(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記有機リン化合物(A)は、アルキルホスフィン、アリールホスフィンおよび亜リン酸有機エステルから選択される少なくとも1種の化合物である、請求項1または2に記載の導電性接着フィルム。
前記一般式(1)においてRは、それぞれ独立して、その一部にビニル基、アクリル基、メタアクリル基、マレイン酸エステル基、マレイン酸アミド基、マレイン酸イミド基、1級アミノ基、2級アミノ基、チオール基、ヒドロシリル基、ヒドロホウ素基、フェノール性水酸基およびエポキシ基から選択されるいずれか1種以上を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性接着フィルム。
Bステージ状態において、60℃で1Hzにおける損失弾性率(G’’)と貯蔵弾性率(G’)との比(G’’/G’)で定義される損失正接(tanδ)が、1.4以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の導電性接着フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に従う導電性接着フィルムおよびこれを用いたダイシング・ダイボンディングフィルムの実施形態について、以下で詳細に説明する。
【0016】
<導電性接着フィルム>
本実施形態に係る導電性接着フィルムは、所定の金属粒子(P)と、所定の樹脂(M)と、所定の有機リン化合物(A)とを含む。また、導電性接着フィルムは、必要に応じて、さらに各種添加剤を含有してもよい。
なお、ここでいう「金属粒子」とは、特に区別して記載しない限りは、単一の金属成分からなる金属粒子のことを意味するだけではなく、2種以上の金属成分からなる合金粒子のことも意味する。
【0017】
[1]金属粒子(P)
本実施形態に係る導電性接着フィルムにおいて、金属粒子(P)は、平均粒子径(d50)が、20μm以下である。上記範囲とすることにより、例えば、半導体チップ(特にパワーデバイス)をリードフレームの素子担持部上または絶縁基板の回路電極部上に接合する際の導電接合材として用いた場合に、比較的薄層(例えば、30μm以下)の接着層を形成することが可能となる。なお、本発明において平均粒子径(d50)は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による測定に基づいて算出された値とする。なお、平均粒子径(d50)の測定条件は、後述する実施例の項で説明する。
【0018】
また、金属粒子(P)は、1次粒子の状態にて投影図で見たときのフラクタル次元が1.1以上である第1の金属粒子(P1)を10質量%以上含有する。このような第1の金属粒子(P1)を10質量%以上含有することにより、特に導電性に優れた導電性接着フィルムが得られる。金属粒子(P)は、第1の金属粒子(P1)を10質量%以上含むものであれば良く、第1の金属粒子(P1)のみからなるものであってもよいし、あるいは、第1の金属粒子(P1)に加えて、他の粒子形状の金属粒子を1種以上含む混合物であってもよい。
【0019】
ここで、1次粒子の状態にて投影図で見たときのフラクタル次元が1.1以上とは、金属粒子の形状(特に粒子の表面輪郭形状)が複雑であることを意味している。フラクタル次元とは、幾何学的な複雑さの指標であり、本実施形態では、1次粒子の状態にて投影図で見たときのフラクタル次元、すなわち2次元のフラクタル次元を規定している。なお、2次元のフラクタル次元において、例えば、表面輪郭形状が、真円や、正方形、長方形等のシンプルな形状はフラクタル次元がおよそ1であり、多数の凸凹を有する形状等、形状が複雑になるほどフラクタル次元は大きくなり、2に近づく。
【0020】
ここで、1次粒子とは、他の粒子と凝集していない、単独の粒子を意味する。
また、本実施形態において、1次粒子の状態での投影図は、SEM(走査型電子顕微鏡)やTEM(透過型電子顕微鏡)等により得られた1次粒子の画像について、画像処理を行って輪郭線を抽出したものである。その一例として、
図1を示す。
図1(A)は、デンドリック状銅粉のSEM画像であり、
図1(C)は、
図1(A)の粒子を画像処理して、一次粒子の状態での投影図(輪郭線)としたものである。
【0021】
本実施形態において、フラクタル次元の解析方法は、特に限定されないが、例えば、ボックスカウント法やピクセル法が挙げられる。
例えば、ボックスカウント法によるフラクタル次元の解析は次のように行われる。
まず、ある平面内に存在する図形を、1辺の長さがdの正方形で分割するとき、その図形がN(d)個の正方形で覆われていたとすると、N(d)とdの間に、
N(d)=ad
−D (aは正の定数) ・・・(I)
という関係が成り立つとき、Dをその図形のフラクタル次元と定義する。
さらに、上記式(I)の両辺の対数を取ると、
log
10N(d)=−D log
10d+log
10a (aは正の定数)・・・(II)
となり、dとN(d)の両対数プロットを描けば、その直線の傾きからフラクタル次元Dを求めることができる。
【0022】
以下、
図1を参照しながら、具体的な手順を説明する。なお、以下の手順は一例であり、下記の手順に限定されるものではない。
まず、任意の画像ソフト(本発明ではアメリカ国立衛生研究所 (NIH) Wayne Rasband氏が作成した”Image−J”)を用いて、SEMやTEM等により得られた1次粒子の画像(
図1(A):ここではSEM画像)を2値化処理等によりバイナリ画像形式の投影図とし(
図1(B))、同投影図から輪郭線を抽出する(
図1(C))。
【0023】
次に、上記処理画像において、1辺の長さをd(ここで、dは、2ピクセル以上の任意のピクセル数である。)とする、ピクセルサイズの異なる正方形のボックスを定義し、各ボックス(1辺の長さd)毎に、上記一次粒子の輪郭線を覆う場合に必要となるボックス数N(d)を数える。
【0024】
