(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
液晶ポリエステルと前記液晶ポリエステルを溶解させる有機溶媒とを含む液状組成物を、前記液状組成物との接触角が50°以下の耐熱性樹脂フィルムの表面に塗布した後に前記有機溶媒を除去し、前記耐熱性樹脂フィルムと前記液晶ポリエステルを含む塗膜とが積層した積層体を形成する工程と、
前記積層体を、不活性ガス雰囲気下で230℃以上340℃以下の温度条件で熱処理する工程と、
熱処理後の前記積層体から、剥離角度165°以上180°以下の範囲で前記耐熱性樹脂フィルムを剥離する工程と、を含み、
前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で示される繰返し単位とを有し、
下記式(3)におけるX及びYのいずれか一方又は両方が、イミノ基である液晶ポリエステルフィルムの製造方法。
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
(式中、Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar4−Z−Ar5−
(Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
前記液晶ポリエステルが、全繰返し単位の合計量に対して、前記式(1)で表される繰返し単位を30モル%以上80モル%以下、前記式(2)で表される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下、前記式(3)で示される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下有する請求項1に記載の液晶ポリエステルフィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施形態の液晶ポリエステルフィルムの製造方法は、液晶ポリエステルと前記液晶ポリエステルを溶解させる有機溶媒とを含む液状組成物を、前記液状組成物との接触角が50°以下の耐熱性樹脂フィルムの表面に塗布した後に前記有機溶媒を除去し、前記耐熱性樹脂フィルムと前記液晶ポリエステルを含む塗膜とが積層した積層体を形成する工程と、前記積層体を、不活性ガス雰囲気下で230℃以上340℃以下の温度条件で熱処理する工程と、熱処理後の前記積層体から、剥離角度135°以上180°以下の範囲で前記耐熱性樹脂フィルムを剥離する工程と、を含むものである。
以下、本発明の好適な実施形態について順に説明する。
【0023】
(液晶ポリエステル)
本実施形態の液晶ポリエステルフィルムの製造方法で用いる液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0024】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合(重縮合)させてなるもの、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合させてなるもの、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなるものが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0025】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシ基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシ基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシ基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシ基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0026】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)と、を有することがより好ましい。
【0027】
(1)−O−Ar
1−CO−
(2)−CO−Ar
2−CO−
(3)−X−Ar
3−Y−
(Ar
1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar
2及びAr
3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar
1、Ar
2又はAr
3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar
4−Z−Ar
5−
(Ar
4及びAr
5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0028】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0029】
前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、好ましくは1〜10である。
【0030】
前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、好ましくは6〜20である。
【0031】
Ar
1、Ar
2又はAr
3で表される前記基にある水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar
1、Ar
2又はAr
3で表される前記基毎に、それぞれ独立に、好ましくは2個以下であり、より好ましくは1個である。
【0032】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は好ましくは1〜10である。
【0033】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Ar
1がp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びAr
1が2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0034】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Ar
2がp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar
2がm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar
2が2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びAr
2がジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0035】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Ar
3がp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びAr
3が4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0036】
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30モル%以上80モル%以下、さらに好ましくは30モル%以上60モル%以下、よりさらに好ましくは30モル%以上40モル%以下である。
【0037】
同様に、繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10モル%以上35モル%以下、さらに好ましくは20モル%以上35モル%以下、よりさらに好ましくは30モル%以上35モル%以下である。
【0038】
同様に、繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10モル%以上35モル%以下、さらに好ましくは20モル%以上35モル%以下、よりさらに好ましくは30モル%以上35モル%以下である。
【0039】
これらは、繰返し単位(1)の含有量が多いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易い。
【0040】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0041】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは0モル%より多く10モル%以下、より好ましくは0モル%より多く5モル%以下である。
【0042】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、XとYとのいずれか一方又は両方がイミノ基であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ヒドロキシルアミンに由来する繰返し単位と、芳香族ジアミンに由来する繰返し単位と、のいずれか一方又は両方を有すると、溶媒に対する溶解性が優れるために好ましく、繰返し単位(3)として、XとYとのいずれか一方又は両方がイミノ基であるもののみを有すると、より好ましい。
【0043】
液晶ポリエステルは、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0044】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは250℃以上、より好ましくは250℃以上350℃以下、さらに好ましくは260℃以上330℃以下である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり高いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易かったり、溶液の粘度が高くなり易かったりする。
【0045】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kgf/cm
2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0046】
(有機溶媒)
本実施形態の液晶ポリエステルフィルムの製造方法で用いる液状組成物は、前述のような液晶ポリエステルと、有機溶媒とを含む。有機溶媒としては、用いる液晶ポリエステルが溶解可能なもの、具体的には50℃にて1質量%以上の濃度([液晶ポリエステル]/[液晶ポリエステル+溶媒])で溶解可能なものが、適宜選択して用いられる。
【0047】
