特許第5971289号(P5971289)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5971289
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】基板局所の自動分析装置及び分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/00 20060101AFI20160804BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20160804BHJP
   G01N 1/32 20060101ALI20160804BHJP
   G01N 27/62 20060101ALI20160804BHJP
   G01N 35/10 20060101ALI20160804BHJP
   H01L 21/66 20060101ALN20160804BHJP
【FI】
   G01N1/00 101G
   G01N1/28 X
   G01N1/32 B
   G01N27/62 G
   G01N35/10 A
   !H01L21/66 Z
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-167171(P2014-167171)
(22)【出願日】2014年8月20日
(65)【公開番号】特開2016-44988(P2016-44988A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2016年3月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505322131
【氏名又は名称】株式会社 イアス
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ
(72)【発明者】
【氏名】川端 克彦
(72)【発明者】
【氏名】一之瀬 達也
(72)【発明者】
【氏名】今井 利彦
【審査官】 土岐 和雅
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第5783938(US,A)
【文献】 特表2012−519847(JP,A)
【文献】 特開2011−128033(JP,A)
【文献】 特表2005−523456(JP,A)
【文献】 特開平05−256749(JP,A)
【文献】 特開平05−283498(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0083045(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0079894(US,A1)
【文献】 特表2013−526700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N1/00〜1/44、27/60〜27/92、35/00〜37/00、H01L21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析液を供給するポンプと、前記ポンプより供給された分析液を基板表面の所定領域に吐出し、所定領域内の分析対象物を分析液に移行させ、該分析液を取り込むことにより分析対象物を回収する局所分析用ノズルと、前記局所分析用ノズル内の分析対象物を含む分析液を負圧により吸引するネブライザーと、前記ネブライザーより送液された分析液に含まれる分析対象物を分析する誘導結合プラズマ質量分析装置と、を備え、
前記局所分析用ノズルは、基板に対し分析液を供給する端部のノズル形状が筒状であり、前記筒状の端部において、筒状部の内壁に沿って分析液を保持可能な内部空間を備えており、基板上に分析液を吐出する分析液供給手段と、分析対象物を含む分析液を基板上より局所分析用ノズル内に取り込み、ネブライザーへ送液する分析液排出手段と、局所分析用ノズル内を排気経路とする排気手段と、を有しており、
局所分析用ノズルに取り込まれた分析対象物を含む分析液を、誘導結合プラズマ質量分析装置へ自動的に送液する自動送液手段を有し、
ポンプより局所分析用ノズルに供給する分析液の流量と、局所分析用ノズルよりネブライザーに送液する分析液の流量を調整する流量調整手段を有し、
