(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
(第1実施形態、集束イオンビーム装置)
図1は、実施形態に係る集束イオンビーム装置の概略構成図である。荷電粒子ビーム装置である集束イオンビーム装置(FIB)1は、試料Mに荷電粒子ビームであるイオンビームIを照射することによって、試料Mの表面の加工等を行うものである。例えばウエハを試料Mとして配置し、TEM(透過型電子顕微鏡)観察用の試料を作製することが可能であり、あるいは、フォトリソグラフィ技術におけるフォトマスクを試料Mとして、フォトマスクを修正することなどが可能である。以下、本実施形態における集束イオンビーム装置1の詳細について説明する。
【0016】
図1に示すように、集束イオンビーム装置1は、試料Mが収容される真空チャンバー3と、試料Mに対してイオンビームIを照射するイオンビーム鏡筒6とを備えている。
真空チャンバー3には、試料Mが載置される試料台2と、試料Mから放出された二次電子を検出する二次電子検出器4と、試料Mの表面に加工用ガスを供給するガス銃5とが設けられている。試料台2は、3軸ステージ(不図示)により試料Mを各方向に移動させることができる。また試料台2には、後述する集束電圧設定処理で使用するファラデーカップ(不図示)が設けられている。二次電子検出器4は、イオンビームIの照射により試料Mから放出された2次電子を検出して、試料Mの状態観察を可能にする。ガス銃5は、試料Mの加工内容に応じて、エッチング用ガスやデポジション用ガスを供給する。なお真空チャンバー3には真空ポンプ(不図示)が接続されていて、内部3aを高真空雰囲気まで排気可能である。
【0017】
イオンビーム鏡筒6は、先端側に真空チャンバー3と連通する照射口7が形成された筒体8を備えている。筒体8の内部8aには、基端側から先端側にかけて順番に、イオンを供給してイオンビームIを発生させるイオン源10と、イオンビームIの状態を制御するイオンビーム光学系とが配置されている。イオンビーム光学系として、筒体8の基端側から先端側にかけて順番に、イオンビームIを集束させる集束レンズ20と、イオンビームIを絞るアパーチャ30と、イオンビームIを試料Mに合焦(フォーカス)する対物レンズ40とが配置されている。
【0018】
イオン源10は、例えばガリウムイオン(Ga
+)などのイオンを供給する。イオン源10は、加速電圧電源10aに接続されている。
集束レンズ(コンデンサレンズ:CL)20は、イオンビームIが通過する貫通孔を備えた3枚の電極を、イオンビームIの照射経路に沿って配置したものである。3枚の電極として、筒体8の基端側から先端側にかけて順番に、入射側電極22、中間電極24および出射側電極26が配置されている。
【0019】
(バイポテンシャルレンズ)
本実施形態では、集束レンズ20としてバイポテンシャルレンズが採用されている。
図2は、バイポテンシャルレンズの説明図である。バイポテンシャルレンズでは、イオン源10と集束レンズ20の入射側電極22との間に引出電圧電源22aが接続されている。この引出電圧電源22aで引出電圧を印加することにより、イオン源10からイオンを引き出してイオンビームIを発生させることができる。また、中間電極24には集束電圧電源24aが接続されている。この集束電圧電源24aで集束電圧を印加することにより、発散状態のイオンビームIを略平行に集束させることができる。一方、出射側電極26は接地されている。なお上述したように、イオン源10は加速電圧電源10aに接続されている。この加速電圧電源10aで加速電圧を印加することにより、イオンビームIを加速させることができる。
【0020】
図1に戻り、アパーチャ30は、所定の絞り径の開口が形成された平板部材である。本実施形態では、絞り径の異なる複数種類のアパーチャ30を備えている。アパーチャ30を交換することにより、試料Mに照射されるイオンビームIのビーム電流(イオンビーム電流)およびビーム径(イオンビーム径)を変更することができる。
【0021】
