(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記第1開口部と自装置の内部で連通し、かつ、自装置の駆動時に上記第1開口部へ空気を供給する第1電極用空気供給口が装置表面に形成されていることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の静電噴霧装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術には次のような問題がある。
【0005】
一般に、静電噴霧装置は、2つの電極(ピンとキャピラリー)の間に電圧を印加することで両電極間に電場を形成する。このとき、電場はピンの方向に方向付けられているため、噴霧物質は、ピンの方向、つまり、静電噴霧装置の方向に噴霧されやすくなる(以下、この現象をスプレーバックと称する)。スプレーバックによって装置表面が濡れた状態にあると、ユーザは、装置を把持する際に手を濡らすことになる。静電噴霧装置は、芳香油、農産物用化学物質、医薬品、農薬、殺虫剤、空気清浄化薬剤等の噴霧等に用いられることもあるため、装置表面へのスプレーバックは少ない方が好ましい。
【0006】
この点、特許文献1の技術は、装置表面へのスプレーバックを抑制することについては言及していない。
【0007】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、噴霧された物質が装置表面へ付着する割合を低減することが可能な静電噴霧装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る静電噴霧装置は、上記の課題を解決するために、先端から物質を噴霧する第1電極と、上記第1電極との間で電圧が印加される、上記第1電極の近傍に配設される第2電極とを備える静電噴霧装置であって、上記第1電極および上記第2電極はそれぞれ、装置表面に形成された第1開口部および第2開口部の内部に配設されており、上記第2開口部は、噴霧された上記物質が上記装置表面へ付着する割合を低減するように形成されていることを特徴としている。
【0009】
本願発明に係る静電噴霧装置では、第1電極は、第2電極の近傍に配設される。また、第1電極および第2電極はそれぞれ、装置表面に形成された第1開口部および第2開口部の内部に配設されている。そして、第1電極と第2電極との間に電圧が印加されることにより、両電極間に電場が形成される。第1電極からは正帯電(もしくは、負帯電)した液滴が噴霧される。第2電極は、電極近傍の空気をイオン化して、空気を負帯電(もしくは、正帯電)させる。そして、負帯電した空気は、電極間に形成された電場と負帯電された空気粒子間の反発力とによって第2電極から遠ざかる動きをする。この動きが空気の流れ(以下、イオン流と称する場合もある)を生み、このイオン流によって正帯電した液滴が静電噴霧装置から離れる方向へ噴霧される。
【0010】
このとき、電場は第2電極の方向に方向付けられているため、通常であれば、噴霧物質は、第2電極の方向、つまり、静電噴霧装置の方向に噴霧され、噴霧された物質は装置表面へ付着しやすくなる(以下、スプレーバックと称する場合もある)。
【0011】
しかしながら、本発明に係る静電噴霧装置では、第2開口部は、噴霧された上記物質が上記装置表面へ付着する割合を低減するように形成されている。すなわち、第2開口部は、その形状・大きさ等が適宜調整され、それにより、噴霧された上記物質が上記装置表面へ付着する割合が低減されるため、スプレーバックを抑制することができる。また、装置表面への噴霧物質の付着が抑制されることで、ユーザは、静電噴霧装置を把持する際に手を濡らすこともなく、当該装置のポータビリティーを向上させることができる。
【0012】
さらに、第2開口部の形状・大きさを変化させることでイオン流の強さが変化することを利用して、液滴の帯電量、および液滴の大きさを制御することができる。液滴の帯電量、および液滴の大きさは、静電噴霧装置の用途における噴霧物質の効果を決定する重要なファクターとなる。そのため、本発明に係る静電噴霧装置は、スプレーバックを抑制するとともに、さらに、液滴の帯電量、および液滴の大きさを制御することで用途に適した噴霧を実現できるという効果をも奏することができる。
【0013】
また、本発明に係る静電噴霧装置は、上記第2開口部と自装置の内部で連通し、かつ、自装置の駆動時に上記第2開口部へ空気を供給する第2電極用空気供給口が装置表面に形成されている構成であってもよい。
