(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの研究では、従来の高分子機能性膜は、例えば、膜抵抗および透水率はさらに向上することができる余地があり、膜抵抗と透水率をさらに低下させることにより、高分子機能性膜としての機能を格段に高められる可能性があることが分かった。
【0006】
本発明は、選択透過性(輸率)に優れ、透水率および電気抵抗が低く、広範な用途に用いることができる、高分子機能性膜およびその製造方法を提供することを課題とする。その中でも特に、本発明は、膜抵抗および透水率が低く、イオンの輸率に優れた、イオン交換膜としての高分子機能性膜およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記問題点に鑑み、高分子機能性膜に適した膜構造について鋭意研究を行った。その結果、特定の構造を有する重合性化合物を含有する組成物を硬化反応させ、空孔体積分率が所定の範囲内となるように調整した高分子機能性膜は、良好なイオンの輸率を示すだけでなく、イオン交換膜として用いた際に電気抵抗が低く、また、低透水率を示すことを見いだした。本発明はこれらの知見に基づき成されるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の上記課題は下記の手段により解決された。
<1>多孔質支持体を有し、(A)重合性化合物及び(B)共重合モノマーを含有する組成物を硬化反応させてなる空孔体積分率が0.6%以上3.0%以下
であって、該(A)重合性化合物が、下記一般式(1)で表される化合物および下記一般式(MA)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物であるの高分子機能性膜
。
【化1-1】
一般式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を表す。L
1は炭素原子数2〜4の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表す。ただし、L
1において、L
1の両端に結合する酸素原子と窒素原子とがL
1の同一の炭素原子に結合した構造をとることはない。L
2は2価の連結基を表す。kは2または3を表す。x、yおよびzは、各々独立に0〜6の整数を表し、x+y+zは0〜18を満たす。
【化1-2】
一般式(MA)中、R
2は水素原子またはアルキル基を表し、Z
1は−O−または−NRb−を表す。ここで、Rbは水素原子またはアルキル基を表す。M
+は水素イオンまたはアルカリ金属イオンを表す。
<
2>(A)重合性化合物及び(B)共重合モノマーを含有する組成物を硬化反応させてなる空孔体積分率が0.6%以上3.0%以下であって、該(A)重合性化合物が、下記一般式(1)で表される化合物および下記一般式(MA)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物である高分子機能性膜。
【化1-3】
一般式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を表す。L
1は炭素原子数2〜4の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表す。ただし、L
1において、L
1の両端に結合する酸素原子と窒素原子とがL
1の同一の炭素原子に結合した構造をとることはない。L
2は2価の連結基を表す。kは2または3を表す。x、yおよびzは、各々独立に0〜6の整数を表し、x+y+zは0〜18を満たす。
【化1-4】
一般式(MA)中、R
2は水素原子またはアルキル基を表し、Z
1は−O−または−NRb−を表す。ここで、Rbは水素原子またはアルキル基を表す。M
+は水素イオンまたはアルカリ金属イオンを表す。
<
3>支持体を有する<
2>に記載の高分子機能性膜。
<
4>前記支持体が合成織布もしくは合成不織布、スポンジ状フィルムまたは微細な貫通孔を有するフィルムである<1>
または<3
>に記載の高分子機能性膜。
<
5>前記支持体がポリオレフィンである<1>
、<3>、<
4>のいずれか1項に記載の高分子機能性膜。
<
6>前記(B)共重合モノマーに対する(A)重合性化合物のモル比rが、0.1<r<3.5である<1>〜<
5>のいずれか1項に記載の高分子機能性膜。
<
7>前記(B)共重合モノマーが、解離基を有する<1>〜<
6>のいずれか1項に記載の高分子機能性膜。
<
8>前記解離基が、スルホ基もしくはその塩またはカルボキシ基もしくはその塩である<
7>に記載の高分子機能性膜。
<
9>前記(B)共重合モノマーが、(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミドである<1>〜<
8>のいずれか1項に記載の高分子機能性膜。
<
10>前記組成物の全固形分100質量部に対し、前記(A)重合性化合物の固形分含有量が10〜85質量部である<1>〜<
9>いずれか1項に記載の高分子機能性膜。
<
11>前記高分子機能性膜が、イオン交換膜、逆浸透膜、正浸透膜またはガス分離膜である<1>〜<
10>のいずれか1項に記載の高分子機能性膜。
<
12>多孔質支持体を有し、(A)重合性化合物及び(B)共重合モノマーを含有する組成物を硬化反応させ、空孔体積分率を0.6%以上3.0%以下と
する高分子機能性膜の製造方法であって、該(A)重合性化合物が、下記一般式(1)で表される化合物および下記一般式(MA)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物である高分子機能性膜の製造方法。
【化1-5】
一般式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を表す。L1は炭素原子数2〜4の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表す。ただし、L1において、L1の両端に結合する酸素原子と窒素原子とがL1の同一の炭素原子に結合した構造をとることはない。L2は2価の連結基を表す。kは2または3を表す。x、yおよびzは、各々独立に0〜6の整数を表し、x+y+zは0〜18を満たす。
【化1-6】
一般式(MA)中、R2は水素原子またはアルキル基を表し、Z1は−O−または−NRb−を表す。ここで、Rbは水素原子またはアルキル基を表す。M+は水素イオンまたはアルカリ金属イオンを表す。
<
13>(A)重合性化合物及び(B)共重合モノマーを含有する組成物を硬化反応させ、空孔体積分率を0.6%以上3.0%以下とする高分子機能性膜の製造方法であって、該(A)重合性化合物が、下記一般式(1)で表される化合物および下記一般式(MA)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物である高分子機能性膜の製造方法。
【化1-7】
一般式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を表す。L
1は炭素原子数2〜4の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表す。ただし、L
1において、L
1の両端に結合する酸素原子と窒素原子とがL
1の同一の炭素原子に結合した構造をとることはない。L
2は2価の連結基を表す。kは2または3を表す。x、yおよびzは、各々独立に0〜6の整数を表し、x+y+zは0〜18を満たす。
【化1-8】
一般式(MA)中、R
2は水素原子またはアルキル基を表し、Z
1は−O−または−NRb−を表す。ここで、Rbは水素原子またはアルキル基を表す。M
+は水素イオンまたはアルカリ金属イオンを表す。
<
14>前記組成物中に、さらに(C)溶媒を含み、該組成物の全質量100質量部に対し、該溶媒の含有量が1〜35質量部である<
12>または<
13>に記載の高分子機能性膜の製造方法。
<
15>前記(C)溶媒が、水または水溶性溶媒である<
14>に記載の高分子機能性膜の製造方法。
<
16>前記組成物を支持体に塗布および/または含浸させた後に硬化反応させる<
12>〜<
15>のいずれか1項に記載の高分子機能性膜の製造方法。
<
17>前記硬化反応が、前記組成物にエネルギー線照射して重合する硬化反応である<
12>〜<
16>のいずれか1項に記載の高分子機能性膜の製造方法。
【0009】
本明細書において、「空孔体積分率」とは、5つの異なる濃度のNaCl溶液で高分子機能性膜(以下、単に「膜」と称することもある。)の電気抵抗を測定し、各濃度のNaCl溶液に浸漬させた際の膜の導電率をA(S/cm