対物レンズ40は、集束レンズ20と同様に、イオンビームIが通過する貫通孔を備えた3枚の電極を、イオンビームIの照射経路に沿って配置したものである。3枚の電極として、筒体8の基端側から先端側にかけて順番に、入射側電極42、中間電極44および出射側電極46が配置されている。対物レンズ40として、アインツェルレンズが採用されている。アインツェルレンズでは、入射側電極42および出射側電極46が接地され、中間電極44に対物電圧電源44aが接続されている。この対物電圧電源44aで対物電圧を印加することにより、イオンビームIを試料Mに合焦することができる。
【0022】
集束イオンビーム装置1は、パーソナルコンピュータ等の制御端末50を備えている。制御端末50は、集束イオンビーム装置1の各部の動作を制御するものである。
試料Mの加工レートや加工精度は、イオンビームIのビーム電流やビーム径などに依存する。イオンビームIのビーム電流やビーム径は、アパーチャ30の絞り径や集束電圧の大きさ等によって決まる。そこで制御端末50は、オペレータの指示に基づいて、アパーチャ制御部30cを制御してアパーチャ30の種類(絞り径)を選択するとともに、集束電圧電源24aを制御して集束電圧を設定する。
【0023】
図3は、ビーム電流とビーム径との関係を示すグラフである。アパーチャ30の種類を選択して集束電圧の大きさを変化させた場合、集束電圧の絶対値が大きいほどビーム電流が大きくなり、あるビーム電流でビーム径が極小となる。例えば
図3では、アパーチャ(AP)として後述する#1を選択した場合に、ビーム電流A
10でビーム径が極小となる。このように、ビーム径が極小となる基準ビーム電流で集束イオンビーム装置1を使用するのが一般的である。
なおビーム電流が大きいイオンビームIは、ガス銃5から供給された加工用ガスを飛散させ、十分なガスアシスト効果が得られない恐れがある。そこで、ビーム径が極小となる基準ビーム電流(例えば
図3のA
10)よりも小さいビーム電流(例えば
図3のA
11)をユーザーが設定して、集束イオンビーム装置1を使用する場合もある。
【0024】
ところで、イオン源10および集束レンズ20は、長時間の使用により劣化するため、定期的に交換する必要がある。イオン源10および集束レンズ20の少なくとも一方を交換すると、両者間の距離が変化する。なおイオン源10の交換前でも、長時間の使用によりイオン源10の針先形状が変化して、両者間の距離が変化する場合がある。このような両者間の距離の変化に起因して、イオンビームIの発生が不安定になることがある。イオンビームIの発生を安定化させるためには、両者間の距離に応じて引出電圧を変更する必要がある。そこで制御端末50は、引出電圧電源22aを制御して、引出電圧を設定する。
【0025】
ところが、本実施形態では集束レンズ20としてバイポテンシャルレンズを採用している。バイポテンシャルレンズの入射側電極22は、引出電極として機能するとともに、集束レンズ20の一部としても機能する。そのため引出電圧を変更すると、レンズ電界が変化してイオンビームIの集束状態が変化する。これにより、イオンビームIのビーム電流も変化することになる。所望のビーム電流を得るためには、引出電圧の大きさおよびアパーチャの種類ごとに、集束電圧を設定する必要がある。
本実施形態の制御端末50は、集束電圧を設定するための集束電圧テーブルを備えている。集束電圧テーブルには、引出電圧の大きさおよびアパーチャの種類ごとに、集束電圧の設定値が記録されている。以下、集束電圧テーブルについて詳述する。
【0026】
(集束電圧テーブル)
図4は、集束電圧テーブルの説明図である。集束電圧テーブルは、引出電圧ごとに記録されている。例えば
図4の集束電圧テーブルでは、引出電圧が6.9kVの場合と7.0kVの場合とが記録されている。集束電圧テーブルには、引出電圧ごとに、各アパーチャ(AP)#1−#5について、集束電圧の計算値、設定値および補正値が記録されている。
【0027】
アパーチャ30の種類として、集束イオンビーム装置1が備える全てのアパーチャ30が記録されている。例えば
