特許第5971258号(P5971258)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5971258導電性マイエナイト化合物の製造方法および蛍光ランプ用の電極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5971258
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】導電性マイエナイト化合物の製造方法および蛍光ランプ用の電極
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/16 20060101AFI20160804BHJP
【FI】
   C01F7/16
【請求項の数】9
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2013-550183(P2013-550183)
(86)(22)【出願日】2012年11月13日
(86)【国際出願番号】JP2012079433
(87)【国際公開番号】WO2013094346
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2015年8月12日
(31)【優先権主張番号】特願2011-278869(P2011-278869)
(32)【優先日】2011年12月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 俊成
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 暁
(72)【発明者】
【氏名】宮川 直通
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/129675(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/060890(WO,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2011−0124446(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 7/16−7/18
C01F 7/54
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性マイエナイト化合物の製造方法であって、
(1)マイエナイト化合物の粉末を準備する工程と、
(2)前記工程(1)で準備されたマイエナイト化合物の粉末を含む被処理体を、一酸化炭素ガスおよびチタン源から供給されるチタン蒸気の存在下に、前記チタン源に接触しない状態で配置し、窒素を除く不活性ガス雰囲気、または減圧環境下で、前記被処理体を1230℃〜1380℃の範囲の温度に保持する工程と、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記マイエナイト化合物の粉末を含む被処理体は、前記マイエナイト化合物の粉末を含む成形体である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記被処理体は、前記マイエナイト化合物の粉末を含む成形体を、導電性部材に取り付けることにより構成される請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
導電性マイエナイト化合物の製造方法であって、
(1)マイエナイト化合物を含む焼結体を準備する工程と、
(2)前記工程(1)で準備されたマイエナイト化合物を含む焼結体を含む被処理体を、一酸化炭素ガスおよびチタン源から供給されるチタン蒸気の存在下に、前記チタン源に接触しない状態で配置し、窒素を除く不活性ガス雰囲気、または減圧環境下で、前記被処理体を1230℃〜1380℃の範囲の温度に保持する工程と、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項5】
導電性マイエナイト化合物の製造方法であって、
(1)仮焼粉の成形体を準備する工程と、
(2)前記工程(1)で準備された仮焼粉の成形体を含む被処理体を、一酸化炭素ガスおよびチタン源から供給されるチタン蒸気の存在下に、前記チタン源に接触しない状態で配置し、窒素を除く不活性ガス雰囲気、または減圧環境下で、前記被処理体を1230℃〜1380℃の範囲の温度に保持する工程と、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項6】
前記(2)の工程は、前記被処理体および前記チタン源を、カーボンを含む容器中に入れた状態で行われる請求項1乃至5のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項7】
前記(2)の工程後に得られる導電性マイエナイト化合物は、3.0×1020cm−3以上の電子密度を有する請求項1乃至6のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項8】
前記被処理体は、フッ素(F)を含み、
前記(2)の工程後に、フッ素を含む導電性マイエナイト化合物が得られる請求項1乃至7のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一つに記載の製造方法を用いて、導電性マイエナイト化合物を含む、成膜用のターゲットを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性マイエナイト化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイエナイト化合物は、12CaO・7Alで表される代表組成を有し、三次元的に連結された直径約0.4nmの空隙(ケージ)を有する特徴的な結晶構造を持つ。このケージを構成する骨格は、正電荷を帯びており、単位格子当たり12個のケージを形成する。このケージの1/6は、結晶の電気的中性条件を満たすため、内部が酸素イオンで占められている。しかしながら、このケージ内の酸素イオンは、骨格を構成する他の酸素イオンとは化学的に異なる特性を有しており、このため、ケージ内の酸素イオンは、特にフリー酸素イオンと呼ばれている。マイエナイト化合物は、[Ca24Al2864]4+・2O2−とも表記される(非特許文献1)。
マイエナイト化合物のケージ中のフリー酸素イオンの一部または全部を電子と置換した場合、マイエナイト化合物に導電性が付与される。これは、マイエナイト化合物のケージ内に包接された電子は、ケージにあまり拘束されず、結晶中を自由に動くことができるためである(特許文献1)。このような導電性を有するマイエナイト化合物は、特に、「導電性マイエナイト化合物」と称される。
【0003】
ところで、導電性マイエナイト化合物を、例えば蛍光ランプ等の電極材料として使用する場合、導電性マイエナイト化合物には、3.0×1020cm−3以上の高い電子密度が要求される。電子密度がこれよりも低い導電性マイエナイト化合物を電極として使用した場合、使用の際に電極にジュール熱が発生し、電極が高温になるという問題が生じ得るからである。また、ランプを点灯する度に、電極にこのようなジュール熱が発生すると、電極に対して繰り返し熱応力が加わる結果、電極に亀裂や割れが生じ、電極が破損するおそれもある。
【0004】
なお、高い電子密度を有する導電性マイエナイト化合物の製造に関し、特許文献2には、シリカガラス管を容器として使用し、金属チタンを含む真空雰囲気下で、マイエナイト化合物の単結晶体を熱処理することにより、3.0×1020cm−3以上の電子密度を有する導電性マイエナイト化合物製の部材を製造することができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/000741号
【特許文献2】国際公開第2006/129674号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】F.M.Lea,C.H.Desch,The Chemistryof Cement and Concrete,2nd ed.,p.52,Edward Arnold&Co.,London,1956
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、金属チタンを含む真空雰囲気下で、マイエナイト化合物の単結晶体を熱処理することにより、3.0×1020cm−3以上の高い電子密度を有する導電性マイエナイト化合物製の部材を製造することができる。
【0008】
しかしながら、この方法で得られる導電性マイエナイト化合物製の部材は、表面に比較的厚い「表面層」を有するという特徴がある。
【0009】
ここで、本願において、「表面層」とは、被処理体の熱処理の過程で、被処理体の表面が環境中の成分、またはマイエナイト化合物のケージ中のフリー酸素イオンと反応することにより形成された層であって、マイエナイト化合物とは異なる相組成を有する層の総称を意味する。
【0010】
部材の内部の相組成、すなわちマイエナイト化合物とは相組成が異なるこのような「表面層」を有する導電性マイエナイト化合物製の部材を、例えば蛍光ランプの電極として使用した場合、以下のような問題が生じ得る。
【0011】
蛍光ランプの電極は、蛍光ランプの使用後、できるだけ速やかに安定した特性を発揮する必要がある。
【0012】
この点に関し、「表面層」が薄い導電性マイエナイト化合物製の部材を電極として使用した場合、「表面層」は、電極のスパッタリングによって、比較的速やかに消耗、除去される。従って、この場合、蛍光ランプの使用を開始してから、「表面層」が消失して、特性が安定化するまでの時間は、比較的短くなる。
【0013】
これに対して、厚い「表面層」を有する導電性マイエナイト化合物製の部材を電極として使用した場合、この「表面層」がスパッタリングによって消耗し、完全に除去されるまでに、長い時間が必要となる。このため、この場合、蛍光ランプの使用開始後、長時間にわたって、所望の特性が得られなかったり、特性が安定しなくなるという問題が生じる。
【0014】
なお、このような問題を避けるため、部材を蛍光ランプに組み付ける前段階において、導電性マイエナイト化合物製の部材の「表面層」を、加工によって除去することが考えられる。しかしながら、通常、このような「表面層」は、部材に強固に固着している。また、一般に電極は、複雑な形状を有している場合が多く、電極の「表面層」を、予め加工により除去しておくことは極めて難しい。従って、部材の「表面層」は、蛍光ランプの放電現象を利用して、蛍光ランプの使用中に取り除く必要がある。
【0015】
以上のように、導電性マイエナイト化合物製の部材の表面に形成される「表面層」は、蛍光ランプの迅速な安定稼働のため、できるだけ薄くする必要がある。
【0016】
本発明は、このような問題に鑑みなされたものであり、本発明では、「表面層」をあまり形成させずに、高い電子密度を有する導電性マイエナイト化合物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明では、導電性マイエナイト化合物の製造方法であって、
(1)マイエナイト化合物の粉末を準備する工程と、
(2)前記工程(1)で準備されたマイエナイト化合物の粉末を含む被処理体を、一酸化炭素ガスおよびチタン源から供給されるチタン蒸気の存在下に、前記チタン源に接触しない状態で配置し、窒素を除く不活性ガス雰囲気、または減圧環境下で、前記被処理体を1230℃〜1380℃の範囲の温度に保持する工程と、
を含むことを特徴とする製造方法が提供される。
【0018】
ここで、本発明による製造方法において、前記マイエナイト化合物の粉末を含む被処理体は、前記マイエナイト化合物の粉末を含む成形体であっても良い。
【0019】
特に、前記被処理体は、前記マイエナイト化合物の粉末を含む成形体を、導電性部材に取り付けることにより構成されても良い。
【0020】
また、本発明では、導電性マイエナイト化合物の製造方法であって、
(1)マイエナイト化合物を含む焼結体を準備する工程と、
(2)前記工程(1)で準備されたマイエナイト化合物を含む焼結体を含む被処理体を、一酸化炭素ガスおよびチタン源から供給されるチタン蒸気の存在下に、前記チタン源に接触しない状態で配置し、窒素を除く不活性ガス雰囲気、または減圧環境下で、前記被処理体を1230℃〜1380℃の範囲の温度に保持する工程と、
を含むことを特徴とする製造方法が提供される。
【0021】
また、本発明では、導電性マイエナイト化合物の製造方法であって、
