特許第5971538号(P5971538)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DIC株式会社の特許一覧

特許5971538エポキシエステル化合物、セルロースエステル樹脂組成物、光学フィルム及び液晶表示装置
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5971538
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】エポキシエステル化合物、セルロースエステル樹脂組成物、光学フィルム及び液晶表示装置
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/76 20060101AFI20160804BHJP
   C07C 69/025 20060101ALI20160804BHJP
   C07C 69/16 20060101ALI20160804BHJP
   C07C 69/28 20060101ALI20160804BHJP
   C08L 1/10 20060101ALI20160804BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20160804BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   C07C69/76 ACSP
   C07C69/025 A
   C07C69/16
   C07C69/28
   C08L1/10
   C08K5/103
   G02B5/30
【請求項の数】13
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-501913(P2016-501913)
(86)(22)【出願日】2015年9月17日
(86)【国際出願番号】JP2015076442
【審査請求日】2016年1月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-204793(P2014-204793)
(32)【優先日】2014年10月3日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124970
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 通洋
(72)【発明者】
【氏名】吉村 洋志
(72)【発明者】
【氏名】太田 実希
(72)【発明者】
【氏名】田尻 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 治
【審査官】 中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/029436(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/019929(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/001980(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/106799(WO,A1)
【文献】 特開2011−140637(JP,A)
【文献】 特開2011−116912(JP,A)
【文献】 特開2010−077239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C08L
G02B
G02F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。Aはそれぞれ芳香族基(a1)または炭素原子数1〜4の脂肪族基(a2)を表し、芳香族基(a1)と脂肪族基(a2)の平均の存在比〔(a1)/(a2)〕が、モル比で99.9/0.1〜80/20である)
で表されることを特徴とするエポキシエステル化合物の混合物
【請求項2】
前記芳香族基(a1)が、フェニル基、パラトルイル基、メタトルイル基またはオルトトルイル基である請求項1記載のエポキシエステル化合物の混合物
【請求項3】
前記脂肪族基(a2)が、メチル基、エチル基またはプロピル基である請求項1または2記載のエポキシエステル化合物の混合物
【請求項4】
前記芳香族基(a1)と脂肪族基(a2)の平均の存在比〔(a1)/(a2)〕が、モル比で98/2〜85/15である請求項1記載のエポキシエステル化合物の混合物
【請求項5】
前記R〜Rがメチル基である請求項1〜4のいずれか1項記載のエポキシエステル化合物の混合物
【請求項6】
下記式(1)
【化2】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。Aはそれぞれ芳香族基(a1)または炭素原子数1〜4の脂肪族基(a2)を表し、芳香族基(a1)と脂肪族基(a2)の平均の存在比〔(a1)/(a2)〕が、モル比で99.9/0.1〜80/20である)
で表されるエポキシエステル化合物の混合物であることを特徴とするレターデーション上昇剤。
【請求項7】
セルロースエステル樹脂(X)と請求項1〜5のいずれか1項記載のエポキシエステル化合物の混合物(Y)とを含有することを特徴とするセルロースエステル樹脂組成物。
【請求項8】
前記セルロースエステル樹脂(X)100質量部に対してエポキシエステル化合物の混合物(Y)を0.5〜30質量部含有する請求項7記載のセルロースエステル樹脂組成物。
【請求項9】
セルロースエステル樹脂(X)と請求項6の記載のレターデーション上昇剤とを含有することを特徴とするセルロースエステル樹脂組成物。
【請求項10】
前記セルロースエステル樹脂(X)100質量部に対してレターデーション上昇剤を0.5〜30質量部含有する請求項9記載のセルロースエステル樹脂組成物。
【請求項11】
請求項7または8記載のセルロースエステル樹脂組成物を含有することを特徴とする光学フィルム。
【請求項12】
請求項9または10記載のセルロースエステル樹脂組成物を含有することを特徴とする光学フィルム。
【請求項13】
請求項11または12記載の光学フィルムを有することを特徴とする液晶表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は種々のセルロースエステル樹脂との相溶性に優れ、Rth値が高いフィルムが得られ、しかも、該フィルムからブリードしにくく、レターデーション上昇剤として好適に用いることができるエポキシエステル化合物に関する。また、該化合物を含むセルロースエステル樹脂組成物、該組成物を用いて得られる光学フィルム及び該光学フィルムを有する液晶表示装置に関する。
【0002】
セルロースエステル樹脂(CA)フィルムは透明性、光学的等方性、強靭性であり、液晶表示装置の偏光子の材料であるポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略記する。)との接着性が良好なことから、テレビ、ノートパソコン等の液晶表示装置の偏光板を構成する偏光子保護フィルムとして用いられている。
【0003】
液晶表示装置には、視野角拡大機能が要求されている。特に、VA(Vertically Aligned)方式の液晶表示装置では、斜め方向から見た場合の光漏れによるコントラスト低下を防止するために、位相差フィルムを偏光子保護フィルムに重ねることで視野角の補償を行うことが従来から図られてきた。そして、近年では、液晶表示装置を軽量・薄型化するために、偏光子保護フィルム及び位相差フィルムの2枚のフィルムの機能をフィルムの1枚に集約した位相差機能付き偏光子保護フィルムが主流となっている。
【0004】
