(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シランモノマーとしてビニルトリアルコキシシラン、たとえばビニルトリメトキシシラン、アルキルビニルジアルコキシシラン、メチルビニルジアルコキシシラン、または、(メタ)アクリルオキシアルキルトリアルコキシシラン、たとえば(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシランおよび(メタ)アクリルオキシプロピルトリエトキシシランが使用されることを特徴とする、請求項1または2に記載の水性ポリマー分散液。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル開始水性乳化重合によって得られる水性多段ポリマー分散液であって、軟質層と硬質相とを有し、硬質相の軟質層に対する段比は25〜95質量%対75〜5質量%であり、第1段としての前記軟質層のガラス転移温度(Tg)は−30〜0℃であり、かつ第2段としての前記硬質相のそれは20〜60℃であり、かつ、以下の一般式I
【化1】
[式中、
変数は以下の意味を有する:
n=0〜2、
R1,R2,R3=互いに独立に、水素またはメチル基、
X=OまたはNH、
Y=H、アルカリ金属、NH
4]の少なくとも1のモノマーを含んだ水性多段ポリマー分散液に関する。
【0002】
さらに、本発明は、これらの水性ポリマー分散液の製造方法ならびに皮膜中の結合剤としてのそれらの使用、ならびに本発明によるポリマー分散液を含んだ皮膜に関する。
【0003】
従来の技術の水性ポリマー分散液は、特に、無機物表面および無機物成形体、たとえばファイバーセメントボードおよび壁面外装用の"サイディングボード"に皮膜を被着するための皮膜形成剤中の結合剤として使用される。ファイバーセメントボードおよび"サイディングボード"は、その他の建築材料、たとえば木材羽目板、塩化ビニルボードまたは、たとえばアルミニウムまたは鋼板からなる金属パネル材に比較して多くの利点を有する高品質の建築材料である。主たる利点は、気象的影響作用に対するファイバーセメントボードの耐久性であり、また、その機械的安定性も多くの場合その他の建築材料よりも優れている。ファイバーセメントボードは、セメント、水、場合により充填材、たとえば砂またはシリカならびに、天然繊維、たとえば木材繊維またはセルロース繊維およびまた合成繊維にも由来する繊維成分から製造される。これらの混合物は賦形され、場合により、篩い脱水され、次いで、硬化される。この粗材はそのまま硬化される、または、硬化後により高い最終強度を得るために、プレスによって圧縮されてもよい。ファイバーセメントボードはフラットな形で製造可能であるが、いわゆる波形ボードとして波状に製造することもできる。ファイバーセメントボードまたはサイディングボードには、型押しによって、外観が、たとえば木材表面に類似した表面構造を付与することができる。これらのボードは多様な形態および寸法に裁断することができ、大判ボード、小形正方形ボード、長方形ボード、菱形ボードまたは、模造スレートまたはその他の材料の模造品として形成することも可能である。ファイバーセメントボードは、通例、3〜20mmの厚さで製造されている。
【0004】
ファイバーセメントボードおよびサイディングボードは硬化されなければならない。これは、ほとんどの場合、湿潤温蔵庫中で加圧下または無圧下にて行なわれる。温度が30℃以上かつ約70℃までであれば、セメントの硬化は促進されて数時間で完了し、破壊に耐える十分な強度を持った材料が得られる。硬化は、オートクレーブ中にて加圧下で行なうこともでき、この場合、水分は逃げられず、セメントは"燃焼"し得ないため、温度も著しく高くてよい。オートクレーブ硬化は、たとえば100℃以上かつ約180℃までの温度で実施される。
【0005】
無機物表面および無機物成形体、たとえばファイバーセメントボードの短所は、気象的影響作用下(特に水の影響作用下)でカチオン成分、たとえばCa
2+が時と共に溶け出して、これによってボードの強度が低下することである。無機物表面のもう一つの不適な特性は白華現象の発生である。これは、おそらく、無機結合剤がアルカリ環境中で多価カチオン、たとえばCa
2+を含有していることに帰着されると考えられる。かくて、空気中の二酸化炭素との反応によって、無機物成形体の表面に、水に難溶の、見栄えの悪い白い石灰斑が形成される。こうした白華の発生は、作って間もない無機物成形体の硬化の間にすでに現れることがあり、また、硬化済みの無機物成形体が気象的影響作用に曝露される場合にも現れることがある。
【0006】
上記の不適な特性を回避すべく、無機物成形体には、多くの場合、皮膜が被着される。そのために、今日では通常、皮膜形成成分として水性ポリマー分散液を含んだ水性皮膜系が使用される。通例の結合剤は、スチレン/アクリルエステル・コポリマー、酢酸ビニルのホモポリマーおよびコポリマー、純アクリレート等を含んでいる(たとえば、ドイツ特許DE第2164256号、参照)。ただし、これによって得られる皮膜は、カチオン成分の滲み出し(白華)を満足すべき方法で防止することはできなかった。さらに、この種の皮膜は容易に汚れを生ずる。
【0007】
石灰白華現象はすでにセメントの硬化時に発生するために、白華防止膜としての皮膜を、すでに、グリーンコンクリートと称される未硬化のコンクリートまたはセメント上に被着するのが有効であり得る。硬化ないし凝固後に、場合によりさらに、塗料またはクリアラッカーによる第2またはさらなる皮膜被着を行なうことが可能である。その他の場合には、白華防止皮膜は支持体の硬化後にのみ被着される。
【0008】
上述した白華現象からの無機物表面および無機物成形体の保護は、欧州公開EP−A第469295号およびドイツ出願公開DE−A第19514266号に開示のスチレン/アクリレート分散液ないし純アクリレート分散液をベースとした皮膜形成材料によっても改善することが可能であった。そのため、欧州公開EP−A第469295号は特別なアニオン性乳化剤の使用を推奨し、ドイツ出願公開DE−A第19514266号は重合によって取り込まれたスルホネート基を有する特別なモノマーを含んだポリマーの使用を推奨している。
【0009】
ドイツ特許DE第10343726号には、水性ポリマー分散液および少なくとも1個のホスフェート基および/またはホスホネート基を有するアニオン性乳化剤の使用による優れた白華防止性を特徴とする皮膜被着されたコンクリート成形体が開示されている。
【0010】
欧州特許EP第915071号は、0.2〜5質量%のイタコン酸を含んだエチレン性不飽和モノマーのコポリマーをベースとした皮膜を開示している。
【0011】
好ましくは、ラジカル重合された形の重合によって取り込まれた2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸を含有したポリマーPを含んだ水性ポリマー分散液によるコンクリート瓦の保護方法は欧州EP特許第821660号に開示されている。
【0012】
欧州特許EP第623659号は、多段ポリマー分散液と皮膜形成剤中におけるその使用を開示している。ただし、該文献に開示された分散液は、一般式Iのモノマーをなんら含んでいない。
【0013】
欧州特許EP第1466929号は、多段ポリマーラテックスならびに、皮膜形成組成物中におけるその使用ないし、なかんずくファイバーセメントの"保護皮膜層"としてのその使用を開示している。
【0014】
国際公開WO第03/031526号パンフレットは、Tg勾配を有する多段ポリマーラテックスとその使用を開示している。
【0015】
欧州特許EP第894780号は、多段ポリマーであるポリマーP2を含んだ、無機物成形体用、たとえばファイバーセメントボード用の皮膜形成材料を開示している。
【0016】
欧州特許EP第1948574号には、皮膜被着されたファイバーセメント体が開示されており、これは被覆皮膜組成物としての耐衝撃多段ポリマーラテックスで皮膜被着されている。
【0017】
従来の技術において開示された多段ポリマーはいずれも一般式Iのモノマーを含んでいない。
【0018】
ファイバーセメントボードは、その製造および硬化後に、所要の白華防止性を達成すべく、しばしば、水性分散液または、水性アクリレート結合剤をベースとした塗料で皮膜被着される。皮膜は、浸漬、噴霧、ロール塗りまたはブラシ塗りによって、またはいわゆる流し塗りまたは"Curtain Coater"によって被着可能である。時として、ファイバーセメントボードの裏面および辺縁も皮膜被着される。皮膜被着および乾燥後に、ファイバーセメントボードは多くの場合になお熱い状態で互いに重ねられる。その際、皮膜の結合剤が柔らかすぎることがあり、したがって、ブロッキング防止性が十分でないために、皮膜被着されたボードが互いに粘着することがある。
【0019】
従来の技術による皮膜中の一段法結合剤は、良好なブロッキング防止性を達成するには硬質すぎることが多く、それゆえ、溶媒または膜形成助剤なしには調製不能であるという短所を有している。また、この種の皮膜の白華防止性も改善の余地のあることが多い。これらの皮膜は戸外で気象的影響作用に曝露されると容易に亀裂を生じ、濁って脆化し、したがって、それほど優れた耐候性も有していない。
【0020】
従来の技術による二段法結合剤は、それが主相に占める割合によって、満足すべき耐粘着性をもたらしはするが、その耐候性は各種要件を満たすものではない。
【0021】
そこで本発明の課題は、高度な耐候性を有すると同時に、さらに、卓越した耐ブロッキング性および優れた白華防止性の達成を特徴とする、特に、無機物成形体、たとえばファイバーセメントボードに皮膜被着するための結合剤ならびに皮膜形成剤を提供することであった。
