(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記供給ガス流路用部材が、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスルホン(PSF)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン及びポリフッ化ビニリデンから選ばれる1種以上の樹脂を含んでなる糸で形成された網目構造を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸性ガス分離モジュール。
前記促進輸送膜は、前記原料ガス中の酸性ガスと反応するキャリア、および、このキャリアを担持する親水性化合物を含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸性ガス分離モジュール。
前記積層体は、前記促進輸送膜側を内側にして二つ折りにした酸性ガス分離層で、前記供給ガス流路用部材を挟んでなる挟持体に、前記透過ガス流路用部材を積層してなる構成を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の酸性ガス分離モジュール。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の酸性ガス分離モジュールについて、添付の図面に示される好適実施例を基に、詳細に説明する。
【0018】
図1に本発明の酸性ガス分離モジュールの一例の一部切欠き概略斜視図を示す。
図1に示すように、酸性ガス分離モジュール10は、基本的に、中心筒12と、酸性ガス分離層20、供給ガス流路用部材24および透過ガス流路用部材26を積層してなる積層体14と、テレスコープ防止板16とを有して構成される。なお、以下の説明では、酸性ガス分離モジュールを、単に、分離モジュールとも言う。
分離モジュール10は、例えば、一酸化炭素、炭酸ガス(CO
2)、水(水蒸気)および水素を含有する原料ガスGから、酸性ガスGcとして炭酸ガスを分離するものである。
【0019】
図1に示す分離モジュール10は、いわゆるスパイラル型の分離モジュールである。すなわち、分離モジュール10は、シート状の積層体14を、複数、積層して中心筒12に巻回して、積層体14の巻回物の両端面に、中心筒12を挿通してテレスコープ防止板16を設けてなる構成を有する。また、巻回した積層体14の最外周面は、ガス非透過性の被覆層18で覆われている。
【0020】
なお、以下の説明では、中心筒12に巻回された、複数の積層体14を積層した物の巻回物(すなわち、積層されて巻回された積層体14による略円筒状物)を、便宜的に、スパイラル積層体14aとも言う。
【0021】
このような分離モジュール10において、酸性ガスを分離される原料ガスGは、例えば
図1中奥手側のテレスコープ防止板16(その開口部16d)を通って、スパイラル積層体14aの端面に供給され、積層体14内を流れつつ、酸性ガスGcを分離される。
また、積層体14によって原料ガスGから分離された酸性ガスGcは、中心筒12から排出され、酸性ガスを分離された原料ガスG(以下、便宜的に残余ガスGrとする)は、スパイラル積層体14aの供給側とは逆側の端面から排出され、テレスコープ防止板16(同前)を通って分離モジュール10の外部に排出される。
【0022】
中心筒(透過ガス集合管)12は、原料ガスG供給側の端面が閉塞する円筒状の管で、周面には複数の貫通孔12aが形成される。
原料ガスGから分離された酸性ガスGcは、後述する透過ガス流路用部材26を通って、貫通孔12aから中心筒12内に至り、中心筒12の開放端12bから排出される。
【0023】
中心筒12において、後述する接着剤層30で封止される領域における開口率(中心筒12の外周面に占める貫通孔12aの面積率)は、1.5〜80%が好ましく、3〜75%がより好ましく、5〜70%がさらに好ましい。中でも、実用的な観点から、中心筒12の開口率は、5〜25%が、特に好ましい。
中心筒12の開口率を上記範囲とすることにより、効率的に酸性ガスGcを収集することができ、また、中心筒12の強度を高め、加工適性を十分に確保できる。
【0024】
また、貫通孔12aは、直径0.5〜20mmの円形の孔であるのが好ましい。さらに、貫通孔12aは、中心筒12の周壁に、均一に形成されるのが好ましい。
【0025】
なお、中心筒12には、必要に応じて、分離した酸性ガスGcを開放端12b側に流すためのガス(スイープガス)を供給する供給口(供給部)を設けてもよい。
【0026】
積層体14は、多孔質支持体22上に促進輸送膜21を形成してなる酸性ガス分離層20と、供給ガス流路用部材24と、透過ガス流路用部材とを積層したものであり、酸性ガス分離層20で供給ガス流路用部材24を挟持してなる挟持体36と、透過ガス流路用部材26とを積層してなる。
なお、
図1において、符号30は、酸性ガス分離層20(多孔質支持体22)と透過ガス流路用部材26とを接着するものであり、これにより、透過ガス流路用部材26を挟む積層体14同士を接着する。
すなわち、分離モジュール10においては、透過ガス流路用部材26を挟む2つの酸性ガス分離層20(促進輸送膜21)と、透過ガス流路用部材26および酸性ガス分離層20(多孔質支持体22)に含浸した接着剤層30とによって、接着剤層30の内側(面方向の内側)に、透過ガス流路用部材26を内包する、中心筒12側が開放するエンベロープ状の流路が形成される。これにより、透過ガス流路用部材26における酸性ガスGcの流路を、中心筒12側が開口するエンベロープ状にする。分離モジュール10は、これにより、酸性ガス分離層20を透過した酸性ガスGcが外部に流出するのを防止している。
【0027】
また、符号32(
図2参照)は、酸性ガス分離層20(促進輸送膜21)と供給ガス流路用部材24とを接着する接着剤層である。接着剤層32は、供給ガス流路用部材24に含浸され、酸性ガス分離層20と供給ガス流路用部材24とを接着する。
本発明の分離モジュール10は、このように、供給ガス流路用部材24を、酸性ガス分離層20の促進輸送膜21に接着等により固定化するものであり、酸性ガス分離層20(多孔質支持体22)と透過ガス流路用部材26とが接着される接着位置に対応する位置の一部を固定領域とする。これにより、熱収縮に起因する擦れによる欠陥の発生を抑制できるものである。
【0028】
前述のように、図示例の分離モジュール10は、この積層体14を、複数、積層して、中心筒12に巻回して(巻き付けて)、略円筒状のスパイラル積層体14aを形成してなる構成を有する。
以下、便宜的に、この積層体14の巻回に対応する方向を周方向(矢印y方向)、周方向と直交する方向を幅方向(矢印x方向)とする。なお、積層体14は、一般的に、矩形のシート状物であるが、周方向は、通常、積層体14の長手方向になる。
【0029】
分離モジュール10において、積層体14は1枚でもよい。しかしながら、複数の積層体14を積層することにより、酸性ガス分離層20の膜面積を大きくして、1つのモジュールで分離する酸性ガスGcの量を向上できる。なお、酸性ガス分離層20の膜面積の向上は、積層体14の幅方向の長さを長くすることでも図れる。
積層体14の積層数は、分離モジュール10に要求される処理速度や処理量、分離モジュール10の大きさ等に応じて、適宜、設定すればよい。ここで、積層する積層体14の数は、50以下が好ましく、45以下がより好ましく、40以下が特に好ましい。積層体14の積層数を、この数とすることで、中心筒12への積層体14の巻回が容易になり、加工性を向上できる。
【0030】
図2に、積層体14の断面図を示す。前述のように、矢印xは幅方向、矢印yは周方向である。
図示例において、積層体14は、二つ折りにした酸性ガス分離層20の間に透過ガス流路用部材24を挟み込んで挟持体36とし(
図4参照)、この挟持体36に、透過ガス流路用部材26を積層してなる構成を有する。この構成については、後に詳述する。
【0031】
前述のように、分離モジュール10において、原料ガスGは、テレスコープ防止板16(その開口部16d)を通って、スパイラル積層体14aの一方の端面から供給される。すなわち、原料ガスGは、各積層体14の幅方向(矢印x方向)の端部(端面)に供給される。
図2に概念的に示すように、積層体14の幅方向の端面に供給された原料ガスGは、供給ガス流路用部材24を幅方向に流れる。この流れの中で、酸性ガス分離層20(促進輸送膜21)に接触した酸性ガスGcは、原料ガスGから分離されて、酸性ガス分離層20を積層体14の積層方向に通過して(促進輸送膜21のキャリアによって積層方向に輸送されて)、透過ガス流路用部材26に流入する。
