特許第5972156号(P5972156)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5972156超電導送電システム及び該システムを備える構造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5972156
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】超電導送電システム及び該システムを備える構造物
(51)【国際特許分類】
   H02G 15/34 20060101AFI20160804BHJP
   H01B 12/16 20060101ALN20160804BHJP
   F25D 17/02 20060101ALN20160804BHJP
【FI】
   H02G15/34ZAA
   !H01B12/16
   !F25D17/02 301
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-257979(P2012-257979)
(22)【出願日】2012年11月26日
(65)【公開番号】特開2014-107911(P2014-107911A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年10月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000148357
【氏名又は名称】株式会社前川製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】駒込 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】玉田 紀治
【審査官】 石坂 知樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−210263(JP,A)
【文献】 特開2010−223740(JP,A)
【文献】 特開2011−54500(JP,A)
【文献】 特開2009−14301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 15/34
F25D 17/02
H01B 12/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高低差を存して配置される上端及び下端を有するとともに、前記上端側の上側連通空間、前記下端側の下側連通空間、並びに、前記上側連通空間と前記下側連通空間を介して相互に連通する内側空間及び外側空間を内部に有する二重管と、
前記外側空間内を前記二重管の軸線方向に延びる、超電導材料からなる導電部材と、
前記二重管の下端側にて前記二重管の外壁を貫通し、前記導電部材と電気的に接続された第1リード部材と、
前記第1リード部材とは離れた位置にて前記二重管の外壁を貫通し、前記導電部材と電気的に接続された第2リード部材と、
前記二重管内に充填された窒素からなる冷媒と、
前記上側連通空間にて前記冷媒を冷却して固体窒素粒子を生成可能であって、前記固体窒素粒子が前記内側空間内を沈降するように構成されたスラッシュ窒素生成システムと、
前記下側連通空間における前記冷媒の固相率に対応する制御量を測定するための少なくとも1つのセンサと、
前記少なくとも1つのセンサを介して測定された制御量に基づいて、前記スラッシュ窒素生成システムの冷却能力を制御するように構成されている制御装置とを備える
ことを特徴とする高温超電導送電システム。
【請求項2】
前記少なくとも1つのセンサは、前記下側連通空間に配置された下位コンデンサと、前記外側空間に配置された上位コンデンサとを含み、
前記制御装置は、前記上位コンデンサの静電容量の測定値が第1設定範囲に入り、且つ、前記下位コンデンサの静電容量の測定値が第2設定範囲に入るように、前記スラッシュ窒素生成システムを制御するように構成され、
前記第2設定範囲に対応する固相率は、前記第1設定範囲に対応する固相率よりも高い
ことを特徴とする請求項1に記載の高温超電導送電システム。
【請求項3】
前記第1設定範囲は、対応する固相率が5%以下になるように設定されている
ことを特徴とする請求項2に記載の高温超電導送電システム。
【請求項4】
前記少なくとも1つのセンサは、更に、前記下位コンデンサと前記上位コンデンサとの間に配置された中位コンデンサを含み、
前記制御装置は、前記中位コンデンサの静電容量の測定値が第3設定範囲に入るように前記スラッシュ窒素生成システムを制御するように構成され、
