(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定の測定点から送信信号を放射し、測定対象の物標で反射された反射波を受信して少なくとも位置の情報を含む観測データを取得し、前記観測データを処理して前記物標を検出するレーダ装置であって、
前記観測データを、少なくとも前記位置情報を用いて1以上の領域(以下ではクラスタ領域という)毎にグループ分けしてそれぞれを1つのクラスタとするとともに前記クラスタ毎の代表値を算出するクラスタリング処理を行い、前記物標の各々を1つのアイテムとしてそれまでに検出済みの前記アイテムの位置と前記クラスタの代表値との距離を算出し、該距離が所定値以下となる前記アイテムが判定されると前記クラスタを該アイテムに対応すると判定する一方、前記検出済みのアイテムのいずれとも前記距離が前記所定値より大きいときは前記クラスタを新たなアイテムと判定し、前記アイテム毎に前記クラスタの代表値を用いて前記位置を平滑化した平滑位置を算出するトラッキング処理を行うトラッキング処理部を備え、
前記クラスタ領域が、前記測定点を中心として中心角が同じで半径の異なる2つの円弧と2つの半径上の線分とで囲まれた扇状クラスタ領域である
ことを特徴とするレーダ装置。
【背景技術】
【0002】
自動車やその他用途に使用されるレーダ装置は、放射した電波が検出対象の物標で反射された反射信号を受信し、受信した信号の情報から距離や角度等の物標の位置情報を検出する。検出した位置情報をそのまま用いることもあるが、その場合には意図しない物標を検出してしまったり、あるいは雑音等により本来検出すべき物標が検出できなかったりすることがある。
【0003】
そこで通常のレーダ装置では、取得した情報に対してクラスタリング処理及びトラッキング処理を行う。クラスタリング処理は、ある観測周期において検出された信号をグループ分けし、各グループ(クラスタ)をそれぞれひとつの物体で反射された信号の集合として定義する処理である。検出信号のグループ分けでは、所定の形状の領域を設定し、その領域内にある信号の集合を一つのクラスタとする処理を行う。クラスタリング処理に用いる領域の形状(クラスタ形状)として、従来より
図8に示すような円形、楕円形、矩形等の形状が多く用いられている。
【0004】
また、トラッキング処理では、クラスタリング処理で得られたクラスタ群を、それまでに得られている各物標の位置と比較してどの物標のものかを判定し、これをもとに各物標の位置を平滑化(平均化)するとともに、次の時刻における位置を予測する処理を行う。トラッキング処理における位置の平滑化や予測には、一般にα-βフィルタリング法やカルマンフィルタ法が広く用いられる。
【0005】
レーダの種類によっては、物標の位置情報(距離・角度)だけでなく、レーダから見た物標の相対速度の情報も出力することが可能となっている(例えばドップラーレーダ装置)。しかし、上記のクラスタリング処理に相対速度情報も用いて行おうとすると、処理量が増大して所定の時間内にすべての処理を完了させるのが難しくなる、等の理由によりこれまでは行われていない。
【0006】
従来のレーダ装置で行われるクラスタリング処理及びトラッキング処理については、例えば特許文献1〜3のものが知られている。特許文献1では、トラッキング処理において、観測周期毎に得られる位置情報と、すでに得られている物標の情報との相関を求める処理を軽減する方法が報告されている。ここでは、物標の位置情報の集合であるクラスタの形状については特定されていない。
【0007】
また、特許文献2では、カメラで取得した撮像画像から障害物を検出する技術について開示されている。画像位置が所定の範囲内にある検出対象候補点の集合を1つのクラスタとすることが記載されているものの、所定範囲の形状については特に規定されていない。さらに、特許文献3では、クラスタ形状を矩形または楕円形とした例が開示されているが、プロット集合サイズを求めるときの領域はどのような形状でもかまわないとして、その形状は特定されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、クラスタ形状についてはとくに好ましい形状を特定したものがこれまで知られておらず、取り扱いが容易と考えられる円形や正方形、長方形等の簡易な形状が従来より用いられている。しかしながら、クラスタリング処理の性能はクラスタ形状によって大きな影響を受け、適切でない形状でクラスタリング処理を行うと物標を適切に特定できなくなってしまう。一例として、自動車や人を物標とする場合、ある時刻における検出信号の分布が
