特許第5972090号(P5972090)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5972090高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5972090
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/08 20060101AFI20160804BHJP
   C08F 20/28 20060101ALN20160804BHJP
【FI】
   C07F7/08 X
   !C08F20/28
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-173165(P2012-173165)
(22)【出願日】2012年8月3日
(65)【公開番号】特開2014-31338(P2014-31338A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2014年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(72)【発明者】
【氏名】一戸 省二
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−202060(JP,A)
【文献】 特開昭61−057612(JP,A)
【文献】 特開2011−063568(JP,A)
【文献】 特開昭62−158293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物の製造方法であって、
下記式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと
【化1】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、mは2〜9の整数である)
下記式(3)で表される(メタ)アクリレート化合物を
【化2】
(式中、Rは水素原子またはメチル基であり、aは1または2である)
付加反応触媒存在下で反応させて、下記式(1)で表される(メタ)アクリルシリコーン化合物を生成する工程を含み、
【化3】
(式中、R、R、a及びmは上記の通りである)
上記付加反応において(メタ)アクリレート化合物のモル量がオルガノハイドロジェンポリシロキサンのモル量の1.4倍以上であることを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法で得られる高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物が、さらに下記式(4)で表される化合物(以下、異性体という)を含有しており、
【化4】
(式中、R、R、a及びmは上記の通りである)
前記高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物が、前記式(1)で表され特定のm、a、R及びRを有する1種の化合物と該化合物と同じm、a、R及びRを有する1種の前記異性体を、合計で95質量%以上含有する、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法で得られる高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物中、前記式(3)で表される(メタ)アクリレート化合物のアリル基と(メタ)アクリル基との両方に前記式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが反応して得られる化合物の含有量が3質量%未満である、請求項1または2記載の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科デバイス、例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人口角膜等を製造するためのシリコーン化合物の製造方法に関する。詳細には、他の親水性モノマーと共重合することにより、あるいはそれ自身がビニル重合することにより、上記眼科デバイスの為の眼用レンズに好適であるポリマーを与えることができるシリコーン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼用レンズ用モノマーとして、通称TRISで知られている、下記式
【化1】
で表される3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレートが広く使用されている。しかしTRISは、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)のような親水性モノマーとの相溶性に劣るため、得られる共重合ポリマーは透明性を有しないという欠点があった。
【0003】
また、他の眼用レンズ用モノマーとして、通称SiGMAで知られている、下記式で表されるシリコーン化合物も知られている。
【化2】
SiGMAはHEMAのような親水性モノマーとの相溶性に優れるため、得られる共重合ポリマーは、比較的高酸素透過性で高い親水性であるという特徴を有する。しかし、該SiGMAと親水性モノマーとの共重合体ポリマーでは、長時間連続装用するには酸素透過性が不十分であった。従って、親水性モノマーと共重合してさらに高い酸素透過性を有するポリマーを提供できる(メタ)アクリルシリコーン化合物の開発が求められていた。
【0004】
特許文献1は、下記式(I)
【化3】
[式中R、R、R、R、およびRは炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基であり、Rは水素、または炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基であり、nは1以上の整数であり、mは0もしくは1以上の整数であり、Xは炭素数が2〜20の2価のアルキレン基であり、Yは−OCHCH−、−OCH(CH)CH−、または−OCHCH(CH)−であり、pは3以上の整数である]
で表される(メタ)アクリルシリコーン化合物を記載している。
【0005】
