特許第5969760号(P5969760)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969760
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】熱式流量センサ
(51)【国際特許分類】
   G01F 1/698 20060101AFI20160804BHJP
   G01F 1/69 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   G01F1/698 A
   G01F1/69 A
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-286701(P2011-286701)
(22)【出願日】2011年12月27日
(65)【公開番号】特開2013-134231(P2013-134231A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100113468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】岡野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】白井 隆
【審査官】 山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−201793(JP,A)
【文献】 特開2010−169657(JP,A)
【文献】 特開平7−198437(JP,A)
【文献】 特開平5−157601(JP,A)
【文献】 特開2004−340961(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/040327(WO,A1)
【文献】 特開2001−304934(JP,A)
【文献】 特開2004−340963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/68 − 1/699
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体である処理用ガスが流れるメイン流路及び当該メイン流路から分岐して前記流体を分流させて前記流体の流量を検出する流量検出機構が設けられるセンサ流路を備えており、
前記流量検出機構が、前記センサ流路を形成するセンサ流路管に巻回された発熱抵抗線からなる上流側コイル及び下流側コイルを有し、
前記上流側コイル及び前記下流側コイルにより前記センサ流路に生じる温度分布のピーク位置が、前記センサ流路における前記上流側コイル及び前記下流側コイルの間の中央位置よりも前記上流側コイル側にあることを特徴とする熱式流量センサ。
【請求項2】
流体である処理用ガスが流れるメイン流路及び当該メイン流路から分岐して前記流体を分流させて前記流体の流量を検出する流量検出機構が設けられるセンサ流路を備えており、
前記流量検出機構が、前記センサ流路を形成するセンサ流路管に巻回された発熱抵抗線からなる上流側コイル及び下流側コイルを有し、
前記上流側コイルの加熱温度が前記下流側コイルの加熱温度よりも高く設定されていることを特徴とする熱式流量センサ。
【請求項3】
流体である処理用ガスが流れるメイン流路及び当該メイン流路から分岐して前記流体を分流させて前記流体の流量を検出する流量検出機構が設けられるセンサ流路を備えており、
前記流量検出機構が、前記センサ流路を形成するセンサ流路管に巻回された発熱抵抗線からなる上流側コイル及び下流側コイルを有し、
前記上流側コイルの巻線幅が、前記下流側コイルの巻線幅よりも長くなるように構成されていることを特徴とする熱式流量センサ。
【請求項4】
前記上流側コイルを含むブリッジ回路を有する上流側定温度制御回路と、前記下流側コイルを含むブリッジ回路を有する下流側定温度制御回路とを有する請求項1乃至3の何れかに記載の熱式流量センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱式流量センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の熱式流量センサとしては、特許文献1に示すように、流体が流れるメイン流路及び当該メイン流路から分岐して前記流体を分流させて前記流体の流量を検出する流量検出機構が設けられたセンサ流路を備えたものがある。