図9のように横方向に拡がることが多い。この場合、クラスタ形状として従来の円形、正方形、長方形等を用いると、1つの物標を2以上に分割されて認識されてしまったり、これを避けるためにクラスタ形状を実際の物標のサイズからかけ離れた大きさにする必要が生じる、といった問題があった。
【0010】
また、レーダの信号処理では通常、位置情報をレーダからの距離(r)と中心線からの角度(θ)で表す極座標系が用いられるが、クラスタ形状として円形・正方形・長方形等を用いるためには、極座標系の位置情報を直交座標系(x、y)に変換する必要があり、処理負荷が増大するといった問題がある。そのため、処理負荷の大きい相対速度情報を用いたクラスタリング処理を行うのが難しかった。
【0011】
さらに、相対速度情報を用いたクラスタリング処理が行えないため、例えば異なる速度で移動している複数の物標がある時点で近接したとき、その時の観測データを1つのクラスタ(1つの物標)としてグループ化してしまうおそれがある。その場合には、複数の物標を識別することができなくなり、トラッキング性能を低下させてしまうといった問題が生じる。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、クラスタリング処理の負荷を軽減してトラッキング性能を高めることができるレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明のレーダ装置の第1の態様は、所定の測定点から送信信号を放射し、測定対象の物標で反射された反射波を受信して少なくとも位置の情報を含む観測データを取得し、前記観測データを処理して前記物標を検出するレーダ装置であって、前記観測データを、少なくとも前記位置情報を用いて1以上の領域(以下ではクラスタ領域という)毎にグループ分けしてそれぞれを1つのクラスタとするとともに前記クラスタ毎の代表値(例えば重心)を算出するクラスタリング処理を行い、前記物標の各々を1つのアイテムとしてそれまでに検出済みの前記アイテムの位置と前記クラスタの代表値との距離を算出し、該距離が所定値以下となる前記アイテムが判定されると前記クラスタを該アイテムに対応すると判定する一方、前記検出済みのアイテムのいずれとも前記距離が前記所定値より大きいときは前記クラスタを新たなアイテムと判定し、前記アイテム毎に前記クラスタの代表値を用いて前記位置を平滑化した平滑位
置を算出するトラッキング処理を行うトラッキング処理部を備え、前記クラスタ領域が、前記測定点を中心として中心角が同じで半径の異なる2つの円弧と2つの半径上の線分とで囲まれた扇状クラスタ領域であることを特徴とする。
【0014】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記観測データは、前記測定点から見た前記物標の相対速度の情報を含み、前記クラスタリング処理では、さらに前記相対速度が同一の相対速度範囲に含まれる前記観測データを同一の前記クラスタにグループ分けして前記クラスタ毎に前記相対速度を平均化した平均速度を算出し、前記トラッキング処理では、さらに前記アイテムの平滑速度と前記クラスタの平均速度との差が所定範囲内にあるときに前記クラスタを前記アイテムに対応すると判定し、前記アイテム毎に前記クラスタの平均速度を用いて前記平滑速度を算出することを特徴とする。
【0015】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記送信信号は、所定のパルス幅を有するパルス信号であることを特徴とする。
【0016】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記パルス信号は、超広帯域(UWB)無線信号であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、クラスタリング処理の負荷を軽減してトラッキング性能を高めることができるレーダ装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましい実施の形態におけるレーダ装置について、図面を参照して詳細に説明する。同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0020】