2)、各NaCl濃度溶液の単位膜厚あたりの導電率をB(S/cm
2)とし、Aをy軸に、Bをx軸とした時のy切片をCとした時、下記式(b)により算出される値をいう。
【0010】
空孔体積分率=(A−C)/B (b)
【0011】
本発明における空孔は、標準的な走査型電子顕微鏡(SEM)の検出限界より小さく、検出限界が5nmのJeol JSM−6335F電界放射型SEMを用いても検出できないことから、平均空孔サイズは5nm未満であると考えられる。
なお、SEMの検出限界よりも小さいことから、この空孔は原子間の隙間であることも考えられる。本明細書において、「空孔」とは、原子間の隙間をも含む意味である。
この空孔は高分子機能性膜形成用組成物硬化時の組成物中の溶媒、中和水、塩または組成物硬化時の収縮により形成されたものであると考えられる。なお、SEMの観察条件は後述する。
【0012】
この空孔は、高分子機能性膜の内部に存在する任意の形状の空隙部分であり、独立孔及び連続孔の両方を含む。「独立孔」とは、互いに独立した空孔のことをいい、膜の任意の表面と接していても良い。一方、「連続孔」とは、独立孔がつらなった空孔のことをいう。この連続孔は、膜の任意の表面から細孔が通路状に他の表面まで連続していてもよい。
【0013】
また、本明細書において(B)「共重合モノマー」とは、(A)重合性化合物と共重合させるモノマーで、(A)重合性化合物とは化学構造が異なる重合性化合物である。
【0014】
さらに、本明細書において「〜」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。また、「解離基」とは、その成分原子、イオン、原子団等に可逆的に分解することができる基をいう。
本明細書において、「(メタ)アクリル」等の記載は、−C(=O)CH=CH
2および/または−C(=O)C(CH
3)=CH
2を意味するものであり、「(メタ)アクリルアミド」は、アクリルアミドおよび/またはメタクリルアミドを、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよび/またはメタクリレートを、それぞれ表す。
また、各一般式において、特に断りがない限り、複数存在する同一符号の基がある場合、これらは互いに同一であっても異なってもよく、同じく、複数の部分構造の繰り返しがある場合は、これらの繰り返しが同一の繰り返しでも、また規定する範囲で異なった繰り返しの混合の両方を意味するものである。
さらに、各一般式における二重結合の置換様式である幾何異性体は、表示の都合上、異性体の一方を記載したとしても、特段の断りがない限り、E体であってもZ体であっても、これらの混合物であっても構わない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、前記(A)成分と前記(B)成分を硬化反応させて、かつ膜の空孔体積分率を0.6%〜3.0%にすることにより、輸率に優れ、透水率および電気抵抗が低く、広範な用途に用いることができる、高分子機能性膜およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の高分子機能性膜は、イオン交換、逆浸透、正浸透、ガス分離等を行うために用いることができる。以下、本発明の好ましい実施形態について、前記高分子機能性膜がイオン交換膜としての機能を有する場合を例に挙げて説明する。
【0018】
本発明の高分子機能性膜は、カチオン交換膜である。
膜の厚さは、支持体を含めて、好ましくは1000μm未満、より好ましくは10〜300μm、最も好ましくは20〜200μmである。
【0019】
本発明の高分子機能性膜は、膜ならびに得られる膜と接触し続けている任意の多孔性支持体、膜の中に包含されている多孔性支持体および任意の多孔質補強材料の全乾燥質量に基づき、好ましくは0.5meq/g以上、より好ましくは0.8meq/g以上、特に好ましくは1.2meq/g以上のイオン交換容量を有する。
なお、イオン交換容量の上限は特に制限されるものではないが、4.0meq/g以下が好ましい。
【0020】
本発明の高分子機能性膜の0.5M NaCl水溶液での電気抵抗(膜抵抗)は、好ましくは10Ω・cm
2未満、より好ましくは5Ω・cm
2未満、最も好ましくは3.5Ω・cm
2未満であり、4.5M NaCl水溶液での電気抵抗(膜抵抗)は、好ましくは10Ω・cm
2未満、より好ましくは5Ω・cm
2未満、最も好ましくは1.5Ω・cm
2未満である。各濃度のNaCl水溶液における電気抵抗の下限に特に制限はないが、0.1Ω・cm
2以上であることが実際的である。
【0021】
本発明の機能性複合膜の水中での膨潤率(膨潤による寸法変化率)は、好ましくは30%未満、より好ましくは15%未満、特に好ましくは8%未満である。膨潤率は、硬化段階で適切なパラメーターを選択することにより制御することができる。
【0022】
本発明の機能性複合膜の吸水量は、乾燥膜の質量に対して、好ましくは70%未満、より好ましくは50%未満、特に好ましくは40%未満である。
【0023】
本発明の高分子機能性膜の透水率は、20×10
―5mL/m
2/Pa/hr以下であることが好ましく、15×10
―5mL/m
2/Pa/hr以下であることがより好ましく、12×10
―5mL/m
2/Pa/hr以下であることが最も好ましい。
【0024】
本発明の高分子機能性膜(カチオン交換膜)のNa
+などのカチオンに対する選択透過性は、好ましくは75%を超え、より好ましくは80%を超え、特に好ましくは85%を超え、最も好ましくは90%を超える。
【0025】
本発明の高分子機能性膜の吸水量は、乾燥膜の質量に基づき、好ましくは70%未満、より好ましくは50%未満、特に好ましくは30%未満である。
膜の電気抵抗、選択透過性は、Membrane Science,319,217〜218(2008)、中垣正幸著,膜学実験法,193〜195頁(1984)に記載されている方法により測定することができる。
【0026】
本発明の機能性複合膜を構成するポリマーの平均質量分子量は、三次元架橋が形成されているため数十万以上であり、実質的に測定できない。一般的には無限大とみなされる。
【0027】
次に、本発明の高分子機能性膜を作成するための組成物の各成分について説明する。
【0028】
本発明の高分子機能性膜は、(A)重合性化合物、(B)共重合モノマーを必須成分として含有し、必要に応じて更に、(C)溶媒、(D)重合開始剤、(E)重合禁止剤および(F)アルカリ金属化合物等を含有する組成物を硬化反応して形成される。
【0029】
なお、本明細書において「化合物」という語を末尾に付して呼ぶとき、あるいは特定の化合物をその名称や式で示すときには、当該化合物そのものに加え、その化学構造式中に解離性の部分構造有するのであれば、その塩、そのイオンを含む意味に用いる。また、本明細書において置換基に関して「基」という語を末尾に付して呼ぶとき、あるいは特定の化合物をその名称で呼ぶときには、その基もしくは化合物に任意の置換基を有していてもよい意味である。
【0030】
以下、前記組成物に含まれる各成分について説明する。
(A)重合性化合物
本発明の高分子機能性膜は、重合性化合物を含む組成物を硬化反応させてなる。重合性化合物は、分子内に少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有しており、水溶性であることが好ましい。なお、水溶性であるとは、25℃で蒸留水100質量部に対して、少なくとも10質量部溶解するものであり、好ましくは、少なくとも30質量部溶解するものであり、より好ましくは、少なくとも50量部溶解するものである。
例えば、(メタ)アクリレート化合物、(メタ)アクリルアミド化合物、ビニルエーテル化合物、芳香族ビニル化合物、N−ビニル化合物(アミド結合を有する重合性モノマー)、アリル化合物等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリレート化合物、(メタ)アクリルアミド化合物が好ましく、中でも2つ以上のアクリルアミド基及び/又はメタクリルアミド基を有する(メタ)アクリルアミド化合物がより好ましく、下記一般式(1)または一般式(MA)で示される化合物が特に好まし
く、本発明では、下記一般式(1)または一般式(MA)で示される化合物を使用する。このような重合性化合物は、高い重合能及び硬化能を備え、pH耐性、機械強度にも優れる。しかも、例えば、α線、γ線、X線、紫外線、可視光線、赤外光線、電子線等の活性エネルギー線や熱等のエネルギーを付与することにより、容易に重合して高分子膜を得ることができる。
