(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)素子は、珪素(Si)素子と比較して、高耐圧、低オン抵抗の半導体装置を実現できることが期待されている。近年SiC素子の製造技術が著しく進歩し、SiC素子のデバイス特性の優位性が確立されつつある。また、炭化珪素単結晶基板(SiC基板)の高品質化、大口径化が進み、半導体装置の製造に必要なSiC基板の入手が比較的容易になっている。これらの技術的進歩を背景に、SiC素子の実用を見据えた開発が本格化している。特に、ショットキーバリアダイオード(SBD)は、SiC素子で最も開発が先行している素子のひとつであり、信頼性の確保や歩留り(良品の比率)の向上など量産に向けたプロセス開発段階に達している。
【0003】
SiC素子を実用化するためには、さらなるSiC素子の集積度(パワー密度)の向上が求められる。SiC素子の集積度を向上させるためには、より大きなサイズの電極を用いた素子設計が必要となる。そして、大きなサイズの電極を用いる場合、SiC素子の歩留りを高く保つためのSiC基板表面処理が重要となる。SiC基板において、高温のSiC素子製造工程によって発生する基板への金属不純物の付着や混入、その他炭素化合物形成による表面の荒れなどが、SiC素子の歩留りを低下させる要因のひとつと考えられる。
【0004】
SiC素子製造工程では、薬液によるSiC基板表面の洗浄工程が行われている。例えば、Si素子を製造する技術として培われた洗浄技術であるRCA洗浄がSiC素子製造工程でもよく用いられる。RCA洗浄とは、アンモニア・過酸化水素水による洗浄(SC1)と塩酸・過酸化水素水による洗浄(SC2)を基本とするSi基板のウエット洗浄法である。
【0005】
Si基板では、SC1処理によりSi基板表面に酸化膜が形成され、この膜中に金属不純物が取り込まれる。そして、SC2処理で、SC1処理により形成された酸化膜を除去することで、酸化膜に取り込まれた金属不純物も除去される。これに対して、SiC基板では、SC1処理によってSiC基板表面に酸化膜を形成することが困難であり、Si基板のSC1処理のように酸化膜を形成して、この酸化膜に金属不純物を取り込んで除去することが困難であるとされている。また、SiC基板をエッチングする場合、水酸化カリウム溶融液のような特殊な薬液を用いてエッチングするが、このエッチング速度が大きな面方位依存性を持つため、表面の荒れを制御することが困難となる。
【0006】
そこで、SiC基板の洗浄では、RCA洗浄と犠牲酸化と呼ばれる酸化膜形成プロセスとを併用して、SiC基板表面の洗浄が行われる(例えば、特許文献1)。通常の犠牲酸化は、酸素により基板表面に酸化膜が形成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、犠牲酸化工程の酸化手法(酸化ガス種)の違いにより、犠牲酸化膜除去後のSiC基板表面の金属不純物密度が酸素ガスを用いた犠牲酸化手法と比較して低くなることが知られている(例えば、特許文献1)。そして、SiC基板表面の金属不純物密度を低下させることにより、SiC素子の信頼性や歩留りが向上することが確認されている。
【0009】
特許文献1には、酸素プラズマをSiC基板表面の酸化剤として用いることで、犠牲酸化膜除去後のSiC基板表面の金属不純物密度が酸素ガスを用いた犠牲酸化手法と比較して減少する傾向があることが示されている。このことより、より強い酸化種を用いることで、金属不純物を酸化膜中に効果的に取り込むことができ、この酸化膜を除去することでより多くの金属不純物を除去することができるものと考えられる。さらに、特許文献1には、SBDやMOSFETなど様々な素子の製造工程において、酸化手法の違いによるSiC基板表面の洗浄効果を検証し、酸化手法の違いによってSiC素子の信頼性や歩留りが向上することが示されている。
【0010】
このように、SiC基板では、従来のSi基板の処理方法が必ずしも適用できるわけではなく、SiC素子の信頼性や歩留りをさらに向上させるためのSiC基板の処理方法が求められている。
