(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記多孔質フィルムに含まれるポリオレフィンは、炭素原子1000個当たり0.1〜0.9個の分岐を有していることを特徴とする請求項1または2に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
前記ポリオレフィンの結晶融解の熱量が115mJ/mg〜130mJ/mgであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
正極と、請求項1〜5の何れか1項に記載の非水電解液二次電池用セパレータ、又は、請求項6に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータと、負極とがこの順で配置されてなることを特徴とする、非水電解液二次電池用部材。
請求項1〜5の何れか1項に記載の非水電解液二次電池用セパレータ又は請求項6に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータを備えることを特徴とする非水電解液二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上B以下」を意味する。
【0021】
〔1.セパレータ〕
(1−1)非水電解液二次電池用セパレータ
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用セパレータは、非水電解液二次電池において正極と負極との間に配置される膜状の多孔質フィルムである。
【0022】
多孔質フィルムは、重量平均分子量50万以上のポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質かつ膜状の基材(ポリオレフィン系多孔質基材)であればよく、その内部に連結した細孔を有す構造を有し、一方の面から他方の面に気体や液体が透過可能なフィルムである。
【0023】
多孔質フィルムは、電池が発熱したときに溶融して、非水電解液二次電池用セパレータを無孔化することにより、該非水電解液二次電池用セパレータにシャットダウン機能を付与するものである。多孔質フィルムは、1つ層からなるものであってもよいし、複数の層から形成されるものであってもよい。
【0024】
多孔質フィルムの膜厚は、14μm以下であり、好ましくは11μm以下である。これにより、非水電解液二次電池用セパレータを薄くし、非水電解液二次電池の小型化または高エネルギー密度化を図ることができる。また、好ましくは4μm以上であり、より好ましくは5μm以上であり、さらに好ましくは6μm以上である。すなわち、好ましくは4μm以上14μm以下である。
【0025】
本発明の多孔質フィルムは、MD(Machine Direction:機械方向)方向の配向割合が58〜80%であり、好ましくは60〜75%である。MD方向の配向割合が80%以下であると、多孔質フィルムに後述する多孔質層を塗工した際にカールし難くなる傾向がある。また、MD方向に沿った裂け(縦裂け)が発生し難くなり、多孔質フィルムの取り扱いが容易になる。また、MD方向の配向割合が58%以上であると、多孔質フィルムがMD方向に伸び難くなる。また、MD方向への伸び(変形)に伴う多孔質フィルムの結晶化が進み難く、シャットダウン温度が144℃以下になりやすい。そのため、MD方向の配向割合を58〜80%とすることにより、MD方向における伸びを抑制し、また、シャットダウン温度を135〜144℃とすることができる。
【0026】
また、本発明の多孔質フィルムは、MD方向の配向度が70〜80%であり、TD(Transverse Direction)方向の配向度が65〜85%である。MD方向およびTD方向の配向度をこの範囲にすることにより、MD方向の伸びや、多孔質フィルムに後述する多孔質層を塗工した際のカールの発生を抑制することができる。また、MD方向の配向度が80%を超えると、多孔質フィルムに含まれる樹脂の繊維化が進み、搬送時の張力によってフィルムが裂けやすくなるところ、MD方向の配向度を80%以下とすることで、このような裂けの発生を抑制することができる。
【0027】
このように、MD方向の配向割合を58〜80%、MD方向の配向度を70〜80%、TD方向の配向度を65〜85%とすることで、MD方向における伸びやカール(そり)の変形および縦裂けを抑制することができるとともに、シャットダウン温度を135〜144℃とすることができる。また、後述する実施例で示されるように、突刺強度を3.4N以上とすることができる。
【0028】
なお、MD方向の配向割合、MD方向の配向度、TD方向の配向度は、X線解析装置の測定により得られたピークの強度から算出される。具体的には、MD方向の配向割合R2は、
R2=I(MD)/(I(TD)+I(MD))
により算出される。ここで、I(MD)およびI(TD)は、X線の回折像の強度分布において、それぞれMD方向およびTD方向の配向に対応するピークの積分強度を示している。また、MD方向の配向度は、X線の回折像の強度分布において、MD方向の配向に対応するピークの半値幅Hを用いて、
配向度=[(180−H)/180]×100
より算出した。TD方向の配向度も同様である。
【0029】
多孔質フィルムの透気度は、非水電解液二次電池用セパレータとして用いた際に十分なイオン透過性を得るために、ガーレー値で50〜300秒/100ccの範囲であることが好ましく、より好ましくは、70〜240秒/100ccの範囲である。
【0030】
多孔質フィルムに含まれるポリオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンなどを重合した重量平均分子量が50万以上の単独重合体又は共重合体を挙げることができる。これらの中でもエチレンを主体とする重量平均分子量100万以上の高分子量ポリエチレンが好ましい。
【0031】
多孔質フィルムにおけるポリオレフィン成分の割合は、多孔質フィルム全体の50体積%以上であることを好ましく、90体積%以上であることがより好ましく、95体積%以上であることがさらに好ましい。
【0032】
多孔質フィルムに含まれるポリオレフィンは、炭素原子1000個当たり0.1〜0.9個の分岐を有していることが好ましい。ポリオレフィンの分岐度が低い程、TD方向への延伸時にTD方向への配向する傾向が強く、シャットダウン温度が高くなりやすい。上記の範囲の分岐度にすることにより、シャットダウン温度が高くなることを抑制しやすくなる。
【0033】
また、多孔質フィルムに含まれるポリオレフィンにおける結晶融解の熱量(融解熱量)は、115mJ/mg〜130mJ/mgであることが好ましい。ポリオレフィンの融解熱量が高いほど、多孔質フィルムの強度を向上させることができる。なお、融解熱量は、示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry:DSC)により求められる。
