特許第5969581号(P5969581)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5969581エステル化合物の製造方法およびこれにより製造されたエステル化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969581
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】エステル化合物の製造方法およびこれにより製造されたエステル化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 319/06 20060101AFI20160804BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20160804BHJP
【FI】
   C07D319/06
   !C07B61/00 300
【請求項の数】11
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-245256(P2014-245256)
(22)【出願日】2014年12月3日
(65)【公開番号】特開2015-107970(P2015-107970A)
(43)【公開日】2015年6月11日
【審査請求日】2014年12月3日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0149300
(32)【優先日】2013年12月3日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2014-0157086
(32)【優先日】2014年11月12日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】コン、ミョン−チン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ウォン−チェ
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ヨン−ジン
【審査官】 瀬下 浩一
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07DC07D 319/06
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸触媒の存在下、グリセロールとアセトンの混合物にカルボン酸(Carboxylic acid)を加えて、超音波を印加してエステル反応を誘導して、(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル ホルメートまたは2,2−ジメチル−1,3−ジオキサン−5−イル ホルメートを製造することを含む、エステル化合物の製造方法。
【請求項2】
前記カルボン酸は、ギ酸である、請求項1に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項3】
前記製造方法は、ワンポット(one−pot)工程である、請求項1または2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項4】
前記超音波は、20W/cm2〜700W/cm2のパワー密度(power density)で印加される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項5】
前記超音波は、70W/cm2〜500W/cm2のパワー密度(power density)で印加される、請求項1〜4のいずれか一項に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項6】
前記超音波は、1分〜400分間印加される、請求項1〜5のいずれか一項に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項7】
前記超音波は、5分〜100分間印加される、請求項1〜6のいずれか一項に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項8】
前記アセトンは、グリセロールを基準として、3〜15当量比で加えられる、請求項1〜7のいずれか一項に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項9】
前記カルボン酸は、グリセロールを基準として、1〜5当量比で加えられる、請求項1〜8のいずれか一項に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項10】
前記エステル反応は、−20〜10℃の温度で行われる、請求項1〜9のいずれか一項に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項11】
前記エステルの収率が30%以上である、請求項1〜10のいずれか一項に記載のエステル化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、2013年12月3日付で韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10−2013−0149300号、および2014年11月12日付で韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10−2014−0157086号の出願日の利益を主張し、その内容はすべて本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、エステル化合物の製造方法に関するものであって、より詳細には、超音波を用いて反応収率を向上させるだけでなく、工程を単純化させたエステル化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
エステル(ester)は、アルコールが酸と反応して水を失い縮合反応して生成された化合物であって、主にカルボン酸エステルを意味する。
【0004】
このようなエステル化合物の製造方法として、従来は、Selective Esterifications of Primary Alcohols in a Water−Containing Solvent;Yong Wang,Bilal A.Aleiwi,Qinghui Wang and Michio Kurosu;Org.Lett.,2012,14(18),pp4910−4913のように、グリセロールにアセトンおよび硫酸を添加する第1段階工程、および第1段階工程で生成された生成物にギ酸を反応させる第2段階工程のエステル化反応を通じてエステル化合物を合成している。
