【文献】
J. Brew. Soc. Japan.,1997年,Vol.92, No.11,pp.827-834
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
醤油は、蒸煮大豆と炒熬割砕小麦を混和し、これに醤油用種麹菌を接種、培養して醤油麹を調製し、これに、熟成諸味中の食塩が15〜20%(w/v)含まれるように、食塩水を加えて諸味を調製し、一定期間発酵、熟成させて熟成諸味を調製して、最後に圧搾、濾過し、火入れ(殺菌)、清澄して製造される。
【0003】
この醤油はその有効成分として蛋白質に由来するアミノ酸類及びペプチドをはじめ、糖類、有機酸類、アルコール類、その他各種の微量成分が含まれ、日本料理は勿論のこと、中華、西洋料理などのあらゆる料理に利用できる万能調味料であるが、一方15〜20%(w/v)の食塩を含む欠点を有している。
【0004】
近年、健康への関心の高まりから食品に対して減塩嗜好が強まり、醤油においても、食塩濃度の非常に低い醤油が期待されている。しかし、15〜20%(w/v)の食塩は醤油諸味の発酵、熟成過程において諸味の腐敗防止に大きな役割を演じているため、必要不可欠のものであり、15%(w/v)より低食塩の醤油諸味を調製することは、特殊な方法を除いては一般的に困難とされており、工業的には実施されていない。すなわち、醤油諸味は、多量の蛋白質や澱粉質を含有しているため、各種細菌類が非常に繁殖しやすく、また開放的又は半密閉的状態にて、発酵、熟成管理が行われているため、腐敗性の細菌類も侵入しやすく、ひとたび侵入すると速やかに繁殖してきて、諸味が腐造(腐敗)したり、乳酸菌や酢酸菌等が異常に繁殖しやすく、最終製品の風味が劣化したりする危険を有している。
【0005】
従来、食塩を殆ど含有しないか、又は無塩状態において、醤油諸味を発酵熟成する方法がいくつか提案されている。しかし、いずれの方法も問題又は欠点があり、十分に満足する方法とは言えない。
【0006】
例えば、食塩水で仕込む代わりに塩化カリウム水で仕込む無塩醤油の製造法は、塩化カリウムに独特のエグ味があること、腎不全患者が一度に多量のカリウムを摂取すると高カリウム血漿をきたす恐れがあること、塩化カリウムを使用した醤油を無塩と称することの妥当性への疑問があること等の問題がある。
【0007】
また、食塩水の代わりに生醤油で仕込み、濃厚醤油を製造した後、この濃厚醤油を最後に水で希釈する方法は、醤油の味及び香りの劣化が避けられない欠点を有する。
【0008】
また、食塩水で仕込む代わりに、諸味中のアルコールが5〜20%(v/v)含まれるように醸造用アルコール水で仕込み、得られた醤油諸味を20℃以下で1〜2ケ月熟成させる無塩醤油の製造方法(例えば特許文献1参照)は、高濃度アルコールにより酵母発酵が阻害され、香気の優れた醤油を得ることができない。また醸造用アルコールを新たに必要とし、コストが嵩む問題を有する。また、無塩醤油風調味液として利用するには、糖類とアミノ酸類の添加、さらには食塩を含有する醤油の添加等を余儀なくされる問題点を有する。
【0009】
また、諸味の腐敗を起こす、腐敗性細菌類の繁殖や生存に不適当な何らかの条件、例えば醤油諸味の品温を40℃以上(極端な例では、55℃)に加温しつつ発酵熟成する方法は、色沢がだいぶ濃厚になり、加温により温醸臭、あるいは焦げ臭が付いたりする。
【0010】
また、醤油諸味に塩酸、酢酸や乳酸などの酸を添加して、そのpHを4.0以下(極端な例では、3.0)に保持する方法は、細菌類の繁殖は大いに阻止されるから腐敗は防止できるが、製品の酸味が強くなる欠点を有する(非特許文献1参照)。
【0011】
また、米、みりん粕などの澱粉質原料の1種又は2種以上と、酒造用米麹又は(及び)澱粉加水分解酵素を乳酸及び必要により食塩と共に汲水に仕込み、酵母を添加し、さらに上記汲水に対し5〜40%(v/v)の醤油諸味を加えて糖化発酵熟成する酒精含有調味料の製造法(例えば特許文献2参照)は、諸味熟成中の防腐(腐敗防止)のために、諸味に乳酸を添加し、pH4.5以下好ましくは3.5〜4.2に保持することを余儀無くされ、また製品の酸味が強くなる欠点を有する。
【0012】
一方、逆浸透膜などで脱塩処理し得た減塩調味液は、塩分濃度が7%前後より減少すると苦味、渋味、酸味などの雑味が呈しはじめ、また無塩醤油も同様に雑味を有する欠点があることが知られている(特許文献1参照)。
【0013】
このように従来の無塩ないし超低食塩の醤油は、苦味、渋味、酸味などの雑味を有する欠点があり、またその製造法は、特殊な手段を採用する結果、醤油の風味が劣化は避けられない欠点を有する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の超低食塩醤油及びその製造法について詳述する。
【0032】
(一次諸味の調製)
本発明を実施するには、醤油麹を食塩水に仕込み、約3〜8ヵ月間、諸味品温を15〜30℃で管理する醤油の製造法において、(1)仕込日から約半月〜3ヵ月経過後に諸味中の醤油酵母生菌数が諸味1gあたり1×10
7個以上、特に3×10
7個〜3×10