【0034】
一方、ポリオレフィンの融解熱量が高いほどTD方向への延伸時にTD方向への配向する傾向が強く、シャットダウン温度が高くなりやすいが、分岐度を上記範囲にすることにより、シャットダウン温度が高くなることを抑制しやすくなる。
【0035】
また、多孔質フィルムは、重量平均分子量1万以下の低分子量のポリオレフィンを含んでいてもよい。低分子量のポリオレフィンとしては例えば、ポリエチレンワックスが好適に用いることが出来る。室温で固体であるワックスが多い場合、MD方向への配向割合が高くなり、シャットダウン温度が下がり易くなる。
【0036】
多孔質フィルムの目付は、強度、膜厚、ハンドリング性及び重量、さらには、非水電解液二次電池に用いた場合の当該電池の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くできる点で、通常、3〜10g/m
2であり、4〜7g/m
2が好ましい。
【0037】
ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質フィルムの製法は、上記のような配向状態が発現する条件であれば、特に限定されるものではない。例えば、多孔質フィルムが超高分子量ポリエチレンおよび重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィンを含むポリオレフィン樹脂から形成されてなる場合には、例えば以下に示すような方法により製造することができる。
【0038】
すなわち、(1)重量平均分子量50万以上の超高分子量ポリエチレン100重量部と、重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィン5〜200重量部と、炭酸カルシウム又は可塑剤等の孔形成剤100〜400重量部とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る工程、(2)前記ポリオレフィン樹脂組成物を圧延してシートを成形する工程、(3)工程(2)で得られたシート中から孔形成剤を除去する工程、(4)工程(3)で得られたシートをTD方向に延伸して多孔質フィルムを得る工程、を含む方法により得ることができる。
【0039】
ここで、(2)の工程における圧延時の圧延力、(4)の工程における延伸温度および延伸倍率によって、MD方向の配向割合、MD方向およびTD方向の配向度を調整する。具体的には、圧延力を大きくすることでMD方向の配向度およびMD方向の配向割合を大きくすることができる。また、TD方向への延伸温度および延伸倍率を大きくすることでTD方向の配向度を大きくすることができる。このとき、多孔質フィルムの配向状態は、多孔質フィルムに含まれるポリオレフィン樹脂の分岐度や結晶度にも依存する。そのため、これら分岐度および結晶度に応じて、圧延力、延伸温度および延伸倍率の最適化を行えばよい。
【0040】
(1−2)非水電解液二次電池用積層セパレータ
本発明の別の実施形態では、セパレータとして、上記の多孔質フィルムである非水電解液二次電池用セパレータと、多孔質層とを備えた非水電解液二次電池用積層セパレータ(以下、積層セパレータということがある。)を用いてもよい。多孔質フィルムについては上述したとおりであるため、ここでは多孔質層について説明する。
【0041】
多孔質層は、必要に応じて、多孔質フィルムである非水電解液二次電池用セパレータの片面または両面に積層される。多孔質層を構成する樹脂は、電池の電解液に不溶であり、また、その電池の使用範囲において電気化学的に安定であることが好ましい。多孔質フィルムの片面に多孔質層が積層される場合には、当該多孔質層は、好ましくは、非水電解液二次電池としたときの、多孔質フィルムにおける正極と対向する面に積層され、より好ましくは正極と接する面に積層される。
【0042】
多孔質層を構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィン;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂;フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体やエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム;芳香族ポリアミド;全芳香族ポリアミド(アラミド樹脂);スチレン−ブタジエン共重合体およびその水素化物、メタクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリ酢酸ビニル等のゴム類;ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルアミド、ポリエステル等の融点やガラス転移温度が180℃以上の樹脂;ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸等の水溶性ポリマー等が挙げられる。
【0043】
多孔質層としては、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含み、電極との接着性に優れた接着層や、芳香族ポリアミド等を含み、耐熱性に優れた耐熱層が知られる。このような非水電解液二次電池用積層セパレータは、膜厚の均一性や、強度、通気性(イオン透過性)にも優れている。
【0044】
耐熱層として機能する多孔質層は、例えば特許文献4に記載の主鎖に窒素原子を含む重合体が挙げられる。特に、芳香族環を含むものが耐熱性の観点から好ましい。例えば、芳香族ポリアミド(以下、「アラミド」ということがある)、芳香族ポリイミド(以下、「ポリイミド」ということがある)、芳香族ポリアミドイミドなどがあげられる。アラミドとしては、例えばメタ配向芳香族ポリアミド(以下、「メタアラミド」ということがある。)とパラ配向芳香族ポリアミド(以下、「パラアラミド」ということがある)があげられ、膜厚が均一で通気性に優れる多孔性の耐熱樹脂層を形成しやすいことからパラアラミドが好ましい。
【0045】
パラアラミドとは、パラ配向芳香族ジアミンとパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドの縮合重合により得られるものであり、アミド結合が芳香族環のパラ位またはそれに準じた配向位(例えば、4、4’−ビフェニレン、1、5−ナフタレン、2、6−ナフタレン等のような反対方向に同軸または平行に延びる配向位)で結合される繰り返し単位から実質的になるものである。具体的には、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(4、4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4、4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン−2、6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2−クロロ−パラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2、6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体等のパラ配向型またはパラ配向型に準じた構造を有するパラアラミドが例示される。