透過ガス流路用部材26に流入した酸性ガスGcは、透過ガス流路用部材26を周方向(矢印y方向)に流れて、中心筒12に至り、中心筒12の貫通孔12aから中心筒12内に流入する。中心筒12内に流入した酸性ガスGcは、中心筒12を幅方向に流れて、開放端12bから排出される。
また、酸性ガスGcを除去された残余のガスGrは、供給ガス流路用部材24を幅方向に流れて、スパイラル積層体14aの逆側の端面から排出され、テレスコープ防止板16(その開口部16d)を通って、分離モジュール10の外部に排出される。
【0032】
本発明の分離モジュール10は、促進輸送型である。そのため、酸性ガス分離層20は、促進輸送膜21と、多孔質支持体22とから構成される。
【0033】
促進輸送膜21は、少なくとも、供給ガス流路用部材24を流れる原料ガスGに含有される酸性ガスGcと反応するキャリア、および、このキャリアを担持する親水性化合物を含有する。このような促進輸送膜21は、原料ガスGから酸性ガスGcを選択的に透過させる機能(酸性ガスGcを選択的に輸送する機能)を有している。
促進輸送型の分離モジュールは、高温かつ高湿での使用が必要条件である。従って、促進輸送膜21は、高温下(例えば、100〜200℃)でも、酸性ガスGcを選択的に透過させる機能を有する。また、原料ガスGが水蒸気を含んでも、水蒸気を親水性化合物が吸湿して促進輸送膜21が水分を保持することで、さらにキャリアが酸性ガスGcを輸送し易くなるので、溶解拡散膜を用いる場合に比べて分離効率が高まる。
【0034】
促進輸送膜21の膜面積は、分離モジュール10の大きさ、分離モジュール10に要求される処理能力等に応じて、適宜、設定すればよい。具体的には、0.01〜1000m
2が好ましく、0.02〜750m
2がより好ましく、0.025〜500m
2がさらに好ましい。中でも、促進輸送膜21の膜面積は、実用的な観点から、1〜100m
2が、特に好ましい。
促進輸送膜21の膜面積を上記範囲とすることにより、膜面積に対して効率よく酸性ガスGcを分離でき、また、加工性も良好になる。
【0035】
促進輸送膜21の周方向の長さ(二つ折りする前の全長)も、分離モジュール10の大きさや分離モジュール10に要求される処理能力等に応じて、適宜、設定すればよい。具体的には、100〜10000mmが好ましく、150〜9000mmがより好ましく、200〜8000mmがさらにより好ましい。中でも、促進輸送膜21の長さは、実用的な観点から、800〜4000mmが、特に好ましい。
促進輸送膜21の周方向の長さを、上記範囲とすることにより、膜面積に対して効率よく酸性ガスGcを分離することができ、さらに、積層体14を巻回する際の巻きずれの発生が抑制され、加工性が容易となる。
なお、促進輸送膜の幅も、分離モジュール10の幅方向のサイズに応じて、適宜、設定すれば良い。
【0036】
促進輸送膜21の厚さも、分離モジュール10の大きさや分離モジュール10に要求される処理能力等に応じて、適宜、設定すればよい。具体的には、1〜200μmが好ましく、2〜175μmがより好ましい。
促進輸送膜21の厚さを、上記範囲にすることにより、十分なガス透過性と分離選択性とを実現できる。
【0037】
親水性化合物はバインダとして機能するものであり、促進輸送膜21において、水分を保持して、キャリアによる二酸化炭素等のガスの分離機能を発揮させる。また、親水性化合物は、耐熱性の観点から、架橋構造を有するのが好ましい。
このような親水性化合物としては、親水性ポリマーが例示される。
【0038】
親水性化合物は、水に溶けて塗布液を形成できると共に、促進輸送膜21が高い親水性(保湿性)を有するのが好ましいという観点から、親水性が高いものが好ましい。
具体的には、親水性化合物は、生理食塩液の吸水量が0.5g/g以上の親水性を有することが好ましく、同1g/g以上の親水性を有することがより好ましく、同5g/g以上の親水性を有することがさらに好ましく、同10g/g以上の親水性を有することが特に好ましく、さらには、同20g/g以上の親水性を有することが最も好ましい。
【0039】
親水性化合物の重量平均分子量は、安定な膜を形成し得る範囲で、適宜、選択すればよい。具体的には、20,000〜2,000,000が好ましく、25,000〜2,000,000がより好ましく、30,000〜2,000,000が特に好ましい。
親水性化合物の重量平均分子量を20,000以上とすることで、安定して十分な膜強度を有する促進輸送膜21を得ることができる。
特に、親水性化合物が架橋可能基として−OHを有する場合には、親水性化合物は、重量平均分子量が30,000以上であるのが好ましい。この際には、重量平均分子量は更に好ましくは40,000以上であり、より好ましくは、50,000以上である。また、親水性化合物が架橋可能基として−OHを有する場合には、製造適性の観点から、重量平均分子量は、6,000,000以下であることが好ましい。
また、架橋可能基として−NH
2を有する場合には、親水性化合物は、重量平均分子量が10,000以上であるものが好ましい。この際には、親水性化合物の重量平均分子量は、15,000以上であるのがより好ましく、20,000以上であるのが特に好ましい。また、親水性化合物が、架橋可能基として−NH
2を有する場合には、製造適性の観点から、重量平均分子量は、1,000,000以下であるのが好ましい。
なお、親水性化合物の重量平均分子量は、例えば、親水性化合物としてPVAを用いる場合には、JIS K 6726に準じて測定した値を用いればよい。また、市販品を用いる場合には、カタログ、仕様書などで公称される分子量を用いればよい。
【0040】
親水性化合物を形成する架橋可能基としては、耐加水分解性の架橋構造を形成し得るものが、好ましく選択される。
具体的には、ヒドロキシ基(−OH)、アミノ基(−NH
2)、塩素原子(−Cl)、シアノ基(−CN)、カルボキシ基(−COOH)、および、エポキシ基等が例示される。これらの中でも、アミノ基およびヒドロキシ基が好ましく例示される。さらに、最も好ましくは、キャリアとの親和性およびキャリア担持効果の観点から、ヒドロキシ基が例示される。
【0041】
親水性化合物としては、具体的には、単一の架橋可能基を有するものとしては、ポリアリルアミン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリオルニチン、ポリリジン、ポリエチレンオキサイド、水溶性セルロース、デンプン、アルギン酸、キチン、ポリスルホン酸、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリ−N−ビニルアセトアミドなどが例示される。最も好ましくはポリビニルアルコールである。また、親水性化合物としては、これらの共重合体も例示される。
【0042】
また、複数の架橋可能基を有する親水性化合物としては、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸共重合体が例示される。ポリビニルアルコール−ポリアクリル塩共重合体は、吸水能が高い上に、高吸水時においてもハイドロゲルの強度が大きいため好ましい。
ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸共重合体におけるポリアクリル酸の含有率は、例えば1〜95モル%、好ましくは2〜70モル%、より好ましくは3〜60モル%、特に好ましくは5〜50モル%である。
なお、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸共重合体において、ポリアクリル酸は、塩であってもよい。この際におけるポリアクリル酸塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩の他、アンモニウム塩や有機アンモニウム塩等が例示される。
【0043】
ポリビニルアルコールは市販品としても入手可能である。具体的には、PVA117(クラレ社製)、ポバール(クラレ製)、ポリビニルアルコール(アルドリッチ社製)、J−ポバール(日本酢ビ・ポバール社製)等が例示される。分子量のグレードは種々存在するが、重量平均分子量が130,000〜300,000のものが好ましい。
ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸塩共重合体(ナトリウム塩)も、市販品として入手可能である。例えば、クラストマーAP20(クラレ社製)が例示される。
【0044】
なお、本発明の分離モジュール10の促進輸送膜21において、親水性化合物は、2種以上を混合して使用してもよい。
【0045】
