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特許5972907水酸化ガリウムの製造方法及び酸化ガリウム粉末の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5972907
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】水酸化ガリウムの製造方法及び酸化ガリウム粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/00 20060101AFI20160804BHJP
   C01G 15/00 20060101ALI20160804BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20160804BHJP
   C04B 35/00 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   C25B1/00 Z
   C01G15/00 D
   C23C14/34 A
   C04B35/00 J
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-552386(P2013-552386)
(86)(22)【出願日】2012年9月19日
(86)【国際出願番号】JP2012073867
(87)【国際公開番号】WO2013103034
(87)【国際公開日】20130711
【審査請求日】2014年6月17日
(31)【優先権主張番号】特願2012-947(P2012-947)
(32)【優先日】2012年1月6日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】小庄 孝志
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−322335(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/152048(WO,A1)
【文献】 特開平10−273318(JP,A)
【文献】 特開平06−192876(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/099774(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00−15/08
C01G 15/00
C23C 14/00−14/58
C04B 35/00−35/22
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の金属ガリウムをアノードとし、カソードにチタン(Ti)を使用して、硝酸アンモニウム水溶液中で電解することにより、溶液中に水酸化ガリウムを晶出させることを特徴とする水酸化ガリウムの製造方法。
【請求項2】
電解液の液温を30〜60°C、pHを4〜7、電解液濃度を0.5〜2mol/Lとして電解することを特徴とする請求項1記載の水酸化ガリウムの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2で製造した水酸化ガリウムを乾燥及び焙焼して酸化ガリウム粉末とすることを特徴とする酸化ガリウム粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲットの製造原料として使用される酸化ガリウム粉末、同酸化ガリウム粉末の原料となる水酸化ガリウム粉末の製造方法並びに酸化ガリウムを用いた焼結体及び焼結体スパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、透明酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタの開発が行われており、透明酸化物半導体は、低温成膜可能、高移動度等の観点から注目されている。中でも、インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素を構成元素とするIn−Ga−Zn−O(以下、「IGZO」と記載する。)系材料や、ガリウム、亜鉛、酸素を構成元素とするGa−Zn−O(以下、「GZO」と記載する。)系材料が、有望視されている。
【0003】
