特許第5968668号(P5968668)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5968668
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】電子部品用金属材料
(51)【国際特許分類】
   C23C 30/00 20060101AFI20160728BHJP
   C22C 13/02 20060101ALI20160728BHJP
   C22C 13/00 20060101ALI20160728BHJP
   C22C 28/00 20060101ALI20160728BHJP
   C22C 5/02 20060101ALI20160728BHJP
   C22C 5/06 20060101ALI20160728BHJP
   C22C 5/04 20060101ALI20160728BHJP
   C22C 5/00 20060101ALI20160728BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20160728BHJP
   C22C 27/06 20060101ALI20160728BHJP
   C22C 22/00 20060101ALI20160728BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20160728BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20160728BHJP
   C22C 9/04 20060101ALI20160728BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20160728BHJP
   C22C 9/05 20060101ALI20160728BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20160728BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20160728BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20160728BHJP
   H01B 7/08 20060101ALI20160728BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20160728BHJP
   C22C 5/08 20060101ALI20160728BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20160728BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20160728BHJP
   C25D 5/10 20060101ALI20160728BHJP
   C25D 7/00 20060101ALN20160728BHJP
【FI】
   C23C30/00 A
   C22C13/02
   C22C13/00
   C22C28/00 B
   C22C5/02
   C22C5/06 C
   C22C5/04
   C22C5/00
   C22C19/03 M
   C22C27/06
   C22C22/00
   C22C38/00
   C22C19/07 M
   C22C9/04
   C22C9/06
   C22C9/05
   C22C9/00
   H01B5/02 A
   H01B1/02 C
   H01B7/08
   H01B7/00 306
   C22C5/08
   H01R13/03 A
   H01R13/03 D
   H05K1/09 C
   C25D5/10
   !C25D7/00 H
【請求項の数】22
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2012-92240(P2012-92240)
(22)【出願日】2012年4月13日
(65)【公開番号】特開2013-221166(P2013-221166A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2015年3月27日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 義孝
(72)【発明者】
【氏名】深町 一彦
(72)【発明者】
【氏名】児玉 篤志
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−078287(JP,A)
【文献】 特開2010−280955(JP,A)
【文献】 特開2011−122234(JP,A)
【文献】 特開2010−262861(JP,A)
【文献】 特開平11−350188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C28/02
C22C 5/02
C22C 5/04
C22C 5/06
C22C 5/08
C22C 5/10
C22C 9/00
C22C 9/04
C22C 9/05
C22C 9/06
C22C13/00
C22C13/02
C22C22/00
C22C27/06
C22C28/00
C22C38/00
C23C14/14
H01B 1/02
H01B 5/02
H01B 7/00
H01R13/03
H05K 1/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上にSn,In,またはそれらの合金からなるA層が形成され、
前記基材と前記A層との間にAg,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,Os,Ir,またはそれら同士の合金からなるB層が形成され、
前記基材と前記B層との間に、Ni,Cr,Mn,Fe,Co,Cuからなる群から選択された1種、もしくは2種以上からなるC層が形成され、
前記A層の厚みが0.01〜0.3μmであり、
前記B層の厚みが0.05〜0.5μmであり、
前記C層の厚みが0.05μm以上であり、
前記A層の厚み/前記B層の厚みの比が0.02〜4.00である電子部品用金属材料。
【請求項2】
基材上にSn,In,またはそれらの合金からなるA層が形成され、
前記基材と前記A層との間にAg,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,Os,Ir,またはそれら同士の合金からなるB層が形成され、
前記基材と前記B層との間に、Ni,Cr,Mn,Fe,Co,Cuからなる群から選択された1種、もしくは2種以上からなるC層が形成され、
前記A層の付着量が7〜230μg/cm2であり、