【0014】
第1電極と第2電極との間に電圧が印加されることにより、第2電極においてイオン流が生じる。イオン流が生成されることで第2電極周りの空気圧が低下するため、そこへ空気が流入する。すると、イオン流と流入空気とが入り乱れることでイオン流が乱流となり、この乱流がスプレーバックの一因となりうる。
【0015】
この点、本発明に係る静電噴霧装置は、上記の構成を備えることにより、自装置の駆動時に第2電極用空気供給口から第2開口部へ空気が供給されるため、イオン流を層流にすることができる。これにより、本発明に係る静電噴霧装置は、噴霧された物質を装置表面へ付着しにくくし、スプレーバックを抑制することができる。
【0016】
また、本発明に係る静電噴霧装置では、装置表面は、複数の面からなり、上記第2電極用空気供給口は、上記第1電極および上記第2電極が配設されている面とは異なる面に形成されている構成であってもよい。
【0017】
第1電極および第2電極が配設されている面と同じ面に第2電極用空気供給口が形成されている場合を考える。このとき、イオン流が発生する第2開口部と第2開口部へ空気を供給する第2電極用空気供給口とが同一面内に形成されることになる。これにより、イオン流と流入空気とが入り乱れることでイオン流が乱流となり、この乱流がスプレーバックの一因となりうる。
【0018】
この点、本発明に係る静電噴霧装置は、イオン流が発生する面と空気が供給される面とを別々にすることで、イオン流を層流とすることができる。それゆえ、本発明に係る静電噴霧装置は、噴霧された物質は装置表面へ付着しにくくすることができる。
【0019】
また、本発明に係る静電噴霧装置では、上記第2電極用空気供給口の開口面積は、上記第2開口部の開口面積よりも大きい構成であってもよい。
【0020】
本発明に係る静電噴霧装置は、上記の構成を備えることにより、第2電極用空気供給口から第2開口部へ供給される空気への抵抗を軽減し、第2開口部への空気の流れを円滑にしている。これにより、本発明に係る静電噴霧装置は、イオン流を層流にし、噴霧された物質は装置表面へ付着しにくくすることができる。
【0021】
また、本発明に係る静電噴霧装置は、上記第1開口部と自装置の内部で連通し、かつ、自装置の駆動時に上記第1開口部へ空気を供給する第1電極用空気供給口が装置表面に形成されている構成であってもよい。
【0022】
本発明に係る静電噴霧装置は、上記の構成を備えることにより、物質が噴霧される第1電極回りの第1開口部へ第1電極用空気供給口を介して空気が供給される。これにより、本発明に係る静電噴霧装置は、その空気の流れに第1電極から噴霧された物質を乗せ、噴霧物質を遠くの距離へ噴霧することができる。これにより、本発明に係る静電噴霧装置は、噴霧された物質は装置表面へ付着しにくくすることができる。
【0023】
また、本発明に係る静電噴霧装置では、装置表面は、複数の面からなり、上記第1電極用空気供給口は、上記第1電極および上記第2電極が配設されている面とは異なる面に形成されている構成であってもよい。
【0024】
第1電極および第2電極が配設されている面と同じ面に第1電極用空気供給口が形成される場合を考える。このとき、物質が噴霧される第1電極と第1開口部へ空気を供給する第1電極用空気供給口とが同一面内に形成されることになり、第1開口部回りに乱流が発生し、この乱流がスプレーバックの一因となりうる。
【0025】
この点、本発明に係る静電噴霧装置は、上記の構成を備えることにより、乱流の発生を抑え、噴霧された物質は装置表面へ付着しにくくすることができる。
【0026】
また、本発明に係る静電噴霧装置では、上記第1電極用空気供給口の開口面積は、上記第1開口部の開口面積よりも大きい構成であってもよい。
【0027】
本発明に係る静電噴霧装置は、上記の構成を備えることにより、第1電極用空気供給口から第1開口部へ供給される空気への抵抗を軽減し、第1開口部への空気の流れを円滑にしている。これにより、本発明に係る静電噴霧装置は、物質が噴霧される領域における乱流の発生を抑え、噴霧された物質は装置表面へ付着しにくくすることができる。
【0028】
また、本発明に係る静電噴霧装置は、上記第2電極は針状に形成され、上記第2開口部は環状であり、上記第2開口部の直径は、上記第2電極の胴体部の直径の25倍、および、上記第2電極の先端部の直径の150倍の少なくとも何れかよりも小さい構成であってもよい。
【0029】