【0031】
ここで、一般式(1)で表される化合物について説明する。
【0033】
一般式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を表す。L
1は炭素原子数2〜4の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表す。ただし、L
1において、L
1の両端に結合する酸素原子と窒素原子とがL
1の同一の炭素原子に結合した構造をとることはない。L
2は2価の連結基を表す。kは2または3を表す。x、yおよびzは、各々独立に0〜6の整数を表し、x+y+zは0〜18を満たす。
【0034】
一般式(1)中、複数のR
1は互いに同じでも異なっていてもよい。R
1は、水素原子であることが好ましい。
【0035】
一般式(1)中、複数のL
1は互いに同じでも異なっていてもよい。L
1のアルキレン基の炭素数は、3または4が好ましく、3がより好ましく、なかでも、炭素数3の直鎖のアルキレン基が特に好ましい。L
1のアルキレン基はさらに置換基を有していてもよく、該置換基としてはアルキル基(好ましくはメチル基)、アリール基、アルコキシ基等が挙げられる。
ただし、L
1において、L
1の両端に結合する酸素原子と窒素原子とがL
1の同一の炭素原子に結合した構造をとることはない。L
1は酸素原子と(メタ)アクリルアミド基の窒素原子とを連結する直鎖または分岐のアルキレン基であり、該アルキレン基が分岐構造をとる場合、両端の酸素原子と(メタ)アクリルアミド基の窒素原子とがアルキレン基中の同一の炭素原子に結合した、−O−C−N−構造(ヘミアミナール構造)をとることも考えられる。しかし、本発明で用いる一般式(1)で表される重合性化合物は、このような構造の化合物は含まれない。分子内に−O−C−N−構造を有すると、該炭素原子の位置で分解が起こりやすい。特に、このような化合物は、保存中に分解されやすく、また水、水分の存在下で分解が促進され、硬化組成物の保存安定性を低下させる。
【0036】
一般式(1)中、L
2における2価の連結基としては、アルキレン基、アリーレン基、2価の複素環基、またはこれらの組み合わせからなる基等が挙げられ、アルキレン基が好ましい。なお、2価の連結基がアルキレン基を含む場合、このアルキレン基中にはさらに−O−、−S−および−N(Ra)−から選ばれる少なくとも1種の基が含まれていてもよい。ここで、Raは、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。
なお、アルキレン基中に−O−を含むとは、例えば、−アルキレン−O−アルキレン−のように、連結基の連結鎖のアルキレン基が上記ヘテロ原子を介して連結したものである。
−O−が含まれるアルキレン基の具体例としては、−C
2H
4−O−C
2H
4−、−C
3H
6−O−C
3H
6−等が挙げられる。
【0037】
一般式(1)中、L
2がアルキレン基を含む場合、アルキレン基としては、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、へプチレン、オクチン、ノニレン等が挙げられる。L
2のアルキレン基の炭素数は1〜6が好ましく、1〜3がさらに好ましく、1が特に好ましい。また、このアルキレン基はさらに置換基を有していてもよく、該置換基としてはアルキル基(好ましくはメチル基)、アリール基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0038】
一般式(1)中、L
2がアリーレン基を含む場合、アリーレン基としては、フェニレン、ナフチレン等が挙げられる。アリーレン基の炭素数は6〜14が好ましく、6〜10がさらに好ましく、6が特に好ましい。このアリーレン基はさらに置換基を有していてもよく、該置換基としてはアルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0039】
一般式(1)中、L
2が2価の複素環基を含む場合、この複素環は、5員または6員環が好ましく、縮環していてもよい。また、芳香族複素環であっても非芳香族複素環であってもよい。2価の複素環基の複素環は、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、シンノリン、フタラジン、キノキサリン、ピロール、インドール、フラン、ベンゾフラン、チオフェン、ベンゾチオフェン、ピラゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、トリアゾール、オキサゾール、ベンズオキサゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、イソチアゾール、ベンズイソチアゾール、チアジアゾール、イソオキサゾール、ベンズイソオキサゾール、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、イミダゾリジン、チアゾリンなどが挙げられる。なかでも、芳香族複素環が好ましく、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、ピラゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、トリアゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、イソチアゾール、ベンズイソチアゾール、チアジアゾールが好ましい。
【0040】
一般式(1)中、2価の複素環基の複素環の2つの結合手の位置は、特に限定されるものではなく、例えばピリジンであれば、2位、3位、4位で置換することが可能で、2つの結合手はいずれの位置でも構わない。
また、2価の複素環基の複素環は、さらに置換基を有してもよく、該置換基は、アルキル基、アリール基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0041】
一般式(1)中、kは2または3を表すが、複数のkは互いに同じでも異なっていてもよい。また、C
kH
2kは直鎖構造であっても分岐構造であってもよい。
【0042】
一般式(1)中、x、yおよびzは各々独立に0〜6の整数を表し、0〜5の整数が好ましく、0〜3の整数がより好ましい。x+y+zは0〜18を満たすが、0〜15が好ましく、0〜9がより好ましい。
【0043】
一般式(1)中、一般式(1)で表される重合性化合物の具体例を下記に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
一般式(1)で表される重合性化合物は、例えば、下記スキーム1又はスキーム2に従って製造することができる。本実施形態の高分子機能性膜には、一般式(1)で表される化合物を2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0047】
[スキーム1]
(第一工程)
アクリロニトリルとトリスヒドロキシメチルアミノメタンとの反応によりポリシアノ化合物を得る工程。
この工程の反応は、3〜60℃で、2〜8時間行なうことが好ましい。
(第二工程)
ポリシアノ化合物を、触媒存在下で水素と反応させ、還元反応によりポリアミン化合物を得る工程。
この工程の反応は、20〜60℃で、5〜16時間行なうことが好ましい。
(第三工程)
ポリアミン化合物とアクリル酸クロリド又はメタクリル酸クロリドとのアシル化反応により多官能アクリルアミド化合物を得る工程。
この工程の反応は、3〜25℃で、1〜5時間行なうことが好ましい。なお、アシル化剤は、酸クロリドに換えてジアクリル酸無水物又はジメタクリル酸無水物を用いてもよい。なお、アシル化工程で、アクリル酸クロリドとメタクリル酸クロリドの両方を用いることで、最終生成物として同一分子内にアクリルアミド基とメタクリルアミド基とを有する化合物を得ることができる。
【0049】
なお、Bzはベンジル基を表す。また、Msはメタンスルホニル基を表す。
【0050】
[スキーム2]
(第一工程)
アミノアルコールの窒素原子に、ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基等による保護基導入反応により窒素保護アミノアルコール化合物を得る工程。
この工程の反応は、3〜25℃で、3〜5時間行なうことが好ましい。
(第二工程)
窒素保護アミノアルコール化合物のOH基に、メタンスルホニル基(上記スキーム2では、代表してこれを記載した)、p−トルエンスルホニル基等の脱離基を導入し、スルホニル化合物を得る工程。
この工程の反応は、3〜25℃で、2〜5時間行なうことが好ましい。
