特許第5969879号(P5969879)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5969879-医薬組成物 図000017
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969879
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/255 20060101AFI20160804BHJP
   A61K 36/18 20060101ALI20160804BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160804BHJP
   A61P 1/10 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   A61K31/255
   A61K36/18
   A61P43/00 121
   A61P1/10
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-218660(P2012-218660)
(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2014-70054(P2014-70054A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100156845
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 威一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】張 涛
【審査官】 井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−55969(JP,A)
【文献】 The American Journal of Gastroenterology,2011年,Vol.106,p.120-129
【文献】 排便コントロールが困難であった便秘症に対し麻子仁丸を投与した症例の検討,第57回日本東洋医学会学術総会講演要旨集,2006年,第281頁,No.228
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/255
A61K 36/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオクチルスルホコハク酸の塩と、マシニンとを含む医薬組成物。
【請求項2】
前記ジオクチルスルホコハク酸の塩が、ジオクチルソジウムスルホサクシネート(DSS)である、請求項1の医薬組成物。
【請求項3】
前記マシニンの1日当たりの用量が500〜5000mgである、請求項1又は2に記載される医薬組成物。
【請求項4】
前記ジオクチルスルホコハク酸の塩、及びマシニンの1日あたりの用量が下記数式1を満たす、請求項3に記載される医薬組成物。
<数式1>
Y>−2.5×X+1200
(式中、Xはジオクチルスルホコハク酸の塩の1日当たりの用量(mg)を示し、且つXは30〜300mgであり、Yはマシニンの1日当たりの用量(mg)を示す。)
【請求項5】
1日あたりの前記マシニンの用量が、前記ジオクチルスルホコハク酸の塩1重量部に対して1.5〜180重量部である、請求項1〜4のいずれかに記載される医薬組成物。
【請求項6】
便秘改善用である、請求項1〜5のいずれかに記載される医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジオクチルスルホコハク酸の塩と、マシニンとを含む医薬組成物に関し、より具体的には便秘改善用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
便秘症は、水分不足や食物繊維の摂取量が少ないことに加え、運度不足、ストレスといった多様な原因で引き起こされる排便障害である。日本内科学会の定義によると、便秘症は、「3日以上排便がない、または毎日排便があっても残便感がなくならない状態」を指し、多くの場合、便回数の低下、硬い便の他に残便感、腹痛、腹部膨満、嘔吐、食欲不振等の症状を伴うことを特徴とする。このように、便秘症になると種々の不快症状が現れることから、様々な便秘解消法が試されている。便秘を解消する簡便な方法として、例えば瀉下作用を有する薬理成分を含む医薬を服用する方法が挙げられ、このような医薬を服用するだけで比較的短時間、且つ容易に便秘の改善効果が得られることから広く受け入れられている。
【0003】
瀉下作用を有する薬理成分は既に多くのものが知られており、例えば、ジオクチルソジウムスルホサクシネート(DSS)がその一つとして挙げられる。DSSは、浸潤性瀉下剤であり、界面活性作用によって便の表面張力を低下させ、水分の少なくなった硬直便に水分を浸透させて、柔らかい便として排便を容易にする作用を持つ。ただし、DSSのみでは十分な排便効果を見られない場合が多い(例えば、非特許文献1を参照)。従って、ビサコジル、ダイオウ、センノサイド等の瀉下作用の強い腸刺激性の瀉下剤をDSSと併用するのが一般的である(例えば特許文献1を参照)。しかし、このような腸刺激性の瀉下剤を使用すると、排便は促されるものの、酷い腹痛や下痢を起こすことが多く、便秘症患者に受け入れられにくいという問題があった。