促進輸送膜21における親水性化合物の含有量は、促進輸送膜21を形成するためのバインダとして機能し、かつ、水分を十分に保持できる量を、親水性組成物やキャリアの種類等に応じて、適宜、設定すればよい。
具体的には、0.5〜50質量%が好ましく、0.75〜30質量%がより好ましく、1〜15質量%が特に好ましい。親水性化合物の含有量を、この範囲とすることにより、上述のバインダとしての機能および水分保持機能を、安定して、好適に発現できる。
【0046】
親水性化合物における架橋構造は、熱架橋、紫外線架橋、電子線架橋、放射線架橋、光架橋等、従来公知の手法により形成できる。
好ましくは光架橋もしくは熱架橋であり、最も好ましくは熱架橋である。
【0047】
また、促進輸送膜21の形成には、親水性化合物と共に、架橋剤を用いるのが好ましい。すなわち、塗布法によって促進輸送膜21を形成する際には、架橋剤を含む塗布組成物を用いるのが好ましい。
架橋剤としては、親水性化合物と反応し、熱架橋や光架橋等の架橋をし得る官能基を2以上有する架橋剤を含むものが選択される。また、形成された架橋構造は、耐加水分解性の架橋構造となるのが好ましい。
このような観点から、促進輸送膜21の形成に利用される架橋剤としては、エポキシ架橋剤、多価グリシジルエーテル、多価アルコール、多価イソシアネート、多価アジリジン、ハロエポキシ化合物、多価アルデヒド、多価アミン、有機金属系架橋剤などが好適に例示される。より好ましくは多価アルデヒド、有機金属系架橋剤およびエポキシ架橋剤であり、中でも、アルデヒド基を2以上有するグルタルアルデヒドやホルムアルデヒドなどの多価アルデヒドが好ましい。
【0048】
エポキシ架橋剤としては、エポキシ基を2以上有する化合物であり、4以上有する化合物も好ましい。エポキシ架橋剤は市販品としても入手可能であり、例えば、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(共栄社化学株式会社製、エポライト100MF等)、ナガセケムテックス社製EX−411、EX−313、EX−614B、EX−810、EX−811、EX−821、EX−830、日油株式会社製エピオールE400などが例示される。
また、エポキシ架橋剤に類似する化合物として、環状エーテルを有するオキセタン化合物も、また、好ましく使用される。オキセタン化合物としては、官能基を2以上有する多価グリシジルエーテルが好ましく、市販品としては、例えばナガセケムテックス社製EX−411、EX−313、EX−614B、EX−810、EX−811、EX−821、EX−830、などが例示される。
【0049】
多価グリシジルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、プロピレングリコールグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等が例示される。
【0050】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ポリオキシプロピル、オキシエチエンオキシプロピレンブロック共重合体、ペンタエリスリトール、ソビトール等が例示される。
【0051】
多価イソシアネートとしては、例えば、2,4−トルイレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が例示される。
多価アジリジンとしては、例えば、2,2−ビスヒドロキシメチルブタノール−トリス[3−(1−アシリジニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサメチレンジエチレンウレア、ジフェニルメタン−ビス−4,4’−N,N’−ジエチレンウレア等が例示される。
【0052】
ハロエポキシ化合物としては、例えば、エピクロルヒドリン、α−メチルクロルヒドリン等が例示される。
多価アルデヒドとしては、例えば、グルタルアルデヒド、グリオキサール等が例示される。
多価アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ポリエチレンイミン等が例示される。
さらに、有機金属系架橋剤としては、例えば、有機チタン架橋剤、有機ジルコニア架橋剤等が例示される。
【0053】
例えば、親水性化合物として、重量平均分子量が130,000以上のポリビニルアルコールを用いる場合には、この親水性化合物と反応性が良好で、加水分解耐性も優れている架橋構造が形成可能である点から,エポキシ架橋剤やグルタルアルデヒドが好ましく利用される。
また、親水性化合物として、ポリビニールアルコール−ポリアクリル酸共重合体を用いる場合は、エポキシ架橋剤やグルタルアルデヒドが好ましく利用される。
また、親水性化合物として、重量平均分子量が10,000以上のポリアリルアミンを用いる場合には、この親水性化合物と反応性が良好で、加水分解耐性も優れている架橋構造が形成可能である点から、エポキシ架橋剤、グルタルアルデヒド、および、有機金属架橋剤が好ましく利用される。
さらに、親水性化合物として、ポリエチレンイミンやポリアリルアミンを用いる場合には、エポキシ架橋剤が好ましく利用される。
【0054】
架橋剤の量は、促進輸送膜21の形成に使用する親水性化合物や架橋剤の種類に応じて、適宜、設定すればよい。
具体的には、親水性化合物が有する架橋可能基量100質量部に対して0.001〜80質量部が好ましく、0.01〜60質量部がより好ましく、0.1〜50質量部が特に好ましい。架橋剤の含有量を上記範囲とすることにより、架橋構造の形成性が良好であり、かつ、形状維持性に優れる促進輸送膜を得ることができる。
また、親水性化合物が有する架橋可能基に着目すれば、架橋構造は、親水性化合物が有する架橋可能基100molに対し、架橋剤0.001〜80molを反応させて形成されたものであるのが好ましい。
【0055】
前述のように、分離モジュール10の酸性ガス分離層20において、促進輸送膜21は、このような親水性化合物に加え、キャリアを含有する。
キャリアは、酸性ガス(例えば、炭酸ガス)と親和性を有し、かつ、塩基性を示す各種の水溶性の化合物である。具体的には、アルカリ金属化合物、窒素含有化合物および硫黄酸化物等が例示される。
なお、キャリアは、間接的に酸性ガスと反応するものでも、キャリア自体が、直接、酸性ガスと反応するものでもよい。
前者は、供給ガス中に含まれる他のガスと反応し、塩基性を示し、その塩基性化合物と酸性ガスが反応するものなどが例示される。より具体的には、スチーム(水分)と反応してOH
-を放出し、そのOH
-がCO
2と反応することで、促進輸送膜21中に選択的にCO
2を取り込むことができる化合物であり、例えば、アルカリ金属化合物である。
後者は、キャリア自体が塩基性であるようなもので、例えば、窒素含有化合物や硫黄酸化物である。
【0056】
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩、および、アルカリ金属水酸化物等が例示される。ここで、アルカリ金属としては、セシウム、ルビジウム、カリウム、リチウム、および、ナトリウムから選ばれたアルカリ金属元素が好ましく用いられる。なお、本発明において、アルカリ金属化合物とは、アルカリ金属そのもののほか、その塩およびそのイオンも含む。
【0057】
アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、および、炭酸セシウム等が例示される。
アルカリ金属重炭酸塩としては、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、および、炭酸水素セシウム等が例示される。
さらに、アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、および、水酸化セシウム等が例示される。
これらの中でも、アルカリ金属炭酸塩が好ましく、また、酸性ガスとの親和性が良いという観点から、水に対する溶解度の高いカリウム、ルビジウム、および、セシウムを含む化合物が好ましい。
【0058】
また、キャリアとしてアルカリ金属化合物を用いる際には、2種以上のキャリアを併用してもよい。
促進輸送膜21中に2種以上のキャリアが存在することにより、膜中で異なるキャリアを距離的に離間させることができる。これにより、複数のキャリアの潮解性の違いによって、促進輸送膜21の吸湿性に起因して、製造時等に促進輸送膜21同士や、促進輸送膜21と他の部材とが貼着すること(ブロッキング)を、好適に抑制できる。
また、ブロッキングの抑制効果を、より好適に得られる等の点で、2種以上のアルカリ金属化合物をキャリアとして用いる場合には、潮解性を有する第1化合物と、第1化合物よりも潮解性が低く比重が小さい第2化合物を含むのが好ましい。一例として、第1化合物としては炭酸セシウムが、第2化合物としては炭酸カリウムが、例示される。
