(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5968201
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】着色剤同定方法、及び着色剤同定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/65 20060101AFI20160728BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20160728BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
G01N21/65
G01N21/64 Z
G01N21/27 B
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-250469(P2012-250469)
(22)【出願日】2012年11月14日
(65)【公開番号】特開2014-98626(P2014-98626A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2015年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(72)【発明者】
【氏名】中田 靖
(72)【発明者】
【氏名】沼田 朋子
【審査官】
横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−241523(JP,A)
【文献】
特開2011−257691(JP,A)
【文献】
特表2012−521781(JP,A)
【文献】
特開2008−096159(JP,A)
【文献】
特開2004−122690(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0032412(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/74
G07D 7/00− 7/20
G09F 1/00− 5/04
D21H 21/40
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラー画像を作成するために使用された着色剤を同定する方法において、
特定色の着色剤の蛍光スペクトル、及び前記特定色と同等の色で組成が異なる複数種類の着色剤のラマンスペクトルをデータベースに記憶しておき、
カラー画像に単色光を照射し、前記カラー画像の各部分から発生する蛍光を測定して、前記カラー画像上の蛍光スペクトルの分布を取得し、
取得した前記分布から、前記データベースに記憶してある前記特定色の着色剤の蛍光スペクトルと同等の蛍光スペクトルが含まれる部分を特定し、該部分に対応する前記カラー画像上の部分を特定し、
特定した前記カラー画像上の部分に単色光を照射して、ラマンスペクトルを取得し、
取得したラマンスペクトルを前記データベースに記憶してあるラマンスペクトルと比較することによって、着色剤を同定すること
を特徴とする着色剤同定方法。
【請求項2】
前記カラー画像に白色光を照射し、前記カラー画像からの反射光を測定して、前記カラー画像上の反射スペクトルの分布を取得し、
取得した前記分布から、前記特定色に対応する反射スペクトルが含まれる領域を特定することを更に含み、
前記蛍光スペクトルの分布から前記特定色の着色剤の蛍光スペクトルと同等の蛍光スペクトルが含まれる部分を特定する際には、特定した前記領域に対応する前記蛍光スペクトルの分布中の部分から、前記特定色の着色剤の蛍光スペクトルと同等の蛍光スペクトルが含まれる部分を特定すること
を特徴とする請求項1に記載の着色剤同定方法。
【請求項3】
前記データベースは、前記複数種類の着色剤のラマンスペクトルの夫々に関連付けて、前記ラマンスペクトルを取得するために必要な単色光の波長を記憶しており、
前記データベースに記憶してある波長の単色光を前記カラー画像に照射してラマンスペクトルを取得し、
特定の波長の単色光を用いて取得したラマンスペクトルと前記特定の波長に関連付けて前記データベースに記憶してあるラマンスペクトルとを比較することによって、着色剤を同定すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の着色剤同定方法。
【請求項4】
前記特定色の着色剤は、カラー画像を作成するために使用される複数色の着色剤の内の一つであること
を特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の着色剤同定方法。
【請求項5】
前記複数色の夫々について着色剤を同定すること
を特徴とする請求項4に記載の着色剤同定方法。
【請求項6】
前記カラー画像の各部分から発生するラマン散乱光を測定して、前記カラー画像上のラマンスペクトルの分布を取得すること
を特徴とする請求項1乃至5の何れか一つに記載の着色剤同定方法。
【請求項7】
カラー画像を作成するために使用された着色剤を同定する装置において、
単色光源と、
特定色の着色剤の蛍光スペクトル、及び前記特定色と同等の色で組成が異なる複数種類の着色剤のラマンスペクトルを記憶する記憶部と、
前記単色光源からカラー画像に単色光を照射し、前記カラー画像の各部分から発生する蛍光を測定して、前記カラー画像上の蛍光スペクトルの分布を取得する手段と、