上記の位相差機能付き偏光子保護フィルムは、光学異方性を有することで厚さ方向の位相差を発現し、液晶表示装置の視野角補償を行うものである。一般に位相差の程度は、レターデーション値によって把握することが可能である。そして、位相差の程度は、フィルムの厚さ方向のレターデーション値(以下、「Rth値」と略記する。)によって、評価することができる。
【0005】
ここで、厚さ方向のRth値とは、下記式(1)で定義される値である。
Rth値={(nx+ny)/2−nz}×d (nm) (1)
(式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率であり、nzはフィルムの厚さ方向の屈折率であり、dはフィルムの厚さ(nm)である。)
【0006】
偏光子保護フィルムに位相差機能を付与する場合、レターデーション上昇剤といわれるものを偏光子保護フィルムに添加して所望の位相差に調整する手法があり、レターデーション上昇剤の偏光子保護フィルムへの添加量に応じて、偏光子保護フィルムのRth値を調整することが可能である。したがって、同量の添加量で比較した場合、Rth値をより高くできるレターデーション上昇剤であるほど、偏光子保護フィルムのRth値を調整できる範囲が広がり、偏光子保護フィルムの薄型化にも対応できる。その為、Rth値をできるだけ高くできる材料が求められている。
【0007】
所望の位相差に調整するには、前記レターデーション上昇剤の使用に加えて、主剤となるセルロースエステル樹脂の種類を選択する方法もある。具体的には、セルロースエステル樹脂の中でも、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等の変性セルロースエステル樹脂やジアセチルセルロース等のアシル基の置換度が低いもの(以下、低酢化度CAという)を用いることにより所望の位相差に調整する方法が知られている。特に、低酢化度CAはRth発現性に優れ、かつ、CAPよりもコスト的に有利である。これらの利点により位相差機能付き偏光子保護フィルムの主剤としては低酢化度CAが使用されるようになってきている。
【0008】
しかしながら、低酢化度CAは極性が高く、その為に、前記レターデーション上昇剤が相溶しにくい問題があり、その為、使用されるレターデーション上昇剤が制限されてきた。そこで、低酢化度CAとの相溶性が良好なレターデーション上昇剤が強く求められるようになってきた。
【0009】
また、偏光子保護フィルムには、液晶表示装置のバックライトの熱や高温多湿下での液晶表示装置の使用によって、偏光子保護フィルム表面から添加剤がブリード(にじみ出し)し、曇りを生じて映像の鮮明性が低下することがない耐ブリード性を有することも必要である。
【0010】
耐ブリード性に優れ、高いRth値を付与できるレターデーション上昇剤としては、例えば、1,2−プロピレングリコールとテレフタル酸ジメチルとp−トルイル酸とをエステル化して得られる、末端がp−トルイル酸で封止されたエステル化合物が知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、特許文献1に開示されたエステル化合物を用いても、十分にRth値が高いフィルムを得ることが出来なかった。
【0011】
また、前記特許文献1と同様に耐ブリード性に優れ、高いRth値を付与できるレターデーション上昇剤として、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルとプロピレングリコールとエチレングリコールとを用いて得られるエステル化合物が知られている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、特許文献2に開示されたエステル化合物は、低酢化度CAに対する相溶性が不十分で、その結果、得られるフィルムに曇りが生じてしまう問題があった。
【0012】
そして、前記特許文献1及び2と同様に耐ブリード性に優れ、高いRth値を付与できるレターデーション上昇剤として、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂と芳香族モノカルボン酸を反応させて得られるテトラメチルビフェノール型エポキシエステル化合物が知られている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、特許文献3に開示されたエポキシエステル化合物は、特許文献2に開示されたエステル化合物と同様に低酢化度CAに対する相溶性が不十分で、その結果、得られるフィルムに曇りが生じてしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−069225号公報
【特許文献2】特開2010−138379号公報
【特許文献3】特開2011−140637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、低酢化度CAに対しても相溶性に優れ、高いRth値と耐ブリード性を有する光学フィルムが得られ、レターデーション上昇剤として好適に使用する事ができる化合物を提供することである。また、該化合物を含有するセルロースエステル樹脂組成物、該樹脂組成物からなる光学フィルム及びこの光学フィルムを用いた液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、鋭意研究した結果、特定の構造を有するエポキシエステル化合物を特定の割合で含有するエポキシエステル化合物(エポキシエステル混合物)は、低酢化度CAに対しても相溶性が十分で、その結果、透明性に優れるフィルムが得やすいこと、該エポキシエステル化合物をセルロースエステル樹脂に添加することで、高いRth値と耐ブリード性を有する光学フィルムの材料となるセルロースエステル樹脂組成物が得られること、該フィルムは光学用途に好適に用いることができること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は下記式(1)
【0017】
【化1】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。Aはそれぞれ芳香族基(a1)または炭素原子数1〜4の脂肪族基(a2)を表し、芳香族基(a1)と脂肪族基(a2)の平均の存在比〔(a1)/(a2)〕が、モル比で99.9/0.1〜80/20である)
で表されることを特徴とするエポキシエステル化合物を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、前記式(1)で表されるエポキシエステル化合物であることを特徴とするレターデーション上昇剤を提供するものである。
【0019】
また、本発明はセルロースエステル樹脂(X)と、前記エポキシエステル化合物(Y)またはレターデーション上昇剤とを含有することを特徴とするセルローズエステル樹脂組成物を提供するものである。
【0020】
更に、本発明は前記セルロースエステル樹脂組成物を含有することを特徴とする光学フィルムを提供するものである。
【0021】
更に、本発明は前記光学フィルムを有することを特徴とする液晶表示装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、低酢化度CAに対しても相溶性に優れ、高いRth値と耐ブリード性を有する光学フィルムが得られ、レターデーション上昇剤として好適に使用する事ができるエポキシエステル化合物(エポキシエステル混合物)を提供することができる。また、本発明によれば、前記エポキシエステル化合物を用いて得られる光学フィルムは、高いRth値を有するため、光学補償機能を必要とする偏光子保護フィルムに好適に用いることができる。特に、VA(Vertically Aligned)方式の液晶表示に用いられる光学補償機能を有する偏光子保護フィルムには、高いRth値が要求されるため、本発明のセルロースエステル樹脂組成物からなる光学フィルムは非常に有用である。さらに、本発明のエポキシエステル化合物は、耐ブリード性が高いことから、高温下でも揮発による製膜ラインの汚染が少ないため、メンテナンス回数を削減でき、生産効率を向上することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のエポキシエステル化合物は、下記一般式(1)
