特許第5971322号(P5971322)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5971322シルクフィブロイン多孔質体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5971322
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】シルクフィブロイン多孔質体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/26 20060101AFI20160804BHJP
   A61K 8/44 20060101ALI20160804BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20160804BHJP
   A61L 15/16 20060101ALI20160804BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   C08J9/26 102
   C08J9/26CEP
   A61K8/44
   A61K8/64
   A61L15/16
   A61Q19/00
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-259085(P2014-259085)
(22)【出願日】2014年12月22日
(62)【分割の表示】特願2012-509678(P2012-509678)の分割
【原出願日】2011年4月5日
(65)【公開番号】特開2015-63700(P2015-63700A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2015年1月21日
(31)【優先権主張番号】特願2010-227051(P2010-227051)
(32)【優先日】2010年10月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-227050(P2010-227050)
(32)【優先日】2010年10月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-88203(P2010-88203)
(32)【優先日】2010年4月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-88202(P2010-88202)
(32)【優先日】2010年4月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】小林 一稔
(72)【発明者】
【氏名】角 直祐
(72)【発明者】
【氏名】草木 一男
(72)【発明者】
【氏名】町田 朋子
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−040156(JP,A)
【文献】 特開2006−150072(JP,A)
【文献】 特表2007−515391(JP,A)
【文献】 特開2003−038633(JP,A)
【文献】 特開2003−192530(JP,A)
【文献】 特開2005−187444(JP,A)
【文献】 特開2001−259418(JP,A)
【文献】 特表2011−521020(JP,A)
【文献】 特開2006−249115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00− 9/42
A61L 15/00−33/00
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−99/00
C07B 31/00−63/04
C07C 1/00−409/44
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シルクフィブロイン及びアミノ酸を含有し、該アミノ酸がシルクフィブロインに取り込まれており、引張弾性率が0.04〜16MPaであるシルクフィブロイン多孔質体。
【請求項2】
前記アミノ酸が酸性アミノ酸である請求項1に記載のシルクフィブロイン多孔質体。
【請求項3】
前記アミノ酸がオキシアミノ酸である請求項1に記載のシルクフィブロイン多孔質体。
【請求項4】
前記酸性アミノ酸がモノアミノジカルボン酸である請求項2に記載のシルクフィブロイン多孔質体。
【請求項5】
前記モノアミノジカルボン酸がアスパラギン酸又はグルタミン酸である請求項4に記載のシルクフィブロイン多孔質体。
【請求項6】
