特許第5975182号(P5975182)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DIC株式会社の特許一覧

特許5975182樹脂組成物、樹脂成形体、放熱材料及び放熱部材、並びにこれらの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5975182
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂成形体、放熱材料及び放熱部材、並びにこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08K 3/22 20060101AFI20160809BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20160809BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20160809BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
   C08K3/22
   C08K3/08
   C08L101/00
   C09K5/14 E
【請求項の数】15
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-543786(P2015-543786)
(86)(22)【出願日】2014年10月7日
(86)【国際出願番号】JP2014076828
(87)【国際公開番号】WO2015060125
(87)【国際公開日】20150430
【審査請求日】2015年10月5日
(31)【優先権主張番号】特願2013-221141(P2013-221141)
(32)【優先日】2013年10月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】袁 建軍
(72)【発明者】
【氏名】木下 宏司
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−149751(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102107898(CN,A)
【文献】 国際公開第2005/054550(WO,A1)
【文献】 特開2006−188670(JP,A)
【文献】 特開2012−121793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)の粒子と樹脂(B)とを含有する樹脂組成物であって、
前記モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)の粒子は、モリブデンが酸化アルミニウム粒子内に存在するものであり、
前記モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)の粒子が、多面体形状であり、
前記モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)の粒子が、[001]面以外の結晶面を主結晶面としたものであり、
前記モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)の粒子の平均粒子径が1000μm以下であることを特徴とする、樹脂組成物。
【請求項2】
前記モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)の粒子が、六角両錐形以外、かつ、8面体以上の多面体粒子である、請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)の粒子が、着色粒子である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)の粒子が、カップリング剤で表面処理されてなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物を成形してなる、樹脂成形体。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含有することを特徴とする、放熱材料。
【請求項7】
請求項に記載の樹脂成形体を含有することを特徴とする放熱部材。
【請求項8】
モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)の粒子と、樹脂(B)と、を含有し、
前記モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)の粒子は、モリブデンが酸化アルミニウム粒子内に存在するものであり、
前記モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)の粒子が、多面体形状であり、
前記モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)の粒子が、[001]面以外の結晶面を主結晶面としたものである、樹脂組成物の製造方法であって、
アルミニウム化合物(C)をモリブデン化合物(D)の存在下で焼成し、モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)の粒子を得る焼成工程と、
前記モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)と樹脂(B)とを配合する混合工程と、を有し、
前記焼成工程が、
アルミニウム化合物(C)とモリブデン化合物(D)とがモリブデン酸アルミニウム(E)を形成する工程と、
前記モリブデン酸アルミニウム(E)が分解して、モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)を形成する工程と、を含むものである、樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)の粒子が、六角両錐形以外、かつ、8面体以上の多面体粒子である、請求項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
前記モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)の粒子が、着色粒子である、請求項8または9のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記アルミニウム化合物(C)中のアルミニウムに対するモリブデン化合物(D)のモリブデンのモル比が、0.03〜3.0の範囲である、請求項8〜10のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
前記焼成工程の後に、前記モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)の粒子を表面処理する工程をさらに含む、請求項8〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれか1項に記載の方法を含む、樹脂組成物を成形してなる樹脂成形体の製造方法。
【請求項14】
請求項8〜12のいずれか1項に記載の方法を含む、樹脂組成物を含有することを特徴とする放熱材料の製造方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法を含む、樹脂成形体を含有することを特徴とする放熱部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱性に優れた樹脂組成物、樹脂組成物の製造方法、樹脂成形体、放熱材料及び放熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、テレビ、携帯電話などに代表される電子機器の発展は目まぐるしく、より高密度、高出力、軽量化を目指した開発が進められている。電子機器の高性能化に伴い、単位面積あたりの発熱量は増大しており、電子機器は長時間高温環境にあると、動作が不安定となり、誤動作、性能低下、故障へと繋がるため、発生した熱を効率良く放熱する要求が高まっている。
【0003】
また、白熱電灯や蛍光灯に対し長寿命で低消費電力かつ低環境負荷であることから、急激に需要が拡大している発光ダイオード(LED)を光源とする照明装置においても放熱対策は必須となっている。これまで、高い放熱性を必要とする部材には、主に金属材料やセラミックス材料が用いられてきたが、電気・電子部品の小型化に適合する上で金属材料やセラミックス材料は、軽量性や成形加工性の面で難があり、樹脂材料への代替が進みつつある。
