特許第5967759号(P5967759)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人国立高等専門学校機構の特許一覧 ▶ 島田 邦雄の特許一覧 ▶ 国立大学法人 名古屋工業大学の特許一覧 ▶ 株式会社不二越の特許一覧

<>
  • 特許5967759-磁気研磨方法 図000002
  • 特許5967759-磁気研磨方法 図000003
  • 特許5967759-磁気研磨方法 図000004
  • 特許5967759-磁気研磨方法 図000005
  • 特許5967759-磁気研磨方法 図000006
  • 特許5967759-磁気研磨方法 図000007
  • 特許5967759-磁気研磨方法 図000008
  • 特許5967759-磁気研磨方法 図000009
  • 特許5967759-磁気研磨方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967759
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】磁気研磨方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 31/112 20060101AFI20160728BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20160728BHJP
【FI】
   B24B31/112
   B24B37/00 D
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-156642(P2012-156642)
(22)【出願日】2012年7月12日
(65)【公開番号】特開2014-18875(P2014-18875A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年5月29日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公益社団法人精密工学会発行、2012年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集(CD−ROM)、平成24年3月1日発行 2012年度精密工学会春季大会学術講演会、平成24年3月14日に首都大学東京にて開催 第24回「電磁力関連のダイナミクス」シンポジウム実行委員会発行、第24回「電磁力関連のダイナミクス」シンポジウム講演論文集(第389〜392頁)、平成24年5月16日発行 第24回「電磁力関連のダイナミクス」シンポジウム(電気学会主催)、平成24年5月17日に富山国際会議場にて開催 独立行政法人国立高等専門学校機構富山高等専門学校発行、磁気混合流体応用講演会資料集(第11〜14頁)、平成24年6月14日発行 磁気混合流体応用講演会、平成24年6月14日に独立行政法人国立高等専門学校機構富山高等専門学校にて開催
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504300077
【氏名又は名称】島田 邦雄
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】西田 均
(72)【発明者】
【氏名】島田 邦雄
(72)【発明者】
【氏名】井門 康司
(72)【発明者】
【氏名】薮谷 誠
【審査官】 須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−224227(JP,A)
【文献】 特開2006−088283(JP,A)
【文献】 特開2006−082213(JP,A)
【文献】 特開2002−170791(JP,A)
【文献】 特開2007−136637(JP,A)
【文献】 特開平04−025369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B3/00−3/60
B24B21/00−39/06
B24B57/02
B24B1/04