IGZO膜やGZO膜の作製方法としては、量産性に優れているスパッタリング法が、最も適切であり、そのためには、IGZOターゲットやGZOターゲットは、高密度である必要がある。しかしながら、実際に高密度IGZOターゲットやGZOターゲットを製造した場合、その密度が低下した製品(ロット)が多発したり、さらには、ターゲットの割れや焼結不良が発生したりするトラブルに直面することが少なからずあった。
【0004】
このような問題を解決するべく、主原料の酸化ガリウム粉の性状を改善・改良する取り組みが以前より行われている。例えば、特許文献1には、中和法において、シュウ酸の存在下、特定の条件で中和を進行させることにより、粒度分布のシャープな酸化ガリウム粉末が得られ、当該粉末を用いることにより、高密度のターゲットが得られることが記載されている。しかしながら、シュウ酸は毒物及び劇物取締法により医薬用外劇物に指定されており、工業生産用として用いることは好ましくない。
【0005】
非特許文献1には、結晶性のα−GaOOHを400〜600℃で焼結すると、α型のGaが得られることが開示されている。しかしながら、塩化ガリウムを水酸化ナトリウムで中和する方法を採用しているため、塩素とナトリウムが原料粉中に残留することとなり、これを用いて製造した焼結体中にも残存することとなる。
【0006】
特許文献2には、金属ガリウムを硝酸に溶解して、硝酸ガリウム水溶液を得て、これをアンモニア水で中和し、生じた沈殿物を濾過、洗浄、乾燥後、600℃で焙焼して、酸化ガリウム粉末を製造することが記載されている。
しかしながら、中和条件が最適化されていないため、1μm以下の微粉末や100μm弱程度の粗大粒が多量に発生してしまう。
【0007】
特許文献3には、電解法による酸化ガリウムの製造方法が開示されている。この方法では、電解液を冷却してガリウムアノードを固体として保つ必要がある。このため、電解液の冷却に多大な電力を必要とする。また、電解液を冷却した場合でも、常時通電により発熱するので、この発熱によって電極及びその近傍の温度は局所的に上昇するため、ガリウムアノードが融解脱落して、電解不能な状態に陥る危険性が大きい。このため、安定操業が難しく、量産に不向きであるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−322335号公報
【特許文献2】特許第4178485号公報
【特許文献3】特開平10−273318号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Taichi Sato et al. Thermochimica Acta 53, p.281-288 (1982)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような状況を鑑みつつなされたものであって、その目的は透明半導体IGZO膜やGZO膜をスパッタ法で成膜するのに必要なスパッタリングターゲットを高密度で製造するのに適した酸化ガリウム粉末、そのための水酸化ガリウムを効率よく容易に製造し、提供することである。また、IGZOターゲットやGZOターゲットの生産において、密度が低下したり、ターゲットの割れや焼結不良が発生したりする原因を鋭意究明したところ、これらの問題の発生頻度が、不可避的不純物である塩素の含有量とナトリウムの含有量に関連があるため、これらを低減させる必要があった。
【0011】
また、従来技術である中和法による酸化ガリウム粉末の製造方法では、反応初期と終期で、浴中のイオンの量、バランスが異なり、粉の性状が不安定となって、硝酸浸出時にNOxが多量に発生することと、中和後液が高濃度の窒素系廃水であることによって、環境負荷が極めて大きいという問題があった。
一方、電解法であれば、浴のpHを一定にして、電解により安定した浸出をし、水酸化物析出が可能であるため、粉の性状も均一となり、焼結性が向上し、電解浸出においてNOxガスは発生しないこと、電解液は繰り返し使用できるために廃水量自体の減量および廃水中窒素の低濃度化が可能である。
しかしながら、従来の電解法では、電解液を冷却してガリウムアノードを固体として保つ必要があり、電解液の冷却にエネルギーを必要とする。また、電解の際の発熱によって電極及びその近傍の温度が上昇するため、ガリウムアノードが融解脱落する危険性があるため、安定操業が難しく、量産に不向きであるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる知見を基礎として、以下の発明を提供する。
(1)液体の金属ガリウムをアノードとし、カソードにチタン(Ti)を使用して、硝酸アンモニウム水溶液中で電解することにより、溶液中に水酸化ガリウムを晶出させることを特徴とする水酸化ガリウムの製造方法。
