(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5974992
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】高周波信号伝送用同軸ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 11/18 20060101AFI20160809BHJP
H01B 13/016 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
H01B11/18 D
H01B13/00 553Z
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-144748(P2013-144748)
(22)【出願日】2013年7月10日
(65)【公開番号】特開2015-18669(P2015-18669A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2015年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】黄 得天
(72)【発明者】
【氏名】渡部 考信
(72)【発明者】
【氏名】工藤 紀美香
【審査官】
和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−037840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
H01B 11/00
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の周囲に形成された絶縁層と、
前記絶縁層の周囲に形成された遮光層と、
前記遮光層の周囲に素線を横巻きして形成されたシールド層と、
前記シールド層の周囲に形成された被覆層と、
を備え、
前記シールド層は、前記遮光層に接着固定されていることを特徴とする高周波信号伝送用同軸ケーブル。
【請求項2】
前記遮光層は、
レーザ光に対して不透明な金属層と、
前記金属層の周囲に形成された接着層と、
を備えている請求項1に記載の高周波信号伝送用同軸ケーブル。
【請求項3】
前記遮光層は、
レーザ光に対して不透明な樹脂層と、
前記樹脂層の周囲に形成された接着層と、
を備えている請求項1に記載の高周波信号伝送用同軸ケーブル。
【請求項4】
前記遮光層は、レーザ光に対して不透明な導電性接着層を備えている請求項1に記載の高周波信号伝送用同軸ケーブル。
【請求項5】
前記遮光層は、前記接着層又は前記導電性接着層よりも内側に基材となる介在層を更に備え、
前記接着層又は前記導電性接着層は、前記介在層よりも低い融点を有している請求項2から4の何れか一項に記載の高周波信号伝送用同軸ケーブル。
【請求項6】
前記遮光層は、テープを前記絶縁層の周囲にラップ巻きして形成されている請求項1から5の何れか一項に記載の高周波信号伝送用同軸ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波信号の伝送に好適な高周波信号伝送用同軸ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術に係る同軸ケーブルは、外部導体を構成するシールド層が素線を編み込んで形成された編組シールドからなる。この編組シールドでは、素線が交差するようにして網目状に編み込まれていることから、端末処理の際に素線がばらけ難く、端末接続部分でのインピーダンスの変化を抑制することができ、また端末接続部分でのノイズ特性の劣化を抑制することができる。
【0003】
しかし、編組シールドでは、構造上どうしてもシールド層の厚さが素線径の2倍以上となり、同軸ケーブルの細径化を目指す際に障害となっている。また、シールド層の表面に網目状の隙間が点在するので、例えば、1GHz以上の高周波信号を伝送する際の減衰特性が劣化するという課題があった。
【0004】
これに対して、シールド層が素線を横巻きして形成された横巻きシールドからなる同軸ケーブルでは、シールド層の厚さが素線径と同一となり、また素線が隙間を生じないように巻き付けられているので、同軸ケーブルの細径化を図り、且つ高周波信号に対する減衰特性の劣化を抑制するという観点からは好都合である。
【0005】
ところが、横巻きシールドは、端末処理の際にばらけ易く、隣接する素線同士の間隔が開いてしまうため、端末接続部分でのインピーダンスが変化して所望のインピーダンス特性が得られず、また端末接続部分でのノイズ特性が劣化してしまうという課題を抱えている。
【0006】
この課題を解決するために、絶縁層とシールド層との間に接着層を介在させることで、素線を一体化した同軸ケーブルが提案されている(例えば、特許文献1又は2参照)。
【0007】
この同軸ケーブルによれば、素線が一体化されているので端末処理の際にばらけ難く、端末接続部分でのインピーダンスの変化が少なく所望のインピーダンス特性が得られ、また端末接続部分でのノイズ特性が劣化することは無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−138457号公報