H01L21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子、非磁性砥粒および磁性流体を含む研磨加工液と、磁性材料で製作された研磨工具と、軸方向に貫通孔を備えたコイルと、を有しており、前記研磨工具が前記コイルの貫通孔に挿通されている研磨装置を用いた、凹面を有する被研磨物の磁気研磨方法であって、前記コイルに周波数0.1Hzのパルス電圧を印加させた状態で前記研磨工具を回転させつつ、前記研磨工具の先端と前記被研磨物の表面との上下方向の間隔を1.0mm〜1.5mmに保持した状態で、前記研磨工具と前記被研磨物とを相対的に水平方向にのみ移動させることで前記被研磨物の前記凹面を鏡面研磨することを特徴とする磁気研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨工具を用いて被研磨物の凹面を鏡面研磨する磁気研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話に搭載されるカメラ用レンズの成形用金型に代表される極小金型の表面研磨は、高精度に鏡面研磨することが必要とされている。また、半導体や磁気記録装置への表面研磨は、優れた表面粗さと平坦度になる研磨技術が求められている。このような製品(被研磨物)に対する研磨に関しては、従来から様々な磁気研磨方法が提案されていた。
【0003】
例えば、特許文献1ではコイルが巻かれた、磁性体である研磨工具に、非磁性砥粒と磁性粒子と分散媒体とを含む磁性流体(研磨加工液)を塗布して、研磨工具を回転させるとともに、凹形状の被研磨物も回転させながら、研磨工具と被研磨物との間隔を一定に保ちつつ被研磨物を研磨する磁気研磨方法が開示されている。また、コイルに印加する電圧を被研磨物の位置に連動して、ON(入)とOFF(切)とを切り替えることができる。この磁気研磨方法を用いることにより高精度の研磨面を得ることができる。
【0004】
また、特許文献2では非磁性砥粒と磁性粒子と界面活性剤を含む研磨加工液の存在下にて、コイルが巻かれた研磨工具(磁気鉄芯)を有する研磨装置を用いて、研磨工具(磁気鉄芯)を回転させながら、研磨工具と被研磨物との加工間隙を0.7mmに保持しつつ被研磨物を研磨する磁気研磨方法が開示されている。また、コイルに印加する電圧を直流電圧(DC)にすることもできる。この磁気研磨方法を用いることで、極めて高い研磨面(Rmax=0.1μm)を得ることができる。
【0005】
さらに、特許文献3では、永久磁石など磁場を発生する磁場発生源を備えた研磨工具を有する研磨装置を用いて、アルミナ等の非磁性砥粒と鉄粉などの磁性粒子とケロシン等の分散媒体とを含む磁性流体(研磨加工液)を塗布した状態で、研磨工具を回転させつつ研磨工具と被研磨物を相対的に移動させながら研磨する磁気研磨方法が開示されている。この磁気研磨方法を用いることで、同心状の削り加工と鏡面研磨を同時に行うことができる。
【0006】
また、本発明者らは、磁気を利用した磁気研磨方法について、コイルの中央部を貫通する研磨工具を備えた研磨装置を用いて、回転している研磨工具に0.1Hzのパルス電圧を印加することで磁場(パルス磁場)を発生させた状態で、被研磨物にアルミナ(非磁性砥粒)と鉄粉(磁性粒子)とケロシン(分散媒体)とを含む磁性流体を塗布しながら、被研磨物表面を研磨することで一定の研磨効果があることを発表している(非特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−224227号公報
【特許文献2】特開平5−8169号公報
【特許文献3】特開2006−82213号公報
【非特許文献1】西田均、島田邦雄、井門康司、「磁気機能性流体を用いた平面研磨におけるパルス磁場の効果」、2010年度精密工学会春季大会学術講演会、2010年3月17日
【非特許文献2】西田均、島田邦雄、井門康司、「磁気機能性流体を用いた研磨に及ぼす磁気クラスターの影響」、第22回電磁力関連のダイナミクスシンポジウム、2010年5月20日、P.374〜375
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載された磁気研磨方法では、凹面を有する被研磨物を研磨する際に、研磨工具と被研磨物とが一定の間隔を保ちながら研磨工具の先端部を被研磨物の凹面に沿って被研磨物を傾斜させる必要がある。すなわち、研磨工具は回転のみであっても被研磨物を(研磨工具に対して)三次元的に相対移動させる必要があり、被研磨物を固定する装置が複雑な構造になるという問題があった。
【0009】
また、特許文献2に記載された磁気研磨方法では、研磨工具を回転させながら、被研磨物は移動させずに固定した状態で研磨を行っているので、凹面を有する被研磨物を研磨する場合には凹面全体を均一に研磨することは困難であるという問題があった。
【0010】
さらに、特許文献3に記載された磁気研磨方法では、研磨工具への磁場発生源が永久磁石の場合には、磁場の変化が生じないので研磨工具の先端部には不均一な状態で磁性流体(磁気研磨液)が留まっている。そのため凹面を有する被研磨物の研磨精度が確保され難いという問題があった。
【0011】
