(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973125
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】混合ガスハイドレートペレット
(51)【国際特許分類】
C10L 3/06 20060101AFI20160809BHJP
【FI】
C10L3/06
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-192380(P2010-192380)
(22)【出願日】2010年8月30日
(65)【公開番号】特開2012-46697(P2012-46697A)
(43)【公開日】2012年3月8日
【審査請求日】2013年3月21日
【審判番号】不服2015-6835(P2015-6835/J1)
【審判請求日】2015年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】三井造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095452
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 博樹
(72)【発明者】
【氏名】三町 博子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正浩
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 徹
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健一
【合議体】
【審判長】
國島 明弘
【審判官】
冨士 良宏
【審判官】
日比野 隆治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−270065(JP,A)
【文献】
化学と工業,2002年,第55巻,第7号,第812頁
【文献】
Chemical Engineering Science,2000年,55,p.5763−5771
【文献】
Fluid Phase Equilibria,2005年,233,p.129−133
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L3/00-3/12
JDreamIII
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタンを含む混合ガスから、I型籠構造のメタンハイドレートを生成させず、II型籠構造の混合ガスハイドレートのみを生成させる圧力及び温度条件で混合ガスハイドレートを生成し、
前記II型籠構造の混合ガスハイドレートのみを圧縮成形した混合ガスハイドレートペレット表面に、当該ペレット表面の前記II型籠構造の混合ガスハイドレートが分解して生成した水が凍って形成された氷を有する混合ガスハイドレートペレットを、前記混合ガスのハイドレート生成条件外の圧力および温度条件下において貯蔵する、
ことを特徴とする、混合ガスハイドレートペレットの貯蔵方法。
【請求項2】
請求項1に記載の混合ガスハイドレートペレットの貯蔵方法において、
前記混合ガスハイドレートペレットの貯蔵圧力は大気圧である、
ことを特徴とする、混合ガスハイドレートペレットの貯蔵方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ガス等のメタンを含む混合ガスをハイドレート形成物質としてガスハイドレートを造粒して形成した混合ガスハイドレートペレットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスハイドレートは、相平衡が生成条件となる所定の温度と圧力の下、天然ガス、メタンガス、炭酸ガス等の気体のハイドレート形成物質と水とを反応させることにより生成する固体結晶であり、水分子が作る立体構造の籠(ケージ)の内部にガス分子が取り込まれて形成される包接水和物(クラスレートハイドレート)の総称である。
【0003】
前記ガスハイドレートは高いガス包蔵性を有しており、例えば、1m
3の天然ガスハイドレート中には、約165Nm
3もの天然ガスを包蔵することができる。この高いガス包蔵性により、天然ガスを、ガスハイドレートとして貯蔵および輸送するシステムが注目されている。
