(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法として、硫酸を用いた高圧加圧酸浸出法(High Pressure Acid Leach)が注目されている。この方法は、従来の一般的なニッケル酸化鉱石の製錬方法である乾式製錬方法とは異なり、還元及び乾燥工程等の乾式工程を含まず、一貫した湿式工程からなるため、エネルギー的及びコスト的に有利となる。また、ニッケル品位を50質量%(以下、「質量%」を単に「%」という)程度まで向上させたニッケルを含む硫化物(以下、「ニッケル硫化物」ともいう)を得ることができるという利点も有している。ニッケル硫化物は、ニッケル酸化鉱石を浸出して得られた浸出液を浄液した後に、硫化水素ガスを吹き込んで硫化反応を生じさせることにより沈殿生成される(硫化工程)。
【0003】
このような高温加圧酸浸出法によりニッケル酸化鉱石から金属を浸出させる工程(以下、単に「浸出工程」ともいう)では、回収対象であるニッケルやコバルト以外にも、鉄、マグネシウム、マンガン、アルミニウム等の不純物元素も硫酸によって浸出されるために、処理には過剰の硫酸が必要であった。
【0004】
また、ニッケルやコバルトを回収する硫化工程では、ニッケルとコバルトが選択的に硫化物として回収されるが、浸出工程における浸出処理で浸出された鉄、マグネシウム、マンガン、アルミニウム等の不純物元素の大部分は硫化物を形成せず、硫化物を分離した後の貧液中に残留することとなる。この貧液を排出するためには、最終中和工程において、貧液中に残留した金属イオンを中和処理により沈殿除去する必要がある。
【0005】
ここで、最終中和工程において、硫化工程を経て得られた貧液に石灰石スラリーを添加することによってその貧液のpHを5程度まで上昇させて、鉄、アルミニウムを除去した後、消石灰スラリーを添加してpHを9程度まで上昇させて、マグネシウム、マンガンを除去する方法が一般的に行われる。したがって、消石灰スラリーの必要量(添加量)は、貧液中に残留するマグネシウムイオン及びマンガンイオンの量によって決まるため、ニッケル酸化鉱石においてマグネシウムの含有量やマンガンの含有量が多い場合には、大量の消石灰スラリーが必要となっていた。
【0006】
特許文献1には、ニッケル酸化鉱石からニッケルを回収する高温加圧浸出に基づく湿式製錬方法において、浸出工程と固液分離工程の簡素化、中和工程での中和剤消費量及び澱物量の削減、さらに効率的な水の繰り返し使用法等によって、プロセス全体として簡素でかつ高効率な製錬方法を提供する技術について開示されている。しかしながら、特許文献1には、浸出工程における浸出処理に用いる硫酸の使用量の低減、あるいは、上述した最終中和工程における消石灰の使用量の低減についての技術的思想は開示されていない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0019】
≪1.鉱石スラリーの前処理方法≫
本実施の形態に係る鉱石スラリーの前処理方法は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、例えば高温高圧酸浸出による浸出処理に供するニッケル酸化鉱石のスラリーの前処理方法である。具体的には、ニッケル酸化鉱石の鉱石スラリーを、45μm未満の粒径を有する粒子が固形分中の30質量%以下である粗粒部と、細粒部とに分離して、その細粒部を浸出処理に供給する分離工程と、分離した粗粒部を振動篩によって篩上と篩下とに分離し、その篩下の鉱石スラリーを浸出処理に供給する振動篩工程とを有する。
【0020】
ここで、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、浸出工程の浸出処理にて使用する硫酸量や、最終中和工程の中和処理にて使用する消石灰等の中和剤量は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれるニッケルやコバルト以外の金属成分である鉄、マグネシウム、マンガン、アルミニウム等の元素の存在により増加することが知られている。このような金属元素は、主に脈石成分として、浸出処理に供するニッケル酸化鉱石のスラリー(鉱石スラリー)に混入している。本発明者は、その脈石成分は、鉱石スラリー中における粗粒の粒子、例えば粒径45μm以上の粗粒の粒子として存在していることを見出した。
【0021】
そこで、浸出工程における浸出処理に供する鉱石スラリー中の低ニッケル含有粒子、つまり粗粒の鉱石を分離し、さらに、振動篩によってその粗粒の鉱石を除去する前処理を施すことによって、浸出工程における硫酸使用量や最終中和工程における消石灰使用量を効果的に低減させることができる。
