(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
太陽光を入射する表面ガラスと太陽光入射の反対側に配置される裏面シート又は裏面ガラスの間に介装する太陽電池セルを封止する太陽電池モジュール用シリコーン封止材であって、該シリコーン封止材が、
(A)下記平均組成式(1)
RaR’bSiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、Rはアルケニル基、R’は脂肪族不飽和結合を持たない非置換又は置換の炭素数1〜10の一価炭化水素基、a、bは、0<a≦2、0<b<3、0<a+b≦3を満たす数である。)
で表される一分子中に2個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(A)成分のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対してケイ素
原子に結合した水素原子が0.4〜2.5倍モルとなる量、
(C)付加反応触媒 触媒量
を含んでなり、かつ該シリコーン封止材の硬化物の40℃・1mm厚みにおける水蒸気透過率が80g/m2・day以上であってその弾性率が0.1〜5.0MPaであることを特徴とする太陽電池モジュール用シリコーン封止材。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、
図4に示したように、太陽光を入射させる表面ガラス2と太陽光入射の反対側に配置される裏面シート又は裏面ガラス6との間に介装する太陽電池セル4を封止する太陽電池モジュール用シリコーン封止材(熱硬化性シリコーン樹脂組成物)3,5を提供し、更に該封止材を用いてなる太陽電池モジュール1を提供するものである。
【0015】
ここで、上記太陽電池モジュール用シリコーン封止材は、以下の(A)〜(C)成分を含んでなる熱硬化性シリコーン樹脂組成物である。
熱硬化性シリコーン樹脂組成物
【0016】
[(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン]
(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、この組成物のベースポリマーであり、下記平均組成式(1)で表される、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するものである。
R
aR’
bSiO
(4-a-b)/2 (1)
(式中、Rはアルケニル基、R’は脂肪族不飽和結合を持たない非置換又は置換の炭素数1〜10の一価炭化水素基、a、bは、0<a≦2、0<b<3、0<a+b≦3を満たす数である。)
【0017】
このようなアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、一分子中に平均2個以上(通常2〜50個)、好ましくは2〜20個、より好ましくは2〜10個程度のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する。(A)成分のオルガノポリシロキサンのアルケニル基Rとしては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基等の炭素数2〜10、特に2〜8のものが挙げられ、特に、ビニル基が好ましい。アルケニル基の結合位置としては、例えば、分子鎖末端及び/又は分子鎖側鎖が挙げられる。
【0018】
アルケニル基含有オルガノポリシロキサンにおいて、アルケニル基以外のケイ素原子に結合した脂肪族不飽和結合を持たない非置換又は置換の炭素数1〜10の一価炭化水素基R’としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基などが挙げられるが、耐UV特性を鑑みると、特に、メチル基が好ましい。
【0019】
このようなアルケニル基含有オルガノポリシロキサンの分子構造としては、例えば、直鎖状、一部分岐を有する直鎖状、環状、分岐鎖状、三次元網状等が挙げられるが、基本的に主鎖がジオルガノシロキサン単位(D単位)の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された、直鎖状のジオルガノポリシロキサン、直鎖状のジオルガノポリシロキサンと分岐鎖状あるいは三次元網状のオルガノポリシロキサンの混合物であることが好ましい。
【0020】
この場合、レジン状(分岐鎖状、三次元網状)のオルガノポリシロキサンとしては、アルケニル基を含むM単位やD単位とSiO
4/2単位(Q単位)及び/又はR’’SiO
3/2(T単位)(R’’は上記R又はR’である。)を含有するオルガノポリシロキサンであれば特に制限されないが、SiO
4/2単位(Q単位)と、RR’
2SiO
1/2単位やR’
3SiO
1/2単位等のM単位からなり、M/Qのモル比が0.6〜1.2であるレジン状オルガノポリシロキサンや、T単位とM単位及び/又はD単位からなるレジン状オルガノポリシロキサン等が例示される。
【0021】
直鎖状オルガノポリシロキサンとレジン状オルガノポリシロキサンの好ましい配合割合は、質量比で好ましくは60:40〜100:0、特に好ましくは80:20〜100:0である。レジン状のオルガノポリシロキサンを40質量%を超えて添加すると、粘度が高くなり取扱性が悪化するおそれがある。