(第1実施形態)
本発明の第1の実施の形態に係るレーダ装置を、
図1を用いて以下に説明する。
図1は、本実施形態のレーダ装置100の構成を示すブロック図である。レーダ装置100は、送信用のパルス信号の生成や観測データ群の処理を行う信号処理部110と、信号処理部110から入力したパルス信号をもとに送信信号を生成する送信部120と、受信信号を処理してデジタル信号の観測データ群に変換する受信部130と、送信信号を空間に放射する送信アンテナ141及び物標で反射された反射波を受信する受信アンテナ142を有するアンテナ部140とを備えている。
【0021】
より詳細には、信号処理部110は送信パルス生成部111、スイッチ制御部112、距離演算部113、角度演算部114、相対速度演算部115、及びトラッキング演算部116を有している。送信パルス生成部111は、例えば所定の時間間隔でパルス幅1ns程度のパルス信号を送信部120に出力する。送信部120では、送信パルス生成部111からパルス信号を入力すると、これをもとに準ミリ波帯(例えば26.5GHz)の超広帯域(UWB:Ultra Wide Band)無線信号である送信信号を生成する。
【0022】
送信部120で生成された超広帯域な送信信号は、送信アンテナ141から空間に放射される。そして、送信信号が放射された所定の領域内にある物標で送信信号が反射され、この反射波が受信アンテナ142で受信される。レーダ装置100は、物標までの距離とともにその方向(角度)を検出できるように、受信アンテナ142として2つのアンテナ142a、142bを備える構成としている。
【0023】
受信部130は、混合部(HYB)131、スイッチ132、及び受信処理部133を有している。受信アンテナ142a、142bで受信された2つの受信信号は混合部(HYB)131に入力され、ここで両者の和信号と差信号が生成される。混合部(HYB)131から出力される和信号及び差信号は、スイッチ132で時間的に切り出されて受信処理部133に入力される。ここでは、受信信号を等価サンプリングの手法によりサンプリングする構成としており、スイッチ制御部112が所定のタイミングでスイッチ132を閉制御している。
【0024】
スイッチ制御部112は、送信パルス生成部111からパルス信号が出力されるのに同期して、受信信号のサンプリングを行うためのタイミングを決定してスイッチ132に閉制御用の信号を出力する。これにより、上記のタイミングでスイッチ132が閉状態となり、混合部(HYB)131から受信処理部133に和信号及び差信号が出力される。受信処理部133では、混合部(HYB)131から入力した準ミリ波帯の和信号及び差信号をベースバンドの信号に変換し、さらに図示しないA/D変換器等でデジタル化して信号処理部110に出力する。
【0025】
受信処理部133でデジタル化された信号は、信号処理部110の距離演算部113、角度演算部114、及び相対速度演算部115に出力され、それぞれで物標の距離、角度、及び相対速度が算出される。算出された距離、角度、及び相対速度のデータは、観測データ群としてトラッキング演算部116に出力される。トラッキング演算部116では、入力した観測データ群をクラスタにグループ分けするクラスタリング処理と、クラスタ毎にデータの平滑化及び予測値を求めるトラッキング処理を行う。
【0026】
本実施形態のレーダ装置100では、上記説明のように、受信信号をサンプリングするのに等価サンプリングの手法を用いている。等価サンプリングの手法では、1パルスの送信信号に対する受信信号を一定時間間隔でサンプリングしており、1パルス毎にサンプリングを開始する時刻を少しずつずらしている(ずらす時間をαとする)。これを多数回のパルス信号放射に対して行う(以下ではこれを1スキャンとする)ことで、時間間隔αでサンプリングしたのと同等のサンプリング結果が得られる。
【0027】