前記オキシアミノ酸がヒドロキシプロリンである請求項3に記載のシルクフィブロイン多孔質体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シルクフィブロイン多孔質体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンパク質や糖類などの生物由来物質を利用して作製可能である多孔質体は、創傷被覆材、止血スポンジ、薬剤徐放担体や索引具等の医療分野、紙おむつや生理用品等の生活日用品分野、微生物や細菌等の住処になる支持体として活用しうる浄水分野、エステティックサロンや個人での使用による保湿等を目的とした化粧品・エステ分野、組織工学や再生医工学における細胞培養支持体や組織再生支持体など産業上幅広い分野で利用される。
これら多孔質体を構成する生体由来物質としては、セルロースやキチン等の糖類、コラーゲン、ケラチン、フィブロイン等のタンパク質群が知られている。
【0003】
このうち、タンパク質としては、コラーゲンが一番よく利用されてきたが、BSE問題が発生してから牛由来のコラーゲンを利用することが非常に難しくなってきた。さらに、豚由来のコラーゲンでは新たな感染症の問題があり、魚類由来のコラーゲンでは、多孔質体強度の問題があり実用化は難しい。また、ケラチンは、羊毛や羽毛から得ることができるが、原料入手に問題があり、工業的に利用することは難しい。羊毛は、原料価格が非常に高騰しており、羽毛に関しては市場がないため、原料を入手することが容易ではない。これらに対して、フィブロインは、シルクから容易に得ることが可能で、原料入手の観点からは、安定に供給されることが期待でき、さらに価格も安定しているので、工業的に利用することが容易である。
また、フィブロインは、衣類用途以外に、手術用縫合糸として長く使用されてきた実績があり、現在では食品や化粧品の添加物としても利用され、人体に対する安全性にも問題がないことから上記した多孔質体の利用分野に十分適用可能である。
【0004】
シルクフィブロイン多孔質体を作製する手法に関しては、いくつか報告がある。例えば、フィブロイン水溶液を急速冷凍したのち結晶化溶媒に浸漬し、融解と結晶化を同時進行させることによってフィブロインの多孔質体を製造する方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、この方法は結晶化溶媒である有機溶媒を大量に使用する必要があり、さらに溶媒の残留の可能性も否定できず、医療分野等の上記した応用分野での使用には問題がある。
また、フィブロイン水溶液のpHを6以下に保持してゲル化させるか又はその水溶液に貧溶媒を添加してゲル化させ、得られたゲルを凍結乾燥してフィブロインの多孔質体を製造する方法が提案されている(特許文献2)。しかしながら、この方法は十分な強度をもった多孔質体を得ることはできない。
さらに、フィブロイン水溶液を冷凍した後に長時間凍結状態を維持することで多孔質体を製造する方法が提案されている(特許文献3)。しかしながら、発明者らの検討ではこの手法は再現性が乏しく、多孔質体が作製できないことが多い。
一方、上記したシルクフィブロイン多孔質体の作製手法と比較して、確実で簡便に強度の高いフィブロインの多孔質体を得る方法が報告されている(特許文献4及び非特許文献1)。特許文献4及び非特許文献1には、フィブロイン水溶液に対して少量の有機溶媒を添加した後に、一定時間凍結させて、その後融解することによって、高含水率であり、かつ力学的強度に優れたハイドロゲルが製造できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−41097号公報
【特許文献2】特公平6−94518号公報
【特許文献3】特開2006−249115号公報
【特許文献4】特許第3412014号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Biomacromolecules,6,3100−3106(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献4の手法により作製された多孔質体も、その製造工程で少量の有機溶媒を使用しているため、本発明者らの検討によると、その残留溶媒を除去するためには大量の超純水での透析等を用いた長時間にわたる洗浄工程が必須である。また、長時間の洗浄によって検出限界以下の濃度まで溶媒を除去できたとしても、検出限界以下の微量の残留溶媒が含まれていることが懸念され、より安全性が求められる分野においては使用できないという問題があった。
そこで、本発明は、有機溶媒を含まず、安全性に優れたシルクフィブロイン多孔質体、及び有機溶媒を使用しないシルクフィブロイン多孔質体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、フィブロイン水溶液にアミノ酸を添加した溶液を凍結させ、次いで融解することによって多孔質体が得られることを見出した。