流量調整手段は、ネブライザーに接続された不活性ガス供給路に不活性ガスを供給して負圧を発生させて、分析液をネブライザーに吸引させる際の不活性ガス供給量を調整するものであり、
前記流量調整手段により、ポンプより局所分析用ノズルへ供給する分析液の流量を、局所分析用ノズルよりネブライザーに送液する分析液の流量と同量以上にすることにより、局所分析用ノズルによる分析液の取り込みと、誘導結合プラズマ質量分析装置による分析対象物の分析とを同時進行で行い、基板の隣接した複数の所定領域を連続して自動分析する自動制御手段を有することを特徴とする基板局所の自動分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置を用いて基板表面局所を自動分析する方法において、
前記ポンプより局所分析用ノズルに供給された分析液を、前記局所分析用ノズルの分析液供給手段より基板表面の所定領域に吐出した後、分析液排出手段より分析対象物を含む分析液を基板上から局所分析用ノズル内に取り込み、基板上の所定領域内に含まれる分析対象物を局所分析用ノズル内に回収する局所分析工程と、
分析対象物を含む分析液を、ネブライザーに接続された不活性ガス供給路に不活性ガスを供給することで発生した負圧により局所分析用ノズル内からネブライザーへ吸引し、誘導結合プラズマ質量分析装置へ送液して、分析液中に含まれる分析対象物を自動分析する分析対象物の分析工程と、を含み、
局所分析工程は、排気手段により局所分析用ノズル内を排気しながら行い、
前記流量調整手段により、ポンプより局所分析用ノズルへ供給する分析液の流量を、局所分析用ノズルよりネブライザーに送液する分析液の流量と同量以上にする基板局所の自動分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)を用いた基板の局所分析を自動化した装置、及びその装置を用いた分析方法に関する。また、基板表面から微量元素を回収する局所分析と、回収した微量元素のICP−MSによる分析とを、連続して同時に分析できる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハ等の基板は、ケイ素等のインゴットを切断して製造されるものであり、インゴット製造時における偏析、異物混入等により、基板表面の局所には、意図しない不純物元素の混入する場合がある。このため、得られた基板に含まれる不純物元素とその存在位置を特定すべく、全面分析、エッジ分析、局所分析等を行う各種分析装置が用いられている。このうち、基板を全面分析する装置としては、シリコン等のウェーハをエッチングするエッチング手段と、エッチング液内の不純物元素を分析する分析手段とを備えた装置等が知られている。これら全面分析用の装置では、基板全面に含まれる不純物元素を一括して分析することから、エッジ部分や局所部分等、基板の一部のみに不純物元素が存在する場合、基板上のどこに不純物元素が存在するかが不明となる。不純物元素の正確な汚染位置が判明していない場合、局所分析すべき位置も決定できず、不純物元素の分布状況を特定できない。
【0003】
このため、局所分析に先出って、基板上における不純物元素の分布状況を簡便に特定する分析装置として、全反射蛍光X線分析装置、二次イオン質量分析装置(SIMS)、フォトルミネッセンスを利用した装置等が知られている。例えば、特許文献1記載の全反射蛍光X線分析装置によれば、非破壊で簡便に不純物元素の面内配置を検出できる。
【0004】
ここで、半導体ウェーハ等の基板分析においては、基板を用いた半導体デバイスについて、高精細化したデバイスの量産に向けて、素子性能の向上や歩留まり向上が求められている。このため、これらデバイスの原材料となる基板については、微量の汚染源であっても特定したいとの要請がある。このように、基板分析装置には、基板に含まれる微量かつ局所的な不純物元素も検出できる高精度さが求められている。しかしながら、上記した全反射蛍光X線分析装置は、非破壊で簡便な分析を行える一方、基板に含まれる不純物元素の存在量が微量である場合、不純物元素の存在を検出できない場合がある。また、限られた種類の不純物元素しか測定できない。SIMSは、局所分析が可能であるが、全反射蛍光X線分析装置と同様に微量の不純物元素を検出できない。具体的に検出可能な不純物元素の濃度は、全反射蛍光X線分析(TRXRF)が1010〜1012atoms/cm、SIMSが10〜1010atoms/cmである。
【0005】