(2)電解液の液温を30〜60°C、pHを4〜7、電解液濃度を0.5〜2mol/Lとして電解することを特徴とする上記(1)記載の水酸化ガリウムの製造方法。
(3)上記(1)又は(2)で製造した水酸化ガリウムを乾燥及び焙焼して酸化ガリウム粉末とすることを特徴とする酸化ガリウム粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
従来技術である中和法による酸化ガリウム粉末の製造方法の欠点、すなわち反応初期と終期で、浴中のイオンの量、バランスが異なり、粉の性状が不安定となって、硝酸浸出時にNOxが多量に発生することと、中和後液が高濃度の窒素系廃水であることによって、環境負荷が極めて大きいという問題を解消する効果を有する。
また、従来の電解法での欠点、すなわち電解液を冷却してガリウムアノードを固体として保つ必要性と電解液の冷却にエネルギーを必要とすること、さらに電極及びその近傍の温度が上昇することによるガリウムアノードが融解脱落する危険性を排除した、新しい電解法を提供するものである。これによって、安定操業が可能であり、量産性を向上させることができる効果を有する。
【0014】
また、ターゲットの割れや焼結不良が発生する原因となる不純物の塩素の含有量とナトリウムの含有量を低減させることを可能とした。
これによって、透明半導体IGZO膜やGZO膜をスパッタ法で成膜するのに必要なスパッタリングターゲットを高密度で製造するのに適した酸化ガリウム粉末、そのための水酸化ガリウムを効率よく容易に製造し、提供することができるという優れた効果を有する。また、IGZOターゲットやGZOターゲットの生産において、密度が低下したり、ターゲットの割れや焼結不良が発生したりすることを抑制できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の電解による水酸化ガリウムの製造方法の一例を示す模式図である。
図2】実施例1の溶液中に晶出したGa(OH)粒子のSEM画像である。
図3】比較例1の溶液中に晶出したGa(OH)粒子のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
酸化ガリウムの代表的な用途として、スパッタリングターゲットがある。ターゲットとして使用するためには、スパッタリング後の膜特性および焼結性向上のために、高純度化が必要である。
塩酸や水酸化ナトリウム等を使用した場合には、不純物の洗浄が困難であることから、高純度化のための製法としては、主に硝酸浸出アンモニア中和法が知られている。
しかし、中和法では反応初期と終期で、浴中のイオンの量、バランスが異なり、粉の性状が不安定となっている可能性がある。また、硝酸浸出時にNOxが多量に発生することと、中和後液が高濃度の窒素系廃水であることによって、環境負荷が極めて大きいという問題がある。
【0017】
一方、電解法であれば浴のpHを一定にして、電解により安定した浸出をし、水酸化物析出が可能であるため、粉の性状も均一となり、焼結性が向上する。電解浸出においてNOxガスは発生しない。また、電解液は繰り返し使用できるために廃水量自体の減量および廃水中窒素の低濃度化が可能であるという特徴を有する。
【0018】
前記特許文献3には、電解法による酸化ガリウムの製造方法が開示されているが、上記の通り、電解液を冷却してガリウムアノードを固体として保つ必要があり、電解液の冷却にエネルギーを必要とする。また、電解の際の発熱によって電極及びその近傍の温度が上昇するため、ガリウムアノードが融解脱落する危険性があるため、安定操業が難しく、量産に不向きであるという問題がある。
【0019】
本願発明は、電解法を採用するのであるが、本発明の水酸化ガリウムの製造方法は、液体の金属ガリウムをアノードとし、硝酸アンモニア水溶液中で電解することにより水酸化ガリウムを晶出させる方法である。すなわち、アノードは固体を使用するのではなく、液体のガリウムをアノードとして使用するものである。
【0020】
本願発明の電解による水酸化ガリウムの製造方法の一例を、図1に示す。この図1に示すように、電解槽の下部に、液体の金属ガリウム1が存在し、この液体ガリウム1がアノードとなる。符号2は通電用金属である。符号3はカソードを示す。
電解により、電解液(硝酸アンモニウム水溶液)5中に、水酸化ガリウム6が晶出する。符号4は絶縁部である。なお、通電用金属2は、ガリウムと固溶せず、液体の金属ガリウムとの濡れ性が良い材料を用いるが、これらの性質を持つものであれば、特に制限はない。
【0021】