【0022】
驚くべきことに、ラジカル開始水性乳化重合によって得られる、軟質層と硬質相とを有し、硬質相の軟質層に対する段比は(ポリマー質量を基準として)25〜95質量%対75〜5質量%であり、第1段としての前記軟質層のガラス転移温度(Tg)は−30〜0℃であり、かつ第2段としての前記硬質相のそれは20〜60℃であって、以下の一般式I
【化2】
[式中、
変数は以下の意味を有する:
n=0〜2、
R1,R2,R3=互いに独立に、水素またはメチル基、
X=OまたはNH、
Y=H、アルカリ金属、NH
4]の少なくとも1のモノマーを含んだ多段ポリマー分散液は、卓越した白華防止性および耐ブロッキング特性と同時に高度な耐候性を備えた皮膜をもたらすことが見出された。
【0023】
支持体としては、工業的に皮膜被着されるセメント質支持体(たとえはファイバーセメントボード)ならびに有機/無機質支持体(たとえばファサード)のいずれもが考え得る。耐候性の向上は非常に良好な膜形成(低MFT)と同時に相対的に高い膜硬度に帰着させることができ、これは、たとえば、UV/水・負荷試験(たとえば日射/キセノン灯耐候試験または戸外曝候)後のクリアラッカーまたは低色素皮膜の高度な光沢維持ないし高色素皮膜の良好な色調安定性(Color Retention)によって示される。このシステムは、優れた耐候性と共に、卓越した耐ブロッキング性および抜群の白華防止性を示す。
【0024】
好ましくは、本発明による水性多段ポリマー分散液とは、第1段としてのその軟質相が−30〜0℃、好ましくは−20〜0℃のTgを有し、第2段としてのその硬質相が20〜60℃、好ましくは30〜50℃のTgを有し、硬質相対軟質相の段比が25〜95:25〜5である水性ポリマー分散液として理解されることとする。
【0025】
さらに、本発明は、本発明による水性ポリマー分散液の製造方法ならびに、無機物および非無機物用の結合剤としてのその使用ならびに、特に、無機物成形体、たとえばファイバーセメントボードに皮膜被着するための皮膜形成剤中におけるその使用に関する。
【0026】
本発明のさらなる対象は、本発明による水性ポリマー分散液を含んだ皮膜ならびに、皮膜として本発明によるポリマー分散液を含んだ無機物成形体である。
【0027】
モノマーIの添加によって、無機物成形体用とくにファイバーセメントボード用の大幅に改善された皮膜が得られる。
【0028】
本発明によって製造されるポリマー分散液は、エチレン性不飽和化合物(モノマー)のラジカル乳化重合によって得られる。第1段においてポリマーは、少なくとも1つのモノマーIならびに、場合により、少なくとも1個の酸基を有するモノマーを、第1段と第2段のモノマーの総量を基準として、0.1質量%、好ましくは0.5〜2.5質量%の量にて含んだモノマーから製造される。
【0029】
第1段において使用される酸モノマーは、酸基なしのモノマーと共重合可能である。第1段のポリマーは、好ましくは、少なくとも40質量%の、以下に詳細に定める、非イオン性主モノマーならびに、エチレン性不飽和酸モノマーから選択された第2のモノマー種から形成される。第1段のポリマーは、さらに、オプショナルに、さらに別の好ましくは非イオン性モノマーから形成されていてよい。第1段のポリマーは、第1段のモノマー全体を基準として、好ましくは少なくとも40質量%、特に60〜99質量%または80〜98質量%が、C1〜C20−アルキル(メタ)アクリレート、20個までのC原子を含んだカルボン酸のビニルエステル、20個までのC原子を有するビニル芳香族化合物、エチレン性不飽和ニトリル、ハロゲン化ビニル、1〜10個のC原子を含んだアルコールのビニルエーテル、2〜8個のC原子および1または2個の二重結合を有する脂肪族炭化水素およびこれらのモノマーの混合物からなる群から選択された主モノマーから構成されている。第1段のポリマー用の主モノマーは、たとえば、C
1−C
10−アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、たとえばメチルメタクリレート、メチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、エチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレートである。特に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの混合物も適切である。1〜20個のC原子を有するカルボン酸のビニルエステルは、たとえば、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニルエステルおよび酢酸ビニルである。ビニル芳香族化合物としては、ビニルトルエン、α−およびパラ−メチルスチレン、α−ブチルスチレン、4−n−ブチルスチレン、4−n−デシルスチレンおよび好ましくはスチレンが考えられる。ニトリルの例は、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルである。ハロゲン化ビニルは、塩素、フッ素または臭素で置換されたエチレン性不飽和化合物、好ましくは塩化ビニルおよび塩化ビニリデンである。ビニルエーテルとして挙げられるのは、たとえば、ビニルメチルエーテルまたはビニルイソブチルエーテルである。好ましいのは、1〜4個のC原子を含んだアルコールのビニルエーテルである。4〜8個のC原子および2個のオレフィン二重結合を有する炭化水素としては、ブタジエン、イソプレンおよびクロロプレンを挙げておくこととする。第1段のポリマー用の主モノマーとして好ましいのは、C1〜C10−アルキルアクリレート、C1〜C10−アルキルメタクリレート、20個までのC原子を含んだカルボン酸のビニルエステルおよびこれらのモノマーの混合物、特に、C
1〜C
8−アルキルアクリレートおよびC
1〜C
8−アルキルメタクリレートおよびビニルエステルである。なかんずく特に好ましいのは、2−エチルヘキシルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタクリレートおよびスチレンである。
【0030】
第1段のポリマーは、さらに、第1段のモノマー全体を基準として、場合により0.1質量%、特に0.5〜2.5質量%のエチレン性不飽和酸モノマーを含んでいる。エチレン性不飽和酸モノマーは、たとえば、エチレン性不飽和カルボン酸、エチレン性不飽和スルホン酸およびビニルスルホン酸である。エチレン性不飽和カルボン酸としては、好ましくは、分子中に3〜6個のC原子を有するα,β−モノエチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸が使用される。その例は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、酢酸ビニル、乳酸ビニルおよび2−カルボキシエチルアクリレートである。エチレン性不飽和スルホン酸としては、たとえば、ビニルスルホン酸またはスチレンスルホン酸が適している。好ましいのは、アクリル酸およびメタクリル酸またはそれらの混合物である。
【0031】
さらに、第1段のモノマーとして、α,β−不飽和C
3−C
6−カルボン酸のアミドおよびヒドロキシアルキルエステル、特に好ましくは、アクリルアミド、メタクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートまたは1,4−ブタンジオールモノアクリレートが使用可能である。これらのモノマーは単独でまたは、たとえば酸およびアミドの組み合わせでも使用可能である。
【0032】
さらに、第1段のモノマーとして、一般式Iのモノマーが使用される。そうしたものとして理解されるのは、たとえば、以下である:
−2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸(AMPS)
−メタクリル酸−(3’−スルホプロピル)−エステル
−アクリル酸−(3’−スルホプロピル)−エステル
−メタクリル酸−(2’−スルホエチル)−エステル
一般式Iのモノマーのアルカリ金属塩のうち、特に、ナトリウム金属塩、アンモニウム金属塩およびカリウム金属塩が適している。
【0033】
好ましい実施形態において、第1段のポリマーはコポリマーであって、該コポリマーは
(i)総じて第1段および第2段で重合されるモノマーの100質量%を基準として、5〜50質量%の量にて使用され、
(ii)少なくとも80質量%かつ99質量%までが、C1〜C10−アルキル(メタ)アクリレート、α,β−不飽和C
3−C
6−カルボン酸のアミドおよびヒドロキシアルキルエステル、特に好ましくは、アクリルアミド、メタクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートまたは1,4−ブタンジオールモノアクリレートおよびこれらのモノマーの混合物、特に、n−ブチルアクリレート、メチルメタクリレートおよびアクリルアミドからなる群から選択された主モノマーから構成され、かつ
(iii)少なくとも0.1質量%かつ5質量%までが、好ましくは、
−2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸(AMPS)
−メタクリル酸−(3’−スルホプロピル)−エステル
−アクリル酸−(3’−スルホプロピル)−エステル
−メタクリル酸−(2’−スルホエチル)−エステル
からなる群から選択されたモノマーIから構成されている
コポリマーである。
【0034】
