特許第5972836号(P5972836)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5972836
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】ノンハロゲン難燃性電線ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/295 20060101AFI20160804BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20160804BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20160804BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20160804BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20160804BHJP
   H01B 3/00 20060101ALI20160804BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20160804BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   H01B7/34 B
   C08K3/22
   C08L23/04
   C08L23/26
   C08L51/06
   H01B3/00 A
   H01B3/44 F
   H01B3/44 M
   H01B3/44 P
   H01B7/02 F
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-125616(P2013-125616)
(22)【出願日】2013年6月14日
(65)【公開番号】特開2015-2062(P2015-2062A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2014年7月22日
【審判番号】不服2015-7308(P2015-7308/J1)
【審判請求日】2015年4月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 周
(72)【発明者】
【氏名】橋本 充
【合議体】
【審判長】 小曳 満昭
【審判官】 山田 正文
【審判官】 稲葉 和生
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−34793(JP,A)
【文献】 特開2013−4445(JP,A)
【文献】 特開2012−82278(JP,A)
【文献】 特開2010−95638(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/008537(WO,A1)
【文献】 特開2006−131720(JP,A)
【文献】 特開2010−97881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B7
H01B3
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の外周に、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物が被覆、形成され、絶縁内層と最外絶縁層とからなる複数層の絶縁層と、
前記絶縁層の最外側に位置する最外絶縁層の外周に、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物が被覆、形成され、前記最外絶縁層と直接接するシースと、を備えたノンハロゲン難燃性電線ケーブルであって、
前記最外絶縁層及び前記シースを構成する前記ノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、酢酸ビニル量(VA量)が25質量%以上のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、又は示差走査熱量測定(DSC)法による融点ピークが115〜140℃であるポリエチレン(PE)を含むベースポリマと、前記ベースポリマ100質量部に対して150〜300質量部の金属水酸化物と、を含有し、かつ
前記絶縁内層は、エチレン−ブテン−1共重合体ゴムからなり、
前記シース及び前記最外絶縁層は、110℃に熱したキシレンに24時間浸漬後の質量変化率が420%以下である端末加工性に優れたノンハロゲン難燃性電線ケーブル。
【請求項2】
前記ポリエチレン(PE)は、シラングラフトされている請求項1に記載のノンハロゲン難燃性電線ケーブル。
【請求項3】
前記ベースポリマは、さらに、酸変性ポリオレフィンを含有する請求項1又は2に記載のノンハロゲン難燃性電線ケーブル。
【請求項4】
前記ノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、架橋されてなる請求項1〜3のいずれか1項に記載のノンハロゲン難燃性電線ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐油性及び端末加工性に優れたノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いたノンハロゲン難燃性電線ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題に対する意識は世界的に高まりつつあり、燃焼時にハロゲンガスを発生させないノンハロゲン材料が求められている。また、火災時に炎の伝播を抑制して高い難燃性を得るために、金属水酸化物等のノンハロゲン難燃剤を高充填する必要がある。