【0005】
しかし、従来の方法によれば、エステル反応の収率が高くないだけでなく、2段階の工程に分けられているため、工程設備が追加される問題、およびエステル化合物の合成時間が長くかかる問題があって、経済性に劣る欠点があった。
【0006】
したがって、エステル反応の収率を高め、工程を単純化して、グリセロールからエステル化合物を直接合成することができる新たなエステル化合物の合成方法に対する研究が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Selective Esterifications of Primary Alcohols in a Water−Containing Solvent;Yong Wang,Bilal A.Aleiwi,Qinghui Wang and Michio Kurosu;Org.Lett.,2012,14(18),pp4910−4913
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の従来技術の問題を解決すべく、本発明は、エステル反応の収率を高め、反応工程を複数の段階を経なくても、特殊な合成条件を用いてグリセロールからエステル化合物を直接製造することができる新たなエステル化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、 本発明は、硫酸触媒の存在下、グリセロールとアセトンの混合物にカルボン酸(Carboxylic acid)を加えて、超音波を印加してエステル反応を誘導するエステル化合物の製造方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、前記製造方法により製造されたエステル化合物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエステル化合物の製造方法によれば、エステル反応の収率を高められるだけでなく、反応工程を複数の段階を経なくても、特殊な合成条件を用いてグリセロールからエステル化合物を直接製造することができる利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のエステル化合物の製造方法および前記製造方法により製造されたエステル化合物について詳細に説明する。
【0013】
本発明は、従来の発明とは異なり、エステル反応時に超音波を印加することで、エステル反応の反応収率を向上させるだけでなく、グリセロールから直接エステル化合物を製造可能に工程を単純化させることができる方法に関するものである。したがって、エステル化合物の製造工程において、反応収率が高いだけでなく、既存に比べて単純な工程によるため、反応時間が画期的に短くなり、これによって、費用も画期的に節減することができる。
【0014】
このために、本発明のエステル化合物の製造方法は、硫酸触媒の存在下、グリセロールとアセトンの混合物にカルボン酸を加えて、超音波を印加してエステル反応を誘導してエステル化合物を製造する。
【0015】
本発明のエステル化合物の製造方法において、前記グリセロールは、エステル化反応に使用されるものであれば通常の購入可能なものを特別な制限なく使用することができ、好ましくは、純度60〜99.5%のグリセロールを使用することができる。
【0016】
本発明のエステル化合物の製造方法において、前記アセトンは、グリセロール反応に使用するものであれば通常の購入可能なものを特別な制限なく使用することができ、好ましくは、純度40〜99.5%のアセトンを使用することができる。本発明において、前記アセトンは、アルコールを基準として、3〜15当量比で加えて使用することができる。前記アセトンが3当量比未満で使用されると、アルコールの転換率およびエステル反応の選択度が低下することがあり、15当量比を超えて使用しても、追加による特別な効果の上昇がない。
【0017】
本発明のエステル化合物の製造方法において、前記カルボン酸は、COOH基を有するものであれば特別な制限なく使用することができるが、好ましくは、ギ酸を使用することができる。本発明において、前記カルボン酸は、グリセロールを基準として、1〜5当量比で加えられる。前記カルボン酸が1当量比未満で使用されると、グリセロールの転換率およびエステル化合物の選択度が低下することがあり、5当量比を超えて使用しても、追加による特別な効果の上昇がない。
【0018】
一方、本発明における当量とは、発明のグリセロールとギ酸が1:1で反応するため、本発明における当量とは、モル比と同じ概念である。
【0019】
本発明のエステル化合物の製造方法において、超音波の強さは、使用者の必要に応じて適宜調節可能であるが、好ましくは、20W/cm2〜700W/cm2のパワー密度(power density)で印加されてよいし、より好ましくは、70W/cm2〜500W/cm2のパワー密度(power density)になっていてよい。超音波のパワー密度が20W/cm2未満で低すぎると、未反応による反応効率の低下などの問題があり、超音波のパワー密度が700W/cm2超過で高すぎると、反応溶液が過熱する問題があるので、好ましくない。また、前記超音波反応の時間は、使用者の必要に応じて適宜調節可能であるが、好ましくは、1分〜400分間印加されてよいし、より好ましくは、5分〜100分間印加されてよい。
【0020】
本発明のエステル化合物の製造方法において、前記グリセロールとアセトンにギ酸を添加した後のエステル反応は、−20〜10℃の反応温度で行うことができる。前記反応温度が−20℃〜10℃の範囲の時、最適な反応性を有するようになり、前記範囲外では反応性が急速に低下する問題がある。
【0021】
本発明のエステル化合物の製造方法は、下記の2つの方法により製造できる。
【0022】
まず、第一の方法として、下記の反応式1のように、グリセロールにアセトンおよび硫酸を添加する第1段階と、第1段階で生成された反応物にカルボン酸(例えば、ギ酸)を添加した後、超音波を印加してエステル化合物を製造する方法がある。
【0023】
【化1】
【0024】
また、第二の方法として、下記の反応式2のように、 硫酸触媒の存在下、グリセロールとアセトンの混合物にギ酸を加えて、同時に超音波を印加してエステル反応を誘導して、ワンポット(one−pot)工程でエステル化合物を製造する方法がある。
