(54)【発明の名称】微粒子製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、正極活物質及びこれを用いたリチウムイオン二次電池並びに微粒子製造用原料エマルション
【文献】
SHAO, B. et al.,Synthesis of Li2FeSiO4/C nanocomposite cathodes for lithium batteries by a novel synthesis route and their electrochemical properties,Journal of Power Sources,2012年,Vol. 199,p. 278-286
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
可燃性液体中に、表面が親水性のシリコン含有微粒子と、リチウム源に加えてシリコンとリチウム以外の原料金属源を少なくとも含む原料溶液が液滴として、分散している油中水型エマルションである原料エマルションを作製する工程と、
前記原料エマルションを液滴状に噴霧する工程と、
前記液滴中の可燃性液体を燃焼させて、微粒子を形成する工程と、
を具備することを特徴とする微粒子製造方法。
リチウムをLi、シリコンをSi、さらにFe、Mn、Ti、Cr、V、Ni、Co、Cu、Zn、Al、Ge、Zr、Mo、Wよりなる群から選ばれる1種もしくは2種類以上の金属元素をMとし、Ti、Cr、V、Zr、Mo、W、P、Bよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素をXとした場合に、前記微粒子の組成が、一般式LiyMSi1−zXzO4(1≦y≦2、0≦z<0.4)で表されることを特徴とする請求項1に記載の微粒子製造方法。
前記原料溶液がリチウムおよび、リチウムとシリコン以外の原料金属の硝酸塩、水酸化物、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩からなる群より選ばれる1以上の原料を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の微粒子製造方法。
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の微粒子製造方法で製造した微粒子と、有機高分子材料、糖類、多価アルコール類、炭素質材料からなる群より選ばれる一つ以上の炭素源を混合した後、不活性ガス雰囲気で焼成することにより、オリビン構造を有するケイ酸遷移金属リチウム化合物に変化させることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
可燃性液体中に、表面が親水性のシリコン含有微粒子と、リチウム源に加えてシリコンとリチウム以外の原料金属源を少なくとも含む原料溶液の液滴が、分散している油中水型の微粒子製造用原料エマルション。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シロキサンとリチウムや鉄を含む複数の有機金属化合物を可燃性の有機溶剤に溶解して作成した原料溶液をバーナーの先端に取付けたノズルから噴霧して燃焼させる方法では原料の燃焼性がよく、微粒子が得られるものの、原料が高価であるため、コストが高くなる問題があった。一方、金属塩等を水系溶媒中に溶解させて作製した原料溶液を用いた場合は、複数の有機金属化合物を可燃性の有機溶剤に溶解させた場合と比較し、安価であるものの噴霧した際の燃焼性が悪く、比較的大きな粒子が混入することがあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、このような状況を鑑み、噴霧燃焼法において、粒径が小さく特性に優れたケイ酸塩系のリチウムイオン二次電池用活物質を安価に製造することができる金属微粒子の製造方法、これを用いたリチウムイオン二次電池と、その原料エマルションを提供することを目的とする。
【0008】
前述した目的を達成するために、本発明は以下の特徴を有する。
