特許第5969253号(P5969253)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969253
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】表面処理剤及び表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20160804BHJP
   C07F 7/10 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   C09K3/18 104
   C07F7/10 C
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-86726(P2012-86726)
(22)【出願日】2012年4月5日
(65)【公開番号】特開2013-177537(P2013-177537A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2015年1月21日
(31)【優先権主張番号】特願2012-27136(P2012-27136)
(32)【優先日】2012年2月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】大橋 卓矢
(72)【発明者】
【氏名】菅原 まい
【審査官】 吉田 邦久
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/002200(WO,A1)
【文献】 特開2008−199028(JP,A)
【文献】 特開2002−158223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
C07F 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面の疎水化処理に使用され、下記式(2)で表される化合物を含む表面処理剤。
[N(CH3−bSi−R−SiR[N(CH3−c・・・(2)
(式(2)において、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、Rは炭素数1〜16の直鎖又は分岐鎖アルキレン基であり、b及びcはそれぞれ独立に1又は2の整数である。)
【請求項2】
b及びcが1である、請求項記載の表面処理剤。
【請求項3】
が直鎖アルキレン基である、請求項1又は記載の表面処理剤。
【請求項4】
及びRが水素原子、又はメチル基である、請求項1〜3のいずれか1項記載の表面処理剤。
【請求項5】
さらに溶剤を含む、請求項1〜のいずれか1項記載の表面処理剤。
【請求項6】
基板表面に請求項1〜のいずれか1項に記載の表面処理剤を暴露させ、前記基板表面を疎水化する表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板表面の疎水化処理に使用される表面処理剤及びそれを用いた表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス等の製造においては、基板に無機パターンを形成する際にリソグラフィ技術が用いられている。このリソグラフィ技術では、感光性樹脂組成物を用いて基板上に感光性樹脂層を設け、次いでこれに活性放射線を選択的に照射(露光)し、現像処理を行うことで基板上に樹脂パターン(レジストパターン)を形成する。そして、その樹脂パターンをマスクとして基板をエッチングすることにより無機パターンを形成する。
【0003】
ところで、近年、半導体デバイスの高集積化、微細化の傾向が高まり、無機パターンの微細化・高アスペクト比化が進んでいる。しかしながらその一方で、いわゆるパターン倒れの問題が生じるようになっている。このパターン倒れは、基板上に多数の無機パターンを並列して形成させる際、隣接するパターン同士がもたれ合うように近接し、場合によってはパターンが基部から折損したりするという現象のことである。このようなパターン倒れが生じると、所望の製品が得られないため、製品の歩留まりや信頼性の低下を引き起こすことになる。
【0004】
このパターン倒れは、パターン形成後のリンス処理において、リンス液が乾燥する際、そのリンス液の表面張力により発生することが分かっている。つまり、乾燥過程でリンス液が除去される際に、パターン間にリンス液の表面張力に基づく応力が働き、パターン倒れが生じることになる。
【0005】
そこで、これまで、リンス液に表面張力を低下させる物質(イソプロパノール、フッ素系界面活性剤等)を添加し、パターン倒れを防止する試みが多くなされてきたが(例えば、特許文献1、2を参照)、このようなリンス液の工夫ではパターン倒れの防止は不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−163391号公報
【特許文献2】特開平7−142349号公報
【特許文献3】特表平11−511900号公報
【特許文献4】特開2011−122137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、パターン倒れとは異なるが、マスクとなる樹脂パターンと基板表面との密着性を向上して、現像液による樹脂パターンの一部損失を防止するために、基板に感光性樹脂層を設ける前に、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)等のシリル化剤を用いた疎水化処理(シリル化処理)が基板表面に対して行われている(例えば、特許文献3の「発明の背景」を参照)。