有機溶媒の例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;p−クロロフェノール、ペンタクロロフェノール、ペンタフルオロフェノール等のハロゲン化フェノール;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート;トリエチルアミン等のアミン;ピリジン等の含窒素複素環芳香族化合物;アセトニトリル、スクシノニトリル等のニトリル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒(分子内にアミド結合を有する有機溶媒);テトラメチル尿素等の尿素化合物;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄化合物;及びヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸等のリン化合物が挙げられる。また、これらの有機溶媒のうち、2種以上の有機溶媒を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
有機溶媒としては、腐食性が低く、取り扱い易いことから、非プロトン性化合物を主成分とする溶媒(非プロトン性溶媒)、特にハロゲン原子を有しない非プロトン性化合物を主成分とする溶媒が好ましい。この非プロトン性化合物としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒を用いることが好ましい。また、有機溶媒全体に占める非プロトン性化合物の割合は、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上100質量%以下である。
【0049】
また、有機溶媒としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、双極子モーメントが3〜5(単位:デバイ)である化合物を主成分とする溶媒が好ましく、上述の非プロトン性化合物であって、双極子モーメントが3〜5である化合物を用いることがより好ましい。また、有機溶媒全体に占める双極子モーメントが3〜5である化合物の割合は、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上100質量%以下である。
【0050】
非プロトン性化合物であり、且つ双極子モーメントが3〜5である化合物としては、ジメチルスルホキシド(双極子モーメント:4.1デバイ)、N,N−ジメチルアセトアミド(3.7デバイ)、N,N−ジメチルホルムアミド(3.9デバイ)、N−メチルピロリドン(4.1デバイ)を例示することができる。
【0051】
また、有機溶媒としては、除去し易いことから、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を主成分とするとする溶媒が好ましく、上述の非プロトン性化合物であって、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を用いることがより好ましい。また、有機溶媒全体に占める1気圧における沸点が220℃以下である化合物の割合は、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上100質量%以下である。
【0052】
非プロトン性化合物であり、且つ1気圧における沸点が220℃以下である化合物としては、N,N−ジメチルアセトアミド(沸点:160℃)N,N−ジメチルホルムアミド(153℃)を例示することができる。
【0053】
(液状組成物)
液状組成物中の液晶ポリエステルの含有量は、液晶ポリエステル及び有機溶媒の合計量に対して、好ましくは5質量%以上60質量%以下、より好ましくは10質量%以上50質量%以下、さらに好ましくは15質量%以上45質量%以下であり、所望の粘度の液状組成物が得られるように、適宜調整される。
【0054】
また、液状組成物は、本発明の製造方法を損なわない範囲で、充填材、添加剤、液晶ポリエステル以外の樹脂等の成分を1種以上含んでもよい。
【0055】
充填材の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム等の無機充填材;及びレベリング剤、硬化エポキシ樹脂、架橋ベンゾグアナミン樹脂、架橋アクリル樹脂等の有機充填材が挙げられ、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0質量部以上100質量部以下である。
【0056】
添加剤の例としては、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤及び着色剤が挙げられ、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0質量部以上5質量部以下である。
【0057】
液晶ポリエステル以外の樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリエステル以外のポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリエーテルイミド等の液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂;グリシジルメタクリレートとポリエチレンとの共重合体等のエラストマー;及びフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられ、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0質量部以上20質量部以下である。
【0058】
