特許第5973251号(P5973251)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポリプラスチックス株式会社の特許一覧

特許5973251ガラス繊維長分布導出装置、ガラス繊維分布導出用プログラム、及びガラス繊維分布導出用記録媒体
<>
  • 特許5973251-ガラス繊維長分布導出装置、ガラス繊維分布導出用プログラム、及びガラス繊維分布導出用記録媒体 図000008
  • 特許5973251-ガラス繊維長分布導出装置、ガラス繊維分布導出用プログラム、及びガラス繊維分布導出用記録媒体 図000009
  • 特許5973251-ガラス繊維長分布導出装置、ガラス繊維分布導出用プログラム、及びガラス繊維分布導出用記録媒体 図000010
  • 特許5973251-ガラス繊維長分布導出装置、ガラス繊維分布導出用プログラム、及びガラス繊維分布導出用記録媒体 図000011
  • 特許5973251-ガラス繊維長分布導出装置、ガラス繊維分布導出用プログラム、及びガラス繊維分布導出用記録媒体 図000012
  • 特許5973251-ガラス繊維長分布導出装置、ガラス繊維分布導出用プログラム、及びガラス繊維分布導出用記録媒体 図000013
  • 特許5973251-ガラス繊維長分布導出装置、ガラス繊維分布導出用プログラム、及びガラス繊維分布導出用記録媒体 図000014
  • 特許5973251-ガラス繊維長分布導出装置、ガラス繊維分布導出用プログラム、及びガラス繊維分布導出用記録媒体 図000015
  • 特許5973251-ガラス繊維長分布導出装置、ガラス繊維分布導出用プログラム、及びガラス繊維分布導出用記録媒体 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973251
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】ガラス繊維長分布導出装置、ガラス繊維分布導出用プログラム、及びガラス繊維分布導出用記録媒体
(51)【国際特許分類】
   B29B 7/90 20060101AFI20160809BHJP
   B29B 7/38 20060101ALI20160809BHJP
   B29C 47/38 20060101ALI20160809BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
   B29B7/90
   B29B7/38
   B29C47/38
   C08J5/04CFD
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-139090(P2012-139090)
(22)【出願日】2012年6月20日
(65)【公開番号】特開2014-771(P2014-771A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】平田 邦紘
(72)【発明者】
【氏名】平郡 元一
【審査官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−254837(JP,A)
【文献】 特開2012−045866(JP,A)
【文献】 特開2002−005924(JP,A)
【文献】 特開平08−134264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/90
B29B 7/38
B29C 47/38
C08J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂とガラス繊維束とを押出機で混練して成形してなる樹脂成形体中のガラス繊維の繊維長の分布を導出するガラス繊維長分布導出装置であって、
粒子追跡法により、所定の混練条件下で導出される、複数の仮想粒子のそれぞれが受けるせん断応力の時間分布をτ(t)とし、押出機内で各ガラス繊維に作用するせん断応力の時間分布τを下記式(I)で表したときに、押出量Qとスクリュー回転数Nsとを1組とする任意に決めた少なくとも2つの各混練条件での実測された平均繊維長Lを入力する実測値入力部と、
前記少なくとも2つの混練条件での、下記式(I)から導出される時間分布τに基づいて、各ガラス繊維が押出機内で切断される回数である切断回数を見積もり、前記切断回数から樹脂成形体中の各ガラス繊維長を導出し、このガラス繊維長から平均繊維長Lを算出し、算出した平均繊維長Lと前記実測値入力部から入力された平均繊維長Lとを比較したときに、算出した平均繊維長Lと前記実測値入力部から入力された平均繊維長Lとの誤差が所望の範囲内である場合は、前記切断回数の見積もりの際に用いられたβ、γをガラス繊維長分布の導出に用いる定数β、γとし、前記誤差が前記所望の範囲内にない場合は、前記切断回数の見積もりの際に用いられたβ、γの少なくとも一方を変更して、前記切断回数の見積もり、前記各ガラス繊維長の導出、前記平均繊維長Lの算出、及び算出した平均繊維長Lと前記実測値入力部から入力された平均繊維長Lとの比較を繰り返す定数導出部と、
押出量Qとスクリュー回転数Nsとを1組とする任意に決めた混練条件で、各ガラス繊維に作用するせん断応力の時間分布を下記式(I)から導出し、各ガラス繊維が押出機内で切断される回数である切断回数を見積もり、前記切断回数から樹脂成形体中の各ガラス繊維長を導出し、このガラス繊維長に基づいて、ガラス繊維長分布を導出するガラス繊維長分布導出部とを有し、
前記切断回数の見積もりにβ、γを用いる際、γはβ以上の値であり、かつ、γは0.65以上0.9以下である、ガラス繊維長分布導出装置。

τ(t)=τ(t)/(Qβ/Nsγ) (I)

(上記式(I)中の、Qは押出量、Nsはスクリュー回転数、β、γは定数である。)
【請求項2】
各ガラス繊維が押出機内で切断された際に1回の切断毎に繊維長がB分割されるとしたときに、各ガラス繊維の押出機内での切断回数nとn回目の切断に必要なせん断応力τCRとの関係を下記式(II)で表し、前記τが前記τCR以上の場合にn回目の切断が起こるとし、
各ガラス繊維のそれぞれについて、押出機に供給する前の繊維長をLbefore、成形後の樹脂成形体内のガラス繊維の繊維長をLafter、Lafterを下記式(III)で表したときに、
前記定数導出部は、下記(ステップ1)〜(ステップ6)から定数A、C、β、γを導出し、
前記ガラス繊維長分布導出部は、押出量Qとスクリュー回転数Nsとを1組とする任意に決めた混練条件での、成形後の各ガラス繊維の繊維長Lafterを、前記定数導出部で導出した定数A、C、β、γ、前記式(I)及び下記式(II)、(III)とに基づき導出し、導出された各ガラス繊維の繊維長Lafterに基づいて、樹脂成形体中のガラス繊維の繊維長の分布を導出する請求項に記載のガラス繊維長分布導出装置。