【0003】
そして、前記流量検出機構としては、図10に示すように、センサ流路を形成するセンサ流路管に、温度に応じて抵抗値が変化する発熱抵抗体からなる上流側コイル及び下流側コイルを互いに独立して設けるとともに、上流側コイルを含むブリッジ回路を有する上流側定温度制御回路と、下流側コイルを含むブリッジ回路を有する下流側定温度制御回路とを設けたものがある。そして、これら定温度制御回路によって前記上流側コイル及び下流側コイルの温度を常に相等しく且つ一定となるように制御し、上流側定温度制御回路の出力電圧をVu、下流側定温度制御回路の出力電圧をVdとして、例えば(Vu−Vd)/(Vu+Vd)又は(Vu−Vd)なる式に基づいて流量Qを算出するように構成されている。
【0004】
つまりこの熱式流量センサは、センサ流路に流体が流れると、上流側コイルは流体によって熱を奪われることにより、上流側コイルを一定温度に保つための電力が増加して上流側定温度制御回路の出力電圧Vuが大きくなる。一方、下流側コイルは流体から熱を与えられることにより、下流側コイルを一定温度に保つための電力が減少して下流側定温度制御回路の出力電圧Vdが小さくなる。
【0005】
ところで、熱伝導率の良いガス(例えばHe、H等)は、センサ流路の上流側コイルで奪った熱量をセンサ流路の下流側コイルに効率良く伝えるため、センサ流路を流れる流体の流量に対する熱式流量センサの流量出力特性の直線性は比較的優れている。
【0006】
しかしながら、熱伝導率の悪いガス(例えばSF、CF等)は、センサ流路の上流側コイルから奪った熱量をセンサ流路の下流側コイルへ伝える熱伝達の効率が悪く、センサ流路を流れる流体の流量に対する熱式流量センサの流量出力特性の直線性が悪い。特に、センサ流路を流れる流体の流量が増加するに連れて、下流側定温度制御回路の出力電圧Vdが飽和傾向となり、直線性が悪化するという問題がある。この直線性の悪化の程度は各熱式流量センサ毎に異なるため、標準の熱式流量センサの検量線を用いて各熱式流量センサの検量線を補正する場合には、一点補正により例えば検量線のスパン補正を正確に行うことが難しいという問題がある。つまり、各熱式流量センサにおける検量線の直線性が保たれていないため、一点補正を行ったとしても、その一点以外の部分における補正の精度が悪く、その結果、実ガス流量の測定精度が悪化してしまうという問題がある。
【0007】
なお、上記の問題は定温度制御方式の熱式流量センサだけでなく、図11に示すように、上流側コイル及び下流側コイルを直列に接続して構成されたブリッジ回路と、当該ブリッジ回路に定電流を流す定電流回路とを有する定電流制御方式の熱式流量センサにおいても同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−300403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであり、熱式流量センサの流量出力特性の直線性を改善して実ガス流量の測定精度を向上することをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明に係る熱式流量センサは、流体である処理用ガスが流れるメイン流路及び当該メイン流路から分岐して前記流体を分流させて前記流体の流量を検出する流量検出機構が設けられるセンサ流路を備えており、前記流量検出機構が、前記センサ流路を形成するセンサ流路管に巻回された発熱抵抗線からなる上流側コイル及び下流側コイルを有し、前記上流側コイル及び前記下流側コイルにより前記センサ流路に生じる温度分布のピーク位置が、前記センサ流路における前記上流側コイル及び前記下流側コイルの間の中央位置よりも前記上流側コイル側にあることを特徴とする。なお、上流側コイル及び下流側コイルの間の中央位置とは、上流側コイル及び下流側コイルが隙間を開けて配置されている場合には当該隙間の中間位置、つまり上流側コイルの下流側端と下流側コイルの上流側端との中間位置であり、上流側コイル及び下流側コイルが密着して配置されている場合には当該密着位置、つまり上流側コイルの下流側端(下流側コイルの上流側端)である。
【0011】