【0024】
【化2】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。Aはそれぞれ芳香族基(a1)または炭素原子数1〜4の脂肪族基(a2)を表し、芳香族基(a1)と脂肪族基(a2)の平均の存在比〔(a1)/(a2)〕が、モル比で99.9/0.1〜80/20である)
で表されることを特徴とする。
【0025】
前記芳香族基(a1)と脂肪族基(a2)の平均の存在比〔(a1)/(a2)〕が、モル比で99.9/0.1を外れ芳香族基(a1)のモル量が多くなると、脂肪族モノカルボン酸併用による低酢化度CAへの相溶化効果が薄れ、得られるフィルムに曇りが生じやすくなるため、好ましくない。また、前記芳香族基(a1)と脂肪族基(a2)の平均の存在比〔(a1)/(a2)〕が、モル比で80/20を外れ芳香族基(a1)のモル量が少なくなると、芳香環量が少なくなることでRth発現性が不足するため、好ましくない。芳香族基(a1)と脂肪族基(a2)の平均の存在比〔(a1)/(a2)〕が、モル比で99/1〜82/18が好ましく、98/2〜85/15がより好ましい。
【0026】
前記一般式(1)中のR〜Rは、それぞれ独立して炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。これらの中でも低酢化度CAに対しても相溶性が良好で、かつ、より高い厚さ方向のレターデーション値(Rth値)を発現する点、及び材料が容易に入手できる点からメチル基が好ましい。
【0027】
前記芳香族基(a1)は、置換基を有していても良い。芳香族基(a1)としては、例えば、フェニル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、テトラメチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、パラトルイル基、メタトルイル基、オルトトルイル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、プロポキシフェニル基、シアノフェニル基、フルオロフェニル基、ニトロフェニル基、フェニルフェニル基、メチルフェニルフェニル基、ジメチルフェニルフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。中でも低酢化度CAに対して相溶性が良好なエポキシエステル化合物が得られることからフェニル基、パラトルイル基、メタトルイル基又はオルトトルイル基が好ましい。
【0028】
脂肪族基(a2)としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。中でも、低酢化度CAに対して相溶性が良好なエポキシエステル化合物が得られ、製造時の過剰分の酸原料の減圧除去が容易であることから、メチル基、エチル基またはプロピル基が好ましい。
【0029】
前記一般式(1)で表されるエポキシエステル中のR〜Rは、それぞれ独立して炭素原子数1〜3のアルキル基である。これらの中でもセルロースエステル樹脂との相溶性が良好で、より高い厚さ方向のRth値を発現し、また、一般式(1)で表されるエポキシエステルを得る際の原料として容易に入手できることからメチル基が好ましい。
【0030】
本発明のエポキシエステル化合物は、前記の通り、芳香族基(a1)と炭素原子数1〜4の脂肪族基(a2)とを有し、その存在比は、モル比で99.9/0.1〜80/20である。ここで、本発明のエポキシエステル化合物は通常、一般式(1)におけるAとして種々の基を有するものの混合物である。従って、芳香族基(a1)と脂肪族基(a2)との存在比とは、個々の化合物における芳香族基(a1)と脂肪族基(a2)との存在比ではなく、本発明のエポキシエステル化合物を混合物として考え、この混合物中の存在比(平均の存在比)を言う。尚、本発明のエポキシエステル化合物は、下記に示す化合物(A1)〜(A3)の混合物等が挙げられる。
・式(1)で表され、片方の末端が芳香族基(a1)で、片方の末端が脂肪族基(a2)であるエポキシエステル化合物(A1)。
・式(1)で表され、両末端が芳香族基(a1)であるエポキシエステル化合物(A21)。
・式(1)で表され、両末端が脂肪族基(a2)であるエポキシエステル化合物(A3)。
【0031】
前記エポキシエステル化合物(A1)〜(A3)において、芳香族基(a1)や脂肪族基(a2)は同じ種類のものであっても良いし、異なる種類のものであっても良い。また、本発明のエポキシエステル化合物は、前記エポキシエステル化合物(A1)〜(A3)の全てを含有していなくても良く、例えば、エポキシ化合物(A1)とエポキシ化合物(A2)からなる混合物であっても良いし、エポキシ化合物(A1)とエポキシ化合物(A3)からなる混合物であっても良いし、エポキシ化合物(A2)とエポキシ化合物(A3)からなる混合物であっても良い。
【0032】
本発明のエポキシエステル化合物は、例えば、下記に示す方法により得ることができる。
製法1:芳香族モノカルボン酸(α1)と炭素原子数1〜4の脂肪族モノカルボン酸(α2)とを、最終的に得られるエポキシエステル化合物が有する芳香族基(a1)と脂肪像族基(a2)の平均の存在比がモル比で99.9/0.1〜80/20となるような割合で用いる。そして、芳香族モノカルボン酸(α1)と脂肪族モノカルボン酸(α2)とビフェニル骨格及び該ビフェニル骨格の4及び4´の炭素原子にグリシジルエーテル基を有する化合物(α3)とを一括で仕込み反応させる。
【0033】
製法2:芳香族モノカルボン酸(α1)と炭素原子数1〜4の脂肪族モノカルボン酸(α2)とを、最終的に得られるエポキシエステル化合物が有する芳香族基(a1)と脂肪像族基(a2)の平均の存在比がモル比で99.9/0.1〜80/20となるような割合で用いる。そして、芳香族モノカルボン酸(α1)と化合物(α3)とを、化合物(α3)が有するグリシジルエーテル基が残るような割合で反応系内にて反応させた後、この反応系に脂肪族モノカルボン酸(α2)を加え、残ったグリシジルエーテル基と脂肪族モノカルボン酸(α2)のカルボキシル基を反応させる。
【0034】
製法3:芳香族モノカルボン酸(α1)と炭素原子数1〜4の脂肪族モノカルボン酸(α2)とを、最終的に得られるエポキシエステル化合物が有する芳香族基(a1)と脂肪像族基(a2)の平均の存在比がモル比で99.9/0.1〜80/20となるような割合で用いる。そして、脂肪族モノカルボン酸(α2)と化合物(α3)とを、化合物(α3)が有するグリシジルエーテル基が残るような割合で反応系内にて反応させた後、この反応系に芳香族モノカルボン酸(α1)を加え、残ったグリシジルエーテル基と芳香族モノカルボン酸(α1)のカルボキシル基を反応させる。
【0035】
製法4:芳香族モノカルボン酸(α1)と化合物(α3)とを反応させて、式(1)で表され、両末端が芳香族基(a1)であるエポキシエステル化合物(A2)を得る。別途、炭素原子数1〜4の脂肪族モノカルボン酸(α2)と化合物(α3)とを反応させて、式(1)で表され、両末端が脂肪族基(a2)であるエポキシエステル化合物(A3)を得る。そして、エポキシエステル化合物(A2)とエポキシエステル化合物(A3)とを、芳香族基(a1)と脂肪像族基(a2)の平均の存在比がモル比で99.9/0.1〜80/20となるような割合で混合する。