【0004】
また、緩やかな瀉下作用を有する薬理成分として、マシニンが知られている。マシニンは、主としてパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノレン酸のグリセリドにより構成される脂肪油を含み、このような脂肪油が作用して便を柔らかくし、排便を促進するとされている(例えば非特許文献2を参照)。しかし、マシニンも十分な瀉下効果を得ようとすると多量(9000〜15000mg/日)服用する必要があり、患者への負担が大きく、多量に服用することによって腹痛が引き起こされやすいという問題があった。
【0005】
このような背景から、優れた排便促進作用を発揮しながらも副作用である腹痛や下痢等の望ましくない症状が低減された医薬組成物が切望されていた。また前述のように、DSS及びマシニンはいずれも便秘改善の作用を発揮するものではあるが、比較的作用の穏やかな瀉下剤に分類され、便秘症患者にとって満足のいく効果が得られなかった。従って、このような単独では瀉下作用が十分ではない成分どうしを組合せて高い便通改善効果を実現することについては検討されていないのが現状であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「NEW薬理学 改訂第5版」南江堂出版2007.5発行432ページ
【非特許文献2】「漢方のくすりの事典」医歯薬出版株式会社出版1994年12月5日第1版第1刷発行390ページ
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−55969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ジオクチルスルホコハク酸の塩と、マシニンとを含む医薬組成物の提供を主な課題とし、更に、便秘改善用の前記化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、それぞれ単独では排便促進作用が十分とは言えないジオクチルソジウムスルホサクシネート(DSS)とマシニンとを組合せると、意外にも優れた便通改善効果を有することを見出した。しかも、これらを組合せることによって、排便促進作用の強い瀉下剤で問題となっていた腹痛を引き起こすこともなく、良好な便の状態でスムーズな排便が可能であり、排便に伴う苦痛も軽減されることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて更に研究を重ねた結果完成されたものである。
【0010】
本発明は下記態様の医薬組成物を提供する。
項1.ジオクチルスルホコハク酸の塩と、マシニンとを含む医薬組成物。
項2.前記ジオクチルスルホコハク酸の塩が、ジオクチルソジウムスルホサクシネート(DSS)である、項1の医薬組成物。
項3.前記マシニンの1日当たりの用量が500〜5000mgである、項1又は2に記載される医薬組成物。
項4.前記ジオクチルスルホコハク酸の塩、及びマシニンの1日あたりの用量が下記数式1を満たす、項3に記載される医薬組成物。
<数式1>
Y>−2.5×X+1200
(式中、Xはジオクチルスルホコハク酸の塩の1日当たりの用量(mg)を示し、且つXは30〜300mgであり、Yはマシニンの1日当たりの用量(mg)を示す。)
項5.1日あたりの前記マシニンの用量が、前記ジオクチルスルホコハク酸の塩1重量部に対して1.5〜180重量部である、項1〜4のいずれかに記載される医薬組成物。
項6.便秘改善用である、項1〜5のいずれかに記載される医薬組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の医薬組成物は、優れた排便促進作用を有し、同時に副作用である腹痛の低減を実現し得るものである。更に、本発明の医薬組成物によれば、良好な便の状態でスムーズな排便が促されることから、排便に伴う問題も解消される。従って、本発明の医薬組成物は、便秘症患者の要求を満たすことができる便通改善用の医薬組成物として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】X軸にDSSの1日当たりの用量(mg/日)、Y軸にマシニンの1日当たりの用量(mg/日)をそれぞれプロットして得られた近似曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.医薬組成物
本発明の医薬組成物は、ジオクチルスルホコハク酸の塩と、マシニンとを含有することを特徴とする。以下、本発明の医薬組成物について詳述する。
【0014】
ジオクチルスルホコハク酸の塩
ジオクチルスルホコハク酸の塩としては、ジオクチルスルホコハク酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩が挙げられ、好ましくはナトリウム塩が挙げられる。本発明においては、ジオクチルスルホコハク酸及びその塩の中から1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0015】
本発明の医薬組成物において、ジオクチルスルホコハク酸の塩として好適には、ジオクチルソジウムスルホサクシネート(本明細書において「DSS」と略記することがある)が例示される。ジオクチルスルホサクシネートは、CAS登録番号577−11−7で表わされる化合物である。
【0016】