該手段が取得した前記分布から、前記記憶部に記憶してある前記特定色の着色剤の蛍光スペクトルと同等の蛍光スペクトルが含まれる部分を特定し、該部分に対応する前記カラー画像上の部分を特定する特定手段と、
該特定手段が特定した前記カラー画像上の部分に単色光を照射して、ラマンスペクトルを取得する手段と、
該手段が取得したラマンスペクトルを前記記憶部に記憶してあるラマンスペクトルと比較することによって、着色剤を同定する手段と
を備えることを特徴とする着色剤同定装置。
【請求項8】
白色光源と、
該白色光源から前記カラー画像に白色光を照射し、前記カラー画像からの反射光を測定して、前記カラー画像上の反射スペクトルの分布を取得する手段と、
取得した前記分布から、前記特定色に対応する反射スペクトルが含まれる領域を特定する手段とを更に備え、
前記特定手段は、
前記領域に対応する前記蛍光スペクトルの分布中の部分から、前記特定色の着色剤の蛍光スペクトルと同等の蛍光スペクトルが含まれる部分を特定するように構成してあること
を特徴とする請求項7に記載の着色剤同定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光分析により、カラー画像を作成するために使用された着色剤の同定を行う方法、及び着色剤同定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置の発達により、紙に画像を記録した文書等の画像記録物を作成することが容易になっている。このため、秘密情報を記録した文書の複写物、又は紙幣若しくは証券の偽造物等、不正な画像記録物を作成することも容易になっている。ところで、画像を記録するために使用されるインク又はトナー等の着色剤は、画像形成装置又は着色剤のメーカ等の違いに応じて組成が異なっている。従って、画像記録物に使用された着色剤を分析すれば、画像形成装置又は着色剤のメーカ等の違いに応じた着色剤の種類を同定することができる。着色剤の種類を同定することができれば、不正な画像記録物の作成に使用された画像形成装置を特定し、不正な画像記録物が作成された経緯を調査するために利用することが可能となる。
【0003】
従来、試料の分析を非破壊で行う方法として、ラマン分光分析が利用されている。特許文献1には、トナーをラマン分光分析の対象とすることが記載されている。種類の異なる着色剤からのラマン散乱光を測定した場合、得られるラマンスペクトルが異なるので、着色剤のラマンスペクトルを調べることで着色剤の同定が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−300808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カラー画像は、複数色の着色剤を用いて作成される。例えば、インクジェットプリンタでは、青(シアン)、赤(マゼンタ)、黄(イエロー)及び黒(ブラック)の四色の着色剤が用いられていることが多い。カラー画像では、多くの部分で、複数色の着色剤が混合して使用されている。複数色の着色剤が混合したカラー画像から得られるラマンスペクトルは、各色の着色剤から得られるラマンスペクトルが重なったスペクトルとなる。複数色の着色剤の混合比は任意に変化し、混合比に応じてラマンスペクトルが変化するので、カラー画像から着色剤を同定することが困難であるという問題がある。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、特定色の着色剤を分析することによって、カラー画像から着色剤の同定を行う方法及び着色剤同定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る着色剤同定方法は、カラー画像を作成するために使用された着色剤を同定する方法において、特定色の着色剤の蛍光スペクトル、及び前記特定色と同等の色で組成が異なる複数種類の着色剤のラマンスペクトルをデータベースに記憶しておき、カラー画像に単色光を照射し、前記カラー画像の各部分から発生する蛍光を測定して、前記カラー画像上の蛍光スペクトルの分布を取得し、取得した前記分布から、前記データベースに記憶してある前記特定色の着色剤の蛍光スペクトルと同等の蛍光スペクトルが含まれる部分を特定し、該部分に対応する前記カラー画像上の部分を特定し、特定した前記カラー画像上の部分に単色光を照射して、ラマンスペクトルを取得し、取得したラマンスペクトルを前記データベースに記憶してあるラマンスペクトルと比較することによって、着色剤を同定することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る着色剤同定方法は、前記カラー画像に白色光を照射し、前記カラー画像からの反射光を測定して、前記カラー画像上の反射スペクトルの分布を取得し、取得した前記分布から、前記特定色に対応する反射スペクトルが含まれる領域を特定
することを更に含み、
