特許第5973128号(P5973128)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5973128非水系電解質二次電池用正極活物質およびその製造方法、ならびに該正極活物質を用いた非水系電解質二次電池
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  • 特許5973128-非水系電解質二次電池用正極活物質およびその製造方法、ならびに該正極活物質を用いた非水系電解質二次電池 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973128
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質およびその製造方法、ならびに該正極活物質を用いた非水系電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20160809BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20160809BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20160809BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20160809BHJP
【FI】
   H01M4/525
   C01G53/00 A
   H01M4/505
   H01M10/052
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2010-265520(P2010-265520)
(22)【出願日】2010年11月29日
(65)【公開番号】特開2012-119093(P2012-119093A)
(43)【公開日】2012年6月21日
【審査請求日】2012年11月26日
【審判番号】不服2014-10192(P2014-10192/J1)
【審判請求日】2014年6月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】葛尾 竜一
(72)【発明者】
【氏名】福井 篤
(72)【発明者】
【氏名】戸屋 広将
【合議体】
【審判長】 木村 孔一
【審判官】 池渕 立
【審判官】 小川 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−192424(JP,A)
【文献】 特開2010−015959(JP,A)
【文献】 特開2006−107818(JP,A)
【文献】 特開2007−273108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:LiNix1-x2(ただし、式中のxは、Niの平均価数をZとしたときに、(4−Z)x≧0.75を満たし、式中のMは、M全体としての平均価数が3.375価以上となる少なくとも1種の添加元素を表す)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の粉末からなり、かつ、該粉末を正極活物質として用いた非水系電解質二次電池において、Li0.25Nix1-x2なる組成まで充電したときに、4価のNiのモル数がNiとMを合わせたモル数の60%以下となる非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
Ni塩とM塩の混合水溶液にアルカリ溶液を加えて、NiとMの水酸化物を共沈させ、得られた沈殿物を濾過、水洗、乾燥して、ニッケル複合水酸化物:Nix1-x(OH)2を得る晶析工程と、
得られたニッケル複合水酸化物:Nix1-x(OH)2を、大気雰囲気中、300℃以上750℃未満の温度で、1時間以上焙焼し、ニッケル複合酸化物を得る酸化焙焼工程と、
前記ニッケル複合酸化物とリチウム化合物とを、NiとMとの合計に対するLiのモル比:Li/(Ni+M)が1.00〜1.15となるように混合し、さらに該混合物を、700℃以上1000℃以下の温度で焼成して、前記リチウムニッケル複合酸化物を得る焼成工程と、
得られたリチウムニッケル複合酸化物を水洗処理する水洗工程と、
を有することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記焼成工程における焼成温度が730℃以上800℃以下である、請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記酸化焙焼工程において、最初に焙焼温度よりも低い温度で、かつ、250℃以上550℃以下の温度で保持して仮焼する、請求項1または2に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記Mが、Ti、V、Mn、Nb、Mo、Ru、TaおよびWからなる群から選ばれた少なくとも1種の添加元素、または、Ti、V、Mn、Nb、Mo、Ru、TaおよびWからなる群、および、Al、Fe、Co、Cu、Zn、Ga、Zr、InおよびSnからなる群のそれぞれから少なくとも1種ずつ選ばれた添加元素であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記水洗工程において、リチウムニッケル複合酸化物を、質量比で水1に対して1〜2投入してスラリーとし、30分〜60分間撹拌後、濾過、乾燥することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記リチウム化合物として、炭酸リチウムを用いたことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記リチウム化合物として、水酸化リチウムまたはその水和物を用いたことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記晶析工程において用いるNi塩とM塩が硫酸塩であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池、より具体的にはリチウムイオン二次電池と、その正極材料として用いられる非水系電解質二次電池用正極活物質およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及にともなって、高いエネルギ密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が進められている。さらに最近では、電力貯蔵用途や、ハイブリッドカーおよび電気自動車用の電源として、大型の二次電池の研究開発もなされるようになってきている。
【0003】
このような用途に有用な二次電池として、非水系電解質二次電池の一種であるリチウムイオン二次電池がある。現在、リチウムイオン二次電池においては、その負極材料としてグラファイトなどのカーボン材料を、その正極材料としてリチウム金属複合酸化物からなる正極活物質をそれぞれ用いたものが、開発の主流となっている。これらの材料はいずれも、リチウム(Li)を脱離および挿入することが可能である。
【0004】
正極活物質であるリチウム金属複合酸化物としては、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2など)、リチウムマンガン複合酸化物(LiMnO2など)、およびリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2など)が用いられている。
【0005】
このうち、リチウムコバルト複合酸化物は、その合成が比較的容易であり、4V級の高い電圧が得られることから、高いエネルギ密度を有する電池材料として期待されている。このため、その実用化のために、優れた初期容量特性やサイクル特性を得るための研究開発が盛んに行われている。