液状組成物は、液晶ポリエステル、有機溶媒、及び必要に応じて用いられる他の成分を、一括で又は適当な順序で混合することにより調製することができる。他の成分として充填材を用いる場合は、液晶ポリエステルを有機溶媒に溶解させて、液状組成物を得た後、この液状組成物に充填材を分散させることにより調製することが好ましい。
【0059】
本実施形態の液晶ポリエステルフィルムの製造方法には、耐熱性樹脂フィルムとして、上述の液状組成物との接触角が50°以下であるものを用いる。
【0060】
接触角は、(i)耐熱性樹脂フィルムの液状組成物を塗布する面(塗布面)の表面エネルギー(表面張力)と、(ii)液状組成物の表面張力と、(iii)耐熱性樹脂フィルムの塗布面と液状組成物との界面張力と、に基づき、youngの式で表すことができる。そのため、ある液状組成物との関係で接触角が50°を超える耐熱性フィルムがある場合、(a)耐熱性樹脂フィルムを表面処理して表面エネルギーを小さくする、(b)液状組成物を希釈して粘度を下げる、(c)液状組成物に極性溶媒を添加して、耐熱性樹脂フィルムと液状組成物との界面張力を大きくする、といった種々の操作により適宜接触角を50°以下とすることができる。
【0061】
接触角は、5°以上50°以下であることが好ましく、7°以上30°以下であることがより好ましい。接触角が5°以上であると、耐熱性樹脂フィルムと液晶ポリエステルフィルムとの界面の密着力が小さく、液晶ポリエステルフィルムを剥離する時の破損が生じにくくなる。
【0062】
耐熱性樹脂フィルムの表面処理の方法としては、例えば、コロナ放電処理、火炎処理、溶剤処理、UV処理、プラズマ処理などが挙げられる。
【0063】
耐熱性樹脂フィルムとしては、剥離性、耐熱性及び塗布性を兼ね備えることから、表面がポリイミドを形成材料とすることが好ましい。耐熱性樹脂フィルムとして市販のポリイミド(PI)フィルムを用いることができ、例えば、宇部興産(株)製PIフィルム(U−ピレックスS、U−ピレックスR)、東レデュポン製フィルム(カプトン)、SKCコーロンPI社製フィルム(IF30、IF70、LV300)が挙げられる。
【0064】
耐熱性樹脂フィルムの膜厚としては、25μm以上75μm以下が好ましく、50μm以上75μm以下がより好ましい。耐熱性樹脂フィルムの膜厚が25μm以上であると、25μm未満の薄いものよりも取り扱いが容易となる。また、耐熱性樹脂フィルムの膜厚が75μm以下であると、75μmより厚いものよりも、後述する製造方法において、所望の角度で剥離させる操作が容易となる。
【0065】
(液晶ポリエステルフィルムの製造方法)
図2は、本実施形態の液晶ポリエステルフィルムの製造方法を示す工程図である。本実施形態の液晶ポリエステルフィルムの製造方法では、図に示した方法で、上述した耐熱性樹脂フィルム上に、液晶ポリエステルフィルムを形成する。
【0066】
(塗布)
まず、
図2(a)に示すように、上述した液状組成物12Sを、支持体(耐熱性樹脂フィルム)10の上に塗布する。
【0067】
支持体10上へ液状組成物12Sを塗布する方法としては、例えば、ローラーコート法、ディップコート法、スプレイコート法、スピナーコート法、カーテンコート法、スロットコート法、ダイコート法及びスクリーン印刷法が挙げられる。
図2(a)では、ダイ50から液状組成物Sを塗布することとして図示している。
【0068】
(溶媒除去)
次に、
図2(b)に示すように、支持体10上に塗布した液状組成物12Sから溶媒Sを除去し予備乾燥させることで、支持体10上に液晶ポリエステルを含む塗膜12Aが形成された積層体14を得る。
【0069】
溶媒Sの除去は、溶媒Sの蒸発により行うことが、操作が簡便で好ましい。その方法としては、例えば、加熱、減圧及び通風が挙げられ、これらを組み合わせてもよい。中でも、生産性や操作性の点から、加熱により行うことが好ましく、通風しながら加熱することにより行うことがより好ましい。溶媒Sの除去温度は、60℃以上200℃以下であることが好ましく、溶媒Sの除去時間は、10分以上2時間以下であることが好ましい。溶媒Sの除去温度が60℃以上であると、溶媒除去が短時間で終わるため経済的であり、200℃以下であると、溶媒Sが一気に蒸散することがないため表面が荒れることなく、良好な外観となる。
【0070】
溶媒Sの除去温度は、用いる溶媒の沸点未満とすることが望ましい。溶媒Sの沸点以上となると、溶媒Sの揮発により塗膜の表面が荒れ、均一な塗膜12Aが得られにくいためである。
【0071】
また、ここでの溶媒Sの除去は完全である必要はなく、次の熱処理で残存溶媒が除去されてもよい。後述の熱処理において多量の溶媒Sが蒸発すると、塗膜12Aの表面が荒れるおそれがあるため、熱処理前に極力溶媒Sを除去しておくことが好ましい。本操作においては、有機溶媒を、液晶ポリエステル100質量部に対して1質量部以上25質量部以下に除去するとよい。
【0072】
また、上述した液状組成物12Sの塗布から溶媒Sの除去までの操作は、連続式で行ってもよく、枚葉式で行ってもよい。
【0073】
(熱処理)
次に、
図2(c)に示すように、不活性ガス雰囲気下で積層体14に熱Hを加えて加熱し、230℃以上320℃以下の温度範囲で熱処理する。熱処理の温度範囲は、250℃以上320℃以下がより好ましく、270℃以上300℃以下がさらに好ましい。
熱処理時間は、30分以上5時間以下行うとよい。
【0074】
次に、
図2(d)に示すように、支持体10を剥離することで、目的とする液晶ポリエステルフィルム12を得ることができる。図では、支持体10を剥離して露出する液晶ポリエステルフィルム12の面を符号12xで示し、力Fの方向に支持体10を牽引して液晶ポリエステルフィルム12から剥離する様子を示している。面12と力Fとの間で成す角が、剥離角度θである。支持体10を剥離角度θで剥離すると、液晶ポリエステルフィルム12を破損することがない。