そこで、本発明においては、被研磨物の表面に沿って研磨工具を移動(主に平面から凹面の深さ方向への上下移動)させることなく凹面を有する被研磨物であっても凹面およびそれに連続した平面全体を均一に鏡面研磨できる磁気研磨方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した課題を解決するため、本発明においては、磁性粒子、非磁性砥粒および磁性流体を含む研磨加工液と、磁性材料で製作された研磨工具と、軸方向に貫通孔を備えたコイルと、を有しており、研磨工具がコイルの貫通孔に挿通されている研磨装置を用いた、凹面を有する被研磨物の磁気研磨方法であって、コイルに周波数0.1Hzのパルス電圧を印加させた状態で研磨工具を回転させながら、研磨工具の先端と被研磨物の表面との上下方向の間隔を1.0mm〜1.5mmに保持させて、研磨工具と被研磨物とを相対的に水平方向にのみ移動させて被研磨物の凹面を鏡面研磨する磁気研磨方法とした。
【0013】
この方法により、一定の周波数を有したパルス電圧をコイルへ印加することで、研磨工具が磁化されて、磁性粒子と非磁性砥粒を含んだ研磨加工液が磁気クラスタを形成する。この磁気クラスタは、パルス電圧の周波数に応じて、短時間の間に「形成(磁力線に沿って磁気クラスタが生まれること)」と「崩壊(磁場の消滅によって磁気クラスタが崩れること)」を何度も繰り返し、その度に磁気クラスタに付着したり、保持される非磁性砥粒が入れ替わることで研磨面(凹面)を研磨することになる。また、この方法により、磁気クラスタの形成と崩壊の間隔(タイミング)を最適化することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る磁気研磨方法は、研磨工具と、軸方向に貫通孔を備えたコイルと、を有しており、研磨工具がコイルの貫通孔に挿通されている研磨装置を用いた、凹面を有する被研磨物の磁気研磨方法であって、コイルに周波数0.1Hzのパルス電圧を印加させた状態で、研磨工具を回転しながら、研磨工具の先端と被研磨物の面とを1mm〜1.5mmの間隔に保持した状態で、研磨工具と被研磨物とを相対的に水平方向にのみ移動することにより、パルス電圧の周波数に応じて磁気クラスタが形成と崩壊を何度も繰り返して、その度に磁気クラスタに付着したり、保持される非磁性砥粒が入れ替わり、研磨面(凹面)を研磨するので、被研磨物の表面に沿って研磨工具を移動(主に平面から凹面の深さ方向への上下移動)させることなく(研磨工具と被研磨物との間隔を制御することなく)凹面を有する被研磨物であっても凹面およびそれに連続する平面全体を均一に鏡面研磨できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る磁気研磨方法に用いる研磨装置1の模式図である。
図2図1の研磨装置1における研磨工具3先端部分の拡大模式図である。
図3】研磨工具と被研磨物との間における磁性流体中の磁性粒子および非磁性砥粒の分布状態を表す模式図である。
図4】研磨装置のコイルにパルス電圧を印加した場合の被研磨物の研磨前後における表面状態のグラフである。
図5】研磨装置のコイルに直流電圧を印加した場合の被研磨物の研磨前後における表面状態のグラフである。
図6】研磨装置のコイルにパルス電圧を印加した場合の研磨工具先端部と被研磨物表面との距離を0.5mmとした場合の研磨前後における被研磨物の表面状態のグラフである。
図7】研磨装置のコイルにパルス電圧を印加した場合の研磨工具先端部と被研磨物表面との距離を1.0mmとした場合の研磨前後における被研磨物の表面状態のグラフである。
図8】研磨装置のコイルにパルス電圧を印加した場合の研磨工具先端部と被研磨物表面との距離を1.5mmとした場合の研磨前後における被研磨物の表面状態のグラフである。
図9】研磨装置のコイルにパルス電圧を印加した場合の研磨工具先端部と被研磨物表面との距離を2.0mmとした場合の研磨前後における被研磨物の表面状態のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る磁気研磨方法の実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は本発明に係る磁気研磨方法に用いる研磨装置1の模式図、図2図1の研磨装置1における研磨工具3先端部分の拡大模式図である。図1に示すように、本発明に係る磁気研磨方法に用いる研磨装置1は、図示しないパルス電源よりパルス電圧が印加されるコイル2と、コイル2の中央部に軸方向に設けられた貫通穴に挿通されている研磨工具3と、被研磨物Wを設置するベース(架台)4と、ベース4内で被研磨物Wを固定するOリング5と、研磨時に被研磨物Wの回転数を制御するモータの主軸6およびモータ7と、から構成されている。また、図2に示すように被研磨物Wは平面Fから深さdの凹面(凹部)を有しており、研磨工具3の先端表面と被研磨物Wの平面Fとの間隔δを保持した状態で凹面およびそれに連続する平面Fの研磨を行う。
