【文献】
Oscar A. Anunziata et al.,"Fe-containing ZSM-11 zeolites as active catalyst for SCR of NOx Part I. Synthesis, characterization by XRD, BET and FTIR and catalytic properties",Applied Catalysis A: General,2004年,Vol.264,p.93-101
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Fe(II)の担持量が、Fe(II)置換MEL型ゼオライトに対して0.001〜0.4mmol/gである請求項1に記載のFe(II)置換MEL型ゼオライト。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。本発明は、MEL型ゼオライトをFe(II)イオンによってイオン交換して得られたFe(II)置換MEL型ゼオライトに関するものである。また、本発明は、該Fe(II)置換MEL型ゼオライトを含むガス吸着剤に関するものである。Fe(II)イオンは、MEL型ゼオライトにおける[AlO
2]
-サイトに存在するカチオンとイオン交換されることで、MEL型ゼオライトに担持される。本発明で重要な点は、MEL型ゼオライトに含まれるカチオンとイオン交換される鉄イオンがFe(II)イオンであるという点である。カチオンとイオン交換される鉄イオンがFe(III)イオンである場合には、所望とするレベルのガス除去効果を発現することができない。この理由は、MEL型ゼオライトとして、後述する特定の物性値を有するものを用いることと関連があるのではないかと本発明者は考えている。
【0017】
カチオンとイオン交換される鉄イオンがFe(III)イオンである場合には所望とするレベルのガス除去効果を発現することはできないが、このことは、本発明で用いるFe(II)置換MEL型ゼオライトがFe(III)イオンを担持することを妨げるものではない。つまりFe(II)置換MEL型ゼオライトがFe(III)イオンを担持することは許容される。
【0018】
本発明において、Fe(II)置換MEL型ゼオライトを用いた吸着の対象となるガスとしては、例えば内燃機関の排気ガスに含まれるガスである一酸化窒素ガスやハイドロカーボンガスが挙げられる。ハイドロカーボンガスに関しては、特にメタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、n−ヘプタン及びイソオクタンなどのアルカン類、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン及びメチルヘキセン等のアルケン類、ベンゼン、トルエン、キシレン及びトリメチルベンゼン等の芳香族類などの吸着に、本発明のFe(II)置換MEL型ゼオライトは有効である。処理の対象となるガス中に一酸化窒素及びハイドロカーボンの双方が含まれている場合、本発明のFe(II)置換MEL型ゼオライトを用いれば、これら双方のガスを同時に吸着することができる。
【0019】
Fe(II)置換MEL型ゼオライトに含まれるFe(II)の量、すなわち担持量は、Fe(II)置換MEL型ゼオライトに対して0.001〜0.4mmol/gであることが好ましく、0.001〜0.3mmol/gであることが更に好ましく、0.001〜0.2mmol/gであることが一層好ましく、0.001〜0.15mmol/gであることが更に一層好ましい。Fe(II)の担持量をこの範囲に設定することで、一酸化窒素やハイドロカーボンの吸着効率を効果的に高めることができる。
【0020】
Fe(II)置換MEL型ゼオライトに含まれるFe(II)の担持量は、次の方法で測定される。まず、測定対象となるFe(II)置換MEL型ゼオライトを秤量する。このFe(II)置換MEL型ゼオライトをフッ化水素(HF)によって溶解し、溶解液中の鉄の全量を、誘導結合プラズマ発光分光分析装置を用いて定量する。これとは別に、測定対象となるFe(II)置換MEL型ゼオライト中のFe(III)の量を、H
2−TPR(昇温還元法)によって測定する。そして、鉄の全量からFe(III)の量を差し引くことで、Fe(II)の量を算出する。