【0003】
一方、鉄道車両、自動車、ロボット等に配線される電線ケーブルは、使用される環境に応じて、高い耐油性を持つことが必要である。高い耐油性を得るためには、結晶性又は極性の高いポリマを用いることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−097881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような高い耐油性を有する材料を電線ケーブルの最外絶縁層及びシースに適用すると、シース押出時に高温にさらされるため、最外絶縁層とシースとが密着し、電線ケーブルの端末加工が困難となる。
【0006】
本発明は、耐油性及び端末加工性に優れたノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いたノンハロゲン難燃性電線ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明によれば、以下のノンハロゲン難燃性電線ケーブルが提供される。
【0008】
[1] 導体と、前記導体の外周に、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物が被覆、形成され、絶縁内層と最外絶縁層とからなる複数層の絶縁層と、前記絶縁層の最外側に位置する最外絶縁層の外周に、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物が被覆、形成され、前記最外絶縁層と直接接するシースと、を備えたノンハロゲン難燃性電線ケーブルであって、前記最外絶縁層及び前記シースを構成する前記ノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、酢酸ビニル量(VA量)が25質量%以上のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、又は示差走査熱量測定(DSC)法による融点ピークが115〜140℃であるポリエチレン(PE)を含むベースポリマと、前記ベースポリマ100質量部に対して150〜300質量部の金属水酸化物と、を含有し、かつ、前記絶縁内層は、エチレン−ブテン−1共重合体ゴムからなり、前記シース及び前記最外絶縁層は、110℃に熱したキシレンに24時間浸漬後の質量変化率が420%以下である端末加工性に優れたノンハロゲン難燃性電線ケーブル。
【0009】
[2]前記ポリエチレン(PE)は、シラングラフトされている前記[1]に記載のノンハロゲン難燃性電線ケーブル。
【0010】
[3]前記ベースポリマは、さらに、酸変性ポリオレフィンを含有する前記[1]又は[2]に記載のノンハロゲン難燃性電線ケーブル。
【0011】
[4]前記ノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、架橋されてなる前記[1]〜[3]のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性電線ケーブル。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐油性及び端末加工性に優れたノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いたノンハロゲン難燃性電線ケーブルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の参考例に係るノンハロゲン難燃性電線ケーブルを示す断面図である。
図2】本発明の第の実施の形態に係るノンハロゲン難燃性電線ケーブルを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施の形態の要約]
本実施の形態のノンハロゲン難燃性電線ケーブルは、導体と、前記導体の外周に、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物が被覆、形成され、絶縁内層と最外絶縁層とからなる複数層の絶縁層と、前記絶縁層の最外側に位置する最外絶縁層の外周に、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物が被覆、形成され、前記最外絶縁層と直接接するシースと、を備えたノンハロゲン難燃性電線ケーブルにおいて、最外絶縁層及びシースを構成する前記ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を、酢酸ビニル量(VA量)が25質量%以上のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、又は示差走査熱量測定(DSC)法による融点ピークが115〜140℃であるポリエチレン(PE)を含むベースポリマと、ベースポリマ100質量部に対して150〜300質量部の金属水酸化物と、が含有されるように、かつ、前記絶縁内層は、エチレン−ブテン−1共重合体ゴムからなり、前記シース及び前記最外絶縁層を、110℃に熱したキシレンに24時間浸漬後の質量変化率が420%以下となるように構成した端末加工性に優れたノンハロゲン難燃性電線ケーブルである。
【0015】
[実施の形態]