その後、得られたN(d)を、ボックスの一辺の長さdに対して常用対数プロットし(
図1(D))、上記式(II)に従って直線の傾きを求め、フラクタル次元Dを算出する。なお、
図1に示される1次粒子の状態での投影図のフラクタル次元Dは、上記ボックスカウント法により解析したところ、1.25であった。
【0025】
このような1次粒子の状態にて投影図で見たときのフラクタル次元が1.1以上である第1の金属粒子(P1)としては、例えば、
図1に示されるようなデンドリック形状の金属粉や、ヒトデ形状、表面に多数の微小凹凸を有する球形状等の比較的複雑な輪郭形状を有する金属粉が挙げられる。中でも、デンドリック形状を有する金属粉が好ましい。第1の金属粒子(P1)がデンドリック状金属粉を含むことにより、導電性接着フィルム中において、金属粒子同士の接触確率が高くなるため、導電性が向上する。
【0026】
金属粒子(P)は、第1の金属粒子(P1)の他に、さらに球状金属粉からなる第2の金属粒子(P2)を含むことが好ましい。金属粒子(P)が、第2の金属粒子(P2)を含むことにより、金属粒子表面と樹脂分の界面摩擦に由来する粘度上昇の程度をコントロールすることができ、用途に合わせて最適な粘度に調節することができる。また、導電性の向上も図ることができる。なお、ここでいう球状金属粉とは、1次粒子の状態にて投影図で見たときのフラクタル次元が、1.0以上、1.1未満の金属粒子を意味する。このような球状金属粉としては、例えばアトマイズ法により作製された金属粉などが挙げられる。
【0027】
また、第2金属粒子(P2)は、平均粒子径(d50)が7μm未満であることがより好ましい。上記範囲とすることにより、第2の金属粒子(P2)が第1の金属粒子(P1)の隙間に入り込みやすくなり、金属の充填密度を高めることができ、導電率を高めることができる。
【0028】
上記第1の金属粒子(P1)および第2の金属粒子(P2)は、特に限定されるものではないが、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、銀(Ag)、金(Au)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)、ガリウム(Ga)およびパラジウム(Pd)の群から選択される1種の金属またはこれらの群から選択される2種以上を含有する合金からなるものが好ましく、中でも、導電性および熱伝導性に優れ、比較的安価で、イオンマイグレーションが起こりにくい点で、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)およびスズ(Sn)の群から選択される1種の金属またはこれらの群から選択される2種以上を含有する合金からなるものがより好ましい。また、第1の金属粒子(P1)および第2の金属粒子(P2)の少なくとも一方が、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、銀(Ag)、金(Au)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)、ガリウム(Ga)およびパラジウム(Pd)から選択される少なくとも2種を含有する合金である場合には、全体としての金属粒子(P)をさらに低融点化できる。
【0029】
また、第1の金属粒子(P1)および第2の金属粒子(P2)の少なくとも一方は、その金属粒子の表面が、貴金属(例えば銀または金等)で被覆されていていることが好ましい。金属粒子の表面が、貴金属(好ましくは銀または金)で被覆されていることにより、金属粒子の表面に酸化被膜が形成され難くなり、導電性接着フィルムにおいて、高い導電性が発揮される。また、このような金属粒子によれば、その表面に酸化被膜が形成され難いため、酸化被膜の除去を目的とするフラックス成分の添加量を低減できる。なお、貴金属の被膜は、第1の金属粒子(P1)および第2の金属粒子(P2)の表面の少なくとも一部を覆っていればよく、必ずしも全面を覆っていなくてもよいが、被覆面積は広いほど好ましい。このような第1の金属粒子(P1)および第2の金属粒子(P2)としては、例えば、銀で被覆したデンドリック状銅粉や、銀で被覆した球状銅粉などが挙げられる。
【0030】
なお、第1の金属粒子(P1)および第2の金属粒子(P2)は、それぞれ1種類の金属粉(例えば、1次粒子の状態にて投影図で見たときのフラクタル次元、平均粒子粒径、組成、被膜の有無等が同じもの)で構成されていてもよいし、異なる金属粉(例えば、1次粒子の状態にて投影図で見たときのフラクタル次元、平均粒子粒径、組成、被膜の有無等のいずれか1つ以上が互いに異なるもの)を2種以上混合した混合物であってもよい。特に、第2の金属粒子(P2)は、混合物であることが好ましい。
【0031】
また、第2の金属粒子(P2)は、第1の金属粒子(P1)と第2の金属粒子(P2)とで、あるいは第2の金属粒子(P2)と第2の金属粒子(P2)とで、互いに、金属間化合物を形成し得る金属成分を含むことが好ましい。第1の金属粒子(P1)と第2の金属粒子(P2)同士が、あるいは第2の金属粒子(P2)と第2の金属粒子(P2)同士が、互いに、金属間化合物を形成し得ることにより、金属粒子(P)全体として、未焼結の状態では低融点の金属または合金でありながら、焼結後の状態では高融点の金属間化合物を形成することが可能になる。その結果、このような第2の金属粒子を含むことにより、実装温度の低温化を達成しつつ、焼結後は実装温度以上の温度でも性能が劣化することなく優れた耐熱性を発揮することが可能となる。
【0032】