【0022】
式(1)中、aは、0<a≦2、好ましくは0.001≦a≦1、bは、0<b<3、好ましくは0.5≦b≦2.5、a+bは、0<a+b≦3、好ましくは0.5≦a+b≦2.7を満たす数である。
【0023】
このような(A)成分の25℃における粘度は、得られるシリコーンゴムの物理的特性や組成物の取扱作業性が良好であることを考慮すると、100〜500,000mPa・sの範囲内であることが好ましく、特に400〜100,000mPa・sの範囲内であることが好ましい。直鎖状オルガノポリシロキサンにレジン状オルガノポリシロキサンを併用する場合は、レジン状オルガノポリシロキサンは直鎖状オルガノポリシロキサンに溶解するため、混合して均一な状態での粘度とする。なお、本発明において、粘度は回転粘度計により測定することができる。
【0024】
このような(A)成分のオルガノポリシロキサンとしては、例えば、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、式:R
13SiO
1/2で示されるシロキサン単位と式:R
12R
2SiO
1/2で示されるシロキサン単位と式:R
12SiO
2/2で示されるシロキサン単位と式:SiO
4/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、式:R
13SiO
1/2で示されるシロキサン単位と式:R
12R
2SiO
1/2で示されるシロキサン単位と式:SiO
4/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、式:R
12R
2SiO
1/2で示されるシロキサン単位と式:R
12SiO
2/2で示されるシロキサン単位と式:SiO
4/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、式:R
1R
2SiO
2/2で示されるシロキサン単位と式:R
1SiO
3/2で示されるシロキサン単位もしくは式:R
2SiO
3/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、及びこれらのオルガノポリシロキサンの2種以上からなる混合物が挙げられる。
【0025】
なお、上記式中のR
1はアルケニル基以外の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基などが挙げられる。また、上記式中のR
2はアルケニル基であり、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基等が挙げられる。
【0026】
[(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン]
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一分子中に少なくとも2個(通常、2〜300個)、好ましくは3個以上(例えば、3〜150個程度)、より好ましくは3〜100個程度のケイ素原子に結合した水素原子(すなわち、SiH基)を含有するものであり、直鎖状、分岐状、環状、あるいは三次元網状構造の樹脂状物のいずれでもよい。
【0027】
このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、下記平均組成式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられる。
H
cR
3dSiO
(4-c-d)/2 (2)
(式中、R
3は独立に脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の一価炭化水素基、又はアルコキシ基であり、c及びdは、0<c<2、0.8≦d≦2かつ0.8<c+d≦3となる数であり、好ましくは0.05≦c≦1、1.5≦d≦2かつ1.8≦c+d≦2.7となる数である。また、一分子中のケイ素原子の数(又は重合度)は、2〜100個、特に3〜50個が好ましい。)
【0028】
式(2)中、R
3の脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の一価炭化水素基としては、前記のR’として例示したものと同様のものが挙げられるほか、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基が挙げられるが、好ましくはフェニル基等の芳香族基を含まないものであり、代表的なものは炭素数が1〜10、特に炭素数が1〜7のものであり、好ましくはメチル基等の炭素数1〜3の低級アルキル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、炭素数1〜4のアルコキシ基であり、特に好ましくはメチル基、メトキシ基、エトキシ基である。
【0029】
このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルテトラシクロシロキサン、1,3,5,7,8−ペンタメチルペンタシクロシロキサン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン等のシロキサンオリゴマー;分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体等;R