(第三工程)
スルホニル化合物とトリスヒドロキシメチルニトロメタンとのS
N2反応により、アミノアルコール付加化合物を得る工程。
この工程の反応は、3〜70℃で、5〜10時間行なうことが好ましい。
(第四工程)
アミノアルコール付加化合物を、触媒存在下で水素と反応させ、水素添加反応によりポリアミン化合物を得る工程。
この工程の反応は、20〜60℃で、5〜16時間行なうことが好ましい。
(第五工程)
ポリアミン化合物とアクリル酸クロリド又はメタクリル酸クロリドとのアシル化反応により多官能アクリルアミド化合物を得る工程。
この工程の反応は、3〜25℃で、1〜5時間行なうことが好ましい。なお、アシル化剤は、酸クロリドに換えてジアクリル酸無水物又はジメタクリル酸無水物を用いてもよい。なお、アシル化工程で、アクリル酸クロリドとメタクリル酸クロリドの両方を用いることで、最終生成物として同一分子内にアクリルアミド基とメタクリルアミド基とを有する化合物を得ることができる。
【0051】
上記工程により得られた化合物は、反応生成液から常法により精製できる。例えば、有機溶媒を用いた分液抽出、貧溶媒を用いた晶析、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーなどによって精製できる。
【0052】
次に、一般式(MA)で表される化合物について説明する。
【0054】
一般式(MA)中、R
2は水素原子またはアルキル基を表し、Z
1は−O−または−NRb−を表す。ここで、Rbは水素原子またはアルキル基を表す。M
+は水素イオンまたはアルカリ金属イオンを表す。
【0055】
R
2におけるアルキル基は直鎖もしくは分岐のアルキル基で、炭素数は1〜10が好ましく、1〜5がより好ましく、1〜3が特に好ましい。アルキル基の具体例として、メチル、エチル、Iso−プロピル、tert−ブチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、n−デシル、n−ヘキサデシルなどが挙げられる。R
2は水素原子またはメチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0056】
Z
1は−O−または−NRb−を表し、−NRb−が好ましい。
ここで、Rbは水素原子またはアルキル基を表すが、該アルキル基は、直鎖もしくは分岐のアルキル基で、炭素数は1〜10が好ましく、1〜5がより好ましく、1〜3が特に好ましい。アルキル基の具体例として、メチル、エチル、Iso−プロピル、tert−ブチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、n−デシル、n−ヘキサデシルなどが挙げられる。
Rbは水素原子、メチル基、エチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0057】
M
+は水素イオンまたはアルカリ金属イオンを表す。アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオンが挙げられ、好ましい。
M
+は、水素イオン、リチウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオンが好ましく、水素イオン、ナトリウムイオンがより好ましく、ナトリウムイオンがされに好ましい。
上記好ましい範囲内であると所望の硬化性、pH耐性、機械強度、柔軟性に優れる。
【0058】
以下、一般式(MA)で表される化合物の具体例を示すが、これらによって本発明が限定されるものではない。
【0060】
これらの化合物は、後述の実施例で示す方法もしくはこれに準じた方法で合成することができる。
【0061】
前記(A)重合性化合物の固形分含有量は、膜形成用組成物の全固形分100質量部に対し、10〜85質量部が好ましく、20〜85質量部がより好ましい。
一方、溶媒も含めた膜形成用組成物100質量部に対し、前記(A)重合性化合物は5〜60質量部が好ましく、10〜55質量部がより好ましい。
【0062】
(B)共重合モノマー
本発明の機能性高分子膜は、上記(A)重合性化合物と(B)共重合モノマーとを硬化反応、すなわち重合反応することで得られる。
このような共重合モノマーとしては単官能重合性化合物が好ましく、(メタ)アクリレート化合物、(メタ)アクリルアミド化合物、ビニルエーテル化合物、芳香族ビニル化合物、N−ビニル化合物(アミド結合を有する重合性モノマー)、アリル化合物等が挙げられる。
これらの中でも、得られた機能性高分子膜の安定性、pH耐性から、エステル結合を有さないもの、(メタ)アクリルアミド化合物、ビニルエーテル化合物、芳香族ビニル化合物、N−ビニル化合物(アミド結合を有する重合性モノマー)、アリル化合物が好ましく、(メタ)アクリルアミド化合物が特に好ましい。
共重合モノマーとしては、例えば、特開2008−208190号公報や特開2008−266561号公報に記載の化合物が挙げられる。
これらの共重合モノマーは、高分子膜の機能付与のため、後述するように、解離基を有するものが好ましい。
【0063】
本発明で用いる(メタ)アクリルアミド構造を有する共重合モノマーとして、下記一般式(2)で表される化合物が好ましい。
【0065】
一般式(2)中、R
10は水素原子またはメチル基を表す。R
11は水素原子または置換もしくは無置換のアルキル基を表し、R
12は置換もしくは無置換のアルキル基を表す。 ここで、R
11とR
12のアルキル基は直鎖でも分岐でも良く、互いに結合して環を形成してもよい。
【0066】
R
10は水素原子が好ましい。
R
11およびR
12におけるアルキル基としては、例えば、メチル、エチルn−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−オクチル、t−オクチル、n−デシル、n−オクタデシルが挙げられる。炭素数は1〜18が好ましく、1〜12がより好ましく、1〜6がさらに好ましい。
【0067】
これらのアルキル基は、直鎖もしくは分岐のアルキル基が好ましく、置換基を有していてもよい。アルキル基の置換基としては、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、スルホ基もしくはその塩、カルボキシ基もしくはその塩、リン酸基もしくはその塩、オニオ基(アンモニオ基、スルホニオ基、ピリジニオ基など)が挙げられ、カチオン交換膜では水酸基、スルホ基もしくはその塩、カルボキシ基もしくはその塩、が挙げられる。
【0068】
本発明においては、特に高分子膜の機能を付与するために、このアルキル基の置換基で機能を付与することが好ましい。このため、上記置換基のなかでも、解離基、極性の置換基が好ましく、解離基が特に好ましい。
解離基は上記で挙げた、カチオン交換膜では水酸基(特に、フェノール性またはエノール性の水酸基)、スルホ基もしくはその塩、カルボキシル基もしくはその塩、リン酸基もしくはその塩が好ましく、スルホ基もしくはその塩、カルボキシ基もしくはその塩、がより好ましい。
【0069】
ここで、スルホ基またはカルボキシ基における塩としては、アルカリ金属原子のカチオン、例えば、リチウムカチオン、カリウムカチオン、ナトリウムカチオンが好ましい。
【0070】
R
11およびR
12におけるアルキル基が有してもよい置換基のうち、アシル基は、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基のいずれでもよいが、アルキルカルボニル基が好ましい。アルキルカルボニル基の炭素数は2〜12が好ましく、アリールカルボニル基の炭素数は7〜12が好ましい。アシル基としては、例えば、アセチル、プロピオニル、ピバロイル、ベンゾイルが挙げられる。
【0071】
R
11およびR
12におけるアルキル基が置換基を有する場合、アルキル基部分の炭素数は1〜6が好ましく、1〜3が好ましい。
【0072】
R
11とR
12が互いに結合して形成される環としては、炭化水素環であってもヘテロ環であってよい。ヘテロ環の場合、環構成原子が酸素原子、窒素原子または硫黄原子が好ましい。
R
11とR
12が互いに結合して形成される環は5または6員環が好ましい。
これらの環としては、例えば、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、ピペリジン環、モルホリン環、ピペラジン環、フラン環、ピロール環、オフェン環などが挙げられる。
【0073】
上記一般式(2)において、R
11が水素原子が好ましい。また、R
12は、解離性基が置換したアルキル基、オニオ基が置換したアルキル基が好ましく、−C(CH
3)
2CH