このような金属間化合物を形成し得る金属成分の組み合わせとしては、適宜選択できるが、例えば、Cu−Sn系、Ni−Sn系、Ag−Sn系、Cu−Zn系、Ni−Zn系、Ag−Zn系、Ni−Ti系、Sn−Ti系、Al−Ti系、Au−In系等の組合せが挙げられる。なお、これらの金属間化合物を形成し得る組み合わせに対応した各金属成分は、第1の金属粒子(P1)および第2の金属粒子(P2)のそれぞれに、あるいは2種以上からなる第2の金属粒子のそれぞれに、組み合わせごとに各1種ずつ含まれていることが好ましい。また、実装温度をできるだけ低めに設定する必要がある場合には、低融点のSnを含む組合せが好ましく、特にCuーSn系またはNiーSn系の組み合わせがより好ましい。また、具体例としては、第1の金属粒子がデンドリック状銅粉である場合に、第2の金属粒子(P2)を球状スズ粉とする場合や、第2の金属粒子(P2)が異なる金属成分系の2種の金属粉の混合物である場合に、一方の第2の金属粒子(P2)を球状スズ粉とし、もう一方の第2の金属粒子(P2)を球状銅粉とする場合等が挙げられる。
【0033】
以上を踏まえ、第1の金属粒子(P1)は、デンドリック状銅粉であることが好ましい。
また、第2の金属粒子(P2)は、球状のスズまたはスズを含有する合金からなる金属粒子を含有する混合物であることが好ましい。
【0034】
金属粒子(P)100質量%における、第1の金属粒子(P1)の含有量は、10質量%以上であり、好ましくは10〜100質量%であり、より好ましくは30〜80質量%である。第1の金属粒子(P1)が10質量%未満である場合には、導電性の向上効果が十分に発揮されない。
【0035】
また、金属粒子(P)100質量%における、第2の金属粒子(P2)の含有量は、好ましくは0〜90質量%であり、より好ましくは20〜70質量%である。また、第2の金属粒子(P2)100質量%における、SnまたはSnを含有する合金からなる金属粒子(P2−1)の含有量は、好ましくは30質量%以上である。
【0036】
なお、金属粒子(P)は、第1の金属粒子(P1)および第2の金属粒子(P2)に加え、必要に応じて、さらに、粒子形状や粒子径の異なるその他の金属粒子(Pn)をさらに1種以上含んでいてもよく、その含有量は、金属粒子(P)100質量%中に、好ましくは50質量%以下である。
【0037】
なお、金属粒子(P)は、環境負荷低減の観点から、Pb(鉛)、Hg(水銀)、Ab(アンチモン)およびAs(ヒ素)を実質的に含有しないことが好ましい。なお、これらの成分の含有量は、金属粒子(P)100質量%中に、合計して0.1質量%未満であることが好ましい。
【0038】
本実施形態に係る導電性接着フィルムにおける金属粒子(P)の含有量は、好ましくは70〜96質量%であり、より好ましくは80〜94質量%である。上記範囲とすることにより、導電性接着フィルムを成形する際の成形性がよくなるとともに、フィルムとしての取り扱い性も良好で、さらに、接着・焼結後には、優れた導電性を発揮し得る。
【0039】
[2]樹脂(M)
本実施形態に係る導電性接着フィルムにおいて、樹脂(M)は、熱硬化性樹脂(M1)を含む。導電性接着フィルムが、熱硬化性樹脂(M1)を含むことにより、未焼結の状態では、フィルム性(成形のしやすさ、取り扱いやすさ等)に寄与し、焼結後の状態では、熱サイクルによって、半導体素子と基材(リードフレーム等)との間に生じる応力等を緩和する役割を果たす。
【0040】
熱硬化性樹脂(M1)は、特に、耐熱性と金属粒子(P)を混ぜた際のフィルム性の観点から、イミド基を1分子中に2単位以上含むマレイン酸イミド化合物を含むマレイン酸イミド樹脂(以下、「マレイミド樹脂」ということがある。)を含むことが好ましい。このような熱硬化性樹脂(M1)は応力緩和性に優れるため、焼結後の導電性接着フィルムにおいて、耐熱疲労特性を向上できる。その結果、このような熱硬化性樹脂(M1)を含む導電性接着フィルムによれば、従来の金属のみの鉛フリーはんだの問題点であった、硬くて脆いという耐熱疲労特性の欠点を克服できる。
【0041】
マレイン酸イミド樹脂としては、例えば、マレイン酸またはその無水物と、ジアミンまたはポリアミンとを縮合すること等により得られる。また、マレイン酸イミド樹脂は、炭素数10以上の脂肪族アミンに由来する骨格を含むものが、応力緩和性の観点から好ましく、特に、炭素数30以上であり、下記構造式(2)のような骨格を有するものがより好ましい。また、マレイン酸イミド化合物は、数平均分子量が3000以上のものであることが好ましい。
【0043】
マレイン酸イミド樹脂には、マレイン酸以外の酸成分、例えば、ベンゼンテトラカルボン酸またはその無水物、ヒドロキシフタル酸ビスエーテルまたはその無水物等に由来する骨格を含むことにより、分子量やガラス転移温度Tgなどを調整しても良い。また、マレイン酸イミド樹脂の硬化剤としては、フェノールノボラック樹脂やラジカル発生剤等が好ましい。
【0044】
また、このようなマレイン酸イミド樹脂としては、例えば、下記構造式(3)〜(5)に示されるビスマレイミド樹脂等が好適に用いられる。
【0046】
但し、上記式(4)において、nは、1〜10の整数である。また、上記式(3)〜(5)において、「X」の部分は、下記構造式(6)で表される「C
36H
72」の骨格ある。なお、下記式(6)において、「*」はNとの結合部位を意味する。
【化4】
【0047】
また、熱硬化性樹脂(M1)は、さらに、フェノールノボラック樹脂を含むことが好ましい。例えば、上記マレイン酸イミド樹脂と、フェノールノボラック樹脂とを組み合わせて用いることにより、フェノールノボラック樹脂が硬化剤として作用し、導電性接着フィルの接着性が更に向上する。
【0048】
本実施形態に係る導電性接着フィルムにおける樹脂(M)の含有量は、好ましくは4〜30質量%であり、より好ましくは6〜20質量%である。上記範囲とすることにより、未焼結の状態では、フィルム性(成形のしやすさ、取り扱いやすさ等)に優れ、焼結した状態では、熱サイクルによって、半導体素子と基材(リードフレーム等)との間に生じる応力等の緩和性に優れる。なお、樹脂(M)は、1種の樹脂のみからなるものであってもよいし、2種以上の樹脂を混合したものであってもよい。また、必要に応じて上記以外の樹脂をさらに含有してもよい。
【0049】
[3]有機リン化合物(A)
本実施形態に係る導電性接着フィルムにおいて、有機リン化合物(A)は、下記一般式(1)で示されるものである。