図4では、絞り径が大きい方から順番に、#1から#5まで5種類のアパーチャが記録されている。各アパーチャ30について、ビーム径が極小となる基準ビーム電流が記録されている。例えば
図4では、アパーチャ#1の基準ビーム電流として、上述したA
10が記録されている。
【0028】
集束電圧の計算値は、特定の引出電圧およびアパーチャ30について、基準ビーム電流が得られる集束電圧を、予め計算式によって求めたものである。集束電圧の設定値は、特定の引出電圧およびアパーチャ30について、基準ビーム電流が得られるように実機上で設定すべき集束電圧である。一般に、イオン源10と集束レンズ20との距離は、設計値から寸法誤差によりずれる。そのため、集束電圧の計算値から設定値がずれることになる。また、集束レンズ制御信号がオフセットした場合にも、集束電圧の計算値から設定値がずれることになる。集束電圧の補正値は、計算値と設定値との差(ずれ量)である。例えば
図4では、引出電圧6.9kVのときアパーチャ#1について、計算値−17.9kV、設定値−17.53kV、および補正値0.37kVが記録されている。
【0029】
図1に示す制御端末50は、イオン源10および集束レンズ20のうち少なくとも一方が交換された場合に、後述する集束電圧設定処理を実施して、上述した集束電圧テーブルを更新するとともに集束電圧を設定する。また制御端末50は、引出電圧が再設定された場合に、後述する集束電圧調整処理を実施して、集束電圧を再設定する。なお、制御端末50のメモリーには、集束電圧設定処理および集束電圧調整処理を実施するプログラムが記録されており、このプログラムを実行することで集束電圧設定処理および集束電圧調整処理を実施する。以下、集束電圧設定処理および集束電圧調整処理を含むイオンビーム光学系の調整方法について説明する。
【0030】
(イオンビーム光学系の調整方法)
図5は第1実施形態に係るイオンビーム光学系の調整方法のフローチャートである。
図6(a)は集束電圧設定処理サブルーチンのフローチャートであり、
図6(b)は集束電圧調整処理サブルーチンのフローチャートである。
図7は集束電圧設定処理における制御端末の表示画面であり、
図8は集束電圧調整処理における制御端末の表示画面である。
【0031】
図5において、イオン源10および集束レンズ20のうち少なくとも一方が交換されたか判断する(S2)。S2の判断がYesの場合は、イオン源10と集束レンズ20との距離が従前から変化している可能性が高い。この場合には、集束電圧の計算値に対する設定値のずれ量も、従前から変化することになる。そこで、集束電圧テーブルを更新し集束電圧を再設定するため、S10に進んで集束電圧設定処理を実施する。
【0032】
(集束電圧設定処理)
図6(a)に示す集束電圧設定処理(S10)は、制御端末50のメモリーに記録された集束電圧設定処理プログラムを実行することで開始する。
集束電圧設定処理プログラムを実行すると、制御端末50のディスプレイに
図7の画面60が表示される。画面中でスタートボタン62を押下げると、集束イオンビーム装置1の試料台2が移動して、試料台2に形成されたファラデーカップがイオンビーム鏡筒6の照射口7に対向配置される。画面中のモニタ部60aには、ファラデーカップ近傍の走査イオン顕微鏡像が表示される。
【0033】
また、画面中でのスタートボタン62の押下げに連動して、制御端末50は引出電圧の値を読み込む(S12)。ここでは、引出電圧が6.9kVの場合を例にして説明する。また制御端末50は、基準アパーチャを選択してセットする(S14)。基準アパーチャとして、何れのアパーチャを選択することも可能であるが、ここではアパーチャ#1を選択した場合を例にして説明する。この場合、ビーム径が極小となる基準ビーム電流はA
10である(
図3および
図4参照)。
【0034】
次に、ビーム電流の調整を行う(S16)。具体的には、
