(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969980
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】未加熱魚肉の冷凍品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 17/00 20160101AFI20160804BHJP
A23B 4/08 20060101ALI20160804BHJP
A23L 3/37 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
A23L17/00 A
A23B4/08 C
A23L3/37 A
A23L17/00 101B
【請求項の数】11
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-507431(P2013-507431)
(86)(22)【出願日】2012年3月21日
(86)【国際出願番号】JP2012057195
(87)【国際公開番号】WO2012133049
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2015年1月27日
(31)【優先権主張番号】特願2011-70527(P2011-70527)
(32)【優先日】2011年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】日本水産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】久保田 光俊
【審査官】
野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−308485(JP,A)
【文献】
特開平09−289870(JP,A)
【文献】
特開2004−254687(JP,A)
【文献】
特開平08−308484(JP,A)
【文献】
特開2001−037458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 17/00−17/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用に用いることができる炭素数2〜5のアルコールを魚肉に対して0.05〜1.0重量%添加した未加熱魚肉の冷凍品。但し、アルコールはエタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールのいずれかであり、魚肉はタラ類又はエソ類の魚肉である。
【請求項2】
アルコールの添加量が魚肉に対して0.2〜1.0重量%である請求項1の未加熱魚肉の冷凍品。
【請求項3】
さらに糖又は糖アルコール、及び/又は、塩類を添加したものである請求項1又は2の未加熱魚肉の冷凍品。
【請求項4】
魚肉がタラ類の魚肉である請求項1ないし3いずれかの未加熱魚肉の冷凍品。
【請求項5】
魚肉が落とし身、フィレ、フィレブロックのいずれかである請求項1ないし4いずれかの未加熱魚肉の冷凍品。
【請求項6】
炭素数2〜5のアルコールがエタノールまたはエタノールを含有する食品素材である請求項1ないし5いずれかの未加熱魚肉の冷凍品。
【請求項7】
未加熱魚肉に、食用に用いることができる炭素数2〜5のアルコールを魚肉に対して0.05〜1.0重量%添加することにより冷凍変性を抑制させることを特徴とする未加熱魚肉の冷凍変性防止方法。但し、アルコールはエタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールのいずれかであり、魚肉はタラ類又はエソ類の魚肉である。
【請求項8】
冷凍変性が魚肉に含まれるトリメチルアミン−N−オキシドの分解によるものである請求項7の冷凍変性防止方法。
【請求項9】
さらに糖又は糖アルコール、及び/又は、塩類を添加することを特徴とする請求項7又は8の冷凍変性防止方法。
【請求項10】
魚肉がすり身、落とし身、フィレ、フィレブロックのいずれかである請求項7ないし9いずれかの冷凍変性防止方法。
【請求項11】
炭素数2〜5のアルコールがエタノールまたはエタノールを含有する食品素材である請求項7ないし10いずれかの冷凍変性防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚肉の冷凍変性を防止する方法に関する。詳細には、本発明は魚肉の冷凍保存中に進行する、トリメチルアミン−N−オキシド(以下、TMAO)の分解に起因する品質低下の発生を抑制した未加熱魚肉の冷凍品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚肉を利用したすり身製造は全世界で行われるグローバルな産業となっている。一方、近年は漁獲規制や資源の有効利用の観点から、従来経験のなかった原料を利用したすり身の製造も行われるようになってきた。