このようなものであれば、上流側コイル及び下流側コイルにより生じる温度分布のピーク位置が上流側コイル及び下流側コイルの間の中央位置よりも上流側コイル側にあることから、センサ流路の上流側で流体に奪われる熱量を増やすことにより、センサ流路の下流側コイルに伝わる熱量を増加させることができる。これにより、下流側コイルにより得られる出力の直線性を改善することができ、熱式流量センサの流量出力特性の直線性を改善して実ガス流量の測定精度を向上することができる。なお、本発明では、センサ流路を構成するセンサ流路管に発熱抵抗線からなる上流側コイル及び下流側コイルを巻回しているので、センサ流路を流れる流体とコイルとの間での熱伝達を容易にすることができ、本発明の効果を一層優れたものとすることができる。
【0012】
前記上流側コイルの温度が前記下流側コイルの温度よりも高く設定されていることが望ましい。このように構成することで、センサ流路管に巻回される上流側コイル及び下流側コイルの構成を変更することなく、それら上流側コイル及び下流側コイルを含むブリッジ回路の固定抵抗の抵抗値を変更するだけで、上流側コイル及び下流側コイルによりに生じる温度分布のピーク位置を、上流側コイル及び下流側コイルの間の中央位置よりも上流側コイル側とすることができる。
【0013】
前記上流側コイルの巻線幅が、前記下流側コイルの巻線幅よりも長くなるように構成されていることが望ましい。このように構成することで、上流側コイル及び下流側コイルを含むブリッジ回路の回路構成を変更することなく、センサ流路管に巻回される上流側コイル及び下流側コイルの巻線幅を調整するだけで、上流側コイル及び下流側コイルによりに生じる温度分布のピーク位置を、上流側コイル及び下流側コイルの間の中央位置よりも上流側コイル側とすることができる。
【0014】
前記上流側コイルを含むブリッジ回路を有する上流側定温度制御回路と、前記下流側コイルを含むブリッジ回路を有する下流側定温度制御回路とを有することが望ましい。このように上流側コイル及び下流側コイルを定温度制御するものであれば、センサ流路を流れる流体を一定温度条件化で測定することができ、コンバージョンファクタ(ガス種換算係数:C値)の温度変動を考慮する必要が無いので、実ガス流量値を精度よく得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
このように構成した本発明によれば、上流側コイル及び下流側コイルによりセンサ流路に生じる温度分布のピーク位置を、センサ流路における上流側コイル及び下流側コイルの間の中央位置よりも上流側コイル側としているので、熱式流量センサの流量出力特性の直線性を改善して実ガス流量の測定精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る熱式流量センサの模式的構成図。
図2】同実施形態における定温度制御方式の回路構成を示す図。
図3】同実施形態の上流側コイル及び下流側コイルによる温度分布を示す図((a)上流側コイル温度=下流側コイル温度、(b)上流側コイル温度>下流側コイル温度)。
図4】同実施形態における定電流制御方式の回路構成を示す図。
図5】定温度制御方式におけるセンサ流量と各定温度制御回路から出力される出力電圧との関係を示す図。
図6】定温度制御方式におけるセンサ流量とセンサ出力の直線性との関係を示す図。
図7】定温度制御方式における流量と各ブリッジ回路での消費電力との関係を示す図。
図8】変形実施形態に係る熱式流量センサの回路構成を示す図。
図9】本発明の熱式流量センサを用いたマスフローコントローラの構成を示す図。
図10】従来の定温度方式の回路構成を示す図。
図11】従来の定電流方式の回路構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る熱式流量センサの一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
本実施形態に係る熱式流量センサ100は、例えば半導体製造プロセスに用いられる熱式質量流量センサであり、図1に示すように、流体である試料ガス(例えばSF等の半導体処理用ガス)Gが流れるメイン流路2と、このメイン流路2から分岐して試料ガスGを分流させて試料ガスGの流量を検出するためのセンサ流路3と、試料ガスGの流量を検出する流量検出機構4と、メイン流路2におけるセンサ流路3の分岐点Pと合流点Qの間に設けられ、複数の内部流路51を有する抵抗体としての層流素子5とを備える。なお、層流素子5は、メイン流路2及びセンサ流路3の分流比が所定の設計値となるようにするものであり、定流量特性を有するバイパス素子等の抵抗部材から構成されている。この層流素子5としては、複数本の細管を外管の内部に挿入して形成したもの、又は多数の貫通孔を形成した薄い円板を複数枚積層して形成したもの等を用いることができる。