本発明の好ましい実施形態において、第1段の重合は、シードラテックスの存在において行なわれる。シードラテックスは、好ましくは20〜40nmの平均粒子直径を有する微小ポリマー粒子の水性分散液である。シードラテックスは、第1段および第2段のモノマー総量を基準として、好ましくは0.05〜5質量%、特に好ましくは0.1〜3質量%の量にて使用される。適切なのは、たとえば、ポリスチレン・ベースまたはポリメチルメタクリレート・ベースのラテックスである。好ましいシードラテックスはポリスチレンシードである。
【0035】
第2段の重合に使用されるモノマーは、第2段のモノマーの総量を基準として、好ましくは少なくとも60質量%、好ましくは少なくとも80質量%、たとえば80〜100質量%が以下に述べる主モノマーの1つ以上からなっている。主モノマーは、C
1−C
20−アルキル(メタ)アクリレート、20個までのC原子を含んだカルボン酸のビニルエステル、20個までのC原子を有するビニル芳香族化合物、エチレン性不飽和ニトリル、ハロゲン化ビニル、1〜10個のC原子を含んだアルコールのビニルエーテル、2〜8個のC原子および1または2個の二重結合を有する脂肪族炭化水素またはこれらのモノマーの混合物からなる群から選択されている。
【0036】
たとえば、C
1−C
10−アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、たとえばメチルメタクリレート、メチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、エチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレートが挙げられる。特に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの混合物も適している。1〜20個のC原子を有するカルボン酸のビニルエステルは、たとえば、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニルエステルおよび酢酸ビニルである。ビニル芳香族化合物としては、ビニルトルエン、α−およびパラ−メチルスチレン、α−ブチルスチレン、4−n−ブチルスチレン、4−n−デシルスチレンおよび好ましくはスチレンが考えられる。ニトリルの例は、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルである。ハロゲン化ビニルは、塩素、フッ素または臭素で置換されたエチレン性不飽和化合物、好ましくは塩化ビニルおよび塩化ビニリデンである。ビニルエーテルとして挙げられるのは、たとえば、ビニルメチルエーテルまたはビニルイソブチルエーテルである。好ましいのは、1〜4個のC原子を含んだアルコールのビニルエーテルである。4〜8個のC原子および2個のオレフィン二重結合を有する炭化水素としては、ブタジエン、イソプレンおよびクロロプレンを挙げておくこととする。
【0037】
第2段の重合用の主モノマーとして好ましいのは、C
1〜C
10−アルキルアクリレートおよびC
1〜C
10−アルキルメタクリレート、特に、C
1〜C
8−アルキルアクリレートおよびC
1〜C
10−アルキルメタクリレートおよびビニル芳香族化合物、特に、スチレンおよびそれらの混合物である。なかんずく特に好ましいのは、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−プロピルヘプチルアクリレート、スチレン、酢酸ビニルならびにこれらのモノマーの混合物である。
【0038】
上記の主モノマーの他に、第2段の重合用のモノマーは、その他のモノマー、たとえば、カルボン酸基、スルホン酸基またはホスホン酸基を有するモノマーを含んでいてよい。好ましいのはカルボン酸基である。たとえば以下すなわちアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸またはフマル酸を挙げておくこととする。その他のモノマーは、たとえば、ヒドロキシ基を含んだモノマー、特に、C
1−C
10−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートならびに(メタ)アクリルアミドもそうである。さらに、その他のモノマーとして、フェニルオキシエチルグリコールモノ−(メタ)アクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アミノ−(メタ)アクリレート、たとえば2−アミノエチル−(メタ)アクリレートを挙げておくこととする。その他のモノマーとして、架橋性モノマーも挙げておくこととする。
【0039】
第2段のポリマーは、さらに、第2段のモノマー全体を基準として、場合により0.1質量%、特に0.5〜2.5質量%のエチレン性不飽和酸モノマーを含んでいる。エチレン性不飽和酸モノマーは、たとえば、エチレン性不飽和カルボン酸、エチレン性不飽和スルホン酸およびビニルホスホン酸である。エチレン性不飽和カルボン酸としては、好ましくは、分子中に3〜6個のC原子を有するα,β−モノエチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸が使用される。その例は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、酢酸ビニル、乳酸ビニルおよび2−カルボキシエチルアクリレートである。エチレン性不飽和スルホン酸としては、たとえば、ビニルスルホン酸またはスチレンスルホン酸が適している。好ましいのは、アクリル酸およびメタクリル酸およびそれらの混合物である。
【0040】
さらにその他に、第2段のモノマーとして、α,β−不飽和C
3−C
6−カルボン酸のアミドおよびヒドロキシアルキルエステル、特に好ましくは、アクリルアミド、メタクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートまたは1,4−ブタンジオールモノアクリレートが使用可能である。これらのモノマーは単独でまたは、たとえば酸およびアミドの組み合わせでも使用可能である。
【0041】
さらにその他に、第2段のモノマーとして、同じく、一般式Iのモノマーも使用される。
【0042】
そうしたものとして理解されるのは、たとえば、以下である:
−2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸(AMPS)
−メタクリル酸−(3’−スルホプロピル)−エステル
−アクリル酸−(3’−スルホプロピル)−エステル
−メタクリル酸−(2’−スルホエチル)−エステル
一般式Iのモノマーのアルカリ金属塩のうち、特に、ナトリウム金属塩、アンモニウム金属塩およびカリウム金属塩が適している。
【0043】
特に、第2段の重合用のモノマーは、少なくとも60質量%、特に好ましくは少なくとも80質量%、たとえば60〜99質量%、なかんずく特に好ましくは少なくとも95質量%が、少なくとも1つのC
1〜C
20アルキルアクリレート、少なくとも1つのC
1〜C
20アルキルメタクリレート、それらの混合物またはそれらと、以下すなわち、α,β−不飽和C
3−C
6−カルボン酸のアミドおよびヒドロキシアルキルエステルとくに好ましくはアクリルアミド、メタクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートまたは1,4−ブタンジオールモノアクリレートのうちから選択された少なくとも1つのその他のモノマーとの混合物のうちから選択されている。
【0044】
第1段の重合用のモノマーは、第1段のモノマーから製造されたポリマーについて算定されたガラス転移温度が−30℃〜0℃であり、第2段のモノマーから製造されたポリマーについて算定されたガラス転移温度が20℃〜60℃であるように選択されている。
【0045】
モノマーの種類および量を意図的に変化させることにより、当業者は、本発明により、当該ポリマーが所望の範囲のガラス転移温度を有する水性ポリマー組成物を製造することが可能である。やり方はFoxの式に準拠して行なうことができる。Fox(T.G.Fox, Bull.Am.Phys.Soc.1956[Ser.II]1,p.123およびUllmann’s Encyclopaedie der technischen Chemie, Bd.19, p.18, 4.Auflae, Verlag Chemie, Weinheim,1980)によれば、コポリマーのガラス転移温度の計算には、良好な近似にて、以下の式
【数1】
[式中、
x
1,x
2,…x
nはモノマー1,2,…nの質量分率を意味し、Tg
1,Tg
2,…Tg
nはそれぞれモノマー1,2,…nのいずれか1つのみから構成されたポリマーのガラス転移温度K、を意味する]が当てはまる。大半のモノマーのホモポリマーに関するTg値は公知であり、たとえば、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, Bd.5, Vol.A21, p.169, VCH Weinheim, 1992,に挙げられている;ホモポリマーのガラス転移温度に関するその他の出典をなすものは、たとえば、J.Brandrup, E.H.Immergut, Polymer Handbook, 1
stEd., J.Wiley, New York 1966, 2
ndEd. J.Wiley, New York 1975, および3
rdEd. J.Wiley, New York 1989,である。エチルアクリレートについては、−13℃の値が使用される。
【0046】