また、本発明に係る静電噴霧装置は、上記第2電極は針状に形成され、上記第2開口部は環状であり、上記第2開口部の直径は、上記第2電極の胴体部の直径の5倍〜9倍、あるいは、上記第2電極の先端部の直径の25倍〜45倍である構成であってもよい。
【0030】
本発明に係る静電噴霧装置は、上記の構成を備えることにより、第1電極から噴霧される液滴の大部分をイオン流に乗せることができ、噴霧された物質は装置表面へ付着しにくくすることができる。
【0031】
また、本発明に係る静電噴霧装置では、上記第2開口部は楕円状であり、楕円の短軸は、上記第1電極と上記第2電極とを結ぶ線分に略一致するように位置決めされている構成であってもよい。
【0032】
本発明に係る静電噴霧装置は、上記の構成を備えることにより、第1電極から噴霧される液滴の大部分をイオン流に乗せることができ、噴霧された物質は装置表面へ付着しにくくすることができる。なお、イオン流の強さは、短軸側の楕円形の幅を変化させることにより最適化できる。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る静電噴霧装置は、以上のように、上記第1電極および上記第2電極はそれぞれ、装置表面に形成された第1開口部および第2開口部の内部に配設されており、上記第2開口部は、噴霧された上記物質が上記装置表面へ付着する割合を低減するように形成されている構成である。
【0034】
それゆえ、本発明に係る静電噴霧装置は、噴霧された物質が装置表面へ付着する割合を低減することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照しつつ、本実施の形態に係る静電噴霧装置100等について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付している。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0037】
〔静電噴霧装置の要部構成について〕
まず、静電噴霧装置100の要部構成を
図2により説明する。
図2は、静電噴霧装置100の要部構成を説明するための図である。
【0038】
静電噴霧装置100は、芳香油、農産物用化学物質、医薬品、農薬、殺虫剤、空気清浄化薬剤等の噴霧等に用いられる装置であり、少なくとも、スプレー電極(第1電極)1と、基準電極(第2電極)2と、電源装置3と、誘電体10とを備える。なお、静電噴霧装置100は、電源装置3が外部に設けられ、その電源装置3と接続される構成で実現されてもよい。
【0039】
スプレー電極1は、金属性キャピラリ(例えば、304型ステンレス鋼など)等の導電性導管と、先端部であるスプレー部位とを有する。スプレー電極1は、電源装置3を介して基準電極2と接続され、スプレー部位から噴霧物質を噴霧する。なお、以下の説明では、噴霧物質を単に「液体」と称する。
【0040】
基準電極2は、金属ピン(例えば、304型スチールピンなど)等の導電性ロッドからなる。スプレー電極1および基準電極2は、一定の間隔をあけて離間し、互いに平行に配置されている。また、スプレー電極1および基準電極2は、例えば、互いに8mmの間隔をあけて配置される。
【0041】
電源装置3は、スプレー電極1と基準電極2との間に高電圧を印加する。例えば、電源装置3は、スプレー電極1と基準電極2との間に1−30kVの間の高電圧(例えば、3−7kV)を印加する。高電圧が印加されると電極間に電場が形成され、誘電体10の内部に電気双極子が生じる。このとき、スプレー電極1は正に帯電し、基準電極2は負に帯電する(その逆でもよい)。そして、負の双極子が正のスプレー電極1に最も近い誘電体10の表面に生じ、正の双極子が負の基準電極2に最も近い誘電体10の表面に生じ、帯電したガスおよび物質種が、スプレー電極1および基準電極2によって放出される。
【0042】
誘電体10は、例えばナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66またはポリアセチル−ポリテトラフルオロエチレン混合物などの誘電体材料からなる。誘電体10は、スプレー電極1をスプレー電極取付部6において支持し、基準電極2を基準電極取付部7において支持する。
【0043】
次に、静電噴霧装置100の外観を
図3により説明する。
図3は、静電噴霧装置100の外観を説明するための図である。
【0044】
