特許第5973436号(P5973436)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5973436o−キシレン及び/又はナフタレンを無水フタル酸に酸化するための触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973436
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】o−キシレン及び/又はナフタレンを無水フタル酸に酸化するための触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/22 20060101AFI20160809BHJP
   B01J 27/198 20060101ALI20160809BHJP
   C07D 307/89 20060101ALI20160809BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20160809BHJP
【FI】
   B01J23/22 Z
   B01J27/198 Z
   C07D307/89 C
   !C07B61/00 300
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-522327(P2013-522327)
(86)(22)【出願日】2011年7月26日
(65)【公表番号】特表2013-539407(P2013-539407A)
(43)【公表日】2013年10月24日
(86)【国際出願番号】IB2011053327
(87)【国際公開番号】WO2012014154
(87)【国際公開日】20120202
【審査請求日】2014年7月22日
(31)【優先権主張番号】10171381.6
(32)【優先日】2010年7月30日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】アルトヴァサー,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ツュールケ,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ローゾウスキー,フランク
(72)【発明者】
【氏名】クレーマー,ミヒャエル
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−239047(JP,A)
【文献】 特開昭60−137438(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/066645(WO,A2)
【文献】 特開2009−067621(JP,A)
【文献】 特開2005−329363(JP,A)
【文献】 特表2007−502319(JP,A)
【文献】 特表2007−533426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
C07D 307/89
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
o−キシレン及び/又はナフタレンを無水フタル酸に酸化するための触媒であって、
粉末X線回折パターンにおいて2シータ=27.7°及び28.4°におけるシグナルの高さの合計に対する2シータ=28.4°におけるシグナルの高さの比が少なくとも0.02である三酸化アンチモン並びに二酸化チタン及び五酸化バナジウムを使用して製造されたことを特徴とする触媒。
【請求項2】
o−キシレン及び/又はナフタレン及び酸素分子を含むガス流を、粉末X線回折パターンにおいて2シータ=27.7°及び28.4°におけるシグナルの高さの合計に対する2シータ=28.4°におけるシグナルの高さの比が少なくとも0.02である三酸化アンチモン並びに二酸化チタン及び五酸化バナジウムを使用して製造された触媒に送通する気相酸化方法。
【請求項3】
前記高さの比が少なくとも0.05である、請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
触媒活性組成物の全量に対して、前記五酸化バナジウムを1〜40質量%含み、前記二酸化チタンを60〜99質量%含む、請求項1又は3に記載の触媒。
【請求項5】
前記二酸化チタンは、15〜60m/gのBET表面積を有する、請求項1、3及び4のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項6】