特許文献1は、上記(メタ)アクリルシリコーン化合物を、片末端に水酸基をもつポリオルガノシロキサンと重合性官能基を持つカルボン酸との脱水縮合反応にて製造する方法を記載している。しかし、当該製造方法で得られる(メタ)アクリルシリコーン化合物はシリコーンの重合度に分布ができ、高純度の(メタ)アクリルシリコーン化合物を得ることができない。
【0006】
また、特許文献1は、上記(メタ)アクリルシリコーン化合物を、片末端にSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと片末端に二重結合を有するポリエーテル含有(メタ)アクリル化合物の付加反応にて製造する方法を記載している。しかし、特許文献1の実施例には、脱水縮合反応にて上記(メタ)アクリルシリコーン化合物を製造する方法が記載されているのみであり、付加反応による製造例は全く記載されていない。特許文献1に記載の方法では、ポリエーテル含有(メタ)アクリル化合物の(メタ)アクリル基とオルガノハイドロジェンポリシロキサンのSiH基との反応も進行してしまい、(メタ)アクリル化合物の両末端にオルガノハイドロジェンポリシロキサンが導入した化合物が生成してしまうため、高純度の(メタ)アクリルシリコーン化合物を得ることができない。
【0007】
本発明者らは、下記式(II)
【化4】
(ここでmは3〜10の整数のうちの一つ、nは1または2のうちの一つ、R1は炭素数1〜4のアルキル基のうちの一つ、Rは水素及びメチル基のうちの一つである)
で表される(メタ)アクリルシリコーン化合物が、親水性モノマーとの共重合性に優れ、酸素透過性の高い共重合体ポリマーを提供できることを見出し、上記式(II)で表され特定のm、n、R及びRを有する1種の化合物を高純度で有する(メタ)アクリルシリコーン化合物を製造する方法を開発した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−55446号公報
【特許文献2】特許第4646152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献2に記載の方法は数ステップを要し、更にエステル化後の(メタ)アクリル酸クロライドの精製に多大なコストが掛かるという問題を有する。その為、上記式(II)で表され高純度を有する(メタ)アクリルシリコーン化合物を安価に製造することができる方法が求められている。
【0010】
また、片末端にSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと片末端に二重結合を有するポリエーテル含有(メタ)アクリル化合物を付加反応する場合、従来技術では、ポリエーテル含有(メタ)アクリル化合物をオルガノハイドロジェンポリシロキサンに対し小過剰量で使用する。しかし、当該方法では、ポリエーテル含有(メタ)アクリル化合物の(メタ)アクリル基とオルガノハイドロジェンポリシロキサンのSiH基との反応も進行してしまい、(メタ)アクリル化合物の両末端にオルガノハイドロジェンポリシロキサンが導入した化合物が生成してしまう。そのため、目的とする(メタ)アクリルシリコーン化合物を高純度で製造することができない。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑み、上記式(II)で表され高純度を有する(メタ)アクリルシリコーン化合物を安価で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、片末端にSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとアリロキシ(エトキシ)エチル(メタ)アクリレートを付加反応触媒存在下で反応させる際に、アリロキシ(エトキシ)エチル(メタ)アクリレートのモル量をオルガノハイドロジェンポリシロキサンのモル量の1.4倍以上とすることにより、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと(メタ)アクリル基との付加反応を抑制することができ、(メタ)アクリレート化合物の両末端(アリル基と(メタ)アクリル基)にオルガノハイドロジェンポリシロキサンが付加反応した化合物の生成を低減することが出来ることを見出した。
【0013】
即ち、本発明は、
高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物の製造方法であって、
下記式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと
【化5】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、mは2〜9の整数である)
下記式(3)で表される(メタ)アクリレート化合物を
【化6】
(式中、Rは水素原子またはメチル基であり、aは1または2である)
付加反応触媒存在下で反応させて、下記式(1)で表される(メタ)アクリルシリコーン化合物を生成する工程を含み、
【化7】
(式中、R、R、a及びmは上記の通りである)
上記付加反応において(メタ)アクリレート化合物のモル量がオルガノハイドロジェンポリシロキサンのモル量の1.4倍以上であることを特徴とする、製造方法を提供する。
【0014】
さらに本発明は、上記製造方法で得られた高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物と他のモノマーとを共重合することにより得られるポリマーを提供する。また、本発明は、上記製造方法で得られた高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物をさらにビニル重合することにより得られるポリマーを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法は、(メタ)アクリレート化合物の両末端(アリル基と(メタ)アクリル基)にオルガノハイドロジェンポリシロキサンが付加反応した化合物の生成を低減することが出来るため、高純度を有する(メタ)アクリルシリコーン化合物を提供することができる。さらに、本発明の製造方法では、高純度(メタ)アクリレート化合物を1ステップで得ることができる。また、反応に使用した溶剤ならびに過剰の(メタ)アクリレート化合物は、減圧下、加熱することにより容易に除去することができるため、目的化合物を容易に製造することができる。従って、目的とする高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物を非常に安価かつ容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施例1で得られた(メタ)アクリルシリコーン化合物のH−NMRチャートである。