【0008】
本発明者らは、無機パターンの表面をシリル化剤により疎水化すればリンス処理後の乾燥過程でパターン間に働く応力が低下し、パターン倒れを防止できるのではないかと考え、HMDS、N,N−ジメチルアミノトリメチルシラン(DMATMS)等の幾つかのシリル化剤を用いて種々の基板について疎水化処理を試みた。しかしながら、基板表面の材質がSiである場合には高度に疎水化することができたが、基板表面の材質がTiNやSiNである場合には、いずれのシリル化剤によっても疎水化の程度が不十分であった。
【0009】
また、ウェットエッチングにより無機パターンが形成される場合、フッ酸により基板表面が処理される場合があるが、この場合、上記のシリル化剤による基板表面の疎水化がより困難になる傾向がある。基板表面の材質がTiNやSiNである場合には、この傾向が顕著である。
【0010】
このような問題に対して、2,2,5,5−テトラメチル−2,5−ジシラ−1−アザシクロペンタン等の環状シラザン化合物をシリル化剤として用いることにより、表面材質がTiNやSiNである基板を疎水化できることが知られている(特許文献4を参照)。しかし、環状シラザン化合物を用いる場合、半導体デバイスの製造で広く用いられている、表面材質がシリコンである基板をやや疎水化しにくい場合がある。
【0011】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、基板表面がフッ酸により処理されている場合であっても、基板表面の材質がシリコンである基板を高度に疎水化でき、かつ、基板表面の材質がTiN又はSiNである場合であっても高度に疎水化することのできる表面処理剤、及びそのような表面処理剤を使用した表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その結果、基板表面の疎水化処理に使用される表面処理剤に、ジメチルアミノ基を有する特定の構造のモノシラン化合物又はビスシラン化合物を含有させることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0013】
本発明の第1の態様は、基板表面の疎水化処理に使用され、下記式(1)又は(2)で表される化合物を含む表面処理剤である。
Si[N(CH4−a・・・(1)
(式(1)において、Rは、それぞれ独立に、水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていてもよい、炭素数1〜18の直鎖又は分岐鎖脂肪族炭化水素基であり、aは1又は2である。)
[N(CH3−bSi−R−SiR[N(CH3−c・・・(2)
(式(2)において、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、Rは炭素数1〜16の直鎖又は分岐鎖アルキレン基であり、b及びcはそれぞれ独立に0〜2の整数である。)
【0014】
本発明の第2の態様は、基板表面に第1の態様に係る表面処理剤を暴露させ、基板表面を疎水化する表面処理方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基板表面がフッ酸により処理されている場合であっても、基板表面の材質がシリコンである基板を高度に疎水化でき、かつ、基板表面の材質がTiN又はSiNである場合であっても高度に疎水化することのできる表面処理剤、及びそのような表面処理剤を使用した表面処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<表面処理剤>
まず、本発明に係る表面処理剤について説明する。本発明に係る表面処理剤は、基板表面を疎水化する際に好適に使用される。ここで、「基板」としては、半導体デバイス製造のために使用される基板が挙げられる。また、「基板表面」としては、基板自体の表面のほか、基板上に設けられた無機パターンの表面、又はパターン化されていない無機層の表面等が挙げられる。
【0017】
基板上に設けられた無機パターンとしては、基板に存在する無機層の表面にリソグラフィ技術を用いて樹脂パターン(レジストパターン)を形成し、その樹脂パターンをマスクとして無機層にエッチング処理を施すことにより作製されたパターンが挙げられる。無機層としては、基板自体のほか、基板表面に形成した無機物の膜等が挙げられる。
【0018】
特に、本発明に係る表面処理剤は、基板表面の材質がシリコンである場合に加えて、基板表面の材質がTiN又はSiNである場合に好適に使用される。従来、基板表面の疎水化に使用されてきたヘキサメチルジシラザン(HMDS)や、環状シラザン化合物等のシリル化剤では、基板表面の材質がシリコンである場合と、TiN又はSiNである場合とで基板表面の高度な疎水化を両立させることができなかった。しかし、本発明に係る表面処理剤によれば、基板表面の材質がシリコンである場合と、TiN又はSiNである場合とで、基板表面の高度な疎水化を両立でき、幅広い材料からなる基板の疎水化に適用可能な表面処理剤を提供することができる。
【0019】
また、基板表面がフッ酸により処理されている場合、基板表面の疎水化が困難になる傾向があるが、本発明に係る表面処理剤によれば、基板表面がフッ酸により処理されている場合であっても、基板表面を良好に疎水化することができる。
【0020】