32(H)SiO
1/2単位とSiO
4/2単位からなり、任意にR
33SiO
1/2単位、R
32SiO
2/2単位、R
3(H)SiO
2/2単位、(H)SiO
3/2単位又はR
3SiO
3/2単位を含み得るシリコーンレジン(但し、R
3は前記と同じである)等の他、これらの例示化合物においてメチル基の一部又は全部をエチル基、プロピル基等の他のアルキル基で置換したものなどが挙げられ、更には下記式
【化1】
(式中、R
3は前記と同じであり、s、tはそれぞれ0又は1以上の整数である。)
等で表されるものが挙げられる。
【0030】
このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、公知の方法で得ることができ、例えば、一般式:R
3SiHCl
2及びR
32SiHCl(式中、R
3は前記と同じである)から選ばれる少なくとも1種のクロロシランを(共)加水分解し、あるいは該クロロシランと一般式:R
33SiCl及びR
32SiCl
2(式中、R
3は前記と同じである)から選ばれる少なくとも1種のクロロシランを組み合わせて共加水分解し、縮合することにより得ることができる。また、オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、このように(共)加水分解縮合して得られたポリシロキサンを平衡化したものでもよい。
また、接着性をより向上させるために、(B)成分の少なくとも一部に、一分子中にエポキシ基及び/又はアルコキシ基を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いることが好ましい。例えば、エポキシ基含有オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては下記のものが挙げられる。
【0032】
更に、下記のアルコキシシリル基含有シロキサンが挙げられる。
【化3】
(式中、R
4はメチル基、エチル基等の炭素数1〜4のアルキル基であり、mは0以上、特に0〜40の整数、nは2以上、特に2〜20の整数、pは1以上の整数、特に1〜10、q、rは1〜3の整数である。)
【0034】
(B)成分は、1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。(B)成分の配合量は、(A)成分のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対してケイ素原子に結合した水素原子が0.4〜2.5倍モル、特に0.7〜1.8倍モルとなる量であり、通常(A)成分100質量部に対し0.5〜50質量部、特に1〜30質量部である。
【0035】
[(C)付加反応触媒]
本発明に用いる付加(ヒドロシリル化)反応触媒は、前記アルケニル基とケイ素原子に結合した水素原子(すなわち、SiH基)との付加反応を促進するための触媒であり、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として白金族金属系触媒等の周知の触媒が挙げられる。
【0036】
白金族金属系触媒としては、ヒドロシリル化反応触媒として公知のものが全て使用できる。例えば、白金黒、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体;H
2PtCl
4・yH
2O、H
2PtCl
6・yH
2O、NaHPtCl
6・yH
2O、KHPtCl
6・yH
2O、Na
2PtCl
6・yH
2O、K
2PtCl
4・yH
2O、PtCl
4・yH
2O、PtCl
2、Na
2HPtCl
4・yH
2O(式中、yは0〜6の整数であり、好ましくは0又は6である)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩;アルコール変性塩化白金酸(米国特許第3,220,972号明細書参照);塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス(米国特許第3,159,601号明細書、同第3,159,662号明細書、同第3,775,452号明細書参照);白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの;ロジウム−オレフィンコンプレックス;クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒);塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン、特にビニル基含有環状シロキサンとのコンプレックス等が挙げられる。
【0037】
これらの中で、好ましいものとして、相溶性の観点及び塩素不純物の観点から、塩化白金酸をシリコーン変性したものが挙げられ、具体的には例えば塩化白金酸をテトラメチルジビニルジシロキサンで変性した白金触媒が挙げられる。
【0038】
白金族金属系触媒の配合量は、触媒量であり、(A)〜(C)成分の合計質量に対する白金原子質量換算で0.1〜500ppm、好ましくは0.5〜100ppm、より好ましくは1〜50ppmである。