1スキャンの一例として、送信パルス生成部111からパルス信号が1ms間隔で出力され、これを例えば50ms間継続して行うものとすると、1スキャン当たり50回のパルス信号出力で得られる受信信号に対して等価サンプリングを行うことになる。なお、パルス信号を出力する時間間隔及び1回のスキャンにおけるパルス信号の出力回数は、上記に限定されるものではなく、適宜設定することができる。
【0028】
上記のようなサンプリングによりトラッキング演算部116に出力される観測データ群は、物標毎にそれぞれの大きさや形状等に対応した拡がりがあるため、同じ物標に対応する観測データと判定できるものを1つのクラスタにグループ分けするクラスタリング処理が行われる。観測データが属するクラスタを判定する方法として、従来はクラスタ毎に
図8に示すような円形や矩形等の形状の領域を設定し、位置情報(距離、角度)をもとにどの領域内に含まれるかを判定することで属するクラスタを判定していた。
【0029】
しかし、レーダ装置では、従来よりレーダ装置の位置を中心とする極座標系で観測データの処理を行っていることから、クラスタ形状を円形や矩形等にすると位置情報の処理に大きな負荷がかかってしまう。また、距離データに比較して方位角等の角度データの誤差が大きくなりやすいといった傾向があり、1つの物標に対する観測データが方位角の方向に拡がりやすい。
【0030】
そこで、本実施形態のレーダ装置100では、観測データをグループ分けするためのクラスタ領域の形状を、
図2に示すような扇形状としている。同図では、AとBの2つの物標を例に、それぞれのクラスタ領域10、20を示している。物標Aに対しては、レーダ装置100の位置を中心とする異なる半径Ra1,Ra2の2つの円弧11、12と、中心角がθ1だけ異なる2つの半径上の線分13、14とで囲まれる領域を、物標Aに対するクラスタ領域10としている。以下では、
図2に示すような扇形状のクラスタ領域を扇状クラスタ領域10とする。
【0031】
同様に、物標Bに対しても、異なる半径Rb1,Rb2の2つの円弧21、22と、中心角がθ2だけ異なる2つの半径上の線分23、24とで囲まれる領域を、物標Bに対する扇状クラスタ領域20とする。
図2では、物標Aがレーダ装置100の正面の方向に位置するものとしており、この場合には扇状クラスタ領域10が中心軸Cに対して左右対称に(レーダ装置100に対して傾きがないように)形成される。これに対し、物標Bはレーダ装置100の正面から所定の角度だけずれた方向に位置するものとしており、この場合には扇状クラスタ領域20は、レーダ装置100に対して所定の角度の傾きを有する配置となる。
【0032】
上記のように、クラスタ領域を扇形状とすることで、クラスタ領域を半径と中心角で表すことができ、位置情報(距離、角度)を極座標系のまま扱うことができる。その結果、位置情報の処理負荷を大幅に軽減することが可能となり、トラッキング演算部116における処理能力に余裕ができる。そこで、本実施形態のレーダ装置100では、クラスタリング処理を位置情報だけでなく速度情報も用いて行うようにしており、これにより高い精度でトラッキング処理を行うことが可能となっている。速度情報も用いたクラスタリング処理では、位置情報だけでグループ分けしたときは同じクラスタに属すると判定される観測データであっても、レーダ装置100から見た相対速度が大きく異なるときは、これを別のクラスタにグループ分けする。すなわち、位置情報が所定の扇状クラスタ領域内に含まれ、かつ相対速度が所定範囲内にあるときに、該観測データが所定のクラスタにグループ分けされる。
【0033】
扇状クラスタ領域は、その大きさを適宜設定することができる。例えば、レーダ装置100から遠距離にある物標に対して、近距離にある物標よりも大きな扇状クラスタ領域を設定してもよい。これは、レーダ装置100からの距離が長くなるほど物標で反射された受信信号の信号対雑音比が低下することを考慮したものである。特に、レーダ装置100からの距離が長くなるほど方位角のばらつきが大きくなる傾向があり、観測データが扇形状に拡がる傾向がみられる。そこで、中心角を適切に設定した扇状クラスタ領域を設定することで、観測データを好適にグループ分けすることが可能となる。
【0034】
なお、上記ではクラスタリング処理に扇状クラスタ領域を用いるものとして説明したが、これに限定されるものではなく、観測データの分布によっては従来と同様の円形/正方形/長方形等のいずれかの形状のクラスタ領域を用いるようにしてもよい。