実際のガラス転移温度は、示差走査熱量計(ASTM D 3418−08,いわゆる"midpoint temperature")によって決定することができる。
第1段で使用されるモノマーの量と第2段で使用されるモノマーの量との質量比は、好ましくは、5:95〜50:50である。
【0047】
本発明によるポリマー分散液の製造に際しては、先に挙げたモノマーに加えて、少なくとも1架橋剤が使用可能である。架橋機能を有するモノマーは、分子中に少なくとも2個の重合性エチレン性不飽和非共役二重結合を有する化合物である。架橋はまた、たとえば、それと相補的な官能基との化学的架橋反応が可能な官能基によって行なうこともできる。その際、相補基はいずれもエマルションポリマーに固定されていてよいが、架橋のために、エマルションポリマーの官能基との化学的架橋反応が可能な架橋剤も使用可能である。
【0048】
適切な架橋剤は、たとえば、アクリルエステル、メタクリルエステル、アリルエーテルまたは少なくとも二価のアルコールのビニルエーテルである。その際、基礎となるアルコールのOH基は、完全にまたは部分的に、エーテル化またはエステル化されていてよい;ただし、架橋剤は少なくとも2個のエチレン性不飽和基を含んでいる。
【0049】
基礎となれるアルコールの例は二価のアルコールであり、たとえば、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1.4−ブタンジオール、ブテ−2−エン−1,4−ジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチルペンタン−1,5−ジオール、2,5−ジメチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、ヒドロキシピバル酸−ネオペンチルグリコールモノエステル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシプロピル)フェニル]プロパン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、3−チアペンタン−1,5−ジオール、ならびにポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラヒドロフラン(それぞれ分子量200〜10000)である。酸化エチレンないし酸化プロピレンのホモポリマーの他に、酸化エチレンまたは酸化プロピレンからなるブロックコポリマーまたは、酸化エチレン基および酸化プロピレン基が組み込まれて含まれているコポリマーも使用可能である。2個以上のOH基を有する、基礎となるアルコールの例は、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリトリット、1,2,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、シアヌル酸、ソルビタン、糖類、たとえばサッカロース、グルコース、マンノースである。言うまでもなく、多価アルコールは、酸化エチレンまたは酸化プロピレンとの反応後にも、当該エトキシレートないしプロポキシレートとして使用可能である。多価アルコールは、最初に、エピクロロヒドリンとの反応によっても、当該グリシジルエーテルに転換可能である。
【0050】
その他の適切な架橋剤は、ビニルエステルまたは、一価の不飽和アルコールとエチレン性不飽和C
3−C
6−カルボン酸、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸またはフマル酸とのエステルである。この種のアルコールの例は、アリルアルコール、1−ブテン−3−オール、5−ヘキセン−1−オール、1−オクテン−3−オール、9−デセン−1−オール、ジシクロペンテニルアルコール、10−ウンデセン−1−オール、桂皮アルコール、シトロネロール、クロチルアルコールまたはシス−9−オクタデセン−1−オールである。また、一価の不飽和アルコールを多価カルボン酸、たとえばマロン酸、酒石酸、トリメリット酸、フタル酸、テレフタル酸、クエン酸またはコハク酸とエステル化することも可能である。好ましい架橋剤はアリルメタクリレートである。
【0051】
その他の適切な架橋剤は、不飽和カルボン酸と上述した多価アルコール、たとえばオレイン酸、クロトン酸、桂皮酸または10−ウンデセン酸とのエステルである。
【0052】
架橋剤として適しているのは、さらに、直鎖状または枝分かれした、線状または環状の、脂肪族炭化水素にあっては非共役であってよい少なくとも2個の二重結合を有する脂肪族または芳香族炭化水素であり、たとえば、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、1,7−オクタジエン、1,9−デカジエン、4−ビニル−1−シクロヘキセン、トリビニルシクロヘキセンまたはポリブタジエン(分子量200〜20000)である。
【0053】
架橋剤として適しているのは、さらに、アクリル酸アミド、メタクリル酸アミドおよび、少なくとも二価のアミンのN−アリルアミンである。この種のアミンは、たとえば、1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,12−ドデカンジアミン、ピペラジン、ジエチレントリアミンまたはイソホロンジアミンである。また、アリルアミンと不飽和カルボン酸、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、または上述したような少なくとも二価のカルボン酸とからのアミドも同じく適切である。
【0054】
さらに、トリアリルアミンおよびトリアリルモノアルキルアンモニウム塩、たとえばトリアリルメチルアンモニウムクロリドまたは同メチルスルフェートも架橋剤として適している。
【0055】
また、尿素誘導体、少なくとも二価のアミド、シアヌレートまたはウレタン、たとえば尿素、エチレン尿素、プロピレン尿素または酒石酸アミドのそれぞれのN−ビニル化合物、たとえばN,N’−ジビニルエチレン尿素またはN,N’−ジビニルプロピレン尿素も適切である。
【0056】
その他の適切な架橋剤は、ジビニルジオキサン、テトラアリルシランまたはテトラビニルシランである。上述した化合物の混合物も使用可能であることは言うまでもない。好ましくは、水溶性架橋剤が使用される。
【0057】
さらに、エチレン性不飽和二重結合の他に、添加された架橋剤と反応し得る反応性官能基、たとえばアルデヒド基、ケト基またはオキシラン基を有するモノマーも架橋性モノマーに数え入れられる。官能基は、好ましくは、ケト基またはアルデヒド基である。ケト基またはアルデヒド基は、好ましくは、ケト基またはアルデヒド基を有する共重合性エチレン性不飽和化合物の共重合によってポリマーに結合されている。この種の適切な化合物は、アクロレイン、メタクロレイン、アルキル基中に1〜20個、好ましくは1〜10個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン、ホルミルスチレン、アルキル基中に1または2個のケト基またはアルデヒド基あるいは1個のアルデヒド基と1個のケト基とを有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(ここで、アルキル基は、好ましくは、総計3〜10個の炭素原子を含んでいる)たとえばドイツ出願公開DE−A第2722097号に開示されている類の(メタ)アクリルオキシアルキルプロパナールである。さらに、たとえば、米国特許US−A第4226007号、ドイツ出願公開DE−A第2061213号またはドイツ出願公開DE−A第2207209号から公知の類のN−オキソアルキル(メタ)アクリルアミドも適切である。特に好ましいのは、アセトアセチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレートおよび特にジアセトンアクリルアミドである。架橋剤は、好ましくは、ポリマーの官能基、特に、ケト基またはアルデヒド基と架橋反応可能な少なくとも2個の官能基、特に、2〜5個の官能基を有する化合物である。これに数え入れられるのは、たとえば、ケト基またはアルデヒド基の架橋のための官能基としての、ヒドラジド基、ヒドロキシルアミン基、オキシムエーテル基またはアミノ基である。ヒドラジド基を有する適切な化合物は、たとえば、500g/molまでのモル質量を有するポリカルボン酸ヒドラジドである。特に好ましいヒドラジド化合物は、好ましくは2〜10個のC原子を有するジカルボン酸ジヒドラジドである。これに数え入れられるのは、たとえば、蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジドおよび/またはイソフタル酸ジヒドラジドである。特に興味深いのは、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドおよびイソフタル酸ジヒドラジドである。ヒドロキシルアミン基またはオキシムエーテル基を有する適切な化合物は、たとえば、国際公開WO第93/25588号パンフレットに挙げられている。
【0058】
第1段の重合中にも、第2段の重合中にも、またその後にも使用可能なその他の適切な架橋剤は、たとえば、アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレン尿素、N−(2−アクリロイルオキシエチル)−エチレン尿素、2−アセトアセトキシエチルアクリレート、2−アセトアセトキシエチルメタクリレート、ジアセトンアクリルアミドである。
【0059】