8個となった諸味、あるいは(2)アルコール発酵前の醤油諸味、又は発酵途中のそれに、別に培養して得られた醤油酵母培養液を添加し、諸味中の醤油酵母生菌数が諸味1gあたり1×10
7個以上となった一次諸味を利用する。
【0033】
醤油麹は、通常の醸造醤油の製造用の醤油麹を用いることができる。
【0034】
醤油麹は、大豆、脱脂加工大豆等の蛋白質原料を蒸煮変性したものと、麦類(本発明において「麦」又は「麦類」とは、小麦、大麦、裸麦、エン麦及びはと麦から選択される少なくとも1種の穀物を指す)及び米類等の澱粉質原料を加熱変性したものとを混和し、該混和物の水分を35〜45%(w/w)に調整した後、これにアスペルギルス・ソーヤ、アスペルギルス・オリーゼなどの種麹菌を接種し、20〜40℃で1.5〜4日間培養して調製することができる。麦類及び米類の加熱変性、又は炒熬割砕により行うことが好ましい。
【0035】
醤油麹と食塩水とを混合して醤油諸味を調製する。食塩水の量は特に限定されないが、通常は醤油麹の調製に用いられた大豆及び小麦などの植物種子の容積(生原穀種子換算容積)に対する容積比で、100〜450%(v/v)と成る量の食塩水を仕込んで醤油諸味を調製することが好ましい。本発明において、植物種子の容積は、メスシリンダー等を用いて測定される、空隙部分も含んだ「かさ容積」を意味する。食塩水は、糖質原料を添加する前の時点での諸味の食塩濃度が、通常の醤油の製造法における醤油諸味中の食塩濃度と同等、典型的には、15.0〜20.0%(w/v)となるように醤油麹と混合される。
【0036】
醤油酵母生菌数が諸味1gあたり1×10
7個以上になった時期(本発明では、この時期の諸味を一次諸味という)に糖質原料を添加することは重要であって、それ未満の生菌数の時期に糖質原料を添加するときは、旺盛なアルコール発酵が期待できず、諸味が腐敗する危険性が高くなるので好ましくない。
【0037】
(糖質原料及び水の添加)
醤油酵母生菌数が諸味1gあたり1×10
7個以上になった諸味に、糖質原料を添加し、また水又は食塩水を添加する。食塩水は、熟成後に諸味液汁の食塩が4.0〜12.0%(w/v)含まれるように調整して添加する。この場合、4.0%(w/v)未満では醤油諸味が腐敗する危険性があり好ましくない。反対に12.0%(w/v)を越えるときは、諸味中に高濃度のアルコール類を生成蓄積させることが難しくなり、三次諸味を調整後にエタノール濃度が不足するので、好ましくない。
【0038】
本発明の最大の特徴は、発酵期の二次諸味の液汁の食塩濃度を4.0〜12.0%(w/v)、発酵期の三次諸味の液汁の食塩濃度を1.0〜4.0%(w/v)になるように加水希釈しても、諸味が腐敗しないことである。
【0039】
すなわち、一般に醤油の製造法は、醤油麹と食塩水が、開放系で混合され(仕込みが行われ)、得られた諸味は、その後開放系で発酵、熟成が営なまれる。しかし、諸味は腐敗性細菌類にとって好適な栄養源を豊富に含有しているため、食塩濃度がある一定量以下になると、いわゆる腐敗性細菌類が旺盛に繁殖することとなり、酸臭や酸味が著しく現れ、ついには悪臭を放って腐敗する。
【0040】
したがって、夏季の気温である25〜35℃は、いわゆる腐敗性細菌類にとって繁殖適温であるため、諸味の食塩濃度がある一定量以上、すなわち15%(w/v)以上の濃度であるときは問題ないが、それ以下の濃度の場合、遠からず腐敗する。したがって、夏季の諸味の食塩濃度は17%(w/v)なら安全、16%(w/v)以下では危険だとして、この食塩濃度以下にならないように調整する必要がある。したがって、腐敗性細菌類の汚染、増殖対策を十分に徹底した環境においても、15%(w/v)以上の食塩濃度がなければ、順調に発酵熟成が行なわれない危険性があると言われている。
【0041】
このような現状に対し、本発明によれば、発酵期の二次諸味の液汁の食塩濃度を4.0〜12.0%(w/v)、発酵期の三次諸味の液汁の食塩濃度を1.0〜4.0%(w/v)になるように調整しても、諸味の品温を40℃以上(極端な例では、55℃)に加温保持したり、あるいは、諸味に塩酸や乳酸の様な酸を添加して、そのpHを4.0以下(極端な例では、pH3.0以下)に保持したりすることなく、腐敗性細菌類の繁殖を確実に抑制することができる特徴を有する。
【0042】
糖質原料としては、(I)グルコース(結晶ブドウ糖、粉末ブドウ糖、液状ブドウ糖など)、麦芽糖、果糖、蔗糖、α化した穀類(麦、米など)及びα化した芋類など、(II)澱粉質原料の塩酸分解糖化液、(III)澱粉の酵素分解糖化液、(IV)小麦、大麦、裸麦、はと麦、エン麦、米、トウモロコシなどの澱粉質原料の配合割合が65%(w/w)より多く、残余部分が大豆、グルテンなどの蛋白質原料を使用して、常法により醤油麹を調製することにより得られる「澱粉質に富む醤油麹」、砕米、外砕米等の低品位米、又は好適米を利用した米麹、麦麹、トウモロコシ麹及びフスマ麹、(V)それらの麹を糖化したもの(例えば、甘酒、麹消化液)が挙げられる。これらは、単独又は併用添加することができる。本発明において、「麦麹」とは、小麦、大麦、裸麦及びはと麦から選択される少なくとも1種を原料として用いて調製される麹を指し、典型的には、大麦麹、小麦麹等の、大麦や小麦などを利用した麦麹である。
【0043】