前記蛍光スペクトルの分布から前記特定色の着色剤の蛍光スペクトルと同等の蛍光スペクトルが含まれる部分を特定する際には、特定した前記領域に対応する前記蛍光スペクトルの分布中の部分から、前記特定色の着色剤の蛍光スペクトルと同等の蛍光スペクトルが含まれる部分を特定することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る着色剤同定方法は、前記データベースは、前記複数種類の着色剤のラマンスペクトルの夫々に関連付けて、前記ラマンスペクトルを取得するために必要な単色光の波長を記憶しており、前記データベースに記憶してある波長の単色光を前記カラー画像に照射してラマンスペクトルを取得し、特定の波長の単色光を用いて取得したラマンスペクトルと前記特定の波長に関連付けて前記データベースに記憶してあるラマンスペクトルとを比較することによって、着色剤を同定することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る着色剤同定方法は、前記特定色の着色剤は、カラー画像を作成するために使用される複数色の着色剤の内の一つであることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る着色剤同定方法は、前記複数色の夫々について着色剤を同定することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る着色剤同定方法は、前記カラー画像の各部分から発生するラマン散乱光を測定して、前記カラー画像上のラマンスペクトルの分布を取得することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る着色剤同定装置は、カラー画像を作成するために使用された着色剤を同定する装置において、単色光源と、特定色の着色剤の蛍光スペクトル、及び前記特定色と同等の色で組成が異なる複数種類の着色剤のラマンスペクトルを記憶する記憶部と、前記単色光源からカラー画像に単色光を照射し、前記カラー画像の各部分から発生する蛍光を測定して、前記カラー画像上の蛍光スペクトルの分布を取得する手段と、該手段が取得した前記分布から、前記記憶部に記憶してある前記特定色の着色剤の蛍光スペクトルと同等の蛍光スペクトルが含まれる部分を特定し、該部分に対応する前記カラー画像上の部分を特定する特定手段と、該特定手段が特定した前記カラー画像上の部分に単色光を照射して、ラマンスペクトルを取得する手段と、該手段が取得したラマンスペクトルを前記記憶部に記憶してあるラマンスペクトルと比較することによって、着色剤を同定する手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る着色剤同定装置は、白色光源と、該白色光源から前記カラー画像に白色光を照射し、前記カラー画像からの反射光を測定して、前記カラー画像上の反射スペクトルの分布を取得する手段と、取得した前記分布から、前記特定色に対応する反射スペクトルが含まれる領域を特定する手段とを更に備え、前記特定手段は、前記領域に対応する前記蛍光スペクトルの分布中の部分から、前記特定色の着色剤の蛍光スペクトルと同等の蛍光スペクトルが含まれる部分を特定するように構成してあることを特徴とする。
【0015】
本発明においては、カラー画像上の蛍光スペクトルの分布に基づいて、カラー画像上で特定色の着色剤で形成された部分を特定し、特定した部分から測定したラマンスペクトルに基づいて、特定色と同等の色で組成が異なる複数種類の着色剤の中からカラー画像に用いられた着色剤を同定する。異なる色の着色剤の間では蛍光スペクトルが異なるので、特定色の着色剤で形成された部分が特定できる。特定色の複数種類の着色剤について予めデータベースに記憶してある標準のラマンスペクトルと測定したラマンスペクトルとを比較することによって、着色剤を同定することが可能である。
【0016】
また、本発明においては、カラー画像上の反射スペクトルの分布から、特定色の反射スペクトルが含まれる領域を特定し、特定した領域中の蛍光スペクトルに基づいて、カラー画像上で特定色の着色剤で形成された部分を特定する。反射スペクトル及び蛍光スペクトルの両方を利用することにより、特定色の着色剤で形成された部分を精度良く特定することができる。
【0017】
また、本発明においては、複数種類の着色剤の夫々にラマンスペクトルを測定するための単色光の波長を対応づけておき、特定の波長の単色光を用いて測定したラマンスペクトルと特定の波長に対応する標準のラマンスペクトルとを比較することにより、着色剤を同定する。着色剤の種類が異なるとラマンスペクトルを測定するための適切な単色光の波長が異なることがあるので、単色光の波長及びラマンスペクトルの組み合わせに基づいて着色剤を同定する。
【0018】
また、本発明においては、カラー画像の作成に用いられる複数色の着色剤の内の一つである単色の着色剤で形成された部分を特定し、特定した部分から測定したラマンスペクトルに基づいて、単色の着色剤を同定する。単色の着色剤と複数色が混合した着色剤との間で蛍光スペクトルが異なるので、単色の着色剤で形成された部分が特定できる。単色の着色剤に係る標準のラマンスペクトルと測定したラマンスペクトルとを比較することによって、着色剤を同定することが可能である。
【0019】
また、本発明においては、カラー画像を作成するために使用された複数色の着色剤の夫々を同定する。複数色の着色剤の同定結果の組み合わせを情報として得ることができる。
【0020】
また、本発明においては、カラー画像上のラマンスペクトルの分布を取得する。これにより、特定色の着色剤の分布が得られる。
【発明の効果】
【0021】