【特許文献2】特開昭54−5591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、近年は端末処理の高速化が要求されていることから、一度に多数の同軸ケーブルの端末処理を行うことができるように、YAGレーザ等のレーザ光を使用することにより、多数の同軸ケーブルの素線を一括して切断する方法の採用が望まれている。
【0010】
一般的に絶縁層を形成する樹脂は、高純度な状態でレーザ光に対して透明であることが多いことから、端末処理の方法として前述した方法を採用する場合には、シールド層の僅かな隙間から漏れたレーザ光が絶縁層を透過して内部導体にまで到達することにより内部導体が損傷して断線に至ることを防止するため、レーザ光を吸収して遮断する働きを持つ着色剤を絶縁層に含有させることが必要となる。
【0011】
しかしながら、着色剤は絶縁層とは異なる物質であり、また着色剤を絶縁層中に完全に均一に分散させることは技術的に困難であるので、その不均一な着色剤の分散により、絶縁層の誘電率がケーブル長手方向でばらついてしまう。
【0012】
絶縁層の誘電率がケーブル長手方向でばらつくと、高周波信号を伝送する際の減衰特性が劣化することから、高周波信号の伝送に使用される同軸ケーブルでは着色剤を絶縁層に含有させることはできない。
【0013】
そこで、本発明の目的は、着色剤を絶縁層に含有させること無く、端末処理の際のレーザ光による内部導体の損傷を防止することが可能な高周波信号伝送用同軸ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的を達成するために創案された本発明は、導体と、前記導体の周囲に形成された絶縁層と、前記絶縁層の周囲に形成された遮光層と、前記遮光層の周囲に素線を横巻きして形成されたシールド層と、前記シールド層の周囲に形成された被覆層と、を備え、前記シールド層は、前記遮光層に接着固定されている高周波信号伝送用同軸ケーブルである。
【0015】
前記遮光層は、レーザ光に対して不透明な金属層と、前記金属層の周囲に形成された接着層と、を備えていると良い。
【0016】
前記遮光層は、レーザ光に対して不透明な樹脂層と、前記樹脂層の周囲に形成された接着層と、を備えていても良い。
【0017】
前記遮光層は、レーザ光に対して不透明な導電性接着層を備えていても良い。
【0018】
前記遮光層は、前記接着層又は前記導電性接着層よりも内側に基材となる介在層を更に備え、前記接着層又は前記導電性接着層は、前記介在層よりも低い融点を有していると良い。
【0019】
前記遮光層は、テープを前記絶縁層の周囲にラップ巻きして形成されていると良い。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、着色剤を絶縁層に含有させること無く、端末処理の際のレーザ光による内部導体の損傷を防止することが可能な高周波信号伝送用同軸ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る高周波信号伝送用同軸ケーブルを示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施の形態に係る高周波信号伝送用同軸ケーブルを示す断面図である。
【
図3】金属層又は樹脂層と接着層とを備えるテープを示す断面図である。
【
図4】介在層を更に備えるテープを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0023】
図1及び
図2に示すように、本実施の形態に係る高周波信号伝送用同軸ケーブル100は、導体101と、導体101の周囲に形成された絶縁層102と、絶縁層102の周囲に形成された遮光層103と、遮光層103の周囲に素線104を横巻きして形成されたシールド層105と、シールド層105の周囲に形成された被覆層106と、を備え、シールド層105は、遮光層103に接着固定されていることを特徴とする。
【0024】
この高周波信号伝送用同軸ケーブル100では、内部導体が導体101で構成されており、外部導体がシールド層105で構成されている。
【0025】
導体101は、導電性に優れた金属(例えば、銅やアルミニウム)からなる単線又は撚線(
図1及び
図2では撚線)で構成されている。高周波信号伝送用同軸ケーブル100が高周波信号の伝送に使用されることを考慮すると、表皮効果の影響を低減することを目的として、表面積の多い撚線を採用することが好ましい。これらの単線又は撚線は、めっき処理が施されためっき線であっても構わない。めっき線としては、例えば、錫めっき線又は銀めっき線を使用することができる。
【0026】
絶縁層102は、高周波信号の伝送に対応するために低誘電率樹脂からなる。低誘電率樹脂としては、誘電率がケーブル長手方向でばらつくことを防止するために、不可避的なものを除いて着色剤等の不純物が含有されていない高純度なものが使用される。また、低誘電率樹脂としては、端末処理の際に絶縁層102を容易に露出させることができるように、後述する接着層108や導電性接着層109と接着し難いフッ素樹脂(例えば、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)やテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP))を使用することが好ましい。
【0027】
遮光層103は、レーザ光に対して不透明な金属層又は樹脂層107と、金属層又は樹脂層107の周囲に形成された接着層108と、を備えている(