【0021】
MEL型ゼオライトにFe(II)イオンを担持させるには、例えば次の方法を採用することができる。二価の鉄の水溶性化合物水溶液中にMEL型ゼオライトを分散し、撹拌混合する。MEL型ゼオライトは、前記の水溶液100質量部に対して0.5〜7質量部の割合で混合することが好ましい。二価の鉄の水溶性化合物の添加量は、イオン交換の程度に応じて適切に設定すればよい。
【0022】
混合撹拌は室温で行ってもよく、あるいは加熱下に行ってもよい。加熱下に混合撹拌を行う場合には、液温を10〜30℃に設定することが好ましい。また混合撹拌は大気雰囲気下で行ってもよく、あるいは窒素雰囲気下などの不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0023】
混合撹拌に際しては、二価の鉄が三価の鉄に酸化されることを防止する化合物を水中に添加してもよい。そのような化合物としては、Fe(II)イオンのイオン交換を妨げず、かつFe(II)イオンがFe(III)イオンに酸化されることを防止し得る化合物であるアスコルビン酸が好ましい。アスコルビン酸の添加量は、添加する二価の鉄のモル数の0.1〜3倍、特に0.2〜2倍とすることが、二価の鉄の酸化を効果的に防止する観点から好ましい。
【0024】
混合撹拌を所定時間行った後、固形分を吸引濾過し、水洗し乾燥させることで、目的とするFe(II)置換MEL型ゼオライトが得られる。このFe(II)置換MEL型ゼオライトのX線回折図は、Fe(II)イオンを担持させる前のMEL型ゼオライトのX線回折図とほぼ同じである。つまりゼオライトの結晶構造はイオン交換によっては変化していない。
【0025】
本発明で用いられるFe(II)置換MEL型ゼオライトは、そのSiO
2/Al
2O
3比が10以上30以下であり、好ましくは12以上24以下であり、更に好ましくは12以上21以下である。つまり、このFe(II)置換MEL型ゼオライトは、SiO
2/Al
2O
3比が低いものである。一般にゼオライトにおいてSiO
2/Al
2O
3比が低いことは、イオン交換サイトの数が多いことを意味する。換言すれば、Fe(II)イオンを担持する能力が高いことを意味する。本発明者の検討の結果、意外にも、SiO
2/Al
2O
3比が低いFe(II)置換MEL型ゼオライトでは、1個のFe(II)イオンが吸着できる一酸化窒素やハイドロカーボンの分子数を高められることが判明した。したがって本発明のFe(II)置換MEL型ゼオライトを用いることで、一酸化窒素やハイドロカーボンを効率よく吸着することができる。
【0026】
本発明で用いられるFe(II)置換MEL型ゼオライトは、上述したSiO
2/Al
2O
3比を有することに加えて、BET比表面積が200〜550m
2/g、特に200〜450m
2/g、とりわけ250〜400m
2/gであることが好ましい。また、ミクロ孔比表面積に関しては、180〜450m
2/g、特に190〜350m
2/g、とりわけ190〜280m
2/gであることが好ましい。更にミクロ孔容積に関しては、0.08〜0.25
cm3/g、特に0.10〜0.20
cm3/g、とりわけ0.10〜0.15
cm3/gであることが好ましい。Fe(II)置換MEL型ゼオライトとしてこのような物性値を有するものを用いることで、一酸化窒素やハイドロカーボンの吸着特性が 向上する。なお、後述するように、これらの物性値は、Fe(II)イオンによってイオン交換される前のMEL型ゼオライトにおける対応する物性値と大きく変わらない。
【0027】
本発明で用いられるFe(II)置換MEL型ゼオライトは、内燃機関のコールドスタート時に排出される一酸化窒素やハイドロカーボンのトラップ性に特に優れたものである。ガソリンエンジンやディーゼルエンジンのコールドスタート時には三元触媒の温度が十分に高くなっていないので、三元触媒による排気ガスの浄化を効果的に行うことが困難であるところ、この三元触媒とは別に本発明で用いられるFe(II)置換MEL型ゼオライトを含む吸着剤(触媒)を用いることで、コールドスタート時の比較的低温の排気ガスに含まれる一酸化窒素をトラップすることができ、排気ガスを浄化することができる。コールドスタートから数分が経過して三元触媒の動作温度近傍に達すると、本発明で用いられるFe(II)置換MEL型ゼオライトにトラップされていた一酸化窒素やハイドロカーボンが放出され、放出された一酸化窒素やハイドロカーボンは、動作温度に達した三元触媒によって浄化される。