【0050】
【化5】
ただし、上記一般式(1)においてRは、それぞれ独立して、有機基を示し、Rは互いに同一であっても異なっていてもよい。また、xおよびyは、それぞれ0〜3の整数であり、かつ、xおよびyの和(x+y)は、3である。例えば、一般式(1)において、x=3、y=0のときは、有機ホスフィン類を、x=0、y=3のときは、亜リン酸有機エステルをそれぞれ示す。
【0051】
上記一般式(1)で示される有機リン化合物(A)は、本実施形態に係る導電性接着フィルムにおいて、金属粒子(P)表面の酸化膜を除去する働きを助ける、フラックスとしての機能を有し、特に、Cu、Sn、NiおよびAlのような酸化しやすい金属成分に対して、より効果的に作用する。また、上記有機リン化合物(A)は、従来一般的に用いられてきたカルボン酸やアルコール等のフラックスに比べて、極めて吸湿し難く、耐吸湿性に優れている。
【0052】
具体的には、有機リン化合物(A)としては、アルキルホスフィン、アリールホスフィンおよび亜リン酸有機エステルから選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0053】
上記一般式(1)において、Rは、それぞれ独立して、アルキル基、アリール基、官能基を有する有機基、ヘテロ原子を有する有機基、および不飽和結合を有する有機基から選択されるいずれかであることが好ましい。
【0054】
上記アルキル基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよく、置換基を有していてもよい。アルキル基は、直鎖状又は分岐状であることが好ましい。また、上記アルキル基は、炭素数が3以上であることが好ましく、炭素数が4〜18であることがより好ましく、炭素数が6〜15であることが更に好ましい。このようなアルキル基としては、具体的には、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ステアリル基およびイソステアリル基等が挙げられる。
【0055】
上記アリール基は、置換基を有していてもよく、炭素数が6〜10であることが好ましい。このようなアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、1−ナフチル基等が挙げられる。
【0056】
上記官能基を有する有機基は、炭素数が1〜10であることが好ましく、炭素数が1〜6であることがより好ましく、炭素数が1〜3であることが更に好ましい。また、上記有機基が有する官能基としては、クロロ基、ブロモ基、フルオロ基等が挙げられる。また、このような官能基を有する有機基としては、具体的には、クロロエチル基、フルオロエチル基、クロロプロピル基、ジクロロプロピル基、フルオロプロピル基、ジフルオロプロピル基、クロロフェニル基およびフルオロフェニル基等が挙げられる。
【0057】
上記ヘテロ原子を有する有機基は、炭素数が3以上であることが好ましく、炭素数が4〜18であることがより好ましく、炭素数が6〜15であることが更に好ましい。また、上記有機基が有するヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等が挙げられる。また、このようなヘテロ原子を有する有機基としては、具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、メチルスルホキシド基、エチルスルホキシド基およびフェニルスルホキシド基等が挙げられる。
【0058】
上記不飽和結合を有する有機基は、炭素数が3以上であることが好ましく、炭素数が4〜18であることがより好ましく、炭素数が6〜15であることが更に好ましい。このような不飽和結合を有する有機基としては、具体的には、プロペニル基、プロピニル基、ブテニル基、ブチニル基、オレイル基、フェニル基、ビニルフェニル基およびアルキルフェニル基等が挙げられる。中でも、ビニルフェニル基を有することがより好ましい。
【0059】
また、上記一般式(1)において、Rは、それぞれ独立して、その一部にビニル基、アクリル基、メタアクリル基、マレイン酸エステル基、マレイン酸アミド基、マレイン酸イミド基、1級アミノ基、2級アミノ基、チオール基、ヒドロシリル基、ヒドロホウ素基、フェノール性水酸基およびエポキシ基から選択されるいずれか1種以上を有することが好ましい。中でも、ビニル基やアクリル基、メタアクリル基、2級アミノ基を有することがより好ましい。
【0060】
具体的には、有機リン化合物(A)は、有機ホスフィン類であるp−スチリルジフェニルホスフィンを含むことが好ましい。このような化合物は、反応性の高いビニル基を有する事で低ブリードアウトである点で好適である。
【0061】
また、このような有機リン化合物(A)は、後述する熱硬化性樹脂(M1)がマレイミド樹脂を含む場合に、マレイミド樹脂と共重合体を形成し得るため、熱硬化性樹脂成分としても作用する。また、上記有機リン化合物(A)は、吸湿しにくく、分子量が十分に大きく、かつ重合性であるため、フラックス成分として用いた場合にブリードアウトを有効に防止できる。したがって、吸湿しやすいアルコールやカルボン酸に替えて、このような有機リン化合物(A)を用いることにより、フラックス洗浄を経なくても、ブリードアウトのリスクを低減でき、十分な信頼性、特に吸湿後の耐リフロー性を担保できる。
【0062】
また、焼結時等のブリードアウトを抑制する点で、有機リン化合物(A)の数平均分子量は、260以上であることが好ましい。また、有機リン化合物(A)の数平均分子量を260以上とすると共に、上述のようにマレイミド樹脂と反応させて硬化させることにより、ブリードアウトを更に低減できる。その結果、ブリードアウトによる基板(リードフレーム等)の表面汚染を防止でき、パッケージ信頼性を向上できる。
【0063】