図7に示す画面中で計測ボタン64を押下げる。これにより、イオンビーム鏡筒6からファラデーカップに向かってイオンビームIが照射され、ファラデーカップによりビーム電流が計測される。計測されたビーム電流は、画面中のビーム電流表示部66に表示される。画面中には集束電圧調整ボタン65が設けられている。集束イオンビーム装置1のオペレータは、この集束電圧調整ボタン65を使用して集束電圧を増減させることで、ビーム電流を調整する。そして本実施形態では、ビーム電流を基準ビーム電流A
10に略一致させる。なお画面中のモニタ部60aには、ファラデーカップ近傍の走査イオン顕微鏡像が表示される。
【0035】
次に、集束電圧テーブルを更新(または新規作成)する(S18)。具体的には、画面中で設定ボタン67を押下げる。すると、ビーム電流が基準ビーム電流A
10に略一致した時点での集束電圧が、集束電圧の実験値として記録される。
図4に示す集束電圧テーブルには、予め各引出電圧および各アパーチャ30について集束電圧の計算値が記録されている。例えば、引出電圧6.9kVでアパーチャ#1の場合には、集束電圧の計算値として−17.9kVが記録されている。ここで画面中の設定ボタン67の押下げにより、集束電圧の実験値として−17.53kVが設定値の欄に記録される。これと同時に、集束電圧の実験値から計算値が減算され、集束電圧の補正値として0.37kVが記録される。
【0036】
集束電圧の計算値からの設定値のずれは、イオン源10と集束レンズ20との距離が設計値から寸法誤差によりずれることや、集束レンズ制御信号のオフセット等で発生する。イオン源10と集束レンズ20との寸法誤差や制御信号のオフセットは、アパーチャ30の種類によらず一定であるから、集束電圧の計算値からの設定値のずれ量である補正値も、アパーチャ30の種類によらず一定になる。そこで
図4に示す集束電圧テーブルでは、引出電圧6.9kVの全てのアパーチャ#1−#5について、集束電圧の補正値として0.37を記録する。さらに本実施形態では、他の引出電圧(例えば7.0kV)の全てのアパーチャ#1−#5についても、集束電圧の補正値として0.37を記録する。そして、全ての引出電圧および全てのアパーチャ30について、集束電圧の計算値に補正値を加算して集束電圧の設定値を求め、集束電圧テーブルに記録する。以上により、集束電圧テーブルが更新される。
【0037】
次に、各アパーチャ30の集束電圧を設定する(S20)。具体的には、アパーチャ30を交換したとき自動的に集束電圧が設定されるように、アパーチャ30と集束電圧の設定値との対応付けを行う。
以上により、集束電圧設定処理が完了する。
【0038】
図5に戻り、S2の判断がNoの場合はS4に進み、引出電圧が再設定されたか判断する(S4)。イオン源10を長時間使用してイオンビームIの発生が不安定になった場合には、イオンビームIの発生を安定化させるため引出電圧の再設定が必要になる。引出電圧が再設定された場合は、基準ビーム電流が得られる集束電圧の大きさも変化することになる。そこで集束電圧を調整するため、S30に進んで集束電圧調整処理を実施する。
【0039】
(集束電圧調整処理)
集束電圧調整処理(S30)は、制御端末50のメモリーに記録された集束電圧調整処理プログラムを実行することで開始する。
集束電圧調整処理プログラムを実行すると、制御端末50のディスプレイに
図8の画面80が表示される。画面中でスタートボタン81を押下げると、制御端末50は引出電圧の値を読み込む(S32)。次に、画面中で設定ボタン82を押下げると、制御端末50は各アパーチャ30の集束電圧を再設定する(S34)。具体的には、制御端末50が集束電圧テーブルを参照し、当該引出電圧の各アパーチャ30に対応する集束電圧の設定値を読み出す。そして、アパーチャ30を交換したとき自動的に集束電圧が設定されるように、アパーチャ30と集束電圧の設定値との対応付けを行う。
以上により、集束電圧調整処理が完了する。
【0040】
以上に詳述したように、本実施形態では、
図4の集束電圧テーブルを作成する際に、全てのアパーチャ#1−#5について基準ビーム電流A
10−A