架橋性モノマーは、好ましくは、重合に使用されるモノマー(架橋剤を含む)の総質量を基準として、0.0005〜5質量%、好ましくは0.001〜2.5質量%、とりわけ0.01〜1.5質量%の量にて使用される。架橋剤は、第1段のみでも、第2段のみでも、あるいは双方の段でも使用され得る。
【0060】
モノマー混合物M)のラジカル重合は、少なくとも1つの調整剤の存在において行なうことが可能である。調整剤は、好ましくは、重合に使用されるモノマーの総質量を基準として、0.0005〜5質量%、特に好ましくは0.001〜2.5質量%、なかんずく0.01〜1.5質量%の投与量にて使用される。
【0061】
調整剤(重合調整剤)と称されるのは、一般に、高い連鎖移動定数を有する化合物である。調整剤は連鎖移動反応を促進し、こうして、総反応速度に影響を及ぼさずに、生ずるポリマーの重合度の低下をもたらす。調整剤については、1以上の連鎖移動反応を生じ得る分子中の官能基の数に応じて、単官能調整剤、二官能調整剤または多官能調整剤を区別することができる。適切な調整剤は、たとえば、K.C.Berger und G.Bandrup in J.Bandrup, E.H.Immergut, Polymer Handbook, 3.Aufl., John Wiley & Sons, New York, 1989, p.II/81〜II/141に詳細に述べられている。
【0062】
調整剤としては、たとえば、アルデヒド、たとえばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒドが適している。
【0063】
さらに、以下も調整剤として使用可能である:蟻酸、その塩またはエステル、たとえば蟻酸アンモニウム、2,5−ジフェニル−1−ヘキセン、ヒドロキシルアンモニウムスルフェートおよびヒドロキシルアンモニウムホスフェート。
【0064】
その他の適切な調整剤はハロゲン化合物であり、たとえば、ハロゲン化アルキル、たとえばテトラクロロメタン、クロロホルム、ブロモトリクロロメタン、ブロモホルム、アリルブロミド、およびベンジル化合物、たとえば塩化ベンジル、臭化ベンジルである。
【0065】
その他の適切な調整剤はアリル化合物であり、たとえば、アリルアルコール、官能性アリルエーテル、たとえばアリルエトキシレート、アルキルアリルエーテル、またはグリセリンモノアリルエーテルである。
【0066】
好ましくは、調整剤として、結合された形のイオウを含んでいる化合物が使用される。
【0067】
この種の化合物は、たとえば、無機亜硫酸水素塩、二亜硫酸塩および亜ジチオン酸塩または有機硫化物、二硫化物、多硫化物、スルホキシドおよびスルホンである。これに数え入れられるのは、ジ−n−ブチルスルフィド、ジ−n−オクチルスルフィド、ジフェニルスルフィド、チオジグリコール、エチルチオエタノール、ジイソプロピルジスルフィド、ジ−n−ブチルジスルフィド、ジ−n−ヘキシルジスルフィド、ジアセチルジスルフィド、ジエタノールスルフィド、ジ−t−ブチルトリスルフィド、ジメチルスルホキシド、ジアルキルスルフィド、ジアルキルジスルフィドおよび/またはジアリールスルフィドである。
【0068】
重合調整剤として適しているのは、その他に、チオール(SH基の形でイオウを含んでいる化合物、メルカプタンとも称される)である。調整剤として好ましいのは、単官能、二官能および多官能メルカプタン、メルカプトアルコールおよび/またはメルカプトカルボン酸である。これらの化合物の例は、アリルチオグリコレート、エチルチオグリコレート、システイン、2−メルカプトエタノール、1,3−メルカプトプロパノール、3−メルカプトプロパン−1,2−ジオール、1,4−メルカプトブタノール、メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸、メルカプトコハク酸、チオグリセリン、チオ酢酸、チオ尿素およびアルキルメルカプタン、たとえばn−ブチルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタンまたはt−ないしn−ドデシルメルカプタンである。
【0069】
結合された形で2個のイオウ原子を含んでいる二官能調整剤の例は、二官能チオール、たとえばジメルカプトプロパンスルホン酸(ナトリウム塩)、ジメルカプトコハク酸、ジメルカプト−1−プロパノール、ジメルカプトエタン、ジメルカプトプロパン、ジメルカプトブタン、ジメルカプトペンタン、ジメルカプトヘキサン、エチレングリコール−ビス−チオグリコレートおよびブタンジオール−ビス−チオグリコレートである。多官能調整剤の例は、2個超のイオウ原子を結合された形で含んでいる化合物である。その例は、三官能および/または四官能メルカプタンである。
【0070】
上述した調整剤はすべて、単独で、または互いに組み合わせても使用可能である。特別な実施形態は、調整剤の添加なしで、ラジカル乳化重合によって製造されるポリマー分散液に関する。
【0071】
ポリマーを製造するために、モノマーをラジカル生成開始剤によって重合させることができる。
【0072】
ラジカル重合の開始剤としては、そのために通例のペルオキソ化合物および/またはアゾ化合物、たとえば、アルカリ−またはペルオキシ二硫酸アンモニウム、ジアセチルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、スクシニルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、t−ブチルペルベンゾエート、t−ブチルペルピバレート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルマレイネート、クメンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルペルオキシドカルバメート、ビス−(o−トルオイル)ペルオキシド、ジデカノイルペルオキシド、ジオクタノイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、t−ブチルペルイソブチレート、t−ブチルペルアセテート、ジ−t−アミルペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、アゾ−ビス−イソブチロニトリル、2,2’−アゾ−ビス−(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリドまたは2,2’−アゾ−ビス−(2−メチル−ブチロニトリル)が使用可能である。また、これらの開始剤の混合物も適している。
【0073】
開始剤としては、レドックス(=Red/Ox)開始剤系も使用可能である。レドックス開始剤系は、少なくとも1つの、ほとんどの場合に無機の還元剤と、少なくとも1つの無機または有機の酸化剤とからなっている。酸化成分は、たとえば、すでに上述した乳化重合開始剤である。還元成分は、たとえば、亜硫酸のアルカリ金属塩、たとえば亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、二亜硫酸のアルカリ塩、たとえば二亜硫酸ナトリウム、脂肪族アルデヒドおよびケトンの重亜硫酸付加化合物、たとえば重亜硫酸アセトンまたは還元剤、たとえばヒドロキシメタンスルフィン酸およびその塩、またはアスコルビン酸である。レドックス開始剤系は、金属成分が複数の価数段階で現れる可溶性金属化合物と併用して、使用可能である。通例のレドックス開始剤系は、たとえば、アスコルビン酸/硫酸鉄(II)/ペルオキシ二硫酸ナトリウム、t−ブチルヒドロペルオキシド/二亜硫酸ナトリウム、t−ブチルヒドロペルオキシド/Na−ヒドロキシメタンスルフィン酸である。個々の成分、たとえば還元成分は混合物であってもよく、たとえば、ヒドロキシメタンスルフィン酸のナトリウム塩と二亜硫酸ナトリウムとからなる混合物であってよい。
【0074】
開始剤の量は、重合されるすべてのモノマーを基準として、一般に、0.1〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。また、複数の異なった開始剤も乳化重合に際して使用可能である。
【0075】
ポリマー分散液の製造は、通例、少なくとも1つの界面活性化合物の存在において行なわれる。適切な保護コロイドの詳細な説明はHouben−Weyl, Methoden der organischen Chemie, BandXIV/1, Makromolekulare Stoffe, Georg Thieme Verlag, Stuttgart, 1961, p.411−420に見出される。適切な乳化剤もHouben−Weyl, Methoden der organischen Chemie, Band 14/1, Makromolekulare Stoffe, Georg Thieme Verlag, Stuttgart, 1961, p.192−208に見出される。
【0076】
乳化剤としては、アニオン性、カチオン性ならびに非イオン性乳化剤のいずれも適している。好ましくは、界面活性物質として、相対分子量が通例保護コロイドのそれを下回っている乳化剤が使用される。
【0077】
使用可能な非イオン性乳化剤は、芳香脂肪族または脂肪族の非イオン性乳化剤、たとえばエトキシル化されたモノ、ジおよびトリアルキルフェノール(EO度:3〜50、アルキル基:C
4−C
10)、長鎖アルコールのエトキシレート(EO度:3〜100、アルキル基:C
8−C
36)ならびにポリエチレンオキシド/ポリプロピレンオキシド・ホモポリマーおよびコポリマーである。これらは酸化アルキレン単位をランダム分布またはブロックの形で重合によって組み込んで含んでいてよい。好適なのは、たとえば、EO/POブロックコポリマーである。好ましくは、長鎖アルカノールのエトキシレート(アルキル基C