本実施形態に係る導電性接着フィルムにおける有機リン化合物(A)の含有量は、好ましくは0.5〜10.0質量%であり、より好ましくは1.0〜5.0質量%である。上記範囲とすることにより、金属酸化膜の除去能が十分に発揮される。なお、有機リン化合物(A)は、1種のみで用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0064】
[4]その他の成分
本実施形態に係る導電性接着フィルムは、上記成分の他に、本発明の目的を外れない範囲で、各種添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤としては、必要に応じて適宜選択できるが、例えば、分散剤、ラジカル重合開始剤、レベリング剤、可塑剤等が挙げられる。
【0065】
本実施形態に係る導電性接着フィルムは、フィルム形状を有している。そのため、例えば、パワー半導体素子を基板に接続する際に、従来のはんだや導電ペーストよりも取り扱いが容易になる。具体的には、本実施形態に係る導電性接着フィルムは、パワー半導体が形成されたウェハの裏面に貼り付けて、ウェハを素子毎に分割・チップ化する際(ダイシング工程)に、ウェハごと分割することが可能となる。そのため、素子(ウェハ)の裏面全体に、過不足なく導電性接着フィルムを形成できることから、従来のはんだの濡れ性やはみ出し等の問題を生じることなく、良好な実装が可能となる。また、予め所定の厚さに導電性接着フィルムを形成できるため、従来のはんだや導電ペーストに比べて、ダイボンド後の素子の高さ制御を精度よく、容易に行うことができる。
【0066】
本実施形態の導電性接着フィルムの作製方法は、特に限定されず、公知の方法により行うことができる。例えば、上記各成分を適量秤量し、公知の方法により混合して、さらに得られた混合物を、公知の方法により膜状に成形する方法等が挙げられる。このような混合方法としては、例えば、回転翼による撹拌混合、ホモジナイザーによる混合、プラネタリーミキサーによる混合およびニーダーによる混合等が挙げられる。また、成形方法としては、例えば、上記混合物を溶媒に溶解・分散させたワニスを基材上に塗布した後乾燥させる方法、導電性接着フィルムを高温下で溶融した後基材に塗布する溶融塗布法、導電性接着フィルムを基材とともに高圧にてプレスする方法、導電性接着フィルムを溶融した後押出し機を用いて押出した後に延伸する押出し法、上記ワニスをスクリーンメッシュ(スクリーン印刷)や金属版(グラビア印刷)に充填して転写する印刷法等が挙げられる。
【0067】
導電性接着フィルムの厚さは、5〜100μmが好ましく、20〜50μmがより好ましい。導電性接着フィルムの厚さを上記範囲とすることにより、電気抵抗および熱抵抗を抑制しつつ、十分な接着力を得ることが可能となる。
【0068】
また、導電性接着フィルムの焼結後の貯蔵弾性率は、1Hzにおいて、1000〜30000MPaが好ましく、5000〜20000MPaがより好ましい。導電性接着フィルムの弾性率を上記範囲とすることにより、強固な接着力を発揮しつつ、冷熱衝撃試験(TCT)にて評価される耐熱疲労性において、優れた性能を発揮することが可能となる。
【0069】
また、導電性接着フィルムは、窒素雰囲気下、250℃で2時間加熱したときの加熱重量減少率が、1%未満であることが好ましい。加熱重量減少率を上記範囲とすることにより、導電性接着フィルムを焼結した際に、主に樹脂が熱分解しないため、優れた低ブリードアウト性によって信頼性を確保できる。
【0070】
また、導電性接着フィルムは、DSC(示差走査熱量測定)による分析を行った場合に、100〜250℃の温度範囲における吸熱ピークが、焼結を行う前の状態(未焼結状態)では少なくとも1つ観測され、かつ焼結を行った後の状態(焼結状態)では消失することが好ましい。
【0071】
未焼結状態で、上記温度範囲にて観測される少なくとも1つの吸熱ピークは、少なくとも1種の金属成分を含む金属または合金の融点を意味する。すなわち、未焼結の導電性接着フィルムを、上記温度範囲で加熱(焼結)する際に、特定の金属成分が溶融し、被着体表面にその成分が濡れ広がり、低温での実装に有利に働くことを示している。一方で、焼結状態では、上記温度範囲にて吸熱ピークは観測されないが、これは、上記温度範囲に少なくとも1種の金属成分を含む金属または合金の金属成分(または合金)の融点がないことを意味している。すなわち、一度溶融した金属が、金属間の拡散反応により、焼結後に高融点をもつ金属間化合物を形成し、その結果、優れた耐熱性を有することができることを示している。
【0072】
このような導電性接着フィルムは、低温での焼結(実装)が可能でありながら、焼結後(実装後)は、優れた耐熱性を発揮し、高融点鉛フリーはんだでワイヤーボンドしたり、リフロー処理を施たりしても不具合を生じることがない。なお、上記導電性接着フィルムの耐熱温度は、好ましくは250℃以上、更に好ましくは300℃以上である。また、上記導電性接着フィルムを用いた実装に適した、実装温度は好ましくは100〜250℃であり、更に好ましくは100〜200℃である。
【0073】
なお、DSCの測定装置としては、例えば株式会社日立ハイテクサイエンス製 DSC7000X等が挙げられる。また、測定条件としては、測定温度範囲室温〜350℃、昇温速度5℃/分、窒素流量20mL/分、アルミニウム製サンプルパンで測定する。
【0074】
また、本実施形態に係る導電性接着フィルムは、Bステージ状態において、60℃で1Hzにおける損失弾性率(G”)と貯蔵弾性率(G’)との比(G”/G’)で定義される損失正接(tanδ)が、1.4以上であることが好ましい。上記条件におけるtanδが大きいほど、導電性接着フィルムが柔軟性に優れていることを示している。なお、損失弾性率(G”)、貯蔵弾性率(G’)およびtanδの測定および算出方法は、後述する実施例の項で説明する。また、ここでBステージ状態とは、DSC測定における熱硬化性樹脂分に由来する硬化前発熱量の80%以上を保持している状態を意味している。
【0075】