【0059】
窒素含有化合物としては、グリシン、アラニン、セリン、プロリン、ヒスチジン、タウリン、ジアミノプロピオン酸などのアミノ酸類、ピリジン、ヒスチジン、ピペラジン、イミダゾール、トリアジンなどのヘテロ化合物類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミンなどのアルカノールアミン類、クリプタンド[2.1]、クリプタンド[2.2]などの環状ポリエーテルアミン類、クリプタンド[2.2.1]、クリプタンド[2.2.2]などの双環式ポリエーテルアミン類,ポルフィリン、フタロシアニン、エチレンジアミン四酢酸等が例示される。
さらに、硫黄化合物としては、シスチン、システインなどのアミノ酸類、ポリチオフェン、ドデシルチオール等が例示される。
【0060】
促進輸送膜21におけるキャリアの含有量は、キャリアや親水性化合物の種類等に応じて、適宜、設定すればよい。具体的には、0.3〜30質量%が好ましく、0.5〜25質量%がより好ましく、1〜20質量%が特に好ましい。
促進輸送膜21におけるキャリアの含有量を、上記範囲とすることにより、促進輸送膜21を形成するための組成物(塗料)において、塗布前の塩析を好適に防ぐことができ、さらに、促進輸送膜21が、酸性ガスの分離機能を確実に発揮できる。
【0061】
促進輸送膜21(促進輸送膜21を形成するための組成物)は、このような親水性化合物、架橋剤およびキャリアに加え、必要に応じて、各種の成分を含有してもよい。
【0062】
このような成分としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)等の酸化防止剤、炭素数3〜20のアルキル基または炭素数3〜20のフッ化アルキル基と親水性基とを有する化合物やシロキサン構造を有する化合物等の特定化合物、オクタン酸ナトリウムや1−ヘキサスルホン酸ナトリウム等の界面活性剤、ポリオレフィン粒子やポリメタクリル酸メチル粒子等のポリマー粒子等が例示される。
その他、必要に応じて、触媒、保湿(吸湿)剤、補助溶剤、膜強度調整剤、欠陥検出剤等を用いてもよい。
【0063】
酸性ガス分離層20は、このような促進輸送膜21と、多孔質支持体22とから構成される。
多孔質支持体22は、酸性ガス透過性を有し、かつ、促進輸送膜21を形成するための塗布組成物の塗布が可能(塗膜の支持が可能)であり、さらに、形成された促進輸送膜21を支持するものである。
多孔質支持体22の形成材料は、上記機能を発現できる物であれば、公知の各種の物が利用可能である。
【0064】
ここで、本発明の分離モジュール10において、酸性ガス分離層20を構成する多孔質支持体22は、単層であってもよいが、
図2に示すように、多孔質膜22aと補助支持膜22bとからなる2層構成であるのが好ましい。このような2構成を有することにより、多孔質支持体22は、上記酸性ガス透過性、促進輸送膜21となる塗布組成物の塗布および促進輸送膜21の支持という機能を、より確実に発現する。
なお、多孔質支持体22が単層である場合には、形成材料としては、以下に多孔質膜22aおよび補助支持膜22bで例示する各種の材料が利用可能である。
【0065】
この2層構成の多孔質支持体22では、多孔質膜22aが促進輸送膜21側となる。
多孔質膜22aとしては、ポリスルフォン、ポリエーテルスルホン、ポリプロピレン、セルロースなどのメンブレンフィルター膜、ポリアミドやポリイミドの界面重合薄膜、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)や高分子量ポリエチレンの延伸多孔膜等が例示される。
中でも、PTFEや高分子量ポリエチレンの延伸多孔膜は、高い空隙率を有し、酸性ガス(特に炭酸ガス)の拡散阻害が小さく、さらに、強度、製造適性などの観点から好ましい。その中でも、耐熱性を有し、また加水分解性の少ない等の点で、PTFEの延伸多孔膜が、好適に利用される。
【0066】
多孔質膜22aは、使用環境下において、水分を含有した促進輸送膜21が多孔部分に浸み込み易くなり、かつ、膜厚分布や経時での性能劣化を引き起こさないために、疎水性であるのが好ましい。
また、多孔質膜22aは、孔の最大孔径が1μm以下であるのが好ましい。
さらに、多孔質膜22aの孔の平均孔径は、0.001〜10μmが好ましく、0.002〜5μmがより好ましく、0.005〜1μmが特に好ましい。多孔質膜22aの平均孔径をこの範囲とすることにより、後述する接着剤の塗布領域は接着剤を十分に染み込ませ、かつ、多孔質膜22aが酸性ガスの通過の妨げとなることを好適に防止できる。
【0067】
補助支持膜22bは、多孔質膜22aの補強用に備えられるものである。
この支持膜は、要求される強度、耐延伸性および気体透過性を満たすものであれば、各種の物が利用可能である。例えば、不織布、織布、ネット、および、平均孔径が0.001〜10μmのメッシュなどを、適宜、選択して用いることができる。
【0068】
補助支持膜22bも、前述の多孔質膜22aと同様、耐熱性を有し、また加水分解性の少ない素材からなることが好ましい。
不織布、織布、編布を構成する繊維としては、耐久性や耐熱性に優れる、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、アラミド(商品名)などの改質ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素含有樹脂などからなる繊維が好ましい。メッシュを構成する樹脂材料も同様の素材を用いるのが好ましい。これらの材料のうち、安価で力学的強度の強いPPからなる不織布は、特に好適に例示される。
【0069】
多孔質支持体22が補助支持膜22bを有することにより、力学的強度を向上させることができる。そのため、例えば、後述するロール・トゥ・ロールを利用する塗布装置においてハンドリングしても、多孔質支持体22に皺がよることを防止でき、生産性を高めることもできる。
【0070】
多孔質支持体22は、薄すぎると強度に難がある。この点を考慮すると、多孔質膜22aの膜厚は5〜100μm、補助支持膜22bの膜厚は50〜300μmが好ましい。
また、多孔質支持体22を単層にする場合には、多孔質支持体22の厚さは、30〜500μmが好ましい。
【0071】
また、多孔質支持体22は、130℃における熱収縮が2%以上であるものも、好適に利用可能である。
なお、多孔質支持体22が、前述の多孔質膜22aと補助支持膜22bとの積層体のように、積層体構造を有する場合には、熱収縮率は、個々の構成部材ではなく、多孔質支持体22を全体で見た場合の熱収縮率である。
さらに、本発明によれば、酸性ガス分離層20(促進輸送膜21および多孔質支持体20)と、透過ガス流路用部材26とを含めた全体(酸性ガス分離層20と透過ガス流路用部材26との積層体)を見た際に、130℃における熱収縮が2%以上であるものも、好適に利用可能である。
【0072】
このような酸性ガス分離層20は、促進輸送膜21となる成分を含む液体状の塗布組成物(塗料/塗布液)を調製して、多孔質支持体22に塗布して、乾燥する、いわゆる塗布法で作製できる。
すなわち、まず、親水性化合物、キャリア、および、必要に応じて添加するその他の成分を、それぞれ適量で水(常温水または加温水)に添加して十分することで、促進輸送膜21となる塗布組成物を調製する。
この組成物の調製では、必要に応じて、攪拌しつつ加熱することで、各成分の溶解を促進させてもよい。また、親水性化合物を水に加えて溶解した後、キャリアを徐々に加えて攪拌することで、親水性化合物の析出(塩析)を効果的に防ぐことができる。
【0073】
この組成物を多孔質支持体22に塗布して、乾燥することで、酸性ガス分離層20を作製する。
ここで、組成物の塗布および乾燥は、所定のサイズに切断されたカットシート状の多孔質支持体22に行う、いわゆる枚葉式で行ってもよい。
好ましくは、酸性ガス分離層20の作製は、いわゆるロール・トゥ・ロール(以下、RtoRとも言う)によって行う。すなわち、長尺な多孔質支持体22を巻回してなる送り出しロールから、多孔質支持体22を送り出して、長手方向に搬送しつつ、調製した塗布組成物を塗布し、次いで、塗布した塗布組成物(塗膜)を乾燥して、多孔質支持体22の表面に促進輸送膜21を形成してなる酸性ガス分離層20を作製し、作製した酸性ガス分離層20を巻き取る。
【0074】
RtoRにおける多孔質支持体22の搬送速度は、多孔質支持体22の種類や塗布液の粘度等に応じて、適宜、設定すればよい。
