(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5975460
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】炭化ケイ素半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/285 20060101AFI20160809BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20160809BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20160809BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20160809BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20160809BHJP
H01L 29/423 20060101ALI20160809BHJP
H01L 29/49 20060101ALI20160809BHJP
H01L 21/316 20060101ALI20160809BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
H01L21/285 C
H01L21/28 301B
H01L29/78 652T
H01L29/78 652K
H01L29/78 658F
H01L29/78 301B
H01L21/28 301A
H01L29/58 G
H01L21/316 S
H01L21/205
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-18593(P2012-18593)
(22)【出願日】2012年1月31日
(65)【公開番号】特開2013-157544(P2013-157544A)
(43)【公開日】2013年8月15日
【審査請求日】2015年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】岡本 光央
(72)【発明者】
【氏名】巻渕 陽一
(72)【発明者】
【氏名】福田 憲司
【審査官】
佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−244456(JP,A)
【文献】
特開2008−204972(JP,A)
【文献】
特開2000−174030(JP,A)
【文献】
特開2003−069012(JP,A)
【文献】
特開2003−086792(JP,A)
【文献】
特開2010−080787(JP,A)
【文献】
特開2007−096263(JP,A)
【文献】
特開2002−075999(JP,A)
【文献】
特許第4200618(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
21/205
21/28−21/336
21/365
21/44−21/445
21/469−21/8234
21/86−29/12
29/40−29/49
29/739
29/76
29/772
29/78
29/872
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(旧請求項1+3)
炭化ケイ素半導体の(000−1)面上、あるいは(11−20)面上に、少なくとも酸素と水分を含むガス中で熱酸化を行い、前記炭化ケイ素半導体の面上に接するようにゲート絶縁膜を形成する工程と、該ゲート絶縁膜の上に減圧CVD法でポリシリコンのゲート導電膜を成膜する工程とを有する炭化ケイ素半導体装置の製造方法において、
前記ゲート導電膜の成膜装置内での成膜前の温度安定のための待機時の雰囲気、及び、成膜後のプロセスガスの置換に、不活性ガスと水素の混合ガスであって、混合ガス中の水素濃度が1%以上4%以下の混合ガスを用いることを特徴とする炭化ケイ素半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記不活性ガスと水素の混合ガスが窒素、ヘリウム、アルゴンの何れかと水素の混合ガスであることを特徴とする請求項1に記載の炭化ケイ素半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記ゲート絶縁膜を成膜する工程が、水分を含まない乾燥酸素中で熱酸化を行った後、水分を含むガス中での熱酸化を組み合わせた工程であることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化ケイ素半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記ゲート絶縁膜を成膜する工程が、水分を含むガス中での熱酸化を組み合わせた工程であることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化ケイ素半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記減圧CVD法でシリコンゲート導電膜を成膜する工程で、シランあるいはジシランが含まれた原料ガスを使用したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の炭化ケイ素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化ケイ素基板を使用した半導体装置の製造方法に関わり、特にゲート絶縁膜の上に減圧CVD法で導電膜を成膜する工程に特徴を有する、炭化ケイ素半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素を用いたMOSFET等の半導体デバイスは、バイポーラトランジスタと比較して高速のスイッチングが可能となることから、近年、炭化ケイ素基板を用いた次世代半導体デバイスの研究開発が進められている。炭化ケイ素はシリコンと同様に熱酸化で絶縁膜を形成可能であるが、結晶面や酸化方法によってMOS界面のチャネル移動度が異なるという特性がある。