【0004】
熱可塑性樹脂は、成形加工の容易さ、外観、経済性、機械的強度、その他、物理的、化学的特性に優れているが、樹脂系材料は一般に熱伝導性が低いため、熱可塑性樹脂に、熱伝導性フィラーを配合し、熱伝導性を高める検討が行われている。
【0005】
また、硬化性樹脂は電気絶縁材料、半導体封止材料、繊維強化複合材料、塗装材料、成形材料、接着材料等で広く用いられる材料であり、それらの用途の中で、特に、接着剤、半導体封止材料、電気絶縁材料、プリント基板材料等で、放熱性が求められており、硬化性樹脂でも熱伝導性フィラーを配合する事で、熱伝導性を高める検討が行われている。
【0006】
その際に用いられる熱伝導性フィラーのひとつとして、μmオーダーの酸化アルミニウムが使用されている。酸化アルミニウムには、α、β、γ、δ、θ等の各種の結晶形態があるが、α結晶形態の酸化アルミニウムの熱伝導性が最も高い事が知られている。しかしながら、一般的に、α結晶形の酸化アルミニウムは板状あるいは不定形であるため、高い熱伝導性を得るために、有機高分子化合物に高充填を行おうとしても、高粘度化等の問題が発生し、高充填する事ができない。
【0007】
有機高分子化合物に大量の酸化アルミニウムを高充填するために、通常、熱伝導性フィラーとして、球状の酸化アルミニウム粒子が用いられており、特許文献1には、球状の酸化アルミニウム粒子(球状アルミナ)を使用した半導体封止用エポキシ樹脂組成物の製造方法、特許文献2には、球状アルミナ粉末及び樹脂組成物が開示されている。しかしながら、一般的に球状の酸化アルミニウム粒子はその製法面から、θ結晶形やδ結晶形を含む熱伝導性の低い酸化アルミニウム粒子になっており、α結晶形の酸化アルミニウムと同等の高い熱伝導率は得られない。
【0008】
特許文献3には、フッ素化合物又はフッ素化合物及びホウ素化合物とともに焼成する8面体以上の多面体形状α−アルミナの製造方法が記載され、放熱用フィラーとしても使用できる事が開示されているが、得られた多面体α−アルミナの純度や熱伝導性については記載されていない。特許文献4には、特定の粒度分布を持ち、実質的に破面を有しない多面体一次粒子よりなるアルミナ粉末とバイヤー法アルミナ、電融アルミナ、有機金属の加水分解法によるアルミナ等、工業規模で入手可能な各種のアルミナの2種のアルミナを特定の比率で使用した樹脂組成物及びゴム組成物が開示されており、特定の配合条件で高い熱伝導性が得られるとしている。
【0009】
特許文献5には、アクリル系の高分子量の主体ポリマーと酸化アルミニウムからなる熱伝導性感圧接着剤で、酸化アルミニウムの95重量%以上が、α−酸化アルミニウムである事が開示されているが、酸化アルミニウムが粒状であることが開示されており、α結晶であることだけが必須であり、特定の内部構造、特定の結晶性、特定の形状因子、あるいは特別な規則的ないしは不規則的外形を有することは基本的に重要でないとの記述があり、α−酸化アルミニウムについての規定はなんらされていない。
【0010】
また、熱可塑性樹脂組成物として、特許文献6に特定の溶融粘度のポリフェニレンスルフィド樹脂にα−アルミナの特定量を配合した樹脂組成物が開示されているが、α−アルミナとして、球状のアルミナが好ましい事が記述されているだけで、そのα−アルミナの詳細は開示されていない。また、特許文献7には、ポリフェニレンサルファイド、α結晶粒子径が5μm未満のアルミナと板状フィラーからなる樹脂組成物が開示されているが、アルミナの平均粒子径とα結晶粒子径の比についての記述があるだけで、α−アルミナの詳細は開示されていない。
【0011】
特許文献8には、ポリフェニレンスルフィド樹脂、特定のサイズのα結晶子径を持つ2種のαアルミナであり、そのひとつあるいは両方がカップリング剤で予備処理されたαアルミナである樹脂組成物が開示されているが、α結晶子径の記述があるだけで、α−アルミナの詳細は開示されていない。
【0012】
硬化性樹脂系、熱可塑性樹脂系のいずれにおいても、μmオーダーの酸化アルミニウムをフィラーとして、高熱伝導性の樹脂組成物を得るためには、高充填する必要があり、高充填するために、通常は、球状のアルミナが使用されているが、それは、θやδ結晶を多く含むα−アルミナであるため、充分な熱伝導性が得られていない。
【0013】
また、一般的に、酸化アルミニウムの熱伝導率は、その純度に大きく影響され、酸化アルミニウム成分の低いものは、高い熱伝導率を示さないと当業者において考えられており、高純度な酸化アルミニウムを得るために、使用原料及び/又は生成物の高純度化が必要であると考えられている。そのため、この精製工程を経て得られるフィラーは高価格化するなどの問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005−290076公報
【特許文献2】特開2001−226117公報
【特許文献3】特開2008−127257公報
【特許文献4】特開平8−169980号公報
【特許文献5】特表2012−504668公報
【特許文献6】特開平10−158512号公報
【特許文献7】特開2002−256147公報
【特許文献8】特開2001−247767公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記の実情を鑑み、本発明が解決しようとする課題は、高熱伝導性フィラーとして有用で新規な、μmオーダー以下のモリブデンを含む酸化アルミニウムと、樹脂とを含有してなる樹脂組成物、その製造方法及び樹脂成形体、それらを含有する放熱材料及び放熱部材を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、かかる問題を解決すべく、鋭意研究に取り組んだ結果、μmオーダー以下の、モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)と、樹脂(B)とを含有してなる樹脂組成物の樹脂硬化物あるいは樹脂成形物が、従来の酸化アルミニウムを含有する同様の樹脂硬化物あるいは樹脂成形物に比べて、かなり高い熱伝導性を示すことを見出し、本発明の完成に至った。
【0017】
すなわち、本発明は、μmオーダー以下の、モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)と、樹脂(B)とを含有してなる樹脂組成物、その製造方法及び樹脂成形体を提供する。
また、本発明は、上記樹脂組成物を含有する放熱材料、及び上記樹脂成形体を含有する放熱部材を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の樹脂組成物は、μmオーダー以下の、モリブデンを含む酸化アルミニウムを樹脂のフィラーとして含有するので、硬化したり成形した場合に、市販されていたり、特許文献として公知慣用の酸化アルミニウムに比べて、高い熱伝導性を有した樹脂硬化物や樹脂成形物を提供することが出来るという格別顕著な技術的効果を奏する。
この様な樹脂組成物を成形して得られる成形体、及び該成形体を含有する放熱部材は、優れた熱伝導性を有していることから、蓄熱することなく、優れた熱放散能力を有するいう格別顕著な技術的効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)>
本発明で使用される熱伝導性フィラーは、μmオーダー以下の、モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)である。μmオーダー以下とは、平均粒子径が1000μm以下であることを意味し、1〜1000μmのμm領域と1000nm未満のnm領域を含む。以下、μmオーダー以下の、モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)は、単に、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)と略記する。
【0020】
通常、酸化アルミニウムはより高い純度のものが、より高い熱伝導性を示す事が知られている。その理由は、不純物成分がフォノンの散乱を引き起こし、熱伝導率を低下させると考えられているからである。本発明の樹脂組成物、その樹脂成形体が高い熱伝導性を示すのは驚くべきことであり、本発明で用いるモリブデンを含む酸化アルミニウム(A)は、モリブデンを含み、さらに場合によっては、原料に由来する不純物を含み、酸化アルミニウム成分が低いにもかかわらず、高い熱伝導性を示すことに最大の特徴がある。