すなわち、本発明は、シルクフィブロイン及びアミノ酸を必須成分として含有するシルクフィブロイン多孔質体及びフィブロイン水溶液にアミノ酸を添加したフィブロイン溶液を凍結させ、次いで融解することにより、シルクフィブロイン多孔質体を得ることを特徴とするシルクフィブロイン多孔質体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安全性の高いシルクフィブロイン多孔質体を簡便に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1で作製したシルクフィブロイン多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図2】実施例2で作製したシルクフィブロイン多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図3】実施例3で作製したシルクフィブロイン多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図4】実施例5で作製したシルクフィブロイン多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図5】実施例9で作製したシルクフィブロイン多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図6】実施例12で作製したシルクフィブロイン多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図7】実施例13で作製したシルクフィブロイン多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図8】実施例14で作製したシルクフィブロイン多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図9】実施例15で作製したシルクフィブロイン多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図10】実施例16で作製したシルクフィブロイン多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図11】実施例17で作製したシルクフィブロイン多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図12】実施例18で作製したシルクフィブロイン多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図13】実施例19で作製したシルクフィブロイン多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図14】実施例20で作製したシルクフィブロイン多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図15】実施例21で作製したシルクフィブロイン多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図16】実施例22で作製したシルクフィブロイン多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図17】実施例23で作製したシルクフィブロイン多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図18】実施例24で作製したシルクフィブロイン多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図19】実施例25で作製したシルクフィブロイン多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図20】実施例26で作製したシルクフィブロイン多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のシルクフィブロイン多孔質体の製造方法は、フィブロイン水溶液にアミノ酸を添加したフィブロイン溶液を凍結させ、次いで融解することにより多孔質体を得ることを特徴とする。
また、本発明のシルクフィブロイン多孔質体の製造方法においては、融解後に得られた多孔質体を純水中に浸漬して洗浄することでアミノ酸濃度を調整することができる。ここで、得られたシルクフィブロイン多孔質体に残留しているアミノ酸の濃度は、多孔質体を作製する際に加えたアミノ酸濃度が最大値であり、多孔質体を洗浄する回数や時間などで、0.01質量%から加えたアミノ酸濃度まで制御可能である。また、この洗浄工程を省略して積極的にアミノ酸を含有させた多孔質体を得ることもできる。
【0012】
本発明において用いられるフィブロインは、家蚕、野蚕、天蚕等の天然蚕やトランスジェニック蚕から産生されるシルク由来であることが好ましく、その製造方法は問わない。本発明では、フィブロイン水溶液として用いるが、フィブロインは水に対する溶解性が悪く、直接水に溶解することが困難である。フィブロイン水溶液を得る方法としては、公知のいかなる手法を用いてもよいが、高濃度の臭化リチウム水溶液にフィブロインを溶解後、透析による脱塩、風乾による濃縮を経る手法が簡便であり、好ましい。