【0006】
しかしながら、リチウムコバルト複合酸化物は、主原料であるコバルト化合物が高価であるため、電池のコストアップの原因となっている。特に、リチウムイオン二次電池を、携帯機器用の小型電池だけでなく、電力貯蔵用、ハイブリッドカー用、電気自動車用の大型二次電池にまでその適用を広げることが期待されているが、より安価なリチウムイオン二次電池の製造を可能とする正極材料を提供できれば、広範な分野への波及効果があると考えられる。
【0007】
このような観点から、リチウムコバルト複合酸化物に代替する正極活物質として、コバルト(Co)より安価な材料であるニッケル(Ni)やマンガン(Mn)を用いる、リチウムニッケル複合酸化物やリチウムマンガン複合酸化物が着目されている。
【0008】
このうち、リチウムマンガン複合酸化物は、熱安定性(発火などについての安全性)に優れているが、理論容量がリチウムコバルト複合酸化物の半分程度しかないため、年々高まるリチウムイオン二次電池の高容量化への要求に応えることができないという問題がある。また、45℃以上では、自己放電が激しく、充放電寿命が低下するという問題もある。
【0009】
これに対して、リチウムニッケル複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物とほぼ同様の理論容量を有し、かつ、やや低い電池電圧を示す。このため、電解液の酸化による分解が問題になりにくく、より高容量が期待できるため、その研究開発も活発に行われている。
【0010】
ただし、Niを他の添加元素で置換せずに、純粋にNiのみで構成したリチウムニッケル複合酸化物を正極材料として用いてリチウムイオン二次電池を作製した場合、リチウムコバルト複合酸化物を正極活物質として用いた場合に比べて、サイクル特性に劣るという問題とともに、高温環境下での使用や保存により比較的電池性能を損ないやすいという問題がある。
【0011】
リチウムニッケル複合酸化物に関するこのような問題の解決を図るために、たとえば、特許文献1では、高温環境下での使用や保存によっても良好な電池性能を維持することを目的として、フッ素を添加した、LiwNixCoyz2(0.05≦w≦1.10、0.5≦x≦0.995、0.005≦z≦0.20、x+y+z=1)で表されるリチウムニッケル複合酸化物が提案されている。
【0012】
また、特許文献2では、自己放電特性やサイクル特性を向上させることを目的として、NiとCoの一部を他の添加元素Mで置換した、LixNiaCobc2(0.8≦x≦1.2、0.01≦a≦0.99、0.01≦b≦0.99、0.01≦c≦0.3、0.8≦a+b+c≦1.2、MはAl、V、Mn、Fe、CuおよびZnから選ばれる少なくとも1種の添加元素)で表されるリチウムニッケル複合酸化物が提案されている。
【0013】
通常、これらのリチウムニッケル複合酸化物は、原料であるリチウム化合物、ニッケル化合物、その他の金属化合物を混合し、所定温度で焼成することにより得られる。
【0014】
しかしながら、このような従来のリチウムニッケル複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物と比べて充電容量、放電容量ともに高く、サイクル特性も改善されているが、満充電状態で高温環境下に放置しておくと、リチウムコバルト複合酸化物に比べて低い温度から酸素放出を伴う分解が始まり、その結果、これを用いた電池の内部圧力が上昇して、最悪の場合、電池が破損する危険を有している。また、放出された酸素が、電解液の燃焼を引き起こし、電池の温度が急激に上昇してしまうといった危険性もはらんでいる。
【0015】
これに対して、たとえば、特許文献3では、熱安定性を向上させることを目的として、添加元素Mの添加により結晶構造を安定化させた、LiabNicCode(MはAl、Mn、Sn、In、Fe、V、Cu、Mg、Ti、ZnおよびMoからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属であり、かつ0<a<1.3、0.02≦b≦0.5、0.02≦d/c+d≦0.9、1.8<e<2.2の範囲であって、さらにb+c+d=1である)で表されるリチウム含有複合酸化物が提案されている。
【0016】
現在、このような添加元素Mとして、特にアルミニウム(Al)を選択した場合、NiからAlへの置換量を多くすると、正極活物質の分解反応は抑えられ、熱安定性が向上することが確かめられている。しかしながら、十分な安定性を確保するのに有効なAl量でNiを置換すると、充放電反応にともなう酸化還元反応に寄与するNiの量が減少するため、電池性能として最も重要である初期容量が大きく低下してしまうという問題が生ずる。
【0017】
さらに、熱安定性と高い充放電容量を両立させることを目的として、たとえば、特許文献4では、LiNix1-x2(ただし、式中のxは、Niの平均価数をZとしたときに、(4−Z)x≧0.75を満たし、式中のMは、M全体としての平均価数が3価以上となる少なくとも1種の添加元素を表す)で表されるリチウムニッケル複合酸化物が提案されている。なお、特許文献4では、リチウムニッケル複合酸化物の結晶構造的な安定を図るために、好ましくは、最初に共沈法によりNiと添加元素Mの複合水酸化物を得て、この複合水酸化物とリチウム化合物とを混合し、所定温度で焼成する製造方法をとることが開示されている。このリチウムニッケル複合酸化物の粉末を正極材料として用いた非水系電解質二次電池では、Li0.25Nix1-x2なる組成まで充電したときに、4価のNiのモル数がNiとMを合わせたモル数の60%以下となって、その熱的安定性が改善されている。しかしながら、その充放電容量については十分とはいえず、さらなる改善が望まれている。
【0018】
現在、携帯電子機器などの小型二次電池に対する高容量化の要求は年々高まる一方であり、安全性を確保するために容量を犠牲にすることは、リチウムニッケル複合酸化物を用いることによる高容量化のメリットを失うことにつながる。一方、自動車用の電源などの大型二次電池においては、高い安全性が重要な要素となることから、安全性に劣るというリチウムニッケル複合酸化物の問題点の解消は大きな課題ということができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平8−45509号公報
【特許文献2】特開平8−213015号公報
【特許文献3】特開平5−242891号公報
【特許文献4】特開2006−107818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、非水系電解質二次電池の正極材料として用いた場合に、熱安定性が良好で、かつ、高い充放電容量を備える正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、Ni塩と添加元素の塩であるM塩との混合水溶液に、アルカリ溶液を加えて、NiとMの水酸化物を共沈させ、得られた沈殿物を濾過、水洗、乾燥して、ニッケル複合水酸化物:Nix1-x(OH)2を得る晶析工程と、得られたニッケル複合水酸化物:Nix1-x(OH)2とリチウム化合物とを、NiとMとの合計に対するLiのモル比:Li/(Ni+M)が1.00〜1.15となるように混合し、さらに該混合物を、700℃以上1000℃以下の温度で焼成して、一般式:LiNix1-x2(ただし、式中のxは、Niの平均価数をZとしたときに、(4−Z)x≧0.75を満たし、式中のMは、M全体としての平均価数が3.375価以上となる少なくとも1種の添加元素を表す)で表されるリチウムニッケル複合酸化物を得る焼成工程と、得られたリチウム金属複合酸化物を水洗処理する水洗工程を有することを特徴とする。
【0022】