本発明において好ましくは、ジオクチルスルホコハク酸の塩を溶媒(水、エタノール、油類等)に溶解したものを使用したり、また当該溶液を例えば噴霧造粒等の公知の手法により造粒したものを使用したりすることができる。本発明においては、商業的に入手可能なジオクチルスルホコハク酸の塩を使用することもできる。
【0017】
本発明の医薬組成物中のジオクチルスルホコハク酸の塩の含有量は、1日当たりの用量が、例えば30mg以上、好ましくは50mg以上、より好ましくは100mg以上、更に好ましくは150mg以上、より具体的には30〜300mg、好ましくは50〜300mg、より好ましくは50〜250mg、更に好ましくは100〜300mgとなるように調整され得る。
【0018】
マシニン
マシニン(麻子仁)は、火麻仁、大麻仁、苧実、麻実とも呼ばれる、麻(Cannabis sativa Linne(Moraceae))の果実である。本発明においてマシニンは、好ましくは乾燥した麻の果実(全形のまま又は必要に応じて外皮を除去したもの)を粉砕し、粉末生薬の形態で使用される。ここで、乾燥した麻の果実と賦形剤(例えば軽質無水ケイ酸など)を混合した後に、粉砕し、細末としたものも使用することできる。本発明においては、商業的に入手可能なマシニンを使用することもできる。
【0019】
本発明の医薬組成物中のマシニンの含有量は、1日当たりの用量が、例えば、好ましくは500〜5000mg、より好ましくは500〜3000mg、更に好ましくは1000〜2500mgとなるように調整され得る。
【0020】
また、本発明の医薬組成物に含有される1日あたりのマシニンの用量は、ジオクチルスルホコハク酸の塩1重量部に対して、例えば1.5〜180重量部、好ましくは1.5〜100重量部、より好ましくは1.5〜50重量部、更に好ましくは2〜30重量部が挙げられる。
【0021】
また、本発明においては、ジオクチルスルホコハク酸の塩、及びマシニンの1日当たりの用量が下記数式1に示される関係を満たすことが望ましい。ジオクチルスルホコハク酸の塩、及びマシニンの1日当たりの用量が下記数式1の関係を満たすことにより、より一層優れた便通改善効果を奏し、更に腹痛や下痢等を低減し、スムーズな排便が促進される。
【0022】
<数式1>
Y>−2.5×X+1200
(式中、Xはジオクチルスルホコハク酸の塩の1日当たりの用量(mg)を示し、Yはマシニンの1日当たりの用量(mg)を示す。)
【0023】
また、前記数式1においてXは30〜300mgの範囲であり、好ましくは50〜300mg、より好ましくは50〜250mg、更に好ましくは100〜300mgの範囲が挙げられる。更に、Yは好ましくは500〜5000mg、より好ましくは500〜3000mg、更に好ましくは1000〜2500mgが挙げられる。従来、マシニンにより十分な排便促進作用を発揮させようとすると多量のマシニン(例えば9000〜15000mg/日)を服用する必要があった。従って、服用回数や1回当たりの服用量が多くなり、患者の負担も大きかった。これに対し、本発明の医薬組成物によれば、マシニン(Y)の1日当たりの用量を前記範囲としても十分な便通改善効果を得ることができる。
【0024】
2.好ましい態様
本発明の医薬組成物は、必須成分であるジオクチルスルホコハク酸の塩、及びマシニンの他に、薬学的に許容される添加剤等を用いて従来公知の手法により所望の剤型に調製することができる。本発明の医薬組成物は、好ましくは経口製剤として調製される。
【0025】
本発明の医薬組成物の剤型は特に限定されず、従来公知のものから投与方法、患者の年齢、症状等に応じて適宜選択することがでるが、例えば、液剤(シロップ剤、懸濁剤等を含む)等の液状製剤形態や、錠剤(フィルムコート錠、糖衣錠、甘味剤コート錠、腸溶性皮膜コート錠等を含む)、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤等の固形製剤形態の経口製剤が挙げられる。本発明の組成物が液状製剤である場合は、凍結保存することもでき、また凍結乾燥等により水分を除去して保存してもよい。凍結乾燥製剤やドライシロップ等は、使用時に滅菌水等を加え、再度溶解して使用することができる。本発明の医薬組成物の剤型として好ましくは、錠剤、顆粒剤、カプセル剤が例示され、より好ましくはカプセル剤が挙げられる。カプセル剤としては、硬カプセル剤、軟カプセル剤のいずれでもよい。
【0026】
本発明の医薬組成物を各種剤型に調製する場合は、必要に応じて薬学的に許容される結合剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、基剤、乳化剤等の添加剤と上記必須成分を組合せ、当該分野における通常の方法に従って調製することができる。
【0027】
結合剤としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、カルメロースナトリウム、デキストリン、プルラン、アラビアゴム、カンテン、ゼラチン、トラガント、アルギン酸ナトリウム、ポビドン、ポリビニルアルコール、ダイズ硬化油、カルナウバロウ、サラシミツロウ、ミツロウ、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ステアリン酸、アセチルグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、モノステアリン酸グリセリン、マクロゴール類(例えば、マクロゴール400、マクロゴール600、マクロゴール4000、マクロゴール6000、マクロゴール20000等)等が挙げられる。