本発明にあっては、カラー画像に用いられた着色剤を容易に同定することができる。従って、カラー画像が記録された不正な画像記録物が作成された経緯を調査するために有用な情報を提供することが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】着色剤同定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】制御装置の内部構成を示すブロック図である。
【
図4】着色剤同定装置が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
【
図5】蛍光スペクトルを測定する際の着色剤同定装置の状態を示すブロック図である。
【
図6】ラマンスペクトルを測定する際の着色剤同定装置の状態を示すブロック図である。
【
図7】ラマンスペクトルを測定する際の着色剤同定装置の状態を示すブロック図である。
【
図8】ラマンスペクトルを測定する際の着色剤同定装置の状態を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
図1は、着色剤同定装置の構成を示すブロック図である。着色剤同定装置は、複数色の着色剤を用いて作成したカラー画像の記録物を試料として、試料の反射スペクトル、蛍光スペクトル及びラマンスペクトルを測定し、測定結果に基づいて着色剤を同定する装置である。着色剤同定装置は、発光波長が異なる複数のレーザ光源11、12及び13と、白色光源14とを備えている。本実施の形態では、レーザ光源11の発光波長は532nmであり、レーザ光源12の発光波長は638nmであり、レーザ光源13の発光波長は785nmである。白色光源14は、反射スペクトルを測定するために使用する光源であり、レーザ光源11、12及び13はラマンスペクトルを測定するために使用する単色光源である。また、発光波長が最短であるレーザ光源11は、蛍光スペクトルを測定するための光源を兼ねている。
【0024】
着色剤同定装置は、分光器41及び検出器42を備えている。また分光器41に対向する位置に、試料6を載置する試料台43が備えられている。分光器41は、試料6から発生する白色光の反射光、蛍光及びラマン散乱光を入射され、分光する。検出器42は、マルチチャンネル検出器であり、分光器41が分光した夫々の波長の光を検出し、夫々の波長の光の検出強度に応じた信号を出力する。例えば、検出器42は、CCD(Charge Coupled Device )光センサを用いて構成されている。なお、検出器42はアバランシェフォトダイオード又は光電子増倍管等を用いて構成されたシングルチャンネル検出器であってもよい。
【0025】
着色剤同定装置は、ビームスプリッタ34及び35を備えている。ビームスプリッタ34及び35は、移動が可能であり、何れか一方が選択的に分光器41と試料台43との間の光軸上に配置されるようになっている。
図1中には、ビームスプリッタ35が光軸上に配置された状態を示している。白色光源14は、光軸上に配置されたビームスプリッタ35へ白色光を照射する位置に配置されている。ビームスプリッタ35は、光軸上に配置された状態で、白色光源14からの光を反射して試料台43上の試料6へ照射し、試料6からの反射光を通過させる。
【0026】
着色剤同定装置は、移動可能なミラー21、22及び23と、固定されたミラー24とを備えている。ミラー21、22及び23は、夫々、レーザ光源11、12及び13からのレーザ光を反射する位置に配置されており、対応するレーザ光源からのレーザ光をミラー24へ反射する位置へ何れか一つが選択的に移動することができるようになっている。ミラー24は、ミラー21、22又は23からのレーザ光を光軸上に配置されたビームスプリッタ34へ反射する位置に配置されている。ビームスプリッタ34は、光軸上に配置された状態で、ミラー24からのレーザ光を反射して試料6へ照射し、試料6で発生する蛍光及び散乱光を通過させる。また、着色剤同定装置は、レーザ光源11、12及び13からのレーザ光と波長が同等の光を遮断するレイリーカットフィルタ31、32及び33を備えている。レイリーカットフィルタ31、32及び33は、移動が可能であり、何れか一つが選択的に分光器41と試料台43との間の光軸上へ移動することができるようになっている。レイリーカットフィルタ31、32及び33は、光軸上に配置された状態で、試料6からの散乱光の内、レーザ光源11、12及び13からのレーザ光のレイリー散乱光を遮断し、波長が異なるラマン散乱光を通過させる。なお、着色剤同定装置は、その他のミラー、レンズ及びコリメータ等、図示しないその他の光学部品を含んでいてもよい。
【0027】
試料台43には、試料台43を水平面方向に移動させるステッピングモータ等の試料台駆動部44が連結されている。また、着色剤同定装置は、ミラー21、22及び23、レイリーカットフィルタ31、32及び33並びにビームスプリッタ34及び35を移動させる光学系駆動部45を備えている。更に、着色剤同定装置は、着色剤同定装置の各部の動作を制御する制御装置5を備えている。レーザ光源11、12及び13、白色光源14、分光器41、検出器42、試料台駆動部44並びに光学系駆動部45は、制御装置5に接続されている。レーザ光源11、12及び13並びに白色光源14は、オンとオフとを制御装置5に制御される。分光器41は、分光して検出器42に検出させる光の波長を制御装置5に制御される。検出器42は、光の検出強度に応じた信号を制御装置5へ出力する。制御装置5は、検出器42が出力した信号を入力され、分光器41に分光させた光の波長と入力された信号が示す光の検出強度とに基づいてスペクトルを生成する処理を行う。試料台駆動部44は、移動させる試料台43の位置を制御装置5に制御される。光学系駆動部45は、移動させる各光学部品の位置を制御装置5に制御される。