【0021】
未知の酸化アルミニウムが、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)に該当するか否かは、例えば、着色の有無で判断することが出来る。本発明で用いる酸化アルミニウム(A)は、通常の酸化アルミニウムの白色の粒子ではなく、薄い青色から黒色に近い濃青色であり、モリブデンの含有量が多くなると濃色になる特徴を有している。また、その他の少量の金属が混入した場合、例えば、クロムの混入で赤色、ニッケルの混入で黄色になり、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)は、白色ではない着色粒子である事を特徴とする。
【0022】
本発明で用いる酸化アルミニウム(A)は、モリブデンを含有してさえいれば、どの様な製造方法に基づいて得たものであっても良いが、mmオーダー以上の巨大なモリブデンを含む酸化アルミニウムをμmオーダーに粉砕することで得ることも出来るが、それを得るために大量のエネルギーが必要であったり、粒度分布がブロードとなったりするので好ましくない。
【0023】
そのため、分級などすることなく粒度分布をシャープにすることが可能で、より熱伝導性に優れ、より生産性に優れる点で、モリブデン化合物(D)の存在下でアルミニウム化合物(C)を焼成する工程で得られる酸化アルミニウムであることが好ましい。すなわち具体的には、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)は、上記焼成工程において、モリブデン化合物(D)がアルミニウム化合物(C)と高温で反応し、モリブデン酸アルミニウム(E)を形成する工程と、このモリブデン酸アルミニウム(E)が、さらに、より高温で酸化アルミニウムと酸化モリブデンに分解する工程とを有することが好ましい。このような工程において、モリブデン化合物が酸化アルミニウム粒子内に取り込まれ、酸化アルミニウムは粒径と形状が制御された純度の高い結晶となる。以下、この製造方法をフラックス法という。このフラックス法については、後に詳記する。
【0024】
本発明で用いる酸化アルミニウム(A)における、その形状、サイズ、比表面積等は、アルミニウム化合物(C)と、モリブデン化合物(D)の使用割合、焼成温度、焼成時間を選択することにより、制御することができる。
【0025】
本発明で用いる酸化アルミニウム(A)は、例えば、β、γ、δ、θ等の各種の結晶形態であっても良いが、より熱伝導性に優れる点で、基本的にα結晶形であることが好ましい。一般的なα型−酸化アルミニウムの結晶構造は稠密六方格子であり、熱力学的に最も安定的な結晶構造は[001]面の発達した板状であるが、下で詳記するフラックス法では、モリブデン化合物(D)の存在下に、アルミニウム化合物(C)を焼成する事で、モリブデン化合物(D)がフラックス剤として働き、[001]面以外の結晶面を主結晶面としたα結晶化率が高い、中でもα結晶化率が90%以上の、モリブデンを含む酸化アルミニウムをより容易に形成できる。[001]面以外の結晶面を主結晶面とするということは、当該〔001〕面の面積が微粒子の全体の面積に対して、20%以下であるということである。
【0026】
本発明で用いる酸化アルミニウム(A)の形状は特に限定されない。真球でなくとも多面体粒子であることが、樹脂組成物へ充填し易い点で有利であるが、例えば、下で詳記するフラックス法で、フラックス剤としてモリブデン化合物(D)を使用する事により、基本的に球に近い多面体粒子を得る事ができ、この球に近い多面体粒子は、樹脂組成物への充填した際に、充填し易い有利な形態である。中でも、最も大きな平坦面の面積は構造体の面積の8分の1以下にあり、特に最も大きな平坦面の面積は構造体の面積の16分の1以下のものが好適に得られる。
また、多面体粒子であると、樹脂組成物中で粒子同士が接触する際、熱伝導率の高い面接触を行うと考えられ、球状粒子に比べて同じ充填率であっても高い熱伝導性を得られると考えられる。
【0027】
また、一般的に行なわれる大量のフラックス剤を使用したフラックス法で得られる酸化アルミニウムは六角両錘型の形状になり、鋭角を有するため、樹脂組成物を製造する時に、機器を損傷するなどの問題点を発生するが、本発明で用いる酸化アルミニウムは、基本的に六角両錘型の形状ではないために、機器の損傷等の問題を起こし難い。さらに、本発明の酸化アルミニウムは、基本的に8面体以上の多面体であり、球状に近い形状を持っているため、機器の損傷等の問題を起こし難いという特徴を有する。
【0028】
本発明で用いる酸化アルミニウム(A)の平均粒子径は1000μm以下であれば特に限定はないが、樹脂組成物としての使用を考えると、好ましくは、0.1μm(100nm)〜100μmである。本発明で用いる酸化アルミニウム(A)の平均粒子径が0.1μm以上であれば、樹脂組成物の粘度が低く抑えられ、作業性等に好ましい。また、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)の平均粒子径が100μm以下であれば、例えば、熱可塑性の樹脂組成物では、その成形物の表面で荒れが発生しにくく、良好な成形物が得られやすい。また、例えば、熱硬化性樹脂組成物の場合には、基材と基材を接着する場合など、硬化物と基材との界面の接着力が低下せず、冷熱サイクル等における耐クラック性や、接着界面での剥離性に優れるため、好ましい。前記と同様の理由から、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)のさらに好ましい平均粒子径は、1μm〜50μmである。
【0029】
また、例えば、下で詳記するフラックス法にて、原料であるアルミニウム化合物(C)から得られる、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)の比表面積は、アルミニウム化合物(C)と比較して、焼成により大幅に低減する。アルミニウム化合物(C)の性状と焼成条件にもよるが、得られる本発明で用いる酸化アルミニウム(A)の比表面積は0.0001〜50m2/gの範囲であり、0.001〜10m2/gの範囲のものが好適に得られる。
【0030】
モリブデン化合物(D)をフラックス剤として用いるフラックス法では、高温での焼成処理により、用いたモリブデン化合物(D)の殆どは昇華するものの、一部のモリブデンが残留し、モリブデンを含む酸化アルミニウムが得られる。本発明で用いる酸化アルミニウム(A)中のモリブデンの含有量は、特に制限されるものではないが、着色していない樹脂(B)と併用することを考慮すれば、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)自体の着色は薄い方が好ましい。着色の程度(濃淡)との関係から、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)中のモリブデンの含有量は、好ましくは、10質量%以下であり、焼成温度、焼成時間、モリブデン化合物の昇華速度を調整する事で、1質量%以下にしたものが、より好適に用いられる。
【0031】
本発明で用いる酸化アルミニウム(A)に含まれるモリブデンの形態は特に限定されるものではなく、例えば、モリブデン金属、三酸化モリブデンや一部が還元された二酸化モリブデン等のモリブデン化合物あるいは酸化アルミニウムの構造のアルミニウムの一部がモリブデンに置換された形態で含まれていても良い。
【0032】
<アルミニウム化合物(C)>
本発明におけるアルミニウム化合物(C)は、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)の原料であり、熱処理により酸化アルミニウムになるものであれば特に限定されず、例えば、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ベーマイト、擬ベーマイト、遷移アルミナ(γ−アルミナ、δ−アルミナ、θ−アルミナなど)、α−アルミナ、二種以上の結晶相を有する混合アルミナなどが使用でき、これら前駆体としてのアルミニウム化合物の形状、粒子径、比表面積等の物理形態については、特に限定されるものではない。
【0033】
下で詳記するフラックス法によれば、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)の形状には、原料のアルミニウム化合物(C)の形状は、殆ど反映されることはないため、例えば、球状、無定形、アスペクトのある構造体(ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなどのいずれであっても好適に用いることができる。