【0011】
上記事情に鑑み、本発明は、SiC基板を用いた半導体装置の信頼性の向上や歩留りの向上に貢献する技術の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成する本発明の半導体装置製造方法の一態様は、炭化珪素単結晶基板を、不飽和炭化水素とオゾンとを含む雰囲気下で処理する不純物除去工程と、前記不純物除去工程後、前記炭化珪素単結晶基板をフッ化水素を含有する溶液で処理する工程と、を有することを特徴としている。
【0013】
また、上記目的を達成する本発明の半導体装置製造方法の他の態様は、上記半導体装置製造方法において、前記不純物除去工程は、犠牲酸化処理を行った後の炭化珪素単結晶基板に対して行うことを特徴としている。
【0014】
また、上記目的を達成する本発明の半導体装置製造方法の他の態様は、上記半導体装置製造方法において、前記不純物除去工程後に、前記炭化珪素単結晶基板に電極層を形成することを特徴としている。
【0015】
また、上記目的を達成する本発明の半導体装置製造方法の他の態様は、上記半導体装置製造方法において、前記炭化珪素結晶基板には、エピタキシャル成長層が形成されていることを特徴としている。
【0016】
また、上記目的を達成する本発明の半導体装置製造方法の他の態様は、上記半導体装置製造方法において、前記不純物除去工程の処理条件は、処理圧力が1000Pa以下、処理温度が400℃以下であることを特徴としている。
【0017】
また、上記目的を達成する本発明の半導体装置製造方法の他の態様は、上記半導体装置製造方法において、前記不純物除去工程の処理条件は、レジスト膜の除去速度が、150nm/分以上であることを特徴としている。
【0018】
また、上記目的を達成する本発明の半導体装置製造方法の他の態様は、上記半導体装置製造方法において、前記不純物除去工程は、前記炭化珪素単結晶基板を前記不飽和炭化水素と前記オゾンで処理した後、前記不飽和炭化水素の供給を停止し、前記炭化珪素単結晶基板をオゾン雰囲気下で1分以上処理するオゾン処理工程を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
以上の発明によれば、SiC基板を用いた半導体装置の信頼性や歩留りの向上に貢献することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態に係る半導体装置製造方法について、図を参照して詳細に説明する。なお、本発明の炭化珪素単結晶基板(SiC基板)とは、炭化珪素の単結晶層を有する基板や炭化珪素の単結晶にイオン注入した層を有する炭化珪素基板のことを示す。
【0022】
まず、
図1を参照してSiC基板10の表面処理を行うSiC基板処理装置1について説明する。SiC基板処理装置1は、SiC基板10に不飽和炭化水素とオゾンを供給して、SiC基板10表面の不純物を除去する装置である。このように、基板に不飽和炭化水素とオゾンを供給する装置としては、例えば、特許文献2,3に開示される処理装置がある。
【0023】
図1に示すように、SiC基板処理装置1は処理炉2、オゾン発生器3、不飽和炭化水素供給部4を備える。
【0024】
処理炉2は、SiC基板10を保持するサセプタ5を有する。サセプタ5は、例えば、赤外光を吸収する材料(不透明石英やSiC単結晶体など)で構成され、処理炉2の内部中心付近に設けられる。そして、処理炉2外に設けられた光源(図示せず)からサセプタ5に赤外光が照射されサセプタ5が加熱される。なお、サセプタ5にヒータを設け、ヒータで直接サセプタ5の温度制御を行ってもよい。この場合、サセプタ5は、必ずしも赤外光を吸収する材料で構成する必要はない。
【0025】
