特許第5974973号(P5974973)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5974973押出ワイヤ製造用押出ダイス及びそれを用いたワイヤの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5974973
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】押出ワイヤ製造用押出ダイス及びそれを用いたワイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21C 25/02 20060101AFI20160809BHJP
【FI】
   B21C25/02 Z
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-106854(P2013-106854)
(22)【出願日】2013年5月21日
(65)【公開番号】特開2014-226681(P2014-226681A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2015年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001405
【氏名又は名称】特許業務法人篠原国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100065824
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100104983
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 雅之
(74)【代理人】
【識別番号】100166394
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 和弘
(72)【発明者】
【氏名】小室 昌彦
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−267122(JP,A)
【文献】 特開2005−099774(JP,A)
【文献】 特開2000−237816(JP,A)
【文献】 特開2012−200789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 25/02,23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料を押出機で押出加工して、ワイヤ状に形成するための押出ダイスであって、前記押出ダイスの穴内面に、その円周方向の加工痕がなく押出方向に沿った加工痕を有していることを特徴とする押出ダイス。
【請求項2】
出口縁部分にR加工がない状態であることを特徴とする請求項1に記載の押出ダイス。
【請求項3】
押出機の押出ダイスの穴内面に、その円周方向の加工痕がなく押出方向に沿った加工痕する押出ダイスを用いて、ヒーター温度250〜293℃、圧力6.5〜9.0MPaの押出条件でワイヤ材のインゴッを押出加工をすることを特徴とするワイヤの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出加工によりワイヤを製造するのに用いられる押出ダイスとそれを用いたワイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
はんだや蒸着材などのワイヤを製造する場合、一般的には、原料を高周波溶解炉や抵抗加熱炉などで溶解して鋳型に入れ、インゴットを製造し、そのインゴットを押出ダイスを備えた押出機で押出加工し、ワイヤ状にするか、または棒状のインゴットを準備し、伸線機によって伸ばしてワイヤ状にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−237816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような加工方法は一般的ではあるものの課題も残されている。例えば、インゴットを押出ダイスを用いて押出加工する場合、押出されたワイヤWの円周方向に縞模様のキズ(図1参照)が発生することがある。このキズは、特に硬い純金属や合金を押し出す場合に発生することが多く、具体的にはAuSi合金やAuGe合金、さらにはAuSn合金などでも縞模様のキズが発生することがある。
【0005】
このキズの発生メカニズムは以下のとおりである。硬い合金を押し出そうとする際、押出ダイスの穴表面が粗かったりして詰まり易い状態だとワイヤを押し出すことができず、ある臨界圧力に達すると圧力が一気に解放され、数mm〜数cm程度出る。そして、ワイヤが押し出され圧力が解放されるとまた詰まった状態になり、圧力がまた臨界圧力に達すると押し出される。この出る、止まるが繰り返されるとワイヤ表面に加わる圧力が場所によって変わるため、キズ模様ができてしまうのである。
【0006】