本発明のシルクフィブロイン多孔質体の製造方法において、フィブロインの濃度は、後述するアミノ酸を添加したフィブロイン溶液中で0.1〜50質量%であることが好ましく、0.5〜20質量%であることがより好ましく、1〜12質量%であることがさらに好ましい。この範囲内に設定することで、十分な強度を持った多孔質体を効率的に製造することができる。また、シルクフィブロインの配合量を調節することで、必要に応じた強度のシルクフィブロイン多孔質体を得ることができる。例えば、より高い強度のシルクフィブロイン多孔質体を得るには、シルクフィブロインの配合量を50質量%までの範囲内で高くすることで得ることが可能であるが、30〜50質量%とすることが好ましく、40〜50質量%とすることがより好ましい。
【0013】
次に、本発明において、フィブロイン水溶液に添加するアミノ酸としては、有害なものを除き特に制限はないが、水溶性のもの(水溶性アミノ酸)が好ましく、水への溶解度が高いものがより好ましい。
本発明において用いられるアミノ酸としては、例えばバリン,ロイシン,イソロイシン,グリシン,アラニン,セリン,トレオニン,メチオニン等のモノアミノモノカルボン酸、アスパラギン酸,グルタミン酸等のモノアミノジカルボン酸(酸性アミノ酸)、グルタミン等のジアミノカルボン酸などの脂肪族アミノ酸;フェニルアラニン、チロシン等の芳香族アミノ酸;プロリン,ヒドロキシプロリン、トリプトファン等の複素環を有するアミノ酸などが挙げられ、中でも、形態や物性の調整が容易との観点から酸性アミノ酸や、ヒドロキシプロリン、セリン、トレオニン等のオキシアミノ酸が好ましい。
同様の観点で、酸性アミノ酸の中でもモノアミノジカルボン酸がより好ましく、アスパラギン酸及びグルタミン酸が特に好ましく、オキシアミノ酸の中でもヒドロキシプロリンがより好ましい。これらのアミノ酸は、いずれか1種を単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0014】
本発明の製造方法において、アミノ酸の配合量は、アミノ酸を配合したフィブロイン水溶液中で0.01〜18質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましく、0.5〜2質量%であることがさらに好ましい。
【0015】
本発明において用いるアミノ酸としては、フィブロインの析出を防止する観点から、水溶液として用いることが好ましい。本発明において、水に対する溶解度が低いアミノ酸を用いる場合には、加熱した水にアミノ酸を溶解させ、その後30℃以下(例えば、室温)に冷却したアミノ酸水溶液を用いることが好ましい。この冷却の過程でアミノ酸が析出した場合には、ろ過などの方法で除去することが好ましい。
【0016】
なお、アミノ酸には、L型とD型の光学異性体があるが、本発明においては、L型とD型を用いた場合に、得られる多孔質体に違いが見られないため、どちらのアミノ酸を用いても良い。
【0017】
本発明の製造方法において、特に酸性アミノ酸を使用した場合は、シルクフィブロイン水溶液に酸性アミノ酸を添加したシルクフィブロイン水溶液を、凍結前に該溶液が凝固しない温度で静置することで、より高い強度のシルクフィブロイン多孔質体を得ることができる。この、酸性アミノ酸を添加したシルクフィブロイン水溶液の静置は、該水溶液を型あるいは容器に流し込んで、所定の温度条件下で行えばよい。
【0018】
静置する際の温度は、凝固しない温度であれば特に制限はないが、凝固のしにくさ、溶液のゲル化のしにくさ、あるいはフィブロイン分子の分解の起こりにくさを考慮すると、−5〜50℃であることが好ましく、−3〜20℃がより好ましく、3〜10℃がさらに好ましい。静置する温度は、シルクフィブロイン水溶液を恒温槽中に入れるなどして調節できる。シルクフィブロイン水溶液を静置する温度を調節することで、得られるシルクフィブロイン多孔質体の細孔直径や強度を調整することができ、温度を3〜10℃とすることで、細孔直径が小さく、高い強度の多孔質体が得られる。
【0019】
シルクフィブロイン水溶液を静置する時間に特に制限はないが、静置する時間を調節することで、必要に応じた強度のシルクフィブロイン多孔質体を得ることができる。例えば、より高い強度の多孔質体が必要であれば静置する時間を10時間以上とすることが好ましく、40時間〜300時間とすることがより好ましく、50時間〜300時間とすることがさらに好ましい。
【0020】
本発明のシルクフィブロイン多孔質体の製造方法では、フィブロイン水溶液にアミノ酸を添加したフィブロイン溶液を、型あるいは容器などに流し込み、低温恒温槽などの中に入れて凍結させ、次いで融解することによって、シルクフィブロイン多孔質体を製造する。