本発明では、上記糖質原料を以下の通りグループに分け、それぞれ定義した。
【0044】
(1)「糖質原料A」とは、グルコース、麦芽糖、果糖、澱粉の塩酸分解液、澱粉の酵素糖化液、蔗糖、α化した穀類、及び芋類からなる群から選ばれる一種又は二種以上を意味する。
【0045】
(2)「麹B」とは、醤油麹、米麹、麦麹、トウモロコシ麹、及びフスマ麹からなる群から選ばれる一種又は二種以上を意味する。醤油麹には、以下に定義する「澱粉質に富む醤油麹」も包含される。
【0046】
(3)「澱粉質に富む麹」とは、小麦、大麦、裸麦、はと麦、米、トウモロコシなどの澱粉質原料の配合割合が65%(w/w)より多く、残余部分が大豆、脱脂大豆などの蛋白質原料を使用して、常法により醤油麹を調製することにより得られる「澱粉質に富む醤油麹」、砕米、外砕米等の低品位米、又は好適米を利用した米麹、麦麹、トウモロコシ麹及びフスマ麹を意味する。
【0047】
(4)「蛋白質原料」とは、大豆、脱脂加工大豆、小麦グルテン、及びコーングルテンからなる群から選ばれる一種又は二種以上を意味する。
【0048】
上記糖質原料を併用添加する場合の好適な例としては、1)糖質原料Aと、麹との組合せ。2)糖質原料Aと、蛋白質原料と、麹との組合せ。3)澱粉質に富む麹と、蛋白質原料との組合せが挙げられる。
【0049】
上記(II)澱粉質原料の塩酸分解糖化液は、例えば小麦粉、砕米、白糠、砕麦、トウモロコシなどの澱粉質原料に希塩酸(例えば約2〜3%(v/v)希塩酸)を、重量比で約2〜4倍量加え、蒸気吹込法などにより約100℃で3〜4時間加熱し、次いで炭酸ナトリウムを用いてpH5.0〜6.0に中和し、濾過して得られたものが挙げられる。
【0050】
上記(III)澱粉の酵素分解糖化液は、例えば澱粉質に富む麹1重量部に対し、10〜15%(w/v)の食塩水を1〜3重量部加えて50〜60℃に5〜20時間保温し、麹中の澱粉を糖化して得られたものが挙げられる。
【0051】
また、澱粉の水懸濁液を加熱して糊化し、これに澱粉質に富む麹又はフスマ麹を添加し、麹アミラーゼの作用により糖化して麦芽糖及びグルコースに分解して得られた液が挙げられる。
【0052】
なお、諸味に投入された、蔗糖、α化した穀類又はα化した芋類は、醤油諸味中の糖化酵素により糖化される。しかし、仕込み後約半月以上経過した醤油諸味中のアミラーゼ活性は、仕込み当初に比べるとかなり少なくなっていて、十分でないので、醤油麹、フスマ麹、米麹、麦麹と併用添加することが好ましい。こうすることにより、蔗糖、α化した穀類又はα化した芋類は、諸味中において、新たに添加された麹のアミラーゼなどにより、速やかにグルコースにまで糖化される。
【0053】
また、諸味に投入された、蛋白質原料においては、醤油諸味中のプロテアーゼなどにより加水分解される。しかし、仕込み後約半月以上経過した醤油諸味中のプロテアーゼ活性は、仕込み当初に比べるとかなり少なくなっていて、十分でないので、醤油麹、フスマ麹、米麹、麦麹と併用添加することが好ましい。こうすることにより、蛋白質原料は諸味中において、新たに添加された麹のプロテアーゼなどにより、アミノ酸などにまで分解される。
【0054】
糖質原料の添加量は、発酵後の二次諸味液汁中のエタノール濃度が4.0%以上、好ましくは8.0〜12.0%(v/v)となるような量を添加することが必要である。
【0055】
ついで、上記で得られた諸味は、常法により15〜35℃に保持し、日に1〜数回撹拌あるいは通気する、あるいは圧縮空気やプロペラ式回転撹拌機などによって適宜撹拌することによりアルコール発酵させる。あるいは連続通気攪拌してもよい。
【0056】
上記諸味は、アルコール発酵が、非常に旺盛で、エタノールが速やかに生成し、食塩濃度4.0〜12.0%(w/v)、エタノール濃度4.0〜12.0v/vの二次諸味が得られる。
【0057】
(三次諸味の調製)
次いで二次諸味に糖質原料と、水又は食塩水とを添加し、三次諸味を調製する。
【0058】
このとき、三次諸味中の酵母生菌数が諸味1gあたり2×10
6個以上含まれる場合には、新たに酵母を添加する必要はない。しかし、酵母生菌数が少ない場合には、その後に行われる発酵の途中において諸味が腐敗する危険性があるので、酵母を添加する必要が生じる。ここに用いられる酵母としては、Saccharomyces cerevisiae、Zygosaccharomyces rouxii、Torulopsis versatilis又はTorulopsis etchellsiiに属する酵母が好ましい。
【0059】
三次諸味の初発のエタノール濃度を2%(v/v)以上とすることも極めて重要であって、これより少ないと、その後に行われる発酵の途中において諸味が腐敗する危険性があるので好ましくない。
【0060】
二次諸味(又は一次諸味)に添加する水又は食塩水は、三次諸味を熟成して得られる醤油諸味中の食塩が1.0〜4.0%(w/v)含まれるように調整される必要がある。
【0061】
二次諸味に添加する糖質原料としては、前記した糖質原料が使用可能である。そして、三次諸味を熟成して得られる熟成諸味中の全窒素が0.2〜3.0%(w/v)含まれるように添加することが必要である。0.2%(w/v)未満であるときは、旨味に欠ける欠点があり、3.0%(w/v)より濃すぎるときは酵母によるアルコールの生成蓄積が少なくなるので好ましくない。