図示するように、静電噴霧装置100は、直方形状である(その他の形状であってもよい)。その装置の一面に、スプレー電極1および基準電極2が配設されている。図示するように、スプレー電極1は、基準電極2の近傍に位置する。また、スプレー電極1を取り囲むように環状の開口11が、基準電極2を取り囲むように環状の開口12が、それぞれ形成されている。スプレー電極1と基準電極2との間には電圧が印加され、それにより電場が形成される。スプレー電極1からは正帯電した液滴が噴霧される。基準電極2は、電極近傍の空気をイオン化して負帯電させる。そして、負帯電した空気は、電極間に形成された電場と負帯電された空気粒子間の反発力とによって基準電極2から遠ざかる動きをする。この動きが空気の流れ(以下、イオン流と称する場合もある)を生み、このイオン流によって正帯電した液滴が静電噴霧装置100から離れる方向へと噴霧される。
【0045】
〔スプレーバックを抑制するための構成について〕
静電噴霧装置100では、スプレー電極1と基準電極2との間に電圧が印加されることで両電極間に電場が形成される。このとき、電場はピンの方向に方向付けられるため、噴霧された液体は、ピンの方向、つまり、装置の方向に噴霧されやすくなり、噴霧された液体が装置表面へ付着する(以下、このことをスプレーバックと称する)。
【0046】
そこで、スプレーバックを抑制して、イオン流によって正帯電した液滴を装置表面に付着させないことが好ましい。以下、スプレーバックを抑制するための種々の構成を説明する。
【0047】
〔基準電極2周りの開口12の大きさ〕
スプレー電極1と基準電極2との間に電圧が印加されることにより、基準電極2においてイオン流が生じる。イオン流が生成されることで基準電極2周りの空気圧が低下するため、そこへ空気が流入する。すると、イオン流と流入空気とが入り乱れることでイオン流が乱流となり、この乱流がスプレーバックの一因となりうる。そこで、基準電極2周りの開口12の直径や形状を変化させることでスプレーバックを抑制しうると本願発明者らは考察した。
【0048】
なお、以下の検討においては、基準電極2は、その直径が、先端部が0.1mm未満、胴体部が0.5mmのものを用いている。基準電極2の先端部は鋭利であることが好ましく、これにより、負帯電した空気が生じやすくなる。
【0049】
(1)開口12の直径を大きくした場合
開口12の直径を大きくした場合のスプレーバックの発生のしやすさを
図4により説明する。
図4は、開口12の直径を大きくした場合の静電噴霧装置100の正面図である。開口12の直径が大きくなるとイオン流が弱まるため、静電噴霧装置100から液滴が噴霧されにくくなり、スプレーバックが発生しやすくなる。
【0050】
そこで、開口12の直径をどの程度まで大きくできるのか確認したところ、開口12は、その直径が、基準電極2の胴体部の直径よりも25倍以上、あるいは、基準電極2の先端部の直径よりも150倍以上であるとイオン流が弱まり、流入空気が開口12の端部から開口12の内部に侵入しやすくなることが分かった。開口12の内部に空気が侵入するとイオン流が乱流となりやすく、スプレーバックの可能性が高まると言える。
【0051】
換言すれば、開口12は、その直径が、基準電極2の胴体部の直径の25倍、および、基準電極2の先端部の直径の150倍の少なくとも何れかよりも小さくすることで、スプレーバックを生じにくくすることができる。
【0052】
(2)開口12の直径を小さくした場合
開口12の直径を小さくした場合のスプレーバックの発生のしやすさを
図5により説明する。
図5は、開口12の直径を小さくした場合の静電噴霧装置100の正面図である。
【0053】
開口12の直径を小さするとイオン流が強くなるものの、スプレー電極1から垂直方向に噴霧された液滴の一部が基準電極2から生じるイオン流に乗りきれず、それによりスプレーバックが生じうる。そこで、開口12は、その直径が、1.5mm〜12.5mm、つまり、基準電極2の先端部の直径の15倍〜125倍、あるいは、基準電極2の胴体部の直径の3倍〜25倍とすることが好ましい。さらに、開口12は、その直径が、2.5mm〜4.5mm、つまり、基準電極2の先端部の直径の25倍〜45倍、あるいは、基準電極2の胴体部の直径の5倍〜9倍とすることが好ましい。開口12の直径を上記の数値範囲内とすることで、スプレー電極1から噴霧される液滴の大部分をイオン流に乗せることができ、スプレーバックを抑制することができる。
【0054】
〔基準電極2周りの開口12の形状〕
(1)開口12の形状を楕円形にした場合(A)
開口12の形状を楕円形にした場合のスプレーバックの発生のしやすさを
図6により説明する。