そこで、基板上に含まれる不純物元素の存在量が微量であっても、高精度に分析可能な分析装置として、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)がある。ICP−MSによれば、例えば、サブpptレベル(pg/mL)の微量汚染も検出可能である。また、基板表面に複数の不純物元素が含まれる場合にも、不純物元素の種類及び各元素の存在量まで特定できる。以上のようにICP−MSを用い、基板表面に局所的に含まれる不純物元素を分析する場合には、分析したい局所以外の部分に保護フィルムを貼付ける分析(特許文献2)や、分析したい局所にのみに、基板をエッチングするエッチングガスの蒸気を接触させる装置(特許文献3、4)等を適用できる。
【0006】
また、ICP−MSによる分析では、特許文献4の装置のように、基板分析用ノズルを採用し、基板上に存在する不純物元素を極力微量の分析液で回収するような装置が知られている。基板分析用ノズルとしては、例えば、図5のような基板分析用ノズルがある(特許文献5)。図5において、基板分析用ノズル500は、分析液槽510に供給された分析液を、分析液供給管520を介して基板Wに供給し、微量の分析液Dをドーム状のノズル端部550に表面張力で保持することができる。このため、微量の分析液を保持させることで、基板上の汚染物を回収することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−132826号公報
【特許文献2】特開2003−17538号公報
【特許文献3】特開2002−39927号公報
【特許文献4】特開2011−232182号公報
【特許文献5】特開2008−132401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のようなICP−MSを用いた分析装置では、不純物元素を含む分析液を回収後、一旦、バイアル等の回収容器に分析液を採取し、その後、人手を介してICP−MSによる元素分析を行うことが余儀なくされていた。かかる分析では、外部汚染の影響が危惧される上、手動による時間的ロスも大きい。そこで本発明は、不純物元素を含む分析液の回収からICP−MSによる局所分析まで自動化できる分析装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者等は、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)による局所分析を自動化する装置について検討した。この検討に際し、基板分析用ノズルを備える装置を基にその自動化を図ることとし、本発明に想到した。ノズルを備える分析装置を選択した理由は、ノズルを小型化することで、より面積の微小な局所よりサンプリングが可能になるとともに、吐出する分析液量を制限することで、より微量の元素も分析し得ると考えたためである。
【0010】
かかる本発明は、分析液を供給するポンプと、前記ポンプより供給された分析液を基板表面の所定領域に吐出し、所定領域内の分析対象物を分析液に移行させ、該分析液を取り込むことにより分析対象物を回収する局所分析用ノズルと、前記局所分析用ノズル内の分析対象物を含む分析液を負圧により吸引するネブライザーと、前記ネブライザーより送液された分析液に含まれる分析対象物を分析する誘導結合プラズマ質量分析装置と、を備え、前記局所分析用ノズルは、基板上に分析液を吐出する分析液供給手段と、分析対象物を含む分析液を基板上より局所分析用ノズル内に取り込み、ネブライザーへ送液する分析液排出手段と、局所分析用ノズル内を排気経路とする排気手段と、を有しており、局所分析用ノズルに取り込まれた分析対象物を含む分析液を、誘導結合プラズマ質量分析装置へ自動的に送液する自動送液手段を有し、ポンプより局所分析用ノズルに供給する分析液の流量と、局所分析用ノズルよりネブライザーに送液する分析液の流量を調整する流量調整手段を有し、局所分析用ノズルによる分析液の取り込みと、誘導結合プラズマ質量分析装置による分析対象物の分析とを同時進行で行い、隣接した複数の所定領域を連続して自動分析する自動制御手段を有することを特徴とする基板局所の自動分析装置に関する。
【0011】
本発明の自動分析装置では、局所分析用ノズルに取り込まれた分析対象物を含む分析液を、誘導結合プラズマ質量分析装置へ自動的に送液する自動送液手段を有するため、外部汚染を抑制し迅速に分析できる。また、局所分析用ノズルによる分析液の取り込みと、誘導結合プラズマ質量分析装置による分析対象物の分析とを同時進行で行い、隣接した複数の所定領域を連続して自動分析する自動制御手段を有するため、基板上の特定の位置のみに、微量(例えば、108atoms/cm以下)しか存在しない元素についても、その分布状況を特定可能となる。