この結果、電解液を冷却してガリウムアノードを固体として保つ必要がなくなり、またガリウムアノードが融解脱落する危険性がなく、安定操業ができるという利点がある。これは、従来技術には開示されていない斬新な発想と言える。また、中和法を採用していないので、焼結性に問題はなく、また環境負荷(窒素系廃水、NOxの発生)がないという点で優れた方法である。
【0022】
すなわち、電解法においては、NOxガスは発生せず、電解液は繰り返し使用できるので、廃水量の減量化が可能であり、廃水中の窒素の低濃度化が達成できる。
なお、酸化ガリウムを製造するには、予め水酸化ガリウムを作製し、それを焙焼して酸化ガリウムとする手法が採られる。したがって、水酸化ガリウムの製造工程で、高純度化を図る。
【0023】
上記水酸化ガリウムの製造に際しては、電解液の液温を30〜60°C、pHを4〜7、電解液濃度を0.5〜2mol/Lとして電解することが好ましい条件である。通常この範囲で製造する。
前記液温が低すぎるとガリウムが凝固するので安定した製造が難しくなる。なお、電解に支障が起こらない範囲で液状のガリウムが存在していれば、電解槽の中で一部凝固していても特に問題は生じない。
【0024】
一方、高すぎると電解液及びアンモニアの揮発が多いため、薬品の消費量が増加するので好ましくないと言える。また、必要以上に温度が高いと、液温の維持のための加熱設備が大型化したり、設備の材質が限られたりするので、上記の電解液の液温が望ましい。 pHについては、高すぎると粒子が凝集して焼結性が悪化する。また、pHが低すぎると水酸化ガリウムが化学溶解してしまうため、収率が下がるので、上記の範囲とするのが良い。
【0025】
電解液濃度については、高すぎると粒子が凝集して焼結性が悪化し、低すぎると電解によるpH変動が大きくなり易くなる。このpH変動に対応するために硝酸及びアンモニア水を添加するが、このとき必要量以上に添加してしまい易くなるので、pHが安定しなくなる。このため、上記の範囲とするのが好ましい条件である。
しかし、製造する量や条件によっては、この範囲外であっても良く、多少の変更は許容される。
【0026】
次に、晶出したGa(OH)粒子を固液分離した後、120°C程度で乾燥してGaO(OH)とする。次に、これを400°C以上で、1〜10時間、焙焼して酸化ガリウム(Ga)粉末を得る。焙焼温度の上限は、物性の変化による制限はないが、設備の材質や寿命等の観点から1200°C以下とするのが望ましい。
【0027】
これによって、塩素含有量が10wtppm以下、ナトリウム含有量が10wtppm以下であって、平均粒径が0.5μm〜3μm、粒度分布が0.1〜10μm、BET比表面積が5〜20m/gである酸化ガリウム粉末を製造することが可能となる。不純物による密度低下への影響を避けるためには、純度4N以上の原料を用いることが望ましい。なお、この純度には、不可避的に含有される不純物は除かれる。
【0028】
塩素とナトリウムの含有量が10wtppmを超えると、酸化ガリウム(Ga)粉末のBET比表面積が低くなるため、好ましくない。一方、塩素とナトリウムは不可避的不純物であるため、完全に除去することはできないが、それらを極力低減することが好ましい。平均粒径が0.5μm〜3μm、粒度分布が0.1〜10μm、BET比表面積が5〜20m/gとすることは、いずれも焼結性を向上させることができる条件であり、好ましい酸化ガリウム粉末の形態である。本発明では、この好ましい条件を持つ酸化ガリウム粉末の製造が可能である。
【0029】
また、本発明の酸化ガリウム粉末は、α型又はβ型の結晶構造とすることができる。酸化ガリウムには、α型又はβ型のほかに、γ型、δ型、ε型の結晶構造がある。
酸化ガリウム粉末を使用して焼結する際には、通常量産性の良いα型又はβ型の酸化ガリウム粉末を使用するが、他の結晶構造の粉末でも使用可能である。前記(α、β)の酸化ガリウム粉末の相構造は、焙焼温度を調製することにより、任意に得ることができる。なお、これらの相構造をもつ酸化ガリウム粉末の焼結に際し、通常β相に変態する。
【0030】
以上に説明した酸化ガリウム粉末を原料として酸化ガリウム焼結体を作製することができ、この酸化ガリウム焼結体からなる酸化ガリウムスパッタリングターゲット、例えば、In−Ga−Zn−O(IGZO)系の酸化物焼結体ターゲット、Ga−Zn−O(GZO)系の酸化物焼結体ターゲットとして有用である。
【0031】