すり身製造の基本は以下の通りである。原料魚から頭、内臓を取り外した上で、蝶開きフィレ、もしくは、三枚卸フィレを作製する。次にフィレを採肉機にかけミンチ状となった魚肉(落とし身)を回収する。この魚肉のタンパク質からゲル形成の阻害となる水溶性タンパク質を水晒しで除き、皮、スジ、骨をリファイナーで除去後、脱水しゲル形成性の主要タンパク質の筋原繊維タンパク質を濃縮する。この脱水肉に冷凍変性防止剤の糖、糖アルコール及び重合リン酸塩を添加混合して冷凍するというものである。
冷凍すり身は、製造工程中、水晒し工程、脱水工程において、本来栄養や旨みの元となるべき、水溶性タンパク質が多く除去されてしまう。資源の有効利用、廃棄物量の低減という観点からは、水晒ししないで落とし身のまま利用できれば、より好ましいのは言うまでも無いが、すり身にすることで冷凍保存性が高くなり、すり身の方が汎用性も高いことから、冷凍落とし身の利用は限られている。
【0003】
タラ類など白身魚の落とし身の品質は臭いや食感などで評価される。白身魚に含まれるTMAOはその分解によりジメチルアミン(以下、DMA)とホルムアルデヒド(以下、FA)を生成する。DMAは不快な魚臭の原因物質であり、FAはタンパク質の変性剤として作用し、魚肉のゲル形成能を低下させたり、食感を固くする要因のひとつであると考えられている。
タラ類などTMAOの分解が進行する魚種は主に水晒しをしてTMAOを除去した上で冷凍する冷凍すり身の技術により、汎用性の高い原料として大量に利用されている。しかし、落とし身においては水晒しを行わないためTMAOの分解が進行しゲル形成能の低下が進行するため冷凍落とし身の利用は限られており、練り製品の原料としてはあまり利用されていない。
TMAOの分解を抑制する手法として魚肉を酸化させる方法が報告されているが、サイレントカッターで5〜30分間の攪拌工程が必要となり、生産性が高いとはいえない(特許文献1)。
【0004】
魚肉の調理時に酒やみりんとしてアルコールを使用することはあるが、未加熱の魚肉の冷凍保存時に積極的にアルコールが使用されることはない。特許文献2には、プロタミン、界面活性剤、アルコールを含有する冷凍すり身及び練り製品用改質剤が開示されているが、アルコールはプロタミンの均一分散性を高める補助剤としての使用である。また、特許文献3には、魚肉100部に対し、エタノールを1〜6部添加した冷凍すり身が開示されているが、ここでは、細菌数の少ない冷凍すり身を製造することを目的としている。文献4には、蛋白分解酵素処理された魚肉落とし身にエタノール、アルカリ性物質、真空下で処理する製造法が記載されているが、冷凍変性に関するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4404345号公報
【特許文献2】特開平1−262777号公報
【特許文献3】特開昭51−86163号公報
【特許文献4】特許3831850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、冷凍すり身のように汎用性が高く、冷凍保存の可能な冷凍落とし身を提供することを課題とする。特に、冷凍すり身に広く用いられているタラ類の冷凍落とし身の冷凍変性を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、魚肉に冷凍変性防止剤である糖、糖アルコールに加えてアルコールを添加することによりTMAOの分解を抑制することができることを見出したことにより完成したものである。食用に広く使用されるエタノールなどのアルコールを添加するだけというシンプルな方法で、練り製品の原料として利用可能なゲル形成能を保持した冷凍落とし身の製造を可能とする。
【0008】
本発明は以下(1)〜(8)の未加熱魚肉の冷凍品、(9)〜(16)の未加熱魚肉の冷凍変性防止方法及び未加熱魚肉の冷凍品及び加工食品を要旨とする。
(1)食用に用いることができる炭素数2〜5のアルコールを添加した未加熱魚肉の冷凍品。
(2)アルコールの添加量が魚肉に対して0.05〜5.0重量%である(1)の未加熱魚肉の冷凍品。
(3)アルコールの添加量が魚肉に対して0.2〜1.0重量%である(1)の未加熱魚肉の冷凍品。