図6は、開口12の形状を楕円形にした場合の静電噴霧装置100の正面図である。なお、開口12の楕円形状は、その長軸が、基準電極2とスプレー電極1とを結ぶ線分に略一致するように位置決めされている。
【0055】
図6の構成において、イオン流は弱くなり、加えて、スプレー電極1から垂直方向に噴霧された液滴の一部がイオン流に乗りきらず、図面右側(基準電極2側)へのスプレーバックが発生しやすくなる。
【0056】
そこで、開口12の形状を
図6の楕円形とする場合には、短軸方向の幅を、1.5mm〜12.5mmとすることが好ましい。さらに、短軸方向の幅を、2.5mm〜4.5mm、つまり、基準電極2の先端部の直径の25倍〜45倍、あるいは、基準電極2の胴体部の直径の5倍〜9倍とすることが好ましい。そして、長軸方向の幅は、短軸方向の幅の1.5〜3.5倍とすることが好ましい。これにより、スプレー電極1から噴霧される液滴の大部分をイオン流に乗せることができ、スプレーバックの発生を抑制することができる。
(2)開口12の形状を楕円形にした場合(B)
開口12の形状を楕円形にした場合のスプレーバックについて
図7により説明する。
図7は、開口12の形状を楕円形にした場合の静電噴霧装置100の正面図である。なお、開口12の楕円形状は、その短軸が、基準電極2とスプレー電極1とを結ぶ線分に略一致するように位置決めされている。
【0057】
図7の構成において、イオン流の速度は弱くなる。しかしながら、スプレー電極1から噴霧される液滴の大部分がイオン流に乗り、スプレーバックが抑制される。イオン流の強さは、短軸側の楕円形の幅を変化させることにより最適化される。楕円形のサイズは、
図6を参照して説明した楕円形の長軸・短軸のサイズと同様としてよい。
(3)開口12の形状を楕円形にした場合(C)
開口12の形状を楕円形にした場合のスプレーバックについて
図8により説明する。
図8は、開口12の形状を楕円形にした場合の静電噴霧装置100の正面図である。なお、開口12の楕円形状は、その長軸および短軸が、スプレー電極1と基準電極2とを結ぶ線分に対して角度を有するように位置決めされている。
【0058】
図8に示すように、開口12の楕円形は、スプレー電極1と基準電極2とを結ぶ線分に対して角度を有するように位置決めされてよく、その角度は、適宜変更することができる。すなわち、長軸・短軸の長さは、液滴を静電噴霧装置100から遠ざける方向に噴霧させるために適宜最適化することができる。
【0059】
さらに、開口12は、楕円に限られず、液滴をイオン流に乗せて、液滴を静電噴霧装置100から遠ざける方向に噴霧させる形状、サイズに適宜設計することができる。したがって、
図6〜
図8に示す開口12の楕円形状は、一例であって、これに限られない。
【0060】
以上、基準電極2周りの開口12の直径や形状を変化させることでスプレーバックを抑制する構成を説明した。ただし、静電噴霧装置100は、スプレーバックを抑制するために、次のような構成で実現されてもよい。
【0061】
例えば、静電噴霧装置100を起立させたときに、スプレー電極1と基準電極2とが垂直方向に並ぶ構成、スプレー電極1の両側に2つの基準電極2が配置される構成が考えられる。また、スプレー電極1、および/または、基準電極2の電極形状を変化させる構成、両電極の電荷の正負を逆転させる構成なども考えられる。あるいは、磁場発生手段を用いて液滴を静電噴霧装置100から遠ざける方向に噴霧させる構成も考えられる。
【0062】
〔空気供給用の開口について〕
次に、基準電極2周りの開口12の大きさ、形状を変化させる構成とは別の構成によって、スプレーバックを抑制する構成について説明する。具体的には、基準電極2周りの開口12へ空気を供給することでイオン流を層流にし、それによりスプレーバックを抑制するというものである。そのことを
図9により説明する。
図9は、基準電極2周りの開口12に空気が出入りする様子を説明する図である。図中の矢印は空気の流れを示す。
【0063】
イオン流が発生すると、基準電極2の開口12付近の空気圧が低下するため、その空気圧が低下した領域に空気が入り込む。このとき、空気が供給される領域が開口12付近のみであれば、イオン流が乱流となり、それがスプレーバックの要因となりうる。
【0064】
そこで、本願発明者らは、開口12とは異なる開口を通して開口12へ空気を供給することでイオン流を層流にし、それによりスプレーバックを抑制する方法を検討した。そのことを
図1により説明する。
図1は、静電噴霧装置110が空気供給用の開口(空気供給口)15を有する構成を説明するための図である。図中の矢印は空気の流れを示す。なお、