【0019】
メイン流路2は、流体導入ポート201及び流体導出ポート202を有する概略直管状のメイン流路管200により形成されている。
【0020】
センサ流路3は、メイン流路管200に設けられた概略逆U字形状をなす中空細管であるセンサ流路管300により形成されている。本実施形態のセンサ流路管300は、ステンレス等の金属製のものであるが、他の素材を用いて形成することができる。そしてセンサ流路3は、メイン流路2を流れる試料ガスGの流量を検出するための流量検出機構4が設けられる直線状の測定路31を有する。
【0021】
流量検出機構4は、センサ流路3に分流した流量を検出するためのセンサ部41と、当該センサ部41からの出力信号を取得してメイン流路2を流れる試料ガスGの少なくとも質量流量を算出する流量算出部42とを備えている。
【0022】
センサ部41は、測定路31の上流側においてセンサ流路管300の外周面に発熱抵抗線を巻き付けてなる上流側コイル411と、測定路31の下流側においてセンサ流路管300の外周面に発熱抵抗線を巻き付けてなる下流側コイル412とを備えている。この上流側コイル411及び下流側コイル412は、温度の変化にともなって電気抵抗値が増減する発熱抵抗線から形成されており、いずれも測定路31を形成する中空細管300の直管部の外周面に巻き付けられている。なお、センサ部41を発熱抵抗線からなる上流側コイル411及び下流側コイル412から構成しているので、加熱手段と温度検出手段とを1つの部材により構成でき熱式流量センサの構成を簡略化することができる。
【0023】
流量算出部42は、前記上流側コイル411及び下流側コイル412が構成の一部とされた電気回路であり、ブリッジ回路、増幅回路及び補正回路等を備えている。そして、流量算出部42は、試料ガスGの瞬時流量をセンサ部411、412によって電気信号(電圧値)として検出してセンサ流路3中の流量を算出するとともに、メイン流路2とセンサ流路3との分流比に基づいて、メイン流路2中の試料ガスGの流量を算出して、その算出流量に応じたセンサ出力信号(流量測定信号)を出力するものである。具体的な流量算出部42の回路構成は、定温度制御方式のものと、定電流制御方式のものとで異なる。
【0024】
定温度制御方式の流量算出部42は、図2に示すように、上流側コイル411及び下流側コイル412を温度を常に相等しく且つ一定となるように制御する上流側定温度制御回路TC1及び下流側定温度制御回路TC2を有する。
【0025】
上流側定温度制御回路TC1は、上流側コイル411及び当該上流側コイル411の温度設定用抵抗101を直列に接続し、2つの固定抵抗102、103を直列に接続して、これらを並列接続してなる上流側ブリッジ回路BC1と、上流側コイル411及び温度設定用抵抗101の接続点の電位及び2つの固定抵抗102、103の接続点の電位の差(Vu)を上流側ブリッジ回路BC1にフィードバックして上流側ブリッジ回路BC1の平衡に保つようにするとともに、出力端子からそれらの電位差(Vu)を出力するオペアンプを有する制御回路CC1とを有する。
【0026】
また、下流側定温度制御回路TC2は、下流側コイル412及び当該下流側コイル412の温度設定用抵抗104を直列に接続し、2つの固定抵抗105、106を直列に接続して、これらを並列接続してなる下流側ブリッジ回路BC2と、下流側コイル412及び温度設定用抵抗104の接続点の電位及び2つの固定抵抗105、106の接続点の電位の差(Vd)を下流側ブリッジ回路BC2にフィードバックして下流側ブリッジ回路BC2の平衡に保つようにするとともに、出力端子からそれらの電位差(Vd)を出力するオペアンプを有する制御回路CC2とを有する。
【0027】
ここで上流側コイル411及び下流側コイル412は、同じ抵抗温度係数の材料を用いて構成されている。そして、上流側コイル411は、制御回路CC1により、温度設定用抵抗101と同抵抗値となるようにフィードバック制御される。また、下流側コイル412は、制御回路CC2により、温度設定用抵抗104と同抵抗値となるようにフィードバック制御される。
【0028】
そして、流量算出部42は、前記上流側定温度制御回路TC1から出力された出力電圧(Vu)と下流側定温度制御回路TC2から出力された出力電圧(Vd)との差(Vu−Vd)を増幅等してセンサ出力信号(流量測定信号)として出力する。