処理炉2の側壁には、配管6を介して不飽和炭化水素供給部4が接続され、不飽和炭化水素が処理炉2に供給される。また、処理炉2には、配管7を介してオゾン発生部3が接続され、オゾンが処理炉2に供給される。この配管7のオゾン供給口7aは、サセプタ5に保持されたSiC基板10近傍まで延伸して設けられる。これは、不飽和炭化水素とオゾンとの反応で生じる活性種の寿命が短いことから、この活性種による処理効果を得るために、不飽和炭化水素とオゾンとの混合部をSiC基板10の表面から5〜50mm程度の範囲とするためである。このように、配管7をSiC基板10近傍にまで延設することで活性種をSiC基板10表面で生じさせ、生じた活性種によりSiC基板10の処理が行われる。なお、配管6及び配管7には、それぞれバルブ(図示せず)が設けられており、供給されるガスごとに独立して流量が制御される。
【0026】
処理炉2には、配管8を介してオゾン除去装置9が設けられる。処理炉2の反応に供されたガスは、ガス中の残留オゾン濃度が十分低くなるようにオゾン除去装置9でオゾンが分解除去される。そして、オゾン除去装置9で処理後のガスは、真空ポンプ11により系外に排出される。また、処理炉2とオゾン除去装置9との間には、流量調整バルブ12が設けられ、処理炉2を流通する不飽和炭化水素及びオゾンの流量が調節される。
【0027】
オゾン発生器3は、気体のオゾンを冷却して液体オゾンとし、この液体オゾンを再び気化することで、ほぼ100%のオゾンガスを発生する。このようなオゾン発生器3としては、例えば、明電舎製のピュアオゾンジェネレータがあり、オゾン発生器3から発生したオゾンを不活性ガス(アルゴンやヘリウムなど)で希釈することで、任意の濃度のオゾンを処理炉2に供給することができる。
【0028】
不飽和炭化水素供給部4は、不飽和炭化水素が充填されたボンベなどである。不飽和炭化水素供給部4から供給される不飽和炭化水素は、例えば、エチレン、プロピレン、ブテンに例示される炭素の2重結合を有する炭化水素(アルケン)や、アセチレン、プロピン、ブチンに例示される炭素の3重結合を有する炭化水素(アルキン)が挙げられる。
【0029】
[実施例1]
本発明の実施例1の半導体装置製造方法について、
図2〜4を参照して説明する。
【0030】
図2は、本発明の実施形態に係る半導体装置製造方法の不純物除去工程に供されるSiC基板10の概略断面図であり、
図2(b)は、SiC基板10を用いて構成された半導体装置15の特性を評価する電気的特性評価回路16の概略を示す図である。なお、
図2(a)のSiC基板10及び
図2(b)の半導体装置15は、本発明の実施形態に係るSiC基板及び半導体装置を模式的に示したものであり、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致するものではない。
【0031】
図3(a)は、実施例1の半導体装置15製造方法のフローを示す図である。また、
図4は、実施例1の半導体装置15製造方法の不純物除去工程S5を詳細に説明するフロー図である。
【0032】
図2(a)のSiC基板10と
図3(a)及び
図4のフロー図を参照して、実施例1の半導体装置15製造方法について説明する。
【0033】
実施例1では、12mm□サイズ4H−SiC(0001)基板を用いて簡易型PNダイオードを作成した。具体的には、Cree社製のオフ角4°、1.2×10
18cm
-3のn型ドープされたn
+層基板10aを用いた。
【0034】
まず、前工程S1で、n
+層基板10a上に、n
-エピ層10b(エピキャピタル成長層)を形成した。具体的には、n
+層基板10a上に、厚さ4.7μm程度のn
-エピ層10bを濃度1.2×10
15cm
-3で形成した。そして、n
-エピ層10b上にp層10cなどn
-エピ層10b内のキャリア分布作成処理を行い、SiC基板10を作成した。
【0035】
次に、RCA洗浄工程S2を行った。RCA洗浄工程S2は、アンモニア(28重量%):過酸化水素水(30〜35重量%):水=1:1:5(体積比)の洗浄液で、70〜80℃、10分処理するアンモニア・過酸化水素水洗浄工程(SC1)を行った。その後、塩酸(36重量%):過酸化水素水(30〜35重量%):水=1:1:5(体積比)の洗浄液で、70〜80℃、10分処理する塩酸・過酸化水素水洗浄工程(SC2)を行い、SiC基板10を洗浄した。