【0004】
天然ガスは、メタン、エタン、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、および、ペンタン等の複数のガス成分を含む混合ガスである。例えば、メタン86.7vol%、エタン8.8vol%、プロパン3.5vol%、n−ブタン0.5vol%、i−ブタン0.4vol%、i−ペンタン0.02vol%、および他の微量ガス成分を含んでいる。
【0005】
前記組成の天然ガスのガスハイドレートを生成する相平衡条件は、例えば圧力が5.4MPaのとき、温度が16〜17℃であるが、前記ハイドレート形成物質と水とを反応させてハイドレート化する場合、一般的に、過冷却度を大きくとった方が反応速度が上がるため、前記相平衡条件の温度よりも低い温度、且つ水が凍らない温度で反応を行っている(特許文献1)。例えば、特許文献1に記載の天然ガスハイドレート装置では、圧力が5〜6MPa、温度が1〜5℃に設定されている。すなわち、水が凍らない範囲でできるだけ低い温度に設定していた。
【0006】
一方、ガスハイドレートは、平衡温度以上の温度において自己保存効果(セルフプリザベーション効果)と呼ばれる、分解が抑制される効果を有することが知られている。
前記天然ガスハイドレートを貯蔵および輸送する場合、生成された天然ガスハイドレートスラリーは、円盤状、球状、コイン状、棒状等の形状のペレットに造粒され、前記自己保存効果によって長期間にわたる貯蔵および輸送が可能となる(特許文献2)。
【0007】
ここで、本発明者らがペレット化した天然ガスハイドレートの保存性について鋭意研究を重ねるうちに、前述の特許文献1のように、所定の圧力における天然ガスハイドレートの相平衡温度よりもできるだけ低い温度にして、すなわち過冷却度を大きくとって生成した天然ガスハイドレートは、前記天然ガス自体の混合ガス成分が含まれる「混合ガスハイドレート」と、天然ガス中のメタンのみがハイドレート化した「メタンガスハイドレート」とが混ざった状態で形成される天然ガスハイドレートであることが明らかとなった。
【0008】
これは、天然ガス中には一般的にメタンガスが主成分として含まれており、例えば、天然ガスの組成がメタン90vol%、エタン6vol%、プロパン4vol%である場合、5.4MPaの圧力下における、当該組成の混合ガスとしての天然ガスのハイドレート相平衡温度は約16℃であるが、この天然ガス中に含まれるメタンガスの分圧(約4.9MPa)に相当する圧力下における、メタンのハイドレート相平衡温度は約6.5℃であるので、ハイドレート生成装置内の温度を6.5℃よりも低い温度にするとメタンガスハイドレートが生成するためであると考えられる。
【0009】
一般的に、前記混合ガスハイドレートは、メタンガスハイドレートに比べて平衡温度が高く、平衡圧力はメタンガスハイドレートに比べて低い。したがって、混合ガスハイドレートは、その平衡条件と貯蔵条件(例えば大気圧下、約20℃)との差が小さいため、メタンガスハイドレートよりも分解し難いと考えられる。
【0010】
しかし、前記「混合ガスハイドレート」と「メタンガスハイドレート」とが混ざった状態で形成される天然ガスハイドレートを用いて天然ガスハイドレートペレットを造粒すると、前記貯蔵条件において、メタンガスハイドレートと同様の分解挙動を示す傾向があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−160833号公報
【特許文献2】特開2007−270065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はかかる知見に基き、前記天然ガス等のメタンを含む混合ガスのガスハイドレートを貯蔵するにあたり、前記「メタンガスハイドレート」の分解に由来する混合ガスハイドレートの分解の虞が少なく、長期間の貯蔵および輸送に適した混合ガスハイドレートペレットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の第1の態様に係る混合ガスハイドレートペレットは、メタンを含む混合ガスのガスハイドレートを圧縮成形した混合ガスハイドレートペレットであって、前記混合ガスのガスハイドレートは、II型籠構造を有するガスハイドレートであり、前記混合ガスハイドレートペレット表面に、当該ペレット表面の前記II型籠構造のガスハイドレートが分解して生成した水が凍って形成された氷を有するものである。