【0022】
<1−1.分離工程>
分離工程では、ニッケル酸化鉱石の鉱石スラリーを、45μm未満の粒径を有する粒子が固形分中の30質量%以下である「粗粒部」と、「細粒部」とに分離する。分離して得られた細粒部は、そのまま、浸出処理に供給する鉱石スラリーとなる。
【0023】
分離工程では、分級分離設備、あるいは比重分離設備を使用し、その運転条件を決定することによって、鉱石スラリー中の粒径45μm未満の粒子の割合が30質量%以下である粗粒部と、細粒部とを分離することができる。
【0024】
ここで、後述する次工程の振動篩工程に供給する粗粒部の鉱石スラリー中における粒径45μm未満の粒子の割合が30質量%を超えると、粒径45μm未満の粒子が粗粒の低ニッケル含有粒子に付着してしまい、その低ニッケル含有粒子と共に、振動篩の篩上に除去されてしまう。一方で、振動篩に供給する粗粒部の鉱石スラリー中における粒径45μm未満の粒子の割合としては0%に近いほど望ましいが、粒径45μm未満の粒子の割合を下げていくと、粗粒部と分離した細粒部に粗粒の低ニッケル含有粒子が混じってしまう。例えば、粒径45μm未満の粒子の割合が10質量%未満となると、細粒部に粗粒の低ニッケル含有粒子が混じり始めてしまう。
【0025】
分離工程における分離処理では、ハイドロサイクロン、デンシティセパレーターのいずれか1つ以上を用いて行うことが好ましい。ハイドロサイクロンやデンシティセパレーターを用いた分離処理では、その鉱石スラリーを粒度によってアンダーフローとオーバーフローとに精度良く分離することができるため好ましい。
【0026】
また、この分離工程は、鉱石スラリーをハイドロサイクロンに供給して分級分離する分級分離工程と、分級分離工程にてハイドロサイクロンにより分級されたアンダーフローをデンシティセパレーターに供給して比重分離する比重分離工程とを有するものであることがより好ましい。
【0027】
すなわち、湿式製錬方法にて処理するニッケル酸化鉱石(鉱石スラリー)は大量であり、またその鉱石スラリーの粒子は、例えばその粒子の80%〜95%が粒径45μm未満と細かい。そのため、分離工程においては、最初に、大量の鉱石スラリーの処理に適し、かつ、細粒部、すなわちオーバーフローへの分配が多い場合の処理に適するハイドロサイクロンによる分級分離処理を施すことが好ましい。
【0028】
そして続いて、処理すべき量が大きく減少した鉱石スラリーを、処理量が比較的少なく、アンダーフローとオーバーフローとへの分配の割合がほぼ同じ場合の処理に適するデンシティセパレーターによる比重分離処理を施すことが好ましい。
【0029】
このように、分離工程において、ハイドロサイクロンによる分級分離処理と、デンシティセパレーターによる比重分離処理とによる分離処理を施すことによって、鉱石スラリー中の脈石成分を含む粗粒の粒子、すなわち低ニッケル含有粒子を効率的に分離除去することができる。
【0030】
<1−2.振動篩工程>
次に、分離工程にて分離した、45μm未満の粒径を有する粒子が固形分中の30質量%以下である粗粒部の鉱石スラリーを、振動篩を用いて篩上と篩下に分別し、その篩下の鉱石スラリーを浸出工程における浸出処理に供給する。このように、振動篩による処理を施すことで、低ニッケル品位の鉱石粒を分離するとともに、鉱石粒を脱水することができるため、脱水工程等を別途設けることなく鉱石粒をそのまま堆積させることができる。
【0031】
振動篩処理に用いる振動篩の目開きとしては、特に限定されないが、300μm〜500μm程度とすることが望ましい。振動篩の目開きが300μm未満であると、篩上に残留する鉱石粒の割合が増加し、これに伴って鉱石粒に付着して篩上に残ってしまう高ニッケル含有率の微細粒が増加してしまう可能性がある。一方で、振動篩の目開きが500μmを超えると、篩下に低ニッケル品位の鉱石粒が混入してしまうことがある。
【0032】
このように、本実施の形態に係る鉱石スラリーの前処理方法は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の浸出処理に供給する鉱石スラリーに対して、45μm未満の粒径を有する粒子が固形分中の30質量%以下である粗粒部と細粒部とに分離する分離工程と、分離した粗粒物を振動篩により篩分け処理を施す振動篩工程とを有する。これにより、振動篩工程を経て得られた振動篩の篩上において、鉄、マグネシウム、マンガン、アルミニウム等の脈石成分を効率的に分離することができる。そして、その他の分離成分、すなわち、分離工程にて分離された細粒部と、振動篩の篩下の成分とを、鉱石スラリーとして浸出処理に供給するようにすることで、湿式製錬方法における浸出工程での硫酸使用量や、最終中和工程における消石灰等の中和剤使用量を効果的に低減させることができる。