【0039】
また、本組成物には接着性を更に向上させるためにシランカップリング剤を配合してもよい。シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基含有シランカップリング剤、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリル基含有シランカップリング剤等が例示される。シランカップリング剤を配合する場合、(A)成分100質量部に対して0.1〜20質量部、特に0.5〜10質量部であることが好ましい。
【0040】
更に必要に応じ、上記成分の機能を損なわない範囲で付加反応制御剤等、その他の公知の添加成分を配合してもよい。
【0041】
本組成物は、上記成分を常法に準じて混合することにより調製することができる。その際に、混合される成分を必要に応じて2パート又はそれ以上のパートに分割して混合してもよく、例えば、(A)成分の一部及び(C)成分からなるパートと、(A)成分の残部及び(B)成分からなるパートとに分割して混合することも可能である。
【0042】
このような組成物からなるシリコーン封止材は、その硬化物の架橋密度が上がるにつれて水蒸気透過率が下がる特徴を有している。その中で、1mm厚みの硬化物の40℃における水蒸気透過率が80g/m
2・day以上であるものを使用した場合、太陽電池モジュールの経時での特性低下を大きく抑制することが可能である。すなわち、シリコーン封止材の硬化物が水蒸気を通したとしても、モジュールとの界面においてその存在量は最低限に抑えられ、太陽電池セルの致命的な劣化を引き起こさないということが明らかとなった。また、シリコーン封止材の硬化物自身も水分を溜め込まないことから、封止材の硬化物の外側の雰囲気によっては過剰な水蒸気を放出するという特徴も有効であったと考えられる。なお、水蒸気透過率のより好ましい範囲は80〜160g/m
2・day、更に好ましくは80〜120g/m
2・dayである。
【0043】
ジメチルシロキサンを骨格とするシリコーン硬化物について1mm厚みで40℃における水蒸気透過率は、弾性率が0.7MPaのもので155g/m
2・day、3MPaのもので110g/m
2・day、9MPaのもので40g/m
2・dayとなっている。この結果より、弾性率を下げることで更に水蒸気透過率を上げることも可能であると考えられるが、弾性率を0.1MPa未満とした場合、封止材の硬化物自身の形状維持が困難となったり、モジュール裏面(バックシート側)からの不意の外力によってセルにクラックが生じるおそれがある。
【0044】
反対に、水蒸気透過率を下げるようにシリコーン封止材の硬化物の弾性率を上げた場合、シリコーン封止材の機械的強度は上昇する。しかし、温度変動による伸縮の影響で、セル電極上のタブ線に応力を与え、セル電極上のタブ線を剥離させることでモジュール発電効率を低下させるおそれがある。
【0045】
シリコーン封止材の硬化物の水蒸気透過率及び弾性率は、(A)成分と(B)成分の反応部位数を変化させることで達成される。すなわち、(A)成分についてR
13SiO
1/2、R
12R
2SiO
1/2、R
12SiO
2/2、(B)成分について、R
33SiO
1/2単位、R
32SiO
2/2単位、R
3(H)SiO
2/2単位からなるものは高水蒸気透過率、低弾性率となり、(A)成分、(B)成分中にR
1SiO
3/2、SiO
4/2、(H)SiO
3/2単位を導入すると低水蒸気透過率、高弾性率となる。
【0046】
このようなシリコーン封止材を太陽電池モジュールに使用する場合、弾性率が0.1MPaを下回ると、封止材の硬化物自身の形状が維持できず適当でない。従って、自ずと0.1MPa以上が必要条件となる。また弾性率が上がると、それに応じて水分透湿性が下がり、水分を伴う加速試験においては有効な部分もあるが、温度サイクル試験等においては、電極に大きな応力が加わることでモジュール特性を劣化させることがある。弾性率が5.0MPaを超えると、電極に加わる応力緩和ができず電極部にクラック等を発生させることがある。弾性率が5.0MPaである場合、シリコーン樹脂の水蒸気透過率は80g/m
2・dayである。従って、本発明において、封止材の硬化物の弾性率は0.1〜5.0MPa、特に0.1〜3.0MPaであることが好ましい。
【0047】
本発明では、上記熱硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化物を太陽電池モジュール用シリコーン封止材として使用するに際し、水蒸気透過率が80g/m
2・day以上で、好ましくは弾性率が0.1〜5.0MPaを満たすようにすることによって、長期屋外暴露環境に耐え得る高信頼性の太陽電池モジュールが得られるものである。
特に、加速劣化試験として、プレッシャークッカー試験の他、温度サイクル試験、結露凍結試験を取り上げ、上記シリコーン封止材の硬化物がこれらの試験に耐え得るよう、上記物性値の範囲を満足するように予めシリコーン封止材を構成するそれぞれの成分の配合量にフィードバックをかけることが好ましい。
【0048】
上記、プレッシャークッカー試験として、温度125℃、湿度100%、2気圧、暴露時間100時間で太陽電池モジュールを暴露させると、弾性率が0.1MPa以上の物性である場合、モジュール効率の低下が確認されない。