本発明の酸化物焼結体スパッタリングターゲットは、上記の通り、塩素含有量が10wtppm以下、ナトリウム含有量が10wtppm以下であって、平均粒径が0.5μm〜3μm、粒度分布が0.1〜10μm、BET比表面積が5〜20m/gであり、結晶構造がα型である酸化ガリウム粉末を原料とするものであるが、この酸化ガリウム粉末を用いることにより、ターゲットの製造工程において、酸化ガリウムに起因する割れや焼結不良の発生がなく、高密度スパッタリングターゲットを容易に製造することができる。
【0032】
本発明の酸化物焼結体スパッタリングターゲットは、前記酸化ガリウムをターゲット成分として含有する全てのターゲットに適用できる。したがって、他の成分、含有量については、特に制限はないことが容易に理解できるであろう。
【実施例】
【0033】
以下、実施例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0034】
下記に示す実施例及び比較例において、各種の測定や評価が必要となるが、その条件を以下に示す。
(粒度分布の測定)
粒度分布の測定は、粒度分布測定装置(日機装株式会社製、Microtrac MT3000)を用いて行った。
(比表面積の測定)
比表面積(BET)の測定は、自動表面積計ベータソープ(日機装株式会社製、MODEL-4200)で行なった。
【0035】
(実施例1)
純度4Nの液体金属ガリウムを、図1に示すような電解槽に入れ、電解液には硝酸アンモニウム水溶液を使用して電解を行った。このときの電解液の温度を30°C、pHを6、電解液の濃度を1.0mol/L、とした。
この他の条件として、アノードへの通電用材料としてDSEを、カソードにTiを使用し、電流密度10A/dmとした。
【0036】
これにより、溶液中に晶出したGa(OH)を得た。この晶出した粒子のSEM画像を図2に示す。この図2に示すように、微細に分散した粒子が得られた。次に、このGa(OH)を吸引濾過して固液分離し、その後、約120°Cで乾燥し、GaO(OH)を得た。次に、この乾燥粉を約1000°C、4時間で焙焼し、酸化ガリウム粉末を製造した。
【0037】
その結果、酸化ガリウム粉末中の塩素及びナトリウムの含有量は、検出限界以下、すなわち、10wtppm未満であった。また、BET比表面積は12.58m/gと高く、粒度分布から求めた平均粒径は0.83μmと本発明の範囲内であった。焙焼粉の結晶はβ相(β型)であった。
【0038】
また、得られた酸化ガリウム粉末を製造原料として、IGZO焼結体ターゲットの(111)組成を製造し、密度を測定したところ、アルキメデス密度6.25g/cmと高密度であった。これは、得られた酸化ガリウムは粉砕性がよく、焼結作業において混合及び粉砕が容易となることによる効果と考えられる。以上の結果を、表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
(実施例2)
純度4Nの液体金属ガリウムを、実施例1と同様に、図1に示すような電解槽に入れ、電解液には硝酸アンモニウム水溶液を使用して電解を行った。このときの電解液の温度を40°C、pHを4、電解液の濃度を1.0mol/L、とした。
この他の条件として、アノードへの通電用材料としてDSEを、カソードにTiを使用し、電流密度10A/dmとした。
【0041】
これにより、溶液中に晶出したGa(OH)を得た。実施例1と同様に、微細に分散した粒子が得られた。次に、このGa(OH)を吸引濾過して固液分離し、その後、約120°Cで乾燥し、GaO(OH)を得た。次に、この乾燥粉を約1000°C、4時間で焙焼し、酸化ガリウム粉末を製造した。
【0042】
その結果、酸化ガリウム粉末中の塩素及びナトリウムの含有量は、検出限界以下、すなわち、10wtppm未満であった。また、BET比表面積は10.72m/gと高く、粒度分布から求めた平均粒径は0.86μmと本発明の範囲内であった。焙焼粉の結晶はβ相(β型)であった。
【0043】
また、得られた酸化ガリウム粉末を製造原料として、IGZO焼結体ターゲットの(111)組成を製造し、密度を測定したところ、アルキメデス密度6.25g/cmと高密度であった。これは、得られた酸化ガリウムは粉砕性がよく、焼結作業において混合及び粉砕が容易となることによる効果と考えられる。以上の結果を、同様に表1に示す。
【0044】
(実施例3)
純度4Nの液体金属ガリウムを、実施例1と同様に、図1に示すような電解槽に入れ、電解液には硝酸アンモニウム水溶液を使用して電解を行った。このときの電解液の温度を40°C、pHを7、電解液の濃度を1.0mol/L、とした。
この他の条件として、アノードへの通電用材料としてDSEを、カソードにTiを使用し、電流密度10A/dmとした。
【0045】