ここで、多孔質支持体22の搬送速度が速すぎると、塗布組成物の塗膜の膜厚均一性が低下するおそれがあり、遅過ぎると生産性が低下する。この点を考慮すると、多孔質支持体22の搬送速度は、0.5m/分以上が好ましく、0.75〜200m/分がより好ましく、1〜200m/分が特に好ましい。
【0075】
塗布組成物の塗布方法は、公知の方法が、各種、利用可能である。
具体的には、カーテンフローコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、バーコーター等が例示される。
【0076】
塗布組成物の塗膜の乾燥も、公知の方法で行えばよい。一例として、温風による乾燥が例示される。
温風の風速は、ゲル膜反を迅速に乾燥させることができるともにゲル膜反が崩れない速度を、適宜、設定すればよい。具体的には、0.5〜200m/分が好ましく、0.75〜200m/分がより好ましく、1〜200m/分が特に好ましい。
温風の温度は、多孔質支持体22の変形などが生じず、かつ、ゲル膜反を迅速に乾燥させることができる温度を、適宜、設定すればよい。具体的には、膜面温度で、1〜120℃が好ましく、2〜115℃がより好ましく、3〜110℃が特に好ましい。
また、塗膜の乾燥には、必要に応じて、多孔質支持体22の加熱を併用してもよい。
【0077】
供給ガス流路用部材24は、その幅方向の端部から、原料ガスGを供給され、部材内を流れる原料ガスGと、酸性ガス分離層20とを接触させる。
このような供給ガス流路用部材24は、前述のように二つ折りされた酸性ガス分離層20のスペーサとして機能して、原料ガスGの流路を構成する。また、供給ガス流路用部材24は、原料ガスGを乱流にするのが好ましい。この点を考慮すると、供給ガス流路用部材24は、ネット状(メッシュ状)の部材が好ましい。
【0078】
このような供給ガス流路用部材24の形成材料としては、十分な耐熱性および耐湿性を有するものであれば、各種の材料が利用可能である。
一例として、紙、上質紙、コート紙、キャストコート紙、合成紙などの紙材料、セルロース、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、アラミド、ポリカーボネートなどの樹脂材料、金属、ガラス、セラミックスなどの無機材料等が、好適に例示される。
樹脂材料としては、具体的には、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスルホン(PSF)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトンおよびポリフッ化ビニリデン等が、好適に例示される。
【0079】
供給ガス流路用部材24の厚さは、原料ガスGの供給量や要求される処理能力等に応じて、適宜、決定すれば良い。
具体的には、100〜1000μmが好ましく、150〜950μmがより好ましく、200〜900μmが特に好ましい。
【0080】
ここで、前述のとおり、供給ガス流路用部材24は、酸性ガス分離層20の多孔質支持体22と透過ガス流路用部材26とが接着される接着位置に対応する位置の一部を固定領域として、酸性ガス分離層20の促進輸送膜21に接着され固定化される。
この点については、後に詳述する。
【0081】
透過ガス流路用部材26は、キャリアと反応して酸性ガス分離層32を透過した酸性ガスGcを、中心筒12の貫通孔12aに流すための部材である。
前述のように、図示例において、積層体14は、酸性ガス分離層20を促進輸送膜21を内側にして二つ折りにして、供給ガス流路用部材24を挟み込んだ挟持体36を有する。この挟持体36に、透過ガス流路用部材26を積層して、接着剤層30で接着することにより、1つの積層体14が構成される。
【0082】
透過ガス流路用部材26は、積層体14間でスペーサとして機能して、積層体14の巻回中心(内側)に向かって中心筒12の貫通孔12aに至る、原料ガスGから分離した酸性ガスGcの流路を構成する。また、この酸性ガスGcの流路を適正に形成するために、後述する接着剤層30が浸透する必要が有る。この点を考慮すると、透過ガス流路用部材26は、供給ガス流路用部材24と同様、ネット状(メッシュ状)の部材が好ましい。
【0083】
透過ガス流路用部材26の形成材料は、十分な強度や耐熱性を有するものであれば、各種の材料が利用可能である。具体的には、エポキシ含浸ポリエステルなどポリエステル系の材料、ポリプロピレンなどポリオレフィン系材料、ポリテトラフルオロエチレンなどフッ素系の材料が、好適に例示される。
【0084】
透過ガス流路用部材26の厚さは、原料ガスGの供給量や要求される処理能力等に応じて、適宜、決定すれば良い。
具体的には、100〜1000μmが好ましく、150〜950μmがより好ましく、200〜900μmが特に好ましい。
【0085】
前述のように、透過ガス流路用部材26は、原料ガスGから分離されて酸性ガス分離層20を透過した酸性ガスGcの流路となる。
そのため、透過ガス流路用部材26は、流れるガスに対しての抵抗が少ないのが好ましい。具体的には、空隙率が高く、圧をかけたときの変形が少なく、かつ、圧損が少ないのが好ましい。
【0086】
透過ガス流路用部材26の空隙率は、30〜99%が好ましく、35〜97.5%がより好ましく、40〜95%が特に好ましい。
また、圧をかけたときの変形は、引張試験を行ったときの伸度で近似できる。具体的には、10N/10mm幅の荷重をかけたときの伸度が5%以内であることが好ましく、4%以内であることがより好ましい。
さらに、圧損は、一定の流量で流した圧縮空気の流量損失で近似できる。具体的には、15cm角の透過ガス流路用部材26に、室温で15L/分の空気を流した際に、流量損失が7.5L/分以内であるのが好ましく、7L/分以内であるのがより好ましい。
【0087】
以下、積層体14の積層方法、および、積層した積層体14の巻回方法すなわちスパイラル積層体14aの作製方法を説明する。なお、以下の説明に用いる
図3〜
図6では、図面を簡潔にして構成を明確に示すために、供給ガス流路部材24および透過ガス流路部材26は、端面(端部)のみをネット状で示す。
【0088】
まず、
図3(A)および(B)に概念的に示すように、中心筒12の延在方向と透過ガス流路用部材26の短手方向とを一致して、中心筒12に、瞬間接着剤等の固定手段34を用いて、透過ガス流路用部材26の端部を固定する。
【0089】
一方で、
図4に概念的に示すように、前述のよう作製した酸性ガス分離層20を、促進輸送膜21を内側にして二つ折りにし、間に供給ガス流路用部材24を挟み込む。すなわち、供給ガス流路用部材24を、二つ折りにした酸性ガス分離層20で挟持し接着した挟持体36を作製する。なお、この際には、酸性ガス分離層20は均等に二つ折りにするのではなく、
図4に示すように、一方が、若干、長くなるように、二つ折りする。
また、供給ガス流路用部材24による促進輸送膜21の損傷を防止するために、酸性ガス分離層20を二つ折りにした谷部に、二つ折りにしたシート状の保護部材(例えば、カプトンテープなど)を配置するのが好ましい。
【0090】
さらに、二つ折りにした酸性ガス分離層20の短い方の表面(多孔質支持体22の表面)に、接着剤層30となる接着剤30aを塗布する。
ここで、接着剤30a(すなわち、接着剤層30)は、
図4に示すように、幅方向(矢印x方向)の両端部近傍で、周方向(矢印y方向)の全域に延在して帯状に塗布し、さらに、折り返し部と逆側の端部近傍で幅方向の全域に延在して帯状に塗布する。
【0091】
次いで、
図5(A)および(B)に概念的に示すように、接着剤30aを塗布した面を透過ガス流路用部材26に向け、かつ、折り返し側を中心筒12に向けて、挟持体36を、中心筒12に固定した透過ガス流路用部材26に積層し、透過ガス流路用部材26と酸性ガス分離層20(多孔質支持体22)とを接着する。
【0092】
さらに、
図5(A)、(B)に示すように、積層した挟持体36の上面(長い側の多孔質支持体22の表面)に、接着剤層30となる接着剤30aを塗布する。なお、以下の説明では、最初に固定手段34で中心筒12に固定された透過ガス流路用部材26と逆側の方向を、上側とも言う。
図5(A)、(B)に示すように、この面の接着剤30aも、先と同様、幅方向の両端部近傍で、周方向の全域に延在して帯状に塗布し、さらに、折り返し部と逆側の端部近傍で幅方向の全域に延在して帯状に塗布する。
【0093】
次いで、
図6に概念的に示すように、接着剤30aを塗布した挟持体36の上に、透過ガス流路用部材26を積層し、酸性ガス分離層20(多孔質支持体22)と透過ガス流路用部材26とを接着し、積層体14が形成される。
【0094】
次いで、先と同様、