【0018】
次に、研磨装置1を用いた磁気研磨方法について説明する。凹面を有する被研磨物WをOリング5とねじ止めによりモータの主軸6と固定した後、被研磨物Wの表面に磁性粒子、非磁性砥粒および磁性流体を含む研磨加工液を適量滴下して、コイル2にパルス電圧を印加する。コイル2にパルス電圧が印加されると、研磨工具3に磁場(パルス磁場)が発生して、研磨工具3先端に接している研磨加工液中の磁性粒子により図3に示す鎖状の磁気クラスタが発生する。
【0019】
磁気クラスタは、図3に示すように研磨工具先端の表面と被研磨物の表面との間に形成されて、磁性粒子は磁力線に沿って分布しており、非磁性砥粒は主に被研磨物の表面側に多く集合する。磁気クラスタは鎖状を呈しており、磁性粒子と非磁性砥粒との間の磁性流体の分散粒子やαセルロースによって、細長く弾力性のあるものである。その後、研磨工具を所定の回転数で回転し、同時に被研磨物も回転した状態で被研磨物の表面に対する研磨を開始する。すなわち、研磨工具と被研磨物とを相対的に移動させることで被研磨物表面の研磨を行う。なお、研磨工具と被研磨物との相対的な移動形態については、研磨工具のみ回転した状態で被研磨物を回転させずに研磨工具を被研磨物の面と平行に移動させる、もしくは研磨工具を固定した状態で被研磨物を水平方向に移動させる等の形態があり、研磨工具および被研磨物を共に回転した状態で研磨を行った場合と同様の効果を得ることができる。
【実施例1】
【0020】
図1に示す研磨装置を用いて、コイルに直流電圧(DC)とパルス電圧(周波数0.1Hz)をそれぞれ印加した状態で凹面を有する被研磨物の凹面を研磨する研磨試験を行った。その試験結果について図4および図5を用いて説明する。研磨試験は、研磨工具を500rpmの回転数で回転しながら、黄銅製の被研磨物(直径30mm、厚さ10mm、凹面直径8mm、凹面深さ0.5mm)を、200rpmの回転数で回転しながら、研磨工具の先端と被研磨物の平面との距離を1.0mmに保って行った。さらに、研磨工具の中心軸と被研磨物の中心との距離(オフセット距離)を5mmに保ち、被研磨物を毎分40mmの速度で8mmの幅を移動(揺動)しながら、研磨を行った。なお、被研磨物と研磨工具の回転の向き(回転方向)は図1に示すように互いに逆回転の関係となるように行い、研磨時間は80分間とした。
【0021】
図4は研磨装置のコイルにパルス電圧を印加した場合の被研磨物の研磨前後における表面状態のグラフ、図5は研磨装置のコイルに直流電圧を印加した場合の被研磨物の研磨前後における表面状態のグラフである。被研磨物の表面状態の図4および図5の両グラフは、凹面中心位置から左右約14mm(測定総距離:28mm)の範囲において、被研磨物の表面状態を表面プロファイル測定装置により測定したグラフである。また、両グラフともに、研磨前後のグラフを測定開始位置(直径方向の測定距離:0mm)と測定終了位置(直径方向の測定距離:28mm)の箇所で互いに重ね合わせたものとした。
【0022】
研磨装置のコイルにパルス電圧を印加した場合には、80分の研磨後の形状は図4に示すように、平面と凹面との境界部分、凹面を形成する傾斜部分、および凹面の底面部分の各々において研磨前の形状との差異がほとんど見られていない。また、凹面部と平面部の表面はともに鏡面状態である。
【0023】
これに対して、研磨装置のコイルに直流電圧を印加した場合には、図5に示すように80分の研磨後の形状は平面と凹面との境界部分、凹面を形成する傾斜部分、および凹面の底面部分の全ての箇所において研磨前の形状との差異が生じた。具体的には、研磨後の形状は、被研磨物の平面が凹面側へ近づくほど傾斜した形状を呈して、凹面を形成する傾斜部においては底面部へ近づくほどより深く研磨して、凹面の底面部にいたっては平滑面からの距離が約10μm深さ方向に大きくなった。なお、研磨表面は凹面部と平面部ともに鏡面状態である。
【0024】
以上の結果より、本発明に係る磁気研磨方法は、凹面を有する被研磨物であっても被研磨物の表面に沿って研磨工具を移動(平面から凹面方向への上下移動)させることなく、表面全体の形状(形状精度)を保ったまま均一に鏡面研磨できた。
【実施例2】
【0025】
次に、研磨に及ぼす間隔の影響を明らかにするためにコイルにパルス電圧を印加した状態(周波数=0.1Hz)で、研磨工具の先端と被研磨物の平面との距離(図2中のδ)を変えて研磨試験を行った。その試験結果について図6ないし図9を用いて説明する。当該研磨試験は実施例1と同一の研磨装置を用いて行ったが、被研磨物は凹面を有しない平面だけのものを使用して、研磨中における被研磨物の回転は行わずに固定した状態で研磨試験を行った。また、研磨工具については実施例1と同様に500rpmの回転数で回転しながら、研磨工具の中心軸と被研磨物の中心とを同じにして、被研磨物の移動なしに被研磨物の研磨を行った(研磨時間:80分間)。