(1)仮焼粉の成形体を準備する工程と、
(2)前記工程(1)で準備された仮焼粉の成形体を含む被処理体を、一酸化炭素ガスおよびチタン源から供給されるチタン蒸気の存在下に、前記チタン源に接触しない状態で配置し、窒素を除く不活性ガス雰囲気、または減圧環境下で、前記被処理体を1230℃〜1380℃の範囲の温度に保持する工程と、
を含むことを特徴とする製造方法が提供される。
【0022】
ここで、本発明による製造方法において、前記(2)の工程は、前記被処理体および前記チタン源を、カーボンを含む容器中に入れた状態で行われても良い。
【0023】
また、本発明による製造方法において、前記(2)の工程後に得られる導電性マイエナイト化合物は、3.0×1020cm−3以上の電子密度を有しても良い。
【0024】
また、本発明による製造方法において、前記被処理体は、フッ素(F)を含み、
前記(2)の工程後に、フッ素を含む導電性マイエナイト化合物が得られても良い。
【0025】
さらに、本発明では、前述の製造方法によって製造された高導電性マイエナイト化合物を含む蛍光ランプ用の電極が提供される。
【0026】
さらに、本発明では、前述のような製造方法を用いて、導電性マイエナイト化合物を含む、成膜用のターゲットを製造する方法が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、「表面層」をあまり形成させずに、高い電子密度を有する導電性マイエナイト化合物を製造する方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明による高導電性マイエナイト化合物の製造方法の一例を模式的に示したフロー図である。
図2】被処理体を高温処理する際に使用される装置の一構成例を模式的に示した図である。
図3】実施例1に係る成形体C1を高温処理する際に使用した装置の構成を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の第1の態様では、高導電性マイエナイト化合物の製造方法であって、
(1)マイエナイト化合物の粉末を準備する工程と、
(2)前記工程(1)で準備されたマイエナイト化合物の粉末を含む被処理体を、一酸化炭素ガスおよびチタン源から供給されるチタン蒸気の存在下に、前記チタン源に接触しない状態で配置し、窒素を除く不活性ガス雰囲気、または減圧環境下で、前記被処理体を1230℃〜1380℃の範囲の温度に保持する工程と、
を含むことを特徴とする製造方法が提供される。
【0030】
また、本発明の第2の態様では、高導電性マイエナイト化合物の製造方法であって、
(1)マイエナイト化合物を含む焼結体を準備する工程と、
(2)前記工程(1)で準備されたマイエナイト化合物を含む焼結体を含む被処理体を、一酸化炭素ガスおよびチタン源から供給されるチタン蒸気の存在下に、前記チタン源に接触しない状態で配置し、窒素を除く不活性ガス雰囲気、または減圧環境下で、前記被処理体を1230℃〜1380℃の範囲の温度に保持する工程と、
を含むことを特徴とする製造方法が提供される。
【0031】
また、本発明の第3の態様では、高導電性マイエナイト化合物の製造方法であって、
(1)仮焼粉の成形体を準備する工程と、
(2)前記工程(1)で準備された仮焼粉の成形体を含む被処理体を、一酸化炭素ガスおよびチタン源から供給されるチタン蒸気の存在下に、前記チタン源に接触しない状態で配置し、窒素を除く不活性ガス雰囲気、または減圧環境下で、前記被処理体を1230℃〜1380℃の範囲の温度に保持する工程と、
を含むことを特徴とする製造方法が提供される。
【0032】
本願において、「マイエナイト化合物」とは、ケージ(籠)構造を有する12CaO・7Al(以下「C12A7」ともいう)およびC12A7と同等の結晶構造を有する化合物(同型化合物)の総称である。
【0033】
また、本願において、「導電性マイエナイト化合物」とは、ケージ中に含まれる「フリー酸素イオン」の一部もしくは全てが電子で置換された、電子密度が1.0×1018cm−3以上のマイエナイト化合物を表す。全てのフリー酸素イオンが電子で置換されたときの電子密度は、2.3×1021cm−3である。
【0034】
従って、「マイエナイト化合物」には、「導電性マイエナイト化合物」および「非導電性マイエナイト化合物」が含まれる。
【0035】
本発明では、製造される「導電性マイエナイト化合物」の電子密度は、3.0×1020cm−3以上であり、ランプの電極として使用可能な「導電性マイエナイト化合物」を得ることができる。以下、このような電子密度が3.0×1020cm−3以上の導電性マイエナイト化合物を、特に「高導電性マイエナイト化合物」と称するものとする。
【0036】
なお、一般に、導電性マイエナイト化合物の電子密度は、マイエナイト化合物の電子密度により、2つの方法で測定される。電子密度が1.0×1018cm−3〜3.0×1020cm−3未満の場合、電子密度は、導電性マイエナイト化合物粉末の拡散反射を測定し、クベルカムンク変換させた吸収スペクトルの2.8eV(波長443nm)の吸光度(クベルカムンク変換値)から算出される。この方法は、電子密度とクベルカムンク変換値が比例関係になることを利用している。以下、検量線の作成方法について説明する。
【0037】
電子密度の異なる試料を4点作成しておき、それぞれの試料の電子密度を、電子スピン共鳴(ESR)のシグナル強度から求めておく。ESRで測定できる電子密度は、1.0×1014cm−3〜1.0×1019cm−3程度である。クベルカムンク値とESRで求めた電子密度をそれぞれ対数でプロットすると比例関係となり、これを検量線とした。すなわち、この方法では、電子密度が1.0×1019cm−3〜3.0×1020cm−3では検量線を外挿した値である。
【0038】
これに対して、電子密度が3.0×1020cm−3〜2.3×1021cm−3の場合、電子密度は、導電性マイエナイト化合物粉末の拡散反射を測定し、クベルカムンク変換させた吸収スペクトルのピークの波長(エネルギー)から換算される。関係式は下記の式を用いた:

n=(−(Esp−2.83)/0.199)0.782

ここで、nは電子密度(cm−3)、Espはクベルカムンク変換した吸収スペクトルのピークのエネルギー(eV)を示す。
【0039】
また、本発明において、高導電性マイエナイト化合物は、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)および酸素(O)からなるC12A7結晶構造を有している限り、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)および酸素(O)の中から選ばれた少なくとも1種の原子の一部が、他の原子や原子団に置換されていても良い。例えば、カルシウム(Ca)の一部は、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、セリウム(Ce)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)および銅(Cu)からなる群から選択される1以上の原子で置換されていても良い。また、アルミニウム(Al)の一部は、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、イットリウム(Y)、ヨーロピウム(Eu)、イットリビウム(Yb)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)およびテリビウム(Tb)からなる群から選択される1以上の原子で置換されても良い。また、ケージの骨格の酸素は、窒素(N)などで置換されていても良い。
【0040】
本発明において、導電性マイエナイト化合物は、ケージ内のフリー酸素イオンの少なくとも一部がH、H、H2−、O、O、OH、F、Cl、およびS2−などの陰イオンや、窒素(N)の陰イオンによって置換されていても良い。
【0041】
前述のように、従来の方法で得られる高導電性マイエナイト化合物製の部材は、表面に比較的厚い「表面層」を有するという特徴がある。
【0042】
このような「表面層」は、部材の内部とは相組成が異なっており、マイエナイト化合物とは異なる相で構成される。従って、このような「表面層」を有する導電性マイエナイト化合物製の部材を、例えば蛍光ランプの電極として使用する場合、蛍光ランプの安定稼働のため、「表面層」は、放電時のスパッタリングにより、速やかに除去する必要がある。
【0043】
しかしながら、電極が厚い「表面層」を有する場合、蛍光ランプの使用を開始してから、「表面層」が消失して、特性が安定化するまでの時間が長くなってしまうという問題が生じ得る。
【0044】
本願発明者等は、このような問題に対処するため、様々な条件下で、導電性マイエナイト化合物の製造実験を行い、製造条件が導電性マイエナイト化合物の「表面層」の態様に及ぼす影響を鋭意検討してきた。その結果、本願発明者等は、所定の温度範囲におけるマイエナイト化合物の粉末を含む被処理体の熱処理の際、環境中に、一酸化炭素ガスとチタン蒸気となるチタン源とを共存させた場合、表面層をあまり成長させずに、高導電性マイエナイト化合物を製造することができることを見出した。
【0045】
従って、本発明による高導電性マイエナイト化合物の製造方法では、被処理体を、一酸化炭素ガスおよびチタン蒸気となるチタン源の存在下に配置し、窒素を除く不活性ガス雰囲気、または減圧環境下で、前記被処理体を1230℃〜1380℃の範囲の温度に保持することを第1の特徴とする。
【0046】
なお、一酸化炭素ガスとチタン蒸気が共存する環境下での熱処理により、従来の方法に比べて、被処理体の表面での「表面層」の成長が有意に抑制される理由として、以下のことが考えられる。
【0047】
従来の製造方法のように、環境中にチタン蒸気のみが存在する場合、このチタン蒸気は、環境中の酸素、またはマイエナイト化合物のケージ中のフリー酸素イオンと反応して、酸化チタンを生成する。これにより、被処理体であるマイエナイト化合物の表面には、酸化チタンが堆積する。ここで、被処理体を構成するマイエナイト化合物は、酸化物であるため、堆積した酸化チタンとの親和性が高い。このため、被処理体の表面に堆積した酸化チタンは、被処理体の表面に強固に結合する。その後も、被処理体の表面に酸化チタンの堆積が継続され、最終的に厚い「表面層」が形成される。
【0048】
一方、環境中にチタン蒸気と一酸化炭素ガスが共存する場合、チタン蒸気は、環境中の一酸化炭素ガスと反応して、チタン炭化物を生成する。このチタン炭化物は、非酸化物であるため、被処理体を構成するマイエナイト化合物との親和性はあまり高くはない。そのため、被処理体の表面にチタン炭化物が堆積しても、このチタン炭化物は、被処理体の表面に固着することなく、表面から容易に脱落してしまう。従って、チタン炭化物の堆積物が被処理体の表面に固着したり、被処理体の表面で成長したりすることは、有意に抑制される。その結果、最終的に薄い「表面層」が形成されるものと考えられる。
【0049】
さらに、本願発明者らは、環境中に、単に一酸化炭素ガスとチタン蒸気となるチタン源を共存させただけでは、以下の問題が生じることを見出した。
【0050】
例えば、マイエナイト化合物の被処理体を直接チタン源に接触させると、熱処理の際に、被処理体の表面に金属チタンが付着する。このような状態で室温まで温度を下げると、導電性マイエナイト化合物の表面に金属チタンの固体が固着した状態となる。このような固着物は、導電性マイエナイト化合物と強固に密着しており、後工程で固着物を導電性マイエナイト化合物から剥離したり、除去したりすることは容易ではない。
【0051】
そこで、本発明では、被処理体をチタン源に接触しないように配置し、この状態で被処理体の熱処理を行うことを第2の特徴としている。これにより、被処理体の表面に金属チタンが強固に密着するという問題を解消することができる。
【0052】
以上のように、本発明では、前述の2つの特徴により、固着物の付着が有意に抑制されるとともに、「表面層」をあまり厚く成長させずに、高い電子密度を有する導電性マイエナイト化合物を製造することが可能となる。「表面層」の厚さは、例えば、40μm以下とすることができる。
【0053】
(本発明の一実施例による高導電性マイエナイト化合物の製造方法)
以下、図面を参照して、本発明の一実施例による高導電性マイエナイト化合物の製造方法について、詳しく説明する。
【0054】
図1には、本発明の一実施例による高導電性マイエナイト化合物の製造方法のフローを模式的に示す。
【0055】
図1に示すように、この製造方法は、
(1)マイエナイト化合物の粉末を準備する工程(工程S110)と、