2−解離性基、−C(CH
3)
2CH
2−オニオ基、−(CH
2)
2−解離性基、−(CH
2)
2−オニオ基、−(CH
2)
3−解離性基、−(CH
2)
3−オニオ基が好ましく、−C(CH
3)
2CH
2−解離性基、−C(CH
3)
2CH
2−オニオ基がより好ましい。
【0074】
前記一般式(2)で表される(メタ)アクリルアミド構造を有する共重合モノマーの単官能重合成化合物の具体例として、下記例示化合物(B−1)〜(B−20)が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0077】
これらの化合物は、興人(株)、協和発酵ケミカル(株)、Fluka(株)、aldrich(株)、東亜合成(株)から市販されていたり、公知の方法で容易に合成できる。
【0078】
本発明の膜を形成するための組成物において、(B)共重合モノマーの含有量に対する、(A)重合性化合物の含有量のモル比rは、0.1<r<3.5が好ましく、0.1<r<1.0がより好ましく、0.15<r<0.5が特に好ましい。
(B)共重合モノマーは、本発明の機能性高分子膜の透水率と膜の電気抵抗のバランスの調整や、膜形成用組成物からなる塗布液粘度、経時安定性の調整などの作用を行う。
【0079】
(C)溶媒
本発明の膜を形成するための組成物は(C)溶媒を含有していてもよい。
本発明において、前記組成物中の(C)溶媒の含有量は、全組成物100質量部に対し、1〜35質量部が好ましく、10〜30質量部がより好ましい。
溶媒が少なすぎると、組成物の粘度が上昇し、均一な膜を製造できなくなる場合がある。また、溶媒が多すぎると支持体に固定される固形分が少なくなるためピンホール(微小な欠陥穴)ができやすくなるという問題がある。
【0080】
(C)溶媒は、水に対する溶解度が5質量%以上であるものが好ましく用いられ、さらには水に対して自由に混合するものが好ましい。このため、水および水溶性溶媒から選択される溶媒が好ましい。水溶性溶媒としては、特に、アルコール系溶媒、非プロトン性極性溶媒であるエーテル系溶媒、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、スルホキシド系溶媒、スルホン系溶媒、二トリル系溶媒、有機リン系溶媒が好ましい。水およびアルコール系溶媒が好ましく、アルコール系溶媒としては例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどが挙げられる。アルコール系溶媒の中では、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコールがより好ましく、イソプロパノールが特に好ましい。これらは1種類単独または2種類以上を併用して用いることができる。水単独または水と水溶性溶媒の併用が好ましく、水単独または水と少なくとも一つのアルコール系溶媒の併用がより好ましい。水と水溶性溶媒の併用においては、水100質量%に対し、イソプロパノール0.1〜10%が好ましく、0.5〜5%がより好ましく、1.0〜2.0%がさらに好ましい。
また、非プロトン性極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、ジオキサン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホロトリアミド、ピリジン、プロピオニトリル、ブタノン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジアセテート、γ−ブチロラクトン等が好ましい溶媒として挙げられ、中でもジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、アセトン又はアセトニトリル、テトラヒドロフランが好ましい。これらは1種類単独または2種類以上を併用して用いることができる。
【0081】
(D)重合開始剤
本発明の膜を形成するための組成物は、重合開始剤を含むことが好ましい。
重合開始剤の中でも、本発明においては、エネルギー線照射で重合させることが可能な光重合開始剤が好ましい。
【0082】
光重合開始剤としては、芳香族ケトン類、アシルホスフィン化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機化酸化物、チオ化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、並びにアルキルアミン化合物等が挙げられる。
【0083】
芳香族ケトン類、アシルホスフィンオキシド化合物、及び、チオ化合物の好ましい例としては、「RADIATION CURING IN POLYMER SCIENCE
AND TECHNOLOGY」,p.77〜117(1993)に記載のベンゾフェノン骨格又はチオキサントン骨格を有する化合物等が挙げられる。より好ましい例としては、特公昭47−6416号公報に記載のα−チオベンゾフェノン化合物、特公昭47−3981号公報に記載のベンゾインエーテル化合物、特公昭47−22326号公報に記載のα−置換ベンゾイン化合物、特公昭47−23664号公報に記載のベンゾイン誘導体、特開昭57−30704号公報に記載のアロイルホスホン酸エステル、特公昭60−26483号公報に記載のジアルコキシベンゾフェノン、特公昭60−26403号公報、特開昭62−81345号公報記載のベンゾインエーテル類、特公平1−34242号公報、米国特許第4,318,791号明細書、欧州特許出願公開第0284561A1号明細書に記載のα−アミノベンゾフェノン類、特開平2−211452号公報に記載のp−ジ(ジメチルアミノベンゾイル)ベンゼン、特開昭61−194062号公報に記載のチオ置換芳香族ケトン、特公平2−9597号公報に記載のアシルホスフィンスルフィド、特公平2−9596号公報に記載のアシルホスフィン、特公昭63−61950号公報に記載のチオキサントン類、特公昭59−42864号公報に記載のクマリン類等を挙げることができる。また、特開2008−105379号公報、特開2009−114290号公報に記載の重合開始剤も好ましい。また、加藤清視著「紫外線硬化システム」(株式会社総合技術センター発行:平成元年)の第65〜148頁に記載されている重合開始剤などを挙げることができる。
【0084】
本発明では、水溶性の重合開始剤が好ましい。
ここで、重合開始剤が水溶性であるとは、25℃において蒸留水に0.1質量%以上溶解することを意味する。前記水溶性の光重合開始剤は、25℃において蒸留水に0.5質量%以上溶解することが更に好ましく、1質量%以上溶解することが特に好ましい。
【0085】
これらのなかでも、本実施形態における硬化性組成物に好適な光重合開始剤は、芳香族ケトン類(特に、α−ヒドロキシ置換ベンゾイン化合物)又はアシルホスフィンオキサイド化合物である。特に、p−フェニルベンゾフェノン(和光純薬工業社製)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド(Irgacure 819、BASF・ジャパン社製)、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(Darocur TPO、BASF・ジャパン社製)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1(Irgacure 369、BASF・ジャパン社製)、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン(Irgacure 907、BASF・ジャパン社製)、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(Irgacure 2959、BASF・ジャパン社製)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(Darocur 1173、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)が好ましく、水溶性と加水分解耐性の観点から、Irgacure 2959(BASF・ジャパン社製)、Darocur 1173(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)が最も好ましい。
【0086】
本発明において、重合開始剤の含有量は、組成物中の全固形分質量100質量部に対し、0.1〜10質量部か好ましく、0.1〜5質量部がより好ましく、0.3〜2質量部がさらに好ましい。
【0087】
(E)重合禁止剤