図4に示すように、酸性ガス分離層20で供給ガス流路用部材24を挟み込んだ挟持体36を作製して、接着剤層30となる接着剤30aを塗布して、接着剤を塗布した側を下に向けて、最後に積層した透過ガス流路用部材26と挟持体36とを積層して、接着する。
さらに、先と同様、積層した挟持体36の上面に、
図5に示すように接着剤30aを塗布して、次いで、
図6に示すように、その上に、透過ガス流路用部材26を積層して、接着し、2層目の積層体14を積層する。
【0095】
以下、
図4〜
図6の工程を繰り返して、
図7に概念的に示すように、所定数の積層体14を積層する。
なお、この際においては、
図7に示すように、積層体14は、上方に行くにしたがって、次第に、周方向に中心筒12から離間するように積層するのが好ましい。これにより、中心筒12への積層体14の巻回(巻き付け)を容易に行い、かつ、各透過ガス流路用部材26の中心筒12側の端部もしくは端部近傍が、好適に中心筒12に当接できる。
【0096】
所定数の積層体14を積層したら、
図7に示すように、中心筒12の外周面に接着剤38aを、最初に中心筒12に固定した透過ガス流路用部材26の上面の中心筒12と挟持体36との間に接着剤38bを、それぞれ、塗布する。
次いで、
図7に矢印yxで示すように、積層した積層体14を巻き込むようにして、積層体14を中心筒12に巻回する(巻き付ける)。
巻き終わったら、最外周(すなわち、最初に中心筒12に固定した最下層)の透過ガス流路用部材26に、ひき出す方向(巻き絞める方向)の張力を掛けた状態で、所定時間、維持して、接着剤30a等を乾燥させる。
所定時間が経過したら、最外周の透過ガス流路用部材26を1周した位置で超音波融着等によって固定し、固定位置よりも外方の余分な透過ガス流路用部材26を切断して、積層した積層体14を中心筒に巻回してなるスパイラル積層体14aを完成する。
【0097】
前述のように、原料ガスGは、供給ガス流路用部材24の端部から供給され、酸性ガスGcは、酸性ガス分離層20を積層方向に通過して(輸送されて)、透過ガス流路用部材26に流入し、透過ガス流路用部材26内を流れて、中心筒12に至る。
【0098】
ここで、接着剤30aを塗布されるのは、多孔質支持体22であり、また、接着剤30aによって接着されるのは、ネット状の透過ガス流路用部材26である。従って、接着剤30aは、多孔質支持体22および透過ガス流路用部材26内に含浸し、両者の内部に接着剤層30が形成される。
また、接着剤層30(接着剤30a)は、前述のように、幅方向の両端部近傍で、周方向の全域に延在して帯状に形成される。さらに、接着剤層30は、この幅方向両端部近傍の接着剤30を幅方向に横切るように、中心筒12側となる折り返し部と逆側の端部近傍で幅方向の全域に延在して帯状に形成される。すなわち、接着剤層30は、中心筒12側を開放して、透過ガス流路用部材26および多孔質支持体22の外周を囲むように形成される。
これにより、積層体14の透過ガス流路用部材26には、中心筒12側が開放するエンベロープ状の流路が形成される。従って、酸性ガス分離層20を透過して透過ガス流路用部材26に流入した酸性ガスGcは、外部に流出することなく、透過ガス流路用部材26内を中心筒12に向かって流れ、貫通孔12aから中心筒12内に流入する。
【0099】
ここで、供給ガス流路用部材24と酸性ガス分離層20との固定位置について、
図8および
図9を用いて説明する。
図8は、
図4に示す挟持体36を、酸性ガス分離層20の一部を省略して示す図であり、
図9は、
図8に示す挟持体36のA−A線断面図である。
なお、
図8および
図9においては、説明のため、接着剤層30、32を各層上に示しているが、前述のとおり、接着剤層32は、供給ガス流路用部材24に含浸され、接着剤層30は、多孔質支持体22に含浸される。
前述のとおり、透過ガス流路用部材26と酸性ガス分離層20(多孔質支持体22)との接着位置(接着領域)は、幅方向(矢印x方向)の両端部近傍で、周方向(矢印y方向)の全域に延在して帯状の領域と、折り返し部と逆側の端部近傍で幅方向の全域に延在して帯状の領域である(
図4参照)。
これに対して、
図8および
図9に示すように、供給ガス流路用部材24と酸性ガス分離層20との固定位置は、この接着位置に対応する位置の一部に形成されている。
図8中、符号32で示す固定位置(固定領域)に、接着剤を塗布し接着剤層32として、供給ガス流路用部材24と酸性ガス分離層20とを固定する。
なお、図示例では、供給ガス流路用部材24は、その両面で、挟持される酸性ガス分離層20に固定化されているが、片面のみで酸性ガス分離層20に固定化されてもよい。
【0100】
前述のとおり、促進輸送型の酸性ガス分離モジュールでは、高温の原料ガスを処理するため、供給ガス流路用部材が、酸性ガス分離膜に挾持されるのみで固定されていない場合には、酸性ガス分離膜と供給ガス流路用部材との間で熱収縮の差が生じて部材同士が擦れて膜面に欠陥が生じる。また、促進輸送型の分離膜(促進輸送膜)は、親水性のポリマーでキャリアを担持するものであるため、ゲル状の柔らかい膜である。そのため、熱収縮による擦れによって膜面に欠陥が顕著に生じるため、短期間で性能が低下してしまうという問題があった。
【0101】
これに対して、本発明の分離モジュールにおいては、供給ガス流路用部材24が、酸性ガス分離層20の促進輸送膜21に固定化されるので、熱収縮を抑制して、供給ガス流路用部材24と促進輸送膜21とが擦れて欠陥が生じることを防止できるので、長期に渡って所定の性能を発現できる。
【0102】
ここで、供給ガス流路用部材24を促進輸送膜21に固定すると、固定化された部分の近傍で局所的に供給ガスGの乱流が抑制され、供給ガスG中の成分の濃度分極が発生し、気体状の水分が凝集する。凝集した水分が促進輸送膜21に接すると、キャリアの溶出を引き起こし、酸性ガスの分離効率の低下を引き起こす場合がある。
これに対して、本発明においては、供給ガス流路用部材24と促進輸送膜21とは、透過ガス流路用部材26と多孔質支持体22とが接着された接着領域に対応する位置の少なくとも一部を固定領域として、固定化される。透過ガス流路用部材26が接着されて、多孔質支持体22が封止された位置を固定位置として、供給ガス流路用部材24を固定するので、固定化された部分の近傍でのキャリアの溶出を抑制することができ、酸性ガスの分離効率の低下を抑制できる。
【0103】
なお、供給ガス流路用部材24と促進輸送膜21とを固定化する固定領域の大きさは、透過ガス流路用部材26と多孔質支持体22とが接着された接着領域の大きさに対して、5〜50%であるのが好ましい。
接着領域に対して固定領域の大きさが、5%未満の場合には、供給ガス流路用部材24と促進輸送膜21とを十分に固定化することができず、熱収縮を抑制できない恐れがある。そのため、5%以上とするのが好ましい。また、50%超の場合には、原料ガスGの流路が狭くなり、供給ガス流路用部材24中に、原料ガスGを好適に流すことができず、処理効率が低下するおそれがある。そのため、50%以下とするのが好ましい。
【0104】
また、接着領域のうち、多孔質支持体22への接着剤の染み込み率が10%以上の領域を膜保護部31として、この膜保護部31に対応する位置の少なくとも一部を、供給ガス流路用部材24と酸性ガス分離層20(促進輸送膜21)とを固定化する固定領域とすることが好ましい。
ここで、膜保護部31とは、積層方向において、多孔質支持体22への接着剤の染み込み率が10%以上の領域とする。
なお、染み込み率は、積層方向における各部材中の孔部と非孔部との割合で、接着剤の染み込み率は、SEM(走査型電子顕微鏡)、または、光学顕微鏡で、接着剤塗布前後の積層体の断面を3視野観察し、接着剤塗布後の各膜、部材の穴の面積に対する、穴に充填されている接着剤の面積の割合を画像処理により求めて得るものとする。
膜保護部31を固定領域とすることにより、高温運転時に、固定箇所に熱収縮の応力がかかり、固定化した部分の促進輸送膜21に欠陥が発生した場合でも、多孔質支持体22が封止されているために、圧力低下を防ぎ、分離性能が低下することを抑制できる。
【0105】
なお、
図10に示すように、多孔質支持体22が、多孔質膜22aと補助支持体22bとの2層構成の場合には、膜保護部31においては、多孔質膜22aの10%以上、特に30%以上の領域に接着剤が染み込んでいることが好ましい。
促進輸送膜21側に積層される多孔質膜22aが接着剤で封止されることにより、促進輸送膜21に欠陥が発生した場合でも、より好適に、圧力の低下を防ぎ、分離性能が低下することを抑制できる。
なお、多孔質膜22aに接着剤を染み込ませるために、接着剤中には、各種溶剤や界面活性剤を含ませてもよい。多孔質膜22aに接着剤を染み込ませる方法としては、例えば、特開平3−68428に記載の方法などを利用することができる。