【0049】
例えば、温度サイクル試験として、IEC61215規格に準じた温度プロファイル条件、すなわち、85℃〜−40℃の温度変動を1サイクル(6時間)とし、200サイクル暴露すると、封止材の硬化物の弾性率が大きいEVA等では、セル電極上のタブ線に大きな応力を与え、セル電極上のタブ線が剥離するなどでモジュール発電効率を低下させることがある。
【0050】
同様に、結露凍結試験として、IEC61215規格に準じた温湿度プロファイル条件、すなわち85℃、85RH%から−40℃の温度変動を1サイクルとし、10サイクル暴露すると、セル電極上のタブ線に大きな応力を与え、セル電極上のタブ線が剥離する現象が見られる他、封止材の硬化物がセル表面から剥離するデラミネーションが発生するなどで、モジュール発電効率や外観を低下させることがある。
【0051】
この場合においても、封止材の硬化物の弾性率が大きいEVA等では、セル電極上のタブ線の剥離等が特に出やすい。
封止材がシリコーン樹脂の場合においては、硬化後のシリコーン樹脂が、水蒸気透過率が80g/m
2・day以上、また弾性率0.1MPa以上5.0MPa以下の範囲内のいずれかであれば、このような現象は確認されない。
従って、上記熱硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化物を太陽電池モジュール用シリコーン封止材として使用するに際し、該硬化物が、水蒸気透過率が80g/m
2・day以上、また弾性率0.1MPa以上5.0MPa以下のいずれかの物性を満たすようにしておくことにより、上記加速劣化試験のいずれかに対してもバランスのよいものとなる。
【0052】
本発明の太陽電池モジュールは、上記シリコーン封止材を用いてなるもので、例えば、
図1〜4に示される第一工程〜第四工程の太陽電池モジュールの断面図のように作製することができる。
【0053】
太陽電池モジュール
先ず、
図1(第一工程)のように、太陽光を入射させる表面ガラス2上にシリコーン封止材(熱硬化性シリコーン樹脂組成物)3を塗布し、温度80〜150℃、硬化時間1〜30分で熱硬化させ、
図2(第二工程)のように、その上に予め個々の太陽電池セル4を電気的に接続して組みセルとしたセル・ストリングスを載置する。このとき、上記熱硬化性シリコーン樹脂組成物3は、完全に熱硬化させずに部分的に硬化した状態を保っていてもよい。次に、
図3(第三工程)のように、セル・ストリングスの上に更にシリコーン封止材(熱硬化性シリコーン樹脂組成物)5を塗布することによって、セル・ストリングスを上記熱硬化性シリコーン樹脂組成物3,5又はその硬化物中に封入し、最後に、
図4(第四工程)のように、その上に太陽光入射の反対側となる裏面シート又は裏面ガラス6を載置すると共に、再び、温度80〜150℃、硬化時間1〜30分で熱硬化させ、太陽電池セル4を完全に封止した太陽電池モジュール1とする。
【0054】
ここで、第一工程及び第三工程で使用されるシリコーン封止材(熱硬化性シリコーン樹脂組成物)3,5には、予め、最後に得られるそれらの硬化物が、水蒸気透過率80g/m
2・day以上、また弾性率0.1MPa以上5MPa以下のいずれかの物性を満たすように、上述した(A)〜(C)成分を所定の配合の範囲内で調製されたものが使用される。これは、予め少量バッチの熱硬化性組成物を作製し、上記物性を測定することにより容易に確認することができる。なお、水蒸気透過率は、水蒸気透過度計L80−5000を用いて40℃下で測定を行い、また、弾性率はTMA等、−40℃〜120℃、通常25℃の下、公知の測定方法(JIS K7129A法)によって測定することができる。
【0055】
また、最後に上記物性の硬化物が得られさえすればよいので、第一工程及び第三工程で使用される熱硬化性シリコーン樹脂組成物3,5は、上述した(A)〜(C)成分を所定の配合の範囲内で調製されたものである限り、それぞれ別の組成物としても同一の組成物としても構わない。
【0056】
熱硬化性シリコーン樹脂組成物の塗布は、スプレーコーティング、フローコーティング、カーテンコーティング、スクリーンコーティング、流し込み及びそれらの組み合わせ等、公知の塗布方法を使用することができる。また、熱硬化性シリコーン樹脂組成物の塗布厚さは、10〜1,000μm、好ましくは50〜800μm、更に好ましくは100〜600μmとなるようにする。これは、10μmより薄いと太陽電池セル又は太陽電池セル・ストリングスの厚みを吸収することができなくなる可能性があり、また、1,000μmより厚いと硬化性シリコーン材料のコスト高となるからである。
【0057】
このようにして塗布された熱硬化性シリコーン樹脂組成物の熱硬化には、ホットプレート、オーブン等、公知の加熱器具又は装置が使用される。加熱温度及び加熱処理時間も必ずしも上記のみに限定されず、必要に応じてポスト加熱を追加しても構わない。
【0058】
太陽電池モジュールを構成するパーツについて述べる。太陽光を入射させる側の表面ガラス2としては、青板硝子、白板硝子又は強化硝子等が使用され、その他、合成樹脂材として、アクリル樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂又はエポキシ樹脂等の有機系ガラスも使用することができる。