図3等を用いて説明した内容については、説明を省略する。
【0065】
図示するように、静電噴霧装置110は、開口15を有する。開口15は、スプレー電極1および基準電極2が配設されている表面30に隣接する表面であって、静電噴霧装置110を起立させたときの基準電極2側の側面である表面31に形成されている。開口15は、静電噴霧装置110の内部において、開口12と連通している。
【0066】
静電噴霧装置110は、開口15を有することにより、開口15から開口12への空気の供給経路を確保している。これにより、イオン流が発生することで基準電極2の開口12付近の空気圧が低下した領域へ、開口15から流入した空気が自然に供給される。そして、開口15から流入した空気によってイオン流が層流となり、静電噴霧装置110へのスプレーバックが抑制される。
【0067】
開口15が小さすぎると空気の流れに対する抵抗となり好ましくない。そこで、開口15は、開口12よりも面積が大きいことが望ましく、開口15が環状の場合は、直径は0.6mm以上、楕円径の場合は、短径の直径が0.6mm以上であることが好ましい。これにより、より好適にスプレーバックが抑制される。
【0068】
なお、開口15は、
図1に示す表面31に形成されている必要はなく、静電噴霧装置110を起立させたときの、静電噴霧装置110の上面、背面、もしくは静電噴霧装置110における表面31の対向面に形成されてもよい。また、開口15の形状は、特に限定されず、環状、矩形状等であってよい。
【0069】
〔スプレーバックの抑制効果について〕
次に、上述した種々の構成によって得られる効果を図面を用いて説明する。
【0070】
(基準電極2周りの開口12の大きさを変化させたときの効果)
基準電極2周りの開口12の大きさを変化させたときの効果を
図10、
図11により説明する。
図10は、
図7に示す楕円形の開口12を用いたときの液滴の流れを説明する図である。
図11は、
図4に示す直径の大きい開口12を用いたときの液滴の流れを説明する図である。なお、
図10および
図11は、静電噴霧装置を起立させたときの、運転中の当該静電噴霧装置を上面からハイスピードカメラにより撮影した写真である。また、図中、液滴の噴霧される方向に沿って破線が記載されており、その破線と表面30とのなす角度が、大きければイオン流は強く、小さければイオン流が弱いことを示す。このことは、後述する
図12等においても同様である。
【0071】
図10および
図11を比較すると、破線と表面30とがなす角度は、
図10の方が
図11よりも大きい。これは、
図10の楕円形の開口は、
図11の直径を大きくした開口よりも面積が小さいことからイオン流の速度が速いことに起因する。この結果から、開口12の面積の大小に応じてイオン流の速度に変化をもたらすことが可能であることが見て取れる。
【0072】
(空気供給用の開口15による効果について)
空気供給用の開口15による効果を
図12、
図13により説明する。
図12は、
図5に示す円形の開口12を用いたときの液滴の流れを説明する図である。
図13は、
図5に示す円形の開口12を用い、かつ、
図1に示す開口15を用いたときの液滴の流れを説明する図である。
【0073】
静電噴霧装置100に空気供給用の開口15が形成されていない
図12の場合、開口12の面積が小さいことからイオン流の速度は強くなるものの、
図12に示すように、イオン流は乱流となり、噴霧される液滴が渦巻くことがある。
【0074】
一方、開口15を有する静電噴霧装置110を示す
図13の場合、開口12の面積が小さいことでイオン流が強くなるものの、開口15から供給される空気によってイオン流が層流に保たれる。これにより、スプレーバックの抑制効果をさらに高めることができる。
【0075】
ここで、
図5に示す円形の開口12を用い、かつ、
図1に示す開口15を用いた場合において、開口15にスモークを送り、そのスモークの流れを見ることでイオン流による効果を確認する。
図14は、空気供給用の開口15にスモークを供給した直後の様子を示す図である。
図15は、空気供給用の開口15にスモークを供給して暫く時間が経過した後の様子を示す図である。
【0076】
図14は、空気供給用の開口15にスモークを供給した直後の様子を示し、基準電極2周りの開口12からスモークが現れ始めている。なお、開口12は直径4mmの環状であり、開口15は一辺7.5mmの正方形である。