前記触媒が、請求項3〜5のいずれか1項に記載の触媒である、請求項2に記載の気相酸化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、o−キシレン及び/又はナフタレンを無水フタル酸に酸化するための触媒であって、反応管内に連続して配置され且つ有意な割合の白安鉱を含む三酸化アンチモンを使用して製造された複数の触媒領域を有する触媒に関する。本発明は更に、少なくとも1種の炭化水素及び酸素分子を含むガス流を、有意な割合の白安鉱を含む三酸化アンチモンを使用して製造された触媒に送通する気相酸化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのカルボン酸及び/又はカルボン酸無水物は、固定床反応器において、ベンゼン、キシレン、ナフタレン、トルエン又はジュレン等の炭化水素の触媒気相酸化により工業的に製造される。この方法では、例えば、安息香酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸又は無水ピロメリット酸を得ることができる。通常は、酸素含有ガスと酸化すべき出発材料の混合物を、触媒床が存在する管に送通する。温度を調整するために、その管は伝熱媒体、例えば塩溶融物に囲まれている。
【0003】
触媒活性組成物がシェルの形態でステアタイト等の不活性の担体材料に施された被覆触媒は、これらの酸化反応用の触媒として有用であることが見出されている。一般に、この触媒は、本質的に同種の化学組成を有し且つシェルの形態で施されている活性組成物の層を有する。また、活性組成物の2つ以上の異なる層を連続して担体に施すこともできる。これらは2層又は複層触媒と称される(例えば、特許文献1(DE19839001A1)参照)。
【0004】
これらの被覆触媒の触媒活性組成物の触媒活性構成成分としては、二酸化チタン及び五酸化バナジウムが使用されるのが一般的である。また、促進剤として作用して触媒の活性と選択率に影響を及ぼす他の多くの酸化化合物(酸化セシウム、酸化リン及び酸化アンチモンを含む)が少量、触媒活性組成物に存在していてもよい。
【0005】
特許文献2(EP1636161)のように、特定のV/Sb比が設定され且つその三酸化アンチモンが所定の平均粒径を有している場合に、特に高いPAn収率が得られる触媒を得ることができる。
【0006】
アンチモン酸化物の存在によりPAn選択率が上昇する;この効果はバナジウム部位の分離と考えられる。
【0007】
触媒の活性組成物に使用されるアンチモン酸化物は、種々のアンチモン(III)、アンチモン(IV)及びアンチモン(V)化合物であってよい;通常は三酸化アンチモン又は五酸化アンチモンが使用される。特許文献3(EP522871)では五酸化アンチモンを使用することが記載されており、特許文献4(US2009/306409)及び特許文献5(EP1636161)では三酸化アンチモンを使用することが開示されている。
【0008】
四酸化アンチモン及び五酸化アンチモンと比較して、三酸化アンチモンは、二酸化チタン上に良好に分散する性質を有しているので、触媒の分布が著しく向上する。三酸化アンチモンは通常、純粋な方安鉱相として使用される(Schubert,U.−A.et al.,Topics in Catalysis,2001,vol.15(2−4),195−200頁参照)。立方体状の方安鉱とは別に、三酸化アンチモンの斜方晶系変性体も存在し、白安鉱として知られている(Golunski、S.E.et al.,Appl.Catal.,1989,vol.48,123−135頁)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】DE19839001A1
【特許文献2】EP1636161
【特許文献3】EP522871
【特許文献4】US2009/306409
【特許文献5】EP1636161
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
触媒によって高い選択率で極めて高い転化率が得られる気相酸化用の触媒が依然として必要とされている。
【0011】
本発明の目的は、o−キシレン及び/又はナフタレンを無水フタル酸に酸化するための触媒であって、低い塩浴温度においてo−キシレン及びフタリドの含有量が低い無水フタル酸の高い収率を可能にする触媒を改良することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、有意な割合の白安鉱を含む三酸化アンチモンを使用して製造された、o−キシレン及び/又はナフタレンを無水フタル酸に酸化するための触媒により達成される。
【0013】
本発明の目的は、o−キシレン及び/又はナフタレンを無水フタル酸に酸化するための触媒であって、粉末X線回折パターンにおいて2シータ=27.7°及び28.4°におけるシグナルの高さの合計に対する2シータ=28.4°におけるシグナルの高さの比が少なくとも0.02である三酸化アンチモンを使用して製造されたことを特徴とする触媒を提供することである。
【0014】
2シータ=27.7°におけるシグナルは方安鉱(senarmontite)の指標であり(ASTM Index,No.5−0534/7参照)、2シータ=28.4°におけるシグナルは白安鉱(valentinite)の指標である(ASTM Index,No.11−689参照)。シグナルの高さは、各シグナルの最大強度と測定背景との間の差により得られる。
【0015】
本発明の好ましい実施態様では、上記触媒は、粉末X線回折パターンにおいて2シータ=27.7°及び28.4°におけるシグナルの高さの合計に対する2シータ=28.4°におけるシグナルの高さの比が少なくとも0.03、特に好ましくは少なくとも0.05である三酸化アンチモンを使用して製造される。