図2図2は、実施例1で得られた(メタ)アクリルシリコーン化合物の13C−NMRのチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、下記一般式(1)で表され特定のm、a、R及びRを有する1種の化合物を高濃度で含有する、高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物を製造する方法である。
【化8】
上記式(1)中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは水素原子またはメチル基である。mは2〜9の整数、好ましくは3〜7の整数、最も好ましくは3である。mが上記下限値未満では得られるポリマーの酸素透過率が低くなるため好ましくない。また、mが上記上限値超では得られるポリマーの親水性が低くなるため好ましくない。aは1または2の整数であり、好ましくは1である。aが0であると親水性モノマーとの相溶性が悪くなるため好ましくない。また、aが上記値より大きいと原料である(メタ)アクリレート化合物の加熱・減圧下での除去が困難となるため好ましくない。
【0018】
本発明の方法で得られる高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物は、上記式(1)で表される化合物に加え、下記式(4)で表される構造を有する化合物(以下、異性体という)を含有してもよい。
【化9】
(式中、R、R、a及びmは上記の通りである)
【0019】
本発明において「高純度」とは、本発明の方法で得られる(メタ)アクリルシリコーン化合物が、上記式(1)で表され特定のm、a、R及びRを有する1種の化合物を高濃度で含有することを意味する。特には、本発明の方法で得られる高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物は上記式(4)で表される異性体を含有してよく、上記式(1)で表され特定のm、a、R及びRを有する1種の化合物と該化合物と同じm、a、R及びRを有する1種の上記異性体を、合計として95質量%以上、好ましくは96質量%以上で含有する。(メタ)アクリルシリコーン化合物の純度(質量%)は、ガスクロマトグラフィー(GC)分析により測定される値である。尚、本発明の製造方法で得られる高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物中、上記異性体の含有量は好ましくは1質量%未満、特には0.1〜1質量%、さらに特には0.4〜0.8質量%である。異性体の含有量は少なければ少ないほどよい。高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物が該異性体を含有する場合は、単離せずに混合物として使用してよく、従って、後述するポリマーの調製においても混合物として使用することができる。
【0020】
また、本発明の製造方法で得られる高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物はSi含量が高いことを特徴とする。該高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物において、上記式(1)及び(4)で表される化合物の全体の質量に対するオルガノポリシロキサン残基の割合が65〜85質量%、好ましくは70〜80質量%である。これにより、酸素透過性の高いポリマーを提供することができる。
【0021】
本発明において、ガスクロマトグラフィー(GC)分析による測定は以下に示す測定条件により行えばよい。
測定装置:Agilent社ガスクロマトグラフ(FID検出器)
キャピラリーカラム:J&W社HP−5MS(0.25mm×30m×0.25μm)
昇温プログラム:50℃(2分)→10℃/分→300℃(10分)
注入口温度:250℃
検出器温度(FID):300℃
キャリアガス:ヘリウム(1.0mL/分)
スプリット比:50:1
注入量:1μL(ヘキサン10%液)
【0022】
本発明の製造方法は、下記式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと
【化10】
(式中、R及びmは上記の通りである)
下記式(3)で表される(メタ)アクリレート化合物を
【化11】
(式中、R及びaは上記の通りである)
付加反応触媒存在下で反応させる工程を含む。
【0023】
本発明は、上記付加反応において、(メタ)アクリレート化合物のモル量がオルガノハイドロジェンポリシロキサンのモル量の1.4倍以上、好ましくは1.5倍〜2.5倍、より好ましくは1.6倍〜1.8倍であることを特徴とする。オルガノハイドロジェンポリシロキサンのモル量に対する(メタ)アクリレート化合物のモル量が上記下限値より少ないと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと(メタ)アクリル基との付加反応が起きてしまうため好ましくない。
【0024】
上記式(2)において、特には、Rはブチル基であるのが好適である。上記式(2)で表される化合物の純度は、上述したGC測定にて98質量%以上、好ましくは99質量%以上であるのがよい。
【0025】
上記式(3)において、特には、Rがメチル基であるメタクリル化合物の方が、RがHであるアクリル化合物より副反応が少ないため好適に使用される。上記式(3)で表される化合物の純度は、上述したGC測定にて98質量%以上、好ましくは99質量%以上であるのがよい。
【0026】
上記式(3)で表される化合物の製造方法は特に制限されるものでなく、従来公知の方法により製造することができる。例えば、エステル交換法により好適に製造することができる。例えば、アリルグリコールとメチルメタクリレートをエステル交換反応に付することにより、上記式(3)においてa=1であるアリロキシエチルメタクリレートを製造することができる。
【0027】