図15は、空気供給用の開口15にスモークを供給して暫く時間が経過した後の様子を示し、スモークが正帯電された液滴を捕えている様子を示す。各図に示すように、開口15から開口12へ空気を供給することで、イオン流が層流になり、この効果として、静電噴霧装置110へのスプレーバックを抑制することができる。
【0077】
ここで、スプレーバックの抑制効果を
図16により説明する。
図16は、
図6に示す楕円形の開口12を用いた場合におけるスプレーバックの様子を説明するための図である。なお、楕円形の開口12のサイズは、長軸方向の長さ10mm、短軸方向の長さ4mmである。また、基準電極2は、電気伝導体13に接続し、図示しない電源装置から電気伝導体13を介して電圧が印加される。
【0078】
また、スプレーバックの抑制効果を比較する対象として
図17を示す。
図17は、
図4に示す、開口12の直径が大きい場合におけるスプレーバックの様子を説明するための図である。ただし、開口12は、環状ではなく、12.5mm×15mmの矩形としている。
図16、
図17の何れにおいても期間1日の噴霧試験を行い、それぞれ外気に露出させた電気伝導体13に付着する液滴の量を比較した。
【0079】
その結果、
図16では電気伝導体13への液滴の付着が認められなかったのに対して、
図17では電気伝導体13への液滴の付着が認められた(
図17において、電気伝導体13が白く反射しており、このことが、電気伝導体13に液滴が付着していることを示す)。つまり、楕円形の開口12を用いることによって、開口12の直径が大きい場合よりもスプレーバックの抑制効果を顕著に高められることが分かった。
【0080】
このように、スプレーバックを抑制するためには種々の方法を採用することができ、基準電極2周りの開口12の大きさや形状を変化させる方法、開口15から開口12へ空気供給を行う方法、および、それらの方法を適宜組み合わせなど、種々の方法によりスプレーバックを抑制することができる。これらの方法は、装置本体を大幅に設計変更することなく実現でき、しかも低コストで実現できるという効果も奏する。
【0081】
〔液滴の帯電量、および液滴の大きさについて〕
〔基準電極2周りの開口12の大きさ〕
液滴の帯電量、および液滴の大きさを制御する方法を
図18により説明する。
図18は、液滴の帯電量、および液滴の大きさを制御する第1の方法を説明するための図である。
【0082】
第1の方法は、基準電極2周りの開口12の大きさに応じて変化するイオン流の強さによって液滴の帯電量、および液滴の大きさを制御する方法である。その効果を確かめるために、2タイプの静電噴霧装置100a、および静電噴霧装置100bによる確認試験を行った。
【0083】
静電噴霧装置100aは、基準電極2周りの開口12の直径が、基準電極2の先端部の直径(0.1mm)の125倍に設定されている。静電噴霧装置100bは、基準電極2周りの開口12の直径が、基準電極2の先端部の直径(0.1mm)の40倍に設定されている。つまり、静電噴霧装置100aは、静電噴霧装置100bよりも開口12の直径が大きく設定されている。この2タイプの静電噴霧装置において、それぞれ液滴の帯電量、および液滴の大きさを比較した。その結果を
図19、
図20に示す。
【0084】
図19は、基準電極2周りの開口12の直径が異なる場合の粒子径を示す図である。横軸は液滴の直径(μm)を、縦軸は液滴数を示す。
図20は、基準電極2周りの開口12の直径が異なる場合の帯電量を示す図である。横軸はサンプリング時間(秒)を、縦軸は電流値(fA)を示す。
【0085】
図20に示すように、開口12の直径が小さい方(小さい開口)が、直径の大きい(大きい開口)よりも液滴の直径の小さい割合が高くなった。また、
図20に示すように、開口12の直径が小さい方(小さい開口)が、直径の大きい(大きい開口)よりも帯電量が多かった。この結果の背景として、次の理由が考えられる。
【0086】
静電噴霧装置では、液滴は帯電(チャージ)されており、その液滴が蒸発するほどに液体の体積当たりの帯電量は強くなる。そしてチャージが強くなると、クーロン力によって液滴が複数の液滴に分裂する。つまり、液滴の帯電量が大きい液滴は小さくなるのが早い。
【0087】
この点、静電噴霧装置100aは、静電噴霧装置100bよりも開口12の直径が大きい。したがって、静電噴霧装置100aでは基準電極2周りの開口12で生成されるイオン流が弱くなり、液滴の滞留時間が長くなる。それにより、静電噴霧装置100aでは、静電噴霧装置100bよりも正帯電した液滴と負帯電した空気との中和が進みやすい。そのため、静電噴霧装置100aでは、静電噴霧装置100bよりも、液滴の帯電量が少なく(