図1参照)。特に、金属層を採用した場合には、シールド層105を基板の端子等に半田接続する際に流れ込んだ半田がシールド層105及び金属層に接触して導通するため、ノイズ特性を更に向上させることが可能となる。金属層は、例えば、0.1μm以上3μm以下程度の厚さを有する銅被膜やアルミニウム被膜からなる。樹脂層は、例えば、カーボン粒子、チタン粒子、又は酸化チタン粒子等を主原料とした着色剤を含有する樹脂からなる。接着層108としては、例えば、ポリアミド系樹脂からなるホットメルト接着剤を使用することができる。
【0028】
また、遮光層103は、金属層又は樹脂層107と接着層108とに代えて、レーザ光に対して不透明な導電性接着層109を備えていても構わない(
図2参照)。導電性接着層109を採用した場合には、導電性接着層109が接着層108の機能も兼ねるため、別途の接着層108は不要となる。導電性接着層109は、カーボンブラック等の導電性粒子を含有する接着剤からなる。
【0029】
なお、遮光層103は、端末処理の際にレーザ光が導体101に到達しないように、レーザ光を吸収(又は反射)して遮光するための機能を発揮するものであれば、具体的な構成は特に限定されるものではない。遮光層103の厚さは、高周波信号伝送用同軸ケーブル100の可撓特性や屈曲特性を考慮して、レーザ光を遮光できる最低限の厚さであれば良い。
【0030】
また、遮光層103は、接着層108又は導電性接着層109よりも内側に基材となる介在層を更に備え、接着層108又は導電性接着層109は、介在層よりも低い融点を有していても構わない。この介在層については後述する。
【0031】
遮光層103は、例えば、
図3に示すように、テープ300を絶縁層102の周囲にラップ巻きして形成されている。テープ300は、金属層又は樹脂層107と接着層108とを備えるか、又は導電性接着層109を備えており、接着層108又は導電性接着層109がシールド層105に接触するように接着層108又は導電性接着層109を外側にしてラップ巻きされている。
【0032】
また、遮光層103は、
図4に示すように、接着層108又は導電性接着層109よりも内側に基材となる介在層401を更に備えたテープ400を絶縁層102の周囲にラップ巻きして形成されていても構わない。これにより、テープ400を補強することができ、巻き付け時にテープ400が破断等することを防止することが可能となる。
【0033】
介在層401は、4μm以上6μm以下の厚さを有していることが好ましい。これにより、テープ400を十分に補強しながら、高周波信号伝送用同軸ケーブル100の外径が大きくなることを防止することが可能となる。なお、介在層401の材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)が挙げられる。
【0034】
素線104は、導電性に優れた金属(例えば、銅やアルミニウム)からなると共にめっき処理が施されためっき線で構成されており、隣接する素線104同士が隙間を生じないように接着層108の周囲に横巻きされて横巻シールドとされている。めっき線としては、例えば、錫めっき線又は銀めっき線を使用することができる。
【0035】
接着層108の周囲に素線104が横巻きされた時点では、接着層108又は導電性接着層109は溶融しておらず、シールド層105は固定されていないが、シールド層105の周囲に被覆層106を形成する際の押出成型熱により接着層108又は導電性接着層109が溶融し、シールド層105が固定される。このとき、
図1及び
図2の左下に拡大して示すように、溶融した接着層108又は導電性接着層109を素線104の周囲に回り込ませて素線104を一体化しても良い。
【0036】
なお、素線104が錫めっき線からなる場合には、めっき層を保護するために表面に流動パラフィンが塗布されていることが多く、この流動パラフィンが接着層108又は導電性接着層109との接着を若干阻害するため、素線104が銀めっき線からなる場合と比較してシールド層105の除去がより容易になるという利点がある。
【0037】
被覆層106は、フッ素樹脂からなり、330℃以上360℃以下の押出成型熱で押出被覆されて形成される。押出成型熱が330℃以上360℃以下と介在層401の融点よりも高いが、押出被覆後に直ちに冷却されるため、その押出成型熱で介在層401が溶融することは無い。
【0038】
これまで説明してきた高周波信号伝送用同軸ケーブル100によれば、絶縁層102とシールド層105との間にレーザ光を遮光するための遮光層103が形成されているため、着色剤を絶縁層102に含有させること無く、端末処理の際のレーザ光による導体101の損傷を防止することが可能である。
【0039】
また、高周波信号伝送用同軸ケーブル100では、シールド層105が接着層108又は導電性接着層109により固定されているため、端末処理の際に素線104がばらけ難く、優れた端末処理性を実現することができる。そのため、隣接する素線104同士の間隔が開き難く、端末接続部分での電気特性が良好となる。
【符号の説明】
【0040】
100 高周波信号伝送用同軸ケーブル
101 導体
102 絶縁層
103 遮光層
104 素線
105 シールド層
106 被覆層
107 金属層又は樹脂層
108 接着層
109 導電性接着層
300 テープ
400 テープ
401 介在層