本発明の膜を形成するための組成物は、膜を形成する際の塗布液に安定性を付与するために、重合禁止剤を含むことも好ましい。
重合禁止剤としては、公知の重合禁剤が使用でき、フェノール化合物、ハイドロキノン化合物、アミン化合物、メルカプト化合物などが挙げられる。
フェノール化合物としては、ヒンダードフェノール(オルト位にt−ブチル基を有するフェノールで、代表的には、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールが挙げられる)、ビスフェノールが挙げられる。ハイドロキノン化合物の具体例としては、モノメチルエーテルハイドロキノンが挙げられる。また、アミン化合物の具体例としては、N−ニトロソ―N−フェニルヒドロキシルアミン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン等が挙げられる。
なお、これらの重合禁止剤は、1種単独または2種以上を組み合わせて使用しても良い。
重合禁止剤の含有量は、組成物中の全固形分質量100質量部に対し、0.01〜5質量部か好ましく、0.01〜1質量部がより好ましく、0.01〜0.5質量部がさらに好ましい。
【0088】
(F)アルカリ金属化合物
本実施形態における硬化性組成物は、前記(メタ)アクリルアミド構造を有する化合物の溶解性を向上させるために(F)アルカリ金属化合物を含んでいてもよい。アルカリ金属化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウムの水酸化物塩、塩化物塩、硝酸塩等が好ましい。中でも、リチウム化合物がより好ましく、その具体例としては、水酸化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、硝酸リチウム、ヨウ化リチウム、リチウム塩素酸塩、チオシアン酸リチウム、過塩素酸リチウム、リチウム・テトラフルオロボラート、リチウム・ヘキサフルオロホスファート、リチウム・ヘキサフルオロアルセナートが挙げられる。
ここで、アルカリ金属化合物は、組成物、組成物溶液混合物を中和するために使用することも好ましい。
これらのアルカリ金属化合物は水和物であってもよい。また、1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
アルカリ金属化合物を添加する場合の添加量は、組成物中の全固形分質量100質量部に対し、0.1〜20質量部が好ましく、1〜20質量部がより好ましく、5〜15質量部がさらに好ましい。
【0089】
〔その他の成分等〕
[界面活性剤]
本発明の膜を形成するための組成物には、膜物性を調整するため、各種高分子化合物を添加することもできる。高分子化合物としては、アクリル系重合体、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、シェラック、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類、その他の天然樹脂等が使用できる。また、これらは2種以上併用してもかまわない。
また、液物性調整のためにノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤や、有機フルオロ化合物などを添加することもできる。
【0090】
界面活性剤の具体例としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩、高級アルコールエーテルのスルホン酸塩、高級アルキルスルホンアミドのアルキルカルボン酸塩、アルキルリン酸塩などのアニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、グリセリンのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの非イオン性界面活性剤、また、この他にもアルキルベタインやアミドベタインなどの両性界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などを含めて、従来公知である界面活性剤及びその誘導体から適宜選ぶことができる。
【0091】
[高分子分散剤]
本発明の膜を形成するための組成物は高分子分散剤を含んでいてもよい。
高分子分散剤として、具体的にはポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド等が挙げられ、中でもポリビニルピロリドンを用いることも好ましい。
【0092】
[クレーター防止剤]
クレーター防止剤とは、表面調整剤、レベリング剤またはスリップ剤とも称し、膜表面の凹凸を防止するものであり、例えば、有機変性ポリシロキサン(ポリエーテルシロキサンとポリエーテルの混合物)、ポリエーテル変性ポリシロキサンコポリマー、シリコン変性コポリマーの構造の化合物が挙げられる。
市販品としては、例えば、Evonik industries社製のTego Glide 432、同110、同110、同130、同406、同410、同411、同415、同420、同435、同440、同450、同482、同A115、同B1484、同ZG400(いずれも商品名)が挙げられる。
クレーター防止剤は、組成物中の全固形分質量100質量部に対し、0〜10質量部が好ましく、0〜5質量部がより好ましく、1〜2質量部がさらに好ましい。
【0093】
上記以外に、本発明の膜を形成するための組成物は必要により、例えば、粘度向上剤、防腐剤を含有してもよい。
【0094】
<支持体>
とりわけ良好な機械的強度を有する本実施形態の膜を提供するために、多くの技術を用いることができる。例えば、膜の補強材料として支持体を用いることができ、好ましくは多孔質支持体を使用することができる。この多孔質支持体は、前記組成物を塗布およびまたは含浸させた後硬化反応させることにより膜の一部を構成することができる。
補強材料としての多孔質支持体としては、例えば、合成織布または合成不織布、スポンジ状フィルム、微細な貫通孔を有するフィルム等が挙げられる。本発明の多孔質支持体を形成する素材は、例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミドおよびそれらのコポリマーであるか、あるいは、例えばポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリエーテルミド(polyethermide)、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリアクリレート、酢酸セルロース、ポリプロピレン、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリクロロトリフルオロエチレンおよびそれらのコポリマーに基づく多孔質膜であることができる。これらのうち、本発明では、ポリオレフィンが好ましい。
市販の多孔質支持体および補強材料は、例えば、日本バイリーンやFreudenbergFiltration Technologies(Novatexx材料)およびSefar AGから市販されている。硬化前に多孔質補強材料を硬化性組成物に施用する態様では、多孔質補強材料が、硬化に用いられる波長の照射を通過させることができるものであり、および/または、硬化性組成物が、段階(iii)で硬化されるように、多孔質補強材料に浸透することができるものであることが好ましい。
【0095】
多孔質支持体は親水性を有することが好ましい。支持体に親水性を付与するための手法として、コロナ処理、オゾン処理、硫酸処理、シランカップリング剤処理などの一般的な方法を使用することができる。
【0096】
[高分子機能性膜の製造方法]
次に、本実施形態の高分子機能性膜の製造方法を説明する。
本発明の高分子機能性膜の製造方法は、(A)重合性化合物、及び(B)共重合モノマーである単官能重合性化合物を含有する組成物を硬化反応させ、空孔体積分率を0.6%以上3.0%以下とする製造方法である。
前記組成物中に、さらに(C)溶媒を含み、該組成物の全質量100質量部に対し、該溶媒の含有量が1〜35質量部であることが好ましい。
また、前記(C)溶媒は、水または水溶性溶媒が好ましく、前記組成物を支持体に塗布および/または含浸させた後に硬化反応させることが好ましい。さらに、前記硬化反応が、前記組成物にエネルギー線照射して重合する硬化反応が好ましい。
【0097】
以下、本発明の高分子機能性膜の製造方法を詳細に説明する。