(1)可燃性液体中に、シリコン含有微粒子と、リチウム源に加えてシリコンとリチウム以外の原料金属源を少なくとも含む原料溶液が液滴として、分散している油中水型エマルションである原料エマルションを作製する工程と、前記原料エマルションを液滴状に噴霧する工程と、前記液滴中の可燃性液体を燃焼させて、微粒子を形成する工程と、を具備することを特徴とする微粒子製造方法。
(2)リチウムをLi、シリコンをSi、さらにFe、Mn、Ti、Cr、V、Ni、Co、Cu、Zn、Al、Ge、Zr、Mo、Wよりなる群から選ばれる1種もしくは2種類以上の金属元素をMとし、Ti、Cr、V、Zr、Mo、WP、Bよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素をXとした場合に、前記微粒子の組成が、一般式Li
yMSi
1−zX
zO
4、1≦y≦2、0≦z<0.4)で表されることを特徴とする(1)記載の微粒子製造方法。
(3)前記原料エマルションに、界面活性剤を含むことを特徴とする(1)または(2)に記載の微粒子製造方法。
(4)前記界面活性剤のHLBが3〜6の非イオン系界面活性剤であることを特徴とする(3)に記載の微粒子製造方法。
(5)前記可燃性液体中に分散している前記原料溶液の液滴の平均粒径が0.5〜10μmであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の微粒子製造方法。
(6)噴霧された前記原料エマルションの液滴の平均粒径が5〜500μmであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の微粒子製造方法。
(7)前記シリコン含有微粒子が、二酸化ケイ素またはケイ酸リチウムを含む微粒子であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の微粒子製造方法。
(8)前記原料溶液がリチウムおよび、リチウムとシリコン以外の原料金属の硝酸塩、水酸化物、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩からなる群より選ばれる1以上の原料を含むことを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載の微粒子製造方法。
(9)前記可燃性液体が、1種類以上の油性の燃料を含むことを特徴とする(1)〜(8)のいずれか1項に記載の微粒子製造方法。
(10)(1)〜(9)のいずれかに記載の微粒子製造方法で製造した微粒子と、有機高分子材料、糖類、多価アルコール類、炭素質材料からなる群より選ばれる一つ以上の炭素源を混合した後、不活性ガス雰囲気で焼成することにより、オリビン構造を有するケイ酸遷移金属リチウム化合物に変化させることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
(11)(10)に記載の製造方法を用い作製したケイ酸塩系のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
(12)(11)に記載の正極活物質を用い作製した、リチウムイオン二次電池。
(13)可燃性液体中に、シリコン含有微粒子と、リチウム源に加えてシリコンとリチウム以外の原料金属源を少なくとも含む原料溶液の液滴が分散している油中水型の微粒子製造用原料エマルション。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、噴霧燃焼法において、粒径の小さく特性に優れたケイ酸塩系のリチウムイオン二次電用正極活物質と、これを安価に製造する方法を提供することができる。これを用いたリチウムイオン二次電池と、微粒子製造用原料エマルションと微粒子製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
(微粒子製造装置11)
図1は、第1の実施形態にかかる微粒子製造装置11を説明する模式図である。微粒子製造装置11は、原料エマルション13と噴霧ガス17が供給されて原料エマルション13の液滴21を含む原料流19を噴出する噴霧ノズル15と、原料流19に着火する着火源23と、を具備する。着火源23は、噴霧ノズル15に続いて設置され、原料流19及び噴霧ガス17に着火し、火炎25を形成する。