1−C
30、平均エトキシル化度5〜100)およびそのうち特に好ましくは、線状C
12−C
20アルキル基を有し、平均エトキシル化度10〜50のもの、ならびにエトキシル化されたモノアルキルフェノールが使用される。
【0078】
適切なアニオン性乳化剤は、たとえば、以下のそれぞれ、アルキルスルフェート(アルキル基:C
8−C
22)、エトキシル化されたアルカノール(EO度:2〜50、アルキル基;C
12−C
18)およびエトキシル化されたアルキルフェノール(EO度:3〜50、アルキル基:C
4−C
9)の硫酸半エステル、アルキルスルホン酸(アルキル基:C
12−C
18)およびアルキルアリールスルホン酸(アルキル基:C
9−C
18)、のアルカリ塩およびアンモニウム塩である。その他の適切な乳化剤はHouben−Weyl, Methoden der organischen Chemie, BandXIV/1, Makromolekulare Stoffe, Georg−Thieme−Verlag, Stuttgart, 1961, p.192−208に見出される。アニオン性乳化剤としては、同じく、ビス(フェニルスルホン酸)エーテルないしそれの、1または2個の芳香族環にC
4−C
24−アルキル基を担持しているアルカリ塩またはアンモニウム塩が適している。これらの化合物は、一般に、たとえば米国特許US−A第4,269,749号から公知であり、たとえばDowfax(登録商標)2A1(Dow Chemical Company)として市販されている。
【0079】
適切なカチオン性乳化剤は、好ましくは、第四ハロゲン化アンモニウム、たとえばトリメチルセチルアンモニウムクロリド、メチルトリオクチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリドまたは、N−C
6−C
20−アルキルピリジン、同モルホリンまたは同イミダゾールの第四化合物、たとえばN−ラウリルピリジニウムクロリドである。
【0080】
乳化剤の量は、一般に、重合されるモノマーの量を基準として、約0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。
【0081】
好ましくは、第1のポリマーの酸基の中和は、第2段の重合中における中和剤の少なくとも部分的な供給によって行なわれ、その際、中和剤の供給は、好ましくは、モノマーの供給と並行して行なわれる。その際、中和剤は、重合されるモノマーと一緒に供給または別個に供給することが可能である。モノマー全体の供給後、少なくとも10%、好ましくは30〜100%または30〜90%の酸当量の中和に必要とされる量の中和剤が重合容器中に含まれているのが好ましい。
【0082】
乳化重合は、通常、30〜130℃、好ましくは50〜95℃にて行なわれる。重合媒体は、水のみからなっていても、水と、水と混合可能な液体、たとえばエタノールとの混合物からなっていてもよい。好ましくは、水のみが使用される。第1段の乳化重合は、バッチ方式としても、段階法または勾配法を含む流入供給方式の形でも、実施可能である。重合に際しては、粒子サイズの調整を改善するために、好ましくは、ポリマーシードが予備的に装入される。
【0083】
開始剤がラジカル水性乳化重合の過程で重合容器に添加される方法は、通常の当業者には公知に属する。これは予備的に重合容器に全面的に装入されていても、ラジカル水性乳化重合の過程でのその消費に応じて連続的または段階的に投入されてもよい。このことは、詳細には、開始剤系の化学的性質ならびに重合温度の双方に依存している。好ましいのは、一部が予備的に装入され、残りは消費に応じて重合ゾーンに供給されることである。残留モノマーを除去するため、通例、本来の乳化重合の終了後すなわち少なくとも95%のモノマーの反応後にも、開始剤が添加される。個々の成分は、流入供給方式に際し、上方から反応器に、側方から、または下方から反応器底を通して与えることができる。
【0084】
乳化重合に際し、ポリマーの水性分散液は、通常、15〜75質量%、好ましくは40〜75質量%、特に好ましくは50質量%以上の固体含有量にて得られる。反応器の高い容積/時間収率にとっては、できるだけ高い個体含有量を有する分散液が好ましい。固体含有量>60質量%を達成し得るには、2モードまたは多モードの粒子サイズが設定される必要があるが、それはさもなければ粘度が高くなりすぎて、分散液がもはや扱い不能となってしまうからである。あらたな粒子世代の生成は、たとえば、シードの添加(欧州特許EP第81083号)によって、過剰量の乳化剤の添加によって、またはミニエマルションの添加によって行なうことができる。高い個体含有量と同時に低粘度によってもたらされるもう一つの利点は、高い固体含有量にて皮膜特性の改善が得られることである。新たな粒子世代(単数/複数)の生成は任意の時点に行なうことが可能である。これは低粘度が目標とされる粒子サイズ分布に応じて定まる。
【0085】
多くの場合、重合段階の完了後に得られた水性ポリマー分散液は残留モノマー含有量を低下させる後処理に付されるのが有利である。その際、後処理は、化学的に、たとえば、より効果的なラジカル開始剤系の投入による重合反応の完了化(いわゆる後重合)および/または、物理的に、たとえば、水蒸気または不活性ガスによる水性ポリマー分散液のストリッピングによって行なわれる。相応した化学的および/または物理的方法は、当業者にはよく知られている[たとえば以下、参照のこと。欧州公開EP−A第771328号、ドイツ出願公開DE−A第19624299号、ドイツ出願公開DE−A第19621027号、ドイツ出願公開DE−A第19741184号、ドイツ出願公開DE−A第19741187号、ドイツ出願公開DE−A第19805122号、ドイツ出願公開DE−A第19828183号、ドイツ出願公開DE−A第19839199号、ドイツ出願公開DE−A第19840586号および同第19847115号]。その際、化学的後処理と物理的後処理との組み合わせは、反応しなかったエチレン性不飽和モノマーの他に、なおその他の妨害的な易揮発性有機成分(いわゆるVOCs[volatile organic compounds])が水性ポリマー分散液から除去されるという利点をもたらす。
【0086】
本発明の実施形態において、双方の段階でシランモノマー、たとえばビニルトリアルキルシラン、たとえばビニルトリメトキシシラン、アルキルビニルジアルコキシシラン、たとえばメチルビニルジアルコキシシラン、または(メタ)アクリルオキシアルキルトリアルコキシシラン、たとえば(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシランおよび(メタ)アクリルオキシプロピルトリエトキシシランが使用される。これらのシランモノマーは、モノマーの総質量を基準として、2質量%までの量、好ましくは0.05〜1質量%の量にて使用可能である。
【0087】
本発明による方法によって得られる水性ポリマー分散液は、重量平均粒子直径D
wが50nm以上かつ500nm以下、好ましくは70nm以上かつ300nm以下、特に好ましくは80nm以上かつ200nm以下のポリマー粒子を含んでいる。重量平均粒子直径の測定は当業者には公知であり、たとえば、分析用超遠心器法によって行なわれる。重量平均粒子直径とは、本明細書において、分析用超遠心器法によって求められた重量平均D
w50値として理解される(これについては以下、参照のこと。S.E.Harding et al., Analytical Ultracentrifugation in Biochemistry and Polymer Science, Royal Society of Chemistry, Cambridge, Great Britain 1992, Chapter 10, Analysis of Polymer Dispersion with an Eight−Cell−AUC−Multiplexer : High Resolution Particle Size Distribution and Density Gradient Techniques, W. Maechtle, p.147−175)。
【0088】
さらに、本発明の水性ポリマー分散液から、容易な方法(たとえば凍結乾燥または噴霧乾燥)によって、当該ポリマー粉末が得られる。これらの本発明によって得られるポリマー粉末は、同じく、有機支持体用の皮膜形成剤製造時の成分として、ならびに、無機結合剤の改質用成分として使用することができる。
【0089】
上記水性ポリマー分散液は、通例、20〜70質量%、好ましくは40〜65質量%の固体含有量を有している。
【0090】
上記ポリマーの水性分散液は、本発明による方法の範囲において、そのもの単独でも、あるいは、無機物成形体(たとえばファイバーセメントボード)の防腐用添加剤を添加した形でも使用可能である。この種の添加剤は、芳香族ケトン、たとえばドイツ出願公開DE−A第3827975号に開示された、電磁線の作用下での架橋を目的とした光重合開始剤としてのベンゾフェノン、または、ドイツ出願公開DE−A第3901073号に開示された、ポリマーがカルボニル基を有するモノマーを重合によって組み込んで含んでいる場合の水溶性ヒドラジドであってよい。
【0091】