前記第3設定範囲に対応する固相率は、前記第2設定範囲に対応する固相率以下で、かつ、前記第1設定範囲に対応する固相率以上である
ことを特徴とする請求項2に記載の高温超電導送電システム。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の高温超電導送電システムと、
複数階の建物とを備え、
前記二重管は、前記建物の複数階に渡って設けられている
ことを特徴とする構造物。
【請求項6】
交流電流を直流電流に変換する整流器を更に備え、
前記導電部材は、前記直流電流を流すように構成されている
ことを特徴とする請求項5に記載の構造物。
【請求項7】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の高温超電導送電システムと、
堤体を有するダムと、
前記堤体の下側に設けられた発電機もしくは揚水機とを備え、
前記二重管は前記堤体に沿って設けられている
ことを特徴とする構造物。
【請求項8】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の2つの高温超電導送電システムを備え、
2つの前記二重管が河川の両岸から河川の下に斜めに設置され、
2つの前記第1リード部材が電気的に相互に接続されている
ことを特徴とする構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超電導送電システム及び該システムを備える構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1が開示するように、超電導ケーブルを、液体窒素を用いて冷却する冷却システムが従来から知られている。液体窒素は、循環ポンプによって循環回路内を循環させられ、冷凍機によって冷却された液体窒素が超電導ケーブルに送られる。
また、特許文献2が開示するように、超電導ケーブルを、スラッシュ窒素を用いて冷却する冷却システムが知られている。スラッシュ窒素は、窒素の微細固体粒子と液体が混合した固液二相流体である。特許文献2の冷却システムは、冷凍機と送液ポンプを備え、冷凍機によって生成されたスラッシュ窒素が、送液ポンプによって超電導ケーブルに送られる。
【0003】
特許文献3もまた、スラッシュ窒素を用いて超電導ケーブルを冷却する冷却システムを開示している。その上、特許文献3は、密度差を利用して、冷媒を循環させる動力を低減可能であることを開示している。より詳しくは、密度の高い窒素の氷を多く含んだ冷媒は、冷却ステーションから、自重で下に落ちていく。一方、熱侵入によって窒素氷が溶けた温度の高い冷媒は、密度が低いので、浮力が働くと同時に、落ちてくる冷媒に押されて元の冷却ステーションに戻っていく(特許文献3の段落番号0083)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−54500号公報
【特許文献2】特開2009−14301号公報
【特許文献3】特開2006−210263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1乃至3が開示する超電導ケーブルの冷却システムでは、いずれも循環ポンプが必須である。循環ポンプを用いた冷却システムでは、循環ポンプの故障により冷却システムが停止してしまうという問題がある。このような問題に対応するため、複数台の循環ポンプを用意して冗長化を図ることも考えられるが、コスト上昇を招いてしまう。
そこで本発明者らは、液体窒素とスラッシュ窒素の密度差を利用して、循環ポンプを用いずに、冷媒を循環させることに着想した。しかしながら、密度差を利用して冷媒を循環させる場合、窒素の氷、即ち固体窒素粒子の供給量が過多であると、固体窒素が詰まってしまい、冷媒が循環しなくなるという問題が生ずる。また、固体窒素粒子の供給量が過少であると、固体窒素粒子が溶けてしまってパイプ中心部と外側で冷媒の密度差がなくなり、やはり冷媒が循環しなくなるという問題が生ずる。
【0006】
従って、本発明の少なくとも一実施形態は、超電導ケーブル内で冷媒を循環させるための循環ポンプを用いずに、液体窒素とスラッシュ窒素の密度差による対流を積極的に利用することで、超電導ケーブル内で冷媒を安定して循環可能な超電導送電システム及び該システムを備える構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、高低差を存して配置される上端及び下端を有するとともに、前記上端側の上側連通空間、前記下端側の下側連通空間、並びに、前記上側連通空間と前記下側連通空間を介して相互に連通する内側空間及び外側空間を内部に有する二重管と、前記外側空間内を前記二重管の軸線方向に延びる、超電導材料