(ステップ1)押出量Qとスクリュー回転数Nsとを1組とする混練条件を少なくとも3つ設定し、各混練条件で成形されたそれぞれの樹脂成形体中のガラス繊維の平均繊維長Lを実測するステップ。
(ステップ2)定数β、γに任意に決めた値を代入して、各混練条件でのτ前記式(I)に基づいて導出するステップ。
(ステップ3)定数Aに任意に決めた値を代入し、切断に必要なせん断応力τCRを切断回数毎に算出するステップ。
(ステップ4)切断回数毎に算出された切断に必要なせん断応力τCRと、ステップ2で導出した各ガラス繊維に作用するせん断応力の経時変化を表すτとを対比して、成形時に各ガラス繊維が切断される回数を導出するステップ。
(ステップ5)ステップ4で導出した各ガラス繊維の切断回数を下記式(III)のnに代入し各ガラス繊維の樹脂成形体中での繊維長Lafterを算出して、算出された各ガラス繊維の繊維長Lafterに基づいて、各混練条件でのガラス繊維長分布を導出するステップ。
(ステップ6)ステップ5で導出したガラス繊維長分布に基づいて、各混練条件におけるガラス繊維の平均繊維長を導出し、これらをステップ1で導出した各混練条件における平均繊維長の実測値と対比して、誤差が所望の値以下の場合には、定数A、C、β、γをステップ2及び3で決めた値とし、誤差が所望の値を超える場合には、上記ステップ2〜6を繰り返すステップ。

τCR=A×C (II)

after=Lbefore/B (III)

(上記式(II)、(III)中の、Aは定数、nは0以上の整数、Bは1を超える整数である。)
【請求項3】
熱可塑性樹脂とガラス繊維束とを押出機で混練して成形してなる樹脂成形体中のガラス繊維の繊維長の分布を導出するガラス繊維長分布導出装置であって、
粒子追跡法により、所定の混練条件下で導出される、複数の仮想粒子のそれぞれが受けるせん断応力の時間分布をτ(t)とし、
押出機内で各ガラス繊維に作用するせん断応力の時間分布τを下記式(I)で表したときに、
樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂組成物の種類毎に固有のβ、γを記憶する記憶部と、
成形に使用する熱可塑性樹脂組成物に固有のβ、γを前記記憶部から選択し、押出量Qとスクリュー回転数Nsとを1組とする任意に決めた混練条件で、各ガラス繊維に作用するせん断応力の時間分布を下記式(I)から導出し、各ガラス繊維が押出機内で切断される回数である切断回数を見積もり、前記切断回数から樹脂成形体中の各ガラス繊維長を導出し、このガラス繊維長に基づいて、ガラス繊維長分布を導出するガラス繊維長分布導出部とを備えるガラス繊維長分布導出装置。

τ(t)=τ(t)/(Qβ/Nsγ) (I)

(上記式(I)中の、Qは押出量、Nsはスクリュー回転数、β、γは定数である。)
【請求項4】
請求項1からのいずれかに記載のガラス繊維長分布導出装置の機能をコンピュータで実現するためのガラス繊維分布導出用プログラム。
【請求項5】
請求項記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能なガラス繊維分布導出用記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維長分布導出装置、ガラス繊維分布導出用プログラム、及びガラス繊維分布導出用記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂にガラス繊維を混合混練し、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形体を製造する方法としては、押出機に熱可塑性樹脂を供給し溶融させた後に、ガラス繊維を押出機に供給し、押出機内で熱可塑性樹脂とガラス繊維とを混合混練し、混合物を冷却、造粒する方法が一般的である。押出機は、単軸押出機と同方向完全噛み合い型二軸押出機(以下、二軸押出機という場合がある)が使用されるが、単軸押出機と比較して、二軸押出機は生産性と運転の自由度がより高いので、二軸押出機がより好ましく用いられる。
【0003】
上記ガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形体の製造において、ガラス繊維として、直径が6μm〜20μmのモノフィラメントを300本〜3000本くらいをまとめてひとつの束にしてロービングに巻き取ったものか、ロービングを長さ1〜4mmにカットしたもの(以下、チョップドストランドという場合がある)を使用する。取り扱いは、チョップドガラスの方が便利であるため、工業的にガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形体を製造する場合においては、チョップドガラスを使用する場合が多い。
【0004】
ガラス繊維としては、前述のように、300本〜3000本のモノフィラメントが、束になったチョップドストランドを一般的に使用する。ガラス繊維をモノフィラメントの束にせずに二軸押出機に供給する方法では、モノフィラメントが綿状になり、流動性がなくなり、取り扱いが難しいためである。チョップドストランドは、二軸押出機内で、解繊されモノフィラメントになるまで混合混練される。同時に、モノフィラメントの長さが、300μm〜1000μmになるまでチョップドストランドは切断される。
【0005】
樹脂成形体中に存在するモノフィラメントの長さは、熱可塑性樹脂成形体の品質に大きな影響を与える。このため、樹脂成形体中のモノフィラメントの長さ、ガラス繊維長の分布の制御が、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形体の価値を決定する重要な要素である。樹脂成形体中のガラス繊維の繊維長が短すぎると、樹脂成形体の機械的強度の不足を招く。一方、ペレット状の上記ガラス繊維強化樹脂成形体を原料として、薄肉部等を有する樹脂成形体である精密樹脂成形体を成形する場合には、ペレット状の樹脂成形対中のガラス繊維長が長いと、加工時に流動障害を起こし、成形ができたとしても、充填不足により樹脂成形体が未完成品となるか、樹脂成形体の外観不良又は品質低下の原因となる。
【0006】
ところで、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形体からなる製品の製造においては、樹脂成形体の生産性を改善することが重要となる。製品の生産性を高めるために、特許文献1に記載の高機能の二軸押出機が使用される。しかし、生産性を高めようとすると、製品である樹脂成形体中のガラス繊維長の制御がより難しくなる。生産者としては、製品の品質を、安定させることが重要であるので、生産性にかかわらず、一定のガラス繊維長分布を維持する技術が求められる。
【0007】
製品である樹脂成形体に含まれるガラス繊維のガラス繊維量分布は、実験の繰り返しによって成形条件等を調整することで安定させるが、二軸押出機を使用する実験には、膨大な費用と時間がかかるので、費用と時間の削減の観点から、製品中のガラス繊維長分布を導出するシミュレーションの開発は非常に有用である。
【0008】
二軸押出機の流動解析が可能なソフトウェアとしては、日本製鋼所が開発した「TEX−FAN」、Polymer Processing Instituteが開発した「TXS」、Paferborn大学の「SIGMA」、CEMEFによる「LUDOVIC」が「AKRO−CO−TWIN SCREW」が知られている。これらのソフトウェアでは、ニ軸押出機の軸方向に対する樹脂温度、圧力、充満率、固有占有率等の分布が計算できる。
【0009】
近年、さらに開発が進み、アンシス社の「ポリフロー」、「アンシスCFX」、「Fluent」、アールフロー社の「ScrewFlow−Multi」では、二軸押出機内3次元非等温流動解析が可能になり、さらに粒子追跡解析により、二軸押出機内での粘度、せん断速度、せん断応力、滞留時間等が把握できるようになった。
【0010】
つまり、上記のソフトウェアを用いることで、同方向完全噛み合い型二軸押出機内の樹脂挙動を解析し、トレーサー粒子を配置して、トレーサー粒子にかかる局所情報を収集(粒子追跡解析)することにより、二軸押出機内のせん断応力の発生状況を把握できる。この二軸押出機内のせん断応力の発生状況から、製品中のガラス繊維長分布を推定することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表平11−512666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記の方法では、製品中のガラス繊維長の分布を高い精度で予測できない。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、熱可塑性樹脂とガラス繊維束とを押出機で混練して成形してなる樹脂成形体中のガラス繊維の繊維長の分布を高い精度で予測する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、粒子追跡法で導出した各トレーサー粒子に作用するせん断応力の時間分布を(Qβ/Nsγ)で割ったものを、各ガラス繊維に作用するせん断応力の時間分布とみなすことで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0015】
(1) 熱可塑性樹脂とガラス繊維束とを押出機で混練して成形してなる樹脂成形体中のガラス繊維の繊維長の分布を導出するガラス繊維長分布導出装置であって、
粒子追跡法により、所定の混練条件下で導出される、複数の仮想粒子のそれぞれが受けるせん断応力の時間分布をτ(t)とし、
押出機内で各ガラス繊維に作用するせん断応力の時間分布τを式(I)で表したときに、
押出量Qとスクリュー回転数Nsとを1組とする任意に決めた少なくとも2つの各混練条件での実測された平均繊維長Lを入力する実測値入力部と、
前記少なくとも2つの混練条件での、式(I)から導出される時間分布τに基づいて、各ガラス繊維が押出機内で切断される回数である切断回数を見積もり、前記切断回数から樹脂成形体中の各ガラス繊維長を導出し、このガラス繊維長から平均繊維長Lを算出したときに、前記実測値入力部から入力された平均繊維長Lとの誤差が所望の範囲になるように、β、γを導出する定数導出部と、
押出量Qとスクリュー回転数Nsとを1組とする任意に決めた混練条件で、各ガラス繊維に作用するせん断応力の時間分布を下記式(I)から導出し、各ガラス繊維が押出機内で切断される回数である切断回数を見積もり、前記切断回数から樹脂成形体中の各ガラス繊維長を導出し、このガラス繊維長に基づいて、ガラス繊維長分布を導出するガラス繊維長分布導出部とを有するガラス繊維長分布導出装置。