【0028】
図2は、制御装置5の内部構成を示すブロック図である。制御装置5は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータを用いて構成されている。制御装置5は、演算を行うCPU(Central Processing Unit )51と、演算に伴って発生する一時的なデータを記憶するRAM(Random Access Memory)52と、光ディスク等の記録媒体から情報を読み取るドライブ部53と、ハードディスク等の不揮発性の記憶部54とを備えている。また制御装置5は、使用者の操作を受け付けるキーボード又はマウス等の操作部55と、液晶ディスプレイ等の表示部56と、インタフェース部57とを備えている。インタフェース部57には、着色剤同定装置内の他の部分が接続されている。記憶部54は、動作に必要なコンピュータプログラムを記憶しており、CPU51は、必要に応じてコンピュータプログラムを記憶部54からRAM52へロードし、ロードしたコンピュータプログラムに従って、着色剤同定装置に必要な処理を実行する。
【0029】
記憶部54は、着色剤の同定に必要なデータを記憶するデータベースである。記憶部54は、カラー画像に含まれる夫々の色のスペクトルを示す反射スペクトルデータを記憶している。反射スペクトルデータには、特に、カラー画像を作成するために使用される複数色の着色剤夫々の単色の反射スペクトルを示すデータが含まれている。例えば、青(シアン)、赤(マゼンタ)、黄(イエロー)及び黒(ブラック)の夫々の反射スペクトルを示すデータが含まれている。また記憶部54は、複数色の着色剤夫々の単色の蛍光スペクトルを示す蛍光スペクトルデータを記憶している。例えば、蛍光スペクトルデータには、青、赤、黄及び黒の夫々の蛍光スペクトルを示すデータが含まれている。また記憶部54は、着色剤のメーカ別に、複数色の着色剤夫々の単色のラマンスペクトルを示すラマンスペクトルデータを記憶している。
【0030】
図3は、ラマンスペクトルの例を示す特性図である。図中の横軸は波数の単位でラマンシフトを示している。
図3Aは、特定のメーカ(以下、A社とする)製の着色剤のラマンスペクトルを示し、
図3Bは、他のメーカ(以下、B社とする)製の着色剤のラマンスペクトルを示す。夫々に、青、赤、黄及び黒の着色剤のラマンスペクトルを示す。A社製の着色剤には、黒が二種類あり、B社製の着色剤には、黒が三種類、赤が二種類ある。
図3に示すように、同じ色の着色剤でも、メーカが異なればラマンスペクトルが異なっている。ラマンスペクトルデータには、メーカ及び色が同じで種類が異なる着色剤のラマンスペクトルを示すデータも夫々に含まれている。
【0031】
更に、記憶部54は、各色の着色剤のラマンスペクトルを測定するために使用するレーザ光の波長を定めた波長データを記憶している。ラマンスペクトルを測定するために着色剤へレーザ光を照射した場合には、着色剤から蛍光が発生し、ラマン散乱光と共に検出器42で検出される。ラマンスペクトルの測定時に検出される蛍光はラマンスペクトルの分析に邪魔になるので、蛍光の発生量が少なくなる条件でラマンスペクトルを測定することが望ましい。波長データには、着色剤同定装置で使用できるレーザ光の波長の内、夫々の着色剤のラマンスペクトルを測定する際に蛍光の発生量が少なくなるような適切なレーザ光の波長が、夫々の着色剤に対応づけて記録されている。同じメーカ製の着色剤であっても、色の異なる着色剤は対応するレーザ光の波長が異なることがある。また、同じ色の着色剤であっても、メーカが異なる着色剤は対応するレーザ光の波長が異なることがある。
【0032】
次に、着色剤同定装置の動作を説明する。
図4は、着色剤同定装置が実行する処理の手順を示すフローチャートである。カラー画像の記録物である試料6を試料台43に載置した状態で、着色剤同定装置は、白色光を試料6へ照射し、試料6上の反射スペクトルの分布を取得する(S1)。制御装置5は、光学系駆動部45を制御して、
図1に示すように、分光器41と試料台43との間の光軸上にビームスプリッタ35を配置し、分光器41が分光する波長の範囲を必要に応じて調整し、その後、白色光源14を発光させる。白色光源14からの白色光が試料6へ照射され、反射光が分光器41へ入射される。
図1中には、白色光及び反射光を矢印で示している。
【0033】