図20)、それゆえ、液滴が大きくなりやすい(
図19)。
【0088】
なお、
図20の各実線の上下にはグレー領域が記載されている。これは、サンプリング時間ごとの電流値の変位を示しており、上記各実線は、その平均値を示す。このことは、後述する
図23についても同様である。
【0089】
〔空気供給用の開口15による影響について〕
液滴の帯電量、および液滴の大きさを制御する方法を
図21により説明する。
図21は、液滴の帯電量、および液滴の大きさを制御する第2の方法を説明するための図である。
【0090】
第2の方法は、開口15の存否に応じて変化するイオン流の性質(乱流、層流)によって液滴の帯電量、および液滴の大きさを制御する方法である。その効果を確かめるために、2タイプの静電噴霧装置100a、および静電噴霧装置110aを用いた。静電噴霧装置100aは、
図18に示す静電噴霧装置100aと同一の装置である。静電噴霧装置110aは、
図1に示す静電噴霧装置110において2つの開口15が互いに対向して形成された装置である。その2つの開口は、
図21において開口15a・15bと参照番号が付されている。なお、それぞれの開口は、10mm×10mmである。
【0091】
静電噴霧装置100aでは、
図4を用いて説明したように、基準電極2周りの開口12で生成されるイオン流が乱流となりやすい。一方、静電噴霧装置110aは、2つの開口15a、および開口15bから供給される空気により、イオン流が層流になりやすい。この2つの静電噴霧装置において、それぞれ液滴の帯電量、および液滴の大きさを比較した。その結果を
図22、
図23に示す。
【0092】
図22は、開口15の有無ごとの粒子径を示す図である。横軸は液滴の直径(μm)を、縦軸は液滴数を示す。
図23は、開口の有無ごとの帯電量を示す図である。横軸はサンプリング時間(秒)を、縦軸は電流値(fA)を示す。
【0093】
図22に示すように、静電噴霧装置110a(開口有り)の方が静電噴霧装置100a(開口無し)よりも液滴が小さい。また、
図23に示すように、静電噴霧装置100a(開口無し)の方が帯電量が少ない。その理由としては以下の点が考えられる。
【0094】
上述したように、静電噴霧装置では、液滴は帯電(チャージ)されており、その液滴が蒸発するほどに液体の体積あたりの帯電量は強くなる。そしてチャージが強くなると、クーロン力によって液滴が複数の液滴に分裂する。つまり、液滴の帯電量が大きい液滴は、そのサイズが小さくなるのが早い。
【0095】
この点、静電噴霧装置100aは、イオン流が乱流となりやすく、イオン流が層流となる静電噴霧装置110aよりも正帯電した液滴と負帯電した空気との中和が進みやすい。そのため、静電噴霧装置100aは、静電噴霧装置110aよりも、液滴の帯電量が少なく(
図23)、それゆえ、液滴が大きくなりやすい(
図22)。
【0096】
また、静電噴霧装置が開口15を有することにより、イオン流が層流となり、
図22に示すように液滴の粒子径分布が左側(小径側)に移動する。静電噴霧装置110aでは、静電噴霧装置100aよりも小径の液滴が3倍増となる。また、静電噴霧装置100aでは平均粒子径が1.2μmであるところ、静電噴霧装置110aでは、平均粒子径が0.77μmとなる。さらに、静電噴霧装置110aでは、液滴の帯電量は大幅に増加する。
図23に示すように、静電噴霧装置110aでは、静電噴霧装置100aよりも電流値が3倍となる。
【0097】
以上、
図18〜
図23により説明したように、基準電極2周りの開口12の大きさを調整し、また、静電噴霧装置が開口15を有するかどうかにより、液滴の大きさ、および液滴の帯電量を制御することができる。これにより、芳香目的、殺虫目的などの用途に応じた好適な噴霧を実現することができる。加えて、基準電極2周りの開口12の大きさを調整し、また、開口15を有することによりスプレーバックも抑制することができるため、液滴の大きさ、および液滴の帯電量を制御しつつ、スプレーバックの抑制も併せて実現することができる。
【0098】
以上、本実施の形態に係る静電噴霧装置の種々の形態を説明した。これらの形態は、本実施の形態の一例を示すものであって、ここで説明した形態を組み合わせることも当然に可能である。
【0099】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。