【0016】
本発明に使用されるべき白安鉱の含有量が多い三酸化アンチモンは1つ以上の触媒領域を製造するのに使用することができる。本発明の好ましい実施態様では、触媒は3つ、4つ又は5つの領域を有し、白安鉱の含有量が多い三酸化アンチモンは少なくとも1つの領域を製造するのに使用される。
【0017】
本発明の触媒は、例えば、高いホットスポット温度を避けるために、好適な上流及び/又は下流の床と組み合わせて、また中間領域と共に使用することができ、その上流及び/又は下流の床及び中間領域は通常、触媒的に不活性か又は活性が低い材料を含んでいてよい。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の触媒は通常、触媒活性組成物がシェルの形態で不活性の担体材料に施されている被覆触媒である。
【0019】
不活性の担体材料として、芳香族炭化水素をアルデヒド、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物に酸化するための被覆触媒の製造において有利に使用される従来技術における実質的に全ての担体材料を使用することができ、例えば、石英(SiO)、陶材、酸化マグネシウム、二酸化スズ、炭化ケイ素、ルチル、アルミナ(Al)、ケイ酸アルミニウム、ステアタイト(ケイ酸マグネシウム)、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸セリウム又はこれらの担体材料の混合物である。これらの触媒担体は、例えば、球状物、リング状物、ペレット状物、螺旋状物、管状物、押出物又は破砕材料の形態で使用することができる。これらの触媒担体の寸法は、芳香族炭化水素の気相反応用の被覆触媒を製造するのに通常使用される触媒担体の寸法に対応する。3〜6mmの直径を有する球状物の形態又は5〜9mmの外径及び3〜8mmの長さ及び1〜2mmの壁厚を有するリング状物の形態のステアタイトを使用することが好ましい。
【0020】
本発明の触媒は、少なくとも酸化バナジウム及び二酸化チタンを含み且つ担体材料に1層以上の層で施すことができる触媒活性組成物を含む。この場合には種々の層がそれら化学組成の点で相違し得る。
【0021】
この触媒活性組成物は、触媒活性組成物の全量に対して、Vとして計算される酸化バナジウムを1〜40質量%、及びTiOとして計算される二酸化チタンを60〜99質量%を含むことが好ましい。好ましい実施態様では、この触媒活性組成物は、Csとして計算されるセシウム化合物を1質量%以下、Pとして計算されるリン化合物を1質量%以下、及びSbとして計算される酸化アンチモンを10質量%以下更に含んでいてもよい。触媒活性組成物の化学組成に関する全ての数値は、後者の焼成状態、例えば、450℃で1時間触媒を焼成した後の状態に基づくものである。
【0022】
二酸化チタンは通常、触媒活性物用のアナターゼ型で使用される。二酸化チタンは、15〜60m/g、特に15〜45m/g、特に好ましくは13〜28m/gのBET表面積を有していることが好ましい。使用される酸化チタンは、単一の二酸化チタンでも、複数の二酸化チタンの混合物でもよい。後者の場合、荷重平均のBET表面積の値は個々の二酸化チタンの寄与度を決める。使用される二酸化チタンは、例えば、BET表面積が5〜15m/gであるTiOとBET表面積が15〜50m/gであるTiOの混合物であることが有利である。
【0023】
好適なバナジウム源は、特に、五酸化バナジウム又はメタバナジン酸アンモニウムである。好適なアンチモン源は、有意な白安鉱含量を有する種々の三酸化アンチモン類である。使用可能なリン源は、特に、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、リン酸アンモニウム又はリン酸エステル、及び特にリン酸二水素アンモニウムである。好適なセシウム源は、酸化物若しくは水酸化物又は熱的に酸化物に転化され得る塩、例えば、カルボン酸塩、特に酢酸塩、マロン酸塩若しくはシュウ酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩又は硝酸塩である。
【0024】
任意に添加されるセシウム及びリンとは別に、触媒活性組成物は、促進剤として作用して、例えば触媒の活性を減少又は増大させることによりその活性及び選択率に影響を与える他の多くの酸化化合物を少量含んでいてもよい。このような促進剤の例は、アルカリ金属、上述したセシウムの他に特にリチウム、カリウム及びルビジウム(これらは通常その酸化物又は水酸化物の形態で使用される。)、酸化タリウム(I)、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化スズ、酸化銀、酸化銅、酸化クロム、酸化モリブテン、酸化タングステン、酸化イリジウム、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ヒ素、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン及び酸化セリウムである。
【0025】
また、上記促進剤の中でも、添加剤としてニオブ及びタングステンの酸化物を触媒活性組成物に対して0.01〜0.50質量%の量で用いることが更に好ましい。