前記添加元素Mは、通常4価以上の価数をとる、Ti、V、Mn、Nb、Mo、Ru、TaおよびWからなる群から選ばれた少なくとも1種の添加元素、または、Ti、V、Mn、Nb、Mo、Ru、TaおよびWからなる群、および、通常3価以下の価数をとる、Al、Fe、Co、Cu、Zn、Ga、Zr、InおよびSnからなる群のそれぞれから少なくとも1種ずつ選ばれた元素であることが好ましい。
【0023】
また、前記晶析工程の後、前記焼成工程の前に、該晶析工程で得られたニッケル複合水酸化物:Nix1-x(OH)2を、大気雰囲気中、300℃以上750℃未満の温度で、1時間以上の焙焼を行ってニッケル複合酸化物を得る酸化焙焼工程を設けることが好ましい。
【0024】
さらに、前記水洗工程において、リチウムニッケル複合酸化物を、質量比で水1に対して1〜2投入してスラリーとし、30分〜60分間撹拌後、濾過、乾燥することが好ましい。
【0025】
前記リチウム化合物として、炭酸リチウム、または、水酸化リチウムもしくはその水和物を用いることが好ましく、前記晶析工程において用いるNi塩とM塩は、硫酸塩であることが好ましい。
【0026】
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質は、上記のいずれかの製造方法により得られる、一般式:LiNix1-x2(ただし、式中のxは、Niの平均価数をZとしたときに、(4−Z)x≧0.75を満たし、式中のMは、M全体としての平均価数が3.375価以上となる少なくとも1種の添加元素を表す)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の粉末からなり、かつ、該粉末を正極活物質として用いた非水系電解質二次電池において、Li0.25Nix1-x2なる組成まで充電したときに、4価のNiのモル数がNiとMを合わせたモル数の60%以下となる、非水系電解質二次電池用正極活物質である。
【0027】
かかる正極活物質は、2032型のコイン電池の正極材料として用いた場合、該2032型のコイン電池は、184mAh/g以上の初期放電容量と、示差走査熱量計を用いた測定による300J/g以下の発熱量とを示す点にも特徴がある。
【0028】
本発明の非水系電解質二次電池は、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質を正極材料として用いたものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、熱安定性と充放電容量のいずれもが改善され、これら熱安定性と充放電容量とを高い水準で両立させた非水系電解質二次電池用正極活物質を得ることができる。したがって、本発明に係る非水系電解質二次電池は、携帯電子機器などの小型二次電池に対する高容量化の要求に対応でき、また、リチウムイオン二次電池を大型二次電池に用いる動きの中で、ハイブリッド自動車や電気自動車の用途に安全性を満足できる電源として用いることができ、工業的価値が非常に高いということができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】電池評価に用いたコイン電池を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明者は、リチウムニッケル複合酸化物の熱安定性と充放電容量の両立について研究した結果、Niの含有量と平均価数が特定の関係式を満たし、かつ、添加元素Mの平均価数が所定値以上となる場合に、充電時において熱的に不安定な4価のNiのモル数が、Niと添加元素Mを合わせたモル数の60%以下となり、熱安定性の向上を図れること、および、リチウム化合物との混合、焼成により得られたリチウムニッケル複合酸化物を水洗することにより、充放電容量の改善を図れることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0032】
以下、本発明の実施の形態ついて説明するが、最初に、本発明に係る非水系電解質二次電池用正極活物質について説明し、その後、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水系電解質二次電池の順に説明する。
【0033】
(1)非水系電解質二次電池用正極活物質
本発明に係る非水系電解質二次電池用正極活物質は、一般式:LiNix1-x2(ただし、式中のxは、Niの平均価数をZとしたときに、(4−Z)x≧0.75を満たし、式中のMは、M全体としての平均価数が3.375価以上となる少なくとも1種以上の添加元素を表す)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の粉末からなり、かつ、該粉末を正極活物質として用いた非水系電解質二次電池においてLi0.25Nix1-x2なる組成まで充電したときに、4価のNiのモル数が、NiとMを合わせたモル数の60%以下となる点に特徴がある。
【0034】
まず、本発明では、Li0.25Nix1-x2なる組成まで充電したときに、4価のNiのモル数がNiとMを合わせたモル数の60%以下となることが必要である。以下、この点について説明する。
【0035】
リチウムイオン二次電池の充放電反応は、正極活物質内のLiイオンが可逆的に出入りすることで進行する。充電によってLiが引き抜かれた正極活物質は高温で不安定であり、加熱すると活物質が分解して酸素を放出し、この酸素が電解液の燃焼を引き起こし、発熱反応が起こる。
【0036】
従来、正極活物質の熱安定性の改善には、Alのような酸素との共有結合性の強い元素でNiの一部を置換することで、充電状態の正極活物質の分解反応を抑える方法が一般的にとられている。ただし、NiからAlへの置換量が多くなることは、充放電反応にともなう酸化還元反応に寄与するNiの量が減少して、充電容量の低下を招くことを意味する。このように、Niの一部をAlで置換した構成では、高い充放電容量と良好な熱安定性の両立が困難である。
【0037】
リチウムニッケル複合酸化物の熱安定性がリチウムコバルト複合酸化物やリチウムマンガン複合酸化物に比べて劣る原因は、主として高い価数のNiの不安定性にある。充電状態、すなわち、Liを引き抜いた状態の正極活物質は、充放電反応に寄与する元素が価数の高い状態になっているが、4価のNiが4価のCoやMnに比べて安定性が低い。NiO2は、CoO2やMnO2に比べて不安定であり、加熱によって容易に、しかも急激に酸素を放出してNiOに変化する。逆にいえば、リチウムニッケル複合酸化物の充電状態で4価のNi量を減らすことができれば、必然的にリチウムニッケル複合酸化物の安定性が向上することになる。
【0038】
本発明者は、電池を充電した際に、Liが引き抜かれた正極活物質に含まれる4価のNiのモル数が、NiとMを合わせたモル数の60%以下となっていれば、熱的に不安定な4価のNiが減少し、結晶の安定性が改善されて、十分な熱安定性を実現できることをすでに実験的に確認している(特開2006−107818号公報参照)。
【0039】
充電後の正極活物質に含まれる4価のNi量を減らすには、充電容量そのものを低く抑えることでも実現できる。たとえば、理論容量が約280mAh/gであるLiNiO2において、充電容量を168mAh/gに抑えれば、充電状態の活物質はLi0.40Ni0.604+Ni0.403+2となり、4価のNi量は60%となる。しかし、この場合、初期充放電効率が90%程度のLiNiO2においては、初期放電容量が151mAh/g程度となり、十分な容量を有した電池とはならない。
【0040】
リチウムニッケル複合酸化物の特徴である高容量を生かすためには、75%程度のLiを引き抜く必要がある。すなわち、LiNiO2を高容量のものとする場合、充電状態の活物質はLi0.25Ni0.754+Ni0.253+2となり、4価のNi量が60%を超えてしまう。
【0041】