(2)前記工程(1)で準備されたマイエナイト化合物の粉末を含む被処理体を、一酸化炭素ガスおよびチタン源から供給されるチタン蒸気の存在下に、前記チタン源に接触しない状態で配置し、窒素を除く不活性ガス雰囲気、または減圧環境下で、前記被処理体を1230℃〜1380℃の範囲の温度に保持する工程(工程S120)と、
を有する。以下、それぞれの工程について説明する。
【0056】
(工程S110:マイエナイト化合物粉末調製工程)
最初に、マイエナイト化合物の粉末が調製される。マイエナイト化合物の粉末は、以下に示すように、原料粉末を高温に加熱することにより合成、製造される。
【0057】
まず、マイエナイト化合物の粉末を合成するための原料粉末が調合される。
【0058】
原料粉末は、カルシウム(Ca)とアルミニウム(Al)の割合が、CaO:Alに換算したモル比で、13:6〜10:9の範囲が好ましく、12.6:6.4〜11.7:7.3の範囲がより好ましく、12.3:6.7〜11.5:7.5の範囲がより好ましく、12.2:6.8〜11.8:7.2の範囲がさらに好ましく、約12:7が特に好ましい。カルシウム(Ca)の一部が他の原子に置換されている場合は、カルシウムと他の原子のモル数をカルシウムのモル数とみなす。アルミニウム(Al)の一部が他の原子に置換されている場合は、アルミニウムと他の原子のモル数をアルミニウムのモル数とみなす。
【0059】
なお、原料粉末に使用される化合物は、前記割合が維持される限り、特に限られない。
【0060】
原料粉末は、カルシウムアルミネートを含むか、または、カルシウム化合物、アルミニウム化合物、およびカルシウムアルミネートからなる群から選定された少なくとも2つを含むことが好ましい。原料粉末は、例えば、カルシウム化合物とアルミニウム化合物とを含む混合粉末であっても良い。原料粉末は、例えば、カルシウム化合物とカルシウムアルミネートとを含む混合粉末であっても良い。また、原料粉末は、例えば、アルミニウム化合物とカルシウムアルミネートとを含む混合粉末であっても良い。また、原料粉末は、例えば、カルシウム化合物と、アルミニウム化合物と、カルシウムアルミネートとを含む混合粉末であっても良い。さらに、原料粉末は、例えば、カルシウムアルミネートのみを含む混合粉末であっても良い。
【0061】
カルシウム化合物としては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸水素カルシウム、硫酸カルシウム、メタリン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、酢酸カルシウム、硝酸カルシウム、およびハロゲン化カルシウムなどが挙げられる。これらの中では、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、および水酸化カルシウムが好ましい。
【0062】
アルミニウム化合物としては、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、およびハロゲン化アルミニウムなどが挙げられる。これらの中では、水酸化アルミニウムおよび酸化アルミニウムが好ましい。酸化アルミニウム(アルミナ)は、α−アルミナ、γ−アルミナ、δ−アルミナなどあるが、α−酸化アルミニウム(アルミナ)が好ましい。
【0063】
原料粉末は、さらにフッ素(F)成分を含んでも良い。フッ素(F)成分としては、例えば、フッ化カルシウム(CaF)等が挙げられる。原料粉末にフッ素(F)成分を添加した場合、最終的に(工程S120の後に)、ケージ内にフッ素イオンが導入された高電子密度の導電性マイエナイト化合物等を製造できる。
【0064】
フッ素(F)成分を含む原料粉末は、これに限られるものではないが、例えば、前述のようなカルシウム化合物とアルミニウム化合物の混合粉末に、フッ化カルシウムを添加して調製しても良い。
【0065】
原料粉末中のフッ素(F)の含有量は、特に限られない。フッ素(F)の含有量は、例えば、最終的に得られる導電性マイエナイト化合物の化学式を

(12−x)CaO・7Al・xCaF (1)式

で表した際に、xの範囲が0〜0.60の範囲となるように選定されても良い。
【0066】
次に、調合した原料粉末が高温に保持され、マイエナイト化合物が合成される。合成は、不活性ガス雰囲気下や真空下で行っても良いが、大気下で行うことが好ましい。
【0067】
合成温度は、特に限られないが、例えば、1200℃〜1415℃の範囲であり、1250℃〜1400℃の範囲であることが好ましく、1300℃〜1350℃の範囲であることがより好ましい。1200℃〜1415℃の温度範囲で合成した場合、C12A7の結晶構造を多く含むマイエナイト化合物が得られ易くなる。合成温度が低すぎると、C12A7結晶構造が少なくなるおそれがある。一方、合成温度が高すぎると、マイエナイト化合物の融点を超えるため、C12A7の結晶構造が少なくなるおそれがある。
【0068】
高温の保持時間は、特に限られず、これは、合成量および保持温度等によっても変動する。保持時間は、例えば、1時間〜12時間である。保持時間は、例えば、2時間〜10時間であることが好ましく、4時間〜8時間であることがより好ましい。原料粉末を2時間以上、高温で保持することにより、固相反応が十分に進行し、均質なマイエナイト化合物を得ることができる。
【0069】
合成により得られるマイエナイト化合物は、一部または全てが焼結した塊状である。塊状のマイエナイト化合物は、スタンプミル等で、例えば、5mm程度の大きさまで粉砕処理される。さらに、自動乳鉢や乾式ボールミルで、平均粒径が10μm〜100μm程度まで粉砕処理が行われる。ここで、「平均粒径」は、レーザ回折散乱法で測定して得た値を意味するものとする。以下、粉末の平均粒径は、同様の方法で測定した値を意味するものとする。
【0070】
さらに微細で均一な粉末を得たい場合は、例えば、C2n+1OH(nは3以上の整数)で表されるアルコール(例えば、イソプロピルアルコール)を溶媒として用いた、湿式ボールミル、または循環式ビーズミルなどを用いることにより、粉末の平均粒径を0.5μm〜50μmまで微細化することができる。溶媒としては、水は使用できない。マイエナイト化合物はアルミナセメントの一成分であり、容易に水と反応し、水和物を生成するからである。
【0071】
以上の工程により、マイエナイト化合物の粉末が調製される。
【0072】
粉末として調整されるマイエナイト化合物は、導電性マイエナイト化合物であっても良い。導電性マイエナイト化合物は、非導電性の化合物より粉砕性に優れるからである。
【0073】
導電性マイエナイト化合物の合成方法は、特に限定されないが、下記の方法が挙げられる。例えば、マイエナイト化合物を蓋付きカーボン容器中に入れて、1600℃で熱処理して作製する方法(国際公開第2005/000741号参照)、マイエナイト化合物を蓋付きカーボン容器に入れて、窒素中1300℃で熱処理して作製する方法(国際公開第2006/129674号参照)、炭酸カルシウム粉末と酸化アルミニウム粉末から作られる、カルシウムアルミネートなどの粉末を蓋付きカーボン坩堝に入れて、窒素中1300℃で熱処理して作製する方法(国際公開第2010/041558号参照)、炭酸カルシウム粉末と酸化アルミニウム粉末を混合した粉末を、蓋付きカーボン坩堝に入れて、窒素中1300℃で熱処理して作製する方法(特開2010−132467号公報参照)などがある。
【0074】
導電性マイエナイト化合物の粉砕方法は、上記マイエナイト化合物の粉砕方法と同様である。
【0075】
以上の工程により、導電性マイエナイト化合物の粉末が調整される。なお、マイエナイト化合物と導電性マイエナイト化合物の混合粉末を用いても良い。
【0076】
(工程S120:焼成工程)
次に、以下に示すように、得られたマイエナイト化合物の粉末を含む被処理体を高温に保持することにより、マイエナイト化合物の粉末が焼結されるとともに、マイエナイト化合のケージ中の酸素イオンが電子と置換(還元)され、高導電性マイエナイト化合物が製造される。
【0077】
マイエナイト化合物の粉末を含む被処理体としては、工程S110で調製した粉末をそのまま使用しても良い。ただし、通常の場合、被処理体としては、工程S110で調製したマイエナイト化合物の粉末を含む成形体が使用される。
【0078】
成形体の形成方法は、特に限られず、従来の各種方法を用いて、成形体を形成しても良い。例えば、成形体は、工程S110で調製した粉末、または該粉末を含む混練物からなる成形材料の加圧成形により、調製しても良い。
【0079】
成形材料には、必要に応じて、バインダ、潤滑剤、可塑剤または溶媒が含まれる。バインダとしては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリビニルブチラール、EVA(エチレンビニルアセテート)樹脂、EEA(エチレンエチルアクリレート)樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂(ニトロセルロース、エチルセルロース)、ポリエチレンオキシド、などが使用できる。潤滑剤としてワックス類やステアリン酸が使用できる。可塑剤としてフタル酸エステルが使用できる。溶媒としては、トルエン、キシレンのような芳香族化合物、酢酸ブチル、テルピネオール、ブチルカルビトールアセテート、化学式C2n+1OH(n=1〜4)で表されるアルコール(例えばイソプロピルアルコール)等が使用できる。溶媒として水を使用すると、マイエナイト化合物が水和による化学反応を起こすため、安定したスラリーが得られないおそれがある。n=1、2のアルコール(例えばエタノール)も水和しやすい傾向があり、n=3、4のアルコールが好ましい。
【0080】
成形材料をシート成形、押出成形、または射出成形することにより、成形体を得ることができる。ニアネットシェイプ成形が可能である、すなわち、最終製品に近い形状を生産性よく製造可能であることから、射出成形が好ましい。
【0081】
射出成形では、予めマイエナイト化合物の粉末とバインダを加熱混練して成形材料を用意し、この成形材料を射出成形機へ投入して、所望の形状の成形体を得ることができる。例えば、マイエナイト化合物の粉末をバインダと加熱混練し、冷却することで、大きさ1mm〜10mm程度のペレットまたは粉末状の成形材料を得る。加熱混練では、ラボプラストミルなどが用いられ、せん断力により粉末の凝集がほぐれ、粉末の1次粒子にバインダがコーティングされる。この成形材料を射出成型機に投入し、120℃〜250℃に加熱してバインダに流動性を発現させる。金型は予め50℃〜80℃で加熱しておき、3MPa〜10MPaの圧力で金型へ材料を注入することで、所望の成形体を得ることができる。
【0082】
あるいは、前述の調製粉末または混練物を金型に入れ、この金型を加圧することにより、所望の形状の成形体を形成しても良い。金型の加圧には、例えば、等方静水圧プレス(CIP)処理を利用しても良い。CIP処理の際の圧力は、特に限られないが、例えば、
50MPa〜200MPaの範囲である。
【0083】
また、成形体を調製した場合であって、成形体が溶媒を含む場合は、予め成形体を50℃〜200℃の温度範囲で20分〜2時間程度保持し、溶媒を揮発させて除去しても良い。また、成形体がバインダを含む場合は、予め成形体を200℃〜800℃の温度範囲で30分〜6時間程度保持し、または50℃/時間で昇温し、バインダを除去することが好ましい。あるいは、両者の処理を同時に行っても良い。
【0084】
なお、被処理体は、前述のような方法で調製した成形体を、金属等の導電性部材に取り付けて構成しても良い。これにより、以降の高温処理後に、そのまま蛍光ランプ等の電極として使用可能な部材を得ることができる。
【0085】
導電性部材は、例えば、金属ニッケル、ニッケル合金、モリブデンおよびタングステン等で構成されても良い。また、導電性部材の形状は、特に限られない。導電性部材は、例えば、線状、ロッド状、カップ状および短冊等の形状であっても良い。
【0086】
本発明の製造方法では、熱処理環境中にチタン蒸気が存在する。ただし、チタンは蒸気圧が極めて低い金属であり、このため、被処理体の熱処理中に他の金属と反応して、脆い金属間化合物を生成する可能性は少ない。従って、被処理体に導電性部材が含まれる場合であっても、この導電性部材が熱処理後に脆化したり、破損したりする危険性が有意に抑制される。さらに、カーボン容器を使用する場合、蒸気圧の低いチタンでは、化合物を生成し難いため、カーボン容器の劣化を抑えることもできる。
【0087】