【0028】
賦形剤としては、例えば、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸、粉末セルロース、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、トレハロース、マルチトール、ラクチトール、ソルビトール、コーンスターチ、バレイショデンプン、二酸化ケイ素、サフラワー油、大豆油不けん化物、ダイズ油等が挙げられる。
【0029】
崩壊剤としては、例えば、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドン、ヒドロキシプロピルスターチ等が挙げられる。
【0030】
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、タルク、フマル酸ステアリルナトリウム等が挙げられる。
【0031】
基剤としては、例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリド、オリブ油、ゴマ油、アラビアゴム末、小麦胚芽油、アルギン酸ナトリウム、アルファー化デンプン、モノステアリン酸グリセリン等が挙げられる。
【0032】
乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、メチルセルロース、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、D−ソルビトール、ポリソルベート80、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0033】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、アミノ酸、ビタミン類、有機酸塩類等の上記マシニン及びジオクチルスルホコハク酸の塩以外の薬理活性成分を含有させても良い。薬理活性成分としては、例えば、バリン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、リジン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、システイン、シスチン、チロシン、プロリン、ヒドロキシプロリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒドロキシリジン、アルギニン、オルニチン、ヒスチジン等のアミノ酸;ビタミンA1、ビタミンA2、カロチン、リコピン(プロビタミンA)、ビタミンB6、ビタミンB1、ビタミンB2、アスコルビン酸、ニコチン酸アミド、ビオチン等のビタミン類;塩化ナトリウム、塩化カリウム等のアルカリ金属塩や、クエン酸塩、酢酸塩、リン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。
【0034】
例えば、硬カプセル剤として本発明の医薬組成物を調製する場合、上記必須成分及び任意成分を含有する組成物を、押し出し造粒、転動造粒、撹拌造粒、流動層造粒、噴霧乾燥造粒、破砕造粒、溶融造粒等の公知の造粒方法に従って顆粒化し、ゼラチン、プルラン、デンプン、アラビアガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等を原料とするカプセルに常法に従って充填すればよい。カプセルの容量は特に限定されないが、例えば0.1〜1.5mlが挙げられる。
【0035】
本発明の医薬組成物の1日あたりの投与量は、患者の状態や症状の程度によって適宜選択され、上記必須成分の1日用量に基づいて適宜設定することが可能であるが、例えば、成人1人(体重約60kg)当たり、通常500〜10000mg/日、好ましくは500〜5000mg/日、より好ましくは1000〜4000mg/日が挙げられる。また、本発明の医薬組成物は、好ましくは1日1〜3回に分けて経口投与の形態で用いられる。服用時刻についても特に制限はないが、例えば空腹時、食前、食間または就寝前が挙げられる。
【0036】
本発明の医薬組成物は、ジオクチルスルホコハク酸の塩と、マシニンとを含有することにより、優れた排便促進作用を発揮し、しかも副作用である腹痛が抑制されている。また、本発明の医薬組成物によれば、下痢や軟便といった排便に伴う不快感、痛み等も抑制され、良好な便の状態でスムーズな排便が可能である。従って、本発明の医薬組成物は便秘改善用(即ち、便秘症の予防、便秘症状の改善、便秘症治療用)として特に有用である。
【実施例】
【0037】
以下に実施例等を示し、本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されない。
【0038】
(マシニン末の製造方法)
マシニンをサンプルミル(型式:SK―M10R 協立理工(株)製)で粉砕し(回転数:15000rpm、時間:5分)、「マシニン末」を調製した。調製した「マシニン末」を以下の試験に使用した。
【0039】