【0025】
【化2】
【0026】
本発明は、前記製造方法により製造されたエステル化合物を提供する。
【0027】
本発明の製造方法、具体的には、前記反応式1または反応式2のような製造方法により製造されたエステル化合物としては、(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル ホルメート((2,2−dimethyl−1,3−dioxolan−4−yl)methyl formate)、2,2−ジメチル−1,3−ジオキサン−5−イル ホルメート(2,2−dimethyl−1,3−dioxan−5−yl formate)、グリセリルホルメート(glyceryl formate)、または2−ヒドロキシプロパン−1,3−ジイル ジホルメート(2−hydroxypropane−1,3−diyl diformate)などがある。
【0028】
前記製造方法により製造された本発明のエステル化合物は、収率が30%以上であり、従来技術に比べて、総反応時間がはるかに短いため、経済性に優れる。
【0029】
以下、本発明の理解のために好ましい実施例を提示するが、下記の実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範疇および技術思想の範囲内で多様な変更および修正が可能であることは当業者にとって自明であり、このような変更および修正が添付した特許請求の範囲に属することも当然である。
【0030】
実施例
[エステル化合物の製造]
[実施例1]
グリセロール9.21g(0.10mol)、アセトン29.0g(0.50mol、5eq)、硫酸(pKa値:−3.0)0.020g(0.0003mol、0.003eq)を加えて、25℃で15時間撹拌して、ソルケタールを製造した。
【0031】
以後、前記製造したソルケタール溶液(2,2−dimethyl−1,3−dioxolan−4−yl)methanolおよび2,2−dimethyl−1,3−dioxan−5−olを99:1で混合したアルコール溶液0.07molと、残量のアセトンを含む)27.00g、ギ酸3.25g(0.07mol、1eq)をフラスコ反応器に加えて、circulator(ユラボF32)を0℃の反応温度に設定した後、超音波反応器(Hielscher Ultrasonic GmbH.Model:UP400S)を用いて、460W/cm2のパワー密度で30分間超音波処理して反応させて、エステル化合物を製造した。前記超音波反応器のSonotrodeはTipタイプであった。
【0032】
[実施例2]
ギ酸を4.875g(0.105mol、1.5eq)使用したことを除いては、実施例1と同様の方法でエステル化合物を製造した。
【0033】
[実施例3]
ギ酸を6.5g(0.14mol、2eq)使用したことを除いては、実施例1と同様の方法でエステル化合物を製造した。
【0034】
[実施例4]
ギ酸を9.75g(0.21mol、3eq)使用したことを除いては、実施例1と同様の方法でエステル化合物を製造した。
【0035】
[実施例5]
ギ酸を13g(0.28mol、4eq)使用したことを除いては、実施例1と同様の方法でエステル化合物を製造した。
【0036】
[実施例6]
前記超音波反応器のSonotrodeの前記超音波反応器のMaximum amplitudeを210μmに設定したことを除いては、実施例5と同様の方法でエステル化合物を製造した。
【0037】
[実施例7]
グリセロール9.21g(0.10mol)、アセトン29.0g(0.50mol、5eq)、硫酸(pKa値:−3.0)0.020g(0.0003mol、0.003eq)、およびギ酸13g(0.28mol、4eq)をフラスコ反応器に加えて、circulator(ユラボF32)を0℃の反応温度に設定した後、超音波反応器(Hielscher Ultrasonic GmbH.Model:UP400S)を用いて、460W/cm2のパワー密度で6分間超音波処理して反応させて、エステル化合物を製造した。前記超音波反応器のMaximum amplitudeは210μmであった。
【0038】
[比較例1]
ギ酸を9.75g(0.21mol、3eq)使用し、超音波反応の代わりに、70℃でrefluxで1時間反応させたことを除いては、実施例1と同様の方法でエステル化合物を製造した。
【0039】
[比較例2]
硫酸の代わりに、同じ当量の塩酸を使用したことを除いては、実施例7と同様の方法でエステル化合物を製造した。
【0040】
[比較例3]
硫酸の代わりに、同じ当量の硝酸を使用したことを除いては、実施例7と同様の方法でエステル化合物を製造した。
【0041】
前記実施例1〜7および比較例1〜3の反応条件を、下記の表1に示した。
【0042】
【表1】
【0043】
実験例
前記実施例および比較例で製造したエステル化合物に対して、ガスクロマトグラフィ(GC6890N、agilent)を用いて、未反応グリセロール、エステル化合物を、GC area%分析を通じて分析した。グリセロール転換率およびエステル化反応選択度、エステル化反応収率を下記の式1〜3を用いて計算し、その結果を表2に示した。
[式1]
グリセロール転換率(conversion,%)=100−反応後のグリセロールGC area%
[式2]
エステル化反応選択度(selectivity,%)=100×(生成されたエステル化合物GC area%)/(アルコール転換率)
[式3]
エステル化反応収率(yield,%)=(グリセロール転換率×エステル化反応選択度)/(100)
【0044】
【表2】
【0045】
前記表2に示しているように、本発明のエステル化合物の製造方法により製造した実施例1〜実施例7の場合、一定水準以上の安定した収率を有することが分かった。特に、同じ当量のギ酸を入れた比較例1と実施例4とを比較すると、実施例4は、比較例1に比べて反応温度を下げたにもかかわらず、反応収率が10%以上高いことが分かった。
【0046】
また、本発明のOne−pot反応で製造した実施例7の場合、収率は33.2%で、従来の方法に比べて、類似する程度であるが、15時間以上反応時間がかかる従来の方法に比べて、反応時間が6分しかかからず、反応時間が1/150以下で短かった。また、硫酸以外の塩酸や硝酸を使用した比較例2および3の場合、グリセロール転換率が低すぎて、全体的な収率も低いことが分かった。したがって、本発明の実施例によるエステル化合物の製造方法によれば、エステル化合物の反応収率を上昇させるだけでなく、製造時間を顕著に短縮させることを確認することができた。