【0075】
剥離角度は、135°以上180°以下であり、150°以上180°以下が好ましく、165°以上180°以下がより好ましい。
【0076】
本実施形態では、支持体10として膜厚が25μm以上75μm以下のものを用いるとよい。支持体10の膜厚が25μm以上であると、25μm未満の薄いものよりも取り扱いが容易となる。また、支持体10の膜厚が75μm以下であると、上述の角度で剥離させる操作において支持体10を湾曲させやすく、75μmより厚いものよりも剥離させやすくなる。
【0077】
得られる液晶ポリエステルフィルム12は、5μm以上50μm以下であることが好ましく、取り扱いが容易であることから10μm以上50μm以下であることがより好ましい。液晶ポリエステルフィルム12の膜厚は、塗布する液状組成物の濃度、塗布の速度、塗布の回数を制御して塗膜の膜厚を調製することにより、適宜制御可能である。
【0078】
以上のような液晶ポリエステルフィルムの製造方法によれば、高品質の液晶ポリエステルフィルムを容易に製造することができる。
【0079】
また、以上のような液晶ポリエステルフィルムによれば、破損により外観が損なわれることなく、高品質なものとなる。
【0080】
本実施形態の液晶ポリエステルフィルムは、耐熱テープ用基材、プリント配線板用基材、カバーレイフィルム、スピーカの振動板、シームレスベルトなどの用途に適用することができる。
【0081】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0082】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0083】
(液晶ポリエステルの流動開始温度の測定)
液晶ポリエステルの流動開始温度は、フローテスター((株)島津製作所製、CFT−500型)を用いて、液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kgf/cm
2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を測定することにより求めた。
【0084】
(接触角)
支持体の接触角は、後述の液状組成物について、ウエハー洗浄・処理評価装置(協和界面化科学社製、CA−X200型、温度23℃、湿度50%RH)を用いて測定した。
【0085】
(表面粗さ(十点平均高さ)の測定)
支持体の表面粗さは、以下のようにして測定した。
まず、島津製作所社製の走査型プローブ顕微鏡SPM−9500を用いて、温度23℃、相対湿度50%の条件下で測定した。測定面積は10μm
2であった。
装置内蔵の解析ソフトを用い、測定で求められる粗さ曲線において、曲線の山頂の高い方から5点、曲線の谷底の低い方から5点を選び、計10点の高さの値を算術平均して得られる値を、表面粗さの値として採用した。
【0086】
(液晶ポリエステルの合成)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸941g(5.0モル)、4−アミノフェノール273g(2.5モル)、イソフタル酸415.3g(2.5モル)及び無水酢酸1123g(11モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。
次いで、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から290℃まで4時間15分かけて昇温し、290℃で30分保持した後に反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕して、粉末状のプレポリマーを得た。このプレポリマーの流動開始温度は、181℃であった。
次いで、このプレポリマーを、窒素雰囲気下、室温から250℃まで6時間かけて昇温し、250℃で10時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、固形状の液晶ポリエステルを得た。得られた固形物を、粉砕機で粉砕して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。液晶ポリエステルの流動開始温度は、240℃であった。
この液晶ポリエステルを窒素雰囲気下、室温から255℃まで6時間かけて昇温し、255℃で3時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。液晶ポリエステルの流動開始温度は、325℃であった。
【0087】
(液状組成物の調製)
上述の方法で得られた液晶ポリエステル8gを、N−メチルピロリドン92gに加え、窒素雰囲気下、140℃で4時間攪拌して、液状組成物を調製した。
【0088】
[実施例1]
自動塗工装置I型(テスター産業製)に、支持体として市販のポリイミドフィルム(宇部興産社製、ユーピレックスS、膜厚75μm、接触角14°)を設置し、マイクロメーター付フィルムアプリケーター(SHEEN製)の設定を「500μm」とし、設定した膜厚に液状組成物を塗布した後、150℃で乾燥させ積層体を作製した。乾燥後の積層体において、液状組成物が乾燥して形成された塗膜に含まれる溶媒量は19.8%であった。得られた積層体を窒素雰囲気下270℃で2時間処理した。これにより、ポリイミドフィルム上に液晶ポリエステルフィルムが形成された積層体を得た。