【0014】
本態様に係る混合ガスハイドレートペレットは、保存安定性の高いII型籠構造のガスハイドレートのみによって形成されているので、輸送または貯蔵時における分解が少なく、貯蔵効率が高い。この理由を説明するにあたり、メタンを含む混合ガスから生成されるガスハイドレートについて、以下において更に詳細に説明する。
【0015】
ガスハイドレートは、ハイドレート生成部内を所定の圧力に設定し、当該ハイドレート生成部内を前記所定の圧力における原料ガスのガスハイドレートの相平衡温度より低く設定し、反応器内の水層とガス層とを撹拌する撹拌法、水中に微細な気泡を吹き込む撹拌・通気法(バブリング法)、ガス中に水を噴霧する噴霧法等の各種方法によって、原料ガスと水とを気液接触させることによって生成することができる。
【0016】
天然ガスのようなメタンガスを含む混合ガスをハイドレート化する場合、ハイドレート生成部内の設定された圧力下における前記混合ガスハイドレートの相平衡温度よりも低い温度にすると、該混合ガスのハイドレート化がより早く進むので、前記ハイドレート生成部内の温度を水が凍らない範囲でできるだけ下げて、すなわち過冷却度を大きくとって反応を行うことが一般的に行われている。
【0017】
ここで、前記混合ガスの組成がメタン90vol%、エタン6vol%、プロパン4vol%である場合、5.4MPaの圧力下における、当該組成の混合ガスのハイドレート相平衡温度は約16℃である。また、この混合ガス中に含まれるメタンガスの分圧(約4.9MPa)に相当する圧力下における、メタンのハイドレート相平衡温度は約6.5℃である。したがって、過冷却度を大きくとるためにハイドレート生成装置内の温度を下げて6.5℃以下にすると、前記混合ガス中のメタンが単独でハイドレート化され、メタンガスハイドレートも生成する。
【0018】
次に、前記メタンガスハイドレートと、前記混合ガスハイドレート(混合ガスの組成のハイドレート)の構造的相違点について説明する。
ガスハイドレートの結晶構造にはI型、II型、H型等があり、ハイドレート形成物質の種類によって、異なるタイプの籠(ケージ)によって構成される。例えば、I型は12面体のケージ(以下、小ケージ)2個と14面体のケージ(以下、中ケージ)6個によって構成されており、II型は12面体の小ケージが16個と16面体のケージ(以下、大ケージ)8個によって構成されている。
【0019】
これらの大(16面体)、中(14面体)、小(12面体)のケージにハイドレート形成物質であるガス成分の分子が入り、ガスハイドレートを形成するが、前記ハイドレート形成物質(ガス成分)は、その分子の大きさ等の影響によって入ることができるケージが決まっている。
例えば、圧力が5.4MPaのとき、プロパン、n−ブタン、i−ブタンは大ケージにのみ入ることができる。また、エタンは大ケージのほか、中ゲージにも入ることができるが、同圧力では小ケージには入らない。分子が小さいメタンは大、中、小のいずれのケージにも入ることができる。
【0020】
したがって、プロパンやブタンを含むガスハイドレートは、大ケージを有するII型のハイドレートを形成する。また、メタンと、メタンより大きい分子のガス(エタン、プロパン、ブタン等)が混合している混合ガスをハイドレート化した場合、II型(小ケージ16個、大ケージ8個)のハイドレートが形成され、大ケージには主にブタン以下の大きさのガスが入る。そして、小ケージにはメタンが入ることになる。
【0021】
一方、ハイドレート形成物質として純メタンを用いて生成したメタンハイドレートは、前記I型のみのハイドレートを形成し、小ケージ、中ケージともにメタンが入ったハイドレートが形成される。また、メタンを含む混合ガスを、当該混合ガスのメタン分圧に相当する圧力下におけるメタンハイドレートの相平衡温度T
M以下にした場合、II型の混合ガスハイドレートの他、前記I型のメタンハイドレートが生成することが判ってきた。
【0022】
ここで、一般的に、メタンはハイドレート生成平衡条件として高圧、低温を要し、天然ガス中に含まれる他のガス(エタン、プロパン、ブタンなど)は、メタンよりも低圧、高温でハイドレート化する。そのため、ガスハイドレートを平衡圧力外で貯蔵する場合に、メタンハイドレート(I型)は、同じ温度・圧力下で比較すると、混合ガスハイドレート(II型)よりも分解し易い。
【0023】