前記B層の付着量が50〜550μg/cm2であり、
前記C層の付着量が0.03mg/cm2以上であり、
前記A層の付着量/前記B層の付着量の比が0.10〜3.00である電子部品用金属材料。
【請求項3】
XPS(X線光電子分光)でDepth分析を行ったとき、最表からC層の濃度が20at%となる範囲で、
A層の濃度(at%)<B層の濃度(at%)+30
を満たす請求項1又は2に記載の電子部品用金属材料。
【請求項4】
前記A層の合金組成がSn,In,またはSnとInとの合計で50質量%以上であり、残合金成分がAs,Bi,Cd,Co,Cr,Cu,Fe,Mn,Mo,Ni,Sb,W,Znからなる群より選択される1種、もしくは2種以上の金属からなる請求項1〜3のいずれかに記載の電子部品用金属材料。
【請求項5】
前記B層の合金組成がAg,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,Os,Ir,またはAgとAuとPtとPdとRuとRhとOsとIrとの合計で50質量%以上であり、残合金成分がBi,Cd,Co,Cu,Fe,Mn,Mo,Ni,Pb,Sb,Se,W,Tl,Znからなる群より選択される1種、もしくは2種以上の金属からなる請求項1〜4のいずれかに記載の電子部品用金属材料。
【請求項6】
前記C層の合金組成がNi,Cr,Mn,Fe,Co,Cuの合計で50質量%以上であり、さらにB,P,Znからなる群から選択された1種、もしくは2種以上の金属からなる請求項1〜5のいずれかに記載の電子部品用金属材料。
【請求項7】
表面のビッカース硬さがHv100以上である請求項1〜6のいずれかに記載の電子部品用金属材料。
【請求項8】
超微小硬さ試験により、表面に荷重0.1mNで打根を打って測定したときの、表面の押し込み硬さが1000MPa以上である請求項1〜7のいずれかに記載の電子部品用金属材料。
【請求項9】
表面のビッカース硬さがHv1000以下である請求項1〜8のいずれかに記載の電子部品用金属材料。
【請求項10】
超微小硬さ試験により、表面に荷重0.1mNで打根を打って測定したときの、表面の押し込み硬さが10000MPa以下である請求項1〜9のいずれかに記載の電子部品用金属材料。
【請求項11】
表面の算術平均高さ(Ra)が0.1μm以下である請求項1〜10のいずれかに記載の電子部品用金属材料。
【請求項12】
表面の最大高さ(Rz)が1μm以下である請求項1〜11のいずれかに記載の電子部品用金属材料。
【請求項13】
XPS(X線光電子分光)でDepth分析を行ったとき、前記A層のSnまたはInの原子濃度(at%)の最高値を示す位置(D1)、前記B層のAg,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,OsまたはIrの原子濃度(at%)の最高値を示す位置(D2)、前記C層のNi,Cr,Mn,Fe,CoまたはCuの原子濃度(at%)の最高値を示す位置(D3)が最表面からD1、D2、D3の順で存在する請求項1〜12のいずれかに記載の電子部品用金属材料。
【請求項14】
XPS(X線光電子分光)でDepth分析を行ったとき、前記A層のSnまたはInの原子濃度(at%)の最高値、及び、前記B層のAg,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,OsまたはIrの原子濃度(at%)の最高値がそれぞれ10at%以上であって、前記C層のNi,Cr,Mn,Fe,CoまたはCuの原子濃度(at%)が25at%以上である深さが50nm以上である請求項1〜13のいずれかに記載の電子部品用金属材料。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の電子部品用金属材料を接点部分に用いたコネクタ端子。
【請求項16】
請求項15に記載のコネクタ端子を用いたコネクタ。
【請求項17】
請求項1〜14のいずれかに記載の電子部品用金属材料を接点部分に用いたFFC端子。
【請求項18】
請求項1〜14のいずれかに記載の電子部品用金属材料を接点部分に用いたFPC端子。
【請求項19】
請求項17に記載のFFC端子を用いたFFC。
【請求項20】
請求項18に記載のFPC端子を用いたFPC。
【請求項21】
請求項1〜14のいずれかに記載の電子部品用金属材料を外部接続用電極に用いた電子部品。
【請求項22】
請求項1〜14のいずれかに記載の電子部品用金属材料を、ハウジングに取り付ける装着部の一方側にメス端子接続部が、他方側に基板接続部がそれぞれ設けられ、前記基板接続部を基板に形成されたスルーホールに圧入して前記基板に取り付ける圧入型端子に用いた電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
民生用及び車載用電子機器用接続部品であるコネクタには、黄銅やリン青銅の表面にNiやCuの下地めっきを施し、さらにその上にSn又はSn合金めっきを施した材料が使用されている。Sn又はSn合金めっきは、一般的に低接触抵抗及び高はんだ濡れ性という特性が求められ、更に近年めっき材をプレス加工で成形したオス端子及びメス端子勘合時の挿入力の低減化も求められている。また、製造工程でめっき表面に、短絡等の問題を引き起こす針状結晶であるウィスカが発生することがあり、このウィスカの発生を抑制する必要もある。
またコネクタ(特に車載用電子機器用接続備品)によっては、振動などの影響を考慮した高耐微摺動磨耗性や高耐挿抜性(オス端子とメス端子を勘合及び脱着を繰り返しても接触抵抗が増加しない)等の特性も求められている。
【0002】
これに対し、特許文献1には、表面から厚さ0.05μm以上の表層がNi,Co又はこれらの合金からなる基材上に、Ag又はAg合金を部分被覆し、露出する基材表面と部分被覆したAg又はAg合金層上に、In,Zn,Sn,Pd又はこれらの合金を0.01〜1.0μmの厚さに被覆した銀被覆電気材料が開示されている。そしてこれによれば、電気材料としての優れた半田付け性や機械的電気接続における接続性を長期にわたり維持することができると記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、CuまたはCu合金基材表面にNi、Coまたはこれらを含む合金の第1被覆層を設け、その表面にAgまたはAg合金の第2被覆層を設け、さらにその表面にSnまたはSn合金の被覆層を設けてなるSnまたはSn合金被覆材料が開示されている。そしてこれによれば、高温における使用に拘わらず、表面の酸化変色がなく接触抵抗の増加が少なく、長期間にわたり、外観および接触特性が良好なSnまたはSn合金被覆材料を提供することができると記載されている。
【0004】
また、特許文献3には、CuまたはCu合金基材表面にNi,Coまたはこれらを含む合金の第1被覆層を設け、その表面にAgまたはAg合金の第2被覆層を設け、さらにその表面にSnまたはSn合金の溶融凝固被覆層を設けてなるSnまたはSn合金被覆材料が開示されている。そしてこれによれば、高温における使用に拘わらず、表面の酸化変色がなく接触抵抗の増加が少なく、長期化にわたり、外観および接触特性が良好なSnまたはSn合金被覆材料を提供することができると記載されている。