【0033】
以下では、鉱石スラリーの前処理方法を適用した、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法(プロセス)について具体的に説明する。
【0034】
≪2.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスについて≫
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスは、例えば高圧酸浸出法(HPAL法)を用いて、ニッケル酸化鉱石からニッケルを浸出させて回収する製錬プロセスである。
【0035】
図1は、ニッケル酸化鉱石の高圧酸浸出法による湿式製錬プロセスの流れの一例を示す工程図である。
図1の工程図に示すように、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスは、ニッケル酸化鉱石をスラリー化する鉱石スラリー化工程S1と、鉱石スラリーに含まれる水分を除去して鉱石成分を濃縮する鉱石スラリー濃縮工程S3と、製造された鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施す浸出工程S4と、得られた浸出スラリーを多段洗浄しながら残渣を分離してニッケルと共に不純物元素を含む浸出液を得る固液分離工程S5と、浸出液のpHを調整して不純物元素を含む中和澱物を分離しニッケルを含む中和終液を得る中和工程S6と、中和終液に硫化剤を添加することでニッケルを含む硫化物(ニッケル硫化物)を生成させる硫化工程S7とを有する。さらに、この湿式製錬方法は、固液分離工程S5にて分離された浸出残渣や、硫化工程S7にて排出された貧液を回収して無害化する最終中和工程S8を有する。
【0036】
そして、本実施の形態においては、鉱石スラリーに対する硫酸による浸出処理を施すに先立ち、スラリー化した鉱石に対して前処理を施す前処理工程S2を有することを特徴としている。
【0037】
(1)鉱石スラリー化工程
鉱石スラリー化工程S1では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に対して、所定の分級点で分級してオーバーサイズの鉱石粒子を除去した後に、アンダーサイズの鉱石粒子に水を添加して粗鉱石スラリーとする。
【0038】
ここで、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石は、ニッケルやコバルトを含有する鉱石であり、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が用いられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、一般的には0.8重量%〜2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、鉄の含有量は、10重量%〜50重量%であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。また、このようなラテライト鉱の他に、ニッケル、コバルト、マンガン、銅等の有価金属を含有する酸化鉱石、例えば深海底に賦存するマンガン瘤等が用いられる。
【0039】
ニッケル酸化鉱石の分級方法については、所望とする粒径に基づいて鉱石を分級できるものであれば特に限定されず、例えば、一般的なグリズリーや振動篩等を用いた篩分けによって行うことができる。さらに、その分級点についても、特に限定されず、所望とする粒径値以下の鉱石粒子からなる鉱石スラリーを得るための分級点を適宜設定することができる。
【0040】
(2)前処理工程
本実施の形態においては、鉱石スラリーに対して浸出処理を施すに先立ち、鉱石スラリー化工程を経て得られた鉱石スラリーに前処理を施す前処理工程S2を有する。
【0041】
前処理工程S2は、鉱石スラリー化工程S1を経て得られた鉱石スラリーを、45μm未満の粒径を有する粒子が固形分中の30質量%以下である粗粒部と細粒部とに分離して、その細粒部を後述する浸出工程S4における浸出処理に供給する分離工程S21と、分離した粗粒部を振動篩によって篩上と篩下とに分離し、その篩下の鉱石スラリーを浸出工程S4における浸出処理に供給する振動篩工程S22とを有する。