【0059】
太陽光入射と反対側となる裏面には、上記表面ガラス2と同様のガラスの他、フッ素樹脂やPET樹脂からなるTPT等のバックシートも使用することができる。また、太陽電池モジュール内に生じる部分的なホットスポット現象を緩和するため、銅、アルミニウム、鉄等の金属シート、シリカを初め、酸化チタン、アルミナ、窒化アルミニウムなど高い熱伝導性を有する材料を合成樹脂に担持した複合材料シート等を使用してもよい。
【0060】
また、必要に応じて、上述した太陽電池モジュール1(
図4参照)の外縁部を、衝撃、風圧又は積雪に対する強度や耐候性を確保するため、軽量性を備えたアルミニウム合金、ステンレス鋼等の金属フレームで覆ってもよい。
【0061】
更に、上記太陽電池モジュールの外縁部と上記金属フレームの間にできる空間をブチルゴム等のふち取り封止材料で封止してもよい。なお、この封止方法は公知の方法による。
【0062】
太陽電池セルは、一般的な単結晶シリコン又は多結晶シリコンのうちから選ばれる1種もしくは2種のシリコン半導体を用いてなるもので、太陽電池セル・ストリングスは、ここでは、上記太陽電池セルをタブ線で接続し組みセルとしたものである。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0064】
太陽電池モジュールの作製
図1のように、340mm×360mmの厚さ3.2mmの白板強化ガラス2上に第1の熱硬化性シリコーン樹脂組成物3をフローコーティングにより600μmの厚さで塗布した後、100℃のオーブンに投入し10分間の硬化時間で硬化させた。次に、
図2のように、硬化させたシリコーン樹脂3の上にシリコン単結晶太陽電池セル4を2直×2並の組みセルにしたセル・ストリングスを載置した。次いで、
図3のように、セル・ストリングス上に第2の熱硬化性シリコーン樹脂組成物5をフローコーティングにより100μmの厚さで塗布した後、更に
図4に示すように、上部から縦340mm×横360mm×厚3.2mmの白板強化ガラス6を載置し、100℃のオーブンに投入し10分間の硬化時間で硬化させ、太陽電池モジュール1を完成させた。
【0065】
太陽電池モジュールの評価
得られた太陽電池モジュール1の初期の発電効率を測定するとともに、太陽電池モジュール1を2気圧、125℃、100RH%のプレッシャークッカー試験器に投入し、100時間経過後の発電効率を測定し、両者の発電効率差を求めた。
【0066】
温度サイクル試験として、IEC61215規格に準じた温度プロファイル条件、すなわち、85℃〜−40℃の温度変動を1サイクル(6時間)とし、200サイクル実施することとし、同様に太陽電池モジュール1の初期に対する温度サイクル試験後の発電効率差を求めた。
【0067】
また、結露凍結試験については、IEC61215規格に準じた温湿度プロファイル条件、すなわち85℃、85RH%から−40℃の温度変動を1サイクルとし、10サイクル実施することとし、同様に太陽電池モジュール1の初期に対する結露凍結試験後の発電効率差を求めた。
【0068】
[実施例1〜3、比較例1,2]
熱硬化性シリコーン樹脂組成物3,5に、これまで述べた配合範囲の(A)〜(C)成分を含む硬化後の弾性率が0.05、0.1、1、5、9(MPa)の5種類のメチル系シリコーン樹脂を使用したときの評価結果を表1〜3に示す。なお、それぞれの条件の水蒸気透過率は、弾性率が低い順から順に、165、160、145、80、40g/m
2・dayである。
ここで、実施例1〜3、比較例1,2の組成は以下の通りである。
【0069】
実施例1
分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖された、23℃における粘度が1,000mPa.sであり、ビニル基(Vi)含有量が0.012mol/100gであるジメチルポリシロキサン100質量部と、白金原子として1wt%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液0.05質量部、付加反応制御剤として1−エチニル−1−ヘキサノール0.01質量部を加え、均一に混合した後、側鎖にSi−H基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(Si−H量:0.0055mol/g)0.15質量部、末端にSi−H基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(Si−H量:0.001mol/g)8質量部を混合し、100℃で1時間加熱硬化させた。この硬化物の弾性率は0.1MPaであった。
【0070】
実施例2
分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖された、23℃における粘度が1,000mPa.sであり、ビニル基(Vi)含有量が0.012mol/100gであるジメチルポリシロキサン100質量部、(CH
3)
3SiO
1/2単位、(CH
2=CH)(CH
3)
2SiO
1/2単位及びSiO
2単位からなる樹脂質共重合体[〔(CH
3)
3SiO
1/2単位と(CH
2=CH)(CH
3)
2SiO
1/2単位との合計〕/SiO