【0005】
また、特許文献4には、(a)銀、パラジウム、白金、ビスマス、インジウム、ニッケル、亜鉛、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、クロム、アンチモンよりなる群から選ばれた下地用の金属薄膜のいずれかを被メッキ物上に形成した後、(b)上記下地用の金属薄膜上にスズ又はスズ合金のメッキ皮膜を形成することを特徴とする前処理によるスズホイスカーの防止方法が開示されている。そしてこれによれば、銅系素地を初めとする被メッキ物の表面上にハンダ付け性などを良好に確保するために形成するスズ系皮膜において、簡便な操作でスズホイスカーを有効に防止することができると記載されている。
【0006】
また、特許文献5には、メッキ用基体の表面に銀メッキ層を形成し、さらに該銀メッキ層の表面に厚さ0.001〜0.1μmの錫またはインジウムまたは亜鉛のメッキ層を形成してなる銀メッキ構造体を熱処理して得られるメッキ構造が開示されている。そしてこれによれば、耐熱性に優れ、かつ銀の硫化による反射率低下の少ない発光素子収納用支持体及び、硫化により変色しにくく、銀本来の光沢を有し、接触抵抗が小さい電気部品用被覆方法を提供することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−124597号公報
【特許文献2】特開平1−306574号公報
【特許文献3】特開平2−301573号公報
【特許文献4】特開2003−129278号公報
【特許文献5】特開2011−122234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜5に記載の技術では、耐微摺動磨耗性、耐挿抜性、低ウィスカ性及び低挿抜性等の特性について、十分に満足できるものではなかった。
このように、従来のSn/Ag/Ni下地めっき構造を有する電子部品用金属材料には、耐微摺動磨耗性、耐挿抜性、低ウィスカ性及び低挿抜性等について問題があり、これら全てを改善する方針が明らかになっていなかった。
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、耐微摺動磨耗性、耐挿抜性、低ウィスカ性及び低挿抜性を有する電子部品用金属材料及びその製造方法を提供することを課題とする。
なお耐微摺動磨耗性とは、オス端子とメス端子を勘合させたコネクタにおいて、勘合部が微摺動(摺動距離1.0mm以下)しても接触抵抗が増加し難い性質をいう。
耐挿抜性とは、オス端子とメス端子を複数回の挿抜を繰り返してもコネクタの接触抵抗が増加し難い性質をいう。
低ウィスカ性とは、ウィスカが発生し難い性質をいう。
低挿抜性とは、低挿抜性とは、オス端子とメス端子を勘合させた時に生じる挿入力が低いことをいう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、基材上に所定の金属からなるC層、B層、A層を順に設け、それぞれ所定の厚み又は付着量で形成し、且つ、A層とB層との厚みの比又は付着量の比を所定範囲に制御することで、高耐微摺動磨耗性、高耐挿抜性、低ウィスカ性及び低挿抜性のいずれも備えた電子部品用金属材料を作製することができることを見出した。
【0010】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、基材上にSn,In,またはそれらの合金からなるA層が形成され、前記基材と前記A層との間にAg,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,Os,Ir,またはそれらの合金からなるB層が形成され、前記基材と前記B層との間に、Ni,Cr,Mn,Fe,Co,Cuからなる群から選択された1種、もしくは2種以上からなるC層が形成され、前記A層の厚みが0.01〜0.3μmであり、前記B層の厚みが0.05〜0.5μmであり、前記C層の厚みが0.05μm以上であり、前記A層の厚み/前記B層の厚みの比が0.02〜4.00である電子部品用金属材料である。
【0011】
本発明は別の一側面において、基材上にSn,In,またはそれらの合金からなるA層が形成され、前記基材と前記A層との間にAg,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,Os,Ir,またはそれらの合金からなるB層が形成され、前記基材と前記B層との間に、Ni,Cr,Mn,Fe,Co,Cuからなる群から選択された1種、もしくは2種以上からなるC層が形成され、前記A層の付着量が7〜230μg/cm2であり、前記B層の付着量が50〜550μg/cm2であり、前記C層の付着量が0.03mg/cm2以上であり、前記A層の付着量/前記B層の付着量の比が0.10〜3.00である電子部品用金属材料である。
【0012】
本発明の電子部品用金属材料は一実施形態において、XPS(X線光電子分光)でDepth分析を行ったとき、最表からC層の濃度が20at%となる範囲で
A層の濃度(at%)<B層の濃度(at%)+30
を満たす。
【0013】
本発明の電子部品用金属材料は更に別の一実施形態において、前記A層の合金組成がSn,In,またはSnとInとの合計で50質量%以上であり、残合金成分がAs,Bi,Cd,Co,Cr,Cu,Fe,Mn,Mo,Ni,Sb,W,Znからなる群より選択される1種、もしくは2種以上の金属からなる。
【0014】
本発明の電子部品用金属材料は更に別の一実施形態において、前記B層の合金組成がAg,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,Os,Ir,またはAgとAuとPtとPdとRuとRhとOsとIrとの合計で50質量%以上であり、残合金成分がBi,Cd,Co,Cu,Fe,Mn,Mo,Ni,Pb,Sb,Se,W,Tl,Znからなる群より選択される1種、もしくは2種以上の金属からなる。
【0015】
本発明の電子部品用金属材料は更に別の一実施形態において、前記C層の合金組成がNi,Cr,Mn,Fe,Co,Cuの合計で50質量%以上であり、さらにB,P,Znからなる群から選択された1種、もしくは2種以上の金属からなる。
【0016】
本発明の電子部品用金属材料は更に別の一実施形態において、表面のビッカース硬さがHv100以上である。
【0017】
本発明の電子部品用金属材料は更に別の一実施形態において、超微小硬さ試験により、表面に荷重0.1mNで打根を打って測定したときの、表面の押し込み硬さが1000MPa以上である。
【0018】
本発明の電子部品用金属材料は更に別の一実施形態において、表面のビッカース硬さがHv1000以下である。
【0019】