50が得られる集束電圧の計算値を、予め集束電圧テーブルに記録しておき、基準アパーチャ#1について基準ビーム電流A
10が得られる集束電圧の実験値を求め、その実験値から、基準アパーチャ#1について記録された計算値を減算して、集束電圧の補正値を求め、全てのアパーチャ#1−#5について記録された計算値に、それぞれ補正値を加算して、集束電圧の設定値を求め、集束電圧テーブルに記録する構成とした。
集束電圧の計算値からの実験値のずれは、イオン源10と集束レンズ20との距離が設計値から寸法誤差によりずれることや、集束レンズ制御信号のオフセット等で発生する。イオン源10と集束レンズ20との寸法誤差や制御信号のオフセットは、アパーチャ30の種類によらず一定であるから、集束電圧の計算値と実験値とのずれ量である補正値も、アパーチャ30の種類によらず一定になる。
そこで、全てのアパーチャ#1−#5について記録された計算値に、それぞれ補正値を加算して集束電圧の設定値を求め、集束電圧テーブルに記録する構成とした。これにより、基準アパーチャ#1のみについて基準ビーム電流A
10が得られる集束電圧の実験値を求めるだけで、他のアパーチャについて集束電圧の設定値を求めることができる。したがって、集束電圧テーブルを簡単かつ精度良く作成することができる。この集束電圧テーブルに基づいて集束電圧を設定することにより、集束電圧の設定を簡単かつ精度良く実施することができる。なお、集束電圧の計算値をそのまま設定値とする場合に比べて、本実施形態では集束電圧の実験値から補正値を求めて設定値を算出するので、基準ビーム電流を精度良く得ることができる。
【0041】
また本実施形態では、
図4の集束電圧テーブルを作成する際に、特定の引出電圧において基準アパーチャ#1について求めた補正値を、特定引出電圧とは異なる引出電圧において全てのアパーチャ#1−#5について記録された計算値に、それぞれ加算して集束電圧の設定値を求め、集束電圧テーブルに記録する構成とした。
これにより、特定の引出電圧において基準アパーチャ#1のみについて集束電圧の実験値を求めるだけで、全ての引出電圧において全てのアパーチャ#1−#5について集束電圧の設定値を求めることができる。したがって、集束電圧テーブルを極めて簡単に作成することができる。
【0042】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る集束イオンビーム装置およびイオンビーム光学系の調整方法について説明する。
第1実施形態では、特定の引出電圧において求めた補正値を、異なる引出電圧において記録された計算値に加算して、集束電圧の設定値を求めた。これに対して第2実施形態では、引出電圧ごとに求めた補正値を、引出電圧ごとに記録された計算値に加算して、集束電圧の設定値を求める点で異なっている。なお第1実施形態と同様の構成となる部分については、その詳細な説明を省略する。
【0043】
第1実施形態で述べたように、イオン源10を長時間使用してイオンビームIの発生が不安定になった場合には、イオンビームIの発生を安定化させるため引出電圧の再設定が必要になる。ここで、イオンビームIの発生が不安定になった場合には、イオン源10の針先形状が長時間使用により変化していると考えられる。この場合には、イオン源10と集束レンズ20との距離が、従前から変化していると考えられるため、集束電圧の計算値からの設定値のずれ量(補正値の大きさ)も、従前から変化していると考えられる。なお、イオン源10の長時間使用による針先形状の変化は僅かであるから、第1実施形態では補正値の変化量が十分に小さいとみなして、全ての引出電圧において同じ補正値を適用して集束電圧の設定値を求めた。これに対して第2実施形態では、補正値の変化量を厳格に判断し、引出電圧ごとに異なる補正値を適用して集束電圧の設定値を求める。
【0044】
図4に示す第1実施形態の集束電圧テーブルでは、引出電圧が6.9kVおよび7.0kVの両方の場合において、補正値として0.37kVを適用した。