【0106】
また、膜保護部31における透過ガス流路用部材26への接着剤の染み込み率には、特に限定はなく、例えば、透過ガス流路用部材26への接着剤の染み込み率は10%未満であってもよい。
【0107】
また、図示例においては、好ましい態様として、固定領域は、x方向の両端部側、およびy方向の両端部側の計4カ所に形成されている。これにより、より好適に部材の熱収縮を抑制できる。
また、図示例においては、供給ガス流路用部材24は、両面で酸性ガス分離層20に固定化されるが、これに限定はされず、片面のみが酸性ガス分離層20に固定化されてもよい。
【0108】
なお、図示例の分離モジュール10においては、供給ガス流路用部材24と促進輸送膜21とを接着剤により固定化する構成としたが、これに限定はされず、超音波熱融着によって固定化してもよい。
超音波熱融着の方法としては、特に限定はなく、従来公知の方法を適宜、利用可能である。
【0109】
本発明の分離モジュール10において、接着剤層30(接着剤30a)および接着剤層32は、十分な接着力、耐熱性および耐湿性を有するものであれば、各種の公知の接着剤が利用可能である。
一例として、エポキシ樹脂、塩化ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、ポリエステル、セルロース誘導体(ニトロセルロース等)、スチレン−ブタジエン共重合体、各種の合成ゴム系樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノキシ樹脂、シリコン樹脂、尿素ホルムアミド樹脂等が好適に例示される。
【0110】
なお、接着剤層30および接着剤層32となる接着剤は、一度塗りでもよいが、好ましくは、最初はアセトン等の有機溶剤で希釈した接着剤を塗布し、その上に、接着剤のみを塗布するのが好ましい。また、この際には、有機溶剤で希釈した接着剤は幅広に塗布し、接着剤は、これよりも狭い幅で塗布するのが好ましい。
【0111】
本発明の分離モジュール10において、このようにして作製されるスパイラル積層体14aの両端部には、テレスコープ防止板(テレスコープ防止部材)16が配置される。
前述のように、テレスコープ防止板16は、スパイラル積層体14aが原料ガスGによって押圧されて、供給側の端面が入れ子状に押し込まれ、逆側の端面が入れ子状に突出する、いわゆるテレスコープ現象を防止するための部材である。
【0112】
図1に示すように、テレスコープ防止板16は、円環状の外環部16aと、外環部16aの中に中心を一致して配置される円環状の内環部16bと、外環部16aおよび内環部16bを連結して固定するリブ(スポーク)16cとを有して構成される。前述のように、積層体14が巻回される中心筒12は、内環部16bを挿通する。
図示例において、リブ16cは、外環部16aおよび内環部16bの中心から、等角度間隔で放射状に設けられおり、外環部16aと内環部16bとの間で、かつ、各リブ16cの間隙が、原料ガスGもしくは残余ガスGrが通過する開口部16dとなっている。
テレスコープ防止板16の開口率は、分離モジュール10に要求される処理能力や供給される原料ガスGの流量等に応じて、適宜、設定すればよい。
【0113】
本発明の分離モジュール10において、テレスコープ防止板16は、基本的に、従来、スパイラル型の分離モジュールに用いられている公知のものである。
従って、テレスコープ防止板16の幅方向の形状は、図示例のように、外環部16aおよび内環部16bと、両者を連結するリブ16cを8本、等角度間隔で設けた形状(幅方向の面形状)以外にも、スパイラル型の分離モジュールに用いられる、各種の形状が利用可能である。
例えば、外環部16aと内環部16bとを連結するリブを3本あるいは5本、放射状に等角度間隔で設けた形状、同リブを格子状に設けた形状、パンチングメタルのように貫通孔を多数有する形状なども、好適に利用可能である。
【0114】
また、図示例のテレスコープ防止板16は、シンプルな円盤状であるが、本発明の分離モジュール10は、これ以外にも、各種の形状が利用可能である。
例えば、内環部16bが、スパイラル積層体14aと逆側に突出して筒部を有し、この筒部に、中心筒12を挿入(嵌入)する構成であってもよい。また、この筒部に、分離モジュール10の固定や連結等に用いられるリブやフランジを設けてもよい。
さらに、外環部16aに、スパイラル積層体14a側に突出する円筒部を設け、この筒部にスパイラル積層体14aを挿入する構成であってもよい。この際には、後述する被覆層18は、この円筒部を含んで、スパイラル積層体14aを被覆するのが好ましい。
【0115】
また、テレスコープ防止板16の形成材料は、十分な強度と、耐熱性および耐湿性を有する、各種の材料が利用可能である。
具体的には、金属材料(例えば、ステンレス(SUS)、アルミニウム、アルミニウム合金、錫、錫合金等)、樹脂材料(例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ナイロン12、ナイロン66、ポリサルフィン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル・ブタジエン・スチレン樹脂、アクリル・エチレン・スチレン樹脂、エポキシ樹脂、ニトリル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等)、およびこれら樹脂の繊維強化プラスチック(例えば繊維としては、ガラス繊維、カーボン繊維、ステンレス繊維、アラミド繊維などで、特に長繊維が好ましい。具体例としては、例えばガラス長繊維強化ポリプロピレン、ガラス長繊維強化ポリフェニレンサルファイドなど)、並びに、セラミックス(例えばゼオライト、アルミナなど)等が好適に例示される。
なお、樹脂を用いる際には、ガラス繊維等で強化した樹脂を用いてもよい。
【0116】
被覆層18は、スパイラル積層体14aの周面を覆って、この周面すなわちスパイラル積層体14aの端面以外から外部への原料ガスGや残余ガスGrの排出を遮断するためのものである。
【0117】
被覆層18は、原料ガスG等を遮蔽できる物が、各種、利用可能である。また、被覆層18は、筒状の部材であってもよく、線材やシート状の部材を巻回して構成してもよい。
一例として、FRP製の線材に、前述の接着部材40や接着剤層30に利用される接着剤を含浸して、接着剤を含浸した線材を、隙間無く、必要に応じて多重に、スパイラル積層体14aに巻き付けてなる被覆層18が例示される。
なお、この際においては、必要に応じて、被覆層18とスパイラル積層体14aとの間に、スパイラル積層体14aへの接着剤の染み込みを防止するためのカプトンテープ等のシート状部材を設けてもよい。
【0118】
以上、本発明の酸性ガス分離モジュールについて詳細に説明したは、本発明は上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0119】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明の酸性ガス分離モジュールについて、より詳細に説明する。
【0120】
[実施例1]
<酸性ガス分離層の作製>
ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸共重合体(クラレ社製 クラストマーAP-20)を2.4質量%、架橋剤(和光純薬社製 25質量%グルタルアルデヒド水溶液)を0.01質量%、含む水溶液を調製した。この水溶液に、1M塩酸をpH1.5になるまで添加して、架橋させた。
架橋後、キャリアとしての、40%炭酸セシウム水溶液(稀産金属社製)を炭酸セシウム濃度が5.0重量%になるように添加した。すなわち、本例では、炭酸セシウムが促進輸送膜21のキャリアとなる。
【0121】
この塗布組成物を、多孔質支持体(PP不織布の表面に多孔質のPTFEを積層してなる積層体(GE社製))に塗布して、乾燥することで、促進輸送膜21と多孔質支持体22とからなる酸性ガス分離層20を作製した。
【0122】
<分離モジュールの作製>
まず、
図3に示すように、中心筒12に、接着剤を用いて透過ガス流路用部材26(トリコット編みのエポキシ含浸ポリエステル)を固定した。
【0123】
一方、作製した酸性ガス分離層20を促進輸送膜21を内側にして二つ折りした。二つ折りは、
図4に示すように、一方の酸性ガス分離層20が、若干、長くなるように行った。二つ折りした酸性ガス分離層20の谷部にカプトンテープを貼り、膜谷部を補強した。