【0034】
同様に、アルミニウム化合物(C)の粒子径は、下で詳記するフラックス法によれば、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)に、殆ど反映されないため、数nmから数百μmまでのアルミニウム化合物の固体を好適に用いることができる。
【0035】
アルミニウム化合物(C)の比表面積も特に限定されるものではない。モリブデン化合物が効果的に作用するため、比表面積が大きい方が好ましいが、焼成条件やモリブデン化合物(D)の使用量を調整する事で、いずれの比表面積のものでも原料として使用することができる。
【0036】
また、アルミニウム化合物(C)は、アルミニウム化合物のみからなるものであっても、アルミニウム化合物と有機化合物との複合体であってもよい。例えば、有機シランを用いて、アルミナを修飾して得られる有機/無機複合体、ポリマーを吸着したアルミニウム化合物複合体などであっても好適に用いることができる。これらの複合体を用いる場合、有機化合物の含有率としては、特に制限はないが、球に近いα型−アルミナ微粒子を効率的に製造できる観点より、当該含有率は60質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0037】
<モリブデン化合物(D)>
本発明で使用されるモリブデン化合物(D)は、例えば、酸化モリブデンであっても、モリブデン金属が酸素と結合してなる酸根アニオンを含有する化合物であっても良い。
前記のモリブデン金属が酸素と結合してなる酸根アニオンを含有する化合物としては、高温焼成によって三酸化モリブデンに転化することができれば、特に限定しない。この様なモリブデン化合物(D)としては、例えば、モリブデン酸、七モリブデン酸六アンモニウム、モリブデン酸二アンモニウム、リンモリブデン酸、二硫化モリブデンなどを好適に用いることができる。
【0038】
<焼成>
本発明で用いる酸化アルミニウム(A)は、例えば、モリブデン化合物(D)の存在下で、アルミニウム化合物(C)を焼成することで得られる。上記した通り、この製造方法はフラックス法と呼ばれる。本発明の樹脂組成物に含有させるのは、μmオーダー以下の、モリブデンを含む酸化アルミニウムであることから、大量のモリブデン化合物(B)をフラックス剤として用いて、かなり長時間をかける製造方法では、mmオーダー以上の巨大な、モリブデンを含む酸化アルミニウムが生成してしまうので好ましくない。
【0039】
焼成の方法は、特に限定はなく、公知慣用の方法で行う事ができる。焼成温度が700℃を超えると、アルミニウム化合物(C)と、モリブデン化合物(D)が反応して、モリブデン酸アルミニウム(E)を形成する。さらに、焼成温度が900℃以上になると、モリブデン酸アルミニウム(E)が分解し、酸化アルミニウムと酸化モリブデンになる際に、モリブデン化合物を酸化アルミニウム粒子内に取り込む事で得られる。
【0040】
前記の焼成におけるアルミニウム化合物(C)とモリブデン化合物(D)の使用量としては特に限定はないが、樹脂組成物に好ましいα結晶化率が高く、球状に近い多面体粒子を効率よく得るという観点から、アルミニウム化合物(C)中のアルミニウムに対するモリブデン化合物(D)のモリブデンのモル比が0.03〜3.0の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、0.08〜0.7の範囲である。
【0041】
また、焼成する時に、アルミニウム化合物(C)と、モリブデン化合物(D)の状態は特に限定されず、モリブデン化合物(D)がアルミニウム化合物(C)に作用できる同一の空間に存在すれば良い。具体的には、両者が混ざっていない状態であっても、粉体を混ぜ合わせる簡便な混合、粉砕機等を用いた機械的な混合、乳鉢等を用いた混合であっても良く、乾式状態、湿式状態での混合であっても良い。
【0042】
焼成温度の条件に特に限定は無く、目的とする本発明で用いる酸化アルミニウム(A)の粒子径、形態等により、適宜、決定される。通常、モリブデン酸アルミニウム(E)の分解温度以上の温度で焼成が行なわれ、具体的には900℃以上である。特に球に近い多面体粒子で、α結晶化率が90%以上の本発明で用いる酸化アルミニウム(A)の形成を効率的に行うには、950〜1100℃での焼成がより好ましく、970〜1050℃の範囲での焼成が最も好ましい。
【0043】
また、焼成の温度については、最高温度がモリブデン酸アルミニウム(Al2(MoO43)の分解温度である900℃以上であればよい。
一般的に、焼成後に得られる酸化アルミニウム(A)の形状を制御しようとすると、酸化アルミニウム(A)の融点に近い2000℃以上の高温焼成を行う必要があるが、焼成炉へ負担や燃料コストの点から、産業上利用する為には大きな課題がある。
本発明で用いる酸化アルミニウム(A)は、2000℃を超えるような高温であっても製造可能であるが、前記フラックス法を用いることで、1600℃以下という酸化アルミニウムの融点よりかなり低い温度であっても、前駆体の形状にかかわりなくα結晶化率が高く多面体形状となる、熱伝導性の高い樹脂組成物として最適な酸化アルミニウムを形成することができる。
上記フラックス法においては、最高焼成温度が900℃〜1600℃の条件であっても、球状に近く、α結晶化率が90%以上である熱伝導性の高い酸化アルミニウム粒子の形成を低コストで効率的に行うことができ、最高温度が950〜1500℃での焼成がより好ましく、最高温度が1000〜1400℃の範囲の焼成が最も好ましい。
【0044】
焼成の時間については、所定最高温度への昇温時間を15分〜10時間の範囲で行い、且つ焼成最高温度における保持時間を5分〜30時間の範囲で行うことが好ましい。本発明で用いる酸化アルミニウム(A)の形成を効率的に行うには、10分〜15時間程度の時間の焼成保持時間であることがより好ましい。
【0045】
焼成の雰囲気としては、本発明の効果が得られるのであれば特に限定されないが、例えば、空気や酸素のといった含酸素雰囲気や、窒素やアルゴンといった不活性雰囲気が好ましく、コストの面を考慮した場合は空気雰囲気がより好ましい。ハロゲンガスのような腐食性を有さない雰囲気のほうが、実施者の安全性や炉の耐久性の面から好ましい。
【0046】
焼成するための装置としても必ずしも限定されず、いわゆる焼成炉を用いることができる。焼成炉は昇華した酸化モリブデンと反応しない材質で構成されていることが好ましく、さらに酸化モリブデンを効率的に利用するように、密閉性の高い焼成炉を用いる事が好ましい。
また、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)の結晶の状態を整えるためや粒子の表面の不純物等を除くため、モリブデンを含む酸化アルミニウムを形成した後に、さらに酸化アルミニウム(A)形成する温度以上の高温で焼成を行なっても良い。
【0047】
上記した様な、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)と、樹脂(B)とを混合することで、本発明の樹脂組成物を調製することが出来る。
【0048】
<樹脂(B)>
本発明で使用される樹脂(B)は、ポリマーであってもオリゴマーであってもモノマーであってもよく。熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂である。
【0049】
<熱硬化性樹脂>
本発明で使用する熱硬化性樹脂は、加熱または放射線や触媒などの手段によって硬化される際に実質的に不溶かつ不融性に変化し得る特性を持った樹脂である。例えば、成形材料等に使用される公知慣用の樹脂である。具体的には、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;未変性のレゾールフェノール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油等で変性した油変性レゾールフェノール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂;ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;脂肪鎖変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂、ポリアルキレングルコール型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂;ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環を有する樹脂;(メタ)アクリル樹脂やビニルエステル樹脂等のビニル樹脂:不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、シアネートエステル樹脂等が挙げられ、ポリマーであってもオリゴマーであってもモノマーであってもかまわない。