本発明の電子部品用金属材料は更に別の一実施形態において、超微小硬さ試験により、表面に荷重0.1mNで打根を打って測定したときの、表面の押し込み硬さが10000MPa以下である。
【0020】
本発明の電子部品用金属材料は更に別の一実施形態において、表面の算術平均高さ(Ra)が0.1μm以下である。
【0021】
本発明の電子部品用金属材料は更に別の一実施形態において、表面の最大高さ(Rz)が1μm以下である。
【0022】
本発明の電子部品用金属材料は更に別の一実施形態において、XPS(X線光電子分光)でDepth分析を行ったとき、前記A層のSnまたはInの原子濃度(at%)の最高値を示す位置(D1)、前記B層のAg,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,OsまたはIrの原子濃度(at%)の最高値を示す位置(D2)、前記C層のNi,Cr,Mn,Fe,CoまたはCuの原子濃度(at%)の最高値を示す位置(D3)が最表面からD1、D2、D3の順で存在する。
【0023】
本発明の電子部品用金属材料は更に別の一実施形態において、XPS(X線光電子分光)でDepth分析を行ったとき、前記A層のSnまたはInの原子濃度(at%)の最高値、及び、前記B層のAg,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,OsまたはIrの原子濃度(at%)の最高値がそれぞれ10at%以上であって、前記C層のNi,Cr,Mn,Fe,CoまたはCuの原子濃度(at%)が25at%以上である深さが50nm以上である。
【0024】
本発明は更に別の一側面において、本発明の電子部品用金属材料を接点部分に用いたコネクタ端子である。
【0025】
本発明は更に別の一側面において、本発明のコネクタ端子を用いたコネクタである。
【0026】
本発明は更に別の一側面において、本発明の電子部品用金属材料を接点部分に用いたFFC端子である。
【0027】
本発明は更に別の一側面において、本発明の電子部品用金属材料を接点部分に用いたFPC端子である。
【0028】
本発明は更に別の一側面において、本発明のFFC端子を用いたFFCである。
【0029】
本発明は更に別の一側面において、本発明のFPC端子を用いたFPCである。
【0030】
本発明は更に別の一側面において、本発明の電子部品用金属材料を外部接続用電極に用いた電子部品である。
【0031】
本発明は更に別の一側面において、本発明の電子部品用金属材料を、ハウジングに取り付ける装着部の一方側にメス端子接続部が、他方側に基板接続部がそれぞれ設けられ、前記基板接続部を基板に形成されたスルーホールに圧入して前記基板に取り付ける圧入型端子に用いた電子部品である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、高耐微摺動磨耗性、高耐挿抜性、低ウィスカ性及び低挿入力性を有する電子部品用金属材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の実施形態に係る電子部品用金属材料の構成を示す模式図である。
図2】実施例2に係るXPS(X線光電子分光)のDepth測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態に係る電子部品用金属材料について説明する。図1に示すように、実施形態に係る電子部品用金属材料10は、基材11の表面にC層12が形成され、C層12の表面にB層13が形成され、B層13の表面にA層14が形成されている。
【0035】
<電子部品用金属材料の構成>
(基材)
基材11としては、特に限定されないが、例えば、銅及び銅合金、Fe系材、ステンレス、チタン及びチタン合金、アルミニウム及びアルミニウム合金などの金属基材を用いることができる。また、金属基材に樹脂層を複合させたものであっても良い。金属基材に樹脂層を複合させたものとは、例としてFPCまたはFFC基材上の電極部分などがある。
【0036】
(A層)
A層14は、Sn,In,またはそれらの合金である必要がある。Sn及びInは、酸化性を有する金属ではあるが、金属の中では比較的柔らかいという特徴がある。よって、Sn及びIn表面に酸化膜が形成されていても、例えば電子部品用金属材料を接点材料としてオス端子とメス端子を勘合する時に、容易に酸化膜が削られ、接点が金属同士となるため、低接触抵抗が得られる。
また、Sn及びInは塩素ガス、亜硫酸ガス、硫化水素ガス等のガスに対する耐ガス腐食性に優れ、例えば、B層13に耐ガス腐食性に劣るAg、C層12に耐ガス腐食性に劣るNi、基材11に耐ガス腐食性に劣る銅及び銅合金を用いた場合には、電子部品用金属材料の耐ガス腐食性を向上させる働きがある。なおSn及びInでは、厚生労働省の健康障害防止に関する技術指針に基づき、Inは規制が厳しいため、Snが好ましい。
【0037】
A層14の組成は、Sn,In,またはSnとInとの合計で50質量%以上であり、残合金成分がAs,Bi,Cd,Co,Cr,Cu,Fe,Mn,Mo,Ni,Pb,Sb,W,Znからなる群より選択される1種、もしくは2種以上の金属で構成されていても良い。A層14が、例えばSn−Agめっきで形成される等により、その組成が合金になることで、高耐微摺動磨耗性、高耐挿抜性、低ウィスカ性及び低挿抜性等を向上させる場合がある。
【0038】
A層14の厚みは0.01〜0.3μmである必要がある。A層14の厚みが0.01μm未満であると、充分な耐ガス腐食性が得られず、電子部品用金属材料を塩素ガス、亜硫酸ガス、硫化水素ガス等のガス腐食試験を行うと腐食して、ガス腐食試験前と比較して大きく接触抵抗が増加する。また、充分な耐挿抜性が得られず、めっきの多くが削れてしまって接触抵抗が増加する。また、厚みが大きくなると、SnやInの凝着磨耗が大きくなり、耐微摺動磨耗性が悪く、挿抜力は大きく、ウィスカも発生しやすくなる。より充分な耐微摺動磨耗性、低挿抜性及び低ウィスカ性を得るためには、0.3μm以下とする。ウィスカはらせん転位が生じることによって発生するが、らせん転位が生じるためには数百nm以上の厚みのバルクが必要である。A層14の厚みが0.3μm以下では、らせん転位が生じる十分な厚みではなく、基本的にはウィスカが発生しない。またA層14とB層13は常温において短回路拡散が進みやすく、合金が形成しやすいためウィスカが発生しない。
【0039】