【0012】
自動送液手段は、局所分析用ノズル内の分析液を、バイアル等を介することなくICP−MSに接続したネブライザーへと、直接送液可能となるように配管することで構成できる。また、自動制御手段としては、例えば、ポンプの分析液供給量、局所分析用ノズル先端からの分析液吐出量、ネブライザーへの分析液吸引量、ICP−MSへの送液量等を、個別又は総合してコンピュータ制御可能としたものの他、ICP−MSの分析速度と同時進行できるように局所分析用ノズル先端からの分析液吐出量を制御するものでもよい。
【0013】
ここで、単純に自動送液手段のみを採用した装置、すなわち、従来の分析装置と比べて、単純にバイアル等の人手媒介を廃し、局所分析用ノズルの分析液をネブライザーへと直送可能にしただけの分析装置とした場合、分析する所定領域へ局所分析用ノズルより吐出する分析液の液量調整が問題となる。基板上の所定領域のみを正確に分析するためには、局所分析用ノズルから基板の所定領域に対し吐出した分析液量を、正確に一定量に保ち続ける必要がある。特に、本発明は、後述する自動制御手段を備え、基板の複数の所定領域を連続して分析可能とするものであるため、連続して局所分析を継続する場合、その分析中、常に局所分析用ノズルより吐出する分析液量を一定に保つことが求められる。このため、本発明では、ポンプより局所分析用ノズルに供給する分析液の流量と、ネブライザーに送液する分析液の流量を調整する流量調整手段を有するものとした。流量調整手段としては、局所分析用ノズルに供給する分析量はポンプの流量により簡便に調整することができる一方、ネブライザーへの送液は、後述する理由から負圧を利用するため、次のような構成を採用することで流量調整可能とする。すなわち、ネブライザーへの分析液の送液量は、ネブライザーに対し分析液とともに不活性ガスを供給し、その不活性ガス供給量を調整可能とすること、ネブライザーに接続する分析液供給管の内径や長さを調整すること、或は、局所分析用ノズルとネブライザーとの間に液量調整用のポンプを備えること、のいずれか又はこれらの組み合わせにより調整可能にできる。
【0014】
次に、本発明の局所分析用ノズルについて、詳述する。本発明における局所分析用ノズルは、基板上に分析液を吐出する分析液供給手段と、分析対象物を含む分析液を基板上よりノズル内に取り込み、ネブライザーへ送液する分析液排出手段と、局所分析用ノズル内を排気経路とする排気手段と、を有する。従来の基板分析装置は、前述のとおり、基板上の分析対象物を分析液に移行させて回収し、一旦、バイアル等に分析液を保管してからICP−MSで分析することを前提としており、適用するノズルとしては、図5のように、基板に分析液を吐出する供給管と、吐出した分析液をノズル内に取り込む排出管とを、1つの管で兼用するものであった。これに対し、本発明の基板分析装置は、局所分析用ノズル内への分析液の取り込みと、ICP−MSによる元素分析とを同時進行させるべく、分析液供給手段と分析液排出手段とを別の経路とするものである。具体的には、ポンプと接続し、基板上に分析液を吐出できる供給管と、ネブライザーと接続し、基板からノズル内に取り込んだ分析液を送液する排出管という、2つの管を有する局所分析用ノズルが好ましい。以下において、「局所分析用ノズル」を「ノズル」と表記する場合がある。
【0015】
上記のように、従来のノズルは、基板上への分析液供給と基板上からの分析液の取り込みとを単一の管に担わせるものであり、図5の分析液槽510のように、ノズル内に分析液を溜める空間を設け、その分析液の押出し量を調整すれば、基板上に吐出する分析液の液量を、簡便に微調整できた。これに対し本発明は、従来ノズルのように、ノズル内に分析液を貯める槽を有するものではなく、基板上の分析液量を微調整することが困難となる。これは、基板上に吐出する分析液量と、基板上からノズル内に取り込む分析液量との調整を、分析液供給手段及び分析液排出手段という、別個の経路の個々の流量により調整する必要が生じるためである。すなわち、本発明では分析液供給手段と分析液排出手段という別個の経路を有するため、ノズルから基板への分析液吐出量と、基板からノズルへの取り込み量との差を一定に保つことが困難となっている。具体的には、例えば、ウェーハの全面を分析する場合、12インチのウェーハであれば、ノズル径10mmの場合で25分、ノズル径5mmの場合で50分の間、ノズルを掃引して分析することとなり、その分析時間中、常に、上記した吐出量と取り込み量との差を一定に保つことは困難なためである。このように、本発明の局所分析用ノズルは、従来ノズルに比べ、基板に供給する分析液量が増減しやすいものであった。そして、ノズルより吐出した分析液が過多となると、分析液が基板の所定領域以外まではみ出し、例えば、局所分析したい箇所以外に漏れ広がる場合があった。