次いで、二つ折りした酸性ガス分離層20に、供給ガス流路用部材24(厚さ0.5mmのポリプロピレン製ネット)を挟み込んで、高粘度(約40Pa・s)のエポキシ樹脂からなる接着剤(ヘンケルジャパン社製 E120HP)を膜面の所定部分に塗布し、圧着して供給ガス流路用部材24を酸性ガス分離層20の促進輸送膜21上に固定化して、挟持体36を作製した。
【0124】
ここで、供給ガス流路用部材24と酸性ガス分離層20(促進輸送膜21)との固定化の位置(固定領域)は、透過ガス流路用部材26と酸性ガス分離層20(多孔質支持体22)とを接着する位置(接着領域)に対応する位置であって、接着領域の10%の領域とした。
【0125】
この挟持体36の酸性ガス分離層20が短い方の多孔質支持体22側に、
図4に示すように、幅方向(矢印x方向)の両端部近傍に、周方向(矢印y方向)の全域に延在し、かつ、周方向の折り返し部と逆側の端部近傍に、幅方向の全域に延在して、高粘度(約40Pa・s)のエポキシ系樹脂からなる接着剤30a(ヘンケルジャパン社製 E120HP)を塗布した。
次いで、接着剤30aを塗布した側を下方に向けて、
図5に示すように、挟持体36と中心筒12に固定した透過ガス流路用部材26とを積層し、接着した。
次いで、透過ガス流路用部材26に積層した挟持体36の酸性ガス分離層20の上面に、
図5に示すように、幅方向の両端部近傍に、周方向の全域に延在し、かつ、周方向の折り返し部と逆側の端部近傍に、幅方向の全域に延在して、接着剤30aを塗布した。さらに、接着剤30aを塗布した酸性ガス分離層20の上に、
図6に示すように、透過ガス流路用部材26を積層して、接着することにより、1層目の積層体14を形成した。
【0126】
先と同様にして、
図4に示す挟持体36を、もう一つ作製し、同様に、短い側の酸性ガス分離層20の多孔質支持体22側に、同様に接着剤30aを塗布した。次いで、
図5と同様に、接着剤30aを塗布した側を先に形成した1層目の積層体14(その透過ガス流路用部材26)に向けて、挟持体36を、1層目の積層体14(透過ガス流路用部材26)の上に積層し、接着した。さらに、この挟持体36の上面に、
図5と同様に接着剤30aを塗布し、その上に、
図6と同様に透過ガス流路用部材26を積層して、接着することにより、2層目の積層体14を形成した。
さらに、上記2層目と同様にして、2層目の積層体14の上に、3層目の積層体14を形成した。
【0127】
中心筒12に固定した透過ガス流路用部材26の上に、3層の積層体14を積層した後、
図7に示すように、中心筒12の周面に接着剤38aを塗布し、さらに、中心筒12と最下層の積層体14との間の透過ガス流路用部材26上に、接着剤38bを塗布した。接着剤38aおよび38bは、接着剤30aと同じ物を用いた。
次いで、
図7の矢印yx方向に中心筒12を回転することで、積層した3層の積層体14を巻き込むようにして中心筒12に多重に巻き付け、スパイラル積層体14aとした。
【0128】
さらに、スパイラル積層体14aの両端部に、内環部16bに中心筒12を挿通して、
図1に示される形状(開口率90%)の、厚さ2cmのSUS製のテレスコープ防止板16を取り付けた。
さらに、テレスコープ防止板16の周面およびスパイラル積層体14aの周面に、FPR樹脂テープを巻き付けて、封止することにより、被覆層18を形成して、直径4cm、幅30cmの
図1に示されるような分離モジュール10を作成した。なお、被覆層18の厚さは、5mmとした。
【0129】
[実施例2]
固定領域を、接着領域に対応する位置であって、接着領域の40%の領域とした以外は実施例1と同様にして分離モジュール10を作製した。
【0130】
[実施例3]
透過ガス流路用部材26と酸性ガス分離層20(多孔質支持体22)とを接着する際に、固定領域に対応する位置では、多孔質膜22aへの接着剤の染み込み率を約80%とした以外は、すなわち、膜保護部31に対応する位置を固定領域とした以外は、実施例1と同様にして分離モジュール10を作製した。
【0131】
[実施例4]
透過ガス流路用部材26と酸性ガス分離層20(多孔質支持体22)とを接着する際に、固定領域に対応する位置では、多孔質膜22aへの接着剤の染み込み率を約50%とした以外は、すなわち、膜保護部31に対応する位置を固定領域とした以外は、実施例2と同様にして分離モジュール10を作製した。
【0132】
[実施例5]
供給ガス流路用部材24と酸性ガス分離層20(促進輸送膜21)とを、超音波熱融着にて接着し、固定領域を接着領域に対応する位置であって、接着領域の5%の領域とした以外は実施例1と同様にして分離モジュール10を作製した。
【0133】
[実施例6]
供給ガス流路用部材24と酸性ガス分離層20(促進輸送膜21)とを、超音波熱融着にて接着し、固定領域を膜保護部31に対応する位置であって、接着領域の5%の領域とした以外は実施例3と同様にして分離モジュール10を作製した。
【0134】
[実施例7]
固定領域を、接着領域に対応する位置であって、接着領域の3%の領域とした以外は実施例1と同様にして分離モジュール10を作製した。
【0135】
[実施例8]
固定領域を、接着領域に対応する位置であって、接着領域の55%の領域とした以外は実施例1と同様にして分離モジュール10を作製した。
【0136】
[実施例9]
固定領域を、膜保護部31に対応する位置であって、接着領域の55%の領域とした以外は実施例3と同様にして分離モジュール10を作製した。
【0137】
[実施例10]
透過ガス流路用部材26と酸性ガス分離層20(多孔質支持体22)とを接着する際に、固定領域に対応する位置の一部では、多孔質膜22aへの接着剤の染み込み率を30%とし、固定領域を、接着領域に対応し、その一部が膜保護部31に対応する位置であって、接着領域の55%の領域とした以外は、実施例1と同様にして分離モジュール10を作製した。
【0138】
[比較例1]
固定領域を、接着領域以外の領域(非接着領域)に形成し、接着領域の15%の大きさとした以外は実施例1と同様にして分離モジュール10を作製した。
【0139】
[比較例2]
固定領域を、非接着領域に形成し、接着領域の55%の大きさとした以外は実施例1と同様にして分離モジュール10を作製した。
【0140】
[性能評価]
このようにして作製した実施例1〜10および比較例1〜2の各分離モジュールに、原料ガスGとして、H
2:CO
2:H
2O=45:5:50(分圧比)の混合ガスを、流量2.2L/min、温度130℃、全圧301.3kPaの条件で供給した。また、中心筒12の原料ガス供給側の端部に、スイープガス供給用の貫通孔を形成して、ここから、スイープガスとして、流量0.6L/minのArガスを供給した。
【0141】
(分離性能評価)
原料ガスの供給を開始した直後に、分離モジュールを透過してきたガス(酸性ガスGcおよび残余ガスGr)をガスクロマトグラフで分析し、CO
2透過速度(P(CO
2))を算出した。
各実施例、比較例において、分離モジュールの作製および性能評価を5回実施し、以下の基準で評価した。なお、CO
2透過速度の単位GPUは、1GPU=1×10
-6cm
3(STP)/(s・cm
2・cmHg)である。
A:CO
2透過速度の平均値が30GPU以上
B:CO
2透過速度の平均値が20GPU以上30GPU未満
C:CO
2透過速度の平均値が20GPU未満
【0142】
(耐久性評価)
また、原料ガスの供給を開始から1000時間経過した時点での、CO
2透過速度(P(CO
2))を算出し、開始直後と1000時間経過後とのCO
2透過速度の変化率を算出し、以下の基準で評価した。
AA:変化率が10%未満
A:変化率が10%以上20%未満
B:変化率が20%以上40%未満
C:変化率が40%以上
結果を、下記表に示す。
【0143】
【表1】
【0144】
上記表1に示すように、供給ガス流路用部材が、酸性ガス分離層の促進輸送膜側に積層され、かつ、透過ガス流路用部材と多孔質支持体とが接着された接着領域に対応する位置の少なくとも一部を固定領域として、酸性ガス分離層の促進輸送膜と固定化される本発明の酸性ガス分離モジュールである実施例1〜10は、比較例に対して、経時によるCO
2透過速度の変化が小さく、耐久性が向上していることがわかる。
また、実施例1〜4と実施例7〜10との比較から、固定領域の割合を5%以上とすることにより、供給ガス流路用部材と促進輸送膜とを確実に固定化して耐久性を向上でき、また、固定領域の割合を50%以下とすることで、原料ガスGの流れを妨げることなく、処理能力の低下を抑制し、分離性能を高くすることができることがわかる。
また、実施例1、2と実施例3、4との比較等から、膜保護部に対応する位置を固定領域とすることにより、耐久性が向上することがわかる。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。