【0036】
ここで、本発明において「炭素原子数」とは、カルボニル炭素を含まない炭素原子数を言う。
【0037】
本発明のエポキシエステル化合物中にグリシジルエーテル基が残存すると、変異原性が生じやすいので、エポキシ当量として、5万g/eq.以上がエポキシ化合物として変異原性が生じにくくなるため好ましく、10万g/eq.以上がより好ましい。
【0038】
本発明のエポキシエステル化合物中に、カルボン酸残基が残存すると、セルロースエステルフィルムの加水分解を促進するため好ましくない。酸価として、1.5mgKOH/g以下であれば、セルロースエステルフィルムの加水分解を促進させにくいため、好ましく、1.0mgKOH/g以下である。
【0039】
本発明のエポキシエステル化合物中のグリシジルエーテル基、カルボン酸基の双方を消失させる為に、過剰のモノカルボン酸原料でグリシジルエーテル基を消失させ、過剰のモノカルボン酸は、減圧留去する手法を用いることが好ましい。前記製法の中でも、前述の減圧留去時に容易に留去が可能となることから、炭素原子数1〜4の脂肪族モノカルボン酸(α2)を後から添加する製法2が好ましい。
【0040】
前記芳香族モノカルボン酸(α1)としては、例えば、安息香酸、ジメチル安息香酸、トリメチル安息香酸、テトラメチル安息香酸、エチル安息香酸、プロピル安息香酸、クミン酸、o−トルイル酸、m−トルイル酸、p−トルイル酸、アニス酸、エトキシ安息香酸、プロポキシ安息香酸、シアノ安息香酸、フルオロ安息香酸、ニトロ安息香酸、4−フェニル安息香酸、4−(3−メチルフェニル)安息香酸、4−(4−メチルフェニル)安息香酸、4−(3,5−ジメチルフェニル)安息香酸、2−メチル−4−フェニル安息香酸、2,6−ジメチル−4−フェニル安息香酸、2,6−ジメチル−4−(3,5−ジメチルフェニル)安息香酸、ナフトエ酸、ニコチン酸、フロ酸、1−ナフタレンカルボン酸、2−ナフタレンカルボン酸等が挙げられる。中でも、低酢化度CAに対して相溶性が良好なエポキシエステル化合物が得られることから、安息香酸、パラトルイル酸、メタトルイル酸又はオルトトルイル酸が好ましい。これらの芳香族モノカルボン酸(α1)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0041】
前記炭素原子数1〜4の脂肪族モノカルボン酸(α2)としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸等が挙げられる。中でも、低酢化度CAに対して相溶性が良好なエポキシエステル化合物が得られ、製造時の過剰分の減圧除去が容易であることから酢酸、プロピオン酸、酪酸が好ましい。これらの脂肪族モノカルボン酸(α2)は単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0042】
前記ビフェニル骨格及び該ビフェニル骨格の4及び4´の炭素原子にグリシジルエーテル基を有する化合物(α3)は、例えば、ビフェニル骨格及び該ビフェニル骨格の4及び4´の炭素原子に水酸基を有するビフェノール類とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるジグリシジルエーテル型のエポキシ化合物が挙げられる。このエポキシ化合物の具体的な例として、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジグリシジルオキシビフェニル(市販品では、三菱化学株式会社製「jER YX−4000」(エポキシ当量180〜192))等のビフェノール型エポキシ化合物を使用できる。
【0043】
前記製法1において、芳香族モノカルボン酸(α1)と脂肪族モノカルボン酸(α2)と化合物(α3)とを一括で仕込み反応させる際の反応温度は、80〜160℃が好ましく、100〜150℃がより好ましい。反応時間としては、5〜40時間の範囲が好ましい。
【0044】
前記製法2において、芳香族モノカルボン酸(α1)と化合物(α3)とを反応させる際の反応温度は、80℃〜140℃が好ましく、90〜120℃がより好ましい。反応時間としては、5〜30時間の範囲が好ましい。そして、芳香族モノカルボン酸(α1)と化合物(α3)とを反応させた後、得られる反応物と脂肪族モノカルボン酸(α2)とを反応させる際の反応温度は、100℃〜160℃が好ましく、120〜150℃がより好ましい。反応時間としては、1〜10時間の範囲が好ましい。
【0045】
前記製法3において、脂肪族モノカルボン酸(α2)と化合物(α3)とを反応させる際の反応温度は、80℃〜140℃が好ましく、90〜120℃がより好ましい。反応時間としては、5〜30時間の範囲が好ましい。そして、脂肪族モノカルボン酸(α2)と化合物(α3)とを反応させた後、得られる反応物と芳香族モノカルボン酸(α1)とを反応させる際の反応温度は、100℃〜160℃が好ましく、120〜150℃がより好ましい。反応時間としては、1〜10時間の範囲が好ましい。
【0046】
前記製法1〜3において、化合物(α3)と芳香族モノカルボン酸(α1)と脂肪族モノカルボン酸(α2)の仕込み比は、化合物(α3)のエポキシ基のモル数と、芳香族モノカルボン酸(α1)と脂肪族モノカルボン酸(α2)の合計のカルボキシル基のモル数の比(エポキシ基モル数)/(カルボキシル基のモル数)が、0.8〜1.0/1.0の範囲であることが好ましい。
【0047】
前記化合物(α3)のエポキシ基と前記芳香族モノカルボン酸(α1)と脂肪族モノカルボン酸(α2)のカルボキシル基とを反応において、必要に応じて触媒を用いてもよい。この触媒としては、例えば、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物;2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、4−フェニル−2−メチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物;トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリアミルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリアチレンジアミン、ジメチルフェニルアミン、ジメチルベンジルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等のアミン化合物;ジメチルアミノピリジン等のピリジン化合物などが挙げられる。これらの触媒は、前記化合物(α3)、前記芳香族モノカルボン酸(α1)及び脂肪族モノカルボン酸(α2)の合計100質量部に対して0.05〜1質量部使用することが好ましい。
【0048】
前記の通り、前記式(1)で表されるエポキシエステル化合物は、特にレターデーション上昇剤として好ましく使用する事ができる。また、本発明のセルロースエステル樹脂組成物はセルロースエステル樹脂(X)と、本発明のエポキシエステル化合物(混合物)(Y)またはレターデーション上昇剤とを含有することを特徴とする。
【0049】
セルロースエステル樹脂(X)は、綿花リンター、木材パルプ、ケナフ等から得られるセルロースの有する水酸基の一部、又は全部がエステル化されたものである。これらの中でも、綿花リンターから得られるセルロースをエステル化して得られるセルロースエステル樹脂を使用して得られるフィルムは、フィルムの製造装置を構成する金属支持体から剥離しやすく、フィルムの生産効率を向上させることが可能となるため好ましい。
【0050】