【0042】
前処理工程S2における前処理の詳細な説明は、上述したものと同様であるためここでは省略するが、このように鉱石スラリーに対して前処理を施すことによって、鉱石スラリーから、鉄、マグネシウム、マンガン、アルミニウム等の脈石成分を分離することができ、ニッケル実収率を低下させることなく、浸出工程における硫酸使用量や最終中和工程における消石灰等の中和剤使用量を効果的に低減させることができる。
【0043】
前処理工程S2における分離工程S21にて分離した細粒部を含む鉱石スラリーや、振動篩工程S22にて篩下に分けられた鉱石スラリーは、後述する鉱石スラリー濃縮工程S3を経て浸出工程S4における浸出処理に供給される。
【0044】
(3)鉱石スラリー濃縮工程
鉱石スラリー濃縮工程S3では、上述した前処理工程S2における分離工程S21にて分離した細粒部を含む鉱石スラリーと、振動篩工程S22にて分離した篩下の鉱石粒子を含む鉱石スラリーとを固液分離装置に装入し、その粗鉱石スラリー中に含まれる水分を分離除去して鉱石成分を濃縮し、鉱石スラリーを得る。
【0045】
具体的に、鉱石スラリー濃縮工程S3では、例えばシックナー等の固液分離装置にそれぞれの鉱石スラリーを装入し、固形成分を沈降させて装置の下部から取り出し、一方で上澄みとなった水分を装置の上部からオーバーフローさせる固液分離を行う。この固液分離処理により、鉱石スラリー中の水分を低減させ、スラリー中の鉱石成分を濃縮させることによって、例えば固形分濃度として40重量%程度の鉱石スラリーを得る。
【0046】
なお、以上のように、鉱石スラリー化工程S1と、分離工程S21と振動篩工程S22とを含む前処理工程S2と、鉱石スラリー濃縮工程S3とを経ることによって、後述する浸出工程S4における浸出処理に供する鉱石スラリーを製造することができ、これらの工程を含む方法を鉱石スラリーの製造方法として定義することができる。
【0047】
(4)浸出工程
浸出工程S4では、製造した鉱石スラリーに対して、例えば高圧酸浸出法を用いた浸出処理を施す。具体的には、原料となるニッケル酸化鉱石を含有する鉱石スラリーに硫酸を添加し、220℃〜280℃の高い温度条件下で加圧しながら鉱石スラリーを攪拌し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成させる。
【0048】
浸出工程S4における浸出処理では、下記式(i)〜(iii)で表される浸出反応と下記式(iv)及び(v)で表される高温熱加水分解反応が生じ、ニッケルやコバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。
【0049】
・浸出反応
MO+H
2SO
4⇒MSO
4+H
2O ・・・(i)
(なお、式中Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す)
2Fe(OH)
3+3H
2SO
4⇒Fe
2(SO
4)
3+6H
2O ・・・(ii)
FeO+H
2SO
4→FeSO
4+H
2O ・・・(iii)
・高温熱加水分解反応
2FeSO
4+H
2SO
4+1/2O
2⇒Fe
2(SO
4)
3+H
2O ・・・(iv)
Fe
2(SO
4)
3+3H
2O⇒Fe
2O
3+3H
2SO
4 ・・・(v)
【0050】
ここで、浸出工程S4における硫酸の添加量としては、従来一般的には、過剰量が用いられていた。ニッケル酸化鉱石には、ニッケルやコバルト以外にも、鉄、マグネシウム、マンガン、アルミニウム等の不純物も含まれ、これら不純物も硫酸により浸出されるため、ニッケルやコバルト等の回収対象の実収率を高めるために過剰量の硫酸を添加して浸出処理を行っていた。これに対して、本実施の形態においては、浸出工程S4における浸出処理に供する鉱石スラリーに対して、上述した前処理工程S2において特定の前処理を施すようにしていることにより、その鉱石スラリーに含まれる不純物濃度を低減させることができ、浸出処理に用いる硫酸添加量を効果的に低減させることができる。
【0051】
(5)固液分離工程
固液分離工程S5では、浸出工程S4を経て得られた浸出スラリーを多段で洗浄しながら、ニッケル及びコバルトのほか不純物元素を含む浸出液と、浸出残渣とを分離する。
【0052】