【0035】
本実施形態のレーダ装置100では、クラスタリング処理に扇状クラスタ領域を用いることで、従来と同様の極座標系での演算処理によりクラスタリング処理の負荷を大幅に軽減することができる。一例として、レーダ装置100におけるクラスタリング処理の演算負荷を、従来のクラスタ領域を用いたときの演算負荷と比較して
図3に示す。
【0036】
従来のクラスタ領域の例として、
図3では円形状のクラスタ領域、レーダ装置に対して傾きのない長方形のクラスタ領域、及び傾きのある長方形のクラスタ領域を示している。また、同図に示す演算負荷は、円形状のクラスタ領域を用いたときの演算負荷を1としたときの相対値で示している。同図に示すように、従来の形状のクラスタ領域を用いた場合に比べて、扇状クラスタ領域を用いた場合には演算負荷が大幅に軽減される。また、従来の長方形のクラスタ領域を用いた場合には、レーダ装置に対し傾きがあるときとないときとで演算負荷に大きな影響を与えていたが、扇状クラスタ領域を用いた場合には傾きによる演算負荷への影響はほとんどない。
【0037】
クラスタリング処理により観測データが1以上のクラスタにグループ分けされると、各クラスタの重心(代表値)と平均速度が算出される。次のトラッキング処理では、クラスタリング処理によりグループ分けされた各クラスタがそれまでに得られている物標のいずれかの近傍に位置するかを判定する。そして、各物標の現在の位置を予測し、これとクラスタの重心とから物標の平滑位置を求める。また、各物標の速度とクラスタの平均速度とから物標の平滑速度を求める。
【0038】
位置及び速度の平滑値及び予測値を算出するのに、本実施形態ではα-βトラッキング法を用いている。α-βトラッキング法では、サンプリング間隔を一定時間Tとし、サンプリング時刻をt
k=kT(k=1,2、、3・・・)とするとき、物標の位置及び速度の平滑値及び予測値を次式で算出する。
【0039】
平滑位置 x
sk=x
pk+α(x
ok−x
pk)
平滑速度 v
sk=v
sk-1+β(v
ok−v
pk)
予測位置 x
pk=x
sk-1+T・v
sk-1
予測速度 v
pk=v
sk-1 (1)
ここで、時刻t
kにおける位置平滑値をx
sk、位置予測値をx
pk、位置測定値をx
ok、速度平滑値をv
sk、速度予測値をv
pk、速度測定値をv
ok、位置及び速度の予測依存性に対するゲインをそれぞれα、βとしている。位置測定値x
ok及び速度測定値v
okは、各物標に対応すると判定されたクラスタの重心及び当該クラスタに属する観測データの平均速度である。
【0040】
レーダ装置100により物標を測定する方法を
図4、5に示すフローチャートを用いて説明する。
図4は、レーダ装置100で物標を測定するときの処理の流れの概要を示すフローチャートである。また、
図5は、トラッキング演算部115で行われる信号処理方法を詳細に説明するためのフローチャートである。トラッキング演算部115では、スキャン毎に得られる観測データ群に対し、上記のクラスタリング処理及びトラッキング処理を行っている。
【0041】
図4において、レーダ装置100により物標の測定を開始すると、まずステップS1でパルス信号の放射によるスキャンを行う。このスキャンは、所定の時間間隔で送信アンテナ141から送信信号を所定期間(所定回数)放射させて行う。1つの送信信号毎に、その反射波を受信して距離演算部113、角度演算部114、及び相対速度演算部115で距離、角度、及び相対速度のデータを算出し、これを観測データ群として保存していく。
【0042】
ステップS1で1回のスキャンが終了すると、ステップS2において、保存している観測データ群をトラッキング演算部116に入力する.そして、ステップS3において、入力した観測データ群のクラスタリング処理を行う。クラスタリング処理では、観測データ群をグループ分けするためのクラスタ領域を作成し、各観測データをそれぞれのクラスタに振り分ける。
【0043】
次のステップS4では、ステップS3で作成されたクラスタ毎に、それまでに検出されている物標のどれに対応するかを判定し、物標毎に平滑位置、平滑速度等を算出するトラッキング処理を行う。ステップS4ですべての物標に対するトラッキング処理を終了すると、ステップS5で測定を継続するか否かを判定し、測定を継続するときはステップS1に戻って次のスキャンを行う。ステップS5の判定は、例えばユーザからのスキャン要求がオンのときに測定を継続し、スキャン要求がオフのときには測定を終了させるようにすることができる。