本態様に係る混合ガスハイドレートペレットは、前記混合ガスのハイドレート化を、前記I型のメタンハイドレートを生成させず、II型の混合ガスハイドレートのみを生成させる条件で行い、当該II型の混合ガスハイドレートのみを用いて造粒成形し、更に、その表面に氷を形成させて自己保存効果を付与したものである。
該混合ガスハイドレートペレットは、上述のように保存安定性の高いII型のガスハイドレートのみによって形成されていることによって、ハイドレート生成条件外の圧力および温度条件下における分解が少ない。以って、混合ガスハイドレートペレットの高い貯蔵効率を実現することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、輸送または貯蔵時における分解の少ない、貯蔵効率の高い混合ガスハイドレートペレットとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】II型の混合ガスハイドレートを生成するハイドレート生成装置の該略図である。
【
図2】ガスハイドレートペレット製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<ガスハイドレート形成物質>
本発明に係る混合ガスハイドレート生成装置においてハイドレート化される対象ガス、すなわち、ガスハイドレート形成物質は、例えば天然ガスのように、メタンを含む混合ガスである。天然ガスは、メタン、エタン、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、ペンタン等のガス成分を含んでいる。以下の実施例においては、天然ガス組成の一例として、メタン90vol%、エタン6vol%、プロパン4vol%の天然ガスを用いた場合について説明する。尚、前記混合ガスにおいて、メタンは主成分である必要はなく、前記混合ガスのII型ハイドレートを形成する組成であればその含有量は問わない。
【0027】
<原料水>
前記原料水としては、水道水を用いることができる。また、純水または精製水を用いることもできる。また、原料水中に、生成したハイドレートの分解を抑制する分解抑制物質を添加してもよい。前記分解抑制物質としては、水中において解離して分解抑制作用を奏するイオンを生じる電解質を用いることができる。
【0028】
<II型構造の混合ガスハイドレート生成装置>
次に、II型籠構造のガスハイドレートのみを含むII型構造の混合ガスハイドレートの生成する混合ガスハイドレート生成装置について説明する。
図1は、II型構造の混合ガスハイドレートを生成するハイドレート生成装置の概略図である。
図1の混合ガスハイドレート生成装置1は、混合ガスGと原料水Wとを反応させて混合ガスハイドレートを生成するハイドレート生成部2を備えている。該ハイドレート生成部2には、ポンプ等の水送り込み手段3によって原料水Wが送られるように構成されている。
【0029】
また、原料水Wの水層10の上方に混合ガスGを送り込むガス送り込み手段4を備えている。そして、前記水層を撹拌する撹拌手段5を備え、水層10の原料水Wとガス層11の混合ガスGとを気液接触させて反応を行うように構成されている。本説明に用いる混合ガスハイドレート生成装置1のハイドレート生成部2は、所謂、撹拌法によるハイドレート化を行う生成部である。ハイドレート生成部2は、前記撹拌法によるものに限らず、水中に微細な気泡を吹き込む撹拌・通気法(バブリング法)や、ガス中に水を噴霧する噴霧法等によるハイドレート生成部とすることができるのはもちろんである。
【0030】
前記ハイドレート生成部2は、ガス層11の一部を抜き出し、当該ハイドレート生成部2にそのガスを戻して循環させるように、循環ライン12と循環ポンプ13が設けられている。また、水層10の原料水Wも、その一部が抜き出されて循環ライン19と循環ポンプ18によって熱交換器17を経由してハイドレート生成熱を除熱してハイドレート生成部2に戻されるように構成されている。生成した混合ガスハイドレートは、ライン14によって抜き出され、脱水装置15に送られる。
【0031】
また、前記混合ガスハイドレート生成装置1は、前記混合ガスGのガス組成を分析するガス分析部6を備えている。前記ガス分析部6は、反応場、すなわちハイドレート生成部2内における混合ガスGのガス組成を測定するように設けられることが望ましい。本実施例では、循環ライン12中のガス組成を分析するように構成されているが、例えば、前記ハイドレート生成部2内を直接分析する構成や混合ガスGをハイドレート生成部2に送るライン16中のガス組成を分析する構成にすることも可能である。また、前記ガス分析部6を設けず、原料ガスタンクの混合ガスのガス組成を予め分析し、その分析結果に基いてハイドレート生成部2の温度を調節してもよい。