固液分離工程S5では、例えば、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、シックナー等の固液分離設備により固液分離処理を施す。具体的には、先ず、浸出スラリーが洗浄液により希釈され、次に、スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。これにより、浸出残渣に付着するニッケル分をその希釈の度合いに応じて減少させることができる。なお、固液分離処理においては、例えばアニオン系の凝集剤を添加して行うようにしてもよい。
【0053】
固液分離工程S5では、浸出スラリーを多段洗浄しながら固液分離をすることが好ましい。多段洗浄方法としては、例えば、浸出スラリーに対して洗浄液を向流に接触させる連続向流洗浄法を用いることができる。これにより、系内に新たに導入する洗浄液を削減できるとともに、ニッケル及びコバルトの回収率を95%以上に向上させることができる。また、洗浄液(洗浄水)としては、特に限定されないが、ニッケルを含まず、工程に影響を及ぼさないものを用いることが好ましい。例えば、洗浄液として、好ましくは、後工程の硫化工程S7で得られる貧液を繰り返して利用することができる。
【0054】
(6)中和工程
中和工程S6では、固液分離工程S5にて分離された浸出液のpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物を分離して、ニッケルやコバルトを含む中和終液を得る。
【0055】
具体的に、中和工程S6では、分離された浸出液の酸化を抑制しながら、得られる中和終液のpHが4以下、好ましくは3.0〜3.5、より好ましくは3.1〜3.2になるように、その浸出液に炭酸カルシウム等の中和剤を添加して、中和終液と不純物元素として3価の鉄やアルミニウム等を含む中和澱物スラリーとを生成させる。中和工程S6では、このようにして不純物を中和澱物として除去し、ニッケル回収用の母液となる中和終液を生成させる。
【0056】
(7)硫化工程
硫化工程S7では、ニッケル回収用の母液である中和終液に対して、硫化水素ガス等の硫化剤を吹き込んで硫化反応を生じさせ、ニッケル(及びコバルト)を含む硫化物(以下、単に「ニッケル硫化物」ともいう)と貧液とを生成させる。
【0057】
ニッケル回収用の母液である中和終液は、浸出液から中和工程S6を経て不純物成分が低減された硫酸溶液である。なお、このニッケル回収用母液には、不純物成分として鉄、マグネシウム、マンガン等が数g/L程度含まれている可能性があるが、これら不純物成分は、硫化物としての安定性が低く(回収するニッケル及びコバルトに対して)、生成するニッケル硫化物に含有されることはない。
【0058】
硫化工程S7における硫化処理は、ニッケル回収設備にて実行される。ニッケル回収設備は、例えば、母液である中和終液に対して硫化水素ガス等を吹き込んで硫化反応を行う硫化反応槽と、硫化反応後液からニッケル硫化物を分離回収する固液分離槽とを備える。固液分離槽は、例えばシックナー等によって構成され、ニッケル硫化物を含んだ硫化反応後のスラリーに対して沈降分離処理を施すことで、沈殿物であるニッケル硫化物をシックナーの底部より分離回収する。一方で、水溶液成分はオーバーフローさせて貧液として回収する。なお、回収した貧液は、ニッケル等の有価金属濃度の極めて低い溶液であり、硫化されずに残留した鉄、マグネシウム、マンガン等の不純物元素を含む。この貧液は、後述する最終中和工程S8に移送されて無害化処理される。
【0059】
(8)最終中和工程
最終中和工程S8では、上述した硫化工程S7にて排出された鉄、マグネシウム、マンガン等の不純物元素を含む貧液に対して、排出基準を満たす所定のpH範囲に調整する中和処理(無害化処理)を施す。この最終中和工程S8では、固液分離工程S5における固液分離処理から排出された浸出残渣も併せて処理することもできる。
【0060】
最終中和工程S8における無害化処理の方法、すなわちpHの調整方法としては、特に限定されないが、例えば炭酸カルシウム(石灰石)スラリーや水酸化カルシウム(消石灰)スラリー等の中和剤を添加することによって所定の範囲に調整することができる。
【0061】
最終中和工程S8における最終中和処理では、石灰石を中和剤として用いた第1段階の中和処理(第1の最終中和工程S81)と、消石灰を中和剤として用いた第2段階の中和処理(第2の最終中和工程S82)とからなる段階的な中和処理を行うようにすることができる。このように段階的な中和処理を行うことによって、効率的にかつ効果的な中和処理を行うことができる。
【0062】
具体的に、第1の最終中和工程S81では、硫化工程S7から排出され回収した貧液や固液分離工程S5にて分離した浸出残渣を中和処理槽に装入し、石灰石スラリーを添加して攪拌処理を施す。この第1の最終中和工程S81では、石灰石スラリーを添加することによって、貧液等の処理対象溶液のpHを4〜5に調整する。