上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンと(メタ)アクリレート化合物の付加反応は付加反応触媒の存在下で行われる。該付加反応触媒としては、一般に付加反応に使用されている触媒を使用することができる。例えば、白金族金属系化合物等の貴金属触媒を使用することができ、白金系、パラジウム系、ロジウム系、ルテニウム系等の触媒が挙げられる。これらの中で特に白金系触媒が好ましく用いられる。白金系触媒は、例えば塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液又はアルデヒド溶液、塩化白金酸の各種オレフィン又はビニルシロキサンとの錯体などを使用してもよい。中でも、塩化白金酸重曹中和−ビニルシロキサン錯体触媒(カルステッド触媒)溶液が好適に使用できる。
【0028】
上記付加反応触媒の量は触媒量であればよい。特には、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと(メタ)アクリレート化合物との合計量に対し、金属換算量で1〜10ppm、好ましくは2〜5ppmが好適である。付加反応触媒の量が少ないと反応スピードが遅くなり、反応が進行しないため好ましくない。また、付加反応触媒の量が多すぎると副反応が生起し易くなり、また重合が起こるので好ましくない。
【0029】
上記付加反応には、必要に応じて反応溶剤を使用してよい。該溶剤としては、たとえば、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素溶剤、ヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤、ジオキサン、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン等のエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶剤、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤などが挙げられる。特には、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、キシレンのような、活性水素を持たないものが好適に使用される。エタノール、イソプロピルアルコール等は、水酸基とSiHの脱水素反応を起こすので、あまり好ましくない。
【0030】
上記付加反応は発熱を伴うため、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと(メタ)アクリレート化合物とを一括で反応させるより、オルガノハイドロジェンポリシロキサン又は(メタ)アクリレート化合物のいずれか一方を滴下しながら反応を行うのが良い。特には、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを滴下しながら(メタ)アクリレート化合物と反応させるのが好ましい。滴下開始温度は30〜80℃、好ましくは60〜70℃であるのがよい。熟成温度は70〜80℃、熟成時間は1〜4時間が好ましい。熟成温度が高すぎると重合等の副反応が起こるので好ましくない。
【0031】
本発明の製造方法によれば、オルガノハイドロジェンポリシロキサンが(メタ)アクリレート化合物の(メタ)アクリル基と付加反応することを抑制することができる。そのため、オルガノポリシロキサンが(メタ)アクリレート化合物のアリル基と(メタ)アクリル基との両方に反応して得られる化合物(以下、両末端シロキサン化合物という)の生成量を低減することができる。従って、本発明の方法に依れば、得られる高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物中の上記両末端シロキサン化合物の含有量(質量%)を、ガスクロマトグラフィーによる測定で3質量%未満、好ましくは2質量%未満とすることができる。これにより、上述した高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物を提供することが可能になる。
【0032】
本発明の製造方法は、上述した高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物を1ステップで得ることができ、さらに、反応に使用した溶剤ならびに過剰の(メタ)アクリレート化合物を、減圧下、加熱することにより容易に除去することができる。従って、目的とする高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物を非常に安価かつ容易に製造することができる。
【0033】
本発明の高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物は単独でビニル重合することによりポリマーを形成することができる。また、他のモノマー、特には親水性モノマーと共重合させて、架橋構造を形成するポリマーとすることもできる。該親水性モノマーとしては上記式(1)で表される(メタ)アクリルシリコーン化合物と共重合可能であれば特に制限されるものではなく、例えば、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、アリル基、ビニル基または共重合可能な他の炭素−炭素不飽和結合を有するモノマーを使用することが出来る。上記式(1)で表される(メタ)アクリルシリコーン化合物は、親水性モノマーとの相溶性に優れるため透明な共重合ポリマーを提供することができる。
【0034】
親水性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸、ビニル安息香酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、両末端重合性基含有シロキサンマクロマー、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、 2,3―ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−アクリロイルモロホリン、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、スチレン、ビニルピリジン、マレイミド等が挙げられる。また、(メタ)アクリル、スチリル、または(メタ)アクリルアミド等の重合性基を含有するシリコーン化合物(ビストリメチルシロキシメチルシリルプロピルシランモノマー等)を使用することもできる。