【0050】
上記した熱硬化性樹脂は、硬化剤とともに用いてもかまわない。その際に用いられる硬化剤は、熱硬化性樹脂と公知慣用の組み合わせで用いる事ができる。例えば、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、硬化剤として常用されている化合物は何れも使用することができ、例えば、アミン系化合物、アミド系化合物、酸無水物系化合物、フェノ−ル系化合物などが挙げられる。具体的には、アミン系化合物としてはジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、イミダゾ−ル、BF3−アミン錯体、グアニジン誘導体等が挙げられ、アミド系化合物としては、ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとより合成されるポリアミド樹脂等が挙げられ、酸無水物系化合物としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられ、フェノール系化合物としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂(ザイロック樹脂)、レゾルシンノボラック樹脂に代表される多価ヒドロキシ化合物とホルムアルデヒドから合成される多価フェノールノボラック樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、ビフェニル変性ナフトール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価ナフトール化合物)、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(メラミン、ベンゾグアナミンなどでフェノール核が連結された多価フェノール化合物)やアルコキシ基含有芳香環変性ノボラック樹脂(ホルムアルデヒドでフェノール核及びアルコキシ基含有芳香環が連結された多価フェノール化合物)等の多価フェノール化合物が挙げられる。これらの硬化剤は、単独でも2種類以上の併用でも構わない。
【0051】
本発明の樹脂組成物における、熱硬化性樹脂と前記の硬化剤の配合量は、特に限定されないが、例えば、硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合は、得られる硬化物特性が良好である点から、エポキシ樹脂のエポキシ基の合計1当量に対して、硬化剤中の活性基が0.7〜1.5当量になる量の使用が好ましい。
【0052】
また必要に応じて、本発明の樹脂組成物における、熱硬化性樹脂に硬化促進剤を適宜併用することもできる。例えば、硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、硬化促進剤としては種々のものが使用できるが、例えば、リン系化合物、第3級アミン、イミダゾール、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられる。
【0053】
また必要に応じて、本発明における、熱硬化性樹脂に、硬化触媒を適時併用することもでき、公知慣用の熱重合開始剤や活性エネルギー線重合開始剤が挙げられる。
【0054】
<熱可塑性樹脂>
本発明で使用する熱可塑性樹脂は、成形材料等に使用される公知慣用の樹脂である。具体的には、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、フッ化樹脂、液晶ポリマー、オレフィン−ビニルアルコール共重合体、アイオノマー樹脂、ポリアリレート樹脂、アクリロニトリル−エチレン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体などが挙げられる。少なくとも1種の熱可塑性樹脂が選択されて使用されるが、目的に応じて、2種以上の熱可塑性樹脂を組み合わせての使用も可能である。
【0055】
上記した樹脂(B)としては、寸法安定性や耐熱性に優れる点で、エポキシ樹脂と硬化剤との組み合わせや、ポリフェニレンスルフィド樹脂がより好ましい。中でも、樹脂(B)としては、エポキシ樹脂と硬化剤との組み合わせが、絶対値として最も優れた熱伝導性が得られるので最適である。
【0056】
本発明の樹脂組成物は、必要に応じてその他の配合物を含有してもよく、発明の効果を損ねない範囲で、外部滑剤、内部滑剤、酸化防止剤、難燃剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ガラス繊維、カーボン繊維等の補強材、フィラー、各種の着色剤等を添加してもよい。また、シリコーンオイル、液状ゴム、ゴム粉末、アクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体などのブタジエン系共重合体ゴムやシリコーン系化合物などの低応力化剤(応力緩和剤)の使用も可能である。
【0057】
本発明の樹脂組成物は、モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)と樹脂(B)、さらに必要に応じてその他の配合物を混合することにより得られる。その混合方法に特に限定はなく、公知慣用の方法により、混合される。
【0058】
樹脂(B)が熱硬化性樹脂である場合の一般的な手法としては、所定の配合量の熱硬化性樹脂と、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)、必要に応じてその他の成分をミキサー等によって充分に混合した後、三本ロール等で混練し、流動性ある液状の組成物として、あるいは、所定の配合量の熱硬化性樹脂と、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)、必要に応じてその他の成分をミキサー等によって充分に混合した後、ミキシングロール、押出機等で、溶融混練した後、冷却する事で、固形の組成物として得られる。その混合状態は、硬化剤や触媒等を配合した場合は、硬化性樹脂とそれらの配合物が充分に均一に混合されていれば良いが、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)も均一に分散混合された方がより好ましい。
【0059】
樹脂(B)が熱可塑性樹脂である場合の一般的な手法としては、熱可塑性樹脂、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)、および必要に応じてその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダー、混合ロールなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240〜320℃の範囲である。
【0060】
本発明の樹脂組成物を調製するに当たっての、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)と、樹脂(B)の不揮発分との混合割合は特に制限されるものではないが、樹脂(B)の不揮発分の質量換算100部当たり、66.7〜900部の範囲から選択することが好ましい。また、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)の、本発明の樹脂組成物中の含有量は特に限定されず、それぞれの用途で求められる熱伝導率の程度に応じて混合されるが、好ましくは、樹脂組成物の100容量部中、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)の含有量は30〜90容量部である。
【0061】