【0028】
Fe(II)イオンによってイオン交換されるゼオライトであるMEL型ゼオライトとして、本発明においては特定の物性値を有するMEL型ゼオライトを用いることが好ましい。詳細には、本発明で用いられるMEL型ゼオライト(以下、このゼオライトのことを、Fe(II)置換MEL型ゼオライトとの対比で「置換前MEL型ゼオライト」という。)は、SiO
2/Al
2O
3比が低いアルミニウムリッチなものである点に特徴の一つを有する。詳細には、置換前MEL型ゼオライトは、そのSiO
2/Al
2O
3比が、好ましくは10以上30以下、更に好ましくは12以上24以下であるアルミニウムリッチなものである。このようなアルミニウムリッチな置換前MEL型ゼオライトは、ナトリウム型の状態で測定されたBET比表面積が好ましくは190〜420m
2/g、更に好ましくは190〜370m
2/gである。また、ナトリウム型の状態で測定されたミクロ孔比表面積が好ましくは200〜550m
2/g、更に好ましくは380〜500m
2/gである。更に、ナトリウム型の状態で測定されたミクロ孔容積は好ましくは0.08〜0.25cm
3/g、更に好ましくは0.10〜0.20cm
3/gである。
【0029】
先に述べたとおり、置換前MEL型ゼオライトにおけるSiO
2/Al
2O
3比、BET比表面積、ミクロ孔比表面積及びミクロ孔容積の値は、Fe(II)置換MEL型ゼオライトにおける対応する値と大きく変わらない。
【0030】
置換前MEL型ゼオライトは、ナトリウム型のものも包含し、更にナトリウムイオンがプロトンとイオン交換されてH
+型になったものも包含する。MEL型ゼオライトがH
+型のタイプである場合には、上述の比表面積等の測定は、プロトンをナトリウムイオンで置換した後に行う。ナトリウム型のMEL型ゼオライトをH
+型に変換するには、例えば、ナトリウム型のMEL型ゼオライトを硝酸アンモニウム等のアンモニウム塩水溶液中に分散し、ゼオライト中のナトリウムイオンをアンモニウムイオンと置換する。このアンモニウム型のMEL型ゼオライトを焼成することで、H
+型のMEL型ゼオライトが得られる。
【0031】
上述の比表面積や容積は、後述する実施例で説明されているとおり、BET表面積測定装置を用いて測定される。
【0032】
上述の物性を有するアルミニウムリッチな置換前MEL型ゼオライトは、後述する製造方法によって好適に製造される。本発明において、置換前MEL型ゼオライトが上述した物性を達成できた理由は、該製造方法を用いることで、得られる置換前MEL型ゼオライトの結晶構造中に生じることのある欠陥の発生を抑制できたからではないかと推定されるが、詳細は明らかではない。
【0033】
次に、置換前MEL型ゼオライトの好適な製造方法について説明する。置換前MEL型ゼオライトは、本出願人の先の出願に係るWO2012/002367A1に記載の方法で好適に製造される。詳細には、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源及び水を含む反応混合物(ゲル)と、MEL型ゼオライトの種結晶とを反応させる方法で製造される。前記のゲルとして、該ゲルのみからゼオライトを合成したときに、合成された該ゼオライトが、そのコンポジット・ビルディング・ユニットとして、目的とするゼオライトであるMEL型ゼオライトのコンポジット・ビルディング・ユニットのうちの少なくとも1種を含むものとなる組成のゲルを用いる。MEL型ゼオライトは、mor、mel及びmfiの3つのコンポジット・ビルディング・ユニットから骨格構造が形成されているところ、これら3つのコンポジット・ビルディング・ユニットのうちの少なくとも1種を含むゼオライトであるモルデナイトが生成する組成のゲルを用いれば、目的とするゼオライトであるSiO
2/Al
2O
3比の低いMEL型ゼオライトを容易に得ることができる。
【0034】