凍結の方法としては、アミノ酸を添加したフィブロイン水溶液を一気に凍結温度まで下げて凍結してもよいが、凍結の前にアミノ酸を添加したフィブロイン水溶液を一旦、4〜−9℃程度、好ましくは0〜−5℃程度で30分以上保持して反応容器内を均一にしてから、凍結温度まで下げて凍結した方が均一な構造のシルクフィブロイン多孔質体を得る上で好ましい。さらに、この保持する温度を−1〜−9℃程度、好ましくは−1℃〜−5℃程度にした場合には、フィブロイン水溶液が、凍結の前に過冷却状態となる温度(過冷却温度)になり、より均一な構造のシルクフィブロイン多孔質体を得ることができる。また、この過冷却温度に保持する時間を調整すること、過冷却温度から凍結温度に下げるまでの温度勾配を調整すること等により、さらに均一な構造のシルクフィブロイン多孔質体をえることができるほか、多孔質体の構造や強度をある程度制御することが可能である。
【0021】
次に、凍結したフィブロイン溶液を、融解することによって多孔質体を得る。融解の方法としては、特に制限はなく、自然融解や恒温槽での保管等が挙げられるが、自然融解が簡便な方法である。
【0022】
なお、本発明の製造方法により得られるシルクフィブロイン多孔質体は、多孔質体作製時の型あるいは容器を適宜選択することにより、フィルム状、ブロック状、管状等、目的に応じた形状とすることができる。また、原料として用いるシルクフィブロインやアミノ酸の配合量の調整や、アミノ酸の種類の選択により、シルクフィブロイン多孔質体の内部構造と固さを調整することができ、種々の固さを有するゲル状やシート状・ブロック状のシルクフィブロイン多孔質体を得ることができる。
【0023】
得られた多孔質体にはアミノ酸が含まれるが、用途に応じて、アミノ酸を除去する必要がある場合には、純水中に静置、超音波洗浄などの方法で多孔質体からアミノ酸を除去して用いることができる。たとえば、多孔質体を、純水中に浸漬して、アミノ酸を除去することが最も簡便な方法として挙げられる。
また、シルクフィブロイン多孔質体製造後に、水分濃度を調整する方法としては、例えば、シルクフィブロイン多孔質体を乾燥して水分を蒸発させる方法が挙げられる。乾燥の方法としては、自然乾燥、凍結乾燥、加熱乾燥などが挙げられるが、乾燥時の収縮が抑えられるという観点からは、凍結乾燥が好ましい。
【0024】
本発明の製造方法により得られるシルクフィブロイン多孔質体は、スポンジ状の多孔質構造を有しており、通常この多孔質体には水が含まれ、含水状態である。多孔質に含まれる水分は、自然乾燥、凍結乾燥、加熱乾燥などで制御できるが、乾燥時の収縮が抑えられる観点からは、凍結乾燥が好ましい。
【0025】
本発明の製造方法により得られる多孔質体中の細孔の大きさ(細孔直径)は1〜300μm程度であり、フィブロインとアミノ酸の混合比や、上記のように凍結する際の冷却プロセスの条件を調整することである程度制御でき、用途に応じて決定される。特に、静置を行うことにより、細孔直径を好ましくは1〜50μmという極めて小さいものとすることができる。
【0026】
本発明におけるシルクフィブロイン多孔質体の引張弾性率は、適宜調整可能であるが、通常0.04〜16(MPa)程度であり、用途に応じて適切な硬さのものを選択することができる。例えば、強度の高い多孔質体が好ましい用途においてはシルクフィブロイン多孔質体作製時にシルクフィブロイン水溶液の濃度を20%以上とすることが好ましく、そうすることで非常に高い強度を有する多孔質体が得られる。ここで、シルクフィブロイン水溶液に酸性アミノ酸を添加した後、溶液を静置することでさらに強度を高めることもできる。柔らかな多孔質体が好ましい用途ではシルクフィブロイン多孔質体作製時にシルクフィブロイン水溶液の濃度を1〜5%とすることが好ましく、そうすることで柔らかな多孔質体が得られる。また、ここで引張弾性率は、本発明のシルクフィブロイン多孔質体から40mm×4mm×4mmの試験片を切り出し、この試験片を2mm/minの条件で引っ張ったときの強度とひずみをグラフ化し、傾きから求めたものである。
【0027】
また、本発明におけるシルクフィブロイン多孔質体の空孔率は、シルクフィブロイン多孔質体作製に使用するシルクフィブロイン水溶液の濃度を調整することで用途に応じて適宜調整可能である。例えば、高い空孔率が求められる用途においては、フィブロイン水溶液の濃度を10質量%以下とすることが好ましく、それにより空孔率90%以上の多孔質体を得ることができる。ここで、空孔率は、以下のようにして得られる値である。まず、得られた多孔質体を純水中に1日静置し完全に吸水させ、秤量した後(湿重量)、凍結乾燥して多孔質体中の水分を完全に除去し、再度秤量する(乾燥重量)。次いで、水の密度を1g/cm、フィブロインの密度を1.2g/cm、含水状態のシルクフィブロイン多孔質体の密度を1g/cmと仮定し、次式に従って得られる値をシルクフィブロイン多孔質体の空孔率とした。
空孔率=(湿重量−乾燥重量/1.2)/湿重量×100
このように、本発明の製造方法で得られたシルクフィブロイン多孔質体は極めて大きい空孔率を有するものであり、様々な用途において、優れた性能を示すものである。
【0028】