本発明で用いる酸化アルミニウム(A)の含有量が30容量部未満であると、その樹脂硬化物あるいは樹脂成形物について、熱伝導性が不充分となるので好ましくない。一方、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)の含有量が90容量部を超えると、例えば、金属等の基材間を接着するために樹脂組成物を使用した場合、硬化物と基材の接着力が不足して、電子部品の反りが大きくなったり、冷熱サイクル下等においてクラック又は電子部品の剥離が生じたり、接着界面で剥離が生じたりすることがあるので好ましくない。また、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)の含有量が90容量部を超えると、樹脂組成物の粘度が高くなって塗布性や作業性等が低下したりすることがあるので好ましくない。本発明で用いる酸化アルミニウム(A)の熱伝導性フィラーとしての機能を効果的に発現させ、高い熱伝導性を得るためには、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)が高充填されている方が好ましく、40〜90容量部の使用が好ましい。硬化性樹脂組成物の場合、その流動性を考慮すると、より好ましくは、60〜85容量部使用である。
【0062】
本発明で用いる酸化アルミニウム(A)としては、樹脂組成物の調製時に、2種類以上の粒子径の異なるものを併用したり、これらを予め混合した混合物を用いることが好ましく、これにより大粒子径の、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)の空隙に小粒子径の本発明で用いる酸化アルミニウム(A)がパッキングされることによって、単一粒子径の本発明で用いる酸化アルミニウム(A)を使用するよりも密に充填されるために、より高い熱伝導率を発揮することが可能である。例えば、平均粒子径5〜20μm(大粒子径)の本発明で用いる酸化アルミニウム(A)と、平均粒子径0.4〜1.0μm(小粒子径)の本発明で用いる酸化アルミニウム(A)とを併用することが上記理由で好ましく、より具体的には、平均粒子径5〜20μm(大粒子径)の本発明で用いる酸化アルミニウム(A)を45〜75質量%、平均粒子径0.4〜1.0μm(小粒子径)の本発明で用いる酸化アルミニウム(A)を25〜55質量%の範囲の割合で併用すると、熱伝導率の温度依存性が小さくなるなどの効果が得られる。
【0063】
本発明で用いる酸化アルミニウム(A)としては、表面処理を行ったものを使用する事ができる。その際、カップリング剤、例えば、シラン系、チタネート系およびアルミネート系カップリング剤などで、表面改質されたものを使用する事ができる。
【0064】
樹脂組成物の流動性やその樹脂成形物あるいは樹脂硬化物の熱伝導率をより高められることから、前記のカップリング剤で表面処理された、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)を用いた方が良い場合が多く、例えば、表面処理により、樹脂成形物あるいは樹脂硬化物における有機高分子化合物(B)と本発明で用いる酸化アルミニウム(A)との密着性が更に高められ、有機高分子化合物(B)と本発明で用いる酸化アルミニウム(A)の間での界面熱抵抗が低下し、熱伝導性が向上する。
【0065】
カップリング剤の中でも、シラン系カップリング剤の使用が好ましく、例えば、シランカップリング剤としては、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β(3,4エポキシシンクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシリメトキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0066】
表面処理は、公知慣用のフィラーの表面改質方法により行なう事ができ、例えば、流体ノズルを用いた噴霧方式、せん断力のある攪拌、ボールミル、ミキサー等の乾式法、水系または有機溶剤系等の湿式法を採用することができる。せん断力を利用した表面処理は、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)の破壊が起こらない程度にして行うことが望ましい。
【0067】
乾式法における系内温度ないしは湿式法における処理後の乾燥温度は、表面処理剤の種類に応じ、表面処理剤が熱分解しない領域で適宜決定される。例えば、上記した様なアミノ基を有するシランカップリング剤で処理する場合は、80〜150℃の温度が望ましい。
【0068】
本発明で用いる酸化アルミニウム(A)としては、上記した様に、2種類以上の粒子径の異なるもの準備し、それぞれを、上記した様に、予めカップリング剤にて表面処理した上で、これらを併用して、本発明の樹脂組成物を調製し、硬化あるいは成形することが、得られる硬化物や成形物が、最も熱伝導性に優れたものとなる上、その温度依存性も小さく出来る点から、最も好ましい。
【0069】
熱伝導性を向上するために、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)に加えて、その他の熱伝導性フィラーを使用する事ができる。その様な熱伝導性フィラーとして、公知慣用の金属系ファイラー、無機化合物フィラー、炭素系フィラー等が使用できる。具体的には、例えば、銀、銅、アルミニウム、鉄等の金属系フィラー、アルミナ、マグネシア、ベリリア、シリカ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン等の無機系フィラー、ダイヤモンド、黒鉛、グラファイト、炭素繊維等の炭素系フィラーなどが挙げられる。結晶形、粒子サイズ等が異なる1種あるいは複数種の熱伝導性フィラーを組み合わせて使用する事も可能である。電子機器等の用途で放熱性が必要とされる場合には、電気絶縁性が求められる事が多く、これらのフィラーの内、体積固有抵抗の高いアルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、ベリリア、シリカ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、ダイヤモンドから選択される熱伝導性フィラーの使用が好ましい。これらの熱伝導性フィラーとして、表面処理を行ったものを使用する事もできる。例えば、無機系フィラーなどは、シラン系およびまたはチタネート系カップリング剤などで表面改質されたものを使用する事ができる。
【0070】
<樹脂成形体>
本発明の樹脂組成物を成形することで、樹脂成形体を得ることができる。
樹脂成形体を得るには、公知慣用の方法で行うことができる。
【0071】
例えば本発明の樹脂(B)が熱硬化性樹脂である場合、一般的なエポキシ樹脂組成物等の熱硬化性の樹脂組成物の硬化方法に準拠すればよいが、例えば、樹脂(B)がエポキシ樹脂である樹脂組成物などは、熱で硬化を行う事ができ、その際の加熱温度条件は、組み合わせる硬化剤の種類や用途等によって、適宜選択すれば良く、室温〜250℃程度の温度範囲で加熱すればよい。活性エネルギー線硬化性樹脂の場合、紫外線や赤外線といった活性エネルギー線を照射することで硬化成形することができる。
【0072】
また、本発明の樹脂が熱可塑性樹脂の場合も、公知慣用の成形して成形物とすることができる。例えば、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などが挙げられる。また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることも出来る。成形品の形状、模様、色彩、寸法などに制限はなく、その成形品の用途に応じて任意に設定すればよい。
【0073】
本発明の樹脂組成物は、基材と基材を接着するいわゆるサーマルインターフェースマテリアル(TIM)として基材間の界面の熱伝導性を向上する材料として、あるいは、樹脂硬化物、樹脂成形物との形態で放熱部品として使用する事ができる。
【0074】
例えば、パワーモジュールなどの電気・電子機器の放熱させたい部位と放熱部材(例えば、金属板やヒートシンク)を接着させ、良好な放熱を発現させるために使用される接着剤として用いる事ができる。その際の使用される樹脂組成物の形態には特に制限はないが、液状あるいはペースト状に設計した樹脂組成物の場合は、液状あるいはペースト状の樹脂組成物を接着面の界面に注入後、接着し、硬化させれば良い。固形状に設計されたものは、粉体状、チップ状あるいはシート状にしたものを、接着面の界面に置いたうえで接着し、硬化させれば良い。
【0075】
また、本発明の樹脂組成物は、プリント配線基板等の樹脂基板に使用する事ができ、樹脂放熱基板材としても有用である。