【0062】
次いで、上記で得られた三次諸味は、適宜通気攪拌を行ない、諸味品温15〜30℃で約半月〜3ヵ月間発酵熟成させ、圧搾、濾過し、火入れ、清澄して、本発明の超低食塩醤油を得る。
【0063】
本発明の醤油は、超低食塩であるにも拘らず、全窒素濃度0.2〜3.0%(w/v)を有し、エタノール濃度8.0〜20.0%(v/v)、全窒素1.0%(w/v)あたり2−フェニルエタノール濃度が7.0μg/ml以上、全窒素1.0%(w/v)あたりイソブチルアルコール濃度が10.0μg/ml以上、全窒素1.0%(w/v)あたりイソアミルアルコール濃度が15.0μg/ml以上であって、苦味、渋味、酸味などの雑味を有しない超低食塩であるという特徴を有する。また、さらに全窒素濃度1.0%(w/v)あたりコハク酸濃度が500μg/ml以上であるという特徴を有する。
【0064】
本発明の超低食塩醤油中の2−フェニルエタノール、イソブチルアルコール、イソアミルアルコール、コハク酸の含有量の上限は特に限定されないが、典型的には、全窒素濃度1.0%(w/v)あたりそれぞれ2−フェニルエタノール600μg/ml以下、イソブチルアルコール800μg/ml以下、イソアミルアルコール1600μg/ml以下、コハク酸6000μg/ml以下である。
【0065】
また、本発明により得られる超低食塩醤油(醤油諸味液汁)は、概ね以下に示すごとき一般成分分析を有する。
【0066】
TN(全窒素) :0.2〜3.0%(w/v)
NaCl(食塩) :1.0〜4.0(w/v)
Alc.(エタノール) :8.0〜20%(v/v)
RS(還元糖) :0〜14.0%(w/v)
Lac.(乳酸) :0.05〜0.20
Glu.(グルタミン酸):0.03〜3.5%(w/v)
pH :4.6〜5.5
Col.(日本醤油標準色):35〜58
上記で得た超低食塩醤油は、必要により乾燥粉末化して、粉末調味料としてもよい。
【0067】
乾燥粉末化は、例えば、該醤油にデキストリンなどの賦形剤を添加し、加熱溶解した後、スプレードライ法、ドラムドライ法、フリーズドライ法などの乾燥粉末化を行う方法が挙げられる。
【0068】
以下予備試験1〜7を示して、醤油の製造法において、醤油酵母生菌数が諸味1gあたり1×10
7個以上の一次諸味を調製し、これに糖質原料及び水を添加して発酵し、食塩濃度4.0〜12.0%(w/v)、エタノール濃度4.0〜12.0%(v/v)の二次諸味を調製するまでの工程について、より具体的に説明する。
【0069】
また、実施例1〜実施例3を示して、二次諸味に糖質原料及び水を添加し、酵母生菌数が諸味1gあたり2×10
6個以上、エタノール濃度が2%(v/v)以上含有する三次諸味を調製し、これを発酵、熟成して、本発明の超低食塩醤油を得ることについて具体的に説明する。
【0070】
<予備試験1>
(1)醤油麹の調製
脱脂加工大豆10kgに80℃の温水を130%(w/w)加え、飽和水蒸気を用いて圧力2kg/cm
2(ゲージ圧力)で20分間加圧加熱蒸煮した。一方、生小麦10kgを常法に従って炒熬割砕した。次にこれら二つの処理原料を混合して水分約40%(w/w)の製麹用原料を調製した。
【0071】
次いで、この製麹用原料に、アスペルギルス・オリーゼ(ATCC14895)のフスマ種麹(有効胞子数:1×10
9個/g)を製麹用原料に対して0.1%(w/w)接種して、製麹用の容器(麹蓋)に盛り込み、常法により42時間製麹して醤油麹を得た。
【0072】
(2)醤油諸味の調製
上記醤油麹0.8kgを18%(w/v)食塩水1.9Lに混和した。次いで、この醤油諸味に醤油乳酸菌を諸味1gあたり1×10
5個となるように添加し、1ヵ月間諸味品温を15℃に保持して、醤油麹酵素による原料の分解溶出及び乳酸発酵を行ない、醤油酵母の増殖に好適な醤油諸味(食塩濃度約15%(w/v))を得た。
【0073】
この醤油諸味約3kgを4区分用意し(参考例1、2及び比較例1、2)、それぞれ醤油酵母(チゴサッカロマイセス・ルーキシー)を諸味1gあたり5×10
5個となるように添加し、諸味品温を20℃に保ち、諸味を通気攪拌して、諸味1g当たり醤油酵母生菌数が表1記載の値を示す一次諸味を調製した。
【0074】
(3)糖質原料の添加と食塩濃度の調整
ついで上記各区の一次諸味に対し、前記(1)記載の醤油麹1.6kg及び含水結晶グルコース(昭和産業社製)0.35kgを添加し、さらに熟成後の諸味液汁の食塩濃度が6.5%(w/v)となるように、水1.7Lを添加し、発酵前の二次諸味とした。
【0075】
(4)熟成
その後、諸味品温を25℃として適宜撹拌して熟成させ、仕込後4ヵ月目にこの諸味を圧搾して生揚げ醤油を得、火入れ、オリ引きして4種類の低食塩醤油を得た。得られた低食塩醤油について、成分分析及び官能検査を行った。成分分析の結果を表1に、官能検査の結果を表2に示す。
【0076】
(成分分析)
食塩濃度、エタノール濃度、全窒素濃度、及びpHは、財団法人日本醤油研究所編集「しょうゆ試験法」(昭和60年3月1日発行)に記載の方法により求めた。
【0077】
また、コハク酸、グルコース濃度は高速液体クロマトグラフィ分析により求めた。