【0035】
上記式(1)で表される(メタ)アクリルシリコーン化合物は、分子中に疎水性であるポリシロキサン部分を有する。該ポリシロキサン部分は、得られるポリマーの酸素透過性を向上させる作用を有する。特に、上記式(1)で表される(メタ)アクリルシリコーン化合物はSi基の含有量が高いため、高い酸素透過性を有するポリマーを提供できる。また、上記式(1)で表される(メタ)アクリルシリコーン化合物は、分子中に親水性であるエーテル部分も有するため、酸素透過性が高く、かつ高親水性であるポリマーを提供することができる。また、該化合物は、親水性であるエーテル部分を有することにより親水性モノマーとの相溶性が向上し共重合性が高いため、親水性モノマーと共重合して透明なポリマーを提供することができる。
【0036】
本発明の方法で得られる高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物は、上記式(1)で表され特定のm、a、R及びRを有する1種の化合物を高濃度で含有するため、該高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物を親水性モノマーと共重合させることにより、あるいは単独でビニル重合させることにより、透明なポリマーを提供することができる。さらに該ポリマーは酸素透過性が高く且つ高親水性であるため、眼科デバイス、例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人口角膜等を製造する為に好適に使用することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0038】
下記実施例においてNMR分析(H−NMR、13C−NMR)は、ECP500(日本電子社製)を用い、測定溶媒として重クロロホルムを使用して実施した。また、ガスクロマトグラフィーによる測定は以下の条件で行った。
測定装置:Agilent社ガスクロマトグラフ(FID検出器)
キャピラリーカラム:J&W社HP−5MS(0.25mm×30m×0.25μm)
昇温プログラム:50℃(2分)→10℃/分→300℃(10分)
注入口温度:250℃
検出器温度(FID):300℃
キャリアガス:ヘリウム(1.0mL/分)
スプリット比:50:1
注入量:1μL(ヘキサン10%液)
【0039】
[実施例1]
高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物の合成
アリロキシエチルメタクリレート136g(0.8mol)、及びメチルシクロヘキサン200gを、ジムロート、温度計、滴下ロートを付けた1Lフラスコに仕込み、65℃まで昇温した。塩化白金酸アルカリ中和物−ビニルシロキサン錯体触媒のトルエン溶液(白金含有量0.5重量%)を0.30g添加し、滴下ロートにて1−ブチル−9−ヒドロ−1,1,3,3,5,5,7,7,9,9−デカメチルペンタシロキサン206g(0.5mol)(純度99.7%)を1時間かけて滴下した。滴下後、内温は75℃まで上昇した。該反応混合物を80℃下で4時間熟成した後にガスクロマトグラフィーで反応物を確認したところ、原料の1−ブチル−9−ヒドロ−1,1,3,3,5,5,7,7,9,9−デカメチルペンタシロキサンのピークが消失し、反応が完結していた。メチルシクロヘキサンと過剰のアリロキシエチルメタクリレートを内温110℃で減圧下ストリップして、275gの生成物(収率95%)得た。得られた生成物の構造をH−NMR及び13C−NMRを用いて解析したところ、下記式(5)で表される(メタ)アクリルシリコーン化合物であった。
【化12】
(式中、Buはブチル基を意味する)
上記(メタ)アクリルシリコーン化合物のH−NMRスペクトルを図1に、13C−NMRスペクトルを図2に示す。また、得られた生成物の純度をガスクロマトグラフィーによる測定で算出したところ、該生成物は、上記式(5)で表される化合物と該化合物の異性体を合計として96.0質量%有していた。尚、得られた生成物中、アリロキシエチルメタクリレートの両末端にオルガノポリシロキサンが導入された化合物の含有量(質量%)は1.8質量%であった。
【0040】
[比較例1]
アリロキシエチルメタクリレート102g(0.6mol)、メチルシクロヘキサン200gを、ジムロート、温度計、滴下ロートを付けた1Lフラスコに仕込み、65℃まで昇温した。塩化白金酸アルカリ中和物−ビニルシロキサン錯体触媒のトルエン溶液(白金含有量0.5重量%)を0.30g添加し、滴下ロートにて1−ブチル−9−ヒドロ−1,1,3,3,5,5,7,7,9,9−デカメチルペンタシロキサン206g(0.5mol)(純度99.7%)を1時間かけて滴下した。滴下後、内温は75℃まで上昇した。該反応混合物を80℃下で4時間熟成した後に、ガスクロマトグラフィーで反応物を確認したところ、原料の1−ブチル−9−ヒドロ−1,1,3,3,5,5,7,7,9,9−デカメチルペンタシロキサンのピークが消失し、反応が完結していた。メチルシクロヘキサンと過剰のアリロキシエチルメタクリレートを内温110℃で減圧下ストリップして262gの生成物(収率90%)得た。得られた生成物の構造をH−NMR及び13C−NMRを用いて解析したところ、上記式(5)で表される(メタ)アクリルシリコーン化合物であった。また、得られた生成物の純度をガスクロマトグラフィーによる測定で算出したところ、該生成物は、上記式(5)で表される化合物と該化合物の異性体を合計として91.5質量%有していた。尚、得られた生成物中、アリロキシエチルメタクリレートの両末端にオルガノポリシロキサンが導入された化合物の含有量(質量%)は5.3質量%であった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の製造方法は、高純度(メタ)アクリルシリコーン化合物を安価かつ容易に提供することができる。また、本発明の製造方法で得られる化合物は、透明であり、酸素透過性が高く、かつ高親水性であるポリマーを提供することができるため、眼科デバイス、例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人口角膜等を製造する為に好適に使用することができる。
図1
図2