【0013】
(原料エマルション13)
微粒子製造装置11にて、ケイ酸塩系リチウムイオン二次電池用活物質原料を製造するため、原料エマルション13には、少なくともリチウム源、シリコン源と、リチウムとシリコン以外のその他の原料金属源を含む。原料エマルション13にリチウム源と、シリコン源と、それ以外の原料金属源を含むことで、得られる微粒子27は、リチウムの酸化物、シリコンの酸化物と、リチウムとシリコン以外の金属の酸化物およびそれらの複合酸化物などを含み、この微粒子を結晶化することでオリビン構造を持つリチウム遷移金属シリケートを形成することができる。例えば、リチウムとシリコン以外の原料金属として、鉄を用い、各元素の化学量論的組成比でLi:Fe:Si=2:1:1になるよう原料エマルション13を調合することにより、オリビン構造を持つケイ酸鉄リチウム(Li
2FeSiO
4)を製造することができる。
【0014】
ここで、本発明で得られる微粒子の組成は、リチウムをLi、シリコンをSi、さらにFe、Mn、Ti、Cr、V、Ni、Co、Cu、Zn、Al、Ge、Zr、Mo、Wよりなる群から選ばれる1種もしくは2種類以上の金属元素をMとし、Ti、Cr、V、Zr、Mo、W、P、Bよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素をXとした場合に、前記微粒子の組成が、一般式Li
yMSi
1−zX
zO
4、1≦y≦2、0≦z<0.4)で表されるものとすることができる。特に、遷移元素以外のP、BをXに含める場合に、Pの場合には、使用する原料としては、リン酸(H
3PO
4)、リン酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)、リン酸アンモニウム((NH
4)
3PO
4)を用いることができ、Bの場合には、ホウ酸(H
3BO
3)、ホウ酸アンモニウム(NH
4B
5O
8)およびこれらの水和物等を用いることができる。
【0015】
図2に示すように、原料エマルション13は、可燃性液体31中に、シリコン含有微粒子37とリチウムイオンに加えて、リチウムとシリコン以外の原料金属イオンを含む原料溶液33が液滴として分散している油中水型エマルションである。
【0016】
(可燃性液体31)
可燃性液体31は、可燃性の液体であれば特に限定されないが、灯油、ケロシン、軽油、ガソリン、テレビン油、重油、ヘキサン、オクタン、デカン、ドデカン、キシレン、トルエン、ジメチルエーテルからなる群より選ばれる1以上の燃料を含むことが好ましい。価格と取扱性の観点から特に灯油と軽油が特に好ましく、灯油と軽油の混合物を用いることができる。
【0017】
(シリコン含有微粒子37)
原料溶液33中に分散しているシリコン含有微粒子37は、シリコンを含有している微粒子であれば特に限定されないが、二酸化ケイ素(SiO
2)またはケイ酸リチウム(Li
2SiO
3)を含む微粒子であることが好ましい。シリコン含有微粒子37中に正極活物質に含有されるべきでない他の金属元素を含まないためである。
【0018】
シリコン含有微粒子37の粒径は小さければ小さいほど、得られる微粒子の粒径が小さくなり、ひいては得られる正極活物質の粒径が小さくなることから、好ましい。シリコン含有微粒子37の一次粒子の平均粒径は、50nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましい。シリコン含有微粒子37の平均粒径は、電子顕微鏡での観察や、動的光散乱法により求めることができる。
【0019】
また、シリコン含有微粒子37は、表面が親水性であるため、可燃性液体31ではなく、原料溶液33に分散される。シリコン含有微粒子の種類によってはエマルションが長時間にわたって安定化されるピッカリング・エマルションの形成が可能である。
【0020】
(原料金属)