A層14のSn,Inの付着量は、7〜230μg/cm2である必要がある。ここで、付着量で定義する理由を説明する。例えば、A層14の厚みを蛍光X線膜厚計で測定する場合、A層とその下のB層との間に形成した合金層により、測定される厚みの値に誤差が生じる場合がある。一方、付着量で制御する場合、合金層の形成状況に左右されず、より正確な品質管理をすることができる。A層14のSn,Inの付着量が7μg/cm2未満であると、充分な耐ガス腐食性が得られず、電子部品用金属材料を塩素ガス、亜硫酸ガス、硫化水素ガス等のガス腐食試験を行うと腐食して、ガス腐食試験前と比較して大きく接触抵抗が増加する。また、充分な耐挿抜性が得られず、めっきの多くが削れてしまって接触抵抗が増加する。また付着量が多くなると、SnやInの凝着磨耗が大きくなり、耐微摺動磨耗性が悪く、挿抜力は大きく、ウィスカも発生しやすくなる。より充分な耐微摺動磨耗性、低挿抜性及び低ウィスカ性を得るためには、230μg/cm2以下とする。ウィスカはらせん転位が生じることによって発生するが、らせん転位が生じるためには数百μg/cm2以上の付着量のバルクが必要である。A層14の付着量が230μg/cm2以下では、らせん転位が生じる十分な付着量ではなく、基本的にはウィスカが発生しない。またA層とB層は常温において短回路拡散が進みやすく、合金が形成しやすいためウィスカが発生しない。
【0040】
(B層)
B層13は、Ag,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,Os,Ir,またはそれらの合金で形成されている必要がある。Ag,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,Os,Irは、金属の中では比較的耐熱性を有するという特徴がある。よって基材11やC層12の組成がA層14側に拡散するのを抑制して耐熱性を向上させる。また、これら金属は、A層14のSnやInと化合物を形成してSnやInの酸化膜形成を抑制し、はんだ濡れ性を向上させる。なお、Ag,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,Os,Irの中では、導電率の観点でAgがより望ましい。Agは導電率が高い。例えば高周波の信号用途にAg用いた場合、表皮効果により、インピーダンス抵抗が低くなる。
B層13の合金組成がAg,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,Os,Ir,またはAgとAuとPtとPdとRuとRhとOsとIrとの合計で50質量%以上であり、残合金成分がBi,Cd,Co,Cu,Fe,In,Mn,Mo,Ni,Pb,Sb,Se,Sn,W,Tl,Znからなる群より選択される1種、もしくは2種以上の金属で構成されていても良い。B層13が、例えばSn−Agめっきで形成される等により、その組成が合金になることで、高耐微摺動磨耗性及び高耐挿抜性などを向上させる場合がある。
【0041】
B層13の厚みは0.05〜0.5μmである必要がある。厚みが0.05μm未満であると、充分な高耐微摺動磨耗性や耐挿抜性が得られず、めっきの多くが削れてしまって接触抵抗が増加する。また、厚みが大きくなると、硬い基材11またはC層による薄膜潤滑効果が低下して挿抜力が目標(比較例1よりも15%以上減)よりも大きくなるため、より充分な低挿抜性を得るためには0.5μm以下である必要がある。
【0042】
B層13のAg,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,Os,Ir,またはそれら合金の付着量は50〜550μg/cm2である必要がある。ここで、付着量で定義する理由を説明する。例えば、B層13の厚みを蛍光X線膜厚計で測定する場合、A層14とその下のB層13との間に形成した合金層により、測定される厚みの値に誤差が生じる場合がある。一方、付着量で制御する場合、合金層の形成状況に左右されず、より正確な品質管理をすることができる。より充分な高耐微摺動磨耗性や耐挿抜性を得るためには、50μg/cm2以上の付着量が好ましい。また付着量が多いと、硬い基材11またはC層による薄膜潤滑効果が低下して挿抜力が目標(比較例1よりも15%以上減)よりも大きくなるため、より充分な低挿抜性を得るためには550μg/cm2以下である必要がある。
【0043】
(C層)
基材11とB層13との間には、Ni,Cr,Mn,Fe,Co,Cuからなる群から選択された1種、もしくは2種以上からなるC層12を形成する必要がある。Ni,Cr,Mn,Fe,Co,Cuからなる群から選択された1種、もしくは2種以上の金属を用いてC層12を形成することで、硬いC層形成により薄膜潤滑効果が向上して低挿抜性が向上し、C層12は基材11の構成金属がB層に拡散するのを防止し、耐熱性試験や耐ガス腐食性試験後の接触抵抗増加及びはんだ濡れ性劣化を抑制するなど、耐久性が向上する。
【0044】
C層12の合金組成が、Ni,Cr,Mn,Fe,Co,Cuの合計で50質量%以上であり、さらにB,P,Sn,Znからなる群から選択された1種、もしくは2種以上を含んでも良い。C層12の合金組成がこのような構成となることで、C層12がより硬化することで更に薄膜潤滑効果が向上して低挿抜性が向上し、C層12の合金化は基材11の構成金属がB層に拡散するのを更に防止し、耐熱性試験や耐ガス腐食性試験後の接触抵抗増加及びはんだ濡れ性劣化を抑制するなど、耐久性が向上する。
【0045】
C層12の厚みは0.05μm以上である必要がある。C層12の厚みが0.05μm未満であると、硬いC層による薄膜潤滑効果が低下して低挿抜性が悪くなり、基材11の構成金属はB層に拡散しやすくなり、耐熱性試験や耐ガス腐食性試験後の接触抵抗増加及びはんだ濡れ性劣化しやすいなど、耐久性が悪くなる。
【0046】
C層12のNi,Cr,Mn,Fe,Co,Cuの付着量が、0.03mg/cm2以上である必要がある。ここで、付着量で定義する理由を説明する。例えば、C層12の厚みを蛍光X線膜厚計で測定する場合、A層14、B層13、及び基材11等と形成した合金層により、測定される厚みの値に誤差が生じる場合がある。一方、付着量で制御する場合、合金層の形成状況に左右されず、より正確な品質管理をすることができる。また付着量が0.03mg/cm2未満であると、硬いC層による薄膜潤滑効果が低下して低挿抜性が悪くなり、基材11の構成金属はB層に拡散しやすくなり、耐熱性試験や耐ガス腐食性試験後の接触抵抗増加及びはんだ濡れ性劣化しやすいなど、耐久性が悪くなる。
【0047】
(A層とB層との関係)
A層14の厚み[μm]/B層13の厚み[μm]の比が0.02〜4.00である必要がある。A層14の厚み[μm]/B層13の厚み[μm]の比が0.02未満であると充分な耐ガス腐食性が得られず、電子部品用金属材料を塩素ガス、亜硫酸ガス、硫化水素ガス等のガス腐食試験を行うと腐食して、ガス腐食試験前と比較して大きく接触抵抗が増加する。また、A層14の厚み[μm]/B層13の厚み[μm]の比4.00を越えると、表層にA層14が多く存在し、耐微摺動磨耗性が悪くなる。
A層14の付着量[μg/cm2]/B層13の付着量[μg/cm2]の比が0.10〜3.00である必要がある。A層14の付着量[μg/cm2]/B層13の付着量[μg/cm2]の比が0.10未満であると充分な耐ガス腐食性が得られず、電子部品用金属材料を塩素ガス、亜硫酸ガス、硫化水素ガス等のガス腐食試験を行うと腐食して、ガス腐食試験前と比較して大きく接触抵抗が増加する。また層14の付着量[μg/cm2]/B層13の付着量[μg/cm2]の比が3.00を超えると、表層にA層14が多く存在し、耐微摺動磨耗性が悪くなる。