具体的には、前記のゲル、つまりモルデナイトが生成する組成のゲルとしては、好ましくは以下の(a)又は(b)に示すモル比で表される組成となるように、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源及び水を混合したものを用いればよい。
(a)
SiO
2/Al
2O
3=40〜200、特に44〜200
Na
2O/SiO
2=0.24〜0.4、特に0.25〜0.35
H
2O/SiO
2=10〜50、特に15〜25
(b)
SiO
2/Al
2O
3=10〜40、特に12〜40
Na
2O/SiO
2=0.05〜0.25、特に0.1〜0.25
H
2O/SiO
2=5〜50、特に10〜25
【0035】
一方、種結晶は、有機構造規定剤(以下、「有機SDA」という。)を用いる従来の方法によって合成することができる。MEL型ゼオライトの合成に好適に用いられる有機構造規定剤としては、例えばテトラブチルアンモニウムヒドロキシドを用いることができる。有機構造規定剤を、アルミナ源及びシリカ源とともに水中で撹拌加熱することで、種結晶としてのMEL型ゼオライトが得られる。得られたゼオライトは有機構造規定剤を含んだ状態になっているので、空気中で焼成することで、該有機構造規定剤を除去する。このようにして得られた種結晶としてのMEL型ゼオライトは、そのSiO
2/Al
2O
3比はおおよそ30〜70程度となる。
【0036】
置換前MEL型ゼオライトの好適な製造方法を、
図1を参照しながら更に詳細に説明する。本発明では、同図において、<1>、<2>、<3>、<6>の順に製造を行うことができる。この手順を採用すると、幅広い範囲のSiO
2/Al
2O
3比のゼオライトを製造することができる。また同図において、<1>、<2>、<4>、<3>、<6>の順に製造を行うこともできる。この手順を採用すると、熟成を行った後に静置加熱することによって、低SiO
2/Al
2O
3比の種結晶を有効に使用できる場合が多い。更に、
図1において、<1>、<2>、<4>、<5>、<6>の順に製造を行うこともできる。この手順では、熟成及び攪拌の操作が行われる。
【0037】
以上の各手順においては、種結晶を含む反応混合物(ゲル)を、密閉容器中に入れて加熱して反応させ、目的とするMEL型ゼオライトを結晶化する。このゲルには有機SDAは含まれていない。なお、以上の手順における熟成とは、反応温度よりも低い温度で一定時間その温度に保持する操作を言う。熟成においては、一般的には、攪拌することなしに静置する。熟成を行うことで、不純物の副生を防止すること、不純物の副生なしに攪拌下での加熱を可能にすること、反応速度を上げることなどの効果が奏されることが知られている。しかし作用機構は必ずしも明らかではない。熟成の温度と時間は、前記の効果が最大限に発揮されるように設定される。本発明では、好ましくは20〜80℃、更に好ましくは20〜60℃で、好ましくは2時間から1日の範囲で熟成が行われる。
【0038】
加熱中にゲルの温度の均一化を図るため攪拌をする場合は、熟成を行った後に加熱攪拌すれば、不純物の副生を防止することができる(<1>、<2>、<4>、<5>、<6>の手順)。攪拌はゲルの組成と温度を均一化するために行うものであり、攪拌羽根による混合や、容器の回転による混合などがある。攪拌強度や回転数は、温度の均一性や不純物の副生具合に応じて調整すればよい。常時攪拌ではなく、間歇攪拌でもよい。このように熟成と攪拌を組み合わせることによって、工業的量産化が可能となる。
【0039】
静置法及び攪拌法のどちらの場合も、加熱温度は100〜200℃、好ましくは120〜180℃の範囲であり、自生圧力下での加熱である。100℃未満の温度では結晶化速度が極端に遅くなるのでMEL型ゼオライトの生成効率が悪くなる場合がある。一方、200℃超の温度では、高耐圧強度のオートクレーブが必要となるため経済性に欠けるばかりでなく、不純物の発生速度が速くなる。加熱時間は本製造方法において臨界的ではなく、結晶性の十分に高いMEL型ゼオライトが生成するまで加熱すればよい。一般に5〜240時間程度の加熱によって、満足すべき結晶性のMEL型ゼオライトが得られる。
【0040】
前記の加熱によって、目的とする置換前MEL型ゼオライトの結晶が得られる。加熱終了後は、生成した結晶粉末を濾過によって母液と分離した後、水又は温水で洗浄して乾燥する。得られた置換前MEL型ゼオライトの結晶は、乾燥したままの状態で有機物を含んでいないので焼成の必要はなく、脱水を行えばすぐに使用可能である。