【0046】
上記多孔質層は、フィラーを含んでもよい。したがって、多孔質層がフィラーを含む場合には、上記樹脂は、バインダー樹脂としての機能を有することとなる。フィラーとしては特に限定されるものではなく、有機物からなるフィラーであってもよく、無機物からなるフィラーであってもよい。
有機物からなるフィラーとしては、具体的には、例えば、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル等の単量体の単独重合体或いは2種類以上の共重合体;ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン−エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸;等からなるフィラーが挙げられる。
【0047】
無機物からなるフィラーとしては、具体的には、例えば、炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、シリカ、ハイドロタルサイト、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、窒化チタン、アルミナ(酸化アルミニウム)、窒化アルミニウム、マイカ、ゼオライト、ガラス等の無機物からなるフィラーが挙げられる。フィラーは、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
上記フィラーのうち、無機物からなるフィラーが好適であり、シリカ、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト等の無機酸化物からなるフィラーがより好ましく、シリカ、酸化マグネシウム、酸化チタン、およびアルミナからなる群から選択される少なくとも1種のフィラーがさらに好ましく、アルミナが特に好ましい。アルミナには、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ等の多くの結晶形が存在するが、何れも好適に使用することができる。この中でも、熱的安定性および化学的安定性が特に高いため、α−アルミナが最も好ましい。
【0049】
フィラーの形状は、原料である有機物または無機物の製造方法や、多孔質層を形成するための塗工液を作製するときのフィラーの分散条件等によって変化し、球形、長円形、短形、瓢箪形等の形状、或いは特定の形状を有さない不定形等、何れの形状であってもよい。
【0050】
多孔質層がフィラーを含んでいる場合において、フィラーの含有量は、多孔質層の1〜99体積%であることが好ましく、5〜95体積%であることがより好ましい。フィラーの含有量を上記範囲とすることにより、フィラー同士の接触によって形成される空隙が、樹脂等によって閉塞されることが少なくなり、充分なイオン透過性を得ることができると共に、単位面積当たりの目付を適切な値にすることができる。
【0051】
本発明においては、通常、上記樹脂を溶媒に溶解させると共に、上記フィラーを分散させることにより、多孔質層を形成するための塗工液を作製する。
【0052】
上記溶媒(分散媒)は、多孔質フィルムに悪影響を及ぼさず、上記樹脂を均一かつ安定に溶解し、上記フィラーを均一かつ安定に分散させることができればよく、特に限定されるものではない。上記溶媒(分散媒)としては、具体的には、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール等の低級アルコール;アセトン、トルエン、キシレン、ヘキサン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド;等が挙げられる。上記溶媒(分散媒)は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
塗工液は、所望の多孔質層を得るのに必要な樹脂固形分(樹脂濃度)やフィラー量等の条件を満足することができれば、どのような方法で形成されてもよい。塗工液の形成方法としては、具体的には、例えば、機械攪拌法、超音波分散法、高圧分散法、メディア分散法等が挙げられる。
【0054】
また、例えば、スリーワンモーター、ホモジナイザー、メディア型分散機、圧力式分散機等の従来公知の分散機を使用してフィラーを溶媒(分散媒)に分散させてもよい。
【0055】
また、上記塗工液は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記樹脂およびフィラー以外の成分として、分散剤や可塑剤、界面活性剤、pH調整剤等の添加剤を含んでいてもよい。尚、添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない範囲であればよい。
【0056】
塗工液のセパレータへの塗布方法、つまり、必要に応じて親水化処理が施されたセパレータの表面への多孔質層の形成方法は、特に制限されるものではない。セパレータの両面に多孔質層を積層する場合においては、セパレータの一方の面に多孔質層を形成した後、他方の面に多孔質層を形成する逐次積層方法や、セパレータの両面に多孔質層を同時に形成する同時積層方法を適用することができる。
【0057】
多孔質層の形成方法としては、例えば、塗工液をセパレータの表面に直接塗布した後、溶媒(分散媒)を除去する方法;塗工液を適当な支持体に塗布し、溶媒(分散媒)を除去して多孔質層を形成した後、この多孔質層とセパレータとを圧着させ、次いで支持体を剥がす方法;塗工液を適当な支持体に塗布した後、塗布面に多孔質フィルムを圧着させ、次いで支持体を剥がした後に溶媒(分散媒)を除去する方法;および、塗工液中にセパレータを浸漬し、ディップコーティングを行った後に溶媒(分散媒)を除去する方法;等が挙げられる。
【0058】
多孔質層の厚さは、塗工後の湿潤状態(ウェット)の塗工膜の厚さ、樹脂とフィラーとの重量比、塗工液の固形分濃度(樹脂濃度とフィラー濃度との和)等を調節することによって制御することができる。尚、支持体として、例えば、樹脂製のフィルム、金属製のベルト、またはドラム等を用いることができる。
【0059】