本発明に係る表面処理剤は、加熱やバブリング等の手段によって気化させてから、気化した表面処理剤を基板の表面に接触させて表面処理するために使用されてもよいし、スピンコート法や浸漬法等の手段によって液体のまま基板の表面に塗布して表面処理するために使用されてもよい。
【0021】
本発明に係る表面処理剤は、シリル化剤として下記式(1)又は(2)で表される化合物を含有する。
Si[N(CH4−a・・・(1)
(式(1)において、Rは、それぞれ独立に、水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていてもよい、炭素数1〜18の直鎖又は分岐鎖脂肪族炭化水素基であり、aは1又は2である。)
[N(CH3−bSi−R−SiR[N(CH3−c・・・(2)
(式(2)において、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、Rは炭素数1〜16の直鎖又は分岐鎖アルキレン基であり、b及びcはそれぞれ独立に0〜2の整数である。)
【0022】
表面処理剤は、式(1)又は(2)で表される化合物を複数含んでいてもよく、式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物とを組み合わせて含んでいてもよい。以下、表面処理剤に含有される成分について詳細に説明する。
【0023】
[式(1)又は(2)で表される化合物]
本発明に係る表面処理剤は、シリル化剤として上記の式(1)又は(2)で表される化合物を含有する。この式(1)又は(2)で表される化合物は、基板表面をシリル化し、基板表面の疎水性を高めるための成分である。
【0024】
表面処理剤は、式(1)又は(2)で表される化合物を単独で用いることもできるし、式(1)又は(2)で表される化合物を後述する有機溶剤で希釈して用いることもできる。このため、表面処理剤における式(1)又は(2)で表される化合物の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。
【0025】
(式(1)で表される化合物)
式(1)で表される化合物は、Rとして水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていてもよい、炭素数1〜18の直鎖又は分岐鎖脂肪族炭化水素基を含む。Rの炭素数は、2〜18が好ましく、8〜18がより好ましい。また、Rは、飽和炭化水素基でも、不飽和炭化水素基でもよい。Rが不飽和炭化水素基である場合、不飽和結合の位置及び数は特に限定されず、不飽和結合は二重結合であっても三重結合であってもよい。
【0026】
がフッ素原子で置換されていない、直鎖又は分岐鎖飽和炭化水素基である場合の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、tert−アミル基、ヘキシル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基、ヘプチル基、2−ヘプチル基、3−ヘプチル基、イソヘプチル基、tert−ヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、へプタデシル基、及びオクタデシル基等が挙げられる。
【0027】
がフッ素原子で置換されていない、直鎖又は分岐載不飽和炭化水素基である場合の例としては、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、1−エチルビニル基、1−メチル−1−プロペニル基、1−メチル−2−プロペニル基、4−ペンテニル基、1,3−ペンタジエニル基、2,4−ペンタジエニル基、3−メチル−1−ブテニル基、5−ヘキセニル基、2,4−ヘキサジエニル基、6−ヘプテニル基、7−オクテニル基、8−ノネニル基、9−デセニル基、10−ウンデセニル基、11−ドデセニル基、12−トリデセニル基、13−テトラデセニル基、14−ペンタデセニル基、15−ヘキサデセニル基、16−ヘプタデセニル基、17−オクタデセニル基、エチニル基、プロパルギル基、1−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、1−ペンチニル基、2−ペンチニル基、3−ペンチニル基、4−ペンチニル基、1−ヘキシニル基、2−ヘキシニル基、3−ヘキシニル基、4−ヘキシニル基、5−ヘキシニル基、6−へプチニル基、7−オクチニル基、8−ノニニル基、9−デシニル基、10−ウンデシニル基、11−ドデシニル基、12−トリデシニル基、13−テトラデシニル基、14−ペンタデシニル基、15−ヘキサデシニル基、16−ヘプタデシニル基、及び17−オクタデシニル基等が挙げられる。
【0028】
がフッ素原子で置換されている、直鎖又は分岐鎖脂肪族炭化水素基である場合、フッ素原子の置換数、及び置換位置は、特に限定されない。脂肪族炭化水素基におけるフッ素原子の置換数は、脂肪族炭化水素基が有する水素原子の数の50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上が特に好ましい。
【0029】
としては、優れた疎水化の効果を得やすいことから、水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていてもよい、炭素数1〜18の直鎖脂肪族炭化水素基が好ましい。また、Rとしては、保存安定性に優れる表面処理剤を得やすいこと等から、水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていてもよい、炭素数1〜18の直鎖飽和炭化水素基(炭素数1〜18のアルキル基)がより好ましい。