図9は、第2実施形態の集束電圧テーブルの説明図である。第2実施形態の集束電圧テーブルでは、引出電圧が6.9kVの場合には補正値として0.37kVを適用し、引出電圧が7.0kVの場合には補正値として0.4kVを適用している。
【0045】
図10は、第2実施形態に係るイオンビーム光学系の調整方法のフローチャートである。まずS6において、引出電圧が再設定されたか判断する。S6の判断がNoの場合は、集束電圧を再設定する必要がないので処理を終了する。なお、イオン源10または集束レンズ20が交換された場合には、当然に引出電圧が再設定されるから、S6の判断はYesになる。S6の判断がYesの場合はS8に進む。
【0046】
S8では、再設定された引出電圧における集束電圧の設定値が、既に集束電圧テーブルに記録されているか判断する。なお、イオン源10または集束レンズ20が交換された場合には、集束電圧テーブルの更新が必要になるから、S8の判断はNoになる。S8の判断がNoの場合は、その引出電圧における集束電圧の設定値を求める必要があるため、S10に進んで集束電圧設定処理を行う。
【0047】
図6(a)に示す集束電圧設定処理は、第1実施形態と同様に
図7の画面に沿って実施する。まず、引出電圧の値を読み込む(S12)。ここでは引出電圧が7.0kVの場合を例にして説明する。次に、基準アパーチャを選択してセットする(S14)。ここではアパーチャ#1を選択した場合を例にして説明する。
図9に示す集束電圧テーブルには、予め全ての引出電圧および全てのアパーチャ30について集束電圧の計算値が記録されている。例えば
図9では、引出電圧7.0kVのアパーチャ#1について、計算値として−18.5kVが記録されている。
【0048】
次に、ビーム電流の調整を行い(S16)、集束電圧テーブルを更新する(S18)。これにより、引出電圧7.0kVのアパーチャ#1について、集束電圧の実験値として−18.1kVが設定値の欄に記録される。これと同時に、実験値から計算値が減算され、集束電圧の補正値として0.4kVが記録される。次に、集束電圧テーブルの引出電圧7.0kVのみにつき、全てのアパーチャ#1−5について、補正値として0.4kVを記録する。次に、引出電圧7.0kVのみにつき、全てのアパーチャ#1−5について、計算値に補正値を加算して集束電圧の設定値を求め、集束電圧テーブルに記録する。以上により、集束電圧テーブルが更新される。その後、各アパーチャ30の集束電圧を設定し(S20)、集束電圧設定処理を完了する。
【0049】
図10に戻り、S8の判断がYesの場合は、集束電圧テーブルを参照して集束電圧の再設定が可能であるため、S30に進んで集束電圧調整処理を行う。集束電圧調整処理の具体的な内容は第1実施形態と同様である。
【0050】
以上に詳述したように、本実施形態では、制御端末50が、引出電圧ごとに基準アパーチャ#1について実験値を求め、引出電圧ごとに実験値から基準アパーチャ#1について記録された計算値を減算して補正値を求め、引出電圧ごとに全てのアパーチャ#1−#5について記録された計算値にそれぞれ補正値を加算して集束電圧の設定値を求める構成とした。
これにより、イオン源の長時間使用により針先形状が変化し、イオン源と集束レンズとの距離が変化した場合でも、引出電圧ごとに補正値を求めて集束電圧の設定値を算出することで、集束電圧テーブルを精度良く作成することができる。
【0051】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る集束イオンビーム装置およびイオンビーム光学系の調整方法について説明する。
第1および第2実施形態の集束電圧テーブルには、基準ビーム電流が得られる集束電圧の設定値のみが記録されていた。これに加えて、第3実施形態の集束電圧テーブルには、任意ビーム電流が得られる集束電圧の設定値が記録されている点で異なっている。なお、第1および第2実施形態と同様の構成となる部分については、その詳細な説明を省略する。
【0052】