【0026】
被覆触媒の層の形成は、上記促進剤元素源を必要に応じて含むTiO及びVの懸濁液を流動した担体に噴霧することにより行うことが有利である。懸濁した固形物の凝集物を分散させ均質な懸濁液を得るために、被覆前に懸濁液を十分に長い時間、例えば、2〜30時間、特に12〜25時間撹拌することが好ましい。この懸濁液は通常、20〜50質量%の固形物含有量を有している。この懸濁液の媒体は通常は水性のもの、例えば水それ自体、又は水と混和する有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ホルムアミド等)との水性混合物である。
【0027】
通常、有機バインダー、好ましくは、アクリル酸−マレイン酸、酢酸ビニル−ラウリン酸ビニル、酢酸ビニル−アクリレート、スチレン−アクリレート及び酢酸ビニル−エチレンの共重合体(有利には水性分散体の形態のもの)を懸濁液に加える。バインダーは固形分含有量が例えば35〜65質量%の水性分散体として市販されている。使用するこのようなバインダー分散体の量は、懸濁液の質量に対して通常2〜45質量%、好ましくは5〜35質量%、特に好ましくは7〜20質量%である。
【0028】
担体は、例えば流動床装置又は移動床装置内で、上昇ガス流中、特に空気中で流動化される。これらの装置は通常、流動ガスが浸漬管を介して下方から又は上方から導入される円錐状又は球状の容器を含む。懸濁液はノズルを介して上方から、横から又は下方から流動床に噴霧される。浸漬管の中央に又は同心円状に配置された上昇管を使用することが有利である。担体粒子を上方に送る高いガス速度がその上昇管内部で用いられる。外側のリングでは、そのガス速度は緩和された速度を少しだけ上回っている。結果として粒子は循環方式で垂直に移動する。好適な流動床装置は、例えば、DE−A4006935に記載されている。
【0029】
触媒活性組成物を有する触媒担体の被覆においては、20〜500℃の被覆温度が通常は採用され、被覆は大気圧下又は減圧下で行うことができる。通常、被覆は0℃〜200℃、好ましくは20〜150℃、特に60〜120℃で行う。
【0030】
触媒活性組成物の層厚は通常0.02〜0.2mm、好ましくは0.05〜0.15mmである。触媒における活性組成物の割合は通常5〜25質量%、大抵7〜15質量%である。
【0031】
このようにして得られた前段階の触媒を>200℃〜500℃の温度で熱処理することにより、バインダーは熱分解及び/又は燃焼によって施された層から放散する。熱処理は気相酸化反応器内でその場で行うことが好ましい。
【0032】
本発明は更に、少なくとも1種の炭化水素及び酸素分子を含むガス流を、粉末X線回折パターンにおいて2シータ=27.7°及び28.4°におけるシグナルの高さの合計に対する2シータ=28.4°におけるシグナルの高さの比が少なくとも0.02である三酸化アンチモンを使用して製造された触媒に送通する気相酸化方法を提供する。
【0033】
本発明の好ましい実施態様は、o−キシレン及び/又はナフタレンを無水フタル酸に気相酸化する方法であって、o−キシレン及び/又はナフタレン並びに酸素分子を含むガス流を、粉末X線回折パターンにおいて2シータ=27.7°及び28.4°におけるシグナルの高さの合計に対する2シータ=28.4°におけるシグナルの高さの比が少なくとも0.02である三酸化アンチモンを使用して製造された触媒に送通する方法である。
【実施例】
【0034】
三酸化アンチモン中の白安鉱の含有量及び方安鉱の含有量の測定:
測定は粉末X線回折法により行った。このため、三酸化アンチモン粉末をSiemens製の「D5000Theta/Theta」粉末X線回折装置で測定した。測定パラメータは次の通りである:
【0035】
【表1】
【0036】
シグナルの高さは、各シグナルの最大強度と測定背景との間の差により得られる。白安鉱の含有量を測定するため、2シータ=27.7°(方安鉱、シグナル高さa)及び28.4°(白安鉱、シグナル高さb)におけるシグナルを採用した。白安鉱の含有量はb/(a+b)であり、方安鉱の含有量はa/(a+b)である。
【0037】
例1(本発明)
触媒領域CZ1:
3.38gの炭酸セシウム、459.3gの二酸化チタン(Fuji TA 100C、アナターゼ、BET表面積20m/g)、196.9gの二酸化チタン(Fuji TA 100、アナターゼ、BET表面積7m/g)並びに51.4gの五酸化バナジウム及び13.2gの三酸化アンチモン(Merck Selectipur 7835、白安鉱含有量=0.18、方安鉱含有量0.82、99.5%のSb含有量、300質量ppmのAs、500質量ppmのPb、50質量ppmのFe、平均粒子径2μm)を、1869gの脱ミネラル水に懸濁させ、18時間撹拌し、均質に分布させた。酢酸ビニルとラウリン酸ビニルの共重合体を含む有機バインダー78.4gを、50質量%濃度の水性分散体の形態で、この懸濁液に加えた。流動床装置において、この懸濁液820gを、寸法が7mm×7mm×4mmのリング状の2kgのステアタイト(ケイ酸マグネシウム)に噴霧し、乾燥させた。450℃において1時間触媒を焼成した後、ステアタイトリングに施された活性組成物の量は9.1%であった。分析された活性組成物の化学組成は、7.1%のV、1.8%のSb、0.38%のCs、残りがTiOであった。