【0063】
次に、第2の最終中和工程S82では、石灰石スラリーを添加して第1段階の中和処理を施した溶液に対して、消石灰スラリーを添加して撹拌処理を施す。この第2の最終中和工程S82では、消石灰スラリーを添加することによって、処理対象溶液のpHを8〜9に引き上げる。
【0064】
このような2段階の中和処理を施すことによって、中和処理残渣が生成され、テーリングダムに貯留される(テーリング残渣)。一方、中和処理後の溶液は、排出基準を満たすものとなり、系外に排出される。
【0065】
ここで、最終中和工程における処理では、貧液中に残留しているマグネシウムイオンやマンガンイオン等の不純物元素イオンの量に応じて、消石灰等の中和剤の量が決定される。本実施の形態においては、浸出工程S4における浸出処理に供する鉱石スラリーに対して、上述した前処理工程S2において特定の前処理を施すようにしていることにより、その鉱石スラリーに含まれるマグネシウムやマンガン等の不純物元素を低減させることができる。これにより、貧液中に含まれるこれらの元素濃度を減少させることができ、最終中和工程における中和処理に用いる中和剤使用量を効果的に低減させることができる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0067】
[実施例1]
以下に示すようにして、
図1に示す工程図からなるニッケル酸化鉱石の湿式製錬処理を行った。すなわち、先ず、鉱石スラリーの前処理工程として、下記表1に示す組成を有するニッケル酸化鉱石をスラリー化して得られた鉱石スラリーを、ハイドロサイクロン(ソルターサイクロン社製,SC1030−P型)へ供給して分級分離処理を施し、続いて、ハイドロサイクロンから排出されたアンダーフローを、デンシティセパレーター(シーエフエス社製,6×6型)へ供給して比重分離処理を施した。これらの分離処理により、デンシティセパレーターのアンダーフロー固形分中における粒径45μm未満の粒子の含有量が25質量%である鉱石スラリー(粗粒部)を得た。
【0068】
【表1】
【0069】
次に、得られた鉱石スラリーを20%の固形分濃度で、目開き300μmの篩を備える振動篩(サイズテック社製,VDS27−6型)に供給した振動篩処理を行った。この振動篩により、篩上としてニッケル品位が0.83%、マグネシウム品位が7.50%の固形分、すなわち低ニッケル含有粒子が得られた。一方で、振動篩の篩下の鉱石スラリー、及び、上述した分離工程で得られた細粒部の鉱石スラリーは、鉱石に対する浸出処理を施す浸出工程に供給した。
【0070】
このとき、振動篩の篩上へのニッケルロス率は6.7%であった。また、鉱石スラリーを供給した浸出工程における浸出処理での硫酸消費量は272kg/鉱石トンであった。さらに、浸出処理を経て得られた浸出液に対して硫化処理を施し(硫化工程)、その硫化処理により得られた貧液に対して最終中和処理(最終中和工程)を行ったところ、その中和処理で使用した消石灰の使用量は36kg/鉱石トンであった。
【0071】
[実施例2]
実施例1と同様の操作を行い、デンシティセパレーターのアンダーフロー固形分中における粒径45μm未満の粒子の含有量が30質量%である鉱石スラリー(粗粒部)を得た。そして、得られた鉱石スラリーを20%の固形分濃度で、目開き300μmの篩を備える振動篩に供給して振動篩処理を行った。この振動篩により、篩上としてニッケル品位が0.84%、マグネシウム品位が7.39%の固形分、すなわち低ニッケル含有粒子が得られた。一方で、振動篩の篩下の鉱石スラリー、及び、分離工程で得られた細粒部の鉱石スラリーは、鉱石に対する浸出処理を施す浸出工程に供給した。
【0072】
このとき、振動篩の篩上へのニッケルロス率は6.8%であった。また、鉱石スラリーを供給した浸出工程における浸出処理での硫酸消費量は272kg/鉱石トンであった。さらに、浸出処理を経て得られた浸出液に対して硫化処理を施し(硫化工程)、その硫化処理により得られた貧液に対して最終中和処理(最終中和工程)を行ったところ、その中和処理で使用した消石灰の使用量は36kg/鉱石トンであった。
【0073】
[比較例1]
実施例1と同様の操作を行い、デンシティセパレーターのアンダーフロー固形分中における粒径45μm未満の粒子の含有量が35質量%である鉱石スラリー(粗粒部)を得た。そして、得られた鉱石スラリーを20%の固形分濃度で、目開き300μmの篩を備える振動篩に供給して振動篩処理を行った。この振動篩により、篩上としてニッケル品位が0.84%、マグネシウム品位が6.95%の固形分が得られた。一方で、振動篩の篩下の鉱石スラリー、及び、分離工程で得られた細粒部の鉱石スラリーは、鉱石に対する浸出処理を施す浸出工程に供給した。