更に、本実施形態に係る導電性接着フィルムは、ダイシングテープと貼り合わせてダイシング・ダイボンディングフィルムとすることで、導電性接着フィルムとダイシングテープとを一度にウェハに貼合でき、工程を省略化できる。
【0076】
上記した実施態様について、図面に基づいて説明する。
図2は、本発明にかかるダイシング・ダイボンディングフィルム10を示す断面図である。ダイシング・ダイボンディングフィルム10は、主にダイシングテープ12、導電性接着フィルム13から構成されている。ダイシング・ダイボンディングフィルム10は、半導体加工用テープの一例であり、使用工程や装置にあわせて予め所定形状に切断(プリカット)されていてもよいし、半導体ウェハ1枚分ごとに切断されていてもよいし、長尺のロール状を呈していてもよい。
【0077】
ダイシングテープ12は、支持基材12aと、その上に形成された粘着剤層12bとから構成されている。
剥離処理PETフィルム11は、ダイシングテープ12を覆っており、粘着剤層12bや導電性接着フィルム13を保護している。
【0078】
支持基材12aとしては、放射線透過性であることが好ましく、具体的には、通常、プラスチック、ゴムなどを用い、放射線を透過する限りにおいて特に制限されるものではない。
【0079】
粘着剤層12bの粘着剤のベース樹脂組成物は、特に限定されるものではなく、通常の放射線硬化性粘着剤が用いられる。好ましくは水酸基などのイソシアネート基と反応しうる官能基を有するアクリル系粘着剤がある。特に制限されるものではないが、アクリル系粘着剤はヨウ素価30以下であり、放射線硬化性炭素−炭素二重結合構造を有するのが好ましい。
【0080】
本実施形態に係る導電性接着フィルム13の構成としては、上述した通り、所定の金属粒子(P)と、所定の樹脂(M)と、所定の有機リン化合物(A)とを含む導電性接着フィルムであることが、半導体パワー素子を金属リードフレームに接合する際、導電性、耐熱性および実装信頼性に優れ、かつ環境への負荷の小さい点で非常に好ましい。
【0081】
(ダイシング・ダイボンディングフィルムの使用方法)
半導体装置の製造にあたり、本実施形態のダイシング・ダイボンディングフィルム10を好適に使用することができる。
【0082】
まず、ダイシング・ダイボンディングフィルム10から剥離処理PETフィルム11を取り除き、
図3に示す通り、半導体ウェハ1に導電性接着フィルム13を貼り付けてダイシングテープ12の側部をリングフレーム20で固定する。リングフレーム20はダイシング用フレームの一例である。導電性接着フィルム13はダイシングテープ12の半導体ウェハ1が貼合される部位に積層されている。ダイシングテープ12のリングフレーム20と接する部位には導電性接着フィルム13はない。
【0083】
その後、
図4に示す通り、ダイシングテープ12の下面を吸着ステージ22で吸着・固定しながら、ダイシングブレード21を用いて半導体ウェハ1を所定サイズにダイシングし、複数の半導体チップ2を製造する。
【0084】
その後、
図5に示す通り、リングフレーム20によりダイシングテープ12を固定した状態で、テープ突き上げリング30を上昇させ、ダイシングテープ12の中央部を上方に撓ませるとともに、紫外線などの放射線をダイシングテープ12に照射し、ダイシングテープ12を構成する接着剤層12bの粘着力を弱める。その後、半導体チップごとにこれに対応した位置で突き上げピン31を上昇させ、半導体チップ2を吸着コレット32によりピックアップする。
【0085】
その後は、
図6に示す通り、ピックアップした半導体チップ2を、リードフレーム4などの支持部材や他の半導体チップ2に接着(ダイボンディング工程)し、導電性接着フィルムを焼結させる。
【0086】
その後、
図7に示す通り、Alワイヤの付設や樹脂モールド等の工程を経ることにより、半導体装置が得られる。
【0087】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0089】
<原料>
以下に、使用した原料の略称を示す。
[金属粒子(P)]
<第1の金属粒子(P1)>
・デンドリック状銅粉:三井金属鉱業株式会社製 ECY、平均粒子径(D50)は6μm、1次粒子の状態にて投影図で見たときのフラクタル次元は1.23である。
<第2の金属粒子(P2)>
・球状銅粉:三井金属鉱業株式会社製 MA−C05K、平均粒子径(D50)は5μm、1次粒子の状態にて投影図で見たときのフラクタル次元は1.04である。
・球状スズ粉:三井金属鉱業株式会社製 ST−3、平均粒子径(D50)は7μm、1次粒子の状態にて投影図で見たときのフラクタル次元は1.04である。
【0090】
なお、上記金属粒子の平均粒子径(D50)は、レーザー回折計(株式会社島津製作所製、SALD−3100)で測定した。
【0091】
また、上記1次粒子の状態にて投影図で見たときのフラクタル次元は、ボックスカウント法により、下記の条件で算出した。
まず、上記各金属粉について、SEM画像を撮影し(測定装置:株式会社日立ハイテクサイエンス製 TM3030Plus、倍率:1000〜5000倍)、一次粒子をランダムに5つ選定した。
次に、その1つの一次粒子について、
図1に示す粒子のように、撮影したSEM画像を、画像処理ソフト(Image―J)を用いて2値化処理し、さらにこの処理画像から一次粒子の輪郭線を抽出した。その後、同画像処理ソフトのボックスカウンティングツールを用いて、正方形のボックス一辺の長さdを、2〜36ピクセルで段階的に変化させながら、各dの被覆数N(d)を計測した。得られた各正方形のボックス一辺の長さdと、それに対応した被覆数N(d)を、上記式(II)に従って常用対数プロットし、その直線の傾きから、フラクタル次元を算出した。
同様の作業を、残りの4つの一次粒子についても行い、ランダムに選定した5つの粒子について算出したフラクタル次元を平均して、上記各金属粉の、1次粒子の状態にて投影図で見たときのフラクタル次元の値とした。
【0092】
[熱硬化性樹脂(M1)]
・マレイミド樹脂1