次に、成形体などの被処理体が窒素を除く不活性ガス雰囲気、または減圧環境下で高温処理される。これにより、被処理体中のマイエナイト化合物粒子の焼結が進行するとともに、マイエナイト化合物のケージ中の酸素イオンが電子と置換され、高導電性マイエナイト化合物が生成される。
【0088】
ここで、前述のように、本発明では、被処理体は、一酸化炭素ガスおよびチタン蒸気源から供給されるチタン蒸気の存在下に配置されることに留意する必要がある。
【0089】
被処理体の高温処理は、窒素を除く不活性ガス雰囲気、または減圧環境下で実施される。「減圧環境」は、例えば圧力が100Pa以下の環境であっても良い。不活性ガス雰囲気、または減圧環境において、酸素分圧は、10−5Pa以下が好ましく、10−10Pa以下がより好ましく、10−15Pa以下がさらに好ましい。
【0090】
チタン蒸気源は、特に限られないが、例えばチタン粒子の層であっても良い。なお、前述のように、被処理体は、チタン蒸気源と直接接触しないようにして、チタン蒸気の存在下に配置されることに留意する必要がある。
【0091】
一酸化炭素ガスは、被処理体の置かれる環境に外部から供給しても良いが、被処理体をカーボンを含む容器に配置することが好ましい。カーボン製容器を用いても良く、カーボン製シートを環境中に配置しても良い。
【0092】
一酸化炭素ガスおよびチタン蒸気を供給するため、例えば、蓋付きカーボン製容器内に被処理体とチタン層とを配置した状態で、加熱処理が実施されても良い。
【0093】
被処理体の高温処理の際に、反応環境を不活性ガス雰囲気、または減圧環境に調整する方法は、特に限られない。
【0094】
例えば、カーボンを含む容器を、圧力が100Pa以下の真空雰囲気に置いても良い。この場合、圧力は、好ましくは60Pa以下であり、より好ましくは20Pa以下であり、さらに好ましくは5Pa以下であり、特に好ましくは0.1Pa以下である。
【0095】
あるいは、カーボンを含む容器に、酸素分圧が1000Pa以下の不活性ガスを供給しても良い。この場合、供給する不活性ガスの酸素分圧は、好ましくは100Pa以下であり、より好ましくは10Pa以下であり、さらに好ましくは1Pa以下であり、特に好ましくは0.1Pa以下である。
【0096】
不活性ガス雰囲気は、アルゴンガス雰囲気等であっても良い。
【0097】
処理温度は、1230℃〜1380℃の範囲であり、1280℃〜1340℃の範囲であることが好ましく、1290℃〜1320℃の範囲であることがさらに好ましい。
【0098】
処理温度が1230℃よりも低い場合、異相が多く析出し、十分な導電性を付与することができないおそれがある。また、処理温度が1380℃よりも高い場合、高導電性マイエナイト化合物の融点を超えるため結晶構造が分解してしまい、電子密度が低くなるからである。
【0099】
被処理体の高温保持時間は、5分〜48時間の範囲であることが好ましく、30分〜24時間の範囲であることがさらに好ましく、1時間〜12時間の範囲であることがさらに好ましく、4時間〜8時間がもっとも好ましい。被処理体の保持時間が5分未満の場合、十分に高い電子密度を有する導電性マイエナイト化合物を得ることができなくなるおそれがある上、焼結も不十分であり、得られた焼結体が壊れやすくなるおそれがある。また、保持時間を長くすると「表面層」が厚くなる傾向にあることから、保持時間は24時間以内であることが好ましく、保持時間は12時間以内であることがより好ましい。
【0100】
以上の工程により、「表面層」の厚さが40μm以下で、電子密度が3.0×1020cm−3以上の高導電性マイエナイト化合物が得られる。
【0101】
図2には、被処理体を高温処理する際に使用される装置の一構成図を模式的に示す。
【0102】
図2に示すように、装置100は、全体が耐熱性密閉容器で構成されており、排気口170が排気系と接続されている。
【0103】
装置100は、耐熱性密閉容器内に、上部が開放されているカーボン容器120と、該カーボン容器120の上部に配置されるカーボン蓋130と、カーボン容器120内に配置された仕切り板140(例えばアルミナ板)とを有する。カーボン容器120の底部には、チタン蒸気源として、耐熱皿(例えばアルミナ製皿)145に置載された金属チタン粉末の層150が配置されている。
【0104】
仕切り板140の上部には、被処理体160が配置される。仕切り板140は、層150からのチタン蒸気が被処理体160に到達することが妨害されないような構成を有する。また、仕切り板140は、高温処理の際に、チタン蒸気や被処理体160と反応しない材料で構成される必要がある。例えば、仕切り板140は、多数の貫通孔を有するアルミナ板で構成される。
【0105】
カーボン容器120およびカーボン蓋130は、被処理体160の高温処理の際に、一酸化炭素ガスの供給源となる。すなわち、被処理体160の高温保持中には、カーボン容器120およびカーボン蓋130側から一酸化炭素ガスが生じる。
【0106】
この一酸化炭素ガスは、被処理体160に含まれるマイエナイト化合物粉末の表面が酸化され、酸化チタン層が形成されることを抑制する。
【0107】
また、被処理体160に含まれるマイエナイト化合物のケージ中のフリー酸素イオンは、金属チタン粉末の層150から生じるチタン蒸気により、以下の反応で還元される:

2O2− + Ti → 4e + TiO(2)式

(2)式の反応で生じた酸化チタンは、雰囲気中の一酸化炭素ガスにより、例えば、チタン炭化物が炭化チタン(TiC)の場合には、以下の反応で生成する。

TiO + 4CO → TiC + 3CO (3)式

チタン炭化物は、マイエナイト化合物と親和性が悪く、固着することはない。さらにこの熱処理温度域では焼結することもないため、容易に除外されると考えられる。
【0108】
従って、装置100を使用して、被処理体160を高温に保持することにより、被処理体160に含まれるマイエナイト化合物の粉末が焼結され、さらに、このマイエナイト化合物焼結体のケージ中に電子を導入することができる。
【0109】
環境中には、一酸化炭素ガスとチタン蒸気が共存しているため、マイエナイト化合物焼結体の表面に、厚い「表面層」が形成されることが抑制される。
【0110】
なお、図2の装置構成は、一例であって、この他の装置を使用して、被処理体を高温処理しても良いことは、当業者には明らかであろう。
【0111】
以上、本発明の一実施例として、マイエナイト化合物の粉末を含む被処理体を用いて、導電性マイエナイト化合物を製造する方法の一例について説明した。
【0112】
しかしながら、本発明は、これに限られるものではない。例えば、マイエナイト化合物の粉末を含む被処理体の代わりに、マイエナイト化合物の焼結体を含む被処理体を使用しても良い。
【0113】
そのようなマイエナイト化合物の焼結体は、例えば、前述の(マイエナイト化合物粉末調製工程)を経て製造されたマイエナイト化合物を焼結させたり、マイエナイト化合物の粉末を含む成形体を熱処理したりすることにより、調製することができる。
【0114】
後者の場合、熱処理条件は、成形体が焼結される条件であれば特に限られない。熱処理は、例えば、大気中、300℃〜1450℃の温度範囲で実施されても良い。300℃以上であると有機成分が揮発し粉末の接点が増えるため焼結処理が進行しやすく、1450℃以下であると焼結体の形状を保持しやすい。熱処理の最高温度は、おおよそ1000℃〜1420℃の範囲であり、好ましくは1050℃〜1415℃、さらに好ましくは1100℃〜1380℃、特に好ましくは1250℃〜1350℃である。
【0115】
熱処理の最高温度における保持時間は、おおよそ1時間〜50時間の範囲であり、好ましくは、2時間〜40時間、さらに好ましくは3時間〜30時間である。また、保持時間を長くしても、特性上は特に問題はないが、作製コストを考えると、保持時間は、48時間以内が好ましい。アルゴン、ヘリウム、ネオン、窒素などの不活性ガス、酸素ガス、またはこれらの混在した雰囲気中や、真空中で実施しても良い。
【0116】
この他にも、各種方法で、マイエナイト化合物の焼結体を調製しても良い。
【0117】
なお、焼結体に含まれるマイエナイト化合物は、導電性マイエナイト化合物であっても、非導電性マイエナイト化合物であっても良い。また、焼結体に含まれるマイエナイト化合物は、フッ素を含むマイエナイト化合物であっても良く、フッ素を含まないマイエナイト化合物であっても良い。
【0118】
また、本発明においては、マイエナイト化合物の粉末を含む被処理体の代わりに、仮焼粉の成形体を含む被処理体を使用しても良い。
【0119】
本願において、「仮焼粉」とは、熱処理を経て調製された粉末であって、(i)酸化カルシウム、酸化アルミニウム、およびカルシウムアルミネートからなる選定された少なくとも2つを含む混合粉末、または、(ii)2種類以上のカルシウムアルミネートの混合粉末を意味する。カルシウムアルミネートとしては、CaO・Al、3CaO・Al、5CaO・3Al、CaO・2Al、CaO・6Al、C12A7等が挙げられる。「仮焼粉」における、カルシウム(Ca)とアルミニウム(Al)の割合は、CaO:Alに換算したモル比で、9.5:9.5〜13:6である。
【0120】
特に、カルシウム(Ca)とアルミニウム(Al)の割合は、CaO:Alに換算したモル比で、10:9〜13:6の範囲となるように調合される。CaO:Al(モル比)は、11:8〜12.5:6.5の範囲が好ましく、11.5:7.5〜12.3:6.7の範囲がより好ましく、11.8:7.2〜12.2:6.8の範囲がさらに好ましく、約12:7が特に好ましい。
【0121】
仮焼粉は、以下のようにして調製できる。まず、原料粉末を準備する。原料粉末は、少なくとも、酸化カルシウム源および酸化アルミニウム源となる原料を含む。
【0122】
例えば、原料粉末は、2種類以上のカルシウムアルミネートを含むか、または、カルシウム化合物、アルミニウム化合物、およびカルシウムアルミネートからなる群から選定された少なくとも2つを含むことが好ましい。
【0123】
原料粉末は、例えば、以下の原料粉末であっても良い:カルシウム化合物とアルミニウム化合物とを含む原料粉末、カルシウム化合物とカルシウムアルミネートとを含む原料粉末、アルミニウム化合物とカルシウムアルミネートとを含む原料粉末、カルシウム化合物と、アルミニウム化合物と、カルシウムアルミネートとを含む原料粉末、カルシウムアルミネートのみを含む原料粉末。
【0124】
以下、代表例として、原料粉末が少なくとも、酸化カルシウム源となる原料Aと、酸化アルミニウム源となる原料Bとを含む場合を想定して、仮焼粉の調製方法を説明する。
【0125】
原料Aとしては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸水素カルシウム、硫酸カルシウム、メタリン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、酢酸カルシウム、硝酸カルシウム、およびハロゲン化カルシウムなどが挙げられる。これらの中では、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、および水酸化カルシウムが好ましい。
【0126】
原料Bとしては、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、およびハロゲン化アルミニウムなどが挙げられる。これらの中では、水酸化アルミニウムおよび酸化アルミニウムが好ましい。酸化アルミニウム(アルミナ)は、α−アルミナ、γ−アルミナ、δ−アルミナなどがあるが、α−酸化アルミニウム(アルミナ)が好ましい。
【0127】
仮焼粉は、原料Aおよび原料B以外の物質を含んでも良い。仮焼粉は、フッ素成分を含んでいても良く、フッ素成分を含んでいなくても良い。
【0128】
次に、原料Aおよび原料Bを含む原料粉末が熱処理される。これにより、カルシウムとアルミニウムを含む仮焼粉が得られる。前述のように、仮焼粉中のカルシウム(Ca)とアルミニウム(Al)の割合は、CaO:Alに換算したモル比で、約10:9〜13:6の範囲である。
【0129】
熱処理の最高温度は、おおよそ600℃〜1250℃の範囲であり、好ましくは900℃〜1200℃、より好ましくは1000℃〜1100℃である。熱処理の最高温度における保持時間は、おおよそ1時間〜50時間の範囲であり、好ましくは2時間〜40時間、より好ましくは3時間〜30時間である。また、保持時間を長くしても、特性上は特に問題はないが、作製コストを考えると、保持時間は48時間以内が好ましい。
【0130】
熱処理は、大気中で実施しても良い。熱処理は、アルゴン、ヘリウム、ネオン、窒素などの不活性ガス、酸素ガス、またはこれらの混在した雰囲気中や、真空中で実施しても良い。