前記セルロースエステル樹脂(X)の具体例としては、例えば、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレート、セルロースアセテートフタレート及び硝酸セルロース等が挙げられる。これらのセルロースエステル樹脂は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。本発明のセルロースエステル樹脂組成物からなるフィルムを光学フィルム、特に位相差機能付き偏光子保護フィルムとして使用する場合には、低酢化度のセルロースアセテートを使用することが、高い位相差値の調整が容易であり、機械的物性及び透明性に優れたフィルムを得ることができるため好ましい。
【0051】
セルロースアセテートとしては、平均酢化度(結合酢酸量)が50.0〜62.5質量%の範囲のものであると、得られるセルロースエステル樹脂組成物からなる光学フィルムは機械的物性及び透明性に優れたフィルムとなるため好ましい。
【0052】
また、光学フィルムの耐透湿性を向上させるためには、セルロースアセテートの平均酢化度が54〜61.5質量%の範囲であることが好ましい。また、光学フィルムを高い位相差値に調整するためには、セルロースアセテートの平均酢化度が50.0〜58質量%の範囲であることが好ましい。
【0053】
なお、平均酢化度は、セルロースアセテートの質量を基準として、該セルロースアセテートをケン化することによって生成する酢酸の質量割合である。
【0054】
前記セルロースエステル樹脂(X)は、数平均分子量が30,000〜300,000の範囲のものであると、フィルムの機械的物性を向上することができるため好ましい。また、より高い機械的物性が必要な場合は、50,000〜200,000の範囲のものを用いるとより好ましい。
【0055】
ここで、本発明において、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)はGPC測定に基づきポリスチレン換算した値である。なお、GPCの測定条件は以下の通りである。
【0056】
[GPC測定条件]
測定装置:東ソー株式会社製高速GPC装置「HLC−8320GPC」
カラム:東ソー株式会社製「TSK GURDCOLUMN SuperHZ−L」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM−M」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM−M」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ−2000」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ−2000」
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「EcoSEC Data Analysis バージョン1.07」
カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.35mL/分
測定試料:試料15mgを10mlのテトラヒドロフランに溶解し、得られた溶液をマイクロフィルターでろ過したものを測定試料とした。
試料注入量:20μl
標準試料:前記「HLC−8320GPC」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
【0057】
(単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A−300」
東ソー株式会社製「A−500」
東ソー株式会社製「A−1000」
東ソー株式会社製「A−2500」
東ソー株式会社製「A−5000」
東ソー株式会社製「F−1」
東ソー株式会社製「F−2」
東ソー株式会社製「F−4」
東ソー株式会社製「F−10」
東ソー株式会社製「F−20」
東ソー株式会社製「F−40」
東ソー株式会社製「F−80」
東ソー株式会社製「F−128」
東ソー株式会社製「F−288」
【0058】
本発明のセルロースエステル樹脂組成物は、前記セルロースエステル樹脂(X)100質量部に対して、前記エポキシエステル化合物(Y)またはレターデーション上昇剤を0.5〜30質量部の範囲で含有したものであると、高い位相差機能と低透湿性とを付与でき、高温多湿下でも該樹脂組成物中から成分が揮発する揮発性が低減できるので好ましい。また、揮発性をより低減するとともに、高い位相差機能と低透湿性とを付与する場合、前記セルロースエステル樹脂(X)100質量部に対して、前記エポキシエステル化合物(Y)またはレターデーション上昇剤を1〜20質量部の範囲で含有したものがより好ましい。
【0059】
また、本発明のセルロースエステル樹脂組成物では、本発明の効果を損なわない範囲内で、前記セルロースエステル樹脂(X)に、前記エポキシエステル化合物(Y)またはレターデーション上昇剤の各種添加剤を添加することができる。
【0060】
前記各種添加剤としては、例えば、改質剤(可塑剤も含む)、紫外線吸収剤、本発明のレターデーション上昇剤以外のレターデーション上昇剤、樹脂、マット剤、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤等)、染料などの添加剤が挙げられる。また、これらの添加剤は、後述するソルベントキャスト法において、有機溶剤中に前記セルロースエステル樹脂(X)と、前記エポキシエステル化合物(Y)またはレターデーション上昇剤を溶解、混合する際に、併せて添加することもできる。
【0061】
前記改質剤(可塑剤も含む)としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル;ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等のフタル酸エステル;エチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラアセテート、アセチルクエン酸トリブチルなどが挙げられる。
【0062】
前記紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等が挙げられる。この紫外線吸収剤の添加量は、前記セルロースエステル樹脂(X)100質量部に対して、0.01〜2質量部の範囲であることが好ましい。
【0063】
前記本発明のレターデーション上昇剤以外のレターデーション上昇剤としては、レターデーション値(Rth値)が上昇するものであれば何ら制限はないが、例えば、4−シアノ−4’−ペンチルビフェニルのような液晶化合物、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸エステル化合物、1,3,5−トリアジン環を有する化合物等が挙げられる。このレターデーション上昇剤の添加量は、前記セルロースエステル樹脂(X)100質量部に対して、0.01〜20質量部の範囲が好ましく、特に1〜10質量部の範囲がより好ましい。
【0064】
前記添加剤として用いる樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル等)、ポリカーボネート樹脂、ポリエステルエーテル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、トルエンスルホンアミド樹脂等が挙げられる。
【0065】
前記マット剤としては、例えば、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、リン酸カルシウム、カオリン、タルク等が挙げられる。このマット剤は、前記セルロースエステル樹脂(A)100質量部に対して、0.1〜0.3質量部の範囲が好ましい。
【0066】