本発明のシルクフィブロイン多孔質体は、溶媒を含まないため安全性が高い。したがって、医療分野や、人体に適用する分野への応用が可能である。特に、吸水性が高く、肌触りがよく、かつ安全性にも問題がないことから、保湿等を目的とした化粧品・エステ分野等に広く適用することができる。具体的には、ピーリングパックや化粧用パフとして好適に使用することができる。しかも、アミノ酸を多孔質体中に含んでいるため、角質の保湿効果が期待でき、スキンケア用途等において特に有用である。具体的には、ピーリングパックや化粧用パフとして好適に使用することができる。また、凍結に用いる容器の形状を変えることで、所望の形状のものを容易に得ることができることから、例えば、顔の形状に合わせたフェイスマスクとして好適に使用することができる。
また、本発明のシルクフィブロイン多孔質体は、吸水量を変えることでその重さを制御することができ、かつ安全性にも問題がないことから、例えば、内視鏡観察下で切除された生体組織を牽引するための重りとして、好適に使用し得る。
その他、本発明のシルクフィブロイン多孔質体は、強度・吸水性が高く、かつ安全性にも問題がないことから、創傷被覆材や薬剤徐放担体、止血スポンジ等の医療分野、紙おむつや生理用品等の生活日用品分野、組織工学や再生医工学における細胞培養支持体や組織再生支持体、浄水用途・環境分野における微生物や細菌等の住処になる支持体などに好適に使用することができる。
また、本発明のシルクフィブロイン多孔質体の内、特にゲル状のものは創傷被覆材や、保湿、肌荒れ改善、美白などを目的とした香粧品として好適使用することができる。
【0029】
アミノ酸には様々な生理作用が報告されているため、本発明のアミノ酸を含有するシルクフィブロイン多孔質体にもアミノ酸に起因する様々な効果が期待される。期待される具体的な効果を下記に示す。
L−アルギニン、L−セリン、L−プロリン、L−ヒドロキシプロリンなどのアミノ酸は塗布することによる創傷治癒促進効果が報告されいるため、本発明のシルクフィブロイン多孔質体を用いた創傷被覆材及びゲル状外用剤には創傷治癒促進効果が、フェイスマスクなどのスキンケア部材には肌荒れ改善、予防効果などが期待できる。
L−グルタミン酸、L−アスパラギン酸、グリシン、L−セリン、L−リジン、L−プロリン、L−ヒドロキシプロリンなど多くのアミノ酸は塗布することで肌に対する保湿効果が報告されているため、本発明のシルクフィブロイン多孔質体を用いたフェイスマスクなどのスキンケア部材には肌に対する保湿効果が期待できる。
L−オルニチンやその塩など一部のアミノ酸は肌に塗布することによる美白効果が報告されているため、本発明のシルクフィブロイン多孔質体を用いたフェイスマスクなどのスキンケア部材には美白効果が期待できる。
L−チロシン、L−トリプトファン、L−フェニルアラニンなどの芳香族アミノ酸には紫外線吸収効果が報告されているため、本発明のシルクフィブロイン多孔質体を用いたフェイスマスクなどのスキンケア部材には、日焼け防止効果、美白効果などが期待できる。
【0030】
上述の本発明の製造方法により製造されたシルクフィブロイン多孔質体は、製造工程に由来するアミノ酸を含有する。従って、本発明はまた、シルクフィブロイン及びアミノ酸を必須成分として含有するシルクフィブロイン多孔質体をも提供する。
得られたシルクフィブロイン多孔質体中に含有されるアミノ酸がどの程度残留しているかの定量分析に関しては、バンストライク法、ニンヒドリン法、蛍光ラベル分析、キャピラリ電気泳動分析などで可能である。アミノ酸は、カルボキシル基とアミノ基からなる有機物であるが、主にアミノ基を検出する手法が良く知られている。その中でも、自動アミノ酸分析計(例えば、日立L−8500)を使用すると、簡便にアミノ酸の定性・定量分析が可能である。自動アミノ酸分析計は、イオン交換樹脂でアミノ酸を分離したのちに、ニンヒドリン発色を行って検出する。得られたシルクフィブロイン多孔質体に残留しているアミノ酸の濃度は、多孔質体を作製する際に加えたアミノ酸濃度が最大値であり、多孔質体を作製後に洗浄する回数や時間などで、多孔質体中のアミノ酸濃度は、0.01質量%から加えたアミノ酸濃度まで制御可能である。ただし、使用したフィブロインが全て多孔質体成分とならないで一部残留している可能性があるため、測定前にフィルターなどを利用して試験液からフィブロインを除去する必要がある。
【実施例】
【0031】
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0032】
実施例1
(フィブロイン水溶液の調製)
フィブロイン粉末(KBセーレン社製、商品名:「SilkpowderIM」)20gを9M臭化リチウム水溶液400mLに添加し、室温で4時間撹拌して溶解した。遠心分離(12,000rpm、5分間)後、デカンテーションで沈殿した不溶物を除去したのち、透析チューブ(Spectrum Laboratories, Inc製、Spectra/Por(R)1 Dialysis Membrane、MWCO6,000〜8,000)に注入し、純水製造装置(Millipore製、DirectQ-UV)から採水した超純水5Lに対して12時間の透析を5回繰り返し、次いで、透析チューブ中で体積が1/8程度になるまで風乾し濃縮して、シルクフィブロイン水溶液を得た。