【0048】
XPS(X線光電子分光)でDepth分析を行ったとき、最表からC層の濃度が20at%となる範囲で、A層の濃度(at%)<〔B層の濃度(at%)+30〕であることが好ましい。A層の濃度(at%)≧〔B層の濃度(at%)+30〕であると表層にA層14が多く存在し、耐微摺動磨耗性が悪くなる場合がある。
【0049】
<電子部品用金属材料の特性>
A層14の表面(A層の表面から測定した)のビッカース硬さはHv100以上であるのが好ましい。A層14の表面のビッカース硬さがHv100以上であると、硬いA層によって薄膜潤滑効果が向上し、低挿抜性が向上する。また一方で、A層14表面(A層の表面から測定した)のビッカース硬さはHv1000以下あるのが好ましい。A層14の表面のビッカース硬さがHv1000以下であると、曲げ加工性が向上し、本発明の電子部品用金属材料をプレス成形した場合に、成形した部分にクラックが入り難くなり、耐ガス腐食性(耐久性)低下を抑制する。
A層14の表面(A層の表面から測定した)の押し込み硬さは1000MPa以上あるのが好ましい。A層14の表面の押し込み硬さが1000MPa以上であると、硬いA層によって薄膜潤滑効果が向上し、低挿抜性が向上する。また一方でA層14の表面(A層の表面から測定した)の押し込み硬さは10000MPa以下あるのが好ましい。A層14の表面の押し込み硬さが10000MPa以下であると、曲げ加工性が向上し、本発明の電子部品用金属材料をプレス成形した場合に、成形した部分にクラックが入り難くなり、耐ガス腐食性(耐久性)低下を抑制する。
【0050】
A層14の表面の算術平均高さ(Ra)は0.1μm以下であるのが好ましい。A層14の表面の算術平均高さ(Ra)が0.1μm以下であると比較的腐食しやすい凸部が少なくなり平滑となるため、耐ガス腐食性が向上する。
A層14の表面の最大高さ(Rz)は1μm以下であるのが好ましい。A層14の表面の最大高さ(Rz)が1μm以下であると比較的腐食しやすい凸部が少なくなり平滑となるため、耐ガス腐食性が向上する。
【0051】
XPS(X線光電子分光)でDepth分析を行ったとき、最表層(A層)14のSnまたはInの原子濃度(at%)の最高値を示す位置(D1)、中層(B層)13のAg,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,OsまたはIrの原子濃度(at%)の最高値を示す位置(D2)、下層(C層)12のNi,Cr,Mn,Fe,CoまたはCuの原子濃度(at%)の最高値示す位置(D3)が最表面からD1、D2、D3の順で存在することが好ましい。最表面からD1、D2、D3の順で存在しない場合、充分な耐ガス腐食性が得られず、電子部品用金属材料を塩素ガス、亜硫酸ガス、硫化水素ガス等のガス腐食試験を行うと腐食して、ガス腐食試験前と比較して大きく接触抵抗が増加するおそれがある。
XPS(X線光電子分光)でDepth分析を行ったとき、最表層(A層)14のSnまたはInの原子濃度(at%)の最高値、及び、中層(B層)13のAg,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,OsまたはIrの原子濃度(at%)の最高値がそれぞれ10at%以上であって、下層(C層)12のNi,Cr,Mn,Fe,CoまたはCuの原子濃度(at%)が25at%以上である深さが50nm以上であることが好ましい。最表層(A層)14のSnまたはInの原子濃度(at%)の最高値、及び、中層(B層)13のAg,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,OsまたはIrの原子濃度(at%)の最高値がそれぞれ10at%未満であって、下層(C層)12のNi,Cr,Mn,Fe,CoまたはCuの原子濃度(at%)が25at%以上である深さが50nm未満である場合、低挿抜性や耐久性(耐熱性、耐ガス腐食性、はんだ濡れ性等)は、基材成分が最表層(A層)14または中層(B層)13に拡散して悪くなるおそれがある。
【0052】
<電子部品用金属材料の用途>
本発明の電子部品用金属材料の用途は特に限定しないが、例えば電子部品用金属材料を接点部分に用いたコネクタ端子、電子部品用金属材料を接点部分に用いたFFC端子またはFPC端子、電子部品用金属材料を外部接続用電極に用いた電子部品などが挙げられる。なお、端子については、圧着端子、はんだ付け端子、プレスフィット端子等、配線側との接合方法によらない。外部接続用電極には、タブに表面処理を施した接続部品や半導体のアンダーバンプメタル用に表面処理を施した材料などがある。
また、このように形成されたコネクタ端子を用いてコネクタを作製しても良く、FFC端子またはFPC端子を用いてFFCまたはFPCを作製しても良い。
電子部品用金属材料を、ハウジングに取り付ける装着部の一方側にメス端子接続部が、他方側に基板接続部がそれぞれ設けられ、前記基板接続部を基板に形成されたスルーホールに圧入して前記基板に取り付ける圧入型端子も本発明の電子部品用金属材料である。
コネクタはオス端子とメス端子の両方が本発明の電子部品用金属材料であっても良いし、オス端子またはメス端子の片方だけであっても良い。なおオス端子とメス端子の両方を本発明の電子部品用金属材料にすることで、更に低挿抜性が向上する。
【0053】
<電子部品用金属材料の製造方法>
本発明の電子部品用金属材料の製造方法としては、湿式(電気、無電解)めっき、乾式(スパッタ、イオンプレーティング等)めっき等を用いることができる。具体的な方法としては、素材11上にC層12を成膜し、C層12上にB層13を成膜し、B層13上にA層14を成膜し、A層14とB層13が拡散によって合金層が形成させる方法がある。この製造方法であると、Snの凝着力を一層小さくすることにより高耐微摺動磨耗性及び高耐挿抜性が得られ、低挿抜性や低ウィスカ等の特性を向上させる。
【0054】
(熱処理)
A層14を形成させた後に、高耐微摺動磨耗性、高耐挿抜性、低ウィスカ性及び低挿抜性を向上させる目的で熱処理を施しても良い。熱処理によってA層14とB層13とが合金層を形成しやすくなり、Snの凝着力を一層小さくすることにより高耐微摺動磨耗性及び高耐挿抜性が得られ、低挿抜性や低ウィスカ等の特性が向上する。なお、この熱処理については、処理条件(温度×時間)は適宜選択できる。また、特にこの熱処理はしなくてもよい。
熱処理は、温度500℃以下、12時間以内で行われることが好ましい。温度が500℃を超えると、接触抵抗が高くなり、はんだ濡れ性が劣るなどの問題が発生する場合がある。熱処理時間が12時間を超えると、接触抵抗が高くなり、はんだ濡れ性が劣るなどの問題が発生する場合がある。
【0055】