このため、まず、本発明では、Niの一部を別の添加元素Mにより置換したリチウムニッケル複合酸化物とするとともに、一般式:LiNix1-x2で表される正極活物質において、Niの平均価数をZとしたときに、式中のxの範囲を(4−Z)x≧0.75の関係式が満たされるようにその組成を規制している。この理由は、Niのみで充放電反応を行ったとしても75%以上のLiを引き抜けるようにするためである。すなわち、充電後にNiがとる価数である4と充電前の平均価数Zとの差から導かれる、充電に伴うNiの電荷変化の総量が0.75以上であれば、75%以上のLiを引き抜いたことにより生じる電荷増をNiのみで補償することができる。
【0042】
たとえば、75%以上のLiを引き抜くことを可能とするためには、Niの平均価数がZ=3である場合には、xは0.75以上必要となり、また、Z=2.75である場合には、xは0.6以上、Z=2.4である場合には、xは0.5以上、それぞれ必要となる。
【0043】
このように、一般式:LiNix1-x2において、式中のxが、(4−Z)x≧0.75の関係式を満たすようにしておけば、75%のLiを引き抜くことが理論上可能となる。しかしながら、さらに75%のLiを引き抜いた状態でも、4価のNi量が60%以下となるようにするには、(3−Z)x≧0.15の関係式を満たす必要がある。この関係式は、次のように導かれる。
【0044】
すなわち、添加元素Mの平均価数をYとすると、一般式:LiNix1-x2における電荷補償の関係から、
Zx+Y(1−x)=3 ・・・(1)
となるから、
Y=(3−Zx)/(1−x) ・・・(2)
である。
【0045】
Liが75%引き抜かれた状態では、4価のニッケル量をpとすると、Li0.25Nip4+Nix-p3+1-xY2における電荷補償の関係から、
4p+3(x−p)+Y(1−x)=3.75 ・・・(3)
となるから、
p=−3x−Y(1−x)+3.75 ・・・(4)
である。このpが60%以下になるためには、
p=−3x−Y(1−x)+3.75≦0.6 ・・・(5)
であり、この式(5)に式(2)を代入すると、
(3−Z)x≧0.15 ・・・(6)
の関係式が導かれる。
【0046】
たとえば、添加元素Mの平均価数Yが3.5価とすると、式(1)よりZ=(3.5x−0.5)/xとなるが、これを式(6)に代入すると、x≦0.7が得られる。したがって、Niの30%以上を添加元素Mで置換すれば、75%のLiを引き抜けるだけの容量をもち、かつ、このときの4価のNi量が60%以下となるので、熱安定性に優れた材料となる。
【0047】
ここで、関係式:(4−Z)x≧0.75と、この関係式:(3−Z)x≧0.15との関係から、Niの平均価数を示すZは2.75以下とする必要がある。
【0048】
また、添加元素Mは、少なくとも1種以上の任意の添加元素でよく、2種以上の添加元素であってもよいが、75%のLiを引き抜いたときの4価のNiの量を60%以下に抑えるためには、式(1)〜(6)および関係式(4−Z)x≧0.75から導かれるように、M全体としての平均価数Yを3.375価以上にする必要がある。M全体としての平均価数が3.375価未満である場合には、75%のLiを引き抜いたときの4価のNi量pが60%以下とならない。平均価数Yの最小値は、次のように導かれる。
【0049】
すなわち、式(5)よりYの最小値、および関係式(4−Z)x≧0.75よりxの最小値を求めると、
Y≧3+0.15/(1−x) ・・・(7)
x≧0.75/(4−Z) ・・・(8)
ここで、式(1)よりZを導くと、
Z={3−Y(1−x)}/x ・・・(9)
この式(9)を式(8)に代入してxの最小値を求めると、
x≧(3.75―Y)/(4−Y) ・・・(10)
式(7)よりxが最小値となるとき、Yが最小値となるから、式(10)から得られたxの最小値である(3.75―Y)/(4−Y)を式(7)に代入して、Yの最小値を求めると、
Y≧3.375
となる。
【0050】
添加元素Mとしては、通常4価以上の価数をとるTi、V、Mn、Nb、Mo、Ru、TaおよびWからなる群から選ばれた少なくとも1種が選択される。これらの4価以上の価数をとる元素を添加することでNiの平均価数が2.75以下となり、75%のLiを引き抜いた状態でも4価のNi量を60%以下とすることができる。さらに、電池特性改善のため、3価またはそれ以下の価数をとるAl、Fe、Co、Cu、Zn、Ga、Zr、InおよびSnからなる群から選ばれた少なくとも1種を添加することができる。その場合には、同時に4価以上の価数をとる上記元素を添加して、添加元素M全体としての平均価数を3.375価以上にすれば、同様の効果が得られる。
【0051】
また、本発明の正極活物質の特徴の一つは、製造工程で表面に付着した余剰のリチウム化合物および不純物が除去されていることにある。このため、後述するように、本発明の正極活物質の製造工程においては、原料となる複合水酸化物とリチウム化合物を焼成した後に、水洗工程を設けている。焼成によって得られたリチウムニッケル複合酸化物の表面には、そのままでは余剰のリチウム化合物および不純物が付着しており、これらの付着物により、正極活物質からのLiイオンの挿脱が阻害され、リチウムニッケル複合酸化物が本来持っている電池特性、特に充放電容量を十分に発揮できない状態となっている。本発明の正極活物質は、焼成後の水洗によって粒子の表面に付着しているリチウム化合物などの不純物が除去されているため、結晶構造を維持したままリチウムニッケル複合酸化物が持っている充放電容量を十分に確保できる。
【0052】
本発明の正極活物質のさらなる熱安定性の改善を図るためには、好ましくは、その製造工程における、晶析工程後、焼成工程前に酸化焙焼工程をさらに備えて、その結晶性をさらに高めるようにする。酸化焙焼により、充放電容量を低下させることなく、熱安定性をさらに改善することが可能となる。
【0053】
本発明の正極活物質は、タップ密度を1.5g/cm3以上、比表面積が0.2〜2m2/g、平均粒子径が3〜20μmであることが好ましい。これらの特性を有することで、非水系電解質二次電池用正極活物質としてより好ましいものとなる。本発明の正極活物質は、後述する製造方法の製造条件を制御することで、容易にこれらの特性を得ることができる。
【0054】
(2)非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
本発明の製造方法は、Ni塩と添加元素の塩であるM塩との混合水溶液にアルカリ溶液を加えて、NiとMの水酸化物を共沈させ、得られた沈殿物を濾過、水洗、乾燥して、ニッケル複合水酸化物:Nix1-x(OH)2を得る晶析工程と、得られたニッケル複合水酸化物とリチウム化合物とを、NiとMとの合計に対するLiのモル比:Li/(Ni+M)が1.00〜1.15となるように混合し、さらに該混合物を700℃以上1000℃以下の温度で焼成して、一般式:LiNix1-x2(ただし、式中のxは、Niの平均価数をZとしたときに、(4−Z)x≧0.75を満たし、式中のMは、M全体としての平均価数が3.375価以上となる少なくとも1種の添加元素を表す)で表されるリチウムニッケル複合酸化物を得る焼成工程と、得られたリチウムニッケル複合酸化物を水洗処理する水洗工程を有することを特徴とする。
【0055】
(2−a)晶析工程
本発明の製造方法は、得られる正極活物質に関して、充電状態においても4価のNiのモル数をNiとMを合わせたモル数の60%以下に規制することにより、結晶性を維持し、熱安定性を改善しようとするものである。したがって、結晶性を維持し、熱安定性を改善するという効果を十分に発揮させるためには、Niと添加元素Mを均一に固溶させることが重要になる。Niと添加元素Mの固溶が不均一であると、場所によってNiの価数にばらつきが生じ、得られた正極活物質が優れた熱安定性を発揮できなくなるためである。
【0056】