【0078】
(アルコール類の分析)
2−フェニルエタノール、イソブチルアルコール及びイソアミルアルコールの各濃度は、Journal of Agricultural and Food Chemistry Vol.39,934,1991記載のガスクロマトグラフィーを用いる定量分析法により実施した。
【0079】
(官能検査)
官能検査は、識別能力を有する訓練されたパネル20名による評点法によって行った。すなわち、試料の低食塩醤油を市販減塩醤油(キッコーマン社製)と比較し、差なしを0、若干の差有りを1、差ありを2、やや大きな差有りを3、大きな差有りを4、極めて大きな差有りを5と評価し、市販減塩醤油よりも優れた風味を有しているときには(+)、反対に劣っているときには(−)の符号を付して示した。
【0080】
なお、表中の評点は20名のパネルの平均値であり、検定の欄における「**」は1%危険率で有意差あり、「*」は5%危険率で有意差あり、「−」は有意差なしを意味する。
【0081】
(酵母生菌数の測定)
酵母生菌数の測定は、食品微生物ハンドブック(好井久雄・金子安之・山口和夫編著、技報堂出版、第603頁)に記載の方法により求めた。
【表1】
【表2】
【0082】
表1及び表2の結果から、一次諸味1gあたりの醤油酵母生菌数が1×10
7個に満たない時期、すなわち1×10
6個(比較例1区)、あるいは5×10
6個の時期(比較例2区)に、該一次諸味に対して糖質原料を添加する場合、熟成後の諸味液汁の食塩濃度が6.5%(w/v)になるように調整してしまうと、その後、腐敗したり酸味酸臭を呈する欠点を有することが判る。
【0083】
これに対し、一次諸味1gあたりの醤油酵母生菌数が1×10
7個以上(参考例1区及び参考例2区)になった時期に、糖質原料を添加するときは、熟成後の諸味液汁の食塩濃度が6.5%(w/v)になるように調整しても、腐敗することなく、風味良好な減塩醤油を得られることが判る。
【0084】
<予備試験2>
上記予備試験1の参考例2区(糖質原料添加時の諸味1gあたりの醤油酵母生菌数が3×10
7個)の低食塩醤油の製造法において、通気攪拌後の一次諸味に対して表3に記載された量の醤油麹及び糖質原料としてグルコースを添加し、さらに表3に記載された量の水又は食塩水を添加して諸味の食塩濃度を調整する以外は全く同様にして低食塩醤油を得た。こうして得られた低食塩醤油の成分分析と官能検査を予備試験1と同様に行った。結果を表4〜6に示す。なお、該諸味の食塩濃度の調整には、最終目標食塩濃度により、水と食塩水の割合を変えて添加する。これは麹の水分量によっても変える必要があるからである。
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【0085】
表4〜6の結果から、一次諸味に糖質原料を添加した後は、熟成後の諸味液汁の食塩濃度が4.0〜12.0%(w/v)になるように諸味の食塩濃度を調整することは重要であって、表4に示したように、4.0%(w/v)未満(比較例3区)であるときは、諸味が腐敗する欠点を有することが判る。
【0086】
反対に表5に示したように12.0%(w/v)を越えるとき(比較例4区)は、2−フェニルエタノール、イソブチルアルコール、イソアミルアルコール及びコハク酸の濃度が低くなることが判る。これに対し、熟成後の諸味液汁の食塩濃度が4.0〜12.0%(w/v)になるように調整するとき(参考例2区、3区及び4区)は、エタノール4.0%(v/v)以上で、全窒素濃度1.0%(w/v)あたり2−フェニルエタノール7.0μg/ml以上、イソブチルアルコール10.0μg/ml以上、イソアミルアルコール15.0μg/ml以上の濃度を有し、さらにコハク酸500μg/ml以上の濃度を有する風味の良好な低食塩醤油が得られることが判る。
【0087】
<予備試験3>
予備試験1の参考例2区(糖質原料添加時の一次諸味1gあたりの醤油酵母生菌数が3×10
7個)の低食塩醤油の製造法において、通気攪拌後の一次諸味に対して醤油麹1.4kg及び糖質原料として炒熬割砕小麦0.35kgを添加する以外は全く同様にして低食塩醤油(参考例5区)を得た。
【0088】
得られた低食塩醤油(参考例5区)を、予備試験1で得られた参考例2区(糖質原料としてグルコースを使用)と比較した。また、予備試験1と同様にして、市販減塩醤油(キッコーマン社製)を対照として、官能検査を実施した。その結果を表7〜10に示した。
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【0089】
表7〜10の結果から、α化した穀類である炒熬割砕小麦は、諸味中において、新たに添加された醤油麹の酵素(アミラーゼ等)により、速やかに、グルコースにまで糖化され、醤油酵母によって資化されて、醤油中の重要な香気成分として知られるエタノール、2−フェニルエタノール、イソブチルアルコール及びイソアミルアルコールが醤油諸味中に高濃度に蓄積され、風味良好な低食塩醤油が特殊な手段を採用することなく得られることが判る。
【0090】
<予備試験4>
予備試験1の参考例2区(糖質原料添加時の諸味1gあたりの醤油酵母生菌数が3×10