【0029】
そして本実施形態の熱式流量センサ100は、図3(b)に示すように、少なくともセンサ流路にガスが流れていない状態において、上流側コイル411及び下流側コイル412によりセンサ流路3に生じる温度分布のピーク位置が、センサ流路3における上流側コイル411及び下流側コイル412の間の中央位置Xよりも上流側コイル411側となるように構成されている。具体的には、上流側コイル411の温度が下流側コイル412の温度よりも高く設定されており、上流側コイル411の発熱量が下流側コイル412の発熱量よりも多い。なお、上流側コイル411の温度が下流側コイル412の温度よりも高く設定されていることから、センサ流路3にガスが流れていない状態において(Vu−Vd)はゼロではない。ここで、上流側コイル411の温度が、5℃以上下流側コイル412よりも高温であることが好ましく、より好ましくは、10℃〜20℃下流側コイル412よりも高温であることが良い。この場合、上流側コイル411の巻線幅(L)と下流側コイル412の巻線幅(L)とは同一である。なお、図3(a)は、従来の定温度制御方式において上流側コイル及び下流側コイルの温度を相等しくした場合のセンサ流路3に生じる温度分布を示している。
【0030】
上記定温度制御方式の回路構成においては、上流側コイル411の温度設定抵抗101の抵抗値及び下流側コイル412の温度設定抵抗104の抵抗値を選択することによって、上流側コイル411の温度及び下流側コイル412の温度を調整することができる。例えば、上流側コイル411の温度設定抵抗101の抵抗値を、下流側コイル412の温度設定抵抗104の抵抗値よりも高い抵抗値に設定すれば、下流側コイル412よりも上流側コイル411の方が高い抵抗値となり、すなわち、上流側コイル411の温度の方が下流側コイル412の温度よりも高くなり、温度分布が図3(b)となる。
【0031】
次に、定電流制御方式の流量算出部42の回路構成を図4に示す。
この定電流制御方式のものにおいては、上流側コイル411及び下流側コイル412を直列に接続し、2つの固定抵抗107、108を直列に接続して、これらを並列接続してなるブリッジ回路BC3と当該ブリッジ回路BC3に所定の一定電流を供給する例えばオペアンプやトランジスタを用いた制御回路CC3と、上流側コイル411及び下流側コイル412の接続点の電位及び2つの固定抵抗107、108の接続点の電位の差を出力するオペアンプを有する電位差検出回路VDとを有する。なお、上流側コイル411及び下流側コイル412は、同じ抵抗温度係数である材料を用いて構成されている。
【0032】
ここで本実施形態の構成としては、図4に示すように、下流側コイル412に固定抵抗109を並列に接続して、上流側コイル411に流れる電流値を下流側コイル412に流れる電流値よりも大きくして、上流側コイル411を下流側コイル412よりも高温にしている。なお、固定抵抗109を並列に接続しない場合には、センサ流路3に流体が流れない状態において、ブリッジ回路BCに一定電流を流すと、上流側コイル411及び下流側コイル412は同抵抗値となる。
【0033】
その他、固定抵抗109を下流側コイル412に並列接続する他、固定抵抗107、108の抵抗値の比を調整することにより、上流側コイル411及び下流側コイル412の抵抗値の比を調整することで、上流側コイル411を下流側コイル412よりも高温にすることができる。
【0034】
次に、上記の定温度制御方式の熱式流量センサ100を用いたセンサ特性データを図5図7に示す。なお、以下のデータは、熱式流量センサにSFを流した場合の結果である。
【0035】
図5(a)は、従来の熱式流量センサ(図10参照)のセンサ特性、つまり、上流側コイル及び下流側コイルの温度を同じ(80度)にした場合におけるセンサ流量[%F.S.]に対する上流側ブリッジ回路の出力電圧値(Vu)及び下流側ブリッジ回路の出力電圧値(Vd)の出力特性を示す図である。図5(b)は、上流側コイルの温度(90度)を下流側コイルの温度(80度)よりも高くした場合におけるセンサ流量[%F.S.]に対する上流側ブリッジ回路の出力電圧値(Vu)及び下流側ブリッジ回路の出力電圧値(Vd)の出力特性を示す図である。なお、センサ流量とは、センサ流路に流れる流体の流量である。
【0036】