炭化ケイ素基板の代表的な面である(000−1)面あるいは(11−20)面は、ウェット雰囲気で酸化すると(0001)面に比べ高いチャネル移動度を示し、オン抵抗の低減し、消費電力を低減する上で有利である。
なお、チャネル移動度を代替的に評価する指標として界面準位密度があり、一般的には、界面準位密度が小さい方がチャネル移動度は大きくなる傾向が知られている。
【0003】
このような炭化ケイ素基板を用いた半導体デバイスの製造方法に関し、下記の特許文献1には、界面準位密度を低下させるために、炭化ケイ素基板の(000−1)面をウェット雰囲気で熱酸化することにより高いチャネル移動度を得る方法が示されており、具体的には、ゲート絶縁膜を形成するための酸化後に、水素あるいは水蒸気雰囲気中でアニールを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4374437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、炭化ケイ素基板の(000−1)面あるいは(11−20)面をウェット雰囲気で酸化して得られたMOS界面の界面準位密度は、後工程の不活性ガス雰囲気での熱処理、例えばメタルのオーミックコンタクトを形成するための不活性ガス中のアニールで大きくなり、MOS界面特性が劣化することが知られている。
すなわち、ウェット雰囲気の熱酸化で界面準位密度が低減されるのは、水素あるいは水酸基が界面準位を終端するためであるといわれているが、不活性ガス中のアニールにより、終端している水素あるいは水酸基が脱離することにより界面準位密度が大きくなり、MOS界面特性が劣化するものと推測されている。
【0006】
この熱アニールによるMOS界面特性劣化は、炭化ケイ素(0001)面上に作製したMOSデバイスでは発生しないため、炭化ケイ素(000−1)面上あるいは炭化ケイ素(11−20)面と、(0001)面上のMOSデバイスとではデバイスプロセスに異なった工夫を行い、MOS界面特性劣化を防止することが必要となる。
ところで、ゲート絶縁膜の上に形成される導電膜(ゲート電極)はアルミニウムなどの金属、ポリシリコンあるいはポリシリコンと金属との溶融材料などが用いられる。ポリシリコンは高温プロセスが可能である等のアルミよりも優れた特性があり、シリコン半導体デバイスではポリシリコンを用いたゲート電極が主流である。ポリシリコンは減圧CVD法を用いて600℃前後の成膜温度で形成される。
【0007】
同一の条件で(000−1)面あるいは(11−20)面を、ウェット雰囲気で酸化して得られたMOS界面に対し、ゲート電極を減圧CVD法で堆積したポリシリコンとした場合の界面準位密度が、ゲート電極を常温で蒸着したアルミとした場合の界面準位密度よりも大きくなる問題がある。
これは、実際の減圧CVD炉でのポリシリコン成膜では、SiH
4等を流してポリシリコンを成膜する前に、温度の安定のため、不活性ガスを流しての保持時間や、成膜後にSH
4等を不活性ガスで置換するプロセスが含まれることが原因と考えられる。つまり、実質、不活性ガス中での熱処理が含まれており、これが、終端している水素あるいは水酸基を脱離させ、界面準位密度を増加させる要因となっていると考えられる。
【0008】
上記の問題に鑑み、本発明の目的は、炭化ケイ素半導体の(000−1)面、(11−20)面をウェット雰囲気で酸化して得られた絶縁膜上にポシリコンを成膜しても、終端している水素あるいは水酸基の脱離によるMOS界面の界面準位密度の増加を抑制し、高いチャネル移動度を実現する炭化ケイ素半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の炭化ケイ素半導体装置の製造方法では、次のような技術的手段を講じた。すなわち、
(1)炭化ケイ素半導体の(000−1)面上、あるいは(11−20)面上に、少なくとも酸素と水分を含むガス中で熱酸化を行い、前記炭化ケイ素半導体の面上に接するようにゲート絶縁膜を形成する工程と、該ゲート絶縁膜の上に減圧CVD法でポリシリコンのゲート導電膜を成膜する工程とを有する炭化ケイ素半導体装置の製造方法において、前記ゲート導電膜の成膜装置内での成膜前の温度安定のための待機時の雰囲気、及び、成膜後のプロセスガスの置換に、水素、あるいは、不活性ガスと水素の混合ガスを用いた。
【0010】
(2)前記不活性ガスと水素の混合ガスとして、窒素、ヘリウム、アルゴンの何れかと水素の混合ガスを使用した。
【0011】
(3)前記不活性ガスと水素の混合ガス中の水素濃度を1%以上4%以下とした。
【0012】
(4)前記ゲート絶縁膜を成膜する工程を、水分を含まない乾燥酸素中で熱酸化を行った後、水分を含むガス中での熱酸化を組み合わせた工程とした。
【0013】
(5)前記ゲート絶縁膜を成膜する工程を、絶縁膜を堆積させた後、水分を含むガス中での熱酸化を組み合わせた工程とした。
【0014】
(6)前記減圧CVD法でシリコンゲート導電膜を成膜する工程で、シラン(SiH
4)あるいはジシラン(SiH