(4)さらに糖又は糖アルコール、及び/又は、塩類を添加したものである(1)ないし(3)いずれかの未加熱魚肉の冷凍品。
(5)魚肉がトリメチルアミン−N−オキシドを含有する魚肉である(1)ないし(4)いずれかの未加熱魚肉の冷凍品。
(6)魚肉がタラ類の魚肉である(5)の未加熱魚肉の冷凍品。
(7)魚肉が落とし身、フィレ、フィレブロックのいずれかである(1)ないし(6)いずれかの未加熱魚肉の冷凍品。
(8)炭素数2〜5のアルコールがエタノールまたはエタノールを含有する食品素材である(1)ないし(7)いずれかの未加熱魚肉の冷凍品。
【0009】
(9)未加熱魚肉に、食用に用いることができる炭素数2〜5のアルコールを添加することにより冷凍変性を抑制させることを特徴とする未加熱魚肉の冷凍変性防止方法。
(10)冷凍変性が魚肉に含まれるトリメチルアミン−N−オキシドの分解によるものである(9)の冷凍変性防止方法。
(11)さらに糖又は糖アルコール、及び/又は、塩類を添加することを特徴とする(9)又は(10)の冷凍変性防止方法。
(12)魚肉がすり身、落とし身、フィレ、フィレブロックのいずれかである(9)ないし(11)いずれかの冷凍変性防止方法。
(13)炭素数2〜5のアルコールがエタノールまたはエタノールを含有する食品素材である(9)ないし(12)いずれかの冷凍変性防止方法。
(14)アルコールの添加量が魚肉に対して0.05〜5.0重量%である(9)ないし(13)いずれかの未加熱魚肉の冷凍変性防止方法。
(15)(9)ないし(14)いずれかの方法で処理された未加熱魚肉の冷凍品。
(16)(15)の未加熱魚肉の冷凍品を原料として製造された魚肉加工食品。
【発明の効果】
【0010】
落とし身においては、冷凍保存中に魚肉中に含まれるTMAOが分解してDMA、FA等となり、魚肉のゲル形成能などの品質の低下が発生する。本発明の方法により、冷凍前に糖、糖アルコールなど他の冷凍変性防止剤とともにエタノールなどのアルコールを添加することにより、TMAOの分解を抑制することができ、魚肉の冷凍変性を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、アルコールを添加することにより、魚肉に含まれるトリメチルアミン−N−オキシドの分解を抑制し、魚肉の変性を防止する発明である。
本発明において、アルコールとは、炭素数2〜5のアルコールであり、具体的には、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールである。これらのうち、食用に用いることが認められているものが使用できる。実質的には広く食用に用いられているエタノールを用いるのが好ましい。
エタノールとしては、純度100%のエタノールを用いてもいいし、希釈されたものでも、酒類や発酵調味料のようなエタノールを含有する食品を用いてもよい。具体的には、ワイン、清酒、焼酎、老酒、本みりん、ブランデー、ラム、リキュール、ウイスキーなどの酒類や、みりんタイプやワインタイプ、焼酎タイプの発酵調味料でアルコール含有量10〜50%程度のものが使いやすい。
アルコールの添加量は、魚肉の湿重量に対して、0.05〜5.0重量%、好ましくは、0.2〜1.0重量%添加するのが好ましい。アルコール含有食品を用いる場合は、アルコール量として、これらの範囲添加できる量の食品を添加する。
【0012】
本発明において、未加熱魚肉とは、生鮮魚肉であって、加熱調理などタンパク質が変性するような温度(60℃程度)以上に加熱されていない魚肉、すなわち、室温程度以下の温度履歴の魚肉を意味する。具体的には、骨・皮付きの鮮魚、骨・皮なしのフィレ、裁断されたフィレブロック原料、落とし身など、加工される前の原料となるような魚肉である。これら未加熱魚肉を冷凍保存する前に、他の冷凍変性防止剤とともにアルコールを添加する。
添加方法は、落とし身であれば、混合攪拌すればよい。その他の魚肉の場合は、浸漬、注入、減圧浸漬など、液状成分を浸み込ませるための公知の方法を用いて、魚肉の中心まで浸み込ませる。
本発明において、落とし身とはミンチ状に採肉した魚肉であって、すり身のように水溶性タンパク質を除去するための水晒しを行っていないものである。フィレとは骨や皮を除いて魚肉だけにしたものである。フィレブロックとは、フィレやその切れ端など、大きさや形の不ぞろいなものを型につめて凍結したものである。これをカットして用いることにより、大きさや形が一定の商品を製造することができる。