前記染料としては、通常使用されている公知慣用のものを用いることができ、その添加量は本発明の目的を阻害しない範囲であれば、特に限定しない。
【0067】
本発明のセルロースエステル樹脂組成物は、光学フィルムに使用することができる。本発明の光学フィルムは、前記セルロースエステル樹脂組成物をフィルム状に成形することにより得ることができる。成形方法としては、例えば、本発明のセルロースエステル樹脂組成物を押出機等で溶融混練し、Tダイ等を用いることでフィルム状に成形する方法が挙げられる。
【0068】
また、本発明の光学フィルムは、前記成形方法の他に、前記セルロースエステル樹脂組成物を有機溶剤中に均一に溶解、混合して得られた樹脂溶液を金属支持体上に流延し乾燥させるソルベントキャスト法での成形によっても得ることができる。ソルベントキャスト法によりフィルムを得た場合、成形途中でのフィルム中の前記セルロースエステル樹脂(A)の配向を抑制することができるため、得られるフィルムは、実質的に光学等方性を示す。この光学等方性を示すフィルムは、光学フィルムとして液晶ディスプレイ等の部材として使用することができ、特に偏光子保護フィルムとして有用である。また、このソルベントキャスト法により得られるフィルムは、その表面に凹凸が形成されにくく、表面平滑性に優れるという特長を有するため、ソルベントキャスト法がより好ましいフィルムの成形方法である。
【0069】
ソルベントキャスト法は、前記セルロースエステル樹脂(X)及び前記エポキシエステル化合物(Y)を有機溶剤中に溶解させ、得られた樹脂溶液を金属支持体上に流延させる第1の工程、流延させた前記樹脂溶液中に含まれる有機溶剤を乾燥させフィルムを形成する第2の工程、及び金属支持体上に形成されたフィルムを金属支持体から剥離し加熱乾燥させる第3の工程からなる。
【0070】
第1の工程で使用する金属支持体としては、無端ベルト状又はドラム状の金属、例えばステンレス製で、その表面が鏡面仕上げの施されたものを使用することができる。前記金属支持体上に、前記樹脂溶液を流延させる際には、得られるフィルムに異物が混入することを防止するために、フィルターで濾過した樹脂溶液を使用することが好ましい。
【0071】
第2の工程における乾燥方法としては、例えば30〜50℃の温度範囲の風を前記金属支持体の上面及び下面に当てることで、流延した前記樹脂溶液中に含まれる有機溶剤のおよそ50〜80質量%程度を蒸発させ、前記金属支持体上にフィルムを形成させる方法がある。
【0072】
第3の工程は、前記第2の工程で形成されたフィルムを金属支持体上から剥離し、前記第2の工程よりも高温で加熱乾燥させる工程である。前記加熱乾燥方法としては、例えば100〜160℃の温度範囲で段階的に温度を上昇させる方法が寸法安定性を良くするために好ましい。前記温度範囲で加熱乾燥することによって、前記第2の工程で得られたフィルム中に残存する有機溶剤をほぼ完全に除去することができる。
【0073】
前記樹脂溶液中の不揮発分濃度としては、3〜50質量%の範囲が好ましく、5〜40質量%の範囲がより好ましい。
【0074】
前記有機溶剤としては、セルロースエステル樹脂(X)及び前記エポキシエステル化合物(Y)を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、セルロースエステル樹脂(X)としてセルロースアセテートを使用する場合は、セルロースアセテートの良溶媒として、例えばメチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類を使用することができる。また、この良溶媒に対して、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等の貧溶媒を併用することが、フィルムの生産効率を向上することができるので好ましい。良溶媒と貧溶媒とを混合して使用する場合の質量割合は、良溶媒/貧溶媒=75/25〜95/5(質量%)の範囲が好ましい。
【0075】
本発明の光学フィルムの膜厚は、10〜100μm範囲であることが好ましい。光学フィルムの中でも偏光子保護フィルムとして使用する場合には、その膜厚が15〜80μmの範囲であれば、液晶表示装置の薄型化を図ることが可能で、かつ優れたフィルム強度、湿熱変化による寸法安定性及び耐透湿性を維持することができる。
【0076】
また、本発明の光学フィルムは、光学補償機能を有する偏光子保護フィルムに使用することができる。この偏光子保護フィルムには、TN(Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)、OCB(Optically Compensatory Bend)等の液晶表示方式に応じて特定の範囲の異方性が求められる。特に、本発明の光学フィルムは、VA方式の液晶表示に用いられる光学補償機能を付与した偏光子保護フィルムに好適に用いることができる。
【0077】
本発明の光学フィルムは、Rth値が100nm以上を有していることが好ましく、100〜500nmの範囲のRth値を有していることが、液晶物質由来の位相差を効果的に補償することができるためより好ましい。
【0078】
所望の光学異方性を有する偏光子保護フィルムを得るためには、本発明のセルロースエステル樹脂組成物への前記エポキシエステル化合物(Y)またはレターデーション上昇剤の添加量を調整することにより可能である。特に本発明で用いる前記エポキシエステル化合物(Y)は、少量添加で高いRth値を得ることができるため、比較的高いRth値が求められるVA、OCB、及びTN等の液晶表示方式を採用した液晶表示装置にも、揮発性を低減した上で、所望のRth値に調整することができる。
【0079】
光学フィルムの膜厚が60μmの場合、セルロースエステル樹脂(X)のみからなるフィルムの透湿度は、セルロースエステル樹脂の種類によっても異なるが、950〜1300g/m・24h程度である。前記エポキシエステル化合物(Y)を添加した本発明のセルロースエステル樹脂組成物からなる光学フィルムは、900g/m・24h以下の透湿度であれば、偏光板としたときの水分の悪影響を抑制できる為好ましく、100〜800g/m・24hの範囲の透湿度であることがより好ましい。
【0080】
本発明の光学フィルムは、高い光学性能のみならず、高い耐透湿性、高い透明性、低い揮発性などに優れることから、例えば、液晶表示装置の光学フィルムやハロゲン化銀写真感光材料の支持体等に使用できる。ここで、前記光学フィルムとしては、例えば、偏光子保護フィルム、位相差フィルム、反射板、拡散フィルム、視野角拡大フィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム、帯電防止フィルム、カラーフィルター等が挙げられる。これらの光学フィルムのうち、前記したような優れた特性に加えて、高いRth値を有する光学フィルムは、視野角補償機能を有する偏光子保護フィルムとして使用することが可能である。
【0081】
本発明の液晶表示装置は、例えば、本発明の光学フィルムを有する液晶表示装置用偏光板を有するものを例示できる。液晶表示装置用偏光板は、具体的には、ポリビニルアルコール(PVA)フィルムにヨウ素化合物等の二色性分子を配向させた偏光子の片側又は両側に本発明の光学フィルムを偏光子保護フィルムとして貼付した構造のものである。なお、この液晶表示装置用偏光板は、液晶セルの両側にクロスニコルの状態で配置される。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例に基づき更に具体的に説明する。例中の部及び%は断りがない限り質量基準である。
【0083】
実施例1