8)が含まれた原料ガスを使用した。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、炭化ケイ素半導体の(000−1)面上に形成したゲート絶縁膜の上に、減圧CVD法を用いてポリシリコンを成膜するときに、ポリシリコン成膜前の温度安定のための待機時の雰囲気や、成膜後のプロセスガスの置換に不活性ガスと水素の混合ガスを用いているので、ポリシリコン成膜のためのアニールにより、終端している水素あるいは水酸基が脱離するのを、混合ガス中の水素分圧により抑止し、界面準位密度の上昇によるMOS界面特性の劣化を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】従来の製造方法で作製されたMOSキャパシタと本発明の製造方法で作製されたMOSキャパシタを測定して得られた界面準位密度の分布を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、炭化ケイ素半導体装置として、MOSキャパシタを製造する際の本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0018】
ゲート電極としてポシリコンを成膜してもMOS界面の界面準位密度の増加が抑えられるような、ポシリコン成膜方法について実施例を用いて説明する。
図1はMOSキャパシタの構成を示す図である。
本実施例では、結晶構造が4H−SiCの(000−1)基板1(0〜8°オフ基板)にドナー密度1E+16cm
3程度のn型エピタキシャル膜2を5〜10μm成長させ、洗浄した後、1000℃のウェット熱酸化を30分行い、厚さ約50nmの絶縁膜3を形成した。なお、水分を含まない乾燥酸素中で熱酸化を予め行った上で、ウェット熱酸化を組み合わせてもよい。
【0019】
次に、ゲート電極の形成するため、減圧CVD炉に導入した。温度の安定させるために不活性ガスと水素の混合ガスを流しながら570℃で30分保持した後、原料ガスとして、SiH
4(シラン)、PH
3を流しながらリンドープされたポリシリコンを500nm成膜した。成膜後は、SiH
4、PH
3を、不活性ガスと水素の混合ガスで置換した後、取出した。なお、原料ガスとしては、SiH
4(シラン)、PH
3のほか、ジシラン(SiH
8)を使用してもよい。
【0020】
本実施例では、不活性ガスと水素の混合ガスは窒素、ヘリウム、アルゴンの何れかと水素の混合ガスであり、不活性ガスと水素の混合ガス中の水素濃度は4%とした。
なお、不活性ガスと水素の混合ガスは、減圧CVD炉による成膜プロセスに一般的に使用されている窒素、ヘリウム、アルゴン等のガスタンクに予め水素ガスを混入させて、所望の水素ガス濃度に調整している。
【0021】
電気測定用のアルミパッド5を蒸着で形成し、フォトリソグラフィとエッチングでパターニングした後、アルミ裏面電極6を蒸着した。
完成したMOSキャパシタをC−V測定し、伝導帯からのエネルギー(eV)に対する界面準位密度(/cm
2/eV)を算出したところ、
図2に示すように、ポリシリコン成膜前の温度安定のための保持時間の雰囲気や、成膜後のプロセスガスの置換に不活性ガスを用いた従来よりも低減された。
これは、減圧CVD炉で、SH
4、PH
3を流しながらリンドープされたポリシリコンを成膜するのに先だって、成膜温度に安定化させるまでの期間、不活性ガスと水素の混合ガスを供給するとともに、成膜終了後取り出す際にも、SH
4、PH
3を、不活性ガスと水素の混合ガスで置換したことにより、ポリシリコン成膜のためのアニールにより、終端している水素あるいは水酸基が脱離するのを、混合ガス中の水素分圧により抑止し、界面準位密度の上昇によるMOS界面特性の劣化を効果的に防止することによるものと推測される。
【0022】
上記の実施例では、不活性ガスと水素の混合ガス中の水素濃度は4%としたが、終端している水素あるいは水酸基がアニール中に脱離するのを抑止する観点では、水素濃度が高いほど有効であり、不活性ガスを混入せず水素ガス100%とすることもできる。
しかし、実際の製造プロセスでは、水素ガス濃度を高めると、爆発等の危険を防止するためのコストを要し、しかも、実験結果によると、水素ガス濃度を1%から、界面準位密度の上昇を抑止する効果が確認でき、水素ガス濃度4%までその効果が急速に高まるが、4%を超えると、その効果が頭打ちになり、むしろ、爆発の危険性が顕著になる。
そこで、不活性ガスと水素の混合ガス中の水素濃度は、1%以上4%以下が好ましく、特に好ましく水素濃度が4%の場合が、界面準位密度の上昇を抑止する観点で特に顕著な効果が得られ、しかも、水素爆発の危険性も非常に少ない。
【0023】
また、上記の実施例では、結晶構造が4H−SiCの(000−1)基板(0〜8°オフ基板)を使用したが、結晶構造が4H−SiCの(11−20)基板でも同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
以上説明したように、本発明によれば、炭化ケイ素半導体の(000−1)面上、あるいは(11−20)面上に、少なくとも酸素と水分を含むガス中で熱酸化を行った後、炭化ケイ素半導体の面上に接するようにゲート絶縁膜を形成し、このゲート絶縁膜の上に減圧CVD法でポリシリコンのゲート導電膜を成膜する際、成膜温度に安定化させるまでの期間、不活性ガスと水素の混合ガスを供給するとともに、成膜終了後取り出す際にも、SH
4、PH
3を、不活性ガスと水素の混合ガスで置換したことにより、ポリシリコン成膜のためのアニールにより終端している水素あるいは水酸基が脱離するのを、混合ガス中の水素分圧により抑止し、界面準位密度の上昇によるMOS界面特性の劣化を効果的に防止することができる。
しかも、減圧CVD炉による成膜プロセスに一般的に使用されている窒素、ヘリウム、アルゴン等のガスタンクに予め水素ガスを混入させて所望の水素濃度にするだけで、複雑な製造プロセスや、特殊な装置を必要としないので、コストアップを伴うことなく炭化ケイ素半導体装置の界面準位密度を低減し、チャネル移動度を高くできるので、炭化ケイ素半導体の製造プロセスに広く採用されることが期待できる。
【符号の説明】
【0025】
1 n型 4H−SiC(000−1)基板
2 n型 エピタキシャル膜
3 絶縁膜
4 ポリシリゲート電極
5 アルミパッド
6 アルミ裏面電極