【0044】
次に、
図5は、トラッキング演算部115で行われる信号処理方法を詳細に説明するためのフローチャートである。ここでは、
図4に示した処理の流れの概要のうち、ステップS3のクラスタリング処理及びステップS4のトラッキング処理の内容を詳細に示している。
【0045】
まず、クラスタリング処理として、以下のステップS11〜S17の処理を行う。ステップS11では、
図4に示すステップS2で入力した観測データ群の中から観測データを1つずつ取り込む。そして、ステップS12において、取り込んだ観測データの位置のデータから、これが作成済みのクラスタの領域近傍にあるか否か、すなわち作成済みのクラスタの領域から所定距離以内にあるか否かを判定する。このとき、速度についても作成済みクラスタの速度範囲に含まれるか否かを判定する。
【0046】
ステップS12で観測データが作成済みのクラスタの領域近傍にあると判定されると、ステップS13で作成済みクラスタに観測データが追加される。そして、ステップS14において、作成済みクラスタに新たに追加された観測データとそれまでに含まれている観測データとから、作成済みクラスタの重心を更新する。また、新たに追加された観測データが作成済みクラスタの領域内に含まれるように、クラスタ領域の幅及び高さを更新する。その後、ステップS17に進む。
【0047】
一方、観測データがいずれの作成済みクラスタにも近接しないと判定されると、ステップS15で新規クラスタが作成される。次のステップS16では、新規クラスタの重心、幅、及び高さを算出する。新規クラスタの重心として、取り込んだ観測データの位置情報を設定する。また、幅及び高さには、事前に設定された初期値を設定するようにすることができる。ステップS16の処理が終了すると、ステップS17に進む。ステップS17では、ステップS2で入力した観測データ群のすべての処理が終了したか否かを判定し、すべての処理が終了するとステップS21に進む一方、未処理の観測データが残っているときはステップS11に戻り、次の観測データの処理を行う。
【0048】
次に、トラッキング処理について、以下に詳細に説明する。上記のクラスタリング処理で作成された各クラスタは、1つの物標に対応する観測データとしてグループ化されたものである。そこで、第1回目のスキャンでは、クラスタリング処理で作成されたクラスタ群をそれぞれ1つのアイテムとして保存する。また、2回目以降のスキャンでは、クラスタリング処理で作成された各クラスタが、それまでに作成済みのアイテムに対応するものか否かを判定し、アイテム毎のトラッキング処理を行う。
【0049】
まず、ステップS21では、上記のクラスタリング処理で作成されたクラスタから順次1つずつ選択する。次のステップS22では、選択されたクラスタが既存アイテムのいずれか1つの近傍にあるか否かを判定する。これは、選択されたクラスタの重心と各既存アイテムの平滑位置との距離が所定値以下か否かで判定することができる。このとき、速度についても、両者の差が所定値以下であることを条件とすることができる。既存アイテムの近傍にあると判定されるとステップS23に進む一方、既存アイテムの近傍にないと判定されるとステップS25に進む。
【0050】
ステップS22で選択されたクラスタが既存アイテムの近傍にあると判定されたときは、ステップS23において、選択されたクラスタを既存アイテムに追加する。すなわち、更新するアイテムを選択して情報を更新する。そして、ステップS24において、式(1)を用いて当該アイテムの位置及び速度の平滑値及び予測値を算出する。その後、ステッ29に進む。
【0051】
一方、ステップS22で選択されたクラスタが既存アイテムの近傍にないと判定されたときは、ステップS25でアイテム数が最大アイテム数に達しているか否かを判定する。その結果、アイテム数が最大アイテム数に達していると判定されるとステップS26に進む一方、アイテム数が最大アイテム数より少ないと判定されるとステップS27に進む。ステップS26では、最も過去に設定されたアイテムを削除してステップS27に進む。