検出器42は、分光器41で分光された夫々の波長の光を検出し、検出した夫々の波長の光の強度に応じた信号を出力する。検出器42がシングルチャンネル検出器である形態では、制御装置5は、分光器41を制御して、検出器42で検出される光の波長を順次変更し、検出器42は、波長が順次変更される光の検出強度に応じた信号を順次出力する。CPU51は、分光器41での分光内容と検出器42からの信号とに基づいて、試料6からの反射光の波長と強度との関係を示すスペクトルを生成する。また、制御装置5は、試料台駆動部44を制御して、試料台43を水平方向へ移動させ、試料6上の夫々の部分へ白色光を順次照射し、試料6上の各部分からの反射光のスペクトルを順次生成する。また、制御装置5は、試料6上のカラー画像が記録されていない部分へ白色光を照射し、反射光のスペクトルを生成する。これによって、カラー画像の記録物の中で着色剤が存在しない下地の部分からの反射光のスペクトルが得られる。なお、制御装置5は、下地の部分からの反射光のスペクトルを示すデータを予め記憶部54に記憶していてもよい。CPU51は、試料6上の各部分からの反射光のスペクトルを下地の部分からの反射光のスペクトルで除算することで、各波長の反射率を示す反射スペクトルを生成し、生成した反射スペクトルと試料6上の各部分とを対応づけることによって、試料6上の反射スペクトルの分布を取得する。CPU51は、反射スペクトルの分布を示すデータを記憶部54に記憶させる。
【0034】
着色剤同定装置は、次に、レーザ光を試料6へ照射し、試料6上の蛍光スペクトルの分布を取得する(S2)。
図5は、蛍光スペクトルを測定する際の着色剤同定装置の状態を示すブロック図である。制御装置5は、光学系駆動部45を制御して、
図5に示すように、分光器41と試料台43との間の光軸上にビームスプリッタ34を配置し、ミラー21を、レーザ光源11からのレーザ光をミラー24へ反射する位置に配置する。また、制御装置5は、必要に応じて、分光器41が分光する波長の範囲を調整する。制御装置5は、レーザ光源11を発光させ、波長532nmのレーザ光が試料6へ照射され、試料6で蛍光が発生し、蛍光は分光器41へ入射される。
図5中には、レーザ光及び蛍光を矢印で示している。蛍光スペクトルを測定するための光源としては、レーザ光源11以外のレーザ光源を用いることも可能ではあるが、蛍光の波長は励起光の波長よりも長くなるので、より情報の多い蛍光スペクトルを得るためには発光波長が最短であるレーザ光源11を光源とすることが望ましい。
【0035】
検出器42は、分光された夫々の波長の蛍光の検出強度に応じた信号を出力する。検出器42がシングルチャンネル検出器である形態では、制御装置5は、分光器41を制御して、検出器42で検出される蛍光の波長を順次変更し、検出器42は、波長が順次変更される蛍光の検出強度に応じた信号を順次出力する。制御装置5は、分光器41を制御して、検出器42で検出される蛍光の波長を変更しながら、検出器42が検出した光の強度に応じた信号を入力される。CPU51は、分光器41での分光内容と検出器42からの信号とに基づいて、試料6で発生した蛍光の波長と強度との関係を示す蛍光スペクトルを生成する。また、制御装置5は、試料台駆動部44を制御して、試料台43を水平方向へ移動させ、試料6上の夫々の部分へレーザ光を順次照射し、試料6上の各部分からの蛍光スペクトルを順次生成する。CPU51は、試料6上の各部分からの蛍光スペクトルと試料6上の各部分とを対応づけることによって、試料6上の蛍光スペクトルの分布を取得する。CPU51は、蛍光スペクトルの分布を示すデータを記憶部54に記憶させる。
【0036】
着色剤同定装置は、次に、試料6から、カラー画像の作成に使用された複数色の着色剤の内の一つのみで形成された単色部分を特定する(S3)。ステップS3では、CPU51は、反射スペクトルの分布から、単色の反射スペクトルが含まれる領域を特定する。具体的には、CPU51は、測定された反射スペクトルと記憶部54に記憶している反射スペクトルデータが示す青、赤、黄又は黒の何れかの反射スペクトルとを比較し、反射スペクトルデータが示す反射スペクトルに予め定められた所定の範囲内で一致する反射スペクトルが含まれている領域を特定する。CPU51は、次に、特定した領域に対応する蛍光スペクトルの分布中の部分から、単色の蛍光スペクトルが含まれる部分を特定する。具体的には、CPU51は、測定された蛍光スペクトルと記憶部54に記憶している蛍光スペクトルデータが示す青、赤、黄又は黒の何れかの蛍光スペクトルとを比較し、蛍光スペクトルデータが示す蛍光スペクトルに予め定められた所定の範囲内で一致する蛍光スペクトルが含まれている領域を特定する。着色剤同定装置は、ステップS3で、複数色の着色剤の夫々について単色部分を特定する。即ち、青、赤、黄及び黒の夫々の単色部分が特定される。なお、ステップS3では、CPU51が全ての処理を実行してもよく、使用者が操作部55を操作して単色部分を指定する等、使用者が行う操作が含まれていてもよい。
【0037】
着色剤同定装置は、次に、試料6上の単色部分からラマンスペクトルを取得する(S4)。
図6、
図7及び
図8は、ラマンスペクトルを測定する際の着色剤同定装置の状態を示すブロック図である。
図6は、波長532nmのレーザ光を用いてラマンスペクトルを測定する例を示す。制御装置5は、光学系駆動部45を制御して、
図6に示すように、分光器41と試料台43との間の光軸上にビームスプリッタ34及びレイリーカットフィルタ31を配置し、ミラー21を、レーザ光源11からのレーザ光をミラー24へ反射する位置に配置する。また、制御装置5は、必要に応じて、分光器41が分光する波長の範囲を調整する。制御装置5は、レーザ光源11を発光させ、波長532nmのレーザ光が試料6へ照射され、試料6でレイリー散乱光及びラマン散乱光が発生し、レイリー散乱光はレイリーカットフィルタ31で遮断され、ラマン散乱光は分光器41へ入射される。
図7は、波長638nmのレーザ光を用いてラマンスペクトルを測定する例を示す。制御装置5は、