原料溶液33には、シリコン含有微粒子、リチウム源に加えて、リチウムとシリコン以外の原料金属源を含むが、原料溶液33に含まれるに含まれるその他のリチウムとシリコン以外の原料金属としては、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)などを、単独または複数組み合わせて使用できる。原料溶液33には、リチウムに加えてリチウムとシリコン以外の原料金属の、硝酸塩、水酸化物、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩等からなる群より選ばれる1以上の原料を含むことが好ましい。例えばリチウム源としては、硝酸リチウム、塩化リチウム、炭酸リチウム等を用いることができる。リチウム、シリコン以外の原料金属として鉄を使用した場合は、鉄源として、硝酸鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄等を用いることができる。
【0021】
(界面活性剤35)
なお、原料エマルション13は、可燃性液体31中に原料溶液33が液滴として分散している油中水型エマルションである。この状態を安定的に保つためには、界面活性剤35が添加されていることが好ましい。界面活性剤35は、親水基を原料溶液33に向け、親油基を可燃性液体31に向けることで、原料溶液33を安定的に可燃性液体31に分散させることができる。界面活性剤を用いない場合は、
図6に示す別の例に係る微粒子製造装置61のようにノズル直前に乳化機(ホモジナイザー63)を設け、出た直後に原料エマルション13を噴霧ノズル15に供給することで油中水型エマルションである状態を保ったまま噴霧され、液滴21を形成可能である。このようにすれば、シリコン含有微粒子、リチウムイオンに加え、リチウムとシリコン以外の原料金属イオンを含む原料溶液33を、可燃性液体31中に乳濁させて、界面活性剤35を用いないでも、可燃性液体31中に原料溶液33が液滴として分散している油中水型エマルションである原料エマルション13を作成できる。その後、原料エマルション13を液滴状に噴霧して、液滴中の可燃性液体31を燃焼させ、微粒子27を形成することができる。
【0022】
界面活性剤35としては、HLB(親水・親油バランス)が3〜6の非イオン系界面活性剤を使用することが好ましい。HLBとは、親水性親油性バランスのことである。HLBが3〜6の低HLBの界面活性剤を使用することで、親油基を外側に親水基を内側にして水の粒子を閉じ込める油中水型(W/O型、Water in oil型)のエマルションを安定して形成することができる。ここで、HLBが3未満であると、親水性が少ないことからW/O型のエマルションが形成されにくく、HLBが6を超えると、W/O型のエマルションが不安定となり、O/W型のエマルションが形成しやすくなるため望ましくない。従って、HLB値の望ましい範囲は、上記のように3〜6となる。
また、陽イオン性や陰イオン性の界面活性剤の多くは、界面活性剤中に、炭素や水素以外の金属成分を含むため、その金属成分が得られた微粒子に不純物として混入したり、装置に影響を与えたりする可能性があるため、界面活性剤35としては非イオン系界面活性剤を使用することが好ましい。界面活性剤35としては、モノオレイン酸ソルビタン(商品名:花王製レオドールSP−O10V)などの脂肪酸エステル型非イオン系界面活性剤を用いることができる。
【0023】
原料エマルション13は、油中水型エマルションであることが好ましい。油中水型エマルションである場合、原料エマルション13中の原料溶液33の液滴が、水溶液を噴霧して得られる液滴よりも大きさが小さいため、粒径の小さい微粒子を得ることができる。すなわち、原料溶液33をそのまま噴霧ノズル15で噴霧しても、粒径数μmの液滴を得ることは困難であるが、エマルション内には粒径数μmの原料溶液の微細な液滴を作ることができる。原料溶液33の液滴が微細であるために、原料溶液33への熱伝導が早く、粒径が小さな微粒子が生成する。
【0024】
また、原料エマルション13が油中水型エマルションであるため、液滴の表面の可燃性液体が着火しやすい。また、原料溶液が油中に小さな液滴として分散しているため、粒径の小さい粒子を得ることができる。さらに、油相及び水相の比率を制御することで、原料溶液の液滴が加熱により、分裂して、可燃性液体の微小液滴が生成するため、原料エマルションの燃焼が促進される。