Niと添加元素Mが均一に固溶するように合成するには、原料段階でNiと添加元素Mが均一に固溶したニッケル複合水酸化物、もしくはニッケル複合酸化物を用いることが好ましい。したがって、本発明においては、Ni塩とM塩の混合水溶液を中和してNiとMの水酸化物を共沈させ、得られた沈殿物を濾過、水洗、乾燥するという、晶析工程を経ることにより、Niと添加元素Mが原子レベルで均一に固溶したニッケル複合水酸化物:Nix1-x(OH)2を得ることができる。
【0057】
本発明の晶析工程には、通常の中和共沈殿法を適用できる。たとえば、Ni塩とM塩の混合水溶液の温度を、30℃以上60℃以下、好ましくは40℃以上50℃以下に保持し、pHを10〜13の範囲、好ましくは11〜12の範囲に保持するようにアルカリ溶液を添加しながら、共沈殿させ、得られた沈殿物を濾過し、水洗すればよい。
【0058】
ここで、混合水溶液の温度が30℃未満では、混合水溶液における塩の溶解度が低く塩濃度が低いため、複合水酸化物の結晶が十分に成長しない。また、混合水溶液の温度が60℃を超えると、結晶核の発生が多く微細な粒子が多くなるため、複合水酸化物の粒子が高密度とならない。
【0059】
また、混合水溶液のpHは、10〜13の範囲に保持されるように制御することが好ましい。pHが10未満では、複合水酸化物の粒子が粗大になり、pHが13を超えると複合水酸化物の晶析速度が速くなり、微細な粒子が多くなってしまう。微細な粒子が多過ぎると、これらが焼結して凝集粉を生じてしまうという問題がある。
【0060】
混合水溶液のpHをアルカリ溶液の添加により制御するが、このためのアルカリ溶液は、特に限定されず、たとえば、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。アルカリ金属水酸化物を、直接、混合水溶液に添加することもできるが、pH制御の容易さから、これを水溶液として添加することが好ましい。アルカリ溶液の添加方法も、特に限定されず、混合水溶液を十分に攪拌しながら、定量ポンプなど、流量制御が可能なポンプで、pHを10〜13の範囲に保持するように添加すればよい。
【0061】
さらに、本発明の晶析工程においては、必要に応じて錯化剤を用いることができる。錯化剤を用いることで、Ni塩とM塩の混合水溶液中での溶解度を大きくして、複合水酸化物の結晶を十分に成長させることができる。錯化剤は、特に限定されず、水溶液中でNiおよび添加元素Mと結合して錯体を形成可能であればよい。たとえば、アンモニウムイオン供給体(アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウムなど)、エチレンジアミン四酢酸、ニトリト三酢酸、ウラシル二酢酸およびグリシンがあげられる。なお、Ni塩とM塩の混合水溶液に添加するとpHが上昇する錯化剤は、中和時に前記アルカリ溶液とともに混合水溶液に添加することが好ましい。
【0062】
また、前記混合水溶液の塩濃度は、Ni塩とM塩の合計で1〜2mol/L、特に1.5〜2.0mol/Lとすることが好ましい。混合水溶液の塩濃度が1mol/L未満であると、塩濃度が低すぎて、複合水酸化物の結晶が十分に成長しない。一方、混合水溶液の塩濃度が2mol/Lを超えると、常温での飽和濃度を超えるため、結晶が再析出して配管を詰まらせるなどの危険がある上、結晶核の発生が多く微細な粒子が多くなってしまう。
【0063】
このような本発明の晶析工程に用いるNi塩とM塩は、特に限定されず、たとえば、硫酸塩、硝酸塩、塩化物ニッケルなどがあげられる。また、この中でも不純物の混入が少ない硫酸塩を用いることが好ましい。
【0064】
晶析工程における反応方式は、特に限定されるものではなく、通常用いられる、バッチ方式、あるいはオーバーフローパイプを備えた反応槽に原料を供給して連続的に生成粒子を採取できる連続方式のいずれも採用することできる。
【0065】
共沈殿によって得られた複合水酸化物を、濾過した後、水洗する。濾過は、通常用いられる方法でよく、たとえば、遠心機、吸引濾過機を用いて行うことができる。また、水洗は、通常行われる方法でよく、ニッケル複合水酸化物に含まれる余剰の塩基および非還元性錯化剤を除去できればよい。水洗で用いる水としては、不純物混入防止のため、可能な限り不純物含有量の少ない水を用いることが好ましい。
【0066】
(2−b)酸化焙焼工程
酸化焙焼工程は、前記晶析工程で得られたニッケル複合水酸化物:Nix1-x(OH)2を、後工程である焼成工程の前に、大気雰囲気中で800℃未満の温度で1時間以上の焙焼を行って、ニッケル複合酸化物:Nix1-x2を得る工程である。
【0067】
前記晶析工程により得られたニッケル複合水酸化物を、そのままリチウム化合物と混合して焼成しても、リチウムニッケル複合酸化物を得ることはできるが、一度、大気雰囲気中、800℃未満の温度で、1時間以上の焙焼を行い、ニッケル複合酸化物としてからリチウム化合物と混合して焼成すると、リチウムニッケル複合酸化物の結晶性がよくなり、充放電容量を低下させることなく、熱安定性がより改善する。
【0068】
焙焼温度は、800℃未満であることが好ましく、より好ましくは300℃以上750℃未満である。焙焼温度が800℃以上では、複合酸化物の粒子間で焼結が生じて粒子が粗大化し、充放電容量が低下する場合がある。特に、焙焼温度を750℃未満とすることにより、充電状態の活物質における4価のNi量の制限と結晶性の向上により、高次元で充放電容量と熱安定性の両立が可能となる。焙焼温度の下限は、特に限定されないが、300℃未満の温度が低い場合には水酸化物から酸化物への転換が十分に行われず、酸化焙焼の効果を十分に得られないことがある。
【0069】
酸化焙焼時間は、1時間以上が好ましく、より好ましくは3〜15時間とする。1時間未満では、水酸化物から酸化物への転換が十分に行われない場合があり、また、3時間未満では、結晶性が向上せず、熱安定性が十分に得られない場合がある。
【0070】
また、酸化焙焼工程では、含有水分を除去するため、酸化焙焼に際して、最初に焙焼温度よりも低い温度で、かつ250℃以上550℃以下の温度で少なくとも1時間以上、より好ましくは1〜5時間程度、保持して仮焼することが好ましい。仮焼することで、含有水分を除去することができ、水酸化物から酸化物への転換を十分に行うことができる。
【0071】
また、酸化焙焼の雰囲気は、大気雰囲気とすることができるが、酸化焙焼が可能な雰囲気であれば、特に問題なく他の酸化性雰囲気を用いることもできる。
【0072】
酸化焙焼に用いる炉は、特に限定されるものではなく、空気気流中で加熱できるものであればよいが、ガス発生のない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の炉を用いることができる。
【0073】
(2−c)焼成工程
焼成工程では、晶析工程で得られたニッケル複合水酸化物:Nix1-x(OH)2、あるいは酸化焙焼工程で得られたニッケル複合酸化物:Nix1-x2と、リチウム化合物とを、Niと添加元素Mとの合計に対するLiのモル比Li/(Ni+M)が1.00〜1.15となるように混合し、さらに該混合物を700℃以上1000℃以下の温度で熱処理して焼成することで、一般式:LiNix1-x2(ただし、式中のxは、Niの平均価数をZとしたときに、(4−Z)x≧0.75を満たし、式中のMは、M全体としての平均価数が3.375価以上となる少なくとも1種の添加元素を表す)で表されるリチウムニッケル複合酸化物を得る。
【0074】