【0030】
式(1)においてaは、1又は2であり、1が好ましい。aが1である場合、基板表面の材質がTiNである場合の疎水化の効果が特に優れるためである。
【0031】
式(1)で表される化合物による疎水化は、式(1)で表される化合物と基板表面との反応により、疎水性基であるRが基板表面に導入されることにより生じる。Rが直鎖である場合、立体障害が少ないため、基板表面に疎水性基を密集させやすく、良好な疎水化の効果を得やすいと考えられる。
【0032】
また、aが1である場合、Rは基板表面に対して垂直に配置されやすいため、基板表面に疎水性基を密集させやすい。一方、aが2である場合、式(1)で表される化合物の複数の分子間で、疎水性基同士の立体障害が生じやすく、基板表面に疎水性基を密集させにくい。このため、aが1である場合、aが2である場合よりも良好な疎水化の効果を得やすいと考えられる。
【0033】
(式(2)で表される化合物)
式(2)で表される化合物は、R及びRとして、水素原子、又は炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキル基を含む。R及びRは、同一であってもよく異なっていてもよい。R及びRとしては、水素原子、又は炭素数1〜3の直鎖又は分岐鎖アルキル基が好ましく、水素原子、又はメチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。R及びRがこのような基である場合、基板と式(2)で表される化合物との間の立体障害が少ないため、式(2)で表される化合物を基板表面と良好に反応させやすい。
【0034】
及びRが、炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキル基である場合の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、及びイソブチル基が挙げられる。
【0035】
式(2)で表される化合物は、Rとして炭素数1〜16の直鎖又は分岐鎖アルキレン基を含む。Rである直鎖又は分岐鎖アルキレン基の炭素数は、1〜10が好ましく、2〜8がより好ましい。なお、直鎖アルキレン基とは、メチレン基、又はα,ω−直鎖アルキレン基であり、分岐鎖アルキレン基は、メチレン基、及びα,ω−直鎖アルキレン基以外のアルキレン基である。Rは疎水性基として作用するため、式(2)で表される化合物が基板表面と反応することにより、基板表面が疎水化される。Rがこのような炭素数の直鎖又は分岐鎖アルキレン基である場合、式(2)で表される化合物と基板表面とを良好に反応させやすく、基板表面を良好に疎水化しやすい。
【0036】
また、Rは、直鎖アルキレン基であるのが好ましい。Rが直鎖アルキレン基である場合、式(2)で表される化合物間の立体障害が少ないため、疎水性基であるRが密集した状態で、基板表面に式(2)で表される化合物を結合させやすい。
【0037】
が、炭素数1〜16の直鎖又は分岐鎖アルキレン基である場合の例としては、メチレン基、1,2−エチレン基、1,1−エチレン基、プロパン−1,3−ジイル基、プロパン−1,2−ジイル基、プロパン−1,1−ジイル基、プロパン−2,2−ジイル基、ブタン−1,4−ジイル基、ブタン−1,3−ジイル基、ブタン−1,2−ジイル基、ブタン−1,1−ジイル基、ブタン−2,2−ジイル基、ブタン−2,3−ジイル基、ペンタン−1,5−ジイル基、ペンタン−1,4−ジイル基、ヘキサン−1,6−ジイル基、ヘプタン−1,7−ジイル基、オクタン−1,8−ジイル基、2−エチルへキサン−1,6−ジイル基、ノナン−1,9−ジイル基、デカン−1,10−ジイル基、ウンデカン−1,11−ジイル基、ドデカン−1,12−ジイル基、トリデカン−1,13−ジイル基、テトラデカン−1,14−ジイル基、ペンタデカン−1,15−ジイル基、及びヘキサデカン−1,16−ジイル基等が挙げられる。
【0038】
式(2)で表される化合物において、b及びcはそれぞれ独立に0〜2の整数である。式(2)で表される化合物について、合成及び入手が容易であることから、b及びcは1又は2であるのが好ましく、2であるのがより好ましい。
【0039】
[有機溶剤]
本発明に係る表面処理剤は、さらに有機溶剤を含有していてもよい。式(1)又は(2)で表される化合物を有機溶剤で希釈することにより、基板表面に対する塗布作業性、ハンドリング性、リンス液との置換性等を向上させることができる。
【0040】
この有機溶剤としては、式(1)又は(2)で表される化合物と反応せず、式(1)又は(2)で表される化合物を溶解でき、かつ、基板表面に対するダメージの少ないものであれば、特に限定されずに従来公知の有機溶剤を使用することができる。
【0041】