また、本発明の樹脂組成物は、樹脂製のヒートシンク等の放熱部品等に成形して使用する事ができ、LED等の放熱材として有用である。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断わりがない限り、「%」は「質量%」を表わす。
【0077】
[走査型電子顕微鏡による、μmオーダー以下の、モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)の形状分析]
試料を両面テープにてサンプル支持台に固定し、それを株式会社キーエンス製表面観察装置VE−9800にて観察した。走査型電子顕微鏡で確認されたモリブデンを含む酸化アルミニウム粒子からランダムに100個を選択、それらのモリブデンを含む酸化アルミニウム粒子の最大径を計測し、それらの粒子径の範囲を示した。また、測定した値の平均値を平均粒子径とした。
【0078】
[STEM−EDXによる、μmオーダー以下の、モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)の組成分析]
断面として作成された試料を炭素蒸着された銅グリッドに乗せ、それを株式会社トプコン、ノーランインスツルメント社製EM−002B、VOYAGER M3055高分解能電子顕微鏡にて組成分析を行った。
【0079】
[X線回折法による、μmオーダー以下の、モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)の分析]
作製した試料を測定試料用ホルダーにのせ、それを株式会社リガク製広角X線回折装置[Rint−Ultma]にセットし、Cu/Kα線、40kV/30mA、スキャンスピード1.0°/分、走査範囲5〜80°の条件で測定を行った。
【0080】
[BETによる、μmオーダー以下の、モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)の比表面積測定]
比表面積は、マイクロメリティクス社製Tris star 3000型装置にて、窒素ガス吸着/脱着法で測定した。
【0081】
27Al−NMR測定による、α−アルミナ構造体の化学結合評価]
日本電子株式会社製JNM−ECA600を用いて、固体27Al single pulse non−decoupling CNMR測定を行った。ケミカルシフトは装置の自動リファレンス設定で決定した。
【0082】
[蛍光X線によるα−アルミナ微粒子の組成分析]
試料約100mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて蛍光X線測定(ZSX100e/理学電機工業株式会社)を行った。
【0083】
[焼成]
焼成は、株式会社アサヒ理化製作所製のAMF−2P型温度コントローラ付きセラミック電気炉ARF−100K型の焼成炉装置にて行った。
【0084】
合成例1<モリブデンを含む酸化アルミニウムの製造>
γ−アルミナ(和光純薬工業株式会社製、活性アルミナ、平均粒径45μm)の40gと三酸化モリブデン(和光純薬工業株式会社製)の10gとを乳鉢で混合し、γ−アルミナと酸化モリブデンとの混合物50gを得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて1000℃で3時間焼成を行なった。降温後、坩堝を取り出し、内容物を10%アンモニア水およびイオン交換水で洗浄後、150℃で2時間乾燥を行い、38gの青色の粉末を得た。
【0085】
得られた粉末は、SEM観察により、粒子径が4〜6μm(平均粒子径5μm)で、形状は球状に近く、[001]面以外の結晶面を主結晶面とし、[001]面よりも大きな面積の結晶面を持つ多面体粒子である事を確認した。六角両錘形以外であって、8面体以上の多面体粒子であった。さらに、XRD測定を行ったところ、α−アルミナに由来する鋭い散乱ピークが表れ、α結晶構造の以外の結晶系ピークは観察されなかった。固体27Al−NMR測定により、15ppmから19ppmまでの範囲内にα結晶の6配位アルミニウム由来のピークしか観察されなかった。これらは、α結晶化率100%のα−アルミナが形成している事を示唆している。さらに、BET比表面積は0.37m2/gであり、緻密な粒子構造であることを示した。また、蛍光X線定量分析の結果から、得られた粒子は、酸化アルミニウムを94.7%、モリブデンを3.1%含むものである事を確認した。
【0086】
合成例2<モリブデンを含む酸化アルミニウムの製造>
γ−アルミナ(STREM CHEMICALS社製、平均粒子径40〜70μm)の50gと三酸化モリブデン(和光純薬工業株式会社製)の50gとを乳鉢で混合した。得られた混合物をセラミック電気炉で、1000℃で5時間焼成を行なった。降温後、坩堝を取り出し、内容物を10%アンモニア水およびイオン交換水で洗浄後、150℃で2時間乾燥を行い、49gの青色の粉末を得た。
【0087】
SEM観察により、粒子径が20〜23μm(平均粒子径21μm)で、形状は球状に近く、[001]面以外の結晶面を主結晶面とし、[001]面よりも大きな面積の結晶面を持つ多面体粒子である事を確認した。六角両錘形以外であって、8面体以上の多面体粒子であった。さらに、XRD測定を行ったところ、α−アルミナに由来する鋭い散乱ピークが表れ、α結晶構造の以外の結晶系ピークは観察されなかった(α結晶化率100%)。さらに、BET比表面積は0.04m2/gであり、緻密な粒子構造であることを示した。また、蛍光X線定量分析の結果から、得られた粒子は、酸化アルミニウムを95.8%、モリブデンを2.1%含むものである事を確認した。
【0088】
合成例3<モリブデンを含む酸化アルミニウムの製造>
水酸化アルミニウム(和光純薬工業株式会社製、平均粒子径0.2〜1.0μm)の30gと酸化モリブデン(和光純薬工業株式会社製)の7.5gとを乳鉢で混合した。得られた混合物をセラミック電気炉で、1000℃で8時間焼成を行なった。降温後、坩堝を取り出し、内容物を10%アンモニア水およびイオン交換水で洗浄後、150℃で2時間乾燥を行い、19gの青色の粉末を得た。SEM観察により、粒子径が2〜3μm(平均粒子径2.3μm)で、形状は球状に近く、[001]面以外の結晶面を主結晶面とし、[001]面よりも大きな面積の結晶面を持つ多面体粒子である事を確認した。六角両錘形以外であって、8面体以上の多面体粒子であった。さらに、XRD測定を行ったところ、α−アルミナに由来する鋭い散乱ピークが表れ、α結晶構造の以外の結晶系ピークは観察されなかった(α結晶化率100%)。さらに、BET比表面積は1.7m2/gであり、緻密な粒子構造であることを示した。また、蛍光X線定量分析の結果から、得られた粒子は、酸化アルミニウムを96.2%、モリブデンを2.5%含むものである事を確認した。
【0089】
合成例4<表面処理した、モリブデンを含む酸化アルミニウムの製造>
合成例1と同様の方法でモリブデンを含む酸化アルミニウムを合成し、得られたモリブデンを含む酸化アルミニウムの20gをポリエチレンの容器に入れ、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランの0.1g、エタノールの1gを加え、ペイントシェーカー(東洋精機株式会社)で30分間、振り混ぜを行なった。その後、ステンレスのトレイに内容物を取り出し、温風乾燥機で、130℃で3時間乾燥を行なった。得られたN−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランで表面処理したモリブデンを含む酸化アルミニウムは、粉体であり、蛍光X線定量分析を行なった結果、酸化アルミニウムを98.2%、モリブデンを0.4%含むものであった。粒子径が4〜6μm(平均粒子径5μm)で、形状は球状に近く、[001]面以外の結晶面を主結晶面とし、[001]面よりも大きな面積の結晶面を持つ多面体粒子である事を確認した。六角両錘形以外であって、8面体以上の多面体粒子であり、α結晶化率及びBET比表面積は合成例1と同様であった。
【0090】
合成例5<表面処理したモリブデンを含む酸化アルミニウムの製造>
合成例2で得られたモリブデンを含む酸化アルミニウムの20gを参考例4と同様の方法で、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランで表面処理した。得られた表面処理したモリブデンを含む酸化アルミニウムの蛍光X線定量評価を行なった結果、酸化アルミニウムを96.3%、モリブデンを0.9%含むものであった。粒子径が20〜23μm(平均粒子径21μm)で、形状は球状に近く、[001]面以外の結晶面を主結晶面とし、[001]面よりも大きな面積の結晶面を持つ多面体粒子である事を確認した。六角両錘形以外であって、8面体以上の多面体粒子であり、α結晶化率及びBET比表面積は合成例2と同様であった。