Niと添加元素Mとの合計に対するLiのモル比Li/(Ni+M)が、1.00〜1.15となるように、ニッケル複合水酸化物もしくはニッケル複合酸化物と、リチウム化合物とを混合することで、結晶性に優れた、すなわち熱安定性が高く、充放電容量が大きいリチウムニッケル複合酸化物を得られる。Liの原子数が少なく、Li/(Ni+M)が1.00未満の場合、後工程で水洗を行っても、得られる正極活物質を用いた非水系電解質二次電池の充放電容量が十分に得られない。また、Liの原子数が多く、Li/(Ni+M)が1.15を超えると、後工程で水洗を行っても、正極活物質表面に余剰リチウムが残存し、非水系電解質二次電池の充放電容量が十分に得られない。また、これを正極活物質として用いると、電池の充電時にガスを多量に発生するばかりでなく、高pHを示す粉末であるため、電極作製時に使用する有機溶剤などの材料と反応してスラリーがゲル化し、不具合を起こす要因となる。
【0075】
前記リチウム化合物の種類は、特に限定されるものではなく、入手が容易であり、かつ、取扱いも容易なものが好ましい。炭酸リチウム、または水酸化リチウムもしくはその水和物が好適に用いられる。その他、硝酸リチウムや硫酸リチウムなども用いることができる。
【0076】
ニッケル複合水酸化物もしくはニッケル複合酸化物とリチウム化合物は、焼成する前にこれらを十分混合しておくことが好ましい。混合には、一般的な混合機を使用することができ、たとえば、シェーカーミキサやレーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いて、ニッケル複合酸化物もしくはニッケル複合酸化物の形骸が破壊されない程度に、これらとリチウム化合物とを十分に混合することができる。
【0077】
十分に混合した前記混合物を700℃以上1000℃以下、好ましくは730℃以上800℃以下の温度で焼成することによって、一般式:LiNix1-x2(ただし、式中のxは、Niの平均価数をZとしたときに、(4−Z)x≧0.75を満たし、式中のMは、M全体としての平均価数が3.375価以上となる少なくとも1種の添加元素を表す)で表されるリチウムニッケル複合酸化物、すなわちLiとNiと添加元素Mの複合酸化物を得ることができる。
【0078】
焼成温度が700℃未満であると、前記複合酸化物粒子中へのLiの拡散が十分でなく、余剰のLiと未反応の前記複合酸化物が残るため、結晶性が低下するとともに、水洗後も十分な充放電容量を得ることができない。また、1000℃を超えるとリチウムニッケル複合酸化物粒子間で焼結が生じて粒子が粗大となってしまう。
【0079】
焼成時間は、少なくとも1時間以上とすることが好ましく、より好ましくは10〜15時間とする。1時間未満では、リチウムニッケル複合酸化物の生成が十分に行われず、十分な結晶性が得られないことがある。
【0080】
焼成工程では、焼成に際して、最初に450℃以上550℃以下の温度で、少なくとも1時間、より好ましくは1〜5時間程度、保持して仮焼し、引き続いて焼成することが好ましい。リチウム化合物の融点付近で保持することにより、リチウムの拡散を十分に行い、より均一なリチウムニッケル複合酸化物を得ることができる。
【0081】
焼成時の雰囲気は、特に限定されず、前記混合物を十分に酸化させてリチウムニッケル複合酸化物を生成することのできる酸化性雰囲気であればよいが、十分な結晶性を得るために、酸素含有量が20体積%以上である酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素含有量が80体積%以上である酸素雰囲気とすることがより好ましい。
【0082】
焼成に用いる炉は、特に限定されるものではなく、十分に雰囲気ガスを流せる状態で加熱できるものであればよいが、ガス発生のない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の炉を用いることができる。
【0083】
(2−d)水洗工程
水洗工程は、焼成工程で得られたリチウムニッケル複合酸化物を水洗処理して、非水系電解質二次電池用正極活物質を得る工程である。上述のように焼成工程で得られたリチウムニッケル複合酸化物の表面には、余剰のリチウムなどが付着しており、水洗によって余剰リチウムを除去する水洗工程は、十分な特性を持った正極活物質を得るために、本発明の製造方法において特に重要な工程である。
【0084】
水洗工程においては、前記リチウムニッケル複合酸化物を、質量比で水1に対して1〜2投入してスラリーとし、30分〜60分間撹拌後、濾過、乾燥することが好ましい。リチウムニッケル複合酸化物が水1に対して質量比で1未満であると、リチウムニッケル複合酸化物粒子から過剰にリチウムが溶出し、正極活物質の性能が悪化してしまうことがある。一方、リチウムニッケル複合酸化物が水1に対して質量比で2を超えると、スラリーの粘度が高すぎて、均一撹拌が難しくなり、余剰リチウムを十分に除去できないことがある。
【0085】
前記撹拌時間が30分間未満であると、撹拌が均一にならず、余剰リチウムを十分に除去できないことがある。また、60分間より長くても、リチウムの溶出はある程度で飽和するため、無駄に長時間を要することになるだけである。
【0086】
前記濾過および乾燥としては、通常の方法を用いることができ、たとえば、濾過では吸引濾過、遠心分離などを用いることができ、乾燥では大気乾燥、真空乾燥を用いることができる。
【0087】
以上のような、晶析工程、酸化焙焼工程、焼成工程、水洗工程を有する本発明の製造方法によって、熱安定性と充放電容量のいずれもが改善され、これら熱安定性と充放電容量とを高い水準で両立させた、本発明の正極活物質を得ることができる。
【0088】
(3)非水系電解質二次電池
本発明の非水系電解質二次電池は、正極、負極、非水電解液など、一般の非水系電解質二次電池と同様の構成要素から構成される。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本発明の非水系電解質二次電池を、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態でも実施することができる。また、本発明の非水系電解質二次電池は、その用途を特に限定されるものではない。
【0089】
(3−a)正極
まず、正極を形成する正極合材およびこれを構成する各正極材料について説明する。正極は、正極活物質、導電材および結着剤を含んだ正極合材から形成されるが、このうちの正極活物質には上述した本発明の正極活物質が適用されるため、その説明は省略する。
【0090】
導電材は、正極の電気伝導性を確保する役割を果たすもので、たとえば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛などの炭素物質粉状体の1種または2種以上を混合したものを用いることができる。
【0091】
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴムなどのフッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂などを用いることができる。必要に応じて、正極活物質、導電材、活性炭を分散させ、結着剤を溶解するための溶剤を、正極合材に添加する。このような溶剤としては、具体的にはN−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0092】
また、正極合材には、電気二重層の容量を増加させるために活性炭を添加することができる。
【0093】
このような構成を有する正極は、次のようにして作製する。まず、粉末状の正極活物質、導電材および結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭、粘度調整などの目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製する。正極合材中のそれぞれの混合比も、リチウムイオン二次電池の性能を決定する重要な要素となる。溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量%とした場合、一般のリチウムイオン二次電池の正極と同様、それぞれ、正極活物質の含有量を60〜95質量%、導電材の含有量を1〜20質量%、結着剤の含有量を1〜20質量%とすることが望ましい。次いで、得られた正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して溶剤を飛散させる。必要に応じて、電極密度を高めるために、ロールプレスなどによって加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などし、電池の作製に供することができる。