一方、水中油型(O/W型、Oil in water型)のエマルションである場合、火炎と接触する液滴の表面が水相であるため、着火しにくい。また、原料溶液が液滴として分散していないため、加熱の際に粗大粒子が生成する可能性がある。
【0025】
原料溶液33は、可燃性液体31中に分散していれば特に粒径などに限定はないが、原料エマルション13中の原料溶液33の液滴の平均粒径が0.5〜10μmであることが好ましい。この程度の平均粒径であれば、原料溶液33の液滴の内部まで燃焼時に熱が伝わりやすく、微粒子を生成しやすいためである。原料溶液33の液滴の粒径は、界面活性剤の濃度や種類、エマルション作成時の乳化方法、ホモジナイザーの回転数などで調整可能である。
【0026】
原料エマルション13中の原料溶液33の液滴の粒径については、光学顕微鏡により原料溶液の液滴の粒子径を観察することで得られる。
【0027】
また、原料エマルション13中の原料溶液33と可燃性液体31の質量比が10:90〜85:15であることが好ましい。さらに、両者の質量比が40:60〜80:20、さらには、40:60〜75:25であることがより好ましい。
【0028】
なお、原料エマルション13の燃焼性を上げるため、原料エマルション13に過酸化水素などの酸化性液体を加えてもよい。
【0029】
(噴霧ノズル15)
噴霧ノズル15は、二流体噴霧ノズルであり、供給された原料エマルション13を、液滴化し、原料流19として噴出する。噴霧ノズル15には、原料エマルション13と噴霧ガス17が供給され、高速の噴霧ガス17の気流により、原料エマルション13が粉砕され、微細な液滴21になる。
【0030】
噴霧ガス17としては、窒素、アルゴン、酸素、空気又はこれらの混合ガスを用いることができる。特に、原料流19の着火を容易にするために、噴霧ガス17としては、酸素を用いることが好ましい。また、原料流19の可燃性を向上させるために、噴霧ガス17に可燃性ガスと支燃性ガスの予混合ガスを用いても良い。
【0031】
(液滴21)
原料流19には、原料エマルション13の液滴21が含まれる。
図3に示すように、液滴21では、可燃性液体31中に、シリコン含有微粒子とリチウムイオンに加え、リチウムとシリコン以外の原料金属イオンを含む原料溶液33が液滴として分散している。
【0032】
噴霧された原料流19中の原料エマルション13の液滴21の平均粒径が5〜500μmであることが好ましく、10〜50μmであることがより好ましい。この程度の大きさであれば、原料エマルション13を噴霧した際に液滴21が燃焼しやすいためである。
【0033】
噴霧された原料流19中の原料エマルション13の液滴21の粒径は、噴霧した液滴21を、位相ドップラー式レーザー粒子分析計を用いて評価することで得られる。位相ドップラー式レーザー粒子分析計は、2本のレーザー光の交差点を液滴21が通過する際に得られるドップラー周波数の位相差を用いて、非接触で液滴21の粒径を求めることができる。
【0034】
図1のように、着火源23は、パイロットバーナーとも呼ばれ、噴霧ノズル15から噴出された原料流19を着火する。着火源23は、噴霧ノズル15の先に設置され、特に噴霧ノズル15の先端の近傍に設置される。着火された原料流19は、火炎25を形成する。原料流19に含まれる液滴21は、火炎25にて高温にさらされ、酸化、凝集して微粒子27を形成する。
【0035】
図4は、微粒子製造装置11と微粒子回収装置43の構成を示す図であり。微粒子製造装置11の主要部分はチャンバー41内に配置され、チャンバー41に続いて微粒子回収装置43が設けられる。
【0036】
(第1の実施形態にかかる微粒子製造装置による微粒子製造方法)
以下、
図1を参照して、第1の実施形態にかかる微粒子製造装置11を用いた微粒子製造方法を説明する。
【0037】
まず、原料エマルション13が噴霧ノズル15に供給される。噴霧ノズル15は、噴霧ガス17が供給される二流体噴霧ノズルであり、原料エマルション13を液滴化して、原料流19を噴出する。
【0038】
次に、着火源23により原料流19が着火され、火炎25が形成される。火炎25中で原料エマルション13の液滴21から微粒子27が形成される。