からなる導電部材と、前記二重管の下端側にて前記二重管の外壁を貫通し、前記導電部材と電気的に接続された第1リード部材と、前記第1リード部材とは離れた位置にて前記二重管の外壁を貫通し、前記導電部材と電気的に接続された第2リード部材と、前記二重管内に充填された窒素からなる冷媒と、前記上側連通空間にて前記冷媒を冷却して固体窒素粒子を生成可能であって、前記固体窒素粒子が前記内側空間内を沈降するように構成されたスラッシュ窒素生成システムと、前記下側連通空間における前記冷媒の固相率に対応する制御量を測定するための少なくとも1つのセンサと、前記少なくとも1つのセンサを介して測定された制御量に基づいて、前記スラッシュ窒素生成システムの冷却能力を制御するように構成されている制御装置とを備えることを特徴とする高温超電導送電システムが提供される。
【0008】
本実施形態によれば、下側連通空間における冷媒の固相率に対応する制御量に基づいて、スラッシュ窒素生成システムの冷却能力を制御することにより、内側空間へのスラッシュ窒素の供給量が常に適正に保たれ、二重管内を冷媒が安定して循環する。
【0009】
一実施形態の高温超電導送電システムでは、前記少なくとも1つのセンサは、前記下側連通空間に配置された下位コンデンサと、前記外側空間に配置された上位コンデンサとを含み、前記制御装置は、前記上位コンデンサの静電容量の測定値が第1設定範囲に入り、且つ、前記下位コンデンサの測定値が第2設定範囲に入るように、前記冷凍システムを制御するように構成され、前記第2設定範囲に対応する固相率は、前記第1設定範囲に対応する固相率よりも高い。
ている。
【0010】
この構成によれば、上位センサの静電容量の測定値のみならず、下位センサの静電容量の測定値に基づいて制御を行っているので、下側連通空間における冷媒の固相率を所望の設定範囲に入れることができる。
【0011】
一実施形態の高温超電導送電システムでは、前記第1設定範囲は、対応する固相率が5%以下になるよう設定されている。
【0012】
一実施形態の高温超電導送電システムでは、前記少なくとも1つのセンサは、更に、前記下位コンデンサと前記上位コンデンサとの間に配置された中位コンデンサを含み、前記制御装置は、前記中位コンデンサの静電容量の測定値が第3設定範囲に入るように、前記スラッシュ窒素生成システムを制御するように構成されている。第3設定範囲に対応する固相率は、第1設定範囲に対応した固相率以上で、かつ、第2設定範囲に対応した固相率以下である。
【0013】
この構成によれば、中位センサの静電容量の測定値に更に基づいて制御を行っているので、下側連通空間における冷媒の固相率を所望の設定範囲に確実に入れることができる。
上位センサの静電容量測定値が第1設定範囲内にあり、下位センサの静電容量測定値が第2設定範囲内にある場合でも、固相率の分布が一意に定まるとは限らない。図3中の線bで示すように、下位センサから上位センサに向かって位置が高くなるのに従って固相率が徐々に低下するという望ましい固相率分布ではなく、図3中の線aで示すように、下位センサの直上で固相率が急激に減少し、下側連通空間内の固体量が相対的に少ない状態、図3中の線cで示すように、上位センサの直下で固相率が急激に減少し、下側連通空間内の固体量が相対的に多い状態もありえる。
そして、線aの状態からの更なる固体量の減少、線cの状態からの更なる固体量の増加が進むと、循環流量の減少または喪失や固体過多による閉塞が発生する。これらは循環運転の安定性を損なう。中位センサを設け、中位センサの測定値が第3設定範囲に入るように運転することで、下側連通空間内の固相率分布を望ましい固相率分布に保つことが可能となり、循環の安定性向上に寄与する。この結果として、二重管内を冷媒が安定して循環する。
【0014】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、上記の何れかの高温超電導送電システムと、複数階の建物とを備え、前記二重管は、前記建物の複数階に渡って設けられていることを特徴とする構造物が提供される。
【0015】
一実施形態の構造物は、交流電流を直流電流に変換する整流器を更に備え、前記導電部材は、前記直流電流を流すように構成されている。
【0016】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、上記の何れかの高温超電導送電システムと、堤体を有するダムと、前記堤体の下側に設けられた発電機とを備え、前記二重管は前記堤体に沿って設けられていることを特徴とする構造物が提供される。