【0016】
また、基板上に酸化膜や窒化膜等の形成膜を有する場合、局所分析の前工程としてエッチング等による形成膜除去が必要となるが、これらエッチング後の基板を局所分析する場合にも、ノズル内の分析液量が増加しやすい。エッチングの副生成物として基板上にHOが残存するため、局所分析を継続するほど、分析液量が増加するためであり、分析液量が過多となると、上記同様に分析液がノズルからはみ出し、濡れ広がる場合があった。
【0017】
このような背景の下、本発明の局所分析用ノズルでは、上記した分析液供給手段と分析液排出手段に加え、ノズル内を排気経路とする排気手段を有するものとした。かかるノズルにより、ノズル内を減圧雰囲気として排気しながら局所分析を行うことで、ノズル内の分析液量が過多となった場合にも、分析液をノズル内に保持することが可能となり、分析液のはみ出しを防止できる。尚、本発明の基板分析装置では、前述した流量調整手段により、ポンプ及びICP−MSの分析液流量を略等量に調整することによっても、基板上の分析液量を略一定に保持可能とするものである。しかしながら、流量調整手段が調整する、ネブライザーに送液する分析液の流量は、リアルタイムでは計測困難となっており、一定時間における分析液の重量減少量から流量を求めるのが一般的である。このため、流量調整手段を用いる際、上記により算出されたネブライザーへの送液量より、やや多めの分析液を局所分析用ノズルに供給することが多い等の事情から、流量調整手段を有していても、なお分析液量の増減が生じうる。このような背景のもと、本発明では、流量調整手段に加えてノズル内に排気手段を設け、基板上における分析液量の増減に対して、万全に対応可能としたものである。
【0018】
また、本発明の局所分析用ノズルは、基板に対し分析液を供給する端部のノズル形状が筒状であり、前記筒状の端部において、筒状部の内壁に沿って分析液を保持可能な内部空間を有することが好ましい。ノズル内への分析液供給量が過多となった場合に、ノズル内の分析液の液面が上昇しても、筒状の端部の内壁に沿って分析液を保持することで、ノズル外に分析液がはみ出しにくいものとなる。
【0019】
ここで、従来の基板分析では、より微量の汚染物も回収できるよう、分析液の液量を極力微量にすることが技術常識とされている。このため、従来の基板分析装置に採用されるノズルは、一般的に、微量の分析液を保持することができ、脱落しにくいようなノズル形状が採用されている。例えば、図5の従来ノズルでは、ノズル先端の形状をドーム型にすることで、微量の分析液を表面張力により保持することができる。これに対し、上述のとおり、本発明の自動分析装置では、上記のようにノズル構造として、分析液供給手段と分析液排出手段とを別経路で有することから、ノズルから基板への分析液供給量が過多になる場合が生じうる点で、分析液量を常に微量で定量とする従来ノズルとは、全く異なる問題を生じうる。
【0020】
このような背景から、微量の分析液を保持するために有効なノズル形状が採用されていた従来の分析ノズルに対し、本発明では、より多くの分析液もノズル内に保持可能とする形状を採用している。すなわち、従来の分析ノズル(例えば、図5のノズル先端550のように先端をドーム形状としたノズル)は、微量の分析液を保持するには好適であるが、保持可能な分析液量に限界があり、過剰の分析液も保持が必要となる本発明の自動分析装置には採用できない。一方、本発明のように、少なくともノズル端部が筒状であり、筒状部の内壁に沿って分析液を保持可能な内部空間を有する局所分析用ノズルであれば、基板表面に接触する分析液の量(表面積)は所定範囲内としつつ、分析液供給手段からの供給過多で分析液量が増加した場合にも、ノズル内壁に沿って分析液を保持することで、過剰な分の分析液も保持できる。前述のとおり、本発明の局所分析用ノズルは排気手段を有するため、上記形状のノズルによって、過剰な分の分析液をノズル内壁に沿って保持することが可能になる。仮に排気手段が無いノズルでは、ノズル形状を上記のように筒状部の内壁に沿って分析液を保持可能な内部空間を有するものとしても、ノズル内壁に保持する分析液が増加した場合、自重によりノズルからはみ出してしまうためである。このように上記形状のノズルは、排気手段を有することにより、過剰な分析液の保持を可能としている。また、本発明の局所分析用ノズル内に保持可能な分析液量は、ノズルの長さを調整することによって制御することもできる。