【0131】
熱処理後に得られた仮焼粉は、通常、一部または全てが焼結した塊状である。このため、必要に応じて、前述の(マイエナイト化合物の粉末の調製)の欄に示したような、粉砕処理(粗粉砕および/または微細化)を実施しても良い。以上の工程により、仮焼粉が調製される。
【0132】
次に、前述のように調製された仮焼粉を用いて、成形体が形成される。成形体の形成方法は、前述の、マイエナイト化合物の粉末を含む成形体の形成方法と同様の方法が適用できるため、ここではこれ以上説明しない。
【実施例】
【0133】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0134】
(実施例1)
以下の方法で、高導電性マイエナイト化合物を作製した。
【0135】
(マイエナイト化合物の合成)
酸化カルシウム(CaO):酸化アルミニウム(Al)のモル比換算で12:7となるように、炭酸カルシウム(CaCO、関東化学社製、特級)粉末313.5gと、酸化アルミニウム(α−Al、関東化学社製、特級)粉末186.5gとを混合した。次に、この混合粉末を、大気中、300℃/時間の昇温速度で1350℃まで加熱し、1350℃に6時間保持した。その後、これを300℃/時間の冷却速度で降温し、約362gの白色塊体を得た。
【0136】
次に、アルミナ製スタンプミルにより、この白色塊体を大きさが約5mmの破片になるよう粉砕した後、さらに、アルミナ製自動乳鉢で粗粉砕し、白色粒子(以下、粒子「A1」と称する)を得た。レーザ回折散乱法(SALD−2100、島津製作所社製)により、得られた粒子A1の粒度を測定したところ、平均粒径は、20μmであった。
【0137】
次に、粒子A1を350gと、直径5mmのジルコニアボール3kgと、粉砕溶媒としての工業用ELグレードのイソプロピルアルコール350mlとを、2リットルのジルコニア製容器に入れ、容器にジルコニア製の蓋を載せてから、回転速度94rpmで、16時間、ボールミル粉砕処理を実施した。
【0138】
処理後、得られたスラリーを用いて吸引ろ過を行い、粉砕溶媒を除去した。また、残りの物質を80℃のオーブンに入れ、10時間乾燥させた。これにより、白色粉末(以下、粉末「B1」と称する)を得た。X線回折分析の結果、得られた粉末B1は、C12A7構造であることが確認された。また、前述のレーザ回折散乱法により得られた粉末B1の平均粒径は、3.3μmであることがわかった。
【0139】
(マイエナイト化合物の成形体の作製)
前述の方法で得られたマイエナイト化合物の粉末B1を79.8g、成形用バインダとしてポリエチレンオキサイドを13.0g、可塑剤としてフタル酸ジブチルを0.2g、潤滑剤としてステアリン酸を7.0gを配合し、150℃に加熱させて混練させた。得られた混練物を射出成形用の成形型に流し込み、室温まで冷却させた。これにより、直径3.4mmφ、長さ15mmのロッド型の成形体C1を得た。
【0140】
次に、成形体C1の脱バインダ処理を行った。
【0141】
成形体C1をアルミナ板に置いた状態で電気炉内に設置し、大気中で、40分間で200℃まで加熱した。さらに8時間で600℃まで加熱した後、2時間で室温まで冷却させた。脱脂された成形体は、白色であり、ロッド形状を維持していた。
【0142】
(高導電性マイエナイト化合物の作製)
次に、図3に示す装置を使用して脱脂後の成形体C1を高温で焼成処理し、導電性マイエナイト化合物を作製した。
【0143】
図3には、脱脂後の成形体C1の焼成処理に使用した装置を示す。
【0144】
図3に示すように、この装置300は、アルミナ容器310と、カーボン製の蓋335付きのカーボン容器330とを備える。また、アルミナ容器310の底部には、0.8gの金属チタン粉末が敷き詰められて構成されたチタン層320が配置されている。チタン層320は、装置300が高温になった際に、チタン蒸気を発生するチタン蒸気源となる。
【0145】
アルミナ容器310は、外径20mm×内径18mm×高さ10mmの略円筒状の形状を有しており、チタン蒸気がカーボン容器330全体に拡散するように、縁を粗く削る処理を施してある。また、カーボン容器330は、外径50mm×内径40mm×高さ60mmの略円筒状の形状を有する。
【0146】
この装置300は、以下のように使用した。
【0147】
まず、チタン層320を有するアルミナ容器310の上部に、アルミナ板315を配置した。次に、前述の脱脂後の成形体C1を複数個、アルミナ板315上に配置した。この状態では、成形体C1は、チタン層320とは直接接触しない。
【0148】
さらに、これら全体を、カーボン容器330内に配置し、カーボン容器330の上部にカーボン製の蓋335を配置した。
【0149】
次に、この装置300を、雰囲気調整可能な電気炉内に設置した。また、ロータリーポンプおよび拡散ポンプを用いて、炉内を真空引きした。その後、炉内の圧力が0.1Pa以下になってから、装置300の加熱を開始し、2時間で1300℃まで昇温した。装置300をこの状態で6時間保持した後、2時間で室温まで冷却させた。
【0150】
この熱処理により、成形体C1は焼結され、表面が黒色の焼結体(以下、焼結体「D1」と称する)が得られた。この焼結体D1の相対密度は、96.6%であった。
【0151】
電子密度測定用サンプルを採取するため、アルミナ製自動乳鉢で焼結体D1の粗粉砕を実施した。粗粉砕は、アルミナ乳鉢およびアルミナ製自動乳鉢を用いて実施した。
【0152】
得られた粉末は、濃い焦げ茶色を呈していた。X線回折分析の結果、この粉末は、C12A7構造だけを有することがわかった。また、得られた粉末の光拡散反射スペクトルのピーク位置から求められた電子密度は、1.6×1021cm−3であり、電気伝導率は、16S/cmであった。このことから、焼結体D1は、高導電性マイエナイト化合物であることが確認された。
【0153】
また、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて、焼結体D1の断面を観察した。断面観察の結果から、焼結体D1は、ポアが少なく緻密な状態であることが確認された。また、表面層の厚さは、約5μm〜約10μm程度であり、表面層は、極めて薄いことが確認された。
【0154】
(実施例2)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例2では、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程において、熱処理温度を1320℃とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0155】
これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程後に、表面が黒色の焼結体(以下、焼結体「D2」と称する)が得られた。焼結体D2の相対密度は、96.6%であった。
【0156】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D2を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D2は、C12A7構造のみを有することがわかった。焼結体D2の電子密度は、1.6×1021cm−3であり、電気伝導率は16S/cmであった。
【0157】
このことから、焼結体D2は、高導電性マイエナイト化合物であることが確認された。
【0158】
また、実施例1と同様の方法により、焼結体D2の表面層の厚さを評価した結果、表面層の厚さは、約5μm〜約10μm程度であり、表面層は、極めて薄いことが確認された。
【0159】
(実施例3)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例3では、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程において、熱処理温度を1280℃とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0160】
これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程後に、表面が黒色の焼結体(以下、焼結体「D3」と称する)が得られた。焼結体D3の相対密度は、98.5%であった。
【0161】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D3を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D3は、C12A7構造のみを有することがわかった。焼結体D3の電子密度は、1.7×1021cm−3であり、電気伝導率は17S/cmであった。
【0162】
このことから、焼結体D3は、高導電性マイエナイト化合物であることが確認された。
【0163】
また、実施例1と同様の方法により、焼結体D3の表面層の厚さを評価した結果、表面層の厚さは、約5μm〜約10μm程度であり、表面層は、極めて薄いことが確認された。
【0164】
(実施例4)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例4では、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程において、熱処理時間を12時間とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0165】
これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程後に、表面が黒色の焼結体(以下、焼結体「D4」と称する)が得られた。焼結体D4の相対密度は、97.5%であった。
【0166】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D4を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D4は、C12A7構造のみを有することがわかった。焼結体D4の電子密度は、1.7×1021cm−3であり、電気伝導率は17S/cmであった。
【0167】
このことから、焼結体D4は、高導電性マイエナイト化合物であることが確認された。
【0168】
また、実施例1と同様の方法により、焼結体D4の表面層の厚さを評価した結果、表面層の厚さは、約5μm〜約15μm程度であり、表面層は、極めて薄いことが確認された。
【0169】
(実施例5)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例5では、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程において、熱処理時間を48時間とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0170】
これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程後に、表面が黒色の焼結体(以下、焼結体「D5」と称する)が得られた。焼結体D5の相対密度は、96.0%であった。
【0171】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D5を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D5は、C12A7構造のみを有することがわかった。焼結体D5の電子密度は、1.4×1021cm−3であり、電気伝導率は14S/cmであった。
【0172】
このことから、焼結体D5は、高導電性マイエナイト化合物であることが確認された。
【0173】
また、実施例1と同様の方法により、焼結体D5の表面層の厚さを評価した結果、表面層の厚さは、約5μm〜約15μm程度であり、表面層は、極めて薄いことが確認された。
【0174】
(実施例6)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例6では、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程において、熱処理時間を96時間とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0175】
これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程後に、表面が黒色の焼結体(以下、焼結体「D6」と称する)が得られた。焼結体D6の相対密度は、96.7%であった。