下表1及び2に示す処方を1日量としてハードカプセルに充填し、医薬組成物を調製した。具体的には、DSSをエタノールに溶解し、マシニン末と混合した後、乾燥によりエタノールを揮発させたものをハードカプセル(容量:0.5mL:株式会社松屋製、原材料:ゼラチン、ラウリル硫酸ナトリウム)に充填し、医薬組成物を調製した。この医薬組成物を、便秘を自覚する10名の被験者に朝晩2回、3日間にわたって服用させ、3日後に便通改善効果の満足度について評価を行った。評価基準は、「満足」、「やや満足」、「どちらともいえない」、「やや不満」、「不満」の5段階評価とした。また、腹痛についても副作用である腹痛について、「痛くなかった」、「どちらかといえば痛くなかった」、「どちらともいえない」、「どちらかといえば痛かった」、「痛かった」の5段階評価基準に従って評価を行った。
【0040】
便通改善について「満足」、「やや満足」と評価した人数を、また腹痛について「痛くなかった」、「どちらかといえば痛くなかった」と評価した人数をそれぞれ集計し、以下の通り分類した。
<便通改善効果>
◎10名中7〜10名
○10名中5〜6名
△10名中3〜4名
×10名中0〜2名

<腹痛>
◎10名中7〜10名
○10名中5〜6名
△10名中3〜4名
×10名中0〜2名
【0041】
<便の状態>
便通改善効果及び腹痛に加え、便の状態についてフリーアンサーを集計し、半数以上の回答を評価結果とした。表中に示される「水様便」は下痢を起こしたことを指し、「普通便」は便に適度な水分が含まれ、スムーズな排便が促されたことを指す。また、表中「やや軟便」は普通便よりは水分が多いものの問題のない便の状態であったことを指す。
結果を下表1及び2に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示されるように、DSS(250mg/日)を単独で使用した場合、
副作用である腹痛を感じた被験者はほとんどいなかったものの、便通改善効果は全く認められなかったことが示された(比較例1)。また、マシニン末(3000mg/日又は4000mg/日)を単独で使用すると、便通改善効果は認められず、また多くの被験者が腹痛を訴えた(比較例2及び3)。更に、従来便通改善成分として知られているピコスルファートナトリウムとマシニン末を併用すると、優れた便通改善が認められたものの、ほとんどの被験者が腹痛を感じ、また水様便となった。また、ダイオウエキスとトウニンエキスをマシニン末と併用すると、便通改善効果は認められたものの、多くの被験者が腹痛を訴え、便の状態も水様便となった。
【0044】
以上のように、DSS又はマシニン末を単独で使用した場合、便通改善効果は低く、マシニン末及びDSS以外の公知の排便促進作用を有する成分とマシニン末を併用した場合も腹痛を生じたり、便の状態が理想的ではなく、本発明の課題を解決し得るものではなかった。
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
表2及び3に示される結果より、DSSとマシニン末を含む医薬組成物は、優れた便通改善効果を奏するのみならず、副作用である腹痛が大幅に軽減され、更には便の状態が良好であり、排便にも問題がないことが示された。また、従来、マシニン末の排便促進作用を期待する場合には1日あたり9000mg以上もの多量のマシニン末を服用する必要があったが、実施例1〜14はいずれも3000mg以下であり、従来のようにマシニン末を多量に使用しなくても十分に良好な排便促進の効果が得られることが示された。更に、DSSもマシニン末も便をやわらかくして排便を促進する作用を有しているにも関わらず、いずれの被験者においても下痢は引き起こされなかった。
【0048】
実施例1〜14の結果に基づき、X軸をDSSの1日用量(50〜250mg)、Y軸をマシニンの1日用量(750〜3000mg)としてグラフにプロットした。図1にグラフを示す。
【0049】
図1に示されるように、マシニンとDSSの1日あたりの用量が下記式を満たす場合、副作用である腹痛を軽減しながら、より一層優れた便通効果が奏されることが明らかとなった。
<数式1>
Y>−2.5×X+1200
(式中、XはDSSの1日当たりの用量(mg)を示し、Yはマシニンの1日当たりの用量(mg)を示す。)
【0050】
[処方例]
下記表に示される処方の医薬組成物を調製した。なお、表中に記載される各成分の重量は一日あたりの用量に相当する。
【0051】
<軟カプセル剤>
下表4〜9に軟カプセル剤の処方を示す。軟カプセル剤は、常法に従い、グリセリン又はD−ソルビトールを加えて塑性を増したゼラチン等のカプセル基剤で被包成形することにより調製され得る。
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【0054】
【表6】
【0055】
【表7】
【0056】
【表8】
【0057】
【表9】
【0058】
<錠剤、顆粒剤、硬カプセル剤>
下表10〜15に錠剤、顆粒剤又は硬カプセル剤として調製され得る処方を示す。各処方について、常法に従って打錠成形することにより錠剤を得ることができる。また、常法に従って造粒することにより顆粒剤とすることができる。更に、各処方の組成物を硬カプセルに充填することにより硬カプセル剤とすることができる。
【0059】
【表10】
【0060】
【表11】
【0061】
【表12】
【0062】
【表13】
【0063】
【表14】
【0064】
【表15】
【0065】
いずれの処方についても優れた便通促進効果が得られた。また、いずれも強い腹痛を生じることがなく、排便の際にも下痢等の問題のない処方であった。
図1