図5(a)から分かるように、センサ流量が増大するに連れて、具体的には50%F.S.以上において下流側ブリッジ回路の出力電圧値(Vd)が飽和傾向にあり、100%F.S.において上流側ブリッジ回路の出力電圧値(Vu)と下流側ブリッジ回路の出力電圧値(Vd)との間に対称性が無い。これは、センサ流路を流れる流体が上流側コイルから奪った熱量に対して、当該流体が下流側コイルに与えた熱量が小さいためである。一方、図5(b)から分かるように、センサ流量が増大しても、上流側ブリッジ回路の出力電圧値(Vu)及び下流側ブリッジ回路の出力電圧値(Vd)はともに直線的に変化しており、100%F.S.において上流側ブリッジ回路の出力電圧値(Vu)及び下流側ブリッジ回路の出力電圧値(Vd)はともに約0.89[V]であり、対称となっている。これは、センサ流路を流れる流体が上流側コイルから奪った熱量と、当該流体が下流側コイルに与えた熱量とがほぼ等しいためである。
【0037】
上記図5(a)、(b)における各出力電圧値から得られる質量流量センサのセンサ流量[%F.S.]に対するセンサ出力[%F.S.]の直線性を図6に示す。なお、センサ出力とは、熱式流量センサから出力される熱式流量センサに流入する流体の流量である。この図6において、上流側コイル及び下流側コイルを共に80℃にした場合に比べて、上流側コイルを90℃、下流側コイルを80℃とした場合の方が、直線性が50%以上向上していることが分かる。
【0038】
また、上記図5(a)、(b)における、各流量に対する上流側コイルを含むブリッジ回路での消費電力と下流側コイルを含むブリッジ回路での消費電力を図7に示す。この図7から分かるように、下流側コイルを含むブリッジ回路においては、上流側コイル及び下流側コイルを同一温度(80度)に加熱した場合に比べて、上流側コイルを90度、下流側コイルを80度とした場合の方が、下流側コイルを含むブリッジ回路での消費電力の減少(変化量)が、上流側コイルを含むブリッジ回路の増加(変化量)よりも顕著になっており、上流側コイルにより奪われた熱量が下流側コイルに効果的に伝わっていることが分かる。
【0039】
このように構成した本実施形態の熱式流量センサ100によれば、上流側コイル411及び下流側コイル412により生じる温度分布のピーク位置が上流側コイル411及び下流側コイル412の間の中央位置Xよりも上流側コイル411側にあることから、センサ流路3の上流側で流体に奪われる熱量を増やすことによりセンサ流路3の下流側にある下流側コイル412に伝わる熱量を増加させることができる。これにより、下流側コイル412からの出力の直線性を改善することができ、流量出力特性の直線性を改善して実ガス流量の測定精度を向上することができる。本実施形態により、例えば流速が速いガスや熱伝導率の悪いガスを測定する場合であっても、温度分布のピーク位置が上流側コイル411側にあることから、当該ピーク位置が下流側コイル412側に行き過ぎることにより生じるセンサ出力の飽和が生じるまでの範囲を大きく取ることができ直線性を向上させることができる。つまり、上流側コイル411側にあるピーク位置は流体の流量が大きくなるに連れて中央位置に移動する。そして、さらにピーク位置は、流体の流量が大きくなるに連れて、中央位置からセンサ出力が飽和する下流側コイル側に移動する。このように、本実施形態では、流量ゼロの状態において温度分布のピーク位置が従来の熱式流量センサの位置(中央位置)よりも上流側に偏っているので、その分センサ出力を飽和しにくくすることができる。
【0040】
また、本実施形態では、センサ流路3を構成する中空細管であるセンサ流路管300の全周に発熱抵抗線からなる上流側コイル411及び下流側コイル412を巻回しているので、センサ流路3の全周から熱交換でき、センサ流路3を流れる少量の流体とコイル411、412との間での熱伝達を容易にすることができ、本実施形態の効果を一層優れたものとすることができる。また、センサ流路管300に巻回する上流側コイル411及び下流側コイル412の巻数や幅を増やすことにより、センサ流路3を流れる流体と熱交換する領域を大きく取ることができる。
【0041】
また、定温度制御方式の熱式流量センサ100とした場合には、上流側コイル411及び下流側コイル412を定温度制御することから、流量出力特性の直線性を改善しながらも、センサ流路3を流れる流体を一定温度条件化で測定することができ、コンバージョンファクタ(ガス種換算係数:C値)の温度変動を考慮する必要が無いので、実ガス流量値を一層精度よく得ることができる。