【0039】
次に、
図4に示すように、微粒子製造装置11において火炎25中に形成された微粒子27が、微粒子製造装置11が設けられたチャンバー41内をとおり、バグフィルターやサイクロン等の微粒子回収装置43により回収される。
【0040】
図5は、噴霧燃焼法における微粒子の生成を説明する図である。原料エマルション13が噴霧ノズル15から噴霧され、粒径が数μm〜数百μmの液滴21のミスト(原料流19)が形成され、火炎25中で液滴21が加熱されることで微粒子27を生成する。火炎25中において、液滴21の可燃性液体31が燃焼し、原料溶液33の溶媒は蒸発し、シリコン含有微粒子37を核として、原料エマルションに含まれるリチウムと、シリコンと、リチウムとシリコン以外の原料金属が燃焼反応により酸化され、核粒子51が形成される。さらに、火炎25中において、核粒子51が、合体・凝集して、粒径が数十〜100nm程度の一次粒子53が形成される。チャンバー41内で生成された、核粒子51や一次粒子53などの微粒子27が、微粒子回収装置43で回収される。微粒子27を含む気流は、微粒子回収装置43で微粒子27が回収された後、排気45として排出される。
【0041】
(第1の実施形態の効果)
第1の実施形態に係る微粒子製造装置11は、油中水型の原料エマルション13を使用し、液滴21の表面に可燃性液体31が露出しているため、着火源23により容易に着火して火炎25を形成することができる。また、原料エマルション13では、原料溶液33が微細な液滴状に含まれているため、粗大な粒子が生成することがない。また、水溶媒を使用した時と異なり、液滴21の内部まで速やかに加熱されるため、液滴21から均一に微細な微粒子27が生成し、粗大な粒子が混入することがない。
【0042】
また、原料エマルション13には、安価な水溶性のリチウム源に加えて、リチウムとシリコン以外の原料金属源を使用することができるため、原料コストを抑えることが可能である。特に、界面活性剤を用いた場合でも、可燃性液体に可溶なリチウム源や、可燃性液体に可溶な原料金属源を使用する場合よりも原料コストを抑えることができる。
【0043】
(バーナー)
また、第1の実施形態に係る微粒子製造装置11や微粒子製造装置61には、原料流19が供給される火炎を形成するリング状バーナーを有してもよい。原料流19が供給される火炎を形成するリング状バーナーを有してもよい。リング状バーナーは、可燃性ガスと支燃性ガスとが供給されたガス導入管の環状部分に、複数の火口が設けられる。そして、リング状バーナーにより形成された火炎に、原料流19が供給される。原料流19が供給される火炎を形成できるのであれば、バーナーとしてはリング状バーナーに限られず、火口が一つのバーナーなども使用できる。可燃性ガスは、特に限定されないが、炭化水素ガスや、水素ガスなどを用いることができる。また、支燃性ガスは、特に限定されないが、空気や酸素などを用いることができる。
【0044】
(噴霧制御ガス噴出部)
また、第1の実施形態に係る微粒子製造装置11や微粒子製造装置61には、噴霧ノズル15の周囲に設けられ、先端から噴霧制御ガスを噴出するノズルフードを設けても良い。ノズルフードは、多重管構造のフードである。ノズルフードの役割は、噴霧ノズル15の先端部をバーナーの輻射熱から保護して噴霧ノズル15の詰まりを防止することと、ノズルフードの先端から噴霧制御ガスを流して、噴霧された原料流19を覆う様なガス流を形成し、原料流19の指向性及び流速を制御することにある。噴霧制御ガスとしては、窒素、アルゴン、酸素、空気又はこれらの混合ガスを用いることができる。このように原料流19の指向性及び流速を制御することで、火炎25中に供給される原料流19の割合を増やして効率良く微粒子27を生成するとともに、火炎25中の原料の滞留時間を制御することで、粒子径を制御することができる。
【0045】
(正極活物質の製造方法)
