以下)、手袋11の基端縁11Aが位置する基端側とは逆の固定部材13の先端側の端面と収納筒体12の先端側の端面の間には、手袋11を収容するための空間が設けられる。手袋11を収納筒体12に取り付けた後、手袋11は指先から腕部に向けて折り畳まれ、収納筒体12内に収納される。そして収納筒体12の先端側の開口部がシート状の密閉部材14により閉塞され、手袋11は収納筒体12内に密封される。すなわち、手袋11、収納筒体12、密閉部材14により密閉空間が形成され、手袋11の外表面は、この密閉空間内に配置される。
【0017】
本実施形態においてシート状の密閉部材14は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂フィルムやアルミフィルムであり、例えばヒートシールを用いて収納筒体12の先端部側の開口端に貼着される。なお手袋11は、指先から腕部に向けて折り返しながら重ねるように畳まれることが好ましく、これによりオペレータは手袋11に手を入れ易くなる。
【0018】
また密閉部材14は、手袋11に挿入したオペレータの手で開封できるように構成される。本実施形態のように密閉部材14にシート状フィルムが採用され、収納筒体12の開口端に貼着される場合には、例えばシール強度が手で押して剥がれる程度に、あるいはフィルム強度が手で押して破ける程度に設定される。なお、気密性が保たれ、かつ手袋11に挿入した手で開封できる構成であれば、密閉部材14に係る構成は本実施形態に限定されるものではない。例えば収納筒体12の先端側開口端を蓋で密封する構成であってもよい。
【0019】
手袋11の外表面側が密閉部材14により収納筒体12内に密封されると、無菌グローブユニット10には、ガンマ線や電子線などの放射線が照射され、その内部が滅菌される。すなわち、手袋11の外表面や収納筒体12、密閉部材14の内側の面で構成される密閉空間が放射線により滅菌される。手袋11は密閉部材14により収納筒体12内に密封されているので、オペレータにより密封が解かれるまで滅菌状態が維持される。なお、エチレンオキサイドガスや過酸化水素蒸気等の除染ガスで手袋11や収納筒体12、密閉部材14を予め除染した後、無菌環境下で各々を組み付けることで密封された収納筒体12内の無菌性を維持することも可能である。
【0020】
図2は、
図1の無菌グローブユニット10を無菌チャンバ25のグローブポート15に装着し、密閉部材14による密封を解除した状態の断面図である。
図2〜
図4を参照して第1実施形態の無菌グローブユニット10のアイソレータへの使用方法(取り付け/取り外し方法)について説明する。
【0021】
第1実施形態で用いられるアイソレータのグローブポート15は、アイソレータを構成する無菌チャンバ25の壁面16に設けられた円筒状の挿入口17と、無菌チャンバ25の内側25Aにおいて挿入口17に気密的に連結され、例えばオペレータの上腕が入れられるスリーブ部18と、スリーブ部18の先端に取り付けられる円筒状のグローブユニット取付部(取り付け部材)19から主に構成される。なおスリーブ部18には、例えば除染ガスに対する耐性を有するクロロスルフォン化ポリエチレンなど、従来のグローブに使用される材質が使用される。またスリーブ部18は、例えばOリングなどの環状締結部材を用いて両端において挿入口17、グローブユニット取付部19にそれぞれ気密的に連結される。
【0022】
グローブユニット取付部19の外径は、交差を除き無菌グローブユニット10の固定部材13の内径に等しく、無菌グローブユニット10は、固定部材13をグローブユニット取付部19に嵌挿することでアイソレータに気密的に装着される。固定部材13とグローブユニット取付部19の結合には、例えば固定部材13の内面に設けた螺子13Aを用いた螺合の他、両者に設けた凹凸を係合させる構成や、リング部材と環状溝の嵌合、あるいは単なる嵌合など、様々な結合方法、締結機構(結合手段)の採用が考えられる。また、図示例では収納筒体12の内側にグローブユニット取付部19を嵌め込む構成とされたが、収納筒体12をグローブユニット取付部19の内側に嵌め込む構成としてもよい。この場合には、収納筒体12の外面に結合手段が設けられる。また、本実施形態では、固定部材13に締結機構を設けたが、手袋11の外表面が収納筒体12の内周面に接着される場合などには、収納筒体12に締結機構を設けてもよい。
【0023】
無菌グローブユニット10のグローブユニット取付部19への取り付けは、無菌状態が解除(ブレーク)された開放状態の無菌チャンバ25において行われる。例えばグローブポート15の挿入口17は、無菌チャンバ25の壁面16に設けられた開閉可能(例えば、上部に設けたヒンジを支軸として上下に開閉可能)な透明なアクリル板からなる扉面に設けられ、無菌グローブユニット10は、同扉を開いた状態で無菌チャンバ25の外側25Bにおいて取り付けられる。
【0024】
無菌グローブユニット10は、密閉部材14が閉じられた状態(
図1の状態)でアイソレータの各グローブポート15に装着される。全てのグローブポート15が塞がれると、上記扉が閉じられ、無菌チャンバ25が密閉され、除染ガスにより無菌チャンバ25内(内部側25A)の除染が行われる。なお、無菌グローブユニット10の取り付け作業では、後述する手袋11回収時に使用される収納筒体12の先端側開口を閉塞するためのキャップ20(
図3参照)も無菌チャンバ25内に入れられ、除染の際には同キャップ20の除染も同時に行われる。
【0025】