得られたシルクフィブロイン水溶液2mLをポリスチレン製容器に分取し、秤量した後、庫内温度をあらかじめ−20℃程度に調整しておいたノンフロン冷蔵冷凍庫(日立製作所製「R−Y370」)の冷凍室で12時間かけて凍結し、凍結乾燥機(EYELA社製、「FDU−1200」)中で7時間凍結乾燥した。得られた乾燥物を凍結乾燥機から取り出して30秒以内に秤量し、重量減少からシルクフィブロイン水溶液中のシルクフィブロイン濃度(質量%)を定量した。
(アミノ酸水溶液の調製)
L−アスパラギン酸(アミノ酸)を上記で調製したシルクフィブロイン水溶液と混合した際の最終濃度が1質量%となる量をはかりとり、80℃に加熱した純水に加えた後、80℃を維持するように加熱しながら10分間撹拌して溶解後、静置して室温まで冷却し、L−アスパラギン酸水溶液(アミノ酸水溶液)を得た。
(シルクフィブロイン多孔質体の製造)
上記シルクフィブロイン水溶液にL−アスパラギン酸水溶液を添加し、最終的にシルクフィブロイン濃度が5質量%、L−アスパラギン酸濃度が1質量%であるシルクフィブロイン溶液を調製した。
このシルクフィブロイン溶液をアルミ板で作製した型(内側サイズ;80mm×40mm×4mm)に流し込み、低温恒温槽(EYELA社製NCB−3300)に入れて凍結保存した。
凍結は、予め低温恒温槽を−5℃に冷却しておいて低温恒温槽中にシルクフィブロイン溶液を入れた型を投入して2時間保持し、その後、冷却速度3℃/hで、槽内が−20℃になるまで5時間かけて冷却した後、−20℃で5時間保持した。凍結した試料を自然解凍で室温に戻してから、型から取り出すことによってシルクフィブロイン多孔質体を得た。該シルクフィブロイン多孔質体は、型として用いた容器の形状を保持した硬い多孔質体となった。
本発明の製造方法によって得られるシルクフィブロイン多孔質体は、使用する目的によっては、得られたシルクフィブロイン多孔質体をそのまま使用できるが、多孔質体中の水分中に残留するL−アスパラギンを取り除くこともできる。本実施例では、得られた多孔質体を超純水に浸漬し、超純水を1日2回、3日間交換することによって、使用したL−アスパラギン酸を除去した。
【0033】
(走査型電子顕微鏡による観察)
得られたシルクフィブロイン多孔質体の構造を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。走査型電子顕微鏡は、Philips社製XL30−FEGを使用して、低真空無蒸着モード、加速電圧10kVで測定を行った。なお、シルクフィブロイン多孔質体の構造は、多孔質体の表面ではなく、多孔質体を切断して露出させた内部を観察した。得られたシルクフィブロイン多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真を図1に示す。なお、使用したアミノ酸を除去する工程がある場合でも、無い場合でも、得られる多孔質体の内部構造は基本的に同じである。該多孔質体には、細孔が観察され、その細孔の大きさ(細孔直径)は、10〜300μm程度であった。
【0034】
(引張弾性率)
シルクフィブロイン多孔質体の力学的特性を、INSTRON社マイクロテスター5548型を用いて評価した。作成したシルクフィブロイン多孔質体から40mm×4mm×4mmの試験片を切り出し、この試験片を2mm/minの条件で引っ張ったときの強度とひずみをグラフ化し、傾きから引張弾性率を求めた。その結果を表2に示す。なお、引張弾性率は、作製した多孔質体から5点の試験片を作製し、さらに異なる日に作製したシルクフィブロイン多孔質体から5点の試験片を切り出し、それら10点について測定を行った平均値を示している。
【0035】
(空孔率)
得られたシルクフィブロイン多孔質体を純水中に1日静置し完全に吸水させ、秤量した後(湿重量)、凍結乾燥してシルクフィブロイン多孔質体中の水分を完全に除去し、再度秤量した(乾燥重量)。水の密度を1g/cm、シルクフィブロインの密度を1.2g/cm、含水状態のシルクフィブロイン多孔質体の密度を1g/cmと仮定し、次式に従ってシルクフィブロイン多孔質体の空孔率の測定を行った。その結果を表2に示す。
空孔率=(湿重量−乾燥重量/1.2)/湿重量×100
【0036】
実施例2〜11
実施例1において、添加するアミノ酸、シルクフィブロイン濃度、及び静置を行う場合は静置条件を第2表に示されるようにした以外は実施例1と同様にしてシルクフィブロイン多孔質体を得た。これらの実施例で得られたシルクフィブロイン多孔質体は、実施例1と同様に、型として用いた容器の形状を保持した硬いシルクフィブロイン多孔質体であった。実施例1、2、3、5及び9で得られたシルクフィブロイン多孔質体について、実施例1と同様にして観察したシルクフィブロイン多孔質体の内部断面の走査型電子顕微鏡写真を各々図2、3、4及び5に示す。また、実施例1と同様にして、各種物性の測定を行った。得られた結果を第2表に示す。