【0176】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D6を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D6は、C12A7構造のみを有することがわかった。焼結体D6の電子密度は、1.5×1021cm−3であり、電気伝導率は15S/cmであった。
【0177】
このことから、焼結体D6は、高導電性マイエナイト化合物であることが確認された。
【0178】
また、実施例1と同様の方法により、焼結体D6の表面層の厚さを評価した結果、表面層の厚さは、約5μm〜約20μm程度であり、表面層は、極めて薄いことが確認された。
【0179】
なお、実施例5と実施例6の結果と比較すると、両者において、相対密度および電子密度は、ほとんど変化していないことがわかる。このことから、焼成処理の時間を48時間より長くしても、電子密度をさらに高めることは難しいと考えられる。従って、表面層の成長抑制の観点から、保持時間は、約50時間以内とすることが好ましいと言える。
【0180】
(実施例7)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例7では、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程において、熱処理時間を0.5時間とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0181】
これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程後に、表面が黒色の焼結体(以下、焼結体「D7」と称する)が得られた。焼結体D7の相対密度は、95.2%であった。
【0182】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D7を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D7は、C12A7構造のみを有することがわかった。焼結体D7の電子密度は、1.0×1021cm−3であり、電気伝導率は10S/cmであった。
【0183】
このことから、焼結体D7は、高導電性マイエナイト化合物であることが確認された。
【0184】
また、実施例1と同様の方法により、焼結体D7の表面層の厚さを評価した結果、表面層の厚さは、約5μm〜約10μm程度であり、表面層は、極めて薄いことが確認された。
【0185】
(実施例8)
前述の実施例1と同様の方法により、高導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例8では、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程における金属チタン層320として、実施例1と同条件で一回使用したものを用いた。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0186】
これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)工程後に、表面が黒色の焼結体(以下、焼結体「D8」と称する)が得られた。焼結体D8の相対密度は、97.2%であった。
【0187】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D8を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D8は、C12A7構造のみを有することがわかった。焼結体D8の電子密度は、1.5×1021cm−3であり、電気伝導率は16S/cmであった。
【0188】
このことから、焼結体D8は、高導電性マイエナイト化合物であることが確認された。
【0189】
また、実施例1と同様の方法により、焼結体D8の表面層の厚さを評価した結果、表面層の厚さは、約5μm〜約10μm程度であり、表面層は、極めて薄いことが確認された。
【0190】
この結果から、金属チタン層320は、再利用することが可能であることがわかった。ちなみに、その後の実験から、装置300において、金属チタン層320を5回繰り返し使用しても、ほぼ同等の高導電性マイエナイト化合物が得られることが確認されている。
【0191】
(実施例9)
前述の実施例1と同様の方法により、高導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例9では、前述の(マイエナイト化合物の成形体の作製)の工程において、使用する粉末を、マイエナイト化合物ではなく、電子密度が5.0×1019cm−3の導電性マイエナイト化合物の粉末を使用した。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0192】
これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)工程後に、表面が黒色の焼結体(以下、焼結体「D9」と称する)が得られた。焼結体D9の相対密度は、96.5%であった。
【0193】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D9を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D9は、C12A7構造のみを有することがわかった。焼結体D9の電子密度は、1.6×1021cm−3であり、電気伝導率は17S/cmであった。
【0194】
このことから、焼結体D9は、高導電性マイエナイト化合物であることが確認された。
【0195】
また、実施例1と同様の方法により、焼結体D9の表面層の厚さを評価した結果、表面層の厚さは、約5μm〜約10μm程度であり、表面層は、極めて薄いことが確認された。
【0196】
(実施例10)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例10では、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程において、真空処理の際に拡散ポンプを使用しなかった。従って、この実施例10では、炉内の圧力は、約50Pa程度であった。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0197】
これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程後に、表面が黒色の焼結体(以下、焼結体「D10」と称する)が得られた。焼結体D10の相対密度は、96.3%であった。
【0198】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D10を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D10は、C12A7構造のみを有することがわかった。焼結体D10の電子密度は、1.1×1021cm−3であり、電気伝導率は11S/cmであった。
【0199】
このことから、焼結体D10は、高導電性マイエナイト化合物であることが確認された。
【0200】
また、実施例1と同様の方法により、焼結体D10の表面層の厚さを評価した結果、表面層の厚さは、約20μm〜約40μm程度であり、表面層は、極めて薄いことが確認された。
【0201】
(実施例11)
前述の実施例1と同様の方法により、高導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例11では、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程において、マイエナイト化合物の成形体C1を作製せず、マイエナイト化合物の粉末のまま、焼成処理を行った。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0202】
これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程後に、表面が黒色で一部が焼結された塊(以下、焼結体「D11」と称する)が得られた。
【0203】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D11を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D11は、C12A7構造のみを有することがわかった。焼結体D11の電子密度は、1.5×1021cm−3であった。
【0204】
このことから、焼結体D11は、高導電性マイエナイト化合物であることが確認された。
【0205】
また、実施例1と同様の方法により、焼結体D11の表面層の厚さを評価した結果、表面層の厚さは、約5μm〜約10μm程度であり、表面層は、極めて薄いことが確認された。
【0206】
(実施例12)
前述の実施例1と同様の方法により、高導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例12では、前述の(マイエナイト化合物の成形体の作製)の工程において、
成形体C1の代わりに、成形体C1にニッケル線を挿入したものを作製し、これを被処理体とした。
【0207】
被処理体は、以下のように作製した。
【0208】
まず、リューターを使って、成形体C1の一つ底面の中心に、直径約0.7mm、深さ約2.5mmの穴を形成した。次に、この穴内に、150℃に加熱した線径0.7mm、長さ10mmのニッケル線を挿入した。ニッケル線は、加熱されているため、成形体C1との接触部分の樹脂は軟化し、ニッケル線を容易に挿入することができた。
【0209】
このようにして、ニッケル線付きの成形体を作製した。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0210】
これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程後に、ニッケル線と結合された黒色の焼結体(以下、焼結体「D12」と称する)が得られた。焼結体D12のニッケル線を除いた部分の相対密度は、96.7%であった。
【0211】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D12を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D12は、C12A7構造のみを有することがわかった。焼結体D12の電子密度は、1.6×1021cm−3であり、電気伝導率は16S/cmであった。
【0212】
このことから、焼結体D12は、高導電性マイエナイト化合物であることが確認された。
【0213】
また、実施例1と同様の方法により、焼結体D12の表面層の厚さを評価した結果、表面層の厚さは、約5μm〜約10μm程度であり、表面層は、極めて薄いことが確認された。
【0214】
なお、ニッケル線は、10回程曲げても折れることはなく、脆化等の劣化は生じていないことがわかった。
【0215】
(実施例13)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例13では、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程において、熱処理温度を1360℃とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0216】
これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程後に、表面が黒色の焼結体(以下、焼結体「D13」と称する)が得られた。焼結体D13の相対密度は、97.8%であった。
【0217】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D13を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D13は、C12A7構造のみを有することがわかった。焼結体D13の電子密度は、1.5×1021cm−3であり、電気伝導率は15S/cmであった。
【0218】
このことから、焼結体D13は、高導電性マイエナイト化合物であることが確認された。
【0219】
また、実施例1と同様の方法により、焼結体D13の表面層の厚さを評価した結果、表面層の厚さは、約5μm〜約20μm程度であり、表面層は薄いことが確認された。