【0052】
ステップS27では、選択されたクラスタを新規のアイテムとして保存する。そして、ステップS28において、式(1)を用いて新規アイテムの位置及び速度の平滑値及び予測値を算出する。その後、ステップS29に進む。
【0053】
ステップS29では、ステップS24またはS28で算出された位置及び速度の算出値を表示装置等に出力する。次のステップS30では、クラスタリング処理で作成されたクラスタのすべての処理を終了したか否かを判定し、未処理のクラスタが残っているときはステップS21に戻って再びステップS21〜S29の処理を行う。
【0054】
本実施形態のレーダ装置100を用いて走行中の自動車をトラッキングした一例を、
図6を用いて以下に説明する。ここでは、横軸Xをレーダ装置100の幅方向とし、縦軸Yを
図2に示した中心軸Cの方向としており、矢印Dの方向に走行している自動車をレーダ装置100を用いてトラッキングしている。同図(a)は、トラッキング処理を行う前の観測データ群のすべてを表示したものである。また、同図(b)、(c)に、円形状のクラスタ領域を用いてトラッキングを行った結果を示し、同図(d)、(e)に、扇状クラスタ領域を用いてトラッキングを行った結果を示す。同図(d)、(e)に示す結果は、本実施形態のレーダ装置100を用いてトラッキングを行ったものである。
【0055】
図6(b)及び(d)は、すべてのスキャンにおけるトラッキング結果を重ね合わせたものであり、
図6(c)及び(e)は、そのうち時刻t=t1、t2、t3の時点のスキャンによる観測データをトラッキング処理した結果を抽出して示したものである。トラッキング処理された観測データ群を表示する
図6(b)及び(d)をトラッキング処理していない
図6(a)と比較すると、トラッキング処理により自動車の走行軌道の周辺の観測データが選択されていることがわかる。
【0056】
クラスタ領域として円形状のものを用いたときは、
図6(b)に示すように、トラッキングの過程で走行中の自動車が多数のアイテムに分割されてしまうことがわかる。これに対し、本実施形態の扇状クラスタ領域を用いた場合には、
図6(d)に示すように、ほぼ1つのアイテムとして走行中の自動車を認識することができる。このように、トラッキングで用いるクラスタ領域の形状がトラッキング結果に大きく影響しており、扇状クラスタ領域を用いることで観測対象のアイテム(物標)を適切にトラッキングすることが可能となる。
【0057】
本実施形態のレーダ装置100によれば、扇状クラスタ領域を用いてクラスタリング処理及びトラッキング処理を行うことにより、クラスタリング処理の負荷を軽減するとともにトラッキング性能を高めることが可能となる。
【0058】
(第2実施形態)
本発明の第2の実施の形態に係るレーダ装置を、
図7を用いて以下に説明する。
図7は、本実施形態のレーダ装置200の構成を示すブロック図である。本実施形態のレーダ装置200では、信号処理部210が相対速度演算部115を有さない構成としている。これにより、トラッキング演算部116に出力される観測データ群には相対速度のデータが含まれていない。
【0059】
クラスタリング処理及びトラッキング処理の性能を高めるためには、相対速度を用いてクラスタにグループ分けするのがよい。そこで、α-βトラッキング法による位置及び速度の平滑化及び予測を、次式を用いて行うものとする。
平滑位置 x
sk=x
pk+α(x
ok−x
pk)
平滑速度 v
sk=v
sk-1+β/T(x
ok−x
pk)
予測位置 x
pk=x
sk-1+T・v
sk-1
予測速度 v
pk=v
sk-1 (2)
【0060】
相対速度を、時間間隔Tの間の移動量から求めるようにすることで、第1実施形態と同様に、扇状クラスタ領域を用いてクラスタリング処理の負荷を軽減するとともにトラッキング性能を高めることが可能となる。
【0061】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係るレーダ装置の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態におけるレーダ装置の細部構成及び詳細な動作などに関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。