【0036】
犠牲酸化工程S3では、1200℃、1気圧の酸素ガス雰囲気下でSiC基板10を処理して、SiC基板10表面に10nm程度の酸化膜を形成した。SiC基板10表面の酸化膜形成は、ゲート酸化膜形成で用いられるSiC酸化炉を用いて行った。なお、犠牲酸化工程S3は、1000℃以上の処理を行うため、
図1で示したSiC基板処理装置1とは別の処理炉を用いた。
【0037】
第1HF洗浄工程S4では、SiC基板10をフッ酸(0.5〜10%程度のフッ化水素水溶液)で処理して、犠牲酸化工程S3でSiC基板10に形成された酸化膜を除去した。
【0038】
不純物除去工程S5では、SiC基板10に不飽和炭化水素とオゾンを供給して、SiC基板10の処理を行った。式(1)に示すように、エチレンとオゾンとが反応することにより、活性種(O
*)が発生し、この活性種がSiC基板10に作用するものと考えられる。
O
3 + C
2H
4 → O
* + O
2 + ・・・ (1)
不純物除去工程S5の処理手順について
図4を参照して詳細に説明する。まず、処理炉2にSiC基板10を格納し、処理炉2内を真空にした(ステップS5a)。次に、サセプタ5を所定の温度に昇温してSiC基板10を加熱した(ステップS5b)。処理炉2に、98体積%のエチレンを200sccmで供給し、処理炉2にエチレンガスを充満させた。この状態で、80体積%以上のオゾンを70sccmで処理炉2に供給した。処理炉2にエチレンとオゾンとを供給した状態で、処理炉2内の圧力を300Pa、サセプタ5の温度を室温(25℃)に設定して、10分間SiC基板10の処理を行った(ステップS5c)。エチレンとオゾンによる処理が終了した後、処理炉2へのエチレンの供給を停止し、オゾンのみで1分間SiC基板10の処理を行った(ステップS5d)。その後、処理炉2内を真空とし(ステップS5e)、SiC基板10の加熱を停止した(ステップS5f)。そして、処理炉2を降温後、不活性ガスをパージして、処理炉2からSiC基板10を取り出した。
【0039】
なお、スピンコータでSi基板表面に塗布し140℃で硬化したレジスト(例えば、Siデバイス製造工程で作成される10
16cm
-2程度のドーズ量に耐性のあるフォトレジスト)付きSi基板を作成し、このレジスト付きSi基板をステップS5cの処理に供すると、レジストは、150nm/min以上の速度で除去された。ステップS5cの処理時間は10分なので、ステップS5cの処理条件は、Si基板上に形成されたレジストの除去量が1.5μm以上の処理条件である。
【0040】
図3(a)に示すように、不純物除去工程S5終了後、第2HF洗浄工程を行った。第2HF洗浄工程S6では、不純物除去工程S5で処理後のSiC基板10をフッ酸(0.5〜10%程度のフッ化水素水溶液)で処理し、SiC基板10に形成された酸化膜を除去した。
【0041】
金属電極層形成工程S7では、第2HF洗浄工程S6で酸化膜が除去されたSiC基板10の表面17に金属電極層18を形成した。金属電極層18は、ニッケルを1000℃にて合金化して形成し、この金属電極層18をアノード電極とした。実施例1の半導体装置15では、直径1mmの円形に形成した金属電極層18を16個形成した。
【0042】
後工程S8では、金属電極層18にアルミニウムを融点以上の温度で合金化して、金属電極層18にアノード電極パッド19を設けた。また、SiC基板10のアノード電極パッド19が設けられる面の反対側の面(つまり、n
+層基板10a)に、オーミック接合によりアルミニウムを合金化して設け、カソード電極20とした。
【0043】
[比較例]
比較例の半導体装置として、不飽和炭化水素とオゾンによる不純物除去工程S5(及び第2HF洗浄工程S6)を行わない方法で半導体装置を製造した。比較例の半導体装置製造方法のフローを
図3(b)に示す。
図3(b)に示すように、比較例の半導体装置製造方法は、不純物除去工程S5(及び第2HF洗浄工程S6)を行わないこと以外は、