【0041】
前記の反応に用いられるシリカ源としては、シリカそのもの及び水中でケイ酸イオンの生成が可能なケイ素含有化合物が挙げられる。具体的には、湿式法シリカ、乾式法シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸ナトリウム、アルミノシリケートゲルなどが挙げられる。これらのシリカ源は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのシリカ源のうち、シリカ(二酸化ケイ素)を用いることが、不要な副生物を伴わずにゼオライトを得ることができる点で好ましい。
【0042】
アルミナ源としては、例えば水溶性アルミニウム含有化合物を用いることができる。具体的には、アルミン酸ナトリウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなどが挙げられる。また、水酸化アルミニウムも好適なアルミナ源の一つである。これらのアルミナ源は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのアルミナ源のうち、アルミン酸ナトリウムや水酸化アルミニウムを用いることが、不要な副生物(例えば硫酸塩や硝酸塩等)を伴わずにゼオライトを得ることができる点で好ましい。
【0043】
アルカリ源としては、ナトリウムの場合には例えば水酸化ナトリウムを用いることができる。なお、シリカ源としてケイ酸ナトリウムを用いた場合やアルミナ源としてアルミン酸ナトリウムを用いた場合、そこに含まれるアルカリ金属成分であるナトリウムは同時にNaOHとみなされ、アルカリ成分でもある。したがって、前記のNa
2Oは反応混合物(ゲル)中のすべてのアルカリ成分の和として計算される。
【0044】
反応混合物を調製するときの各原料の添加順序は、均一な反応混合物が得られ易い方法を採用すればよい。例えば、室温下、水酸化ナトリウム水溶液にアルミナ源及びリチウム源を添加して溶解させ、次いでシリカ源を添加して撹拌混合することにより、均一な反応混合物を得ることができる。種結晶は、シリカ源と混合しながら加えるか又はシリカ源を添加した後に加える。その後、種結晶が均一に分散するように撹拌混合する。反応混合物を調製するときの温度にも特に制限はなく、一般的には室温(20〜25℃)で行えばよい。
【0045】
このようにして得られた置換前MEL型ゼオライトは、先に述べたとおりFe(II)イオンでイオン交換されてFe(II)置換MEL型ゼオライトとなる。Fe(II)置換MEL型ゼオライトは、このままの状態で一酸化窒素やハイドロカーボンなどの各種ガスの吸着剤として用いてもよく、あるいは該Fe(II)置換MEL型ゼオライトを含むガス吸着剤として用いてもよい。Fe(II)置換MEL型ゼオライトがどのような形態であっても、Fe(II)置換MEL型ゼオライトを一酸化窒素やハイドロカーボンなどの各種ガスと固気接触させることで、該ガスをFe(II)置換MEL型ゼオライトに吸着することができる。
【0046】
本発明においては、一酸化窒素ガスやハイドロカーボンガスそのものをFe(II)置換MEL型ゼオライトと接触させて一酸化窒素ガスやハイドロカーボンガスを吸着することに加えて、一酸化窒素ガスやハイドロカーボンガスを含むガスをFe(II)置換MEL型ゼオライトと接触させて、該ガス中の一酸化窒素ガスやハイドロカーボンガスを吸着し、該ガスから一酸化窒素ガスやハイドロカーボンガスを除去することもできる。そのようなガスの例としては、ガソリンや軽油等の炭化水素を燃料とする内燃機関の排気ガスや、各種のボイラや焼却炉から発生する排気ガスなどが挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。なお、以下の実施例、比較例及び参考例で用いた分析機器は以下のとおりである。
粉末X線回折装置:マック サイエンス社製、粉末X線回折装置 MO3XHF
22、Cukα線使用、電圧40kV、電流30mA、スキャンステップ0.02°、スキャン速度2°/min
SiO
2/Al
2O