噴霧燃焼法により得られた、ケイ酸塩系リチウムイオン二次電池用活物質の前駆体である微粒子を結晶化処理することで、非水電解質二次電池の正極活物質を得ることができる。特に、前駆体粒子を炭素源と混合した後に、不活性ガス充填雰囲気下で焼成することが好ましい。例えばケイ酸鉄リチウムの場合、前駆体粒子内では鉄成分は主に3価の状態で存在しているが、適切な還元雰囲気で焼成することにより、鉄成分が2価へと変化し、その結果、オリビン構造を持ちリチウムイオン二次電池用活物質として機能するケイ酸鉄リチウムの結晶が得られる。
【0046】
不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ネオンガス、ヘリウムガス、二酸化炭素ガスなどを使用することができる。また、生成物の導電性を高めるために、炭化水素ガス充填雰囲気において加熱処理を行ってもよい。熱処理後の生成物の導電性を高めるための炭素源としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボシキメチルセルロースなどの有機高分子材料、グルコース、ショ糖等の糖類、グリセリン、エチレングリコール等の多価アルコール類、カーボンブラック、グラファイト紛等の炭素質物質等を用いることができる。ただし加熱処理により還元性のある炭素源が生成する物質であれば、これらに限定されるものではない。
【0047】
前駆体粒子の結晶化と共に炭素によるコーティングまたは担持処理を同一焼成工程で行うことが好ましい。熱処理条件は温度300〜900℃と処理時間0.5〜10時間の組み合わせで適宜所望の結晶性と粒径の焼成物を得ることができる。高温や長時間の熱処理による過大な熱負荷は粗大な単結晶を生成させ得るので回避すべきであり、所望の結晶性または微結晶性の正極活物質が得られる程度の加熱条件で、結晶子の大きさを極力小さく抑制できる熱処理条件が望ましい。熱処理の温度は400〜800℃程度であることが好ましい。
【0048】
なお、得られた正極活物質は、焼成工程において凝集している場合は、乳鉢やボールミルほか粉砕手段に掛けることにより、再び粉末状にすることもできる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明する。
<実施例1>
硝酸リチウム(LiNO
3)と硝酸鉄9水和物(Fe(NO
3)
3・9H
2O)を純水に溶解し、さらにシリカ微粒子(アエロジル300(日本アエロジル製)、平均一次粒径7nm)を加えて原料溶液を作製した。また、可燃性液体として灯油を用意した。その後、界面活性剤として花王製レオドールSP−O10V(モノオレイン酸ソルビタン、HLB値が4.3)を使用し、原料溶液:可燃性液体:界面活性剤の重量比が65:33.5:1.5となる割合で、金属製の攪拌羽根を有するホモジナイザーに投入し、1万rpmで10分間撹拌し、油中水型の原料エマルションを作製した。なお、リチウム源と鉄源とシリコン源は、原料エマルション中のLiとFeとSiがLi
2FeSiO
4の化学量論比である2:1:1となるようにした。また、原料エマルション中の濃度は、原料エマルション1kgから生成されるLi
2FeSiO
4が0.5molとなるようにした。
【0050】
図7は、実施例1に係る原料エマルションを光学顕微鏡により観察した写真である。原料エマルション中に原料溶液の液滴が観察され、粒子径(液滴径)は1.5μm程度であった。
【0051】
この原料エマルションを
図1に示す微粒子製造装置11を用いて、微粒子を製造した。まず、原料エマルションを二流体噴霧ノズル(噴霧ノズル15)から噴霧した。噴霧に使用したガスは酸素ガスであった。噴霧した原料ミスト(原料流19)を着火源23にて着火し、火炎25を形成した。その結果、微粒子27が得られた。生成した微粒子はバグフィルターで回収した。
【0052】
得られた微粒子を、5wt%ポリビニルアルコール水溶液中に微粒子とポリビニルアルコールが乾燥重量比で10:1になるように分散し、水分を蒸発後、N
2ガス雰囲気下で、650℃で8時間の焼成を行った。焼成中にポリビニルアルコールの炭化と遷移金属の還元が起き、ケイ酸鉄リチウムの生成と結晶化が起きる。得られた凝集体に粉砕処理を行い、正極活物質を得た。
【0053】
図8は炭素被覆後の正極活物質をX線回折測定を行った結果である。
図8の横軸上の黒点はオリビン型のケイ酸鉄リチウム(Li
2FeSiO