【0021】
ノズルに供給する分析液の量としては、従来の分析用ノズルでは、ノズル内の分析液槽等に約200〜1000μL程度供給可能としていたのに対し、本発明の局所分析用ノズルは20〜100μL程度となる。本発明の局所分析用は、このように従来の分析ノズルに比べ、小型化を図り、100μL以下の分析液による局所分析によって、精度の高い元素分析が可能となる。他方、従来の分析装置では、ICP−MSでの局所分析に際し、分析液量を200μL未満のような微量にすることができなかった。これは、ICP−MSで測定する際、測定に要する時間(測定元素数にもよるが3分くらい)の間、ICP−MSに導入する分析液量に加え、ネブライザーからICP−MSまでの接続配管内には、測定する分析液を充満させておく必要があるからである。ICP−MS分析の際に、ネブライザー等による負圧吸引をする場合には、接続配管内の分析液がなくなってしまうと、抵抗が少なくなることで、意図せず流量が増加することとなり、ICP−MSの感度が大きく変化してしまうため、正確な分析ができなくなる。このため、従来の分析装置では、少なくとも200μL以上の分析液が必要であった。これに対し、本発明では、隣接した複数の所定領域を連続して分析することから、1か所の領域については分析液量を200μL以下としても、隣接する他の領域を分析する分析液を続いてICP−MSへ供給することから、ネブライザーからICP−MSまでの間の配管内には、常にいずれかの分析液を充満させることができる。このため本発明では、従来と比べて1か所あたりの局所分析に用いる分析液を半量以下にすることができ、高精度な元素分析が可能となる。
【0022】
以上説明した局所分析用ノズルに対し、分析液を供給するポンプとしては、ピストンポンプ、プランジャーポンプ、シリンジポンプ等の容積式ポンプを採用することが好ましく、シリンジポンプが特に好ましい。分析液の供給量を比較的正確に維持できるからである。
【0023】
本発明の基板分析装置では、以上の局所分析用ノズルにて回収された分析液を、負圧吸引によりネブライザーに送液可能となるよう配置している。例えば、ネブライザーにAr等の不活性ガスを供給して負圧を生じさせることで、負圧により分析液をネブライザーへと送液できる。具体的には、ネブライザーに対し不活性ガスを毎分1Lで供給した場合、負圧により、毎分約20〜100μLの分析液をネブライザーへと送液できる。ここで、分析液の供給手段として、負圧吸引を採用しているのは、ポンプ内のデッドボリューム部分に分析液が残存し、その後に測定する試料が汚染される、いわゆる「メモリー」を生じにくいものとするためである。本発明の分析装置は、基板の隣接した複数の所定領域を連続して自動分析するものであり、局所分析用ノズルとネブライザーとの間の供給経路にメモリーが生じてしまうと、基板の所定領域に対する分析結果が正確でなくなり、ノズルによる局所分析とICP−MSによる分析対象物の分析との同時分析にも、ずれが生じやすくなるためである。このため、流量調整手段としてポンプを備える場合には、デッドボリュームへの残存の少ないポンプの採用が好ましい。例えば、ペリスタルティックポンプを採用することができる。ただし、ペリスタルティックポンプを用いる場合、デッドボリュームの残存は少ないものの、本発明は微量元素分析を目的とすることから、ポンプを構成するチューブからの汚染についての留意は必要となる。尚、ネブライザーとして適用する器具は、従来から公知のものを適用できる。また、誘導結合プラズマ質量分析装置についても、従来から知られているものを適用できる。
【0024】
以上の自動分析装置により分析する基板としては、半導体ウェーハ、ガラス基板等の各種基板を分析対象とすることができ、半導体ウェーハが好適である。局所分析する隣接した複数の所定領域としては、全反射蛍光X線分析法等により、ある程度、不純物元素の存在が特定されている汚染領域のみを分析してもよく、基板全体について局所分析を連続して行ってもよい。尚、基板上に酸化膜や窒化膜等の親水性の形成膜を有する基板を分析する場合には、予め形成膜をエッチングして除去することが好ましい。ノズルから吐出した分析液が、親水性の膜上で漏れ広がることを防止するためである。