本実施形態の高分子機能性膜は、固定された支持体を用いてバッチ式で調製することが可能であるが、移動する支持体を用いて連続式で膜を調製することもできる。支持体は、連続的に巻き戻されるロール形状でもよい。なお、連続式で膜を調製する場合、連続的に動かされるベルト上に支持体を載せ、膜を調製することができる(または、これらの方法の組み合わせ)。そのような技術を用いると、本発明の上記組成物を連続式で支持体に施用することができ、または、それを大規模なバッチ式で施用することができる。
なお、支持体と別に、組成物を多孔質支持体に浸漬させ硬化反応が終わるまでの間、仮支持体(硬化反応終了後、仮支持体から膜を剥がす)を用いてもよい。
このような仮支持体は、物質透過を考慮する必要がなく、例えば、PETフィルムやアルミ板等の金属板を含め、膜形成のために固定できるものであれば、どのようなものでも構わない。
また、組成物を多孔質支持体に浸漬させ、多孔質支持体以外の支持体を用いずに硬化させることもできる。
【0098】
上記組成物は、任意の適した方法、例えば、カーテンコーティング、押し出しコーティング、エアナイフコーティング、スライドコーティング、ニップロールコーティング、フォワードロールコーティング、リバースロールコーティング、浸漬コーティング、キスコーティング、ロッドバーコーティングまたは噴霧コーティングにより、多孔質支持体層に施用することができる。多層のコーティングは、同時または連続して行うことができる。多層の同時コーティングには、カーテンコーティング、スライドコーティング、スロットダイコーティングおよび押し出しコーティングが好ましい。
【0099】
従って、好ましい方法では、上記組成物を、移動している支持体に連続的に、より好ましくは、組成物塗布部と、該組成物を硬化するための照射源と、膜収集部と、支持体を前記組成物塗布部から照射源および膜収集部に移動させるための手段とを含む製造ユニットにより製造する。
【0100】
本製造例では、(i)本発明の膜を形成するための組成物を多孔質支持体に塗布およびまたは含浸し(ii)当該組成物を光照射により硬化反応し、(iii)所望により膜を支持体から取り外す、という過程を経て本実施形態の高分子機能性膜が作成される。
【0101】
前記組成物塗布部は照射源に対し上流の位置に置くことができ、照射源は複合膜収集ステーションに対し上流の位置に置かれる。
高速コーティング機による施用に十分な流動性を有するために、本発明の組成物は、好ましくは35℃で測定して4000mPa.s未満、より好ましくは35℃で測定して1〜1000mPa.sの粘度を有する。硬化性組成物の粘度は、35℃で測定して1〜500mPa.sであることが、最も好ましい。スライドビードコーティングのようなコーティング法の場合、好ましい粘度は、35℃で測定して1〜100mPa.sである。
【0102】
適したコーティング技術を用いると、本発明の組成物を、15m/minを超える速度、例えば、20m/minを超える速度で移動する支持体に塗布することができ、または、さらに高速、例えば、60m/min、120m/min、もしくは最高400m/minに達することができる。
【0103】
特に支持体を膜に残して機械的強度をもたらすことを意図する場合、本発明の組成物を支持体の表面に施用する前に、この支持体を、例えば支持体の湿潤性および付着力を改善するために、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、紫外線照射処理などに付してもよい。
【0104】
硬化反応中に、(A)重合性化合物、及び(B)共重合モノマーが重合してポリマーを形成する。硬化反応は、30秒以内に膜を形成するのに十分な迅速さで硬化が起こるという条件で、光照射により行うことができる。
【0105】
本発明の組成物の硬化は、該組成物を支持体層に施用して好ましくは60秒以内、より好ましくは15秒以内、特に5秒以内、最も好ましくは3秒以内に開始する。
硬化は、組成物に好ましくは10秒未満、より好ましくは5秒未満、特に好ましくは3秒未満、最も好ましくは2秒未満にわたり光を照射することにより達成する。連続法では照射を連続的に行い、組成物が照射ビームを通過して移動する速度が、硬化反応時間の期間を主として決定する。
【0106】
強度の高いUV光を硬化反応に用いる場合、かなりの量の熱が生じる可能性がある。したがって、過熱を防ぐために、冷却用空気をランプおよび/または支持体/膜に施用してもよい。しばしば、著しい線量のIR光がUVビームと一緒に照射される。一態様では、硬化を、IR反射性石英プレートに通してフィルタリングしたUV光を用いる照射により実施する。
【0107】
硬化では紫外線を用いることが好ましい。適した波長は、組成物中に包含される任意の光開始剤の吸収波長と波長が適合するという条件で、例えばUV−A(400〜320nm)、UV−B(320〜280nm)、UV−C(280〜200nm)である。
【0108】
適した紫外線源は、水銀アーク灯、炭素アーク灯、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、旋回流プラズマアーク灯、金属ハロゲン化物灯、キセノン灯、タングステン灯、ハロゲン灯、レーザーおよび紫外線発光ダイオードである。中圧または高圧水銀蒸気タイプの紫外線発光ランプがとりわけ好ましい。これに加えて、ランプの発光スペクトルを改変するために、金属ハロゲン化物などの添加剤が存在していてもよい。大抵の場合、200〜450nmに発光極大を有するランプがとりわけ適している。
【0109】
照射源のエネルギー出力は、好ましくは20〜1000W/cm、好ましくは40〜500W/cmであるが、所望の暴露線量を実現することができるならば、これより高いまたは低いことができる。暴露強度は、膜の最終構造に影響を及ぼす硬化度を制御するために用いることができるパラメーターの一つである。暴露線量は、High Energy UV Radiometer(EIT−Instrument Markets製のUV Power Puck
TM)により、該装置で示されたUV−B範囲で測定して、好ましくは少なくとも40mJ/cm
2以上、より好ましくは100〜2,000mJ/cm
2、もっとも好ましくは150〜1,500mJ/cm
2である。暴露時間は自由に選ぶことができるが、短いことが好ましく、典型的には2秒未満である。
【0110】
速いコーティング速度において所望の線量に到達させるためには、硬化性組成物が1より多くのランプに暴露されるように、1より多くのUVランプが必要である可能性がある。2以上のランプを使用する場合、すべてのランプが同等の線量をもたらすことができ、または各ランプが個々の設定を有することができる。例えば、第1のランプは、第2もしくは後続するランプより高い線量をもたらすことができ、または第1のランプの暴露強度はより低くてもよい。
【0111】
本実施形態の高分子機能性膜は、特にイオン交換で使用することを主として意図している。しかしながら、本発明の高分子機能性膜はイオン交換に限定されるものではなく、逆浸透及びガス分離にも好適に用いることができると考えられる。
【実施例】
【0112】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0113】
(一般式(1)で表される重合性化合物の合成)
下記スキームにしたがって、前記で例示した重合性化合物1を合成した。
【0114】
【化10】
【0115】
(第一工程)
スターラーバーを備えた1L容の三口フラスコに、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(東京化成工業社製)121g(1当量)、50%水酸化カリウム水溶液84ml、トルエン423mlを加えて攪拌し、水浴下、反応系中を20〜25℃で維持し、アクリロニトリル397.5g(7.5当量)を2時間かけて滴下した。滴下後、1.5時間攪拌した後、トルエン540mlを反応系中に追加し、その反応混合物を分液漏斗へ移し水層を除いた。残った有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、セライトろ過を行い、減圧下溶媒留去することによりアクリロニトリル付加体を得た。得られた物質の
1H NMR、MSによる分析結果は既知物の
1H NMRスペクトルと一致したため、さらに精製することなく次の還元反応に用いた。
【0116】
(第二工程)
1L容オートクレーブに先に得られたアクリロニトリル付加体を24g、Ni触媒48g(ラネーニッケル2400、W.R.Grace&Co.社製)、25%アンモニア水:メタノール=1:1溶液600mLを入れ懸濁させ反応容器を密閉した。反応容器に10Mpaの水素を導入し、反応温度を25℃で16時間反応させた。
原料の消失を