【0017】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、上記の何れかの2つの高温超電導送電システムと、2つの前記二重管が河川の両岸から河川の下に斜めに設置され、2つの前記第1リード部材が電気的に相互に接続されていることを特徴とする構造物が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、超電導ケーブル内で冷媒を循環させるための循環ポンプを用いずに、超電導ケーブル内で冷媒を安定して循環可能な超電導送電システム及び該システムを備える構造物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の一実施形態の超電導送電システムの概略的な構成を示す図である。
図2図2は、高さ方向での位置と、コンデンサ容量変化率との関係を概略的に示すグラフである。
図3図3は、高さ方向での位置と、コンデンサ容量変化率との関係を概略的に示すグラフである。
図4図4は、一実施形態の超電導送電システムを備えるデータセンタの構成を概略的に示す図である。
図5図5は、一実施形態の超電導送電システムを備える水力発電所および揚水発電所の構成を概略的に示す図である。
図6図6は、一実施形態の超電導送電システムを備える河川横断工の構成を概略的に示す図である。
図7図7は、1気圧での固体および液体窒素の誘電率の温度依存性を示すグラフである(参考文献:Zieman, C. M., Appl. Phys. 23, 154 (1952))。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状及びその相対配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない
【0021】
図1は、本発明の一実施形態の超電導送電システムの概略的な構成を示す図である。
超電導送電システムは、超電導ケーブル10、スラッシュ窒素生成システム12、固相率測定システム14、及び、制御装置16を備える。
【0022】
〔超電導ケーブル〕
超電導ケーブル10は、内管20及び外管22からなる二重管24と、超電導材料からなる導電部材としての第1導電部材26及び第2導電部材28と、絶縁部材30,31と、断熱部材32と、1組の第1リード部材34と、1組の第2リード部材36とを有する。内管20の内側には内側空間38が規定され、内管20と外管22の間には外側空間40が規定されている。
【0023】
二重管24は、水平方向に対して斜め又は直交するように設置される。本実施形態では、二重管24は鉛直方向(重力方向)に沿って配置されており、二重管24の一端(上端)と他端(下端)は高低差を存して配置される。
内管20は外管22よりも短く、二重管24の上端側及び下端側において、内側空間38と外側空間40は相互に連通している。つまり、二重管24の上端側及び下端側には、内側空間38と外側空間40を連通する上側連通空間42及び下側連通空間44が設けられている。なお、高さ方向における、内側空間38及び外側空間40の各々と下側連通空間44との境界は、内管20の下端によって規定されている。
【0024】
断熱部材32は、例えばテフロン(登録商標)やポリプロピレンからなり、内管20の内周面を覆うように設けられている。
二重管24内には、第1導電部材26及び第2導電部材28を冷却するための冷媒(導電部材冷却用冷媒)として窒素が充填されている。導電部材冷却用冷媒は、二重管24内を循環可能であり、断熱部材32よりも内側の内側空間38の部分が、二重管24の上端側から下端側に向かって冷媒を流動させるための下降流路として使用される。
【0025】
第1導電部材26及び第2導電部材28は、絶縁部材30を挟んで外側空間40に配置され、二重管24の軸線方向に沿って上端側から下端側まで延びている。第1導電部材26と第2導電部材28は、例えば、超電導材料からなるテープを巻回して形成される。この場合、第1導電部材26のテープは、内管20の外周に巻回され、第2導電部材28のテープは、第1導電部材26の外周に設けられた絶縁部材30の外周に巻回され、さらに絶縁部材31が第2導電部材28の外周に巻回される。第2導電部材28の外周の絶縁部材31よりも外側の外側空間40の部分が、二重管24の下端側から上端側に向かって冷媒を流動させるための上昇流路として使用される。
【0026】
2つの第1リード部材34は、二重管24の下端側にて二重管24の外壁を貫通しており、下側連通空間44を通って、第1導電部材26及び第2導電部材28に接続されている。
また、2つの第2リード部材36は、2つの第1リード部材34から高さ方向にて離れた位置にて、二重管24の外壁を貫通しており、第1導電部材26及び第2導電部材28に接続されている。本実施形態では、2つの第2リード部材36は、二重管24の上端側にて二重管24の外壁を貫通している。