さらに、本発明によって適用される水性調合物は架橋性添加剤も含んでいてよい。この種の添加剤は、芳香族ケトン、たとえば、場合によりフェニル環に1個以上の置換基を有するアルキルフェニルケトン、または、光重合開始剤としてのベンゾフェノンおよび置換されたベンゾフェノンであってよい。この目的に適した光重合開始剤は、たとえば、ドイツ出願DE−A第3827975号および欧州公開EP−A第417568号から公知である。また、少なくとも2個のアミノ基を有する水溶性化合物、たとえばドイツ出願公開DE−A第3901073号に開示された脂肪族カルボン酸のジヒドラジドも、該コポリマーがカルボニル基を含んだモノマーを重合によって組み込んで含んでいる場合には、適切な架橋作用性化合物である。
【0092】
本発明の好ましい実施形態において、水性調合物はクリアラッカーの形で使用される。該調合物は、その場合、通例、その総質量を基準として、10〜60質量%、好ましくは40〜55質量%の少なくとも1つのコポリマーPと、0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜10質量%の通例の助剤とくに除泡剤および/または膜形成助剤を含んでいる。
【0093】
本発明の別の実施形態において、水性調合物は、色素含有および/または充填材含有調合物の形で使用される。この場合、水性調合物中のコポリマーの総含有量は10〜60質量%、好ましくは20〜40質量%であり、助剤の含有量は0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜10質量%であり、充填材および/または色素の含有量は10〜60質量%、とりわけ15〜40質量%である。色素および/または充填材の量は、一般に、水性調合物中の100質量%のコポリマーを基準として、50〜450質量%である。さらに、色素含有調合物は、膜形成助剤および除泡剤の他に、好ましくは分散助剤ないし湿潤剤も含んでいる。
【0094】
ポリマーの水性分散液は、特に頻繁に、防腐用に着色された形で使用される。代表的な白色顔料は、たとえば、好ましくはルチル型構造の二酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛またはリトポン(硫化亜鉛+硫酸バリウム)である。装飾目的のために、調合物は、着色顔料、たとえば酸化鉄、スス、黒鉛、亜鉛黄、コバルトグリーン、ウルトラマリン、マンガン黒、アンチモン黒、マンガンバイオレット、プルシャンブルーまたはエメラルドグリーンも含んでいてよい。
【0095】
さらに、顔料(多くの場合、充填剤とも称される)として、たとえば、硫酸バリウム、タルク、雲母、炭酸カルシウム、ドロマイト、石英粉末およびそれらの混合物も考えられる。
【0096】
本発明によるクリアラッカーおよび着色塗料は、その他の通例の助剤、たとえば湿潤剤、インキャン防腐剤および皮膜防腐剤、増粘剤、除泡剤、殺カビ剤、殺藻剤、流動促進剤および凍結防止剤を通例の量にて含んでいてよい。
【0097】
使用される分散助剤の量は、通常、ラジカル重合されるモノマーの量を基準として、0.5〜6質量%、好ましくは1〜3質量%である。
【0098】
通例、防腐用に被着される水性ポリマー調合物の被着量は50〜400g/m
2(湿式算定)である。被着は、それ自体として公知の方法で、噴霧、こて塗り、ナイフ塗布、ロール塗りまたは流し込みによって行なうことができる。重要な点は、本発明による方法がすでに硬化済みの無機物成形体にも、作りたて("未硬化")の無機物成形体、たとえばファイバーセメントボードにも適用可能であるということである。時として、硬化後にさらなる皮膜形成材料の被着と、それに続く乾燥が行なわれることがある。
【0099】
実施例
1)比較分散液Tg(理論)=44℃
配量装置および温度制御系を装備した重合容器内に以下が予備装入された:
予備装入物:
402.1g 水
13.26g C
16-18−脂肪アルコールポリエトキシレートの20%水溶液
8.71g ドデシルジフェニルエーテル−ジスルホン酸ナトリウム塩の45%水溶液
1供給液容器に以下の成分からなるエマルションが製造された:
560.2g 水
19.89g C
16-18−脂肪アルコールポリエトキシレートの20%水溶液
34.85g ドデシルジフェニルエーテル−ジスルホン酸ナトリウム塩の45%水溶液
5.23g 2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の50%水溶液
13.07g アクリルアミドの50%水溶液
392.0g n−ブチルアクリレート
908.2g メチルメタクリレート
第3の供給液容器に以下が用意された:
供給液3
56.00g ナトリウムペルオキソジスルフェートの7%水溶液
【0100】
予備装入物は、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸なしで、95℃(外気温;重合温度90℃、攪拌速度150回転/分)に加熱された。2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の50%水溶液が加えられ、15分間攪拌された。続いて供給液1および供給液2がスタートされた。供給液1は3時間にわたり、供給液2は3.5時間にわたって計量供給された。攪拌速度は100回転/分に低下され、30分間後攪拌された。30分以内に、t−ブチルヒドロペルオキシドの10%水溶液11.7gと、ヒドロキシメタンスルフィン酸の10%水溶液9.1gが計量供給された。5%の過酸化水素水溶液2.61gが加えられ、10分間攪拌された。冷却後、25%のNH
3水溶液1.57gで中和され、161.77gの水が加えられた。51.6%の水性分散液2620gが得られた。
【0101】
2)比較分散液(2段式)(本発明によるモノマーIなし):
配量装置および温度制御系を装備した重合容器内に以下が予備装入された:
予備装入物:
389.7g 水
51.07g ポリスチレンシードラテックス(33%水中)
第1の供給液容器に以下の成分からなるエマルションが製造された:
供給液1
323.9g 水
9.7g C
16-18−脂肪アルコールポリエトキシレートの20%水溶液
23.15g ナトリウムラウリル−ポリエトキシスルフェートの28%水溶液
9.07g アクリル酸の50%水溶液
462.3g n−ブチルアクリレート
178.8g メチルメタクリレート
第2の供給液容器に以下の成分からなるエマルションが製造された:
供給液2
320.7g 水
9.7g C
16-18−脂肪アルコールポリエトキシレートの20%水溶液
23.15g ナトリウムラウリル−ポリエトキシスルフェートの28%水溶液
10.37g アクリルアミドの50%水溶液
9.07g アクリル酸の50%水溶液
210.0g n−ブチルアクリレート
431.0g メチルメタクリレート
第3の供給液容器に以下が用意された:
供給液3
55.6g ナトリウムペルオキソジスルフェートの7%水溶液
【0102】
予備装入物は(外気温:90℃、重合温度:83℃、攪拌速度:150回転/分)に加熱された。供給液1および3が同時にスタートされた。供給液1が1.5時間にわたり、続いて、供給液2が1.5時間にわたって計量供給された。供給液3は3時間にわたって計量供給された。続いて、30分間攪拌され、その後、1時間以内にt−ブチルヒドロペルオキシドの10%水溶液11.7gおよびヒドロキシメタンスルフィン酸の10%水溶液9.1gが計量供給された。続いて、NaOHの2%水溶液55.09gで中和され、10分間攪拌された。攪拌速度は100回転/分に低下され、冷却された。その後、5%の過酸化水素水溶液2.6gならびに78.78gの水が加えられた。49.9%の分散液2674gが得られた。
【0103】
3)実施例分散液(2段式)、本発明によるモノマーIを含む:
配量装置および温度制御系を装備した重合容器内に以下が予備装入された:
予備装入物:
389.7g 水
51.07g ポリスチレンシードラテックス(33%水中)
第1の供給液容器に以下の成分からなるエマルションが製造された:
供給液1
323.9g 水
9.7g C
16-18−脂肪アルコールポリエトキシレートの20%水溶液
23.15g ナトリウムラウリル−ポリエトキシスルフェートの28%水溶液
9.07g 2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の50%水溶液
462.3g n−ブチルアクリレート
178.8g メチルメタクリレート
第2の供給液容器に以下の成分からなるエマルションが製造された:
供給液2
320.7g 水
9.7g C
16-18−脂肪アルコールポリエトキシレートの20%水溶液
23.15g ナトリウムラウリル−ポリエトキシスルフェートの28%水溶液
10.37g アクリルアミドの50%水溶液
9.07g 2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の50%水溶液
210.0g n−ブチルアクリレート
431.0g メチルメタクリレート
第3の供給液容器に以下が用意された:
供給液3
55.6g ナトリウムペルオキソジスルフェートの7%水溶液
【0104】
予備装入物は(外気温:90℃、重合温度:83℃、攪拌速度:150回転/分)に加熱された。供給液1および3が同時にスタートされた。供給液1が1.5時間にわたり、続いて、供給液2が1.5時間にわたって計量供給された。供給液3は3時間にわたって計量供給された。続いて、30分間攪拌され、その後、1時間以内にt−ブチルヒドロペルオキシドの10%水溶液11.7gおよびヒドロキシメタンスルフィン酸の10%水溶液9.1gが計量供給された。続いて、NaOHの2%水溶液55.09gで中和され、10分間攪拌された。攪拌速度は100回転/分に低下され、冷却された。その後、5%の過酸化水素水溶液2.6gならびに78.78gの水が加えられた。49.9%の分散液2674gが得られた。