具体的には、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホン、テトラメチレンスルホン等のスルホン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等のアミド類;N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−プロピル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシメチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン等のラクタム類;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジイソプロピル−2−イミダゾリジノン等のイミダゾリジノン類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールジアルキルエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の(ポリ)アルキレングリコールアルキルエーテルアセテート類;テトラヒドロフラン等の他のエーテル類;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン等のケトン類;2−ヒドロキシプロピオン酸メチル、2−ヒドロキシプロピオン酸エチル等の乳酸アルキルエステル類;3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルプロピオネート、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸−i−プロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸−i−ブチル、ぎ酸−n−ペンチル、酢酸−i−ペンチル、プロピオン酸−n−ブチル、酪酸エチル、酪酸−n−プロピル、酪酸−i−プロピル、酪酸−n−ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸−n−プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2−オキソブタン酸エチル等の他のエステル類;β−プロピロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−ペンチロラクトン等のラクトン類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、メチルオクタン、n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカン、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン、2,2,4,4,6,8,8−ヘプタメチルノナン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の直鎖状、分岐鎖状、又は環状の炭化水素類;ベンゼン、トルエン、ナフタレン、1,3,5−トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;p−メンタン、ジフェニルメンタン、リモネン、テルピネン、ボルナン、ノルボルナン、ピナン等のテルペン類;等が挙げられる。これらの有機溶剤は、単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0042】
これらの中では、疎水性が高く、表面処理剤に含まれる式(1)又は(2)で表される化合物と、空気中の水分との反応を抑制しやすいため、直鎖状、分岐鎖状、又は環状の炭化水素類が好ましい。
【0043】
式(1)又は(2)で表される化合物を有機溶剤で希釈する場合、希釈された液中の式(1)又は(2)で表される化合物の濃度は表面処理剤中、0.1〜99.9質量%が好ましく、1〜50質量%がより好ましく、1〜30質量%がさらに好ましく、3〜20質量%が特に好ましい。表面処理剤中の式(1)又は(2)で表される化合物の含有量を、上記範囲とすることにより、表面処理の効果を保った上で、基板表面に対する塗布作業性、ハンドリング性、リンス液との置換性等を向上させることができる。
【0044】
式(1)又は(2)で表される化合物を有機溶剤で希釈するタイミングは、特に限定されない。例えば、式(1)又は(2)で表される化合物を予め有機溶剤で希釈した状態で保管しておいてもよく、表面処理剤を用いて基板表面を処理する直前に式(1)又は(2)で表される化合物を有機溶剤で希釈するようにしてもよい。
【0045】
<表面処理方法>
次に、本発明に係る表面処理方法について説明する。本発明に係る表面処理方法は、基板表面に本発明に係る表面処理剤を曝露させ、その基板の表面を処理するものである。
【0046】
本発明に係る表面処理方法は、基板表面を疎水化するものであり、その処理の目的はいかなるものであってもよいが、その処理の目的の代表的な例として、(1)基板表面を疎水化し、樹脂パターン等に対する密着性を向上させること、(2)リンス後の乾燥過程において、基板表面の無機パターンのパターン倒れを防止することが挙げられる。
【0047】
上記(1)を目的とする場合、例えば感光性樹脂層を基板表面に形成する前に、基板表面に対して本発明に係る表面処理剤を曝露すればよい。基板表面に本発明に係る表面処理剤を曝露する方法としては、従来公知の方法を特に制限なく使用することができる。例えば、本発明に係る表面処理剤を気化させて蒸気とし、その蒸気を基板表面に接触させる方法、本発明に係る表面処理剤をスピンコート法や浸漬法等により基板表面に接触させる方法等が挙げられる。このような操作により基板表面の疎水性が向上するので、感光性樹脂層等に対する密着性が向上する。
【0048】
上記(2)を目的とする場合、無機パターンを形成した後のリンス処理後の乾燥を行う前に、基板表面に対して本発明に係る表面処理剤を曝露すればよい。
【0049】
このような表面処理を施すことによって、リンス後の乾燥過程における基板表面の無機パターンのパターン倒れを防止することのできる理由について説明する。
【0050】