τ(t)=τ(t)/(Qβ/Nsγ) (I)

(上記式(I)中の、Qは押出量、Nsはスクリュー回転数、β、γは定数である。)
【0016】
(2) 前記γは前記β以下の値であり、且つ0.65以上0.9以下である(1)に記載のガラス繊維長分布導出装置。
【0017】
(3) 各ガラス繊維が押出機内で切断された際に1回の切断毎に繊維長がB分割されるとしたときに、各ガラス繊維の押出機内での切断回数nとn回目の切断に必要なせん断応力τCRとの関係を下記式(II)で表し、前記τが前記τCR以上の場合にn回目の切断が起こるとし、
各ガラス繊維のそれぞれについて、押出機に供給する前の繊維長をLbefore、成形後の樹脂成形体内のガラス繊維の繊維長をLafter、Lafterを下記式(III)で表したときに、
前記定数導出部は、下記(ステップ1)〜(ステップ6)から定数A、β、γを導出し、
前記ガラス繊維長分布導出部は、押出量Qとスクリュー回転数Nsとを1組とする任意に決めた混練条件での、成形後の各ガラス繊維の繊維長Lafterを、前記定数導出工程で導出した定数A、C、β、βNsと下記式(I)〜(III)とに基づき導出し、導出された各ガラス繊維の繊維長Lafterに基づいて、樹脂成形体中のガラス繊維の繊維長の分布を導出する(1)又は(2)に記載のガラス繊維長分布導出装置。

(ステップ1)押出量Qとスクリュー回転数Nsとを1組とする混練条件を少なくとも3つ設定し、各混練条件で成形されたそれぞれの樹脂成形体中のガラス繊維の平均繊維長Lを実測するステップ。
(ステップ2)定数β、γに任意に決めた値を代入して、各混練条件でのτを下記式(I)に基づいて導出するステップ。
(ステップ3)定数A、Cに任意に決めた値を代入し、切断に必要なせん断応力τCRを切断回数毎に算出するステップ。
(ステップ4)切断回数毎に算出された切断に必要なせん断応力τCRと、ステップ2で導出した各ガラス繊維に作用するせん断応力の経時変化を表すτとを対比して、成形時に各ガラス繊維が切断される回数を導出するステップ。
(ステップ5)ステップ4で導出した各ガラス繊維の切断回数を式(III)のnに代入し、各ガラス繊維の樹脂成形体中での繊維長Lafterを算出して、算出された各ガラス繊維の繊維長Lafterに基づいて、各混練条件でのガラス繊維長分布を導出するステップ。
(ステップ6)ステップ5で導出したガラス繊維長分布に基づいて、各混練条件におけるガラス繊維の平均繊維長を導出し、これらをステップ1で導出した各混練条件における平均繊維長の実測値と対比して、誤差が所望の値以下の場合には、定数A、C、β、γをステップ2、3で決めた値とし、誤差が所望の値を超える場合には、ステップ2〜6を繰り返すステップ。

τCR=A×C (II)

after=Lbefore/B (III)

(式(II)、(III)中の、Aは定数、nは0以上の整数、Bは1を超える整数であり、Bは1を超える実数である。)
【0018】
(4) 前記γは前記β以下の値であり、且つ0.65以上0.9以下である(3)に記載のガラス繊維長分布導出装置。
【0019】
(5) 熱可塑性樹脂とガラス繊維束とを押出機で混練して成形してなる樹脂成形体中のガラス繊維の繊維長の分布を導出するガラス繊維長分布導出装置であって、
粒子追跡法により、所定の混練条件下で導出される、複数の仮想粒子のそれぞれが受けるせん断応力の時間分布をτ(t)とし、
押出機内で各ガラス繊維に作用するせん断応力の時間分布τを式(I)で表したときに、
樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂組成物の種類毎に固有のβ、γを記憶する記憶部と、
成形に使用する熱可塑性樹脂組成物に固有のβ、γを前記記憶部から選択し、押出量Qとスクリュー回転数Nsとを1組とする任意に決めた混練条件で、各ガラス繊維に作用するせん断応力の時間分布を下記式(I)から導出し、各ガラス繊維が押出機内で切断される回数である切断回数を見積もり、前記切断回数から樹脂成形体中の各ガラス繊維長を導出し、このガラス繊維長に基づいて、ガラス繊維長分布を導出するガラス繊維長分布導出部とを備えるガラス繊維長分布導出装置。