温度計、撹拌器及び還流冷却器を備えた3リットルの四つ口フラスコに、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂(エポキシ当量191g/eq.)1337g、パラトルイル酸905g、溶媒としてメチルイソブチルケトン449g、触媒としてトリフェニルホスフィン2gを加えて、115℃で9時間反応させた。続いて、酢酸56gを加え、140℃まで昇温し、140℃で4時間反応させた。未反応原料を140℃、0.005MPaにて除去して、前記式(1)で表される本発明のエポキシエステル化合物(エポキシエステル混合物)(1)を得た。
【0084】
エポキシエステル化合物(1)の酸価は0.43mgKOH/gで、エポキシ当量は35万g/eq.で、水酸基価は172mgKOH/gで、数平均分子量は690であった。エポキシエステル化合物(1)が有する芳香族基(a1)(パラトルイル基)と脂肪族基(a2)(メチル基)の平均の存在比はモル比で、(パラトルイル基/メチル基)=96/4であった。ここで、酸価、エポキシ当量、水酸基価及びパラトルイル基とメチル基の平均の存在比は下記方法により求めた(以下同様。)。
【0085】
酸価:JIS K 0070−1992に準じて測定した。
エポキシ当量:JIS K 7236:2001に準じて測定した。
水酸基価:JIS K 0070−1992に準じて測定した。
芳香族基(a1)と脂肪族基(a2)の平均の存在比:13CNMRにより測定した。
【0086】
13CNMRの測定条件>
機器名:日本電子株式会社製「JNM−ECA500」
試料濃度:30%(w/v)
測定溶媒:重水素化クロロホルム(CDCl
積算回数:4000回
【0087】
次に、ジアセチルセルロース(製品名L−50、酢化度55%、ダイセル化学工業製)100部、エポキシエステル化合物(1)10部に対し、メチレンクロライド810部、メタノール90部を加えて溶解し、ドープ液を得た。ドープ液をガラス板上に厚み約0.8mmとなるように流延し、室温で一晩放置後、50℃で30分、120℃で30分乾燥し、膜厚60μmのフィルムを得た。
【0088】
得られたフィルムを用いて、本発明のエポキシエステル化合物(1)とセルロースエステル樹脂との相溶性、耐ブリード性、厚さ方向のレタデーション値(Rth値)、耐透湿性を下記方法に従って評価した。その結果を第1表に示す。
【0089】
<相溶性の評価方法>
濁度計(日本電色工業株式会社製「NDH 5000」)を用いて、JIS K 7105に準じて、フィルムのヘイズ値を測定した。この値が小さい程透明であり、相溶性に優れると言える。
【0090】
<耐ブリード性の評価方法>
フィルムを温度85℃、相対湿度90%の恒温恒湿中に5日間放置し、その後、上記<相溶性の評価方法>に従ってフィルムのヘイズ値を測定した。この値が小さい程透明であり、耐ブリード性に優れると言える。
【0091】
<Rthの評価方法>
位相差測定装置KOBRA−WR(王子計測機器株式会社製)を用いて平行ニコル回転法により、フィルムの厚さ方向のレターデーション値(Rth値)を測定した。なお、フィルムは23℃、55%RHで1時間以上放置したものを測定に使用した。
【0092】
<耐透湿性の評価方法>
JIS Z 0208に記載の方法に従い、測定した。測定条件は、温度40℃、相対湿度90%とした。得られる値が小さい程、耐透湿性に優れると言える。
【0093】
また、ジアセチルセルロースの代わりにトリアセチルセルロース(製品名LT−35、酢化度61%、ダイセル化学工業製)を用いてフィルムを測定し、セルロースエステル樹脂との相溶性、耐ブリード性、厚さ方向のレタデーション値(Rth値)、耐透湿性を下記方法に従って評価した。その結果を第1表に示す。
【0094】
実施例2
温度計、撹拌器及び還流冷却器を備えた3リットルの四つ口フラスコに、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂(エポキシ当量191g/eq.)1337g、パラトルイル酸905g、溶媒としてメチルイソブチルケトン448g、触媒としてトリフェニルホスフィン2gを加えて、115℃で10時間反応させた。続いて、プロピオン酸112gを加え、140℃まで昇温し、140℃で5時間反応させた。未反応原料を140℃、0.005MPaにて除去して、前記式(1)で表される本発明のエポキシエステル化合物(エポキシエステル混合物)(2)を得た。
【0095】
エポキシエステル化合物(2)の酸価は0.52mgKOH/gで、エポキシ当量は18万g/eq.で、水酸基価は179mgKOH/gで、数平均分子量は690であった。エポキシエステル化合物(2)が有する芳香族基(a1)(パラトルイル基)と脂肪族基(a2)(エチル基)の平均の存在比はモル比で、(パラトルイル基/エチル基)=96/4であった。
【0096】
実施例1と同様にしてフィルムを作製し、エポキシエステル化合物(2)とセルロースエステル樹脂との相溶性、耐ブリード性、厚さ方向のレターデーション値(Rth値)、耐透湿性を下記方法に従って評価した。その結果を第1表に示す。
【0097】
実施例3
温度計、撹拌器及び還流冷却器を備えた3リットルの四つ口フラスコに、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂(エポキシ当量191g/eq.)430g、安息香酸261g、溶媒としてメチルイソブチルケトン138g、触媒としてトリフェニルホスフィン0.7gを加えて、115℃で24時間反応させた。続いて、酢酸17gを加え、140℃まで昇温し、140℃で6時間反応させた。未反応原料を140℃、0.005MPaにて除去して、前記式(1)で表される本発明のエポキシエステル化合物(エポキシエステル混合物)(3)を得た。
【0098】
エポキシエステル化合物(3)の酸価は0.47mgKOH/gで、エポキシ当量は26.8万g/eq.で、水酸基価は183mgKOH/gで、数平均分子量は690であった。エポキシエステル化合物(3)が有する芳香族基(a1)(フェニル基)と脂肪族基(a2)(メチル基)の平均の存在比はモル比で、(フェニル基/メチル基)=91/9であった。
【0099】
実施例1と同様にしてフィルムを作成し、エポキシエステル化合物(3)とセルロースエステル樹脂との相溶性、耐ブリード性、厚さ方向のレタデーション値(Rth値)、耐透湿性を下記方法に従って評価した。その結果を第1表に示す。
【0100】
実施例4
温度計、撹拌器及び還流冷却器を備えた3リットルの四つ口フラスコに、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂(エポキシ当量191g/eq.)1337g、メタトルイル酸905g、溶媒としてメチルイソブチルケトン449g、触媒としてトリフェニルホスフィン2gを加えて、115℃で17時間反応させた。続いて、酢酸56gを加え、140℃まで昇温し、140℃で5時間反応させた。未反応原料を140℃、0.005MPaにて除去して、前記式(1)で表される本発明のエポキシエステル化合物(エポキシエステル混合物)(4)を得た。
【0101】
エポキシエステル化合物(4)の酸価は0.31mgKOH/gで、エポキシ当量は14万g/eq.で、水酸基価は169mgKOH/gで、数平均分子量は695であった。エポキシエステル化合物(4)が有する芳香族基(a1)(メタトルイル基)と脂肪族基(a2)(メチル基)の平均の存在比はモル比で、(メタトルイル基/メチル基)=92/8であった。
【0102】
実施例1と同様にしてフィルムを作成し、エポキシエステル化合物(4)とセルロースエステル樹脂との相溶性、耐ブリード性、厚さ方向のレターデーション値(Rth値)、耐透湿性を下記方法に従って評価した。その結果を第2表に示す。
【0103】
実施例5