基板表面に無機パターンを形成する際には、例えば、ドライエッチング、ウェットエッチングが行われる。ドライエッチングによるパターン形成では、ハロゲン系ガス等によりドライエッチングを行い、続いて、SC−1(アンモニア・過酸化水素水)、SC−2(塩酸・過酸化水素水)等でパーティクルや金属不純物等のエッチング残渣を洗浄する。そして、水やイソプロパノール等のリンス液によるリンス後、無機パターンの表面を自然乾燥やスピンドライ等により乾燥する。一方、ウェットエッチングによるパターン形成では、DHF(希フッ酸)、BHF(フッ酸・フッ化アンモニウム)、SPM(硫酸・過酸化水素水)、APM(アンモニア・過酸化水素水)等によりウェットエッチングを行い、水やイソプロパノール等のリンス液によるリンス後、無機パターンの表面を自然乾燥やスピンドライ等により乾燥する。
なお、乾燥処理は、例えば、特許第3866130号公報の段落[0030]以降に記載されているような方法でも構わない。
【0051】
本発明に係る表面処理方法では、このような無機パターンを乾燥する前に、無機パターン表面を本発明に係る表面処理剤で処理して疎水化する。好ましくは、リンス液によるリンス前に、無機パターン表面を本発明に係る表面処理剤で処理して疎水化する。
【0052】
ここで、リンス後の乾燥過程で無機パターンのパターン間に働く力Fは、以下の式(I)のように表される。ただし、γはリンス液の表面張力を表し、θはリンス液の接触角を表し、Aは無機パターンのアスペクト比を表し、Dは無機パターン側壁間の距離を表す。
F=2γ・cosθ・A/D・・・(I)
【0053】
したがって、無機パターンの表面を疎水化し、リンス液の接触角を高める(cosθを小さくする)ことができれば、リンス後の乾燥過程で無機パターン間に働く力を低減することができ、パターン倒れを防止することができる。
【0054】
この表面処理は、無機パターンが形成された基板を表面処理剤中に浸漬するか、或いは表面処理剤を無機パターンに塗布又は吹き付けることによって行われる。処理時間は、10秒間〜60分間が好ましい。
【0055】
なお、無機パターン表面を表面処理剤で処理する前に、無機パターンの形成に用いたDHF(希フッ酸)やBHF(フッ酸・フッ化アンモニウム)等をイソプロパノール等の水溶性有機溶剤で置換しておくことが好ましい。これにより、表面処理剤との置換性が向上し、疎水性向上の効果が高まる。
【0056】
なお、スループットの点からは、表面処理とリンス処理とが連続した処理であることが好ましい。このため、表面処理剤としては、リンス液との置換性に優れたものを選択することが好ましい。この点、リンス液として水系のものを使用する場合、表面処理剤としては、有機溶剤を多量成分として含有するものが好ましい。有機溶剤を多量成分として含有することにより、表面処理剤のリンス液との置換性が向上するためである。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
[実施例1〜9、及び比較例1〜8]
表1〜4に記載のシリル化剤5質量%と、n−デカン95質量%とからなる表面処理剤を用いた。表1〜4に記載の表面材質の基板を濃度1質量%のフッ化水素水溶液で25℃、1分間洗浄した後、表面処理剤に室温で60秒間浸漬した。そして、基板表面をメチルエチルケトンでリンスし、窒素ブローにより乾燥させた。その後、Dropmaster700(協和界面科学株式会社製)を用い、基板表面に純水液滴(1.8μL)を滴下して、滴下10秒後における接触角を測定した。結果を表1〜4に示す。
【0059】
[参考例1、及び参考例2]
参考例1として、フッ化水素酸による処理と、表面処理剤による処理とが施されていない基板について、実施例1と同様に接触角を測定した。また、参考例2として、フッ化水素酸による処理が施され、表面処理剤による処理が施されていない基板について、実施例1と同様に接触角を測定した。参考例1、及び参考例2で測定された各基板の接触角を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
実施例1、及び実施例3〜6から、3つのジメチルアミノ基と、脂肪族炭化水素基とがケイ素原子に結合するモノシラン化合物をシリル化剤として含む表面処理剤により、表面材質がSiN(窒化ケイ素)、及びTiN(窒化チタン)である基板を、良好に疎水化できることが分かる。また、実施例1、及び実施例3〜6の表面処理剤によれば、シリコン基板の表面を良好に疎水化できることが分かる。
【0065】
実施例2から、2つのジメチルアミノ基と、2つのメチル基とがケイ素原子に結合するモノシラン化合物である、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシランをシリル化剤として含む表面処理剤により、表面材質がSiNである基板を良好に疎水化できることが分かる。また、実施例2の表面処理剤によれば、シリコン基板の表面を良好に疎水化できることが分かる。
【0066】
実施例7〜9から、2つのケイ素原子にそれぞれジメチルアミノ基が結合しており、2つのケイ素原子が炭素数2〜8のアルキレン基により連結されているビスシラン化合物をシリル化剤として含む表面処理剤により、表面材質がSiNである基板を良好に疎水化できることが分かる。また、実施例7〜9の表面処理剤によれば、シリコン基板の表面を良好に疎水化できることが分かる。
【0067】
また、実施例1〜9で用いた、基板はいずれもフッ酸により処理されていることから、実施例1〜9の表面処理剤によれば、フッ酸により表面処理された基板であっても良好に疎水化されることが分かる。