これにより、溶液中に晶出したGa(OH)を得た。実施例1と同様に、微細に分散した粒子が得られた。次に、このGa(OH)を吸引濾過して固液分離し、その後、約120°Cで乾燥し、GaO(OH)を得た。次に、この乾燥粉を約1000°C、4時間で焙焼し、酸化ガリウム粉末を製造した。
【0046】
その結果、酸化ガリウム粉末中の塩素及びナトリウムの含有量は、検出限界以下、すなわち、10wtppm未満であった。また、BET比表面積は8.73m/gと高く、粒度分布から求めた平均粒径は1.06μmと本発明の範囲内であった。焙焼粉の結晶はβ相(β型)であった。
【0047】
また、得られた酸化ガリウム粉末を製造原料として、IGZO焼結体ターゲットの(111)組成を製造し、密度を測定したところ、アルキメデス密度6.26g/cmと高密度であった。これは、得られた酸化ガリウムは粉砕性がよく、焼結作業において混合及び粉砕が容易となることによる効果と考えられる。以上の結果を、同様に表1に示す。
【0048】
(実施例4)
純度4Nの液体金属ガリウムを、実施例1と同様に、図1に示すような電解槽に入れ、電解液には硝酸アンモニウム水溶液を使用して電解を行った。このときの電解液の温度を40°C、pHを6、電解液の濃度を0.5mol/L、とした。
この他の条件として、アノードへの通電用材料としてDSEを、カソードにTiを使用し、電流密度10A/dmとした。
【0049】
これにより、溶液中に晶出したGa(OH)を得た。実施例1と同様に、微細に分散した粒子が得られた。次に、このGa(OH)を吸引濾過して固液分離し、その後、約120°Cで乾燥し、GaO(OH)を得た。次に、この乾燥粉を約1000°C、4時間で焙焼し、酸化ガリウム粉末を製造した。
【0050】
その結果、酸化ガリウム粉末中の塩素及びナトリウムの含有量は、検出限界以下、すなわち、10wtppm未満であった。また、BET比表面積は10.46m/gと高く、粒度分布から求めた平均粒径は0.91μmと本発明の範囲内であった。焙焼粉の結晶はβ相(β型)であった。
【0051】
また、得られた酸化ガリウム粉末を製造原料として、IGZO焼結体ターゲットの(111)組成を製造し、密度を測定したところ、アルキメデス密度6.27g/cmと高密度であった。これは、得られた酸化ガリウムは粉砕性がよく、焼結作業において混合及び粉砕が容易となることによる効果と考えられる。以上の結果を、同様に表1に示す。
【0052】
(実施例5)
純度4Nの液体金属ガリウムを、実施例1と同様に、図1に示すような電解槽に入れ、電解液には硝酸アンモニウム水溶液を使用して電解を行った。このときの電解液の温度を50°C、pHを6、電解液の濃度を2.0mol/L、とした。
この他の条件として、アノードへの通電用材料としてDSEを、カソードにTiを使用し、電流密度10A/dmとした。
【0053】
これにより、溶液中に晶出したGa(OH)を得た。実施例1と同様に、微細に分散した粒子が得られた。次に、このGa(OH)を吸引濾過して固液分離し、その後、約120°Cで乾燥し、GaO(OH)を得た。次に、この乾燥粉を約1000°C、4時間で焙焼し、酸化ガリウム粉末を製造した。
【0054】
その結果、酸化ガリウム粉末中の塩素及びナトリウムの含有量は、検出限界以下、すなわち、10wtppm未満であった。また、BET比表面積は7.85m/gと高く、粒度分布から求めた平均粒径は1.41μmと本発明の範囲内であった。焙焼粉の結晶はβ相(β型)であった。
【0055】
また、得られた酸化ガリウム粉末を製造原料として、IGZO焼結体ターゲットの(111)組成を製造し、密度を測定したところ、アルキメデス密度6.25g/cmと高密度であった。これは、得られた酸化ガリウムは粉砕性がよく、焼結作業において混合及び粉砕が容易となることによる効果と考えられる。以上の結果を、同様に表1に示す。
【0056】
(実施例6)
純度4Nの液体金属ガリウムを、実施例1と同様に、図1に示すような電解槽に入れ、電解液には硝酸アンモニウム水溶液を使用して電解を行った。このときの電解液の温度を40°C、pHを5、電解液の濃度を1.0mol/L、とした。
この他の条件として、アノードへの通電用材料としてDSEを、カソードにTiを使用し、電流密度10A/dmとした。
【0057】
これにより、溶液中に晶出したGa(OH)を得た。実施例1と同様に、微細に分散した粒子が得られた。次に、このGa(OH)を吸引濾過して固液分離し、その後、約120°Cで乾燥し、GaO(OH)を得た。次に、この乾燥粉を約500°C、4時間で焙焼し、酸化ガリウム粉末を製造した。
【0058】