一般に、押出ダイス等には、熱間ダイス鋼や超硬合金の様な耐摩耗性に優れた材料が用いられるが、これらの材料は硬くて、加工が難しいため、材料の強度により加工性が阻害される事の少ないワイヤ放電加工や形彫り加工と言った放電現象を加工原理とした加工方法が用いられている。
【0007】
一般的にこの様な加工方法では、基準穴の加工を行った後に仕上げ加工を行うが、仕上げ砥石の粗さは、#140で加工後、#1500で最終仕上げを行う。この場合、押出ダイスと砥石の双方を回転させて仕上げ研磨しているため、最終的には円周方向に加工痕(研磨傷)1a'が残るようになる。
【0008】
一般的な押出ダイスは、このように円周方向のキズが残ることから、押し出された材料には、円周方向に縞模様が発生し易くなると考えられる。つまり、ダイスの円周方向にキズがあることにより、このキズが転写されるとともに合金とダイスの摩擦力が増して詰まり易くなる。
【0009】
また、ダイス押出し側の出口部分には、材料が押出易くするようにR加工を施す場合(例えば、特許文献1参照)があるが、R加工が有る場合にも押出材料には、円周方向の縞模様不良が発生し易くなると考えられる。
これは、特に硬い合金を押し出す場合に発生することが多く、R加工部分で材料が押し切られずにワイヤ側に流れるため、ダイス出口付近に材料が集中し詰まったような状態になり材料流れが滞ったり流れたりの繰り返しで、数mm〜数cm程度の間隔で円周方向の縞模様が発生する。具体的にはAuSi合金やAuGe合金、さらにはAuSn合金などでも縞模様のキズが発生することがある。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、押出ワイヤ材に円周方向の縞模様の発生がなく、連続的に押出加工する事の出来る押出ダイスを提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明による押出ダイスは、材料を押出機で押出加工して、ワイヤ状に形成するための押出ダイスであって、前記押出ダイスの穴内面に、その円周方向の加工痕がなく押出方向に沿った加工痕を有していることを特徴とする。
【0012】
また、本発明による押出ダイスは、出口縁部分にR加工がない状態であることを特徴としている。
【0013】
また、本発明のワイヤの製造方法によれば、押出機の押出ダイスの穴内面に、その円周方向の加工痕がなく押出方向に沿った加工痕を有する押出ダイスを用いて、ヒーター温度250〜293℃、圧力6.5〜9.0MPaの押出条件でワイヤ材のインゴッを押出加工をすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明による押出ダイスを使用したワイヤの製造方法によれば、円周方向の縞模様が全く発生しないワイヤを製造する事が出来る。
本発明による押出ダイスを使用したワイヤの製造方法は、Auを主体とし、Si、Sb、Sn、Ge、Ga、Niをいずれか1元素以上添加した合金からなる線材の製造に好適に使用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】従来の押出ダイスを用いて製造されたワイヤの斜視図である。
図2】従来の押出ダイスの穴内面の加工痕を示す部分斜視図である。
図3】本発明による押出ダイスの穴内面の加工痕を示す部分斜視図である。
図4】押出ダイスを用いる押出装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る押出ダイス1の作製にあたり最も重要な点は、最終仕上での手作業によるラップ仕上げの段階で、ダイス穴1aを目的寸法に仕上げるためラップ棒にダイヤモンドペースト粒度9を使用して、加工面にワイヤ押出方向に加工痕1a'が残るように仕上げる事にある。
【0017】
この様に仕上げられた押出ダイス1を用いて押出されたワイヤ材には、押出方向に加工痕が出来る事により、押出加工がスムーズに行われ、押出されたワイヤ材に円周方向の縞模様不良が発生することはない。
【0018】
更に、ダイス押出側の出口縁部分にR加工を施さない事で、押出されたワイヤ材に円周方向の縞模様不良が発生することなしに、押出し加工がスムーズに行われ、押出されたワイヤ材には、円周方向の縞模様不良が発生する事はない。
【0019】
また、最終研磨まで押出ダイスと砥石の双方を回転させて仕上げ研磨したとした場合でも、仕上げ後にワイヤ押出方向に加工痕が残るように故意に加工痕を付ける事で、押出加工がスムーズに行われる様に成る事から、押出されたワイヤ材に円周方向の縞模様不良が発生する事はない。
【0020】
ワイヤの押出時の条件は、温度250〜293℃、圧力6.5〜9.0MPaが最良であり、この条件の下で押出されたワイヤ材には、円周方向の縞模様不良が発生する事はない。
【0021】
上記ダイス加工方法及び押出条件が外れた場合は、押出ワイヤ材に円周方向の縞模様が発生する様になる。更に温度・圧力が低く外れると押出時間が遅くなり生産性が極端に低下し、高く外れると材料の噴出異常となる。
【0022】