7個)の低食塩醤油の製造法において、通気攪拌後の一次諸味に対して醤油麹を添加せず、糖質原料としてグルコースを0.6kg添加し、その際に最終諸味で食塩濃度8%になるように1.1Lの水及び食塩水を入れ、その他は同様にして、低食塩醤油(参考例6区)を得た。
【0091】
得られた低食塩醤油(参考例6区)を、予備試験1で得られた参考例2区と比較した。また、予備試験1と同様にして、市販減塩醤油(キッコーマン社製)を対照として、官能検査を実施した。その結果を表11〜14に示した。
【0092】
表11〜14の結果から、添加したグルコースは、醤油酵母によって資化されて、醤油中の重要な香気成分として知られるエタノールが4.0%(v/v)以上で、全窒素濃度1.0%(w/v)あたり2−フェニルエタノール7.0μg/ml以上、イソブチルアルコール10.0μg/ml以上、イソアミルアルコール15.0μg/ml以上の濃度を有し、さらにコハク酸500μg/ml以上の濃度を有する風味の良好な低食塩醤油が得られることが判る。
【0093】
ただし、醤油麹を添加せずにグルコースのみを添加すると全窒素分が大きく低下するため、官能評価においては、参考例6の全窒素0.7%(w/v)にそろえて評価した。
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【0094】
<予備試験5>
(澱粉質に富む麹の製造)
脱脂加工大豆6kgに80℃の温水を130%(w/w)加え、飽和水蒸気を用いて蒸煮圧力2kg/cm
2(ゲージ圧力)で20分間加圧加熱蒸煮した。一方、生小麦14kgを常法に従って炒熬割砕した。次にこれら二つの処理原料を混合して水分約40%(w/w)の製麹用原料を調製した。
【0095】
次いで、この製麹用原料に、アスペルギルス・オリーゼ(ATCC14895)のフスマ種麹(有効胞子数:1×10
9個/g)を製麹用原料に対して0.1%(w/w)接種して麹蓋に盛り込み、常法により42時間製麹して小麦の配合比率が70%の澱粉質に富む醤油麹を得た。
【0096】
また、脱脂加工大豆0.2kgに80℃の温水を130%(w/w)加え、これを飽和水蒸気を用いて蒸煮圧力2kg/cm
2(ゲージ圧力)で20分間加圧加熱蒸煮した。一方、生小麦19.8kgを常法に従って炒熬割砕した。次にこれら二つの処理原料を混合して水分約40%(w/w)の製麹用原料を調製した。
【0097】
次いで、この製麹用原料に、アスペルギルス・オリーゼ(ATCC14895)のフスマ種麹(有効胞子数:1×10
9個/g)を製麹用原料に対して0.1%(w/w)接種して麹蓋に盛り込み、常法により42時間製麹して小麦の配合比率が99%の澱粉質に富む醤油麹を得た。
【0098】
(諸味の調整)
予備試験1の参考例2区(糖質原料添加時の諸味1gあたりの醤油酵母生菌数が3×10
7個)の低食塩醤油の製造法において、通気攪拌後の一次諸味に対して醤油麹を添加せず、糖質原料として、上記で作成した澱粉質に富む麹を表15のように添加し、その際に、最終諸味の食塩濃度で7.0%(w/v)になるように水及び食塩水を1.6L添加し、その他は、同様にして低食塩醤油(参考例7、8区)を得た。
【表15】
【0099】
得られた低食塩醤油(参考例7,8区)を、予備試験1で得られた参考例2区(糖質原料としてグルコースを使用)と比較した。また、予備試験1と同様にして、市販減塩醤油(キッコーマン社製)を対照として、官能検査を実施した。その結果を表16〜18に示した。
【0100】
表16〜18の結果から、澱粉質に富む醤油麹は速やかにグルコースまで分解され、醤油酵母によって資化されて、醤油中の重要な香気成分として知られるエタノール4.0%(v/v)以上で、全窒素濃度1.0%(w/v)あたり2−フェニルエタノール7.0μg/ml以上、イソブチルアルコール10.0μg/ml以上、イソアミルアルコール15.0μg/ml以上の濃度を有し、さらにコハク酸500μg/ml以上の濃度を有する風味の良好な低食塩醤油が特殊な手段を採用することなく得られることが判る。
【表16】
【表17】
【表18】
【0101】
<予備試験6>
予備試験1の参考例2区(糖質原料添加時の諸味1gあたりの醤油酵母生菌数が3×10
7個)の低食塩醤油の製造法において、通気攪拌後の一次諸味に対して醤油麹、糖質原料及びタンパク質原料を表19のように添加し、その際、表19に示している食塩濃度になるように1.9Lの水及び食塩水を添加し、その他は、参考例2区と同様にして低食塩醤油(参考例9、10、11,12)を得た。
【0102】
糖質原料については、結晶グルコース(昭和産業製)及び予備試験5で得た小麦の配合比率が70%の澱粉質に富む醤油麹を用いた。またタンパク質原料としては、大豆を膨化処理したパフミンF(キッコーマン製)と市販の小麦グルテンであるVITEN(ロケットジャパン製)を用いた。
【表19】
【0103】
得られた低食塩醤油(参考例9,10、11,12)を、予備試験1で得られた参考例2区(糖質原料としてグルコースを使用)と比較した。また、予備試験1と同様にして、市販減塩醤油(キッコーマン社製)を対照として、官能検査を実施した。その結果を表20〜22に示した。
【0104】