【0220】
(実施例14)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例14では、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程において、熱処理温度を1250℃とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0221】
これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程後に、表面が黒色の焼結体(以下、焼結体「D14」と称する)が得られた。焼結体D14の相対密度は、96.0%であった。
【0222】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D14を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D14は、C12A7構造のみを有することがわかった。焼結体D14の電子密度は、1.0×1021cm−3であり、電気伝導率は10S/cmであった。
【0223】
このことから、焼結体D14は、高導電性マイエナイト化合物であることが確認された。
【0224】
また、実施例1と同様の方法により、焼結体D14の表面層の厚さを評価した結果、表面層の厚さは、約5μm〜約10μm程度であり、表面層は、極めて薄いことが確認された。


【0225】
(実施例15)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例15では、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程において、室温から1300℃まで加熱する際の時間を4時間とし、1300℃から室温まで冷却させる時間を4時間とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0226】
これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程後に、表面が黒色の焼結体(以下、焼結体「D15」と称する)が得られた。焼結体D15の相対密度は、97.0%であった。
【0227】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D15を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D15は、C12A7構造のみを有することがわかった。焼結体D15の電子密度は、1.5×1021cm−3であり、電気伝導率は15S/cmであった。
【0228】
このことから、焼結体D15は、高導電性マイエナイト化合物であることが確認された。
【0229】
また、実施例1と同様の方法により、焼結体D15の表面層の厚さを評価した結果、表面層の厚さは、約5μm〜約10μm程度であり、表面層は、極めて薄いことが確認された。
【0230】
(比較例1)
前述の実施例1と同様の方法により、高導電性マイエナイト化合物の作製を試みた。ただし、この比較例1では、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程において、熱処理温度を1200℃とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0231】
これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程後に、表面が黒色の焼結体(以下、焼結体「D51」と称する)が得られた。
【0232】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D51を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D51は、C12A7構造の他、多様な異相を有することがわかった。焼結体D51は、異相を有するため、電子密度および電気伝導率を求めることはできなかった。
【0233】
(比較例2)
前述の実施例1と同様の方法により、高導電性マイエナイト化合物の作製を試みた。ただし、この比較例2では、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程において、熱処理温度を1400℃とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0234】
これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程後に、表面が黒色の焼結体(以下、焼結体「D52」と称する)が得られた。焼結体D52は、変形が激しく、元の形状を維持していなかった。このため、相対密度を測定することはできなかった。
【0235】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D52を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D52は、C12A7構造の他、異相を有することがわかった。焼結体D52は、異相を有するため、正確な電子密度および電気伝導率は不明であるが、焼結体D52の電子密度は、おおよそ7.7×1019cm−3と見積もられた。
【0236】
このことから、焼結体D52は、高い電子密度を有さないことが確認された。
【0237】
(比較例3)
前述の実施例10と同様の方法により、高導電性マイエナイト化合物の作製を試みた。ただし、この比較例3では、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程で使用される装置300において、アルミナ容器310およびアルミナ板315のみを使用し、蓋335付きのカーボン容器330は、使用しなかった。その他の条件は、実施例10の場合と同様である。
【0238】
これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)工程後に、表面が白色の焼結体(以下、焼結体「D53」と称する)が得られた。焼結体D53の相対密度は、92.0%であった。
【0239】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D53を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D53は、C12A7構造のみを有することがわかった。焼結体D53の電子密度は、測定限界以下であり、このことから、焼結体D53は、高導電性マイエナイト化合物でないことが確認された。
【0240】
(比較例4)
前述の実施例1と同様の方法により、高導電性マイエナイト化合物の作製を試みた。ただし、この比較例4では、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程で使用される装置300において、金属チタン層320は、使用しなかった。すなわち、この比較例5では、チタン蒸気の存在しない環境下で、成形体C1の焼成処理を行った。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0241】
これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)工程後に、表面が黒色の焼結体(以下、焼結体「D54」と称する)が得られた。焼結体D54の相対密度は、99.7%であった。
【0242】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D54を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D54は、C12A7構造のみを有することがわかった。しかしながら、得られた粉末の光拡散反射スペクトルからクベルカムンク変換により求められた電子密度は、4.0×1019cm−3であり、電気伝導率は、0.04S/cmであった。
【0243】
このことから、焼結体D54は、高い電子密度を有さないことが確認された。
【0244】
(比較例5)
前述の実施例1と同様の方法により、高導電性マイエナイト化合物の作製を試みた。ただし、この比較例5では、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程で使用される装置300において、アルミナ板315は使用せず、マイエナイト化合物の成形体C1を、直接金属チタン層320の上に設置した。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0245】
これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)工程後に、焼結体(以下、焼結体「D55」と称する)が得られた。焼結体D55は、金属チタン層320と接触した表面が白色になっていた。白色物質を取り除いた焼結体D55の相対密度は、94.4%であった。
【0246】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D55を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D55は、C12A7構造のみを有することがわかった。焼結体D55の電子密度は、1.6×1021cm−3であり、電気伝導率は、16S/cmであった。
【0247】
実施例1と同様の方法により、焼結体D55の表面の形態を観察した。その結果、焼結体D55の表面には、厚さ約10μmの白色層が存在し、その直下に、別の層が観察された。この別の層は、他の焼結体(例えば焼結体D1)における表面層と同様の形態を有していた。この別の層の厚さは、約40μm〜約50μmもあり、厚いことが確認された。
【0248】
(比較例6)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この比較例6では、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程において、熱処理する雰囲気を窒素雰囲気とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0249】
これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程後に、表面がクリーム色の焼結体(以下、焼結体「D56」と称する)が得られた。焼結体D56の相対密度は、97.8%であった。
【0250】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D56を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D56は、C12A7構造のみを有することがわかった。焼結体D56の電子密度は、測定限界以下であり、このことから、焼結体D56は、高導電性マイエナイト化合物でないことが確認された。
【0251】
表1には、実施例1〜15と比較例1〜6における被処理体の種類、CO源およびチタン源の有無、処理温度、処理時間、ならびに得られた焼結体の電子密度、相対密度、および表面層の厚さをまとめて示した。
【0252】
【表1】
(実施例21)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例21では、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程において、脱脂後の成形体C1の代わりに、マイエナイト化合物(非導電性)の焼結体E21を用いた。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0253】
なお、マイエナイト化合物の焼結体E21は下記のように作製した。
【0254】
まず、前述の実施例1の(マイエナイト化合物の成形体の作製)の工程を経て得られた成形体C1をアルミナ板上に配置し、大気下で1100℃まで加熱した。昇温速度は、300℃/時間とした。次に、成形体C1を1100℃で2時間保持した後、300℃/時間の降温速度で室温まで冷却した。これにより、非導電性マイエナイト化合物の焼結体E21が得られた。
【0255】
焼結体E21を用いて、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程を実施した。これにより、表面が黒色の焼結体(以下、焼結体「D21」と称する)が得られた。焼結体D21の相対密度は、95.8%であった。