【0032】
また、前記ガスハイドレート生成装置1は、前記ハイドレート生成部2内の温度を調節する温度調節部7と、前記ハイドレート生成部2内を所定の圧力に設定する圧力調節部8と、を備えている。更に、前記ガス分析部6による混合ガスGのガス組成の分析結果に基いて、ハイドレート生成部2内の設定された圧力下における、混合ガスハイドレートの生成平衡温度T
Gと、前記混合ガスGのメタン分圧に相当する圧力下における、メタンガスハイドレートの生成平衡温度T
Mを計算する平衡温度計算部9を備えている。尚、
図1において、ガス分析部6、温度調節部7、圧力調節部8、および熱交換器17と、平衡温度計算部9とを繋ぐ点線のラインは、データや信号を伝送するための信号線である。
【0033】
<II型構造の混合ガスハイドレート生成方法>
次に、前記混合ガスハイドレート生成装置1を用い、II型籠構造のガスハイドレートのみを含むII型構造の混合ガスハイドレートの生成する方法について説明する。
【0034】
本説明では、ハイドレート形成物質(原料)となる混合ガスGとして、天然ガス(メタン90vol%、エタン6vol%、プロパン4vol%)を用いた場合について説明する。
【0035】
混合ガスハイドレート生成装置1のハイドレート生成部2に、水送り込み手段3によって原料水Wが送り込まれ、更に、ガス送り込み手段4によって原料水Wの水層10の上方に天然ガスが送り込まれる。前記撹拌手段5によって撹拌して、水層10の原料水Wとガス層11の天然ガスとを気液接触させる。前記ハイドレート生成部2内の圧力は、所定の圧力に設定される。本方法では、5.4MPaに設定されている。
【0036】
ハイドレート生成部2に送られる天然ガスは、前記ガス分析部6によってそのガス組成が分析される。そして、ガス分析部6によって分析されたガス組成に基き、平衡温度計算部9において、前記ハイドレート生成部2内の設定された圧力下における、天然ガスハイドレートの生成平衡温度T
Gと、前記天然ガス中のメタン分圧に相当する圧力下における、メタンガスハイドレートの生成平衡温度T
Mが計算される。
【0037】
5.4MPaの圧力下における天然ガスハイドレートの生成平衡温度T
Gは約16℃であり、前記天然ガスのガス組成におけるメタン分圧に相当する圧力は約4.9MPaであり、この圧力下におけるメタンガスハイドレートの生成平衡温度T
Mは約6.5℃である。
すなわち、前記ハイドレート生成部2内の温度を16℃より低く設定することによって、天然ガスハイドレート(II型ハイドレート)を生成することができるが、6.5℃以下にするとメタンガスハイドレート(I型ハイドレート)も生成してしまう。
【0038】
そのため、前記ハイドレート生成部2内の温度は、前記温度調節部7によって、前記平衡温度計算部9において計算された前記天然ガスハイドレートの生成平衡温度T
Gより低い温度であって、且つ、前記メタンガスハイドレートの生成平衡温度T
Mより高い温度に調節される。このことによって、前記I型のメタンハイドレートを生成させず、II型の混合ガスハイドレートのみを生成することができる。
尚、循環ライン19によって循環させる水層10の原料水Wを除熱するための熱交換器17も、前記平衡温度計算部9における前記計算値に基いて制御することが好ましい。
【0039】
<II型構造の混合ガスハイドレートペレット製造装置>
図2は、ガスハイドレートペレット製造装置の概略図である。
図2の混合ガスハイドレートペレット製造装置20は、混合ガスハイドレート生成装置21として、前述したII型構造の混合ガスハイドレート生成装置1を備えている。尚、混合ガスハイドレート生成装置21は、II型構造の混合ガスハイドレートのみを生成することができるものであれば、混合ガスガスハイドレート生成装置1に限られるものではない。
【0040】
混合ガスハイドレート生成装置21の下流側には、前記混合ガスハイドレート生成装置21において生成した混合ガスハイドレートを脱水する脱水装置22と、脱水後の混合ガスハイドレートを圧縮して所定の形状のペレットに成形する圧縮成形装置23と、圧縮成形された混合ガスハイドレートペレットを冷却する冷却装置24と、前記混合ガスハイドレートペレットを前記混合ガスハイドレート生成装置21のハイドレート生成部における圧力下から、貯槽26における貯蔵時の圧力に減圧する減圧装置25が設けられている。