表20〜22の結果から、全窒素分が高く、醤油中の重要な香気成分として知られるエタノール4.0%(v/v)以上で、全窒素濃度1.0%(w/v)あたり2−フェニルエタノール7.0μg/ml以上、イソブチルアルコール10.0μg/ml以上、イソアミルアルコール15.0μg/ml以上の濃度を有し、さらにコハク酸500μg/ml以上の濃度を有し、風味の良好な低食塩醤油が特殊な手段を採用することなく得られることが判る。
【表20】
【表21】
【表22】
【0105】
<予備試験7>
(添加糖量の変更試験)
上記予備試験1の参考例2区(糖質原料添加時の諸味1gあたりの醤油酵母生菌数が3×10
7個)の低食塩醤油の製造法において、通気攪拌後の一次諸味に対して表23に記載された量の醤油麹及び糖質原料としてグルコースを添加し、さらに表23に記載された量の水及び食塩水を添加して諸味の食塩濃度調整を行い、その後は、予備試験1と同様に適宜攪拌を行い、発酵熟成し、その後、圧搾、濾過し、火入れ、清澄して低食塩醤油を得た。その結果、表24のように醤油中の重要な香気成分として知られるエタノール4.0%(v/v)以上で、全窒素濃度1.0%(w/v)あたり2−フェニルエタノール7.0μg/ml以上、イソブチルアルコール10.0μg/ml以上、イソアミルアルコール15.0μg/ml以上の濃度を有し、さらにコハク酸500μg/ml以上の濃度を有する低食塩醤油が特殊な手段を採用することなく得られることが判明した。
【表23】
【表24】
【0106】
本明細書において、一次諸味、二次諸味および三次諸味の食塩濃度及びエタノール濃度は、分析対象とする段階の諸味から固形分を濾紙濾過などにより分離除去して得られる液汁中における食塩濃度及びエタノール濃度を意味する。
【0107】
<実施例1>
(一次諸味の調製)
予備試験1で調製した醤油麹0.8kgを18%(w/v)食塩水1.9Lに混和し、仕込みを行った。
【0108】
得られた醤油諸味に醤油乳酸菌を諸味1gあたり1×10
5個となるように添加し、1カ月間諸味品温を15℃に保持して、醤油麹酵素による原料の分解溶出及び乳酸発酵を行ない、醤油酵母の増殖に好適な醤油諸味(食塩濃度約15%w/v)を得た(表25参照)。
【0109】
この醤油諸味を本発明1〜4及び比較例8の合計5区分用意し、それぞれの区分に醤油酵母(チゴサッカロマイセス・ルーキシー)を諸味1gあたり5×10
5個となるようにそれぞれ添加し、諸味品温を20℃に保ち、諸味を通気攪拌して、諸味1gあたりの醤油酵母生菌数が3×10
7個の一次諸味を調製した。表25は、一次諸味の調製、一次諸味(発酵後)の食塩濃度及び醤油酵母生菌数を示す。
【表25】
【0110】
(米麹の調整)
米2kgを水に1.5時間浸漬し、1時間水切りを行った。これを100℃常圧で40分間蒸煮した。得られた蒸米を室温まで冷却した後、アスペルギルス・オリーゼ(ATCC14895)のフスマ種麹(有効胞子数:1×10
9個/g)0.1%(w/w)接種して麹蓋に盛り込み、常法により48時間製麹して米麹を得た。
【0111】
(二次諸味の調製)
一次諸味1kgに、表26に記載されているように、糖質原料として、米麹、グルコース(昭和産業社製)及び水又は食塩水をそれぞれ所定量添加して醤油諸味の食塩濃度を調整し、二次諸味を調製した。
【0112】
そして、諸味品温20℃で適宜攪拌して2週間発酵させ、表26に記載の如き、食塩及びエタノールを含有する二次諸味を調製した。表26は、二次諸味の調製、一次諸味に添加する糖質原料及び水、並びに二次諸味(発酵後)の食塩及びアルコール濃度を示す。
【表26】
【0113】
(三次諸味の調製)
二次諸味を1kgずつ5区分用意した。それぞれに、表27に記載の如き、所定量の米麹、グルコース(昭和産業社製)及び水を添加して三次諸味を調製した。また予め培養して協会7号酵母(清酒酵母)の培養液を25mlずつ添加した。そして、表27に記載の如き、エタノール濃度及び酵母生菌数を有する三次諸味を調製した。なお、協会7号酵母(日本醸造協会)の培養液は、酵母をYPD培地に植菌し、坂口フラスコにて20℃、20時間好気培養し、得られたものである。
【表27】
【0114】
(三次諸味の発酵熟成)
三次諸味を、品温を15℃で、2週間、適宜撹拌しながら、発酵、熟成させた。これを圧搾して生揚げ醤油を得、5種類の超低食塩醤油を得た。
【0115】
得られた醤油について、成分分析を行った。結果を表28及び29に示す。
【0116】
表28は、超低食塩醤油の成分分析値1を、また表29は超低食塩醤油の成分分析値2を示す。
【0117】
(インドール化合物の分析)
ガスクロマトグラフィー分析により求め、検出の有無を確認した。
【0118】
(香気成分の分析)
ガスクロマトグラフィー分析により求めた。
【表28】
【表29】
【0119】
表25〜29の結果から、本発明の超低食塩醤油の製造法において、三次諸味調製直後の酵母生菌数が諸味1gあたり2×10
6個未満の場合はエタノール濃度が2%(v/v)以下となって醤油諸味が発酵、熟成の途中で腐敗性の細菌類によって腐敗し、悪臭化合物として知られるインドール化合物が醤油諸味中に生成蓄積して、香味の優れた醤油を得ることができないことが判る。
【0120】