A層14上、またはA層14上に熱処理を施した後に、高耐微摺動磨耗性、高耐挿抜性、低挿抜性及び高耐久性(耐熱性、耐ガス腐食性、はんだ濡れ性等)を向上させる目的で後処理を施しても良い。後処理によって潤滑性が向上し、更なる低挿抜性が得られ、またA層とB層の酸化が抑制されて、耐熱性、耐ガス腐食性及びはんだ濡れ性等の耐久性が向上する。具体的な後処理としてはインヒビターを用いた、リン酸塩処理、潤滑処理、シランカップリング処理等がある。なお、この熱処理については、処理条件(温度×時間)は適宜選択できる。また、特にこの熱処理はしなくてもよい。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0057】
実施例及び比較例として、基材、C層、B層、A層をこの順に設けて熱処理を行うことで形成した試料を、以下の表1〜7に示す条件でそれぞれ作製した。
表1に基材の作製条件を、表2にC層の作製条件を、表3にB層の作製条件を、表4にA層の作製条件を、表5に熱処理条件をそれぞれ示す。また、表6(表6−1、表6−2、表6−3)に各実施例で使用した各層の作製条件及び熱処理の条件を、表7に各比較例で使用した各層の作製条件及び熱処理の条件それぞれ示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
【表6-1】
【0064】
【表6-2】
【0065】
【表6-3】
【0066】
【表7】
【0067】
(厚みの測定)
A層、B層、C層の厚みは、A層、B層、C層の元素を有していない基材にそれぞれ表面処理を施し、それぞれ蛍光X線膜厚計(Seiko Instruments製 SFT9500X、コリメータ0.1mmΦ)で実際の厚みを測定した。例えば、Snめっきの場合には、基材がCu−10質量%Sn−0.15質量%Pであると、基材にSnが有しており、正確なSnめっきの厚みがわからないため、Snが基材の組成を有していない、Cu−30質量%Znで厚みを測定した。
【0068】
(付着量の測定)
各試料を硫酸や硝酸等で酸分解し、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析により各金属の付着量を測定した。なお具体的に用いる酸は、それぞれのサンプルを有する組成によって異なる。
【0069】
(組成の決定)
測定した付着量に基づき、各金属の組成を算出した。
【0070】
(層構造の決定)
得られた試料の層構造は、XPS(X線光電子分光)分析による深さ(Depth)プロファイルで決定した。分析した元素は、A層、B層、C層の組成と、C及びOである。これら元素を指定元素とする。また、指定元素の合計を100%として、各元素の濃度(at%)を分析した。XPS(X線光電子分光)分析での厚みは、分析によるチャートの横軸の距離(SiO2換算での距離)に対応する。
また、得られた試料の表面は、XPS(X線光電子分光)分析によるSurvey測定にて定性分析も行った。定性分析の濃度の分解能は0.1at%とした。
XPS装置としては、アルバック・ファイ株式会社製5600MCを用い、到達真空度:5.7×10−9Torr、励起源:単色化AlKα、出力:210W、検出面積:800μmΦ、入射角:45度、取り出し角:45度、中和銃なしとし、以下のスパッタ条件で測定した。
イオン種:Ar
加速電圧:3kV
掃引領域:3mm×3mm
レート:2.8nm/min.(SiO2換算)
【0071】
(評価)
各試料について以下の評価を行った。
【0072】
A.耐微摺動磨耗性
耐微摺動磨耗性は、山崎精機研究所製精密摺動試験装置CRS−G2050型を使用し、摺動距離0.5mm、摺動速度1mm/s、接触荷重1N、摺動回数500往復条件で摺動回数と接触抵抗との関係を評価した。サンプル数は5個とし、各サンプルの最小値から最大値の範囲を採用した。目標とする特性は、摺動回数100回時に接触抵抗が50mΩ以下である。接触抵抗は、<50、50〜200mΩで区分した。
【0073】
B.耐挿抜性
下記の「C.挿抜力」に記載の方法で10回挿抜試験を行い、挿抜試験後の接触抵抗で評価した。目標とする特性は、接触抵抗10mΩ以下である。接触抵抗は、1〜5、2〜7、3〜9、10<mΩで区分した。
【0074】
C.挿抜力
挿抜力は,市販のSnリフローめっきメス端子(090型住友TS/矢崎090IIシリーズメス端子非防水/F090−SMTS)を用いて、実施例及び比較例に係るめっきしたオス端子と挿抜試験することによって評価した。
試験に用いた測定装置は,アイコーエンジニアリング製1311NRであり、オスピンの摺動距離5mmで評価した。サンプル数は5個とし,挿抜力は、挿入力と抜去力が同等であるため、各サンプルの最大挿入力の値を平均した値を採用した。挿抜力のブランク材としては、比較例1のサンプルを採用した。
挿抜力の目標は、比較例1の最大挿抜力と比較して85%未満である。これは、比較例4が比較例1の最大挿入力と比較して90%であり、この比較例4よりも、より大きな挿抜力の減少を目標とした。
【0075】
D.ウィスカ
ウィスカは、JEITA RC−5241の荷重試験(球圧子法)にて評価した。すなわち、各サンプルに対して荷重試験を行い、荷重試験を終えたサンプルをSEM(JEOL社製、型式JSM−5410)にて100〜10000倍の倍率で観察して、ウィスカの発生状況を観察した。荷重試験条件を以下に示す。
球圧子の直径:Φ1mm±0.1mm
試験荷重:2N±0.2N
試験時間:120時間
サンプル数:10
目標とする特性は、長さ20μm以上のウィスカが発生しないことであるが、最大の目標としては、ウィスカが1本も発生しないこととした。
【0076】
E.接触抵抗
接触抵抗は、山崎精機製接点シミュレーターCRS−113−Au型を使用し、接点荷重50gの条件で4端子法にて測定した。サンプル数は5個とし、各サンプルの最小値から最大値の範囲を採用した。目標とする特性は、接触抵抗10mΩ以下である。
【0077】
F.耐熱性
耐熱性は、大気加熱(155℃×500h)試験後のサンプルの接触抵抗を測定し、評価した。目標とする特性は、接触抵抗10mΩ以下であるが、最大の目標としては、接触抵抗が、耐熱性試験前後で変化がない(同等である)こととした。耐熱性は、接触抵抗が1〜3、2〜4、3〜7、10<mΩで区分した。
【0078】
G.耐ガス腐食性
耐ガス腐食性は、下記の試験環境で評価した。耐ガス腐食性の評価は、環境試験を終えた試験後のサンプルの接触抵抗と外観である。目標とする特性は、接触抵抗10mΩ以下で、外観は変色がないことである。しかし接触抵抗の最大の目標としては、耐ガス腐食性試験前後で変化がない(同等である)こととした。耐ガス腐食性は、接触抵抗が1〜3、2〜4、6〜9、10<mΩで区分した。
硫化水素ガス腐食試験
亜硫酸濃度:3ppm
温度:40℃
湿度:80%RH
曝露時間:96h
サンプル数:5個
【0079】
H.はんだ濡れ性