上記塗工液をセパレータまたは支持体に塗布する方法は、必要な目付や塗工面積を実現し得る方法であればよく、特に制限されるものではない。塗工液の塗布方法としては、従来公知の方法を採用することができる。このような方法として、具体的には、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクターブレードコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、バーコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、およびスプレー塗布法等が挙げられる。
【0060】
溶媒(分散媒)の除去方法は、乾燥による方法が一般的である。乾燥方法としては、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥、および減圧乾燥等が挙げられるが、溶媒(分散媒)を充分に除去することができるのであれば如何なる方法でもよい。上記乾燥には、通常の乾燥装置を用いることができる。
【0061】
また、塗工液に含まれる溶媒(分散媒)を他の溶媒に置換してから乾燥を行ってもよい。溶媒(分散媒)を他の溶媒に置換してから除去する方法としては、例えば、塗工液に含まれる溶媒(分散媒)に溶解し、かつ、塗工液に含まれる樹脂を溶解しない他の溶媒(以下、溶媒X)を使用し、塗工液が塗布されて塗膜が形成されたセパレータまたは支持体を上記溶媒Xに浸漬し、セパレータ上または支持体上の塗膜中の溶媒(分散媒)を溶媒Xで置換した後に、溶媒Xを蒸発させる方法が挙げられる。この方法によれば、塗工液から溶媒(分散媒)を効率よく除去することができる。
【0062】
尚、セパレータまたは支持体に形成された塗工液の塗膜から溶媒(分散媒)或いは溶媒Xを除去するために加熱を行う場合には、多孔質フィルムの細孔が収縮して透気度が低下することを回避するために、セパレータの透気度が低下しない温度、具体的には、10〜120℃、より好ましくは20〜80℃で行うことが望ましい。
【0063】
上述した方法により形成される上記多孔質層の膜厚は、セパレータを基材として用い、セパレータの片面または両面に多孔質層を積層して積層セパレータを形成する場合においては、0.5〜15μm(片面当たり)であることが好ましく、2〜10μm(片面当たり)であることがより好ましい。
【0064】
多孔質層の膜厚が1μm以上(片面においては0.5μm以上)であることが、当該多孔質層を備える非水電解液二次電池用積層セパレータにおいて、電池の破損等による内部短絡を充分に防止することができ、また、多孔質層における電解液の保持量を維持できるという面において好ましい。一方、多孔質層の膜厚が両面の合計で30μm以下(片面においては15μm以下)であることが、当該多孔質層を備える非水電解液二次電池用積層セパレータ全域におけるリチウムイオン等のイオンの透過抵抗の増加を抑制し、充放電サイクルを繰り返した場合の正極の劣化、レート特性やサイクル特性の低下を防ぐことができる面、並びに、正極および負極間の距離の増加を抑えることにより非水電解液二次電池の大型化を防ぐことができる面において好ましい。
【0065】
多孔質層の物性に関する下記説明においては、多孔質フィルムの両面に多孔質層が積層される場合には、非水電解液二次電池としたときの、多孔質フィルムにおける正極と対向する面に積層された多孔質層の物性を少なくとも指す。
【0066】
多孔質層の単位面積当たりの目付(片面当たり)は、非水電解液二次電池用積層セパレータの強度、膜厚、重量、およびハンドリング性を考慮して適宜決定すればよいものの、非水電解液二次電池用積層セパレータを部材として含む非水電解液二次電池の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くすることができるように、通常、1〜20g/m
2であることが好ましく、2〜10g/m
2であることがより好ましい。多孔質層の目付が上記範囲内であることが、当該多孔質層を備える非水電解液二次電池用積層セパレータを部材とする非水電解液二次電池の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くすることができ、当該電池の重量が軽くなるため好ましい。
【0067】
多孔質層の空隙率は、当該多孔質層を備える非水電解液二次電池用積層セパレータが充分なイオン透過性を得ることができるという面において、20〜90体積%であることが好ましく、30〜70体積%であることがより好ましい。また、多孔質層が有する細孔の孔径は、当該多孔質層を備える非水電解液二次電池用積層セパレータが充分なイオン透過性を得ることができるという面において、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。
【0068】
上記積層セパレータの透気度は、ガーレ値で30〜1000 sec/100mLであることが好ましく、50〜800 sec/100mLであることがより好ましい。積層セパレータが上記透気度を有することにより、上記積層セパレータを非水電解液二次電池用の部材として使用した場合に、充分なイオン透過性を得ることができる。
【0069】
透気度が上記範囲を超える場合には、積層セパレータの空隙率が高いために積層セパレータの積層構造が粗になっていることを意味し、結果としてセパレータの強度が低下して、特に高温での形状安定性が不充分になるおそれがある。一方、透気度が上記範囲未満の場合には、上記積層セパレータを非水電解液二次電池用の部材として使用した場合に、充分なイオン透過性を得ることができず、非水電解液二次電池の電池特性を低下させることがある。
【0070】
〔2.非水電解液二次電池用部材、非水電解液二次電池〕
本発明に係る非水電解液二次電池用部材は、正極、非水電解液二次電池用セパレータまたは非水電解液二次電池用積層セパレータ、および負極がこの順で配置されてなる非水電解液二次電池用部材である。また、本発明に係る非水電解液二次電池は、非水電解液二次電池用セパレータまたは非水電解液二次電池用積層セパレータを備える。以下、非水電解液二次電池用部材として、リチウムイオン二次電池用部材を例に挙げ、非水電解液二次電池として、リチウムイオン二次電池を例に挙げて説明する。尚、上記非水電解液二次電池用セパレータ、上記非水電解液二次電池用積層セパレータ以外の非水電解液二次電池用部材、非水電解液二次電池の構成要素は、下記説明の構成要素に限定されるものではない。
【0071】
本発明に係る非水電解液二次電池においては、例えばリチウム塩を有機溶媒に溶解してなる非水電解液を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、LiClO
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、Li
2B
10Cl
10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl
4等が挙げられる。上記リチウム塩は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。上記リチウム塩のうち、LiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、およびLiC(CF
3SO
2)
3からなる群から選択される少なくとも1種のフッ素含有リチウム塩がより好ましい。
【0072】
非水電解液を構成する有機溶媒としては、具体的には、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタン等のカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドン等のカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトン等の含硫黄化合物;並びに、上記有機溶媒にフッ素基が導入されてなる含フッ素有機溶媒;等が挙げられる。上記有機溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。上記有機溶媒のうち、カーボネート類がより好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒、または、環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、作動温度範囲が広く、かつ、負極活物質として天然黒鉛や人造黒鉛等の黒鉛材料を用いた場合においても難分解性を示すことから、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒がさらに好ましい。
【0073】
正極としては、通常、正極活物質、導電材および結着剤を含む正極合剤を正極集電体上に担持したシート状の正極を用いる。
【0074】
上記正極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料が挙げられる。当該材料としては、具体的には、例えば、V、Mn、Fe、Co、Ni等の遷移金属を少なくとも1種類含んでいるリチウム複合酸化物が挙げられる。上記リチウム複合酸化物のうち、平均放電電位が高いことから、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等のα−NaFeO
2型構造を有するリチウム複合酸化物、リチウムマンガンスピネル等のスピネル型構造を有するリチウム複合酸化物がより好ましい。当該リチウム複合酸化物は、種々の金属元素を含んでいてもよく、複合ニッケル酸リチウムがさらに好ましい。さらに、Ti、Zr、Ce、Y、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Ag、Mg、Al、Ga、InおよびSnからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素のモル数とニッケル酸リチウム中のNiのモル数との和に対して、上記少なくとも1種の金属元素の割合が0.1〜20モル%となるように当該金属元素を含む複合ニッケル酸リチウムを用いると、高容量での使用におけるサイクル特性に優れるので特に好ましい。中でもAlまたはMnを含み、かつ、Ni比率が85%以上、さらに好ましくは90%以上である活物質が、当該活物質を含む正極を備える非水電解液二次電池の高容量での使用におけるサイクル特性に優れることから、特に好ましい。
【0075】
上記導電材としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料等が挙げられる。上記導電材は、1種類のみを用いてもよく、例えば人造黒鉛とカーボンブラックとを混合して用いる等、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
上記結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、熱可塑性ポリイミド、ポリエチレン、及びポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、アクリル樹脂、並びに、スチレンブタジエンゴムが挙げられる。尚、結着剤は、増粘剤としての機能も有している。
【0077】
正極合剤を得る方法としては、例えば、正極活物質、導電材および結着剤を正極集電体上で加圧して正極合剤を得る方法;適当な有機溶剤を用いて正極活物質、導電材および結着剤をペースト状にして正極合剤を得る方法;等が挙げられる。
【0078】
上記正極集電体としては、例えば、Al、Ni、ステンレス等の導電体が挙げられ、薄膜に加工し易く、安価であることから、Alがより好ましい。
【0079】
シート状の正極の製造方法、即ち、正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、例えば、正極合剤となる正極活物質、導電材および結着剤を正極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて正極活物質、導電材および結着剤をペースト状にして正極合剤を得た後、当該正極合剤を正極集電体に塗工し、乾燥して得られたシート状の正極合剤を加圧して正極集電体に固着する方法;等が挙げられる。
【0080】
負極としては、通常、負極活物質を含む負極合剤を負極集電体上に担持したシート状の負極を用いる。シート状の負極には、好ましくは上記導電材、及び、上記結着剤が含まれる。
【0081】
上記負極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料、リチウム金属またはリチウム合金等が挙げられる。当該材料としては、具体的には、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料;正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープ・脱ドープを行う酸化物、硫化物等のカルコゲン化合物;アルカリ金属と合金化するアルミニウム(Al)、鉛(Pb)、錫(Sn)、ビスマス(Bi)、シリコン(Si)などの金属、アルカリ金属を格子間に挿入可能な立方晶系の金属間化合物(AlSb、Mg
2Si、NiSi
2)、リチウム窒素化合物(Li
3-xM
xN(M:遷移金属))等を用いることができる。上記負極活物質のうち、電位平坦性が高く、また平均放電電位が低いために正極と組み合わせた場合に大きなエネルギー密度が得られることから、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を主成分とする炭素質材料がより好ましく、黒鉛とシリコンの混合物であって、そのCに対するSiの比率が5%以上のものがより好ましく、10%以上である負極活物質がさらに好ましい。