【0089】
得られた積層体を25mm×300mmの短冊状に切り出して試験片を作成し、試験片の液晶ポリエステルフィルム側に接着剤を付けて治具に固定し、試験片のポリイミドフィルムを135°の方向に50mm/分の速度で、試験片の長辺と平行な方向に引き剥がして評価した。
【0090】
[実施例2]
剥離角度を135から180°に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0091】
[実施例3]
熱処理温度を270から250℃に変更したこと以外は、実施例2と同様の操作を行った。
【0092】
[実施例4]
熱処理温度を270から290℃に変更したこと以外は、実施例2と同様の操作を行った。
【0093】
[実施例5]
熱処理温度を270から320℃に変更したこと以外、実施例1と同様の操作を行った。
【0094】
[実施例6]
熱処理温度を270から340℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0095】
[実施例7]
支持体を異なるポリイミドフィルム(東レ・デュポン製、カプトンH、膜厚25μm、接触角7°)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0096】
[実施例8]
熱処理温度を270から230℃に変更したこと以外は、実施例2と同様の操作を行った。
【0097】
[比較例1]
剥離角度を135から45°に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。ピール強度が0.24N/cmあり、液晶ポリエステルフィルムが一部破損して、支持体上への残存が確認された。
【0098】
[比較例2]
剥離角度を135から90°に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。ピール強度が0.12N/cmあり、液晶ポリエステルフィルムが一部破損して、支持体上への残存が確認された。
【0099】
[比較例3]
剥離角度を180から90°に変更したこと以外は、実施例4と同様の操作を行った。ピール強度が0.16N/cmあり、液晶ポリエステルフィルムが一部破損して、支持体上への残存が確認された。
【0100】
[比較例4]
剥離角度を180から90°に変更したこと以外は、実施例5と同様の操作を行った。
【0101】
[比較例5]
剥離角度を180から90°に変更したこと以外は、実施例6と同様の操作を行った。
【0102】
[比較例6]
支持体をPIからSUS箔(日鉱金属製、SUS304HT、膜厚25μm、接触角21°)に変えたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0103】
[比較例7]
支持体をPIから銅箔(三井金属鉱業製、3EC−VLP、膜厚18μm、接触角40°)に変えたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0104】
[比較例8]
支持体をPIからPTFE(フロン工業製、F−8034−34、膜厚100μm、接触角82°)に変えたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0105】
[評価方法]
(ピール強度)
ピール強度は、JIS K6854に基づき、23℃、50%RHの条件下、試験機(インストロン社製、5566型)を用いて25mm巾で測定した。試験片は、液晶ポリエステルフィルム側を2mm厚のステンレス鋼板上に両面粘着テープで固定し、支持体を指定の角度で剥離することで、剥離した際の強度を求めた。
【0106】
(剥離性評価)
ピール強度評価後の試験片について、支持体の液晶ポリエステルフィルムと接していた面を確認して評価を行った。液晶ポリエステルフィルムが支持体上に残存することなく剥離できたものを「○」、液晶ポリエステルフィルムが破損し、一部が支持体上に残存したものを「×」とした。
【0107】
実施例1〜8、比較例1〜8について、結果を表1に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
評価の結果、実施例1〜8は、良好に剥離することができ、破損のない高品質な液晶ポリエステルフィルムを得ることができた。また、実施例1〜6においては、支持体であるポリイミドフィルムは表面粗さが0.06μmである平滑なものであり、また、実施例7においては、支持体であるポリイミドフィルムは表面粗さが0.2μmである平滑なものであったため、得られた液晶ポリエステルフィルムは、表裏いずれも光沢のある高品質なものとなった。
【0110】
対して、比較例1〜7については、いずれも液晶ポリエステルフィルムが、支持体上に一部残存した。また、実施例1〜8と比べてピール強度が高く、剥離操作のために実施例よりも多くのエネルギーを要することが分かった。
【0111】
比較例8については、液状組成物を塗布した際に、液状組成物が塗布した領域の端部で所望の形状を呈さず、意図した形状の液晶ポリエステルフィルムを得ることができなかった。また、用いたPTFEフィルムの表面粗さが0.9μmであり、表裏で外観が異なるフィルムとなった。
【0112】
これらの結果から、本発明の液晶ポリエステルフィルムの製造方法を用いると、高品質の液晶ポリエステルフィルムを容易に製造可能であることが分かった。また、本発明の液晶ポリエステルは、破損により外観が損なわれることなく、高品質なものとなった。