τ(t)=τ(t)/(Qβ/Nsγ) (I)

(上記式(I)中の、Qは押出量、Nsはスクリュー回転数、β、γは定数である。)
【0020】
(6) (1)から(5)のいずれかに記載のガラス繊維長分布導出装置の機能をコンピュータで実現するためのガラス繊維分布導出用プログラム。
【0021】
(7) (6)記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能なガラス繊維分布導出用記録媒体。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、熱可塑性樹脂とガラス繊維束とを押出機で混練して成形してなる樹脂成形体中のガラス繊維の繊維長の分布を高い精度で予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は第一実施形態のガラス繊維長分布導出装置の概略構成を示すブロック図である。
図2図2は第一実施形態のガラス繊維長分布導出装置によるガラス繊維長分布導出過程を示すフローチャートである。
図3図3は第二実施形態のガラス繊維長分布導出装置によるガラス繊維長分布導出過程を示すフローチャートである。
図4図4は第三実施形態のガラス繊維長分布導出装置の概略構成を示すブロック図である。
図5図5は第三実施形態のガラス繊維長分布導出装置によるガラス繊維長分布導出過程を示すフローチャートである。
図6図6は、実施例で使用した押出機のスクリュー構成を示す模式図である。
図7図7は、実施例で使用した具体的なスクリューパターンを示す図である。
図8図8は、実施例で使用した具体的なスクリュー形状を示す図である。
図9図9は、実施例で導出したガラス繊維長分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0025】
本発明においては、粒子追跡法により、所定の混練条件下で導出される、複数の仮想粒子のそれぞれが受けるせん断応力の時間分布をτ(t)とし、押出機内で各ガラス繊維に作用するせん断応力の時間分布τを式(I)で表す。