はんだ濡れ性はめっき後のサンプルを評価した。ソルダーチェッカ(レスカ社製SAT−5000)を使用し、フラックスとして市販の25%ロジンメタノールフラックスを用い、メニスコグラフ法にてはんだ濡れ時間を測定した。はんだはSn−3Ag−0.5Cu(250℃)を用いた。サンプル数は5個とし、各サンプルの最小値から最大値の範囲を採用した。目標とする特性は、ゼロクロスタイム5秒(s)以下である。ゼロクロスは、1〜3、5<sで区分した。
【0080】
I.曲げ加工性
曲げ加工性は、W字型の金型を用いて試料の板厚と曲げ半径の比が1となる条件にて90°曲げで評価した。評価は曲げ加工部表面を光学顕微鏡で観察し、クラックが観察されない場合の実用上問題ないと判断した場合には○とし、クラックが認められた場合を×とした。なお、サンプル数は3個とした。
【0081】
J.ビッカース硬さ
最表層(A層)のビッカース硬さは、サンプル表面より荷重980.7mN(Hv0.1)、荷重保持時間15秒で打根を打って測定した。
【0082】
K.押し込み硬さ
最表層(A層)の押し込み硬さは、超微小硬さ試験(エリオニクス製ENT−2100)により、サンプル表面に荷重0.1mNで打根を打って測定した。なお、1試料当たり5回測定した。
【0083】
L.表面粗さ
表面粗さ(算術平均高さ(Ra)及び最大高さ(Rz))の測定は、JIS B 0601に準拠し、非接触式三次元測定装置(三鷹光器社製、形式NH−3)を用いて行った。カットオフは0.25mm、測定長さは1.50mmで、1試料当たり5回測定した。
各条件及び評価結果を表8〜16に示す。
【0084】
【表8】
【0085】
【表9】
【0086】
【表10】
【0087】
【表11】
【0088】
【表12】
【0089】
【表13】
【0090】
【表14】
【0091】
【表15】
【0092】
【表16】
【0093】
実施例1〜76は、耐微摺動磨耗性、耐挿抜性のいずれも優れた電子部品金属材料であった。
比較例1はブランク材である。
比較例2は、比較例1のブランク材のSnめっきを薄くして作製したものであるが、はんだ濡れ性が悪かった。
比較例3は、比較例2と比較して熱処理を施さないで作製したものであるが、挿抜力が目標よりも高かった。
比較例4は、比較例2と比較して中層にCuめっきを施して作製したものであるが、挿抜力は比較例1と比較して90%であった。
比較例5は、比較例4と比較してSnめっきを薄くして作製したものであるが、はんだ濡れ性が悪かった。
比較例6は、比較例5と比較して熱処理を施さないで作製したものであるが、挿抜力が目標よりも高かった。
比較例7は、比較例1のブランク材と比較して下層にCuめっきを施して作製したものであるが、比較例1と特性は変わらなかった。
比較例8は、比較例1のブランク材と比較して下層のNiめっきを厚く施して作製したものであるが、比較例1と特性は変わらなかった。
比較例9〜13は、B層の厚みや付着量が目標よりも薄く,少なかったものであるが、
耐微摺動磨耗性が悪く、耐挿抜性も高かった。
比較例14は、A層の厚みや付着量が目標よりも薄く、少なかったものであるが、耐ガス腐食性が悪く、試験後の外観に変色が確認された。
比較例15は、A層の厚みや付着量が目標よりも厚く、多かったものであるが、A層とB層の関係においてA層の割合が多く、XPS(X線光電子分光)でのDepth測定でA層が目標よりも高い濃度で存在したため、耐微摺動磨耗性が悪かった。
比較例16は、A層の厚みや付着量が目標よりも薄く、少なかったものであるが、耐ガス腐食性が悪く、試験後の外観に変色が確認された。
比較例17は、A層の厚みや付着量が目標よりも厚く、多かったものであるが、A層とB層の関係目標どおりであったもののやはりA層の厚みや付着量が目標よりも厚く、多いために耐微摺動磨耗性が悪かった。
比較例18は、A層の厚みや付着量が目標よりも薄く、少なかったものであるが、耐ガス腐食性が悪く、試験後の外観に変色が確認された。
比較例19は、A層の厚みや付着量が目標よりも厚く、多かったものであるが、A層とB層の関係目標どおりであったもののやはりA層の厚みや付着量が目標よりも厚く、多いために耐微摺動磨耗性が悪かった。また挿抜力も高かった。
比較例20〜22は、B層の厚みや付着量が目標よりも厚く、多かったものであるが、挿入力が高かった。
比較例23は、C層の厚みや付着量が目標よりも薄く、少なかったものであるが、挿入力が高く、耐熱性及びはんだ濡れ性も悪かった。
比較例24は、目標の熱処理よりも時間を長くしたものであるが、はんだが濡れなかった。
比較例25は、目標の熱処理よりも温度を高くしたものであるが、はんだが濡れなかった。
比較例26は、A層の厚みや付着量が目標よりも薄く、少なかったものであるが、XPS(X線光電子分光)でのDepth測定で、前記A層のSnまたはInの原子濃度(at%)の最高値が10at%以下であり、耐ガス腐食性が悪く、硫化水素ガス腐食試験後の接触抵抗が目標を上回った。
比較例27は、B層の厚みや付着量が目標よりも薄く,少なかったものである、XPS(X線光電子分光)でのDepth測定で、前記B層の原子濃度(at%)の最高値が10at%以下であり、耐熱性やはんだ濡れ性が悪かった。
比較例28は、C層の厚みや付着量が目標よりも薄く、少なかったものであるが、挿入力が高く、耐熱性及びはんだ濡れ性も悪かった。
比較例29は、実施例2と比較して、SnとAgのめっき順序を逆にして作製したものであるが、XPS(X線光電子分光)でのDepth測定で前記最表層(A層)のSnまたはInの原子濃度(at%)の最高値を示す位置(D1)、前記中層(B層)のAg,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,OsまたはIrの原子濃度(at%)の最高値を示す位置(D2)がD2、D1の順で存在するため、耐ガス腐食性が悪く、硫化水素ガス腐食試験後の接触抵抗が目標を上回った。
【0094】
また、図2に実施例2に係るXPS(X線光電子分光)のDepth測定結果を示す。図2より、最表からC層が20at%となる範囲においてA層の濃度(at%)<〔B層の濃度(at%)+30〕を満たすことが分かる。
また、A層のSnまたはInの原子濃度(at%)の最高値を示す位置(D1)、B層のAg,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,OsまたはIrの原子濃度(at%)の最高値を示す位置(D2)、C層のNi,Cr,Mn,Fe,CoまたはCuの原子濃度(at%)の最高値を示す位置(D3)が最表面からD1、D2、D3の順で存在し、A層のSnまたはInの原子濃度(at%)の最高値、及び、B層のAg,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,OsまたはIrの原子濃度(at%)の最高値がそれぞれ10at%以上であって、前記C層のNi,Cr,Mn,Fe,CoまたはCuの原子濃度(at%)が25at%以上である深さが50nm以上であることが分かる。
【符号の説明】
【0095】
10 電子部品用金属材料
11 基材
12 C層
13 B層
14 A層
図1
図2