本発明の対象となる魚肉は、TMAOを含有し、冷凍保存中にDMA、FAに分解する魚肉であればどのような魚種の魚肉でもよい。具体的には、タラ目タラ科に属するスケトウダラ(Theragra chalcogram)、ミナミダラ(Micromesistius australis)、タラ目マクルロヌス科に属するホキ(Macruronus magellanicus)などのタラ類やヒメ目エソ科に属するエソ(Saurida sp.)などのエソ類の魚肉にはTMAOが多く含まれ、冷凍保存中に分解し、魚肉の品質を低下させることが知られている。特にTMAOを魚肉に30mmol/kg以上含有するような魚肉において明確な効果が期待できる。品質の低下は、肉質硬化や、塩不溶性の進行、不快な魚臭、ゲル形成能の低下などが見られる。魚肉中に含まれるTMAOが分解して生成するFAが、タンパク質間の架橋反応を進め肉質硬化、塩不溶性を引き起こすことと、TMAOの分解によりFAと等モル生成するDMAが不快な魚臭を示すためである。
【0013】
アルコールと併用することができる冷凍変性防止剤としては、糖、糖アルコールなど、あるいは、その他のTMAOの分解を抑制する作用を有することが知られている酸化剤などを使用することができる。特に糖、糖アルコールの併用が好ましい。使用される糖、糖アルコールの種類としてはスクロース、ソルビトール、トレハロース、グルコース、キシリトール、マンニトール、キシロース、ソルビタン、フルクトース、マルトース等が例示される。糖、糖アルコールの添加量は、魚肉(湿重量)に対し、1〜20重量%好ましくは5〜15重量%である。
水もしくは食品素材を添加し、魚肉を希釈することにより冷凍変性防止作用を増強することもできる。具体的には、水や油脂、大豆タンパク質、澱粉、各種エキスなどを添加し、魚肉を希釈することができる。
また魚肉を酸化され易い状態にするためには、塩類を添加し、塩溶性タンパク質を溶解させた状態で撹拌することがより効果的である。塩類の添加量は、魚肉100%に対し0.01〜5%、好ましくは0.1〜3%である。
魚肉を酸化させやすくするために添加する塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、第一、第二、第三リン酸ナトリウム、炭酸カリウム、コハク酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム等が例示される。好ましくは食塩が使用できる。
【0014】
本発明において、冷凍変性が抑制されているとは、冷凍保存中のタンパク質変性が小さいこと、すなわち魚肉タンパク質の塩溶解性の経日変化が小さいことや、魚肉がゲル形成能を有し、かつ、その経日変化が小さいことである。また、通常冷凍保存中にTMAOが分解して生成する物質(DMA、FA)の生成量が抑制されていることを示す。具体的には、魚肉を−20℃、1ヶ月保存後も、ゲル形成能を有していること、TMAOが分解して生成したDMA、FAの量がそれぞれ3mmol/魚肉kg以下であること、あるいはタンパク質の未変性度を表す指標である塩溶解性が20%以上であることなどにより観察することができる。
通常冷凍魚肉は−20℃〜−25℃で保存されるが、本試験では−10℃で冷凍保存することにより、短期間で長期の冷凍保存性を評価した。虐待試験は通常の保存より苛酷な条件で保存することにより、短期間で保存安定性をみるための試験方法である。FA量を指標として比較すると−10℃で2週間保存したものと−20℃で1年間保存したものとがほぼ同程度の変化を示すことを確認している。本発明の冷凍魚肉は、実施例に示すように、−10℃で、2〜4週間保存可能であることが確認されているので、−20℃で保存した場合、少なくとも1年以上、1〜2年の冷凍保存が可能である。
【0015】
本発明の冷凍変性が抑制された魚肉は練製品の原料として用いることができる。現在練製品の原料として広く使用されている冷凍すり身と全く同様に使用することができる。冷凍すり身で失われている水溶性タンパク質が残っているので、うま味成分が多く、グルタミン酸ナトリウムなどのうま味成分を補う必要性が低くなる。練製品としては、プレーンかまぼこ、揚げかまぼこ、ゆでかまぼこ、竹輪、カニかまぼこ、さつま揚げ、魚肉ハム、ソーセージ、はんぺん等が例示される。
また、フィレやフィッシュブロックは、フライや天ぷらなど揚げ物、ムニエルなど焼き魚の素材として用いることもできる。
【0016】
以上のとおり、本発明の最も好ましい態様は、魚肉に対して、エタノール0.05〜5.0重量%、糖又は糖アルコール1〜20重量%、食塩0.01〜5重量%添加し、均一に攪拌後、冷凍保存する方法である。特に好ましいのは、エタノール0.2〜1.0重量%、糖又は糖アルコール5〜15重量%、食塩0.1〜3重量%添加である。フィレ、フィレブロックなどの場合も、魚肉の中心まで浸透するように添加する。