その結果、酸化ガリウム粉末中の塩素及びナトリウムの含有量は、検出限界以下、すなわち、10wtppm未満であった。また、BET比表面積は19.83m/gと高く、粒度分布から求めた平均粒径は0.55μmと本発明の範囲内であった。焙焼粉の結晶はα相(α型)であった。
【0059】
また、得られた酸化ガリウム粉末を製造原料として、IGZO焼結体ターゲットの(111)組成を製造し、密度を測定したところ、アルキメデス密度6.26g/cmと高密度であった。これは、得られた酸化ガリウムは粉砕性がよく、焼結作業において混合及び粉砕が容易となることによる効果と考えられる。以上の結果を、同様に表1に示す。
【0060】
(比較例1)
純度4Nの液体金属ガリウムを、実施例1と同様に、図1に示すような電解槽に入れ、電解液には硝酸アンモニウム水溶液を使用して電解を行った。このときの電解液の温度を30°C、pHを6、電解液の濃度を4.0mol/L、とした。この電解液の濃度は、本願の条件を外れるものである。
この他の条件として、アノードへの通電用材料としてDSEを、カソードにTiを使用し、電流密度10A/dmとした。
【0061】
これにより、溶液中に晶出したGa(OH)を得た。この晶出した粒子のSEM画像を図3に示す。この図3に示すように、凝集した粒子が得られた。次に、このGa(OH)を吸引濾過して固液分離し、その後、約120°Cで乾燥し、GaO(OH)を得た。次に、この乾燥粉を約1000°C、4時間で焙焼し、酸化ガリウム粉末を製造した。
【0062】
その結果、酸化ガリウム粉末中の塩素及びナトリウムの含有量は、検出限界以下、すなわち、10wtppm未満であった。また、BET比表面積は1.02m/gと低くなり、粒度分布から求めた平均粒径は32.92μmと、本発明の範囲から大きく逸脱していた。
【0063】
得られた酸化ガリウム粉末を製造原料として、IGZO焼結体ターゲットの(111)組成を製造し、密度を測定したところ、アルキメデス密度6.05g/cmと密度が低下した。これは、得られた酸化ガリウムは粉砕性が悪く、焼結作業において混合及び粉砕が充分でなくなった効果と考えられる。以上の結果を、同様に表1に示す。
【0064】
(比較例2)
純度4Nの液体金属ガリウムを、実施例1と同様に、図1に示すような電解槽に入れ、電解液には硝酸アンモニウム水溶液を使用して電解を行った。このときの電解液の温度を30°C、pHを9、電解液の濃度を2.0mol/L、とした。この場合のpHは、本願の条件を外れるものである。
この他の条件として、アノードへの通電用材料としてDSEを、カソードにTiを使用し、電流密度10A/dmとした。
【0065】
これにより、溶液中に晶出したGa(OH)を得た。この晶出した粒子は、比較例1と同様に凝集した粒子が得られた。次に、このGa(OH)を吸引濾過して固液分離し、その後、約120°Cで乾燥し、GaO(OH)を得た。次に、この乾燥粉を約1000°C、4時間で焙焼し、酸化ガリウム粉末を製造した。
【0066】
その結果、酸化ガリウム粉末中の塩素及びナトリウムの含有量は、検出限界以下、すなわち、10wtppm未満であった。また、BET比表面積は3.77m/gとなり、粒度分布から求めた平均粒径は10.39μmと、本発明から逸脱していた。
【0067】
得られた酸化ガリウム粉末を製造原料として、IGZO焼結体ターゲットの(111)組成を製造し、密度を測定したところ、アルキメデス密度6.13g/cmと密度が低下した。これは、得られた酸化ガリウムは粉砕性が悪く、焼結作業において混合及び粉砕が充分でなくなった効果と考えられる。以上の結果を、同様に表1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、液体の金属ガリウムをアノードとし、硝酸アンモニア水溶液中で電解することにより水酸化ガリウムを晶出させることにより製造した水酸化ガリウムを出発材料として、この粉末を用いることによりターゲットを高密度化することができ、ターゲットの製造工程中の割れや焼結不良を防止すると共に、さらにスパッタリング中のノジュールの発生を最小限に押さえ、異常放電を抑制し、かつ安定したスパッタリングが可能であるという優れた効果を有する。
本発明により製造した酸化ガリウム粉末は、特に、In−Ga−Zn−O(IGZO)系やGa−Zn−O(GZO)系のスパッタリングターゲットを製造するために有用であり、産業上の利用価値は高い。
【符号の説明】
【0069】
1:アノード(液体の金属ガリウム)
2:アノードへの通電用金属
3:カソード
4:絶縁部
5:電解液(硝酸アンモニウム水溶液)
6:水酸化ガリウム
図1
図2
図3