押出ダイスの穴部分の加工方法としては、まず材料として、合金工具鋼鋼材SKD11の丸棒(サイズφ60mm×200mmL)を準備する。この材料から旋盤加工で押出ダイスの母材 を切り出す。以下一例を示すが、旋盤でφ55mm×17mmtのサイズを切り出す。この時に切り出した母材のセンター出しを行い母材中央部にφ0.2mm〜1mmの穴(貫通はさせない)を開ける。
【0023】
次に平面研削盤にて、切り出した母材の表面をボラゾン砥石の番手#180で表面粗研磨を行う。研削液は、特に限定されないが、ここではソリューブル系の水溶性の研削液を使用した。
【0024】
次にボール盤または、ジグ中ぐり盤を使用して、最終の仕上穴(φ1.0〜5.0mm)より0.5mm小さい寸法の穴をドリル径φ0.5〜4.7mmで開ける。
【0025】
次に押出ダイスに焼き入れを行うが、電気炉を使用し条件は1100℃、25分で行う。冷却は、空冷式のため押出ダイスの酸化を防ぐためステンレス箔に包み熱処理を行う。
【0026】
次に平面研削盤にて、焼き入れした押出ダイスの表面をボラゾン砥石の番手#800で表面仕上研磨を行う。研削液は、ソリューブル系の水溶性の研削液を使用する。
【0027】
次にジグ研削盤で穴部分の研磨加工を行うが、ボラゾン砥石サイズφ0.5〜4.0mmで番手#800で仕上穴(φ1.0〜5.0mm)より10μm程度小さい寸法の穴まで、研磨加工する。
【0028】
最終仕上では、手作業によるラップ仕上げで狙いの寸法に仕上げる。ラップ棒にダイヤモンドペースト粒度9を使用し、加工面がワイヤ押出方向に加工痕が残るように仕上げる。
【0029】
この様にして仕上た押出ダイスによれば、円周方向の縞模様が発生しないワイヤを得る事が出来る。更にダイス押出側の出口部分には、R加工を施さないようにする事で、円周方向の縞模様が無いワイヤを押出す事が出来る。ワイヤの押出時の条件は、温度250〜293℃、圧力6.5〜9.0MPaが最良であり、これにより円周方向の縞模様が全くないワイヤを押出す事が出来る。
但し、この範囲を外れた場合は、温度・圧力が低く外れると縞模様不良の発生や押出に異常に時間が掛かる。
更に温度・圧力が高く外れると縞模様不良の発生や材料の噴出異常となる。
【実施例】
【0030】
先ず、押出ダイスの材料として、合金工具鋼鋼材SKD11の丸棒(サイズφ60mm×200mmL)を準備し、この材料から旋盤加工で押出ダイスの母材と成るφ55mm×17mmtのサイズを切り出した。また、この時に切り出した母材のセンター出しを行い、母材中央部にφ0.2mm〜1mmの穴(貫通はさせない)を開けた。次に、平面研削盤にて、切り出した母材の表面をボラゾン砥石の番手#180で表面粗研磨を行った。研削液は、ソリューブル系の水溶性の研削液を使用した。
【0031】
次に、ボール盤またはジグ中ぐり盤を使用して、最終の仕上穴径(φ1.0〜5.0mm)より0.5mm小さい寸法の穴をドリル径φ0.5〜4.7mmで開けた。
【0032】
次に、この押出ダイスに、電気炉を使用して1100℃、25分間焼き入れを行った。冷却は、押出ダイスの酸化を防ぐためステンレス箔に包み、空冷式で行った。
【0033】
次に、平面研削盤にて、焼き入れした押出ダイスの表面を、番手#800のボラゾン砥石で表面仕上研磨を行った。
【0034】
この段階で、仕上厚みである14.5mmtになるように仕上研磨を行った。研削液としては、ソリューブル系の水溶性の研削液を使用した。
【0035】
次に、ジグ研削盤にて穴部分の研磨加工を行った。ボラゾン砥石サイズφ0.5〜4.0mmで番手#800で仕上穴(φ1.0〜5.0mm)より10μm程度小さい寸法の穴径まで、研磨加工した。最終仕上は、手作業によるラップ仕上げで狙いの寸法径に仕上げた。
【0036】
ラップ棒にダイヤモンドペースト粒度9を塗布し、加工面がワイヤ押出方向に加工痕が残るようにラップ棒を動かして仕上げた。この様にして仕上た押出ダイスで、ワイヤ材の押出を行うため、まずワイヤ材のインゴット(サイズ:約φ30mm×50mm〜150mmL)を準備した。
【0037】
押出装置は、図に示したように構成されており、上記のようにして準備した押出ダイスおよびインゴットをこの押出装置にセットした。
プランジャーをインゴットの上部の位置まで押し込みセットして、押出条件をヒーター温度250〜293℃、圧力6.5〜9.0MPaにて、押出を行った。
押出されたワイヤ材には、円周方向の縞模様が発生しないワイヤを得る事が出来た。
【0038】
従来の円周方向の縞模様発生率は、多い時には製品収率で50%程度あったが、上記実施例による場合は、この不良の発生は無かった。更にダイス押出側の出口縁に、R加工を施さないようにする事で、円周方向の縞模様が全くないワイヤを押出す事が出来た。
【0039】
出口縁部分にR加工(R1.0、R0.15)を施した押出ダイスでは、押出条件を変えても円周方向の縞模様は消えなかった。SEM観察の組成像により、円周方向の縞模様部分には添加元素の集中が見られる事で、やや偏析している事が判った。このため、品質上も円周方向の縞模様は、好ましくない事が判った。
【符号の説明】
【0040】
1 押出ダイス
1a ダイス穴
1a' 加工痕
W 押出されたワイヤ
図1
図2
図3
図4