2単位=0.8(モル比)、ビニル基含有量=0.0085mol/g]25質量部、白金原子として1wt%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液0.06質量部、付加反応制御剤として1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルテトラシロキサン0.1質量部を混合した後、下記式で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン16質量部を均一に混合し、100℃で1時間加熱硬化させた。この硬化物の弾性率は1MPaであった。
【化5】
【0071】
実施例3
分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖された、23℃における粘度が5,000mPa.sであり、ビニル基(Vi)含有量が0.006mol/100gであるジメチルポリシロキサン100質量部、(CH
3)
3SiO
1/2単位、(CH
2=CH)(CH
3)
2SiO
1/2単位及びSiO
2単位からなる樹脂質共重合体[〔(CH
3)
3SiO
1/2単位と(CH
2=CH)(CH
3)
2SiO
1/2単位との合計〕/SiO
2単位=0.8(モル比)、ビニル基含有量=0.0085mol/g]100質量部、白金原子として1wt%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液0.2質量部、付加反応制御剤として1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルテトラシロキサン0.8質量部、1−エチニル−1−ヘキサノール0.08質量部を混合した後、側鎖にSi−H基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(Si−H量:0.015mol/g)8質量部、及び下記式で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン1.5質量部を均一に混合し、100℃で1時間、続いて150℃で1時間加熱硬化させた。この硬化物の弾性率は5MPaであった。
【化6】
【0072】
比較例1
分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖された、23℃における粘度が1,000mPa.sであり、ビニル基(Vi)含有量が0.012mol/100gであるジメチルポリシロキサン100質量部と、分子鎖の片末端がビニルジメチルシロキシ基で封止された、23℃における粘度が1,000mPa.sであり、ビニル基(Vi)含有量が0.0035mol/100gであるジメチルポリシロキサン60質量部、白金原子として1wt%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液0.05質量部、付加反応制御剤として1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルテトラシロキサン0.005質量部を加え、均一に混合した後、側鎖にSi−H基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(Si−H量:0.0055mol/g)0.15質量部、末端にSi−H基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(Si−H量:0.001mol/g)12質量部を混合し、100℃で1時間加熱硬化させた。この硬化物の弾性率は0.05MPaであった。
【0073】
比較例2
分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖された、23℃における粘度が60mPa.sであり、ビニル基(Vi)含有量が0.06mol/100gであるジメチルポリシロキサン100質量部、(CH
3)
3SiO
1/2単位、(CH
2=CH)(CH
3)
2SiO
1/2単位及びSiO
2単位からなる樹脂質共重合体[〔(CH
3)
3SiO
1/2単位と(CH
2=CH)(CH
3)
2SiO
1/2単位との合計〕/SiO
2単位=0.8(モル比)、ビニル基含有量=0.0085mol/g]300質量部、白金原子として1wt%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液0.6質量部、付加反応制御剤兼硬度調整剤として1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルテトラシロキサン12.5質量部を混合した後、側鎖にSi−H基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(Si−H量:0.015mol/g)40質量部、及び下記式で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン20質量部を均一に混合し、100℃で1時間、続いて150℃で1時間加熱硬化させた。この硬化物の弾性率は9MPaであった。
【化7】
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】