【0105】
4)実施例分散液(2段式)、本発明によるモノマーIを含む、硬質相増加:
配量装置および温度制御系を装備した重合容器内に以下が予備装入された:
予備装入物:
389.7g 水
51.07g ポリスチレンシードラテックス(33%水中)
第1の供給液容器に以下の成分からなるエマルションが製造された:
供給液1
129.6g 水
3.89g C
16-18−脂肪アルコールポリエトキシレートの20%水溶液
9.26g ナトリウムラウリル−ポリエトキシスルフェートの28%水溶液
3.63g 2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の50%水溶液
184.9g n−ブチルアクリレート
71.50g メチルメタクリレート
第2の供給液容器に以下の成分からなるエマルションが製造された:
供給液2
515.0g 水
15.56g C
16-18−脂肪アルコールポリエトキシレートの20%水溶液
37.04g ナトリウムラウリル−ポリエトキシスルフェートの28%水溶液
10.37g アクリルアミドの50%水溶液
14.52g 2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の50%水溶液
336.0g n−ブチルアクリレート
689.6g メチルメタクリレート
第3の供給液容器に以下が用意された:
供給液3
55.6g ナトリウムペルオキソジスルフェートの7%水溶液
【0106】
予備装入物は(外気温:90℃、重合温度:83℃、攪拌速度:150回転/分)に加熱された。供給液1および3が同時にスタートされた。供給液1が36分間にわたり、続いて、供給液2が2時間24分間にわたって計量供給された。供給液3は3時間にわたって計量供給された。続いて、30分間攪拌され、その後、1時間以内にt−ブチルヒドロペルオキシドの10%水溶液11.7gおよびヒドロキシメタンスルフィン酸の10%水溶液9.1gが計量供給された。続いて、NaOHの2%水溶液55.09gで中和され、10分間攪拌された。攪拌速度は100回転/分に低下され、冷却された。その後、5%の過酸化水素水溶液2.6gならびに78.78gの水が加えられた。49.7%の分散液2674gが得られた。
【0107】
5)実施例分散液(2段式)、本発明によるモノマーIを含む、調整剤および架橋剤を含む:
配量装置および温度制御系を装備した重合容器内に以下が予備装入された:
予備装入物:
389.7g 水
51.07g ポリスチレンシードラテックス(33%水中)
第1の供給液容器に以下の成分からなるエマルションが製造された:
供給液1
327.2g 水
9.7g C
16-18−脂肪アルコールポリエトキシレートの20%水溶液
23.15g ナトリウムラウリル−ポリエトキシスルフェートの28%水溶液
5.19g アクリルアミドの50%水溶液
9.07g 2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の50%水溶液
3.24g 3−メタクリルオキシプロピル−トリメトキシシラン
465.4g n−ブチルアクリレート
175.7g メチルメタクリレート
第2の供給液容器に以下の成分からなるエマルションが製造された:
供給液2
331.7g 水
9.7g C
16-18−脂肪アルコールポリエトキシレートの20%水溶液
23.15g ナトリウムラウリル−ポリエトキシスルフェートの28%水溶液
5.19g アクリルアミドの50%水溶液
9.07g 2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の50%水溶液
7.78g t−ドデシルメルカプタン
1.30g アリルメタクリレート
3.24g 3−メタクリルオキシプロピル−トリメトキシシラン
207.5g n−ブチルアクリレート
432.2g メチルメタクリレート
第3の供給液容器に以下が用意された:
供給液3
55.6g ナトリウムペルオキソジスルフェートの7%水溶液
【0108】
予備装入物は(外気温:90℃、重合温度:83℃、攪拌速度:150回転/分)に加熱された。供給液1および3が同時にスタートされた。供給液1が1.5時間にわたり、続いて、供給液2が1.5時間にわたって計量供給された。供給液3は3時間にわたって計量供給された。続いて、30分間攪拌され、その後、1時間以内にt−ブチルヒドロペルオキシドの10%水溶液11.7gおよびヒドロキシメタンスルフィン酸の10%水溶液9.1gが計量供給された。続いて、NaOHの2%水溶液55.09gで中和され、10分間攪拌された。攪拌速度は100回転/分に低下され、冷却された。その後、5%の過酸化水素水溶液2.6gならびに69.18gの水が加えられた。49.9%の分散液2703gが得られた。
【0109】
適用技術検査:
適用技術検査:液状塗料
(5日間にわたる+60℃水蒸気浴暴露後にサンプリング)
本発明による分散液の適用技術的特性を決定するために、以下の配合による塗料が製造された:
92g 水
0.5g Tylose 30000YP2(ShinEtsu Tylose GmbH & Co.KG, Wiesbaden)
0.5g アンモニア25%
15g Ultradispers MD20(分散助剤、BASF SE, Ludwigshafen)
3g Byk 024(除泡剤、Byk Chemie, Wesel)
30.2g 二酸化チタン(Kronos 2310)(Kronos International Inc., Leverkusen)
173.2g 酸化鉄ブラック
26.5g 炭酸カルシウム(Omyacarb 850 OG, Omya GmbH, Koeln)
595.8g 結合剤分散液
8.5g 水
15g Dowanol DPnB(Dow Chemical Germany, Schwalbach)
24g ワックス分散液(Michem Lube 368.E, Michelman Inc., Capellen,Luxemburg)
8g Acticide MKB3(Thor GmbH, Speyer)
【0110】
塗料は、予熱(80℃)された硬化済みファイバーセメントボード上に、被着重量約10gで噴霧された。
続いて、皮膜被着されたファイバーセメントボードは、30分間、80℃にて乾燥された。乾燥後、皮膜形成されたファイバーセメントボードは、5日間、60℃の温水浴上に対面曝露された。
【0111】
温水浴曝露からファイバーセメントボードを取り出した後直ちに、湿潤状態にて、白化挙動が判定された。
1 白化現象なし
2 わずかな白化点
3 わずかな白化斑
4 若干のやや広い白化面
5 白化面の発生
【0112】
乾燥後、白華現象の程度が目視によって判定された。判定には以下の評点系が基礎とされた。
0=白華現象の発生なし
1=白華現象の発生ほぼなし
2=軽度の白華現象の発生
3=中度の白華現象の発生
4=強度の白華現象の発生
5=非常に強度の白華現象の発生
【0113】
曝候された皮膜被着済みファイバーセメントボードの変色を決定するために、曝候箇所と非曝候箇所との間の明度差が目視によって判定される。判定には0〜2の尺度が基礎とされた。
0=明度差なし
1=わずかな明度差が認められる
2=顕著な明度差が認められる
【0114】
"視覚的印象"検査は事前の負荷なしの皮膜全体の品質を記述する:重要なのは、皮膜被着された瓦の、欠陥箇所のない均等なやや光沢のある視覚的印象である。
【0115】
ブロッキングテスト
塗料は、予熱(80℃)された硬化済みファイバーセメントボード上に、被着重量約10gで噴霧された。続いて、皮膜被着されたファイバーセメントボードは、30分間、80℃にて乾燥された。乾燥後、皮膜形成された2枚ずつのファイバーセメントボードは互いに対面されて、10×10cmの面積に50℃にて180キログラムの重さが24時間作用させられた。その後、ボードは室温にまで冷やされ、ボードの剥離が試みられた。
0=被験体同士は力を加えずに互いに分離する。
1=力をかけなくても被験体同士を分離できる。
2=わずかな力で被験体同士を分離できる。
3=やや大きな力を加えて被験体同士を分離できる。
4=強い力を加えて初めて被験体同士を分離できる。
5=もはや被験体同士を分離できない。
【0116】
第1表:ファイバーセメントボードの適用技術検査
b 曝候
u 非曝候
【表1】
【0117】
曝候検査
ファイバーセメントボードに被着された塗料の耐候性を検査するため、DIN EN ISO 11341(Cycle A)に準拠した塗料に関するキセノン灯耐候試験が実施され、それぞれ500時間後にサンプリングが行なわれた。このキセノン灯耐候試験において、皮膜被着された5×13cmの寸法のファイバーセメントボードはそれぞれ、交互に、102分間乾燥状態にて照射され、ボードが微細な霧で湿潤される湿潤状態にて18分間照射される。相対湿度は50%に調整され、黒体標準温度は65℃である。照射強度は、光波長300〜400nmにて60W紫外光、または光波長340nmにて0.51W/(m
2・nm)に等しい。
【0118】
損傷基準として、可視的な塗料損傷、たとえば亀裂または剥がれ、変色および光沢損失の判定が行なわれた。色輝度は光沢計を用い、視射角60°にて、曝候検査の前後に測定された。
【0119】
それぞれ検査時間1500時間後のキセノン灯耐候試験結果:
比較分散液1:強度の光沢損失、小さな亀裂が可視、光沢損失70%
比較分散液2:可視的な光沢損失、光沢損失50%
実施例分散液3:軽度の光沢損失、光沢損失20%
実施例分散液4:識別し得るいかなる光沢損失もなし、光沢損失0%
実施例分散液5:軽度の光沢損失、光沢損失15%