【0256】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D21を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D21は、C12A7構造のみを有することがわかった。焼結体D21の電子密度は、1.6×1021cm−3であり、電気伝導率は16S/cmであった。
【0257】
このことから、焼結体D21は、高導電性マイエナイト化合物であることが確認された。
【0258】
また、実施例1と同様の方法により、焼結体D21の表面層の厚さを評価した結果、表面層の厚さは、約5μm〜約10μm程度であり、表面層は、極めて薄いことが確認された。
【0259】
(実施例22)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例22では、(マイエナイト化合物の成形体の作製)の工程において、粉末B1の代わりに、フッ素成分を含む混合粉末を使用して成形体C22を調製した。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0260】
なお、混合粉末F22は、下記の工程により作製した。
【0261】
(混合粉末の調製方法)
まず、実施例1の(マイエナイト化合物の合成)の欄に記載した方法で得られた粉末B1の38.72gに、フッ化カルシウム(CaF、関東化学社製、特級)粉末0.73gと、酸化アルミニウム(α−Al、関東化学社製、特級)粉末0.55gとを添加し、これらを十分に混合して、混合粉末F22を得た。
【0262】
最終的に製造されるマイエナイト化合物においても、この混合粉末F22のCa/Al/Fの組成比が維持されると仮定した場合、製造されるマイエナイト化合物は、化学式

(12−x)CaO・7Al・xCaF (1)式

で表され、特にx=0.32となる。
【0263】
混合粉末F22を用いて作製した成形体C22を用いて、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程を実施した。これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程後に、表面が黒色の焼結体(以下、焼結体「D22」と称する)が得られた。焼結体D22の相対密度は、97.2%であった。
【0264】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D22を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D22は、C12A7構造のみを有することがわかった。焼結体D22の電子密度は、1.1×1021cm−3であり、電気伝導率は12S/cmであった。
【0265】
次に、焼結体D22の格子定数を測定した結果、焼結体D22の格子定数は、実施例1における焼結体D1の値よりも小さかった。このことから、焼結体D22では、マイエナイト化合物にフッ素が含有していると考えられる。
【0266】
次に、黒色物質D22を破断し、エネルギー分散型X線分析(EDX)により、破断面の組成分析を行った。分析結果から、検出されたフッ素の割合は、混合粉末F22の混合比に近いことがわかった。
【0267】
このように、焼結体D22は、フッ素を含む高導電性マイエナイト化合物の焼結体であることが確認された。
【0268】
また、実施例1と同様の方法により、焼結体D22の表面層の厚さを評価した結果、表面層の厚さは、約5μm〜約10μm程度であり、表面層は、極めて薄いことが確認された。
【0269】
(実施例23)
前述の実施例22と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例23では、前述の(混合粉末の調製方法)の工程において、粉末B1の39.78gに、フッ化カルシウム(CaF、関東化学社製、特級)粉末0.12gと、酸化アルミニウム(α−Al、関東化学社製、特級)粉末0.09gとを添加し、これらを十分に混合して、混合粉末F23を得た。
【0270】
最終的に製造されるマイエナイト化合物においても、この混合粉末F23のCa/Al/Fの組成比が維持されると仮定した場合、製造されるマイエナイト化合物は、上述の化学式(3)で表され、特にx=0.06となる。
【0271】
その他の条件は、実施例22と同様である。
【0272】
混合粉末F23を用いて作製した成形体C23を用いて、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程を実施した。これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程後に、表面が黒色の焼結体(以下、焼結体「D23」と称する)が得られた。焼結体D23の相対密度は、96.0%であった。
【0273】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D23を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D23は、C12A7構造のみを有することがわかった。焼結体D23の電子密度は、1.1×1021cm−3であり、電気伝導率は11S/cmであった。
【0274】
次に、焼結体D23の格子定数を測定した結果、焼結体D23の格子定数は、実施例1における焼結体D1の値よりも小さかった。このことから、焼結体D23では、マイエナイト化合物にフッ素が含有していると考えられる。
【0275】
次に、黒色物質D23を破断し、エネルギー分散型X線分析(EDX)により、破断面の組成分析を行った。分析結果から、検出されたフッ素の割合は、混合粉末F23の混合比に近いことがわかった。
【0276】
このように、焼結体D23は、フッ素を含む高導電性マイエナイト化合物の焼結体であることが確認された。
【0277】
また、実施例1と同様の方法により、焼結体D23の表面層の厚さを評価した結果、表面層の厚さは、約5μm〜約10μm程度であり、表面層は、極めて薄いことが確認された。
【0278】
(実施例24)
前述の実施例22と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例24では、前述の(混合粉末の調製方法)の工程において、粉末B1の38.11gに、フッ化カルシウム(CaF、関東化学社製、特級)粉末1.07gと、酸化アルミニウム(α−Al、関東化学社製、特級)粉末0.82gとを添加し、これらを十分に混合して、混合粉末F24を得た。
【0279】
最終的に製造されるマイエナイト化合物においても、この混合粉末F24のCa/Al/Fの組成比が維持されると仮定した場合、製造されるマイエナイト化合物は、上述の化学式(3)で表され、特にx=0.48となる。
【0280】
その他の条件は、実施例22と同様である。
【0281】
混合粉末F24を用いて作製した成形体C24を用いて、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程を実施した。これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程後に、表面が黒色の焼結体(以下、焼結体「D24」と称する)が得られた。焼結体D24の相対密度は、95.7%であった。
【0282】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D24を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D24は、C12A7構造のみを有することがわかった。焼結体D24
の電子密度は、1.0×1021cm−3であり、電気伝導率は10S/cmであった。
【0283】
次に、焼結体D24の格子定数を測定した結果、焼結体D24の格子定数は、実施例1における焼結体D1の値よりも小さかった。このことから、焼結体D24では、マイエナイト化合物にフッ素が含有していると考えられる。
【0284】
次に、黒色物質D24を破断し、エネルギー分散型X線分析(EDX)により、破断面の組成分析を行った。分析結果から、検出されたフッ素の割合は、混合粉末F24の混合比に近いことがわかった。
【0285】
このように、焼結体D24は、フッ素を含む高導電性マイエナイト化合物の焼結体であることが確認された。
【0286】
また、実施例1と同様の方法により、焼結体D24の表面層の厚さを評価した結果、表面層の厚さは、約5μm〜約10μm程度であり、表面層は、極めて薄いことが確認された。
【0287】
(実施例25)
前述の実施例22と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例25では、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程において、成形体C22の代わりに、フッ素を含むマイエナイト化合物(非導電性)の焼結体E25を使用した。その他の条件は、実施例22の場合と同様である。
【0288】
なお、マイエナイト化合物の焼結体E25は、以下のように作製した。
【0289】
まず、前述の実施例22の成形体C22をアルミナ板上に配置し、大気下で1100℃まで加熱した。昇温速度は、300℃/時間とした。次に、成形体C22を1100℃で2時間保持した後、300℃/時間の降温速度で室温まで冷却した。これにより、フッ素を含む非導電性マイエナイト化合物の焼結体E25が得られた。
【0290】
焼結体E25を用いて、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程を実施した。これにより、前述の(高導電性マイエナイト化合物の作製)の工程後に、表面が黒色の焼結体(以下、焼結体「D25」と称する)が得られた。焼結体D25の相対密度は、95.6%であった。
【0291】
さらに、実施例1と同様の方法により、この焼結体D25を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、焼結体D25は、C12A7構造のみを有することがわかった。焼結体D25の電子密度は、1.0×1021cm−3であり、電気伝導率は10S/cmであった。
【0292】
次に、焼結体D25の格子定数を測定した結果、焼結体D25の格子定数は、実施例1における焼結体D1の値よりも小さかった。このことから、マイエナイト化合物にフッ素が含有していると考えられる。
【0293】
次に、黒色物質D25を破断し、エネルギー分散型X線分析(EDX)により、破断面の組成分析を行った。分析結果から、検出されたフッ素の割合は、混合粉末F22の混合比に近いことがわかった。
【0294】
このように、焼結体D25は、フッ素を含む高導電性マイエナイト化合物の焼結体であることが確認された。
【0295】
また、実施例1と同様の方法により、焼結体D25の表面層の厚さを評価した結果、表面層の厚さは、約5μm〜約10μm程度であり、表面層は、極めて薄いことが確認された。
【0296】
表2には、実施例21〜25における被処理体の種類、CO源およびチタン源の有無、処理温度、処理時間、ならびに得られた焼結体の電子密度、相対密度、および表面層の厚さをまとめて示した。
【0297】
【表2】
なお、表2において、「F添加量(x値)」の欄における数値は、被処理体に含まれるフッ素(F)量を表す。この値は、被処理体から、最終的に以下の(1)式

(12−x)CaO・7Al・xCaF (1)式

で表されるマイエナイト化合物が製造されたと仮定した場合の、xの値を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0298】
本発明は、有機EL素子の電子注入層の薄膜を形成するのに必要な、スパッタリング用ターゲット、または蛍光ランプ等に使用され得る、導電性マイエナイト化合物製部材の製造方法に適用することができる。
【0299】
本願は2011年12月20日に出願した日本国特許出願2011−278869号に基づく優先権を主張するものであり同日本国出願の全内容を本願に参照により援用する。
【符号の説明】
【0300】
100 装置
120 カーボン容器
130 カーボン蓋
140 仕切り板
145 耐熱皿
150 金属チタン粉末の層
160 被処理体
170 排気口
300 装置
310 アルミナ容器
315 アルミナ板
320 チタン層
330 カーボン容器
335 カーボン製の蓋。
図1
図2
図3