【0082】
負極合剤を得る方法としては、例えば、負極活物質を負極集電体上で加圧して負極合剤を得る方法;適当な有機溶剤を用いて負極活物質をペースト状にして負極合剤を得る方法;等が挙げられる。
【0083】
上記負極集電体としては、例えば、Cu、Ni、ステンレス等が挙げられ、特にリチウムイオン二次電池においてはリチウムと合金を作り難く、かつ薄膜に加工し易いことから、Cuがより好ましい。
【0084】
シート状の負極の製造方法、即ち、負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、例えば、負極合剤となる負極活物質を負極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて負極活物質をペースト状にして負極合剤を得た後、当該負極合剤を負極集電体に塗工し、乾燥して得られたシート状の負極合剤を加圧して負極集電体に固着する方法;等が挙げられる。上記ペーストには、好ましくは上記導電助剤、及び、上記結着剤が含まれる。
【0085】
上記正極、非水電解液二次電池用セパレータ又は非水電解液二次電池用積層セパレータ、および負極をこの順で配置して本発明に係る非水電解液二次電池用部材を形成した後、非水電解液二次電池の筐体となる容器に当該非水電解液二次電池用部材を入れ、次いで、当該容器内を非水電解液で満たした後、減圧しつつ密閉することにより、本発明に係る非水電解液二次電池を製造することができる。非水電解液二次電池の形状は、特に限定されるものではなく、薄板(ペーパー)型、円盤型、円筒型、直方体等の角柱型等のどのような形状であってもよい。尚、非水電解液二次電池の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の製造方法を採用することができる。
【実施例】
【0086】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0087】
<各種物性の測定方法>
以下の実施例および比較例に係る多孔質フィルムである非水電解液二次電池用セパレータの各種物性を、以下の方法で測定した。
【0088】
(1)配向割合、配向度
多孔質フィルムの結晶性パラメータであるMD方向の配向割合、MD方向の配向度、TD方向の配向度は、X線解析装置(リガク社製、RAD−B型)を用いて測定した。
【0089】
MD方向の配向割合は、MD方向およびTD方向にスキャンして得られた2θ=21.3、23.7、29.8付近のピークの積分強度から下記式により算出した。
MD方向の配向割合R2=I(MD)/[I(MD)+I(TD)]×100
ここで、I(MD)はMD方向のピークの積分強度であり、I(TD)はTD方向のピークの積分強度である。
【0090】
また、MD方向の配向度は、MD方向にスキャンして得られた2θ=21.3、23.7、29.8付近のピークの半値幅Hから下記式により算出した。
配向度=[(180−H)/180]×100
TD方向の配向度も同様に算出した。
【0091】
(2)膜厚
JIS K7130に準拠してミツトヨ製VL-50Aにて、多孔質フィルムの膜厚測定を行った。測定はフィルム1m
2あたり10箇所について行い、その平均値を算出した。
【0092】
(3)目付
多孔質フィルムを一辺の長さ10cmの正方形に切り取り、重量W(g)を測定した。そして、目付(g/m
2)=W/(0.1×0.1)の式に従って目付を算出した。
【0093】
(4)透気度(ガーレー値)
多孔質フィルムの透気度(ガーレー値(秒/100cc))は、JIS P8117に基づいて、株式会社東洋精機製作所製のB型デンソメータで測定した。測定はフィルム1m
2あたり10箇所について行い、その平均値を算出した。
【0094】
(5)突刺強度
カトーテック社製KES−G5ハンディー圧縮試験器を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度3.3mm/secの条件で突刺試験を行い、最大突刺荷重(N)を突刺強度とした。ここでサンプルはΦ11.3mmの穴があいた金枠(試料ホルダー)にシリコンゴム製のパッキンも一緒に挟み固定した。
【0095】
(6)シャットダウン温度(SD温度)
多孔質フィルムから直径19.4mmの円形状測定用サンプルを切り出し、測定用サンプルとした。また、2032型コインセルの部材(上蓋、下蓋、ガスケット、カプトンリング(外径16.4mm、内径8mm、厚さ0.05mm)、スペーサー(直径15.5mm、厚さ0.5mmの円形状スペーサー)、アルミリング(外径16mm、内径10mm、厚さ1.6mm))(宝泉株式会社製)を用意した。
【0096】
そして、下蓋から順に測定用サンプル、ガスケットリングを設置し、電解液10μmLを含浸させた後、測定用サンプルの上から順番にカプトンリング、スペーサー、アルミリング、上蓋を設置し、コインセルカシメ器(宝泉株式会社製)で密閉することによって、測定用のコインセルを作製した。ここで、電解液としては、LiBF
4をプロピレンカーボネート、NIKKOLBT−12(日光ケミカルズ株式会社製)の体積比が91.5:8.5の混合溶媒に溶解させた25℃の電解液(LiBF
4濃度:1.0mol/L)を用いた。
【0097】
測定用のコインセル内部の温度を、15℃/分の速度で室温から150℃まで昇温しながら、上記コインセル内部の温度をデジタルマルチメーター(株式会社エーディーシー製; 7352A)、上記コインセルにおける1kHzでの抵抗値をLCRメータ(日置電機株式会社製;IM3523)により連続的に測定した。
【0098】
測定中、コインセルの1kHzでの抵抗値が2000Ω以上となる場合、そのコインセルはシャットダウン機能を備えることが確認されたとした。
【0099】
この時、抵抗が増加し始める温度を、シャットダウン温度(SD温度)と定義した。具体的には、
図1に示すように、セル温度と抵抗値の関係のグラフから抵抗値2000Ωの接線と抵抗が大きく増加する前のベースの抵抗値直線との交点をSD温度とした。
【0100】
(7)分子量の測定
測定装置としてウォーターズ社製ゲルクロマトグラフAlliance GPC2000型を使用して、多孔質フィルムに含まれるポリオレフィンの分子量を測定した。条件を以下に示す。
カラム:東ソー社製TSKgel GMHHR−H(S)HT 30cm×2、TSKgel GMH6−HTL 30cm×2
移動相:o−ジクロロベンゼン
検出器:示差屈折計
流 速:1.0mL/分
カラム温度:140℃
注入量:500μL
試料30mgをo−ジクロロベンゼン20mLに145℃で完全に溶解した後、その溶液を孔径が0.45μmの焼結フィルターでろ過し、そのろ液を供給液とした。なお、較正曲線は、分子量既知の16種の標準ポリスチレンを用いて作製した。
【0101】