なお、二重管24の外壁は、外管22及び外管22の開口端を閉塞する端壁によって構成されており、2つの第1リード部材34は外管22の下端を閉塞する端壁を貫通している。
【0027】
〔スラッシュ窒素生成システム〕
スラッシュ窒素生成システム12は、超電導ケーブル10の上端側の液体窒素を冷却してスラッシュ窒素を生成し、生成したスラッシュ窒素が内管20内に供給されるように構成されている。より詳しくは、スラッシュ窒素は、固相の窒素粒子と液相の窒素(液体窒素)の混合物であり、スラッシュ窒素生成システム12は、固相の窒素粒子が液体窒素との比重差によって沈降して内管20内に供給されるように構成されている。
【0028】
本実施形態では、スラッシュ窒素生成システム12は、例えばオーガ法によりスラッシュ窒素を生成する。具体的には、スラッシュ窒素生成システム12は、上側連通空間42に配置された例えば筒状の熱交換器46と、熱交換器46に窒素を冷却するための冷媒(窒素冷却用冷媒)を供給するための冷凍システム48と、熱交換器46の内側に配置され、熱交換器46の内周面に生成した固相の窒素を掻き落として微細な窒素粒子を生成可能なオーガ(スクリュー)50と、オーガ50を駆動するモータ52と、熱交換器46の外周を覆う断熱部材53からなる。冷凍システム48及びモータ52の本体は、超電導ケーブル10の外部に配置される。
【0029】
熱交換器46の下端は、内管20の上端近傍に対向するように配置され、熱交換器46から掻き落とされた窒素粒子が、内管20内に供給されるように構成されている。
なお、断熱部材53は、熱交換器46の上部を覆っていない。熱交換器46の上部には、熱交換器46の内側と外側を連通する連通孔46aが設けられ、液体窒素が、連通孔46aを通じて熱交換器46の内側に流入可能である。
【0030】
〔固相率測定システム〕
固相率測定システム14は、少なくとも1つのセンサと、センサの出力信号を処理して、冷媒の固相率に対応する制御量を求める測定装置54とからなる。本実施形態では、センサは二重円筒形コンデンサであり、測定装置54は、静電容量測定装置である。二重円筒形コンデンサは同心上の内筒と外筒からなり、二重管24内に配置されている。二重円筒形コンデンサでは、内筒と外筒の間に存在する冷媒の固相率に応じて、静電容量が変化する。
【0031】
本実施形態では、固相率測定システム14は、高さ方向にて異なる位置に配置された3つのセンサを有する。最も低い位置に配置されたセンサ(下位センサ56a)は、二重管24の下側連通空間44、すなわち底部に設置されている。中間位置に配置されたセンサ(中位センサ56b)は、低位センサ56aよりも高い位置に配置され、内管20の径方向にて内管20の外周よりも外側に配置されている。
【0032】
最も高い位置に配置されたセンサ(上位センサ56c)は、外側空間40に配置されており、中位センサ56bよりも高い位置に設置されている。測定装置54は、これら3つの下位、中位及び上位センサ56a,b,cの各々の静電容量を個別に測定可能である。
なお、静電容量に基づく固相率の測定原理は、特開2010−223740号公報に詳細に記載されている。
【0033】
〔制御装置〕
制御装置16は、例えば、コンピュータによって構成され、CPU(中央演算処理装置)、メモリ、外部記憶装置、入出力装置、及び、通信装置を有する。制御装置16には、固相率測定システム14によって測定された制御量が入力される。制御装置16は、二重管24内で導電部材冷却用冷媒が循環するように、入力された制御量に基づいて、換言すれば、冷媒の固相率に基づいて、スラッシュ窒素生成システム12の冷凍システム48を制御するように構成されている。
【0034】
具体的には、制御装置16は、下側連通空間44、即ち、二重管24の底部における冷媒の固相率が適正な循環流量での運転が可能となるような設定範囲内に入るように、冷凍システム48を制御する。
【0035】
固相率は、単位質量当たりにおける、全窒素質量(A)に対する、固相の窒素質量(B)の比(B/A)である。固相の窒素の比誘電率は1.516であるのに対し、液相の窒素の比誘電率は1.475であり、冷媒の比誘電率は固相率に応じて変化する。測定装置54によって測定された静電容量から冷媒の比誘電率を演算し、演算した比誘電率と、予め求めておいた固相率と比誘電率の関係に基づいて、固相率を求めることができる(図7)。
【0036】
二重管24の底部における冷媒の固相率が適正な循環流量での運転が可能となるような設定範囲内にある場合、以下のようにして、二重管24内を冷媒が循環する。