τ(t)=τ(t)/(Qβ/Nsγ) (I)
(上記式(I)中の、Qは押出量、Nsはスクリュー回転数、β、γは定数である。)
【0026】
通常、粒子追跡法により導出される各仮想粒子のそれぞれに作用するせん断応力の時間分布τ(t)を、押出機内で各ガラス繊維のそれぞれに作用するせん断応力の時間分布とみなすが、本発明では、押出機内で各ガラス繊維のそれぞれに作用するせん断応力の時間分布τ(t)を、τ(t)を(Qβ/Nsγ)で割ったものとして考える。これは、解析モデルを固定したシミュレーションでは充満長の変化や解析領域外の影響が考慮できていないと考えられるためである。よって、スクリュ回転数変化による充満長変化及び撹拌能力変化を考慮する必要がある。βにはスクリューエレメントによる搬送能力という技術的意味があり、搬送能力が異なれば一時間当たりの押出量に影響を与えるためβはQβとして考慮する。また、γにはスクリューエレメントによる撹拌能力という技術的意味があり、攪拌能力が異なれば単位押出量当たりの攪拌の程度が異なるため、γはNsγとして考慮する。したがって、(Qβ/Nsγ)にはスクリューエレメント1回転当たりにおいて搬送能力と撹拌能力の比という技術的意味がある。また、(Q/Ns)に乗数を付けた場合よりも、QとNsに個別に乗数を付けた方が、見積り勾配を急にすることができる。スクリュー回転数を増加させた場合、解析領域外での影響が無視できないため、撹拌性能に重みをつける(β≧γ)ように設定することが予測精度を上げることになると考えられる。このようにして、搬送能力と攪拌能力とを考慮することで、押出機内で各ガラス繊維のそれぞれに作用するせん断応力の時間分布をより正確に表すことができると推測される。押出機内で各ガラス繊維に作用するせん断応力の時間分布τ(t)をより正確に表すことができるため、熱可塑性樹脂とガラス繊維束とを押出機で混練して成形してなる樹脂成形体中のガラス繊維の繊維長の分布を高い精度で予測することができると考えられる。
【0027】
上記樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂とガラス繊維とを含むものであればよい。定数A、Cは、熱可塑性樹脂組成物に固有の値であり、混練条件であるQ、Nsを変更しても変化しないと考える。例えば、熱可塑性樹脂の種類や、熱可塑性樹脂の含有量、ガラス繊維の含有量等が異なる2種類の熱可塑性樹脂組成物は、それぞれ固有のA、Cを有すると考える。
【0028】
また、熱可塑性樹脂組成物は、安定剤、酸化防止剤、顔料、核剤等のその他の成分を含んでもよい。
【0029】
また、後述する本発明は、押出機の種類によらず実施することができる。例えば、単軸押出機、二軸押出機のいずれの押出機を使用する場合であっても、樹脂成形体中のガラス繊維長分布を高い精度で予測することができる。
【0030】
<ガラス繊維長分布導出装置の第一実施形態>
第一実施形態のガラス繊維量分布導出装置について、図1に基づいて説明する。図1は第一実施形態のガラス繊維長分布導出装置の概略構成を示すブロック図である。図1に示す通り、第一実施形態のガラス繊維長分布導出装置1は、実測値入力部2と、定数導出部3と、ガラス繊維長分布導出部4と、出力部5とを有する。
【0031】
実測値入力部2は、押出量Qとスクリュー回転数Nsとを1組とする任意に決めた少なくとも2つの各混練条件で実際に樹脂成形体を製造した場合に、実測されたガラス繊維の平均繊維長Lが入力される。例えば、キーボード、マウス等の入力手段を実測値入力部2として用いることができる。また、入力された実測値は、定数導出部3に送信される。
【0032】
定数導出部3は、上記少なくとも2つの混練条件での、上記式(I)から導出される時間分布τに基づいて、各ガラス繊維が押出機内で切断される回数である切断回数を見積もり、切断回数から樹脂成形体中の各ガラス繊維の繊維長分布を導出し、このガラス繊維長分布から平均繊維長Lを算出したときに、この算出結果が実測値入力部から入力された平均繊維長Lとの誤差が所望の範囲になるように、β、γを導出する。例えば、従来公知の計算機に、上記少なくとも2つの混練条件、実測されたガラス繊維の平均繊維長Lを、キーボード等から入力して、上記式(I)を用いて計算させることで、β、γを導出することができる。また、定数導出部3は、ガラス繊維長分布導出部4にβ、γを送信する。
【0033】
ガラス繊維長分布導出部4は、押出量Qとスクリュー回転数Nsとを1組とする任意に決めた混練条件で、各ガラス繊維に作用するせん断応力の時間分布を上記式(I)から導出し、各ガラス繊維が押出機内で切断される回数である切断回数を見積もり、この切断回数から樹脂成形体中の各ガラス繊維長を導出し、このガラス繊維長に基づいて、ガラス繊維長分布を導出する。例えば、従来公知の計算機に、定数導出部3で導出したβ、γを定数導出部3から受信し、キーボード等の入力手段を用いて任意に決めた混練条件を入力し、上記式(I)を用いて計算させることで、ガラス繊維長分布を導出することができる。また、ガラス繊維長分布導出部4は、導出したガラス繊維長分布を出力部5に送信する。
【0034】
出力部5は、ガラス繊維長分布導出部4から受信したガラス繊維長分布を出力するための出力装置であり、例えば、ディスプレイ等の表示装置、プリンタ等を出力部5として用いることができる。
【0035】
続いて、図2に示すフローチャートを参照しながら、ガラス繊維長分布導出装置1によるガラス繊維長分布導出過程について説明する。
【0036】
S1では、実測値入力部2に入力するための、押出量Qとスクリュー回転数Nsとを1組とする任意に決めた少なくとも2つの各混練条件で実際に成形を行い、各条件で成形される樹脂成形体のそれぞれについて、樹脂成形体中に含まれるガラス繊維の平均繊維長を導出する。
【0037】
上記少なくとも2つの混練条件は、一般的な成形条件の中から少なくとも2つの混練条件を選択すればよい。一般的な混練条件は、樹脂成形体に含まれる熱可塑性樹脂の種類等によって異なる。2つの混練条件を導出する理由は、導出する定数がβとγの2つであるため、関係式を2つ立てる必要があるからである。したがって、予測の精度をより高めるために、3つ以上の混練条件で、樹脂成形体中のガラス繊維の平均繊維長を実測してもよいが、2つの混練条件であっても精度の高い予測を実現するためのβとγを導出できる。