1,6′.−ビスマレイミド−(2,2,4−トリメチル)ヘキサンおよび重合開始剤としてパーブチル(登録商標)Oを、質量比100:5で混合した混合物。
1,6′.−ビスマレイミド−(2,2,4−トリメチル)ヘキサン:実験合成品。なお脂肪族アミンに由来する骨格は、炭素数9である。
パーブチル(登録商標)O:日本油脂株式会社製、t−ブチル パーオキシー2−エチルヘキサネート。(以下において同じ。)
・マレイミド樹脂2
1,10−ビスマレイミド−ノルマルデカンおよび重合開始剤としてパーブチル(登録商標)Oを、質量比100:5で混合した混合物。
1,10−ビスマレイミド−ノルマルデカン:実験合成品。なお、脂肪族アミンに由来する骨格は、炭素数10である。
・マレイミド樹脂3
BMI−3000および重合開始剤としてパーブチル(登録商標)Oを、質量比100:5で混合した混合物。
BMI−3000:DESIGNER MOLECULES INC製、数平均分子量3000、下記構造式(7)で表されるビスマレイミド樹脂。下記式(7)において、nは1〜10の整数である。なお、脂肪族アミンに由来する骨格は、炭素数36である。
【化6】
・フェノールノボラック樹脂
Hー4:明和化成株式会社製。
・エポキシ樹脂
YD−128、YD−013、YP−50および2PHZを、質量比15:5:10:1で混合した混合物。
YD−128:新日鉄住金化学株式会社製、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂。
YD−013:新日鉄住金化学株式会社製、ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂。(以下において同じ。)
YP−50:新日鉄住金化学株式会社製、フェノキシ樹脂。(以下において同じ。)
2PHZ:四国化成工業株式会社製、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール。
【0093】
[フラックス]
・有機ホスフィン類
DPPST(登録商標):北興化学工業株式会社製、ジフェニルホスフィノスチレン。
・亜リン酸有機エステル
JP−351:城北化学工業株式会社製、トリスノニルフェニルホスファイト。
【0094】
・テトラエチレングリコール:東京化成工業株式会社製
・アビエチン酸:東京化成工業株式会社製
【0095】
[ダイシングテープ]
・乾燥後の粘着剤組成物の厚さが5μmとなるように、支持基材上に粘着剤組成物を塗工し、120℃で3分間乾燥させて得た。
粘着剤組成物:n−オクチルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製)、2−ヒドロキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製)、メタクリル酸(東京化成工業株式会社製)および重合開始剤としてベンゾイルペルオキシド(東京化成工業株式会社製)を、重量比200:10:5:2で混合した混合物を、適量のトルエン中に分散し、反応温度および反応時間を調整し、官能基を持つアクリル樹脂の溶液を得た。次に、このアクリル樹脂溶液100重量部に対し、ポリイソシアネートとしてコロネートL(東ソー株式会社製)を2重量部追加し、さらに追加溶媒として適量のトルエンを加えて攪拌し、粘着剤組成物を得た。
支持基材:低密度ポリエチレンよりなる樹脂ビーズ(日本ポリエチレン株式会社製 ノバテックLL)を140℃で溶融し、押し出し機を用いて、厚さ100μmの長尺フィルム状に成形して得た。
【0096】
<導電性接着フィルムの作製>
(実施例1)
実施例1では、上記材料のうち表1に示す材料を、金属粒子(P)86質量%、樹脂(M)9質量%およびフラックス5質量%の比率となるように混合物を調製し、これに溶剤としてトルエンを加えてスラリー化し、プラネタリーミキサーにて撹拌後、離型処理されたPETフィルム上に薄く塗布して、120℃で2分間乾燥し、厚さ40μmの導電性接着フィルムを得た。なお、ここで用いた金属粒子(P)は、第1金属粒子(P1)としてのデンドリック状銅粉のみからなる。
【0097】
(実施例2)
実施例2では、上記材料のうち表1に示す材料を、金属粒子(P)89質量%、樹脂(M)7.5質量%、およびフラックス3.5質量%の比率となるように混合物を調製した以外は、実施例1と同様の方法にて、導電性接着フィルムを得た。
【0098】
(実施例3)
実施例3では、樹脂(M)としてマレイミド樹脂3を用い、金属粒子(P)100重量%中に、第1金属粒子(P1)としてデンドリック状銅粉が20質量%、第2金属粒子(P2)として球状銅粉が40質量%および球状スズ粉が40質量%の比率となるように、金属粒子(P)を調整した以外は、実施例2と同様の方法にて、導電性接着フィルムを得た。
【0099】
(実施例4)
実施例4では、フラックスとして亜リン酸有機エステルを用いた以外は、実施例3と同様の方法にて、導電性接着フィルムを得た。
【0100】
(実施例5)
実施例5では、樹脂(M)100質量%中に、マレイミド樹脂3が95質量%およびフェノールノボラック樹脂が5質量%の比率となるように、樹脂(M)を調製した以外は、実施例4と同様の方法にて、導電性接着フィルムを得た。
【0101】
(比較例1および2)
比較例1および2では、上記材料のうち表1に示す材料を、金属粒子(P)85質量%、樹脂(M)8質量%、およびフラックス7質量%の比率となるように混合物を調製した以外は、実施例1と同様の方法にて、導電性接着フィルムを得た。
【0102】
<ダイシング・ダイボンディングフィルムの作製>
上記のようにして得られた、上記実施例および比較例に係る導電性接着フィルムを、ダイシングテープと貼り合わせて、ダイシング・ダイボンディングフィルム(導電性接着フィルム/粘着剤組成物/支持基材)を得た。
【0103】
<評価>
上記のようにして得られた、上記実施例および比較例に係る、導電性接着フィルムおよびダイシング・ダイボンディングフィルムを用いて、下記に示す特性評価を行った。各特性の評価条件は下記の通りである。結果を表1に示す。