【0041】
前記圧縮成形装置23は、例えば2つのローラーによって構成される公知のペレタイザー等を備えており、所定の形状のペレットを造粒するものである。前記ペレットの大きさや形状は任意であるが、例えば平均径が数mm〜数十mm程度、好ましくは2mm〜50mm程度の球状、円柱状、円盤状等に成形することができる。
【0042】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
[実施例1]
本実施例に係る混合ガスハイドレートペレットは、前記II型籠構造を有する混合ガスのガスハイドレートのみを用いて造粒成形したペレットの表面に、当該ペレット表面の前記II型籠構造のガスハイドレートが分解して生成した水が凍って形成された氷を有するものである。
【0043】
本実施例に係る混合ガスハイドレートペレットは、前述した混合ガスハイドレートペレット製造装置20(
図2)を用いて製造することができる。すなわち、前記混合ガスハイドレート生成装置21によって生成したII型の混合ガスハイドレートを脱水装置22によって脱水し、圧縮成形装置23によってペレット状に成形した後、当該ペレットを前記II型の混合ガスハイドレートが分解する条件下において、前記ペレット表面のII型の混合ガスハイドレートを分解させ、更に、該ペレットを前記分解によって生成した水が氷る条件下において、該水を氷らせることによって製造することができる。
【0044】
より具体的には、圧縮成形装置23において圧縮成形された混合ガスハイドレートペレットを、前記冷却装置24において0℃以下(例えば、−5℃〜−20℃)に冷却する。冷却された混合ガスハイドレートペレットを、前記減圧装置25において貯槽26における貯蔵時の圧力に減圧すると、当該減圧によって前記ペレット表面のガスハイドレートが分解して水が生成し、該水が凍って該混合ガスハイドレートペレット表面に前記氷が形成される。これにより自己保存効果が生じ、貯蔵効率を高めることができる。
【0045】
一般的に、メタンはハイドレート生成平衡条件として高圧、低温を要し、天然ガス中に含まれる他のガス(エタン、プロパン、ブタンなど)は、メタンよりも低圧、高温でハイドレート化する。そのため、ガスハイドレートを平衡圧力外で貯蔵する場合に、メタンハイドレート(I型)は、同じ温度・圧力下で比較すると、混合ガスハイドレート(II型)よりも分解し易い。
【0046】
本実施例に係る混合ガスハイドレートペレットは、前記混合ガスのハイドレート化を、前記I型のメタンハイドレートを生成させず、II型の混合ガスハイドレートのみを生成させる条件で行い、当該II型の混合ガスハイドレートのみを用いて造粒成形し、更に、その表面に氷を形成させて自己保存効果を付与したものである。
該混合ガスハイドレートペレットは、上述のように保存安定性の高いII型のガスハイドレートのみによって形成されていることによって、ハイドレート生成条件外の圧力および温度条件下において分解が少ない。以って、混合ガスハイドレートペレットの高い貯蔵効率を実現することができる。
【0047】
ここで、ガスハイドレートの前記自己保存効果について説明する。
ガスハイドレートは、平衡温度以上の温度において分解が抑制される効果(自己保存効果)を有することが知られている。このように、ガスハイドレートが自己保存効果を奏する機構は、はっきりとは解明されていないが、以下のように説明することができる。
【0048】
すなわち、前記相平衡が生成条件となる所定の温度と圧力の下で生成したガスハイドレートを大気圧などの分解条件におくと、ガスハイドレート表面から分解が始まり、ガスハイドレート形成物質はガス化するとともに、当該分解によって生じた水がガスハイドレート表面に存在することになる。そして、前記ガスハイドレートの分解により熱が奪われ、前記ガスハイドレート表面の水は氷となる。前記ガスハイドレート表面において前記氷がどのような状態で存在するかは明らかではないが、前記氷が膜状に形成されてガスハイドレートを覆っていると推測されている。
このように、ガスハイドレート表面に氷が存在することによって、内部のガスハイドレートと外部との熱交換が遮断され、大気圧などの分解条件でも内部のガスハイドレートは安定し、それ以上の分解が抑制される自己保存効果が生ずると考えられている。