【0091】
(実施例1)
熱可塑性樹脂としてDIC−PPS LR100G(DIC株式会社製ポリフェニレンスルフィド樹脂、比重1.35)の33.6g、合成例2で製造したモリブデンを含む酸化アルミニウム(比重4.0)の66.4gを均一にドライブレンドした後、樹脂溶融混練装置ラボプラストミルにより混練温度300℃、回転数80rpmの条件で溶融混練処理し、酸化アルミニウムの充填率が40容量%のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を得た。ラボプラストミルによる混練中も特に問題なく、容易に樹脂組成物が得られた。次に、得られた樹脂組成物を金型に入れ加工温度300℃で熱プレス成形を行うことで、1mm厚のプレス成形体を作製した。作製したプレス成形体から10mmX10mmのサンプルを切り出し、熱伝導率測定装置(LFA447nanoflash、NETZSCH社製)を用いて熱伝導率の測定を行なった結果、1.2W/m・Kであり、比較例1の樹脂組成物の50%高い熱伝導率を示した。
【0092】
(比較例1)
熱可塑性樹脂としてDIC−PPS LR100G(DIC株式会社製ポリフェニレンサルファイド樹脂、比重1.35)の34.2g、DAW5(電気化学工業株式会社製酸化アルミニウム、θ結晶形及びδ結晶形とα結晶系との混合、真球状、平均粒子径5μm、比重3.9)の65.8gを均一にドライブレンドした後、樹脂溶融混練装置ラボプラストミルにより混練温度300℃、回転数80rpmの条件で溶融混練処理を行い、酸化アルミニウムの充填量が40容量%であるポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を得た。次に、実施例1と同様に得られた樹脂組成物を、金型に入れ加工温度300℃で熱プレス成形を行うことで、1mm厚のプレス成形体を作製した。作製したプレス成形体から10mmX10mmのサンプルを切り出し、熱伝導率測定装置(LFA447nanoflash、NETZSCH社製)を用いて熱伝導率の測定を行なった結果、0.8W/m・Kであった。
【0093】
実施例2
エピクロンEXA−4816(DIC株式会社製の長鎖炭化水素鎖とビスフェノールA骨格を有する、2官能の脂肪鎖変性エポキシ樹脂)の1.50g、SR−8EGS(坂本薬品工業株式会社のポリエチレングリコールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂)の2.79g、アミキュアAH−154(味の素ファインテクノ株式会社製DICY系エポキシ樹脂硬化剤)の0.26g、合成例2で製造したモリブデンを含む酸化アルミニウムの24.6gを配合し、3本ロールで混練する事により、酸化アルミニウムの充填率が59.1容量%である樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を用いて、60×110×0.8mmの試験板を作製(仮硬化条件170℃×20分、本硬化条件170℃×2時間)し、作製した試験板から10×10mmのサンプルを切り出し、熱伝導率測定装置(LFA447nanoflash、NETZSCH社製)を用いて熱伝導率の測定を行なった結果、2.2W/m・Kであり、高い熱伝導率を示した。
【0094】
実施例3
エピクロンEXA−4816(DIC株式会社製エポキシ樹脂)の1.50g、SR−8EGS(坂本薬品工業株式会社エポキシ樹脂)の2.79g、アミキュアAH−154(味の素ファインテクノ株式会社製エポキシ樹脂硬化剤)の0.26g、合成例3で製造したモリブデンを含む酸化アルミニウムの24.6gを配合し、3本ロールで混練する事により、酸化アルミニウムの充填率が59.1容量%である樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を用いて、60×110×0.8mmの試験板を作製(仮硬化条件170℃×20分、本硬化条件170℃×2時間)し、作製した試験板から10×10mmのサンプルを切り出し、熱伝導率測定装置(LFA447nanoflash、NETZSCH社製)を用いて熱伝導率の測定を行なった結果、2.1W/m・Kであり、高い熱伝導率を示した。
【0095】
実施例4
エピクロンEXA−4816(DIC株式会社製エポキシ樹脂)の1.50g、SR−8EGS(坂本薬品工業株式会社エポキシ樹脂)の2.79g、アミキュアAH−154(味の素ファインテクノ株式会社製エポキシ樹脂硬化剤)の0.26g、合成例5で製造したモリブデンを含む酸化アルミニウムの24.6gを配合し、3本ロールで混練する事により、酸化アルミニウムの充填率が59.1容量%である樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を用いて、60×110×0.8mmの試験板を作製(仮硬化条件170℃×20分、本硬化条件170℃×2時間)し、作製した試験板から10×10mmのサンプルを切り出し、熱伝導率測定装置(LFA447nanoflash、NETZSCH社製)を用いて熱伝導率の測定を行なった結果、2.7W/m・Kであり、高い熱伝導率を示した。
【0096】
実施例5
エピクロンEXA−4816(DIC株式会社製エポキシ樹脂)の1.50g、SR−8EGS(坂本薬品工業株式会社エポキシ樹脂)の2.79g、アミキュアAH−154(味の素ファインテクノ株式会社製エポキシ樹脂硬化剤)の0.26g、合成例4で製造したモリブデンを含む酸化アルミニウムの9.8g、合成例5で製造したモリブデンを含む酸化アルミニウムの14.7gを配合し、3本ロールで混練する事により、酸化アルミニウムの充填率が59.1容量%である樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を用いて、60×110×0.8mmの試験板を作製(仮硬化条件170℃×20分、本硬化条件170℃×2時間)し、作製した試験板から10×10mmのサンプルを切り出し、熱伝導率測定装置(LFA447nanoflash、NETZSCH社製)を用いて熱伝導率の測定を行なった結果、2.6W/m・Kであり、高い熱伝導率を示した。
【0097】
実施例6
エピクロンEXA−4816(DIC株式会社製エポキシ樹脂)の1.19g、SR−8EGS(坂本薬品工業株式会社エポキシ樹脂)の2.21g、アミキュアAH−154(味の素ファインテクノ株式会社製エポキシ樹脂硬化剤)の0.2g、合成例4で製造したモリブデンを含む酸化アルミニウムの10g、合成例5で製造したモリブデンを含む酸化アルミニウムの15gを配合し、3本ロールで混練する事により、酸化アルミニウムの充填率が65容量%である樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を用いて、60×110×0.8mmの試験板を作製(仮硬化条件170℃×20分、本硬化条件170℃×2時間)し、作製した試験板から10×10mmのサンプルを切り出し、熱伝導率測定装置(LFA447nanoflash、NETZSCH社製)を用いて熱伝導率の測定を行なった結果、3.0W/m・Kであり、高い熱伝導率を示した。
【0098】
比較例2
実施例2において、合成例2で製造したモリブデンを含む酸化アルミニウムの24.6gの代わりにAO―509(アドマテックス社製酸化アルミニウム、θ結晶形とα結晶形の混合、真球状、平均粒子径10μm、比重3.7)を25g、エピクロンEXA−4816を1.67g、SR−8EGSを3.12g、アミキュアAH−154を0.21gにした以外は同様にして、酸化アルミニウムの充填率が59.1容量%である樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を用いて、熱伝導率の測定を行なった結果、1.9W/m・Kであった。
【0099】
上記結果より、本発明で用いる酸化アルミニウム(A)は、α結晶化率が低く真球状である従来の放熱用酸化アルミニウムに比べて放熱性が高いことが分かった。また、粒径が大きめの酸化アルミニウムと小さめの酸化アルミニウムを組み合わせると、充填率が向上することから熱伝導性の高い放熱部材が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の樹脂組成物は、熱伝導性に優れた樹脂組成物であり、これを成形してなる樹脂成形体は、電子、電気、OA機器等の電子部品やLED照明用の放熱部材に使用できる。