本実施の形態のノンハロゲン難燃性電線ケーブルは、導体と、前記導体の外周に、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物が被覆、形成され、絶縁内層と最外絶縁層とからなる複数層の絶縁層と、前記絶縁層の最外側に位置する最外絶縁層の外周に、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物が被覆、形成され、前記最外絶縁層と直接接するシースと、を備えたノンハロゲン難燃性電線ケーブルであって、前記最外絶縁層及び前記シースを構成する前記ノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、酢酸ビニル量(VA量)が25質量%以上のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、又は示差走査熱量測定(DSC)法による融点ピークが115〜140℃であるポリエチレン(PE)を含むベースポリマと、前記ベースポリマ100質量部に対して150〜300質量部の金属水酸化物と、を含有し、かつ、前記絶縁内層は、エチレン−ブテン−1共重合体ゴムからなり、前記シース及び前記最外絶縁層は、110℃に熱したキシレンに24時間浸漬後の質量変化率が420%以下である端末加工性に優れたノンハロゲン難燃性電線ケーブルである。
【0016】
以下、本発明のノンハロゲン難燃性電線ケーブルの実施の形態について、図面を用いて具体的に説明するが、まず、本実施の形態に用いられるノンハロゲン難燃性樹脂組成物について説明し、その後に、本実施の形態のノンハロゲン難燃性電線ケーブルについて、図1に示すものを参考例図2に示すものを第の実施の形態として、さらに具体的に説明する。
【0017】
I.ノンハロゲン難燃性樹脂組成物
本実施の形態に用いられるノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、酢酸ビニル量(VA量)が25質量%以上のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、又は示差走査熱量測定(DSC)法による融点ピークが115〜140℃であるポリエチレン(PE)を含むベースポリマと、ベースポリマ100質量部に対して150〜300質量部の金属水酸化物と、を含有する。以下、配合成分ごとに、具体的に説明する。
【0018】
1.ベースポリマ
本実施の形態のノンハロゲン難燃性電線ケーブルにおけるノンハロゲン難燃性樹脂組成物に用いられるベースポリマは、上述のように、酢酸ビニル量(VA量)が25質量%以上のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、又は示差走査熱量測定(DSC)法による融点ピークが115〜140℃であるポリエチレン(PE)を含むように構成される。
【0019】
(1−1)エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)
本実施の形態に用いられるベースポリマを構成するエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)は、酢酸ビニル量(VA量)が25質量%以上であることが必要である。25質量%未満であると耐油性を満足することができない。ベースポリマのVA量の上限としては特に制限はないが、端末加工性がより良好なVA量の範囲は25〜70質量%である。
【0020】
なお、ベースポリマにEVAを用いる場合、適用するポリマの種類が1,2,3・・・k・・・n個あったとき、ベースポリマのVA量は下記式(1)によって導かれる。
(ベースポリマのVA量)=ΣX ・・・(1)
X:ポリマのVA量(質量%)
Y:ポリマのベースポリマ全体に占める割合
k:自然数
【0021】
(1−2)ポリエチレン(PE)
本実施の形態においてベースポリマを構成する、上述のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)と択一的に用いられるポリエチレン(PE)は、示差走査熱量測定(DSC)法による融点ピークが115〜140℃であることが必要である。融点ピークが115℃未満であると、耐油性を満足することができず、140℃を超えると金属水酸化物を高充填した場合、破断伸びが低下する。
【0022】
適用可能なPEとしては、例えば、超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンを挙げることができる。
【0023】
また、これらのポリエチレンは、シラングラフトされたものであってもよい。シラングラフトを施すと、金属水酸化物との密着が良好となり機械強度が向上する。さらに、シラノール縮合触媒を添加することで、押出成形後にシラン架橋することが可能となり、架橋工程が不要となる。シラン架橋する場合、シラン化合物を適用する。シラン化合物は、ポリマと反応可能な基とシラノール縮合により架橋を形成するアルコキシ基を有している必要がある。シラン化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等のビニルシラン化合物;γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フエニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン化合物;β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシシラン化合物;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン化合物;ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド等のポリスルフィドシラン化合物;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン化合物等を挙げることができる。
【0024】
また、シラノール縮合触媒としては、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクタエート、酢酸第1錫、カプリル酸第1錫、カプリル酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト等を挙げることができる。