【0104】
[体積抵抗率(導電性)]
上記本実施例および比較例に係る導電性接着フィルムをテフロン(登録商標)シート上に載せて、230℃で3時間焼結し、測定用サンプルを得た。次に、この測定用サンプルについて、JIS−K7194―1994に準拠して、四探針法により抵抗値を測定し、体積抵抗率を算出した。抵抗値の測定には、株式会社三菱化学アナリテック製ロレスターGXを用いた。なお、体積抵抗率は、その逆数が導電率であり、体積抵抗率は小さいほど導電性に優れていることを意味している。本実施例では、体積抵抗率が、1000μΩ・cm以下を合格ラインとした。
【0105】
[tanδ(柔軟性)]
上記120℃、2分間の乾燥工程により、Bステージ状態まで半硬化している本実施例および比較例に係る導電性接着フィルムを、厚さ1mmまで熱圧着して積層し、プレート径8mmΦの測定用サンプルを得た。次に、この測定用サンプルについて、動的粘弾性測定装置ARES(レオロジカ社製)を用いて、周波数1Hz、ひずみ量0.3%のせん断条件で、60℃における損失正接(tanδ)を測定した。
【0106】
[PKG剥離の有無(耐吸湿性)]
上記本実施例および比較例に係るダイシング・ダイボンディングフィルムを、裏面がAuメッキされたSiウェハの表面に100℃で貼合した後、5mm角にダイシングして、個片化したチップ(Auメッキ/Siウエハ/導電性接着フィルム)を得た。このチップを、Agメッキされた金属リードフレーム上に、140℃でダイボンディングした後、230℃で3時間焼結し、チップを覆うようにエポキシ系のモールド樹脂(京セラケミカル株式会社製、KE−G300)にて封止して、測定用サンプルを得た。
得られた測定用サンプルについて、JEDEC J−STD−020D1に定める吸湿後リフロー試験(鉛フリーはんだ準拠)のMSL−Lv1および2を下記の条件で、それぞれ行った。その後、超音波画像装置(株式会社日立パワーソリューション製、FineSAT)にて内部に剥離が生じていないかを観察した。本実施例では、少なくともMSL−Lv2でPKG剥離がない場合を合格とした。
(吸湿条件)
・MSL−Lv1は、85℃、85%RHにて168時間である。
・MSL−Lv2は、85℃、60%RHにて168時間である。
(リフロー 等級温度)
・MSL−Lv1および2は、いずれも260℃である。
【0107】
[せん断接着力(接着性・耐熱性)]
上記本実施例および比較例に係るダイシング・ダイボンディングフィルムを、裏面がAuメッキされたSiウェハの表面に100℃で貼合した後、5mm角にダイシングして、個片化したチップ(Auメッキ/Siウエハ/導電性接着フィルム)を得た。このチップを、Agメッキされた金属リードフレーム上に、140℃でダイボンディングした後、230℃で3時間焼結して、測定用サンプルを得た。
得られた測定用サンプルについて、冷熱衝撃試験(以下、「TCT」という。)の前後における、導電性接着フィルムのせん断接着力を測定した。
(TCT前の接着力)
得られた測定サンプルについて、ダイシェアー測定機(ノードソン・アドバンスト・テクノロジー株式会社製 万能型ボンドテスタ シリーズ4000)を用い、ボンドテスタの引っ掻きツールを上記測定サンプルの半導体チップの側面に100μm/sで衝突させて、チップ/リードフレーム接合が破壊した際の応力を、260℃におけるせん断接着力として測定した。本実施例では、TCT前のせん断接着力は、3MPa以上を合格レベルとした。
(TCT後の接着力)
次に、冷熱衝撃試験(TCT)として、得られた測定用サンプルを、−40〜+150℃の温度範囲で200サイクル処理し、この処理後のサンプルについて、上記TCT前の接着力と同様の方法でせん断接着力を測定した。本実施例では、TCT後のせん断接着力は、1MPa以上を合格レベルとした。
【0108】
【表1】
【0109】
上記結果から、実施例1〜5に係る導電性接着フィルムは、金属粒子(P)と、樹脂(M)と、所定の有機リン化合物と(A)を含み、樹脂(M)が熱硬化性樹脂(M1)を含み、金属粒子(P)が、平均粒子径(d50)が20μm以下であり、かつ1次粒子の状態にて投影図で見たときのフラクタル次元が1.1以上である第1の金属粒子(P1)を10質量%以上含むため、特に導電性に優れ、接合・焼結後の耐熱性と実装信頼性を併せ持つ、従来技術にない顕著な効果を奏することが確認された。
【0110】
一方、比較例1および2に係る導電性接着フィルムは、特に、本発明で特定する所定の有機リン化合物(A)を含んでおらず、かつ金属粒子(P)が、1次粒子の状態にて投影図で見たときのフラクタル次元が1.1以上である第1の金属粒子(P1)を含んでいないため、本発明に係る実施例1〜5と比較して、導電性、耐熱性および実装信頼性のいずれもが劣っていた。具体的には、比較例1および2では、体積抵抗率が著しく高く、耐吸湿試験では、MSL−Lv2でもPKG剥離が生じており、耐吸湿性が劣ることが確認された。また、接着力は、TCT前もあまり高くはないが、TCT後のせん断接着力は0であり、耐熱衝撃性にも劣ることが確認された。
【課題】例えば半導体チップ(特にパワーデバイス)をリードフレームの素子担持部上または絶縁基板の回路電極部上に接合する際の導電接合材として好適に用いられ、鉛フリーを達成しつつ、特に優れた導電性を有し、接合・焼結後の耐熱性と実装信頼性の双方に優れた接合層を、半導体チップとリードフレームの素子担持部上または絶縁基板の回路電極部間に形成することが可能な導電性接着フィルムおよびこれを用いたダイシング・ダイボンディングフィルムを提供すること。
【解決手段】本発明の導電性接着フィルムは、金属粒子(P)と、樹脂(M)と、所定の有機リン化合物(A)を含み、前記樹脂(M)は、熱硬化性樹脂(M1)を含み、前記金属粒子(P)は、平均粒子径(d50)が20μm以下であり、かつ1次粒子の状態にて投影図で見たときのフラクタル次元が1.1以上である第1の金属粒子(P1)を10質量%以上含む。