【0038】
樹脂成形体中のガラス繊維の繊維長を実測する方法は特に限定されないが、例えば、下記(1)〜(6)の手順で実測することができる。
(1)所定量の熱可塑性樹脂成形体を所定の条件で加熱し灰化させる。
(2)灰化させた後の灰分を秤量し、ポリエチレングリコール水溶液等の水溶液に分散させる。
(3)分散液5mlを採取し、シャーレに均一に注ぎ入れる。
(4)実体顕微鏡(20倍)を用いて画像を取り込む。
(5)取り込んだ各々の画像を2値化し、画像処理解析装置を用いて充填剤のサイズを測定する。
(6)必要に応じて、測定された値の平均繊維長(例えば、重量平均繊維長)をガラス繊維の繊維長として導出する。
【0039】
なお、実測には、従来公知のシミュレーション装置等を用いて導出したものも含むが、ガラス繊維長分布の予測の精度を高めるためには、押出機で実際に成形した樹脂成形体中に含まれるガラス繊維の平均繊維長を実際に計測する方が好ましい。
【0040】
なお、既に、少なくとも2つの任意の混練条件で成形した樹脂成形体中のガラス繊維の平均繊維長のデータが存在している場合には、S1で記載した実測を行わなくてもよく、既に存在しているデータを用いてS2の操作を行えばよい。
【0041】
S2は、S1で得たガラス繊維の平均繊維長を、操作者が、実測値入力部2に入力する。入力された実測値は定数導出部3に送られる。
【0042】
S3は、定数導出部3で、式(I)から導出される時間分布τに基づいて、各ガラス繊維が押出機内で切断される回数である切断回数を見積もる。この段階では、β、γの値は決定されていないが、β、γの値を仮で特定の値に決定することで、各混練条件の時間分布τを仮で決定することができる。
【0043】
この仮で決めた時間分布τを用いて各ガラス繊維が押出機内で切断される回数を見積もる方法は特に限定されないが、例えば、押出機に投入される前の1本のガラス繊維の繊維長や繊維径に基づいて、ガラス繊維の切断に必要な力を予め見積もっておき、この見積もった力を参考に切断回数を見積もることができる。
【0044】
S4は、定数導出部3で、上記S3で見積もった各切断回数から樹脂成形体中の各ガラス繊維の繊維長を混練条件毎に導出する。切断回数は、押出機に投入する前のガラス繊維が何分割されるかを表すが、分割されたガラス繊維のそれぞれの長さを表さない。ここでは、1本のガラス繊維から分割されたガラス繊維のそれぞれが全て同じ長さになる等の仮定をして導出すればよい。
【0045】
S5は、定数導出部3で、上記S4で導出した樹脂成形体に含まれる各ガラス繊維の繊維長に基づいて平均繊維長Lを混練条件毎に算出する。S1で実測された平均繊維長が重量平均繊維長であれば重量平均繊維長を算出し、S1で実測された平均繊維長が数平均繊維長であれば数平均繊維長を算出する。
【0046】
S6は、定数導出部3で、混練条件毎に導出されたガラス繊維の平均繊維長と、S1で得た平均繊維長の実測値とを比較し、S6で導出された平均繊維長の、S1で得た平均繊維長からの誤差が所望の範囲内であれば、定数導出部3は、S3で決めたβ、γを上記式(I)のβ、γとして、ガラス繊維長分布導出部4に送る。上記誤差が所望の範囲に無い場合には、S3で仮決めしたβ、γの少なくとも一方を変更してS3〜S6の操作を繰り返す。
【0047】
許容する誤差の所望の範囲は、求める予測の精度に応じて任意に設定することができるが、±10%以内に所望の範囲を設定すれば、非常に精度良くガラス繊維長分布を導出できる場合が多い。
【0048】
また、上記誤差が所望の範囲に入らず、S3〜S6を繰り返すことになったとしても、求める定数がβ、γの2種類であるため、一般的な計算機であればS3〜S6を繰り返し、上記誤差が所望の範囲に入るβとγを容易に決定することができる。
【0049】
なお、スクリュー回転数を増加させることで、解析領域外での破断効果が考えられるという理由で、γはβ以下の値であり、0.65以上0.9以下である場合が多いため、これらを参考にすることで、β、γの決定がさらに容易になる。
【0050】
S7は、ガラス繊維長分布導出部4で、押出量Qとスクリュー回転数Nsとを1組とする任意に決めた混練条件での、各ガラス繊維に作用するせん断応力の時間分布を下記式(I)から導出する。ここでは、操作者がどのような混練条件でのガラス繊維長分布を導出したいかによって適宜決定すればよい。
【0051】
ここでは、S6の操作で、定数導出部3からガラス繊維長分布導出部4に送られたβ、γの値と、本実施形態の装置に接続されたキーボードやマウス等の入力手段から入力された任意に決定された混練条件とに基づいて、各ガラス繊維に作用するせん断応力の時間分布τを導出する。
【0052】
S8では、ガラス繊維長分布導出部4で、S7で導出された時間分布τに基づいて、各ガラス繊維が押出機内で切断される回数である切断回数を見積もる。切断回数を見積もる方法は特に限定されず、S3と同様の方法で見積もればよい。
【0053】
S9では、S8で求めた切断回数から、押出機に供給される前の各ガラス繊維が何本のガラス繊維に分割されるかを導出し、分割されたガラス繊維のそれぞれの長さを導出して、この導出結果に基づいて、樹脂成形体中のガラス繊維長分布を導出する。押出機に供給される前の各ガラス繊維が何本のガラス繊維に分割され、分割されたガラス繊維のそれぞれの長さがどの程度になるかの導出についてはS4と同様に行うことができる。
【0054】
<ガラス繊維長分布導出装置の第二実施形態>
第二実施形態のガラス繊維長分布導出装置では、下記(1)〜(2)を前提として定数導出部3、ガラス繊維長分布導出部4が機能できる点で第一実施形態のガラス繊維長分布導出装置と異なる。第二実施形態のガラス繊維長分布導出装置の概略構成は、第一実施形態のものと同様である。このため、各構成の説明は省略する。
(1)各ガラス繊維が押出機内で切断された際に1回の切断毎に繊維長がB分割されるとしたときに、各ガラス繊維の押出機内での切断回数nとn回目の切断に必要なせん断応力τCRとの関係を下記式(II)で表し、τがτCR以上の場合にn回目の切断が起こるとする。なお、Bの値は、ガラス繊維長分布を導出する際に、任意に決定することができる。
(2)各ガラス繊維のそれぞれについて、押出機に供給する前の繊維長をLbefore、成形後の樹脂成形体内のガラス繊維の繊維長をLafter、Lafterを下記式(III)で表す。