3比:MEL型ゼオライトを、フッ化水素(HF)を用いて溶解させ、溶解液を、ICPを用いて分析しAlを定量した。またMEL型ゼオライトを、水酸化カリウム(KOH)を用いて溶解させ、溶解液を、ICPを用いて分析しSiを定量した。定量したSi及びAlの量に基づきSiO
2/Al
2O
3比を算出した。
BET表面積、ミクロ孔比表面積及びミクロ孔容積測定装置:(株)カンタクローム インスツルメンツ社製 AUTOSORB−1
【0048】
〔実施例1〕
(1)置換前MEL型ゼオライトの製造
SiO
2/Al
2O
3比が19.0であるFe(II)置換MEL型ゼオライトを製造した例である。純水12.88gに、アルミン酸ナトリウム0.113gと、36%水酸化ナトリウム2.582gを溶解して水溶液を得た。微粉状シリカ(Cab−O−Sil、M−5)2.427gと、0.243gの種結晶とを混合したものを、前記の水溶液に少しずつ添加して攪拌混合し、ゲルを得た。種結晶は以下の方法で製造した。このゲルは、SiO
2/Al
2O
3比が100、Na
2O/SiO
2比が0.300、H
2O/SiO
2比が20であり、これのみからゼオライトを合成すると、モルデナイト(MOR)が生成する組成のものであった。ゲルと種結晶の混合物を60ccのステンレス製密閉容器に入れて、熟成及び攪拌することなしに140℃で15時間、自生圧力下で静置加熱した。密閉容器を冷却後、生成物を濾過、温水洗浄して白色粉末を得た。この生成物は不純物を含まないMEL型ゼオライトであった。このようにして得られた置換前MEL型ゼオライトの物性値を表1に示す。
【0049】
〔MEL型ゼオライト種結晶の製造方法〕
テトラエチルアンモニウムヒドロキシドを有機SDAとして用い、アルミン酸ナトリウムをアルミナ源、微粉状シリカ(Cab−O−Sil、M−5)をシリカ源とする従来公知の方法により撹拌加熱を行ってMEL型ゼオライトを得た。撹拌加熱の条件は180℃、96時間である。MEL型ゼオライトのSiO
2/Al
2O
3比は34.0であった。これを電気炉中で空気を流通しながら550℃で10時間焼成して、有機物を含まない結晶を製造した。X線回折の結果から、この結晶はMEL型ゼオライトであることが確認された。このMEL型ゼオライトは、SDAを含まないものであった。このMEL型ゼオライトを種結晶として用いた。
【0050】
(2)Fe(II)置換MEL型ゼオライトの製造
ポリプロピレン容器に60mlの蒸留水、置換前MEL型ゼオライト1g及び加える鉄化合物の2倍のモル数のアスコルビン酸を加えた後、Fe(II)SO
4・7H
2Oを、置換前MEL型ゼオライトに対して10質量%加え、窒素雰囲気下、室温で1日撹拌した。その後、沈殿物を吸引濾過し、蒸留水で洗浄後、乾燥させFe
2+を0.041mmol/g担持したFe(II)置換MEL型ゼオライトを得た。Fe
2+の担持量は、上述した方法で求めた。得られたFe(II)置換MEL型ゼオライトについてXRD測定を行ったところ、ピーク位置及びピーク強度が置換前MEL型ゼオライトとほぼ変わらないことが観察され、イオン交換後もMEL型ゼオライトの構造を維持していることが確認された。
【0051】
(3)一酸化窒素ガス吸着の評価
Fe(II)置換MEL型ゼオライト20mgを電子天秤で正確に秤量した後、希釈剤としてシリコンカーバイトを180mg用いて、両者を均等になるように混合した。混合物を、内径6mmの石英ガラス管に詰めた。混合中の吸着水をマントルヒーターで加温して除去した後、室温まで冷却した。次に、石英ガラス管内に2分おきに1030ppmの一酸化窒素ガスを、室温で、5cm
3パルスした。吸着されずに石英ガラス管から出てきた一酸化窒素ガスの量を、熱伝導度型ガスクロマトグラフ(GC−TCD、島津製作所製、GC−8A)のピーク面積及び化学発光式NO分析装置(NOx analyzer、柳本製作所製、ECL−77A)で検出される値から算出した。熱伝導度型ガスクロマトグラフ(GC−TCD)の測定条件は、以下に示すとおりである。そして、算出した値を、一酸化窒素ガスの供給量から差し引くことで、単位質量あたりのFe(II)置換MEL型ゼオライトに吸着した一酸化窒素ガスの量を求めた。その結果を以下の表1に示す。
【0052】
〔熱伝導度型ガスクロマトグラフ(GC−TCD)の測定条件〕
・キャリアガス:Heガス
・キャリアガス流量:30cm