【0038】
触媒領域CZ2:
懸濁液の化学組成を変更してCZ1と同様に製造。触媒を450℃で1時間焼成した後、ステアタイトリングに施された活性組成物の量は8.5%であった。分析された活性組成物の化学組成は、7.95%のV、2.7%のSb、0.31%のCs、残りが平均BET表面積が18m/gのTiOであった。
【0039】
触媒領域CZ3:
懸濁液の化学組成を変更してCZ1と同様に製造。触媒を450℃で1時間焼成した後、ステアタイトリングに施された活性組成物の量は8.5%であった。分析した活性組成物の化学組成は、7.1%のV、2.4%のSb、0.10%のCs、残りが平均BET表面積が17m/gのTiOであった。
【0040】
触媒領域CZ4
懸濁液の化学組成を変更し、Fuji TA 100Cの代わりにFuji TA 100CT(アナターゼ、BET表面積27m/g)を使用してCZ1と同様に製造。触媒を450℃で1時間焼成した後、ステアタイトリングに施された活性組成物の量は9.1%であった。分析した活性組成物の化学組成は、20%のV、0.38%のP、残りが平均BET表面積が23m/gのTiOであった。
【0041】
例2(非本発明)
触媒領域CZ5:
白安鉱の含有量が少ない三酸化アンチモン等級(例えば、Antraco製Triox white 白安鉱含有量=0.015、方安鉱含有量=0.985、99.3%のSb含有量、0.3質量%のAs、0.18質量%のPbO、0.02質量%の酸化鉄、平均粒径1.5μm)を使用したこと以外はCZ1と同様に製造。
【0042】
触媒領域CZ6:
白安鉱の含有量が少ない三酸化アンチモン等級(例えば、Antraco製Triox white 白安鉱含有量=0.015、方安鉱含有量=0.985、99.3%のSb含有量、0.3質量%のAs、0.18質量%のPbO、0.02質量%の酸化鉄、平均粒径1.5μm)を使用したこと以外はCZ2と同様に製造。
【0043】
触媒領域CZ7:
白安鉱の含有量が少ない三酸化アンチモン等級(例えば、Antraco製Triox white 白安鉱含有量=0.015、方安鉱含有量=0.985、99.3%のSb含有量、0.3質量%のAs、0.18質量%のPbO、0.02質量%の酸化鉄、平均粒径1.5μm)を使用したこと以外はCZ3と同様に製造。
【0044】
例3(本発明によるモデル管スケールでのo−キシレンの無水フタル酸への酸化)
o−キシレンの無水フタル酸への触媒酸化を、内径が25mmの管を有する塩浴冷却管型反応器内で行った。反応器の入口から反応器の出口まで、130cmのCZ1、70cmのCZ2、60cmのCZ3及び60cmのCZ4を、長さ3.5m、内径25mmの鉄管に導入した。この鉄管は温度を調整するための塩溶融物に取り囲まれていた;外径が4mmであり内蔵プルアウト式素子を有するシース熱電対が触媒温度の測定するために機能した。
【0045】
30〜100g/標準mの99.2質量%濃度のo−キシレン負荷を有する4.0標準m/hの空気を管の頂部から下方に送通した。これにより表1に要約した結果を得た(「PAn収率」は、100%濃度のo−キシレンに対して得られた無水フタル酸の量の質量パーセントの量である。)。
【0046】
例4(モデル管スケールでのo−キシレンの無水フタル酸への酸化(非本発明))
反応器の入口から反応器の出口まで、130cmのCZ5、70cmのCZ6、60cmのCZ7及び60cmのCZ4を含む触媒床を用いたこと以外は例3を参照。
【0047】
【表2】
【0048】
表1の例3及び4の比較は、例3における触媒の触媒活性が例4のものよりも高いことを示している。そのため、例3(本発明)の塩浴温度は更に低下させることができ、o−キシレン及びフタリドの含有量が低いPn収率は、例4(非本発明)よりも著しく高い。
【0049】
例5(工業的規模でのo−キシレンの無水フタル酸への酸化(本発明))
o−キシレンから無水フタル酸への触媒酸化を、管の内径が25mmの15105本の管を有する塩浴冷却管型反応器で行った。反応器の入口から反応器の出口まで、130cmのCZ1、90cmのCZ2、60cmのCZ3及び60cmのCZ4を導入した。温度データを記録するため、反応器の管の一部に熱電体を取り付けた。0〜100g/標準mのo−キシレン負荷(純度約99質量%)を有する4.0標準m/hの空気を管に送通した。反応器の出口のガスにおいてPAn収率を測定し、100%濃度のo−キシレンに対する質量%(反応したo−キシレン1kg当たりのPAnのkg)を表2に示している。
【0050】
例6(工業的規模でのo−キシレンの無水フタル酸への酸化(非本発明))
反応器の入口から反応器の出口まで130cmのCZ5、90cmのCZ6、60cmのCZ7及び60cmのCZ4を含む触媒床を用いたこと以外は例5を参照。
【0051】
【表3】
【0052】
表2の例5及び6の比較は、例5の触媒の触媒活性が例6のものよりも高いことを示している。そのため、例5(本発明)における塩浴温度は更に低下させることができ、o−キシレンとフタリドの含有量が低いPAn収率は例6(非本発明)よりも著しく高い。