これに対し、該三次諸味調製直後の酵母生菌数を諸味1gあたり2×10
6個以上、エタノール濃度を2%(v/v)以上存在させるときは、この諸味を発酵、熟成しても、腐敗を防止することができ、エタノールを高濃度で含有し、香味が良好で、しかも1.0〜4.0%(w/v)の超低食塩の醤油を得ることができることが判る。
【0121】
また、表29の結果から、本発明によれば食塩濃度1.0〜4.0%(w/v)、全窒素濃度0.4〜0.7%(w/v)を有し、エタノール濃度11.0〜18.0%(v/v)、全窒素1.0%(w/v)あたり2−フェニルエタノール濃度が7.0μg/ml以上、イソブチルアルコール濃度が10.0μg/ml以上、イソアミルアルコール濃度が15.0μg/ml以上である超低食塩醤油が得られることが判る。
【0122】
また、全窒素濃度1.0%(w/v)あたりコハク酸濃度が500μg/ml以上である超低食塩醤油を得ることが判る。
【0123】
<実施例2>
実施例1の超低食塩醤油の製造法と全く同様にして、先ず調製した一次諸味1kgに、表30に記載の如き、所定量の米麹、醤油麹、グルコース(昭和産業社製)及び調整水を添加し、発酵させて二次諸味を調製した。
【0124】
次いで、調製した二次諸味に、表31に記載の如き、所定量の米麹、醤油麹及びグルコース及び調整水を添加して三次諸味を調製した。
【0125】
次いで、三次諸味を、品温を15℃で、2週間、適宜撹拌しながら、発酵、熟成させた。
【0126】
これを圧搾して生揚げ醤油を得、4種類の超低食塩醤油を得た。得られた醤油について、成分分析を行った。結果を表30〜33に示す。
【表30】
【表31】
【表32】
【表33】
【0127】
表30〜33の結果から、本発明の超低食塩醤油の製造法において、醤油諸味に添加する糖質原料として、澱粉質に富む米麹をもちいた場合ばかりでなく、蛋白質に富む醤油麹を用いた場合でも、酵母発酵が旺盛に持続し、その結果、醤油にとって好ましい香気成分を高濃度で含有する超低食塩醤油を得ることができることが判る。すなわち、食塩濃度1.0〜4.0%(w/v)、全窒素濃度0.5〜1.6%(w/v)を有し、エタノール濃度9.8〜16.0%(v/v)、全窒素1.0%(w/v)あたり2−フェニルエタノール濃度が7.0μg/ml以上、イソブチルアルコール濃度が10.0μg/m以上、イソアミルアルコール濃度が15.0μg/ml以上である超低食塩醤油を得ることが判る。
【0128】
<実施例3>
(本発明の超低食塩醤油の製造)
上記実施例1と同様にして、一次諸味を調製した。次いで、この一次諸味3kgに、表34に記載の如き、米麹、醤油麹、又はグルコース(昭和産業社製)及び水をそれぞれ所定量添加して醤油諸味の食塩濃度を調整し、二次諸味を調製した。
【0129】
そして、諸味品温20℃で適宜攪拌して2週間発酵させ、表34に記載の如き、食塩及びエタノールを含有する二次諸味(発酵後)を調製した。
【0130】
次いで、上記二次諸味それぞれ1kgに、表35に記載の如き、所定量の米麹、醤油麹又はグルコース(昭和産業社製)及び水を添加した。また予め培養して得た協会7号酵母(清酒酵母)の培養液を25mlずつ添加した。そして、表35に記載の如き、エタノール濃度及び酵母生菌数を有する三次諸味を調製した。
【0131】
三次諸味を、品温を15℃で、2週間、適宜撹拌しながら、発酵、熟成させた。これを圧搾して生揚げ醤油を得、2種類の超低食塩醤油を得た。得られた醤油について、成分分析を行った。結果を表34〜37に示す。
【表34】
【表35】
【表36】
【表37】
【0132】
(官能評価試験)
本実施例で得られた本発明の超低食塩醤油を用いて官能評価を実施した。官能評価に用いた各調味料の配合割合を表38に、また官能評価結果を表39に示す。
【0133】
表39は、調味料の配合割合を示す。
【表38】
【0134】
(官能評価方法)
表38に従い、二種類の調味料を調製した。この調味料を用いてアサリのお吸い物の調理品を調理した。この調理品について、パネル14名により一対比較法により官能試験を実施した。すなわち、本発明の超低食塩醤油を配合した調味料で調理した吸い物(本発明区)を、市販の料理酒(キッコーマン社製)を配合した調味料で調理した吸い物(対照区)と比較した。
【0135】
各評価項目において、対照区に比べて、かなり弱いを−4、とても弱いを−3、弱いを−2、やや弱いを−1、同程度を0、やや強いを1、強いを2、とても強いを3、かなり強いを4と評価した。なお、表中の評点は14名のパネルの平均値であり、検定の欄における「**」は1%の危険率で有意差あり、「*」は5%危険率で有意差あり、「−」は有意差なしを意味する。一般に、淡口醤油には食塩が約18%(w/v)、料理酒には食塩が約2〜3%(w/v)含まれるため、本発明区の調味料は、対照区のそれと食塩分が同じになるように、食塩を補充した。その結果を表39に示す。
【表39】
【0136】
表39の結果から、本発明の超低食塩醤油は、市販の料理酒に比べて、旨味を付与し、あさりなどの魚介類の生臭みを消去する作用が優れていることが判る。
【0137】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。