(8)分岐度の測定
ポリオレフィンの分岐度は、以下の測定条件にて炭素核磁気共鳴(13C NMR)スペクトル測定し、13C NMRスペクトルにおいて、5〜50ppmに観測されるすべてのピークの総和を1000として、33.1〜33.3ppm、38.1〜38.3ppmおよび39.7〜39.9ppmに付近にピークトップを有するピークの積分値の総和を算出することによって求めた。
【0102】
<測定条件>
装置:ブルカー・バイオスピン(株)製 AVANCEIII 600HD
測定プローブ:10mmクライオプローブ
測定溶媒:1,2−ジクロロベンゼン/1,1,2,2−テトラクロロエタン−d2=85/15(容積比)の混合液
試料濃度:20mg/mL
測定温度:135℃
測定方法:プロトンデカップリング法
積算回数:3000回
パルス幅:45度
パルス繰り返し時間:4秒
測定基準:テトラメチルシラン。
【0103】
(9)融解熱量の測定
測定装置としてセイコーインスツルメンツ社製DSC6200型を使用して以下の条件で、原料樹脂及び多孔質フィルムの融解熱量を測定した。
分析雰囲気:N
2気流下 50mL/min
温度条件:1回目昇温 30℃−180℃(10℃/min)
2回目昇温 30℃−180℃(10℃/min)
サンプル量:原料樹脂:約5.0mg
多孔質フィルム 約1.4mg
2回目昇温時に得られた114〜140℃間の面積を質量当りの融解熱量に換算した。
【0104】
(10)高速ウェブハンドリング時の幅方向への維持率
高速巻き替え時の幅方向への変形評価として、40m/分で後述する耐熱層を高速塗工した際、巻き取り機の設定張力を120Nにして巻いた時の、塗工前の原反幅D1に対して、巻き取り後の幅D2としたときの維持率(%)を、D2÷D1×100で求めた。
【0105】
(11)カール評価
後述する耐熱層が積層された多孔質フィルムから8cm×8cmのサンプル片にカッターで切出し、室温25℃、湿度50%の環境下で5分放置し、床面からのフィルム端の反り上がり量を測定した。
【0106】
<非水電解液二次電池用セパレータの作製>
以下のようにして、非水電解液二次電池用セパレータまた非水電解液二次電池用積層セパレータに用いられる、実施例1〜3および比較例1、2に係る多孔質フィルムを作製した。
【0107】
(実施例1)
ポリエチレン粉末100重量部(GUR2024、セラニーズ製、重量平均分子量497万、融点134℃、融解熱量126mJ/mg)に対し、オレフィン系ワックス粉末43重量部(FNP115、日本精蝋製、重量平均分子量1000、融点115℃)と炭酸カルシウム(丸尾カルシウム、SEMで求めた平均粒子径0.10μm)170重量部をヘンシェルミキサーで混合し、その後2軸混練機にて230℃のシリンダ温度に設定し混練してポリオレフィン系樹脂組成物を得た。該ポリオレフィン系樹脂組成物を、表面温度が約150℃であり、同周速度で回転する一対のロールで圧延し、シート(1)を作製した。
【0108】
次に、
図2に示す装置を用いてシート(1)(図中では符号gで示す)中の炭酸カルシウムを除去した。シート(1)をガイドロールdにより搬送し塩酸水溶液(塩酸2〜4mol/L、非イオン系界面活性剤0.1〜0.5重量%)の入った浴槽aに15分間浸漬して炭酸カルシウムを除去し、続いて該シートを水酸化ナトリウム水溶液(0.1〜2mol/L)の入った浴槽bに2分間浸漬し、中和した。さらに該シートを水の入った浴槽cで5分間水洗浄し、最後に50℃に加熱した乾燥ドラム(ロール)eに接触させて乾燥して、巻取機fにて巻き取った。その後、該シートをテンターにて7倍にTD方向に延伸し(延伸温度103℃)、熱固定処理(熱固定温度(アニール温度)127℃)を行った。得られた多孔質フィルムの物性を表1に示した。
【0109】
(実施例2)
ポリエチレン粉末100重量部(GUR2024、セラニーズ製、重量平均分子量497万、融点134℃、融解熱量126mJ/mg)に対し、オレフィン系ワックス粉末37重量部(FNP115、日本精蝋製、重量平均分子量1000、融点115℃)と炭酸カルシウム(丸尾カルシウム、SEMで求めた平均粒子径0.10μm)170重量部をヘンシェルミキサーで混合し、その後2軸混練機にて230℃に設定し混練してポリオレフィン系樹脂組成物を得た。該ポリオレフィン系樹脂組成物を、表面温度が約150℃であり、同周速度で回転する一対のロールで圧延し、シート(2)を作製した。
【0110】
次に、
図2に示す装置を用いてシート(2)(図中では符号gで示す)中の炭酸カルシウムを除去した。シート(2)をガイドロールdにより搬送し塩酸水溶液(塩酸2〜4mol/L、非イオン系界面活性剤0.1〜0.5重量%)の入った浴槽aに15分間浸漬して炭酸カルシウムを除去し、続いて該シートを水酸化ナトリウム水溶液(0.1〜2mol/L)の入った浴槽bに2分間浸漬し、中和した。さらに該シートを水の入った浴槽cで5分間水洗浄し、最後に50℃に加熱した乾燥ドラムeに接触させて乾燥して、巻取機fにて巻き取った。その後、該シートをテンターにてTD方向に7倍に延伸し(延伸温度103℃)、熱固定処理(熱固定温度(アニール温度)127℃)を行った。得られた多孔質フィルムの物性を表1に示した。
【0111】
(実施例3)
ポリエチレン粉末100重量部(GUR2024、セラニーズ製、重量平均分子量497万、融点134℃、融解熱量126mJ/mg)に対し、オレフィン系ワックス粉末43重量部(FNP115、日本精蝋製、重量平均分子量1000、融点115℃)と炭酸カルシウム(丸尾カルシウム、SEMで求めた平均粒子径0.10μm)170重量部をヘンシェルミキサーで混合し、その後2軸混練機にてシリンダ温度230℃に設定し混練してポリオレフィン系樹脂組成物を得た。該ポリオレフィン系樹脂組成物を、表面温度が約151℃であり、同周速度で回転する一対のロールで圧延し、シート(3)を作製した。
【0112】
次に、
図2に示す装置を用いてシート(3)(図中では符号gで示す)中の炭酸カルシウムを除去した。シート(3)をガイドロールdにより搬送し塩酸水溶液(塩酸2〜4mol/L、非イオン系界面活性剤0.1〜0.5重量%)の入った浴槽aに15分間浸漬して炭酸カルシウムを除去し、続いて該シートを水酸化ナトリウム水溶液(0.1〜2mol/L)の入った浴槽bに2分間浸漬し、中和した。さらに該シートを水の入った浴槽cで5分間水洗浄し、最後に50℃に加熱した乾燥ドラムeに接触させて乾燥して、巻取機fにて巻き取った。その後、該シートをテンターにてTD方向に5.4倍に延伸し(延伸温度110℃)、熱固定処理(熱固定温度(アニール温度)124℃)を行った。得られた多孔質フィルムの物性を表1に示した。
【0113】
(比較例1)