第1実施形態で述べたように、集束イオンビーム装置1は、ビーム径が極小となる基準ビーム電流で使用するのが一般的である。ただし、ビーム電流が大きいイオンビームIは、ガス銃5から供給された加工用ガスを飛散させ、十分なガスアシスト効果が得られない恐れがある。そこで、基準ビーム電流(例えば
図3のA
10)よりも小さい任意ビーム電流(例えば
図3のA
11)をユーザーが設定して、集束イオンビーム装置1を使用する場合がある。そこで、第3実施形態の集束電圧テーブルには、基準ビーム電流が得られる集束電圧の設定値に加えて、任意ビーム電流が得られる集束電圧の設定値が記録されている。
【0053】
図11は、第3実施形態における集束電圧テーブルの説明図である。第3実施形態では、従前のイオン源10および集束レンズ20の組み合わせを第1セットと呼び、イオン源10および集束レンズ20のうち少なくとも一方が交換された後の両者の組み合わせを第2セットと呼ぶ。
図11(a)は第1セットに関する第1集束電圧テーブルであり、
図11(b)は第2セットに関する第2集束電圧テーブルである。
【0054】
図11の各集束電圧テーブルでは、例えば引出電圧6.9kVのアパーチャ#1について、集束電圧の各値(計算値、設定値および補正値)が記録されている。ここでは、基準ビーム電流A
10が得られる集束電圧の各値のほか、任意ビーム電流A
11,A
12が得られる集束電圧の各値が記録されている。
図11(a)に示す第1集束電圧テーブルでは、全てのビーム電流についての集束電圧の補正値として0.37kVが記録されている。これに対して、
図11(b)に示す第2集束電圧テーブルでは、全てのビーム電流についての集束電圧の補正値として0.39kVが記録されている。
【0055】
図12は第3実施形態に係るイオンビーム光学系の調整方法のフローチャートである。以下には、任意ビーム電流A
11が得られる集束電圧の任意設定値を求める場合を例にして説明する。
第3実施形態では、
図11(a)に示す第1集束電圧テーブルにおいて、基準ビーム電流A
10が得られる集束電圧の各値のみが記録され、任意ビーム電流A
11が得られる集束電圧の各値が記録されていない状態からスタートする。ここで、第1セットに関して基準ビーム電流A
10を得る場合の集束電圧の補正値を第1補正値とする。例えば
図11(a)の第1集束電圧テーブルでは、第1補正値として0.37kVが記録されている。
【0056】
第1実施形態で述べたように、集束電圧の計算値からの設定値のずれ量(補正値の大きさ)は、イオン源10と集束レンズ20との距離が、設計値から寸法誤差によりずれた量に対応する。ここで、イオン源10と集束レンズ20との距離は、ビーム電流によらず一定であるから、集束電圧の補正値もビーム電流によらず一定になる。すなわち、基準ビーム電流A
10を得る場合の第1補正値は、任意ビーム電流A
11を得る場合の補正値に一致する。そこで、基準ビーム電流A
10を得る場合の第1補正値を、任意ビーム電流A
11を得る場合の補正値として展開し、第1集束電圧テーブルに記録する(S40)。
【0057】
第1実施形態で述べたように、基準ビーム電流A
10を得るための集束電圧の計算値は、計算式から求めることが可能である。これに対して、任意ビーム電流A
11を得るための集束電圧の計算値は、計算式から求めることが困難である。そのため、第1および第2実施形態と同様に集束電圧テーブルを作成することは困難であり、まずは任意ビーム電流A
11を得るための集束電圧のデータを蓄積する必要がある。
【0058】
そこで第3実施形態では、再びビーム電流の調整を行う(S42)。具体的には、集束電圧設定処理のビーム電流調整(S16)と同様に、集束イオンビーム装置1のオペレータが、
図6の画面中の集束電圧調整ボタン65を使用して集束電圧を増減させることで、ビーム電流を調整する。そして第3実施形態では、ビーム電流を任意ビーム電流A
11に略一致させる。
【0059】
次に、第1集束電圧テーブルへの追記を行う(S44)。具体的には、
図6の画面中で設定ボタン67を押下げる。すると、ビーム電流が任意ビーム電流A