【0025】
以上の分析装置を用いて基板表面局所を自動分析する方法としては、ポンプより局所分析用ノズルに供給された分析液を、局所分析用ノズルの分析液供給手段より基板表面の所定領域に吐出した後、分析液排出手段より分析対象物を含む分析液を基板上から局所分析用ノズル内に取り込み、基板上の所定領域内に含まれる分析対象物を局所分析用ノズル内に回収する局所分析工程と、分析対象物を含む分析液を負圧により局所分析用ノズル内からネブライザーへ吸引し、誘導結合プラズマ質量分析装置へ送液して、分析液中に含まれる分析対象物を自動分析する分析対象物の分析工程と、を含み、局所分析工程は、排気手段により局所分析用ノズル内を排気しながら行い、流量調整手段により、ポンプより局所分析用ノズルへ供給する分析液の流量を、局所分析用ノズルよりネブライザーに送液する分析液の流量と同量以上にする基板局所の自動分析方法を適用できる。
【0026】
上記分析装置に関する発明において詳説したように、局所分析用ノズルより回収した分析液をICP−MSへ自動的に送液する本発明では、連続して基板の局所分析を継続する間中、常にノズルより吐出する分析液量を一定に保つことが求められる。特に、局所分析用ノズルで回収した分析液を、負圧によりネブライザーに吸引させるため、ノズル内の分析液量を正確に微調整することが困難となっている。このため、局所分析用ノズル内の分析液量が過多となった場合には、ノズルより吐出した分析液が所定領域外にはみ出てしまうことがある。逆に、局所分析用ノズル内の分析液量が減少した場合、吐出する分析液量が不足する。分析液量が不足し過ぎると、ネブライザーが分析液周辺の空気を吸引してしまい、正確な分析が困難となる。
【0027】
以上のような背景の下、本発明の製造方法では、局所分析用ノズル内を排気手段により排気しながら局所分析工程を行うとともに、ポンプからノズルへ送液する分析液量を、ノズルよりネブライザーへ送液する分析液量と同量以上とした。排気手段により排気しながら局所分析を行うことで、局所分析用ノズル内の分析液量が過多となった場合にも、ノズルから分析液がはみ出ることを防止できる。排気手段による排気中、局所分析用ノズルより吐出した基板上の分析液とノズル端部との間には一定の外気が導入され、分析液がノズル端部に沿って球面上に配置することとなり、ノズル外へのはみ出しが防止されるものである。また、流量調整手段により、ポンプよりノズルへ供給する分析液の流量を、ICP−MSの分析流量と同量以上にすることで、ノズル内の分析液量の不足を防止できる。
【発明の効果】
【0028】
以上で説明したように、本発明によれば、基板上の所定領域に含まれる微量元素について、分析の自動化が可能になるとともに、隣接した複数の所定領域を連続して分析できる。このため、従来よりも分析液量を減少させて分析精度を向上させることが可能となり、基板上における微量元素の存在位置も特定できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施形態における自動分析装置の概略断面図。
図2】実施形態における局所分析用ノズルの断面図。
図3】実施形態における分析中の局所汚染状況及びノズル操作を示す図。
図4】実施形態におけるICP−MS分析結果図。
図5】従来の基板分析用ノズル概略図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0031】
本実施形態では、図1に示す自動分析装置を用いて、基板の局所分析を行った。局所分析用ノズル100は、シリンジポンプ200と接続しており、分析液がシリンジポンプ200よりノズル100内に送液可能となっている。また、ノズル100内の分析液は、ネブライザー300に送液され、ICP−MSへと自動的に送液可能となっている。尚、ネブライザー300には、Arガスを供給可能な不活性ガス供給路が、排出チューブとは別途接続されている(図示せず)。
【0032】