図7に示すように、光軸上にレイリーカットフィルタ32を配置し、ミラー22を、レーザ光源12からのレーザ光をミラー24へ反射する位置に配置する。制御装置5は、レーザ光源12を発光させ、波長638nmのレーザ光が試料6へ照射され、レイリー散乱光はレイリーカットフィルタ32で遮断され、試料6からのラマン散乱光は分光器41へ入射される。
図8は、波長785nmのレーザ光を用いてラマンスペクトルを測定する例を示す。制御装置5は、
図8に示すように、光軸上にレイリーカットフィルタ33を配置し、ミラー23を、レーザ光源13からのレーザ光をミラー24へ反射する位置に配置する。制御装置5は、レーザ光源13を発光させ、波長785nmのレーザ光が試料6へ照射され、レイリー散乱光はレイリーカットフィルタ33で遮断され、試料6からのラマン散乱光は分光器41へ入射される。
図6、
図7及び
図8には、レーザ光及びラマン散乱光を矢印で示している。
【0038】
制御装置5は、記憶部54に記憶してある波長データにて単色部分の色の着色剤に対応づけられている波長のレーザ光を使用する。例えば、波長データでは、黒の着色剤に波長532nmが対応づけられ、青の着色剤に波長638nmが対応づけられ、赤及び黄の着色剤に波長785nmが対応づけられている。この場合、制御装置5は、黒の着色部分のラマンスペクトルを測定する際に波長532nmのレーザ光を使用し、青の着色部分のラマンスペクトルを測定する際に波長638nmのレーザ光を使用し、赤及び黄の着色部分のラマンスペクトルを測定する際に波長785nmのレーザ光を使用する。
【0039】
制御装置5は、試料台駆動部44を制御して、試料台43を水平方向へ移動させ、試料6上の特定した単色部分にレーザ光が照射されるように試料6の位置を調整し、単色部分の色の着色剤に対応した波長のレーザ光を試料6上の単色部分へ照射する。
検出器42は、分光された夫々の波長のラマン散乱光の検出強度に応じた信号を出力する。検出器42がシングルチャンネル検出器である形態では、制御装置5は、分光器41を制御して、検出器42で検出されるラマン散乱光の波長を順次変更し、検出器42は、波長が順次変更されるラマン散乱光の検出強度に応じた信号を順次出力する。CPU51は、分光器41での分光内容と検出器42からの信号とに基づいて、試料6で発生したラマン散乱光のラマンシフトと強度との関係を示すラマンスペクトルを生成する。また、制御装置5は、複数色の着色剤の夫々について特定した単色部分からラマンスペクトルを測定する。即ち、青、赤、黄及び黒の夫々の単色部分からのラマンスペクトルが取得される。また、同じ色の着色剤であっても、メーカの違いによって対応するレーザ光の波長が異なる場合、制御装置5は、同じ単色部分に対して、複数のメーカの夫々に対応する波長のレーザ光を照射して、夫々にラマンスペクトルを測定する。CPU51は、ラマンスペクトルを示すデータを記憶部54に記憶させる。
【0040】
着色剤同定装置は、次に、取得したラマンスペクトルに基づいて、試料6に使用されている着色剤を同定する(S5)。ステップS5では、CPU51は、取得したラマンスペクトルと、記憶部54に記憶してあるラマンスペクトルデータが示す同等の色の着色剤のラマンスペクトルとを比較する。同等の色の着色剤は、夫々のメーカにおいて、単色部分の色と同じ色であると予め規定されている色の着色剤である。例えば、黄色の単色部分から取得されたラマンスペクトルと各メーカ製の黄色の着色剤のラマンスペクトルとが比較される。CPU51は、取得したラマンスペクトルとメーカ別のラマンスペクトルの夫々とを比較し、ラマンスペクトルが最も近いメーカを特定し、試料6に使用されている着色剤は特定したメーカ製の着色剤であると同定する処理を行う。メーカの違いによってラマンスペクトルを測定するためのレーザ光の波長が異なる場合、CPU51は、各メーカに対応する波長のレーザ光を用いて測定したラマンスペクトルと、当該メーカ製の着色剤のラマンスペクトルとを比較する。また、CPU51は、ラマンスペクトルを測定した複数色の着色剤の夫々について同定を行う。複数色の着色剤のメーカが異なる場合は、CPU51は、各色とメーカとの対応を同定結果としてもよく、いくつかのメーカが一致した場合に最大多数のメーカを最終的な同定結果とする処理を行ってもよい。また、同一メーカ製同一色で複数種類の着色剤がある場合は、CPU51は、取得したラマンスペクトルと複数種類の着色剤のラマンスペクトルとを比較して、着色剤の種類を同定する処理を行う。CPU51は、着色剤の同定結果を記憶部54に記憶させ、必要に応じて表示部56に表示させる。
【0041】
着色剤同定装置は、次に、試料6上のラマンスペクトルの分布を取得する(S6)。制御装置5は、試料台駆動部44を制御して、試料台43を水平方向へ移動させ、試料6上の夫々の部分へレーザ光を順次照射し、試料6上の各部分からのラマンスペクトルを順次生成する。CPU51は、試料6上の各部分からのラマンスペクトルと試料6上の各部分とを対応づけることによって、試料6上のラマンスペクトルの分布を取得する。制御装置5は、レーザ光の波長を変えて、各波長についてラマンスペクトルの分布を取得する。CPU51は、ラマンスペクトルの分布を示すデータを記憶部54に記憶させる。着色剤同定装置は、以上で処理を終了する。なお、着色剤同定装置は、ラマンスペクトルの分布の取得を省略した形態であってもよい。