(1)上側連通空間42、即ち二重管24の天井部にある熱交換器46により、サブクール状態の液体窒素が凝固点まで冷やされ、熱交換器46の表面には固体の窒素膜が形成される。この窒素膜がオーガ50によって掻き落とされることにより、微細な固体窒素粒子が生成される。つまり、固体窒素粒子と液体窒素からなるスラッシュ窒素が生成される。
(2)固体窒素(密度0.946g/cm)の密度は、液体窒素(63.2Kで密度0.867g/cm)の密度より1割程度大きいため、生成した固体窒素粒子は内側空間38を沈降する。そして、固体窒素粒子は、下側連通空間44、すなわち二重管24の底部の第1リード部材34まで到達する。内側空間38を沈降中の固体窒素粒子は、断熱部材32の存在によって、第1リード部材34に到達するまで熱を受けることがない。
(3)固体窒素粒子が第1リード部材34まで到達すると、固体窒素粒子の融解潜熱により第1リード部材34が冷却され、固体窒素粒子は融解して液体窒素になる。二重管24の底部における冷媒の固相率が設定範囲内にある場合、連続的に供給される固体窒素粒子が上位センサ56cのレベルもしくは56cの上位のレベルで全て融解する。
(4)内側空間38のスラッシュ窒素により二重管24の底部の冷媒に作用する圧力と、外側空間40のサブクール状態の液体窒素により二重管24の底部の冷媒に作用する圧力との間には、スラッシュ窒素と液体窒素の密度差により、差が生じる。この圧力差に基づいて、二重管24の底部で融解により生じた液体窒素は、外側空間40内を上昇する。液体窒素は、上昇中、第1導電部材26、第2導電部材28及び第2リード部材36を冷却し、これにより液体窒素の温度が上昇する。
(5)温度上昇した液体窒素は、二重管24の天井部まで到達する。以下(1)〜(5)が繰り返され、冷媒が循環する。
【0037】
なお、本実施形態では、以下に説明するように、下位センサ56a、中位センサ56b及び上位センサ56cの3つのセンサを用いて、二重管24の底部での冷媒の固相率が設定範囲に確実に入るように制御を行っている。
上位センサ56cの位置において、外側空間40の冷媒は液体窒素である。液体窒素の比誘電率は1.475であるのに対し、固体窒素の比誘電率は1.516であり、固体窒素粒子を含むスラッシュ窒素の比誘電率は、固相率に応じて、液体窒素よりも高くなる。
【0038】
このため、二重円筒形コンデンサの静電容量は、外筒と内筒の間の冷媒がスラッシュ窒素である場合、液体窒素である場合よりも高くなる。具体的には、二重円筒形コンデンサの静電容量は、冷媒がたとえば固相率50%のスラッシュ窒素である場合、液体窒素である場合よりも約1.5%増加する。
【0039】
制御装置16は、上位センサ56cの静電容量の測定値が第1設定範囲に入り、且つ、下位センサ56aの静電容量の測定値が第2設定範囲に入るように、冷凍システム48の冷却能力を制御する。第2設定範囲に対応する固相率は、前記第1設定範囲に対応する固相率よりも高い。
【0040】
更に、制御装置16は、中位センサ56bの静電容量の測定値が、第3設定範囲に入るように、冷凍システム48の冷却能力を制御している。
上位センサ56cの静電容量測定値が第1設定範囲内にあり、下位センサ56aの静電容量測定値が第2設定範囲内にある場合でも、固相率の分布が一意に定まるとは限らない。図3中の線bで示すように、下位センサ56aから上位センサ56bに向かって位置が高くなるのに従って固相率が徐々に低下するという望ましい固相率分布ではなく、図3中の線aで示すように、下位センサの直上で固相率が急激に減少し、下側連通空間44内の固体量が相対的に少ない状態、図3中の線cで示すように、上位センサの直下で固相率が急激に減少し、下側連通空間44内の固体量が相対的に多い状態もありえる。
【0041】
そして、図3中の線aの状態からの更なる固体量の減少、図3中の線cの状態からの更なる固体量の増加が進むと、循環流量の減少または喪失や固体過多による閉塞が発生する。これらは循環運転の安定性を損なう。中位センサ56bを設け、中位センサ56bの測定値が第3設定範囲に入るように運転することで、下側連通空間44内の固相率分布を望ましい固相率分布に保つことが可能となり、循環の安定性向上に寄与する。
【0042】
上述した一実施形態の超電導送電システムでは、制御装置16によりスラッシュ窒素生成システム12の冷却能力を制御することによって、二重管24内での導電部材冷却用冷媒の循環を実現しており、二重管24内で導電部材冷却用冷媒を循環させるための循環ポンプが不要である。このため、循環ポンプの設置、保守及び点検の必要が無く、冗長性確保のために複数の循環ポンプを用意する必要もない。この結果として、この超電導送電システムは、導入コスト及び運転コストが低減されながら、長期に亘り安定に動作する。