【0049】
[実施例2]
メタンを含む混合ガス(メタン90vol%、エタン6vol%、プロパン4vol%)を、5.4MPaの圧力下、反応温度を8℃に調節して反応を行った。5.4MPaの圧力下における混合ガスハイドレートの生成平衡温度T
Gは約16℃である。また、前記混合ガスのガス組成におけるメタン分圧に相当する圧力は約4.9MPaであり、この圧力下におけるメタンガスハイドレートの生成平衡温度T
Mは約6.5℃である。前記反応温度(8℃)は、当該メタンガスハイドレートの生成平衡温度T
Mよりも高い温度である。
【0050】
生成したガスハイドレートは、II型ハイドレートのみで形成された混合ガスハイドレート(以下、II型構造の混合ガスハイドレートと称する場合がある)である。このII型構造の混合ガスハイドレートを用いて、φ33mm×高さ50〜70mmの円柱状のペレットを製造し、前記ペレット表面の前記II型構造の混合ガスハイドレートを分解させて氷を形成させた後、大気圧下、−20℃において貯蔵した。ペレット製造後、24時間経過した時のガス残存率を100%として、その後、312時間後までのガス残存率を測定した。その結果を
図3に示す。
【0051】
尚、比較例として、同組成の混合ガスを、5.4MPaの圧力下、反応温度を5℃(前記メタンガスハイドレートの生成平衡温度T
Mより低い温度)に調節して反応を行い、生成したガスハイドレートを用いて同形状のペレットを製造した。該ガスハイドレートペレットを、0.1MPa、−20℃[メタンガスハイドレート(I型)および混合ガスハイドレート(II型)が両方分解する圧力および温度条件下]において表面に氷を形成させた後、同様にガス残存率を測定した。
【0052】
図3に示されるように、比較例のガスハイドレートペレットは、ガス残存率が徐々に下がり、ガスハイドレートが分解していることがわかる。240時間後には約1%が分解し、99%のガス残存率になっている。また、その分解はその後も一定の割合で続いており、時間が経過すると更に分解が進むと考えられる。
一方、本実施例の混合ガスハイドレートペレットは、312時間後のガス残存量はほぼ100%であり、ほとんど分解していないと言える。
【0053】
比較例は、前記混合ガスのガス組成におけるメタン分圧に相当する圧力下における、メタンガスハイドレートの生成平衡温度T
M(6.5℃)を下回る温度で反応を行っているので、I型のメタンガスハイドレートが生成しており、メタンガスハイドレート(I型)と混合ガスハイドレート(II型)が混ざった状態のガスハイドレートである。メタンガスハイドレート(I型)は、一般的に他の主要な天然ガス成分ガスのガスハイドレートに比べて平衡圧力が高く、平衡圧力外の同じ圧力下で比較すると、混合ガスハイドレート(II型)よりも分解し易い。比較例では、前記メタンガスハイドレートの分解が起点となって、ガスハイドレートの分解が続いてしまうものと考えられる。
【0054】
本試験によって、II型構造の混合ガスハイドレートのみによって形成されている本実施例の混合ガスハイドレートペレットは、大気圧下(平衡圧力外の圧力下)において、比較例のガスハイドレートペレット[メタンハイドレート(I型)を含む]よりも分解し難いことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、天然ガス等のメタンを含む混合ガスを原料としてガスハイドレートを生成し、該ガスハイドレートを圧縮成形してペレット化して貯蔵するにあたり、貯蔵効率の高いガスハイドレートペレットとして利用可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 混合ガスハイドレート生成装置、 2 ハイドレート生成部、
3 水送り込み手段、 4 ガス送り込み手段、 5 撹拌手段、
6 ガス分析部、 7 温度調節部(内部熱交換式)、 8 圧力調節部、
9 平衡温度計算部、 10 水層、 11 ガス層、
12 循環ライン、 13 循環ポンプ、
14 ライン、 15 脱水装置、 16 ライン、
17 温度調節部(外部熱交換式)、18 循環ポンプ、 19 循環ライン、
20 混合ガスハイドレートペレット製造装置、
21 混合ガスハイドレート生成装置、 22 脱水装置、
23 圧縮成形装置、 24 冷却装置、 25 減圧装置、 26 貯槽、
G 混合ガス、 W 原料水