温度計、撹拌器及び還流冷却器を備えた3リットルの四つ口フラスコに、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂(エポキシ当量191g/eq.)1337g、オルトトルイル酸905g、溶媒としてメチルイソブチルケトン449g、触媒としてトリフェニルホスフィン2gを加えて、115℃で13時間反応させた。続いて、酪酸112gを加え、140℃まで昇温し、140℃で6時間反応させた。未反応原料を140℃、0.005MPaにて除去して、前記式(1)で表される本発明のエポキシエステル化合物(エポキシエステル混合物)(5)を得た。
【0104】
エポキシエステル化合物(5)の酸価は0.61mgKOH/gで、エポキシ当量は28万g/eq.で、水酸基価は170mgKOH/gで、数平均分子量は710であった。エポキシエステル化合物(5)が有する芳香族基(a1)(オルトトルイル基)と脂肪族基(a2)(プロピル基)の平均の存在比はモル比で、(オルトトルイル基/プロピル基)=86/14であった。
【0105】
実施例1と同様にしてフィルムを作成し、エポキシエステル化合物(4)とセルロースエステル樹脂との相溶性、耐ブリード性、厚さ方向のレターデーション値(Rth値)、耐透湿性を下記方法に従って評価した。その結果を第2表に示す。
【0106】
比較例1
温度計、撹拌器及び還流冷却器を備えた3リットルの四つ口フラスコに、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂(エポキシ当量187g/eq.)299g、パラトルイル酸217g、触媒としてトリフェニルホスフィン1gを加えて、0.005MPaの減圧下、115℃で24時間反応させ、比較対照用エポキシエステル化合物(1´)を得た。
【0107】
比較対照用エポキシエステル化合物(1´)の酸価は0.2mgKOH/gで、エポキシ当量は2.8万g/eq.で、水酸基価は171mgKOH/gで、数平均分子量は670であった。
【0108】
実施例1と同様にしてフィルムを作成し、比較対照用エポキシエステル化合物(1´)とセルロースエステル樹脂との相溶性、耐ブリード性、厚さ方向のレターデーション値(Rth値)、耐透湿性を下記方法に従って評価した。その結果を第3表に示す。
【0109】
比較例2
温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積3リットルの四つ口フラスコに、テレフタル酸ジメチル553.5g、プロピレングリコール476.4g、パラトルイル酸816.6g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.111gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら、230℃になるまで段階的に昇温することで、合計17時間縮合反応させた。反応後、195℃にて未反応のプロピレングリコールを減圧除去することによって、比較対照用エステル化合物(2´)を得た。
【0110】
比較対照用エステル化合物(2´)の酸価は0.19mgKOH/gで、水酸基価は11mgKOH/gで、数平均分子量は450であった。
【0111】
実施例1と同様にしてフィルムを作成し、比較対照用エステル化合物(2´)とセルロースエステル樹脂との相溶性、耐ブリード性、厚さ方向のレターデーション値(Rth値)、耐透湿性を下記方法に従って評価した。その結果を第3表に示す。
【0112】
比較例3
温度計、攪拌器及び還流冷却器を備えた内容積3リットルの四つ口フラスコに、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル1221g、エチレングリコール93g、プロピレングリコール1027g及びエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.12gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら、205℃になるまで段階的に昇温して、合計18時間反応させた。反応後、160℃で未反応のプロピレングリコールを減圧除去することによって、比較対照用エステル化合物(3´)を得た。
【0113】
比較対照用エステル化合物(3´)の酸価は0.20mgKOH/gで、水酸基価は161gKOH/gで、数平均分子量は710であった。
【0114】
実施例1と同様にしてフィルムを作成し、比較対照用エポキシエステル化合物(2´)とセルロースエステル樹脂との相溶性、耐ブリード性、厚さ方向のレターデーション値(Rth値)、耐透湿性を下記方法に従って評価した。その結果を第3表に示す。
【0115】
比較例4
エポキシエステル化合物を添加しない以外は実施例1と同様にしてフィルムを作成し、フィルムの透明性(実施例における相溶性の評価に該当)、加湿加熱後の透明性(実施例におけるブリード性の評価に該当)、厚さ方向のレターデーション値(Rth値)、耐透湿性を下記方法に従って評価した。その結果を第3表に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
【表3】
【0119】
実施例1〜5で示した本発明のエポキシエステル化合物を用いて得られるフィルムは、ジアセチルセルロース(低酢化度CA)に添加した場合のHAZE値、および、湿熱試験後のHAZE値が1%以下であり、本発明のエポキシエステル化合物は相溶性や耐ブリード性に優れることが分かる。また、本発明のエポキシエステル化合物は、ジアセチルセルロース(低酢化度CA)に添加した場合、得られるフィルムのRth値が163〜173nmと高く、レターデーション上昇剤として非常に有効であることが分かる。
【0120】
比較例1は、従来技術であるテトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂と芳香族モノカルボン酸を反応させて得られるテトラメチルビフェノール型エポキシエステル化合物を用いて得られるフィルムである。該テトラメチルビフェノール型エポキシエステル化合物をジアセチルセルロース(低酢化度CA)に添加したフィルムのHAZE値は2となり、該テトラメチルビフェノール型エポキシエステル化合物は相溶性が悪いことが分かる。
【0121】
比較例2は、従来技術である1,2−プロピレングリコールとテレフタル酸ジメチルとp−トルイル酸とをエステル化して得られる、末端がp−トルイル酸で封止されたエステル化合物を用いて得られるフィルムである。該エステル化合物をジアセチルセルロース(低酢化度CA)に添加したフィルムのRth値は127と低く、該エステル化合物はレターデーション上昇剤として不十分であることが分かる。
【0122】
比較例3は、従来技術である2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルとプロピレングリコールとエチレングリコールとを用いて得られるエステル化合物を用いて得られるフィルムである。該該エステル化合物をジアセチルセルロース(低酢化度CA)に添加したフィルムのHAZE値は24と高く、該エステル化合物は相溶性が悪いことが分かる。
【要約】
本発明は、低酢化度セルロースエステル樹脂に対しても相溶性に優れ、高いRth値と耐ブリード性を有する光学フィルムが得られ、レターデーション上昇剤として好適に使用する事ができる化合物、該化合物を含有するセルロースエステル樹脂組成物、該樹脂組成物からなる光学フィルム及びこの光学フィルムを用いた液晶表示装置を提供することを目的として、下記式(1)
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。Aはそれぞれ芳香族基(a1)または炭素原子数1〜4の脂肪族基(a2)を表し、芳香族基(a1)と脂肪族基(a2)の平均の存在比〔(a1)/(a2)〕が、モル比で99.9/0.1〜80/20である)
で表されるエポキシエステル化合物を提供する。