1H NMRにて確認し、反応混合物をセライト濾過し、セライトをメタノールで数回洗浄した。濾液を減圧下溶媒留去することによりポリアミン体を得た。得られた物質はさらに精製することなく次の反応に用いた。
【0117】
(第三工程)
攪拌機を備えた2L容の三口フラスコに先に得られたポリアミン体30g、NaHCO
3120g(14当量)、ジクロロメタン1L、水50mLを加えて、氷浴下、アクリル酸クロリド92.8g(10当量)を3時間かけて滴下し、その後、室温で3時間攪拌した。原料の消失を
1H NMRにて確認した後、反応混合物を減圧下溶媒留去し、硫酸マグネシウムで反応混合物を乾燥させ、セライトろ過を行い、減圧下溶媒留去した。最後に、カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/メタノール=4:1)で精製し、常温で白色の固体(収率40%)を得た。上記3工程のトータル収率は40%であった。
【0118】
(一般式(MA)で表される重合性化合物の合成)
下記スキームにしたがって、前記で例示した重合性化合物MA−1を合成した。
【0119】
【化11】
【0120】
5Lの三口フラスコに炭酸水素ナトリウム(和光純薬工業製、製品番号:195−01303)288.29g(3.43mol)、イオン交換水1,343mLを加えて、室温下で攪拌しているところに、4,4’−ベンジジン−2,2’−ジスルホン酸(東京化成工業製、製品番号:B0395)268.6g(0.78mol)を少しずつ加えた。室温下で30分攪拌した後、氷冷下に冷却し、攪拌を続けた。氷冷下で攪拌しているところに塩化アクリロイル(和光純薬工業製、製品番号:013−12485)138.7mL(1.53mol)を系内が10℃以下を保つように少しずつ滴下した。滴下終了後、氷冷却下で1時間、その後、室温下で3時間攪拌した。反応混合物にイソプロピルアルコール2,686mLを少しずつ加えて、生じた不溶物をろ過により取り除いた。得られたろ液を30Lのステンレスバケツに移し、室温下で攪拌しているところに、イソプロピルアルコール10,744mLを少しずつ加えた。得られた結晶をろ過し、その後、イソプロピルアルコール:水(5:1)の混合溶液1,074mLで結晶を洗浄し、目的の化合物(MA−1)を339g(収率:87%)得た。
1H−NMR(300MHz、DMSO−d6)δ・=10.3(s,2H),8.09(d、J=2.4Hz、2H),7.71(dd,J=2.4、8.4Hz、2H),7.16(d,J=8.4Hz、2H),7.71(dd,J=2.4、8.4Hz、2H)
【0121】
(実施例1)
(カチオン交換膜の合成)
下記表1に示す組成の組成物の塗布液をアルミ板に、150μmのワイヤ巻き棒を用いて、手動で約5m/minの速さで塗布し、続いて、不織布(Freudenberg社製 FO−2223−10、厚さ1,000μm)に塗布液を含浸させた。ワイヤの巻いていないロッドを用いて余分な塗布液を除去した。塗布時の塗布液の温度は約40℃であった。UV露光機(Fusion UV Systems社製、型式Light Hammer 10、D−バルブ、コンベア速度15m/min、100%強度)を用いて、前記塗布液含浸支持体を硬化反応することにより、カチオン交換膜を調製した。露光量は、UV−A領域にて750mJ/cm
2であった。得られた膜をアルミ板から取り外し、0.1M NaCl溶液中で少なくとも12時間保存した。
【0122】
(実施例2〜7)
実施例1のカチオン交換膜の作成において、組成を下記表1に記載の組成に変えた以外は、実施例1と同様にして実施例2〜7のカチオン交換膜を作成した。
【0123】
(比較例1〜4)
実施例1のカチオン交換膜の作成において、組成を下記表1に記載の組成に変えた以外は、実施例1と同様にして、比較例1〜4のカチオン交換膜をそれぞれ作成した。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
[表1における略称の説明]
PW:純水
Genorad 16:商品名、Rahn AG社製
AMPS:2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸〔例示化合物(B−1)〕
IPA:イソプロピルアルコール
Tego Glide 432:商品名、Evonik industries社製
Darocur 1173:商品名、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製
【0127】
実施例1〜7及び比較例1〜4で作成したカチオン交換膜について、下記項目を評価した。結果を下記表2に示す。
【0128】
[SEM測定条件]
測定用の膜を厚さ1.5nmのPtでコーティングし、以下の条件で測定した。
加速電圧:2kV
作動距離:4mm
絞り:4
倍率:×100,000倍
視野の傾斜:3°
【0129】
[膜の電気抵抗(Ω・cm
2)]
約2時間、0.5M NaCl水溶液中に浸漬した膜の両面を乾燥ろ紙で拭い、2室型セル(有効膜面積1cm
2、電極にはAg/AgCl参照電極(Metrohm社製を使用)に挟んだ。両室に同一濃度の NaClを100mL満たし、25℃の恒温水槽中に置いて平衡に達するまで放置し、セル中の液温が正しく25℃になってから、交流ブリッジ(周波数1,000Hz)により電気抵抗r
1を測定した。測定NaCl濃度は0.5M、0.7M、1.5M、3.5M、4.5Mとし、低濃度液から順番に測定した。次に膜を取り除き、0.5M NaCl水溶液のみとして両極間の電気抵抗r
2を測り、膜の電気抵抗rをr
1−r
2として求めた。
【0130】
下記表2では、「膜の電気抵抗」を「膜抵抗」と省略して記載した。
【0131】
[膜の空孔体積分率(%)]
0.5M、0.7M、1.5M、3.5M、4.5MのNaCl液で測定した膜の電気抵抗Rから膜の導電率A(S/cm
2)を下記式(a)により算出した。
【0132】
A(S/cm
2)=1/R 式(a)
【0133】
次に、各NaCl濃度溶液の導電率および膜厚を測定し、各NaCl濃度溶液の単位膜厚あたりの溶液導電率をB(S/cm
2)を算出した。この膜の導電率Aをy軸に、各NaCl濃度溶液の単位膜厚あたりの溶液導電率Bをx軸としてグラフを作成したとき、得られたプロットの近似曲線のy切片をCとして、空孔体積分率は下記式(b)により算出した。
【0134】
空孔体積分率=(A−C)/B 式(b)
【0135】
選択透過性は、静的膜電位測定により膜電位(V)を測定し、算出した。2つの電解槽(cell)は、測定対象の膜により隔てられている。測定前に、膜を0.05M NaCl水溶液中で約16時間平衡化した。その後、異なる濃度のNaCl水溶液を、測定対象の膜の相対する側のcellにそれぞれ注いだ。
一方のcellに0.05M NaCl水溶液を100mLを注いだ。また、他方のcellに0.5M NaCl水溶液を100mLを注いだ。
恒温水槽により、cell中のNaCl水溶液の温度を25℃に安定化してから、両液を膜面に向かって流しながら、両電解槽とAg/AgCl参照電極(Metrohm社製)を、塩橋で接続して膜電位(V)を測定し、下記式(c)により輸率tを算出した。
なお、膜の有効面積は1cm
2であった。
【0136】
t=(a+b)/2b 式(c)
前記式(c)における各符号の詳細を以下に示す。
a:膜電位(V)
b:0.5915log(f
1c
1/f
2c
2)(V)
f
1,f
2:両cellのNaCl活量係数
c
1,c
2:両cellのNaCl濃度(M)
【0137】
[透水率(mL/m
2/Pa/hr)]
膜の透水率を
図1に示す流路10を有する装置により測定した。
図1において、符号1は膜を表し、符号3及び4は、それぞれ、フィード溶液(純水)及びドロー溶液(3M NaCl)の流路を表す。また、符号2の矢印はフィード溶液から分離された水の流れを示表す。
フィード溶液400mLとドロー溶液400mLとを、膜を介して接触させ(膜接触面積18cm
2)、各液はペリスタポンプを用いて符号5の矢印の向きに流速0.11cm/秒で流した。フィード溶液中の水が膜を介してドロー溶液に浸透する速度を、フィード液とドロー液の質量をリアルタイムで測定することによって解析し、透水率を求めた。
【0138】
【表3】
【0139】
【表4】
【0140】
表2から明らかなように、空孔体積分率が本発明の規定の範囲内にある実施例1〜7のカチオン交換膜は、いずれも、広範囲の濃度領域における膜抵抗および透水率が低く、輸率についても良好な結果を示した。これに対し、空孔体積分率が本発明の規定の範囲外の比較例1〜4のカチオン交換膜は、実施例1〜7いずれのカチオン交換膜に対しても、膜抵抗、透水率いずれか一方が劣った。