4)に由来するピークが観察される箇所を示す。実施例1においてオリビン型のケイ酸鉄リチウム(Li
2FeSiO
4)の結晶が得られたことがわかる。
【0054】
図9は、炭素被覆後の正極活物質を走査型電子顕微鏡で観察した結果である。粒径が50〜200nm程度の微粒子が観察された。また、正極活物質の比表面積をBET法により測定したところ、16.2m
2/gであった
【0055】
(電池特性の評価)
実施例1で得られた正極活物質に対して、導電助剤(カーボンブラック)を10重量%となるように混合し、さらに混合粉末と結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液を、乾燥重量比で90:10の割合で混合した後、自公転式ミキサーを用いて十分混練し、正極スラリーを得た。
【0056】
厚さ20μmのアルミニウム箔集電体に、正極スラリーを50g/m
2の塗工量で塗布し、120℃で30分間乾燥した。その後、ロールプレス機で圧延加工し、直径16mmの円盤状に打抜いて正極とした。
【0057】
これらの正極を80℃で8時間真空乾燥した後、露点−60℃以下のアルゴン置換のグローブボックス内で負極に金属リチウム、電解液にエチレンカーボネート及びジエチルカーボネートを体積比1:1の割合で混合した混合溶媒にLiPF6を1Mの濃度で溶解したものを、またセパレータに厚さ20μmのポリオレフィン性微孔質膜を用い、直径20mm×厚さ1.6mmの2016型のコイン型電池を作製した。
【0058】
次に、前記のコイン型リチウム二次電池により、正極活物質の電極特性の試験評価を、次のように実施した。
試験温度25℃、0.1Cの電流レートにて、CC−CV法により、4.5V(対Li/Li
+)まで充電を行い、その後電流レートが0.01Cまで低下した後に充電を停止した。その後、0.1Cレートにて、CC法により1.5V(前記に同じ)まで放電を行って、初回放電容量を測定した。
【0059】
図10に、実施例1に係る正極活物質と、比較例として有機金属化合物を可燃性の有機溶媒に溶解した原料溶液を用いて作製した正極活物質の充放電曲線を示す。(a)が充電曲線であり、(b)が放電曲線である。黒線で示した実施例1に係る正極活物質の初回放電容量は、101mAh/gであった。これに対して、灰色の線で示した比較例である有機金属化合物を可燃性の有機溶媒に溶解した原料溶液(ナフテン酸リチウム、エチルヘキサン酸第2鉄、オクタメチルシクロテトラシロキサン、2エチルヘキサン酸)を用いて作製した正極活物質の初回放電容量は100mAh/gであった。このように本発明にて得られた活物質では、有機金属化合物を可燃性の有機溶剤に溶解して作成した原料溶液を使用して作製した活物質と同等な良好な電池特性を得ることができた。
【0060】
油中水型エマルションを使用する実施例における原料のコストは、溶剤に可溶な原料を使用する場合に比べて1/3〜1/10と格段に低く抑えることができた。
例えば溶剤に可溶な金属原料は、脂肪酸と苛性アルカリを反応させた後、金属塩の水溶液を加え複分解することや、脂肪酸と金属化合物とを高温で加熱処理し直接反応させ作製している。これは製造設備が大掛かりになることや、反応時間が長いことから、原料のコストが高くなる。また、金属塩等の金属化合物と他物質を反応させて作製しているため、金属塩よりもコストが高くなることは明らかである。
これに対して、本発明の油中水型エマルションを使用する原料のコストは、金属塩等の比較的安価な原料を使用することができることから、溶剤に可溶な原料と比較し安価になる。
【0061】
以上のとおり、低コストの水溶性の原料を用いて作成された油中水型の原料エマルションを噴霧して得られた微粒子を焼成することで、十分に粒径の小さく電池特性にも優れたケイ酸鉄リチウムを得ることができた。さらに、これを用いて、リチウムイオン二次電池用正極活物質とこれを用いた二次電池を製造することができる。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しえることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。