無菌チャンバ25内における操作開始時には、オペレータは各グローブポート15の挿入口17から手を入れ、無菌グローブユニット10内に収容された手袋11に手を差し入れながら、収納筒体12を密封している密閉部材14を押して開封する。その後、手袋11を無菌チャンバ25内に突き出し
図2の状態とし、手袋11内に手を完全に入れて作業を行う。
【0026】
操作終了後オペレータは、開封されたフィルム状の密閉部材14を収納筒体12内へ回収するとともに上述したように予め無菌チャンバ25内に配置された除染されたキャップ20の取っ手20Aを手袋11で摘み(
図3)、収納筒体12の先端側の開口端をキャップ20で密閉する。なお、キャップ20は収納筒体12の開口端とピッタリと嵌合し、開口端を気密的に閉塞する(
図4)。
【0027】
その後、無菌チャンバ25内を除染し、悪影響を及ぼす物質を消滅させてから、無菌チャンバ25を開放して密閉された
図4の状態の収納筒体12をグローブポート15から取り外す。
【0028】
以上のように、本実施形態によれば、使い捨て可能な手袋を無菌状態に維持した状態で、無菌チャンバ内においてグローブポートに取り付けることができる。手袋は予め密封された筒状体内で無菌状態に維持され、使い捨てであるため、手袋の選定に除染ガスの影響(透過性、吸着)を考慮する必要がなく、オペレータの好みや使用条件に合わせたグローブを選定することができる。そして、操作性により優れた素材や構成(厚み等)を選択することができ、市販の手袋を利用することも可能である。さらに、ピンホール発生の見逃しなどによる汚染の心配もない。また操作対象となる細胞に最も近い場所で使用される手袋は、ガンマ線や電子線などを用いて放射線滅菌が可能なので、除染ではなく滅菌レベルで無菌化でき、手袋を介した交叉汚染の懸念が排除される。更に、本実施形態では、キャップを用いて使用後の手袋の外表面を密封できるので、手袋に付着した物質が外部に放出されることが防止でき、バイオハザードが懸念される場合などにも手袋から手を抜くとともに無菌チャンバ内で蓋をし、無菌チャンバ内の除染を行うことで手袋に着いたハザード物質を封じ込めたまま破棄することが可能であり、拭き取り掃除なども不要となる。
【0029】
また、本実施形態ではグローブユニット取り付け部材が無菌チャンバの内部側に位置するため、取り付けられた手袋は、無菌チャンバのより奥側に配置され、オペレータは体を操作対象により近づけることができ、操作性が向上される。また更に、本実施形態では、螺合や嵌め込みなどの方法によりグローブユニットがグローブユニット取り付け部材に締結されるため、容易にグローブをアイソレータに取り付けることができる。
【0030】
次に
図5、
図6を参照して本発明の第2実施形態について説明する。
図5は、第2実施形態の無菌グローブユニット(使い捨て無菌手袋)の開封前の状態、
図6は開封後手袋を無菌チャンバ内に伸ばした状態を示す。なお、第1実施形態の無菌グローブユニットと同じ構成に関しては、同一の参照符号を用い、その説明を省略する。
【0031】
第1実施形態の無菌グローブユニット10は、例えばアイソレータを用いた無菌作業などで使用されることを想定したもので、グローブポート15には、スリーブ部18が設けられ、無菌グローブユニット10は、スリーブ部18の先端に設けられたグローブユニット取付部19に取り付けられた。しかし、第2実施形態の無菌グローブユニット21は、例えば薬剤や飲料の充填設備(機器)を取り囲んだ無菌チャンバ25での使用を想定したものである。
【0032】
充填設備のように機器による作業を基本とする使用環境では、通常の作業において手袋が使用されることはない。しかし、突発的な故障などの緊急時には、無菌チャンバ25の内側25Aに配置された機器をオペレータが外側25Bから直接操作する必要があり、手袋を用いた操作が必要になる。そのため通常使用されない手袋であっても、緊急時に備えて手袋を機器近くに装備しておく必要がある。しかし、通常使用されない手袋を機器近くに配置すると、機器への巻き込みなどの危険性が発生する。そのため第2実施形態では、このような環境での使用を想定し、無菌チャンバの壁面に設けられた挿入口に、直接無菌グローブユニットを取り付ける。
【0033】
図5に示されるように、第2実施形態のグローブポート22は、スリーブ部を備えず、無菌チャンバ25の壁面16に設けられた円筒状の挿入口23が、グローブユニット取付部(取り付け部材)を兼ねる。すなわち無菌グローブユニット21の固定部材13の内径は、交差を除いて挿入口であるグローブユニット取付部23の外径に等しく、無菌グローブユニット21は、固定部材13をグローブユニット取付部23に連結することで無菌チャンバ25内に設置される。なお固定部材13とグローブユニット取付部23の結合方法は、第1実施形態における筒状体(収納筒体12、固定部材13)とグローブユニット取付部19の結合方法と同様である。また
図6に示されるように、第2実施形態では、グローブポートがスリーブ部を備えないので、手袋24には例えば一体的なスリーブを備えたものが用いられる。
【0034】
以上のように第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。また、第2実施形態では、手袋を通常使用しない環境においても、不測の事態に備え、手袋をコンパクトかつ露出しない形でグローブポートに設置することができる。
【0035】
なお、第2実施形態において、繊細な操作が必要でなければ手袋に従来と同じ除染ガスに耐性を有する材質を用いることも可能であり、チャンバ内の除染と合わせて手袋を除染し、その後手袋を用いてキャップで収容筒体の先端側開口端を密封して、手袋を収納しておくことも可能である。