【0094】
(3−b)負極
負極には、金属リチウム、リチウム合金など、あるいは、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
【0095】
負極活物質としては、たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂などの有機化合物焼成体、コークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、ポリフッ化ビニリデンなどの含フッ素樹脂などを用いることができ、これら活物質および結着剤を分散させる溶剤としてはN−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0096】
(3−c)セパレータ
正極と負極との間に、セパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
【0097】
(3−d)非水系電解液
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0098】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物などからなる群から選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0099】
支持塩としてのリチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO22など、およびそれらの複合塩を用いることができる。
【0100】
さらに、非水系電解液は、ラジカル補足剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0101】
(3−e)電池の形状、構成
以上のように説明してきた正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される、本発明に係る非水系電解質二次電池の形状は、円筒型、積層型など、種々のものとすることができる。
【0102】
いずれの形状をとる場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、この電極体に前記非水系電解液を含浸させる。また、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、並びに負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いてそれぞれ接続する。そして、以上のように構成したものを電池ケース内に密閉して、非水系電解質二次電池を完成させることができる。
【実施例】
【0103】
参考例1)
リチウムニッケル複合酸化物:LiNix1-x2において、添加元素MをCoおよびMnとして、Ni全原子数の20原子%をCoに置換し、20原子%をMnに置換した、LiNi0.60Co0.20Mn0.202(x=0.60に相当)を合成した。このとき、CoとMnからなる添加元素Mの平均価数はY=3.5であり、Niの平均価数は、Z=2.667となり、(4−Z)x=0.80となる。また、Li0.25Nix1-x2なる組成まで充電したときに、電荷増をNiのみで補償するとしても、4価のNiのモル数は、NiとCoとMnを合わせたモル数の55%となる。
【0104】
本例では、以上のようなLiNi0.60Co0.20Mn0.202を合成するために、まず、NiとCoとMnのモル比が60:20:20で固溶しているニッケル複合水酸化物を次のようにして得た。すなわち、硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンの混合水溶液を、その塩濃度が2mol/Lとなるように調製し、温度を50℃に保持し、水酸化ナトリウムを添加して、pHを11〜12の範囲に維持しつつ、共沈により沈殿物を得て、得られた沈殿物を乾燥することによりニッケル複合水酸化物を得た。
【0105】
得られたニッケル複合水酸化物は、1μm以下の一次粒子が複数集合した二次粒子からなっていた。
【0106】
得られたニッケル複合水酸化物と、ジェットミルで粉砕した市販の水酸化リチウム一水和物(ケメタル社製)とを、LiとNi、Co、Mnの合計とのモル比:Li/(Ni+Co+Mn)が1.05となるように秤量した後、球状の二次粒子の形骸が維持される程度の強さでシェーカーミキサを用いて十分に混合した。
【0107】
この混合物20gを、5cm×12cm×3cmのマグネシア製の焼成容器に挿入し、密閉式電気炉を用いて、流量3L/minの100%酸素気流中、500℃で、2時間、仮焼した後、昇温速度5℃/minで900℃まで昇温し、10時間焼成した後、室温まで炉冷した。
【0108】
得られたリチウムニッケル複合酸化物を質量比で水1に対して1.5投入してスラリーとし、30分間撹拌後、濾過、乾燥して正極活物質を得た。
【0109】
得られた正極活物質をX線回折で分析したところ、六方晶系の層状構造を有した正極活物質(LiNi0.60Co0.20Mn0.202)であった。粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラック)で測定した平均粒子径は、9.6μmであった。
【0110】
得られた正極活物質の初期容量評価は、以下のようにして行った。正極活物質粉末70質量%にアセチレンブラック20質量%およびPTFE10質量%を混合し、ここから150mgを取り出してペレットを作製し正極とした。
【0111】
負極としてリチウム金属を用い、電解液には1mol/LのLiClO4を支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合溶液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。そして、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス中で、図1に断面図を示すような、正極缶(5)中の正極(1)、負極缶(6)中の負極(2)、電解液含浸のセパレータ(3)、ガスケット(4)から構成される、2032型のコイン電池(B)を作製した。
【0112】
作製した電池は24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.5mA/cm2として、カットオフ電圧4.3Vまで充電して初期充電容量とし、1時間の休止後にカットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
【0113】
正極の安全性の評価は、前述と同様な方法で作製した2032型のコイン電池をカットオフ電圧4.5Vまで定電流定電圧(CCCV)方式で充電した後、短絡しないように注意しながら解体して正極を取り出した。この電極を3.0mg計り取り、電解液を1.3mg加えて、アルミニウム製測定容器に封入し、示差走査熱量計(DSC)(株式会社リガク製)を用いて、昇温速度10℃/minで室温から400℃まで発熱挙動を測定した。
【0114】
電池評価によって得られた初期放電容量とDSC測定から得られた正極の発熱量を表2に示す。
【0115】
(実施例2)
水酸化リチウム一水和物との混合前に、ニッケル複合水酸化物を、大気雰囲気中、300℃で、2時間、仮焼した後、700℃で、10時間、酸化焙焼したこと以外は、参考例1と同様にして正極活物質を得た。