【0074】
このとき、振動篩の篩上へのニッケルロス率は7.7%であり、実施例1、2に比べて増加した。このことは、振動篩に供給した鉱石スラリー中の粒径45μm未満の粒子の含有量が多かったために、これらが低ニッケル含有粒子に同伴されて篩上に除去されてしまったためと考えられる。なお、鉱石スラリーを供給した浸出工程における浸出処理での硫酸消費量は271kg/鉱石トンであった。さらに、浸出処理を経て得られた浸出液に対して硫化処理を施し(硫化工程)、その硫化処理により得られた貧液に対して最終中和処理(最終中和工程)を行ったところ、その中和処理で使用した消石灰の使用量は35.5kg/鉱石トンであった。
【0075】
このように、比較例1では、浸出工程における硫酸使用量、及び、最終中和工程における消石灰使用量は低減できたものの、ニッケル実収率が低下した。
【0076】
[比較例2]
表1に組成を示したニッケル酸化鉱石をスラリー化し、その鉱石スラリーに対して分離処理(比重分離)を行わず、20%の固形分濃度で、目開き300μmの篩を備える振動篩に供給して振動篩処理を行った。このとき供給した固形分中の粒径45μm未満の粒子の含有量は80%であった。この振動篩により、篩上としてニッケル品位が0.88%、マグネシウム品位が3.95%の固形分が得られた。一方で、振動篩の篩下、及び、分離工程で得られた細粒部の鉱石スラリーは、鉱石に対する浸出処理を施す浸出工程に供給した。
【0077】
このとき、振動篩の篩上へのニッケルロス率は16.9%と非常に多かった。このことは、比較例2と同じく、振動篩に供給した鉱石スラリー中の粒径45μm未満の粒子の含有量が極めて多かったためであると考えられる。なお、鉱石スラリーを供給した浸出工程における浸出処理での硫酸消費量は270kg/鉱石トンであった。さらに、浸出処理を経て得られた浸出液に対して硫化処理を施し(硫化工程)、その硫化処理により得られた貧液に対して最終中和処理(最終中和工程)を行ったところ、その中和処理で使用した消石灰の使用量は35.0kg/鉱石トンであった。
【0078】
このように、比較例2では、浸出工程における硫酸使用量、及び、最終中和工程における消石灰使用量は低減できたものの、ニッケル実収率が低下した。
【0079】
[比較例3]
表1に組成を示したニッケル酸化鉱石をスラリー化し、その鉱石スラリーに対して前処理(比重分離及び振動篩処理)を行わず、浸出処理を施す浸出工程に供給した。
【0080】
鉱石スラリーを供給した浸出工程における浸出処理での硫酸消費量は287kg/鉱石トンであった。また浸出処理を経て得られた浸出液に対して硫化処理を施し(硫化工程)、その硫化処理により得られた貧液に対して最終中和処理(最終中和工程)を行ったところ、その中和処理で使用した消石灰の使用量は47.5kg/鉱石トンであった。
【0081】
このように、比較例3では、浸出工程における硫酸使用量、及び、最終中和工程における消石灰使用量が多くなり、有効に低減させることができなかった。
【0082】
下記表2に、実施例1、2及び比較例1〜3の操作における、振動篩に供給した鉱石スラリー、並びに振動篩による処理により篩上に回収された回収粒子の、ニッケル及びマグネシウムの品位と固形分中における45μm未満の粒子の含有量、及びニッケルロス率をまとめて示す。
【0083】
【表2】
【0084】
また、下記表3に、実施例1、2及び比較例1〜3の操作における、浸出工程での硫酸消費量、並びに最終中和工程での消石灰消費量をまとめて示す。
【0085】
【表3】
【課題】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法においてニッケル実収率を低下させることなく、浸出工程における硫酸の使用量や最終中和工程における消石灰等の中和剤の使用量を効果的に低減させることができる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法における浸出処理に供する鉱石スラリーの前処理方法であって、鉱石スラリーを、45μm未満の粒径を有する粒子が固形分中の30質量%以下である粗粒部と、細粒部とに分離して、その細粒部を浸出処理に供給する分離工程と、分離した粗粒部を振動篩によって篩上と篩下とに分離し、その篩下の鉱石スラリーを前記浸出処理に供給する振動篩工程とを有する。