図3(a)に示した実施例1の半導体装置製造方法と同じである。よって、重複を避けるため実施例1の半導体装置製造方法の処理工程と同じ工程には同じ符号を付してその説明を省略する。
【0044】
[実施例2]
実施例2の半導体装置は、
図4で示した実施例1の半導体装置製造方法において、不飽和炭化水素とオゾンによるSiC基板10の処理後のオゾンのみによるSiC基板10の処理工程(ステップS5d)を行わない方法で製造した半導体装置である。実施例2の半導体装置製造方法は、このステップS5dの処理を行わないこと以外は、
図3(a)及び
図4に示した実施例1の半導体装置製造方法と同じである。よって、重複を避けるためその説明を省略する。
【0045】
[不純物除去工程を行うことによる効果]
図2(b)に示す電気的特性評価回路16によって、実施例1の半導体装置15と比較例の半導体装置の各電極での順方向特性及び逆方向特性を測定した。この測定結果を
図5に示す。
【0046】
図5(a),(c)に示すように、多くの電極で図中矢印で示した場所よりも高電圧側でオーミックなVI関係が成り立った。
図5(a)に示すように、実施例1の半導体装置15の順方向特性の特性試験では、16個すべての試料が良特性を示した。また、
図5(b)に示すように、実施例1の半導体装置15の逆方向特性の特性試験では、不良特性を示す試料が1個であり、残りの15個の試料は良好な特性を示した。一方、
図5(c),(d)に示すように、比較例の半導体装置では、順方向特性、逆方向特性どちらの特性試験でも、不良特性を示す試料が3個あり、残りの13個の試料は良好な特性を示した。
【0047】
以上より、実施例1の半導体装置15は、比較例の半導体装置と比較して、不良電極の数が減少していることがわかる。つまり、本発明の実施形態に係る半導体装置製造方法によれば、不純物除去工程S5を行うことで、SiC素子の信頼性が向上し、SiC素子の歩留りが向上する。
【0048】
[不飽和炭化水素とオゾンでSiC基板を処理した後、オゾンのみでSiC基板を処理することによる効果]
実施例1の半導体装置15と実施例2の半導体装置を比較して、不飽和炭化水素とオゾンによるSiC基板10の処理後に行うオゾンのみによるSiC基板10の処理工程(ステップS5d)の効果について説明する。
【0049】
図6(a)は、実施例1のベアSiC基板(フッ酸処理して自然酸化膜を除去したSiCウエハ)を不飽和炭化水素とオゾンで処理後のXPSでのC元素に由来するスペクトルである。また、
図6(b)は、実施例2のベアSiC基板を不飽和炭化水素とオゾンで処理後のXPSでのC元素に由来するスペクトルである。
【0050】
図6(a)に示すように、実施例1のベアSiC基板では、SiC基板のCに由来するスペクトル(283eV付近のピーク)しか観測されない。これに対して、
図6(b)に示すように、実施例2のベアSiC基板では、SiC基板のCに由来するスペクトル(283eV付近のピーク)の他に、強度の弱いスペクトル(290,286eV付近のピーク)が観測される。このスペクトルは、SiC基板表面に付着したCに由来するスペクトルであると考えられる。つまり、不飽和炭化水素とオゾンでSiC基板を処理した後に、オゾンのみでSiC基板を処理することで、SiC基板表面に付着した炭素を除去することができ、より清浄な表面を有するSiC基板を得ることができる。
【0051】
これは、オゾンのみでSiC基板の処理を行うことで、ガス純度の低い不飽和炭化水素ガスに含まれる不純物がオゾン酸化処理によって除去されたからであると考えられる。また、この時の処理温度を200℃以下とすることで、SiC基板表面に酸化膜が形成されることが抑制される。よって、このオゾンのみによるSiC基板の処理を200℃以下で1分以上行うことで、より清浄な表面を有するSiC基板を得ることができる。
【0052】
以上のように、本発明の半導体装置製造方法によれば、SiC基板に不飽和炭化水とオゾンを供給して、当該不飽和炭化水素とオゾンとの反応により生じた活性種をSiC基板に作用させることで、SiC基板表面の金属不純物やカーボン系化合物を効果的に除去することができる。その結果、SiC基板を用いた半導体装置の信頼性や歩留りが向上する。