そして、下側連通空間44における冷媒の固相率に対応する制御量に基づいて、スラッシュ窒素生成システム12の冷却能力を制御することにより、内側空間38へのスラッシュ窒素の供給量が常に適正に保たれ、二重管24内を冷媒が安定に循環する。
【0043】
上述した一実施形態の超電導送電システムでは、それぞれ二重円筒形コンデンサからなる上位センサ56c及び下位センサ56aの静電容量を測定し、上位センサ56cの静電容量の測定値が第1設定範囲に入るように、且つ、下位センサ56aの静電容量の測定値が第2設定範囲に入るように冷却能力が制御される。
この構成によれば、上位センサ56cの静電容量の測定値の絶対値のみならず、下位センサ56aの静電容量の測定値に基づいて制御を行っているので、下側連通空間44における冷媒の固相率を所望の設定範囲に入れることができる。
【0044】
上述した一実施形態の超電導送電システムでは、更に、二重円筒形コンデンサからなる中位センサ56bの静電容量を測定し、中位センサ56bの静電容量の測定値が第3設定範囲に入るように冷却能力が制御される。
この構成によれば、中位センサ56bの静電容量の測定値に更に基づいて制御を行っているので、下側連通空間44における冷媒の固相率を所望の設定範囲に確実に入れることができる。この結果として、二重管24内を冷媒が安定に循環する。
【0045】
〔適用例1〕
図4は、超電導送電システムを建築構造物に適用した例を示す例である。本例では、建築構造物は、データセンタ等の建物である。
二重管24は、建物の複数階に渡って鉛直方向に沿って配置されている。商用電源は、変圧器62によって変圧されてから整流器60に入力される。整流器60は第1リード部材34に接続されており、整流器60は、交流電流を直流電流に変換して第1リード部材34に入力する。
第2リード部材36は各階に対応して設けられており、第2リード部材36に直流タイプの負荷64が接続されている。負荷64は、例えばサーバラックである。
この例では、低圧の直流電流を、低損失にて負荷64に供給可能である。
【0046】
〔適用例2〕
図5は、超電導送電システムを土木構造物に適用した例を示す図である。本例では、土木構造物は水力発電所である。
二重管24は、ダムの堤体に沿って配置されている。第1リード部材34は堤体の下側に位置し、水力発電機70に接続されている。一方、第2リード部材36は堤体の上側に位置し、変圧器72に接続されている。変圧器72は、湿度や水分を嫌うためにダム上部に設置されるのが一般的である。放水により水力発電機70が発生した電力は、超電導送電システム及び変圧器72を通じて、送電網に供給される。
なお、超電導送電システムは揚水発電所にも適用可能であり、この場合、水力発電機70が揚水ポンプ(揚水機)としての機能を有する。
【0047】
〔適用例3〕
図6は、2つの超電導送電システムを土木構造物に適用した例を示す図である。土木構造物は、河川横断工である。
この場合、河川の両岸から、2つの二重管24が河川の地下に斜めに配置され、2つの第1リード部材34が、河川の下で接続部材74によって電気的に接続されている。2つの冷凍システム48は河川の両岸に設置される。
この例によれば、河川の景観に影響を与えることなく、低損失で河川を越えて電力を送電することができる。
【0048】
本発明は上述した一実施形態に限定されることはなく、一実施形態に変更を加えた形態も含む。
例えば、一実施形態では、制御量として静電容量を用いたが、制御量は、下側連通空間44における冷媒の固相率に対応するものであればよい。例えば、センサとして水晶振動子を用いて、制御量として、水晶振動子の振動数を測定してもよい。
【0049】
また、一実施形態では、スラッシュ窒素生成システム12は、オーガ法によりスラッシュ窒素を生成しているが、スラッシュ窒素の生成方法は特に限定されることはない。
一方、超電導送電システムの適用対象も上記建築構造物及び土木構造物に限定されることはない。
【符号の説明】
【0050】
10 超電導ケーブル
12 スラッシュ窒素生成システム
14 固相率測定システム
16 制御装置
20 内管
22 外管
24 二重円筒
26 第1導電部材
28 第2導電部材
30 絶縁部材
32 断熱部材
34 第1リード部材
36 第2リード部材
38 内側空間
40 外側空間
42 上側連通空間
44 下側連通空間
46 熱交換器
48 冷凍システム
50 オーガ
52 モータ
54 測定装置(静電容量測定装置)
56a 下位センサ
56b 中位センサ
56c 上位センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7