【0042】
以上詳述した如く、本実施の形態においては、着色剤同定装置は、カラー画像上の反射スペクトル及び蛍光スペクトルの分布に基づいて、一つの着色剤のみで作成された単色部分を特定し、単色部分のラマンスペクトルに基づいて着色剤を同定する。他の着色剤が混合していない単色の着色剤については、メーカ別の標準のラマンスペクトルを用意しておくことは容易である。複数色の着色剤の内で一つの着色剤のみで作成される単色部分のラマンスペクトルは、他色のラマンスペクトルが重なっていないので、スペクトルの違いはメーカ別の組成の違いに起因する。従って、単色部分のラマンスペクトルと、メーカ別に予め用意してある同等の色の標準のラマンスペクトルとを比較することにより、着色剤のメーカを特定し、容易に着色剤を同定することができる。このため、カラー画像が記録された不正な画像記録物の作成に使用された画像形成装置を特定し、不正な画像記録物が作成された経緯を調査するために有用な情報を提供することが可能となる。
【0043】
また、カラー画像からは、色に応じた蛍光スペクトルが得られるので、測定された蛍光スペクトルと標準の蛍光スペクトルとを比較することにより、蛍光スペクトルの分布から、カラー画像に含まれる単色部分を特定することができる。カラー画像中には、一つの着色剤と同等の色に見えていても複数色の着色剤が混合している部分が存在する。しかし、一つの着色剤の蛍光スペクトルと複数色が混合した着色剤の蛍光スペクトルとは異なるので、カラー画像に含まれる単色部分の特定が可能である。複数色が混合した着色剤のラマンスペクトルは、単色の着色剤のラマンスペクトルが重なった形になるが、複数色が混合した着色剤の蛍光スペクトルは、単色の着色剤のラマンスペクトルが重なった形とは違った形となる。このため、蛍光スペクトルは、単色の着色剤と複数色が混合した着色剤との間の違いが顕著であり、単色部分を特定するためにはラマンスペクトルよりも有用である。厳密には、同じ色の着色剤でもメーカが異なれば蛍光スペクトルは若干異なるものの、色の違いに応じた蛍光スペクトルの違い、及び単色の着色剤と複数色が混合した着色剤との間の蛍光スペクトルの違いが顕著であるので、単色部分の特定が可能である。本実施の形態では、反射スペクトルの分布を利用して、単色の着色剤と同等の色の反射スペクトルが含まれる領域を特定し、特定した領域から蛍光スペクトルに基づいて単色部分を特定するので、精度良く単色部分を特定することができる。
【0044】
また、前述したように、着色剤に応じてラマンスペクトルを測定するための適切なレーザ光の波長が定まっている。本実施の形態では、着色剤同定装置は、レーザ光の波長とラマンスペクトルとの関係を記憶しており、特定の波長のレーザ光を用いて測定したラマンスペクトルと特定の波長に対応する標準のラマンスペクトルとを比較することにより、正確に着色剤を同定することができる。また、本実施の形態においては、カラー画像を作成するために使用された複数色の着色剤の夫々を同定する。最大多数の同定結果を最終的な同定結果とすることにより、より正確に着色剤を同定することができる。又は、複数色の着色剤の同定結果の組み合わせを、不正な画像記録物が作成された経緯を調査するためのより有用な情報として利用することも可能となる。また、本実施の形態においては、着色剤同定装置は、ラマンスペクトルの分布を取得する。ラマンスペクトルの分布を取得することで、各色の着色剤の分布が得られ、各色の着色剤の使用量等、有用な更なる情報を得ることができる。
【0045】
なお、本実施の形態においては、カラー画像を作成するために使用される複数色の着色剤の内の一つである単色の着色剤を同定する形態を示したが、着色剤同定装置は、複数色の着色剤が特定の割合で混合した着色剤を同定する形態であってもよい。この形態においても、複数色の着色剤が特定の割合で混合した着色剤の蛍光スペクトル及びラマンスペクトルを示すデータを記憶部54に記憶しておくことで、着色剤の同定は可能である。
【0046】
また、本実施の形態においては、白色光及びレーザ光を試料6へ照射する光軸と、試料6からの反射光、蛍光及びラマン散乱光の光軸とが同軸である形態を示したが、着色剤同定装置は、光軸を別々にする等、その他の光学系を備えた形態であってもよい。また、本実施の形態においては、波長が532nm、638nm及び785nmであるレーザ光を利用する形態を示したが、着色剤同定装置は、その他の波長のレーザ光を利用する形態であってもよい。また、着色剤同定装置は、レーザ光以外の単色光を用いる形態であってもよい。また、着色剤同定装置は、レーザ光の光路を動かす等の方法により、試料台43を移動させることなく反射スペクトル、蛍光スペクトル及びラマンスペクトルの分布を取得する形態であってもよい。また、本実施の形態においては、反射スペクトルの測定、蛍光スペクトルの測定、ラマンスペクトルの測定及び着色剤同定の処理を一つの装置で実行する形態を示したが、本発明は、複数の測定装置及び分析装置を用いて実行することも可能であり、処理の一部を使用者の手作業で実行することも可能である。また、本発明では、反射スペクトルを利用せずに着色剤を同定することも可能である。
【符号の説明】
【0047】
11、12、13 レーザ光源
14 白色光源
41 分光器
42 検出器
43 試料台
44 試料台駆動部
5 制御装置
51 CPU
54 記憶部
6 試料