【0017】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
アルコールのTMAO分解抑制効果について
各種アルコールのTMAO分解抑制効果について、スケトウダラの落とし身を使用して評価した。はじめにスケトウダラから頭及び内臓を除去し、採肉機にかけミンチ状の魚肉である落とし身を作製した。次に落とし身に砂糖10%を添加した上で、炭素数の異なる1級アルコール(メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール)を1%添加し、−10℃で2週間保存後のTMAO分解抑制効果について評価を行った。TMAOの分解抑制効果についてはTMAOの分解により生成されるDMAの含量を測定することで評価した。すなわち、冷凍直後と冷凍保存後のDMA含量を測定し、冷凍保存中のDMA増加量の比較を行った。DMAの定量はDyerらの方法による銅−ジチオカルバメート法で行い、魚肉1kg当たりの含量を算出した。
【0019】
結果を表1に示した。10%砂糖のみを添加した試験区1では、冷凍保存中にDMA含量が3.63mmol/kg増加したが、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノールを加えた試験区では10%砂糖のみを添加した試験区と比較してDMA含量の増加量が低く、TMAOの分解が抑制されたことが明らかとなった。
【0020】
【表1】
【実施例2】
【0021】
エタノール添加によるTMAO分解抑制効果について
実施例1と同様に、スケトウダラを用いて落とし身を調製の上、表2に示す添加物を添加したサンプルを作製し、−10℃2週間保存後のTMAO分解抑制効果について評価を行った。
表2に示すように、エタノール濃度依存的にDMA含量の増加量が低下し、TAMOの分解が抑制されていることが明らかとなった。
【0022】
【表2】
【実施例3】
【0023】
糖とエタノールと塩の併用によるTMAO分解抑制効果について
実施例1と同様に、スケトウダラを用いて落とし身を調製の上、表3に示す添加物を添加したサンプルを作製し、−10℃2週間保存後のTMAO分解抑制効果について評価を行った。
表3に示すように、10%砂糖、0.5%エタノールを添加した上でさらに塩を添加した場合、塩の濃度依存的にDMA含量の増加量が低下し、TAMOの分解が抑制されていることが明らかとなった。
【0024】
【表3】
【実施例4】
【0025】
実施例1と同様に、スケトウダラを用いて落とし身を調製の上、10%砂糖1%塩を添加した上でさらにエタノール濃度を0〜5%の範囲で添加したサンプルを作製し、−10℃2週間保存後のTMAO分解抑制効果について評価を行った。
表4に示すように、魚肉に対し10%砂糖、1%塩添加した上でさらにエタノールを添加した場合、エタノールの濃度依存的にDMA含量の増加量が低下し、TAMOの分解が抑制されていることが明らかとなった。
【0026】
【表4】
【実施例5】
【0027】
TMAO分解を抑制した落とし身の加熱調理後の品質
スケトウダラを用いて落とし身を調製の上、魚肉に対し、(1)10%砂糖を添加したもの、(2)10%砂糖、1%塩、1%エタノールを添加したサンプルを作製した。
次にサンプルを−10℃で4週間保存した上で、加熱調理後の品質について評価するため、かまぼこゲルを調製した。落とし身を解凍後、フードカッターを用いて粗擂り、塩擂り(食塩3重量%添加)を行った上で練り肉を調製した。練り肉はポリ塩化ビニリデンフィルムに充填し90℃で40分間加熱してカマボコを調製した。次に、得られたカマボコのゲル強度を測定した。ゲル強度は上記の各カマボコを厚さ2.5cmの輪切りにし、5mm径球状のプランジャーを用いて測定した破断強度(w値、g)と、破断までの距離(L値、cm)を掛け合わせたGS(g・cm)で表した。また、加熱ゲルの臭いについて官能テストで評価した。
【0028】
結果を表5に示した。10%砂糖を添加した落とし身の加熱ゲルはゲル強度測定できず、不快な魚臭も認められた。これはTMAOの分解が進行したためであると考えられる。一方、魚肉に対し10%砂糖、1%塩、1%エタノールを添加した場合はゲル形成能を有しており、不快な魚臭も感じなかった。これは1%塩、1%エタノールの添加によりTMAOの分解が抑制されたためであると考えられる。
【0029】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明により、冷凍すり身のように汎用性が高く、冷凍保存可能な冷凍落とし身を提供することができる。