3・min
-1
・検出部温度:100℃
・検出部電流:80mA
【0053】
(4)トルエンガス吸着の評価
内燃機関から排出される排気ガスに含まれるハイドロカーボンの典型であるトルエンを吸着の対象ガスとして用いた。Fe(II)置換MEL型ゼオライト20mgを内径4mmの石英管に入れ、石英ウールとガラスビーズとの間に保持した。移動相としてヘリウムを用い、試料を390℃で約1時間活性化させた。カラムを50℃に冷却した後、トルエンを飽和状態になるまで注入した。吸着されずに石英ガラス管から出てきたトルエンガスの量を、熱伝導度型ガスクロマトグラフ(GC−TCD、島津製作所製、GC−8A)のピーク面積で検出される値から算出した。熱伝導度型ガスクロマトグラフ(GC−TCD)の測定条件は、以下に示すとおりである。そして、算出した値を、トルエンガスの供給量から差し引くことで、単位質量あたりのFe(II)置換MEL型ゼオライトに吸着したトルエンガスの量を求めた。その結果を以下の表1に示す。
【0054】
〔熱伝導度型ガスクロマトグラフ(GC−TCD)の測定条件〕
・キャリアガス:Heガス
・キャリアガス流量:30cm
3・min
-1
・検出部温度:150℃
・検出部電流:50mA
【0055】
〔実施例2及び3〕
Fe(II)SO
4・7H
2Oを、置換前MEL型ゼオライトに対して20質量%(実施例2)及び40質量%(実施例3)加える以外は実施例1と同様にしてFe(II)置換MEL型ゼオライトを得た。Fe
2+の担持量は表1に示すとおりとなった。得られたFe(II)置換MEL型ゼオライトについて実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0056】
〔実施例4〕
(1)置換前MEL型ゼオライトの製造
SiO
2/Al
2O
3比が15.4であるFe(II)置換MEL型ゼオライトを製造した例である。実施例1において、ゲルの組成として、SiO
2/Al
2O
3比が30、Na
2O/SiO
2比が1.93、H
2O/SiO
2比が20のものを用いた。また、種結晶としてSiO
2/Al
2O
3比が66.0であるMEL型ゼオライトを用いた。この種結晶は、実施例1と同様に、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドを有機SDAとして用いて製造されたものである。これ以外は実施例1と同様にして白色粉末を得た。この生成物についてXRD測定を行ったところ、この生成物はSDA等の不純物を含まないMEL型ゼオライトであることが確認された。このようにして得られた置換前MEL型ゼオライトの物性値を表1に示す。
【0057】
(2)Fe(II)置換MEL型ゼオライトの製造
ポリプロピレン容器に60mlの蒸留水、置換前MEL型ゼオライト1g及び加える鉄化合物の2倍のモル数のアスコルビン酸を加えた後、Fe(II)SO
4・7H
2Oを、置換前MEL型ゼオライトに対して10質量%加え、窒素雰囲気下、室温で1日撹拌した。その後、沈殿物を吸引濾過し、蒸留水で洗浄後、乾燥させFe
2+を0.029mmol/g担持したFe(II)置換MEL型ゼオライトを得た。得られたFe(II)置換MEL型ゼオライト及び置換前MEL型ゼオライトについてXRD測定を行ったところ、ピーク位置及びピーク強度がほぼ変わらないことが観察され、イオン交換後もMEL型ゼオライトの構造を維持していることが確認された。得られたFe(II)置換MEL型ゼオライトについて実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0058】
〔実施例5及び6〕
Fe(II)SO
4・7H
2Oを、置換前MEL型ゼオライトに対して20質量%(実施例5)及び40質量%(実施例6)加える以外は実施例4と同様にしてFe(II)置換MEL型ゼオライトを得た。Fe
2+の担持量は表1に示すとおりとなった。得られたFe(II)置換MEL型ゼオライトについて実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示す結果から明らかなように、各実施例で得られたFe(II)置換MEL型ゼオライトを用いると、一酸化窒素ガス及びトルエンガスを効率よく吸着除去できることが判る。