τCR=A×C(II)

after=Lbefore/B (III)

(上記式(II)、(III)中の、Aは定数、nは0以上の整数、Bは1を超える整数、Cは1を超える実数である。)
【0055】
具体的には、定数導出部3は、下記(ステップ1)〜(ステップ6)の手順で、定数A、C、β、γを導出する。ガラス繊維長分布導出部4は、上記の手順で導出された定数と、式(I)〜(III)とに基づきガラス繊維長分布を導出する。
【0056】
図3に示すフローチャートを参照しながら、第二実施形態のガラス繊維長分布導出装置によるガラス繊維長分布導出過程について説明する。先ず、第二実施形態のガラス繊維長分布導出装置においては、下記の(ステップ1)〜(ステップ6)の手順でガラス繊維長分布を導出する。
【0057】
(ステップ1)は、図3のフローチャート中のS10であり、押出量Qとスクリュー回転数Nsとを1組とする混練条件を少なくとも3つ設定し、各混練条件で成形されたそれぞれの樹脂成形体中のガラス繊維の平均繊維長Lを実測するステップである。「少なくとも2つ」が「少なくとも3つ」である以外はS1と同様である。
【0058】
S11は、S10で得たガラス繊維の平均繊維長を、操作者が、実測値入力部2に入力する。入力された実測値は定数導出部3に送られる。S11は入力するデータが少なくとも3つである以外はS2と同様である。
【0059】
(ステップ2)は、図3のフローチャート中のS12であり、定数β、γ、に任意に決めた値を代入して、各混練条件でのτを式(I)に基づいて導出するステップである。
【0060】
(ステップ3)は、図3のフローチャート中のS13であり、定数A、Cに任意に決めた値を代入し、切断に必要なせん断応力τCRを切断回数毎に算出するステップである。A、Cは仮決めした値が使用され、Bは任意に決めた値が使用される。このため、nに0以上の整数を代入することで、切断回数毎の切断に必要なせん断応力τCRを導出できる。
【0061】
(ステップ4)は、図3のフローチャート中のS14であり、切断回数毎に算出された切断に必要なせん断応力τCRと、ステップ2で導出した各ガラス繊維に作用するせん断応力の経時変化を表すτとを対比して、成形時に各ガラス繊維が切断される回数を導出するステップである。例えば、先ず、τ(t)の中で1回目の切断に必要なせん断応力を最も早く超えるときに1回目の切断が起こると考える。1回目の切断後、τ(t)の中で2回目の切断に必要なせん断応力を最も早く超えるときに2回目の切断が起こると考える。このように考えることで、切断回数を見積もることができる。
【0062】
(ステップ5)は、図3のフローチャート中のS15であり、ステップ4で導出した各ガラス繊維の切断回数を下記式(III)のnに代入し各ガラス繊維の樹脂成形体中での繊維長Lafterを算出して、算出された各ガラス繊維の繊維長Lafterに基づいて、各混練条件でのガラス繊維長分布を導出する。例えば、1本目のガラス繊維について、ステップ4で導出された切断回数とBの値とから、分割後のガラス繊維の本数と長さとを導出できる。これを2本目のガラス繊維、3本目のガラス繊維と多くのガラス繊維で行うことでガラス繊維長分布を導出することができる。ここでは、粒子追跡法で設定した仮想粒子の数と同じ数のガラス繊維についてデータを取得することができる。なお、一定の精度でガラス繊維長分布が取得できればよいため、仮想粒子の数よりも少ない数のガラス繊維のデータに基づいてガラス繊維長分布を導出してもよい。
【0063】
(ステップ6)は、図3のフローチャート中のS16であり、ステップ5で導出したガラス繊維長分布に基づいて、各混練条件におけるガラス繊維の平均繊維長を導出し、これらをステップ1で導出した各混練条件における平均繊維長の実測値と対比して、誤差が所望の値以下の場合には、定数A、C、β、γをステップ2及び3で決めた値とし、誤差が所望の値を超える場合には、上記ステップ2〜6を繰り返す。
【0064】
誤差が所望の範囲に入らない場合であっても、求める定数は3つであるため、一般的な計算機を用いればステップ2〜ステップ6を繰り返すことで、容易に定数A、C、β、γを導出することができる。
【0065】
なお、γをβ以上の値とし、且つγを0.65以上0.9以下にすることで、誤差を所望の範囲内に抑えやすくなる。そして、Aが1000以上100000以下、Cが1.5以上4.5以下であればより予測精度が高まり、誤差が小さくなる。Cがこの範囲外になると、破断応力曲線の傾きが現実の応力曲線と適合しにくくなる場合も多く、予測を精度良く行えない場合がある。
【0066】
このようにして導出された定数A、C、β、γは、定数導出部3からガラス繊維長分布導出部4に送られる。
【0067】
S17では、ガラス繊維長分布導出部4で、押出量Qとスクリュー回転数Nsとを1組とする任意に決めた混練条件での、押出機内で各ガラス繊維に作用するせん断応力の時間分布τを、定数導出部3で導出した定数β、γと、上記式(I)とに基づいて導出する工程である。
【0068】
S18では、ガラス繊維長分布導出部4で、定数導出部3で導出した定数A、C、ステップ3(S13)を式(II)に代入し、切断回数毎のτCRを導出する。
【0069】
S19では、ガラス繊維長分布導出部4で、S17で導出したせん断応力の時間分布τと、S18で導出した切断回数毎のτCRとに基づいて、各ガラス繊維の切断回数を導出する。切断回数の導出は、S14と同様の方法で行うことができる。
【0070】
S20では、ガラス繊維長分布導出部4で、S19で導出した各ガラス繊維の切断回数と、S13で任意に決めたBとから、押出機内でガラス繊維が何回切断し、切断後のガラス繊維の長さがどの程度かを式(II)〜(III)から導出し、ガラス繊維長分布を導出する。導出方法の具体例は、S15(ステップ5)と同様である。
【0071】
<ガラス繊維長分布導出装置の第三実施形態>
第三実施形態のガラス繊維長分布導出装置も、熱可塑性樹脂とガラス繊維束とを押出機で混練して成形してなる樹脂成形体中のガラス繊維の繊維長の分布を導出するガラス繊維長分布導出装置である。
【0072】
また、第三実施形態においても、粒子追跡法により所定の混練条件下で導出される、複数の仮想粒子のそれぞれが受けるせん断応力の時間分布をτ(t)とし、押出機内で各ガラス繊維に作用するせん断応力の時間分布τを上記式(I)で表す。
【0073】
図4を用いて、第三実施形態のガラス繊維長分布導出装置を説明する。図3には、第三実施形態のガラス繊維長分布導出装置の概略構成を示す。第三実施形態のガラス繊維長分布導出装置6は、記憶部7と、ガラス繊維長導出部8と、出力部9とを備える。第三実施形態は、予め導出された定数β、γ、A、Cを用いてガラス繊維長分布を導出する点において、第一実施形態、第二実施形態と異なる。
【0074】
記憶部7は、樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂組成物の種類ごとにβ、γ、A、Cを記憶する。複数種類の熱可塑性樹脂組成物について、β、γ、A、Cが記憶されていてもよいが、1種類であってもよい。選択された熱可塑性樹脂組成物のβ、γ、A、Cをガラス繊維長分布導出部に送れるようになっている。
【0075】
ガラス繊維長分布導出部8、出力部9については、第一実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0076】
図4に示すフローチャートを参照しながら、第三実施形態のガラス繊維長分布導出装置6によるガラス繊維長分布導出過程について説明する。
【0077】
S21では、記憶部7に記憶されたβ、γ、A、Cを一組選択し、このデータをガラス繊維長分布導出部8に送る。例えば、コンピュータ上で操作者が選択した熱可塑性樹脂組成物のβ、γ、A、Cのデータをガラス繊維長分布導出部8に送信可能になっている。また、予め、予測の対象となる熱可塑性樹脂組成物に含まれる成分、各成分の含有割合等の情報を、コンピュータ等を介して記憶部に入力しておき、コンピュータにおいて自動で最適なβ、γ、A、Cを選び、ガラス繊維長分布導出部8に送れるようになっていてもよい。
【0078】
予測の対象となる熱可塑性樹脂組成物と同じ成分を同じ含有割合で含む熱可塑性樹脂組成物のβ、γ、A、Cが記憶部7に記憶されていれば、そのデータを用いればよい。また、上記のように予測対象と同じ熱可塑性樹脂組成物のデータが記憶部7に記憶されていない場合には、予測対象となる熱可塑性樹脂組成物と類似の熱可塑性樹脂組成物に関するβ、γ、A、Cを選択してもよい。どの程度の類似まで許容されるかは、求める予測の精度や含有成分の種類等に依存する。
【0079】
なお、記憶部7とガラス繊維長分布導出部8との間で、上記定数に関するデータのやり取りを行えなくてもよい。この場合には、例えば、操作者が記憶部7に記憶されたデータから所望のデータを選択し、選択したデータを、コンピュータ等を用いてガラス繊維長分布導出部8に入力する。
【0080】