【0042】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
例えば、図8に示すように、上流側コイル411の巻線幅(Lu)が、下流側コイル412の巻線幅(Ld)よりも長くなるように構成したものであっても良い。このような構成によっても、上流側コイル411及び下流側コイル412によりに生じる温度分布のピーク位置を、上流側コイル411及び下流側コイル412の間の中央位置Xよりも上流側コイル411側とすることができる。なお、上流側コイル411及び下流側コイル412の巻線平均温度は同一であるが、図8の破線に示すように、各コイル411、412それぞれの温度分布を合わせると、温度分布のピーク位置が中央位置Xよりも上流側コイル411側となる。
【0043】
また前記実施形態の質量流量センサ100をマスフローコントローラZに用いても良い。この場合、低真空領域において高精度且つ高感度に流量を測定することができるため、非常に高精度な流量制御を実現し得るマスフローコントローラZを提供することができる。
【0044】
この質量流量センサ100を組み込むマスフローコントローラZの具体的態様としては、例えば、図9に示すように、前記実施形態の質量流量センサ100と、メイン流路2の合流点MPより下流側に設けた流量制御バルブZ1と、質量流量センサ100の出力する流量測定信号の示す信号値(測定流量値)及び入力手段(図示しない)により入力される流量設定信号の示す目標流量である設定流量値に基づいて流量制御バルブZ1の弁開度を制御する弁制御部Z2と、を具備する。
【0045】
また、上流側コイル及び下流側コイル間に若干の隙間を設けているが、隙間の無い構成とすることもできる。なお、上流側コイル及び下流側コイルを隙間を開けて配置する場合には、上流側コイル及び下流側コイルによりセンサ流路3に生じる温度分布のピークが1つとなるように近接させて配置することが望ましい。
【0046】
さらに、前記実施形態では、上流側コイル及び下流側コイルを同じ抵抗温度係数を有する材料から構成しているが、異なる抵抗温度係数を有する材料から構成することによって、上流側コイルを下流側コイルよりも高温となるように構成しても良い。また、上流側コイルの巻線幅を下流側コイルの巻線幅よりも小さくした場合であっても、上流側コイルの加熱温度を下流側コイルの加熱温度よりも高温にすることで、センサ流路に生じる温度分布のピーク位置を上流側コイル側としても良い。また、上流側コイルの加熱温度を下流側コイルの加熱温度よりも低温とした場合であっても、上流側コイルの巻線幅を下流側コイルの巻線幅よりも長くすることで、センサ流路に生じる温度分布のピーク位置を上流側コイル側としても良い。その他、センサ流路に生じる温度分布のピーク位置を上流側コイル側となるように、上流側コイル及び下流側コイルの巻線幅及び加熱温度を種々設定することができる。なおこの場合、所望の測定精度となるように上流側コイル及び下流側コイルの巻線幅及び加熱温度を種々設定する。
【0047】
その上、流量算出部42が、上流側コイルに流す電流をオンオフ制御するとともに、下流側コイルに流す電流をオンオフ制御するものであり、上流側コイルのオンオフ制御におけるデューティ比を下流側コイルのオンオフ制御におけるデューティ比よりも大きくすることにより、上流側コイルの温度を下流側コイルの温度よりも高く設定するものであっても良い。
【0048】
前記実施形態の質量流量センサ及びマスフローコントローラを半導体製造プロセス以外にも用いることができる。
【0049】
また、前記実施形態の他に、液体等の流体の流量を検出する熱式流量センサに適用することもできる。
【0050】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてよいし、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0051】
100・・・熱式流量センサ
2・・・メイン流路
200・・・メイン流路管
3・・・センサ流路
300・・・センサ流路管
4・・・流量検出機構
411・・・上流側コイル
412・・・下流側コイル
BC1、BC2・・・ブリッジ回路
CC1、CC2・・・制御回路
BC3・・・ブリッジ回路
CC3・・・制御回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11