【0053】
また、不飽和炭化水素とオゾンによるSiC基板の処理を400℃以下で行うことで、SiC基板周辺部材(例えば、処理炉壁のステンレス)が加熱されて金属不純物が処理炉内に発生することを抑制するだけでなく、SiC基板近傍まで延設されたオゾン供給配管端部に対するSiC基板からの輻射熱の影響を低減することができる。その結果、処理炉の構成部材をステンレス鋼などの金属部材のみで構成することができる。さらに、SiC基板の処理温度を400℃以下とすることで、不飽和炭化水素(例えば、エチレン)の熱分解を抑制し、効果的な不飽和炭化水素とオゾンによるSiC基板処理を行うことができる。特に、SiC基板の処理温度を200℃以下とすることで、オゾンの熱分解を抑制し、オゾンを基板表面に大量に供給できるとともに、プロセス反応を継続して行うことができる。
【0054】
また、不純物除去工程を犠牲酸化工程後に行うと、平坦かつ清浄な表面を有するSiC基板を得ることができる。これは、犠牲酸化工程でSiC基板が平坦化され、不純物除去工程で犠牲酸化工程の高温処理により形成されたSiC基板表面の炭化物が除去されるためである。つまり、不純物除去工程を400℃以下の低温で処理すると、SiC基板の表面に酸化膜を形成して、表面の平坦化を十分に行うことができないおそれがあるが、犠牲酸化処理工程後に不純物除去工程を行うことにより、平坦且つ清浄な表面を有するSiC基板を得ることができる。なお、犠牲酸化処理工程を行わずともSiC基板表面が平坦化できるのであれば、RCA洗浄工程後に不純物除去工程を行ってもよい。また、発明者らは、高濃度(80体積%以上)のオゾンを用いて犠牲酸化処理を行うことで、より歩留りを向上させるSiC基板の洗浄方法を開発している。よって、高濃度(80体積%以上)のオゾンをSiC基板に作用させてSiC基板表面に酸化膜を形成し、この酸化膜をフッ酸(例えば、10%HF水溶液)で除去する犠牲酸化処理を行った後に、本発明の不純物除去工程を行うことで、SiC基板を用いた半導体装置の信頼性や歩留りをさらに向上させることができる。
【0055】
また、不飽和炭化水素とオゾンによるSiC基板の処理をRCA洗浄またはHF処理後に行うと、不飽和炭化水素とオゾンとの反応により生じた活性種をSiC基板に効率的に作用させることができる。これは、SiC基板表面に酸化膜が形成されていると、不飽和炭化水素とオゾンとの反応により生じた活性種がSiC基板表面に形成された酸化膜を拡散することができず、活性種がSiC基板表面に到達できないおそれが生じるためである。
【0056】
不飽和炭化水素とオゾンでSiC基板を処理すると、Siデバイス作成工程の高ドーズ注入されたレジストの高速除去(例えば、特許文献3)や波長100nm以下の高エネルギー光の光学系レンズに堆積するカーボン系不純物(強固な結合を有するアモルファスカーボン堆積物)の除去ができることが知られている(例えば、特許文献2)。このように、不飽和炭化水素とオゾンによる処理は、カーボン系不純物に対して高い反応性を有する活性種を生成・利用することができる。
【0057】
これに対して、本発明の半導体装置製造方法の不飽和炭化水素とオゾンによるSiC基板の処理(不純物除去工程)は、原子配列の乱れによる表面荒れの発生に伴い高温下で強く結合した炭化物を除去するものである。この炭化物は、例えば、犠牲酸化処理の酸化膜形成時などのSiC基板を高温で処理することで生成されるものと考えられる。
【0058】
不純物除去工程を200℃以上の高温で行うと、SiC基板表面に数nm程度の酸化膜が形成されることがXPSで確認されている。これは、不純物除去工程において、SiC基板を低温で酸化可能な酸化活性種が生成し、この酸化活性種により原子数個分の厚さ程度の酸化膜がSiC基板に形成されるものと考えられる。ゆえに、この酸化膜をHF洗浄で除去することで、SiC基板表面の炭化物の除去だけでなく、SiC基板表面に析出した金属不純物を除去することができる。なお、この酸化膜は、原子数個分の厚さ程度なので、不飽和炭化水素とオゾンとの反応により生じた活性種がSiC基板表面に拡散することを妨げない。また、不純物除去工程において、高濃度のオゾン(80体積%以上)を使用すると、オゾンによるSiC基板表面の酸化の効果も期待できる。つまり、SiC基板表面に析出した金属不純物を酸化して取り除くことができる。