図2は、上記した局所分析用ノズル100の断面図である。図2のように、局所分析用ノズル100は、略筒状のノズル本体と、シリンジポンプ200と接続した供給用チューブ120と、ネブライザー300と接続した排出チューブ130を有する。供給用チューブ120は、分析液をシリンジポンプ200からノズル100内に供給し、基板Wに吐出可能とするものであり、排出チューブ130は、基板Wより分析液Dを回収し、ネブライザー300に送液可能とするものである。また、局所分析用ノズル100内は、矢印方向に排気可能な排気手段160を有し、排気ポンプ(図示せず)と接続されている。
【0033】
上記分析装置を用いた具体的な分析方法について説明する。分析対象の基板としては、12インチのシリコンからなるウェーハ基板を用いた。Sr、Ba、Cd、Li、Mo、Pbの各元素を10ppb(ng/mL)ずつ混合した汚染溶液を、上記のウェーハ基板上に、図3に示すように局所的に5μLずつ滴下し、局部汚染させた基板を用意した。
【0034】
この汚染済み基板について、図1に示した分析装置を用いて、局所分析を行った。まず、シリンジポンプとノズルとの間に接続したPFAチューブ内に3%HF、4%Hを含む分析液を1500μL充填し、この分析液を、シリンジポンプによりノズルへと供給し、供給用チューブより基板に分析液を100μL吐出させた。この時、排気ポンプにより排気速度0.3〜1.0L/minで図2の矢印方向への排気を行った。以上により、基板表面に存在する分析対象物を分析液中に移行させた後、排出チューブより分析液Dをノズル内に吸引して取り込んだ。そして、不活性ガス供給路より、ネブライザーに対しArガスを毎分1.0Lで供給して負圧を発生させ、分析対象物を含むノズル内の分析液を約100μL/minの流量でネブライザーに送液させた。次いでICP−MSによる分析を行った。上記分析において、図3の矢印で示した線を描くよう、ノズルを10mm/secで基板上を移動させながら、分析液を吐出及び吸引し、連続的に局所分析を行った。また、ノズル内への分析液の取り込みと同時進行で、ノズル内よりネブライザーに送液された分析液をICP−MSで元素分析した。また、ネブライザーへの送液と同量以上の分析液を、シリンジポンプよりノズルへと供給し、基板に吐出させて、基板上の分析液量を約100μLに維持した。ICP−MSによる分析結果を図4に示す。
【0035】
図4のように、分析時間190、290、360、420秒付近において、各分析元素の強い強度ピークが検出された。ノズルの移動速度及び移動位置と、元素ピークの検出時間とを照会したところ、ウェーハ上に汚染溶液を滴下した位置に相当する分析時間に、元素ピークが検出されていることが分かった。以上より、この分析装置により、各分析元素の汚染位置を特定できることを確認できた。
【0036】
上記本実施形態の分析結果に基づく各元素の検出限界について、従来の非破壊分析装置で分析した場合の分析限界と比較した。本実施形態では、各金属元素を10ppb(ng/mL)ずつ5μL滴下して強制汚染させた基板を分析したものであり、この溶液中に含まれる金属原子数は、例えばFeの場合、約5E+11atomsである。ここで、全反射蛍光X線装置の検出限界は約1E+11atoms/cmであり、測定部の面積が1cmであることから、強制汚染させた5μLの汚染液(1スポット)とほぼ同じであり、本実施形態の分析基板からは、Fe原子を検出することは難しい。これに対し、本実施形態では、図4のICP−MSの結果に示されるように、Fe原子を検出することができ、測定したICP−MSのパルス強度に基づき算出される検出限界は、5μLのスポット中で約5E+6atomsとなる。ノズルの直径を小さくし、ウェーハとの接触面積を更に小さくすることにより、更に微量の元素の検出も可能となる。このように、本実施形態の結果では、全反射蛍光X線装置を用いた場合よりも検出感度が高く、例えばFeの場合、検出感度が約4桁高かった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、ICP−MSによる局所分析を自動化することができるとともに、隣接した複数の所定領域を連続して自動分析できる。このため、基板表面における汚染量が微量の不純物元素も、存在位置及び元素の種類まで特定可能となる。具体的には、本発明によれば、10から10atoms/cmの元素が分析可能になる。また、分析液量を従来よりも低減し、高精度な元素分析を実現できる。
【符号の説明】
【0038】
100 局所分析用ノズル
120 分析液供給手段
130 分析液排出手段
150 ノズル先端
160 排気手段
200 ポンプ
300 ネブライザー
D 分析液
W 基板
図1
図2
図3
図4
図5