【0026】
図6は研磨工具の先端と被研磨物の平面との距離を0.5mmとした場合の研磨前後における被研磨物の表面状態、図7は研磨工具の先端と被研磨物の平面との距離を1.0mmとした場合の研磨前後における被研磨物の表面状態、図8は研磨工具の先端と被研磨物の平面との距離を1.5mmとした場合の研磨前後における被研磨物の表面状態、図9は研磨工具の先端と被研磨物の平面との距離を2.0mmとした場合の研磨前後における被研磨物の表面状態をそれぞれ示す。また、図6ないし図9における一点鎖線は研磨中心位置を表す。
【0027】
図6ないし図9の各グラフは、研磨中心位置から左右14mm(測定総距離:28mm)の範囲において、被研磨物の表面状態を表面プロファイル測定装置により測定したグラフである。また、図6ないし図9の各グラフは研磨前後のグラフを測定開始位置(直径方向の測定距離:1mm)と測定終了位置(直径方向の測定距離:29mm)の箇所で互いに重ね合わせて表示した。
【0028】
研磨工具の先端と被研磨物の平面との距離を0.5mmとした場合の研磨前後における被研磨物の表面状態は、図6に示すように直径方向の研磨中心(同図の15mmの位置)から2mmまでの範囲では、研磨工具の回転中心に近いために研磨前後で深さ方向に変化は見られなかった。ところが研磨中心(研磨工具の回転中心)から2mm〜5mmまでの範囲では深さ方向で最深3.5μmの深さまで研磨されており、研磨中心から5mm〜12mmまでの範囲では0.8μm前後の深さまで研磨されていた。すなわち直径方向における測定箇所によって深さ方向の研磨量にバラつきが生じた。
【0029】
また、研磨工具の先端と被研磨物の平面との距離を2.0mmとした場合の研磨前後における被研磨物の表面状態は、図9に示すように直径方向の研磨中心(同図の15mmの位置)から4mmまでの範囲では研磨前後で深さ方向に変化は見られなかった。ところが研磨中心から4mm〜12mmの範囲では加工深さにバラつきが生じた。
【0030】
これらに対して、研磨工具の先端と被研磨物の平面との距離を1.0mmとした場合の研磨前後における被研磨物の表面状態は、図7に示すように直径方向の研磨中心(同図の15mmの位置)から2mmまでの範囲では、図6に示す研磨工具の先端と被研磨物の平面との距離が0.5mmの場合と同様に、研磨前後で深さ方向に変化は見られなかった。しかし、研磨中心から2mm〜12mmの範囲では研磨量は0.7μm程度で変化は少なく、この範囲においてはほぼ均一に研磨されていた。
【0031】
また、研磨工具の先端と被研磨物の平面との距離を1.5mmとした場合の研磨前後における被研磨物の表面状態は、図8に示すように直径方向の研磨中心(同図の15mmの位置)から2mmまでの範囲では、図6および図7に示す研磨工具の先端と被研磨物の平面との距離が0.5mmおよび1.0mmの場合と同様に、研磨前後で深さ方向に変化は見られなかった。しかし、研磨中心から2mm〜12mmまでの範囲での研磨量は約0.8μmであり、この範囲においてはほぼ均一に研磨されていた。
【0032】
以上の結果より、コイルに周波数0.1Hzのパルス電圧を印加した状態で研磨工具を回転しながら、研磨工具の先端部と被研磨物の面との間隔が1.0mm〜1.5mmの範囲の磁気研磨方法は、同等の広い研磨領域において同等の表面性状を有することがわかった。すなわち、本発明に係る磁気研磨方法を用いることで研磨工具の先端と加工表面の間隔が1.0mm〜1.5mmの範囲で変化する凹面を有する被研磨物を、細長く弾力性のある磁気クラスタの特性によって研磨工具の深さ方向の上下移動をさせることなく研磨できる。また、本発明に係る磁気研磨方法を用いることで平面からの距離が0.5mm(500μm)以下の凹面を有する被研磨物であれば、凹面とそれに続く平面を広範囲かつ均一に形状精度を保持したまま研磨できる。なお、本実施例は凹面を有した被研磨物を対象として研磨試験を行ったが、ミクロン単位の溝形状や孔形状などの微細な複雑形状の表面を有する被研磨物であっても同様の効果を得ることができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0033】
1 研磨装置
2 コイル
3 研磨工具
10 磁性粒子
11 非磁性砥粒
12 磁性流体
W 被研磨物
δ 研磨工具と被研磨物との間隔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9