【0059】
不純物除去工程の処理条件は、処理炉の大きさによって異なるが、不飽和炭化水素(例えば、エチレン)とオゾンを合わせた供給量を50〜300sccmとすることで、良好なSiC基板の処理を行うことができる。不飽和炭化水素とオゾンの反応により生じる活性種とSiC基板の反応は、不飽和炭化水素とオゾンとの混合部の近傍で起こると考えられる。そこで、不飽和炭化水素を満たした処理炉にオゾンを供給するとともに、不飽和炭化水素の流量を、オゾンの流量より2〜3倍多くすることで、不飽和炭化水素を処理炉内に満たした状態で処理炉にオゾンを供給することができる。その他、処理圧力:10〜1000Pa、温度範囲400℃以下の処理条件で不飽和炭化水素とオゾンによるSiC基板の処理を行うことで、SiC基板の表面の不純物を効果的に除去するができる。
【0060】
また、本発明の半導体装置の製造方法に用いられるSiC基板表面の洗浄方法を、SiC基板にアノード用接触電極を形成する前の基板処理工程に用いることで、結合信頼性の高いSiC/電極層(例えば、Ni)界面を形成することができる。
【0061】
なお、本発明の半導体装置製造方法について、具体例を示して詳細に説明したが、本発明の半導体装置製造方法は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の特徴を損なわない範囲で適宜設計変更が可能であり、そのように変更された形態も本発明の半導体装置製造方法である。
【0062】
例えば、実施形態の説明では、炭化珪素の単結晶として、4H−SiCからなるSiC基板を用いたが、炭化珪素の単結晶としては、4H−SiCの他にも、2H−SiC、6H−SiC、3C−SiC等、他の結晶形の炭化珪素単結晶をSiC基板として用いることもできる。また、実施例では、単結晶基板の(0001)面に対して、エピ層や金属電極層などを形成したが、(0001)面の他、(000−1)面や(11−20)面に対してエピ層などを形成した基板に本発明の半導体装置製造方法を適用することができる。また、実施例では、オフ角4°のSiC基板を用いたが、オフ角は4°に限らず、0〜8°程度であれば他の角度でも構わない。
【0063】
また、実施形態のように、オゾン供給配管をSiC基板近傍まで延伸させた処理炉では、処理可能な基板サイズが限定されてしまうおそれがある(例えば、φ1インチ)。そこで、例えば、特許文献4に開示されるようなガス2層構造からなるシャワーヘッド構造を有する処理炉で処理を行うことで、より大きなサイズ(例えば、φ3インチ以上)のSiC基板の処理を行うことができる。
【0064】
また、本発明の半導体装置製造方法に用いられるSiC基板表面の洗浄方法は、SiC基板/電極層の界面の接合時の前処理に限定されるものではなく、様々なSiC基板の界面(例えば、SiC基板/SiO
2の界面)に対する前処理として用いることができる。つまり、本発明の半導体装置の製造方法は、ドライプロセスであるため、他のプロセスとの相性がよく、様々なプロセスの前処理若しくは後処理として適用することで、SiC基板表面を洗浄することができる。
【0065】
特に、本発明の半導体装置製造方法の不純物除去工程をSiC基板表面の洗浄工程(犠牲酸化工程など)の最後に用いることで、より清浄な表面を有するSiC基板を得ることができる。
【0066】
また、半導体装置としては、ショットキーバリアダイオードの他にMOSFET、IGBTなどの半導体装置においても、SiC表面にショットキー接合またはオーミック接合により電極を形成する場合などに本発明の半導体装置の製造方法に係る洗浄方法を適用することができる。