11に略一致した時点での集束電圧が、集束電圧の第1実験値として、第1集束電圧テーブルの設定値の欄に記録される。例えば
図11(a)では、第1実験値として−17.51kVが記録される。次に、第1実験値から第1補正値を減算し、任意ビーム電流A
11が得られる集束電圧の第1計算値を逆算して、第1集束電圧テーブルに記録する。例えば
図11(a)では、第1計算値として−17.88kVが記録される。以上により、第1集束電圧テーブルが完成する。
【0060】
図12に戻り、その後、イオン源10および集束レンズ20のうち少なくとも一方が交換されたか判断する(S50)。S50の判断がNoの場合は処理を終了する。S50の判断がYesの場合は、集束電圧テーブルを更新する必要があるから、S10に進んで集束電圧設定処理を行う。S10の集束電圧設定処理により、
図11(b)に示す第2集束電圧テーブルでは、基準ビーム電流A
10が得られる集束電圧の各値が記録された状態になる。ここで、第2セットに関して基準ビーム電流A
10を得る場合の集束電圧の補正値を第2補正値とする。例えば
図11(b)の第2集束電圧テーブルでは、第2補正値として0.39kVが記録されている。
次に、基準ビーム電流A
10を得る場合の第2補正値を、任意ビーム電流A
11を得る場合の補正値として展開し、第2集束電圧テーブルに記録する(S52)。
【0061】
イオン源10および集束レンズ20のうち少なくとも一方が交換された場合には、引出電圧が再設定されている。そこで、交換前の第1集束電圧テーブルに、再設定された引出電圧において任意ビーム電流A
11が得られる集束電圧の各値が記録されているか判断する(S54)。S54の判断がNoの場合は、第1セットの場合と同様に、任意ビーム電流を得るための集束電圧のデータを蓄積する必要がある。そこで、S42と同様にビーム電流の調整を行ない(S56)、S58と同様に第2集束電圧テーブルへの追記を行なって(S58)、処理を終了する。
【0062】
一方、S54の判断がYesの場合には、直ちに第2集束電圧テーブルへの追記を行う(S60)。S54の判断がYesの場合には、交換前の第1集束電圧テーブルに、再設定された引出電圧において任意ビーム電流A
11が得られる集束電圧の第1計算値が記録されている。この集束電圧の第1計算値は、第2セットへの交換後でも引出電圧が同じであれば、任意ビーム電流A
11が得られる集束電圧の計算値として機能する。そこで第1計算値を、任意ビーム電流A
11が得られる集束電圧の計算値として、第2集束電圧テーブルに記録する。例えば
図11(b)では、任意ビーム電流A
11が得られる集束電圧の計算値として、第1計算値である−17.88kVを記録する。さらに、第1計算値に第2補正値を加算して、任意ビーム電流A
11が得られる集束電圧の任意設定値を求め、第2集束電圧テーブルに記録する。例えば
図11(b)では、集束電圧の任意設定値として−17.49kVを記録する。
以上で第2集束電圧テーブルが完成する。
【0063】
以上に詳述したように、本実施形態では、イオン源10および集束レンズ20の第1セットについて第1補正値を求めた後に、任意ビーム電流A
11が得られる集束電圧の第1実験値を求め、第1実験値から第1補正値を減算して任意ビーム電流A
11が得られる集束電圧の第1計算値を求め、イオン源10および集束レンズ20のうち少なくとも一方が第1セットとは異なる第2セットについて第2補正値を求め、第1計算値に第2補正値を加算して任意ビーム電流A
11が得られる集束電圧の任意設定値を求める構成とした。
これにより、任意ビーム電流A
11が得られる集束電圧の任意設定値を効率的に求めて、集束電圧テーブルを簡単に作成することができる。
【0064】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な材料や層構成などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
例えば、実施形態の集束イオンビーム装置には、必要に応じて様々な構成要素を付加することが可能である。