【0025】
(1−3)その他のベースポリマ成分
本実施の形態に用いられるベースポリマを構成する、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)又はポリエチレン(PE)以外の成分として、酸変性ポリオレフィンを添加してもよい。例えば、ベースポリマとして、EVA又はPEのいずれを用いた場合であっても、機械強度を向上させる目的で、酸変性ポリオレフィンを添加することで金属水酸化物との密着性を良好にし、機械強度を向上させることができる。酸としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸を挙げることができる。
【0026】
2.金属水酸化物
本実施の形態のノンハロゲン難燃性電線ケーブルにおけるノンハロゲン難燃性樹脂組成物に用いられる金属水酸化物(ノンハロゲン系難燃剤)としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、及びこれらにニッケルが固溶したものを挙げることができる。水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウムは、水酸化カルシウムの分解時の吸熱量が約1000J/gであるのに対して、その吸熱量が1500〜1600J/gと高く、難燃性が良好なため好ましい。これらは1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0027】
また、これらの金属水酸化物は、分散性等を考慮し、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、ステアリン酸又はステアリン酸カルシウム等の脂肪酸又は脂肪酸金属塩等によって表面処理されているものを用いてもよい。また、その他の金属水酸化物を適量加えてもよい。
【0028】
金属水酸化物の配合量は、ベースポリマ100質量部に対して150〜300質量部が必要であり、180〜250質量部が好ましい。150質量部未満であると、十分な難燃性が得られず、300質量部を超えると、破断伸び等の機械特性が低下する。
【0029】
3.その他の配合成分
本実施の形態のノンハロゲン難燃性電線ケーブルにおけるノンハロゲン難燃性樹脂組成物には、上記のベースポリマ及び金属水酸化物以外にも、必要に応じて、例えば、架橋剤、架橋助剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、軟化剤、滑剤、着色剤、補強剤、界面活性剤、無機充填剤、可塑剤、金属キレート剤、発泡剤、相溶化剤、加工助剤、安定剤等の配合成分を配合することができる。
【0030】
4.架橋
本実施の形態のノンハロゲン難燃性電線ケーブルにおけるノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、架橋されていることが、機械特性の向上の点から好ましい。架橋方法としては、例えば、成形後に電子線を照射する電子線架橋法、予めノンハロゲン難燃性樹脂組成物に架橋剤(例えば、有機過酸化物、硫黄化合物)を配合しておき、成形後に加熱して架橋させる化学架橋法、シラン架橋法等を挙げることができる。
【0031】
5.熱キシレンによる質量変化率
本実施の形態のノンハロゲン難燃性電線ケーブルにおけるノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、後述するように、電線ケーブルの絶縁層及びシースに成形された場合、そのシース及び絶縁層(多層構造の場合は最外絶縁層)は、110℃に熱したキシレンに24時間浸漬後の質量変化率が420%以下となるものである。質量変化率が420%を超えると、最外絶縁層とシースが密着し、端末加工性及び耐油性が低下する。これは質量変化率が高すぎると架橋密度が十分に得られていないことから、同種の材料を用いた場合、シース被覆時に最外絶縁層の一部が溶融し、密着が強固になってしまうことによる。さらに、高温に熱せられた油に浸漬すると、最外絶縁層に油が拡散し、機械強度が低下する。
【0032】
II.ノンハロゲン難燃性電線ケーブル
本発明の参考例のノンハロゲン難燃性電線ケーブルは、図1に示すように、導体11aと、導体11aの外周に、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物が被覆、形成された、単層の絶縁層11bと、絶縁層11bの外周に、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物が被覆、形成されたシース11cと、を備えたノンハロゲン難燃性電線ケーブル11であって、絶縁層11b及びシース11cは、上述の、同一のノンハロゲン難燃性樹脂組成物から構成されている。
【0033】
また、本発明の第の実施の形態のノンハロゲン難燃性電線ケーブルは、図2に示すように、導体12aと、導体12aの外周に、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物が被覆、形成された、複数層の絶縁層(絶縁内層、絶縁外層)12b、12cと、絶縁層12b、12cの最外側に位置する絶縁外層(最外絶縁層)12cの外周に、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物が被覆、形成されたシース12dと、を備えたノンハロゲン難燃性電線ケーブル12であって、最外絶縁層12c及びシース12dは、上述の、同一のノンハロゲン難燃性樹脂組成物から構成されている。
【0034】