ポリエチレン粉末100重量部(GURX198、セラニーズ製、重量平均分子量479万、融点134℃、融解熱量112mJ/mg)に対し、オレフィン系ワックス粉末37重量部(FNP115、日本精蝋製、重量平均分子量1000、融点115℃)と炭酸カルシウム(丸尾カルシウム、SEMで求めた平均粒子径0.10μm)170重量部をヘンシェルミキサーで混合し、その後2軸混練機にて混練してポリオレフィン系樹脂組成物を得た。該ポリオレフィン系樹脂組成物を、表面温度が約150℃であり、同周速度で回転する一対のロールで圧延し、シート(5)を作製した。
【0114】
次に、
図2に示す装置を用いてシート(5)中の炭酸カルシウムを除去した。シート(5)をガイドロールdにより搬送し塩酸水溶液(塩酸2〜4mol/L、非イオン系界面活性剤0.1〜0.5重量%)の入った浴槽aに15分間浸漬して炭酸カルシウムを除去し、続いて該シートを水酸化ナトリウム水溶液(0.1〜2mol/L)の入った浴槽bに2分間浸漬し、中和した。さらに該シートを水の入った浴槽cで5分間水洗浄し、最後に50℃に加熱した乾燥ドラムeに接触させて乾燥して、巻取機fにて巻き取った。その後、該シートをテンターにてTD方向に7倍に延伸し(延伸温度103℃)、熱固定処理(熱固定温度(アニール温度)127℃)を行った。得られた多孔質フィルムの物性を表1に示した。
【0115】
(比較例2)
市販されている非水電解液二次電池用のポリオレフィン多孔質フィルムの物性を表1に示した。
【0116】
(耐熱層)
上述した「(9)高速ウェブハンドリング時の幅方向への維持率」および「(10)カール評価」を行う際に用いる耐熱層を、以下のようにして多孔質フィルムに積層した。
【0117】
(パラアラミド(ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド))の合成)
撹拌翼、温度計、窒素流入管および粉体添加口を有する、3リットルのセパラブルフラスコを使用して、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)の製造を行った。フラスコを十分乾燥し,N−メチル−2−ピロリドン(NMP)2200gを仕込み、200℃で2時間真空乾燥した塩化カルシウム粉末151.07gを添加し、100℃に昇温して完全に溶解させた。室温に戻して、パラフェニレンジアミン68.23gを添加し完全に溶解させた。この溶液を20℃±2℃に保ったまま、テレフタル酸ジクロライド124.97gを10分割して約5分おきに添加した。その後も撹拌しながら、溶液を20℃±2℃に保ったまま1時間熟成した。そして、1500メッシュのステンレス金網でろ過した。得られた溶液は、パラアラミド濃度6%の液晶相で、光学的異方性を示した。パラアラミド溶液の一部をサンプリングし、水で再沈して得られたパラアラミドの固有粘度は、2.02dl/gであった。
【0118】
ここで、パラアラミドの固有粘度は、以下のようにして測定した。
まず、重合液を水中へ滴下し、ミキサーで粉砕、ろ過を行い、パラアラミド重合体を得た。次に、98%硫酸100mlに300℃で一時間真空乾燥したパラアラミド重合体0.5gを溶解させ、パラアラミド硫酸溶液および98%硫酸について、それぞれ毛細管粘度計により30℃にて流動時間を測定し、求められた流動時間の比から次式により固有粘度を求めた。
固有粘度=ln(T/T
0)/C 〔単位:dl/g〕
なお、TおよびT
0は、それぞれパラアラミド硫酸溶液および硫酸の流動時間であり、Cは、パラアラミド硫酸溶液中のパラアラミド濃度(g/dl)を示す。
【0119】
(塗工液の調製)
先に重合したパラアラミド溶液100gをフラスコに秤取し、243gのNMPを添加し、最終的に、パラアラミド濃度が1.75重量%の等方相の溶液に調製して60分間攪拌した。上記のパラアラミド濃度が1.75重量%の溶液にアルミナC(日本アエロジル社製品)を6g(対パラアラミド100重量部)、アドバンスドアルミナAA-03(住友化学社製品)を6g(対パラアラミド100重量部)混合し、240分間攪拌した。アルミナ微細粒子を十分分散させた塗工ドープを1000メッシュの金網でろ過した。その後、酸化カルシウム0.73gを添加して240分攪拌して中和を行い、減圧下で脱泡しスラリー状の塗工液を得た。
【0120】
(多孔質フィルムへの積層方法)
実施例1〜3、及び比較例1,2の多孔質フィルムの巻き物(幅約1m、長さ1000m)を巻き出し機に取り付けた。このとき、正確な幅D1mmを測定した。そして、張力120N/m、ライン速度40m/分で引き出しながら塗工液を塗布し、連続的に多孔質フィルム上に耐熱層を作製した。
【0121】
まず、引き出した多孔質フィルムの下面にNMPをマイクログラビアコーターで塗布し、上面に調製した塗工液をバーコーターで100μm厚みに塗布した。その後、恒温恒湿槽内(温度50℃、相対湿度70%)を通し、塗布した塗工液よりパラアラミドを析出させた。続いて、水洗装置を通してフィルム中のNMP、塩化カルシウムを除去した。その後、ヤンキードライヤーで熱風を送りつつ、熱ロール(表面温度60〜90℃)を通して水分を乾燥除去して多孔質フィルムの片面に耐熱層が積層されてなる非水電解液二次電子用積層セパレータを得て、120N/mの張力で3インチの紙管に巻き取った。
【0122】
各フィルムの塗工巻取の最終幅D2を求め、高速ウェブハンドリング時の幅方向への維持率(%)(=D2÷D1×100)を求めた。また、上述したカール評価を行った。
【0123】
【表1】
【0124】
表に示されるように、MD方向の配向割合が58〜80%、MD方向の配向度が70〜80%、TD方向の配向度が65〜85%を満たす実施例1〜3では、シャットダウン温度が144℃以下でありながら、突刺強度が3.4N以上であり、シャットダウン温度と強度に優れていることが確認できた。
【0125】
これに対し、比較例1では、MD方向の配向割合が54%と低いことから、シャットダウン温度が145.9℃と高いことが確認された。また、比較例2では、突刺強度が弱かった。
【0126】
また、実施例1〜3では、高速ウェブハンドリング時の幅方向への維持率が90%以上を確保するとともに、カール量を4mm未満に抑えることができた。すなわち、フィルム変形(伸び、そり)を抑制することができる。なお、カール量が4mm以上となると、多孔質フィルムの搬送時に多孔質フィルムがロール部で折れ込みが発生する可能性が高くなるが、実施例1〜3では、カール量を4mm未満に抑えているため、折れ込みの発生を防止できる。これに対し比較例2では、MDの配向割合が100%と高いことから、カール量が10mm以上と大きく、フィルム変形(そり)を抑制できないことが確認された。
【解決手段】非水電解液二次電池用セパレータは、重量分子量が50万以上であるポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルムであって、MD方向の配向割合が58〜80%、MD方向への配向度が70〜80%、TD方向への配向度が65〜85%であり、膜厚が14μm以下である。