【0116】
得られた正極活物質をX線回折で分析したところ、六方晶系の層状構造を有した正極活物質(LiNi0.60Co0.20Mn0.202)であった。また、その平均粒子径は9.8μmであった。
【0117】
得られた正極活物質の初期放電容量の評価は参考例1と同様に行い、得られた初期放電容量とDSC測定から得られた正極の発熱量を表2に示す。
【0118】
(実施例3)
水酸化リチウム一水和物との混合前に、ニッケル複合水酸化物を、大気雰囲気中、300℃で、2時間、仮焼した後、700℃で、10時間、酸化焙焼したこと、焼成温度を780℃で焼成したこと以外は、参考例1と同様にして正極活物質を得た。
【0119】
得られた正極活物質をX線回折で分析したところ、六方晶系の層状構造を有した正極活物質(LiNi0.60Co0.20Mn0.202)であった。また、その平均粒子径は9.7μmであった。
【0120】
得られた正極活物質の初期放電容量の評価は参考例1と同様に行い、得られた初期放電容量とDSC測定から得られた正極の発熱量を表2に示す。
【0121】
(実施例4)
水酸化リチウム一水和物との混合前に、ニッケル複合水酸化物を、大気雰囲気中、300℃で、2時間、仮焼した後、700℃で、10時間、酸化焙焼したこと、焼成温度を750℃で焼成したこと以外は、参考例1と同様にして正極活物質を得た。
【0122】
得られた正極活物質をX線回折で分析したところ、六方晶系の層状構造を有した正極活物質(LiNi0.60Co0.20Mn0.202)であった。また、その平均粒子径は9.6μmであった。
【0123】
得られた正極活物質の初期放電容量の評価は参考例1と同様に行い、得られた初期放電容量とDSC測定から得られた正極の発熱量を表2に示す。
【0124】
(比較例1)
リチウムニッケル複合酸化物(LiNix1-x2)において、添加元素MをCoおよびMnとして、Ni全原子数の10原子%をCoに置換し、10原子%をMnに置換した、LiNi0.80Co0.10Mn0.102(x=0.80に相当)を合成した。このときのCoとMnからなる添加元素Mの平均価数はY=3.5であり、Niの平均価数Z=2.875となり、(4−Z)x=0.90となる。また、Li0.25Nix1-x2なる組成まで充電したときに、電荷増をNiのみで補償するとしても、4価のNiのモル数はNiとCoとMnを合わせたモル数の65%となる。
【0125】
本例では、以上のようなLiNi0.80Co0.10Mn0.102を合成するために、NiとCoとMnのモル比が80:10:10(x=0.80に相当)となるように混合水溶液を調製したこと、焼成温度を800℃としたこと以外は、参考例1と同様にして正極活物質を得た。
【0126】
得られた正極活物質をX線回折で分析したところ、六方晶系の層状構造を有した正極活物質(LiNi0.80Co0.10Mn0.102)であった。また、その平均粒子径は10.3μmであった。
【0127】
得られた正極活物質の初期放電容量の評価は参考例1と同様に行い、得られた初期放電容量とDSC測定から得られた正極の発熱量を表2に示す。
【0128】
(比較例2)
リチウムニッケル複合酸化物(LiNix1-x2)において、添加元素MをCoおよびMnとして、Ni全原子数の33原子%をCoに置換し、33原子%をMnに置換した、LiNi0.34Co0.33Mn0.332(x=0.34に相当)を合成した。このときのCoとMnからなる添加元素Mの平均価数はY=3.5であり、Niの平均価数Z=2.000となり、(4−Z)x=0.68となる。したがって、電荷増をNiのみで補償する場合、Li0.25Nix1-x2となる組成まで充電することはできない。満充電時の4価のNiのモル数はNiとCoとMnを合わせたモル数の33%となる。
【0129】
本例では、以上のようなLiNi0.34Co0.33Mn0.332を合成するために、NiとCoとMnのモル比が34:33:33(x=0.34に相当)となるように混合水溶液を調製したこと以外は、参考例1と同様にして正極活物質を得た。
【0130】
得られた正極活物質をX線回折で分析したところ、六方晶系の層状構造を有した正極活物質(LiNi0.34Co0.33Mn0.332)であった。また、その平均粒子径は10.1μmであった。
【0131】
得られた正極活物質の初期放電容量の評価は参考例1と同様に行い、得られた初期放電容量とDSC測定から得られた正極の発熱量を表2に示す。
【0132】
(比較例3)
水酸化リチウム一水和物との混合前に、金属複合水酸化物を大気雰囲気中にて300℃で2時間仮焼した後、700℃にて10時間酸化焙焼したこと、焼成後に水洗しなかったこと以外は、参考例1と同様にして正極活物質を得た。
【0133】
得られた正極活物質をX線回折で分析したところ、六方晶系の層状構造を有した正極活物質(LiNi0.60Co0.20Mn0.202)であった。また、その平均粒子径は10.2μmであった。
【0134】
得られた正極活物質の初期放電容量の評価は参考例1と同様に行い、得られた初期放電容量とDSC測定から得られた正極の発熱量を表2に示す。
【0135】
【表1】
【0136】
【表2】
【0137】
表1から明らかなように、参考例1および実施例2〜4で合成した正極活物質は、(4−Z)x≧0.75という条件を満たし、かつ、理論容量の75%までLiを引き抜いたときの4価のNi量がNiとCoとMn全体の60%以下であり、さらに水洗工程を経ているため、182mAh/g以上の高い初期放電容量を有しながら、400J/g以下の小さい発熱量となっており、高容量と高安全性の両立が実現できていることがわかる。特に、酸化焙焼を行った実施例2〜4は、発熱量がさらに改善されて、発熱量が300J/g以下に抑えられているとともに、初期放電容量も改善されていることが理解される。
【0138】
一方、比較例1で合成した正極活物質は、(4−Z)xが0.75以上という条件を満たしているので、初期放電容量は十分高いものを有しているが、4価のNi量がNiとCoとMn全体の60%を超えているために、発熱量が大きく、安全性に劣る電池となっている。また、比較例2で合成した正極活物質は、4価のNi量がNiとCoとMn全体の60%以下となっているために発熱量が十分小さく、安全性の高い電池となっているが、(4−Z)xが0.75未満であるために、十分な初期放電容量が得られていない。また、比較例3に示した正極活物質は、(4−Z)x≧0.75という条件を満たし、かつ、4価のNi量がNiとCoとMn全体の60%以下であるので、400J/g以下の小さい発熱量となっているが、水洗工程を経ていないため、表面残留Li化合物が多く、十分な初期容量が得られていない。同様の工程で水洗工程を有する実施例2〜4と比較すると、初期容量も低く、発熱量がやや大きくなっていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0139】
安全性に優れていながら高い初期放電容量を有しているという本発明の非水系電解質二次電池のメリットを活かすためには、常に高容量を要求される小型携帯電子機器の電源としての用途が好適である。
【0140】
また、ハイブリッドカーや電気自動車の電源などの大型二次電池においては、大型化による安全性の確保の困難性ゆえ、より高度な安全性を確保するための高価な保護回路の装着が必要不可欠とされているが、本発明の非水系電解質二次電池は、優れた安全性を有しているために、安全性の確保が容易になるばかりでなく、高価な保護回路を簡略化し、より低コストにできるという点において、電気自動車などの電源としても好適である。
【符号の説明】
【0141】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4 ガスケット
5 正極缶
6 負極缶
B コイン電池
図1