本実施の形態に用いられるシース及び絶縁層(多層構造の場合は最外絶縁層)は、110℃に熱したキシレンに24時間浸漬後の質量変化率が420%以下である。上述のように、質量変化率が420%を超えると、最外絶縁層とシースが密着し、端末加工性及び耐油性が低下する。さらに、高温に熱せられた油に浸漬すると、最外絶縁層に油が拡散し、機械強度が低下する。
【0035】
さらに、必要に応じてセパレータ、編組等を施してもよい。
【0036】
なお、絶縁層を多層構造とした場合、最外層以外の絶縁層は、例えば、ポリオレフィン樹脂を押出被覆することによって形成することができる。このようなポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、EVA、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、無水マレイン酸ポリオレフィン等を挙げることができる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。ゴム材料も適用可能であり、エチレン−プロピレン共重合体ゴム(EPR)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体ゴム(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、水素添加NBR(HNBR)、アクリルゴム、エチレン−アクリル酸エステル共重合体ゴム、エチレンオクテン共重合体ゴム(EOR)、エチレン−酢酸ビニル共重合体ゴム、エチレン−ブテン−1共重合体ゴム(EBR)、ブタジエン−スチレン共重合体ゴム(SBR)、イソブチレン−イソプレン共重合体ゴム(IIR)、ポリスチレンブロックを有するブロック共重合体ゴム、ウレタンゴム、ホスファゼンゴム等を挙げることができる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。また、上記ポリオレフィン樹脂やゴム材料に限定されるものではなく、絶縁性を有するものであればよい。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明のノンハロゲン難燃性電線ケーブルを、実施例を用いてさらに具体的に説明する。ここで、実施例1〜3は、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物のベースポリマとして、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いた場合、実施例4〜5は、ベースポリマとして、ポリエチレン(PE)を用いた場合、実施例6は、ベースポリマとして、シラングラフトポリエチレン(PE)を用いた場合をそれぞれ示す。なお、本発明は、以下の実施例によって、いかなる制限を受けるものではない。
【0038】
(実施例1)
以下の配合量で、各配合成分を配合した(表1参照)。なお、ベースポリマの酢酸ビニル量(VA量)は、上記式(1)から、25.2質量%と算出された。
ベースポリマとしての、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)(三井・デュポン社製、商品名:EV550、VA量:14%)65質量部、
ベースポリマとしての、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)(三井・デュポン社製、商品名:45X、VA量:46%)35質量部、
その他の配合成分としての、有機過酸化物(日本油脂社製、商品名:パーブチルP)2質量部、
金属水酸化物としての、水酸化マグネシウム(協和化学社製、商品名:キスマ5L)150質量部
【0039】
上述の配合量の各配合成分を、14インチロールによって混練し、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を作製した。
【0040】
ノンハロゲン難燃性電線ケーブルとしては、図2に示すものを以下のように作製した。
【0041】
構成80本/0.40mmの錫めっき導体に、絶縁内層として、エチレン−ブテン−1共重合体ゴム(三井化学社製、タフマA−4050S)100質量部に対して有機過酸化物(日本油脂社製、パーブチルP)を2質量部配合した樹脂組成物を、厚さが0.5mmになるように、4.5インチ連続蒸気架橋押出機で絶縁内層として押出、被覆し、1.8MPaの高圧蒸気を用いて3分間架橋を行った。次に、表1に示す配合のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を14インチロールで混錬し、絶縁内層の外周上に、4.5インチ連続蒸気架橋押出機で、絶縁外層として、厚さ1.7mmになるように、押出、被覆し、1.8MPaの高圧蒸気を用いて3分間架橋を行った。続いて、絶縁外層と同じ配合のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を、4.5インチ連続蒸気架橋押出機で、シースとして、厚さ1.0mmになるように、押出、被覆し、1.8MPaの高圧蒸気を用いて3分間架橋を行った。
【0042】
実施例1で用いたノンハロゲン難燃性樹脂組成物の配合成分を表1に示すとともに、後述するノンハロゲン難燃性電線ケーブルの評価の結果を表1に示す。
【0043】
(実施例2〜3)
ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の配合成分を、表1に示すものに変えたこと(ベースポリマの種類及び金属水酸化物の配合量を変えたこと)以外は、実施例1と同様にした。ノンハロゲン難燃性電線ケーブルの評価の結果を表1に示す。
【0044】
(実施例4〜5)
ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の配合成分を、表1に示すものに変えたこと(ベースポリマとしてポリエチレン(PE)を用いたこと及び金属水酸化物の配合量を変えたこと)、及び絶縁内層の外周上に、厚さ1.7mmになるように、40mm押出機で、絶縁外層として、押出、被覆し、電子線照射量10Mradで架橋を行い、続いて、絶縁外層と同じ配合のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を、シースとして、厚さ1.0mmになるように、40mm押出機で、押出、被覆し、電子線照射量10Mradで架橋を行ったこと、以外は実施例1と同様にした。
【0045】
(実施例6)
ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の配合成分を、表1に示すものに変えたこと(ベースポリマとしてシラングラフトポリエチレン(PE)を用い、触媒(ソルベイ社製、商品名:CT/7−LR_UV)を7質量部ドライブレンドしたこと)、及び得られたブレンド物を絶縁内層の外周に、厚さ1.7mmになるように40mm押出機で絶縁外層として、押出、被覆し、電子線照射量10Mradで架橋を行い、続いて、絶縁外層と同じ配合のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を、シースとして厚さ1.0mmになるように40mm押出機で被覆し、電子線照射量10Mradで架橋を行ったこと、以外は実施例1と同様にした。
【0046】
(比較例1)
ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の配合成分を、表2に示すものに変えたこと(ベースポリマのエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)として、酢酸ビニル量(VA量)が25質量%未満の23.6質量%であるものを用いたこと)以外は、実施例1と同様にした。ノンハロゲン難燃性電線ケーブルの評価の結果を表2に示す。
【0047】
(比較例2)
ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の配合成分を、表2に示すものに変えたこと(ベースポリマとして、所定のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)又は所定のポリエチレン(PE)を用いなかったこと及び金属水酸化物の配合量を変えたこと)以外は、実施例1と同様にした。ノンハロゲン難燃性電線ケーブルの評価の結果を表2に示す。
【0048】
(比較例3)
ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の配合成分を、表2に示すものに変えたこと(ベースポリマとして、所定のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)又は所定のポリエチレン(PE)を用いなかったこと及び金属水酸化物の配合量を変えたこと)以外は、実施例1と同様にした。ノンハロゲン難燃性電線ケーブルの評価の結果を表2に示す。
【0049】
(ノンハロゲン難燃性電線ケーブルの評価方法)
ノンハロゲン難燃性電線ケーブルの以下の特性の評価は、以下に示す評価試験により判定した。
【0050】
(1)難燃性
難燃性の評価としては、EN60332−1−2に準拠した垂直難燃試験を実施した。550mmの電線ケーブルを垂直に支持し、上部から475mmの位置で60秒間炎を当て、取り外した後、上部から50mm〜540mmの範囲で残炎が自己消火した場合は○(合格)、残炎が上記範囲を超えた場合を×(不合格)とした。
【0051】
(2)破断伸び
破断伸びの評価として、絶縁外層(最外絶縁層)を6号ダンベル試験片に打ち抜き、EN60811−1−1に準拠し、引張速度200mm/minで引張試験を実施し、破断伸びが125%以上であったものを○(合格)、125%未満であったものを×(不合格)とした。
【0052】
(3)耐油性
耐油性の評価は、絶縁外層を6号ダンベル試験片に打ち抜き、EN60811−2−1に準拠し、100℃に熱した試験油IRM902内に72時間浸漬後、引張試験を実施した。引張強さ残率が130〜70%であったものを○(合格)、それ以外であったものを×(不合格)とした。
【0053】
(4)熱キシレンによる質量変化率
熱キシレンによる質量変化率の評価は、0.5gに切削した絶縁外層を110℃に熱したキシレンに24h浸漬し、その後、速やかに質量を測定し、変化率を計算した。420%以下であったものを○(合格)、420%を超えたものを×(不合格)とした。
【0054】
(5)端末加工性
端末加工性の評価は、得られた電線ケーブルのシースをナイフで切削後、シースを絶縁外層と引き剥がす際、絶縁外層が白化せず、界面剥離できたものを○(合格)、絶縁外層が白化又は、絶縁外層又はシースの材料が破壊したものを×(不合格)とした。
【0055】
(6)総合評価
総合評価としては、すべての評価が○のものを○(合格)とし、一つでも×のものがあれば×(不合格)とした。
【0056】
表1に示すように、実施例1〜6では、表中の、難燃性、破断伸び、耐油性、熱キシレンによる質量変化率及び端末加工性におけるいずれの評価も○(合格)であり、総合評価を○(合格)とした。
【0057】
これに対し、表2に示すように、比較例1は、耐油性が×(不合格)であった。そのため、総合評価は×(不合格)とした。また、比較例2は、耐油性、熱キシレンによる質量変化率及び端末加工性が×(不合格)であった。そのため、総合評価は×(不合格)とした。
【0058】
【0059】
【符号の説明】
【0060】
11 ノンハロゲン難燃性電線ケーブル
11a 導体
11b 絶縁層
11c シース
12 ノンハロゲン難燃性電線ケーブル
12a 導体
12b 絶縁内層
12c 絶縁外層(最外絶縁層)
12d シース
図1
図2