【0037】
実施例12〜24
実施例1において、L−アスパラギン酸に代えて、第1表に示されるアミノ酸を用いたこと以外は実施例1と同様にして、シルクフィブロイン多孔質体を得た。該シルクフィブロイン多孔質体は、型として用いた容器の形状を保持したものであり、実施例12〜21で得られたシルクフィブロイン多孔質体は、柔らかい多孔質体となる場合とゲル状の多孔質体になる場合があった。
また、実施例22〜24で得られたシルクフィブロイン多孔質体は、型として用いた容器の形状を保持したゲル状の多孔質体となった。実施例12〜24で得られたシルクフィブロイン多孔質体について、実施例1と同様にして観察した多孔質体の内部断面の走査型電子顕微鏡写真を各々図6〜18に示す。該多孔質体には、細孔が観察され、その細孔の大きさ(細孔直径)は、10〜300μm程度であった。
【0038】
実施例25及び26
実施例1において、L−アスパラギン酸に代えて、第1表に示されるように、それぞれL−チロシン及びL−トリプトファンを用いたこと以外は実施例1と同様にして、シルクフィブロイン多孔質体を得た。但し、L−チロシン及びL−トリプトファンをそれぞれ純水に溶解させた後の冷却過程で、L−チロシン及びL−トリプトファンの析出が生じたので、ろ過により析出物を除去した。得られたシルクフィブロイン多孔質体は、型として用いた容器の形状を保持したゲル状の多孔質体となった。
実施例1と同様にして観察した多孔質体の内部断面の走査型電子顕微鏡写真をそれぞれ図19及び20に示す。いずれの多孔質体においても、細孔が観察され、その細孔の大きさ(細孔直径)は、10〜300μm程度であった。
【0039】
実施例27〜29
(アミノ酸含有率)
得られたシルクフィブロイン多孔質体中に含有されるアミノ酸の定性・定量分析を、自動アミノ酸分析計(日立製L−8500)を使用して行った。自動アミノ酸分析計は、イオン交換樹脂でアミノ酸を分離したのちに、ニンヒドリン発色を行って検出するために定量分析のみならず、定性分析も同時に行える。ただし、使用したシルクフィブロインが全て多孔質体成分とならないで一部水溶液中に残留している可能性があるため、測定前に試験液からシルクフィブロインを除去した。
実施例1,5,9で作製したシルクフィブロイン多孔質体を最後の超純水で洗浄する工程において、洗浄前、12時間洗浄後、24時間洗浄後、36時間洗浄後、48時間洗浄後、60時間洗浄後、72時間洗浄後に各々試料を回収し、それらのシルクフィブロイン多孔質体中に含まれる水分を回収した。次に、ミリポア社アミコンウルトラ遠心フィルターキット(分画分子量:5000及び10000)を用いて、シルクフィブロインを除去し、濾液を回収した。これら濾液を自動アミノ酸分析計で測定し、含まれるアミノ酸の定性・定量分析を行った。試料量は10マイクロリットル、イオン交換樹脂は陽イオン交換樹脂である#2622、アミノ酸分離時のカラムサイズ4.6mm×60mm、アンモニアトラップ時のカラムサイズ4.6mm×40mm、流速は0.30mL/分、検出器は570nmと440nmの可視光を使用した。得られた結果を第3表に示す。全ての実施例について、洗浄時間(回数)とともに、シルクフィブロイン多孔質体中のアミノ酸が減少していくことが分かった。したがって、得られたシルクフィブロイン多孔質体に残留しているアミノ酸の濃度は、多孔質体を作製する際に加えたアミノ酸濃度が最大値であり、多孔質体を作製後に洗浄する回数や時間などで、多孔質体中のアミノ酸濃度は、ゼロから加えたアミノ酸濃度まで制御可能である。なお、洗浄前で検出されたアミノ酸濃度がシルクフィブロイン多孔質体作製時に添加した濃度以下であることは、添加したアミノ酸の一部が多孔質体を形成しているシルクフィブロインに何らかの形(例えば、吸着など)で取り込まれているからであると思われる。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のシルクフィブロイン多孔質体および本発明の製造方法により得られるシルクフィブロイン多孔質体は、安全性に優れるため、医療分野や、人体に適用する分野への応用が可能である。具体的には、化粧品・エステ分野等に広く適用することができ、顔の形状に合わせたフェイスマスクとして極めて有用である。
また、創傷被覆材や薬剤徐放担体、止血スポンジ等の医療分野、紙おむつや生理用品等の生活日用品分野、組織工学や再生医工学における細胞培養支持体や組織再生支持体、浄水用途・環境分野における微生物や細菌等の住処になる支持体など種々の産業に適用が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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図20