S22は、ガラス繊維長分布導出部8で、S21で選択したβ、γ、A、Cに基づいて、ガラス繊維長分布を導出するステップである。第一実施形態と同様に、S7〜S9で説明した方法でガラス繊維長分布を導出してもよいし、第二実施形態と同様に、S17〜S20で説明した方法でガラス繊維長分布を導出してもよい。
【0081】
<プログラム及び記録媒体>
本発明のガラス繊維長分布導出装置の機能は、コンピュータのハードウェアとプログラムとの協働によって実現することができる。定数導出部3、ガラス繊維長分布導出部4を機能させるプログラムは、既知の記録媒体(例えば、CD−ROM、DVD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−R、DVD−RW、MO、HDD、Blue−ray Disk(登録商標)等)に格納して、又はネットワークを通じて提供できる。記憶部7に記憶されるβ、γ、A、Cについては、コンピュータの内部メモリやハードディスク等の外部メモリに格納すればよい。
【実施例】
【0082】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0083】
実施例においては以下の材料を用いた。
熱可塑性樹脂:ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)(メルトインデックス(MI)=70g/10分)
カーボンマスターバッチ
ガラス繊維束:直径が13μmのモノフィラメントを2200本束ねた長さ3mmのチョップドストランド
【0084】
また、組成は以下の通りである。
PBTが67.5質量%、カーボンマスターバッチが2.5質量%、ガラス繊維束が30質量%
【0085】
押出条件は以下の通りである。
押出機:同方向完全噛み合い型二軸押出機TEX44αII(日本製鋼所製)スクリューエレメントの外径(D):0.047m
バレル温度:220℃
スクリューデザイン:
(1)概略
押出機のスクリューは図6のように表すことができ、図6に示すスクリューパターンの概略は以下の通りである。
C1:ホッパ
C2〜C5:供給部
C5〜C6:可塑化部
C6〜C8:搬送部
C9:フィード口
C10:混練部A
C11:混練部B(混練部b1、混練部b2からなる)
(2)本評価で使用した具体的なスクリューパターンは、図7に示す通りである。なお、ニーディングディスクで、各ディスクが送り方向に45°位相がずれているものをFKとし、逆送りの1条のフライトで切り欠きのあるエレメントをBMSとする。また、1.0D等は、混練部b1の長さを表す。
図7(a)に示すスクリューパターンをFK1.0D(L/D=1)、
図7(b)に示すスクリューパターンをFK2.0D(L/D=2)、
図7(c)に示すスクリューパターンをBMS1.0D(L/D=1)、
図7(d)に示すスクリューパターンをBMS2.0D(L/D=2)、
図7(e)に示すスクリューパターンをBMS2.5D(L/D=2.5)、
とする。L/Dは、混練部b1のリード長(L)とスクリューエレメントのスクリュー口径(D)との比(L/D)である。なお、実施形態の説明における混練部23の長さLは、混練部b1の長さにあたる。
(3)スクリューの形状
図7に示すスクリューパターンは、それぞれC11の混練部Bのみ異なる。C11の混練部Bのスクリューの形状を図8に示す。図7(a)のパターンのスクリュー形状を図8(a)に示し、図7(b)のパターンのスクリュー形状を図8(b)に示し、図7(c)のパターンのスクリュー形状を図8(c)に示し、図7(d)のパターンのスクリュー形状を図8(d)に示し、図7(e)のパターンのスクリュー形状を図8(e)に示した。
図8(a)に示すスクリューは混練部b1が長さ1.0Dの順送りニーディングディスク、混練部b2が長さ0.5Dの逆送りフライト
図8(b)に示すスクリューは混練部b1が長さ2.0Dの順送りニーディングディスク、混練部b2が長さ0.5Dの逆送りフライト
図8(c)に示すスクリューは混練部b1が長さ1.0Dの切り欠き含有の1条の逆送りニーディングディスク、混練部b2が長さ0.5Dの逆送りフライト
図8(d)に示すスクリューは混練部b1が長さ2.0Dの切り欠き含有の1条の逆送りニーディングディスク、混練部b2が長さ0.5Dの逆送りフライト
図8(e)に示すスクリューは混練部b1が長さ2.5Dの切り欠き含有の1条の逆送りニーディングディスク、混練部b2が長さ0.5Dの逆送りフライト
押出条件:下記の表1に記載の9条件
【表1】
【0086】
後述するガラス繊維長の実測値は下記(1)〜(6)の手順で導出した。
(1)5gの熱可塑性樹脂成形体を所定の条件で加熱し灰化させる。
(2)灰化させた後の灰分を秤量し、ポリエチレングリコール水溶液等の水溶液に分散させる。
(3)分散液5mlを採取し、シャーレに均一に注ぎ入れる。
(4)実体顕微鏡(20倍)を用いて画像を取り込む。
(5)取り込んだ各々の画像を2値化し、画像処理解析装置を用いて充填剤のサイズを測定する。これをガラス繊維長とする。
(6)さらに、測定された値の平均繊維長(例えば、重量平均繊維長)をガラス繊維の繊維長とする。
【0087】
スクリューデザインが5種類、混練条件が9種類あるため、押出し条件は45通りになる。この45通りの押出し条件について、二軸押出機内3次元流動解析ソフト(アールフロー社製ScrewFlow−Multi)を用いて、同方向完全噛み合い型二軸押出機内の仮想粒子が受けるせん断応力の時間分布τ(t)を解析した。
解析の際に用いた支配方程式は、連続式(A)、ナビエ−ストークス式(B)、温度バランス式(C)である。
【数1】
【数2】
【数3】
【0088】
解析仮定として、非圧縮性流体で、完全溶融・完全充満とした。また、粘度近似式はアレニウス近似及びWLF近似を使用した。解析手法は、有限体積法、SOR法、SIMPLEアルゴリズムであり、計算としては、まず定常解析を行い、これを初期値として、非定常解析を行った。非定常解析の後、トレーサー粒子(仮想粒子)を配置(約5000個)して、トレーサー粒子にかかる局所情報を収集した(粒子追跡解析)。このようにして、仮想粒子が受けるせん断応力の時間分布τ(t)を導出した。
【0089】
1回の切断でガラス繊維長は2分割すると考え(数式(II)のBが2)、下記表2に示す押出し条件(上記45条件から選んだ3条件)の実験結果に基づいて、定数A、β、γを導出した。分割数Bは2等分破断とし、破断応力関数パラメータCは2とした。定数の導出にはコンピュータを用いた。コンピュータは、20000≦A≦45000、0.65≦β≦0.9、β≧γを満たす範囲で、任意にA、β、γを選択し、選択したβ及びγを用いて表2の条件(i)〜(iii)のτを各ガラス繊維について式(I)から導出する(5000個のトレーサー粒子のそれぞれの結果を用いて5000個分のτを導出する)。続いて、定数A、Cに任意に決めた値を代入し、切断に必要なせん断応力τCRを切断回数毎に算出する。切断回数毎に算出された切断に必要なせん断応力τCRと、各ガラス繊維に作用するせん断応力の経時変化を表すτとを対比して、成形時に各ガラス繊維が切断される回数を導出する。各ガラス繊維の切断回数を下記式(III)のnに代入し各ガラス繊維の樹脂成形体中での繊維長Lafterを算出して、算出された各ガラス繊維の繊維長Lafterに基づいて、各混練条件でのガラス繊維長分布を導出する。導出したガラス繊維長分布に基づいて、各混練条件におけるガラス繊維の平均繊維長を導出し、これを条件(i)〜(iii)の平均繊維長の実測値とそれぞれ対比して、誤差が10%以下の場合には、定数A、C、β、γを上記の任意で決めた値に決定し、誤差が10%を超える場合には、定数A、C、β、γの少なくとも1つを変更して、誤差が10%以内になるまで上記の操作を繰り返した。Aは25000、βは0.675、γは0.585であった。
【0090】
【表2】
τ(t)=τ(t)/(Qβ/Nsγ) (I)

τCR=A×2 (II)

after=Lbefore/2 (III)
【0091】
Aは25000、βは0.675、γは0.585から算出されるガラス繊維の平均繊維長と実測値の平均繊維長とを、他の押出し条件でも検討した。結果を表3にまとめた。
【0092】
【表3】
【0093】
表3に示す通り、他の押出し条件でも上記誤差が10%以内であることが確認された。
【0094】
Q=650kg/hr、Ns=807rpmの場合のガラス繊維長分布を、上記と同様の方法で時間分布τ(t)を導出し、上記定数A、C、β、γを用い、式(I)〜(III)を用いてガラス繊維長分布を導出した。計算により求めた分布を図9に示した。また、実際に上記の押出し条件で樹脂成形体を製造し、ガラス繊維長3000μm、1500μm、750μm、375μm、187.5μm、93.75μmの存在確率の実測値を図9に併せて示した。図9から本発明を用いれば、高い精度でガラス繊維長分布を導出できることが確認された。
【符号の説明】
【0095】
1 ガラス繊維長分布導出装置
2 実測値入力部
3 定数導出部
4 ガラス繊維長分布導出部
5 出力部
6 ガラス繊維長分布導出装置
7 記憶部
8 ガラス繊維長導出部
9 出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9